以下に、本発明の実施の形態にかかるワイヤ放電加工機を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態
図1は、本発明の実施の形態にかかるワイヤ放電加工機のワイヤ電極搬送系101の構成図である。図1には、右手系のXYZ座標系が設定されており、ワイヤ放電加工機の上下方向がZ軸方向であり、紙面垂直方向がX軸方向であり、Z軸方向およびX軸方向に直交する方向がY軸方向である。以下では、紙面に向かうX軸方向を+X方向、+X方向の逆方向を−X方向、紙面内で左に向かうY軸方向を+Y方向、+Y方向の逆方向を−Y方向、紙面内で上に向かうZ軸方向を+Z方向、+Z方向の逆方向を−Z方向と称する。また、X軸方向およびY軸方向を含んだZ軸方向に垂直な面内の二次元方向をXY方向と称する。
ワイヤ電極搬送系101は、ワイヤ放電加工機のワイヤ電極1の搬送にかかる構成要素からなる。図1のワイヤ電極搬送系101は、ワイヤ電極1を供給するワイヤ電極供給部201と、上部ワイヤ電極ガイド部202と、ワイヤ電極自動結線装置203と、下部ワイヤ電極ガイド部204と、ワイヤ電極送り部205とワイヤ電極1を回収するワイヤ電極回収部206と、を備える。
上部ワイヤ電極ガイド部202は第1ガイドダイス駆動装置である上部ガイドダイス駆動装置400を備え、下部ワイヤ電極ガイド部204は第2ガイドダイス駆動装置である下部ガイドダイス駆動装置500を備える。上部ガイドダイス駆動装置400および下部ガイドダイス駆動装置500の構造の詳細は後述する。ワイヤ電極搬送系101を備えるワイヤ放電加工機は、制御部150を備えており、制御部150は、加工指令プログラムに基づいてワイヤ電極搬送系101を制御する。具体的には、ワイヤ電極供給部201、上部ワイヤ電極ガイド部202、ワイヤ電極自動結線装置203、下部ワイヤ電極ガイド部204、ワイヤ電極送り部205およびワイヤ電極回収部206を制御する。
ワイヤ電極供給部201は、ワイヤ電極1を巻き付けて保持するためのワイヤ電極ボビン11と、ワイヤ電極1の送り方向を転換するための複数のプーリ12a,12b,12c,12d,12eと、ワイヤ電極1を送り出すための送りローラ21と、ワイヤ電極1を送りローラ21に巻き付けるための複数の送りピンチローラ22a,22bと、を備える。
上部ワイヤ電極ガイド部202は、ワイヤ電極1に接触してワイヤ電極1に電流を供給する上部給電子42と、上部給電子42の上側および下側にそれぞれ配置されてワイヤ電極1を上部給電子42に接触するように通過させてガイドする一対の上部ガイドダイス44a,44bと、上部ガイドダイス44a,44bの下側に配置されて放電加工中に被加工物51へ加工液を吹きかける上部加工液ノズル46と、上部加工液ノズル46の噴出口に配置されてワイヤ電極1を通過させて放電加工中のワイヤ電極1を位置決めする上部位置決めダイス43と、上部ガイドブロック41と、を備える。上部ガイドブロック41は、上部給電子42、上部ガイドダイス44a、上部加工液ノズル46および上部位置決めダイス43を保持する。そして、第1ガイドダイスである上部ガイドダイス44bは、上部ガイドダイス駆動装置400の可動部に固定されている。
ワイヤ電極自動結線装置203は、送りローラ21と上部ワイヤ電極ガイド部202との間に配置され、ワイヤ電極1を上部ワイヤ電極ガイド部202へと案内する図示していない案内パイプを備える。
下部ワイヤ電極ガイド部204は、上部ワイヤ電極ガイド部202の下方に配置されて放電加工中に被加工物51へ加工液を吹きかける下部加工液ノズル65と、下部加工液ノズル65内に配置されてワイヤ電極1を通過させて放電加工中のワイヤ電極1を位置決めする下部位置決めダイス63と、下部位置決めダイス63の下方に配置されてワイヤ電極1に接触してワイヤ電極1に電流を供給する下部給電子62と、下部給電子62の上側および下側にそれぞれに配置されてワイヤ電極1を下部給電子62に接触するように通過させてガイドする一対の下部ガイドダイス64a,64bと、下部ガイドブロック67と、を備える。下部ガイドブロック67は、下部加工液ノズル65、下部位置決めダイス63、下部給電子62および下部ガイドダイス64bを保持する。そして、第2ガイドダイスである下部ガイドダイス64aは、下部ガイドダイス駆動装置500の可動部に固定されている。
ワイヤ電極送り部205は、ワイヤ電極1の送り方向を転換する下部ローラ72と、ワイヤ電極1を下部位置決めダイス63から下部ガイドダイス64bへ送るための負圧を発生させると共に加工液を噴出するアスピレータ73と、ワイヤ電極1をワイヤ電極回収部206へ案内する下部案内パイプ74と、下部ローラブロック71と、を備える。下部ローラブロック71は、下部ローラ72、アスピレータ73および下部案内パイプ74を保持する。
ワイヤ電極回収部206は、ワイヤ電極1を回収するワイヤ電極回収ローラ81a,81bと、液体から分離されたワイヤ電極1を回収するための回収パイプエンド82と、を備える。
以下、図1を用いてワイヤ電極搬送系101の動作を説明する。ワイヤ電極ボビン11に予めセットされたワイヤ電極1は、プーリ12a,12b,12c,12d,12eを経て送りローラ21に架けられる。そして、送りローラ21とワイヤ電極1の間にすべりが発生しないように送りピンチローラ22a,22bによってワイヤ電極1が加圧され、ワイヤ電極自動結線装置203へ送り出される。
さらに、上部ワイヤ電極ガイド部202に送り出されたワイヤ電極1は、上部ガイドダイス44a、上部給電子42、上部ガイドダイス44b、上部位置決めダイス43の順に搬送される。このときワイヤ電極1の両端には一定の張力が加えられる。これによりワイヤ電極1は上部ガイドダイス44a、上部給電子42、上部ガイドダイス44b、上部位置決めダイス43に押しつけられた状態で搬送される。
