以下に、図面を参照しながら、実施形態について説明する。説明においては、理解を容易にするため、具体的な態様について示すが、これらは実施形態を例示したものであり、他にも様々な実施形態をとることが可能である。
図1は、本実施形態にかかる電動車両10の構造の一部を示した図である。図1には、電動車両の前方のボディー12と前輪13を示している他、ボディー12の内部に格納された各種装置の概略的な構成を示している。
電動車両10には、図示を省略したバッテリが搭載されており、バッテリからはパワーコントロールユニット(PCUという)14に直流電力が供給されている。PCU14には、充電器、昇圧器及びインバータが搭載されている。充電器は、電源プラグなどを通じて車外から供給される電力をバッテリに供給する装置である。昇圧器は、直流電力の電圧を昇圧または高圧する装置である。また、インバータは直流電力を交流電力に電力変換する装置であり、交流電力を直流電力に変換するコンバータの機能も備える。バッテリから供給された直流電力は、必要に応じて昇圧器で昇圧あるいは高圧された後に、インバータで三相の交流電力に電力変換される。そして、三相の交流電力は、モータ・ジェネレータ(MGという)16に供給される。
MG16は、三相の交流電力を回転運動に変換する車両駆動用モータである。MG16は、コイルを備えたステータと、ステータの内側に設置されるロータを備えている。ロータには、複数の永久磁石が埋め込まれており、複数の磁極が形成されている。ロータは、ステータのコイルが三相交流電力によって生成する回転磁界から力を受けて、ロータ軸回りに回転することで車両駆動用のトルクを生成する。このトルクは、駆動軸を通じて前輪13に伝えられ、電動車両10を駆動する。また、MG16は、駆動軸から伝えられるトルクを利用して発電を行うジェネレータとしても機能する。発電された電力は、PCU14を通じてバッテリに蓄えられる。
電動車両10の最前方部には、エアコン用の熱交換器であるコンデンサ18が設けられている。コンデンサ18は、コンプレッサによって高温高圧にされた冷媒を冷却し凝縮させる装置である。凝縮した冷媒は、気化されて低温にされた上で、室内の空気の冷却に利用される。コンデンサ18の上部付近は、利用条件によっては100度を超える高温状態になるが、コンデンサ18の下部付近は、比較的低温に維持される。
コンデンサ18の下部後面は、ラジエータ20が設けられている。ラジエータ20は冷却水の一種であるLLC(Long Life Coolant)を冷却する熱交換器である。ラジエータ20からはPCU14に流路22aが延びている。また、PCU14からはオイルクーラ26に流路22bが延びている。そして、オイルクーラ26からはラジエータ20に流路22cが延びている。LLCは、これらの流路22aを含む一連の冷却路を循環しながら、冷媒として働いている。この循環は、流路22a上に設けられた電動ポンプであるウォータポンプ28によって駆動されている。
オイルクーラ26は、LLCと冷却オイルとの熱交換を行う熱交換器である。オイルクーラ26からMG16には流路30aが延びており、MG16からオイルクーラ26には流路30bが延びている。冷却オイルは、これらの流路30a、30bを含む一連の冷却路を循環しながら冷媒として働いている。この循環は、流路30aに設けられた電動ポンプであるオイルポンプ32によって駆動されている。オイルポンプ32は、電力のオンオフスイッチングによるPWM制御によって出力を制御されている。具体的には、スイッチをオンした時間の比率であるデューティー比を上昇させた場合には出力が高まり、デューティー比を低下させた場合には出力が低下する。オイルポンプ32の出力は、オイルポンプ32が循環させる冷却オイルの循環量にほぼ比例する。このため、オイルポンプ32では、循環量のオンオフ制御のみならず、オン状態における循環量の制御が可能である。
電動車両10には、車両の制御を行うECU(Electric Control Unit)34が設けられている。ECU34は、コンピュータ機能を備えたハードウエアと、その動作に用いられるプログラムやデータなどのソフトウエアによって構成されている。
