以下に添付図面を参照して本願の実施形態に係るレーダ装置およびレーダ装置の制御方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、一例を示すに過ぎず、本願を限定するものではない。また、以下に示す実施形態は、開示の技術に係る構成および処理について主に示し、その他の構成および処理の説明を省略する。そして、各実施形態および変形例は、矛盾しない範囲で適宜組み合わせてもよい。また、各実施形態において、同一の構成および処理には同一の符号を付与し、既出の構成および処理の説明は省略する。
(実施形態に係るレーダ装置による物標検出の概要)
本実施形態では、レーダ装置による検出のターゲットとなる静止物、例えば静止車両および上方物を、比較的遠距離から判別する。以下、静止物として静止車両を例にとり説明するが、静止物は静止車両に限定されない。すなわち、単一の物標データで静止車両および上方物の判別を行う場合、静止車両および上方物の物標データの分布がオーバーラップしていると、閾値に基づいた両者の判別が難しくなる。
そこで、本実施形態では、あるパラメータについて静止車両および上方物が取りうる値と、その発生頻度に基づく確率との既知の相関から統計モデルを構築し、レーダ装置によるスキャン毎に静止車両尤度および上方物尤度を統計モデルに基づいて算出する。そして、ベイズフィルターの手法を用いて、スキャン毎に尤度更新を行って信頼性を高めるとともに、静止車両尤度および上方物尤度の比(ロジット)に基づいて静止車両および上方物の判別を行う。ここで、1つのパラメータだけでは判別が十分でないため、本実施形態では、それぞれ対応する統計モデルを定義した複数のパラメータを用いて、相互に性能を補完できるようにする。
図1は、実施形態に係るレーダ装置による物標検出の概要を示す模式図である。実施形態に係るレーダ装置1は、例えば自車両Aのフロントグリル内等の前方部位に搭載され、自車両Aの進行方向に存在する物標T(物標T1およびT2)を検出する。物標Tは、移動物標および静止物標を含む。図1に示す物標T1は、例えば自車両Aの進行方向に沿って移動する先行車両もしくは静止する静止物(静止車両を含む)である。また、図1に示す物標T2は、例えば自車両Aの進行方向の上方で静止する車両以外の上方物、例えば信号機、陸橋、道路標識、案内標識等である。
レーダ装置1は、自車両Aにおいて積荷やサスペンションによりレーダ搭載の垂直軸が傾いた場合であっても性能保証するため、図1に示すように、下方送信波TW1および上方送信波TW2を、例えば5msec毎に交互に送信するスキャンレーダである。下方送信波TW1は、レーダ装置1の下方送信部TX1から自車両Aの進行方向の下方側へ向けて送信される。上方送信波TW2は、レーダ装置1の上方送信部TX2から自車両Aの進行方向の上方側へ向けて送信される。下方送信部TX1および上方送信部TX2は、例えばアンテナである。
図1に示すように、レーダ装置1は、下方送信波TW1および上方送信波TW2によるスキャン範囲の一部が自車両Aに対する垂直方向で重複することにより、下方送信波TW1又は上方送信波TW2単独よりも垂直方向のより広い範囲で物標Tを検出する。レーダ装置1は、下方送信波TW1および上方送信波TW2が物標Tに反射して得られる反射波を受信部RXで受信することで、物標Tを検出する。
(実施形態に係るレーダ装置の構成)
図2は、実施形態に係るレーダ装置の構成を示す図である。実施形態に係るレーダ装置1は、例えばミリ波レーダの各種方式のうち、周波数変調した連続波であるFM−CW(Frequency Modulated-Continuous Wave)を用いて、自車両Aの周辺に存在する物標Tを検出する。
図2に示すように、レーダ装置1は、車両制御装置2と接続される。車両制御装置2は、ブレーキ3等と接続される。車両制御装置2は、例えば、レーダ装置1が照射した送信波が物標T1で反射した反射波がレーダ装置1の受信アンテナに受信されるまでの距離が所定距離以下となって自車両Aが物標T1と追突する危険性がある場合に、ブレーキ3や、スロットル、ギア等を制御して自車両Aの挙動をコントロールし、自車両Aが物標T1と追突することを回避する。このような車両制御を行うシステムの例として、例えばACC(Adaptive Cruise Control)システムがある。
なお、レーダ装置1が照射した送信波が物標T1で反射した反射波がレーダ装置1の受信アンテナに受信されるまでの距離を「縦距離」といい、自車両Aの左右方向(車幅方向)における物標Tの距離を「横距離」という。自車両Aの左右方向とは、自車両Aが進行する道路の車線幅の方向でもある。「横距離」は、自車両Aの中心位置を原点とし、自車両Aの右側では正値、自車両Aの左側では負値で表現される。「横距離」は、後述する「横位置」である。
また、図2に示すように、レーダ装置1は、送信部4、受信部5、信号処理部6を含む。
送信部4は、信号生成部41、発振器42、スイッチ43、下方送信部TX1、上方送信部TX2を含む。信号生成部41は、三角波状に電圧が変化する変調信号を生成し、発振器42へ供給する。発振器42は、信号生成部41で生成された変調信号に基づいて連続波の信号を周波数変調し、時間の経過に従って周波数が変化する送信信号を生成して、下方送信部TX1および上方送信部TX2へ出力する。
スイッチ43は、下方送信部TX1および上方送信部TX2のいずれかと、発振器42とを接続する。スイッチ43は、後述する送信制御部61の制御により所定のタイミング(例えば5msec毎)で動作し、下方送信部TX1および上方送信部TX2のいずれかと、発振器42との接続を切り替える。すなわち、スイッチ43は、例えば、・・・→下方送信部TX1→上方送信部TX2→下方送信部TX1→上方送信部TX2・・・の順に発振器42との接続を切り替える。
下方送信部TX1および上方送信部TX2は、送信信号に基づき下方送信波TW1および上方送信波TW2を自車両Aの外部へ送出する。以下、下方送信部TX1および上方送信部TX2を「送信部TX」と総称する場合がある。図2では、下方送信部TX1および上方送信部TX2を1つずつ例示するが、その数は適宜設計変更可能である。送信部TXは、複数本のアンテナで構成され、複数本のアンテナを介してそれぞれ異なる方向へ下方送信波TW1および上方送信波TW2を出力し、スキャン範囲をカバーする。以下、下方送信波TW1および上方送信波TW2を「送信波TW」と総称する場合がある。
下方送信部TX1および上方送信部TX2は、スイッチ43を介して発振器42に接続される。そのため、送信部TXのうちの1本の送信部TXから、スイッチ43のスイッチング動作に応じて、下方送信波TW1および上方送信波TW2のいずれかが出力される。また、出力される送信波TWも、スイッチ43のスイッチング動作によって順次切り替えられる。
受信部5は、アレーアンテナを形成する4本の各アンテナである受信部RXのそれぞれに接続された個別受信部52を含む。図2では、受信部RXを4つ例示するが、その数は適宜設計変更可能である。各受信部RXは、物標Tからの反射波RWを受信する。各個別受信部52は、対応する受信部RXを介して受信した反射波RWを処理する。
各個別受信部52は、ミキサ53、A/D(Analog/Digital)変換器54を含む。受信部RXで受信された反射波RWから得られる受信信号は、ミキサ53へ送られる。なお、受信部RXとミキサ53との間にはそれぞれ対応する増幅器を配してもよい。
ミキサ53には、送信部4の発振器42から分配された送信信号が入力され、ミキサ53において送信信号と受信信号とがそれぞれミキシングされる。これにより、送信信号の周波数と、受信信号の周波数との差分周波数であるビート周波数を示すビート信号が生成される。ミキサ53で生成されたビート信号は、A/D変換器54でデジタルの信号に変換された後に信号処理部6へ出力される。
信号処理部6は、CPU(Central Processing Unit)および記憶部63等を含むマイクロコンピュータであり、レーダ装置1全体を制御する。信号処理部6は、演算対象とする各種のデータや、データ処理部7が検出する物標の情報等を、記憶部63に記憶させる。また、記憶部63は、後述する、横位置差モデル63a、相対速度差モデル63b、独立ビーム傾き差モデル63c、上下ビームパワー差傾きモデル63d、上下ビーム面積微分モデル63e、外挿要因種別尤度テーブル63f、重み係数・切片テーブルA63g、重み係数・切片テーブルB63hを記憶する。記憶部63は、例えばEPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)やフラッシュメモリ等を用いることができるが、これに限定されるものではない。
信号処理部6は、マイクロコンピュータでソフトウェア的に実現される機能として、送信制御部61、フーリエ変換部62、データ処理部7を含む。送信制御部61は、送信部4の信号生成部41を制御するとともに、スイッチ43のスイッチングを制御する。データ処理部7は、ピーク抽出部70、角度推定部71、ペアリング部72、連続性判定部73、フィルタリング部74、物標分類部75、不要物標除去部76、グループ化部77、物標情報出力部78を含む。
フーリエ変換部62は、複数の個別受信部52のそれぞれから出力されるビート信号を対象に、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)を行う。これにより、フーリエ変換部62は、複数の受信部RXのそれぞれの受信信号に係るビート信号を、周波数領域のデータである周波数スペクトラムに変換する。フーリエ変換部62で生成された周波数スペクトラムは、データ処理部7へ出力される。
ピーク抽出部70は、フーリエ変換部62で生成された周波数スペクトラムにおいて、所定の信号レベルを超えるピークを、送信信号の周波数が上昇するアップ区間と、周波数が下降するダウン区間とのそれぞれの区間で抽出する。
ここで、ピーク抽出部70の処理について、図3、図4A、図4Bを参照して説明する。図3は、送信波と反射波の関係およびビート信号を示す図である。図4Aは、アップ区間のピーク抽出を説明する図である。図4Bは、ダウン区間のピーク抽出を説明する図である。なお、説明を簡単にするため、図3に示す反射波RWは1つの物標Tからの理想的な反射波としている。また、図3では、送信波TWを実線で示し、反射波RWを破線で示す。
図3の上方図において、縦軸は周波数[GHz]、横軸は時間[msec]を示す。なお、図3においては、下方送信波TW1は、タイミングt1〜t2の区間で出力され、上方送信波TW2は、タイミングt2〜t3の区間で出力されるものとする。
図3に示すように、下方送信波TW1および上方送信波TW2は、所定の周波数を中心として所定の周期で周波数が上下する連続波であり、その周波数は、時間に対して線形的に変化する。ここでは、下方送信波TW1および上方送信波TW2の中心周波数をf0、周波数の変位幅をΔF、周波数が上下する一周期の逆数をfmとする。
反射波RWは、下方送信波TW1および上方送信波TW2が物標Tで反射したものであるため、下方送信波TW1および上方送信波TW2と同様に、所定の周波数を中心として所定の周期で周波数が上下する連続波となる。ただし、反射波RWには、下方送信波TW1等に対して遅延が生じる。遅延時間τは、自車両Aから物標Tまでの縦距離に応じたものとなる。
また、反射波RWには、自車両Aに対する物標Tの相対速度に応じたドップラー効果により、送信波TWに対して周波数fdの周波数偏移が生じる。
このように、反射波RWには、下方送信波TW1等に対して、縦距離に応じた遅延時間とともに相対速度に応じた周波数偏移が生じる。このため、図3の下方図に示すように、ミキサ53で生成されるビート信号のビート周波数は、送信信号の周波数が上昇するアップ区間(以下、「UP」という場合がある)と周波数が下降するダウン区間(以下、「DN」という場合がある)とで異なる値となる。
ビート周波数は、下方送信波TW1等の周波数と反射波RWの周波数との差の周波数である。以下、アップ区間のビート周波数をfup、ダウン区間のビート周波数をfdnとする。図3の下方図では、縦軸は周波数[kHz]、横軸は時間[msec]を示す。
