以下、本発明の実施の形態に係る熱膨張性シート、熱膨張性シートの製造方法、造形物の製造方法、造形システム及び膨張装置について、図面を用いて詳細に説明する。
本明細書において、「造形物」は、単純な形状、幾何学形状、文字、装飾等、形状を広く含む。ここで、装飾とは、視覚及び/又は触覚を通じて美感を想起させるものである。また、「造形(又は造型)」は、単に造形物を形成することに限らず、装飾を加える加飾、装飾を形成する造飾のような概念をも含む。更に装飾性のある造形物とは、加飾又は造飾の結果として形成される造形物を示す。
<実施形態1>
(熱膨張性シート)
本実施形態に係る熱膨張性シート10は、図1に模式的に示すように、基材11と、熱膨張層12と、インク受容層13と、を備える。また、詳細に後述するように、熱膨張性シート10は、図3、図4(a)〜(c)、図5〜図7に概要を示す造形システム20において、印刷が施され、熱膨張性シート10の熱膨張層12の少なくとも一部が膨張する。また、熱膨張層12の少なくとも一部が隆起することにより、熱膨張性シート10の表面にバンプ面状が形成される。本実施形態において、バンプ面状は、熱膨張層12の隆起により形成されるシート表面の状態又は形態を示す。また、バンプ面状は、その表面に凸若しくは凹凸を有しており、バンプ面状の高さ、バンプ面状を形成する位置等を組み合わせることにより、造形物を表現することができる。なお、バンプ面状は、造形物に応じ、熱膨張性シート10上に1つ又は複数形成される。
基材11は、熱膨張層12等を支持するシート状の部材である。基材11の一方の面(表面、図1では上面)上には、熱膨張層12が形成される。基材11としては、上質紙等の紙、又はポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂からなるシート(フィルムを含む)を使用する。紙としては、上質紙に限らず、一般に使用されている任意の紙を使用することができる。また、樹脂としては、PETに限らず、任意の樹脂を使用可能である。樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン系樹脂等から選択される材料を挙げることができる。また、基材11は、熱膨張層12が全体的又は部分的に発泡により膨張した時に、基材11の反対側(図1に示す下側)に隆起しない程度の強度を備える。また、基材11は、熱膨張層12が膨張した際に、しわを生じたり、大きく波打ったりする等、シートとしての形態が損なわれることがない程度の強度を備える。加えて、基材11は、熱膨張層12を発泡させる際の加熱に耐える程度の耐熱性を有する。基材11は更に伸縮性を有してもよい。
熱膨張層12は、基材11の一方の面(図1では、上面)上に形成される。熱膨張層12は、加熱の程度(例えば、加熱温度、加熱時間)に応じた大きさに膨張する層であって、バインダ中に熱膨張性材料(熱膨張性マイクロカプセル、マイクロパウダー)が分散配置されている。また、詳細に後述するように、本実施形態では、熱膨張性シート10の上面(表面)に、及び/又は熱膨張性シート10の下面(裏面)に、電磁波を熱に変換する電磁波熱変換層(以下、単に熱変換層又は変換層と称する)を形成し、電磁波を照射することで、熱変換層を発熱させる。電磁波熱変換層は、電磁波の照射により、熱を帯びるため、帯熱層とも呼べる。熱膨張性シート10の表面及び/又は裏面に設けられた熱変換層で生じた熱が、熱膨張層12へと伝達することにより、熱膨張層中の熱膨張性材料が発泡し、膨張する。熱変換層は、熱変換層が設けられていない他の領域と比較し、電磁波を速やかに熱へと変換する。このため熱変換層の近傍の領域のみを選択的に加熱することができ、熱膨張層12の特定の領域のみを選択的に膨張させることができる。熱膨張層12は、1つの層を有する場合に限らず、複数の層を有してもよい。
熱膨張層12のバインダとしては、酢酸ビニル系ポリマー、アクリル系ポリマー等の任意の熱可塑性樹脂を用いる。また、熱膨張性マイクロカプセルは、プロパン、ブタン、その他の低沸点気化性物質を、熱可塑性樹脂の殻内に含むものである。殻は、例えば、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、あるいは、それらの共重合体等の熱可塑性樹脂から形成される。例えば、熱膨張性マイクロカプセルの平均粒径は、約5〜50μmである。このマイクロカプセルを熱膨張開始温度以上に加熱すると、樹脂からなる殻が軟化し、内包されている低沸点気化性物質が気化し、その圧力によって殻がバルーン状に膨張する。用いるマイクロカプセルの特性にもよるが、マイクロカプセルの粒径は膨張前の粒径の5倍程度に膨張する。なお、マイクロカプセルの粒径には、ばらつきがあり、全てのマイクロカプセルが同じ粒径を有するものではない。
インク受容層13は、熱膨張層12上に形成される。インク受容層13は、印刷工程で使用されるインク、例えば、インクジェットプリンタのインクを受容し、定着させる層である。インク受容層13は、印刷工程で使用されるインクに応じて、汎用されている材料を使用して形成される。例えば水性インクを利用する場合で、空隙を利用してインクを受容するタイプでは、インク受容層13は、例えば多孔質シリカを用いて形成される。インクを膨潤させて受容するタイプでは、インク受容層13は、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等から選択される樹脂を用いて形成される。なお、インク受容層13は、印刷工程で用いられる印刷装置、用いられるインク等に応じて、省略することが可能である。例えば、インクジェット方式の印刷装置を使用し、紫外線硬化タイプのインクを用いる場合は、インク受容層13は省略することができる。
(熱膨張性シートの製造方法)
次に、熱膨張性シート10の製造方法を図2(a)〜(c)を用いて説明する。
まず、基材11を準備する(図2(a))。基材11としては、例えばロール紙を使用する。また、以下に示す製造方法はロール式に限らず、枚葉式で行うことも可能である。
次に、熱可塑性樹脂等からなるバインダと熱膨張性材料(熱膨張性マイクロカプセル)とを用い、公知の分散装置等を用いて、熱膨張層12を形成するための塗布液を調製する。続いて、バーコータ、ローラーコータ、スプレーコータ等の公知の塗布装置を用いて、塗布液を基材11の一方の面上に塗布する。続いて、塗膜を乾燥させ、図2(b)に示すように熱膨張層12を形成する。なお、目標とする熱膨張層12の厚みを得るため、塗布液の塗布及び乾燥を複数回行ってもよい。
次に、インク受容層13を構成する材料、例えば多孔質シリカ等を用いて塗布液を調製する。続いて、この塗布液を、バーコータ、ローラーコータ、スプレーコータ等の方式による公知の塗布装置を用いて、熱膨張層12上に塗布する。なお、目標とするインク受容層13の厚みを得るため、塗布液の塗布及び乾燥を複数回行ってもよい。続いて、塗膜を乾燥させ、図2(c)に示すように、インク受容層13を形成する。
続いて、ロール状の基材11を用いた場合は、造形システム20に適合する大きさに裁断を行う。
以上の工程により、熱膨張性シート10が製造される。
(造形システム)
次に、図3、図4(a)〜(c)、図5、図6及び図7を参照して、熱膨張性シート10に造形物を製造するための造形システム20について説明する。図3は、造形システム20のブロック図であり、図4(a)〜(c)は、造形システム20の構成例を示す。図5は、制御ユニット30の構成例を示す。図6は印刷ユニット40の構成例を示し、図7は膨張ユニット50の構成例を示す。また、図4(a)は、造形システム20の正面図である。図4(b)は、天板22を閉じた状態における造形システム20の平面図である。図4(c)は、天板22を開いた状態における造形システム20の平面図である。図4(a)〜(c)において、X方向は、印刷ユニット40と膨張ユニット50とが並ぶ方向に相当し、Y方向は、印刷ユニット40及び膨張ユニット50における熱膨張性シート10の搬送方向に相当し、Z方向は、鉛直方向に相当する。X方向とY方向とZ方向とは、互いに直交する。
造形システム20は、図3に示すように、制御ユニット30と、印刷ユニット40と、膨張ユニット50と、表示ユニット60と、を備える。制御ユニット30、印刷ユニット40、膨張ユニット50は、それぞれ図4(a)に示すようにフレーム21内に載置される。具体的に、フレーム21は、一対の略矩形状の側面板21aと、側面板21aの間に設けられた連結ビーム21bとを備え、側面板21aの上方に天板22が渡されている。また、側面板21aの間に渡された連結ビーム21bの上に印刷ユニット40及び膨張ユニット50がX方向に並んで設置され、連結ビーム21bの下に制御ユニット30が固定されている。表示ユニット60は天板22内に、天板22の上面と高さが一致するように埋設されている。
(制御ユニット)
制御ユニット30は、印刷ユニット40、膨張ユニット50及び表示ユニット60を制御する。また、制御ユニット30は、印刷ユニット40、膨張ユニット50、及び表示ユニット60に電源を供給する。制御ユニット30は、図5に示すように、制御部31と、記憶部32と、通信部33と、記録媒体駆動部34と、を備える。これら各部は、信号を伝達するためのバスによって接続されている。
制御部31は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備える。制御部31では、CPUが、ROMに記憶されている制御プログラムを読み出して、RAMをワークメモリとして用いながら、造形システム20全体の動作を制御する。なお、制御部31は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用の制御回路であっても良い。
記憶部32は、フラッシュメモリ、ハードディスク等であって、制御部31によって実行されるプログラム又はデータを記憶している。例えば、記憶部32は、印刷ユニット40によって印刷されるカラー画像データ、表面発泡データ及び裏面発泡データを記憶している。
通信部33は、印刷ユニット40、膨張ユニット50及び表示ユニット60を含む外部の装置と通信するためのインタフェースである。
記録媒体駆動部34は、可搬型の記録媒体に記録されているプログラム又はデータを読み出す。可搬型の記録媒体とは、CD(Compact Disc)−ROM、DVD(Digital Versatile Disc)−ROM、USB(Universal Serial Bus)規格のコネクタが備えられているフラッシュメモリ等である。例えば、記録媒体駆動部34は、印刷ユニット40によって印刷されるカラー画像データ、表面発泡データ及び裏面発泡データを、可搬型の記録媒体から読み出して取得する。
(印刷ユニット)
印刷ユニット40は、熱膨張性シート10の表面及び/又は裏面に印刷を行う。本実施形態では印刷ユニットは、インクを微滴化し、被印刷媒体に対して直接に吹き付ける方式で画像を印刷するインクジェットプリンタである。印刷ユニット40では、任意のインクを使用することができ、例えば水性インク、溶剤インク、紫外線硬化インク等を使用することができる。なお、印刷ユニット40は、インクジェットプリンタに限らず、任意の印刷装置を用いることができる。
図4(c)に示すように、印刷ユニット40は、熱膨張性シート10を搬入するための搬入部40aと、熱膨張性シート10を搬出するための搬出部40bと、を備える。印刷ユニット40は、搬入部40aから搬入された熱膨張性シート10の表面及び/又は裏面に指示された画像を印刷し、画像が印刷された熱膨張性シート10を搬出部40bから搬出する。
印刷ユニット40の詳細な構成例を、図6に示す。印刷ユニット40は、熱膨張性シート10が搬送される方向である副走査方向D1(Y方向)に直交する主走査方向D2(X方向)に往復移動可能なキャリッジ41を備える。
キャリッジ41には、印刷を実行する印刷ヘッド42と、インクを収容したインクカートリッジ43(43k,43c,43m,43y)が取り付けられている。各インクは、印刷ヘッド42の対応するノズルから吐出される。ここで、インクカートリッジ43には、カラー印刷を行うインクと、熱変換層を印刷するための電磁波熱変換材料(以下、熱変換材料と称する)を含む電磁波熱変換インク(以下、熱変換インクと称する。発熱インクと呼んでもよい)と、が備えられる。
電磁波熱変換材料(熱変換材料)は、電磁波を熱に変換可能な材料である。熱変換材料の一例としては、カーボン分子であるカーボンブラック(グラファイト)が挙げられる。電磁波を照射することにより、グラファイトが電磁波を吸収して熱振動し、熱が発生する。なお、熱変換材料は、グラファイトに限られず、例えば、赤外線吸収材料などの無機材料も使用することができる。
また、本実施形態では、インクカートリッジ43c,43m,43yは、シアンC、マゼンタM、及びイエローYの色インクであり、これらのインクによりカラー画像が表現される。また、インクカートリッジ43kは、グラファイト(カーボンブラック)を含む黒色インク(ブラックK)であり、黒色インクが熱変換インクに相当する。本実施形態では黒色インクを用いて、熱変換層を印刷する。なお、カラーインク層82において黒又はグレーの色を形成するため、カラーインクとして、カーボンブラックを含まない黒のカラーインクを更に備えてもよい。
印刷ユニット40は、熱膨張性シート10の表面において発泡及び膨張させる部分を示すデータである表面発泡データに基づき、熱変換インクを用いて表側変換層81を印刷する。同様に、熱膨張性シート10の裏面において発泡及び膨張させる部分を示すデータである裏面発泡データに基づき、黒色インクを用いて裏側変換層83を印刷する。後述するように、黒色インクの濃度がより濃く形成された部分ほど、熱膨張層の膨張高さは高くなる。このため、黒色インクの濃度は、目標高さに対応するように濃淡が決定される。
キャリッジ41は、ガイドレール44に滑動自在に支持されており、駆動ベルト45に挟持されている。キャリッジ41は、モータ45mの回転により駆動ベルト45が駆動することで、印刷ヘッド42及びインクカートリッジ43と共に、主走査方向D2に移動する。
フレーム47の下部には、印刷ヘッド42と対向する位置に、プラテン48が設けられている。プラテン48は、主走査方向D2に延在しており、熱膨張性シート10の搬送路の一部を構成している。熱膨張性シート10の搬送路には、給紙ローラ対49a(下のローラは不図示)と排紙ローラ対49b(下のローラは不図示)とが設けられている。給紙ローラ対49aと排紙ローラ対49bとは、プラテン48に支持された熱膨張性シート10を副走査方向D1に搬送する。
印刷ユニット40は、フレキシブル通信ケーブル46を介して制御ユニット30と接続されている。制御ユニット30は、フレキシブル通信ケーブル46を介して、印刷ヘッド42、モータ45m、給紙ローラ対49a及び排紙ローラ対49bを制御する。具体的に説明すると、制御ユニット30は、給紙ローラ対49a及び排紙ローラ対49bを制御して、熱膨張性シート10を搬送させる。また、制御ユニット30は、モータ45mを回転させてキャリッジ41を移動させ、印刷ヘッド42を主走査方向D2の適切な位置に搬送させる。
印刷ユニット40は、制御ユニット30から画像データを取得し、取得した画像データに基づいて印刷を実行する。具体的に説明すると、印刷ユニット40は、画像データとして、カラー画像データと表面発泡データと裏面発泡データとを取得する。カラー画像データは、熱膨張性シート10の表面に印刷するカラー画像を示すデータである。印刷ユニット40は、印刷ヘッド42に、シアンC、マゼンタM及びイエローYの各インクを熱膨張性シート10に向けて噴射させて、カラー画像を印刷する。
これに対して、表面発泡データは、熱膨張性シート10の表面において発泡及び膨張させる部分を示すデータである。また、裏面発泡データは、熱膨張性シート10の裏面において発泡及び膨張させる部分を示すデータである。印刷ユニット40は、印刷ヘッド42に、カーボンブラックを含むブラックKの黒色インクを熱膨張性シート10に向けて噴射させて、表面発泡データ又は裏面発泡データに対応する黒色による濃淡画像(濃淡パターン)を印刷する。
(膨張ユニット)
膨張ユニット50は、熱膨張性シート10の表面及び/又は裏面に電磁波を照射し、熱膨張層の少なくとも一部を膨張させる。膨張ユニット50は、図4(c)に示すように、熱膨張性シート10を搬入するための搬入部50aと、熱膨張性シート10を搬出するための搬出部50bと、を備える。膨張ユニット50は、搬入部50aから搬入された熱膨張性シート10の表面及び/又は裏面に電磁波を照射し、熱膨張層の少なくとも一部を膨張させ、熱膨張層が膨張された熱膨張性シート10を搬出部50bから搬出する。
膨張ユニット50の詳細な構成例を、図7に示す。膨張ユニット50は、図7に示すように、搬送ローラ対51,52と、搬送モータ53と、照射部55と、を備える。照射部55は、電磁波を照射する機構であって、搬送ローラ対51,52によって搬送される熱膨張性シート10に電磁波を照射する照射手段として機能する。図7に示すように、照射部55は、ランプヒータ56と、反射板57と、温度センサ58と、冷却部59と、を備える。
搬入部50aは、熱膨張性シート10を搬入するための機構である。ユーザは、熱膨張性シート10の表面に電磁波を照射して膨張させる場合には、熱膨張性シート10を、その表面を上側に向けて搬入部50aにセットする。また、ユーザは、熱膨張性シート10の裏面に電磁波を照射して膨張させる場合には、熱膨張性シート10を、その裏面を上側に向けて搬入部50aにセットする。搬入部50aに設置された熱膨張性シート10は、搬送ガイド(図示せず)によってガイドされながら、搬送ローラ対51,52によって筐体の内部に搬送される。
搬送ローラ対51,52は、搬入部50aから搬入された熱膨張性シート10を挟持して、搬送ガイドに沿って搬送する。搬送ローラ対51,52は、図7に示すように、搬送モータ53と少なくとも1個のローラ歯車を介して接続されている。搬送モータ53は、例えばパルス電力に同期して動作するステッピングモータである。搬送ローラ対51,52は、搬送モータ53の回転に伴う駆動力を動力源として回転し、熱膨張性シート10を、その表面又は裏面を照射部55に向けながら搬送する。また、搬送ローラ対51,52は、搬送モータ53と協働することによって、熱膨張性シート10と照射部55とを相対的に移動させる移動手段として機能する。
ランプヒータ56は、例えばハロゲンランプを備えており、熱膨張性シート10に対して、近赤外領域(波長750〜1400nm)、可視光領域(波長380〜750nm)、又は、中赤外領域(波長1400〜4000nm)の電磁波(光)を照射する。熱変換材料を含む熱変換インク(発熱インク)による濃淡画像が印刷された熱膨張性シート10に電磁波を照射すると、濃淡画像が印刷された部分では、濃淡画像が印刷されていない部分に比べて、より効率良く電磁波が熱に変換される。そのため、熱膨張性シート10のうちの濃淡画像が印刷された部分が主に加熱され、膨張を開始する温度に達すると熱膨張性材料が膨張する。なお、照射部はハロゲンランプに限られず、電磁波を照射可能であれば、他の構成を採ることも可能である。また、電磁波の波長も上記の範囲に限定されるものではない。
反射板57は、照射部55から照射された電磁波を受ける被照射体であって、ランプヒータ56から照射された電磁波を熱膨張性シート10に向けて反射する機構である。反射板57は、ランプヒータ56の上側を覆うように配置されており、ランプヒータ56から上側に向けて照射された電磁波を下側に向けて反射する。反射板57によって、ランプヒータから照射された電磁波を効率良く熱膨張性シート10に照射することができる。
温度センサ58は、熱電対、サーミスタ等であって、反射板57の温度を測定する測定手段として機能する。温度センサ58は、ランプヒータ56が電磁波を照射している際に、反射板57の温度を測定する。反射板57はランプヒータ56から照射される電磁波を受けるため、ランプヒータ56が照射している電磁波の強さ、すなわち電磁波のエネルギーの大きさに応じて変化する。そのため、反射板57の温度は、ランプヒータ56が照射している電磁波の強さの指標として用いることもできる。
