以下、本発明の一実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。はじめに、本発明に係る搬送装置を備えた板ガラスの製造装置の概略について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る板ガラスの製造装置1は、最上流域に配置された溶融ガラスの供給源としての溶融窯2と、溶融窯2の下流側に配設される清澄室3と、清澄室3の下流側に配設され、主として溶融ガラスの粘度調整を行うポット4と、ポット4の下流側に配設され、溶融ガラスから板ガラスを成形する成形装置5と、溶融窯2から成形装置5に至る(本実施形態では清澄室3からポット4に至る)搬送流路6、及び搬送流路6上に配設され、清澄室3側からポット4側に溶融ガラスを搬送する搬送装置7とを備える。
搬送装置7は、清澄室3から流出した溶融ガラスを撹拌混合しながら成形装置5側(本実施形態ではポット4)に搬送するもので、搬送流路6の上流側を構成する第一の搬送流路6aを介して清澄室3と接続される第一の撹拌装置8と、搬送流路6の下流側を構成する第二の搬送流路6bを介してポット4に接続される第二の撹拌装置9と、第一の撹拌装置8と第二の撹拌装置9とを接続する連通路10とを備える。
成形装置5は、溶融ガラスから板ガラスのベースとなるガラスリボンを連続的に成形する装置であり、例えば、オーバーフローダウンドロー法による成形を実行する装置、スロットダウンドロー法による成形を実行する装置等が採用される。なお、成形装置5は、板ガラス以外のガラス製品を成形する装置であってもよく、一例として、ダンナー法によって溶融ガラスからガラス管、あるいは、ガラス棒を連続的に成形する装置であってもよい。
上記構成をなす板ガラスの製造装置1を用いて板ガラスを製造するにあたっては、まずガラス原料を溶融窯2に投入して溶融ガラスとする。次いで溶融ガラスを清澄室3で清澄し、続いて搬送装置7で溶融ガラスを清澄室3からポット4に搬送すると共に、その搬送途中で、第一及び第二の撹拌装置8,9により溶融ガラスを撹拌混合する。然る後、撹拌混合された溶融ガラスを、ポット4を経て成形装置5に供給し、溶融ガラスから板ガラスを連続的に成形する。このようにして板ガラスの製造が連続的に実施される。
次に、搬送装置7の詳細を主に図2から図4に基づいて説明する。
搬送装置7は、二つの撹拌装置8,9を所定の態様で配列並びに接続してなるもので、具体的には、第一の撹拌装置8と第二の撹拌装置9とは搬送流路6の上下流方向に隣り合わせて配設される。言い換えると、図2に示すように、第一の撹拌装置8と第二の撹拌装置9との間に他の撹拌作用を奏する装置が介在することなく、第一の撹拌装置8と第二の撹拌装置9とが連通路10を介して直接に接続されている。
ここで、第一の撹拌装置8は、第一の撹拌槽11と、第一の撹拌槽11の内部に収容される第一のスターラー12とを備える。第一の撹拌槽11の上流端(図2でいえば上側)には、溶融ガラスの第一の撹拌槽11内への流入を可能とする第一の流入口13が設けられると共に、第一の撹拌槽11の下流端(図2でいえば下側)には、溶融ガラスの第一の撹拌槽11外への流出を可能とする第一の流出口14が設けられる。第一の流入口13は第一の搬送流路6aと接続され、第一の流出口14は連通路10と接続される。
また、第二の撹拌装置9は、第二の撹拌槽15と、第二の撹拌槽15の内部に収容される第二のスターラー16とを備える。第二の撹拌槽15の上流端(図2でいえば上側)には、溶融ガラスの第二の撹拌槽15内への流入を可能とする第二の流入口17が設けられると共に、第二の撹拌槽15の下流端(図2でいえば下側)には、溶融ガラスの第二の撹拌槽15外への流出を可能とする第二の流出口18が設けられる。第二の流入口17は連通路10と接続され、第二の流出口18は第二の搬送流路6bと接続される。
このうち、第一の撹拌装置8を構成する第一の撹拌槽11は円筒状をなすもので、その内壁11aもまた円筒形状をなす(何れも図3を参照)。内壁11aの少なくとも表層部は、例えば白金又は白金合金で形成されている。第一のスターラー12は、その回転中心X1が第一の撹拌槽11の中心線、より正確には内壁11aの中心線と一致するように配設されている。
