以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図中同一又は相当する部分には同一符号を付す。
<熱膨張性シート10>
図1に、造形物を造形するための熱膨張性シート10の断面構成を示す。熱膨張性シート10は、予め選択された部分が加熱により膨張することによって造形物が造形される媒体である。造形物とは、立体的な形状を有する物体であって、2次元状のシートにおいて、シートのうちの一部分がシートに垂直な方向に膨張することによって製造される。造形物の形状は、単純な形状、幾何学形状、文字の形状等の形状一般を含む。
言い換えると、本実施形態の造形物は、3次元空間内の特定の2次元面を基準とし、その2次元面に垂直な方向に凹凸を有する物体である。このような造形物は、立体(3次元)画像に含まれるが、所謂3Dプリンタ技術によって製造される立体画像と区別するため、2.5次元(2.5D)画像又は擬似3次元(pseudo-3D)画像と呼ぶ。また、このような造形物を製造する技術は、立体画像印刷技術に含まれるが、所謂3Dプリンタと区別するため、2.5次元印刷技術又は擬似3次元印刷技術と呼ぶ。
図1に示すように、熱膨張性シート10は、基材11と、熱膨張層12と、インク受容層13とを、この順に備えている。なお、図1は、造形物が造形される前、すなわちどの部分も膨張していない状態における熱膨張性シート10の断面を示している。
基材11は、熱膨張性シート10の元となるシート状の媒体である。基材11は、熱膨張層12とインク受容層13とを支持する支持体であって、熱膨張性シート10の強度を保持する役割を担う。基材11として、例えば、一般的な印刷用紙を用いることができる。或いは、基材11の材質は、合成紙、キャンバス地等の布、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のプラスチックフィルムであっても良く、特に限定されるものではない。
熱膨張層12は、基材11の上側に積層されており、規定の温度以上に加熱されることによって膨張する層である。熱膨張層12は、バインダと、バインダ内に分散配置された熱膨張剤と、を含む。バインダは、エチレン酢酸ビニル系ポリマー、アクリル系ポリマー等の熱可塑性樹脂である。熱膨張剤は、具体的には、プロパン、ブタン等の低沸点で気化する物質を、熱可塑性樹脂の外殻に内包した、粒径が約5~50μmの熱膨張性のマイクロカプセル(マイクロパウダー)である。熱膨張剤は、例えば80℃から120℃程度の温度に加熱されると、内包している物質が気化し、その圧力によって発泡及び膨張する。このようにして、熱膨張層12は、吸収した熱量に応じて膨張する。熱膨張剤は、発泡剤とも呼ぶ。
インク受容層13は、熱膨張層12の上側に積層された、インクを吸収して受容する層である。インク受容層13は、インクジェット方式のプリンタに用いられる印刷用のインク、レーザー方式のプリンタに用いられる印刷用のトナー、ボールペン又は万年筆のインク、鉛筆の黒鉛等を受容する。インク受容層13は、これらを表面に定着させるための好適な材料によって形成される。インク受容層13の材料として、例えば、インクジェット用紙に用いられている汎用的な材料を用いることができる。
図2(a),(b)に、熱膨張性シート10の裏側の面(以下「熱膨張性シート10の裏面」と呼ぶ。)を示す。熱膨張性シート10の裏面は、熱膨張性シート10の基材11側の面であって、基材11の裏面に相当する。一方で、熱膨張性シート10の表側の面(以下「熱膨張性シート10の表面」と呼ぶ。)は、熱膨張性シート10のインク受容層13側の面に相当する。図2(a)は、シートのサイズが第1のサイズである熱膨張性シート10の裏面を示しており、図2(b)は、シートのサイズが第2のサイズである熱膨張性シート10の裏面を示している。一例として、第1のサイズはA3サイズであり、第2のサイズはA4サイズである。すなわち、図2(b)に示す熱膨張性シート10のサイズは、図2(a)に示す熱膨張性シート10のサイズの半分である。
図2(a),(b)に示すように、熱膨張性シート10の裏面には、その周縁部に沿って複数のバーコードBが付されている。より詳細には、バーコードBは、図2(a)に示す第1のサイズの熱膨張性シート10では、長手方向における一方側の端部に設けられており、図2(b)に示す第2のサイズの熱膨張性シート10では、短手方向における一方側の端部に設けられている。バーコードBは、熱膨張性シート10を識別するための識別子であって、熱膨張性シート10が造形物を造形するための専用のシートであることを示す識別子である。バーコードBは、照射装置50によって読み取られ、照射装置50において熱膨張性シート10の使用の可否を判定するために用いられる。また、バーコードBは、熱膨張性シート10のサイズが第1のサイズであるか第2のサイズであるかというサイズ情報、熱膨張性シート10の厚み、基材11の種類等の情報を含んでいる。
造形システム1は、このようなサイズが異なる複数種類の熱膨張性シート10に造形物を製造することができる。熱膨張性シート10の表面又は裏面のうちの膨張させたい部分には、カーボン分子が印刷される。カーボン分子は、黒色(カーボンブラック)又は他の色のインクに含まれ、電磁波を吸収して熱に変換する電磁波熱変換材料(発熱剤)の一種である。カーボン分子は、電磁波を吸収して熱振動することで熱を発生する。熱膨張性シート10において、カーボン分子が印刷された部分が加熱されると、その部分の熱膨張層12が膨張して隆起(バンプ)が形成される。このような熱膨張層12の隆起(バンプ)によって凸若しくは凹凸形状を造ることにより、熱膨張性シート10に造形物が製造される。
