以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図中同一又は相当する部分には同一符号を付す。
<熱膨張性シート10>
図1に、本実施形態に係る造形物を造形するための熱膨張性シート10の断面構成を示す。熱膨張性シート10は、予め選択された部分が加熱により膨張することによって造形物が造形される媒体である。造形物とは、立体的な形状を有する物体であって、2次元状のシートにおいて、シートのうちの一部分がシートに垂直な方向に膨張することによって造形される。造形物は、立体物又は立体画像とも言う。造形物の形状は、単純な形状、幾何学形状、文字等の形状一般を含む。
図1に示すように、熱膨張性シート10は、基材11と、熱膨張層12と、インク受容層13と、剥離層17とを、この順に備えている。なお、図1は、造形物が造形される前、すなわちどの部分も膨張していない状態における熱膨張性シート10の断面を示している。
基材11は、熱膨張性シート10の元となるシート状の媒体である。基材11は、熱膨張層12とインク受容層13とを支持する支持体であって、熱膨張性シート10の強度を保持する役割を担う。基材11として、例えば、一般的な印刷用紙を用いることができる。或いは、基材11の材質は、合成紙、キャンバス地等の布、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のプラスチックフィルムであっても良く、特に限定されるものではない。
熱膨張層12は、基材11の上側に積層されており、規定の温度以上に加熱されることによって膨張する層である。熱膨張層12は、バインダと、バインダ内に分散配置された熱膨張剤と、を含む。バインダは、酢酸ビニル系ポリマー、アクリル系ポリマー等の熱可塑性樹脂である。熱膨張剤は、具体的には、プロパン、ブタン等の低沸点で気化する物質を、熱可塑性樹脂の外殻に内包した、粒径が約5〜50μmの熱膨張性のマイクロカプセル(マイクロパウダー)である。熱膨張剤は、例えば80℃から120℃程度の温度に加熱されると、内包している物質が気化し、その圧力によって発泡及び膨張する。このようにして、熱膨張層12は、吸収した熱量に応じて膨張する。熱膨張剤は、発泡剤とも呼ぶ。
インク受容層13は、熱膨張層12の上側に積層された、インクを吸収して受容する層である。インク受容層13は、インクジェット方式のプリンタに用いられる印刷用のインク、レーザー方式のプリンタに用いられる印刷用のトナー、ボールペン又は万年筆のインク、鉛筆の黒鉛等を受容する。インク受容層13は、これらを表面に定着させるための好適な材料によって形成される。インク受容層13の材料として、例えば、インクジェット用紙に用いられている汎用的な材料を用いることができる。
剥離層17は、熱膨張層12及びインク受容層13の上側に積層された、剥離可能に設けられた層である。剥離層17は、樹脂製のフィルムであって、インク受容層13に対して剥離可能に接着されている。樹脂としては、エチレンービニルアルコール共重合体等、汎用されている材料を任意に使用することができる。剥離層17は、ラミネート層、剥離フィルム等とも呼ぶことができる。
図2に、熱膨張性シート10の表面を示す。熱膨張性シート10の表面は、熱膨張性シート10の基材11側とは逆側の面であって、剥離層17の表面に相当する。すなわち、熱膨張性シート10の表面は、熱膨張層12が膨張して隆起する側の面である。これに対して、熱膨張性シート10の裏面は、熱膨張性シート10の基材11側の面に相当する。
図2に示すように、熱膨張性シート10の四隅のうちの1つには、切り欠き21が設けられている。言い換えると、熱膨張性シート10は、隅部において、その隅部を挟む2辺に対して端部(エッジ)がほぼ45度となる三角形の切り欠き形状を有する。切り欠き21は、熱膨張性シート10が所望のサイズに断裁される際に、四隅のうちの1つが基材11から剥離層17までの全ての層に亘って切り落とされることで形成される。このような切り欠き21は、熱膨張性シート10を印刷装置40及び膨張装置50に挿入する際に熱膨張性シート10の向きを識別するための識別子としての機能を有する。
熱膨張性シート10における切り欠き21が設けられた部分には、切れ込み22及び剥離用画像23が形成されている。切れ込み22及び剥離用画像23は、造形システム1において熱膨張層12が膨張した後で、熱膨張性シート10から剥離層17を剥離し易くする、すなわち剥離層17の剥離を補助するための機能を有する。
図3に、図2に示した熱膨張性シート10における破線で示した部分、すなわち切り欠き21が設けられた四隅のうちの1つを拡大して示す。図3に示すように、切れ込み22は、熱膨張性シート10のエッジから内側に向けて直線状に設けられた切れ目である。切れ込み22は、ユーザが指を掛け易いように、例えば数mmから数cm程度の長さに設けられている。切れ込み22は、切れ込み22が入れられた部分から剥離層17を剥がし易くするために、切り欠き21のエッジに対して垂直に設けられている。
切れ込み22は、剥離層17をインク受容層13の表面から剥離するために設けられているため、剥離層17のみに入れられており、基材11、熱膨張層12及びインク受容層13には切れ込み22は入れられていない。具体的に説明すると、切れ込み22は、インク受容層13の上に剥離層17を貼り合わせた後、剥離層17だけ切れるようにハーフカットされて形成される。
剥離用画像23は、熱膨張性シート10から剥離層17を剥離するために設けられた画像である。剥離用画像23は、剥離層17の剥離を補助するための凹凸パターンを、熱膨張層12の熱膨張により熱膨張層12の表面に形成するためのパターンであって、切れ込み22に対応する位置に設けられている。具体的に説明すると、剥離用画像23は、規定のサイズの円形状をしており、熱膨張性シート10における切り欠き21が設けられた隅部において、切れ込み22と重なる位置に設けられている。言い換えると、剥離用画像23が印刷された領域を切断するように切れ込み22が設けられている。