そして、図4Aおよび図4Bに示すように、フーリエ変換部62でのフーリエ変換後には、アップ区間のビート周波数fupおよびダウン区間のビート周波数fdnのそれぞれの周波数領域における波形が得られる。図4Aおよび図4Bでは、縦軸は信号のパワー[dB]、横軸は周波数[kHz]を示す。
ピーク抽出部70は、図4Aおよび図4Bに示す波形において、所定の信号パワーPrefを超えるピークPuと、ピークPdとを抽出する。なお、ピーク抽出部70は、図3に示す、下方送信波TW1および上方送信波TW2のそれぞれについて、ピークPuおよびPdを抽出するものとする。所定の信号パワーPrefは、一定であっても、可変であってもよい。また、所定の信号パワーPrefは、アップ区間とダウン区間とで異なる値に設定されてもよい。
図4Aに示すアップ区間の周波数スペクトラムにおいては、3つの周波数fup1、fup2、fup3の位置にそれぞれピークPuが現れている。また、図4Bに示すダウン区間の周波数スペクトラムにおいては、3つの周波数fdn1、fdn2、fdn3の位置にそれぞれピークPdが表れている。図4Aおよび図4Bでは、ピークPuおよびピークPdを3つずつ例示するが、ピークPuおよびピークPdは1つ以上現れるものである。以下、周波数を別の単位のbin(ビン)と呼ぶことがある。1binは、約467Hzに相当する。
相対速度を考慮しなければ、周波数スペクトラムにおいてピークが表れる位置の周波数は、物標Tの縦距離に対応する。1binは、縦距離約0.36mに相当する。そして、例えばアップ区間の周波数スペクトラムに注目すると、ピークPuが表れる周波数fupに対応する縦距離の位置に物標が存在していることになる。このため、ピーク抽出部70は、アップ区間およびダウン区間の双方の周波数スペクトラムに関して、所定の信号パワーPrefを超えるパワーを有するピークPuおよびピークPdが表れる周波数を抽出する。以下、このように抽出される周波数を「ピーク周波数」という。
図4Aおよび図4Bに示すようなアップ区間およびダウン区間の周波数スペクトラムは、1つの受信部RXで受信した受信信号から得られる。従って、フーリエ変換部62は、4つの受信部RXで受信した受信信号のそれぞれから、アップ区間およびダウン区間それぞれの周波数スペクトラムを導出する。
4つの受信部RXは、同一の物標からの反射波RWを受信しているため、4つの受信部RXの周波数スペクトラムの相互間において、抽出されるピーク周波数は同一となる。ただし、4つの受信部RXの位置は互いに異なるため、受信部RX毎に反射波RWの位相は異なる。このため、同一binとなる受信信号の位相情報は、受信部RX毎に異なっている。また、同一binの異なる角度に複数の物標が存在する場合は、周波数スペクトラムにおける1つのピーク周波数の信号に、それら複数の物標についての情報が含まれる。
角度推定部71は、アップ区間およびダウン区間それぞれについて、方位演算処理により、1つのピーク周波数の信号から、同一binに存在する複数の物標についての情報を分離し、それら複数の物標それぞれの角度を推定する。同一binに存在する物標は、それぞれの縦距離が略同一となる物標である。角度推定部71は、4つの受信部RXの全ての周波数スペクトラムにおいて同一binの受信信号に注目し、それら受信信号の位相情報に基づいて物標の角度を推定する。
このような物標の角度を推定する手法としては、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)、MUSIC(Multiple Signal Classification)、PRISM(Panchromatic Remote-sensing Instrument for Stereo Mapping)等の周知の角度推定方式を用いることができる。これにより、角度推定部71は、1つの周波数の信号から、複数のピーク角度、それら複数の角度それぞれの信号のパワーを算出する。
図5は、方位演算処理により推定された角度を、角度スペクトラムとして概念的に示す図である。図5において、縦軸は信号のパワー[dB]、横軸は角度[deg]を示す。角度スペクトラムにおいて、方位演算処理により推定された角度は所定の信号パワーPrefを超えるピークPaとして表れる。以下、方位演算処理により推定された角度を「ピーク角度」という。このように1つのピーク周波数の信号から同時に導出された複数のピーク角度は、同一binに存在する複数の物標の角度を示す。
角度推定部71は、このようなピーク角度の導出を、アップ区間およびダウン区間の周波数スペクトラムにおける全てのピーク周波数に関して行う。
以上の処理により、ピーク抽出部70および角度推定部71は、アップ区間およびダウン区間それぞれにおける、自車両Aの前方に存在する複数の物標それぞれに対応するピークデータを導出する。ピークデータは、上述したピーク周波数、ピーク角度、ピーク角度の信号のパワー(以下、「角度パワー」という)等のパラメータを含む。
ペアリング部72は、角度推定部71により算出されたアップ区間のピーク角度および角度パワーと、ダウン区間のピーク角度および角度パワーとの一致度合い等に基づき、アップ区間のピークPuおよびダウン区間のピークPdを対応づけるペアリングを行う。図6Aは、アップ区間およびダウン区間それぞれの方位角度および角度パワーに基づくペアリングを説明する図である。図6Bは、ペアリング結果を説明する図である。図6Aおよび図6Bにおいて、横軸は「角度(方位)」を表し、縦軸は「距離(縦距離)」を表す。
図6Aに示すように、ペアリング部72は、UPおよびDNそれぞれのピークの方位演算結果のうち、ピーク角度および角度パワーが所定範囲内で近いピークをペアリングする。すなわち、ペアリング部72は、例えば、UPおよびDNそれぞれの周波数ピークのピーク角度および角度パワーを用いて、マハラノビス距離を算出する。マハラノビス距離の算出は、周知技術を用いる。ペアリング部72は、マハラノビス距離が最小値となるUPおよびDNの2つのピークを対応付ける。
このように、ペアリング部72は、同一の物標Tに関するピーク同士を対応付ける。これにより、ペアリング部72は、自車両Aの前方に存在する複数の物標Tそれぞれに係る物標データを導出する。この物標データは、2つのピークを対応付けて得られるため、「ペアデータ」とも呼ばれる。
そして、図6Bに示すように、ペアリング部72は、ペアリングしたUPおよびDNのピーク(図6Bに“○”で示す)から、各物標Tの自車両Aに対する相対速度および距離を算出する。例えば、ペアリング部72は、物標データ(ペアデータ)の元となったアップ区間およびダウン区間の2つのピークデータを用いることで、当該物標データのパラメータ(縦距離、横距離、相対速度)を導出できる。レーダ装置1は、ペアリングにより、物標Tの存在を検出することとなる。
上述のようなピーク抽出部70、角度推定部71、ペアリング部72による処理は、下方送信部TX1および上方送信部TX2により交互に行うビーム照射毎(スキャン毎)に反射波RWを受信する都度行われ、物標データのパラメータ(縦距離、横距離、相対速度)の瞬時値を導出する処理である。
連続性判定部73は、過去処理で導出された物標データと、直近処理で導出された物標データとの時間的な連続性を判定する。すなわち、連続性判定部73は、過去処理で導出された物標データと、直近処理で導出された物標データとが同一の物標か否かを判定する。例えば、過去処理は前回の物標データ導出処理であり、直近処理は今回の物標データ導出処理である。具体的には、連続性判定部73は、前回の物標データ導出処理で導出された物標データに基づいて今回の物標データの位置を予測し、今回の物標データ導出処理で導出されたその予測位置の所定範囲内で最も近い物標データを、過去処理で導出された物標データと連続性を有する物標データであるとする。
なお、連続性判定部73は、直近処理において、過去処理で導出された物標データと連続性を有する物標データが導出されていない場合、すなわち過去処理で導出された物標データの連続性がないと判定された場合、過去処理で導出された物標データのパラメータ(縦距離、横距離、相対速度)に基づき、直近処理で導出されていない物標データを仮想的に導出する「外挿処理」を行う。
外挿処理により導出された外挿データは、直近処理で導出された物標データとして取り扱われる。そして外挿処理が、ある物標データに対して連続して複数回、あるいは比較的高い頻度で行われると、物標をロストしたとしてその物標データは記憶部63の所定記憶領域から削除される。具体的には、その物標を示す物標番号のパラメータの情報が削除され、その物標番号にはパラメータが削除されたことを示す値(削除フラグOFFを示す値)が設定される。物標番号はそれぞれの物標データを識別する指標であり、物標データごとに異なる番号が付与される。
フィルタリング部74は、過去処理および直近処理のそれぞれの処理で導出された2つの物標データのパラメータ(縦距離、横距離、相対速度)を時間軸方向に平滑化して物標データを導出する。このようなフィルタ処理後の物標データは、瞬時値を表すペアデータに対して「内部フィルタデータ」とも呼ばれる。
物標分類部75は、相対速度に基づき、各物標を、先行車、静止物(静止車両を含む)、対向車に分類する。例えば、物標分類部75は、自車両Aの速度と同じ向きであって、この速度の大きさよりもより大きな相対速度の物標を「先行車」と分類する。また、例えば、物標分類部75は、自車両Aの速度と概ね逆向きである相対速度の物標を「静止物」と分類する。また、例えば、物標分類部75は、自車両Aの速度と逆向きであって、この速度の大きさよりもより大きな相対速度の物標を「対向車」と分類する。なお、「先行車」は、自車両Aの速度と同じ向きであって、この速度の大きさよりも小さな相対速度の物標であってもよい。また、「対向車」は、自車両Aの速度と逆向きであって、この速度の大きさよりも小さい相対速度の物標であってもよい。
不要物標除去部76は、各物標のうち、上方物、下方物、雨、受信波ゴースト等を不要物標として判定し、出力物標から除外する。不要物標のうち、上方物を判別する処理については、後に詳述する。
グループ化部77は、複数の物標データを同一物体の物標データとして1つに統合するグループ化を行う。例えば、グループ化部77は、検知位置および速度が所定範囲内で近い物標データを同一物体の物標データを1つにまとめて1出力とすることで、物標データの出力数を削減する。
物標情報出力部78は、導出された、もしくは外挿により導出された複数の物標データから所定数(例えば10個)の物標データを出力対象として選択し、選択した物標データを車両制御装置2へ出力する。物標情報出力部78は、物標データの縦距離および横距離をもとに、自車線内に存在し、かつ、自車両Aにより近い物標に係る物標データを優先的に選択する。ここで、「自車線」とは、自車両Aが車線の略中央を走行する場合、その車線の両端それぞれ1.8m程度の幅員を想定した走行レーンである。なお、「自車線」を規定する幅員は、適宜設計変更可能である。
以上の物標データ導出の処理で導出された物標データは、各物標データを示す物標番号と対応するパラメータとして記憶部63の所定記憶領域に記憶され、次回以降の物標データ導出の処理において過去処理で導出された物標データとして用いられる。
すなわち、過去の物標データ導出の処理で導出された物標データは、「履歴」として保存される。例えば、ピーク抽出部70は、「履歴」として記憶部63の所定記憶領域に保存される「ピーク周波数」を参照し、「履歴」と時間的な連続性を有する「ピーク周波数」を予測し、予測した「ピーク周波数」の例えば±3bin以内の周波数を抽出する。これにより、レーダ装置1は、車両制御装置2に対して優先的に出力する必要性のある物標に対応する「ピーク周波数」を迅速に選択することができる。予測した今回の物標データの「ピーク周波数」を「予測bin」という。
(実施形態に係る静止車両および上方物の判別処理1)