ECU34には、様々なセンサのデータが入力される。図1に示した例では、流路22aにおけるPCU14の入口付近に設けられた温度センサ36が、流路22aを流れるLLCの温度を測定しており、測定されたLLC温度のデータがECU34に入力されている。PCU14には、PCU14が耐熱温度に達していないかを直接監視できる部位、または、間接的に推測できる部位に温度センサ38が設置されている。ECU34には、この温度センサ38から、PCU温度のデータが入力されている。また、流路30aにおけるMG16の入口付近には、流路30aを流れる冷却オイルの温度を測定する温度センサ40が設けられている。ECU34には、この温度センサ40が測定した冷却オイル温度のデータも入力される。さらに、MG16には、ステータのコイル温度を測定する温度センサ42が設けられており、ECU34には、この温度センサ42が測定したモータ温度のデータも入力される。ステータのコイル温度からは、ロータコアに格納された永久磁石の温度を推定することができる。ECU34には、電動車両10の速度に関するデータも入力されている。具体的には、MG16からはロータの単位時間あたりの回転数データが入力され、前輪13の車軸の回転数計測を行う速度計44からは電動車両10の速度データが入力されている。
ECU34には、機能的な構成として、モード受付部34a、モータ制御部34b、冷却変更部34cが設けられている。また、モータ制御部34bが制御に用いるためのデータとしてモータ制御テーブル34dを記憶し、冷却変更部34cが制御に用いるためのデータとして冷却制御テーブル34eを備えている。モード受付部34aは、ユーザから、走行モードの設定情報を受け付ける処理を行っている。電動車両10では、走行特性モードとして、「ノーマルモード」と「パワーモード」の2つのモードが用意されている。このうち、ノーマルモードは、デフォルト設定されたモードである。ユーザは、ノーマルモードとパワーモードとを切り替えることができ、モード受付部34aは、その切り換え情報を受け付けてECU34の制御に反映させる。
モータ制御部34bは、走行特性モードに応じた制御情報をモータ制御テーブル34dから取得して、MG16の制御を行う。モータ制御テーブル34dには、ノーマルモードとパワーモードの各モードについて、PCU14からMG16に送る電圧の昇圧、降圧などの制御態様を記憶している。例えば、モータ制御テーブル34dにおいて、パワーモードでは、ノーマルモードに比べて、PCU14からMG16に送る交流電流の電圧を10%、20%、30%、あるいは50%ほど昇圧する設定がなされていたとする。この場合には、モータ制御部34bでは、パワーモードではノーマルモードに比べて、PCU14からMG16に送る交流電流の電圧をこの設定に従って昇圧させる制御を行う。この結果、パワーモードでは、ノーマルモードと同じモータ回転数であっても、電力消費が増加して、大きな加速力を生み出すことになる。
冷却変更部34cは、冷却制御テーブル34eを参照して、走行特性モードに応じた制御情報を取得することで、走行特性モードに応じた冷却制御への変更と、変更した冷却制御の実行を行う。冷却制御テーブル34eは、走行特性モード毎に、PCU14及びMG16の冷却制御の態様を設定したデータである。冷却変更部34cは、ソフトウエアに従って、上述した各種のセンサからの入力データに応じて冷却の制御を行っている。具体的には、冷却変更部34cは、ウォータポンプ28におけるLLC循環の開始、増加、減少、停止の制御を行う。また、オイルポンプ32における冷却オイルの循環の開始、増加、減少、停止の制御を行う。このウォータポンプ28あるはオイルポンプ32の制御態様は、走行特性データごとに冷却制御テーブル34eに定められており、冷却変更部34cでは冷却制御テーブル34eを参照して制御を行っている。
モードボタン46は、運転席の周囲のインストルメントパネルに設けられており、ユーザたる運転者48が走行特性モードを選択するために使われる。モードボタン46には、ノーマルモードを選ぶNORMALボタン46aと、パワーモードを選ぶPOWERボタン46bの2つのボタンが用意されている。ノーマルモードは、電動車両10にデフォルト設定されており、ユーザがボタン操作を行わない場合に自動的に選択されるモードである。また、パワーモードが選択された状態でNORMALボタン46aを押すことで、ノーマルモードに切り替えることができる。POWERボタン46bはパワーモードを選ぶボタンである。