第一のスターラー12は、図2及び図3に示すように、軸19と、軸19の長手方向(図2でいえば上下方向)に沿って取り付けられた複数の撹拌翼20とを備えている。軸19及び各撹拌翼20の少なくとも表層部は、例えば白金又は白金合金で形成されている。このスターラー12は、軸19の回転に伴って複数の撹拌翼20を軸19まわりで旋回させて第一の撹拌槽11内の溶融ガラスを撹拌する構成となっている。なお、本実施形態では、軸19に対して四枚の撹拌翼20が取り付けられる形態となっているが、撹拌翼20の枚数は適宜増減させてもよい。
軸19は、溶融ガラスの第一の撹拌槽11内における上下流方向(図2でいえば上下方向)に伸びた丸棒として形成される。軸19の上端部には図示しない駆動源(例えばモーター)が接続されており、駆動源の駆動に伴って、軸19が所定の向き(図3に示すように軸19を平面視した状態でいえば、時計回り)に回転するようになっている。なお、軸19の下端部は、上端部とは異なり自由端となっており、第一の撹拌槽11内に位置している。
複数の撹拌翼20は、本実施形態では、軸19の長手方向に沿って等間隔で取り付けられている。また、図4に示すように、軸19まわりの回転時に、軸19の上端側の撹拌翼20ほど、下端側の撹拌翼20に対して、軸19まわりでの位相が遅れるように取り付けられている。詳述すると、上下で隣り合う両撹拌翼20,20の間で、相対的に上方側の撹拌翼20は、相対的に下方側の撹拌翼20に対して、角度θの分だけ軸19まわりでの位相が遅れるようになっている。この図示例では、最も位相が進む最下段の撹拌翼20から最も位相が遅れる最上段の撹拌翼20まで、同じ角度θの分ずつ順次に位相が遅れるように、各撹拌翼20が軸19の円周方向所定位置に取り付けられている。
上記の位相の関係により、複数の撹拌翼20が軸19まわりを旋回するのに伴い、軸19近傍で下方から上方に向かう溶融ガラスの上昇流れが形成される。そして、当該上昇流れが、第一の撹拌槽11内での本来的な流れである上方から下方に向かう溶融ガラスの下降流れと、撹拌翼20の旋回に伴って生じる円周方向の旋回流れと合わさることで、軸19の半径方向に沿った流れが生じる。これにより、図2に実線矢印で示すように、軸19近傍を流れる溶融ガラスの一部と、内壁11a沿いを流れる溶融ガラスの一部とが置換され得る。
ここで、溶融ガラスの上昇流れを好適に形成するため、上記の角度θの値は、10°〜80°の範囲内とすることが好ましい。なお、本実施形態では、角度θの値を70°としている。
複数の撹拌翼20はそれぞれ、軸19を基準として対称(軸19の中心線を基準として軸対称)に配置された一対の翼体20aを備えている。これにより、本実施形態に係るスターラー12においては、その全体の重心が軸19上に位置している。一対の翼体20aの各々は、縦置き姿勢とされた矩形の板状をなし、各翼体20aには二つの貫通開口部20a1が形成されている。各貫通開口部20a1は、相互に同一な矩形に形成されると共に、翼体20aの旋回方向(本実施形態では、翼体20aの厚み方向に等しい)に沿って翼体20aを貫通している。各翼体20aの先端部20a2は、軸19の長手方向に沿って伸びている。先端部20a2における軸19の長手方向に沿った長さL1は、軸19の外径寸法D1よりも長くなっている。第一の撹拌槽11の内壁11aと各翼体20aの先端部20a2との間には、所定の隙間C1が形成される。
上記構成の先端部20a2および貫通開口部20a1は、複数の撹拌翼20が軸19まわりを旋回するのに伴い、第一の撹拌槽11の内壁11a沿いを流れる溶融ガラスに付与されるせん断力を増大させる作用を奏する。
ここで、貫通開口部20a1を溶融ガラスに通過させ易くする観点から、各翼体20aにおける貫通開口部20a1の開口率は、30%以上とすることが好ましい。ここで、「開口率」とは、翼体20aの元となる矩形の板状体(貫通開口部20a1が未形成の状態の板状体)をその厚み方向から見たときの面積に対し、貫通開口部20a1の開口面積が占める割合を意味する。また、翼体20aの先端部20a2により溶融ガラスに対して好適にせん断力を作用させるため、上下で隣り合う両撹拌翼20,20の軸19の長手方向に沿った相互間の間隔Sを基準として、先端部20a2の長さL1が間隔Sの50%〜150%の長さを有することが好ましい。