冷却部59は、反射板57の上側に設けられており、膨張ユニット50の内部を冷却する冷却手段として機能する。冷却部59は、少なくとも1つの給気ファンを備えており、膨張ユニット50の外部から照射部55に空気を送ることによって、照射部55を冷却する。
膨張ユニット50において、熱膨張性シート10は、搬入部50aからユニット内部へと搬入され、搬送ローラ対51,52によって搬送されながら、照射部55によって照射される電磁波を受ける。その結果、熱膨張性シート10のうち、濃淡画像である表側変換層81又は裏側変換層83が印刷された部分が熱を帯びる。この熱が熱膨張層12へと伝達し、熱膨張層12の少なくとも一部が膨張する。このように加熱されて膨張した熱膨張性シート10は、搬出部50bから搬出される。
(表示ユニット)
表示ユニット60は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の表示装置と、表示装置に画像を表示させる表示駆動回路と、を備える。表示ユニット60は、例えば図4(b)に示すように、印刷ユニット40によって熱膨張性シート10に印刷される画像を表示する(例えば、図4(b)に示す星)。また、表示ユニット60は、必要に応じて、印刷ユニット40又は膨張ユニット50の現在の状態を示す情報を表示する。
なお、図示していないが、造形システム20は、ユーザによって操作される操作ユニットを備えていても良い。操作ユニットは、ボタン、スイッチ、ダイヤル等を備え、印刷ユニット40又は膨張ユニット50に対する操作を受け付ける。或いは、表示ユニット60は、表示装置と操作装置とが重ねられたタッチパネル又はタッチスクリーンを備えていてもよい。
本実施形態の造形システム20によれば、濃淡画像(表面発泡データ、裏面発泡データ)の濃淡の制御、電磁波の制御等により、熱膨張性材料の膨張量を制御し、熱膨張層12の隆起する高さを制御し、熱膨張性シート10の表面に所望のバンプ面状を形成することができる。
ここで、電磁波の制御は、造形システム20において熱膨張性シート10に電磁波を照射して膨張させる際、熱膨張性シート10を所望の高さに膨張させるために、熱膨張性シート10が単位面積当たりに受けるエネルギー量を制御することをいう。具体的に、熱膨張性シート10が単位面積当たりに受けるエネルギー量は、照射部の照射強度、移動速度、照射時間、照射距離、温度、湿度、冷却等のパラメータによって変化する。電磁波の制御は、このようなパラメータの少なくとも1つを制御することによって実行される。
(造形物の製造方法)
次に、図8に示すフローチャート及び図9(a)〜(e)に示す熱膨張性シート10の断面図を参照して、造形システム20によって熱膨張性シート10上に造形物を製造する処理の流れを説明する。
第1に、ユーザは、造形物が製造される前の熱膨張性シート10を準備し、表示ユニット60を介して、カラー画像データ、表面発泡データ及び裏面発泡データを指定する。そして、熱膨張性シート10を、その表面を上側に向けて印刷ユニット40に挿入する。印刷ユニット40は、挿入された熱膨張性シート10の表面に熱変換層(表側変換層81)を印刷する(ステップS1)。表側変換層81は、電磁波熱変換材料を含むインク、例えばカーボンブラックを含む黒色インクで形成された層である。印刷ユニット40は、指定された表面発泡データに従って、熱膨張性シート10の表面に、カーボンブラックを含む黒色インクを吐出する。その結果、図9(a)に示すように、インク受容層13上に表側変換層81が形成される。なお、理解を容易とするため、インク受容層13上に表側変換層81が形成されているように図示しているが、より正確には黒色インクはインク受容層13中に受容されているため、インク受容層13中に表側変換層81が形成されている。
第2に、ユーザは、表側変換層81が印刷された熱膨張性シート10を、その表面を上側に向けて膨張ユニット50に挿入する。膨張ユニット50は、挿入された熱膨張性シート10へ表面から電磁波を照射する(ステップS2)。具体的に説明すると、膨張ユニット50は、照射部55によって熱膨張性シート10の表面に電磁波を照射する。熱膨張性シート10の表面に印刷された表側変換層81に含まれる熱変換材料は、照射された電磁波を吸収することによって発熱する。その結果、表側変換層81が発熱し、図9(c)に示すように、熱膨張性シート10の熱膨張層12のうちの表側変換層81が印刷された領域が膨張し、盛り上がる。
第3に、熱膨張層12の一部が膨張した熱膨張性シート10を、その表面を上側に向けて印刷ユニット40に挿入する。印刷ユニット40は、挿入された熱膨張性シート10の表面にカラー画像(カラーインク層82)を印刷する(ステップS3)。具体的には、印刷ユニット40は、指定されたカラー画像データに従って、熱膨張性シート10の表面に、シアンC、マゼンタM及びイエローYの各インクを吐出する。その結果、図9(c)に示すように、インク受容層13上にカラーインク層82が形成される。なお、インク受容層13上にカラーインク層82が形成されているように図示しているが、より正確にはカラーインクはインク受容層13中に受容されている。
第4に、カラーインク層82の形成後、カラーインク層82を乾燥させる(ステップS4)。例えば、ユーザは、カラーインク層82が印刷された熱膨張性シート10を、その裏面を上側に向けて膨張ユニット50に挿入し、膨張ユニット50は、挿入された熱膨張性シート10を裏面から加熱し、熱膨張性シート10の表面に形成されたカラーインク層82を乾燥させる。具体的に説明すると、膨張ユニット50は、照射部55によって熱膨張性シート10の裏面に電磁波を照射させ、カラーインク層82を加熱し、カラーインク層82中に含まれる溶媒を揮発させる。なお、ステップS4は省略することも可能である。
第5に、ユーザは、カラーインク層82が印刷された熱膨張性シート10を、その裏面を上側に向けて印刷ユニット40に挿入する。印刷ユニット40は、挿入された熱膨張性シート10の裏面に熱変換層(裏側変換層83)を印刷する(ステップS5)。裏側変換層83は、熱膨張性シート10の表面に印刷された表側変換層81と同様に、電磁波を熱に変換する材料、具体的にはカーボンブラックを含む黒色インクで形成された層である。印刷ユニット40は、指定された裏面発泡データに従って、熱膨張性シート10の裏面に、カーボンブラックを含む黒色インクを吐出する。その結果、図9(d)に示すように、基材11の裏面に裏側変換層83が形成される。
第6に、ユーザは、裏側変換層83が印刷された熱膨張性シート10を、その裏面を上側に向けて膨張ユニット50に挿入する。膨張ユニット50は、挿入された熱膨張性シート10へ裏面から電磁波を照射して加熱する(ステップS6)。具体的に説明すると、膨張ユニット50は、照射部(図示せず)によって熱膨張性シート10の裏面に電磁波を照射させる。熱膨張性シート10の裏面に印刷された裏側変換層83は、照射された電磁波を吸収することによって発熱する。その結果、図9(e)に示すように、熱膨張性シート10の熱膨張層12のうち、裏側変換層83が印刷された領域が膨張し、盛り上がる。
以上のような手順によって、熱膨張性シート10の表面上に造形物が形成される。
なお、熱変換層は表側のみ又は裏側のみに形成されてもよい。表側変換層81のみを利用して熱膨張層12を膨張させる場合、上記の処理のうちステップS1〜S4を実施する。一方、裏側変換層83のみを利用して熱膨張層12を膨張させる場合、上記の処理のうち、ステップS3〜ステップS6を実施する。
本実施形態の熱膨張性シート、熱膨張性シートの製造方法、造形物の製造方法、造形システム及び膨張装置によれば、熱変換層を印刷により形成し、電磁波を照射することによって、熱膨張性シート10の表面に所望のバンプ面状を形成する。これにより、良好に造形物を形成することができる。印刷及び電磁波の照射を用いることで、簡易に造形物を製造することができるという優れた効果を有する。また、造形物の製造に要する時間が短くなるという優れた効果も有する。
また、本実施形態では、濃淡画像(表面発泡データ、裏面発泡データ)の濃淡の制御、電磁波の制御等を用いることで、熱膨張層を隆起させる位置、高さ等を任意に制御して、バンプ面状を形成することができる。これにより、造形物は、多彩な素材の質感、触感等を表現することができる。また、カラー画像印刷を組み合わせることにより、更に良好に多彩な素材の質感、触感等を表現することができる。従って、本実施形態によれば、装飾性のある造形物を良好に製造することが可能となる。
加えて、製品開発初期の素材開発において、本実施形態の熱膨張性シート等を用いることで、速やかに素材の質感、触感等を表現することができ、デザイン開発期間の短縮、製品の確認精度の向上等を図ることもできる。
<実施形態2>
実施形態2に係る熱膨張性シート及び熱膨張性シートの製造方法について、以下、図面を参照して説明する。本実施形態の熱膨張性シート120及び熱膨張性シート120の製造方法が、実施形態1のそれらと異なる点は、熱膨張層が第1の熱膨張層121と第2の熱膨張層122とから形成される点にある。実施形態1と共通する特徴については、詳細な説明を省略する。
(熱膨張性シート)
熱膨張性シート120は、図10に示すように、基材111と、第1の熱膨張層121と、第2の熱膨張層122と、インク受容層113と、を備える。
第1の熱膨張層121は、基材111の一方の面(図10に示す上面)上に形成される。基材111は、実施形態1と同様である。第1の熱膨張層121は、加熱温度、加熱時間に応じた大きさに膨張する層であって、バインダB1中に複数の熱膨張性材料(第1の熱膨張性材料)MC1(熱膨張性マイクロカプセル、マイクロカプセル)が分散配置されている。また、基材111の厚みは、例えば200μm程度であり、第1の熱膨張層121の厚みは、例えば100μm程度である。
バインダ(第1のバインダ)B1としては、実施形態1と同様に酢酸ビニル系ポリマー、アクリル系ポリマー等から選択される熱可塑性樹脂を用いる。また、熱膨張性マイクロカプセルMC1は、実施形態1と同様に低沸点気化性物質を、熱可塑性樹脂の殻内に封入したものである。熱膨張性マイクロカプセルの平均粒径は、約5〜50μmである。この熱膨張性マイクロカプセルを熱膨張開始温度以上に加熱すると、樹脂からなる高分子の殻が軟化し、内包されている低沸点気化性物質が気化し、その圧力によって殻が膨張する。なお、図10では、便宜上、熱膨張性マイクロカプセルMC1の粒径がほぼ同じに図示されているが、実際は熱膨張性マイクロカプセルMC1の粒径には、ばらつきがある。
第2の熱膨張層122は、図10に示すように、基材111の一方の面上に形成された第1の熱膨張層121の上に形成される。第2の熱膨張層122も、第1の熱膨張層121と同様に、加熱温度、加熱時間に応じた大きさに膨張する層であって、バインダ(第2のバインダ)B2中に熱膨張性材料(第2の熱膨張性材料)MC2が分散配置されている。熱膨張性材料MC2は、第1の熱膨張層121の熱膨張性材料MC1と同じ材料を用いても、異なる材料を用いてもよい。また、バインダB2についても、バインダB1と同じ材料を用いても異なる材料を用いてもよい。第1の熱膨張層121と第2の熱膨張層122とで少なくとも一部について同じ材料を用いると、原料が共通化され、製造工程を簡易化でき、加えて製造コスト削減に寄与することができ好ましい。バインダ、熱膨張性材料ともに同じ材料を使用すると更に好適である。
本実施形態では、実施形態1で説明した造形物の製造方法に従い、熱膨張性シート120の上面(表面)に設けられたインク受容層113上、及び/又は熱膨張性シート120の下面(裏面)に熱変換層を形成し、電磁波を照射することで、熱変換層に熱を帯びさせる。第1の熱膨張層121及び第2の熱膨張層122は、表面及び/又は裏面の熱変換層で生じた熱を吸収して、膨張する。これにより、第1の熱膨張層121及び第2の熱膨張層122は、特定の領域のみが選択的に膨張し、熱膨張性シート120の表面にバンプ面状が形成される。
インク受容層113は、図10に示すように、第2の熱膨張層122の上に形成される。インク受容層113は、実施形態1と同様に、印刷工程で使用されるインク、例えば、インクジェットプリンタのインクを受容し、定着させる層である。インク受容層113は、印刷工程で使用されるインクに応じて、実施形態1に記載のインク受容層13と同様に汎用されている材料を使用して形成される。なお、インク受容層113は、用いられるインク等に応じて、適宜省略することが可能である。
本実施形態では、第2の熱膨張層122において、バインダB2に対して熱膨張性材料MC2が含有される割合(含有率とも称する)は、第1の熱膨張層121におけるバインダB1に対して熱膨張性材料MC1が含有される割合(含有率とも称する)と比較して低くされる。ここで、バインダに対して熱膨張性材料が含有される割合は、任意であり、例えば体積比、重量比などを用いて定義される。重量比を例に挙げると、バインダB2に対する熱膨張性材料MC2の重量比(第2の割合)は、バインダB1に対する熱膨張性材料MC1の重量比(第1の割合)と比較して小さく、具体的には、1/3〜1/8程度である。換言すれば、100重量部のバインダB2に対して分散される熱膨張性材料MC2がX2重量部であり、100重量部のバインダB1に対して分散される熱膨張性材料MC1がX1重量部とすると、X2/X1は1より小さく、1/3〜1/8程度とされる。なお、バインダに対して熱膨張性材料が含有される割合は、密度によって定義されてもよい。この場合、第2の熱膨張層122は、第1の熱膨張層121と比較して低い密度で、熱膨張性材料を含有すると言える。
また、第2の熱膨張層122は、第1の熱膨張層121と比較して熱膨張性材料を含有する割合が少ないため、同じ条件で膨張させた場合、第2の熱膨張層122は、第1の熱膨張層121と比較して膨張後の高さは低くなる。このため、熱膨張層において、より膨張の高さを得るためには、第2の熱膨張層122は、第1の熱膨張層121よりも薄く形成されることが好ましい。加えて、第2の熱膨張層122は、必要以上に厚く形成されないことが好ましい。このような観点から、第2の熱膨張層122の厚みは、熱膨張性材料MC2の数個分に相当する厚み、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個の厚みに形成されるのが好ましい。換言すれば、熱膨張性材料の平均粒径の1〜10倍、好ましくは1〜5倍の厚みに形成されることが好ましい。例えば、第2の熱膨張層122は、50μm程度の厚みに形成される。また、第2の熱膨張層122の厚みは、第1の熱膨張層121の厚みの2/3〜1/10程度とされると好ましい。
(熱膨張性シートの製造方法)
次に、熱膨張性シート120の製造方法を図11(a)〜(c)を用いて説明する。
まず、基材111としてシート状の材料、例えば紙を用意する。基材111は、ロール状であっても、予め裁断されていてもよい。
次に、熱可塑性樹脂等からなるバインダと熱膨張性材料とを混合させ、第1の熱膨張層121を形成するための塗布液を調製する。
続いて、バーコータ、ローラーコータ、スプレーコータ等の公知の塗布装置を用いて、塗布液を基材111上に塗布する。続いて、塗膜を乾燥させ、図11(a)に示すように第1の熱膨張層121を形成する。なお、目標とする第1の熱膨張層121の厚みを得るため、塗布液の塗布及び乾燥を複数回行ってもよい。
次に、バインダと熱膨張性材料とを混合させ、第2の熱膨張層122を形成するための塗布液を調製する。バインダと熱膨張性材料とは、第1の熱膨張層121を形成するための塗布液と同じ材料を用いることが好ましい。この際、バインダに対する熱膨張性材料の含有率は、第1の熱膨張層121におけるバインダに対する熱膨張性材料の含有率と比較して低くし、例えば、重量比で1/3〜1/8程度とする。
続いて、バーコータ、ローラーコータ、スプレーコータ等の方式による公知の塗布装置を用いて、第2の熱膨張層122を形成するための塗布液を第1の熱膨張層121上に塗布する。次に、塗膜を乾燥させ、図11(b)に示すように第2の熱膨張層122を形成する。なお、目標とする第2の熱膨張層122の厚みを得るため、塗布及び乾燥は複数回行ってもよい。また、第2の熱膨張層122は、第1の熱膨張層121と比較して薄く形成する。第2の熱膨張層122の厚みは、熱膨張性材料MC2の数個分に相当する厚み、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個の厚みに形成されるのが好ましい。
次に、実施形態1と同様に、図11(c)に示すように、インク受容層113を第2の熱膨張層122上に形成する。また、ロール状の基材111を用いた場合は、造形システム20に適合する大きさに裁断を行う。
本実施形態の熱膨張性シート及び熱膨張性シートの製造方法によれば、第1の熱膨張層121の上に、第1の熱膨張層121よりも低い含有率で熱膨張性材料を含む第2の熱膨張層122を形成することにより、シート表面に生ずる凹凸の発生を緩和することができる。これにより、簡易に造形物を製造することができるだけでなく、熱膨張性シート120の表面に形成される造形物は、多彩な素材の質感、触感等を更に良好に表現することができる。従って、装飾性のある造形物を良好に製造することが可能となる。加えて、熱膨張シートの表面を良好に平滑化させることが可能となり、良好な耐擦過性を備えることが可能である。
例えば、比較例として、図12(a)に第1の熱膨張層のみ、換言すれば第2の熱膨張層を備えない熱膨張性シートを膨張させた構成を模式的に示す。この構成では、図12(a)に示すように、熱膨張層の表面にマイクロカプセルが凝集し、表面に段差d1の凹凸が発生する。加えて、図示するように、熱膨張層の表面に位置するマイクロカプセルは、剥がれやすく、耐擦過性が劣る。これに対し、本実施形態と同様の構成を採る図12(b)に示す熱膨張性シートでは、第2の熱膨張層の表面で生ずる段差d2は、段差d1と比較して小さく抑えられる。第2の熱膨張層は、直下に基材のような強度を備える層が形成されていないため、上方向だけでなく下方向にも膨張する。これにより、第2の熱膨張層の膨張によって第1の熱膨張層で生ずる凹凸内を埋めることが可能であると考えられる。また、第1の熱膨張層は、膨張時に第2の熱膨張層によって抑えられ、第1の熱膨張層表面での凹凸の発生が抑制される。更に、第2の熱膨張層ではマイクロカプセルが含有されている量が少ないため、第2の熱膨張層の表面でのマイクロカプセルの凝集を抑制することができる。従って、第2の熱膨張層を備えない構成と比較し、本実施形態の熱膨張性シートでは、第2の熱膨張層によって、熱膨張層の表面で生ずる凹凸の発生を抑制することができ、シート表面の平滑性を向上させることが可能である。また、熱膨張層の耐擦過性も向上させることができる。
加えて、特に本実施形態の第2の熱膨張層は、熱膨張性材料を含むため、第2の熱膨張層自体も膨張する。従って、第2の熱膨張層が熱膨張層全体において膨張後の高さの増加に寄与するという効果も得られる。また、インク受容層は、熱膨張性シートの表面にインクを受容、定着させるための層であるが、この層を第2の熱膨張層上に備えることにより、熱膨張性シートの表面は更に良好に平滑化され、耐擦過性も更に良好となって好ましい。
<実施形態3>
実施形態3に係る熱膨張性シート及び熱膨張性シートの製造方法について、以下、図面を参照して説明する。本実施形態の熱膨張性シート130及び熱膨張性シート130の製造方法が、実施形態1及び実施形態2のそれらと異なる点は、熱膨張層が第1の熱膨張層121と第2の熱膨張層132とから形成され、第2の熱膨張層132中に白色顔料が含有される点にある。実施形態1と共通する特徴については、詳細な説明を省略する。
(熱膨張性シート)
熱膨張性シート130は、基材111と、第1の熱膨張層121と、第2の熱膨張層132と、インク受容層113と、を備える。