剥離用画像23は、造形システム1において電磁波が照射されることにより発熱する材料で予め印刷されている。電磁波が照射されることにより発熱する材料とは、具体的には、カーボン分子を含むインクである。カーボン分子は、黒色(カーボンブラック)又は他の色のインクに含まれ、電磁波を吸収して熱振動することで熱を発生するため、電磁波を吸収して熱に変換する電磁波熱変換材料(発熱剤)の一種として用いられる。剥離用画像23が発熱すると、熱膨張層12の熱膨張により、熱膨張層12の表面における剥離用画像23が設けられた部分が膨張して隆起する。このような隆起により、熱膨張層12の表面の一部に段差が設けられる。このとき、剥離用画像23は切れ込み22に対応する位置に設けられているため、熱膨張層12の表面における少なくとも切れ込み22に沿った部分が盛り上がる。これにより、剥離用画像23に重ねて形成された切れ込み22が開くように力が働くため、ユーザが切れ込み22に指を掛け易くなり、剥離層17を剥がし易くなる。
造形システム1は、このような熱膨張性シート10に造形物を造形することができる。熱膨張性シート10の表面又は裏面のうちの膨張させたい部分には、カーボン分子が印刷される。カーボン分子は、上述したように、電磁波を吸収して熱に変換する電磁波熱変換材料(発熱剤)の一種である。熱膨張性シート10において、カーボン分子が印刷された部分が加熱されると、その部分の熱膨張層12が膨張して隆起(バンプ)が形成される。このような熱膨張層12の隆起(バンプ)によって凸若しくは凹凸形状を造ることにより、熱膨張性シート10に造形物が造形される。
熱膨張性シート10における膨張させる箇所及び高さを組み合わせることにより、多彩な造形物を造形することができる。造形は、造型とも呼ぶ。また、造形(造型)によって視覚又は触覚を通じて美感又は質感を表現することを「加飾(造飾)」と呼ぶ。
<造形システム1>
次に、図4を参照して、熱膨張性シート10に造形物を造形する造形システム1について説明する。図4に示すように、造形システム1は、端末装置30と、印刷装置40と、膨張装置50と、を備える。
端末装置30は、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット等の情報処理装置であって、印刷装置40及び膨張装置50を制御する制御ユニットである。図5に示すように、端末装置30は、制御部31と、記憶部32と、操作部33と、表示部34と、記録媒体駆動部35と、通信部36と、を備える。これら各部は、信号を伝達するためのバスによって接続されている。
制御部31は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備える。制御部31において、CPUが、ROMに記憶されている制御プログラムを読み出して、RAMをワークメモリとして用いながら、端末装置30全体の動作を制御する。
記憶部32は、フラッシュメモリ、ハードディスク等の不揮発性メモリである。記憶部32は、制御部31によって実行されるプログラム又はデータ、及び、印刷装置40によって印刷されるカラー画像データ、表面発泡データ及び裏面発泡データを記憶する。
操作部33は、キーボード、マウス、ボタン、タッチパッド、タッチパネル等の入力装置を備えており、ユーザから操作を受け付ける。ユーザは、操作部33を操作することによって、カラー画像データ、表面発泡データ及び裏面発泡データ編集する操作、印刷装置40又は膨張装置50に対する操作等を入力することができる。
表示部34は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の表示装置と、表示装置に画像を表示させる表示駆動回路と、を備える。例えば、表示部34は、カラー画像データ、表面発泡データ及び裏面発泡データを表示する。また、表示部34は、必要に応じて、印刷装置40又は膨張装置50の現在の状態を示す情報を表示する。
記録媒体駆動部35は、可搬型の記録媒体に記録されているプログラム又はデータを読み出す。可搬型の記録媒体とは、CD(Compact Disc)−ROM、DVD(Digital Versatile Disc)−ROM、USB(Universal Serial Bus)規格のコネクタが備えられているフラッシュメモリ等である。例えば、記録媒体駆動部35は、カラー画像データ、表面発泡データ及び裏面発泡データを、可搬型の記録媒体から読み出して取得する。
通信部36は、印刷装置40及び膨張装置50を含む外部の装置と通信するためのインタフェースを備える。端末装置30は、フレキシブルケーブル、有線LAN(Local Area Network)等の有線、又は、無線LAN、Bluetooth(登録商標)等の無線を介して印刷装置40及び膨張装置50と接続されている。通信部36は、制御部31の制御の下、これらのうちの少なくとも1つの通信規格に従って、印刷装置40及び膨張装置50と通信する。
<印刷装置40>
印刷装置40は、熱膨張性シート10の表面又は裏面に画像を印刷する印刷ユニットである。印刷装置40は、インクを微滴化し、被印刷媒体に対して直接に吹き付ける方式で画像を印刷するインクジェットプリンタである。
図6に、印刷装置40の詳細な構成を示す。図6に示すように、印刷装置40は、熱膨張性シート10が搬送される方向である副走査方向D1(Y方向)に直交する主走査方向D2(X方向)に往復移動可能なキャリッジ41を備える。
キャリッジ41には、印刷を実行する印刷ヘッド42と、インクを収容したインクカートリッジ43(43k,43c,43m,43y)が取り付けられている。インクカートリッジ43k,43c,43m,43yには、それぞれ、ブラックK、シアンC、マゼンタM、及びイエローYの色インクが収容されている。各色のインクは、印刷ヘッド42の対応するノズルから吐出される。
キャリッジ41は、ガイドレール44に滑動自在に支持されており、駆動ベルト45に狭持されている。キャリッジ41は、モータ45mの回転により駆動ベルト45が駆動することで、印刷ヘッド42及びインクカートリッジ43と共に、主走査方向D2に移動する。
