本発明を実施したポリアリレートフィルム(以下、単に「フィルム」と称する)10(図2参照)は、単層構造のフィルムである。厚みは、本例では5μm以上100μm以下の範囲内としてあるが、この範囲に限定されず、100μmよりも厚い場合もあるし、5μmよりも薄い場合もある。光学フィルムとして用いる場合のフィルム10の厚みは20μm以上100μm以下の範囲内が好ましく、例えばイヤホンなどの振動板として用いる場合のフィルム10の厚みは3μm以上50μm以下の範囲内が好ましい。
フィルム10は、ポリアリレート11(図2参照)で形成されており、ポリアリレート11の他に、添加剤として、カルボン酸残基をもつクエン酸構造部と炭素数が6以上40以下の範囲内である炭化水素基とを有する化合物(以下、添加化合物と称する)12(図2参照)を含有している。すなわち、フィルム10は、ポリアリレート11と添加化合物12とを成分として備える。後述の方法で製造する場合に、添加化合物12の含有により金属製の支持体からの剥離性が向上する。そのため、フィルム10は、フィルム面の平滑性に優れる。
ポリアリレート11は、非晶ポリアリレートであり、具体的には、芳香族に直接結合したヒドロキシル基を有するジヒドロキシル化合物と、芳香族に直接結合したカルボン酸基を有するジカルボン酸化合物との重縮合物であるポリアリレートである。このようなポリアリレート11としては、ビスフェノール残基及び芳香族ジカルボン酸残基を含むポリアリレート等が好ましく、本例ではユニチカ(株)製のUポリマー(登録商標)U−100としている。
添加化合物12としては、式(1)で示す化合物を用いることができる。式(1)で示す化合物は市販されており、本例でも市販品である理研ビタミン(株)製のポエム(登録商標)K−37Vを使用している。
式(1)で示す添加化合物12は、図1に示すように、前述のクエン酸構造部の一例としてのクエン酸構造部S1を分子の一方の末端に、前述の炭化水素基の一例としての炭化水素基S2を分子の他方の末端に備える。クエン酸構造部S1は、カルボン酸残基としての−COOHを2つ有している。このように、カルボン酸の末端の水素(H)が他の原子で置換(封止)されずに水素(H)のまま残っているものをカルボン酸残基と称する。クエン酸構造部S1はカルボン酸残基を2つ有しているが、いずれか一方の水素(H)が他の原子で置換されていてもよい。すなわちクエン酸構造部は、少なくともひとつのカルボン酸残基を備えている。このように、クエン酸構造部は、下記の式(2)〜式(4)のいずれかひとつで示す構造部である。なお、X
1は、炭化水素基またはイオン性基であり、炭化水素基は具体的には、炭素数が1以上10以下である置換もしくは無置換の炭化水素基であり、イオン性基は具体的には、ナトリウムイオン(Na
+)、カリウムイオン(K
+)、アンモニウム(NH
4+)あるいは有機イオン性基などである。
−CO−CH2−C(OH)(COOH)−CH2−COOH・・・(2)
−CO−CH2−C(OH)(COOX1)−CH2−COOH・・・(3)
−CO−CH2−C(OH)(COOH)−CH2−COOX1・・・(4)
なお、カルボン酸残基を有するクエン酸構造部は、クエン酸の部分エステル化反応、またはクエン酸の3置換エステルの部分加水分解反応により得られる。カルボン酸残基の数は必ずしも1個または2個でなくてもよく、上記の部分エステル化もしくは部分加水分解により、クエン酸のカルボン酸残基を備えていればよい。カルボン酸残基の数は、用いる添加化合物12の全体の平均値として、0.2〜3.0が好ましく、より好ましくは0.5〜2.5、特に好ましくは1.0〜2.0である。添加化合物12のカルボン酸残基の数(量)は、例えば、日本工業規格JIS K0070‐1992による化学製品の酸価測定法により酸価を求め、その酸価の測定値mg(KOH)/g(化学製品)より、添加化合物12のカルボン酸残基量に換算する、といった方法などにより求めることができる。
フィルム10は、クエン酸構造部S1を有する添加化合物12が含まれているから、フィルム面が平滑に形成されている。フィルム面が平滑であるから、フィルム10は光学フィルムとしてより好適に用いられる。また、クエン酸構造部がもつカルボン酸残基の数は、1つよりも本例のクエン酸構造部S1のように2つの方が好ましく、2つの場合の方が、フィルム10は、より平滑なフィルム面をもつ。これは、クエン酸構造部のカルボン酸残基が、例えば後述のようにSUS(Steel Use Stainless,ステンレス鋼)製の支持体を使用してフィルム10を製造する場合において、支持体の表面の酸化皮膜に存在するヒドロキシル基とポリアリレートとの相互作用を断つまたは弱める作用をもっているからと推定される。
炭化水素基S2は炭素数が17の炭化水素基であるが、炭化水素基の炭素数はこれに限定されず、6以上40以下の範囲内であればよい。炭化水素基の炭素数が6以上であることにより、5以下である場合に比べて、後述の流延膜及びフィルムの乾燥がよりはやまり、例えば周囲の気流(風)の影響で膜面及びフィルム面に発生する凹凸がより抑制される。その結果、透明性と平滑性とにより優れたフィルム10が得られる。炭化水素基の炭素数が40以下であることにより、41以上である場合に比べて、ポリアリレート11との相溶性に優れ、その結果、透明性に優れたフィルム10が得られる。
炭化水素基S1は不飽和炭化水素基であるが、添加化合物12の炭化水素基は飽和炭化水素基であっても構わない。ただし、不飽和炭化水素基である方が、飽和炭化水素基であるよりも、後述の溶剤15(図2参照)に対する溶解性に優れ、そのため、フィルム10は白濁がより抑えられた透明なフィルムとして得られるから好ましい。このように透明性に極めて優れることにより、フィルム10は光学フィルムとしてより好適に用いられるなど、広い用途展開が期待できる。
