JP6751160B2 - ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の耐コロナ性向上方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含む樹脂組成物を成形してなる成形品の耐コロナ性を向上させる方法に関する。
近年、電気機器類においては、筐体や内部の電気系統部品に種々の樹脂成形品が用いられている。電気機器類としては、一般的な家庭用電化製品や産業用電気製品のみならず、例えば、自動車、自動二輪車、又はトラックなどの車両内の電気系統を司る機器類も挙げられ、そのような機器類にも樹脂成形品が広く用いられている。車両内の電気機器類として、特にエンジンルーム内に配される機器に使用される樹脂成形品としては、イグニションコイル等に起因するコロナ放電に耐えることができるものが要求される。つまり、樹脂成形品がコロナ放電に晒されると、電気トリーと呼ばれる樹枝状の局部破壊が進行し樹脂成形品の寿命を縮めることになるがこれを未然に防ぐためである。
一方、車両内の電気機器類に使用される樹脂としては、耐熱性、難燃性等が要求されるため、その要求性能を具備するポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、「PAS樹脂」とも呼ぶ。)が好適に使用される。しかし、PAS樹脂のみでは耐コロナ性が不十分であり、樹脂成形品(組成物)に耐コロナ性を付与するための様々な提案がなされている(例えば、特許文献1〜3参照)。
特許文献1には、塩化ナトリウムの含有量を0.5重量%以下とすることで耐コロナ性を向上させたポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS樹脂」とも呼ぶ。)からなる材料(2軸延伸フィルム)が開示されている。
また、特許文献2及び3には、PAS樹脂と、導電性カーボンブラック、黒鉛、エポキシ基含有α−オレフィン系共重合体を含有する樹脂組成物からなる成形品(ケーブル用部品、難着雪リング)が開示されている。これは、樹脂組成物の体積抵抗率を適度な値にすることで耐コロナ性等とともに、耐熱性、耐候性、難燃性、防水性、気密性、靱性などの諸性能を追求したものである。
一方、PAS樹脂を含む樹脂組成物の諸性能を向上させるため、ポリシロキサンなどのシリコーン系ポリマーを併用した樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献4〜5参照)。特許文献4に記載の樹脂組成物は優れた撥水性を得るためのものであり、特許文献5に記載の樹脂組成物は優れた機械強度及び耐薬品性を得るためのものである。いずれの文献も、耐コロナ性については言及されていない。
また、特許文献6には、PAS樹脂などの樹脂成分にシリコーン系ポリマーを溶融混練してなる耐コロナ性樹脂組成物が記載されている。当該文献には、樹脂成分に対して所定量のシリコーン系ポリマーを添加すると耐コロナ性を発揮させることができる旨記載されている。
特開昭59−79903号公報 特開平11−53943号公報 特開平11−150848号公報 特開平8−231852号公報 特開2011−111468号公報 国際公開第2015/064499号公報
特許文献6に記載の耐コロナ性樹脂組成物は、シリコーン系ポリマーを添加することにより耐コロナ性を発揮させるものであり、シリコーン系ポリマーについて、添加量及び樹脂成分中の平均分散径について検討されている。しかし、シリコーン系ポリマーを樹脂成分中においてどのように存在させるかについての検討はなされておらず、改善の余地が残されていた。
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含む樹脂組成物を成形してなる成形品に対し、シリコーン系ポリマーを用いて耐コロナ性の更なる向上を図ることが可能なポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の耐コロナ性向上方法を提供することにある。
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)ポリアリーレンスルフィド樹脂と、シリコーン系ポリマーと、非導電性無機フィラーとを含む樹脂組成物を成形してなり、前記シリコーン系ポリマーは、シリコーン・アクリル共重合体、シリコーン系コアシェルゴム、及びシリコーン複合パウダーからなる群より選ばれる1種または2種以上であり、前記シリコーン系ポリマーの粒子からなる島部と、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂からなる海部とを含む海島構造を有する樹脂成形品の耐コロナ性向上方法であって、
前記シリコーン系ポリマーの各粒子に対して最も近接する粒子との壁間距離の平均値が0.25μm以下となるように前記樹脂組成物を調製して前記樹脂成形品を成形する、ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の耐コロナ性向上方法である。
(2)前記樹脂成形品中の前記シリコーン系ポリマーの含有量が、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂及び前記シリコーン系ポリマーの含有量の合計に対して、30.0体積%以上であり、かつ、前記シリコーン系ポリマーと前記非導電性無機フィラーの含有量の合計が、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂100体積部に対して、70体積部以上である、前記(1)に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の耐コロナ性向上方法である。
(3)走査型電子顕微鏡による観察において、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の海部中の前記シリコーン系ポリマーの平均分散径が、0.1μm以上4.0μm未満である、前記(1)又は(2)に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の耐コロナ性向上方法である。
(4)前記非導電性無機フィラーが、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、マイカ、及びシリカからなる群より選ばれる1種または2種以上である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の耐コロナ性向上方法である。
