JP2019182967A - 耐コロナ性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、耐コロナ性部材、並びにポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の耐コロナ性及び絶縁性の発現方法 - Google Patents
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Abstract
Description
また、特許文献2及び3には、PAS樹脂と、導電性カーボンブラック、黒鉛、エポキシ基含有α−オレフィン系共重合体を含有する樹脂組成物からなる成形品(ケーブル用部品、難着雪リング)が開示されている。これは、樹脂組成物の体積抵抗率を適度な値にすることで耐コロナ性等とともに、耐熱性、耐候性、難燃性、防水性、気密性、靱性などの諸性能を追求したものである。
(1) ポリアリーレンスルフィド樹脂と、シリコーン系ポリマーと、白マイカ及び合成マイカの少なくとも1種とを含み、
前記白マイカ及び合成マイカの少なくとも1種の含有量が、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂100体積部に対して5〜115体積部である、耐コロナ性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
(2)前記白マイカ及び合成マイカの少なくとも1種の含有量が、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂100体積部に対して15〜50体積部である、前記(1)に記載の耐コロナ性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の耐コロナ性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる耐コロナ性部材。
本実施形態の耐コロナ性PAS樹脂組成物(以下、単に「PAS樹脂組成物」とも呼ぶ)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂と、シリコーン系ポリマーと、白マイカ及び合成マイカの少なくとも1種とを含み、白マイカ及び合成マイカの少なくとも1種の含有量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂100体積部に対して5〜115体積部であることを特徴としている。
上述の通り、PAS樹脂組成物にシリコーン系ポリマーを添加することにより耐コロナ性を発現させることができるが、恒温恒湿環境下(50℃以上、30%RH以上、1時間以上)における絶縁性までは発現させることができない。そこで、本実施形態のPAS樹脂組成物においては、所定量の白マイカ及び合成マイカの少なくとも1種を含有させることにより、耐コロナ性と同時に恒温恒湿環境下における絶縁性の発現を実現している。白マイカ及び合成マイカに限らず、マイカは全般的に耐コロナ性の発現に寄与するが、中でも、白マイカ及び合成マイカを用いると、恒温恒湿環境下においても絶縁性を発現することができる。白マイカにより、恒温恒湿環境下における絶縁性が向上するのは、白マイカは他のマイカと比較して脱水温度が低いため水分が逃げやすく、水分の影響が軽減されるためと推察される。また、合成マイカは疎水性を有するため吸水し難く、水分の影響が軽減されるためと推察される。ただし、これらの白マイカ又は合成マイカによる効果発現のメカニズムはあくまでも推察であり、別のメカニズムによることも考えられる。
なお、本明細書において、各成分の「体積%」及び「体積部」は、各成分の質量と比重に基づいて計算で算出される値である。本明細書において、比重は、JIS Z8807固体比重測定法に準拠して測定される比重23/4℃を意味する。
以下にまず、耐コロナ性PAS樹脂組成物の各成分について説明する。
PAS樹脂は、機械的性質、電気的性質、耐熱性その他物理的・化学的特性に優れ、かつ加工性が良好であるという特徴を有する。
PAS樹脂は、主として、繰返し単位として−(Ar−S)−(但しArはアリーレン基)で構成された高分子化合物であり、本実施形態では一般的に知られている分子構造のPAS樹脂を使用することができる。
シリコーン系ポリマーとしては、シリコーン・アクリル共重合体、シリコーン系コアシェルゴム、及びシリコーン複合パウダーからなる群より選択される1種または2種以上のシリコーン系ポリマーが使用されることが好ましい。これらのシリコーン系ポリマーは、耐コロナ性向上の効果に優れている。
シリコーン・アクリル共重合体は、アクリル構造単位(アクリル成分)とSi含有構造単位(シリコーン成分)とを含む共重合体である。アクリル成分は、(メタ)アクリル酸エステル等のアクリル系モノマーに由来する。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、C1−12アルキルアクリレートが挙げられる。Si含有構造単位としては、モノメチルシロキサン単位、ジメチルシロキサン単位、モノフェニルシロキサン単位、ジフェニルシロキサン単位、メチルフェニルシロキサン単位等が挙げられるがこれらに限定されない。また、これらの構造単位の一部が、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、メルカプト基などで変性されていてもよい。
シリコーン・アクリル共重合体の重合形態は特に限定されないが、例えば、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体等が挙げられる。
シリコーン系コアシェルゴムとしては、コア層と、コア層を覆う1層以上のシェル層とから構成される粒子状のものが挙げられ、コア層またはシェル層の少なくとも1層がゴム弾性体を含有する。ゴム弾性体は特に限定されないが、アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分等から選ばれる1種以上を重合させて得られるゴム、またはその架橋ゴムが好ましい。また、コア層またはシェル層の少なくとも1層が、主成分として上述のSi含有構造単位を含むゴム弾性体であることがより好ましい。コア層とシェル層はグラフト共重合によって結合されていてもよい。一実施形態では、コア層がゴム弾性体を含むことが好ましい。