上部位置決めダイス43を通過したワイヤ電極1は、被加工物51に形成された図示されていない加工穴を通過し、さらに下部ワイヤ電極ガイド部204の下部位置決めダイス63を通過する。その後、ワイヤ電極1は、下部ガイドダイス64a、下部給電子62および下部ガイドダイス64bを通過し、下部ローラ72により搬送方向が90度変更された後、下部案内パイプ74を通過して、ワイヤ電極回収部206に至る。
第1位置決めダイスである上部位置決めダイス43と第2位置決めダイスである下部位置決めダイス63との間において、張力のかかった状態で架け渡されたワイヤ電極1が被加工物51との間で放電を起こすことにより、被加工物51の表面が放電破壊される。ワイヤ電極1の両端に張力が加わると、ダイヤモンドダイスなどで構成される上部位置決めダイス43および下部位置決めダイス63とワイヤ電極1の接触部に与圧が作用するため、ワイヤ電極1の走行中も常に上部位置決めダイス43および下部位置決めダイス63とワイヤ電極1との接触状態を保つことができる。これにより、ワイヤ電極1の走行中にあっても、被加工物51と対向して被加工物51との間に極間を形成するワイヤ電極1の位置制御に必要な安定した支点が常に得られることになる。上記放電と同時に、上部ワイヤ電極ガイド部202および下部ワイヤ電極ガイド部204、または被加工物51が、加工指令プログラムにプログラムされた加工経路に沿ってXY方向に制御部150によって移動制御される。これにより被加工物51のワイヤ放電加工が行われる。
放電加工を経たワイヤ電極1は、ワイヤ電極回収部206に到達し、ワイヤ電極回収ローラ81a,81bによって、すべりが発生しないように加圧されて排出される。
送りローラ21およびワイヤ電極回収ローラ81bの各々には駆動用モータ31,32が設けられていて、制御部150は、ワイヤ電極1の搬送速度および張力を加工に応じた一定条件を保つように駆動用モータ31,32を制御している。
また、ワイヤ電極ボビン11をセットする軸には駆動用モータ33が設けられていて、制御部150は、ワイヤ電極1に撓みが生じないように、ワイヤ電極1の搬送条件に応じた負荷を生じさせる制御を駆動用モータ33に対して行う。
図2は、実施の形態にかかるワイヤ電極搬送系101の上部ワイヤ電極ガイド部202の断面図である。図2は、図1に示す上部ワイヤ電極ガイド部202をX軸方向に観た断面図である。
図2では、上部ワイヤ電極ガイド部202の内部に搬送されるワイヤ電極1と共に、ワイヤ電極1の搬送経路に従って、上部給電子42の前に位置する上部ガイドダイス44aおよびそのガイド穴44a1と、上部給電子42と、上部給電子42の後に位置する上部ガイドダイス44bおよびそのガイド穴44b1と、上部ガイドダイス44bの駆動装置である上部ガイドダイス駆動装置400と、上部位置決めダイス43およびその位置決め穴43aと、上部加工液ノズル46と、が上部ガイドブロック41に取り付けられた状態で示されている。
上述したように、上部ガイドダイス44bは、上部ガイドダイス駆動装置400の可動部に設けられており、上部給電子42と上部位置決めダイス43との間のワイヤ電極1の搬送経路の途中に配置されている。
ワイヤ電極1の両端に張力を加えることで、ワイヤ電極1は上部ワイヤ電極ガイド部202の内部の搬送経路のガイド穴44a1,44b1と、上部給電子42の側外面と、位置決め穴43aと、に押しつけられ、ワイヤ電極1の搬送中も摺動状態を保つ。
上部ガイドダイス44aはワイヤ電極1の直径よりも大きいガイド穴44a1を有するダイスであり、上部ガイドダイス44bはワイヤ電極1の直径よりも大きいガイド穴44b1を有するダイスである。ガイド穴44a1,44b1の大きさとしては、200μmから800μmを例示することができる。
上部位置決めダイス43は、ワイヤ電極1の外径に対し摺動に必要な最小限のクリアランスを確保した位置決め穴43aを有するダイスである。位置決め穴43aにおけるワイヤ電極1に対する隙間、即ちクリアランスの大きさとしては、3μmから10μmを例示することができる。
上部給電子42は、ワイヤ電極1に接触しつつ極間電圧を加える電極であり、ワイヤ電極1は上部給電子42の表面を摺動する。
図2に示す上部ワイヤ電極ガイド部202の各構成要素においてワイヤ電極1が押し付けられる方向は以下の通りである。
(1)上部ガイドダイス44aでは、ガイド穴44a1の内面においてワイヤ電極1は+Y方向に押し付けられる。
(2)上部給電子42では、上部給電子42の摺動面においてワイヤ電極1は−Y方向に押し付けられる。
(3)上部ガイドダイス44bでは、ガイド穴44b1の内面においてワイヤ電極1は+Y方向に押し付けられる。
(4)上部位置決めダイス43では、位置決め穴43aの内面においてワイヤ電極1は−Y方向に押し付けられる。
次に、上部ガイドダイス駆動装置400の構成を詳細に説明する。図3は、実施の形態にかかる上部ガイドダイス駆動装置400の拡大断面図である。図3は、図2の断面図における上部ガイドダイス駆動装置400を拡大した詳細図である。
上部ガイドダイス駆動装置400は、ベース402とキャップ401とによる密閉された空間のなかに、上部ガイドダイス44bおよびマグネット421を搭載するガイドダイス可動部420と、ガイドダイス可動部420をXY方向の二次元方向に弾性支持するサスペンション部440と、電磁コイル411を搭載した電磁コイル基板部410と、電磁コイル431を搭載した電磁コイル基板部430と、加工液シールド450,460と、を備える。
図4は、実施の形態にかかる上部ガイドダイス駆動装置400の構成を分解して示した斜視図である。
ガイドダイス可動部420は、図4では隠れている上部ガイドダイス44bを中心とした円盤状の構造部425と、上部ガイドダイス44bのガイド穴44b1のZ軸方向の入口側および出口側に、ワイヤ電極1の図3に示される円錐状の案内構造部470を有する。