式(1)で示す添加化合物12はクエン酸構造部S1とグリセリン構造部S3とのエステル結合B1を有しており、このように、添加化合物12は、クエン酸構造部とグリセリン構造部S3とのエステル結合を有することが好ましい。グリセリン構造部S3は、グリセリンCH2(OH)−CH(OH)−CH2(OH)の主骨格部としての3つの炭素の鎖状構造を含む構造部であり、−O−CH2−CH(OH)−CH2−O−である。この例のグリセリン構造部S3は、一方の末端が、炭化水素基S2を有するカルボン酸のカルボキシル基とエステル結合を成している。したがって、クエン酸構造部S1と炭化水素基S2との間にグリセリン構造部S3が有る。このようにグリセリン構造部S3が間にあることにより、無い場合と比べて、ポリアリレート11との相溶性と前述の剥離性とにおいてより優れ、かつ、後述の流延膜及びフィルムの乾燥がよりはやまり、その結果、透明性と平滑性とにより優れたフィルム10が得られる。以上のように、式(1)の化合物は、クエン酸とオレイン酸モノグリセリドとのエステル(クエン酸モノグリセリドオレイン系)である。
添加化合物12の例としては、式(1)の化合物の他に、例えば、クエン酸とステアリン酸モノグリセリドとのエステル(クエン酸モノグリセリドステアリン系)、及び/または、クエン酸アセチル(2−エチルヘキシル)(別名はクエン酸アセチルイソヘキシルである)を部分加水分解した化合物(例えばカルボン酸残基の数を1個とした化合物)等が挙げられる。クエン酸とステアリン酸モノグリセリドとのエステルは市販されており、市販品としては例えば理研ビタミン(株)製のポエム(登録商標)K−30がある。クエン酸アセチル(2−エチルヘキシル)も市販されており、ユングブンツラワー・ジャパン(株)製CITROFOL(登録商標)AHIIがある。
添加化合物12の質量割合は、0.1%以上2%以下の範囲内であることが好ましく、本例でもこの範囲内にしている。添加化合物12の質量割合とは、ポリアリレート11に対する添加化合物12の質量割合である。すなわち、添加化合物12の質量をM12とし、ポリアリレート11の質量をM11とするときに、添加化合物12の質量割合(単位は%)は、(M12/M11)×100で算出している。添加化合物12の質量割合が0.1%以上であることにより、0.1%未満である場合に比べて、より平滑なフィルム面のフィルム10となる。添加化合物12の質量割合が2%以下であることにより、2%を超える場合に比べて、白濁がより抑えられた透明なフィルム10となる。添加化合物12の質量割合は、0.1%以上1.5%以下の範囲内であることがより好ましい。フィルム10における添加化合物12の質量割合は、後述のドープ21(図2参照)における添加化合物12の質量割合と概ね同じになる。
フィルム10には、ポリアリレート11と添加化合物12との他に、可塑剤、紫外線吸収剤、微粒子、劣化防止剤等の、各種添加剤が含まれていてもよい。また、剥離性を向上する公知の剥離促進剤(剥離低減剤、等とも呼ばれる)を添加剤として含んでいてもよい。微粒子としては、例えばフィルム10の表面の滑り性を向上させるための添加剤であるいわゆるマット剤などがあり、マット剤として機能する一例はシリカ(SiO2)の微粒子である。なお、マット剤は、後述の支持体からの剥離性の向上にも寄与する。
図2に示すフィルム製造設備20は、フィルム10を製造する設備の一例であり、ドープ調製装置22と、フィルム製造装置23とを備える。ドープ調製装置22は、ドープ21を調製するためのものである。ドープ調製装置22は、ミキシングタンク26と、ポンプ27と、フィルタ28と、貯留タンク31と、ポンプ32とを備え、これらが上流側からこの順に配管33によって接続している。
ミキシングタンク26は、ドープ21の原材料であるポリアリレート11と添加化合物12と溶剤15とを混合することにより、溶剤15にポリアリレート11及び添加化合物12を溶解するためのものである。ミキシングタンク26に供給するポリアリレート11は、本例では粉体であるが、ポリアリレート11の態様は粉体に限定されず、例えば、フレーク状、ペレット状などでもよい。ミキシングタンク26には、案内されてきたポリアリレート11と添加化合物12と溶剤15との混合物を攪拌する攪拌機構(図示無し)を備えており、これにより溶解を促進している。本例の攪拌機構は、ミキシングタンク内に収容された攪拌羽と、攪拌羽を回転駆動する駆動部とである。ただし攪拌機構は、ポリアリレート11と添加化合物12と溶剤15との混合物を攪拌する機構であれば、特に限定されない。ポリアリレート11と添加化合物12とは、ミキシングタンク26において溶剤15と混合されることにより溶剤15に溶解し、ドープ21がつくられる。添加化合物12は、溶剤15に対する溶解性に優れ、また、ポリアリレート11が溶剤15に溶解した溶液との相溶性も優れるから、透明性に優れたフィルム10が得られる。
ミキシングタンク26は、内部の温度を調節する温調機構(図示無し)を備えていてもよい。本例のミキシングタンク26も温調機構を備えており、室温(概ね25℃以上30以下の範囲)に上記混合物の温度を保持している。用いるポリアリレート11と添加化合物12と溶剤15との種類によっては、温調機構により上記混合物の温度が調節されるから、溶解が促進したり、変質及び/または発泡が抑えられる。例えば、溶剤15として後述のようにジクロロメタンを用いる場合には、常圧下においては39℃以下にすることが好ましく、これにより発泡が抑えられる。溶剤15としてジクロロメタンを用いる場合において、ミキシングタンク26での温度は、15℃以上39℃以下の範囲内がより好ましく、15℃以上37℃以下の範囲内がさらに好ましく、25℃以上35℃以下の範囲内が特に好ましい。ただし、用いるポリアリレート11と添加化合物12と溶剤15との種類によっては、温度調節しなくても溶解する場合もあり、その場合には温調機構を設けなくてもよい。