ここで、電動車両10の動作について説明する。電動車両10では、運転者48の操作に従って車両の駆動が行われる。運転者48は、運転を行う過程で、モードボタン46を操作することができる。運転者48がモードボタン46の操作を行わない場合には、デフォルト設定されたノーマルモードが選ばれ、モードボタン46で選択を行った場合は、操作結果に従ってノーマルモードあるいはパワーモードが採用される。ECU34では、ユーザ操作に基づいて走行特性モードを受け付けた上で、モータ制御テーブル34dを参照して、当該走行特性モードに応じた電動車両10の駆動制御を行う。
このとき、PCU14では、半導体デバイスなどで若干の電力が消費されることで、温度の上昇が起きる。また、MG16では、コイルでの銅損、永久磁石やコアにおける鉄損などによってPCU14よりも大きな熱を発しており、温度が上昇する。
PCU14の耐熱温度は、PCU14が備える半導体デバイスの耐熱温度で決まる。その値は比較的低く、例えば、摂氏60度〜摂氏80度程度である。そこで、PCU14に対してはLLCによる冷却が行われている。LLCは、ウォータポンプ28によって冷却路を循環駆動されている。具体的には、ラジエータ20で外気によって冷却された後、流路22aを通ってPCU14に送られ、PCU14を冷却する。続いて、流路22bを通ってオイルクーラ26に送られ、冷却オイルを冷却する。LLCは、PCU14を冷却した結果、当初よりも温度が上昇しているが、PCU14は比較的発熱量が小さく低温であるため、冷却オイルを冷却することができる。その後、LLCはラジエータ20に還流して再度冷却される。
MG16の耐熱温度は、例えば、永久磁石の消磁の温度によって決定される。永久磁石の消磁が発生する温度は、磁石材料の種類によって異なっており、例えば摂氏100度程度〜摂氏300度程度である。なお、条件次第では、MG16の耐熱温度がPCU14の耐熱温度よりも低くなることがありえるが、本実施形態では、MG16の耐熱温度はPCU14の耐熱温度よりも高いことを想定している。
MG16に対しては、冷却オイルによる冷却が行われ、耐熱温度以下に維持されている。冷却オイルは、オイルポンプ32によって循環される。具体的には、冷却オイルは、オイルクーラ26で冷却された後、流路30aを通ってMG16に送られる。そして、MG16を冷却した後に、流路30bを通って、オイルクーラ26に戻される。
冷却オイルがMG16から奪った熱は、オイルクーラ26を通じてLLCに与えられる。このため、LLCには、PCU14の排熱が直接与えられるとともに、MG16の排熱が間接的に与えられる。そして、これらの熱はラジエータ20から外気に放出される。つまり、電動車両10では、PCU14とMG16が、1系統の冷却システムによって冷却されていると言える。1系統の冷却システムでは、PCU14とMG16の冷却をそれぞれ独立に行う2系統の冷却システムに比べて、装置重量を減らせる可能性がある。また、製造コストを抑制できる可能性もある。
1系統の冷却システムを構築するにあたっては、PCU14とMG16の冷却が可能となるだけの性能を持った部品が選ばれる。例えば、ラジエータ20としては、シビアな走行条件の下で、PCU14とMG16が排出する最大の熱量を放出できる性能を持ったものが採用される。また、ウォータポンプ28やオイルポンプ32としては、最大出力時に、必要循環量を確保できるものが選ばれる。しかしながら、常にウォータポンプ28、オイルポンプ32を最大出力で動作させたのでは、エネルギー効率が悪くなる。また、ポンプからは比較的大きな音が出るため、無駄に稼働したのでは、電動車両10に不必要な騒音をもたらすことになる。したがって、適切なレベルで冷却を行うことが望ましいと言える。
また、1系統の冷却システムでは、PCU14とMG16の冷却のバランスを考慮する必要がある。例えば、MG16の冷却を十分に進めた場合には、オイルクーラ26を通じてLLCの温度が上昇し、PCU14の冷却を十分に行えない事態が生じうる。そこで、LLCの温度あるいはPCU14の温度を監視しながら、MG16の冷却を進めることが望ましいといえる。