熱膨張性シート10における膨張させる箇所及び高さを組み合わせることにより、多彩な造形物を得ることができる。また、造形(造型)によって視覚又は触覚を通じて美感又は質感を表現することを「加飾(造飾)」と呼ぶ。
<造形システム1>
次に、図3(a)~(c)を参照して、熱膨張性シート10に造形物を製造するための造形システム1について説明する。
図3(a)は、造形システム1の斜視図である。図3(b)は、造形システム1の正面図である。図3(c)は、天板22を開いた状態における造形システム1の平面図である。図3(a)~(c)において、X方向は、印刷装置40と照射装置50とが並ぶ方向に相当し、Y方向は、印刷装置40及び照射装置50における熱膨張性シート10の搬送方向に相当し、Z方向は、鉛直方向に相当する。X方向とY方向とZ方向とは、互いに直交する。
図3(a)~(c)に示すように、造形システム1は、制御ユニット30と、表示ユニット35と、印刷装置(印刷ユニット)40と、照射装置(照射ユニット)50と、を備える。制御ユニット30、印刷装置40及び照射装置50は、フレーム21内に載置される。フレーム21は、略矩形状の一対の側面板21aと、一対の側面板21aの間に設けられた連結部21bとを備え、側面板21aの上方に天板22が渡されている。また、連結部21bの上に印刷装置40及び照射装置50がX方向に並んで設置され、連結部21bの下に制御ユニット30が設置されている。表示ユニット35は、天板22内に、天板22の上面と高さが一致するように埋設されている。
<制御ユニット30>
制御ユニット30は、印刷装置40、照射装置50及び表示ユニット35を制御する。また、制御ユニット30は、印刷装置40、照射装置50、及び表示ユニット35に電源を供給する。制御ユニット30は、図4に示すように、制御部31と、記憶部32と、通信部33と、記録媒体駆動部34と、を備える。これら各部は、信号を伝達するためのバスによって接続されている。
制御部31は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備える。制御部31では、CPUが、ROMに記憶されている制御プログラムを読み出して、RAMをワークメモリとして用いながら、造形システム1全体の動作を制御する。なお、制御部31は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用の制御回路であっても良い。
記憶部32は、フラッシュメモリ、ハードディスク等であって、制御部31によって実行されるプログラム又はデータを記憶している。例えば、記憶部32は、印刷装置40によって印刷されるカラー画像データ、表発泡データ及び裏発泡データを記憶している。
通信部33は、印刷装置40、照射装置50及び表示ユニット35を含む外部の装置と通信するためのインタフェースである。
記録媒体駆動部34は、可搬型の記録媒体に記録されているプログラム又はデータを読み出す。可搬型の記録媒体とは、CD(Compact Disc)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM、USB(Universal Serial Bus)規格のコネクタが備えられているフラッシュメモリ等である。例えば、記録媒体駆動部34は、印刷装置40によって印刷されるカラー画像データ、表発泡データ及び裏発泡データを、可搬型の記録媒体から読み出して取得する。
<表示ユニット35>
表示ユニット35は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の表示装置と、表示装置に画像を表示させる表示駆動回路と、を備える。表示ユニット35は、印刷装置40によって熱膨張性シート10に印刷される画像を表示する。また、表示ユニット35は、必要に応じて、印刷装置40及び照射装置50の現在の状態を示す情報を表示する。
なお、図示していないが、造形システム1は、ユーザによって操作される操作ユニットを備えていても良い。操作ユニットは、ボタン、スイッチ、ダイヤル等を備え、印刷装置40又は照射装置50に対する操作を受け付ける。或いは、表示ユニット35は、表示装置と操作装置とが重ねられたタッチパネル又はタッチスクリーンを備えていてもよい。
<印刷装置40>
印刷装置40は、熱膨張性シート10の表面又は裏面に印刷を行う印刷ユニットである。一例として、印刷装置40は、インクを微滴化し、被印刷媒体に対して直接に吹き付ける方式で画像を印刷するインクジェットプリンタである。印刷装置40では、例えば水性インク、溶剤インク、紫外線硬化インク等、任意のインクを使用することができる。
図3(c)に示すように、印刷装置40は、熱膨張性シート10を搬入するための搬入部40aと、熱膨張性シート10を搬出するための搬出部40bと、を備える。印刷装置40は、搬入部40aから搬入された熱膨張性シート10の表面又は裏面に指示された画像を印刷し、画像が印刷された熱膨張性シート10を搬出部40bから搬出する。
図5に、印刷装置40の詳細な構成を示す。図5に示すように、印刷装置40は、熱膨張性シート10が搬送される方向である副走査方向D1(Y方向)に直交する主走査方向D2(X方向)に往復移動可能なキャリッジ41を備える。
キャリッジ41には、印刷を実行する印刷ヘッド42と、インクを収容したインクカートリッジ43(43k,43c,43m,43y)が取り付けられている。インクカートリッジ43k,43c,43m,43yには、それぞれ、ブラックK、シアンC、マゼンタM、及びイエローYの色インクが収容されている。各色のインクは、印刷ヘッド42の対応するノズルから吐出される。
キャリッジ41は、ガイドレール44に滑動自在に支持されており、駆動ベルト45に挟持されている。キャリッジ41は、モータ45mの回転により駆動ベルト45が駆動することで、印刷ヘッド42及びインクカートリッジ43と共に、主走査方向D2に移動する。