フレーム47の下部には、印刷ヘッド42と対向する位置に、プラテン48が設けられている。プラテン48は、主走査方向D2に延在しており、熱膨張性シート10の搬送路の一部を構成している。熱膨張性シート10の搬送路には、給紙ローラ対49a(下のローラは不図示)と排紙ローラ対49b(下のローラは不図示)とが設けられている。給紙ローラ対49aと排紙ローラ対49bとは、プラテン48に支持された熱膨張性シート10を副走査方向D1に搬送する。
印刷装置40は、フレキシブル通信ケーブル46を介して端末装置30と接続されている。端末装置30は、フレキシブル通信ケーブル46を介して、印刷ヘッド42、モータ45m、給紙ローラ対49a及び排紙ローラ対49bを制御する。具体的に説明すると、端末装置30は、給紙ローラ対49a及び排紙ローラ対49bを制御して、熱膨張性シート10を搬送させる。また、端末装置30は、モータ45mを回転させてキャリッジ41を移動させ、印刷ヘッド42を主走査方向D2の適切な位置に搬送させる。
印刷装置40は、端末装置30から画像データを取得し、取得した画像データに基づいて印刷を実行する。具体的に説明すると、印刷装置40は、画像データとして、カラー画像データと表面発泡データと裏面発泡データとを取得する。カラー画像データは、熱膨張性シート10の表面に印刷するカラー画像を示すデータである。印刷装置40は、印刷ヘッド42に、シアンC、マゼンタM及びイエローYの各インクを熱膨張性シート10に向けて噴射させて、カラー画像を印刷する。
表面発泡データは、熱膨張性シート10の表面において発泡及び膨張させる部分を示すデータである。また、裏面発泡データは、熱膨張性シート10の裏面において発泡及び膨張させる部分を示すデータである。印刷装置40は、印刷ヘッド42に、カーボンブラックを含むブラックKの黒色インクを熱膨張性シート10に向けて噴射させて、黒色による濃淡画像(濃淡パターン)を印刷する。カーボンブラックを含む黒色インクは、電磁波を熱に変換する材料の一例である。
図7に、印刷装置40によって熱膨張性シート10の表面に濃淡画像24が印刷された例を示す。印刷装置40は、図7に示すように、表面画像データに従って、熱膨張性シート10における膨張させる部分を示す濃淡画像24(図7の例では星形の図形)を、剥離層17の表面に印刷する。
図7に示す濃淡画像24において、黒色及び灰色が付された部分は、熱膨張性シート10における膨張させる部分を示している。また、濃淡画像24において、色が濃い(輝度が低い)ほど膨張の度合いが大きく、色が薄い(輝度が高い)ほど膨張の度合いが小さいことを示している。言い換えると、濃淡画像24では、造形対象となる造形物の立体形状を熱膨張性シート10上に形成することができるように、熱膨張性シート10のうちのより大きく膨張させる部分により高い濃度で濃淡のパターンが描かれている。
印刷装置40により濃淡画像24が印刷されると、熱膨張性シート10の表面には、剥離用画像23と濃淡画像24という2種類の画像が印刷された状態となる。熱膨張性シート10における剥離用画像23と濃淡画像24とが印刷された部分は、膨張装置50において加熱されることにより、膨張して盛り上がる。剥離用画像23と濃淡画像24とは、熱膨張層12を膨張させるために電磁波を吸収して加熱される材料を用いて剥離層17の表面に印刷された所定のパターンに相当する。以下、膨張装置50における処理について説明する。
<膨張装置50>
膨張装置50は、熱膨張性シート10の表面又は裏面に電磁波を照射し、熱膨張性シート10の表面又は裏面に印刷された濃淡画像を発熱させて、熱膨張性シート10のうちの濃淡画像が印刷された部分を膨張させる膨張ユニットである。
図8に、膨張装置50の構成を模式的に示す。図8において、X方向は、膨張装置50の幅方向に相当し、Y方向は、膨張装置50の長手方向に相当し、Z方向は、鉛直方向に相当する。X方向とY方向とZ方向とは、互いに直交する。
膨張装置50は、照射部60を移動させながら、トレイ53に載置された熱膨張性シート10に向けて照射部60に電磁波を照射させることにより、熱膨張性シート10を膨張させる。照射部60は、第1の位置P1と第2の位置P2との間で往復移動する。第1の位置P1は、照射部60の初期位置(ホームポジション)である。照射部60は、膨張装置50が動作していない時には第1の位置P1で待機している。
膨張装置50は、箱型の筐体51を備える。筐体51の内部は、上側筐体51aと下側筐体51bとの2室に仕切られている。これは、照射部60からの電磁波の照射により上側筐体51a内の温度が上昇した際に、下側筐体51b内の基板等に与える影響を抑制するものである。膨張装置50は、上側筐体51aの内部に、換気部54と、搬送モータ55と、搬送レール56と、照射部60と、トレイ53と、を備える。また、膨張装置50は、下側筐体51bの内部に、電源部69と、制御部70と、を備える。
トレイ53は、熱膨張性シート10を筐体51内の適正な位置に設置するための機構であって、熱膨張性シート10を安定して保持するためのシート保持機構である。トレイ53は、設置された熱膨張性シート10の4辺の縁部を上から押さえることで固定する。トレイ53は、熱膨張性シート10を検出するセンサを備えており、熱膨張性シート10が設置されたか否か、及び、熱膨張性シート10が設置された場合にその熱膨張性シート10のサイズを検出する。
換気部54は、膨張装置50における奥側の端部に設けられており、膨張装置50の内部を換気する。換気部54は、少なくとも1つのファンを備えており、筐体51の内部の空気を外部に排出することで筐体51の内部を換気する。
搬送モータ55は、例えばパルス電力に同期して動作するステッピングモータであって、照射部60をトレイ53に載置された熱膨張性シート10に沿って移動させる。筐体51の内部には、Y方向に、すなわちトレイ53に載置された熱膨張性シート10の表面に平行な方向に搬送レール56が設けられている。照射部60は、搬送レール56に沿って移動することができるように搬送レール56に取り付けられている。照射部60は、搬送モータ55の回転に伴う駆動力を動力源として、熱膨張性シート10との距離を一定に保ちながら、搬送レール56に沿って往復移動する。搬送モータ55は、熱膨張性シート10と照射部60とを相対的に移動させる移動部(移動手段)として機能する。