さらに、上部ガイドダイス44bを中心に、ガイドダイス可動部420の円盤状の構造部425の外縁に沿って、X軸方向およびY軸方向に対して線対称な位置にサスペンション部440が配置されている。
サスペンション部440の一端はガイドダイス可動部420に固定され、他端はベース402に固定される。
図3に示されるように、サスペンション部440は、金属製のスプリング442およびシリコン製のダンパー441を備える。
図3および図4に示されるように、電磁コイル基板部410には、巻き線の中心軸がZ軸方向と平行となるようにフラットな電磁コイル411が設けられ、さらに電磁コイル基板部410はキャップ401に固定されている。電磁コイル411は、ガイドダイス可動部420に設けたマグネット421と対向する位置に固定されている。
図3および図4に示されるように、電磁コイル基板部430には、巻き線の中心軸がZ軸方向と平行となるようにフラットな電磁コイル431が設けられ、さらに電磁コイル基板部430はベース402に固定されている。電磁コイル431は、ガイドダイス可動部420に設けたマグネット421と対向する位置に固定されている。
ガイドダイス可動部420は、上記のように配置されたサスペンション部440によってX軸方向およびY軸方向に対称な特性で弾性支持されているので、Z軸方向の位置を変えることなくXY方向の二次元方向に線形的なばね特性およびダンピング特性を得ることができる。これにより、ガイドダイス可動部420の中心に設けられた上部ガイドダイス44bを安定した状態で弾性支持することができる。
ガイドダイス可動部420に設けられたマグネット421は、円盤状の構造部425の上面においてX軸方向およびY軸方向にマグネット421の表面のN極とS極とが並ぶように配置され、同時に円盤状の構造部425の上面の反対側の裏面においてもX軸方向およびY軸方向にマグネット421の表面のN極とS極とが並ぶように配置されている。
図3および図4に示されるように、マグネット421を−Z方向に観る位置に電磁コイル411は配置され、マグネット421を+Z方向に観る位置に電磁コイル431は配置される。これにより、電磁コイル基板部410および電磁コイル基板部430は、Z軸方向の両側からガイドダイス可動部420を挟む位置に配置される。
マグネット421とZ軸方向の上下で互いに対向する電磁コイル411,431に電流を印加し、各電磁コイル411,431の磁束方向を同時に逆の方向に発生させる。各電磁コイル411,431の磁束と、電磁コイル411,431のそれぞれと対向するマグネット421の表面磁束とで生じる電磁力の作用により、ガイドダイス可動部420をX軸方向またはY軸方向に駆動する。
ガイドダイス可動部420は、サスペンション部440によってXY方向に線形弾性を有するように支持されているので、電磁コイル411,431への印加電流を制御することによって、駆動力、駆動方向および駆動周波数を制御することができる。
また、キャップ401とガイドダイス可動部420との間には加工液シールド450が設けられ、ベース402とガイドダイス可動部420との間には加工液シールド460が設けられている。加工液シールド450,460は、ワイヤ電極1が通過する空間を外部から隔絶し、内蔵された電磁コイル基板部410,430に加工液を侵入させない構造になっている。すなわち、加工液シールド450,460は、キャップ401およびベース402とガイドダイス可動部420との間から加工液とともに加工粉が侵入することを防いでおり、これにより上部ガイドダイス駆動装置400の内部に加工粉が蓄積してガイドダイス可動部420の動作に不具合が発生することを防止する。
なお、上部ワイヤ電極ガイド部202のワイヤ電極1が通過する空間は、空気および加工液を流すことができ、上部ガイドダイス44a,44bとワイヤ電極1との摺動部に蓄積する摩耗粉、加工粉、付着物を空気流、加工液流を利用して除去することができる。
図5は、実施の形態にかかるワイヤ電極搬送系101の下部ワイヤ電極ガイド部204の断面図である。図5は、図1に示す下部ワイヤ電極ガイド部204をX軸方向に観た断面図である。
図5では、下部ワイヤ電極ガイド部204の内部に搬送されるワイヤ電極1と共に、ワイヤ電極1の搬送経路に従って、下部加工液ノズル65と、下部位置決めダイス63およびその位置決め穴63aと、下部給電子62の前に位置する下部ガイドダイス64aおよびそのガイド穴64a1と、下部給電子62と、下部給電子62の後に位置する下部ガイドダイス64bおよびそのガイド穴64b1と、が下部ガイドブロック67に取り付けられた状態で示されている。
さらに、図5では、下部ワイヤ電極ガイド部204が、下部ローラブロック71および下部ローラ72を備えたワイヤ電極送り部205に取り付けられた状態で示されている。
上述したように、下部ガイドダイス64aは、下部ガイドダイス駆動装置500の可動部に設けられており、下部位置決めダイス63と下部給電子62との間のワイヤ電極1の搬送経路の途中に配置されている。
ワイヤ電極1の両端に張力を加えることで、ワイヤ電極1は下部ワイヤ電極ガイド部204の内部の搬送経路のガイド穴64a1,64b1と、下部給電子62の側外面と、位置決め穴63aと、に押し付けられ、ワイヤ電極1の搬送中も摺動状態を保つ。
下部位置決めダイス63は、ワイヤ電極1の外径に対し摺動に必要な最小限のクリアランスを確保した位置決め穴63aを有するダイスである。位置決め穴63aにおけるワイヤ電極1に対するクリアランスの大きさとしては、3μmから10μmを例示することができる。
下部ガイドダイス64aはワイヤ電極1の直径よりも大きいガイド穴64a1を有するダイスであり、下部ガイドダイス64bは、ワイヤ電極1の直径よりも大きいガイド穴64b1を有するダイスである。ガイド穴64a1,64b1の大きさとしては、200μmから800μmを例示することができる。