ECU34の冷却変更部34cには、こうした諸条件を勘案した上で冷却の制御を行うプログラミングがなされている。特に、選択された走行特性モードによって、PCU14及びMG16での消費電力のレベル、そして発熱のレベルが変わってくることから、冷却の制御は、冷却制御テーブル34eを参照して、走行特性モード毎に行われる。
なお、この冷却システムを、MG16の冷却の観点から捉えると、LLCによる冷却と、冷却オイルによる冷却の2段階の冷却系統が構築されていると言える。そして、MG16の冷却は、第1段階目の冷却を担うウォータポンプ28と、第2段階目の冷却を担うオイルポンプ32の両方によって、制御されている。MG16の冷却の変更は、オイルポンプ32の循環量の変更によって行うことが直接的であるが、ウォータポンプ28の循環量の変更によって行うことも可能であり、ウォータポンプ28とオイルポンプ32の両方によって行うことで効率を高められるものと考えられる。
以下に、図2〜6を参照して、ECU34の冷却変更部34cによるオイルポンプ32の制御について詳細に説明する。この説明においては、ウォータポンプ28については、一定の送出量で運転させた上で、オイルポンプ32について、状況に応じた制御を行うことを想定している。説明では、まず、図2〜5を参照してノーマルモードにおける制御態様を説明し、次に、図6を参照してパワーモードにおける制御態様を説明する。
図2は、ノーマルモードにおいて実施されるオイルポンプ32の制御態様領域を示す図である。横軸は速度計44で測定された電動車両10の車速であり、左縦軸はMG16の温度センサ42で測定されたモータ温度である。また右縦軸は、温度センサ40で測定された冷却オイル温度を示している。モータ温度と冷却オイル温度は、1対1の関係にはなく、条件次第で対応関係が変わる。しかし、一般に、モータ温度が高温化したときは冷却オイルも高温化するため、高い相関関係がある。
図2では、車速及びモータ温度または冷却オイル温度に応じて、A領域、B領域、C領域の3つの領域に分割されている。A領域は、長い上り坂を登坂する場合のような低速走行中にモータ温度が高温化した状態と、中高速の走行中にモータ温度がある程度高くなった状態をカバーしている。具体的には、A領域は、車速がV2未満で、かつ、モータ温度がT4以上または冷却オイル温度がU4以上の範囲と、車速がV2以上であり、かつ、モータ温度がT2以上または冷却オイル温度がU2以上の範囲である。ただし、この条件のうち、車速がV4以上であり、かつ、モータ温度がT4以上または冷却オイル温度がU4以上の範囲については、B領域に分類されている。そして、それ以外の範囲はC領域となっている。すなわち、C領域は、車速がゼロ(停止状態)からV2未満の場合は、モータ温度がT4未満かつ冷却オイル温度がU4未満であり、車速がV2以上の場合は、モータ温度がT2未満かつ冷却オイル温度がU2未満の範囲である。
これらの領域の境界は、電動車両10の様々な条件によって変わりうる。しかし、具体的な値を例示するとすれば、V2は10km/h〜50km/h程度、V4の値は時速80km/h〜時速120km/h程度の値を挙げることができる。また、T2の値は摂氏60度〜摂氏100度程度、U2の値は摂氏50度〜摂氏90度程度、T4の値は摂氏90度〜摂氏200度程度、U4の値は摂氏80度程度〜摂氏150度程度を例示することができる。ただし、特に、温度についての条件はそれを計測する対象箇所によって大きく異なるため、例示した範囲外の値をとることも十分に想定される。