照射部60は、トレイ53に載置された熱膨張性シート10に向けて電磁波を照射する機構である。図8に示すように、照射部60は、箱型のカバーの内部に、ランプヒータ61と、反射板62と、温度センサ63と、冷却部64と、を備える。
ランプヒータ61は、例えば照射源としてハロゲンランプを備えており、電磁波として、熱膨張性シート10に対して、近赤外領域(波長750〜1400nm)、可視光領域(波長380〜750nm)、又は、中赤外領域(波長1400〜4000nm)の光を照射する。照射部60及びランプヒータ61は、このような波長域の光を照射することにより、熱膨張性シート10にエネルギーを照射する照射手段として機能する。
カーボンブラックを含む黒色インクによる濃淡画像24及び剥離用画像23が印刷された熱膨張性シート10に光(エネルギー)を照射すると、濃淡画像24及び剥離用画像23が印刷された部分では、それ以外の部分に比べて、より効率良く光が熱に変換される。そのため、熱膨張性シート10のうちの濃淡画像24及び剥離用画像23が印刷された部分が主に加熱され、熱膨張剤が膨張を開始する温度に達すると膨張する。照射部60は、搬送モータ55によって搬送されながら光(エネルギー)を照射することにより、熱膨張性シート10を熱膨張させる熱膨張手段として機能する。なお、ランプヒータ61によって照射される光は、電磁波であれば良く、上記波長域の光であることに限らない。
反射板62は、ランプヒータ61の上側を覆うように配置されており、ランプヒータ61から照射された光を熱膨張性シート10に向けて反射する機構である。温度センサ63は、熱電対、サーミスタ等であって、反射板62の温度を測定する。冷却部64は、照射部60に給気するための少なくとも1つのファンを備え、外気を吸入し、吸入した外気を反射板62に送って冷却する。反射板62に送られた外気は、更に下方に流れることで、照射部60及び筐体51の内部が冷却される。
バーコードリーダ65は、熱膨張性シート10の周縁部に設けられた図示しないバーコードを読み取る読取部(読取手段)として機能する。バーコードは、熱膨張性シート10を識別するための識別子であって、熱膨張性シート10が造形物を造形するための専用のシートであることを示す識別子である。バーコードリーダ65は、光を発する光源と光を検知する光学センサとを備え、レーザー方式等の周知の方式でバーコードBを光学的に読み取る。バーコードリーダ65は、照射部60のカバーの外側に取り付けられており、照射部60と共に、トレイ53に載置された熱膨張性シート10に沿って移動する。
電源部69は、電源IC(Integrated Circuit)等を備え、膨張装置50内の各部に必要な電源を作り出して供給する。例えば、換気部54、搬送モータ55、ランプヒータ61及び冷却部64は、電源部69から電力を得て動作する。
制御部70は、筐体51の下部に配置された基板上に設けられている。制御部70は、CPU等のプロセッサと、ROM、RAM等のメモリと、を備えており、命令やデータを転送するための伝送経路であるシステムバスを介して膨張装置50の各部と接続されている。また、制御部70は、いずれも図示しないが、フラッシュメモリ、ハードディスク等の不揮発性メモリと、RTC(Real Time Clock)等の計時デバイスと、端末装置30と通信するための通信インタフェースと、を備える。
制御部70において、CPUが、ROMに記憶されている制御プログラムを読み出して、RAMをワークメモリとして用いながら、膨張装置50全体の動作を制御する。具体的に説明すると、制御部70は、搬送モータ55を制御して、照射部60を指定された向きに指定された移動速度で移動させる。また、制御部70は、照射部60による電磁波を照射のオンとオフとを切り替え、バーコードリーダ65にバーコードを読み取らせる。
図9に、膨張装置50が膨張処理を実行する様子を示す。制御部70は、バーコードリーダ65によってトレイ53に載置された熱膨張性シート10に設けられたバーコードが読み取られた場合、照射部60に電源電圧を供給してランプヒータ61を点灯させる。そして、制御部70は、照射部60に電磁波を照射させている状態で搬送モータ55を駆動させる。これにより、制御部70は、照射部60を、第1の位置P1から第2の位置P2に向けた方向(第1の方向)に、規定の距離だけ移動させる。このように、制御部70は、照射部60を熱膨張性シート10の端から端まで移動させることで、熱膨張性シート10の表面又は裏面に広く電磁波を照射させる。
規定の距離は、熱膨張性シート10のサイズに応じて異なる。例えば、熱膨張性シート10のサイズがA3サイズであれば、規定の距離は、第1の位置P1から第2の位置P2までの距離である。これに対して、熱膨張性シート10のサイズがA4サイズであれば、規定の距離は、第1の位置P1から第2の位置P2までの半分の距離である。
照射部60によって電磁波が照射されると、熱膨張性シート10のうちの、カーボンブラックを含む黒色インクで濃淡画像24及び剥離用画像23が印刷された部分は発熱し、規定の温度にまで加熱されると膨張する。
規定の温度は、熱膨張層12に含まれる熱膨張剤が膨張を開始する温度であって、例えば80℃から120℃程度の温度である。制御部70は、所定の強度で電磁波を照射している照射部60を所定の速度で移動させることによって、熱膨張性シート10のうちの濃淡画像24及び剥離用画像23が印刷された部分を規定の温度以上に加熱する。所定の強度及び所定の速度は、熱膨張性シート10を規定の温度以上に加熱できるように予め設定されている。
このように、制御部70は、搬送モータ55によって照射部60を第1の方向に移動させながら、照射部60に電磁波を照射させることによって、熱膨張性シート10を膨張させる。熱膨張性シート10のうちの濃淡画像24及び剥離用画像23が印刷された部分は、濃度に応じた高さに膨張する。これによって、熱膨張性シート10に所望の造形物が造形される。