以下、図7A〜図18を参照して、実施形態に係る不要物標除去部76が行う静止車両および上方物の判別処理の詳細について、STEP1〜STEP3の順で説明する。
<STEP1:確率比の算出>
不要物標除去部76は、下記(1)式に基づき、スキャン毎に取得した物標データに基づくパラメータと、対応する各確率分布モデルから、物標に関する6つの確率比(対数尤度)を算出する。6つの各確率比の算出に用いる確率分布モデルは、実測データに基づいて例えば10m毎に予め定義又は構築され、10m未満を線形補間したものを用いる。
なお、確率比算出に用いる確率分布モデルには、図2を参照して上述したように、横位置差モデル63a、相対速度差モデル63b、独立ビーム傾き差モデル63c、上下ビームパワー差傾きモデル63d、上下ビーム面積微分モデル63e、外挿要因種別尤度テーブル63fがある。横位置差モデル63aの詳細は、図8を参照して後述する。相対速度差モデル63bの詳細は、図10を参照して後述する。独立ビーム傾き差モデル63cの詳細は、図12を参照して後述する。上下ビームパワー差傾きモデル63dの詳細は、図14を参照して後述する。上下ビーム面積微分モデル63eの詳細は、図17を参照して後述する。外挿要因種別尤度テーブル63fの詳細は、図18を参照して後述する。
上記(1)式において、n=1の場合の“確率比1”は、後述のパラメータ“横位置差”に基づく静止車両および上方物の対数尤度である。上記(1)式において、n=2の場合の“確率比2”は、後述のパラメータ“相対速度差”に基づく静止車両および上方物の対数尤度である。上記(1)式において、n=3の場合の“確率比3”は、後述のパラメータ“独立ビーム傾き差”に基づく静止車両および上方物の対数尤度である。上記(1)式において、n=4の場合の“確率比4”は、後述のパラメータ“上下ビームパワー差傾き”に基づく静止車両および上方物の対数尤度である。上記(1)式において、n=5の場合の“確率比5”は、後述のパラメータ“上下ビーム面積微分”に基づく静止車両および上方物の対数尤度である。上記(1)式において、n=6の場合の“確率比6”は、後述のパラメータ“外挿要因種別”に基づく静止車両および上方物の対数尤度である。
・STEP1−1:“横位置差”に基づく対数尤度算出
不要物標除去部76は、今回スキャンにより取得した今回横位置と、前回スキャンにより取得した前回横位置の差から、下記(2)式に基づき横位置差を算出する。
図7Aは、実施形態に係る横位置差の算出方法を説明する図である。図7Aは、横軸を距離(検知距離)とし、縦軸を横位置とする。図7Aに示すように、例えば50msec毎に取得される物標の横位置のうち、今回横位置(例えば図7A中の(1)に相当)から前回横位置(例えば図7A中の(2)に相当)を減算し、横位置差を算出する。
図7Bは、実施形態に係る横位置差の算出のバックグラウンドを説明する図である。横位置差を算出するのは、図7Bに示すように、(a)車両は反射点の位置が安定しているのに対し、(b)上方物は横幅があるために反射点の位置が不安定となり横位置が移動しうることから、横位置差が大きくなる傾向があるという事実に基づく。
そして、不要物標除去部76は、図8に例示する横位置差モデル63aおよび上記(2)式に基づき算出した横位置差から、上記(1)式に基づき“確率比1”を算出する。図8は、実施形態に係る横位置差モデルを示す図である。横位置差モデル63aは、横軸を横位置差[m]、縦軸を尤度とし、静止車両および上方物のそれぞれの横位置差および尤度の関係を示す確率分布モデルである。図8に示す静止車両および上方物の確率分布モデルは、最尤推定法および実験計画法により予め構築された、例えば正規分布に基づくモデルである。横位置差モデル63aは、判定精度向上のため、静止車両および上方物それぞれについて、モデルを特徴付けるパラメータが調整される。
なお、図8は、横位置差モデル63aとして、自車両Aから物標までの距離が80mの場合の横位置差モデルを例示し、自車両Aから物標までの距離が10から80〜150m程度までの10m単位の各距離の横位置差モデルの図示を省略している。
例えば、上記(2)式に基づき算出された“横位置差”が“1”である場合を考える。この場合、図8を参照すると、横軸の横位置差が“1”である場合には、縦軸の静止車両の尤度は約“0.13”、上方物の尤度は約“0.27”となる。よって、上記(1)式において、n=1とした場合、確率比1=log(静止車両尤度1)−log(上方物尤度1)=log(0.13)−log(0.27)として、確率比1を算出することができる。
・STEP1−2:“相対速度差”に基づく対数尤度算出
不要物標除去部76は、今回スキャンにより取得した今回距離と前回スキャンにより取得した前回距離の距離差の微分と、今回相対速度から、下記(3)式に基づき相対速度差を算出する。
図9Aは、実施形態に係る相対速度差の算出方法を説明する図である。図9Aに示すように、例えば50msec毎に取得される物標の距離のうち、今回距離(例えば図9A中の(1)に相当)から前回距離(例えば図9A中の(2)に相当)を減算し、(今回距離−前回距離)を算出し、さらに(今回距離−前回距離)を更新周期(例えば図9A中のΔT=50msecに相当)で除算して、今回距離と前回距離の距離差の微分を算出する。そして、今回距離と前回距離の距離差の微分の符号を逆転させたものに、今回相対速度(例えば図9A中の(3)に相当)を加算し、相対速度差を算出する。
図9Bは、実施形態に係る相対速度差の算出のバックグラウンドを説明する図である。相対速度差を算出するのは、図9Bに示すように、上方物は縦横幅があるために反射点の位置が不安定となり縦横位置が移動しうることから、レーダ装置1との距離が大きく変化する傾向があり、検知距離の時間微分が大きくなるという事実に基づく。
そして、不要物標除去部76は、図10に例示する相対速度差モデル63bおよび上記(3)式に基づき算出した相対速度差から、上記(1)式に基づき“確率比2”を算出する。図10は、実施形態に係る相対速度差モデルを示す図である。相対速度差モデル63bは、横軸を相対速度差[m/s]、縦軸を尤度とし、静止車両および上方物のそれぞれの相対速度差および尤度の関係を示す確率分布モデルである。図10に示す静止車両および上方物の確率分布モデルは、最尤推定法および実験計画法により予め構築された、例えば正規分布に基づくモデルである。相対速度差モデル63bは、判定精度向上のため、静止車両および上方物それぞれについて、モデルを特徴付けるパラメータが調整される。
なお、図10は、相対速度差モデル63bとして、自車両Aから物標までの距離が80mの場合の相対速度差モデルを例示し、自車両Aから物標までの距離が10から80〜150m程度までの10m単位の各距離の相対速度差モデルの図示を省略している。
例えば、上記(3)式に基づき算出された“相対速度差”が“2”である場合を考える。この場合、図10を参照すると、横軸の相対速度差が“2”である場合には、縦軸の静止車両の尤度は約“0.11”、上方物の尤度は約“0.75”となる。よって、上記(1)式において、n=2とした場合、確率比2=log(静止車両尤度2)−log(上方物尤度2)=log(0.11)−log(0.75)として、確率比2を算出することができる。
・STEP1−3:“独立ビーム傾き差”に基づく対数尤度算出
不要物標除去部76は、今回スキャンにより取得した今回距離および角度パワーと、前回スキャンにより取得した前回距離および角度パワーから、下記(4)式に基づき独立ビーム傾き差を算出する。独立ビーム傾き差はマルチパスのパワー変動に関係することから、独立ビーム傾き差を見ることにより、静止車両および上方物を判別できるという事実に基づく。
図11は、実施形態に係る独立ビーム傾き差を算出するためのパラメータとなる上ビーム傾きと下ビーム傾きとの算出を説明する図である。図11に示すように、例えば50msec毎に取得される上下ビームそれぞれの物標の角度パワーのうち、下方ビームについて、今回角度パワー差(例えば図11中の(1)に相当)から前回角度パワー差(例えば図11中の(2)に相当)を減算し、減算結果を(前回距離−今回距離)で除算して、下ビーム傾きを算出する。また、上方ビームについて、今回角度パワー差(例えば図11中の(3)に相当)から前回角度パワー差(例えば図11中の(4)に相当)を減算し、減算結果を(前回距離−今回距離)で除算して、上ビーム傾き差を算出する。そして、今回の上ビーム傾きから前回の上ビーム傾きを減算し、上ビームの独立ビーム傾き差を算出する。また、今回の下ビーム傾きから前回の下ビーム傾きを減算して、下ビームの独立ビーム傾きを算出する。
そして、不要物標除去部76は、図12に例示する独立ビーム傾き差モデル63cおよび上記(4)式に基づき算出した独立ビーム傾き差から、上記(1)式に基づき“確率比3”を算出する。図12は、実施形態に係る独立ビーム傾き差モデルを示す図である。独立ビーム傾き差モデル63cは、横軸を独立ビーム傾き差[dB/m]、縦軸を尤度とし、静止車両および上方物のそれぞれの独立ビーム傾き差および尤度の関係を示す確率分布モデルである。図12に示す静止車両および上方物の確率分布モデルは、最尤推定法および実験計画法により予め構築された、例えば正規分布に基づくモデルである。独立ビーム傾き差モデル63cは、判定精度向上のため、静止車両および上方物それぞれについて、モデルを特徴付けるパラメータが調整される。
なお、図12は、独立ビーム傾き差モデル63cとして、自車両Aから物標までの距離が80mの場合を例示し、自車両Aから物標までの距離が10から80〜150m程度までの10m単位の各距離の独立ビーム傾き差モデルの図示を省略している。
例えば、上記(4)式に基づき算出された“独立ビーム傾き差”が“0”である場合を考える。この場合、図12を参照すると、横軸の独立ビーム傾き差が“0”である場合には、縦軸の静止車両の尤度は約“0.14”、上方物の尤度は約“0.05”となる。よって、上記(1)式において、n=3とした場合、確率比3=log(静止車両尤度3)−log(上方物尤度3)=log(0.14)−log(0.05)として、確率比3を算出することができる。
・STEP1−4:“上下ビームパワー差傾き”に基づく対数尤度算出
不要物標除去部76は、上下ビームにおけるパワー差の傾きを、下記(5)式に基づき算出する。上下ビームパワー差傾きはマルチパスのパワー変動に関係することから、上下ビームパワー差傾きを見ることにより、静止車両および上方物を判別できるという事実に基づく。
図13は、実施形態に係る上下ビームパワー差傾きの算出方法を説明する図である。図13に示すように、例えば50msec毎に取得される上下ビームそれぞれの物標の角度パワーのうち、下ビーム前回角度パワー(例えば図13中の(1)に相当)および下ビーム今回角度パワー(例えば図13中の(3)に相当)を線形補間し、上ビーム前回角度パワー(例えば図13中の(2)に相当)に該当する距離d1における下ビーム角度パワーの補間値(例えば図13中の(2´)に相当)を算出する。また、上ビーム前回角度パワー(例えば図13中の(2)に相当)および上ビーム今回角度パワー(例えば図13中の(4)に相当)を線形補間し、下ビーム今回角度パワー(例えば図13中の(3)に相当)に該当する距離d2における上ビーム角度パワーの補間値(例えば図13中の(3´)に相当)を算出する。
なお、上述のように補間値を用いるのは、上ビームおよび下ビームは50msec周期で交互に送信しており両者の角度パワーのタイミングにタイムラグがあるためで、タイミングを揃えてより正確な角度パワー差を算出するためである。
そして、不要物標除去部76は、“今回角度パワー差”として“上ビーム角度パワーの補間値(例えば図13中の(3´)に相当)−下ビーム今回角度パワー(例えば図13中の(3)に相当)”を算出する。また、不要物標除去部76は、 “前回角度パワー差”として“上ビーム前回角度パワー(例えば図13中の(2)に相当)−下ビーム角度パワーの補間値(例えば図13中の(2´)に相当)”を算出する。そして、不要物標除去部76は、上記(5)式に基づき、上下ビームパワー差傾きを算出する。ただし、上記(5)式における“d1”“d2”は、図13における“d1”“d2”である。