(5)前記シリコーン系ポリマーがシリコーン・アクリル共重合体及びシリコーン系コアシェルゴムからなる群より選ばれる1種または2種以上を含有する、前記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の耐コロナ性向上方法である。
本発明によれば、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含む樹脂組成物を成形してなる成形品に対し、シリコーン系ポリマーを用いて耐コロナ性の更なる向上を図ることが可能なポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の耐コロナ性向上方法を提供することができる。
(A)は、本実施形態のPAS樹脂成形品の試験片のシリコーン系ポリマーを除去した後のSEM画像であり、(B)は、除去したシリコーン系ポリマー粒子が存在した部分を黒く塗りつぶしたSEM画像である。 板状無機フィラーを含有するPAS成形品に電圧印加する様子を模式的に示す図である。 板状無機フィラーを含有するPAS成形品に電圧印加する様子を模式的に示す図である。 耐コロナ性試験における、試験片と各電極の配置について概念的に示す図である。 実施例1及び2並びに比較例1及び比較例2における、シリコーン系ポリマーの添加量に対する粒子壁間最短距離の平均値の関係をグラフで示す図である。 絶縁破壊強さの測定時における試験片と電極の配置構成を概念的に示す図である。
本実施形態のPAS樹脂成形品の耐コロナ性向上方法は、PAS樹脂と、シリコーン系ポリマーと、非導電性無機フィラーとを含む樹脂組成物を成形してなり、シリコーン系ポリマーは、シリコーン・アクリル共重合体、シリコーン系コアシェルゴム、及びシリコーン複合パウダーからなる群より選ばれる1種または2種以上であり、シリコーン系ポリマーの粒子からなる島部と、PAS樹脂からなる海部とを含む海島構造を有する樹脂成形品の耐コロナ性向上方法であって、シリコーン系ポリマーの各粒子に対して最も近接する粒子との壁間距離の平均値が0.25μm以下となるように樹脂組成物を調製して樹脂成形品を成形することを特徴としている。
本実施形態のPAS樹脂成形品の耐コロナ性向上方法においては、シリコーン系ポリマーの粒子からなる島部と、PAS樹脂からなる海部とを含む海島構造を含む構成を有するPAS樹脂成形品において、シリコーン系ポリマーの各粒子に対して最も近接する粒子との壁間距離の平均値が0.25μm以下となるようにすることで耐コロナ性の向上を図っている。なお、本明細書において、各成分の「体積%」及び「体積部」は、各成分の質量と比重に基づいて計算で算出される値である。本明細書において、比重は、JIS Z8807固体比重測定法に準拠して測定される比重23/4℃を意味する。
以下にまず、PAS樹脂成形品の成形に用いる樹脂組成物(耐コロナ性樹脂組成物)について説明する。
<耐コロナ性樹脂組成物>
本実施形態の耐コロナ性樹脂組成物(以下、「樹脂組成物」と呼ぶ。)は、PAS樹脂と、特定のシリコーン系ポリマーと、非導電性無機フィラーとを含み、必要に応じて他の成分を含む。以下に各成分について説明する。
[ポリアリーレンスルフィド樹脂]
PAS樹脂は、機械的性質、電気的性質、耐熱性その他物理的・化学的特性に優れ、かつ加工性が良好であるという特徴を有する。
PAS樹脂は、主として、繰返し単位として−(Ar−S)−(但しArはアリーレン基)で構成された高分子化合物であり、本実施形態では一般的に知られている分子構造のPAS樹脂を使用することができる。
上記アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’−ジフェニレンスルフォン基、p,p’−ビフェニレン基、p,p’−ジフェニレンエーテル基、p,p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基などが挙げられる。PAS樹脂は、上記繰返し単位のみからなるホモポリマーでもよいし、下記の異種繰返し単位を含んだコポリマーが加工性等の点から好ましい場合もある。
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp−フェニレン基を用いた、p−フェニレンサルファイド基を繰返し単位とするポリフェニレンスルフィド樹脂が好ましく用いられる。また、コポリマーとしては、前記のアリーレン基からなるアリーレンサルファイド基の中で、相異なる2種以上の組み合わせが使用できるが、中でもp−フェニレンサルファイド基とm−フェニレンサルファイド基を含む組み合わせが特に好ましく用いられる。この中で、p−フェニレンサルファイド基を70モル%以上、好ましくは80モル%以上含むものが、耐熱性、成形性、機械的特性等の物性上の点から適当である。また、これらのPAS樹脂の中で、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる実質的に直鎖状構造の高分子量ポリマーが、特に好ましく使用できる。尚、本実施形態に用いるPAS樹脂は、異なる2種類以上の分子量のPAS樹脂を混合して用いてもよい。
尚、直鎖状構造のPAS樹脂以外にも、縮重合させるときに、3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物等のモノマーを少量用いて、部分的に分岐構造または架橋構造を形成させたポリマーや、低分子量の直鎖状構造ポリマーを酸素等の存在下、高温で加熱して酸化架橋または熱架橋により溶融粘度を上昇させ、成形加工性を改良したポリマーも挙げられる。
本実施形態に使用する基体樹脂としてのPAS樹脂の溶融粘度(310℃・せん断速度1216sec−1)は、上記混合系の場合も含め600Pa・s以下が好ましく、中でも8〜300Pa・sの範囲にあるものは、機械的物性と流動性のバランスが優れており、特に好ましい。
なお、本実施形態の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、樹脂成分として、上述のPAS樹脂及びシリコーン系ポリマーに加えて、その他の樹脂成分を含んでもよい。その他の樹脂成分としては、特に限定はなく、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶樹脂、弗素樹脂、環状オレフィン系樹脂(環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー等)、熱可塑性エラストマー、上述のシリコーン系ポリマー以外のシリコーン系ポリマー、各種の生分解性樹脂等が挙げられる。また、2種類以上の樹脂成分を併用してもよい。その中でも、機械的性質、電気的性質、物理的・化学的特性、加工性等の観点から、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、液晶樹脂等が好ましく用いられる。