溶剤15としては、ポリアリレート11を溶解するものであれば特に限定されないが、塩素を分子内に含む溶剤(以下、塩素系溶剤と称する)が好ましい。使用できる塩素系溶剤としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタンが挙げられ、本例ではジクロロメタンを用いている。塩素系溶剤の場合、中でもジクロロメタンの場合には、他の溶剤成分を併用することなく、単独で溶剤15として使用することができ、本例でもジクロロメタンのみを溶剤15として用いている。溶剤15に塩素系溶剤であるジクロロメタンを用いているから、ポリアリレート11は、室温下であっても、ドープ21とするに十分な質量割合で溶剤15に溶解する。ポリアリレート11の溶解性がよいから、透明性に優れたフィルム10が得られる。
前述の各種添加剤をフィルム10に含有させる場合には、ミキシングタンク26にこれらの添加剤を案内してもよい。このように、ミキシングタンク26が混合するドープ21の原材料は、ポリアリレート11と添加化合物12と溶剤15とに限定されない。
原材料によっては不純物が混入している場合もあるし、及び/または、ミキシングタンク26の攪拌で溶解せずに不溶解物として残っている場合もある。そこで、本例では、ドープ21をポンプ27によりミキシングタンク26からフィルタ28に送り、このフィルタ28によってこれらの異物を除去している。フィルタ28としては、孔径が20μmのろ紙(東洋濾紙(株)製63LS)を用いているが、孔径と材質とはこの例に限定されず、フィルム10の用途、及び/または、ポリアリレート11と添加化合物12と溶剤15との種類などに応じて決定すればよい。フィルタ28として用いるろ紙の孔径は、5μm以上100μm以下の範囲内が好ましく、10μm以上50μm以下の範囲内がより好ましく、10μm以上25μm以下の範囲内がさらに好ましい。
他のフィルタとしては、金属フィルタが挙げられ、金属フィルタの孔径は3μm以上15μm以下の範囲内が好ましく、3μm以上10μm以下の範囲内がより好ましく、3μm以上5μm以下の範囲内がさらに好ましい。このような孔径をもつ金属フィルタを使用する場合には、フィルタ28の下流に金属フィルタを配し、2段階でろ過してもよい。このような段階的ろ過は、光学フィルムを製造する場合に特に有効である。
ポンプ27とフィルタ28との間に、加熱器(図示無し)を設け、この加熱器により、ミキシングタンク26で溶解しなかった未溶解分の溶解を促進してもよい。また、用いるポリアリレート11の種類によっては、溶剤15に溶解しにくい場合があるから、このような場合にも加熱器を用いてよい。例えば、溶剤15としてジクロロメタンを用いる場合において、加熱器でのドープ21の温度は、40℃以上120℃以下の範囲内がより好ましく、45℃以上90℃以下の範囲内がさらに好ましく、60℃以上90℃以下の範囲内が特に好ましい。
フィルタ28でのろ過を経たドープ21は貯留タンク31へ案内され、流延に供されるまでの間、この貯留タンク31に貯留される。貯留タンク31は攪拌機構(図示無し)を備えることが好ましく、本例でも、ミキシングタンク26の攪拌機構と同様の構成の攪拌機構を備える。この攪拌機構により、ドープ21の均一性が、流延に供されるまでの間、より確実に保持される。この例では、貯留タンク31の個数を1つとしているが、複数にしてもよい。複数にする場合には、複数の貯留タンク31を直列接続にしてもよいし、並列接続にしてもよい。
ミキシングタンク26と、フィルタ28と、貯留タンク31とは、それぞれ、内部を遮光する遮光部材が設けられていることが好ましく、本例でも設けている。例えば、ミキシングタンク26には、上記混合物を収容するタンク本体部が遮光機能をもつ素材から形成され、かつ、タンク本体部の上部には、同様に遮光機能をもつ遮光部材としての蓋が設けられている。このような遮光部材により、ポリアリレート11のフリース転移が抑えられる。ポリアリレート11のフリース転移をより抑制するために、フィルム製造設備20を構成するすべての装置及び部材に、遮光機構をもたせることが好ましい。また、原材料であるポリアリレート11をミキシングタンク26に供するまでの保存の間も、フリース転移を抑制するために、遮光袋あるいは遮光缶など、遮光機能をもつ容器に入れることが好ましい。前述の紫外線吸収剤は、フリース転移を抑制する機能をもつから、添加剤として使用することが好ましい。
配管33の下流端は、フィルム製造装置23の流延ダイ36に接続しており、貯留タンク31のドープ21は、ポンプ32により流延ダイ36へ送られる。単層構造のフィルム10を製造する場合において、流延に供するドープ21は、ポリアリレート11の濃度が15%以上30%以下の範囲内であることが好ましく、本例では20%にしている。15%以上とすることにより、15%未満の場合に比べて、流延ダイ36から出るドープの粘度(圧損(圧力損失)に対応する)が確保されやすい。また、30%以下とすることにより、30%よりも大きい場合に比べて、溶剤15がジクロロメタンである場合には、ポリアリレート11が溶剤15に、より確実に溶解し、ドープ21の白濁がより確実に防がれる。フィルム10を製造する場合には、ポリアリレート11の濃度は、15%以上25%以下の範囲内であることがより好ましく、15%以上23%以下の範囲内であることがさらに好ましい。なお、ドープ21は、ポリアリレート11の濃度が8%以上15%未満の範囲内であっても、例えばギーサ(好ましくはG型ギーサ)を用いることにより流延することができる。
ポリアリレート11の濃度は、ミキシングタンク26に供給する溶剤15とポリアリレート11との各供給量を調整することにより、調整することができる。なお、ドープ21のポリアリレート11の濃度は、ポリアリレート11と溶剤15との質量和に対するポリアリレート11の質量割合である。すなわち、溶剤15の質量をM15とし、ポリアリレートの質量をM11とするときに、{M11/M15+M11)}×100で算出している。
ドープ21において、添加化合物12の質量割合は、0.1%以上2%以下の範囲内であることが好ましく、本例でもこの範囲内にしている。ドープ21における添加化合物12の質量割合は、0.5%以上1.5%以下の範囲内であることがより好ましい。添加化合物12の質量割合とは、前述の通り、ポリアリレート11に対する添加化合物12の質量割合である。