シリコーン複合パウダーの例としては、球状シリコーンゴムの表面をシリコーンレジンで被覆した球状粉末等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
本実施形態においては、白マイカ(KAl2(AlSi3O10)(OH)2)及び合成マイカ(KMg3(AlSi3)O10F2)の少なくとも1種を用いる。上述の通り、白マイカ及び合成マイカは、耐コロナ性の効果を発現させるとともに、恒温恒湿のような過酷な環境下においても絶縁性を維持し得る。
なお、本明細書において、平均粒子径(50%d)とは、レーザー回折・散乱法により測定した粒度分布における積算値50%のメジアン径を意味する。
繊維状無機フィラーの例としては、比表面積が大きいものであれば特に限定されない。例えば、ガラス繊維、ウィスカー、ウォラストナイト等が挙げられ、ガラス繊維が好ましい。繊維状無機フィラーは、繊維径が3〜13μmの範囲にあるものが好ましく、3〜11μmの範囲にあるものがより好ましい。繊維径が13μm以下であると機械強度向上の観点でより好ましい。また、入手の容易さの点では繊維径が3μm以上であることが好ましい。繊維径が3〜11μmの範囲にあるものがより好ましい。また、異径比が1〜4、かつ、アスペクト比が2〜1500の形状であることが好ましい。なお、本明細書において、異径比とは、「長手方向に直角の断面の長径(断面の最長の直線距離)/短径(長径と直角方向の最長の直線距離)」であり、アスペクト比とは、「長手方向の最長の直線距離/長手方向に直角の断面の短径(「断面の最長の直線距離」と直角方向の最長の直線距離)」である。
本実施形態のPAS樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、滑剤、核剤、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、金属不活性剤、その他老化防止剤、UV吸収剤、安定剤、可塑剤、顔料、染料、着色剤、帯電防止剤、発泡剤、ガラスビーズ、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、ガラスフレーク、カオリン、クレイ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化硼素等の窒化物を用いたフィラー;硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子;半導体材料(Si、Ge、Se、Te等の元素半導体;酸化物半導体等の化合物半導体等)を用いたフィラー、有機フィラー、導電性フィラー等を含有していてもよい。
以上より、図1に示すように板状無機フィラーを配向したPAS樹脂成形品を、その内部の板状無機フィラーがコロナ放電に起因する電圧の印加方向と直交するように配置することで、耐コロナ性の効果をより効果的に発揮することができる。
例えば、シート状のPAS樹脂成形品においては、そのシートの肉厚方向、すなわちシート面と直交する方向に高周波・高電圧が印加された場合、コロナ放電によりシートの肉厚方向に電気トリーが進行するが、板状無機フィラーが上記のように配向していると電気トリーの進行を最も効果的に阻止することができ、シート状のPAS樹脂成形品の寿命を長くすることが可能となる。他の形状においても同様である。
本実施形態の耐コロナ性部材は、上述の耐コロナ性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる。すなわち、以上のPAS樹脂成形品は、耐コロナ性が要求される部材として用いることができる。そのような部材としては、例えば、イグニションコイルの筐体、絶縁電線、電気絶縁シートが挙げられる。特に、本実施形態においては、50℃以上、30%RH以上の恒温恒湿環境下においても絶縁性を維持することができるため、そのような環境である車両のエンジンルーム内などにおいても、耐コロナ性に加え、同時に絶縁性を維持することができる。
本実施形態のPAS樹脂組成物の耐コロナ性及び絶縁性の発現方法は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物にシリコーン系ポリマーと、ポリアリーレンスルフィド樹脂100体積部に対して5〜115体積部の白マイカ及び合成マイカの少なくとも1種を添加することにより耐コロナ性及び50℃以上、30%RH以上の恒温恒湿環境下での絶縁性を発現させることを特徴としている。
既述の通り、本実施形態のPAS樹脂組成物においては、シリコーン系ポリマーと、所定量の白マイカ及び合成マイカの少なくとも1種とを添加することで耐コロナ性及び所定条件下での絶縁性を発現させている。換言すると、PAS樹脂組成物にシリコーン系ポリマーと、所定量の白マイカ及び合成マイカの少なくとも1種とを添加することにより、その樹脂組成物に耐コロナ性及び所定条件下での絶縁性を発現させることができる。
本実施形態のPAS樹脂組成物の耐コロナ性及び絶縁性の発現方法におけるPAS樹脂及びシリコーン系ポリマー、白マイカ及び合成マイカは、既述の本発明のPAS樹脂組成物における樹脂及びシリコーン系ポリマー、白マイカ及び合成マイカと同じであり、耐コロナ性を発現させるための各成分の好ましい例や添加量、添加し得る他の成分も同様である。
表1に示すように、各実施例・比較例において、各原料成分を、シリンダー温度320℃の二軸押出機の原料供給部(ホッパー)より投入し(白マイカ、合成マイカおよび非導電性無機フィラーは押出機のサイドフィード部より別添加)、押出量20kg/Hr、スクリュー回転数200rpmの条件で溶融混練し、ペレット化した。
表1に示す各原料成分の詳細を以下に記す。
・PPS樹脂:(株)クレハ製、フォートロンKPS(溶融粘度:130Pa・s(せん断速度:1216sec−1、310℃))、比重:1.35(23/4℃)
上記PPS樹脂の溶融粘度は以下のようにして測定した。
東洋精機製作所製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmLのフラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1216sec−1での溶融粘度を測定した。