第1の熱膨張層121は、図13に示すように、基材111の一方の面(図13に示す上面)上に形成される。基材111は、実施形態1及び2と同様である。また、第1の熱膨張層121は、実施形態2と同様であり、加熱温度、加熱時間に応じた大きさに膨張する層であって、バインダB1中に複数の熱膨張性材料MC1(熱膨張性マイクロカプセル、マイクロカプセル)が分散配置されている。後述するように、第2の熱膨張層132は白色顔料を含むが、第1の熱膨張層121は白色顔料を含まない。また、基材111の厚みは、例えば200μm程度であり、第1の熱膨張層121の厚みは、例えば100μm程度である。なお、図13でも、便宜上熱膨張性マイクロカプセルMC1の粒径がほぼ同じに図示されているが、実際は熱膨張性マイクロカプセルMC1の粒径には、ばらつきがある。
第2の熱膨張層132は、図13に示すように、基材111の一方の面上に形成された第1の熱膨張層121の上に形成される。第2の熱膨張層132は、熱膨張層のうち最も表に位置する。第2の熱膨張層132も、第1の熱膨張層121と同様に、加熱温度、加熱時間に応じた大きさに膨張する層であって、バインダB2中に熱膨張性材料MC2(熱膨張性マイクロカプセル)が分散配置されている。また、第2の熱膨張層132は、図13に示すように白色顔料Wを含む。白色顔料Wとしては、白色を呈する顔料であれば任意の材料を用いることができ、例えば酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛等から選択される材料を用いることができる。白色顔料Wとしては、特に酸化チタンが好ましい。本実施形態では、熱膨張層のうち最も表に位置する第2の熱膨張層132が白色顔料を含むことにより、熱膨張層の白色度を向上させることができる。
また、バインダB2及び熱膨張性マイクロカプセルMC2は、第1の熱膨張層121のバインダB1及び熱膨張性マイクロカプセルMC1として挙げた材料が用いられる。なお、熱膨張性マイクロカプセルMC1は、第1の熱膨張層121の熱膨張性マイクロカプセルMC1と異なる材料を用いても、同じ材料を用いてもよい。バインダB2についても、バインダB1と異なる材料を用いても、同じ材料を用いてもよい。なお、第1の熱膨張層121と第2の熱膨張層132とで少なくとも一部について同じ材料を用いると、原料が共通化され、製造工程を簡易化でき、加えて製造コスト削減に寄与することができ好ましい。
本実施形態においても、実施形態1で説明した造形物の製造方法に従い、熱膨張性シート130の上面(表面)及び/又は下面(裏面)に熱変換層を形成し、電磁波を照射することで、熱変換層に熱を帯びさせる。第1の熱膨張層121及び第2の熱膨張層132は、表面及び/又は裏面の熱変換層で生じた熱を吸収して、膨張し、熱膨張性シート130の表面にバンプ面状が形成される。
また、第2の熱膨張層132において、バインダB2に対して熱膨張性材料MC2が含有される割合(含有率とも称する)は、第1の熱膨張層121におけるバインダB1に対して熱膨張性材料MC1が含有される割合(含有率とも称する)と同一であってもよく、低くしてもよい。なお、図13では、実施形態2と同様にバインダB2に対する熱膨張性材料MC2の含有率を第1の熱膨張層121のそれと比較して低くする例を図示している。ここで、バインダに対して熱膨張性材料が含有される割合は、実施形態2と同様に体積比、重量比などを用いて定義される。例えば、重量比を用いると、バインダB2に対する熱膨張性材料MC2の重量比(第2の割合)は、バインダB1に対する熱膨張性材料MC1の重量比(第1の割合)と比較して同じ、もしくは第2の割合は、第1の割合と比較して小さく、具体的には1/3〜1/8程度である。換言すれば、例えば、100重量部のバインダB2に対して分散される熱膨張性材料MC2がX2重量部であり、100重量部のバインダB1に対して分散される熱膨張性材料MC1がX1重量部とすると、X2/X1は1と同じ、もしくは1/3〜1/8程度とされる。また、第2の熱膨張層132は、第1の熱膨張層121と比較して、同じ密度又は低い密度で熱膨張性材料を含有するとも言える。
第2の熱膨張層132の厚みは、第1の熱膨張層121の厚みと同じであってもよく、第1の熱膨張層121より薄くともよい。
なお、第2の熱膨張層132において熱膨張性材料の含有率を低くする場合は、第2の熱膨張層132は、第1の熱膨張層121と比較して膨張させた場合に高さを得られにくくなるため、第1の熱膨張層121よりも薄く形成されることが好ましい。また、第2の熱膨張層132は、必要以上に厚く形成されないことが好ましい。従って、第2の熱膨張層132の厚みは、熱膨張性材料MC2の数個分に相当する厚み、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個に相当する厚みに形成されるのが好ましい。換言すれば、マイクロカプセルの平均粒径の1〜10倍、好ましくは1〜5倍の厚みに形成されることが好ましい。例えば、第2の熱膨張層132は、50μm程度の厚みに形成される。
インク受容層113は、実施形態1及び2と同様であり、第2の熱膨張層132の上に形成される。本実施形態では、インク受容層113が、多孔質シリカのような白色の材料を含むと、更に熱膨張性シート130の表面の白色度を向上させることができ、好ましい。なお、インク受容層113は、造形システム20を構成する印刷ユニット40で用いられるインクに応じて、省略することも可能である。
(熱膨張性シートの製造方法)
次に、熱膨張性シート130の製造方法について、実施形態2の図11を参照して説明する。
まず、実施形態2と同様に基材111を用意し、基材111の一方の面上に、図11(a)に示すように第1の熱膨張層121を形成する。
次に、バインダと熱膨張性材料とを混合させ、第2の熱膨張層132を形成するための塗布液を調製する。バインダと熱膨張性材料とは、第1の熱膨張層121を形成するための塗布液と異なる材料を用いてもよいが、同じ材料を用いることが好ましい。この際、バインダに対する熱膨張性材料の含有率は、第1の熱膨張層121におけるバインダに対する熱膨張性材料の含有率と同じとしてもよく、比較して低く、例えば重量比で1/3〜1/8程度としてもよい。また、本実施形態では、塗布液中に、白色顔料W、例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛等から選択される材料を混入させる。
続いて、バーコータ、ローラーコータ、スプレーコータ等の方式による公知の塗布装置を用いて、第2の熱膨張層132を形成するための塗布液を第1の熱膨張層121上に塗布する。次に、塗膜を乾燥させ、図11(b)に示すように第2の熱膨張層132を形成する。なお、目標とする第2の熱膨張層132の厚みを得るため、塗布及び乾燥は複数回行ってもよい。
次に、実施形態1、2等と同様に、図11(c)に示すように、インク受容層113を第2の熱膨張層132上に形成する。また、ロール状の基材111を用いた場合は、造形システム20に適合する大きさに裁断を行う。
以上により、熱膨張性シート130が製造される。
本実施形態の熱膨張性シート130及び熱膨張性シート130の製造方法によれば、第1の熱膨張層121の上に設けられた第2の熱膨張層132に白色顔料を含有させることにより、熱膨張性シート130の表面の白色度を良好とすることができる。これにより、簡易に造形物を製造することができるだけでなく、熱膨張性シート130の表面に形成されるカラーインク層82の発色を良好とすることができ、熱膨張性シート130の表面に形成される造形物において、多彩な素材の質感等を更に良好に表現することができる。従って、装飾性のある造形物を良好に製造することが可能となる。
加えて、多孔質シリカのような白色の材料を含むインク受容層113が第2の熱膨張層132上に形成されると、更に熱膨張性シート130の表面の白色度を向上させることができ、熱膨張性シート130の表面に形成されるカラーインク層82の発色を更に良好とすることができる。
また、本実施形態では、特に第1の熱膨張層121には白色顔料を含有させず、第2の熱膨張層132に白色顔料を含有させるため、第1の熱膨張層121中において熱膨張性材料が含まれる割合を白色顔料によって低下させることを防ぐことができ、第1の熱膨張層121の膨張可能な高さを低減させることを防ぐことができる。加えて、インク受容層113が設けられる場合は、熱膨張性シート130の最表面に位置するインク受容層113へ白色顔料を分散させることも避けられ、インク受容層113がインクを受容する性能を下げることも防ぐことができる。更に、第2の熱膨張層132自体も発泡し膨張するため、第2の熱膨張層132は、熱膨張層全体の高さの増加にも寄与することができる。
上記に加えて、第2の熱膨張層中における熱膨張性材料の含有率を第1の熱膨張層よりも低下させることにより、実施形態2に示すように、熱膨張層の表面に生ずる凹凸の発生を緩和し、熱膨張性シートの表面を良好に平滑化させることも可能である。
<実施形態4>
実施形態4に係る熱膨張性シート及び熱膨張性シートの製造方法について、以下、図面を参照して説明する。本実施形態の熱膨張性シート140及び熱膨張性シート140の製造方法が、実施形態1〜実施形態3のそれらと異なる点は、熱膨張層が第3の熱膨張層143と第4の熱膨張層144とから形成される点にある。実施形態1等と共通する特徴については、詳細な説明を省略する。
(熱膨張性シート)
熱膨張性シート140は、図14に示すように、基材111と、第3の熱膨張層143と、第4の熱膨張層144と、インク受容層113と、を備える。本実施形態では、第3の熱膨張層143と第4の熱膨張層144とが、熱膨張層を構成する。
第3の熱膨張層143は、基材111の一方の面(図14に示す上面)上に形成される。基材111は、実施形態1等と同様である。第3の熱膨張層143は、実施形態1等と同様に加熱温度、加熱時間に応じた大きさに膨張する層であって、バインダB3中に複数の熱膨張性材料(第3の熱膨張性材料)MC3が分散配置されている。バインダ(第3のバインダ)B3は、実施形態1等と同様であり、熱可塑性樹脂を用いる。また、熱膨張性マイクロカプセルMC3も、実施形態1等と同様であり、低沸点気化性物質を、熱可塑性樹脂の殻内に封入したものである。なお、図14でも、便宜上マイクロカプセルMC3の粒径がほぼ同じに図示されているが、実際はマイクロカプセルMC3の粒径は、一定ではない。
第4の熱膨張層144は、図14に示すように、第3の熱膨張層143の上に形成される。第4の熱膨張層144も、第3の熱膨張層143と同様に、加熱温度、加熱時間に応じた大きさに膨張する層であって、バインダ(第4のバインダ)B4中に熱膨張性材料(第4の熱膨張性材料)MC4(熱膨張性マイクロカプセル)が分散配置されている。熱膨張性マイクロカプセルMC4としては、第3の熱膨張層143の熱膨張性マイクロカプセルMC3と同じ材料が用いられても、異なる材料が用いられてもよい。バインダB4についても、バインダB3と異なる材料が用いられても、同じ材料が用いられてもよい。第3の熱膨張層143と第4の熱膨張層144とで同じ材料を用いると、原料が共通化され、製造工程を簡易化でき、加えて製造コスト削減に寄与することができ好ましい。
インク受容層113は、図14に示すように、第4の熱膨張層144の上に形成される。インク受容層113は、実施形態1と同様に、印刷工程で使用されるインク、例えば、インクジェットプリンタのインクを受容し、定着させる層である。なお、インク受容層113は、用いられるインク等に応じて、適宜省略することが可能である。
本実施形態においても、実施形態1で説明した造形物の製造方法に従い、熱膨張性シート140の上面(表面)及び/又は下面(裏面)に熱変換層を形成し、電磁波を照射することで、熱変換層に熱を帯びさせる。第3の熱膨張層143及び第4の熱膨張層144は、表面及び/又は裏面の熱変換層で生じた熱を吸収して、膨張し、隆起して、熱膨張性シート140の表面にバンプ面状が形成される。
本実施形態では、第3の熱膨張層143において、バインダB3に対して熱膨張性材料MC3が含有される割合(含有率とも称する)は、第4の熱膨張層144におけるバインダB4に対して熱膨張性材料MC4が含有される割合(含有率とも称する)と比較して低くされる。ここで、バインダに対して熱膨張性材料が含有される割合は、体積比、重量比などを用いて定義される。例えば、重量比を用いると、バインダB3に対する熱膨張性材料MC3の重量比(第3の割合)は、バインダB4に対する熱膨張性材料MC4の重量比(第4の割合)と比較して小さく、具体的には、1/3〜1/8程度である。換言すれば、例えば、100重量部のバインダB3に対して分散される熱膨張性材料MC3がX3重量部であり、100重量部のバインダB4に対して分散される熱膨張性材料MC4がX4重量部とすると、X3/X4は1より小さく、1/3〜1/8程度とされる。なお、バインダに対して熱膨張性材料が含有される割合は、密度によって定義されてもよい。この場合、第3の熱膨張層143は、第4の熱膨張層144と比較して低い密度で、熱膨張性材料を含有すると言える。
また、第3の熱膨張層143は、第4の熱膨張層144と比較して熱膨張性材料が含有される割合が少ないため、同じ条件で膨張させた場合、第4の熱膨張層144と比較して膨張後の高さは低くなる。このため、第3の熱膨張層143は、第4の熱膨張層144よりも薄く形成されることが好ましい。加えて、第3の熱膨張層143は、必要以上に厚く形成されないことが好ましい。このような観点から、第3の熱膨張層143の厚みは、熱膨張性材料MC2の数個分に相当する厚み、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個の厚みに形成されるのが好ましい。換言すれば、マイクロカプセルの平均粒径の1〜10倍、好ましくは1〜5倍の厚みに形成されることが好ましい。
(熱膨張性シートの製造方法)
次に、熱膨張性シート140の製造方法を説明する。
まず、実施形態2等と同様に、シート状の基材111を用意する。
次に、熱可塑性樹脂等からなるバインダと熱膨張性材料とを混合させ、第3の熱膨張層143を形成するための塗布液を調製する。この際、バインダに対する熱膨張性材料の含有率は、この工程の次に行う第4の熱膨張層144を形成する工程におけるバインダに対する熱膨張性材料の含有率と比較して低くし、例えば、重量比で1/3〜1/8程度とする。
続いて、バーコータ、ローラーコータ、スプレーコータ等の公知の塗布装置を用いて、塗布液を基材111上に塗布する。続いて、塗膜を乾燥させ、図15(a)に示すように第3の熱膨張層143を形成する。なお、目標とする第3の熱膨張層143の厚みを得るため、塗布液の塗布及び乾燥を複数回行ってもよい。また、第3の熱膨張層143は、第4の熱膨張層144と比較して薄く形成する。第3の熱膨張層143の厚みは、熱膨張性材料MC3の数個分に相当する厚み、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個の厚みに形成されるのが好ましい。
次に、バインダと熱膨張性材料とを混合させ、第4の熱膨張層144を形成するための塗布液を調製する。バインダと熱膨張性材料とは、第3の熱膨張層143を形成するための塗布液と異なる材料を用いてもよいが、同じ材料を用いると好ましい。
続いて、バーコータ、ローラーコータ、スプレーコータ等の方式による公知の塗布装置を用いて、第4の熱膨張層144を形成するための塗布液を第3の熱膨張層143上に塗布する。次に、塗膜を乾燥させ、図15(b)に示すように第4の熱膨張層144を形成する。なお、目標とする第4の熱膨張層144の厚みを得るため、塗布及び乾燥は複数回行ってもよい。
次に、実施形態2と同様にインク受容層113を構成する材料を溶剤中に分散させ、インク受容層113を形成するための塗布液を調製する。続いて、この塗布液を、バーコータ、ローラーコータ、スプレーコータ等の方式による公知の塗布装置を用いて、第4の熱膨張層144上に塗布する。続いて、塗膜を乾燥させ、図15(c)に示すように、インク受容層113を形成する。また、ロール状の基材111を用いた場合は、造形システム20に適合する大きさに裁断を行う。
以上により、熱膨張性シート140が製造される。
一般に熱膨張性シートでは、基材上に設けられた熱膨張層は、基材側とは反対の方向(例えば図14に示す上方向)へと膨張する。この膨張により、基材とその直上に設けられた熱膨張層との間に剥離が発生することがある。また、一般に熱膨張性材料の含有率が高くなるほど基材からの剥離も発生しやすくなる。これに対し、本実施形態の熱膨張性シート140では、基材111と第4の熱膨張層144の間に、熱膨張性材料の含有率が第4の熱膨張層144よりも低い第3の熱膨張層143が介在する。この第3の熱膨張層143は膨張する程度が第4の熱膨張層144と比較して抑制されているため、基材111から熱膨張層が剥離することを抑制することができる。加えて、第3の熱膨張層143自体も膨張するため、第3の熱膨張層143は熱膨張層全体の高さの増加に寄与するという効果も有する。
このように本実施形態の熱膨張性シート140及び熱膨張性シート140の製造方法によれば、簡易に造形物を製造することができること等に加え、剥離の発生を抑制することができるという優れた効果も得られる。
<実施形態5>
実施形態5に係る熱膨張性シート及び熱膨張性シートの製造方法について、以下、図面を参照して説明する。本実施形態の熱膨張性シート150は、実施形態2の第1の熱膨張層121及び第2の熱膨張層122と、実施形態4の第3の熱膨張層143とを組み合わせたものに相当し、熱膨張層が、第1の熱膨張層151、第2の熱膨張層152及び第3の熱膨張層153から形成される点にある。上述した各実施形態と共通する特徴については、詳細な説明を省略する。
(熱膨張性シート)
実施形態5に係る熱膨張性シート150は、図16に示すように、基材111と、第1の熱膨張層151と、第2の熱膨張層152と、第3の熱膨張層153と、インク受容層113とを備える。熱膨張性シート150の第1の熱膨張層151及び第2の熱膨張層152は、実施形態2の第1の熱膨張層121及び第2の熱膨張層122に対応する。熱膨張性シート150の第3の熱膨張層153は、実施形態4に係る熱膨張性シート140における第3の熱膨張層143に対応する。本実施形態の第3の熱膨張層153は、基材111の上面に形成され、第3の熱膨張層153の上に第1の熱膨張層151が形成される。換言すると、本実施形態の熱膨張性シート150は、第1の熱膨張層151と基材111との間に、第3の熱膨張層153を備えるとも言える。
第1の熱膨張層151は、実施形態2に係る第1の熱膨張層121と同様であり、バインダB1中に複数の熱膨張性材料MC1が分散配置されている。第1の熱膨張層151は、基材111の一方の面(図16に示す上面)上に設けられた第3の熱膨張層153の上に形成される。基材111は、実施形態1等と同様である。基材111の厚みは、例えば200μm程度であり、第1の熱膨張層151の厚みは、例えば100μm程度である。
第2の熱膨張層152は、図16に示すように、第1の熱膨張層151の上に形成される。第2の熱膨張層152も、バインダB2中に熱膨張性材料MC2(熱膨張性マイクロカプセル)が分散配置されている。バインダB2及び熱膨張性マイクロカプセルMC2は、それぞれ第1の熱膨張層151のバインダB1及び熱膨張性マイクロカプセルMC1と同じ材料を使用しても、異なっていてもよいが、同じ材料を用いることが好ましい。
本実施形態では、実施形態2と同様に第2の熱膨張層152において、バインダB2に対して熱膨張性材料MC2が含有される割合(含有率とも称する)は、第1の熱膨張層151におけるバインダB1に対して熱膨張性材料MC1が含有される割合(含有率とも称する)と比較して低くされる。例えば、重量比を用いると、バインダB2に対する熱膨張性材料MC2の重量比(第2の割合)は、バインダB1に対する熱膨張性材料MC1の重量比(第1の割合)と比較して小さく、具体的には、1/3〜1/8程度である。換言すれば、例えば、100重量部のバインダB2に対して分散される熱膨張性材料MC2がX2重量部であり、100重量部のバインダB1に対して分散される熱膨張性材料MC1がX1重量部とすると、X2/X1は1より小さく、1/3〜1/8程度とされる。