そして、不要物標除去部76は、図14に例示する上下ビームパワー差傾きモデル63dおよび上記(5)式に基づき算出した上下ビームパワー差傾きから、上記(1)式に基づき“確率比4”を算出する。図14は、実施形態に係る上下ビームパワー差傾きモデルを示す図である。上下ビームパワー差傾きモデル63dは、横軸を上下ビーム差傾き[dB/m]、縦軸を尤度とし、静止車両および上方物のそれぞれの上下ビーム差傾きおよび尤度の関係を示す確率分布モデルである。図14に示す静止車両および上方物の確率分布モデルは、最尤推定法および実験計画法により予め構築された、例えば正規分布に基づくモデルである。上下ビームパワー差傾きモデル63dは、判定精度向上のため、静止車両および上方物それぞれについて、モデルを特徴付けるパラメータが調整される。
なお、図14は、上下ビームパワー差傾きモデル63dとして、自車両Aから物標までの距離が80mの場合の上下ビームパワー差傾きモデルを例示し、自車両Aから物標までの距離が10から80〜150m程度までの10m単位の各距離の上下ビームパワー差傾きモデルの図示を省略している。
例えば、上記(5)式に基づき算出された“上下ビーム差傾き”が“0”である場合を考える。この場合、図14を参照すると、横軸の上下ビーム差傾きが“0”である場合には、縦軸の静止車両の尤度は約“0.2”、上方物の尤度は約“0.06”となる。よって、上記(1)式において、n=4とした場合、確率比4=log(静止車両尤度4)−log(上方物尤度4)=log(0.2)−log(0.06)として、確率比4を算出することができる。
・STEP1−5:“上下ビーム面積微分”に基づく対数尤度算出
反射波のマルチパスは、角度パワーに影響を与え、その影響は物標の高さに依存して変化する。遠距離においては、静止車両よりも上方物のほうがマルチパスによる影響が強く現れる。また、マルチパスによる凸Null点が現れる距離(距離あたりの頻度)は、レーダ装置の垂直取り付け角度による影響を受けにくい、すなわち、上下ビームパワー差の変動量を距離で規格化した本パラメータは、レーダの搭載条件の影響を受けにくい。なお、“凸Null”とは、極大点の近傍で上に凸の曲線であり、極小点の近傍で例えばサイクロイド曲線の極小点近傍に類似する形状を取る曲線をいう。
図15Aは、静止車両の角度パワーおよび距離の関係を示す図である。図15Bは、上方物の角度パワーおよび距離の関係を示す図である。図15Aの枠囲み部分から、静止車両は、距離70〜80m以下でマルチパスの影響を受けて、角度パワーの分布がバラついて変化量が大きいことが分かる。一方、図15Bの枠囲み部分から、上方物は、距離に関わらずマルチパスの影響を受けて、角度パワーの分布がバラついて変化量が大きいことが分かる。
そこで、不要物標除去部76は、上下ビーム面積微分を、図16に示す要領で算出する。図16は、実施形態に係る上下ビーム面積微分の算出方法を説明する図である。図16に示すように、例えば50msec毎に取得される上下ビームそれぞれの物標の角度パワーについて線形補間により同一距離の角度パワーを算出し、同一距離の上下ビームの“角度パワー差”を算出する(図16の(a)の(1)〜(6)相当)。
なお、上述のように線形補間による同一距離の角度パワーを用いて上下ビームの“角度パワー差”を算出するのは、上ビームおよび下ビームは50msec周期で交互に送信しており両者の角度パワーのタイミングにタイムラグがあるためで、タイミングを揃えてより正確な角度パワー差を算出するためである。
そして、不要物標除去部76は、図16の(b)に示すように、|(1)の角度パワー差−(2)の角度パワー差|を“上下ビーム角度パワー差”とし、{(1)の距離−(2)の距離}を“距離差”として、“上下ビーム角度パワー差”ד距離差”の計算により、(1´)の面積を求める。|*|は、*の絶対値である。
同様に、(2´)の面積=|(2)の角度パワー差−(3)の角度パワー差|×{(2)の距離−(3)の距離}、(3´)の面積=|(3)の角度パワー差−(4)の角度パワー差|×{(3)の距離−(4)の距離}、(4´)の面積=|(5)の角度パワー差−(6)の角度パワー差|×{(5)の距離−(6)の距離}を算出する。
図16の(c)は、上述のようにして算出した各サイクルにおける面積を示す。そして、不要物標除去部76は、下記(6)式に基づき、上述のようにして算出した同一物標の各サイクルにおける面積(上下ビーム角度パワー差)の合計値を、各距離差の合計で除算して“上下ビーム面積微分”を算出する。
そして、不要物標除去部76は、図17に例示する上下ビーム面積微分モデル63eおよび上述のようにして算出した“上下ビーム面積微分”から、上記(1)式に基づき“確率比5”を算出する。図17は、実施形態に係る上下ビーム面積微分モデルを示す図である。上下ビーム面積微分モデル63eは、横軸を上下ビーム面積微分[dB]、縦軸を尤度とし、静止車両および上方物のそれぞれの上下ビーム面積微分および尤度の関係を示す確率分布モデルである。図17に示す静止車両および上方物の確率分布モデルは、最尤推定法および実験計画法により予め構築された、例えば歪正規分布に基づくモデルである。上下ビーム面積微分モデル63eは、判定精度向上のため、静止車両および上方物それぞれについて、モデルを特徴付けるパラメータが調整される。
なお、図17は、上下ビーム面積微分モデル63eとして、自車両Aから物標までの距離が80mの場合の上下ビーム面積微分モデルを例示し、自車両Aから物標までの距離が10から80〜150m程度までの10m単位の各距離の上下ビームパワー差傾きモデルの図示を省略している。
例えば、上記(6)式に基づき算出された“上下ビーム面積微分”が“1”である場合を考える。この場合、図17を参照すると、横軸の上下ビーム面積微分が“1”である場合には、縦軸の静止車両の尤度は約“0.52”、上方物の尤度は約“0.1”となる。よって、上記(1)式において、n=5とした場合、確率比5=log(静止車両尤度5)−log(上方物尤度5)=log(0.52)−log(0.1)として、確率比5を算出することができる。
・STEP1−6:“外挿要因種別”に基づく対数尤度算出
上方物は、多点反射や反射点移動、マルチパスによるパワー減衰等の影響により、反射が不安定で外挿になることが多い。よって、外挿の特徴から判断して、静止車両および上方物の尤度を算出する。すなわち、同一物標に関し、今回スキャンにおいて外挿の有無、および、外挿ありの場合はその要因に基づいて、図18に示す外挿要因種別尤度テーブル63fより尤度対数を決定する。図18は、実施形態に係る外挿要因種別尤度テーブルを示す図である。なお、図18では、“・・・”により、具体的数値の記載を省略している。例えば、連続性判定部73が、外挿処理を行い、外挿の有無および外挿ありの場合の外挿要因種別を記憶部63の所定記憶領域に記憶する。
外挿要因種別は、例えば「履歴なし」「ピークなし」「角度なし」「連続性なし」「予測binずれ」「マハラノビス距離NG」「ペアなし」の7種類がある。
「履歴なし」とは、今回抽出の「ピーク周波数」に対応する「履歴」が取得できない、もしくは「履歴」が存在しないことをいう。「ピークなし」とは、フーリエ変換部62で生成された周波数スペクトラムからピーク抽出部70によるピーク抽出ができないことをいう。「角度なし」とは、ピーク抽出部70によるピーク抽出はできたが、角度推定部71による物標の角度推定ができないことをいう。
「連続性なし」は、ペアリング部72によるペアリングはできたが、連続性判定部73による連続性判定により、直近処理で導出された物標データとの時間的な連続性なしと判定されることをいう。
「予測binずれ」とは、実際の今回の物標データの位置が、連続性判定部73により予測された今回の物標データの予測位置の所定範囲内(例えば±3bin以内)に存在しないことをいう。
「マハラノビス距離NG」は、マハラノビス距離の最小値が所定値以上であるためにペアリング部72によるペアリングができないことをいう。「ペアなし」は、「履歴なし」「ピークなし」「角度なし」「連続性なし」「予測binずれ」「マハラノビス距離NG」以外の要因によりペアリング部72によるペアリングができないことをいう。
不要物標除去部76は、今回スキャンにおいて外挿なし、すなわち正常検知の場合は、静止車両および上方物の各尤度対数として、図18の外挿要因種別尤度テーブル63fの各「正常検知尤度対数」のカラム内の検知距離に該当する尤度対数を読み出す。例えば、検知距離Rが100mの場合、「95<R≦105」の行を参照し、静止車両の尤度対数が“−0.04”、上方物の尤度対数が“−0.16”となる。よって、上記(1)式において、n=6とした場合、確率比6=log(静止車両尤度6)−log(上方物尤度6)=(−0.04)−(−0.16)として、確率比6を算出することができる。
また、不要物標除去部76は、今回スキャンにおいて外挿あり、かつ外挿要因種別が「履歴なし」の場合は、静止車両および上方物の各尤度対数として、図18の外挿要因種別尤度テーブル63fの各「履歴なし尤度対数」のカラム内の当該検知距離に該当する尤度対数を読み出す。例えば、検知距離Rが100mの場合、「95<R≦105」の行を参照し、静止車両の尤度対数が“−2.48”、上方物の尤度対数が“−1.13”となる。よって、上記(1)式において、n=6とした場合、確率比6=log(静止車両尤度6)−log(上方物尤度6)=(−2.48)−(−1.13)として、確率比6を算出することができる。その他の外挿要因種別も同様である。
<STEP2:確率比OverAllの算出>
不要物標除去部76は、下記(7)式に基づき、上述のSTEP1−1〜STEP1−6で算出した確率比1〜確率比6を合計した確率比OverAllを算出する。
<STEP3:静止車両および上方物の判別処理>
不要物標除去部76は、上述のSTEP2で算出した確率比OverAllを閾値判定することにより、ターゲットが静止車両であるか上方物であるかを判別する。すなわち、不要物標除去部76は、確率比OverAllが、所定閾値上である場合にターゲットが静止車両であると判定し、所定閾未満である場合にターゲットが上方物であると判定する。
このように、判別処理1は、複数のパラメータについて、静止車両および上方物が取りうる値およびその発生頻度を確率密度関数とみなし、今回値の静止車両確率(静止車両尤度)および上方物確率(上方物尤度)を複数のパラメータの各確率密度関数をもとに算出する。さらに、判別処理1では、データ取得毎に事前確率を事後確率へ更新するベイズ更新を行う。これを繰り返し、静止車両確率および上方物確率の対数比によりベイズフィルターの要領で静止車両であるか上方物であるかを判別する。
よって、判別処理1によれば、自車両の進行方向に検出された物標が自車両と衝突する物標か否か(例えばブレーキ制御等の車両制御が必要な物標か否か)を、比較的遠距離(例えばターゲットの手前約80m)から識別できるとともに検知率が改善し、ターゲット検知に基づく車両制御を適切なタイミングおよび適切な指示で作動させることができる。
また、判別処理1では、確率比1〜確率比6は、自車両Aへのレーダ装置1の搭載高や垂直取り付け角度の影響を受けにくいパラメータであり、レーダ搭載条件に依存せず静止車両および上方物を精度よく判別できる。
(実施形態に係る静止車両および上方物の判別処理2)
上述の判別処理1では、静止車両および上方物を十分に判別できない場合がある。すなわち、図19に示すように、複数パラメータに基づく確率比OverAllの値が、静止車両および上方物で重複する範囲がある。図19は、静止車両および上方物の確率比の分布の重複を示す図である。そこで、以下の判別処理2では、判定精度を向上させるため、確率比OverAllを分離する手法について説明する。
以下、原因(Hi)(i=1、2)を、下記(表1)のように定義する。
また、パラメータ(Dj)(j=1〜7)を、下記(表2)のように定義する。なお、下記(表2)におけるD1〜D7は、全て独立であると仮定する。