また、図3に示すように、上記構成の第一のスターラー12の回転直径(第一のスターラー12のうち回転中心X1から最もその半径方向に離れた部分が描く回転軌跡Tの直径)をD2、第一の撹拌槽11の内壁11aの内径寸法をD3としたとき、D3×0.7<D2≦D3×0.9の関係を満たすように、第一の撹拌槽11及び第一のスターラー12の各寸法を設定するのがよい。また、摩擦の低減化の観点からは、D2<D3×0.85の関係を満たすのが好ましく、撹拌混合による均質化の観点からは、D3×0.75≦D2の関係を満たすのが好ましい。本実施形態でいえば、第一のスターラー12の最外径部となる一対の翼体20aの先端部20a2と接する仮想円(外接円)直径が回転直径D2に相当する。
以上、第一の撹拌装置8の構成について説明したが、第二の撹拌装置9の構成についても第一の撹拌装置8のそれと同様である。
すなわち、図2に示すように、第二の撹拌装置9を構成する第二の撹拌槽15の形状、材質は第一の撹拌槽11と同じである。また、第二のスターラー16の回転中心X2が第二の撹拌槽15の内壁15aの中心線と一致するように配設されている点も同じである。
第二のスターラー16の形状、材質についても第一のスターラー12と同じである。すなわち、第二のスターラー16は、軸21と、複数(図示例では四枚)の撹拌翼22とを備えており、図示しない駆動源(例えばモーター)により軸21を所定の向き(図示は省略するが、軸21を平面視した状態において時計回り)に回転するようになっている。
また、複数の撹拌翼22の構成並びに配置態様についても同様であり、軸21まわりの回転時に、軸21の上端側の撹拌翼22ほど、下端側の撹拌翼22に対して、軸21まわりでの位相が遅れるように取り付けられている(図2を参照)。また、複数の撹拌翼22はそれぞれ、軸21を基準として対称に配置された一対の翼体22aを備えており、各翼体22aには二つの貫通開口部22a1と、軸21の長手方向に沿って伸びる先端部22a2が設けられている。
また、上記構成の第二のスターラー16の回転直径(第二のスターラー16の回転中心X2から最もその半径方向に離れた部分が描く回転軌跡の直径)をD4、第二の撹拌槽15の内壁15aの内径寸法をD5としたとき、D5×0.7<D4≦D5×0.9の関係を満たすように、第二の撹拌槽15及び第二のスターラー16の各寸法を設定するのがよい。また、摩擦の低減化の観点からは、D4<D5×0.85の関係を満たすのが好ましく、撹拌混合による均質化の観点からは、D5×0.75≦D4の関係を満たすのが好ましい。本実施形態でいえば、第二のスターラー16の最外径部となる一対の翼体22aの先端部22a2と接する仮想円(外接円)直径が回転直径D4に相当する。
なお、第一のスターラー12の回転直径D2と第二のスターラー16の回転直径D4とは同じであってもよく、異なっていてもよい。すなわち、本実施形態では、第二のスターラー16の回転直径D4を第一のスターラー12の回転直径D2に等しくしているが、回転直径D4を回転直径D2より小さくしてもよい。もちろん、この場合においても、第二のスターラー16の回転直径D4は、D5×0.7<D4≦D5×0.9の関係を満たすことが望ましい。
連通路10は、第一の撹拌槽11の流出口14と上流側で接続し、かつ第二の撹拌槽15の流入口17と下流側で接続している。本実施形態では、連通路10は、図2に示すように、第一の撹拌槽11の流出口14と接続され、水平方向に伸びる第一水平部10aと、第一水平部10aとその下流端で接続され、鉛直下方から鉛直上方に向けて直線的に傾斜した傾斜部10bと、傾斜部10bとその上流端で接続され、水平方向に伸び、かつ第二の撹拌槽15の流入口17と下流端で接続される第二水平部10cとで構成されている。
次に、上記構成の搬送装置7を用いた溶融ガラスの搬送態様の一例を、本発明の作用効果と共に、主に図5〜図7に基づいて説明する。