フィルム製造装置23は、ドープ21からフィルム10を製造する。流延ユニット37と、テンタ38と、ローラ乾燥機41と、スリッタ42と、巻取機43とを、上流側から順に備える。流延ユニット37は、環状に形成された支持体としてのベルト46と、ベルト46を支持した状態で長手方向へ走行させる1対のローラ47と、流延ダイ36と、剥取ローラ48とを備える。1対のローラ47の少なくとも一方は駆動機構(図示無し)により周方向に回転し、この回転により、1対のローラ47に巻き掛けられたベルト46は長手方向へ循環走行する。流延ダイ36は、この例では1対のローラ47の一方の上方に配しているが、1対のローラ47の一方と他方との間のベルト46の上方に配してもよい。
流延ダイ36は、供給されてきたドープ21を、ベルト46に対向する吐出口36aから連続的に吐出する吐出部である。走行中のベルト46にドープ21を連続的に吐出することにより、ドープ21はベルト46上で流延され、ベルト46上に流延膜51が連続的に形成される(流延工程)。図2においては、ドープ21がベルト46に接触することにより流延膜51が形成され始める位置(以下、流延位置と称する)に、符号PCを付す。ベルト46の素材は特に限定されないが、金属が好ましく、本例ではSUSとしている。
1対のローラ47は、周面温度を調節する温度コントローラ(図示せず)を備える。周面温度を調節したローラ47により、ベルト46を介して流延膜51は温度を調整される。流延膜51を加熱することにより乾燥を促進し、この乾燥により固める(ゲル化する)いわゆる乾燥ゲル化方式の場合には、ローラ47の周面温度は、例えば10℃以上25℃以下の範囲内にする。また、流延膜51を冷却することにより固めるいわゆる冷却ゲル化方式の場合には、ローラ47の周面温度を−15℃以上0℃以下の範囲内にする。こうしたゲル化により流延膜51は搬送可能な程度に固まる。
なお、支持体として、ベルト46の代わりに、ドラム(図示せず)を用いてもよい。この場合には、ドラムに駆動機構を設け、ドラムを周方向に回転させることにより、周面上に流延膜51を形成する。この場合には、ドラムの周面が、走行する支持体の表面として機能する。ドラムの素材は特に限定されないが、金属が好ましく、金属としてはSUS、特にハードクロムめっきされたSUSが好ましい。ドラムを支持体として用いる場合には、ドラムは、周面温度を調節する温度コントローラ(図示せず)を備えるものとし、ドラムの周面温度を調節することにより、流延膜51の温度を調整するとよい。乾燥ゲル化方式の場合には、支持体としてベルト46を用いることが好ましく、冷却ゲル化方式の場合には、支持体としてドラムを用いることが好ましい。
流延ダイ36からベルト46に至るドープ21、いわゆるビードに関して、ベルト46の走行方向における上流には、減圧チャンバ(図示無し)が設けられてもよく、本例でも設けてある。この減圧チャンバは、吐出したドープ21の上流側エリアの雰囲気を吸引し、この吸引によりこのエリアを減圧する。また、ベルト46に対向する位置に、流延膜51の乾燥を促進するための送風機(図示無し)を設けてもよい。
流延膜51を、テンタ38への搬送が可能な程度にまでベルト46上で固くした後に、溶剤を含む状態でベルト46から連続的に剥がす。これによりフィルム10が形成される(剥離工程)。剥取ローラ48は、流延膜51をベルト46から連続的に剥ぎ取るためのものである。剥取ローラ48は、ベルト46から剥がすことにより形成されたフィルム10を例えば下方から支持し、流延膜51がベルト46から剥がれる剥取位置PPを一定に保持する。剥ぎ取る手法は、フィルム10を下流側へ引っ張る手法、あるいは、剥取ローラ48を周方向に回転させる手法等のいずれでもよい。
ドープ21にはクエン酸構造部S1を有する添加化合物12を含有させているから、ベルト46に形成された流延膜51にも添加化合物12が含まれている。そして、クエン酸構造部S1はカルボン酸残基を有している。そのため、ベルト46の表面のヒドロキシル基とポリアリレート11との相互作用に対する前述の推定作用から、流延膜51はベルト46からの剥離荷重が小さく抑えられ、その結果、流延膜51はなめらか(スムーズ)にベルト46から連続的に剥がれる。そのため、フィルム面の平滑性に優れたフィルム10が得られる。フィルム面が平滑であるから、光学特性に厳しい要請がある光学フィルムにも用いることができるフィルム10が得られる。また、本例のクエン酸構造部S1がもつカルボン酸残基の数は2つであるから、1つの場合に比べて剥離荷重がより小さく抑えられる。
添加化合物12の質量割合は、ドープ21と流延膜51とにおいて等しい。したがって、流延膜51においても、添加化合物12の質量割合が0.1%以上2%以下の範囲内となっている。0.1%以上になっていることにより、0.1%未満である場合に比べて、より確実に、ベルト46からの剥離荷重が小さく抑えられる。また、2%以下であることにより、2%を超えた場合に比べて、白濁がより抑えられた透明なフィルム10となる。
ベルト46からの剥ぎ取りは、乾燥ゲル化方式の場合には、例えば、流延膜51の溶剤含有率が10質量%以上100質量%以下の範囲にある間に行われる。なお、本明細書においては、溶剤含有率(単位;%)は乾量基準の値であり、具体的には、溶剤15の質量をM15、フィルム10の質量をM10とするときに、{M15/(M10−M15)}×100で求める百分率である。冷却ゲル化方式の場合の剥ぎ取りは、例えば、流延膜51の溶剤含有率が100質量%以上300質量%以下の範囲にある間に行われる。
流延膜51は添加化合物12を含有しており、添加化合物12はクエン酸構造部S1と炭化水素基S2とを備えるから、乾燥がはやめられ、剥ぎ取りまでに要する時間が短くなる。この乾燥促進作用は、流延膜51の厚み方向においてベルト46に近いほど顕著な作用として現れる。そのため、この乾燥促進作用と、ベルト46の表面のヒドロキシル基とポリアリレート11との相互作用に対する前述の推定作用とが相まって、ベルト46からの流延膜51の剥離荷重がより小さく抑えられる。また、乾燥促進作用により、ベルト46の走行速度をより大きくすることができるから、フィルム10の製造効率も向上する。さらにまた、乾燥促進作用により、ベルト46をより短くすることができるから、流延ユニット37の小型化も図れる。