膨張処理によって、照射部60は、熱膨張性シート10の第2の位置P2側の端部に到達する。膨張処理を実行した後、制御部70は、図示しないが、照射部60を第2の位置P2から第1の位置P1への方向(第2の方向)に移動させながら、すなわち照射部60をホームポジションに戻しながら、必要に応じて、換気部54による換気処理、又は冷却部64による冷却処理を実行する。具体的に説明すると、制御部70は、換気部54を駆動させて、膨張処理によって加熱された筐体51内の空気を外部に排出する。また、制御部70は、冷却部64を駆動させて、膨張処理によって加熱された照射部60及び熱膨張性シート10を冷却する。
このようにして膨張処理が完了すると、ユーザは、熱膨張性シート10を膨張装置50から取り出す。そして、ユーザは、膨張装置50によって濃淡画像24及び剥離用画像23が印刷された部分が隆起した熱膨張性シート10から、剥離層17を剥がす。
図10に、熱膨張性シート10から剥離層17を剥離する様子を示す。ユーザは、切れ込み22が設けられた部分を、切れ込み22に対して山折りになるように折り曲げる。そして、ユーザは、切れ込み22に指を引っ掛けて、図10に示す矢印の方向に開き、剥離層17を剥がす。このとき、熱膨張性シート10における剥離用画像23が印刷された部分には、膨張装置50において加熱及び膨張されることにより、凸形状25が形成されている。このような凸形状25により、切れ込み22が設けられた部分が盛り上がっているため、ユーザは、テープ等の特別な道具を用いずとも、切れ込み22に少し指を引っ掛けるだけで剥離層17を簡単に剥がすことができる。
図11に、剥離層17が剥離された後の熱膨張性シート10を示す。剥離層17が剥離されると、濃淡画像24及び剥離用画像23が除去され、剥離層17の下からインク受容層13の表面に現れる。図11に示すように、濃淡画像24が印刷されていた部分は、膨張装置50において加熱及び膨張されることにより、濃淡画像24の濃度に応じた高さに盛り上がって立体形状26が形成されている。
このような立体形状26には、インク受容層13の上からカラーインクでカラー画像が印刷される。剥離層17の剥離により濃淡画像24が除去されているため、濃淡画像24の黒色に影響されることなく、自由に立体形状26を彩色することができる。また、熱膨張性シート10は、必要に応じて膨張装置50において裏面から加熱されることにより裏面発泡される。このようにして、造形対象の造形物を得ることができる。なお、剥離用画像23により切り欠き21の部分に形成された凸形状25は、切り落とされる等により適宜除去することができる。
<造形物の製造処理>
以上のように構成された造形システム1において実行される造形物の製造処理の流れについて、図12に示すフローチャート及び図13(a)〜(e)に示す熱膨張性シート10の断面図を参照して説明する。
第1に、ユーザは、造形物が造形される前の熱膨張性シート10を準備し、端末装置30の操作部33を介して、カラー画像データ、表面発泡データ及び裏面発泡データを指定する。そして、熱膨張性シート10を、その表面を上側に向けて印刷装置40に挿入する。印刷装置40は、挿入された熱膨張性シート10の表面に変換層14を印刷する(ステップS1)。変換層14は、電磁波を熱に変換する材料、具体的にはカーボンブラックを含む黒色インクで形成された、電磁波を熱に変換する層である。印刷装置40は、指定された表面発泡データに従って、熱膨張性シート10の表面、すなわち剥離層17の表面に、カーボンブラックを含む黒色インクを吐出する。その結果、図13(a)に示すように、剥離層17上に変換層14が形成され、例えば図7に示した濃淡画像24が印刷される。
第2に、ユーザは、変換層14が印刷された熱膨張性シート10を、その表面を上側に向けて膨張装置50に挿入する。膨張装置50は、挿入された熱膨張性シート10の表面、すなわち剥離層17の表面に照射部60によって電磁波を照射する(ステップS2)。剥離層17の表面に印刷された変換層14は、照射された電磁波を吸収することによって発熱する。このような剥離層17の表面からの加熱によって、図13(b)に示すように、熱膨張層12のうちの変換層14が印刷された部分が盛り上がって膨張する。
第3に、ユーザは、膨張した熱膨張性シート10を膨張装置50から取り出し、剥離層17を剥離する(ステップS3)。その結果、図13(c)に示すように、膨張した状態の熱膨張性シート10から変換層14と剥離層17とが除去され、インク受容層13が表面に現れる。その結果、例えば図11に示した立体形状26及び凸形状25がインク受容層13の表面に露出する。
第4に、ユーザは、表面が加熱されて膨張した熱膨張性シート10を、その表面を上側に向けて印刷装置40に挿入する。印刷装置40は、挿入された熱膨張性シート10の表面にカラーインク層15を印刷する(ステップS4)。具体的に説明すると、印刷装置40は、指定されたカラー画像データに従って、熱膨張性シート10の表面に、シアンC、マゼンタM及びイエローYの各インクを吐出する。その結果、図13(d)に示すように、インク受容層13の上にカラーインク層15が形成され、熱膨張性シート10の表面に彩色が施される。ステップS3において変換層14が除去されているため、変換層14が混ざらない鮮明なカラー画像を印刷することができる。
なお、印刷装置40は、カラーインク層15において黒又はグレーの色の画像を印刷する場合には、シアンC、マゼンタM及びイエローYの3色のインクを混色して形成するか、或いはカーボンブラックを含まない黒色のインクを更に使用することによって形成する。これによって、カラーインク層15が形成された部分が膨張装置50において加熱されることを回避する。
第5に、ユーザは、カラーインク層15が印刷された熱膨張性シート10を裏返して、その裏面を上側に向けて膨張装置50に挿入する。膨張装置50は、挿入された熱膨張性シート10の裏面に照射部60によって電磁波を照射し、熱膨張性シート10を裏面から加熱する。これにより、膨張装置50は、カラーインク層15中に含まれる溶媒を揮発させて、カラーインク層15を乾燥させる(ステップS5)。カラーインク層15を乾燥させることによって、後の工程で熱膨張性シート10を膨張させ易くする。