[シリコーン系ポリマー]
シリコーン系ポリマーとしては、シリコーン・アクリル共重合体、シリコーン系コアシェルゴム、及びシリコーン複合パウダーからなる群より選択される1種または2種以上のシリコーン系ポリマーが使用される。これらのシリコーン系ポリマーは、耐コロナ性向上の効果に優れている。
(シリコーン・アクリル共重合体)
シリコーン・アクリル共重合体は、アクリル構造単位(アクリル成分)とSi含有構造単位(シリコーン成分)とを含む共重合体である。アクリル成分は、(メタ)アクリル酸エステル等のアクリル系モノマーに由来する。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、C1−12アルキルアクリレートが挙げられる。Si含有構造単位としては、モノメチルシロキサン単位、ジメチルシロキサン単位、モノフェニルシロキサン単位、ジフェニルシロキサン単位、メチルフェニルシロキサン単位等が挙げられるがこれらに限定されない。また、これらの構造単位の一部が、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、メルカプト基などで変性されていてもよい。
また、シリコーン・アクリル共重合体は、上述のアクリル成分とシリコーン成分に加えて、コモノマー成分を共重合させて得られる重合体であってもよい。コモノマー成分としては、例えば、アクリル系モノマー以外の不飽和結合含有モノマーが挙げられる。アクリル系モノマー以外の不飽和結合含有モノマーとしては、(メタ)アクリロニトリル等のニトリル系モノマー;スチレン等の芳香族ビニルモノマー;ブタジエン、イソプレン等のジエン系モノマーが挙げられる。また、シリコーン・アクリル共重合体は、架橋性モノマーを共重合させて得られる重合体であってもよい。架橋性モノマーとしては、ポリオールとアクリル酸のエステル類、ビニル化合物、アリル化合物等が挙げられる。
シリコーン・アクリル共重合体の重合形態は特に限定されないが、例えば、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体等が挙げられる。
(シリコーン系コアシェルゴム)
シリコーン系コアシェルゴムとしては、コア層と、コア層を覆う1層以上のシェル層とから構成される粒子状のものが挙げられ、コア層またはシェル層の少なくとも1層がゴム弾性体を含有する。ゴム弾性体は特に限定されないが、アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分等から選ばれる1種以上を重合させて得られるゴム、またはその架橋ゴムが好ましい。また、コア層またはシェル層の少なくとも1層が、主成分として上述のSi含有構造単位を含むゴム弾性体であることがより好ましい。コア層とシェル層はグラフト共重合によって結合されていてもよい。一実施形態では、コア層がゴム弾性体を含むことが好ましい。
シリコーン系コアシェルゴムの例としては、例えば、シリコーンゴムや上述のシリコーン・アクリル共重合体等のゴム成分を含むコア層と、(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリロニトリルを主成分として重合又は共重合して得られる重合体を含むシェル層を有するコアシェル構造の粒子等が挙げられるがこれらに限定されない。シェル層に含まれる重合体としては、環境保護や安全性の観点から、(メタ)アクリル酸エステルを主成分として重合又は共重合して得られる重合体がより好ましい。シリコーンゴムの例としては、主成分として上述のSi含有構造単位を含むポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ジメチルシロキサン−ジフェニルシロキサン共重合体などのポリオルガノシロキサンや変性ポリオルガノシロキサンが挙げられる。
(シリコーン複合パウダー)
シリコーン複合パウダーの例としては、球状シリコーンゴムの表面をシリコーンレジンで被覆した球状粉末等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
中でも、耐コロナ性向上の観点から、シリコーン・アクリル共重合体、及びシリコーン系コアシェルゴムが好ましく、耐コロナ性の効果がより高いことから、シリコーン系コアシェルゴムが好ましい。
なお、本明細書において、用語「(メタ)アクリル酸」は、いずれか一方を指すことを明記していない限り、アクリル酸及びメタクリル酸の両方を包含する意味で用いる。同様に、用語「(メタ)アクリロニトリル」は、アクリロニトリルとメタクリロニトリルの両方を包含する意味で用いる。
シリコーン・アクリル共重合体、シリコーン系コアシェルゴム、及びシリコーン複合パウダーとしては特に制限はなく、例えば市販のものを用いることができる。上市品の例としては、シリコーン系コアシェルゴムとして、(株)カネカ製 KANE ACE MR−01等;シリコーン複合パウダーとして、信越化学工場(株)製、KMP−600等;シリコーン−アクリル共重合体として、日信化学工業(株)製、R−181S等;等が挙げられるがこれらに限定されない。
[非導電性無機フィラー]
非導電性無機フィラーの例としては、繊維状無機フィラー、板状無機フィラー、粒状無機フィラー等が挙げられる。なお、本明細書において、「無機フィラー」と記載した場合、導電性フィラーであることを明記していない限り、非導電性無機フィラーを意味する。
(繊維状無機フィラー)
繊維状無機フィラーの例としては、比表面積が大きいものであれば特に限定されない。例えば、ガラス繊維、ウィスカー、ウォラストナイト等が挙げられ、ガラス繊維が好ましい。繊維状無機フィラーは、繊維径が3〜13μmの範囲にあるものが好ましく、3〜11μmの範囲にあるものがより好ましい。繊維径が13μm以下であると機械強度向上の観点でより好ましい。また、入手の容易さの点では繊維径が3μm以上であることが好ましい。繊維径が3〜11μmの範囲にあるものがより好ましい。また、異径比が1〜4、かつ、アスペクト比が2〜1500の形状であることが好ましい。なお、本明細書において、異径比とは、「長手方向に直角の断面の長径(断面の最長の直線距離)/短径(長径と直角方向の最長の直線距離)」であり、アスペクト比とは、「長手方向の最長の直線距離/長手方向に直角の断面の短径(「断面の最長の直線距離」と直角方向の最長の直線距離)」である。