フレーム47の下部には、印刷ヘッド42と対向する位置に、プラテン48が設けられている。プラテン48は、主走査方向D2に延在しており、熱膨張性シート10の搬送路の一部を構成している。熱膨張性シート10の搬送路には、給紙ローラ対49a(下のローラは不図示)と排紙ローラ対49b(下のローラは不図示)とが設けられている。給紙ローラ対49aと排紙ローラ対49bとは、プラテン48に支持された熱膨張性シート10を副走査方向D1に搬送する。
印刷装置40は、フレキシブル通信ケーブル46を介して制御ユニット30と接続されている。制御ユニット30は、フレキシブル通信ケーブル46を介して、印刷ヘッド42、モータ45m、給紙ローラ対49a及び排紙ローラ対49bを制御する。具体的に説明すると、制御ユニット30は、給紙ローラ対49a及び排紙ローラ対49bを制御して、熱膨張性シート10を搬送させる。また、制御ユニット30は、モータ45mを回転させてキャリッジ41を移動させ、印刷ヘッド42を主走査方向D2の適切な位置に搬送させる。
印刷装置40は、制御ユニット30から画像データを取得し、取得した画像データに基づいて印刷を実行する。具体的に説明すると、印刷装置40は、画像データとして、カラー画像データと表発泡データと裏発泡データとを取得する。カラー画像データは、熱膨張性シート10の表面に印刷するカラー画像を示すデータである。印刷装置40は、印刷ヘッド42に、シアンC、マゼンタM及びイエローYの各インクを熱膨張性シート10に向けて噴射させて、カラー画像を印刷する。
これに対して、表発泡データは、熱膨張性シート10の表面において発泡及び膨張させる部分を示すデータである。また、裏発泡データは、熱膨張性シート10の裏面において発泡及び膨張させる部分を示すデータである。印刷装置40は、印刷ヘッド42に、カーボンブラックを含むブラックKの黒色インクを熱膨張性シート10に向けて噴射させて、黒色による濃淡画像(濃淡パターン)を印刷する。これにより、熱膨張性シート10の表面又は裏面に、電磁波を熱に変換する変換層が形成される。カーボンブラックを含む黒色インクは、電磁波を熱に変換する材料の一例である。
<照射装置50>
照射装置50は、熱膨張性シート10に対して電磁波を照射することにより、熱膨張性シート10を加熱して膨張させる照射ユニットである。照射装置50は、加熱装置、膨張装置等とも呼ばれる。
図3(c)に示したように、照射装置50は、熱膨張性シート10を搬入するための搬入部50aと、熱膨張性シート10を搬出するための搬出部50bと、を備える。また、図6に示すように、照射装置50は、筐体51と、搬送ローラ対52a~52cと、搬送ガイド53a~53dと、照射部60と、を備える。照射装置50は、図示しないケーブルを介して制御ユニット30と接続されており、制御ユニット30の制御のもとで、搬送ローラ対52a~52cを駆動させて熱膨張性シート10を搬送させながら、照射部60によって熱膨張性シート10に向けて電磁波を照射する。
搬送ローラ対52a~52cは、搬入部50aから搬入された熱膨張性シート10を搬送する搬送手段として機能する。具体的に説明すると、搬送ローラ対52aは、搬入部50aに設置されており、搬入部50aに載置された熱膨張性シート10を筐体51の内部に搬入する。搬送ローラ対52bは、照射部60よりも搬入部50a側に設置されており、搬入部50aから搬入された熱膨張性シート10を照射部60により電磁波が照射される位置に搬送する。搬送ローラ対52cは、照射部60よりも搬出部50b側に設置されており、照射部60により電磁波が照射された後の熱膨張性シート10を搬出部50bに搬送する。
搬送ローラ対52a~52cは、それぞれ一対のローラを備えており、一対のローラによって熱膨張性シート10を挟持する。一対のローラは、図示しない搬送モータと接続されており、搬送モータの回転に伴う駆動力を動力源として回転する。搬送モータは、例えばパルス電力に同期して動作するステッピングモータである。このような構成により、搬送ローラ対52a~52cは、熱膨張性シート10を、その表面又は裏面を照射部60に向けながら搬送する。
照射部60は、電磁波を照射する機構であって、搬送ローラ対52a~52cにより搬送される熱膨張性シート10に向けて電磁波を照射する照射手段として機能する。図6に示すように、照射部60は、ランプヒータ61と、反射板62と、を備える。
ランプヒータ61は、例えばハロゲンランプであって、熱膨張性シート10に対して、近赤外領域(波長750~1400nm)、可視光領域(波長380~750nm)、又は、中赤外領域(波長1400~4000nm)の電磁波を照射する。カーボンブラックを含む黒色インクが印刷された熱膨張性シート10に電磁波を照射すると、黒色インクが印刷された部分では、黒色インクが印刷されていない部分に比べて、より効率良く電磁波が熱に変換される。そのため、熱膨張層12のうちの、黒色インクが印刷された部分が主に加熱されて、その結果、熱膨張層12は、黒色インクが印刷された部分が膨張する。
反射板62は、照射部60から照射された電磁波を受ける被照射体であって、ランプヒータ61から照射された電磁波を熱膨張性シート10に向けて反射する機構である。反射板62は、ランプヒータ61の上側を覆うように配置されており、ランプヒータ61から上側に向けて照射された電磁波を下側に向けて反射する。反射板62によって、ランプヒータ61から照射された電磁波を効率良く熱膨張性シート10に照射することができる。
反射板62の上側には、複数の冷却ファン63が設けられている。冷却ファン63は、照射装置50の外部から空気を吸い込んで反射板62に空気を送る。これにより、冷却ファン63は、ランプヒータ61が点灯することによって加熱された反射板62を冷却する。また、照射装置50の下側の端部には、排気ファン64が設けられている。排気ファン64は、筐体51の内部の空気を外部に排出することで、筐体51の内部を換気する。