まず、清澄室3から流出した溶融ガラスは第一の搬送流路6aを通過して流入口13から第一の撹拌槽11内の上側領域に流入する。そして、第一の撹拌槽11内を下方に向けて通過する際、溶融ガラスの一部又は全部は、第一の撹拌槽11と第一のスターラー12との協働により所定の撹拌作用を受け、混合される。このようにして撹拌混合された溶融ガラスは第一の撹拌槽11の下側に設けられた流出口14より第一の撹拌槽11外に流出する。流出した溶融ガラスは、連通路10を通過して流入口17から第二の撹拌槽15内の上側領域に流入する。そして、第二の撹拌槽15内を下方に向けて通過する際、溶融ガラスの一部又は全部は、第二の撹拌槽15と第二のスターラー16との協働により所定の撹拌作用を受け、混合される。このように二度にわたって撹拌混合された溶融ガラスは第二の撹拌槽15の下側に設けられた流出口18より第二の撹拌槽15外に流出する。流出した溶融ガラスは、第二の搬送流路6bを通過してポット4内に流入する。このようにして、清澄室3からポット4へ至る溶融ガラスの搬送が行われる。
ここで、本実施形態に係る溶融ガラスの搬送装置7では、第一及び第二の撹拌装置8,9を、搬送流路6の上下流方向に隣り合わせて配設して、第一の撹拌槽11の下流側に設けた溶融ガラスの流出口14と、第二の撹拌槽15の上流側に設けた溶融ガラスの流入口17とを連通路10で接続した構成とした。また、第一及び第二のスターラー12,16の回転直径D2,D4がともに、これら第一及び第二のスターラー12,16が収容される第一及び第二の撹拌槽11,15の内径寸法D3,D5の70%より大きく、かつ90%以下とした。このように構成することによって、以下の作用を奏する。
まず、流入口13から第一の撹拌槽11内に流入する溶融ガラスのうち、流入口13の上端側(鉛直方向上側)から流入する溶融ガラスG1については、図5中の矢印付き一点鎖線で示すように、第一の撹拌槽11内のうち主に第一のスターラー12の軸19近傍を下方に向けて螺旋状に流れる。よって、第一のスターラー12との間で十分な接触の機会が与えられ、有効かつ十分な撹拌作用を受ける。こうして撹拌作用を受けながら第一の撹拌槽11の下流端に至った溶融ガラスG1は、流出口14から第一の撹拌槽11外へ流出する。流出した溶融ガラスG1は、連通路10を通過した後、流入口17の下端側(鉛直方向下側)から第二の撹拌槽15内に流入する。そして、第二の撹拌槽15の内壁15a沿いを下方に向けて螺旋状に流れた後、下端に設けられた流出口18から第二の撹拌槽15外へ流出する。このようにして、流入口13の上端側から第一の撹拌槽11内に流入した溶融ガラスG1は十分に撹拌混合された状態で第二の搬送流路6bを介してポット4に至る。
次に、流入口13から第一の撹拌槽11内に流入する溶融ガラスのうち、流入口13の下端側(鉛直方向下側)から流入する溶融ガラスG2については、図6中の矢印付き二点鎖線で示すように、第一の撹拌槽11内のうち主に第一の撹拌槽11の内壁11a沿いを下方に向けて螺旋状に流れる。よって、第一のスターラー12との間で十分な接触の機会が与えられないまま、第一の撹拌槽11の下流端に至った溶融ガラスG1は、流出口14から第一の撹拌槽11外へ流出する。流出した溶融ガラスG1は、連通路10を通過した後、流入口17の上端側(鉛直方向上側)から第二の撹拌槽15内に流入する。そして、第二の撹拌槽15内のうち主に第二のスターラー16の軸21近傍を下方に向けて螺旋状に流れる。よって、第二のスターラー16との間で十分な接触の機会が与えられ、結果として有効かつ十分な撹拌作用を受ける。こうして撹拌作用を受けながら第二の撹拌槽15の下流端に至った溶融ガラスG2は、流出口18から第二の撹拌槽15外へ流出する。このようにして、流入口13の下端側から第一の撹拌槽11内に流入した溶融ガラスG1についても、十分に撹拌混合された状態で第二の搬送流路6bを介してポット4に至る。
最後に、流入口13から第一の撹拌槽11内に流入する溶融ガラスのうち、流入口13の中央側(鉛直方向中間領域側)から流入する溶融ガラスG3については、図7中の矢印付き破線で示すように、第一の撹拌槽11内のうち主にその半径方向中間領域、言い換えると第一のスターラー12の回転中心X1と内壁11aとの中間領域を下方に向けて螺旋状に流れる。この場合、溶融ガラスG3と、第一のスターラー12の撹拌翼20とが接触する機会が見込まれるが、接触の頻度やその程度については、撹拌翼20の半径方向長さ、すなわち第一のスターラー12の回転直径D2(図2及び図3を参照)に影響を受ける。