下部給電子62は、ワイヤ電極1に接触しつつ極間電圧を加える電極であり、ワイヤ電極1は下部給電子62の表面を摺動する。
図5に示す下部ワイヤ電極ガイド部204の各構成要素においてワイヤ電極1が押し付けられる方向は以下の通りである。
(1)下部ガイドダイス64aでは、ガイド穴64a1の内面においてワイヤ電極1は+Y方向に押し付けられる。
(2)下部給電子62では、下部給電子62の摺動面においてワイヤ電極1は−Y方向に押し付けられる。
(3)下部ガイドダイス64bでは、ガイド穴64b1の内面においてワイヤ電極1は+Y方向に押し付けられる。
(4)下部位置決めダイス63では、位置決め穴63aの内面においてワイヤ電極1は−Y方向に押し付けられる。
次に、下部ガイドダイス駆動装置500の構成を詳細に説明する。図6は、実施の形態にかかる下部ガイドダイス駆動装置500の拡大断面図である。図6は、図5の断面図における下部ガイドダイス駆動装置500を拡大した詳細図である。
下部ガイドダイス駆動装置500は、ベース502とキャップ501とによる密閉された空間のなかに、下部ガイドダイス64aおよびマグネット521を搭載するガイドダイス可動部520と、ガイドダイス可動部520をXY方向の二次元方向に弾性支持するサスペンション部540と、電磁コイル511を搭載した電磁コイル基板部510と、電磁コイル531を搭載した電磁コイル基板部530と、加工液シールド550,560と、を備える。
下部ガイドダイス駆動装置500には、上部ガイドダイス駆動装置400の各構成要素と同じ各構成要素をZ軸方向に上下逆さに設けたものを使用する。したがって、下部ガイドダイス駆動装置500は、図4に示した上部ガイドダイス駆動装置400の分解斜視図を上下逆さにした同じものを下部ワイヤ電極ガイド部204に内蔵した構成になる。
したがって、下部ガイドダイス64aを中心に、ガイドダイス可動部520の円盤状の構造部の外縁に沿って、X軸方向およびY軸方向に対して線対称な位置にサスペンション部540が配置されている。
サスペンション部540の一端はガイドダイス可動部520に固定され、他端はベース502に固定される。
サスペンション部540は、金属製のスプリング542およびシリコン製のダンパー541を備える。
電磁コイル基板部510には、巻き線の中心軸がZ軸方向と平行となるようにフラットな電磁コイル511が設けられ、さらに電磁コイル基板部510はキャップ501に固定されている。電磁コイル511は、ガイドダイス可動部520に設けたマグネット521と対向する位置に固定されている。
電磁コイル基板部530には、巻き線の中心軸がZ軸方向と平行になるようにフラットな電磁コイル531が設けられ、さらに電磁コイル基板部530はベース502に固定されている。電磁コイル531は、ガイドダイス可動部520に設けたマグネット521と対向する位置に固定されている。
ガイドダイス可動部520に設けられたマグネット521は、ガイドダイス可動部520の円盤状の構造部の一方の面において、X軸方向およびY軸方向にマグネット521の表面のN極とS極とが並ぶように配置され、同時にガイドダイス可動部520の円盤状の構造部の他方の面においても、X軸方向およびY軸方向にマグネット521の表面のN極とS極とが並ぶように配置されている。
マグネット521を+Z方向に観る位置に電磁コイル511は配置され、マグネット521を−Z方向に観る位置に電磁コイル531は配置される。これにより、電磁コイル基板部510および電磁コイル基板部530は、Z軸方向の両側からガイドダイス可動部520を挟む位置に配置される。
マグネット521とZ軸方向の上下で互いに対向する電磁コイル511,531に電流を印加し、各電磁コイル511,531の磁束方向を同時に逆の方向に発生させる。各電磁コイル511,531の磁束と、電磁コイル511,531のそれぞれと対向するマグネット521の表面磁束とで生じる電磁力の作用で、ガイドダイス可動部520をX軸方向またはY軸方向に駆動する。
ガイドダイス可動部520は、サスペンション部540によってXY方向に線形弾性を有するように支持されているので、電磁コイル511,531への印加電流を制御することによって、駆動力、駆動方向および駆動周波数を制御することができる。
また、キャップ501とガイドダイス可動部520との間には加工液シールド550が設けられ、ベース502とガイドダイス可動部520との間には加工液シールド560が設けられている。加工液シールド550,560は、ワイヤ電極1が通過する空間を外部から隔絶し、内蔵された電磁コイル基板部510,530に加工液を侵入させない構造になっている。すなわち、加工液シールド550,560は、キャップ501およびベース502とガイドダイス可動部520との間から加工液とともに加工粉が侵入することを防いでおり、これにより下部ガイドダイス駆動装置500の内部に加工粉が蓄積してガイドダイス可動部520の動作に不具合が発生することを防止する。
なお、下部ワイヤ電極ガイド部204のワイヤ電極1が通過する空間は、空気および加工液を流すことができ、下部ガイドダイス64a,64bとワイヤ電極1との摺動部に蓄積する摩耗粉、加工粉、付着物を空気流、加工液流を利用して除去することができる。
図7は、実施の形態にかかる上部ガイドダイス駆動装置400および下部ガイドダイス駆動装置500により極間振動を制御する動作を説明する模式図である。上部ガイドダイス駆動装置400および下部ガイドダイス駆動装置500も制御部150によって加工指令プログラムに基づいて制御される。