搬送ガイド53a~53dは、搬送ローラ対52a~52cにより搬送される熱膨張性シート10を、搬入部50aから照射部60により電磁波が照射される位置を通って搬出部50bに導く。具体的に説明すると、搬送ガイド53aは、搬入部50aに設置されており、搬入部50aに載置された熱膨張性シート10を筐体51の内部に搬入するためのガイドである。搬送ガイド53bは、搬入部50aと照射部60との間に設置されており、搬入部50aから搬入された熱膨張性シート10を照射部60により電磁波が照射される位置に搬送するためのガイドである。搬送ガイド53cは、照射部60と搬出部50bとの間に設置されており、照射部60により電磁波が照射された後の熱膨張性シート10を搬出部50bに搬送するためのガイドである。搬送ガイド53dは、照射部60により電磁波を照射される位置に設置されており、電磁波が照射されている最中の熱膨張性シート10を搬送するためのガイドである。
搬送ガイド53a~53dは、金属製であって、例えば鉄、ステンレス等の金属の材質によって形成されている。金属製であるため、搬送ガイド53a~53dは、照射部60から照射される電磁波に対して反射性を有する。これにより、搬送ガイド53a~53dは、照射部60により電磁波を照射されて熱膨張性シート10が高温に加熱されたとしても、急激には加熱されず、低温のまま保たれやすい。
図7に、照射部60の周辺に設置された搬送ガイド53b~53dの位置関係をより詳細に示す。なお、図7では、理解を容易にするために、搬送ローラ対52b,52cの図示を省略している。図7において破線の矢印で示すように、熱膨張性シート10は、搬送ガイド53b~53dに沿った搬送経路を搬送される。
具体的に説明すると、搬送ガイド53b,53cは、それぞれ上側部と下側部とを備えており、その上側部と下側部とで熱膨張性シート10の搬送経路を形成している。また、搬送ガイド53b,53cの間に設置された搬送ガイド53dは、その上側の面によって熱膨張性シート10の搬送経路を形成している。熱膨張性シート10は、搬送ローラ対52a~52cによって搬送されることにより、搬送ガイド53bの上側部と下側部との間、搬送ガイド53d上側、及び搬送ガイド53cの上側部と下側部との間をこの順に搬送される。
搬送ガイド53bによる搬送経路の途中には、入口センサ54が設置されている。入口センサ54は、熱膨張性シート10が搬送ガイド53bを搬送されているか否かを検知する。入口センサ54は、一例として、搬送ガイド53bの搬送経路を挟むように発光部と受光部とを備える。そして、入口センサ54は、発光部から発せられた光が熱膨張性シート10によって遮られずに受光部により受光されたか否かによって、搬送ガイド53bを搬送される熱膨張性シート10の有無を検知する。
搬送ガイド53cによる搬送経路の途中には、出口センサ55が設置されている。出口センサ55は、熱膨張性シート10が搬送ガイド53cを搬送されているか否かを検知する。出口センサ55は、一例として、搬送ガイド53cの搬送経路を挟むように発光部と受光部とを備える。そして、出口センサ55は、発光部から発せられた光が熱膨張性シート10によって遮られずに受光部により受光されたか否かによって、搬送ガイド53cを搬送される熱膨張性シート10の有無を検知する。
搬送ガイド53dは、熱膨張性シート10の搬送経路を挟んで照射部60と対向する位置に設置されている。熱膨張性シート10は、搬送ガイド53dの上側を搬送されながら、照射部60により照射された電磁波を受ける。図8(a)に、搬送ガイド53dを上(Z方向)から見た様子を示す。また、図8(b)に、図8(a)において破線の矢印で示した搬送経路上における搬送ガイド53dの断面を示す。
図8(a)に示すように、搬送ガイド53dにおいて、熱膨張性シート10の搬送経路である上面72の中央部には、矩形状の開口74が設けられている。開口74が設けられた位置は、照射部60の真下の位置に相当する。開口74は、熱膨張性シート10に電磁波が照射される際に発生する熱を逃がすためのものである。熱膨張性シート10から発生した熱は、開口74を通って排気ファン64に到達し、排気ファン64から筐体51の外部に排出される。
図8(b)に示すように、上面72における搬送経路の下流側には、傾斜がつけられた傾斜面73が設けられている。傾斜面73には、熱膨張性シート10が開口74の上を跨いで円滑に搬送されることができるように、搬送経路の上流側から下流側に向けて上がる傾斜が形成されている。
また、図8(b)に示すように、搬送ガイド53dには、取っ手75及び回転軸76が設けられている。取っ手75及び回転軸76は、搬送ガイド53dを開閉させるための機構である。搬送ガイド53dは、ユーザが取っ手75に手をかけて下向きに力を加えると、回転軸76を回転の中心として実線の矢印の向きに動くことで、開閉する。これにより、搬送中の熱膨張性シート10がシート詰まりを起こした場合に、熱膨張性シート10を筐体51の内部から手動で取り出すことが可能になる。
搬送ガイド53dには、結露抑制部材70と断熱部材71とが設けられている。結露抑制部材70及び断熱部材71は、照射部60からの電磁波の照射によって熱膨張性シート10から生じる水分が搬送ガイド53dに結露することを抑制する部材である。
具体的に説明すると、(1)熱膨張性シート10の表側から電磁波を照射させて熱膨張性シート10を膨張させる表発泡工程と、(2)熱膨張性シート10の表面に印刷されたカラーインクを乾燥させる乾燥工程と、のそれぞれで、熱膨張性シート10の内部に含まれる水分が空気中に放出される。