上市品の例としては、日本電気硝子(株)製、チョップドガラス繊維(ECS03T−790DE、平均繊維径:6μm)、オーウェンスコーニング製造(株)製、チョップドガラス繊維(CS03DE 416A、平均繊維径:6μm)、日本電気硝子(株)製、チョップドガラス繊維(ECS03T−747H、平均繊維径:10.5μm)、日本電気硝子(株)製、チョップドガラス繊維(ECS03T−747、平均繊維径:13μm)等が挙げられる。
(粒状無機フィラー)
粒状無機フィラーとしては、比表面積が大きく電気トリーの進行を遅延させることができるものであれば特に限定されない。粒状無機フィラーの例としては、ガラスビーズ、シリカ、炭酸カルシウム、タルク(粒状)等が挙げられる。低吸水性である観点では、ガラスビーズ及びシリカが好ましく、コストの観点では、ガラスビーズが好ましい。形状は、異径比が1〜4、かつ、アスペクト比が1〜2の形状(球状を含む)がより好ましい。表面平滑性による放電緩和の観点では球状フィラーがより好ましい。粒径は、後述するPAS成形品中における好ましいモード径を達成し得る範囲であることが好ましい。
上市品の例としては、ガラスビーズとして、ポッターズ・バロティーニ(株)製、GL−BS(平均粒子径(50%d):21μm)、ポッターズ・バロティーニ製、EMB−10(平均粒子径(50%d):5μm);シリカとして、アドマテックス(株)製、SC2000−ZD(平均粒子径(50%d):0.5μm);炭酸カルシウムとして、東洋ファインケミカル(株)製、ホワイトンP−30(平均粒子径(50%d):5μm)などが挙げられるがこれらに限定されない。
(板状無機フィラー)
板状無機フィラーとしては、電気トリーの進行を遅延させることができるものであれば特に限定されない。例えば、ガラスフレーク、マイカ、タルク(板状)、カオリン、クレイ、アルミナ等が挙げられる。耐コロナ性向上の観点から、ガラスフレーク、マイカ、及びタルクが好ましく、ガラスフレーク及びマイカがより好ましい。板状無機フィラーの形状としては、例えば、異径比が4より大きく、アスペクト比が1〜1500の形状が好ましい。厚みに関しては、薄いほど(例えば、平均厚みが20μm以下)、枚数の絶対数が増えるため、比表面積が大きくなり、ラビリンス効果が高まるのでより好ましい。粒径は、後述するPAS成形品中における好ましいモード径を達成し得る範囲であることが好ましい。
ガラスフレークの上市品の例としては、日本板硝子(株)製、REFG−108(平均粒子径(50%d):623μm)、(日本板硝子(株)製、ファインフレーク(平均粒子径(50%d):169μm)、日本板硝子(株)製、REFG−301(平均粒子径(50%d):155μm)、日本板硝子(株)製、REFG−401(平均粒子径(50%d):310μm)などが挙げられるがこれらに限定されない。
マイカとしては、例えば、白マイカ(KAl(AlSi10)(OH))、金マイカ(KMg(AlSi10)(OH))、黒マイカ(K(Mg,Fe)(AlSi10)(OH))、鱗マイカ(KLiAl(Si10)(OH))、合成マイカ(KMg(AlSi)O10)等が挙げられる。耐コロナ性の効果を最も発揮し得る点で金マイカ、白マイカ、合成マイカを用いることが好ましく、中でも、恒温恒湿のような過酷な環境下においても絶縁性を維持し得る点で白マイカ、合成マイカを用いることがより好ましい。
マイカの上市品の例として、金マイカとして、西日本貿易(株)製、150−S(平均粒子径(50%d):163μm)、同325−S(平均粒子径(50%d):30μm)、同60−S(平均粒子径(50%d):278μm)など;白マイカとして、(株)ヤマグチマイカ製、AB−25S(平均粒子径(50%d):24μm)、同B−82(平均粒子径(50%d):137μm)など;合成マイカとしてトピー工業(株)製、PDM−7−80(平均粒子径(50%d):70μm)などが挙げられるがこれらに限定されない。
また、タルクの上市品の例としては、例えば、松村産業(株)製 クラウンタルクPP、林化成(株)製 タルカンパウダーPKNNなどが挙げられる。
なお、本明細書において、平均粒径(50%d)とは、レーザー回折・散乱法により測定した粒度分布における積算値50%のメジアン径を意味する。
本実施形態の樹脂組成物は、非導電性無機フィラーとして、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、マイカ、及びシリカからなる群より選択される1種または2種以上を含有することがより好ましい。
中でも、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、マイカ、及びシリカの含有量の合計が、無機フィラー中50体積%以上であることが好ましく、70体積%以上であることがより好ましく、90体積%以上(100体積%を含む)であることが更に好ましい。
非導電性無機フィラーとしては、上述の繊維状、板状、又は粒状の無機フィラーの他にも、導電性を有しない金属酸化物を用いたフィラー;窒化アルミニウム、窒化硼素等の窒化物を用いたフィラー;硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子;半導体材料(Si、Ge、Se、Te等の元素半導体;酸化物半導体等の化合物半導体等)を用いたフィラー等が挙げられる。
本明細書において、非導電性無機フィラーは、主として絶縁材料からなる無機フィラー、及び、主として半導体材料からなる無機フィラーの両方を含む概念である。非導電性無機フィラーの電気抵抗率の指標としては、PPS樹脂70体積%と無機フィラー30体積%とからなる樹脂組成物を用いて作成した、縦100mm、横100mm、厚み3mmの試験片(平板)を用い、IEC60093に準拠して、印加電圧500Vで、23℃で測定した体積抵抗率が1×10Ω・cm以上となる無機フィラーを用いることが好ましい。絶縁性の観点では、当該体積抵抗率が1×10Ω・cm以上である無機フィラーがより好ましく、1×10Ω・cm以上である無機フィラーがさらに好ましい。