第6に、ユーザは、カラーインク層15が印刷された熱膨張性シート10を、その裏面を上側に向けて印刷装置40に挿入する。印刷装置40は、挿入された熱膨張性シート10の裏面に変換層16を印刷する(ステップS6)。変換層16は、熱膨張性シート10の表面に印刷された変換層14と同様に、電磁波を熱に変換する材料、具体的にはカーボンブラックを含む黒色インクで形成された層である。印刷装置40は、指定された裏面発泡データに従って、熱膨張性シート10の裏面に、カーボンブラックを含む黒色インクを吐出する。その結果、図13(e)に示すように、基材11の裏面に変換層16が形成される。
第7に、ユーザは、変換層16が印刷された熱膨張性シート10を、その裏面を上側に向けて膨張装置50に挿入する。膨張装置50は、挿入された熱膨張性シート10の裏面に、照射部60によって電磁波を照射する(ステップS7)。熱膨張性シート10の裏面に印刷された変換層16は、照射された電磁波を吸収することによって発熱する。その結果、図13(f)に示すように、熱膨張性シート10のうちの変換層16が印刷された部分が盛り上がって膨張する。
なお、図13(a)〜(f)では、理解を容易にするため、カラーインク層15は、インク受容層13の上に形成されているように示されている。しかしながら、より正確には、カラーインク層15はインク受容層13の内部に吸収されるため、インク受容層13の中に形成される。
以上のように、熱膨張性シート10のうちの変換層14,16が形成された部分が膨張することによって、熱膨張性シート10にカラーの造形物が製造される。変換層14,16は、その濃度が濃い部分ほど大きく加熱されるため、より大きく膨張する。そのため、目標となる高さに応じて変換層14,16の濃淡を調整することで、様々な形状の造形物を製造することができる。
なお、表面発泡のみにより熱膨張性シート10を膨張させる場合には、ステップS6,S7における裏面発泡の処理は省略しても良い。また、ステップS6,S7における裏面発泡の処理を、ステップS5におけるカラー画像の印刷よりも前に実施しても良いし、ステップS1,S2における表面発泡の処理よりも前に実施しても良い。
<熱膨張性シート10の製造方法>
次に、以上のような熱膨張性シート10の製造方法について説明する。図14に、熱膨張性シート10の製造処理の流れを示す。
図14に示す熱膨張性シート10の製造処理において、ユーザは、まず長尺状の基材11を準備する。そして、塗布装置により、長尺状の基材11の表面に熱膨張層12を形成する(ステップS11)。ステップS11は、熱膨張層形成ステップの一例である。
具体的に説明すると、ユーザは、長尺状の基材11をロール状に巻いて、所定の塗布装置に設置する。塗布装置は、バーコータ方式、ロールコータ方式、スプレー方式、スクリーン印刷方式等の公知の方式で塗料を塗布する塗布機構を備え、長尺状の基材11に熱膨張層12等の層を塗布する装置である。塗布装置は、ユーザから塗布開始の操作を受け付けると、ロール状に巻かれて設置された長尺状の基材11を巻き出して搬送する。そして、塗布装置は、搬送される長尺状の基材11の表面に、熱膨張層12の材料を塗布する。
その後、塗布装置は、ワイヤーバー(メイヤーバー)等の均一化部材により、塗布された塗料を基材11の表面上で均一化させる。また、塗布装置は、長尺状のシートを予め規定された距離搬送させて、塗布された塗料を乾燥させる。このようにして、長尺状の基材11の表面に熱膨張層12が形成される。
熱膨張層12を形成すると、塗布装置により、形成された熱膨張層12の表面にインク受容層13を形成する(ステップS12)。ステップS12は、インク受容層形成ステップの一例である。
具体的に説明すると、ユーザは、熱膨張層12が形成された長尺状のシートをロール状に巻いて、所定の塗布装置に設置する。この塗布装置は、熱膨張層12の形成に用いた上記塗布装置と同じであっても良いし、異なっていても良い。塗布装置は、ユーザから塗布開始の操作を受け付けると、ロール状に巻かれて設置された長尺状のシートを巻き出して搬送する。そして、塗布装置は、搬送される長尺状のシートの熱膨張層12の表面に、インク受容層13の材料を塗布する。その後、塗布装置は、均一化部材により塗布された塗料をシートの表面上で均一化させ、シートを予め規定された距離搬送させて塗布された塗料を乾燥させる。このようにして、長尺状のシートの熱膨張層12の表面にインク受容層13が形成される。
インク受容層13を形成すると、塗布装置により、形成されたインク受容層13の表面に剥離層17を形成する(ステップS13)。ステップS13は、剥離層形成ステップの一例である。
具体的に説明すると、ユーザは、インク受容層13が形成された長尺状のシートをロール状に巻いて、所定の塗布装置に設置する。この塗布装置は、熱膨張層12又はインク受容層13の形成に用いた上記塗布装置と同じであっても良いし、異なっていても良い。塗布装置は、ユーザから塗布開始の操作を受け付けると、ロール状に巻かれて設置された長尺状のシートを巻き出して搬送する。そして、塗布装置は、搬送される長尺状のシートのインク受容層13の表面に、剥離層17の材料を塗布する。その後、塗布装置は、均一化部材により塗布された塗料をシートの表面上で均一化させ、シートを予め規定された距離搬送させて塗布された塗料を乾燥させる。このようにして、長尺状のシートのインク受容層13の表面に剥離層17が形成される。
剥離層17を形成すると、断裁装置により、剥離層17が形成された長尺状のシートを断裁する(ステップS14)。ステップS14は、断裁ステップの一例である。