第1に、図9に、表発泡工程において搬送される熱膨張性シート10に電磁波が照射される様子を示す。表発泡工程では、図9に示すように、熱膨張性シート10は、その表面に電磁波を熱に変換する変換層14が印刷された状態で、表面を照射部60に向けて、すなわち基材11の面を下側に向けて、搬送経路を搬送される。この状態で照射部60により電磁波が照射されると、熱膨張性シート10の表面に印刷された変換層14が加熱され、その結果として熱膨張層12のうちの変換層14が印刷された部分が膨張する。
基材11は、その種類にもよっても変わるが、熱膨張性シート10が保管されている間に空気中の水分を吸収して湿る性質がある。そのため、変換層14が電磁波を照射されて加熱されると、基材11に含まれる水分が蒸発する。蒸発した水分は、加熱された熱膨張性シート10に比べて低温な搬送ガイド53c,53dに結露することで、搬送ガイド53c,53dの表面に水滴が付着する。
第2に、図10に、乾燥工程において搬送される熱膨張性シート10に電磁波が照射される様子を示す。なお、図10では、理解を容易にするため、表発泡工程において使用された変換層14の図示は省略されている。乾燥工程では、図10に示すように、熱膨張性シート10は、その表面に少なくとも一色のインクでカラーインク層15が印刷された状態で、表面を照射部60とは反対側に向けて、すなわち基材11の面を上側に向けて、搬送経路を搬送される。この状態で照射部60により電磁波が照射されると、熱膨張性シート10の表面に印刷されたカラーインク層15におけるインクの水分が蒸発する。これにより、カラーインク層15が印刷された熱膨張性シート10の表面が乾燥する。
カラーインク層15の水分が蒸発すると、蒸発した水分は、表発泡工程と同様に、熱膨張性シート10に比べて低温な搬送ガイド53c,53dに結露することで、搬送ガイド53c,53dの表面に水滴が付着する。
このように、表発泡工程及び乾燥工程において搬送ガイド53c,53dに結露した水滴が、搬送ガイド53c,53dを搬送される熱膨張性シート10に付着すると、熱膨張性シート10を汚す、損傷させる等のように、熱膨張性シート10を損ねる結果につながる。その結果として、熱膨張性シート10に所望の造形物を安定して製造することが難しくなる。
そこで、結露の発生を抑制するため、照射装置50は、熱膨張性シート10が搬送される経路の所定の位置に、結露抑制部材70と断熱部材71とを備える。所定の位置は、電磁波を照射された熱膨張性シート10から生じた水分が結露し易い部分である。具体的に、所定の位置は、搬送ガイド53dの上面72における搬出部50bの側、すなわち搬送経路の下流側の縁部において、傾斜面73が設けられた部分である。図8(a)に示すように、結露抑制部材70は、傾斜面73において、その長辺が熱膨張性シート10の搬送方向に垂直な方向(X方向)に沿うように配置される。
結露抑制部材70は、シリコーン樹脂製のフィルム状の部材である。結露抑制部材70がシリコーン樹脂製である理由は、シリコーン樹脂が有する熱伝導性、耐熱性等の熱に対する性質を利用するためである。
具体的に説明すると、シリコーン樹脂は、金属製の搬送ガイド53a~53dに比べて電磁波に対する反射性が低いため、照射部60により電磁波が照射された際に温度が上昇し易い。また、結露抑制部材70は薄いフィルム状をしておりその質量が小さいため、結露抑制部材70の熱容量は、搬送ガイド53a~53dの熱容量に比べて小さい。そのため、結露抑制部材70は、搬送ガイド53a~53dに比べて、熱膨張性シート10の加熱に伴って温度が上昇し易い。
例えば、表発泡工程において、熱膨張性シート10が膨張を開始する温度である80℃から120℃程度に加熱された場合、結露抑制部材70の温度は、熱膨張性シート10の加熱に伴って50℃程度に上昇する。また、乾燥工程においても、熱膨張性シート10の加熱に伴って、結露抑制部材70の温度は上昇する。
一方で、シリコーン樹脂の熱伝導率は金属の熱伝導率に比べて相対的に低く、またシリコーン樹脂の比熱は金属の比熱に比べて相対的に高い。そのため、結露抑制部材70は、搬送ガイド53dに比べて低い熱伝導性を有する。その結果として、結露抑制部材70の温度は、金属よりも緩やかに変化する。言い換えると、結露抑制部材70の温度は、電磁波の照射時に一旦上昇すると、低温に下がらずに高温の状態のままで維持され易い。
このように、結露抑制部材70の温度は、照射部60により熱膨張性シート10に電磁波が照射された際に、搬送ガイド53dの温度よりも高くなる。そして、照射部60により電磁波が照射されている間、結露抑制部材70の温度は、搬送ガイド53dの温度よりも高い状態で長時間持続し易い。そのため、結露抑制部材70と熱膨張性シート10との間での温度差は、搬送ガイド53dと熱膨張性シート10との間での温度差よりも小さくなる。その結果として、熱膨張性シート10の加熱に伴って基材11又はカラーインク層15から空気中に放出された水分は、結露抑制部材70には結露し難くなる。
搬送ガイド53dは、照射部60によって電磁波が照射される位置に設置されており、照射部60との距離が近いため、電磁波の照射によって熱膨張性シート10から生じた水分が付着し易い。特に、搬送ガイド53dにおける搬出部50bの側の傾斜面73が設けられた縁部は、電磁波が照射された直後の状態の熱膨張性シート10が通過するため、他の部分に比べて結露が生じ易くなる。結露が生じた傾斜面73上を熱膨張性シート10が通過すると、傾斜面73に結露した水滴が熱膨張性シート10の下側の面に付着する。このように結露が生じやすい部分である傾斜面73に結露抑制部材70を設けることで、結露の発生を効果的に抑制することができ、それに起因する熱膨張性シート10の汚染や損傷を防止することができる。