中でも、非導電性無機フィラーが、絶縁材料を用いた無機フィラーを含むことが好ましい。一実施形態では、絶縁材料を用いた無機フィラーが非導電性フィラーの50体積%以上であることが好ましく、60体積%以上であることがより好ましく、70体積%以上(100体積%を含む)であることがさらに好ましい。
[他の成分]
本実施形態の樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、滑剤、核剤、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、金属不活性剤、その他老化防止剤、UV吸収剤、安定剤、可塑剤、顔料、染料、着色剤、帯電防止剤、発泡剤、有機フィラー、導電性フィラー等を含有していてもよい。
なお、本実施形態の樹脂組成物が導電性フィラーを含有する場合は、導電性フィラーの含有量は、成形品が電気絶縁性を示し得る量、具体的には、IEC60093に準拠して測定される成形品の常温(23℃)における体積抵抗率を1×10Ω・cm以上に保持し得る量で用いることが好ましい。なお、「導電性フィラー」の用語は当業者にはよく知られているが、カーボン系フィラー(カーボンブラック、炭素繊維、黒鉛等)、金属系フィラー(SUS繊維等の導電性を有する金属繊維、導電性を有する金属又は金属酸化物粉末等)、金属表面コートフィラー等の導電性を有するフィラーを意味する。一実施形態では、これらの導電性フィラーの含有量が、例えば、本実施形態の樹脂組成物全体の10質量%以下であり、6質量%以下が好ましく、4質量%以下がさらに好ましい。なお、導電性フィラーが導電性を発現し得る添加量は、導電性フィラーの種類・形状・導電性によっても異なる場合があるため、上記の含有量以上であってもよい場合もある。
本実施形態の樹脂組成物において、上述のPAS樹脂、シリコーン系ポリマー及び非導電性無機フィラーの含有量の合計が、樹脂組成物全体の70質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上(100質量%を含む)である。
本実施形態の樹脂組成物は、PAS樹脂と、シリコーン系ポリマーと、非導電性無機フィラーと、を少なくとも含有する混合成分を、溶融混練することにより製造することができる。本実施形態の樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、当該技術分野で知られている各種方法を採用することができる。例えば、上述した各成分を混合した後、押出機に投入し、溶融混練し、ペレット化する方法が挙げられる。また、一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを所定量混合して成形に供し、成形後に目的組成の成形品を得る方法、成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法等を用いてもよい。
<樹脂成形品の耐コロナ性向上方法>
本実施形態において、以上の樹脂組成物を成形してなるPAS樹脂成形品の耐コロナ性を向上させるため、当該PAS樹脂成形品の成形に際し、シリコーン系ポリマーの各粒子に対して最も近接する粒子との壁間距離(以下、「粒子壁間最短距離」とも呼ぶ。)の平均値が0.25μm以下となるように樹脂組成物を調製して成形する。
ここで、「粒子壁間最短距離」とは、あるシリコーン系ポリマー粒子に隣接する複数のシリコーン系ポリマー粒子のうち、最も近接するシリコーン系ポリマー粒子との粒子壁間距離をいう。「粒子壁間最短距離の平均値」とは、PAS樹脂成形品中において、多数のシリコーン系ポリマー粒子同士の粒子壁間最短距離のうち、重複したものを除いた平均値をいう。つまり、ある粒子Aに対して最も近接している粒子が粒子Bである場合において、粒子Bに対して最も近接している粒子も粒子Aの場合、粒子壁間最短距離が重複する。この場合、一方の粒子壁間最短距離のみをカウントして平均値を算出する。なお、多数の粒子が結合(接触)してなるものであっても1つの粒子と見なす。
一方、粒子壁間最短距離の測定は、以下のようにして行うことができる。まず、測定対象の成形品をカッティングして、3mm×3mm×1mmの板状の試験片を得る。その試験片の最表面から約50μmの深さの部分を除去し、露出した面を走査型電子顕微鏡により撮影してSEM画像を得る。そして、このSEM画像から、各シリコーン系ポリマーの各粒子に対して、上記のような粒子壁間最短距離を求め、その距離の数nで除することにより平均値を得る。
上記作業は、画像解析ソフトウエアにより簡便化することができる。その一例を以下に示す。まず、画像解析を容易にするため、試験片の最表面から約50μmの深さの部分を除去して露出した面を硫酸などによりエッチングする。つまり、シリコーン系ポリマーの粒子を硫酸などによって溶解除去する。次いで、エッチング面を走査型電子顕微鏡により撮影してSEM画像を得る(図1(A)参照)。図1(A)において、黒っぽく見える部分がシリコーン系ポリマーが除去されて生じた空隙である。このSEM画像をコンピュータ(PC)に取り込み、コンピュータ内でシリコーン系ポリマー除去部分を黒く塗りつぶし、白黒の二値化表示する(図1(B)参照)。そして、上記の粒子壁間最短距離の平均値の算出手法に合致するようにプログラミングされたソフトウエアにより粒子壁間最短距離の平均値を求める。
シリコーン系ポリマーの粒子壁間最短距離の平均値が0.25μm以下となるようにする手段としては、例えば、(1)PAS樹脂組成物の調製に際し、シリコーン系ポリマーの粒子径及び含有量の双方を適切に調節する、(2)PAS樹脂組成物の押出条件を適切に調節する、などが挙げられる。
上記(1)に関し、シリコーン系ポリマーの粒子径は、具体的には、当該PAS樹脂組成物を成形して成形品としたとき、走査型電子顕微鏡による観察において、PAS樹脂の海部中の平均分散径が、0.1μm以上4.0μm未満(例えば、3.9μm以下)となるようにすることが好ましく、0.1〜3.5μmとなるようにすることがより好ましい。また、シリコーン系ポリマーの含有量は、PAS樹脂及びシリコーン系ポリマーの含有量の合計に対して、シリコーン系ポリマーの含有量の下限は、非導電性無機フィラーの含有量にも依存するが、例えば、PAS樹脂とシリコーン系ポリマーの含有量の合計に対して30.0体積%以上とすることが好ましい。PAS樹脂及びシリコーン系ポリマーの含有量の合計に対して30.0体積%以上であると、シリコーン系ポリマーの粒子壁間最短距離の平均値が0.25μm以下となるように調整しやすい。上記シリコーン系ポリマーの含有量は、より好ましくは32.5体積%以上、特に好ましくは35.0体積%以上である。
