JP2019123000A - フェライト系ステンレス鋼板の溶接構造体および溶接方法 - Google Patents
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Description
母材と溶接部とが同一のステンレス鋼材の場合、一般的に、溶接金属部における耐食性低下の程度に比べて熱影響部における耐食性低下の程度の方が大きい。したがって、耐食性が最も低下する母材の熱影響部に大きく深い腐食孔が発生する。ここで、溶接金属部とは、溶加材などが溶融した溶接金属によって形成される部分で、隣り合う2つの母材の接合箇所に形成される。また、熱影響部とは、溶接時の熱履歴によって鋼板表面に酸化スケールが形成された母材の部分であり、当該母材と溶接金属部との境界付近の箇所に生じる。特にステンレス鋼材の熱影響部においては、一般に耐食性が劣化する。これら溶接金属部と熱影響部とをまとめて溶接部と称する。
本実施形態に係る溶接構造体1には、母材(フェライト系ステンレス鋼板2)として図2の表におけるA鋼の鋼板が用いられており、溶接金属部3の組成としてC鋼の組成が想定されている。なお、母材としてB鋼の鋼板を用いた場合では、溶接金属部3の組成としてD鋼の組成が想定される。
本実施形態に係る溶接構造体1は、上述のようにオーステナイト系ステンレス鋼の溶加材を用いて溶接金属部3を形成し、2つのフェライト系ステンレス鋼板2を接合することによって完成する。具体的には、例えばArガスシールを行ったTIG溶接によって溶接金属部3を形成し、2つのフェライト系ステンレス鋼板2を接合する。また、TIG溶接にかぎらず、MIG溶接など、溶接時において溶接金属部3に他成分を溶融させることができるのであればどのような溶接方法を採用してもよい。
α=x×(溶加材のCr当量)+(1-x)×(母材のCr当量)
(式2)
β=x×(溶加材のNi当量)+(1-x)×(母材のNi当量)
また、溶加材および母材のそれぞれについて、Cr当量は下記の式3により算出され、Ni当量は下記の式4により算出される。
Cr当量=Cr質量%+Mo質量%+1.5×Si質量%+0.5×Nb質量%
(式4)
Ni当量=Ni質量%+30×C質量%+0.5×Mn質量%
なお、上述のCr当量αおよびNi当量βの計算方法はあくまで一例であり、この場合に限定されない。言い換えれば、(i)2つのフェライト系ステンレス鋼板2に対する溶加材の溶け込み率、および(ii)溶加材の成分組成の少なくとも一方を用いて、Cr当量αおよびNi当量βを算出できる計算式であればどのような計算式を用いてもよい。
<測定方法>
従来の同材溶接、および本実施形態に係る異種溶加材溶接のどちらが先に腐食孔が発生するかを確かめるべく、腐食孔内の環境を再現した腐食孔内模擬環境下に各種試験片を配置して電位を印加し、アノード分極曲線測定を行った。具体的には、電解漕(不図示)に温度が30℃の20%NaCl溶液(HClを用いてpH1となるように調整)を入れて、この溶液中に各種試験片を浸し、当該各種試験片に電位を印加した。この溶液にはAr脱気を施し、掃引速度を20mV/minとした。
以下、A鋼の単独試験片単体、C鋼の単独試験片単体、およびA鋼の単独試験片とC鋼の単独試験片とを接続した接続試験片のそれぞれを電解漕の溶液に浸して、電位を印加したケースを例に挙げて説明する。
<実施方法>
図4に示すφ1.2mm径の溶加材a〜gを用いて、図5に示すE鋼〜G鋼のそれぞれで形成された2枚の鋼板を冶具に固定し、Arバックガスシールを施して、TIG溶接にて突合せ溶接を行った。TIG溶接の条件は、電流が40A〜50A、溶接速度が100mm/min、トーチArガス流量10L/min、電極径φ1.6mmである。溶加材の溶け込み率xは、供給速度を変化させることにより調整した。
図6に示すNo.8、9、10、11および12の溶接構造体は、溶加材a〜dの溶け込み不足により、溶接金属部がオーステナイト単相組織とならず、溶接金属部において0.1mmを超える腐食孔が発生した。また、No.13の溶接構造体は、溶加材eのNi当量が低いため、溶け込み率xを増加させても溶接金属部がオーステナイト単相組織とならず、溶接金属部において0.1mmを超える腐食孔が発生した。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
2 フェライト系ステンレス鋼板(第1フェライト系ステンレス鋼板、第2フェライト系ステンレス鋼板)
3 溶接金属部
α 溶接金属部のCr当量
β 溶接金属部のNi当量
Claims (3)
- 第1フェライト系ステンレス鋼板と第2フェライト系ステンレス鋼板とを少なくとも含む溶接構造体であって、
前記第1フェライト系ステンレス鋼板と前記第2フェライト系ステンレス鋼板との間には、オーステナイト単相組織のステンレス鋼の溶接金属部が形成されていることを特徴とする溶接構造体。 - オーステナイト系ステンレス鋼の溶加材を用いた、第1フェライト系ステンレス鋼板と第2フェライト系ステンレス鋼板とを少なくとも含む溶接構造体の溶接方法であって、
(i)前記第1フェライト系ステンレス鋼板および前記第2フェライト系ステンレス鋼板に対する前記溶加材の溶け込み率、および(ii)前記溶加材の成分組成の少なくとも一方が、前記第1フェライト系ステンレス鋼板と前記第2フェライト系ステンレス鋼板との間にオーステナイト単相組織のステンレス鋼の溶接金属部を形成するように調整されていることを特徴とする溶接方法。 - (i)前記溶加材の前記溶け込み率、および(ii)前記溶加材の前記成分組成の少なくとも一方が、前記溶接金属部において、Cr当量αが16以上かつNi当量βが12以上になるとともに、前記Cr当量αと前記Ni当量βとの関係がα≧1.1×β−8.2になるように調整されていることを特徴とする請求項2に記載の溶接方法。
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