また、シリコーン樹脂は、熱膨張層12が膨張を開始する温度である80℃から120℃程度の温度に対して優れた耐熱性を有する。そのため、照射部60によって熱膨張性シート10に電磁波が照射され、熱膨張性シート10が膨張を開始する温度にまで加熱された場合であっても、結露抑制部材70は、軟化、変形等をすることなく、安定した状態に保たれる。
結露抑制部材70と搬送ガイド53dとの間には、図8(b)に示すように、断熱部材71が設けられている。断熱部材71は、結露抑制部材70と搬送ガイド53dとの間での熱移動を遮断するための部材である。断熱部材71は、ポリイミド樹脂(例えばカプトン(登録商標))等の低い熱伝導性を有する材質によって形成された、フィルム状の部材である。
断熱部材71は、結露抑制部材70と同様に、搬送ガイド53dの傾斜面73が設けられた側の縁部において、その長辺が熱膨張性シート10の搬送方向に垂直な方向(X方向)に沿うように設けられている。結露抑制部材70は、搬送ガイド53dと直接接触しないように、断熱部材71の上から貼付されることで設置されている。
断熱部材71が設けられていることにより、熱膨張性シート10の加熱によって温度が上がった結露抑制部材70から相対的に温度が低い搬送ガイド53dに熱が逃げることが抑制される。そのため、結露抑制部材70は、一旦温められると暫くの間、温度が高い状態を維持することができる。その結果として、結露の発生をより効果的に抑制することができる。
図6に示した照射装置50の構成の説明に戻る。照射装置50は、搬入部50aにおいて、バーコードリーダ65とリフレクタ66とを備える。また、照射装置50は、搬送ガイド53cの下側部に、乾燥ファン67を備える。
バーコードリーダ65は、熱膨張性シート10の裏面に付されたバーコードBを読み取る読み取り手段として機能する。リフレクタ66は、光を反射するミラーであって、バーコードリーダ65に対して熱膨張性シート10の搬送経路を挟んで反対側に設置されている。
バーコードリーダ65は、搬入部50aにセットされた熱膨張性シート10の前端部がバーコードリーダ65の位置に達すると、そこに付されたバーコードBを読み取る。具体的に説明すると、表面が上側を向いて熱膨張性シート10が照射装置50に挿入された場合、バーコードリーダ65は、熱膨張性シート10の裏面に付されたバーコードBを、リフレクタ66を介さずに読み取る。これに対して、裏面が上側を向いて熱膨張性シート10が照射装置50に挿入された場合、バーコードリーダ65は、熱膨張性シート10の裏面に付されたバーコードBを、リフレクタ66を介して読み取る。
照射装置50は、バーコードリーダ65によってバーコードBを読み取ることができたか否かに応じて、搬入部50aにセットされた媒体が、熱膨張性シート10であるか否か(照射装置50で使用可能か否か)を識別する。これは、造形物を製造するための専用のシートではない媒体が照射装置50に搬入されると、照射装置50が正常に動作しない可能性があるためである。
また、バーコードBは、熱膨張性シート10のサイズが第1のサイズであるか第2のサイズであるかというサイズ情報、熱膨張性シート10の厚み、基材11の種類等の情報を含んでいる。照射装置50は、バーコードリーダ65によってバーコードBを読み取ることにより、熱膨張性シート10のサイズ、厚み及び種類を識別する。
乾燥ファン67は、照射部60によって電磁波が照射された後の熱膨張性シート10が搬送される搬送ガイド53cを乾燥させるためのファンである。乾燥ファン67は、搬送ローラ対52a~52cにより熱膨張性シート10が搬送されている際に、搬送ガイド53cに向けて送風する。
搬送ガイド53b,53cの上側部と下側部とのそれぞれには、図示を省略するが、通気性を高めるため、多数の開口が設けられている。乾燥ファン67は、搬送ガイド53c及びそこを搬送される熱膨張性シート10に向けて送風することにより、水分を蒸発させ、水滴を吹き飛ばす。これにより、乾燥ファン67は、搬送ガイド53cへの結露、及び熱膨張性シート10への水分の付着を抑制する。このように、結露抑制部材70によって搬送ガイド53dでの結露を抑制するだけでなく、乾燥ファン67によって搬送ガイド53cを乾燥させることによって、熱膨張性シート10に水分が付着することをより効果的に防止することができる。
<造形物の製造処理>
次に、図11に示すフローチャート及び図12(a)~(e)に示す熱膨張性シート10の断面図を参照して、造形システム1において実行される造形物の製造処理の流れについて説明する。
第1に、ユーザは、造形物が製造される前の熱膨張性シート10を準備し、操作ユニットを介して、カラー画像データ、表発泡データ及び裏発泡データを指定する。そして、ユーザは、熱膨張性シート10を、その表面を上側に向けて印刷装置40に挿入する。印刷装置40は、挿入された熱膨張性シート10の表面に変換層14を印刷する(ステップS1)。変換層14は、電磁波を熱に変換する材料を含むインク、例えばカーボンブラックを含む黒色インクで形成された層である。印刷装置40は、指定された表発泡データに従って、熱膨張性シート10の表面に、カーボンブラックを含む黒色インクを吐出する。その結果、図12(a)に示すように、インク受容層13上に変換層14が形成される。
第2に、ユーザは、変換層14が印刷された熱膨張性シート10を、その表面を上側に向けて照射装置50に挿入する。照射装置50は、挿入された熱膨張性シート10に対して表発泡工程を実施する(ステップS2)。具体的に説明すると、照射装置50は、照射部60によって熱膨張性シート10の表面に電磁波を照射する。熱膨張性シート10の表面に印刷された変換層14に含まれる熱変換材料は、照射された電磁波を吸収することによって発熱する。その結果、変換層14が発熱し、図12(b)に示すように、熱膨張性シート10の熱膨張層12のうちの変換層14が印刷された領域が膨張し、盛り上がる。