図7は、搬送中のワイヤ電極1が、上部ガイドダイス44b、上部位置決めダイス43、下部位置決めダイス63および下部ガイドダイス64aを−Z方向に速度Vで通過する状態を示している。上部位置決めダイス43と、下部位置決めダイス63との間に張られたワイヤ電極1が被加工物51をワイヤ放電加工する。
上部ガイドダイス駆動装置400において、上部ガイドダイス44bはサスペンション部440により支持される。そして、図7において、電磁コイル基板部410,430の電磁力が制御されることにより変位するガイドダイス可動部420に搭載された上部ガイドダイス44bの変位をX1およびY1で示す。
下部ガイドダイス駆動装置500において、下部ガイドダイス64aはサスペンション部540により支持される。そして、図7において、電磁コイル基板部510,530の電磁力が制御されることにより変位するガイドダイス可動部520に搭載された下部ガイドダイス64aの変位をX2およびY2で示す。
ワイヤ電極1の両端に張力Tを加えることで、ワイヤ電極1は、上部ガイドダイス44bのガイド穴44b1、上部位置決めダイス43の位置決め穴43a、下部位置決めダイス63の位置決め穴63aおよび下部ガイドダイス64のガイド穴64a1に押しつけられ、ワイヤ電極1の搬送中も摺動状態が保たれる。
ワイヤ電極搬送系101を備えるワイヤ放電加工機において、ワイヤ電極1の両端に張力Tが加えられた状態で搬送が停止されたとき、上部位置決めダイス43と下部位置決めダイス63との間において被加工物51と極間を形成するワイヤ電極1の位置も停止している。
サスペンション部440,540は、ワイヤ電極1に加わる張力Tの分力に相当する押しつけ力に対して高いばね剛性を有するため、この分力によるサスペンション部440,540の変位はほぼ0である。
上部ワイヤ電極ガイド部202においてワイヤ電極1とダイスの穴との摺動状態を保つため、上部ガイドダイス44bから上部位置決めダイス43に至るワイヤ電極1の入口角度が、Z軸方向に対して角度θ1を有するようにワイヤ電極1の搬送経路が設けられ、張力Tを加えたときの押付分力が常に作用するようにする。入口角度θ1は、上部位置決めダイス43と下部位置決めダイス63とに張られたワイヤ電極1の軸方向と、上部ガイドダイス44bと上部位置決めダイス43とに張られたワイヤ電極1の軸方向とがなす角度である。ここで、ワイヤ電極1の軸方向とは、ワイヤ電極1の中心軸の延伸方向のことである。
構造的には、XY方向において、ワイヤ電極1と上部位置決めダイス43の位置決め穴43aとが接触する位置と、ワイヤ電極1と上部ガイドダイス44bのガイド穴44b1とが接触する位置とが、Y軸方向に離れるように配置されることにより入口角度θ1が0以外の値になる。したがって、制御部150からの指令に従って、上部ガイドダイス駆動装置400が上部ガイドダイス44bを上部位置決めダイス43に対してY軸方向に変位させることにより、入口角度θ1を0以外の値となるように制御することができる。
下部ワイヤ電極ガイド部204においても上部ワイヤ電極ガイド部202と同様で、下部位置決めダイス63から下部ガイドダイス64aに至るワイヤ電極1の出口角度が、Z軸方向に対し角度θ2を有するようにワイヤ電極1の搬送経路が設けられ、張力Tを加えたときの押付分力が常に作用するようにする。出口角度θ2は、上部位置決めダイス43と下部位置決めダイス63とに張られたワイヤ電極1の軸方向と、下部ガイドダイス64aと下部位置決めダイス63とに張られたワイヤ電極1の軸方向とがなす角度である。
構造的には、XY方向において、ワイヤ電極1と下部位置決めダイス63の位置決め穴63aとが接触する位置と、ワイヤ電極1と下部ガイドダイス64aのガイド穴64a1とが接触する位置とが、Y軸方向に離れるように配置されることにより出口角度θ2が0以外の値になる。したがって、制御部150からの指令に従って、下部ガイドダイス駆動装置500が下部ガイドダイス64aを下部位置決めダイス63に対してY軸方向に変位させることにより、出口角度θ2を0以外の値となるように制御することができる。
このように、上部位置決めダイス43およびワイヤ電極1の接触点と、下部位置決めダイス63およびワイヤ電極1の接触点とを結んだZ軸方向に対してワイヤ電極1が角度をもって架けられると、被加工物51と極間を形成するワイヤ電極1のZ軸に垂直な方向の位置にはオフセット距離δが発生する。すなわち、材料工学によれば、上部位置決めダイス43とワイヤ電極1との接触点の位置からの鉛直真下または下部位置決めダイス63とワイヤ電極1との接触点の位置からの鉛直真上を基準に、入口角度θまたは出口角度θに比例するオフセット距離δが発生することが分かっている。
具体的には、オフセット距離δと入口角度θまたは出口角度θとの間に下記の関係式が成り立つ。
δ=0.5・θ・√(E・I/T)
ここで、Tは張力、Eはワイヤ電極1を構成するワイヤ材料の縦弾性係数、Iはワイヤ電極1の断面二次モーメントである。なお、入口角度θまたは出口角度θは、位置決めダイスとガイドダイスとの間のZ軸方向の距離zおよびY軸方向の距離yから以下のように求まる。
θ=arctan(y/z)
通常の加工条件の場合、ガイドダイスの可動量0.1mmに対し、極間を形成しているワイヤ電極1に約0.5μmのオフセット距離δを発生させることができる。実施の形態にかかるワイヤ放電加工機においては、上記のようにして求めたオフセット距離δが、通常1μmから2μmの範囲となるようにして、ワイヤ放電加工を実施する。
なお、上記では、Z軸方向と垂直な方向に位置決めダイスからガイドダイスを変位させる方向をY軸方向と仮定して説明しているが、実施の形態にかかるワイヤ放電加工機においては、Z軸方向と垂直な二次元方向であれば、Y軸方向に限定されず制御した方向に変位させることができる。また、オフセット距離δが発生する方向は、XY方向の二次元方向において、位置決めダイスからガイドダイスを変位させた方向とは逆の方向になる。したがって、上記の例では、Y軸方向において位置決めダイスからガイドダイスを変位させた方向とは逆の方向にオフセット距離δが発生する。