ここで、第一のスターラー12の回転直径D2が第一の撹拌槽11の内壁11aの内径寸法D3に対して所定の割合以上の大きさ、具体的には70%よりも大きい値を有する場合、十分な接触の機会が与えられるので、この中間領域を下方に向けて流れる溶融ガラスG3に対して有効な撹拌作用を付与することができる。こうして撹拌作用を受けながら第一の撹拌槽11の下流端に至った溶融ガラスG3は、流出口14から第一の撹拌槽11外へ流出する。流出した溶融ガラスG3は、連通路10を通過した後、再び流入口17の中央側(鉛直方向中間領域側)から第二の撹拌槽15内に流入する。そして、第二の撹拌槽15内のうち主にその半径方向中間領域を下方に向けて螺旋状に流れる。この場合においても、第二のスターラー16の回転直径D4(図2を参照)を第二の撹拌槽15の内壁15aの内径寸法D5の70%よりも大きく設定することで、撹拌翼22と溶融ガラスG3との間で十分な接触の機会が与えられる。よって、この中間領域を下方に向けて流れる溶融ガラスG3に対して有効な撹拌作用を付与することができる。こうして、撹拌作用を受けながら第二の撹拌槽15の下流端に至った溶融ガラスG3は、流出口18から第二の撹拌槽15外へ流出する。このようにして、流入口13の上端側から第一の撹拌槽11内に流入した溶融ガラスG3についても、効果的に撹拌混合された状態で第二の搬送流路6bを介してポット4に至る。
以上より、本実施形態に係る搬送装置7によれば、各撹拌槽11,15の半径方向内側(回転中心X1,X2近傍)及び外側(内壁11a,15a近傍)を下方に流れる溶融ガラスG1,G2だけでなく、半径方向中間領域を通過する溶融ガラスG3についても効果的な撹拌作用を与えることができる。よって、搬送対象となる溶融ガラス全体を漏れなく撹拌混合し、均質化した状態で下流側(ポット4及び成形装置5側)へ搬送することが可能となる。
また、本実施形態では、第一及び第二のスターラー12,16の回転直径D2,D4を何れも、対応する第一及び第二の撹拌槽11,15の内壁11a,15aの内径寸法D3,D5の90%以下にしたので、各スターラー12,16の撹拌翼20,22と対応する各撹拌槽11,15の内壁11a,15aとの隙間C1,C2(図2を参照)を比較的大きく設定できる。これにより、撹拌翼20,22や内壁11a,15aに生じる摩擦を低減して、撹拌翼20,22や内壁11a,15aの剥がれ等に起因する耐火金属異物の発生を可及的に抑制又は防止することが可能となる。
また、本実施形態では、第一及び第二のスターラー12,16はともに、軸19,21と、軸19,21の長手方向に沿って取り付けられた複数の撹拌翼20,22とを有し、複数の撹拌翼20,22はそれぞれ貫通開口部20a1,22a1を有し、かつ軸19,21まわりに旋回する際、軸19,21の長手方向一端側の撹拌翼20,22ほど、長手方向他端側の撹拌翼20,22に対して、軸19,21まわりでの位相が遅れるように複数の撹拌翼20,22が配設されるようにした。言い換えると、上下で隣り合う両撹拌翼20,20(22,22)の間で、相対的に上方側の撹拌翼20(22)は、相対的に下方側の撹拌翼20(22)に対して、角度θの分だけ軸19(21)まわりでの位相が遅れるようにした(図4を参照)。
このように、撹拌翼20,22に貫通開口部20a1,22a1を設けることで、貫通開口部20a1,22a1の通過に伴って溶融ガラスにせん断力を作用させることができる。また、軸19,21まわりの旋回時に、軸19,21の長手方向一端側の撹拌翼20,22ほど、長手方向他端側の撹拌翼20,22に対して、軸19,21まわりでの位相が遅れるように複数の撹拌翼20,22を配設したので、これらの撹拌翼が軸まわりに回転するのに伴い、軸近傍において例えば下端側から上端側に向かう溶融ガラスの流れを形成できる。よって、この流れが、上述した通り、軸19,21の上端側から下端側に向かう溶融ガラスの流れと、円周方向の旋回流れと合わさることで、軸19,21の半径方向に沿った流れが生じ、この半径方向に沿った流れにより、軸19,21近傍の溶融ガラスと内壁11a,15a近傍の溶融ガラスとが置換され得る。従って、撹拌槽11,15の半径方向全域を流れる溶融ガラスがせん断力を受ける機会を増やして、溶融ガラスの撹拌効果を全体的に高めることが可能となる。また、溶融ガラスの撹拌性能が向上すれば、軸19,21(第一及び第二のスターラー12,16)の回転数を減少させたとしても十分に溶融ガラスを撹拌することができる。従って、これによっても、撹拌翼20,22もしくは内壁11a,15aに生じる摩擦を一層低減して、耐火金属異物の発生をより確実に防止することが可能となる。