このとき、パラメータD(D1〜D7)に基づきターゲットが静止車両である確率である事後確率P(H1|D)は、下記(8−1)式のように表される。また、パラメータD(D1〜D7)に基づきターゲットが上方物である確率である事後確率P(H2|D)は、下記(8−2)式のように表される。
静止車両および上方物の判定は、ナイーブベイズフィルターを用いると、下記(9)式のように、静止車両および上方物の確率比について対数を取ったロジット(Logit)で判定する。
ここで、パラメータD(D1〜D7)は独立であるとの仮定から、P(D|H1)は下記(10−1)式、P(D|H2)は下記(10−2)式のように表現できる。
上記(10−1)〜(10−2)式を用いて、上記(9)式を変形すると、下記(11−1)〜(11−2)式のようになる。
そして、上記(11−2)式に示すように、上記(11−2)式の第1項をx1、第2項をx2、・・・、第7項をx7、第8項をx0とおくと、上記(11−2)式は、下記(12)式のように表現できる。
上記(12)式において括弧で括った部分は、x1〜x7を予測変数とした一般化線形モデルと解釈できる。よって、判別処理2では、上記(12)式において括弧で括った部分に対する多変量解析から回帰係数および切片を決定し、静止車両および上方物の判別精度を高める。
静止車両および上方物の判別で扱う物標データは、静止車両および上方物のように、質的データである。また、予測変数(確率比1(x1)〜確率比7(x7))は、すべての正規性は仮定できない。よって、多変量解析の手法としてロジスティック回帰分析を採用し、多重共線性とAIC(Akaike’s Information Criterion)を考慮して、予測変数の選択および統合を行い、回帰係数(重み係数)および切片を検知距離10m毎に決定する。ただし、検知距離10m未満では、回帰係数(重み係数)および切片は線形補間により算出する。
判別処理2では、ターゲットの初回検知距離が例えば80〜110mの第1の距離では後述する重み係数・切片テーブルA63g、初回検知距離が第1の距離以外では後述する重み係数・切片テーブルB63hを切替えて用いることで、静止車両および上方物の判別精度を高める。
判別処理2では、物標の検出に初回検知距離に応じて各確率比を回帰させる重み係数・切片テーブルA63g、および、初回検知距離に応じて各確率比を回帰させる重み係数・切片テーブルB63hを使用する。
図20Aは、実施形態に係る初回検知距離に応じて各確率比を回帰させる重み係数・切片テーブルAを示す図である。図20Bは、実施形態に係る初回検知距離に応じて各確率比を回帰させる重み係数・切片テーブルBを示す図である。
図20Aに示す重み係数・切片テーブルA63gは、ターゲットの初回検知距離が例えば80〜110mの第1距離の場合に、確率比i(i=1〜3、5〜6)をそれぞれ補正する重み係数αi、切片βを、初回検知距離毎に格納する。また、図20Bに示す重み係数・切片テーブルB63hは、ターゲットの初回検知距離が前述の第1距離以外の場合に、確率比i(i=1〜3、5〜6)をそれぞれ補正する重み係数αi、切片βを、初回検知距離毎に格納する。
図20Aおよび図20Bにおいては、上述した多重共線性およびAICに基づく予測変数(パラメータ)の選択により、パラメータD1〜D6、すなわち確率比1〜確率比6が選択され、パラメータD7に対応する確率比が除外されている。また、図20Aおよび図20Bにおいては、予測変数(パラメータ)の統合により、パラメータD3〜D4、すなわち確率比3および確率比4が1つに統合されている。このため、図20Aおよび図20Bは、確率比1〜確率比3、確率比5〜確率比6に対応する重み係数αiおよび切片β(i=1〜3、5〜6)を、初回検知距離毎に格納する。
不要物標除去部76は、下記(13)式に基づき、初回検知距離に応じて重み係数・切片テーブルA63g又は重み係数・切片テーブルB63hから読み出した重み係数および切片を用いて、上述した判別処理1と同様に算出した確率比i(i=1〜6)をそれぞれ回帰補正した上で補正後確率比OverAllを算出する。
不要物標除去部76は、初回検知距離が前述の第1距離である場合に、重み係数・切片テーブルA63gから毎スキャン時の距離に該当する各確率比iの重み係数αiおよび切片β(i=1〜6)を読み出す。一方、不要物標除去部76は、初回検知距離が前述の第1距離以外である場合は、重み係数・切片テーブルB63hから毎スキャン時の距離に該当する各確率比iの重み係数αiおよび切片β(i=1〜6)を読み出す。初回検知距離が第1距離である場合に重み係数・切片テーブルA63gから読み出した重み係数αiおよび切片β(i=1〜6)は、初回検知距離が第1距離以外である場合に重み係数・切片テーブルB63hから読み出した重み係数αiおよび切片β(i=1〜6)と比べて物標の検知距離に応じた値の変化が比較的大きい。そして、不要物標除去部76は、上記(13)式に基づき、読み出した各確率比iの重み係数αiおよび切片β(i=1〜6)と各確率比iとから、補正後確率比OverAllを算出する。
判別処理2は、スキャン毎にベイズ更新した確率比について、各パラメータ(確率比1〜6)から確率比OverAllを算出する際、ターゲットの初回検知距離に応じて異なる、ロジスティック回帰分析で求めた重み係数および切片による重み付けを行う。よって、判別処理2では、静止車両および上方物の判別精度を高めることができる。
なお、上述のように“確率比1”は、パラメータ“横位置差”に基づく静止車両および上方物の対数尤度である。“確率比2”は、パラメータ“相対速度差”に基づく静止車両および上方物の対数尤度である。“確率比3”は、パラメータ“独立ビーム傾き差”に基づく静止車両および上方物の対数尤度である。“確率比4”は、パラメータ“上下ビームパワー差傾き”に基づく静止車両および上方物の対数尤度である。“確率比5”は、パラメータ“上下ビーム面積微分”に基づく静止車両および上方物の対数尤度である。“確率比6”は、パラメータ“外挿要因種別”に基づく静止車両および上方物の対数尤度である。
ここで、図20Aに示す重み係数・切片テーブルA63gの確率比の重み係数の特徴について説明する。確率比1の重み係数α1は、距離が比較的小さい(例えば80m以下)の場合と比べて、距離が比較的大きい(例えば80mを超える)ときはその値が大きくなる。これは、距離が比較的小さい場合よりも物標の距離が比較的大きいときは、上方物の横位置差が大きくなるため、当該物標が静止車両か上方物かを判別するパラメータとしての重要度が高くなる。そのため、物標の距離が比較的小さい場合よりも比較的大きいときは、確率比1の重み係数α1の値を大きい値とする。
また、確率比2の重み係数α2は、距離が比較的大きい場合に比べて、距離が比較的小さいときはその値が大きくなる。距離が小さくなるほど物標からの反射波の反射強度が大きくなり、物標の相対速度差を正確に算出でき、静止車両と上方物とを判別するパラメータとしての重要度が高くなるためである。ただし、物標の距離がより小さくなる(例えば60m)以下になると、重み係数α2は、小さい値となる。距離がより小さくなることで、レーダ装置1の送信波の送信範囲から外れて反射波が受信されなくなるためである。
さらに、確率比5の重み係数α5は、距離が比較的大きい場合に比べて、距離が比較的小さいときはその値が大きくなる。距離が小さくなるほど面積微分の結果をより多く取得でき、静止車両と上方物とを判別するパラメータとしての重要度が高くなるためである。
このように静止車両の距離に応じた各種パラメータの値変化と、上方物の距離に応じた各種パラメータ値の変化とに着目して、物標の距離に応じて各種パラメータの重み係数を変更するようにしたことで、静止車両と上方物との判別を正確に行えるようになった。
また、レーダ装置1が対象の物標を初めて検出した距離(初回検知距離)が第1距離(例えば、80〜110m)以外の距離の場合は、図20Bに示す重み係数・切片テーブルB63hにより重み係数αiが算出される。また、物標の初回検知距離が第1距離のときは、図20Aに示す重み係数・切片テーブルA63gにより重み係数αiが算出される。このように、重み係数αiの算出において、図20Bに示す重み係数・切片テーブルB63hにより重み係数αiを算出し、物標の距離が第1距離のような特定距離となった場合に、同じ種類のパラメータを有し重み係数の値が異なる別のテーブル(図20Aに示す重み係数・切片テーブルA63g)により重み係数αiを算出する。これにより、物標の距離に応じて、物標の種類の判別に用いるパラメータに最適な重み付けが可能となり、当該物標の種類を確実に判別できる。
[判別処理1および2の変形例]
(1)確率比OverAllについて
判別処理1では、確率比OverAll(判別処理2の補正後確率比OverAllも同様)が閾値以上である場合にターゲットを静止車両と判定し、閾値未満である場合にターゲットを上方物と判定する。しかし、これに限らず、ターゲットが静止車両であるか否かを「静止車両の信頼度」を閾値との比較により判定する場合に、「静止車両の信頼度」に乗算する倍率Cとして確率比OverAllを換算して用いてもよい。すなわち、“閾値判定に用いる静止車両の信頼度=C×(静止車両の信頼度)”が所定閾値以上である場合に、当該ターゲットを静止車両と判定する。
ここで、「静止車両の信頼度」は、物標データが静止車両に係るデータであるか否かを示す、例えば0〜100の範囲の値を取る指標であり、数値が高いほど静止車両である可能性が高いことを示す。「静止車両の信頼度」は、物標データに含まれる複数の情報(例えば「縦距離」「角度パワー」「外挿頻度」等)を用いて算出される。
例えば、閾値1>閾値2の2つの閾値を設けるとする。確率比OverAll≧閾値1である場合は、倍率C=1とする。これは、「静止車両の信頼度」が高いと判定できるため、「静止車両の信頼度」をそのまま静止車両であるか否かの閾値判定に用いることを示す。また、閾値2≧確率比OverAllである場合には、倍率C=0とする。これは、「静止車両の信頼度」が低いと判定できるため、「静止車両の信頼度」を0にして静止車両であると判定されないようにすることを示す。
また、閾値1>確率比OverAll>閾値2である場合には、倍率C=(確率比OverAll−閾値2)/(閾値1−閾値2)とする。すなわち、倍率Cは、確率比OverAllが、閾値1および閾値2間でどれだけの割合だけ閾値2を超過しているかを示す。例えば、C=0.5となった場合には、「静止車両の信頼度」に0.5を乗じて算出した「閾値判定に用いる静止車両の信頼度」を静止車両であるか否かの閾値判定に用いることを示す。
このように、確率比OverAllを「静止車両の信頼度」に乗じる倍率Cへ変換することにより、静止車両であるか否かの判定ラインに幅を持たせ、多様な要因を加味してより総合的に静止車両を判別できる。
(2)静止車両および静止車両以外の判別について
判別処理1および2では、物標検知毎に、静止車両および上方物に関する各種パラメータを算出し、各種パラメータと静止車両および上方物の尤度との相関を検知距離毎にモデル化した尤度モデルに基づき、各種パラメータに対応する静止車両および上方物の対数尤度比を更新して静止車両および上方物を判別するベイズフィルターの手法を用いる。しかし、これに限らず、同様のベイズフィルターの手法を静止車両および静止車両以外の物標(例えば下方物等)の判別にも適用してもよい。
例えば、物標検知毎に、静止車両および静止車両以外の物標に関する各種パラメータを算出し、各種パラメータと静止車両および静止車両以外の物標の尤度との相関を検知距離毎にモデル化した尤度モデルを構築しておく。そして、この尤度モデルに基づき、各種パラメータに対応する静止車両および静止車両以外の物標の対数尤度比を更新して静止車両および静止車両以外の物標を判別するとしてもよい。
(実施形態に係る静止車両および上方物の判別処理3)
次に、実施形態に係る静止車両および上方物の判別処理3について説明する。なお、以下では、主に判別処理1と異なる部分について説明し、内容の重複する部分については説明を省略する。