そして、以上のようにオフセット距離δが発生すると、オフセット距離δが発生した方向およびその反対方向にワイヤ電極1の振動方向が制限される。ここで、振動方向が制限されるとは、オフセット距離δが発生した方向およびその反対方向の振動に比べて、オフセット距離δが発生した方向およびその反対方向とは異なる方向の振動が抑圧されて大幅に減衰させられることをいう。この作用を利用して、実施の形態の上部ガイドダイス駆動装置400および下部ガイドダイス駆動装置500では、上部ガイドダイス44bおよび下部ガイドダイス64aをXY方向の二次元方向に駆動制御することで、被加工物51との間に極間を形成しているワイヤ電極1の振動方向を制御することができる。
図4に示したように、上部ガイドダイス駆動装置400において、ガイドダイス可動部420は、XY方向自在に可動するサスペンション部440に支持され、かつXY方向に独立して制御できる電磁力駆動部を内蔵している。したがって、上部位置決めダイス43から上部ガイドダイス44bを変位させる方向をX軸方向、Y軸方向に限らず、XY方向の面内に含まれる目標の方向に制御することができる。そして、下部ガイドダイス駆動装置500においても、上部ガイドダイス駆動装置400の各構成要素と同じ各構成要素が上下方向を逆に使用しているので、同様に、下部位置決めダイス63から下部ガイドダイス64aを変位させる方向をX軸方向、Y軸方向に限らず、XY方向の面内に含まれる目標の方向に制御することができる。
ここで、XY方向内において、上部位置決めダイス43から上部ガイドダイス44bを変位させる方向と下部位置決めダイス63から下部ガイドダイス64aを変位させる方向を同じ方向にしておけば、当該同じ方向と反対方向に上記したオフセットが発生し、オフセットが発生した方向およびその反対方向にワイヤ電極1の振動方向が制限されることになる。この原理を利用して、上部ガイドダイス駆動装置400および下部ガイドダイス駆動装置500を制御部150が制御することにより、搬送状態で極間を形成しているワイヤ電極1を、XY方向の目標の方向に振動させることができる。なお、物理的には、XY方向内において、上部位置決めダイス43から上部ガイドダイス44bを変位させる方向と下部位置決めダイス63から下部ガイドダイス64aを変位させる方向とを同一方向にしないで反対方向にしたとしてもワイヤ電極1の振動を制限することが可能である。すなわち、ワイヤ電極1の振動は、上部位置決めダイス43から上部ガイドダイス44bを変位させる方向および下部位置決めダイス63から下部ガイドダイス64aを変位させる方向に制限される。
なお、上記説明では、上部ガイドダイス44bおよび下部ガイドダイス64aをXY方向の二次元方向に駆動制御することで、二次元方向の一つの方向にオフセット距離δを発生させることにより、被加工物51との間に極間を形成しているワイヤ電極1の振動方向を制御すると説明した。しかし、二次元方向に位置を動かすガイドダイスは上部ガイドダイス44bまたは下部ガイドダイス64aのいずれか一方であってもかまわない。上部位置決めダイス43および下部位置決めダイス63の間に張られたワイヤ電極1の軸方向となっているZ軸方向に対してワイヤ電極1の軸方向を変えるために動かすガイドダイスが上部ガイドダイス44bまたは下部ガイドダイス64aのいずれか一方であっても極間を形成しているワイヤ電極1にオフセット距離δは発生する。したがって、極間を形成しているワイヤ電極1の振動方向を制御することができる。
以上のように、二次元方向に位置を動かすガイドダイスは上部ガイドダイス44bまたは下部ガイドダイス64aのいずれか一方であってもかまわないので、実施の形態にかかるワイヤ放電加工機には上部ガイドダイス駆動装置400または下部ガイドダイス駆動装置500の少なくとも一方のガイドダイス駆動装置が設けられていればよい。
以上説明したように、実施の形態にかかるワイヤ放電加工機によれば、位置決めダイスに対して相対的に可動させることができるガイドダイスに架けたワイヤ電極1の軸方向の角度を制御することで、極間を形成しているワイヤ電極1に対して張力制御ではできなかった振動方向の制御が可能となる。これにより、振動方向以外の振動成分を抑制してワイヤ電極1の振動方向を一方向に集中させて偏振動させることができるので、新しい加工方法が可能になる。
放電加工では、電気的な短絡を回避するために、ワイヤ電極と被加工物との間隔に一定の距離をもたせて使用する。従来のワイヤ放電加工機においては、極間を形成するワイヤ電極はZ軸方向への搬送状態においてXY方向の全方向にランダムに振動が発生するためランダム振動分の幅を上記間隔に加えて使用する。しかし、ワイヤ電極と被加工物との距離を大きくとると加工に必要な電圧が高くなる。高電圧による放電加工面は面粗度が荒れやすくなるという問題があった。
これに対して、実施の形態にかかるワイヤ放電加工機によれば、ワイヤ電極1の振動方向を一方向に制限することができるので、ワイヤ電極1の振動方向と垂直な方向を放電加工に使用することが可能となる。これにより、ランダム振動分の幅を考慮する必要がないので従来のワイヤ放電加工機よりワイヤ電極1と被加工物51との距離を近づけることができ、加工電圧を下げることができる。したがって、低電圧の放電加工が可能になり、面粗度が小さい加工面が得やすくなる。
さらに、実施の形態にかかるワイヤ放電加工機のように、極間を形成するワイヤ電極1の振動方向を一方向に集中させて、振動方向と垂直な方向を放電加工に使用することで、被加工物51とワイヤ電極1との放電範囲の幅が振動方向に沿って広くなる。