・シリコーンゴム:(株)カネカ製 KANE ACE MR−01(シリコーンアクリルコアシェルゴム)、比重:1.1(23/4℃)
・白マイカ:(株)ヤマグチマイカ製 B−82(平均粒子径(50%d):137μm)、比重:2.9(23/4℃)
・合成マイカ:トピー工業(株)製、PDM−7−80(平均粒子径(50%d):70μm)、比重:2.9(23/4℃)
・金マイカ:西日本貿易(株)製、150−S(平均粒子径(50%d):163μm)、比重:2.9(23/4℃)
(4)非導電性無機フィラー
・ガラス繊維:チョップドガラス繊維、日本板硝子(株)製、ECS03T−747H 平均繊維径:10.5μm、比重:2.6(23/4℃)
得られた各実施例・比較例のペレットを用いて以下の評価を行った。
射出成形にて、シリンダー温度320℃、金型温度150℃でISO3167に準じた試験片(幅10mm、厚み4mmt)を作製し、ISO178に準じて曲げ強さ(FS)を測定した。
上述のようにして作製した各実施例・比較例のペレットから、射出成形機(住友重機械工業(株)製、SE100D)により、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で縦80mm、横80mm、厚み1mmの平板を作製した。図3に示すように、得られた試験片10を、高圧側電極12(φ9.5mm)とアース側電極14(φ25mm)の間に固定し、耐電圧試験機(ヤマヨ試験機有限会社製YST−243WS−28)を用いて、空気中で、130℃、周波数200Hz、印加電圧18kVを加え、絶縁破壊が生じるまでの時間を測定した。測定後、試験片上のコロナ放電を当てた辺り(具体的には、電極を接触させた部位及びその周辺)の白化の有無を、目視で確認した。測定結果を表1に示す。
各実施例・比較例において、上記「耐コロナ性試験」において作製した試験片と同様に作製した試験片を、エスペック(株)製 恒温恒湿器PR−1KPを用い、温度85℃、湿度85%RH環境中で100時間暴露し、恒温恒湿処理を行った。恒温恒湿処理した試験片を、IEC60243−1に準じて、絶縁破壊試験装置(YST−243−100AD、ヤマヨ試験器(有)製)を用い、試験片の厚み方向の絶縁破壊電圧を測定した。具体的には、図4に示すように、高圧絶縁油が満たされた試験槽中において、試験片を高圧側電極(φ25mmの円筒)と低圧側電極(φ25mmの円筒)との間に固定し、常温において50Hzの交流電圧を電圧上昇速度2kV/sにて昇圧して絶縁破壊電圧を測定した。尚、この絶縁破壊電圧が大きいほど、恒温恒湿環境下において耐コロナ性が優れる傾向にあることが分かっている。測定結果を表1に示す。
一方、金マイカを使用したこと以外は実施例1及び2と同様の比較例2においては、耐コロナ性は実施例1〜2と同等であったが、恒温恒湿処理後の絶縁破壊強さについては実施例1〜2よりも劣っていた。つまり、金マイカを用いても、恒温恒湿処理後の絶縁破壊強さの向上させることができないことが分かる。
また、金マイカ及びシリコーンゴムの量を増加した比較例1においても恒温恒湿処理後の絶縁破壊強さは比較例2と同等であった。つまり、金マイカ及びシリコーンゴムを増加しても恒温恒湿処理後の絶縁破壊強さの向上には寄与しないことが分かる。
10A PAS樹脂成形品
10B PAS樹脂成形品
12 高圧側電極
14 アース側電極
16 板状無機フィラー
Claims (7)
- ポリアリーレンスルフィド樹脂と、シリコーン系ポリマーと、白マイカ及び合成マイカの少なくとも1種とを含み、
前記白マイカ及び合成マイカの少なくとも1種の含有量が、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂100体積部に対して5〜115体積部である、耐コロナ性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。 - 前記白マイカ及び合成マイカの少なくとも1種の含有量が、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂100体積部に対して15〜50体積部である、請求項1に記載の耐コロナ性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
- 前記シリコーン系ポリマーを、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂100体積部に対して20〜80体積部含む、請求項1又は2に記載の耐コロナ性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
- 前記シリコーン系ポリマーが、シリコーン・アクリル共重合体、シリコーン系コアシェルゴム、及びシリコーン複合パウダーからなる群より選択される1種又は2種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐コロナ性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
- さらに、繊維状無機フィラーを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐コロナ性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐コロナ性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる耐コロナ性部材。
- ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物にシリコーン系ポリマーと、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂100体積部に対して5〜115体積部の白マイカ及び合成マイカの少なくとも1種を添加することにより耐コロナ性及び50℃以上、30%RH以上の恒温恒湿環境下での絶縁性を発現させるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の耐コロナ性及び絶縁性の発現方法。
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