以下、本発明による往復動ピストンポンプの好適な実施形態について添付図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係る往復動ピストンポンプを示す縦断面図、図2は、図1中のピストンパッキンを示す縦断面図、図3は、図2に示すピストンパッキンの分解斜視図である。本実施形態の往復動ピストンポンプは、例えば、動力噴霧機等を始めとした機器に用いられるものであり、例えば、ユニフロー式ピストンポンプや強制弁式ピストンポンプとも呼ばれるものである。また、往復動ピストンポンプに用いられる使用液としては、用途に応じて種々の液体が用いられ、例えば、細砂等の不純物を含む用水路水や高温水が用いられることもある。
図1に示すように、往復動ピストンポンプ100は概略、図示右側から左側に向かって、クランクケース1、吸水側マニホールド2、シリンダパイプ3、吐出側マニホールド4をこの順に連結して備えている。クランクケース1の内部には、クランク軸5、コンロッド6が配置され、クランクケース1からシリンダパイプ3に亘る内部には、ピストン棒7が配置される。ピストン棒7は、コンロッド6を介してクランク軸5に連結される。そして、外部の例えばエンジンやモータ等から入力された動力によりクランク軸5が回転駆動し、コンロッド6を介して、ピストン棒7がシリンダパイプ3内を往復動する。
なお、図1において中心線Cより上側部分はクランク軸5の回転によりピストン棒7が前進する吐出工程において上死点に位置した状態を示し、中心線Cより下側部分はクランク軸5の回転によりピストン棒7が後退する吸水工程において下死点に位置した状態を示す。
クランクケース1内には、潤滑油が充填されており、ピストン棒7が通る位置には、当該ピストン棒7に摺接しクランクケース1内の潤滑油の吸水側マニホールド2側への漏洩を防止するためのオイルシール8が配設される。また、吸水側マニホールド2内には、ピストン棒7に摺接し吸水側マニホールド2側の使用液のオイルシール8側への漏洩を防止するためのシールパッキン9が配設される。また、吸水側マニホールド2には、使用液を内部に吸い込むための吸水口15が設けられている。
シリンダパイプ3内には、ピストン棒7と共に軸線方向に往復動し、シリンダパイプ3の先端側に形成されたポンプ室10への流路を閉開すると同時にポンプ作用によりポンプ室10を加圧/減圧する吸水弁機構11が設けられる(詳しくは後述)。
また、吐出側マニホールド4内でポンプ室10の先端部には、吸水弁機構11のポンプ作用によるポンプ室10の加圧/減圧に従い流路を開閉し、開によりポンプ室10内の使用液を室外に吐出する吐出弁12が設けられる。なお、吐出側マニホールド4には、ポンプ作用により吐出される使用液の圧力を調節する調圧弁13が設けられると共に、ポンプ作用により吐出される使用液の脈動を緩衝する空気室14が設けられる。
吸水弁機構11は、吸水弁20、図1〜図3に示すように、シリンダパイプ3の内周面に摺接するパッキン部21a及び吸水弁20に当接可能な吸水弁座21pを備えたピストンパッキン21、図1に示すように、ストッパ22を主体として備え、ストッパ22と吸水弁20とはカラー23を介して離間配置される。吸水弁20は、ピストン棒7に貫通された円板であり、ストッパ22は、ピストン棒7に貫通された円板であり、前後方向に貫通し前後を連通する通孔22aが周方向に沿って複数個離間して設けられる。
そして、ピストン棒7の基端側(図示右側)から、吸水弁20、カラー23、ストッパ22がこの順に嵌装され、ピストン棒7の先端に形成された雄螺子に対しナット25が螺合し締め込まれることにより、吸水弁20が、ピストン棒7に形成された大径の段差部7bに突き当てられ、これらの部材20,22,23が、段差部7bとナット25の間に挟持・固定される。
図2に示すように、ピストンパッキン21は、略円筒状に構成され、パッキン部21aと、吸水弁座21pと、を備える。吸水弁座21pは、内周側を形成する内周筒部21bと、内周筒部21bより外周側且つパッキン部21aの後端面に当接するように配置され、吸水弁20に当接可能であると共にその内周面の軸線方向途中から後方側が拡径する拡径面21kを有するプレート21cと、有し、カラー23に外挿される(図1参照)。
パッキン部21aは、例えば、エラストマーや樹脂(例えば充填剤入フッ素樹脂、PEEK、超高分子量ポリエチレン等)より構成される。図2及び図3に示すように、パッキン部21aは、略矩形断面を有するリング状を呈すると共に、先端側の内周面が後方へ凹設され、内周筒部21bの後述の鍔部21dに当接する凹設面21eとされる。パッキン部21aの前半部の外周面は、先端を頂点として後方へ行くに従い徐々に縮径するテーパ面に構成されており、先端部21mがシリンダパイプ3の内周面に摺接する摺接部となっている。また、パッキン部21aの後端部の外周縁部には、軸線方向前側且つ内側へ凹むと共に、プレート21cの外周側の前面に面する窪み21nが円環状に設けられる。