また、第2の熱膨張層152は、実施形態2と同様に、第1の熱膨張層151と比較して薄く形成されることが好ましく、一方で、必要以上に厚く形成されないことが好ましい。このような観点から、第2の熱膨張層152の厚みは、実施形態2と同様に熱膨張性材料MC2の数個分に相当する厚み、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個の厚みに形成されるのが好ましい。例えば、第2の熱膨張層152は、50μm程度の厚みに形成される。また、第2の熱膨張層152の厚みは、第1の熱膨張層151の厚みの2/3〜1/10程度とされると好ましい。
第3の熱膨張層153は、図16に示すように、基材111と第1の熱膨張層151との間に形成される。第3の熱膨張層153は、第1の熱膨張層151と同様に、バインダB3中に熱膨張性材料MC3(熱膨張性マイクロカプセル)が分散配置されている。また、第3の熱膨張層の熱膨張性材料MC3は、第1の熱膨張層151の熱膨張性材料MC1又は第2の熱膨張層152の熱膨張材料MC2のいずれか一方と同じ、若しくは両方と同じ材料を用いても、異なる材料を用いてもよい。バインダB3についても、バインダB1又はバインダB2のいずれか一方、若しくは両方と同じ材料を用いても、異なる材料を用いてもよい。第3の熱膨張層153は、第1の熱膨張層151又は第2の熱膨張層152と同じ材料を用いることが好適である。
また、第3の熱膨張層153において、バインダB3に対して熱膨張性材料MC3が含有される割合(第3の割合)は、第1の熱膨張層151におけるバインダB1に対して熱膨張性材料MC1が含有される割合(第1の割合)と比較して低い。実施形態1と同様に、バインダB3に対して熱膨張性材料MC3が含有される割合は、体積比、重量比などを用いて定義される。例えば、重量比を用いると、バインダB3対する熱膨張性材料MC3の重量比は、バインダB1に対する熱膨張性材料MC1の重量比と比較して小さく、具体的には、1/3〜1/8程度である。換言すれば、例えば100重量部のバインダB3に対して分散される熱膨張性材料MC3のX3重量部であり、100重量部のバインダB1に対して分散される熱膨張性材料MC1がX1重量部とすると、X3/X1は、1より小さく、1/3〜1/8程度である。なお、バインダに対して熱膨張性材料が含有される割合は、密度によって定義されてもよく、この場合、第3の熱膨張層153は、第1の熱膨張層151と比較して低い密度で、熱膨張性材料を含有すると言える。
また、上記X2とX3とは同じ数値であっても、異なっていてもよい。なお、第3の熱膨張層153は、第1の熱膨張層151と比較して熱膨張性材料の含有率が低く、膨張させた場合に高さを得られにくいため、第1の熱膨張層151より薄く形成されることが好ましい。また、第3の熱膨張層153は、必要以上に厚く形成されないことが好ましい。
(熱膨張性シートの製造方法)
次に、実施形態5に係る熱膨張性シート150の製造方法について、説明する。
まず、他の実施形態と同様に基材111を用意する。
次に、実施形態4と同様にして、第3の熱膨張層153を形成するための塗布液を、公知の分散装置等を用いて調製する。バインダと熱膨張性材料とは、第1の熱膨張層151又は第2の熱膨張層152で用いる材料と、異なっていてもよいが同じであると好適である。この際、第3の熱膨張層153におけるバインダに対する熱膨張性材料の含有率は、第1の熱膨張層151におけるバインダに対する熱膨張性材料の含有率と比較して低くされる。例えば、重量比では、1/3〜1/8程度とする。続いて、バーコータ、ローラーコータ、スプレーコータ等の方式による公知の塗布装置を用いて、塗布液を基材111上に塗布し、続いて塗膜を乾燥させる。塗布及び乾燥は複数回に分けて行ってもよく、基材111の上に目標とする厚さの第3の熱膨張層153を形成する。
続いて、実施形態2と同様に第1の熱膨張層151を形成するための塗布液を調製する。続いて、公知の塗布装置を用いて、第3の熱膨張層153上に塗布液を塗布し、乾燥させて第1の熱膨張層151を形成する。
次に、第2の熱膨張層152を形成するための塗布液を調製する。この際、第2の熱膨張層152におけるバインダに対する熱膨張性材料の含有率は、第1の熱膨張層151におけるバインダに対する熱膨張性材料の含有率と比較して低くされる。例えば、重量比では、1/3〜1/8程度とする。続いて、バーコータ、ローラーコータ、スプレーコータ等の方式による公知の塗布装置を用いて、塗布液を第1の熱膨張層151上に塗布し、続いて塗膜を乾燥させる。目標とする厚さの第2の熱膨張層152を得るため、塗布及び乾燥は複数回に分けて行ってもよい。
続いて、他の実施形態と同様にインク受容層113を形成し、必要に応じ造形システム20に適合する大きさにカットする。
これにより、実施形態5に係る熱膨張性シート150が製造される。
本実施形態の熱膨張性シート及び熱膨張性シートの製造方法によれば、第1の熱膨張層151の上に、第1の熱膨張層151よりも低い含有率で熱膨張性材料を含む第2の熱膨張層152を形成することにより、シート表面に生ずる凹凸の発生を緩和することができる。これにより、熱膨張性シート150の表面に形成される造形物は、多彩な素材の質感、触感等を更に良好に表現することができる。従って、装飾性のある造形物を良好に製造することが可能となる。
加えて、基材111と第1の熱膨張層151と間に、第1の熱膨張層151よりも低い含有率で熱膨張性材料を含む第3の熱膨張層153を形成することにより、剥離の発生を抑制するという優れた効果を得ることができる。
なお、本実施形態の熱膨張性シート150の第2の熱膨張層152は、図17に示すように更に白色顔料Wを含むことが可能である。白色顔料Wは、第2の熱膨張層152を形成する際、塗布液中に含有させることにより、第2の熱膨張層152中に分散させることができる。
この構成によれば、熱膨張性シート150の表面の白色度を更に向上させることができ、熱膨張性シート150の表面に形成されるカラーインク層の発色を良好とすることができる。従って、熱膨張性シート150の表面に形成される造形物において、多彩な素材の質感等を更に良好に表現することができる。
<実施形態6>
実施形態6に係る熱膨張性シート及び熱膨張性シートの製造方法について、以下、図面を参照して説明する。本実施形態の熱膨張性シート160及び熱膨張性シート160の製造方法が、実施形態1における熱膨張性シート10と異なる点は、基材111と熱膨張層112との間にアンカー層161が設けられる点と、基材111の裏面に第2のインク受容層162が形成される点にある。実施形態1等と共通する特徴については、詳細な説明を省略する。
(熱膨張性シート)
熱膨張性シート160は、基材111と、アンカー層161と、熱膨張層112と、インク受容層113と、第2のインク受容層162と、を備える。図18に示すように、アンカー層161と熱膨張層112とインク受容層113とは、基材111の上面(表面)にこの順に積層され、第2のインク受容層162は基材111の下面(裏面)に形成される。
基材111は、熱膨張層112等を支持するシート状の部材である。本実施形態では、基材111としては、特に樹脂製のシート(フィルムを含む)を使用する。基材111としては、任意の樹脂製のシートを利用することができる。基材111としては、これに限るものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン系樹脂等から選択される材料を含むシートを使用することができる。また、基材111は、熱膨張層112が全体的又は部分的に発泡により膨張した時に、基材111の反対側(図18に示す下側)に隆起せず、また、しわを生じたり、大きく波打ったりしない程度の強度を備える。加えて、熱膨張層を発泡させる際の加熱に耐える程度の耐熱性を有する。更に、基材111は、上記の強度及び耐熱性に加えて、伸縮性を有していてもよい。
なお、後述するように本実施形態では、インク受容層とシートとが一体に形成されたシート状の部材を基材111として使用することもできる。具体的に、基材111として、上述した材料から形成されたシート(フィルム)の最上面(最表面)にインク受容層を備えるシート状の部材を用いて、熱膨張性シート160を製造することもできる。このようなシートを基材111として使用する場合、基材111に設けられているインク受容層を第2のインク受容層162として使用することもできる。
アンカー層161は、基材111の一方の面(図18に示す上面)上に設けられ、アンカー層161の上には熱膨張層112が設けられる。アンカー層161は、基材111と熱膨張層112との両方に対し、良好な接着性を有する層である。また、アンカー層161は、基材111と熱膨張層112との間の接着力を高める機能を有する。例えば、樹脂製の基材上に直接熱膨張層を設けると、熱膨張層を膨張させた際に熱膨張が基材から剥離することがある。これに対し、基材111と熱膨張層112との間に、アンカー層161を設けることによって、熱膨張層112を膨張させる際に、熱膨張層112の下面が剥離することを防ぐことができる。
アンカー層161は、基材111と熱膨張層112とに対して良好な接着性を有する材料を含む層である。具体的に、アンカー層161は、ポリエステル、アクリル、ポリウレタン、又はこれらのいずれかの共重合体からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂を含む。例えば、アンカー層161に含まれる樹脂は、例えばポリエステル系樹脂のみであってもよく、ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂とを含んでもよい。また、アンカー層161に含まれる樹脂は変性剤によって変性されていてもよい。特に、本実施形態では、アンカー層161は、ポリエステル・アクリル・ウレタン複合樹脂を含むことが好ましい。なお、これに限られるものではないが、ポリエステル・アクリル・ウレタン複合樹脂を含む水分散液としては、例えば、高松油脂(株)社製「WAC−17XC」が挙げられる。
また、本実施形態では、アンカー層161は、上記の材料から形成される場合に限られず、基材111の表面にコロナ処理を施すことによって形成される表面改質層を含む。具体的には、表面改質層は、コロナ処理装置(図示せず)を用いて形成される。コロナ処理装置は、高周波電源装置から高周波の高電圧が処理ロールと電極との間に印加されることにより、処理ロールと電極との間にコロナ放電を生ずるものである。基材111は処理ロール上を搬送される。基材111がコロナ放電下を通過することにより、基材111の表面にコロナ処理が施され、基材111上に表面改質層(アンカー層161)が形成される。この表面改質層は、改質されていないものと比較して、熱膨張層112に対する接着性が向上された層である。表面改質層は、熱膨張層112と良好に接着するため、熱膨張層112の膨張時に、熱膨張層112の剥離を抑制することができる。
熱膨張層112は、アンカー層161の上に形成される。熱膨張層112は、実施形態1の熱膨張層12に対応し、バインダ中に熱膨張性材料が分散配置された層である。なお、熱膨張層112は、上述した実施形態2〜5のように複数の熱膨張層を備える構成であってもよい。
インク受容層113は、熱膨張層112の上に形成される。インク受容層113は、上述した各実施形態のインク受容層113と同様である。
第2のインク受容層162は、基材111の下面(裏面)に形成される層である。第2のインク受容層162は、インク受容層13,113と同様に、印刷工程で使用されるインク、例えば、インクジェットプリンタのインクを受容し、定着させる層である。第2のインク受容層162も、インク受容層13等と同様に印刷工程で使用されるインクに応じて、汎用されている材料を使用して形成される。本実施形態では、基材111が樹脂製のシートから構成されるため、基材111の裏面に裏側変換層を形成する場合に、インクの定着性を向上させるために設けられる。裏側変換層を形成しない場合等は、第2のインク受容層162は省略することが可能である。
本実施形態では、実施形態1で説明した造形物の製造方法に従い、熱膨張性シート160の上面(表面)及び/又は熱膨張性シート160の下面(裏面)に熱変換層を形成し、電磁波を照射することで、熱変換層に熱を帯びさせる。熱膨張層112は、表面及び/又は裏面の熱変換層で生じた熱を吸収して、膨張する。これにより、熱膨張層112は、特定の領域のみが選択的に膨張し、隆起して、熱膨張性シート160の表面にバンプ面状が形成される。
(熱膨張性シートの製造方法)
次に、熱膨張性シート160の製造方法を図19(a)〜(d)を用いて説明する。
まず、基材111としてシート状の材料を用意する。基材11としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)からなるフィルムの一方の面上にインク受容層が形成されているものを使用することが好ましい。このような基材としては、最表面にインク受容層が形成されたOHP(Overhead projector)フィルムなどが挙げられる。基材111上に予め設けられたインク受容層は、図19(a)に示すように、その機能通り第2のインク受容層162として使用する。基材111は、ロール状であっても、予め裁断されていてもよい。なお、第2のインク受容層162は、例えば多孔質シリカ、PVA等から選択される材料を用いて塗布液を公知の塗布装置によって基材111上に塗布し、乾燥させることにより、形成されてもよい。
次に、基材111の一方の面上(図19(a)に示す上面)に、アンカー層161として用いる材料の溶液またはエマルジョンを調製する。続いて、バーコータ、ローラーコータ、スプレーコータ等の公知の塗布装置を用いて、塗布液を基材111上に塗布する。続いて塗膜を乾燥させ、図19(b)に示すように、アンカー層161を形成する。
アンカー層161を形成する工程は、上記に代えて、コロナ処理装置(図示せず)を用いたコロナ放電処理であってもよい。コロナ処理装置は、いわゆるロールtoロールの処理装置であり、処理ロール、電極及びガイドロールを備える。処理前の基材111は、ガイドロールによって処理ロールへと導かれる。高周波電源装置から高周波の高電圧が処理ロールと電極との間に印加されると、処理ロールと電極との間にコロナ放電が生ずる。この放電下を基材111が通過することにより、基材111の表面にコロナ処理が施され、基材111上に表面改質層(アンカー層161)が形成される。また、コロナ処理装置はロールtoロールに限らず、枚葉式であってもよい。
次に、熱可塑性樹脂等からなるバインダと熱膨張性材料(熱膨張性マイクロカプセル)とを混合させ、熱膨張層112を形成するための塗布液を調製する。続いて、バーコータ、ローラーコータ、スプレーコータ等の公知の塗布装置を用いて、塗布液をアンカー層161上に塗布する。続いて、塗膜を乾燥させ、図19(c)に示すように熱膨張層112を形成する。なお、目標とする熱膨張層112の厚みを得るため、塗布液の塗布及び乾燥を複数回行ってもよい。
続いて、他の実施形態と同様にインク受容層113を形成し、必要に応じ造形システム20に適合する大きさにカットする。
本実施形態の熱膨張性シート160及び熱膨張性シート160の製造方法では、基材111と熱膨張層112との間にアンカー層161を設ける。これにより、基材111として樹脂製のシートを用いた場合であっても、熱膨張層112を膨張させた際に、熱膨張層112が基材111から剥離することを抑制することが可能である。このように本実施形態の熱膨張性シート160及び熱膨張性シート160の製造方法によれば、簡易に造形物を製造することができることに加え、剥離の発生を抑制する、という優れた効果を得ることができる。これにより、熱膨張性シート160の表面に形成される造形物は、多彩な素材の質感、触感等を更に良好に表現することができる。
また、熱膨張性シート160の製造方法において、いずれかの面上に予めインク受容層が形成された基材111を用い、更に予め形成されているインク受容層を、第2のインク受容層162として使用することにより、製造工程の簡略化を図ることも可能である。
<実施形態7>
以下、本実施の形態に係るインク、印刷ユニット及び造形システムについて、図を用いて説明する。本実施形態が上述した各実施形態と異なるのは、造形システムで用いるインクにある。上述した実施形態と共通する部分については、詳細な説明を省略する。
本実施形態に係る造形システム20は、図4に示す印刷ユニット40内にインク170を備え、インク170を熱膨張性シート10上に熱変換層を形成するために使用する。具体的には、表側変換層81及び/又は裏側変換層83を印刷するために使用される。なお、本実施形態では、上述した実施形態1に記載の熱膨張性シート10に限らず、実施形態2〜6に示す熱膨張性シートを使用することも可能である。
本実施形態に係るインク170は、無機赤外線吸収剤を含み、更に溶剤(水又は有機溶剤)、着色剤(染料又は顔料)、分散剤、浸透剤、乾燥防止剤、pH調整剤、防腐剤等から選択されるいずれか又は全てを含んでもよい。また、本実施形態のインク170は、例えば図4に示すインクジェット方式の印刷ユニット40で使用される。具体的に、インク170は、カートリッジ内に充填され、図6に示すように印刷ユニット40内に設置される。具体的には、インク170が充填されたカートリッジは、印刷ユニット40内のインクカートリッジ43kの位置に設置される。
インク170は、着色剤を含んでも、含まなくともよい。本実施形態のように、インク170を熱膨張性シート10の特定の領域を加熱するための熱変換層の形成に用いる場合、熱変換層は、カラーインクの色味に対して影響を及ぼさないことが好ましい。従って、本実施形態のような用途では、インク170は着色剤を含まないことが好ましい。また、着色剤を含む場合は、着色剤の色は、白、イエロー等の視認しにくい色であることが好ましい。なお、着色剤の色は、特に限定されるものではない。例えば、インク170が視認しにくい場所に形成される等、インク170の色が特に熱膨張性シート10の外観に影響を与えることがない場合、熱膨張性シート10自体が着色されている場合、又は印刷された領域が分かるように着色した方が好ましい場合等に応じ、着色剤は白、イエローの他、シアン、マゼンダ、ブラック等から適宜選択されてもよく、これら以外の任意の色であってもよい。また、インク170中の着色剤の濃度も任意である。
また、インク170に含有される無機赤外線吸収剤としては、赤外領域の少なくともいずれかの領域で、可視光領域と比較して高い光の吸収率(吸光率)を有する無機材料を用いる。無機赤外線吸収剤は、特に近赤外領域で、可視光領域と比較して高い光の吸収率を有することが好ましい。可視光領域において光の透過率が高い(吸収率が低い)材料を選択することにより、インク170の可視光透過性を向上させ、インク170の色味を抑えることができる。特に従来使用されてきたカーボンを使用するインクと比較し、インク170を用いて印刷された熱変換層によってカラーインク層の色味がくすむことを防ぐことができる。
本実施形態では無機赤外線吸収剤としては、例えば、金属酸化物、金属ホウ化物、金属窒化物等を用いる。
具体的に、金属酸化物としては、例えば、酸化タングステン系化合物、酸化インジウム、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化セシウム、酸化亜鉛等を用いることができる。