上記した判別処理1では、不要物標除去処理において、ターゲットが静止車両であるか上方物であるかの判定(以下「ターゲット判定」と記載する場合がある)を確率比OverAllを指標として行っている。なお、確率比OverAllは、第1の指標の一例である。
上記した確率比OverAllの値は、静止車両および上方物で重複する範囲があることは、図19を参照して既に述べた。そこで、判別処理3にあっては、確率比OverAllとは別の指標をさらに用いて、ターゲット判定を行うようにした。
これにより、判別処理3にあっては、例えば確率比OverAllでは、静止車両および上方物のいずれであるかの判定を明確に行いにくいターゲットであっても、精度よく判定を行うことができる。
以下、詳しく説明すると、自車両Aに搭載されるレーダ装置1(図1参照)にあっては、ターゲット(物標T)が例えば静止車両(物標T1)である場合、静止車両に近づくにつれて静止車両からの反射波は受信部RXの正面で受信され易くなるため、反射波の受信パワーである角度パワーは上昇する傾向がある。
他方、レーダ装置1においては、ターゲットが例えば上方物(物標T2)である場合、上方物標に近づくにつれて送信波の主たる送信領域から徐々に外れていくため、角度パワーは減衰する、あるいは変化がほとんど生じない状態となる傾向がある。
そこで、判別処理3にあっては、ターゲットが上方物である場合に角度パワーが減衰し易い特性に着目し、ターゲットの検知距離(物標までの縦距離)に応じた角度パワーの減衰量を示す第2の指標を算出して、第2の指標に基づいてターゲット判定を行うようにした。なお、第2の指標としては、例えば減衰量面積A1(図21A等参照)を用いることができるが、これについては後述する。
また、判別処理3にあっては、ターゲットが静止車両である場合に角度パワーが上昇し易い特性に着目し、ターゲットの検知距離に応じた角度パワーの増加量を示す第3の指標を算出して、第3の指標に基づいてターゲット判定を行うようにした。なお、第3の指標としては、例えば後述する増加量面積A2(図22A等参照)を用いることができる。
以下では、先ず第2の指標である減衰量面積A1について説明する。不要物標除去部76は、下記(14)式に基づき、減衰量面積A1を算出する。
図21A,21Bは、実施形態に係る減衰量面積A1の算出方法を説明する図である。なお、図21A,21Bは、横軸を距離(検知距離)とし、縦軸を角度パワーとしたグラフである。また、図21Aは、ターゲットが上方物である場合のグラフの一例であり、図21Bは、ターゲットが静止車両である場合のグラフの一例である。
不要物標除去部76は、今回処理の角度パワーが例えば図21A中の(1)に相当する場合、今回処理までの角度パワーの最大値を基準パワーとして設定する。図21Aに示す例では、前回処理の角度パワーPa(図21A中の(2)に相当)が最大値であるため、不要物標除去部76は、かかる角度パワーPaを基準パワーとして設定する。
そして、不要物標除去部76は、(14)式に示すように、今回処理で取得された角度パワー(図21A中の(1)に相当)から、基準パワー(図21A中の(2)に相当)を減算した差分に、前回処理の距離と今回処理の距離との距離差(前回今回距離差)を乗算して得た値を算出して累積することで、減衰量面積A1を算出する。すなわち、不要物標除去部76は、例えば区分求積法を用いて減衰量面積A1を算出する。
従って、図21Aに示すように、ターゲットが上方物である場合、上方物が近づくにつれて角度パワーは減衰することから、(14)式の算出処理を繰り返すごとに、減衰量面積A1は増加することとなる。なお、図21Aでは、ターゲットが距離Yaまで近づいたときの減衰量面積A1を斜線で囲んで示している。
これに対し、図21Bに示すように、ターゲットが静止車両である場合の減衰量面積A1は、上方物の場合に比べて増加しにくい。詳しくは、不要物標除去部76は、今回処理の角度パワーが例えば図21B中の(1)に相当する場合、前回処理の角度パワーPb(図21B中の(2)に相当)が最大値であるため、角度パワーPbを基準パワーに設定する。
そして、不要物標除去部76は、今回処理の角度パワー(図21B中の(1)に相当)から基準パワー(図21B中の(2)に相当)を減算した差分に、前回今回距離差を乗算して得た値を算出して累積することで、減衰量面積A1を算出する。
ここで、ターゲットが静止車両である場合、角度パワーは、マルチパス等の影響で一時的に減衰することがあるものの、基本的には静止車両が近づくにつれて上昇する。従って、図21Bの例では、例えば今回処理において角度パワーPc(図21B中の(3)に相当)となった場合、基準パワーであった角度パワーPbよりも大きいため、不要物標除去部76は、新たな最大値となった角度パワーPcを基準パワーとして更新する。
これにより、式(14)中の「今回角度パワー(ここでは角度パワーPc)−基準パワー(ここでは角度パワーPc)」の値がゼロとなるため、減衰量面積A1は累積されず増加しない。
また、図21Bの例では、図21B中の(4)に示す角度パワーPdとなるまで、角度パワーは上昇し続けているため、基準パワーも更新され続け、結果として減衰量面積A1は増加しないこととなる。従って、ターゲットが静止車両の場合、図21Bの例では、(4)の角度パワーPdとなった時点以降、マルチパス等の影響で一時的に減衰したときに、減衰量面積A1が僅かに増加するだけである。
そして、不要物標除去部76は、上記のようにして算出された減衰量面積A1と閾値A1aとを比較し、減衰量面積A1が閾値A1a以上となった場合、ターゲットが上方物であると判定する。また、不要物標除去部76は、減衰量面積A1が閾値A1a未満の場合、ターゲットが上方物ではない、言い換えると、静止車両の可能性が高いと判定する。
このように、判別処理3にあっては、ターゲットの検知距離に応じた角度パワーの減衰量を示す減衰量面積A1を用いることで、ターゲットが静止車両および上方物のいずれであるかの判定を精度よく行うことができる。すなわち、複数回の物標検出処理における物標に関する信号パワーの減衰量の積算値により判定することで、1回の物標検出処理における物標に関する信号パワーの減衰量の瞬時値により判定するよりも、ターゲットが静止車両か上方物かを正確に判定することができる。
また、判別処理3にあっては、今回処理の角度パワーが前回処理で用いた基準パワーよりも大きい場合、今回処理の角度パワーを基準パワーとして更新するようにした。
これにより、例えばターゲットが静止車両であって、角度パワーが上昇し続けているような傾向を示すとき(図21B参照)、減衰量面積A1について増加しにくくすることができる。そのため、減衰量面積A1と閾値A1aとを比較し、減衰量面積A1が閾値A1a未満の場合、ターゲットは静止車両の可能性が高いと判定することが可能となる。
次に、第3の指標である増加量面積A2について説明する。不要物標除去部76は、下記(15)式に基づき、増加量面積A2を算出する。
図22A,22Bは、実施形態に係る増加量面積A2の算出方法を説明する図である。なお、図22A,22Bは、横軸を距離(検知距離)とし、縦軸を角度パワーとしたグラフである。また、図22Aは、ターゲットが上方物である場合のグラフの一例であり、図22Bは、ターゲットが静止車両である場合のグラフの一例である。なお、図22Aは、ターゲットが上方物の場合に角度パワーの変化がほとんど生じない状態の例を示している。
以下では、図22Bを先に参照して増加量面積A2の算出方法を説明する。不要物標除去部76は、ターゲットの検知距離が規定距離Yb以上のときの角度パワーに基づいて基準値を設定する。
詳しくは、不要物標除去部76は、ターゲットの距離が規定距離Yb以上である図22B中の(1)から(2)までの間に相当する角度パワーの平均値を算出する。そして、不要物標除去部76は、かかる平均値(ここでは角度パワーPeとする)を基準値として設定する。なお、図22Bおよび後述する図22Aにあっては、基準値を白抜きの四角印で示した。
なお、上記した規定距離Ybは、任意の値に設定可能であるが、例えば比較的長い値、具体的にはレーダ装置1からターゲットまでが遠距離となるような値に設定されてもよい。
そして、不要物標除去部76は、今回処理で取得された角度パワー(例えば図22B中の(3)に相当)から基準値(ここでは角度パワーPe)を減算した差分を算出する。不要物標除去部76は、かかる差分に、前回処理の距離と今回処理の距離との距離差(前回今回距離差)を乗算して得た値を算出して累積することで、増加量面積A2を算出する。
従って、図22Bに示すように、ターゲットが静止車両である場合、静止車両が近づくにつれて角度パワーは上昇することから、(15)式の算出処理を繰り返すごとに、増加量面積A2は増加することとなる。なお、図22Bでは、ターゲットが距離Ycまで近づいたときの増加量面積A2を斜線で囲んで示している。
一方、図22Aに示すように、ターゲットが上方物である場合の増加量面積A2は、角度パワーがほとんど変化しない状態であるため、静止車両の場合に比べて増加しにくい。詳しくは、不要物標除去部76は、ターゲットの距離が規定距離Yb以上である図22A中の(1)から(2)までの間に相当する角度パワーの平均値(角度パワーPe)を基準値として設定する。
そして、不要物標除去部76は、今回処理の角度パワー(例えば図22A中の(3)に相当)から基準値Peを減算した差分を算出する。
ここで、増加量面積A2は、上記したように、角度パワーの増加量を示す指標である。そのため、差分が負値の場合、言い換えると、角度パワーが減衰している場合、増加量面積A2に反映させないようにしてもよい。
具体的には、不要物標除去部76は、今回処理の角度パワーから基準値を減算した差分が正値である場合、当該差分に前回今回距離差を乗算して得た値を累積して、増加量面積A2を算出してもよい。
従って、図22A中の(3)の角度パワーは、基準値(ここでは角度パワーPe)よりも小さいため、差分は負値となり、よって増加量面積A2には反映されないようにする。なお、図22Aの例では、(4)の角度パワーは、基準値を減算した差分が正値であるため、不要物標除去部76は、差分に前回今回距離差を乗算して得た値を累積して増加量面積A2に反映させる。これにより、増加量面積A2については、角度パワーの増加した量だけが累積され、よって後述するターゲット判定の精度を向上させることができる。
図22Aの例では、角度パワーの変化がほとんど生じないため、マルチパスの影響で一時的に角度パワーが上昇して基準値を超えたときに、増加量面積A2が僅かに増加するだけである。
そして、不要物標除去部76は、上記のようにして算出された増加量面積A2と閾値A2aとを比較し、増加量面積A2が閾値A2a未満の場合、ターゲットが上方物であると判定する。また、不要物標除去部76は、増加量面積A2が閾値A2a以上の場合、ターゲットが上方物ではない、言い換えると、静止車両の可能性が高いと判定する。
このように、判別処理3にあっては、ターゲットの検知距離に応じた角度パワーの増加量を示す増加量面積A2を用いることで、ターゲットが静止車両および上方物のいずれであるかの判定を精度よく行うことができる。
なお、減衰量面積A1や増加量面積A2の算出において、今回処理における角度パワーとして瞬時値を用いることで、ターゲット判定の応答性を向上させることができる。なお、角度パワーの瞬時値は、数値がばらつくことがあるが、減衰量面積A1や増加量面積A2は累積値であることから、かかるばらつきを吸収することが可能となる。
このように、判別処理3にあっては、減衰量面積A1や増加量面積A2をターゲット判定に用いることで、検知される角度パワーについてターゲットが明らかに上方物であることを示すような場合に、確率比OverAllに関わらず、ターゲットを上方物と判定することができる。
従って、判別処理3にあっては、例えば確率比OverAllでは、静止車両および上方物のいずれであるかの判定を明確に行いにくいターゲットであっても、精度よくターゲット判定を行うことができる。