プレート21cは、略円筒状を呈し、例えば、樹脂(例えば充填剤入フッ素樹脂、PEEK、超高分子量ポリエチレン等)より構成される。プレート21cの後部側の内周縁は、後に行くに従いテーパ状に拡径する拡径面21kとされている。また、プレート21cの外周面とシリンダパイプ3の内周面との間には、予め定められた微小隙間が設けられている。微小隙間は、ここでは、特に好ましいとして、0.05〜0.1mm程度に設定されている。
内周筒部21bは、段付き略円筒状を呈し、例えばステンレス等より構成される。内周筒部21bは、先端側から後端側へ向けて、図2に示すように、鍔部21d、パッキン部嵌挿部21f、プレート嵌挿部21g、抜け止め部21hをこの順に備える。鍔部21dは、円筒状の先端で円環状に径方向外方に突出する。
鍔部21dの後に連設されたパッキン部嵌挿部21fは、パッキン部21aを外嵌挿する部分であり、その外径は、パッキン部21aの内径を変形させることなく挿入できる寸法となっている。
パッキン部嵌挿部21fの後に連設され、段差21jを介して外周面が小径とされたプレート嵌挿部21gは、プレート21cを外嵌挿する部分である。
プレート嵌挿部21gの後に連設された抜け止め部21hは、プレート嵌挿部21gに嵌挿されたプレート21cが後方へ抜け出ないように当該プレート21cの拡径面21kに当接するものである。ここでは、前述のように、プレート21cの後部側の内周縁は、後に行くに従いテーパ状に拡径する拡径面21kとされているため、抜け止め部21hは、拡径面21kに当接するテーパ状の拡径形状とされている。なお、プレート21cの後端面が、吸水弁20に当接することになるため、抜け止め部21hは、プレート21cの後端面より後方ヘ出ないように構成されている。
次に、ピストンパッキン21の製造方法を図3を参照しながら説明する。先ず、パッキン部21aを、内周筒部21bのパッキン部嵌挿部21fに外嵌挿し、パッキン部21aの先端側となる凹設面21eを内周筒部21bの鍔部21dに突き当て、プレート21cを、内周筒部21bのプレート嵌挿部21gに外嵌挿し、段差21j及びパッキン部21aに突き当て、最後に、プレート嵌挿部21gから後方へそのまま延びる延在部21i(図2中の点線参照)を、プレート21cの拡径面21kに当接するようにかしめれば、抜け止め部21hが形成されることになる。
このように、本実施形態のピストンパッキン21の製造方法によれば、内周筒部21bに対して、パッキン部21a、プレート21cを順次差し込み、最後に、延在部21iをかしめて抜け止め部21hを形成するようにしているため、パッキン部21aを変形させることなく且つ組み立てを容易にできるようになっている。
そして、このようにして得られたピストンパッキン21を有する往復動ピストンポンプ100にあっては、図1に示すように、ピストンパッキン21の内周筒部21b(図2参照)の内周面とカラー23の外周面との間に円環状の隙間C1が形成され、ピストンパッキン21は、吸水弁20とストッパ22との間に遊嵌され、軸線方向に移動可能とされている。
このような構成を有する吸水弁機構11にあっては、パッキン部21aがシリンダパイプ3の内周面に摺接し、プレート21cの外周面とシリンダパイプ3の内周面との間には、前述した微小隙間が設けられている。また、ストッパ22の外周部の後端面が、内周筒部21bの鍔部21dの前面に対向する位置関係にある。そして、図1の中心線Cより下側部分に示すように、ストッパ22の外周部の後端面が、ピストンパッキン21の前面に当接したときに、吸水弁20とピストンパッキン21(プレート21c)の後面との間に隙間C2が円環状に形成される構成となっている。
このような往復動ピストンポンプ100において、クランク軸5の回転駆動によりピストン棒7がシリンダパイプ3内を往復動し、上死点から下死点へ移動する吸水工程(図1の中心線Cより上側部分参照)と、下死点から上死点へ移動する吐出工程(図1の中心線Cより下側部分参照)を繰り返す。ここで、吐出工程から吸水工程に切り替わると、図1の中心線Cより下側部分に示すように、ピストン棒7が軸線方向後方へ移動し、吸水弁20がピストンパッキン21(正確にはプレート21c)から離座し、ストッパ22とピストンパッキン21(正確には鍔部21d)とが当接する。これにより、吸水弁20とピストンパッキン21との間に隙間C2が生じて流路が開となり、隙間C2と隙間C1とが連通し、さらに通孔22aが連通し、吸水側マニホールド2の吸水口15から流入した使用液は、隙間C2を通して隙間C1に流入し、ポンプ室10へ向かう。そして、ピストンパッキン21は、パッキン部21aがシリンダパイプ3の内周面に摺接した状態で、ピストン棒7と共に軸線方向後方へ移動するストッパ22に連行されて後方へ移動する。ポンプ室10では、流入する使用液により容積が増大し減圧されて負圧となる。