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明に係る溶融ガラスの搬送装置は、上記実施形態には限定されることなく、本発明の範囲内で種々の形態を採ることが可能である。
例えば第一及び第二のスターラー12,16の回転直径D2,D4に関し、上記実施形態では、これら回転直径D2,D4がともに、第一及び第二の撹拌槽11,15の内壁11a,15aの内径寸法D3,D5の70%より大きく、かつ90%以下である場合を例示したが、もちろん、これには限られない。すなわち、第一及び第二のスターラー12,16のうち少なくとも一方のスターラー12(16)の回転直径D2(D4)が、対応する撹拌槽11(15)の内壁11a(15a)の内径寸法D3(D5)の70%より大きく、かつ90%以下であればよい。この関係を満たすように、各スターラー12,16の回転直径D2,D4を設定することにより、溶融ガラスを漏れなく撹拌混合することが可能となる。
また、第一のスターラー12の回転直径D2と第二のスターラー16の回転直径D4とは同じであってもよいし、異なっていてもよい。要は、上述した関係を内壁11a,15aの内径寸法D3,D5との間で満たす限りにおいて、回転直径D2,D4は任意の寸法を取り得る。
また、スターラー12(16)の撹拌翼20(22)について、上記実施形態では、矩形板状の一対の翼体20aを有し、各翼体20aに矩形状をなす二つの貫通開口部20a1が形成される場合を例示したが(図2、図4)、もちろんこれ以外の形態をとることも可能である。図8はその一例(本発明の他の実施形態)に係るスターラー(第一又は第二のスターラー)24の要部斜視図を示している。図8に示すように、このスターラー24は、軸25と、複数の撹拌翼26(図8では一つの撹拌翼26のみを示している)とを備えたもので、複数の撹拌翼26はそれぞれ、軸25を基準として対称に配置された一対の翼体26aを有する。ここで、翼体26aの形状は上記実施形態に係る翼体20a,22aと同じく矩形板状であるが、少なくとも一部の角部が曲面で面取りされている。また、各翼体26aには一つの貫通開口部26a1のみが形成されると共に、翼体26aの先端部26a2についてもその角部が曲面で面取りされている。なお、軸25まわりに旋回する際、軸25の長手方向一端側(下端側)の撹拌翼26ほど、長手方向他端側(上端側)の撹拌翼26に対して、軸25まわりでの位相が遅れるように複数の撹拌翼26が配設される点は図2等に示す実施形態の場合と同じである。
このような形状をなす翼体26a並びに貫通開口部26a1であっても、図2等に示す実施形態の場合と同様に、撹拌槽11,15(図2を参照)の半径方向全域を流れる溶融ガラスがせん断力を受ける機会を増やして、溶融ガラスの撹拌効果を全体的に高めることが可能となる。また、角部を面取りした形状とすることで、図2等に示すスターラー12,16と同じ回転直径であったとしても、撹拌翼26に生じる摩擦を低減して、耐火金属異物の発生をより確実に防止することが可能となる。
もちろん、翼体20a,22a,26aの形状、個数は任意であり、貫通開口部20a1,22a1,26a1の形状、個数も任意である。例えば図示は省略するが、複数の棒状体を組み合わせることで矩形状の貫通開口部が一又は複数個形成された矩形状の翼体を形成することも可能である。この場合、棒状体の断面形状も任意である。また、これら翼体20a,22a,26aの軸19,21,25に対する配置態様や、貫通開口部20a1,22a1,26a1の翼体20a,22a,26aに対する配置態様も任意であることはもちろんである。また、他の条件によっては、貫通開口部20a1,22a1,26a1を省略することも可能である。この場合、翼体20a,22a,26aは穴のない平坦面又は曲面を有する板状としてもよい。