また、判別処理3にあっては、減衰量面積A1および増加量面積A2の両方を用いてターゲット判定を行うようにした。これにより、ターゲット判定を確実に行うことができる。
すなわち、例えばマルチパス等の影響により、角度パワーの値が激しく変動することがある。そのため、ターゲットが上方物であっても、角度パワーの値によっては、例えば減衰量面積A1および増加量面積A2の一方で、ターゲットが上方物であることを示す値が出ないことがある。
そのような場合であっても、減衰量面積A1および増加量面積A2の他方で上方物であることを示す値が出れば、ターゲットを上方物として判定することが可能となる。すなわち、判別処理3にあっては、マルチパスによる影響を低減することができ、よってターゲット判定を確実に行うことができる。
具体的には、ターゲットが上方物の場合であっても、その上方物の路面からの高さが所定値未満の場合、減衰量面積A1が閾値A1a未満となることがある。このような場合、路面からの高さが所定値未満の上方物の増加量面積A2の値は、閾値A2a未満となる。上方物は、静止車両と比べると路面からの高さが高い位置に存在することからマルチパスの影響を受けやすく、増加量面積A2が静止車両より小さくなるためである。このように、ターゲットが上方物の場合に、減衰量面積A1の値が静止車両の傾向を示したとしても、増加量面積A2の値を用いて判定することで、ターゲットの種別を正確に判定することができる。
ここで、ターゲットが上方物であることを正確に判定する場合であれば、増加量面積A2の値だけで判定することも考えられる。しかしながら、ターゲットが静止車両の場合であっても、その車両(例えば、トラック等)の路面からの車体の高さ(車高)が所定値以上のときは、マルチパスの影響を受けやすくなる。そのため、ターゲットが静止車両の場合にその特徴が顕著に表れる増加量面積A2を用いる判定だけでなく、ターゲットが上方物のときにその特徴が顕著に表れる減衰量面積A1を用いた判定も行うようにしている。これにより、複数の判定基準により静止車両の条件をすべて満たしたターゲットが静止車両と判定される。
[判別処理3の変形例]
次に、判別処理3の変形例について説明する。判別処理3の変形例にあっては、減衰量面積A1や増加量面積A2を、判別処理1および2の変形例で述べた「静止車両の信頼度」に乗算する倍率Cとして換算して用いてもよい。
具体的には、例えば減衰量面積A1が閾値A1a以上の場合、ターゲットは上方物と判定できるため、倍率Cを0としてもよい。これにより、「静止車両の信頼度」は0となり、ターゲットが静止車両であると判定されないようにすることができる。
同様に、例えば増加量面積A2が閾値A2a未満の場合、ターゲットは上方物と判定できるため、倍率Cを0にして「静止車両の信頼度」を0とし、よってターゲットが静止車両であると判定されないようにすることができる。
なお、上記では、減衰量面積A1や増加量面積A2を倍率Cに変換するようにしたが、これに限定されるものではなく、例えば「静止車両の信頼度」に対して加減算されるような値に変換するようにしてもよい。
なお、上記した判別処理3では、減衰量面積A1および増加量面積A2の算出処理や、減衰量面積A1および増加量面積A2を閾値A1a,A2aと比較する処理を、確率比OverAllの算出処理の後に行うように構成したが、これに限られない。すなわち、減衰量面積A1および増加量面積A2の算出処理等を、確率比OverAllの算出処理に先立って、あるいは同時に行うようにしてもよい。
また、判別処理3においては、第2および第3の指標である減衰量面積A1および増加量面積A2の両方を用いてターゲット判定を行うようにしたが、これに限定されるものではなく、例えば第2および第3の指標のいずれか一方を用いる構成であってもよい。
(実施形態に係る静止車両および上方物の判別処理4)
次に、図23A〜図24Cを参照し、実施形態に係る静止車両および上方物の判別処理4について説明する。図23Aは、実施形態に係る上方物の角度パワーおよび距離の関係を示す図である。図23Bは、実施形態に係る静止車両の角度パワーおよび距離の関係を示す図である。また、図24A〜図24Cは、実施形態に係る角度パワーの最大値が検出された距離および最小値が検出された距離に基づく上方物の判別方法の説明図である。
上記した判別処理3では、基準パワーを設定し、ターゲットの検知距離に応じた角度パワーの基準パワーからの減衰量や増加量と所定の閾値とを比較することにより、ターゲットが静止車両および上方物のいずれかを判定した。
しかしながら、基準パワーからの角度パワーの減衰量や増加量は、基準パワーの取り方に左右されるため、設定される基準パワーによっては意図せずに異常な値になることがある。また、レーダ装置1は、汎用能力を高めようとする場合に、適切な基準パワーを設定することが困難となる。
そこで、判別処理4では、先に説明したターゲットが静止車両か上方物かによって異なる検知距離の変化に応じた角度パワーの増大傾向および減衰傾向を利用し、判別処理3とは異なる方法によってターゲットが静止車両および上方物のいずれかを判定する。
具体的には、先にも説明したが、ターゲットが上方物である場合、レーダ装置1では、検知距離が短くなると上方物が送信波の主たる送信領域から徐々に外れていくため、反射波の受信パワーである角度パワーが徐々に低下する傾向がある。
一方、ターゲットが静止車両である場合、レーダ装置1では、検知距離が短くなると、静止車両からの反射波は受信部RXの正面で受信され易くなるため、反射波の受信パワーである角度パワーは上昇する傾向がある。
このため、レーダ装置1は、車両の走行に伴って接近してくるターゲットまでの距離を周期的に導出する。さらに、レーダ装置1は、導出した各距離で受信したターゲットからの反射波の角度パワーを順次検出する。
このとき、レーダ装置1は、連続して検出する所定回数(例えば、3回)分の角度パワーの移動平均を順次演算することによって平滑化した値を、ターゲットまでの各距離における反射波の角度パワーとして検出する。これにより、レーダ装置1は、ノイズやマルチパスの影響を除外した角度パワーの本来の変化を捉えることができる。
そして、レーダ装置1は、ターゲットが所定距離(例えば、レーダ装置1から60m)まで接近するまでの期間に順次導出した距離のうち、角度パワーの最大値が検出された距離Rmaxと、角度パワーの最小値が検出された距離Rminとを取得する。
例えば、レーダ装置1は、ある上方物について、図23Aに示すような距離および角度パワーを取得する場合、図23Aに示す黒抜きの菱形に対応する距離を距離Rmaxとして取得し、図23Aに示す白抜きの菱形に対応する距離を距離Rminとして取得する。
また、レーダ装置1は、ある静止車両について、図23Bに示すような距離および角度パワーを取得する場合、図23Bに黒抜きの菱形に対応する距離を距離Rmaxとして取得し、図23Bに白抜きの菱形に対応する距離を距離Rminとして取得する。
このように、レーダ装置1では、ターゲットが上方物である場合、距離Rmaxの方が距離Rminよりも長くなり、ターゲットが静止車両の場合、距離Rminの方が距離Rmaxよりも長くなる。
つまり、レーダ装置1は、ターゲットが上方物である場合、比較的近い位置で角度パワーの最小値を検出し、比較的遠い位置で角度パワーの最大値を検出する。また、レーダ装置1は、ターゲットが静止車両である場合、比較的近い位置で角度パワーの最大値を検出し、比較的遠い位置で角度パワーの最小値を検出する。
このため、図23A、図23Bに示す例では、レーダ装置1から100mの距離を閾値とし、距離Rminが閾値より短く距離Rmaxが閾値より長ければ上方物、距離Rminが閾値より長く距離Rmaxが閾値より短ければ静止車両と判断することができる。
しかしながら、レーダ装置1は、距離Rmaxおよび距離Rminについて、同一の閾値を設定した場合、静止車両を上方物と誤判別するおそれがある。例えば、ターゲットがトラックやバス等の大型の静止車両である場合、レーダ装置1から比較的遠くても角度パワーが大きくなることがあり、距離Rmaxが閾値よりも長くなることがある。かかる場合に、レーダ装置1は、静止車両であるトラックやバスを上方物と誤判定する。
そこで、判別処理4では、角度パワーの最大値用の閾値RmaxThと、最小値用の閾値RminThとをそれぞれ設け、距離Rmaxと閾値RmaxThとの比較結果と、距離Rminと閾値RminThとの比較結果とに基づいて上方物を判別する。
また、上記した角度パワーの傾向から、上方物の距離Rmaxは、上方物の距離Rminよりも長い傾向がある(図23A)。このため、判別処理4では、さらに、距離Rmaxから距離Rminを減算して算出した差分Rmax−Rminと、差分用の閾値Rmax−RminThとの比較結果に基づいて上方物を判別する。
例えば、判別処理4では、図24Aと図24Bと図24Cに示すように、閾値RmaxThと閾値RminThと閾値Rmax−RminThとをそれぞれ設定する。なお、図24A、図24Bおよび図24Cには、複数のターゲットを検知する実証実験を行った結果を示している。
図24Aに示す白抜きの菱形は、上方物の距離Rmaxおよび角度パワーを示しており、黒抜きの正方形は、小型の静止車両の距離Rmaxおよび角度パワーを示しており、黒抜きの三角形は、大型の静止車両の距離Rmaxおよび角度パワーを示している。
また、図24Bに示す白抜きの菱形は、上方物の距離Rminおよび角度パワーを示しており、黒抜きの正方形は、小型の静止車両の距離Rminおよび角度パワーを示しており、黒抜きの三角形は、大型の静止車両の距離Rminおよび角度パワーを示している。また、図24Cに示す白抜きの菱形は、上方物の差分Rmax−Rminを示している。
判別処理4では、図24Aに示すように、レーダ装置1が150m先から60m先までの検知範囲でターゲットまでの距離を導出する場合、検知範囲の中間点までの距離(例えば、略100m)よりも短い閾値RmaxThを設定する。
そして、判別処理4では、距離Rmaxが閾値RmaxTh未満のターゲットを上方物の候補から除外する。これにより、判別処理4では、距離Rmaxが検知範囲の中間点までの距離よりも短く静止車両である可能の高いターゲットを上方物の候補から除外することができる。
また、判別処理4では、図24Bに示すように、レーダ装置1が150m先から60m先までの検知範囲でターゲットまでの距離を導出する場合、検知範囲の中間点までの距離(例えば、略100m)よりも長い閾値RminThを設定する。
そして、判別処理4では、距離Rminが閾値RminThよりも長いターゲットを上方物の候補から除外する。これにより、判別処理4では、距離Rminが検知範囲の中間点までの距離よりも長く静止車両である可能の高いターゲットを上方物の候補から除外することができる。
また、判別処理4では、図24Cに示すように、0近傍で正の値(例えば、10以下の値)の閾値Rmax−RminThを設定する。そして、判別処理4では、差分Rmax−Rminが閾値未満のターゲットを上方物の候補から除外する。これにより、判別処理4では、距離Rminが距離Rmaxよりも長く静止車両である可能の高いターゲットを上方物の候補から除外することができる。
なお、ここで、閾値Rmax−RminThとして0近傍で正の値を設定するのは、例えば、大型の静止車両からの反射波がノイズやマルチパスの影響を受け、静止車両であるにも関わらす、距離Rmaxが僅かに距離Rminを超える場合があるからである。
かかる場合であっても、判別処理4では、閾値Rmax−RminThとして0近傍で正の値を設定するので、反射波がノイズやマルチパスの影響を受ける大型の静止車両についても高精度に上方物の候補から除外することができる。
そして、判別処理4では、閾値RmaxTh、閾値RminTh、および値Rmax−RminThに基づく3段階の判別処理の全てで上方物の候補から除外されなかったターゲットを上方物と判定する。
つまり、判別処理4では、距離Rmaxが閾値RmaxTh以上、且つ距離Rminが閾値RminTh以下、且つ差分Rmax−Rminが閾値Rmax−RminTh以上のターゲットを上方物と判定する。これにより、判別処理4は、より正確に上方物を判別することができる。