上記(2)に関し、PAS樹脂組成物の押出条件としては、シリコーン系ポリマーの分散性を向上させるように調節することが好ましい。例えば、スクリューアレンジメントによってシリコーン系ポリマーの分散性を向上させること、スクリュー回転数を増加させること、及びシリンダー温度を下げて溶融樹脂の溶融粘度を大きくし、せん断力を大きくすることなどの調節方法を挙げることができる。シリコーン系ポリマーは、ホッパー(原料供給部)から供給することが好ましい。
一方、シリコーン系ポリマーの含有量の上限は、45体積%以下であることが好ましい。シリコーン系ポリマーの含有量が45体積%以下であると、機械物性の低下を抑制する観点で好ましい。上記シリコーン系ポリマーの含有量は、より好ましくは40体積%以下である。
また、シリコーン・アクリル共重合体、シリコーン系コアシェルゴム、及びシリコーン複合パウダーから選ばれる1種以上のシリコーン系ポリマーと非導電性無機フィラーの含有量の合計が、PAS樹脂100体積部に対して、70体積部以上であることが好ましい。シリコーン系ポリマーと非導電性無機フィラーの含有量の合計が70体積部以上であると、耐コロナ性を顕著に向上させやすい。上限は特に限定されないが、押出性や成形性等の観点では230体積部以下であることが好ましい。
以上のように、本実施形態のPAS樹脂成形品中において、シリコーン系ポリマーの粒子壁間最短距離の平均値が0.25μm以下であると耐コロナ性を向上させることができる。当該粒子壁間最短距離の平均値は小さければ小さいほどよい。
本実施形態のPAS樹脂成形品を成形する方法としては特に限定はなく、当該技術分野で知られている各種方法を採用することができる。例えば、既述の樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
PAS樹脂成形品の形状は特に限定されず用途に応じて適宜選択することができる。例えば、シート状、板状、筒状、被膜状等の他、所望の形状の三次元成形体に成形することができる。
一実施形態では、PAS樹脂成形品中におけるガラスビーズ等の粒状無機フィラーのモード径が、好ましくは0.1〜50μm、より好ましくは0.1〜25μm、さらに好ましくは0.1〜10μmである。また、PAS樹脂成形品中におけるガラスフレークやマイカ等の板状無機フィラーのモード径が、好ましくは1〜200μm、より好ましくは15〜150μm、さらに好ましくは40〜130μmである。PAS樹脂成形品中における無機フィラーのモード径が上記範囲内であると、耐コロナ性の向上の観点から好ましく、また、PAS樹脂成形品中にフィラーがより均一に存在することができ、ラビリンス効果向上の観点でも好ましい。
なお、PAS樹脂成形品中における粒状無機フィラー及び板状無機フィラーのモード径は、レーザー回折・散乱法で測定した体積基準の粒度分布におけるモード径を意味し、(株)堀場製作所製、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用いて測定することができる。PAS樹脂成形品の粒状無機フィラー及び板状無機フィラーを上記モード径範囲とする手段としては特に制限はない。例えば、目標とするモード径範囲の上限よりも大きい径を有するフィラーを用い、押出条件等を適宜調整する方法が挙げられる。
また、無機フィラーとして板状無機フィラーを用いる場合、PAS樹脂成形品において、板状無機フィラーがコロナ放電に起因する電圧方向と直交するように配向していることが好ましい。具体的には、PAS樹脂成形品に電圧が印加された場合において、板状無機フィラーが電圧の印加方向と直交するように配向させる、換言するとコロナ放電に起因する電圧方向と直交するように、成形品中の板状無機フィラーが互いに平行となるように一方向に配向させることが好ましい。ここで、板状無機フィラーの配向方向が、コロナ放電に起因する電圧方向と直交するとは、板状無機フィラーの法線方向とコロナ放電に起因する電圧方向とが一致する状態を意味するが、当該法線方向と電圧方向とが完全に一致する必要はなく、本実施形態の効果を損なわない範囲においてずれていても構わない。
以下に、上記板状無機フィラーの配向状態について図2及び図3を参照して説明する。図2、図3は、PAS樹脂成形品に高電圧を印加する様子を模式的に示している。図2、図3において、平板状のPAS樹脂成形品10A、10Bの上方に高圧側電極12、下方にアース側電極14が配置されており、両電極により高周波・高電圧を印加した場合に高圧側電極12の先端近傍にコロナ放電が発生し、PAS樹脂成形品10A、10Bの表面がコロナ放電に晒される。そして、図2においては、PAS樹脂成形品10Aの内部には電圧の印加方向と直交するように板状無機フィラー16が配向しており、図3においては、PAS樹脂成形品10Bの内部には電圧方向と平行になるように板状無機フィラー16が配向している。このような構成において、高周波・高電圧を印加してコロナ放電を発生させた場合、図2の構成では、電気トリーが発生してもその進行を妨害するように板状無機フィラー16が配向しているため、その進行を遅らせることができる。ひいては、PAS樹脂成形品10Aの長寿命化を達成することができると考えられる。一方、図3の構成では、電気トリーの進行方向には隙間が多く存在し、電気トリーの進行の妨害効果は小さい。
以上より、図2に示すように板状無機フィラーを配向したPAS樹脂成形品を、その内部の板状無機フィラーがコロナ放電に起因する電圧の印加方向と直交するように配置することで、耐コロナ性の効果をより効果的に発揮することができる。
上記のように、PAS樹脂成形品中の板状無機フィラーを上記のような方向に配向させるには、例えば、射出成形時において、板状無機フィラーを配向させる所望の方向が樹脂の流動方向となるように金型のゲート位置を設定することで実現することができる。
PAS樹脂成形品中の板状無機フィラーを上記のように配向させる場合において、当該PAS樹脂成形品の形状としては、例えば、シート状、板状、筒状、または被膜状とすることができる。この場合、各形状の部材において、その肉厚方向と直交するようにマイカを配向させると、部材の肉厚方向に印加される電圧に起因して発生するコロナ放電に対して優れた耐久性を発現させることができる。
例えば、シート状のPAS樹脂成形品においては、そのシートの肉厚方向、すなわちシート面と直交する方向に高周波・高電圧が印加された場合、コロナ放電によりシートの肉厚方向に電気トリーが進行するが、板状無機フィラーが上記のように配向していると電気トリーの進行を最も効果的に阻止することができ、シート状のPAS樹脂成形品の寿命を長くすることが可能となる。他の形状においても同様である。