具体的に説明すると、ユーザは、剥離層17が形成された長尺状のシートをロール状に巻いて、所定の断裁装置に設置する。断裁装置は、カッター等の断裁機構を備え、長尺状のシートを指定された位置で指定された向きに断裁する装置である。断裁装置は、ユーザから断裁開始の操作を受け付けると、ロール状に巻かれて設置された長尺状のシートを巻き出して搬送する。そして、断裁装置は、搬送される長尺状のシートの所定の位置を断裁機構により断裁することで、長尺状のシートを、A4サイズ、A3サイズ等のサイズのシートに分断する。これにより、基材11と熱膨張層12とインク受容層13と剥離層17とを有し、所望のサイズに断裁された少なくとも1つのシートが得られる。
シートを断裁すると、断裁装置により、断裁されたシートに切り欠き21及び切れ込み22を形成する(ステップS15)。ステップS15は、切り欠き形成ステップ及び切れ込み形成ステップの一例である。
具体的に説明すると、断裁装置は、所望のサイズに断裁されたシートの四隅のうちの1つを、シートのエッジに対して斜めに断裁することにより、切り欠き21を形成する。このとき、断裁装置は、基材11から剥離層17までの全ての層をフルカットする。更に、断裁装置は、切り欠き21が形成された部分の剥離層17を、切り欠き21のエッジに対して垂直に断裁することにより、切れ込み22を形成する。このとき、断裁装置は、剥離層17以外の層を断裁せずに剥離層17のみを断裁するように、シートをハーフカットする。
切り欠き21及び切れ込み22を形成すると、所定の印刷機構により、形成された切れ込み22の上から剥離用画像23を印刷する(ステップS16)。ステップS16は、印刷ステップの一例である。
所定の印刷機構は、レーザー方式、熱転写方式、インクジェット方式、スクリーン印刷方式等の公知の印刷方式で、断裁装置により断裁されたシートの表面に印刷を実行する機能を有する。具体的に説明すると、印刷機構は、シートの隅部における切れ込み22が形成された部分に、電磁波を熱に変換する材料を用いたインクを円形状(小さな点状)に塗布する。電磁波を熱に変換する材料を用いたインクとは、具体的にはカーボン分子を含む黒色インクである。これにより、図3に示したように、切れ込み22の上に重なるように剥離用画像23が印刷される。
なお、印刷機構は、断裁機構による断裁後のシートに対してすぐに剥離用画像23を印刷できるように、断裁装置に備えられていても良い。或いは、断裁装置とは独立した装置であっても良い。以上により、図14に示した熱膨張性シート10の製造処理は終了する。このような処理によって、図2に示したような、四隅のうちの1つに切り欠き21、切れ込み22及び剥離用画像23が設けられた熱膨張性シート10が得られる。
なお、ステップS16における剥離用画像23の印刷は、ステップS15における切り欠き21を形成する処理、又は切れ込み22を形成する処理の前に実行しても良い。或いは、ステップS14において長尺状のシートを所望のサイズのシートに断裁する前に、剥離用画像23を印刷しても良いし、切れ込み22を形成しても良い。このように、図14に示した熱膨張性シート10の製造処理における各ステップの順番は、適宜入れ替えることができる。
以上説明したように、本実施形態に係る熱膨張性シート10は、加熱により膨張することで造形物を造形することが可能なシートであって、その表面に剥離可能な剥離層17を備える。そして、剥離層17の表面に電磁波を熱に変換する材料で濃淡画像24が印刷され、膨張装置50で加熱及び膨張された後、剥離層17が剥離されることで濃淡画像24を取り除くことができる。その際、剥離層17の隅部に切れ込み22が設けられていることにより、テープ、ローラ等の道具を使わずとも、ユーザが指で引っ掛けることで剥離層17を剥離することができる。そのため、道具を準備して使用する手間をかけずに、簡単に剥離層17を剥離することができる。また、テープを使って剥離層17を剥がすと剥離後の見た目が悪くなり易いが、剥離層17を指で剥がすことで熱膨張性シート10の表面を傷めずに剥がし易くなるため、見た目を損なうことを抑制することができる。
更に、切れ込み22が設けられた部分に剥離用画像23が印刷されていることで、膨張装置50において加熱された際に切れ込み22が設けられた部分が膨張して盛り上がる。これにより、ユーザは、剥離層17を切れ込み22が設けられた部分から開くことでより簡単に剥離することができる。
(変形例)
以上に本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は一例であり、本発明の適用範囲はこれに限られない。すなわち、本発明の実施形態は種々の応用が可能であり、あらゆる実施の形態が本発明の範囲に含まれる。
例えば、上記実施形態に係る熱膨張性シート10には、切れ込み22に重なる位置に円形状の剥離用画像23が設けられていた。しかしながら、本発明において、剥離用画像23は、円形状であることに限らず、任意の形状であって良い。例えば図15に示すように、矩形状の剥離用画像23aが切れ込み22に重なる位置に設けられていても良い。これにより、熱膨張層12が熱膨張した際に、熱膨張層12の表面における切れ込み22に沿った部分を選択的に盛り上げることができる。また、剥離用画像23,23aの大きさは、剥離用画像23,23aにより形成される凸形状25により剥離層17が剥離し易くなるものであれば、どのような大きさであっても良い。
また、本発明において、剥離用画像23は、複数設けられていても良い。例えば図16に示すように、切れ込み22を挟む2つの位置に剥離用画像23bが設けられていても良い。この場合、図14に示したステップS16において、ステップS15で形成された切れ込み22を挟む2つの位置に、剥離用画像23bを印刷する。このように切れ込み22を挟んで両側に剥離用画像23bが設けられていることにより、膨張装置50における加熱によって切れ込み22の両側が盛り上がる。その結果、熱膨張性シート10が膨張した後で、ユーザが切れ込み22を開いて剥離層17を剥離し易くなる。
上記実施形態では、切れ込み22は、熱膨張性シート10の四隅のうちの1つに設けられていた。しかしながら、本発明において、切れ込み22は、熱膨張性シート10の縁部の一部であれば、隅部以外の位置に設けられていても良い。また、切り欠き21は、上記実施形態のように三角形状に限らず、四角状又は円弧状をしていても良い。或いは、熱膨張性シート10に切り欠き21が設けられていなくても良い。切り欠き21が設けられていなくても、熱膨張性シート10の縁部の一部に切れ込み22が設けられていることで、剥離層17を剥離し易くすることが可能である。