例えば、判別処理4は、図24Aに示すように、閾値RmaxThに基づく判別処理だけでは、100m近傍で角度パワーの最大値が検出された数台の大型の静止車両(図24Aに示す100m近傍の黒抜きの三角形)を上方物の候補から除外できない場合がある。
かかる場合であっても、判別処理4では、その後、図24Bに示すように、閾値RminThに基づく判別処理を行うことで、上方物の候補から除外できなかった大型の静止車両の台数を低減することができる。
そして、判別処理4では、さらに、図24Cに示すように、閾値Rmax−RminThに基づく判定処理を行うことによって、最終的に、大型の静止車両を上方物の候補から除外することができるので、静止車両および上方物を精度よく判別することができる。
(実施形態に係る物標情報出力処理)
図25Aは、実施形態に係る物標情報出力処理を示すフローチャートである。信号処理部6は、物標情報導出処理を、一定時間(例えば、5msec秒)毎に周期的に繰り返す。物標情報導出処理の開始時点では、4つの受信部RXから信号処理部6へ、反射波RWが変換されたビート信号が入力される。
先ず、信号処理部6のフーリエ変換部62は、複数の個別受信部52のそれぞれから出力されるビート信号を対象に、高速フーリエ変換を行う(ステップS101)。次に、ピーク抽出部70は、フーリエ変換部62で生成された周波数スペクトラムから、所定の信号レベルを超えるピークを、送信信号の周波数が上昇するアップ区間および周波数が下降するダウン区間とのそれぞれの区間で抽出する(ステップS102)。
次に、角度推定部71は、アップ区間およびダウン区間それぞれについて、方位演算処理により、1つのピーク周波数の信号から、同一binに存在する複数の物標についての情報を分離し、それら複数の物標それぞれの角度を推定する(ステップS103)。
次に、ペアリング部72は、同一の物標Tに関するピーク同士を対応付け、自車両Aの前方に存在する複数の物標Tそれぞれに係るペアリングデータを導出する(ステップS104)。次に、連続性判定部73は、過去処理で導出された物標データと、直近処理で導出された物標データとが同一の物標か否かの連続性を判定する(ステップS105)。
次に、フィルタリング部74は、過去処理および直近処理のそれぞれの処理で導出された2つの物標データのパラメータ(縦距離、横距離、相対速度)を時間軸方向に平滑化して物標データ(内部フィルタデータ)を導出する(ステップS106)。次に、物標分類部75は、相対速度に基づき、各物標を、先行車、静止物(静止車両を含む)、対向車に分類する(ステップS107)。
次に、不要物標除去部76は、各物標のうち、上方物、下方物、雨等を不要物標として判定し、出力物標から除外する(ステップS108)。なお、ステップS108の処理のうち、上方物を出力物標から除外する処理については、図25Bを参照して後述する。
次に、グループ化部77は、複数の物標データを同一物体の物標データとして1つに統合するグループ化を行う(ステップS109)。次に、物標情報出力部78は、導出された、もしくは外挿により導出された複数の物標データから所定数の物標データを出力対象として選択し、選択した物標情報を車両制御装置2へ出力する(ステップS110)。ステップS110が終了すると、信号処理部6は、物標情報導出処理を終了する。
(実施形態に係る不要物標除去)
図25Bは、実施形態1に係る不要物標除去のサブルーチンを示すフローチャートである。図25Bは、図25Aに示すステップS108の不要物標除去のうち、実施形態に係る上方物を除去する処理のフローを示す。
先ず、不要物標除去部76は、前述した判別処理1で説明した確率比1〜6、確率比OverAllを算出する(ステップS201)。ここで、図25Cを参照し、確率比1〜6、確率比OverAll算出の処理の一例について説明する。図25Cは、実施形態に係る確率比1〜6、確率比OverAll算出のサブルーチンを示すフローチャートである。
図25Cに示すように、不要物標除去部76は、まず、上記(2)式に基づき、物標の横位置差を算出する(ステップS301)。次に、不要物標除去部76は、ステップS301で算出した横位置差および上記(1)式に基づき、横位置差に基づく確率比1を算出する(ステップS302)。
次に、不要物標除去部76は、上記(3)式に基づき、物標の相対速度差を算出する(ステップS303)。次に、不要物標除去部76は、ステップS303で算出した相対速度差および上記(1)式に基づき、相対速度差に基づく確率比2を算出する(ステップS304)。
次に、不要物標除去部76は、上記(4)式に基づき、独立ビーム傾き差を算出する(ステップS305)。次に、不要物標除去部76は、ステップS305で算出した独立ビーム傾き差および上記(1)式に基づき、独立ビーム傾き差に基づく確率比3を算出する(ステップS306)。
次に、不要物標除去部76は、上記(5)式に基づき、上下ビームパワー差傾きを算出する(ステップS307)。次に、不要物標除去部76は、ステップS307で算出した上下ビームパワー差傾きおよび上記(1)式に基づき、上下ビームパワー差傾きに基づく確率比4を算出する(ステップS308)。
次に、不要物標除去部76は、上記(6)式に基づき、上下ビーム面積微分を算出する(ステップS309)。次に、不要物標除去部76は、ステップS309で算出した上下ビーム面積微分および上記(1)式に基づき、上下ビーム面積微分に基づく確率比5を算出する(ステップS310)。
次に、不要物標除去部76は、外挿の有無および外挿要因種別を特定する(ステップS311)。次に、不要物標除去部76は、ステップS311で特定した外挿の有無および外挿要因種別と上記(1)式に基づき、確率比6を算出する(ステップS312)。
次に、不要物標除去部76は、上記(7)式に基づき、確率比OverAllを算出する(ステップS313)。その後、不要物標除去部76は、図25Bに示すステップS202以降の処理を実行する。
図25Bへ戻り、不要物標除去の説明を続ける。不要物標除去部76は、確率比1〜6、確率比OverAllを算出した後、減衰量面積A1および増加量面積A2を算出する(ステップS202)。
次に、不要物標除去部76は、角度パワーの最大値が検出された距離Rmax、角度パワーの最小値が検出された距離Rminを取得し(ステップS203)、距離Rmaxから距離Rminを減算して差分Rmax−Rminを算出する(ステップS204)。
次に、不要物標除去部76は、距離Rmaxが閾値RmaxTh以上か否かを判定する(ステップS205)。そして、不要物標除去部76は、距離Rmaxが閾値RmaxTh以上でないと判定した場合(ステップS205,No)、処理をステップS208へ移す。
また、不要物標除去部76は、距離Rmaxが閾値RmaxTh以上であると判定した場合(ステップS205,Yes)、距離Rminが閾値RminTh以下か否かを判定する(ステップS206)。そして、不要物標除去部76は、距離Rminが閾値RminTh以下でないと判定した場合(ステップS206,No)、処理をステップS208へ移す。
また、不要物標除去部76は、距離Rminが閾値RminTh以下であると判定した場合(ステップS206,Yes)、差分Rmax−Rminが閾値Rmax−RminTh以上か否かを判定する(ステップS207)。
そして、不要物標除去部76は、差分Rmax−Rminが閾値Rmax−RminTh以上でないと判定した場合(ステップS207,No)、処理をステップS208へ移す。また、不要物標除去部76は、差分Rmax−Rminが閾値Rmax−RminTh以上であると判定した場合(ステップS207,Yes)、ターゲットを上方物と判定する(ステップS211)。
また、ステップS208において、不要物標除去部76は、ステップS202で算出された減衰量面積A1が閾値A1a以上か否かを判定する。不要物標除去部76は、減衰量面積A1が閾値A1a以上であると判定した場合(ステップS208,Yes)、ターゲットを上方物と判定する(ステップS211)。
また、不要物標除去部76は、減衰量面積A1が閾値A1a以上でないと判定した場合(ステップS208,No)、増加量面積A2が閾値A2a未満か否かを判定する(ステップS209)。そして、不要物標除去部76は、増加量面積A2が閾値A2a未満であると判定した場合(ステップS209,Yes)、ターゲットを上方物と判定する(ステップS211)。
また、不要物標除去部76は、増加量面積A2が閾値A2a未満でないと判定した場合(ステップS209,No)、確率比OverAllが閾値以上であるか否かを判定する(ステップS210)。
そして、不要物標除去部76は、確率比OverAllが閾値以上であると判定した場合(ステップS210,Yes)、ターゲットを静止車両と判定する(ステップS212)。一方、不要物標除去部76は、確率比OverAllが閾値以上でないと判定した場合(ステップS210,No)、ターゲットを上方物と判定する(ステップS211)。
このように、判別処理4では、距離Rmax≧閾値RmaxTh、距離Rmin≦閾値RminTh、および差分Rmax−Rmin≧閾値Rmax−RminThという3つの条件が全て成立するターゲットを上方物と判定する。これにより、判別処理4では、レーダ装置1によって検知される複数のターゲットから正確に上方物を判別することができる。
また、本実施形態では、距離Rmax≧閾値RmaxTh、距離Rmin≦閾値RminTh、および差分Rmax−Rmin≧閾値Rmax−RminThのうち、いずれかの条件が成立しないターゲットについては、判別処理1、2、3を行う。
これにより、仮に判別処理4によって上方物の候補から除外されたターゲットに上方物が含まれていた場合に、上記したステップS208〜ステップS210の判定処理によって、ターゲットが上方物および静止車両のいずれかを正確に判定することができる。
なお、ここでは、距離Rmax≧閾値RmaxTh、距離Rmin≦閾値RminTh、および差分Rmax−Rmin≧閾値Rmax−RminThという3つの条件が全て成立するターゲットを上方物と判定する場合について説明したが、これは一例である。
判別処理4では、距離Rmax≧閾値RmaxTh、距離Rmin≦閾値RminTh、および差分Rmax−Rmin≧閾値Rmax−RminThのうち、少なくとも1つの条件が成立したターゲットを上方物と判定してもよい。これによっても、ある程度の高い精度で上方物の判別を行うことができる。
なお、上記したピーク抽出部70、角度推定部71およびペアリング部72は、導出部の一例である。また、不要物標除去部76は、取得部、算出部、および判定部の一例である。また、静止車両は衝突する物標(例えばブレーキ制御等の車両制御が必要な物標)の一例であり、上方物は衝突しない物標(例えばブレーキ制御等の車両制御が不要な物標)の一例である。
実施形態において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部又は一部を手動的に行うこともできる。もしくは、実施形態において説明した各処理のうち、手動的に行われるものとして説明した処理の全部又は一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。
また、実施形態において説明した各部の統合および分散は、処理負荷や処理効率をもとに適宜変更することができる。この他、上述および図示の処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて適宜変更することができる。
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、開示の技術のより広範な態様は、上述のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神又は範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。