本実施形態のPAS樹脂成形品は、耐コロナ性が要求される部材として用いることができる。このような部材としては、例えば、イグニションコイルの筐体、絶縁電線、電気絶縁シートが挙げられる。
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1〜10、比較例1〜4]
表1に示すように、各実施例・比較例において、各原料成分を以下の押出条件A、B、又はCによりペレット化した。なお、押出条件A及びBにおいては、二軸押出機は、シリンダーC1部(原料供給部)〜C12部(ダイ側ヒーター)の、C7部にサイドフィード部を設置し、ニーディングブロックをC4部、C6部、C9部に組み込んだスクリューアレンジメントとした。押出条件Cにおいては、二軸押出機は、シリンダーC1部(原料供給部)〜C12部(ダイ側ヒーター)の、C7部にサイドフィード部を設置し、ニーディングブロックをC9部に組み込んだスクリューアレンジメントとした。
・押出条件A
原料を、シリンダー温度320℃の二軸押出機の原料供給部(ホッパー)より投入し(非導電性無機フィラーは押出機のサイドフィード部より別添加)、押出量20kg/Hr、スクリュー回転数200rpmの条件で溶融混練し、ペレット化した。
・押出条件B
原料を、シリンダー温度320℃の二軸押出機の原料供給部(ホッパー)より投入し(シリコーン系ポリマー及び非導電性無機フィラーは押出機のサイドフィード部より別添加)、押出量20kg/Hr、スクリュー回転数150rpmの条件で溶融混練し、ペレット化した。
・押出条件C
原料を、シリンダー温度320℃の二軸押出機の原料供給部(ホッパー)より投入し(非導電性無機フィラーは押出機のサイドフィード部より別添加)、押出量20kg/Hr、スクリュー回転数200rpmの条件で溶融混練し、ペレット化した。
表1に示す各原料成分の詳細を以下に記す。
(1)PAS樹脂成分
・PPS樹脂1:(株)クレハ製、フォートロンKPS(溶融粘度:130Pa・s(せん断速度:1216sec−1、310℃))、比重:1.35(23/4℃)
(PPS樹脂の溶融粘度の測定)
上記PPS樹脂の溶融粘度は以下のようにして測定した。
東洋精機製作所製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmLのフラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1216sec−1での溶融粘度を測定した。
(2)シリコーン系ポリマー
・シリコーン系ポリマー1:(株)カネカ製 KANE ACE MR−01(シリコーンアクリルコアシェルゴム)、比重:1.1(23/4℃)
・シリコーン系ポリマー2:東レ・ダウコーニング(株)製、DOW CORNING TORAY DY 33−315(ポリオルガノシロキサン)、比重:0.98(23/4℃)
(3)非導電性無機フィラー
・ガラス繊維:チョップドガラス繊維、日本板硝子(株)製、ECS03T−747H 平均繊維径:10.5μm、比重:2.6(23/4℃)
・金マイカ:西日本貿易(株)製、150−S(平均粒子径(50%d):163μm)、比重:2.9(23/4℃)
・白マイカ:(株)ヤマグチマイカ製 B−82(平均粒子径(50%d):137μm)、比重:2.9(23/4℃)
・合成マイカ:トピー工業(株)製、PDM−7−80(平均粒子径(50%d):70μm)、比重:2.9(23/4℃)
・ガラスフレーク:日本板硝子(株)製、REFG−108(平均粒子径(50%d):623μm)、比重:2.6(23/4℃)
・ファインフレーク:日本板硝子(株)製、ファインフレーク、厚み:0.7μm、平均粒子径(50%d):169μm
・ガラスビーズ:ポッターズ・バロティーニ(株)製、GL−BS(平均粒子径(50%d):21μm)、比重:2.6(23/4℃)
(非導電性無機フィラーの体積抵抗率)
非導電性無機フィラーについて、PPS樹脂1と非導電性無機フィラーとを、PPS樹脂1:非導電性無機フィラー=70:30(体積比)の比率で、シリンダー温度320℃の二軸押出機に投入し(無機フィラーは押出機のサイドフィード部より別添加)、溶融混練し、ペレット化した。得られたペレットから、射出成形機(住友重機械工業(株)製、SE100D)により、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で縦100mm、横100mm、厚み3mmの試験片(平板)を作製し、IEC60093に準拠して、印加電圧500V、23℃で体積抵抗率を測定したところ、いずれも、1×1015Ω・cm以上であった。
なお、表1中、シリコーン系ポリマー及び無機フィラーの含有量は、PAS樹脂100体積部に対する体積部で表し、樹脂成分中におけるシリコーン系ポリマーの含有量は、{シリコーン系ポリマー/(PAS樹脂+シリコーン系ポリマー)}として、体積%で表す。各成分の含有量は、質量と、JIS Z8807固体比重測定法に準拠して測定した比重(23/4℃)に基づき算出した。
[粒子壁間距離および平均分散径の測定]
上述のようにして作製したペレットから、射出成形機(住友重機械工業(株)製、SE100D)により、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で縦80mm、横80mm、厚み1mmの平板を作製した。作製した平板の中央部を一辺が3mmの正方形状にカットし試験片を得た。この試験片の最表面から深さ約50μm部分をカットし、露出した面を濃度:98%の硫酸によりエッチングした。次いで、エッチング面を走査型顕微鏡((株)日立製作所製、S−4700)で撮影(倍率:1万倍)し、得られたSEM画像をコンピュータ(PC)に取り込んだ。コンピュータ内でSEM画像のシリコーン系ポリマー粒子が脱落した部分を黒く塗りつぶす加工を行った。このように加工したSEM画像に対し、粒子壁間最短距離の平均値および数平均粒子径を算出するためのソフトウエアにより粒子壁間最短距離の平均値および数平均粒子径を算出した。数平均粒子径の値を平均分散径とした。
なお、当該ソフトウエアは、既述の粒子壁間最短距離の平均値の定義の則った算出および数平均粒子径の算出ができるようにプログラミングされたものである。