また、金属ホウ化物としては、多ホウ化金属化合物が好ましく、六ホウ化金属化合物が特に好ましく、六ホウ化ランタン(LaB6)、六ホウ化セリウム(CeB6)、六ホウ化プラセオジム(PrB6)、六ホウ化ネオジム(NdB6)、六ホウ化ガドリニウム(GdB6)、六ホウ化テルビウム(TbB6)、六ホウ化ディスプロシウム(DyB6)、六ホウ化ホルミウム(HoB6)、六ホウ化イットリウム(YB6)、六ホウ化サマリウム(SmB6)、六ホウ化ユーロピウム(EuB6)、六ホウ化エルビウム(ErB6)、六ホウ化ツリウム(TmB6)、六ホウ化イッテルビウム(YbB6)、六ホウ化ルテチウム(LuB6)、六ホウ化ランタンセリウム((La,Ce)B6)、六ホウ化ストロンチウム(SrB6)、六ホウ化カルシウム(CaB6)等からなる群から選択される1つ又は複数の材料を用いる。
また金属窒化物としては、窒化チタン、窒化ニオブ、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化バナジウムなどが挙げられる。
酸化タングステン系化合物は、以下の一般式によって示される。
MxWyOz ・・・(I)
ここで、元素MはCs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe及びSnからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素である。
また、x/yの値は、0.001≦x/y≦1.1の関係を満足することが好ましく、特にx/yが0.33付近であることが好適である。加えて、z/yの値は、2.2≦z/y≦3.0の関係を満足することが好ましい。具体的には、Cs0.33WO3、Rb0.33WO3、K0.33WO3、Tl0.33WO3などである。
上記の中では、六ホウ化金属化合物又は酸化タングステン系化合物が好ましく、特に近赤外領域で吸収率が高く(透過率が低く)、かつ可視光領域の透過率が高いことから六ホウ化ランタン(LaB6)又はセシウム酸化タングステンが好ましい。なお、上記無機赤外線吸収剤はいずれかを単独で用いてもよく、又は2つ以上の異なる材料を併用してもよい。
次に、カーボン、ITO、ATO、セシウム酸化タングステン及びLaB6の透過率の分布と、太陽光のスペクトルと、ハロゲンランプの太陽光比強度とを図20に示す。図20に示すように、熱変換層を形成するために使用されているカーボンは、各波長域でほぼ一定の低い透過率を示す。また、カーボンは、可視光領域でも透過率が低く(吸光率が高く)、黒色を呈する。これに対し、金属酸化物の一例であるITO、ATOは、特に可視光領域での透過率が高い。また、ITO、ATOは、可視光領域と比較して近赤外領域での透過率が低く、更に中赤外領域で低い透過率(高い吸光率)を示す。更に、タングステン系酸化物の一例として、セシウム酸化タングステンでは、可視光領域と比較して近赤外領域での透過率が低い。加えて、六ホウ化金属化合物の一例である六ホウ化ランタンは、赤外領域内の近赤外領域において可視光領域と比較して低い透過率を示す。
また、図20では照射部で用いられるハロゲンランプの太陽光比強度を示す。ハロゲンランプから照射される電磁波(光)は、特に近赤外領域において高い強度を示す。図20に示すセシウム酸化タングステンと六ホウ化ランタンとは、このハロゲンランプから照射される光が強い強度を示す近赤外領域において透過率が低く、高い吸光率を示す。このため、ハロゲンランプを照射部として使用する場合、セシウム酸化タングステン又はLaB6は、ハロゲンランプから照射される光が強い強度を示す近赤外領域において、特に効率良く光を吸収できるため、好ましい。また、近赤外領域に高い吸光率を示す材料であれば、セシウム酸化タングステンと六ホウ化ランタン以外も、使用可能である。
このように本実施形態の造形システム20、印刷ユニット40及びインク170によれば、電磁波熱変換材料として、無機赤外線吸収剤を用いることにより、熱変換層の色味を抑えることができる。これにより、カラーインク層の色味が熱変換層により損なわれることを抑制することができ、熱膨張性シート10の表面に形成される造形物において、多彩な素材の質感等を更に良好に表現し、加飾性を更に向上させることが可能となる。従って、装飾性のある造形物を良好に製造することが可能となる。
<実施形態8>
次に、本発明の実施形態8について説明する。
上記実施形態1に係る膨張ユニット50は、熱膨張性シート10を搬送させながら電磁波を照射する方式で、熱膨張性シート10を膨張させた。これに対して、実施形態8に係る膨張装置500は、位置が固定された熱膨張性シート10に対して照射手段を移動させながら電磁波を照射する方式で、熱膨張性シート10を膨張させる。以下、説明する。
(造形システム)
図21に、実施形態8に係る造形システム200の外観を示す。図21に示すように、造形システム200は、端末装置300と、印刷ユニットである印刷装置400と、膨張ユニットである膨張装置500と、を備える。実施形態1に係る造形システム20では、制御ユニット30と印刷ユニット40と膨張ユニット50とが一体となっていたのに対して、実施形態8では、端末装置300と印刷装置400と膨張装置500とは、それぞれ独立した装置である。
端末装置300は、実施形態1における制御ユニット30及び表示ユニット60に相当し、実施形態1で説明した制御ユニット30及び表示ユニット60と同様の機能を備える。具体的に説明すると、端末装置300は、図示しないが、CPU、ROM及びRAMを含む制御部と、フラッシュメモリ、ハードディスク等の記憶部と、キーボード、マウス、ボタン、タッチパッド、タッチパネル等の操作部と、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の表示部と、可搬型の記録媒体に記録されているプログラム又はデータを読み出す記録媒体駆動部と、印刷装置400及び膨張装置500との通信インタフェースを含む通信部と、を備える。端末装置300は、印刷装置400及び膨張装置500の動作全般を管理し、ユーザの操作に基づいて印刷装置400及び膨張装置500を制御する。
印刷装置400は、熱膨張性シート10に印刷対象となる画像を印刷する。印刷装置400は、実施形態1における印刷ユニット40と同様の構成を備えため、ここでは詳細な説明を省略する。
(膨張装置)
膨張装置500は、熱膨張性シート10の表面又は裏面に電磁波を照射し、熱膨張性シート10の表面又は裏面に印刷された濃淡画像を発熱させて、熱膨張性シート10のうちの濃淡画像が印刷された部分を膨張させる膨張ユニットである。
図22に、膨張装置500の構成を模式的に示す。図22において、X方向は、膨張装置500の幅方向に相当し、Y方向は、膨張装置500の長手方向に相当し、Z方向は、鉛直方向に相当する。X方向とY方向とZ方向とは、互いに直交する。また、図22において、図示の左側を「手前側」とし、右側を「奥側」とする(以下の説明でも同様)。
膨張装置500は、箱型の筐体210を備える。筐体210の内部は、第1室である下側筐体211と第2室である上側筐体212との2室に仕切られている。これは、ランプヒータ232からの電磁波の照射により上側筐体212内の温度が上昇した際に、下側筐体211内の基板等に与える影響を抑制するものである。
下側筐体211には、電源部(電源基板)221と、制御部(制御基板)222と、下側ファン223と、が収容されている。電源部221は、商用電源を、制御部222等の膨張装置500の各部の動作に適した電力に変換して供給する。制御部222は、電源部221から電力を受け、膨張装置500の動作全般を制御する。下側ファン223は、電源部221、制御部222等、下側筐体211に収容された各部から発生する熱によって加熱された空気を矢印A1に従って筐体210の外側へ排出する。下側筐体211には、開口部として、任意の場所に下部吸気部211aと下部排気部211bとが設けられている。これらの開口部は、スリット等の任意の形状とすることができる。
制御部222は、CPU、ROM及びRAMを備えており、命令やデータを転送するための伝送経路であるシステムバスを介して膨張装置500の各部と接続されている。制御部222において、CPUが、ROMに記憶されている制御プログラムを読み出して、RAMをワークメモリとして用いながら、膨張装置500の動作を制御する制御手段として機能する。また、制御部222は、いずれも図示しないが、フラッシュメモリ、ハードディスク等の不揮発性メモリと、RTC(Real Time Clock)等の計時デバイスと、端末装置300と通信するための通信インタフェースと、を備える。
この他、下側筐体211には、電源部221、制御部222等をメンテナンスするための開口部、蓋等を設けることができる。
上側筐体212の上壁には、外気を吸入するための開口である上部吸気部212aが設けられている。上部吸気部212aは、照射部230の可動範囲内に設けられたスリット等である。また、上側筐体212の奥側の壁には、外気を排出するための開口である上部排気部212bが設けられている。上部排気部212bは、排気ファン240に対応するスリット等である。
上側筐体212の手前側には、ユーザが熱膨張性シートを搬入及び搬出するための開口部である出入口212cが設けられており、その出入口212cに対応する開閉扉212dが取り付けられている。開閉扉212dは、出入口212cの下辺部を軸に回転することで開閉される。開閉扉212dには、ユーザが開閉操作をするための任意の取手が設けられる。開閉扉212dの開閉を検知するための扉開閉検知センサ213が設けられている。
上側筐体212には、照射手段として機能する照射部230と、排気ファン240と、シート載置部250と、移動手段として機能する搬送部260と、が収容されている。
照射部230は、搬送駆動部270の動作に伴い、搬送部260に沿って手前側と奥側との間を往復運動する。照射部230は、カバー231と、ランプヒータ232と、反射板233と、給気ファン234と、サーモスタット235と、温度センサ236と、バーコードリーダ237と、を備える。ここで、ランプヒータ232、反射板233、給気ファン234及び温度センサ236は、それぞれ、実施形態1におけるランプヒータ56、反射板57、冷却部59及び温度センサ58に相当し、これらと同様の構成を有する。
カバー231は、箱型に形成されており、ランプヒータ232と、反射板233と、給気ファン234と、温度センサ236と、サーモスタット235と、を収容する。カバー231の上端部は、筐体210の吸入部からの外気の吸入を妨げないように開口されている。カバー231の下端部は、吸入された外気を下方に排出するように開口されている。カバー231は、公知の方法でボールネジ271と接続され手前側と奥側との間を移動可能とする接続機構をさらに備える。
ランプヒータ232は、熱膨張性シート10に向けて電磁波を照射する。ランプヒータ232は、一例として、X軸方向に直管状に構成されたハロゲンランプである。
反射板233は、ランプヒータ232を取り囲むように、上部には球状の内面を有し、下部には筒状の内面を有する。反射板233の内面は、電磁波の反射に適するように処理された金属等から形成されている。反射板233の下端部は、ランプヒータ232から発せられた電磁波を下方に照射するよう開口されている。カバー231の内面と反射板233の外面との間において空気が流れるよう、反射板233はカバー231の内側に比べてやや小さくなっている。
給気ファン234は、筐体210の吸入部と反射板233との間、即ち電磁波の照射方向から見れば後方に配置されている。このように配置することで、外気を効率的に反射板233に当てて、さらに下方に流すことができる。給気ファン234として、手前側から見て左右方向に例えば3連のファンが並列に設けられている。給気ファン234が動作すると、吸入部を介して外気を吸入し、反射板233に風を当てて冷却する。反射板233を冷却するのは、反射板233が高温であると熱膨張性シート10を膨張装置500にセットした際に膨張するおそれがあるためである。また、給気ファン234は、反射板233の外面とカバー231の内面との間を下方に向けて通気させて熱膨張性シート10に風を当てる。これにより、膨張処理により加熱された熱膨張性シート10を冷却する。給気ファン234は、送風手段(冷却手段)として機能する。カバー231、ランプヒータ232、反射板233及び給気ファン234の組合せは、下方の熱膨張性シート10に垂直に対面して配置されている。
温度センサ236は、カバー231の内側且つ反射板233の外側に配置されている。温度センサ236には、例えばサーミスタが使用される。
サーモスタット235は、カバー231の内側且つ反射板233の外側に配置されている。サーモスタット235は、カバー231内部が異常な高温になった場合を検出し、ランプヒータ232を消灯させる。
バーコードリーダ237は、熱膨張性シート10の裏面に設けられているバーコードを読み取る読取手段として機能する。バーコードは、熱膨張性シート10を識別するための識別子であって、熱膨張性シート10が造形物を造形するための専用のシートであることを示す識別子である。熱膨張性シート10の裏面には、図示しないが、その縁部に沿って複数のバーコードが付されている。バーコードリーダ237は、光源及び光学センサを備え、周知の方式でバーコードを光学的に読み取る。バーコードリーダ237は、カバー231の外側に取り付けられており、照射部230が奥側の端部位置であるホームポジションP−Hにあり、熱膨張性シート10がシート載置部250上にセットされているときに、熱膨張性シート10のバーコードを読み取る。
この他、照射部230は、搬送部260のレール(不図示)に対応する被支持部(不図示)を備える。
排気ファン240は、筐体210の奥側の壁に設けられた排出部に隣接して設けられている。即ち、排気ファン240は、上側筐体212において開閉扉212dから最も遠い面に配置されている。これは、通常動作ではユーザの手が届かない位置であり、且つ、機内の排気をスムーズにするためである。排気ファン240として、手前側から見て左右方向に例えば3連のファンが並列に設けられている。排気ファン240が動作すると、上側筐体212内の加熱された内気を排出部を介して筐体210の外側に排出する。開閉扉212dが閉じた状態で給気ファン234と排気ファン240が同時に運転されることで、上側筐体212内の風は矢印A2に従って流れ、機外へ排出される。照射部230が移動してホームポジションP−Hの位置より左側にあったとしても、風の流れは同様である。
シート載置部250は、トレイ251と、トレイ用台部252と、トレイ検知センサ253と、シートサイズ検知センサ254と、を備える。一例として、熱膨張性シート10のサイズは、A3サイズ及びA4サイズの2種類とする。
トレイ251は、トレイ上部251aとトレイ下部251bとを備える。トレイ251は、トレイ上部251aとトレイ下部251bとの間に熱膨張性シート10を挟み込んで膨張装置500から取り出し可能であるとともに、膨張装置500内の所定位置に配置されるように構成されている。このようなトレイ251を用いることで、複数種類の大きさ等の熱膨張性シート10に対応可能とする。ランプヒータ232に対面する側のトレイ上部251aは、電磁波が照射される部分が露出するように熱膨張性シート10を挟持するよう、額縁状に開口している。すなわち、トレイ251は、熱膨張性シート10の4辺の縁部を挟みこんで固定する。
トレイ用台部252は、トレイ251を位置決めして載置する。ユーザが開閉扉212dを開けてトレイ251を搬入及び搬出することを容易にするように、トレイ用台部252には出入口212cから載置位置までの間にスライド脱着部252aが設けられている。
図23に、開閉扉212dが開かれて出入口212cからトレイ251を取り出した状態を示す。熱膨張性シート10を膨張装置500に搬入する際、ユーザは、熱膨張性シート10をトレイ251のトレイ上部251aとトレイ下部251bとの間に挟み込んで設置し、トレイ251を膨張装置500内に送り込んで開閉扉212dを閉じる。その後、熱膨張性シート10の発泡及び冷却が終了したら、ユーザは、開閉扉212dを開けてトレイ251を引き出して、トレイ251から熱膨張性シート10を取り出す。
図22に戻って、膨張装置500は、手前側から見た幅がA3サイズの短辺の長さ、即ちA4サイズの長辺の長さに対応している。従って、図示された断面図において、上側筐体212の手前側から奥側にかけての内部空間は、A3サイズの長辺の長さに対応している。
トレイ検知センサ253は、トレイ用台部252にトレイ251が載置されたことを検知するセンサである。図示の例では、トレイ検知センサ253は、トレイ251の手前側の端部の位置においてトレイ251の有無を検知する。
この他、A3サイズとA4サイズとでトレイ251を異なる大きさとする場合に、それぞれの大きさのトレイ251の端部の位置においてトレイ251の有無を検知することとしてもよい。
シートサイズ検知センサ254は、熱膨張性シート10の下側から熱膨張性シート10の有無及び熱膨張性シート10のサイズを検知するセンサ(サイズ検知部)である。
搬送部260は、ボールネジ回転数検知センサ261と、搬送終端停止用スイッチ262,263と、ホームポジションセンサ264と、搬送駆動開始停止センサ265,266と、図24に示す搬送駆動部270と、を備える。搬送部260は、トレイ251に固定された熱膨張性シート10に対して照射部230を移動させる移動させることにより、熱膨張性シート10と照射部230とを相対的に移動させる移動手段として機能する。
搬送終端停止用スイッチ262,263は、手前側及び奥側の端部付近に1つずつ設けられている。照射部230がいずれかの方向に移動して終端部にある搬送終端停止用スイッチ262,263に接触して動作させると、当該方向の搬送駆動部270の動作が停止する。
ホームポジションセンサ264は、照射部230がホームポジションP−Hにあることを検知するセンサである。ホームポジションP−Hは、照射部230の移動方向(Y軸方向)に沿って排気ファン240に最も近い位置(位置微調整用の移動代は除く)にある。ホームポジションP−Hがこの位置であることで、発泡加熱後に給気ファン234及び排気ファン240により冷却しながらスムーズに風を流すことができる。
搬送駆動開始停止センサ265,266は、手前側又は奥側において搬送駆動部270の動作による照射部230の移動が開始又は停止したことを検知するセンサである。
また、搬送部260は、図示しないレールを備える。レールは、手前側から見てシート載置部250を挟んで左右の両側端部付近に1対設けられている。レールは、ボールネジ271によって照射部230が移動する際に照射部230の左右両側端部に設けられた被支持部(不図示)を支持して案内する。
図24に示すように、搬送駆動部270は、ボールネジ271と、ガイド272と、DCモータ273と、プーリ274,277と、ベルト275と、ボールネジ回転数検知センサ261と、を備える。
ボールネジ271は、手前側から奥側に亘ってガイド272に回転可能に支持されている。ボールネジ271は、手前側から見て時計回り及び反時計回りに回転可能であり、回転方向によって照射部230の移動方向が決定される。
ガイド272は、図示を含めボールネジ271の軸方向に複数個設けられており、筐体210に固定されている。
DCモータ273は、制御部222の指令に基づき、軸方向から見て時計回り又は反時計回りに回転数を制御されて回転する。
ボールネジ271とDCモータ273の回転軸にはそれぞれプーリ274,277が取り付けられている。プーリ274,277の外周部にはそれぞれV形溝等の溝が形成されており、ベルト275は溝に係合するとともにプーリ274,277間を連結する。このような構成により、DCモータ273の動作に伴ってボールネジ271は所定の回転方向及び回転数で回転する。即ち、照射部230は、所定の方向及び速度で移動する。
ボールネジ回転数検知センサ261は、ボールネジ271の回転数を検知する。
(膨張装置の動作)
次に、図25に示すフローチャートを参照して、膨張装置500によって実行される処理の流れについて説明する。図25に示すフローチャートは、図8に示した造形物製造処理のうちの膨張装置500によって実行される処理である表面発泡工程(ステップS2)、カラーインク層82の乾燥工程(ステップS4)、及び裏面発泡工程(ステップS6)の詳細を示している。