電動車両10は、ノーマルモードでの走行中は、車両の走行状態によって、A領域〜C領域のいずれかに分類される。そして、車速の変化と、モータ温度または冷却オイル温度の変化とに応じて、A領域〜C領域を移動することになる。移動は、原則として、新しい領域の範囲に入った段階で行われる。しかし、この条件をそのまま適用すると、電動車両10が各領域の境界付近の状態を示す場合に、境界を頻繁に往復して、制御動作が不安定になることが考えられる。そこで、ある領域から別の領域に移動する場合と、元の領域に戻る場合とで、条件を若干異ならせている。具体的には、速度については、V2よりも若干遅い(例えば5km/h程度遅い)V1と、V4よりも若干遅い(例えば10km/h程度遅い)V3を設定している。また、モータ温度については、T2よりも若干低い(例えば摂氏10度程度低い)T1と、T4よりも若干低いT3を設定し、冷却オイル温度については、U2よりも若干低いU1と、U4よりも若干低いU3を設定している。そして、図3に示す条件に従って、領域の変更を行っている。
図3は、ノーマルモードにおいて、隣接する領域間を移動する場合の条件を記した図である。左行は、どの領域からどの領域へ移動するかを示すものであり、右行は、左行の移動に対応した条件を示している。例えば、「C→A」はC領域からA領域への移動を意味している。その条件は、ある時刻にC領域に属していた場合において、次の時刻に「[車速< V2 and [ モータ温度 ≧ T4 or 冷却オイル温度 ≧ U4 ]]or [車速 ≧ V2 and [モータ温度 ≧ T2 or 冷却オイル温度 ≧ U2 ]]」となる場合である。すなわち、車速がV2未満で、かつ、モータ温度がT4以上または冷却オイル温度U4以上となる場合、または、車速がV2以上で、かつ、モータ温度がT2以上または冷却オイル温度がU2以上を満たした場合には、A領域に移動するというものである。ECU34の冷却変更部34cでは、図3に示した条件を、定期的(例えば1秒毎、5秒毎など)にチェックする。そして、その領域に応じて、オイルポンプ32の制御を行う。
図4は、A領域〜C領域のそれぞれについて、オイルポンプ32を制御する態様を示した図である。A領域では、LLC温度に応じた制御が行われており、LLC温度がTc以上の場合には、送出量を一定値(最大出力のP%)に固定する制御が行われる。LLC温度がTc以上の場合では、LLCの温度が比較的高いため、PCU14の冷却を十分に行えない状態にある。そこで、オイルポンプ32の出力を最大出力のP%に制限して、MG16の冷却を抑制している。Tcの温度は、PCU14の耐熱温度にも依存するが、例えば、摂氏50度〜摂氏80度程度とすることが考えられる。また、P%の値は、LLC温度の上昇を抑制可能な範囲で選ばれる。その具体的な値は、条件によって変わりうるが、例えば、30%〜70%程度とする態様が考えられる。
A領域では、LLC温度がTc未満のときは、モータ温度に応じて送出量を多段階に変化をさせる制御が行われる。LLC温度がTc未満の場合は、LLCがPCU14を十分に冷却できる状態である。そこで、MG16の冷却を高めることが可能である。そこで、モータ温度に応じて十分にMG16を冷却する制御が行われている。
図5は、A領域において、LLC温度がTc未満である場合におけるオイルポンプ32の制御態様を説明する図である。ここでは、横軸のモータ温度の値に応じて、縦軸のポンプ出力を設定している。すなわち、モータ温度が上昇するにつれて、ポンプ出力を増加させ、モータ温度が低下するにつれて、ポンプ出力を減少させている。ただし、ポンプ出力の増加と減少を同じモータ温度で行うと、このモータ温度付近での動作が不安定となる場合がある。そこで、ポンプ出力を増加させるモータ温度に比べて、ポンプ出力を減少させるモータ温度を若干低く設定している。
具体的には、モータ温度にTm0〜Tm5の6つの閾値を設けている。それぞれ温度は、Tm0<Tm1<Tm2<Tm3<Tm4<Tm5の関係にある。また、T2<Tm1であることを想定している。Tm1〜Tm5とT3あるいはT4との関係は任意に設定しうる。モータ温度が上昇する過程では、モータ温度がTm1未満である状態では、ポンプは停止され、モータ温度がTm1以上となった場合に、ポンプを起動して最大値の50%の値に設定する。さらにモータ温度が上昇してTm3以上となった場合にポンプ出力を最大値の75%に増加させる。モータ温度がTm5以上となった場合にはポンプ出力を最大(100%)とする。他方、モータ温度が低下する過程では、モータ温度がTm4未満となった場合にポンプ出力を75%に下げ、モータ温度がTm2未満となった場合にポンプ出力を50%に下げ、モータ出力がTm0未満となった場合にポンプを停止させている。Tm0〜Tm5の値は、モータの冷却状態を勘案して適宜設定される。なお、モータの出力は、モータ温度に応じてさらに多くの段階にわけて変化させてもよいし、演算式に応じて無現段階で変化させてもよい。