以上のように流延ユニット37は、ドープ21からフィルム10を形成する。ベルト46は流延位置PCと剥取位置PPとを循環して走行することで、ドープ21の流延と流延膜51の剥ぎ取りとが繰り返し行われる。
流延ユニット37とテンタ38との間の搬送路には、フィルム10の乾燥をすすめるための送風機(図示無し)を配してもよい。剥ぎ取られて形成されたフィルム10は、テンタ38に案内される。テンタ38は、長尺のフィルム10の側部を把持するクリップ52と、1対のレール(図示無し)及びチェーン(図示無し)とを備える。クリップ52の代わりに、複数のピン(図示無し)が台の上面に起立した姿勢で配され、フィルム10の側部に個々のピンを突き刺すことによりフィルム10を保持するピンプレート(図示無し)を用いてもよい。
レールはフィルム10の搬送路の側部に設置され、1対のレールは離間して配される。チェーンは、原動スプロケット及び従動スプロケット(図示無し)に掛け渡され、レールに沿って移動自在に取り付けられている。クリップ52は、チェーンに所定の間隔で取り付けられており、原動スプロケットの回転により、クリップ52はレールに沿って循環移動する。クリップ52は、テンタ38の入口近傍で、案内されてきたフィルム10の保持を開始し、出口に向かって移動し、出口近傍で保持を解除する。保持を解除したクリップ52は再び入口近傍に移動し、新たに案内されてきたフィルム10を保持する。このように、クリップ52は、フィルム10の各側部を把持した状態で長手方向に搬送する。
レールの軌道を変化させることにより、クリップ52の走行路を変えることができる。これにより、搬送中のフィルム10を、長手方向と交差する方向(例えば幅方向)に延伸することもできる。
テンタ38には、フィルム10の搬送路の上方に送風機53が設けられている。送風機53の下面には、乾燥気体を流出する流出口(図示無し)が形成されており、通過するフィルム10に向けて乾燥気体(例えば空気)を吹き出す。送風機53からの乾燥気体の温度は、40℃以上200℃以下の範囲内が好ましい。なお、同様の構造を有する送風機を、フィルム10の搬送路の下方に設けてもよい。このようにテンタ38には送風機53があるから、テンタ38を通過する間もフィルム10は乾燥を進められる(第1の乾燥工程)。ただし、テンタ38を設けない場合もある。
ローラ乾燥機41は、複数のローラ41aと空調機(図示無し)とを備える。複数のローラ41aはフィルム10を周面で支持する。フィルム10はローラ41aに巻き掛けられて搬送される。空調機は、ローラ乾燥機41の内部の温度や湿度などを調節する。ローラ乾燥機41の内部の温度は、80℃以上160℃以下の範囲内が好ましい。ローラ乾燥機41の内部の湿度は、相対湿度で0%以上50%以下の範囲内が好ましい。このローラ乾燥機41を通過する間もフィルム10は乾燥を進められる(第2の乾燥工程)。
流延膜51は添加化合物12を含有しているから、形成されたフィルム10も添加化合物12を含有する。そのため、フィルム10も流延膜51と同様に、添加化合物12によって乾燥が促進するから、テンタ38及びローラ乾燥機41での乾燥がよりはやくすすみ、フィルム10の製造効率が向上する。
スリッタ42は、フィルム10の各側端部を切除するためのものである。この切除により、フィルム10は、例えば目的とする製品幅にされる。なお、スリッタ42と同様の構成のスリッタを、他の位置に配してもよい。例えば、流延ユニット37とテンタ38との間、及び/または、テンタ38とローラ乾燥機41との間などである。流延ユニット37とテンタ38との間に配する場合には、流延ユニット37からテンタ38へ向かうフィルム10の側端部を、テンタ38に導入される直前に切除することにより、例えばクリップ52による把持がより確実になる。また、テンタ38とローラ乾燥機との間に配する場合には、クリップ52による把持跡を切除することにより、ローラ41aによる搬送がより安定する。切除された側端部は、クラッシャ(図示無し)に案内され、クラッシャによりチップ状に細かくされ、新たなドープ21の原材料として用いてもよい。なお、前述のフリース転移を抑制するために、切除された側端部は、新たなドープ21の原材料として使用に供されるまでの間、遮光することが好ましい。
巻取機43は、フィルム10をロール状に巻き取るためのものである。巻取機43はモータ(図示無し)を備え、巻取機43には、巻き芯54がセットされる。巻き芯54がモータにより回転することにより、フィルム10が巻き芯54に巻き取られる。
添加化合物12と添加化合物12以外の各種添加剤とは、前述のように、ミキシングタンク26でポリアリレート11等と混合する手法に限定されない。例えば、これらの添加剤の少なくとも一部を案内する添加用の配管(図示無し)を、配管33に合流する状態に接続し、配管33において添加してもよい。その場合には、周知の静止型混合器(例えば、スルーザミキサなど)を配管33に設けることにより混合してもよい。
フィルムは単層構造に限定されず、複層構造でもよい。例えば、図3に示すように、本発明を実施したフィルム60は、3層構造のフィルムである。複層構造の場合の層の数は、本例のような3層に限定されず、2層または4層以上でもよい。フィルム60は、フィルム本体61として厚み方向の内部に位置する内層と、フィルム60の一方のフィルム面(以下、第1フィルム面と称する)60aを成す第1外層62と、フィルム60の他方のフィルム面(以下、第2フィルム面と称する)60bを成す第2外層63とを備える。第1外層62はフィルム本体61の一方の表面61aに設けられ、第2外層63はフィルム本体61の他方の表面61bに設けられている。なお、第1フィルム面60aは、後述の製造方法において、ベルト46から剥がされたフィルム面である。複層構造が2層構造である場合のフィルム(図示無し)は、第2外層63が無く、フィルム本体61と第1外層62とから構成される。複層構造が4層以上の層構造である場合には、例えばフィルム本体61が複層に形成される。