表面発泡工程(ステップS2)において、ユーザが電源をONにする(ステップS21)と、膨張装置500は、照射部230をホームポジションP−Hにセットする(ステップS22)。これにより、照射部230の位置を初期化する。続いて、ユーザは、開閉扉212dを開いてトレイ251を取り出し、印刷装置400において表面に表側変換層81が印刷された熱膨張性シート10を、その表面を上側に向けてトレイ251に設置する(ステップS23)。熱膨張性シート10が設置されたトレイ251は、筐体210の内部に挿入され、照射部230によって電磁波を照射可能な位置に配置される。
その後、ユーザは、端末装置300の操作部を操作して、熱膨張性シート10を膨張させる指示を入力する。膨張装置500の制御部222は、ユーザから入力された指示を端末装置300から受信すると、熱膨張性シート10の設置を確認する(ステップS24)。熱膨張性シート10がトレイ251上に正しく設置されていない場合、制御部222は、警告を発することで、熱膨張性シート10を正しく設置するようにユーザに要求する。
続いて、制御部222は、バーコードリーダ237を介して熱膨張性シート10の裏面に付されたバーコードを読み取る(ステップS25)。熱膨張性シート10に付されたバーコードを読み取ることがでなかった場合、制御部222は、熱膨張性シート10が使用できない旨をユーザに報知して、熱膨張性シート10を適正なものに交換するようにユーザに要求する。
バーコードの読み取りに成功した場合、制御部222は、プレヒート(予熱処理)を実行する(ステップS26)。プレヒートは、膨張装置500が膨張処理を円滑に開始することができるように、ランプヒータ232を点灯して照射部230を予め加熱して温める処理である。制御部222は、例えば、膨張装置500に電源が投入された直後、又は、膨張装置500が予め定められた時間以上に亘って膨張処理を実行していない場合に、プレヒートを実行する。
具体的に説明すると、制御部222は、ランプヒータ232を点灯することによって照射部230に電磁波を照射させて、照射部230の温度を予め設定された予熱温度まで上昇させる。そして、制御部222は、反射板233の温度が予熱温度まで上昇すると、照射部230に電磁波の照射を停止させてから、給気ファン234に送風を開始させる。これにより、制御部222は、照射部230の温度を、膨張装置500が膨張処理を開始する温度に低下させる。このようにして、制御部222は、プレヒートを実行する。
プレヒートを実行した後、制御部222は、表面発泡処理を実行する(ステップS27)。具体的に説明すると、制御部222は、搬送駆動部270を駆動させ、照射部230を第1の方向に移動させながら、照射部230に電磁波を照射させる。第1の方向は、図26に示す矢印A3に沿って奥側から手前側に(図26で右側から左側に)向けた方向である。これにより、制御部222は、熱膨張性シート10のうちの濃淡画像が印刷された部分を規定の温度以上に加熱して、熱膨張性シート10を膨張させる。
このときの照射部230の移動距離は、用紙のサイズによって異なる。熱膨張性シート10がA4サイズであるときは、移動距離は図26のホームポジションP−Hから終端位置(A4)P−A4に達するまでの距離であり、熱膨張性シート10がA3サイズであるときは、移動距離は図26のホームポジションP−Hから終端位置(A3)P−A3に達するまでの距離である。なお、ホームポジションP−Hを第2の位置と称し、終端位置P−A3,P−A4のうちの対象となる方を、第1の位置又は終端位置P−Aと称する。
更に、制御部222は、搬送駆動部270を駆動させ、照射部230を第2の方向に移動させながら、給気ファン234に送風させる。第2の方向は、図26に示す矢印A3に沿って手前側から奥側に(図26で左側から右側に)向けた方向である。これにより、照射部230及び熱膨張性シート10を冷却する。
表面発泡処理を実行した後、ユーザは、開閉扉212dを開いてトレイ251を引き出し、熱膨張性シート10を膨張装置500から取り出す(ステップS28)。その後、熱膨張性シート10は、印刷装置400に挿入され、その表面にカラーインク層82が印刷される。
続いて、膨張装置500の処理は、カラーインク層82の乾燥工程(ステップS4)に移る。ユーザは、カラーインク層82が印刷された表面を上に向けて、熱膨張性シート10をトレイ251に設置する(ステップS41)。続いて、制御部222は、熱膨張性シート10の設置を確認し(ステップS42)、バーコードを読み取る(ステップS43)。
バーコードの読み取り処理は、熱膨張性シート10が表面を上側に向けてトレイ251に設置されていることを確認するため処理である。制御部222は、熱膨張性シート10の裏面に付されたバーコードを、バーコードリーダ237によってリフレクタを介して読み取れた場合に、熱膨張性シート10が正常に設置されていると判定する。
バーコードを読み取ると、制御部222は、乾燥処理を実行する(ステップS44)。乾燥処理は、熱膨張性シート10の表面に印刷されたカラーインク層82を乾燥させるための処理である。
具体的に説明すると、制御部222は、ランプヒータ232を点灯して、照射部230に電磁波を照射させる。そして、制御部222は、照射部230に電磁波を照射させている状態で搬送駆動部270を駆動させ、照射部230を第1の方向に移動させる。このとき、制御部222は、熱膨張性シート10が膨張しないように、熱膨張性シート10を規定の温度未満の温度に加熱させるように設定された速度で、照射部230を移動させる。このような乾燥処理によって、熱膨張性シート10に含まれる水分は蒸発し、熱膨張性シート10が乾燥する。
照射部230を移動させた後、制御部222は、照射部230に電磁波の照射を停止させてから、照射部230を第2の方向に移動させてホームポジションP−Hに戻す。このとき、制御部222は、照射部230を第2の方向に移動させながら、給気ファン234に送風させることによって、照射部230及び熱膨張性シート10を冷却する。
このようにして乾燥処理を実行した後、ユーザは、開閉扉212dを開いてトレイ251を引き出し、熱膨張性シート10を膨張装置500から取り出す(ステップS45)。熱膨張性シート10は、印刷装置400に挿入され、その裏面に裏側変換層83が印刷される。
続いて、膨張装置500の処理は、裏面発泡工程(ステップS6)に移る。ユーザは、裏側変換層83が印刷された裏面を上に向けて、熱膨張性シート10をトレイ251に設置する(ステップS61)。続いて、制御部222は、熱膨張性シート10の設置を確認し(ステップS62)、バーコードを読み取る(ステップS63)。
バーコードの読み取り処理は、熱膨張性シート10が裏面を上側に向けてトレイ251に設置されていることを確認するため処理である。制御部222は、熱膨張性シート10の裏面に付されたバーコードを、バーコードリーダ237によってリフレクタを介さずに読み取れた場合に、熱膨張性シート10が正常に設置されていると判定する。
バーコードを読み取ると、制御部222は、裏面発泡処理を実行する(ステップS64)。ステップS64の裏面発泡処理は、ステップS27の表面発泡処理において、表面を裏面に置き換えることによって同様に説明可能である。
裏面発泡処理を実行した後、ユーザは、開閉扉212dを開いてトレイ251を引き出し、熱膨張性シート10を膨張装置500から取り出す(ステップS65)。以上によって、図25に示した膨張装置500の処理は終了する。これにより、所望の造形物が製造された熱膨張性シート10が得られる。
以上説明したように、実施形態8では、上側筐体212内で、発泡加熱においてランプヒータ232を移動させながら電磁波を熱膨張性シート10に照射した後、ランプヒータ232を消灯して給気ファン234及び排気ファン240を運転させながら移動させる。
このような構成とすることで、上側筐体212内に熱膨張性シート10を配置した後に、開閉扉212dを閉じてから膨張処理が行われる。従って、外部から機内に侵入するゴミ等の異物、又は、機内に流入する外気の風等の影響を抑制して閉じられた空間内で膨張処理を行うことができる。
また、照射部230の給気ファン234、及び、排気ファン240によって膨張処理後の熱膨張性シート10に対して冷却風を効率良く流すことができる。これにより、熱がこもりやすい閉じられた空間内であっても、熱による熱膨張性シート10の変形が抑制される。熱膨張性シート10の4辺をトレイ251に挟持することにより、熱膨張性シート10の変形はさらに抑制される。
また、実施形態8によれば、発泡加熱によって発生したインク等を含む蒸気を、筐体210奥側から効果的に排出させることができる。
また、実施形態8によれば、比較的簡単な構成を有しながら複数種類(例えばA3サイズ/A4サイズ)の熱膨張性シートを使用可能な膨張装置が得られる。
また、搬送駆動部270の構成により、ボールネジ271の回転速度、即ち照射部230の移動速度を可変させることで、短時間で温度が上昇するハロゲンランプの特性を活かしつつ、発泡工程における速度より高速として発泡を抑制しながら効果的にカラーインクを乾燥させることができる。
以上のように、実施形態8に係る膨張装置500によれば、筐体210内の温度、湿度、蒸気等の環境を好適に制御することができる。また、照射部230を移動させる方式で熱膨張性シート10に電磁波を照射するため、照射部230の移動速度を容易に制御することができる。これにより、熱膨張性シート10が単位面積当たりに受けるエネルギー量を適切に制御することができる、すなわち適切な電磁波制御を実現できるため、熱膨張性シート10に所望のバンプ面状を高い精度で形成することができる。その結果、装飾性のある造形物を含む所望の造形物を良好に製造することができる。
<実施形態9>
次に、本発明の実施形態9について説明する。実施形態9において、実施形態8と同様の構成については説明を省略する。
実施形態9に係る造形システム200は、実施形態8と同様に、端末装置300と印刷装置400と膨張装置500とを備える。また、実施形態9に係る膨張装置500は、実施形態8と同様に、図25に示した処理を実行する。
このとき、照射部230による電磁波の照射と、給気ファン234による照射部230への送風と、を同時に行うと、送風による空気の流れによってランプヒータ232の熱が熱膨張性シート10に伝わって、熱膨張性シート10を適切に加熱し難くなることがある。このような状況を回避するために、実施形態9に係る膨張装置500は、照射部230に電磁波を照射させている間は、照射部230に向けた送風を停止する又は弱めるように給気ファン234を制御する。以下、図27から図29に示すフローチャートを参照して、実施形態9に係る膨張装置500の処理について説明する。
(プレヒート)
図27は、図25に示した処理のうちのステップS26におけるプレヒートの詳細を示すフローチャートである。
図27に示すプレヒートを開始すると、制御部222は、ランプヒータ232をON(点灯)して、照射部230に電磁波を照射させる(ステップS101)。ランプヒータ232を点灯すると、反射板233の温度は上昇し始める。制御部222は、温度センサ236によって測定された反射板233の温度が予熱温度Tphまで上昇したか否かを判定する(ステップS102)。予熱温度Tphは、予熱処理における上限温度であって、熱膨張性シート10が膨張を開始しないように、規定の温度未満の温度(例えば70℃)に設定される。
反射板233の温度が予熱温度Tphまで上昇していない場合(ステップS102;NO)、制御部222は、ステップS102に留まる。その後、反射板233の温度が予熱温度Tphまで上昇すると(ステップS102;YES)、制御部222は、ランプヒータ232をOFF(消灯)して、照射部230に電磁波の照射を停止させる(ステップS103)。なお、制御部222は、ランプヒータ232をONしている間、熱膨張性シート10の全体を満遍なく温めるため、照射部230をホームポジションP−Hと終端位置P−Aとの間で往復移動させても良い。ランプヒータ232をOFFした後、制御部222は、給気ファン234をONして送風を開始させる(ステップS104)。
給気ファン234をONすると、反射板233の温度は低下し始める。制御部222は、温度センサ236によって測定された反射板233の温度が第1の温度T1まで低下したか否かを判定する(ステップS105)。第1の温度T1は、膨張装置500が膨張処理を開始する温度であって、例えば40℃に設定される。
反射板233の温度が第1の温度T1まで低下していない場合(ステップS105;NO)、制御部222は、ステップS105に留まる。その後、反射板233の温度が第1の温度T1まで低下すると(ステップS105;YES)、制御部222は、給気ファン234をOFFして送風を停止させる(ステップS106)。以上によって、図27に示した予熱処理は終了する。
このように、制御部222は、プレヒートにおいて、照射部230に電磁波を照射させている間は給気ファン234に送風させず、給気ファン234が送風している間は照射部230に電磁波を照射させない。これにより、送風によってランプヒータ232の熱が熱膨張性シート10に伝わることによって熱膨張性シート10を適切に加熱し難くなることを回避する。
(発泡処理)
第2に、図28に示すフローチャートを参照して、図25に示した処理のうちのステップS27における表面発泡処理の詳細について説明する。なお、ステップS64における裏面発泡処理の詳細については、表面を裏面に置き換えることによって同様に説明される。
図28に示す表面発泡処理を開始すると、制御部222は、反射板233の温度が、発泡処理を開始する温度である第1の温度T1以下であるか否かを判定する(ステップS201)。
反射板233の温度が第1の温度T1以下である場合(ステップS201;YES)、制御部222は、ランプヒータ232をONして、照射部230に電磁波を照射させる(ステップS202)。そして、制御部222は、反射板233の温度が第2の温度T2まで上昇したか否かを判定する(ステップS203)。第2の温度T2は、第1の温度T1より高い温度であって、例えば45℃に設定される。
反射板233の温度が第2の温度T2まで上昇していない場合(ステップS203;NO)、制御部222は、ステップS203に留まる。その後、反射板233の温度が第2の温度T2まで上昇すると(ステップS203;YES)、制御部222は、ランプヒータ232をOFFして、照射部230に電磁波の照射を停止させる(ステップS204)。これに対して、反射板233の温度が第1の温度T1より高い場合(ステップS201;NO)、温度を上昇させる必要がないため、制御部222は、ステップS202〜S204の処理をスキップする。
その後、制御部222は、給気ファン234をONして送風を開始させる(ステップS205)。そして、制御部222は、反射板233の温度が第1の温度T1まで低下したか否かを判定する(ステップS206)。反射板233の温度が第1の温度T1まで低下していない場合(ステップS206;NO)、制御部222は、ステップS206に留まる。その後、反射板233の温度が第1の温度T1まで低下すると(ステップS206;YES)、制御部222は、給気ファン234をOFFして送風を停止させる(ステップS207)。このようにして、反射板233の温度は、発泡処理の開始温度である第1の温度T1に調整される。
反射板233の温度が第1の温度T1に調整されると、制御部222は、熱膨張性シート10に電磁波を照射して膨張させる処理を開始する。具体的に説明すると、制御部222は、ランプヒータ232をONして、照射部230に電磁波を照射させる(ステップS208)。そして、制御部222は、ランプヒータ232をONしてから規定時間の経過を待って、ランプヒータ232を規定の距離だけ移動させる(ステップS209)。規定時間は、例えば5秒である。
具体的に説明すると、制御部222は、照射部230に電磁波を照射させながら、搬送駆動部270を駆動させる。これにより、照射部230は、電磁波を照射しながら、ホームポジションP−Hから終端位置P−Aに向けて(図26で右側から左側に)規定の距離だけ移動する。その結果、熱膨張性シート10のうちの濃淡画像が印刷された部分は、規定の温度以上に加熱されて膨張する。
ランプヒータ232を移動させると、制御部222は、ランプヒータ232をOFFして、照射部230に電磁波の照射を停止させる(ステップS210)。その後、制御部222は、加熱されたランプヒータ232及び熱膨張性シート10を冷却する処理を実行する。具体的に説明すると、制御部222は、給気ファン234をONして、給気ファン234に送風させる(ステップS211)。そして、制御部222は、ランプヒータ232をホームポジションP−Hに移動させる(ステップS212)。
具体的に説明すると、制御部222は、給気ファン234に送風させながら、搬送駆動部270を駆動させる。これにより、照射部230は、給気ファン234が送風している状態で、終端位置P−AからホームポジションP−Hに向けて(図26で左側から右側に)移動する。その結果、ランプヒータ232が冷却されると共に、加熱された熱膨張性シート10が冷却される。
ランプヒータ232をホームポジションP−Hに移動させた後、制御部222は、反射板233の温度が第1の温度T1以下まで低下したか否かを判定する(ステップS213)。反射板233の温度が第1の温度T1以下まで低下していない場合(ステップS213;NO)、制御部222は、ステップS213に留まる。その後、反射板233の温度が第1の温度T1以下まで低下すると(ステップS213;YES)、制御部222は、給気ファン234をOFFして、給気ファン234に送風を停止させる(ステップS214)。以上によって、図28に示した表面発泡処理は終了する。
このように、制御部222は、発泡処理において、照射部230に電磁波を照射させている間は給気ファン234に送風させず、給気ファン234が送風している間は照射部230に電磁波を照射させない。照射部230による電磁波の照射と照射部230への送風とを同時に行うと、送風による空気の流れによってランプヒータ232の熱が熱膨張性シート10に伝わる。その結果、熱膨張性シート10の加熱のされ方が安定せず、例えば熱膨張性シート10が膨らみすぎる等のように、膨張の質が変化する。照射部230による電磁波の照射と照射部230への送風とを同時に行わないことで、このような異常の発生を回避することができる。
(乾燥処理)
第3に、図29に示すフローチャートを参照して、図25に示した処理のうちのステップS44における乾燥処理について説明する。
図29に示す乾燥処理を開始すると、制御部222は、ランプヒータ232をONして、照射部230に電磁波を照射させる(ステップS301)。そして、制御部222は、熱膨張性シート10を規定の温度未満の温度に加熱させるように設定された速度で、ランプヒータ232を規定の距離だけ移動させる(ステップS302)。これにより、熱膨張性シート10の表面に印刷されたカラーインク層82が乾燥する。規定の距離は、膨張処理におけるものと同様である。
ランプヒータ232を移動させると、制御部222は、ランプヒータ232をOFFして、照射部230に電磁波の照射を停止させる(ステップS303)。その後、制御部222は、給気ファン234をONして、給気ファン234に送風させる(ステップS304)。そして、制御部222は、ランプヒータ232をホームポジションP−Hに移動させる(ステップS305)。これにより、ランプヒータ232が冷却されると共に、加熱された熱膨張性シート10が冷却される。
ランプヒータ232をホームポジションP−Hに移動させた後、制御部222は、給気ファン234をOFFして送風を停止させる(ステップS306)。その後、制御部222は、このような乾燥処理を規定回数実行したか否かを判定する(ステップS307)。