以上の説明においては、A領域では、LLC温度がTc以上の場合にはオイルポンプ32の出力を一定値に固定し、LLC温度がTc未満の場合にのみオイルポンプ32を0%〜100%までの範囲で変動させる制御を行った。しかし、LLC温度がTc以上の場合にオイルポンプ32を変動させる制御を行うことも可能である。具体的には、出力の上限をP%とした上で、モータ温度に応じて0%〜P%の範囲で変動させる態様を例示することができる。また、以上の説明では、A領域においては、LLC温度をTc以上とTc未満の二つの場合にわけて制御を行うものとしたが、LLC温度に応じて三つ以上の場合にわけて制御を行うようにしてもよい。
図4に戻って、領域ごとのオイルポンプ32の制御の説明を続ける。B領域では、オイルポンプ32は最大の出力に設定される。B領域では、MG16が高回転で駆動されることで、モータ温度が高温化してシビアな状況におかれる。そこで、オイルポンプ32が、冷却オイルの循環量を最大にして、MG16を冷却している。この結果として、MG16の排熱が大量にLLCに伝達されるが、ラジエータ20からは高速に流れる外気によって大量に熱が奪われるため、LLC温度はそれほど上昇しない。このため、PCU14の冷却も十分に行うことができる。
C領域では、オイルポンプ32は停止される。C領域は、モータ温度がT2未満の領域であり、MG16を冷却する必要性が低いため、このような制御が行われる。また、車速がV2未満の場合には、オイルポンプ32の駆動音によって、電動車両10の静音性が壊れないように、モータ温度がT2以上T4未満の範囲においても、オイルポンプ32を停止する。
次に、図6を参照して、パワーモードにおけるオイルポンプ32の制御について説明する。図6は、図2に対応する図であり、パワーモードにおいて実施されるオイルポンプ32の制御態様領域を示している。図6と図2の違いは、図6では図2におけるA領域が全てB領域に代わっている点である。パワーモードでは、PCU14から送られる高圧の交流電圧によってMG16が駆動される。このため、ノーマルモードと比べて、特に、MG16の高温化が想定される。そこで、ノーマルモードではA領域であった範囲をB領域に変更して、オイルポンプ32による循環量を最大とする制御を行うこととした。これにより、MG16の加熱を抑制することが可能となる。運転者48が、ノーマルモードにおいてA領域に属している状態でパワーモードに切り替えた場合、走行特性の変化とともに、オイルポンプ32の出力の変化が生じることになる。
なお、ノーマルモードでA領域であった部分には、比較的車速が遅い領域も含まれている。低速では、高速の場合に比べて、ラジエータ20からの放出可能な熱量が減るために、全体としてLLC及び冷却オイルが高温化して、PCU14とMG16の一方または両方の冷却が十分にできないことも考える。その場合には、パワーモードにおける冷却を可能とする程度に、ラジエータ20の容量を大きくすればよい。あるいは、ノーマルモードでA領域であった部分のうち、当初のB領域に近い部分(例えば、車速がV2〜V3の範囲にある適当な速度よりも高速であり、かつ、モータ温度がT2〜T4の範囲にある適当な温度よりも高温である部分)のみを、パワーモードにおいてB領域に変更するようにしてもよい。このように、冷却が可能な範囲で、パワーモードの昇圧設定と、冷却の強化を行うことで、パワーモードにおける安定した走行を実現することができる。
以上においては、ノーマルモードでは、図2に示したA領域からC領域にわけて、オイルポンプ32を制御し、パワーモードでは、そのうちA領域の一部または全部をB領域とする態様について示した。しかし、この領域設定は制御方法の一態様にすぎない。例えば、ノーマルモードにおいて、A領域をさらに分割して詳細な制御を行ってもよいし、A領域とB領域の境目を明確にせず、連続的に制御を変化させるようにしてもよい。また、パワーモードでは、C領域の一部をA領域に変更する設定をすることも考えられる。いずれの場合であっても、パワーモードでは、PCU14とMG16の冷却を両立させた上で、MG16の冷却量をノーマルモードに比べて高めるように、制御態様を決定することになる。