実施例1及び2並びに比較例1及び比較例2における、シリコーン系ポリマーの添加量に対する粒子壁間最短距離の平均値の関係を図5に示す。実施例1及び2並びに比較例1及び比較例2は、非導電性無機フィラーの種類をガラス繊維とし、押出条件を押出条件Aとしたものである。つまり、実施例1及び2並びに比較例1と、比較例2とはシリコーン系ポリマー(種別又は添加量)のみにおいて異なる。図5より、シリコーン系ポリマー1の添加量が減少すると、粒子壁間最短距離が大きくなる傾向があることから、シリコーン系ポリマー1を所定量以上添加しないと粒子壁間最短距離の平均値を0.25μm以下とできないことが分かる。
なお、比較例2は、シリコーン系ポリマー2を用いた点以外は実施例2と同等であるが、特定の平均分散径となるシリコーン系ポリマーを用いなかったため粒子壁間最短距離の平均値を0.25μm以下とできないことが分かる。
次いで、以下の耐コロナ性試験を行った。
(耐コロナ性試験)
各実施例・比較例において上記「粒子壁間距離の測定」において作製した試験片と同様に作製した試験片10を、図4に示すように、高圧側電極12(φ9.5mm)とアース側電極14(φ25mm)の間に固定し、耐電圧試験機(ヤマヨ試験機有限会社製YST−243WS−28)を用いて、空気中で、130℃、周波数200Hz、印加電圧18kVを加え、絶縁破壊が生じるまでの時間を測定した。測定後、試験片上のコロナ放電を当てた辺り(具体的には、電極を接触させた部位及びその周辺)の白化の有無を、目視で確認した。測定結果を表1に示す。
(恒温恒湿処理後の絶縁破壊強さ)
各実施例・比較例において、上記「粒子壁間距離の測定」において作製した試験片と同様に作製した試験片を、エスペック(株)製 恒温恒湿器PR−1KPを用い、温度85℃、湿度85%RH環境中で100時間暴露し、恒温恒湿処理を行った。恒温恒湿処理した試験片を、IEC60243−1に準じて、絶縁破壊試験装置(YST−243−100AD、ヤマヨ試験器(有)製)を用い、試験片の厚み方向の絶縁破壊電圧を測定した。具体的には、図6に示すように、高圧絶縁油が満たされた試験槽中において、試験片を高圧側電極(φ25mmの円筒)と低圧側電極(φ25mmの円筒)との間に固定し、常温において50Hzの交流電圧を電圧上昇速度2kV/sにて昇圧して絶縁破壊電圧を測定した。測定結果を表1に示す。
表1に示す結果より、実施例1〜10のPAS樹脂成形品はいずれも、耐コロナ性試験において、コロナ破壊寿命2000時間以上という長時間の耐久性が得られ、かつ、耐コロナ性試験後の試験片に白化は認められず、優れた耐コロナ性が得られた。また、実施例1〜10においては、恒温恒湿処理後の絶縁破壊強さも優れた結果が得られた。中でも、各種マイカ及びファインフレークを用いた場合に、30(kV/mm)以上という優れた恒温恒湿処理後の絶縁破壊強さが得られ、特に白マイカ及び合成マイカが優れていた。これに対して、比較例1〜4のPAS樹脂成形品においては、コロナ破壊寿命が1100時間以下であって、実施例1〜10と比較して極めて短時間であり耐コロナ性に劣っていることが分かる。特に、PAS樹脂組成物の組成が同じで、シリコーン系ポリマーの粒子壁間最短距離のみが異なる実施例2と、比較例3及び4との比較から、シリコーン系ポリマーの粒子壁間最短距離が耐コロナ性の向上に寄与していることが明らかである。
一方、実施例1〜10においては、非導電性無機フィラーの種類及び添加量を異ならせているが、いずれの実施例も優れた耐コロナ性が得られている。このことから、非導電性無機フィラーの種類及び添加量によらず、シリコーン系ポリマーの粒子壁間最短距離が耐コロナ性の向上に寄与していることが分かる。
10 試験片
10A PAS樹脂成形品
10B PAS樹脂成形品
12 高圧側電極
14 アース側電極
16 非導電性無機フィラー

Claims (4)

  1. ポリアリーレンスルフィド樹脂と、シリコーン系ポリマーと、非導電性無機フィラーとを含む樹脂組成物を成形してなり、前記シリコーン系ポリマーは、シリコーン・アクリル共重合体、シリコーン系コアシェルゴム、及びシリコーン複合パウダーからなる群より選ばれる1種または2種以上であり、前記シリコーン系ポリマーの粒子からなる島部と、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂からなる海部とを含む海島構造を有する樹脂成形品の耐コロナ性向上方法であって、
    走査型電子顕微鏡による観察において、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の海部中のシリコーン系ポリマーの平均分散径が0.1μm以上4.0μm未満であり、かつ、前記シリコーン系ポリマーの各粒子に対して最も近接する粒子との壁間距離の平均値が0.17〜0.21μmとなるように、二軸押出機により溶融混練した前記樹脂組成物を用いて前記樹脂成形品を成形する、ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の耐コロナ性向上方法。
  2. 前記樹脂成形品中の前記シリコーン系ポリマーの含有量が、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂及び前記シリコーン系ポリマーの含有量の合計に対して、30.0体積%以上であり、かつ、前記シリコーン系ポリマーと前記非導電性無機フィラーの含有量の合計が、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂100体積部に対して、70体積部以上である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の耐コロナ性向上方法。
  3. 前記非導電性無機フィラーが、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、マイカ、及びシリカからなる群より選ばれる1種または2種以上である、請求項1又は2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の耐コロナ性向上方法。
  4. 前記シリコーン系ポリマーが、シリコーン・アクリル共重合体及びシリコーン系コアシェルゴムからなる群より選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1〜のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の耐コロナ性向上方法。
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