フィルム60の厚みT60は、本例では5μm以上100μm以下の範囲内としてあるが、この範囲に限定されず、100μmよりも厚い場合もあるし、5μmよりも薄い場合もある。光学フィルムとして用いる場合の厚みT60は30μm以上60μm以下の範囲内が好ましく、例えばイヤホンなどの振動板として用いる場合の厚みT60は5μm以上15μm以下の範囲内が好ましい。なお、3層以外の複層構造、すなわち、層数が2層または4層以上の複層構造のフィルムの厚みについては、厚みT60と同様である。
フィルム本体61の厚みT61は、第1外層62の厚みT62及び第2外層63の厚みT63と比べて、大きくしている。厚みT61は、3μm以上92μm以下の範囲内とすることが好ましい。厚みT62は、1μm以上4μm以下の範囲内が好ましく、作用を発現する範囲内においてできるだけ小さい方が好ましい。厚みT63は、1μm以上4μm以下の範囲内が好ましく、作用を発現する範囲内においてできるだけ小さい方が好ましい。
フィルム60もフィルム10と同様に、ポリアリレート11と添加化合物12とを備える。具体的には以下である。フィルム本体61は、ポリアリレート11で形成されている。フィルム本体61は、ポリアリレート11の他に、例えば、紫外線吸収剤及び/または劣化防止剤などを含有していてもよい。
第1外層62は、ポリアリレート11と添加化合物12とを含有している。第1外層62において、添加化合物12の質量がポリアリレート11の質量に対して0.1%以上2%以下の範囲内となっていることが好ましく、この例でもこの範囲内としている。第1外層62は、ポリアリレート11と添加化合物12との他に、例えば、マット剤、劣化防止剤及び/または紫外線吸収剤などを含有していてもよい。また、剥離性を向上する公知の剥離促進剤を添加剤として含んでいてもよい。
第2外層63は、ポリアリレート11で形成されている。第2外層63は、ポリアリレート11の他に、例えば、マット剤、劣化防止剤、及び/または紫外線吸収剤などを含有していてもよく、本例でもマット剤68(図4参照)を含有している。
フィルム60を長尺に製造する場合には、第1外層62と第2外層63との少なくともいずれか一方がマット剤68を含有することが好ましい。少なくともいずれか一方がマット剤68を含有する場合には、含有する層において、マット剤68の質量割合がポリアリレート11の質量に対して、0.026%以上2.6%以下の範囲内であることが好ましい。0.026%以上であることにより、0.026%未満である場合に比べて、より確実にフィルム60同士の滑り性が発現する。2.6%以下であることにより、2.6%を超えた場合に比べて、より透明なフィルム60が得られる。マット剤68の質量割合とは、ポリアリレート11に対するマット剤68の質量割合である。すなわち、マット剤68の質量割合(単位は%)は、マット剤68の質量をM68とするときに、(M68/M11)×100で求めている。また、光学フィルムとして用いる場合には、フィルム60全体でのポリアリレートの質量に対して、フィルム60全体でのマット剤68の質量が0.02%以上1.1%以下の範囲内であることが好ましい。
この例では添加化合物12を、第1外層62にのみ含有させているが、添加化合物12は、第1外層62に加えて、フィルム本体61と第2外層63との少なくともいずれか一方に含有させてもよい。添加化合物12を、第1外層62と、フィルム本体61及び/または第2外層63とに含有させる場合には、フィルム本体61と第2外層63とにおける添加化合物12の質量の和がフィルム本体61と第2外層63とにおけるポリアリレート11の質量の和に対して0.1%以上2%以下の範囲内であることが好ましい。
図4に示すフィルム製造設備70は、フィルム60を製造する設備の一例であり、ドープ調製装置72と、フィルム製造装置73とを備える。なお、図4において、図2と同じ装置及び部材については、図2と同じ符号を付し、説明を略す。
ドープ調製装置72は、流延に供するドープ(以下、流延ドープと称する)75(図5参照)を調製するためのものである。ドープ調製装置72は、配管33が、ポンプ32の下流において、3つの配管(以下、分岐配管と称する)33a〜33cに分岐しており、各分岐配管33a〜33cがフィルム製造装置73の流延ダイ76に接続している以外は、ドープ調製装置22と同様に構成されている。
ミキシングタンク26には、フィルム本体61と第1外層62と第2外層63とを構成するポリアリレート11と、溶剤15とが案内される。ポリアリレート11と溶剤15とはミキシングタンク26により混合され、ポリアリレート11が溶剤15に溶解する。これにより、流延ドープ75の基剤としてのドープ(以下、基剤ドープと称する)78がつくられる。基剤ドープ78は、ポリアリレート11の濃度が、15%以上30%以下の範囲内であることが好ましい。基剤ドープ78のポリアリレートの濃度は、ドープ21のポリアリレートの濃度と同様に、ポリアリレート11と溶剤15との質量和に対するポリアリレートの質量割合である。すなわち、{M11/(M11+M15)}×100で算出している。
基剤ドープ78は、ドープ21の場合と同様に、フィルタ28と貯留タンク31とを経て、配管33が分岐配管33a〜33cに分岐する分岐位置PSに達する。基剤ドープ78は、分岐位置PSにおいて流れが分かれ、分岐配管33a〜33cのそれぞれへ案内され、第1外層62(図3参照)を形成する第1液81(図5参照)と、フィルム本体61(図3参照)を形成する第2液82(図5参照)と、第2外層63(図3参照)を形成する第3液83(図5参照)とのそれぞれに用いられる。