また、ここでの説明においては、ウォータポンプ28は常に一定の出力で駆動されていることを前提とした。しかし、ウォータポンプ28は、オイルクーラ26を介して、MG16の冷却系統を構成しており、ウォータポンプ28によってLLCの冷却が進めば、MG16の冷却も進む。したがって、ウォータポンプ28でも、パワーモードではノーマルモードに比べて循環量を増大させる制御を行うことが有効となる。その制御は、例えば、図2〜図6に示したオイルポンプ32の変更制御と同様にして行うことが可能である。ウォータポンプ28の冷却の変更は、オイルポンプ32の冷却の変更と同じタイミングで行ってもよいし、異なるタイミングで行ってもよい。また、同じタイミングで行う場合において、ウォータポンプ28の循環量の変更比率は、オイルポンプ32の循環量の変更比率と同じであっても異なっていてもよい。
以上の説明では、PCU14とMG16をひとつのラジエータ20を使って冷却する一系統の冷却態様について説明した。しかし、PCU14とMG16を別々のラジエータを使って独立に冷却する2系統の冷却機構とすることも可能である。この場合には、PCU14とMG16の冷却のバランスを考慮することなく、それぞれの冷却が適切に行われるよう制御をすることが可能となる。
図7は、冷却系統についての変形例を示す図である。図7では、図1に示した範囲のうち、PCU14、MG16の冷却に直接関係する部分についてのみ図示している。また、図1と同一の構成には、同一の符号を付している。
図7に示した変形例では、新たに、PCU14を冷却するためのラジエータ50が設けられている。ラジエータ50からは流路52aがPCU14に延び、PCU14からは流路52bがラジエータ50に延びている。そして、流路52aの途中に設けられた電動ポンプであるウォータポンプ54によって、LLCの循環が行われている。PCU14の冷却は、ウォータポンプ54の出力を向上させることで強化される。
ラジエータ20は、PCU14の冷却には関与しておらず、MG16の冷却のみに関与している。ラジエータ20からは流路56aがオイルクーラ26に延び、オイルクーラ26からは流路56bがラジエータ20に延びている。そして、流路56aに設けられた電動ポンプであるウォータポンプ58によって、LLCが循環されている。オイルクーラ26においてLLCによって冷却オイルが冷却され、この冷却オイルがオイルポンプ32によってMG16を冷却する点は、図1に示した態様と同様である。すなわち、MG16の冷却は、二段階の冷却系統によって構成されている。
パワーモードにおいては、特に、MG16の高温化が顕著になるため、MG16の冷却を強化することが求められる。MG16の冷却は、オイルポンプ32の循環量を増加させることで強化することができる。また、ウォータポンプ58の循環量を増加させることもMG16の冷却に寄与する。そして、ウォータポンプ58とオイルポンプ32の両方の循環量を増加させることで、MG16の冷却が最も進むことになる。なお、パワーモードにおいては、PCU14を冷却するウォータポンプ54による循環量を増大させるようにしてもよい。
以上の説明では、走行特性モードとして、ノーマルモードとパワーモードを例に挙げた。走行特性モードは、このほかにも様々なものが考えられる。具体的には、MG16に印加する電圧を相対的に低くして電力消費を抑制する「エコモード」、低速時におけるMG16への印加電圧を高めて坂道の登坂を容易化する「登坂モード」などの例を挙げることができる。いずれの場合でも、走行特性モードを変更することで、MG16の冷却必要性がかかわることから、走行特性モードの違いに応じてMG16の冷却量を変更することが有効となる。ただし、3以上の走行特性モードを備える場合には、必ずしも全ての走行特性モード毎に、冷却制御を切り替えなくてもよい。例えば、複数の走行特性モードが似通っている場合には、これらの走行特性モードについては、冷却制御の態様を共通化させるようにしてもよい。