第3に、熱膨張層12の一部が膨張した熱膨張性シート10を、その表面を上側に向けて印刷装置40に挿入する。印刷装置40は、挿入された熱膨張性シート10の表面にカラーインク層15を印刷する(ステップS3)。具体的には、印刷装置40は、指定されたカラー画像データに従って、熱膨張性シート10の表面に、シアンC、マゼンタM及びイエローYの各インクを吐出する。その結果、図12(c)に示すように、インク受容層13上にカラーインク層15が形成される。
第4に、ユーザは、カラーインク層15が印刷された熱膨張性シート10を、その裏面を上側に向けて照射装置50に挿入する。照射装置50は、挿入された熱膨張性シート10に対して乾燥工程を実施する(ステップS4)。具体的に説明すると、照射装置50は、照射部60によって熱膨張性シート10を裏面に電磁波を照射する。これにより、熱膨張性シート10の表面に印刷されたカラーインク層15中に含まれる溶媒を揮発させ、カラーインク層15を乾燥させる。
第5に、ユーザは、カラーインク層15が印刷された熱膨張性シート10を、その裏面を上側に向けて印刷装置40に挿入する。印刷装置40は、挿入された熱膨張性シート10の裏面に変換層16を印刷する(ステップS5)。変換層16は、熱膨張性シート10の表面に印刷された変換層14と同様に、電磁波を熱に変換する材料、具体的にはカーボンブラックを含む黒色インクで形成された層である。印刷装置40は、指定された裏発泡データに従って、熱膨張性シート10の裏面に、カーボンブラックを含む黒色インクを吐出する。その結果、図12(d)に示すように、基材11の裏面に変換層16が形成される。
第6に、ユーザは、変換層16が印刷された熱膨張性シート10を、その裏面を上側に向けて照射装置50に挿入する。照射装置50は、挿入された熱膨張性シート10に対して裏発泡工程を実施する(ステップS6)。具体的に説明すると、照射装置50は、照射部60によって熱膨張性シート10の裏面に電磁波を照射する。熱膨張性シート10の裏面に印刷された変換層16は、照射された電磁波を吸収することによって発熱する。その結果、図12(e)に示すように、熱膨張性シート10の熱膨張層12のうち、変換層16が印刷された領域が膨張し、盛り上がる。
以上のような手順によって、熱膨張性シート10の表面上に造形物が形成される。
なお、図12(a)~(e)では、理解を容易とするため、インク受容層13上に変換層14が形成されているように図示しているが、より正確にはインクはインク受容層13中に受容されているため、インク受容層13中に変換層14が形成される。カラーインク層15及び裏側の変換層16についても同様である。
変換層14,16は表側のみ又は裏側のみに形成されてもよい。表側の変換層14のみを利用して熱膨張層12を膨張させる場合、上記の処理のうちステップS1~S4を実施する。一方、裏側の変換層16のみを利用して熱膨張層12を膨張させる場合、上記の処理のうち、ステップS3~S6を実施する。また、ステップS5,S6における裏発泡工程を、ステップS1,S2における表発泡工程よりも前に実施しても良いし、ステップS3,S4におけるカラーインク層15の印刷及び乾燥工程を、ステップS1,S2における表発泡工程よりも前に実施しても良い。或いは、ステップS1における表側の変換層14の印刷と、ステップS3におけるカラーインク層15の印刷を実施した後で、ステップS2における表発泡工程を実施しても良い。このように、上記ステップS1~S6の順番を様々に入れ替えて実施しても良い。
以上説明したように、本実施形態に係る照射装置50は、搬送ガイド53a~53dを搬送される熱膨張性シート10に電磁波を照射することによって熱膨張性シート10を膨張させる装置であって、搬送ガイド53dにシリコーン樹脂製の結露抑制部材70が設けられている。このような構成によって、照射部60による電磁波の照射によって熱膨張性シート10が加熱された際に、結露抑制部材70が設けられた部分の温度を、搬送ガイド53dのその他の部分に比べて高めることができる。そのため、熱膨張性シート10から生じた水分が搬送ガイド53dに結露することを抑制できる。その結果として、搬送ガイド53dに結露した水分が熱膨張性シート10に付着して熱膨張性シート10が損なわれることを効果的に防止することができる。
特に、本実施形態に係る照射装置50は、照射部60によって電磁波が照射された際における熱膨張性シート10の熱を利用して結露抑制部材70の温度を上げて、結露を抑制する。ここで、結露を抑制するためには、例えばヒータで搬送ガイド53dを温めて熱膨張性シート10と搬送ガイド53dとの間の温度差を小さくする方法も考えられる。しかしながら、ヒータを設置すると照射装置50の構成が複雑化し、コストが増大する。本実施形態に係る照射装置50によれば、ヒータ等の別の加熱手段を新たに設置する必要が無い。そのため、結露の抑制を簡易な構成で実現することができる。
(変形例)
以上に本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は一例であり、本発明の適用範囲はこれに限られない。すなわち、本発明の実施形態は種々の応用が可能であり、あらゆる実施の形態が本発明の範囲に含まれる。
例えば、上記実施形態では、結露抑制部材70は、シリコーン樹脂製であった。しかしながら、本発明において、結露抑制部材70の材質は、シリコーン樹脂以外の樹脂であっても良いし、樹脂以外の素材であっても良い。言い換えると、結露抑制部材70の材質は、熱膨張層12が膨張を開始する温度である80℃から120℃程度の温度に対して耐熱性を有し、且つ、結露を抑制するために、電磁波の照射時に搬送ガイド53dよりも温度が高くなる特性を有するものであれば、どのような材質であっても良い。