また、吸水工程から吐出工程に移行すると、図1の中心線Cより上側部分に示すように、ピストン棒7が軸線方向前方へ移動し、ストッパ22とピストンパッキン21とが離間し、吸水弁20がピストンパッキン21に当接着座し、隙間C2がなくされ流路が閉となる。そして、ピストンパッキン21は、パッキン部21aがシリンダパイプ3の内周面に摺接した状態で、ピストン棒7と共に軸線方向前方へ移動する吸水弁20に連行されて前方へ移動する。ポンプ室10では、ピストン棒7の軸線方向前方への移動により加圧され、ポンプ室10内の使用液は、吐出弁12を介して、吐出側マニホールド4の吐出口16から外部へ吐出される。
なお、本実施形態では、図2に示すように、プレート21cの後部側の内周縁が、後に行くに従いテーパ状に拡径する拡径面21kとされていて、プレート嵌挿部21gから後方へそのまま延びる延在部21iをプレート21cの拡径面21kに当接するようにかしめて抜け止め部21hを形成しているが、プレート嵌挿部21gの後端に、別部材より成る抜け止め部を例えばロウ付け等で固定し連設するようにしても良い。また、プレート21cの拡径面21kを、テーパ状ではなく、直角に拡径する段差面(拡径面)とし、抜け止め部21hを、プレート嵌挿部21gの後端に直角に連設され、プレート21cの段差面に当接する構成としても良い。この場合には、プレート嵌挿部21gの延在部21iを直角にかしめて、プレート21cの段差面に当接させても良く、また、別部材より成る抜け止め部を、プレート嵌挿部21gの後端と直角を成すように例えばロウ付け等で固定し連設するようにしても良い。
このように、本実施形態においては、パッキン部21aが、内周筒部21bのパッキン部嵌挿部21fに外嵌挿されパッキン部21aの先端側が内周筒部21bの鍔部21dに突き当てられ、プレート21cが、内周筒部21bのプレート嵌挿部21gに外嵌挿され、段差21j及びパッキン部21aに突き当てられ、プレート嵌挿部21gの後に、プレート嵌挿部21gに嵌挿されたプレート21cが後方へ抜け出ないように、当該プレート21cの拡径面21kに当接する抜け止め部21hが連設されることを可能とする構成となっている。すなわち、内周筒部21bに対して、パッキン部21a、プレート21cが順次差し込まれ、最後に、抜け止め部21hが連設され、ピストンパッキン21が得られるようになっており、パッキン部21aを変形させることなく且つ組み立てを容易にできるようになっている。
また、抜け止め部21hは、プレート嵌挿部21gの後方への延在部21iがかしめられることにより設けられているため、別部材より成る抜け止め部を例えばロウ付け等でプレート嵌挿部21gの後端に連設するよりも形成が容易となっている。
また、プレート21cは、樹脂製であり、プレート21cの外周面とシリンダパイプ3の内周面との間には、予め定められた微小隙間が設けられているため、シリンダパイプ3の内周面を摺接するパッキン部21aが多少摩耗すると、プレート21cが、シリンダパイプ3の内面に接触することになり、その結果、樹脂より成るプレート21cがシリンダパイプ3と接触してもシリンダパイプ3に傷を付けることがなくパッキン部21aの摩耗を抑制でき、パッキン部21aのバックアップや往復時の径方向のガイドの役割を果たすことができる。
また、プレート21cの後部側の内周縁は、後に行くに従いテーパ状に拡径する拡径面21kとされ、抜け止め部21hは、プレート嵌挿部21gの後端に連設され拡径面21kに当接する構成のため、プレート21cの吸水弁20に対する接触時の密着面積(円環状の面積)を低減でき、貼り付きによる吸水弁20の作動不良(異音、振動発生)を防止できる。
また、本実施形態によれば、パッキン部21aの後端部の外周縁部には、軸線方向前側且つ内側へ凹むと共に、プレート21cの前面に面し、シリンダパイプ3内を流れる使用液が、プレート21cとシリンダパイプ3の内周面との間の微小隙間を通して進入可能な窪み21n(図2及び図3参照)が設けられているため、窪み21nに進入した使用液により、パッキン部21aが後部から冷却と潤滑の面で補助されることになり、パッキン部21aを長寿命化できポンプの耐久性を向上できる。
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、上記実施形態においては、吸水工程時において、ストッパ22と吸水弁座21pの鍔部21dが当接するタイプとしているが、例えば特開2014−224469号公報に記載のような、ストッパの後部の突出部とパッキン部の前部が当接するタイプに対しても適用できる。
また、上記実施形態においては、特に好ましいとして、往復動ピストンポンプを動力噴霧機に対して適用した例を述べているが、他の機器に対しても適用できる。