乾燥処理を規定回数実行していない場合(ステップS307;NO)、制御部222は、処理をステップS301に戻し、ステップS301〜S306の処理を繰り返す。これにより、制御部222は、熱膨張性シート10を十分に乾燥させる。規定回数は、例えば1〜3回に設定される。最終的に、乾燥処理を規定回数実行し終わると(ステップS307;YES)、図29に示す乾燥処理は終了する。
このように、制御部222は、乾燥処理において、照射部230に電磁波を照射させている間は給気ファン234に送風させず、給気ファン234が送風している間は照射部230に電磁波を照射させない。これにより、送風によってランプヒータ232の熱が熱膨張性シート10に伝わることによって熱膨張性シート10を適切に乾燥し難くなることを回避する。
以上説明したように、実施形態9に係る膨張装置500は、熱膨張性シート10の表面又は裏面に沿って照射部230を移動させながら、照射部230に電磁波を照射させることによって、熱膨張性シート10を膨張させる。その際、膨張装置500は、照射部230に電磁波を照射させている間は、給気ファン234に送風させない。このように、照射部230による電磁波の照射と照射部230への送風とを同時に行わないことで、送風によってランプヒータ232の熱が熱膨張性シート10に伝わって、熱膨張性シート10の膨張の質が変化するということを抑制することができる。その結果、異常の発生を抑制しつつ、熱膨張性シート10を適切且つ精度良く膨張させることができるため、安定した造形物を得ることができる。
また、実施形態9に係る膨張装置500は、乾燥処理及びプレヒートにおいても、照射部230に電磁波を照射させている間は、給気ファン234に送風させない。これにより、的確な制御のもとで熱膨張性シート10を加熱することができるため、異常の発生を抑制しつつ、適切に乾燥処理及びプレヒートを実行することができる。
以上のように、実施形態9に係る膨張装置500によれば、筐体210内の温度、空気の流れ等の環境を好適に制御することができる。これにより、適切な電磁波制御を実現できるため、熱膨張性シート10に所望のバンプ面状を高い精度で形成することができる。その結果、装飾性のある造形物を含む所望の造形物を良好に製造することができる。
なお、実施形態9では、制御部222は、照射部230に電磁波を照射させている間は、給気ファン234に送風を停止するように制御した。しかしながら、本発明において、制御部222は、給気ファン234に送風を停止させることに限らず、熱膨張性シート10の膨張の質が変化しない程度に送風を弱めても良い。言い換えると、制御部222は、給気ファン234に送風を完全には停止させなくても良く、熱膨張性シート10の膨張の質が変化しない程度の微弱な強さの送風であれば、給気ファン234に送風させても良い。或いは、制御部222は、送風の強さを変更することに限らず、給気ファン234による送風の向きを変えても良い。給気ファン234による送風の向きを照射部230への向きから照射部230以外への向きに変更することによって、送風の強さを変更せずとも、照射部230に向けた送風を停止する又は弱めることができる。
また、実施形態9では、膨張装置500は、照射部230を移動させる移動手段として搬送駆動部270を備えており、位置が固定された熱膨張性シート10に対して、照射部230を移動させながら電磁波を照射する方式で、熱膨張性シート10を膨張させた。しかしながら、膨張装置500は、熱膨張性シート10を搬送する搬送機構を備えており、搬送される熱膨張性シート10に対して、位置が固定された照射部230から電磁波を照射する方式で、熱膨張性シート10を膨張させても良い。この場合、搬送機構が、熱膨張性シート10を移動させる移動手段として機能する。言い換えると、膨張装置500は、熱膨張性シート10と照射部230とを相対的に移動させることができれば、どのような方式で熱膨張性シート10を膨張させても良い。
<実施形態10>
次に、本発明の実施形態10について説明する。実施形態10において、実施形態8,9と同様の構成については説明を省略する。
熱膨張性シート10は、印刷装置400において塗布されたインクが十分に乾燥していないことによって、又は湿度等の周囲の環境によって、水分を含むことがある。熱膨張性シート10が多くの水分を含んでいると、熱膨張性シート10を膨張させる際に熱膨張性シート10が必要な温度まで加熱されずに、熱膨張性シート10を所望の高さまで膨張させ難くなる。このような事態を抑制して熱膨張性シート10を精度良く膨張させるため、実施形態10に係る膨張装置500は、熱膨張性シート10の膨張処理を実行する前に、熱膨張性シート10の乾燥処理を実行する。
(乾燥処理)
実施形態10に係る膨張装置500において、制御部222は、熱膨張性シート10が規定の温度未満に維持されるように、搬送駆動部270によって照射部230を移動させながら照射部230に電磁波を照射させることによって、熱膨張性シート10を乾燥させる乾燥処理を実行する。
図30に、膨張装置500が乾燥処理を実行する様子を示す。なお、理解を容易にするため、図30では、膨張装置500の各部の構成を図22及び図26に比べて簡略化して示している。以降の図でも同様である。乾燥処理において、制御部222は、照射部230に電源電圧を供給してランプヒータ232を点灯させる、このとき、制御部222は、照射部230に供給する電源電圧を調整することによって、照射部230に第1の強度の電磁波を照射させる。そして、制御部222は、照射部230に電磁波を照射させている状態で搬送駆動部270を駆動させることによって、照射部230を、ホームポジションP−Hから終端位置P−Aに向けて、すなわち第一の方向に、第1の速度で移動させる。なお、乾燥処理において、排気ファン240及び給気ファン234は駆動していない。
照射部230によって電磁波が照射されると、熱膨張性シート10のうちのカーボンブラックを含む濃淡画像が印刷された部分は発熱する。乾燥処理において、制御部222は、熱膨張性シート10を膨張させずに乾燥させる。そのため、第1の強度及び第1の速度は、熱膨張性シート10を規定の温度未満の温度に維持することができるように、言い換えると熱膨張性シート10が規定の温度以上には加熱されないように、予め設定される。規定の温度は、熱膨張層12に含まれる熱膨張剤が膨張を開始する温度であって、例えば80℃から120℃程度の温度である。
例えば、照射部230によって照射される電磁波の強度が高くなるほど、熱膨張性シート10はより多くの量の電磁波を受けるため、より加熱される。また、照射部230の移動速度が低くなるほど、照射時間が長くなるため、熱膨張性シート10はより加熱される。そのため、照射部230によって照射させる電磁波の強度と照射部230の移動速度とのうちの少なくとも一方を調整することによって、熱膨張性シート10の各部分に加える熱量を調整することができる。
第1の強度及び第1の速度は、このような関係を考慮して、熱膨張性シート10に膨張しない程度の熱量を加えることができる値に設定される。制御部222は、第1の強度で電磁波を照射している照射部230を第1の速度で移動させることによって、熱膨張性シート10を規定の温度未満の温度に維持する。これによって、熱膨張性シート10に含まれる水分を蒸発させて乾燥させる。
(膨張処理)
乾燥処理を実行した後、制御部222は、熱膨張性シート10が規定の温度以上に加熱されるように、搬送駆動部270によって照射部230を移動させながら照射部230に電磁波を照射させることによって、熱膨張性シート10を膨張させる膨張処理を実行する。
図31に、膨張装置500が膨張処理を実行する様子を示す。乾燥処理の直後、照射部230は、膨張装置500の手前側である終端位置P−Aに到達している。膨張処理において、制御部222は、照射部230に電源電圧を供給してランプヒータ232を点灯させる。このとき、制御部222は、照射部230に供給する電源電圧を調整することによって、照射部230に第2の強度の電磁波を照射させる。そして、制御部222は、照射部230に電磁波を照射させている状態で搬送駆動部270を駆動させることによって、照射部230を、終端位置P−AからホームポジションP−Hに向けて、すなわち第二の方向に、第2の速度で移動させる。なお、膨張処理において、排気ファン240及び給気ファン234は駆動していない。
照射部230によって電磁波が照射されると、熱膨張性シート10のうちのカーボンブラックを含む濃淡画像が印刷された部分は発熱し、規定の温度にまで加熱されると膨張する。膨張処理において、制御部222は、乾燥処理よりも多くの熱量を加えることによって、熱膨張性シート10を膨張させる。そのため、第2の強度及び第2の速度は、熱膨張性シート10を規定の温度以上の温度に加熱することができるように、予め設定される。
具体的に説明すると、照射部230から熱膨張性シート10の各部分により多くの電磁波を照射させるため、第2の強度は、乾燥処理における第1の強度よりも高い値に設定される。一例として、第2の強度は、第1の強度の2倍から3倍程度の強度に設定される。また、第2の強度が第1の強度よりも高い値に設定されると共に、又はこれに代えて、第2の速度は、乾燥処理における第1の速度よりも低い値に設定される。一例として、第2の速度は、第1の速度の半分から3分の1程度の速度に設定される。第2の速度が第1の速度よりも低い値に設定されることによって、乾燥処理に比べて照射部230の移動時間が長くなるため、より多くの電磁波を熱膨張性シート10に照射することができる。
このように、第2の強度及び第2の速度は、熱膨張性シート10に十分な熱量を加えることができる値に設定される。制御部222は、第2の強度で電磁波を照射している照射部230を第2の速度で移動させることによって、熱膨張性シート10のうちの濃淡画像が印刷された部分を規定の温度以上に加熱する。これにより、熱膨張性シート10は、濃淡画像における黒色の濃さに応じた高さに膨張する。
次に、図32を参照して、実施形態10に係る膨張装置500によって実行される表面発泡処理(図25におけるステップS27)について説明する。なお、ステップS64における裏面発泡処理の詳細については、表面を裏面に置き換えることによって同様に説明される。
図32に示す表面発泡処理を開始すると、制御部222は、乾燥処理を実行する(ステップS401)。具体的に説明すると、制御部222は、ランプヒータ232を点灯させて、照射部230に第1の強度の電磁波を照射させる。そして、制御部222は、図30に示したように、搬送駆動部270を駆動させることによって、第1の強度で電磁波を照射している照射部230を、ホームポジションP−Hから終端位置P−Aに向けて、すなわち第一の方向に、第1の速度で移動させる。これにより、制御部222は、熱膨張性シート10を規定の温度未満の温度に維持して、熱膨張性シート10を乾燥させる。ステップS401は、乾燥ステップの一例である。
乾燥処理を実行した後、制御部222は、膨張処理を実行する(ステップS402)。具体的に説明すると、制御部222は、ランプヒータ232を点灯させて、照射部230に第2の強度の電磁波を照射させる。そして、制御部222は、図31に示したように、搬送駆動部270を駆動させることによって、第2の強度で電磁波を照射している照射部230を、終端位置P−AからホームポジションP−Hに向けて、すなわち第二の方向に、第2の速度で移動させる。これにより、制御部222は、熱膨張性シート10のうちの濃淡画像が印刷された部分を規定の温度以上に加熱して、熱膨張性シート10を膨張させる。ステップS402は、膨張ステップの一例である。
以上説明したように、実施形態10に係る膨張装置500は、熱膨張性シート10に沿って照射部230を移動させながら照射部230に電磁波を照射させることによって、熱膨張性シート10を膨張させる装置であって、熱膨張性シート10の膨張処理を実行する前に、熱膨張性シート10の乾燥処理を実行する。膨張処理の前に乾燥処理を実行することによって、膨張処理において熱膨張性シート10が加熱し難くなることを抑制することができるため、熱膨張性シート10を精度良く膨張させることができる。
特に、実施形態10に係る膨張装置500は、熱膨張性シート10を移動させる方式では無く、照射部230を移動させる方式で熱膨張性シート10を加熱する。そのため、膨張処理を実行する前に、照射部230を移動させながら電磁波を照射させるという簡単な方法で、熱膨張性シート10を乾燥させることができる。
また、実施形態10に係る膨張装置500は、照射部230をホームポジションP−Hから終端位置P−Aに向けて移動させる際に乾燥処理を実行し、照射部230を終端位置P−AからホームポジションP−Hに向けて移動させる際に膨張処理を実行する。このように、膨張装置500は、ホームポジションP−Hと終端位置P−Aとの間で照射部230を1回往復させる間に、乾燥処理と膨張処理とを実行するため、乾燥処理と膨張処理とを効率良く実行することができる。
以上のように、実施形態10に係る膨張装置500によれば、筐体210内の湿度、蒸気等の環境を好適に制御することができる。これにより、適切な電磁波制御を実現できるため、熱膨張性シート10に所望のバンプ面状を高い精度で形成することができる。その結果、装飾性のある造形物を含む所望の造形物を良好に製造することができる。
<実施形態11>
次に、本発明の実施形態11について説明する。実施形態11において、実施形態8〜10と同様の構成については説明を省略する。
熱膨張性シート10は、加熱によって膨張する際に、熱によって反る、歪む等、変形することがある。熱膨張性シート10が変形すると、そこに製造される造形物も歪むため、所望の造形物を得ることが難しくなる。そのため、実施形態11に係る膨張装置500は、熱膨張性シート10が不要に変形することを抑制しつつ熱膨張性シート10を膨張させる。
図33に、実施形態11に係る膨張装置500において、熱膨張性シート10が設置された状態のトレイ251を上(Z方向)から見た様子を示す。トレイ251は、熱膨張性シート10を筐体210内の適正な位置に設置するための機構である。トレイ251は、熱膨張性シート10が設置される設置手段として機能する。図33に示すように、トレイ251は、四角形の枠状をした固定部材280を備えており、固定部材280によって、設置された熱膨張性シート10の4辺の縁部を上から押さえ込むことで固定する。
(膨張処理)
実施形態11に係る膨張装置500において、制御部222は、トレイ251に設置された状態の熱膨張性シート10に対して照射部230により電磁波を照射させることによって熱膨張性シート10を膨張させる膨張処理を実行する。具体的に説明すると、制御部222は、熱膨張性シート10が規定の温度以上に加熱されるように、照射部230に電磁波を照射させながら搬送駆動部270によって照射部230を移動させて、熱膨張性シート10を膨張させる。
図34に、膨張装置500が膨張処理を実行する様子を示す。膨張処理において、制御部222は、照射部230に電源電圧を供給してランプヒータ232を点灯させる。このとき、制御部222は、照射部230に供給する電源電圧を調整することによって、照射部230に所定の強度の電磁波を照射させる。そして、制御部222は、照射部230に電磁波を照射させている状態で搬送駆動部270を駆動させることによって、照射部230を、ホームポジションP−Hから終端位置P−Aに向けて、所定の速度で移動させる。なお、膨張処理において、排気ファン240及び給気ファン234は駆動していない。
照射部230によって電磁波が照射されると、熱膨張性シート10のうちのカーボンブラックを含む濃淡画像が印刷された部分は発熱し、規定の温度にまで加熱されると膨張する。規定の温度は、熱膨張層12に含まれる熱膨張剤が膨張を開始する温度であって、例えば80℃から120℃程度の温度である。所定の強度及び所定の速度は、熱膨張性シート10を規定の温度以上の温度に加熱することができるように、予め設定される。
例えば、照射部230によって照射される電磁波の強度が高くなるほど、熱膨張性シート10はより多くの電磁波を受けるため、より加熱される。また、照射部230の移動速度が低くなるほど、照射時間が長くなるため、熱膨張性シート10はより加熱される。そのため、照射部230によって照射させる電磁波の強度と照射部230の移動速度とのうちの少なくとも一方を調整することによって、熱膨張性シート10の各部分に加える熱量を調整することができる。
所定の強度及び所定の速度は、このような関係を考慮して、熱膨張性シート10に十分な熱量を加えることができる値に設定される。制御部222は、所定の強度で電磁波を照射している照射部230を所定の速度で移動させることによって、熱膨張性シート10のうちの濃淡画像が印刷された部分を規定の温度以上に加熱する。これにより、熱膨張性シート10は、濃淡画像における黒色の濃さに応じた高さに膨張する。
(冷却処理)
膨張処理を実行した後、制御部222は、熱膨張性シート10がトレイ251に設置された状態を維持したままで給気ファン234により熱膨張性シート10冷却させる冷却処理を実行する。
膨張処理によって、熱膨張性シート10を含む筐体210の内部は、多くの熱を含んでいる。熱膨張性シート10は、熱を含むと、その形状が歪んで変形することがある。例えば、熱膨張性シート10は、熱膨張性シート10に含まれる複数の層の熱特性の違いによって弓なりに曲がる、すなわち反ることがある。このような熱膨張性シート10の反りを抑制するため、制御部222は、膨張処理を実行した後、給気ファン234を駆動させることによって、筐体210の内部及び熱膨張性シート10を冷却する。
図35に、膨張装置500が冷却処理を実行する様子を示す。膨張処理の直後、照射部230は、膨張装置500の手前側である終端位置P−Aに到達している。冷却処理において、制御部222は、搬送駆動部270によって照射部230を移動させながら給気ファン234に膨張装置500の内部を冷却させる。具体的に説明すると、制御部222は、照射部230に対する電源電圧の供給を止めてランプヒータ232を消灯させる。そして、制御部222は、給気ファン234を駆動させて、筐体210の外部の空気を筐体210の内部に供給する。制御部222は、給気ファン234に冷却させている状態で搬送駆動部270を駆動させることによって、照射部230を、終端位置P−AからホームポジションP−Hに向けて移動させる。
このとき、制御部222は、排気ファン240を駆動させて、筐体210内の空気を外部に排出する。このように給気ファン234と排気ファン240とが駆動することによって、図35に示すように、給気ファン234によって外部から供給された空気は、膨張装置500の奥側に流れ、排気ファン240から外部に排出される。
給気ファン234は、照射部230に取り付けられているため、照射部230と共に移動する。そのため、照射部230を移動させながら給気ファン234を駆動させることによって、筐体210の外部の空気を筐体210の内部に広く供給することができ、熱膨張性シート10の全体を満遍なく冷却することができる。このように、制御部222は、膨張処理を実行した後の熱膨張性シート10を、給気ファン234を移動させながら、その4辺の縁部がトレイ251に固定されている状態で冷却する。これにより、熱膨張性シート10がトレイ251から取り外された後に反ることを抑制することができる。
次に、図36を参照して、実施形態11に係る膨張装置500によって実行される表面発泡処理(図25におけるステップS27)について説明する。なお、ステップS64における裏面発泡処理の詳細については、表面を裏面に置き換えることによって同様に説明される。
図36における表面発泡処理を開始すると、制御部222は、膨張処理を実行する(ステップS501)。具体的に説明すると、制御部222は、ランプヒータ232を点灯させて、照射部230に所定の強度の電磁波を照射させる。そして、制御部222は、図34に示したように、搬送駆動部270を駆動させることによって、所定の強度で電磁波を照射している照射部230を、ホームポジションP−Hから終端位置P−Aに向けて、所定の速度で移動させる。これにより、制御部222は、熱膨張性シート10のうちの濃淡画像が印刷された部分を規定の温度以上に加熱して、熱膨張性シート10を膨張させる。ステップS501は、膨張ステップの一例である。