また、流入口13(15)と撹拌翼20(22)との位置関係について、図2等に示す実施形態では、最も上位の撹拌翼20(22)の上端位置が、流入口13(15)の上端位置よりも低い場合を例示したが、もちろんこれには限られない。図示は省略するが、上述した撹拌作用を阻害しない範囲において、最も上位の撹拌翼20(22)の上端位置と、流入口13(15)の上端位置とが同一高さであってもよいし、最も上位の撹拌翼20(22)の上端位置が、流入口13(15)の上端位置よりも高くてもよい。
また、以上の説明では、第一及び第二の撹拌装置8,9がともに上部に溶融ガラスの流入口13,17を有し、かつ下部に溶融ガラスの流出口14,18を有する場合を例示したが、もちろんこの配置態様には限定されない。すなわち、図示は省略するが、第一及び第二の撹拌装置8,9がともに下部に流入口13,17を有し、かつ上部に流出口14,18を有してもかまわない。また、ここでいう「上部」と「下部」は、第一の撹拌槽11と第二の撹拌槽15とを同じ姿勢で並べて配置した場合に、便宜的に流入口13,17と流出口14,18との相対的な位置関係を規定する目的で使用しており、鉛直方向の上部と下部に限定されるものではない。すなわち、図2に示す構造でいえば、溶融ガラスが漏出しない限りにおいて、各撹拌槽11,15の長手方向(各スターラーの12,16の長手方向)を鉛直方向に対して傾斜させてもよく、あるいは水平にした姿勢で配設してもよい。
また、以上の説明では、二つの撹拌装置(第一及び第二の撹拌装置8,9)を備えた搬送装置7を例示したが、もちろん、三つ以上の撹拌装置を備えた搬送装置7を構成することも可能である。ただし、この場合、第三以降の撹拌装置は、第一の撹拌装置8の上流側に配設され、もしくは第二の撹拌装置9の下流側に配設されることが肝要である。すなわち、隣り合う第一及び第二の撹拌装置8,9の間に他の撹拌装置(第三以降の撹拌装置)が存在しないように配設されることが肝要である。なお、この場合、第三以降の撹拌装置の構成は任意であり、第一及び第二の撹拌装置8,9と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
また、搬送対象となる溶融ガラスの組成、温度については特に問わないが、例えば粘度が1000ポイズである場合にその粘度に相当する温度が1350℃以上となる特性を有する溶融ガラスが好適に適用可能である。すなわち、このような特性を有する溶融ガラスはいわゆる高粘性ガラスと呼ばれるものであるから、従来汎用の搬送装置(撹拌装置)であれば、十分かつ漏れなく撹拌混合することが難しいのに対し、本発明に係る搬送装置7であれば、摩擦を抑えながらも十分かつ漏れなく溶融ガラスを撹拌混合することができる。
以下、本発明の有用性を実証するための実施例(実施例1、実施例2)について説明する。
本実施例(実施例1)では、模擬実験により、図2に示す構成の搬送装置7の模型を用いて、第一の撹拌槽11の流入口13から流入する溶融ガラスに対する撹拌作用の有無及び程度を検証した。具体的には、流入口13から第一の撹拌槽11内に溶融ガラスを想定した粘性液体を流入させると共に、有色液体を流入口13の鉛直方向で異なる三つの位置、すなわち上端位置(図5)、下端位置(図6)、及び中間位置(図7)から第一の撹拌槽11に向けて流入させ(溶融ガラスに混入させ)、有色液体が混入した部分の溶融ガラスG1〜G3(図5〜図7)の消色の有無でもって、当該溶融ガラスG1〜G3の撹拌混合の程度を評価した。なお、撹拌槽11へ流入する粘性流体は、実物大の撹拌装置に流入する溶融ガラスに換算したときに、流入量が1000kg/hr、粘度が1000ポイズとなるように流量および粘度を調整した。
また、第一及び第二のスターラー12,16の回転直径D2,D4の大きさを6水準(内壁11a,15aの内径寸法D3,D5に対してそれぞれ60%、70%、75%、80%、85%、90%)用意し、各水準で有色液体が混入した部分の溶融ガラスG〜G3の消色の有無を確認した。各スターラー12,16の回転数は25rpmとした。消色の有無は撹拌槽11,15ごとに行った。なお、消色の有無を視認可能とするために、各撹拌槽11,15には透明な材料で形成したものを使用した。