すなわち、実施の形態にかかるワイヤ放電加工機では、加工面と平行な方向に振動方向を向けて加工することにより、加工経路に沿って従来のワイヤ放電加工機より広い加工範囲で連続加工することができ、加工経路方向に凹凸変動が少ない滑らかな加工面が得やすくなる。さらに、振動方向と直交する方向の振動成分が抑制される効果も相まって、加工面の筋の発生を抑制することができる。
図8は、実施の形態にかかるワイヤ放電加工機により平面経路を加工する様子を説明した模式図である。図8は、実施の形態にかかるワイヤ放電加工機による六面体51aの加工を想定した模式図である。
被加工物から六面体51aを切り出すため、図8のように六面体51aの各加工面に沿った加工方向にワイヤ電極1を移動させる。加工方向は、加工指令プログラムにより指令される加工の進行方向である。このとき極間を形成するワイヤ電極1の振動方向1011〜1014が六面体51aの各加工面と平行になるように制御して加工を行う。
図8のように加工方向に従って途中で加工面の方向が変化する場合も、ワイヤ電極1の振動の方向が加工面と平行な振動方向1011、振動方向1012、振動方向1013、振動方向1014と切り替わるように、上部ガイドダイス駆動装置400および下部ガイドダイス駆動装置500の少なくとも一方を制御部150が制御して加工を継続する。
極間を形成するワイヤ電極1の振動方向1011〜1014を加工面と平行に制御しながら連続して放電加工を継続するために、制御部150は、加工指令プログラムとは別に加工制御プログラムを備える。加工制御プログラムは、加工指令プログラムと連携して極間を形成するワイヤ電極1の振動方向を決定して制御部150から上部ガイドダイス駆動装置400および下部ガイドダイス駆動装置500に指令を出させるためのプログラムである。すなわち、加工制御プログラムは、加工指令プログラムが指令する加工方向と平行なワイヤ電極1の振動方向を実現するために上部ガイドダイス駆動装置400が上部位置決めダイス43から上部ガイドダイス44bをXY方向内に変位させる方向を示す指令と、上記加工方向と平行なワイヤ電極1の振動方向を実現するために下部ガイドダイス駆動装置500が下部位置決めダイス63から下部ガイドダイス64aをXY方向内に変位させる方向の指令と、を制御部150に出力させるプログラムである。制御部150は、加工指令プログラムに指令された上記加工方向に沿った加工面とワイヤ電極1の振動方向が平行となるように振動方向を決定して、上記加工制御プログラムを用いて上部ガイドダイス駆動装置400および下部ガイドダイス駆動装置500の少なくとも一方に上記指令を出力する。
制御部150が実行する上記制御の結果、加工指令プログラムが指令する加工方向に平行な各加工面と、ワイヤ電極1の振動方向1011〜1014のそれぞれが平行になるように、上部ガイドダイス44bの変位方向および下部ガイドダイス64aの変位方向の少なくとも一方が上記加工方向と平行になるように制御される。すなわち、上部位置決めダイス43と下部位置決めダイス63とに張られたワイヤ電極1の軸方向に垂直なXY方向内における、上部ガイドダイス44bの変位方向および下部ガイドダイス64aの変位方向の少なくとも一方が上記加工方向と平行になるように制御される。
図9は、実施の形態にかかるワイヤ放電加工機により曲面経路を加工する様子を説明した模式図である。図9は、実施の形態にかかるワイヤ放電加工機による円柱51bの加工を想定した模式図である。
被加工物から曲面形状を有する円柱51bを切り出すため、図9のように円柱51bの曲面に沿った加工方向にワイヤ電極1を移動させる。このとき極間を形成するワイヤ電極1の振動方向1021〜1023が円柱51bの曲面の接線方向と平行になるように制御して加工を行う。
図9のように加工方向が示す加工経路に従って刻々と加工曲面の接線方向が変化する場合も、ワイヤ電極1の振動の方向が加工曲面の接線方向と平行な振動方向1021、・・・振動方向1022、・・・振動方向1023と切り替わるように、上部ガイドダイス駆動装置400および下部ガイドダイス駆動装置500の少なくとも一方を制御部150が制御して加工を継続する。
図8の場合と同じく、極間を形成するワイヤ電極1の振動方向1021〜1023を加工曲面の接線方向と平行に制御しながら連続して放電加工を継続するために、制御部150は、加工指令プログラムに指令された上記加工方向に沿った加工曲面の接線方向とワイヤ電極1の振動方向が平行となるように振動方向を決定する。そして、制御部150は、上記加工制御プログラムを用いて上部ガイドダイス駆動装置400および下部ガイドダイス駆動装置500の少なくとも一方に上記指令を出力する。
制御部150が実行する上記制御の結果、加工指令プログラムが指令する加工方向に平行な加工曲面の各接線方向と、ワイヤ電極1の振動方向1021〜1023のそれぞれが平行になるように、上部ガイドダイス44bの変位方向および下部ガイドダイス64aの変位方向の少なくとも一方が上記加工方向と平行になるように制御される。
図10は、実施の形態にかかるワイヤ放電加工機によりコーナーを加工する様子を説明した模式図である。図10は、実施の形態にかかるワイヤ放電加工機によって、微小半径でコーナー加工する必要がある開口部である穴610を有した加工物51cの穴加工を想定した模式図である。
加工指令プログラムが穴加工を指令する場合も、図10に示すように穴610の内面において加工指令プログラムにより指令された加工方向にワイヤ電極1を移動させる。このとき極間を形成するワイヤ電極1の振動方向1031〜1034が加工方向と平行になるように制御して加工を行う。
図10のように加工方向に従って途中で加工面の方向が変化する場合も、ワイヤ電極1の振動の方向が加工面と平行な振動方向1031、振動方向1032、振動方向1033、振動方向1034と切り替わるように、上部ガイドダイス駆動装置400および下部ガイドダイス駆動装置500の少なくとも一方を制御部150が制御して加工を継続する。