膨張処理を実行した後、制御部222は、冷却処理を実行する(ステップS502)。具体的に説明すると、制御部222は、ランプヒータ232を消灯させて照射部230に電磁波の照射を停止させ、且つ、給気ファン234を駆動させる。そして、制御部222は、図35に示したように、給気ファン234に冷却させている状態で搬送駆動部270を駆動させることによって、照射部230を、終端位置P−AからホームポジションP−Hに向けて移動させる。これにより、制御部222は、膨張処理において加熱された熱膨張性シート10を冷却させて、熱膨張性シート10が反ることを抑制する。ステップS502は、冷却ステップの一例である。
以上説明したように、実施形態11に係る膨張装置500は、熱膨張性シート10に沿って照射部230を移動させながら照射部230に電磁波を照射させることによって、熱膨張性シート10を膨張させる装置であって、熱膨張性シート10の膨張処理を実行した後、膨張装置500の内部の冷却処理を実行する。膨張処理の後に冷却処理を実行することによって、膨張処理において加熱された熱膨張性シート10を冷却することができるため、熱膨張性シート10が反って変形することを抑制できる。
特に、実施形態11に係る膨張装置500は、熱膨張性シート10を移動させる方式では無く、照射部230を移動させる方式で熱膨張性シート10を加熱する。そのため、膨張処理を実行した後に、照射部230を移動させながら電磁波を照射させるという簡便な方法で、熱膨張性シート10を冷却することができる。
また、実施形態11に係る膨張装置500は、照射部230をホームポジションP−Hから終端位置P−Aに向けて移動させる際に膨張処理を実行し、照射部230を終端位置P−AからホームポジションP−Hに向けて移動させる際に冷却処理を実行する。このように、膨張装置500は、ホームポジションP−Hと終端位置P−Aとの間で照射部230を1回往復させる間に、膨張処理と冷却処理とを実行するため、膨張処理と冷却処理とを効率良く実行することができる。
以上のように、実施形態8に係る膨張装置500によれば、筐体210内の温度等の環境を好適に制御することができる。これにより、適切な電磁波制御を実現できるため、熱膨張性シート10に所望のバンプ面状を高い精度で形成することができる。その結果、装飾性のある造形物を含む所望の造形物を良好に製造することができる。
なお、実施形態11では、トレイ251は、図33に示したように、固定部材280によって熱膨張性シート10の4辺を押さえ込むように構成されていた。しかしながら、本発明において、トレイ251は、熱膨張性シート10を固定することができれば、4辺の全てを押さえ込まなくても良い。例えば図37(a),(b)に示すように、トレイ251は、2つの棒状の固定部材280によって、互いに対向する2辺を押さえ込むように構成されても良い。或いは、図37(c),(d)に示すように、トレイ251は、2つの点状の固定部材280によって、互いに対向する2辺を押さえ込むように構成されても良い。このように、トレイ251は、熱膨張性シート10の4辺のうちの少なくとも互いに対向する2辺を押さえ込むように構成されていても良い。
更に、図38(a)に示すように、トレイ251は、4つの点状の固定部材280によって、熱膨張性シート10の四隅を押さえ込むように構成されても良い。或いは、図38(b),(c)に示すように、トレイ251は、2つの点状の固定部材280によって、熱膨張性シート10の四隅のうちの互いに対向する2つの隅を押さえ込むように構成されても良い。互いに対向する2つの隅とは、長方形状の熱膨張性シート10において対角線で結ばれる2つの隅である。このように、トレイ251は、熱膨張性シート10の四隅のうちの少なくとも互いに対向する2つの隅を押さえ込むように構成されていても良い。
<実施形態12>
次に、本発明の実施形態12について説明する。実施形態12において、実施形態10,11と同様の構成については説明を省略する。
実施形態10に係る膨張装置500は、熱膨張性シート10を乾燥させる乾燥処理と、熱膨張性シート10を膨張させる膨張処理と、を実行した。また、実施形態11に係る膨張装置500は、熱膨張性シート10を膨張させる膨張処理と、膨張装置500の内部を冷却する冷却処理と、を実行した。これに対して、実施形態12に係る膨張装置500は、乾燥処理と、膨張処理と、冷却処理と、膨張装置500の内部を換気する換気処理と、の4つの処理を実行する。
図39は、図25に示した処理のうちのステップS27における表面発泡処理を示すフローチャートである。なお、ステップS64における裏面発泡処理の詳細については、表面を裏面に置き換えることによって同様に説明される。
(乾燥処理)
図39に示す表面発泡処理を開始すると、制御部222は、乾燥処理を実行する(ステップS601)。実施形態12における乾燥処理は、実施形態10における乾燥処理と同様である。ステップS601は、乾燥ステップの一例である。
具体的に説明すると、制御部222は、ランプヒータ232を点灯させて、照射部230に第1の強度の電磁波を照射させる。そして、制御部222は、図30に示したように、搬送駆動部270を駆動させることによって、第1の強度で電磁波を照射している照射部230を、ホームポジションP−Hから終端位置P−Aに向けて、第1の速度で移動させる。これにより、制御部222は、熱膨張性シート10を規定の温度未満の温度に維持して、熱膨張性シート10を乾燥させる。
(換気処理)
乾燥処理を実行した後、制御部222は、換気処理を実行する(ステップS602)。換気処理において、制御部222は、搬送駆動部270によって照射部230を移動させながら排気ファン240に膨張装置500の内部を換気させる。ステップS602は、換気ステップの一例である。
乾燥処理によって、筐体210内の空気は、熱膨張性シート10から蒸発した水分を含んでいる。このような筐体210内の水分を除去するために、制御部222は、乾燥処理を実行した後、排気ファン240を駆動させることによって、筐体210の内部を換気する。
図40に、膨張装置500が換気処理を実行する様子を示す。換気処理において、排気ファン240は、乾燥処理において照射部230が熱膨張性シート10に沿って移動した後の復路において、照射部230が移動する方向に膨張装置500の内部の空気を送って膨張装置500の外部に排出することで、膨張装置500の内部を換気する。具体的に説明すると、乾燥処理の直後、照射部230は、膨張装置500の手前側である終端位置P−Aに到達している。制御部222は、照射部230に対する電源電圧の供給を止めてランプヒータ232を消灯させる。そして、制御部222は、排気ファン240を駆動させて、筐体210内の空気を外部に排気させる。制御部222は、排気ファン240に換気させている状態で搬送駆動部270を駆動させることによって、照射部230を、終端位置P−AからホームポジションP−Hに向けて移動させる。
乾燥処理では、照射部230がホームポジションP−Hから終端位置P−Aに向けて移動するため、熱膨張性シート10から蒸発した水分は、照射部230よりも奥側に多く含まれている。排気ファン240は、膨張装置500の奥側の端部に設置されているため、照射部230よりも奥側に含まれる水分を効率良く除去することができる。特に、照射部230を手前側から奥側に向けて移動させることによって、筐体210内の空気を奥側に向けて送ることができるため、奥側の端部に設置された排気ファン240から効率良く換気することができる。
(膨張処理)
換気処理を実行した後、制御部222は、熱膨張性シート10を膨張させる膨張処理を実行する(ステップS603)。実施形態12における膨張処理は、実施形態11における膨張処理と同様である。ステップS603は、膨張ステップの一例である。
具体的に説明すると、制御部222は、ランプヒータ232を点灯させて、照射部230に第2の強度の電磁波を照射させる。そして、制御部222は、搬送駆動部270を駆動させることによって、第2の強度で電磁波を照射している照射部230を、ホームポジションP−Hから終端位置P−Aに向けて、第2の速度で移動させる。これにより、制御部222は、熱膨張性シート10のうちの濃淡画像が印刷された部分を規定の温度以上に加熱して、熱膨張性シート10を膨張させる。
(冷却処理)
膨張処理を実行した後、制御部222は、冷却処理を実行する(ステップS604)。実施形態12における冷却処理は、実施形態11における冷却処理と同様である。ステップS604は、冷却ステップの一例である。
具体的に説明すると、制御部222は、ランプヒータ232を消灯させて照射部230に電磁波の照射を停止させ、且つ、給気ファン234を駆動させる。そして、制御部222は、図35に示したように、給気ファン234に冷却させている状態で搬送駆動部270を駆動させることによって、照射部230を、終端位置P−AからホームポジションP−Hに向けて移動させる。これにより、制御部222は、膨張処理において加熱された熱膨張性シート10を冷却させて、熱膨張性シート10が反ることを抑制する。
以上説明したように、実施形態12に係る膨張装置500は、照射部230をホームポジションP−Hから終端位置P−Aに向けて移動させる際に乾燥処理を実行し、照射部230を終端位置P−AからホームポジションP−Hに向けて移動させる際に換気処理を実行し、照射部230をホームポジションP−Hから終端位置P−Aに向けて移動させる際に膨張処理を実行し、照射部230を終端位置P−AからホームポジションP−Hに向けて移動させる際に冷却処理を実行する。このように、膨張装置500は、ホームポジションP−Hと終端位置P−Aとの間で照射部230を2回往復させる間に、乾燥処理と換気処理と膨張処理と冷却処理を実行するため、これら4つの処理を効率良く実行することができる。
(変形例)
実施形態8〜12に係る造形システム200は、熱膨張性シート10を用いて造形物を製造した。しかしながら、造形システム200において、実施形態2〜6で説明した熱膨張性シート120〜160を用いて上述した同様の処理を実行して、造形物を製造することもできる。
実施形態8〜12において、膨張装置500の制御部222は、CPUを備えており、CPUの機能によって、上述した各処理を実行した。しかし、本発明に係る膨張装置において、制御部は、CPUの代わりに、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又は、各種制御回路等の専用のハードウェアを備え、専用のハードウェアが、上述した各処理を実行しても良い。この場合、各処理を個別のハードウェアで実行しても良いし、各処理をまとめて単一のハードウェアで実行しても良い。また、各処理のうち、一部を専用のハードウェアによって実行し、他の一部をソフトウェア又はファームウェアによって実行しても良い。
なお、本発明に係る機能を実現するための構成を予め備えた膨張装置として提供できることはもとより、プログラムの適用により、膨張装置を制御するコンピュータに、上記実施形態で例示した膨張装置500による各機能構成を実現させることもできる。すなわち、上記実施形態で例示した膨張装置500による各機能構成を実現させるためのプログラムを、既存の情報処理装置等を制御するCPU等が実行できるように適用することができる。
このようなプログラムの適用方法は任意である。プログラムを、例えば、フレキシブルディスク、CD(Compact Disc)−ROM、DVD(Digital Versatile Disc)−ROM、メモリカード等のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に格納して適用できる。さらに、プログラムを搬送波に重畳し、インターネットなどの通信媒体を介して適用することもできる。例えば、通信ネットワーク上の掲示板(BBS:Bulletin Board System)にプログラムを掲示して配信してもよい。そして、このプログラムを起動し、OS(Operating System)の制御下で、他のアプリケーションプログラムと同様に実行することにより、上記の処理を実行できるように構成してもよい。
また、上述した実施形態1では、熱膨張層12が基材11の一方の面に形成される構成を例に挙げて説明したが、これに限られない。例えば、熱膨張層12は、基材11の他方の面(図1に示す下面)にも形成され、基材の両面に形成されることも可能である。実施形態2〜6についても同様である。
更に、上述した実施形態1〜5では、インク受容層13,113が熱膨張層上に形成される構成を例に挙げて説明したが、これに限られず、基材11,111の下面にも形成されてもよい。
上述した各実施形態は、明細書中で言及したものに限られず、任意に組み合わせることが可能である。
なお、各実施形態において用いられている図は、いずれも各実施形態を説明するためのものである。従って、熱膨張性シートの各層の厚みは任意であって、図に示されているような比率で形成されると限定して解釈されることを意図するものではない。例えば、図1では基材11は熱膨張層12とほぼ同じ厚みに図示されているが、基材11が熱膨張層12より薄くされる構成、又は熱膨張層12より厚く形成される構成を排除するものではない。他の層についても同様である。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明には、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲とが含まれる。以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
(付記1)
基材の一方の面上に形成され、熱に応じて膨張する熱膨張性材料を含む熱膨張層を備え、
電磁波が照射されることで生じた熱により、表面の少なくとも一部を隆起させることによって装飾性のある造形物を製造することが可能なことを特徴とする熱膨張性シート。
(付記2)
前記熱膨張層は、第1の熱膨張層と、前記第1の熱膨張層の上に設けられた第2の熱膨張層と、を備え、
前記第1の熱膨張層は、熱膨張性材料をバインダに対して第1の割合で含み、
前記第2の熱膨張層は、熱膨張性材料をバインダに対して第2の割合で含み、
前記第2の割合は、前記第1の割合と比較して小さい、
ことを特徴とする付記1に記載の熱膨張性シート。
(付記3)
前記熱膨張層は、第1の熱膨張層と、前記第1の熱膨張層の上に設けられた第2の熱膨張層と、を備え、
前記第2の熱膨張層は、白色顔料を更に含む、
ことを特徴とする付記1又は2に記載の熱膨張性シート。
(付記4)
前記熱膨張層は、
熱膨張性材料をバインダに対して第3の割合で含む第3の熱膨張層と、
前記第3の熱膨張層の上に設けられ、熱膨張性材料をバインダに対して第4の割合で含む第4の熱膨張層と、を備え、
前記第3の割合は、前記第4の割合と比較して小さい、
ことを特徴とする付記1に記載の熱膨張性シート。
(付記5)
電磁波が照射されることで生じた熱により、表面の少なくとも一部を隆起させることによって装飾性のある造形物を製造することが可能な熱膨張性シートを製造する方法であって、
基材の一方の面上に、熱に応じて膨張する熱膨張性材料を含む熱膨張層を形成する熱膨張層形成工程を備える、
ことを特徴とする熱膨張性シートの製造方法。
(付記6)
前記熱膨張層形成工程は、第1の熱膨張層を形成する第1の熱膨張層形成工程と、前記第1の熱膨張層の上に第2の熱膨張層を形成する第2の熱膨張層形成工程と、を備え、
前記第1の熱膨張層形成工程では、熱膨張性材料をバインダに対して第1の割合で含有させ、
前記第2の熱膨張層形成工程では、熱膨張性材料をバインダに対して第2の割合で含有させ、
前記第2の割合を、前記第1の割合と比較して小さくする、
ことを特徴とする請求項5に記載の熱膨張性シートの製造方法。
(付記7)
前記熱膨張層形成工程は、第1の熱膨張層を形成する第1の熱膨張層形成工程と、前記第1の熱膨張層の上に第2の熱膨張層を形成する第2の熱膨張層形成工程と、を備え、
前記第2の熱膨張層形成工程において、前記第2の熱膨張層中に白色顔料を含有させる、
ことを特徴とする付記5又は6に記載の熱膨張性シートの製造方法。
(付記8)
前記熱膨張層形成工程は、
熱膨張性材料をバインダに対して第3の割合で含む第3の熱膨張層を形成する工程と、
熱膨張性材料をバインダに対して第4の割合で含む第4の熱膨張層を、前記第3の熱膨張層の上に形成する工程と、を備え、
前記第3の割合を、前記第4の割合と比較して小さくする、
ことを特徴とする付記5に記載の熱膨張性シートの製造方法。
(付記9)
装飾性のある造形物の製造方法であって、
熱膨張性シートに、電磁波を熱に変換する変換層を印刷する印刷ステップと、
前記印刷ステップで前記変換層が印刷された前記熱膨張性シートと、電磁波を照射する照射手段と、を相対的に移動させながら、前記照射手段に電磁波を照射させることにより、前記熱膨張性シートを膨張させて前記造形物を製造する制御ステップと、
を含むことを特徴とする造形物の製造方法。
(付記10)
熱膨張性シートに電磁波を照射する照射手段と、
前記熱膨張性シートと前記照射手段とを相対的に移動させる移動手段と、
前記移動手段によって前記熱膨張性シートと前記照射手段とを相対的に移動させながら前記照射手段に電磁波を照射させることにより、前記熱膨張性シートを膨張させて装飾性のある造形物を製造する制御手段と、
を備えることを特徴とする膨張装置。
(付記11)
前記移動手段は、前記照射手段を第1の位置と第2の位置との間で往復移動させ、
筐体に固定され、当該筐体から排気する排気ファンと、
前記照射手段と共に移動し、外気を前記筐体内に給気する給気ファンと、
を更に備え、
前記排気ファンは、前記照射手段が前記第2の位置から前記第1の位置に向けて移動した後、前記第1の位置から前記第2の位置に戻されるときに前記第2の位置側から排気可能な位置に設けられている、
ことを特徴とする付記10に記載の膨張装置。
(付記12)
前記照射手段に送風することによって、前記照射手段を冷却する送風手段、
を更に備え、
前記制御手段は、前記熱膨張性シートを膨張させる処理において、前記照射手段に電磁波を照射させている間は、当該照射手段に向けた送風を停止する又は弱めるように前記送風手段を制御する、
ことを特徴とする付記10又は11に記載の膨張装置。
(付記13)
前記熱膨張性シートは、規定の温度以上に加熱されることによって膨張し、
前記移動手段は、前記照射手段を、前記熱膨張性シートに沿って移動させ、
前記制御手段は、前記熱膨張性シートが前記規定の温度未満に維持されるように、前記移動手段によって前記照射手段を移動させながら前記照射手段に電磁波を照射させて、前記熱膨張性シートを乾燥させる乾燥処理を実行した後、前記熱膨張性シートが前記規定の温度以上に加熱されるように、前記移動手段によって前記照射手段を移動させながら前記照射手段に電磁波を照射させて、前記熱膨張性シートを膨張させる膨張処理を実行する、
ことを特徴とする付記10から12のいずれか1つに記載の膨張装置。
(付記14)
熱膨張性シートが設置される設置手段、
を更に備え、
前記制御手段は、前記設置手段に設置された状態の熱膨張性シートに対して前記照射手段により電磁波を照射させることによって前記熱膨張性シートを膨張させる膨張処理を実行した後、前記熱膨張性シートが前記設置手段に設置された状態を維持したままで所定の冷却手段により前記熱膨張性シートを冷却させる冷却処理を実行する、
ことを特徴とする付記10から13のいずれか1つに記載の膨張装置。
(付記15)
付記10から14のいずれか1つに記載の膨張装置と、
前記熱膨張性シートに、電磁波を熱に変換する変換層を印刷する印刷装置と、を備え、
前記制御手段は、前記移動手段によって前記熱膨張性シートと前記照射手段とを相対的に移動させながら、前記印刷装置によって前記変換層が印刷された前記熱膨張性シートに向けて前記照射手段に電磁波を照射させることにより、前記熱膨張性シートを膨張させて前記造形物を製造する、
ことを特徴とする造形システム。