分岐配管33aには、第1添加剤を添加するための添加配管80aが接続しており、この例の第1添加剤は添加化合物12である。添加配管80aにより分岐配管33a内を流れる基剤ドープ78に添加化合物12が供給されることにより、第1液81(図5参照)がつくられる。添加化合物12は、溶剤15に溶解した状態の溶液として、分岐配管33aへ供給されることが好ましい。添加化合物12の供給流量は、分岐配管33aを流れる基剤ドープ78の流量と基剤ドープ78におけるポリアリレート11の濃度とに応じて設定する。これにより、添加化合物12の質量割合が、第1外層62と同じである第1液81をつくる。第1外層62に、添加化合物12以外の添加剤を含有させる場合には、その添加剤を含有した第1液81をつくればよいから、添加化合物12の添加と同様の手法により、基剤ドープ78にその添加剤を添加すればよい。
分岐配管33aには、溶剤15を添加するための添加配管81aが接続しており、この添加配管81aには開度を調整するバルブ(図示無し)が設けてある。溶剤15の添加は、第1液81におけるポリアリレート11の濃度を下げる場合に行われる。したがって、第1液81におけるポリアリレート11の濃度を下げる調節が不要な場合には、バルブは閉状態(開度がゼロ)とし、溶剤15は添加しない。溶剤15の添加流量は、バルブの開度調整により調節され、分岐配管33aを流れる第1液81の流量及びポリアリレート11の濃度に応じて設定する。これにより、ポリアリレート11の濃度が第1外層62と同じである第1液81をつくる。なお、この例では添加配管81aを分岐配管33aにおける添加配管80aの接続位置よりも下流に接続させている。ただし添加配管81aの接続位置はこの例に限定されない。例えば、添加配管81aを添加配管80aに接続させてもよい。
分岐配管33bを流れる基剤ドープ78は、流延ダイ76へ案内され、第2液82(図5参照)として流延に供される。すなわち、分岐配管33bから流延ダイ76へ流れる基剤ドープ78は流延ドープ75として用いている。
分岐配管33cには、第2添加剤を添加するための添加配管80bが接続しており、この例の第2添加剤はマット剤68である。添加配管80bにより分岐配管33c内を流れる基剤ドープ78にマット剤68が供給されることにより、第3液83(図5参照)がつくられる。マット剤68は、溶剤15に分散した状態の分散液として、分岐配管33cへ供給されることが好ましい。マット剤68の供給流量は、分岐配管33cを流れる基剤ドープ78の流量と基剤ドープ78におけるポリアリレート11の濃度とに応じて設定する。これにより、マット剤68の質量割合が、第2外層63と同じである第3液83をつくる。第2外層63に、マット剤68以外の添加剤を含有させる場合には、その添加剤を含有した第3液83をつくればよいから、マット剤68の添加と同様の手法により、基剤ドープ78にその添加剤を添加すればよい。
分岐配管33bには、溶剤15を添加するための添加配管81bが接続しており、この添加配管81baには開度を調整するバルブ(図示無し)が設けてある。溶剤15の添加は、第3液83におけるポリアリレート11の濃度を下げる場合に行われる。したがって、第1液81におけるポリアリレート11の濃度を下げる調節が不要な場合には、バルブは閉状態(開度がゼロ)とし、溶剤15は添加しない。溶剤15の添加流量は、バルブの開度調整により調節され、分岐配管33bを流れる第3液83の流量及びポリアリレート11の濃度に応じて設定する。これにより、ポリアリレート11の濃度が第2外層63と同じである第3液83をつくる。なお、この例では添加配管81bを分岐配管33bにおける添加配管80bの接続位置よりも下流に接続させている。ただし添加配管81bの接続位置はこの例に限定されない。例えば、添加配管81bを添加配管80bに接続させてもよい。
フィルム製造装置73は、流延ユニット37の代わりに流延ユニット85を備える以外は、フィルム製造装置23と同様に構成されている。流延ユニット85は、流延ダイ36の代わりに、周知の共流延用の流延ダイ76を備える以外は、流延ユニット37と同様に構成されている。流延ダイ76は、第1液81〜第3液83が独立して流れる第1流路〜第3流路(図示無し)と、これら第1流路〜第3流路が合流する合流部(図示無し)と、合流部から吐出口76aに続いて形成された第4流路(図示無し)とを備える。流延ダイ76は、ベルト46の走行方向において上流側から順に、第1流路と第2流路と第3流路とが形成されている。分岐配管33aは第1流路に、分岐配管33bは第2流路に、分岐配管33cは第3流路に接続する。これにより、流延ユニット85は、3層構造の流延膜86を形成する(流延工程)。第1液81〜第3液83により形成される流延膜86の詳細は、別の図面を用いて後述する。
流延膜86は、流延膜51と同様にベルト46から剥がされることによりフィルム60を形成する(剥離工程)。形成されたフィルム60は、テンタ38と、ローラ乾燥機41とにより乾燥し(乾燥工程)、スリッタ42により各側端部を切除された後に、巻取機43により巻き芯54にロール状に巻き取られる。
流延工程では、図5に示すように、第1液81と第2液82と第3液83とが流延ドープ75として用いられる。ベルト46上において、第1液81の上に第2液82が重なり、第2液82の上に第3液83が重なる状態に、第1液81〜第3液83が流延される。これにより、第1液81で形成された第1層86aと、第2液82で形成された第2層86bと、第3液83で形成された第3層86cとを備える流延膜86が形成される。形成する第1層86a〜第3層86cのそれぞれの厚みは、第1液81〜第3液83のそれぞれにおけるポリアリレート11の濃度と、目的とする第1外層62とフィルム本体61と第2外層63との各厚みとに応じて設定する。