また、断熱部材71の材質は、ポリイミド樹脂に限らず、結露抑制部材70と搬送ガイド53dとの間での熱の移動を抑制することができるものであれば、どのようなものであっても良い。
上記実施形態では、結露抑制部材70は、熱膨張性シート10の搬送経路を挟んで照射部60と対向する位置に設置された搬送ガイド53dの縁部に設けられていた。しかしながら、結露が発生し易い部分は、搬送ガイド53a~53dの構造を含む照射装置50の構成によっても変わる。そのため、本発明において、結露抑制部材70は、照射部60により電磁波が照射された熱膨張性シート10が搬送される経路において、結露が発生し易い部分であれば、どの位置に設けられていても良い。例えば、結露抑制部材70は、搬送ガイド53dの縁部に代えて、搬送ガイド53dよりも搬出部50bの側に設置された搬送ガイド53cに設けられても良い。
上記実施形態では、熱膨張性シート10は、基材11と熱膨張層12とインク受容層13とを備えていた。しかしながら、本発明において、熱膨張性シート10の構成はこれに限らない。例えば、熱膨張性シート10は、インク受容層13を備えなくても良い。或いは、熱膨張性シート10は、基材11と熱膨張層12との間、熱膨張層12とインク受容層13との間、インク受容層13の表面、又は基材11の裏面に、他の任意の材料による層を備えていても良い。
上記実施形態では、印刷装置40と照射装置50とは、一体となって1つの造形システム1を構成しており、それぞれ共通の制御ユニット30によって制御されて動作した。しかしながら、本発明に係る造形システム1において、印刷装置40と照射装置50とは、それぞれ独立した装置であっても良い。印刷装置40と照射装置50とが独立した装置である場合、印刷装置40と照射装置50とは、制御ユニット30及び表示ユニット35に相当する機能をそれぞれ個別に備えていても良い。
印刷装置40の印刷方式は、インクジェット方式に限らず、任意の印刷方式であっても良い。変換層14,16は、電磁波を熱に変換しやすい材料であれば、カーボンブラックを含む黒インク以外の材料によって形成されても良い。この場合、変換層14,16は、印刷装置40以外の手段によって形成されるものであっても良い。
上記実施形態では、照射装置50は、加熱により膨張する熱膨張性シート10に対して電磁波を照射することで、発泡及び乾燥工程を実施した。しかしながら、本発明において、照射装置50において電磁波が照射されるシートは、熱膨張性シート10に限らず、任意の種類のシートであっても良い。熱膨張性シート10以外のシートであっても、電磁波が照射されることにより、シートの内部又は表面に含まれる水分が空気中に放出され、結露が生じることがある。そのため、搬送ガイド53dに結露抑制部材70が設けられることにより、結露により生じた水分がシートに付着してシートが損なわれることを抑制することができる。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明には、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲とが含まれる。以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
(付記1)
シートに電磁波を照射する照射部と、
前記照射部により前記電磁波が照射された前記シートを搬出部に導く搬送ガイドと、
前記搬送ガイドにより前記シートが搬送される搬送経路の所定の位置に設けられた部材であって、前記照射部による前記電磁波の照射によって前記シートから生じる水分が前記搬送ガイドに結露することを抑制する結露抑制部材と、
を備えることを特徴とする照射装置。
(付記2)
前記結露抑制部材の温度は、前記照射部により前記シートに前記電磁波が照射された際に、前記搬送ガイドの温度よりも高くなる、
ことを特徴とする付記1に記載の照射装置。
(付記3)
前記結露抑制部材は、前記搬送ガイドよりも低い熱伝導性を有する、
ことを特徴とする付記1又は2に記載の照射装置。
(付記4)
前記結露抑制部材は、シリコーン樹脂製であり、
前記搬送ガイドは、金属製である、
ことを特徴とする付記1から3のいずれか1つに記載の照射装置。
(付記5)
前記結露抑制部材と前記搬送ガイドとの間に断熱部材を更に備える、
ことを特徴とする付記1から4のいずれか1つに記載の照射装置。
(付記6)
前記搬送ガイドは、前記搬送経路を挟んで前記照射部と対向する位置に設置されており、
前記所定の位置は、前記搬送ガイドにおける前記搬出部の側の縁部である、
ことを特徴とする付記1から5のいずれか1つに記載の照射装置。
(付記7)
前記シートは、加熱により膨張する熱膨張性シートであり、
前記シートの表面に電磁波を熱に変換する変換層が印刷された状態で、前記シートが前記表面を前記照射部に向けて前記搬送経路を搬送される場合、前記照射部は、前記シートに電磁波を照射することにより前記シートを膨張させる、
ことを特徴とする付記1から6のいずれか1つに記載の照射装置。
(付記8)
前記結露抑制部材は、前記照射部による電磁波を照射によって前記熱膨張性シートが膨張を開始する温度に対して耐熱性を有する、
ことを特徴とする付記7に記載の照射装置。
(付記9)
前記シートの表面に少なくとも1色のインクでカラーインク層が印刷された状態で、前記シートが前記表面を前記照射部とは反対側に向けて前記搬送経路を搬送される場合、前記照射部は、前記シートに電磁波を照射することにより前記カラーインク層を乾燥させる、
ことを特徴とする付記7又は8に記載の照射装置。
(付記10)
付記7から9のいずれか1つに記載の照射装置と、
前記変換層を前記シートに印刷する印刷装置と、
を備えることを特徴とする造形システム。