表1に、第一及び第二のスターラー12,16の回転直径D2,D4の内径寸法D3,D5に対する比と、有色液体の供給位置、及び消色の有無についての結果を示す。ここで、表1中の「上端」「中間」「下端」は、有色液体の流入口における鉛直方向の供給位置、すなわち第一の撹拌槽内への流入開始位置をそれぞれ意味している。また、表1中の「○」は、対応する撹拌槽内で溶融ガラスG1〜G3の消色が視認できたことを意味し、「×」は、溶融ガラスG1〜G3の消色が視認できなかったことを意味している。
表1から分かるように、第一の撹拌槽11に流入口13の上端位置から有色液体を供給した場合(上端位置から第一の撹拌槽11内に流入する溶融ガラスG1に混入させた場合)、第一及び第二のスターラー12,16の回転直径D2,D4の全ての水準(60〜90%)において、第一の撹拌槽11内で溶融ガラスG1の消色が目視により確認された。また、流入口13の下端位置から有色液体を供給した場合、第一の撹拌槽11内では何れの水準においても溶融ガラスG2の消色は確認されなかったものの、続く第二の撹拌槽15内では全ての水準において溶融ガラスG2の消色が確認された。そして、流入口13の鉛直方向中間位置から有色液体を供給した場合、回転直径D2,D4の大きさが内径寸法D3,D5との比で90%の場合(実施例4)のみ、第一の撹拌槽11内で溶融ガラスG3の消色が確認された。また、回転直径D2,D4の大きさが内径寸法D3,D5との比で75%、80%、85%の場合(実施例1〜3)に、第二の撹拌槽15内で溶融ガラスG3の消色が確認された。これに対して、回転直径D2,D4の大きさが内径寸法D3,D5との比で70%以下の場合(比較例1,2)、何れの撹拌槽11,15内においても溶融ガラスG3の消色は確認されなかった。以上より、少なくとも図2に示す構成の搬送装置7を用いた場合、各スターラー12,16の回転直径D2,D4の大きさが内径寸法D3,D5との比で70%より大きければ、各撹拌槽11,15を通過する溶融ガラスG1〜G5を漏れなく撹拌混合して、均質化した状態で下流側のポット4又は成形装置5に搬送できることが分かった。
次に、本実施例(実施例2)では、スターラーの回転直径と、撹拌動作時にスターラーに生じるせん断応力との関係について数値解析により評価を行った。具体的には、図8に示す形状のスターラー24の回転直径D6の大きさ(ここでは、内壁11aの内径寸法D3に対する比)を50%から95%まで変化させた場合に、撹拌動作時にスターラー24の撹拌翼26の最外径部、すなわち各翼体26aの先端部26a2の外側面に生じるせん断応力の大きさを数値解析により評価した。撹拌槽への溶融ガラスの流入量は1000kg/hr、ガラスの粘度は1000ポイズとした。スターラー24の回転数は20rpmとした。
図9に、回転直径とせん断応力の解析結果との関係を示す。図9中、横軸はスターラー24の回転直径D6の内径寸法D3(図2を参照)に対する比[%]を示している。また、左側の縦軸は、撹拌動作時にスターラー24の最外径部に生じるせん断応力の大きさ[kPa]を示し、右側の縦軸は、スターラー24の表面積に対する、当該表面に生じたせん断応力の値が所定の大きさ(ここでは4kPa)を超えた領域の面積の割合[%]を示している。
図9から分かるように、スターラー24の最外径部に生じるせん断応力(図9中、黒丸で示している)は、当然ながら回転直径D6が大きいほど高い。その一方で、回転直径D6が90%以下になると、最外径部に生じるせん断応力は大幅に減少することが分かった。また、スターラー24の表面に生じるせん断応力が相対的に高い領域の割合、具体的にはせん断応力が4kPaを超える領域の割合は、回転直径D6が小さくなるにつれて減少し、特に、85%未満になると、大幅に減少することが分かった。スターラー24に生じるせん断応力は回転数に比例することから、上記知見を加味した場合、回転数は30rpm以下で適用するのがよく、好ましくは25rpm以下で適用するのがよい。
以上、実施例1及び実施例2の結果より、溶融ガラスを漏れなく均等に撹拌混合しつつ、撹拌時における耐火金属異物の発生を可及的に防止するためには、スターラーの回転直径を内壁の内径寸法との比で70%より大きく、かつ90%以下とすることが重要であることが分かった。また、耐火金属異物の発生をより確実に防止するには、回転半径の比を85%以下、より好ましくは85%未満にすることが重要であり、溶融ガラスの撹拌混合による均質化を安定的に実行するためには、回転半径の比を75%以上にすることが重要であることが分かった。