第1液81と第3液83とのそれぞれにおけるポリアリレート11の濃度は、第2液82におけるポリアリレート11の濃度よりも低いことが好ましい。これにより、第1液81及び第3液83が第2液82よりも高くなるから、第2液82の流れが第1液81と第3液82との流れによって封じ込まれる(カプセル化効果)。このカプセル化効果は、流延膜86の膜面及びフィルム60のフィルム面の平滑性の向上に寄与する。第2液82のポリアリレート11の濃度は、15%以上30%以下であることが好ましい。第1液81と第3液83とのそれぞれにおけるポリアリレート11の濃度は、第2液82のポリアリレート11の濃度よりも低く、かつ、12%以上28%以下の範囲内であることが好ましい。第1液81と第3液83とのそれぞれにおけるポリアリレート11の濃度は、13%以上25%以下の範囲内であることがより好ましく、15%以上22%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
この例でも、第1層86aが添加化合物12を含有しているから、流延膜86のベルト46からの剥離荷重が小さく抑えられ、平滑なフィルム60が得られる。また、添加化合物12の含有により、流延膜86及びフィルム60の乾燥が促進される。
[実施例1]〜[実施例9]
フィルム製造設備20により、フィルム10を製造し、実施例1〜実施例9とした。実施例1〜実施例7は、添加化合物12として用いた化合物の種類と、添加化合物12の質量割合と、製造したフィルム10の厚みとのいずれかが異なる。
添加化合物12として用いた化合物の種類は表1の「添加化合物」の「種類」欄に示す。なお、実施例9では、前述のCITROFOL(登録商標) AHII(ユングブンツラワー・ジャパン(株)製)に、水を加え部分加水分解することにより、クエン酸構造部のカルボン酸残基の数を1個にした化合物を、添加化合物12として用いており、表1の「添加化合物」の「種類」欄には「CITROFOL」と記載する。添加化合物12の質量割合は表1の「添加化合物」の「質量割合」欄に、製造したフィルム10の厚みは「フィルムの厚み」欄に、それぞれ示す。
ドープ21におけるポリアリレート11及び添加化合物12の溶解性と、流延膜の剥離荷重と、乾燥の促進性と、フィルム10の白濁の程度と、につき、下記の方法及び基準で評価した。各評価結果は表1に示す。
1.溶解性
ミキシングタンク26とフィルタ28との間の配管33から、ドープ21をサンプルとして採取した。サンプルを目視で観察し、以下の基準で評価した。Pは合格、Fは不合格である。
P;異物が観察されない
F;異物が観察された
2.流延膜の剥離荷重
貯留タンク31に貯留されたドープ21から評価用のサンプルを採取した。サンプルにおけるポリアリレート11の質量は、溶剤15とポリアリレート11との質量の和に対して、20%であった。20℃に温度を調整した支持体に、サンプルを流延することにより流延膜を形成した。用いた支持体は、SUS製である。流延膜の厚みは、乾燥することにより得られるフィルムサンプルの厚みが、各実施例で製造したフィルム10の厚みと同じになるように、設定した。形成した流延膜を、室温下に2分静置した。この静置によって流延膜は流延直後と比べて乾燥していたものの、完全には乾燥していなかった。この静置直後に、流延膜に対して、2cm幅で、カッタを用いて、切断線を13本入れた。切断線により形成した2cm幅の12個の切断片のうちのひとつ(第1の切断片)において、切断片の長手方向における一端部をクリップで把持した。そのクリップを支持体の表面と切断片とのなす角が45°となるように、クリップによって切断片の上記一端部を2cm/秒の速度で引き上げた。この引き上げに要した荷重を、ロードセルで測り、第1の切断片の剥離荷重(第1の剥離荷重)とした。その後、残りの11個の切断片について、順次、同様に、剥離荷重を求め、第2の剥離荷重〜第12の剥離荷重とした。なお、第1の剥離荷重〜第12の剥離荷重を求める時間間隔は、できるだけ等しくなるようにし、最終である第12の剥離荷重の測定が流延膜の形成から概ね30分経過時となるようにした。これら12個の測定結果である第1の剥離荷重から第12の剥離荷重のうち、最も大きい値を、流延膜の剥離荷重とした。
3.乾燥の促進性
上記の剥離荷重の評価における方法と同様に、ドープ21のサンプルを採取し、流延膜を形成した。サンプルにおけるポリアリレート11の質量は、溶剤15とポリアリレート11との質量の和に対して、20%であった。また、流延膜の厚みも、上記の剥離荷重の評価における方法と同様に、設定した。形成した流延膜において、室温下に静置し、5分経過時における溶剤含有率を前述の算出式により求め、下記の基準により、乾燥の促進性として評価した。AとBとは合格であり、Cは不合格である。
A;溶剤含有率が0%以上40%以下の範囲内であった。
B;溶剤含有率が41%以上80%以下の範囲内であった。
C;溶剤含有率が81%以上150%以下の範囲内であった。
4.白濁の程度
得られたフィルム10のヘイズを、白濁の程度として評価した。ヘイズは、日本工業規格JIS K 7136に基づき、日本電色工業(株)製のヘイズメータNDH 7000で求めた。AとBとは合格であり、Cは不合格である。
A;ヘイズが0.3%以上5%未満であった。
B;ヘイズが5%以上15%未満であった。
C;ヘイズが15%以上であった。
[比較例1]〜[比較例5]
添加化合物12の代わりとして、表1の「化合物」の「種類」欄に示す化合物を用い、比較例1〜比較例4とした。クエン酸は、和光純薬工業(株)製の和光特級グレードを用いた。ステアリン酸は、和光純薬工業(株)製の試薬特級グレードを用いた。オレイン酸ジグリセリドは、(株)ワコーケミカル製試薬を用いた。クエン酸ジエチルは、ユングブンツラワー・ジャパン(株)製CITROFOL(登録商標) AI(クエン酸トリエチル)に水を加えた部分加水分解反応によりカルボン酸残基の数を1個とした化合物を用いた。比較例5においては、添加化合物12を用いておらず、添加化合物12の代わりとしての化合物も使用していないので、表1の「種類」欄には「−」と記載する。用いたポリアリレートを含め、その他の条件は実施例2と同様である。
実施例と同様に、ドープにおけるポリアリレート11及び添加した化合物の溶解性と、流延膜の剥離荷重と、乾燥の促進性と、フィルムの白濁の程度とにつき、評価した。各評価結果は表1に示す。