最初に、加工指令プログラムが指令する加工方向と平行な振動方向1031にワイヤ電極1が振動しつつ加工が実行されてコーナー611に到達する。コーナー611において、ワイヤ電極1の振動方向は振動方向1032に切り替わって、その後、加工指令プログラムが指令する次の加工方向と平行な振動方向1032にワイヤ電極1が振動しつつ加工が実行される。以後、コーナー612,613毎に振動方向を切り替え、加工方向に沿ってワイヤ電極1を移動させる。
すなわち、図10においても、加工指令プログラムが指令する加工方向に平行な各加工面と、ワイヤ電極1の振動方向1031〜1034のそれぞれが平行になるように、上部ガイドダイス44bの変位方向および下部ガイドダイス64aの変位方向の少なくとも一方が上記加工方向と平行になるように上記加工制御プログラムを用いて制御部150が制御する。すなわち、コーナー611の加工前と加工後とで、制御部150は、上部ガイドダイス44bの変位方向および下部ガイドダイス64aの変位方向の少なくとも一方を切り替えるように制御する。コーナー612,613においても同様である。このようにして、穴610の内側のコーナー611〜613を加工する場合も、コーナー611〜613それぞれの前後でワイヤ電極1の振動方向を切り換えることができるので、穴610の内側の加工面においても加工による筋の発生を抑制することができる。また、実施の形態にかかるワイヤ放電加工機によれば、ワイヤ電極1の振動方向を一方向に制限できるので、ワイヤ電極1と被加工物との距離を近づけることができる。したがって、コーナー611〜613のコーナーアールを小さく加工することができる。すなわち、微小半径でのコーナー加工を高い精度で実現することが可能になる。
なお、ワイヤ放電加工機に小型の光センサーを設け、ガイドダイス可動部の変位を検出して、駆動信号にフィードバックすることによりワイヤ電極1の振動量の制御も可能となる。具体的には、光センサーの光源が出射する光に対する反射率が異なる高反射率面および低反射率面の二面を有する変位検出用の反射シートを、ガイドダイス可動部上の二箇所に設ける。一つ目の反射シートを高反射率面と低反射率面とがX軸方向に並ぶように一箇所に設け、二つ目の反射シートを高反射率面と低反射率面とがY軸方向に並ぶように別の箇所に設ける。さらに上記の反射シートに対向する位置に光センサーをそれぞれ設ける。光センサーは、LED(Light Emitting Diode)の光源と光検知部とを有し、光源から出射された後に反射シートで反射された光を光検知部で受光して反射光量を検出する機能を有する。このような構成により、ガイドダイス可動部の変位量を反射光量の増減に基づいて検出することができる。検出されたX軸方向およびY軸方向の変位量に基づいて、ガイドダイス駆動用の電磁コイルへの印加電流の電流量を制御部150が制御することにより、ガイドダイス可動部の振動量を制御することができる。その結果、ワイヤ電極1の振動量の制御が可能となる。
図11は、実施の形態にかかるワイヤ放電加工機の制御部150をコンピュータシステムで実現する場合のハードウェア構成を示す図である。ワイヤ放電加工機の制御部150の機能をコンピュータシステムで実現する場合、制御部150の機能は、図11に示すようにCPU(Central Processing Unit)701、メモリ702、記憶装置703、表示装置704および入力装置705により実現される。
制御部150の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせは、プログラムとして記述されて記憶装置703に格納される。CPU701は、記憶装置703に記憶された上記プログラムをメモリ702に読み出して実行することにより、制御部150の機能を実現する。すなわち、制御部150は、制御部150の機能がコンピュータにより実行されるときに、制御部150の機能を実施するステップが結果的に実行されることになる上記プログラムを格納するための記憶装置703を備える。また、上記プログラムは、制御部150の機能が実現するワイヤ放電加工の方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。したがって、上記プログラムの具体例は上述した加工指令プログラムおよび加工制御プログラムである。入力装置705の具体例は、キーボード、マウス、タッチパネルなどである。表示装置704の具体例は、モニタ、ディスプレイなどである。メモリ702の具体例は、RAM(Random Access Memory)といった揮発性の記憶領域が該当する。記憶装置703の具体例は、不揮発性の半導体メモリ、磁気ディスクが該当する。
このように、実施の形態にかかるワイヤ放電加工機によれば、加工指令プログラムと連携してワイヤ電極1の振動方向を制御することが可能となるので、加工面とワイヤ電極1との距離を安定に保ち、ワイヤ電極1と被加工物との短絡を防いで、ワイヤ電極1の振動による加工凹凸の発生を抑制する。さらに、加工面との距離を縮小することが可能になり低電圧加工による低粗度加工が容易になる。また加工面に沿って振動方向を保持するため放電範囲も加工面に沿って広くすることになり加工筋の発生を抑制することができる。
実施の形態にかかるワイヤ放電加工機によれば、上記したように加工精度の向上が図れるので、仕上げ加工のために被加工物を他の加工機に移動させて、再度基準出しの調整を行うなどの作業が不要となる。すなわち、高精度加工における自動連続加工を可能にするという効果を奏する。したがって、荒加工から仕上げ加工までを一台のワイヤ放電加工機を用いて連続運転して実施することが可能になる。
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。