また、本発明において、熱膨張性シート10には、予め剥離用画像23が設けられていなくても良い。言い換えると、熱膨張性シート10が製造される際に、熱膨張性シート10に剥離用画像23が印刷されなくても良い。熱膨張性シート10に剥離用画像23が設けられていない場合、剥離用画像23は、印刷装置40によって剥離層17の表面に濃淡画像24が印刷される際に、濃淡画像24と共に印刷されても良い。具体的に説明すると、印刷装置40は、表面発砲データに従って印刷を実行する指示を受けた場合、表面発砲データに加えて、剥離層17の表面における切れ込み22が設けられた部分に剥離用画像23を印刷する。これにより、膨張装置50において、剥離用画像23が印刷された部分が加熱されるため、切れ込み22が設けられた部分が盛り上がって、剥離層17を剥離し易くすることができる。
上記実施形態では、剥離層17は、熱膨張性シート10の表側の面に設けられていた。しかしながら、本発明において、剥離層17は、熱膨張性シート10の裏面に設けられていても良い。剥離層17が裏面に設けられていることによって、剥離層17を剥がすことによって裏面に形成される変換層16を除去することができるため、熱膨張性シート10の裏面を有効に活用することができる。この場合についても、剥離層17を剥離し易くするため、裏面に設けられた剥離層17の縁部に切れ込み22が設けられていても良い。
上記実施形態では、熱膨張性シート10は、基材11と熱膨張層12とインク受容層13と剥離層17とを備えていた。しかしながら、本発明において、熱膨張性シート10の構成はこれに限らない。例えば、熱膨張性シート10は、インク受容層13を備えなくても良い。或いは、熱膨張性シート10は、いずれかの2層の間に他の任意の材料による層を備えていても良い。また、熱膨張性シート10は、剥離層17の表面又は基材11の裏面にもインク受容層13を備えていても良い。剥離層17の表面又は基材11の裏面にもインク受容層13が設けられている場合、そのインク受容層13まで含めて剥離層17又は基材11と呼んでも良い。
上記実施形態では、端末装置30と印刷装置40と膨張装置50とは、それぞれ独立した装置であった。しかしながら、本発明において、端末装置30と印刷装置40と膨張装置50とのうちの少なくともいずれか2つが一体となっていても良い。
上記実施形態では、膨張装置50は、位置が固定された熱膨張性シート10に対して、照射部60を移動させながら光を照射する方式で、熱膨張性シート10を膨張させた。しかしながら、膨張装置50は、熱膨張性シート10を搬送する搬送機構を備えており、搬送される熱膨張性シート10に対して、位置が固定された照射部60から光を照射する方式で、熱膨張性シート10を膨張させても良い。このように、膨張装置50は、どのような方式で熱膨張性シート10を膨張させても良い。
印刷装置40の印刷方式は、インクジェット方式に限らない。例えば、印刷装置40は、レーザー方式のプリンタであって、トナーと現像剤とによって画像を印刷しても良い。また、変換層14,16は、光を熱に変換しやすい材料であれば、カーボンブラックを含む黒インク以外の材料によって形成されても良い。この場合、変換層14,16は、印刷装置40以外の手段によって形成されるものであっても良い。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明には、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲とが含まれる。以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
(付記1)
造形システムにおいて加熱により膨張する熱膨張層と、
前記熱膨張層上に積層され、前記熱膨張層を膨張させるために加熱される材料を用いて、表面に所定のパターンが印刷される、剥離可能な剥離層と、
を備え、
前記剥離層の縁部の一部に、前記剥離層の剥離を補助するための切れ込みが設けられた、
ことを特徴とする熱膨張性シート。
(付記2)
前記所定のパターンとして、前記剥離層の剥離を補助するための凹凸パターンを前記熱膨張層の熱膨張により当該熱膨張層の表面に形成するためのパターンが、前記切れ込みに対応する位置に設けられている、
ことを特徴とする付記1に記載の熱膨張性シート。
(付記3)
前記所定のパターンとして、前記熱膨張層の熱膨張により当該熱膨張層の表面を前記切れ込みに沿って盛り上げるパターンが、前記切れ込みに対応する位置に設けられている、
ことを特徴とする付記1に記載の熱膨張性シート。
(付記4)
前記所定のパターンとして、前記熱膨張層の熱膨張により当該熱膨張層の表面の一部に段差を設けるためのパターンが、前記切れ込みに対応する位置に設けられている、
ことを特徴とする付記1に記載の熱膨張性シート。
(付記5)
前記所定のパターンは、前記剥離層の前記縁部における前記切れ込みと重なる位置に設けられた、
ことを特徴とする付記2から4のいずれか1つに記載の熱膨張性シート。
(付記6)
前記所定のパターンは、前記剥離層の前記縁部における前記切れ込みを挟む2つの位置に設けられた、
ことを特徴とする付記2から4のいずれか1つに記載の熱膨張性シート。
(付記7)
前記熱膨張層及び前記剥離層の前記縁部には、切り欠きが設けられ、
前記切れ込みは、前記切り欠きのエッジに対して垂直に設けられた、
ことを特徴とする付記1から6のいずれか1つに記載の熱膨張性シート。
(付記8)
前記切れ込みは、前記剥離層の四隅のうちの1つに設けられた、
ことを特徴とする付記1から7のいずれか1つに記載の熱膨張性シート。
(付記9)
造形システムにおいて加熱により膨張する熱膨張層を形成する熱膨張層形成ステップと、
前記熱膨張層形成ステップで形成された前記熱膨張層を膨張させるために加熱される材料を用いて、表面に所定のパターンが印刷される、剥離可能な剥離層を形成する剥離層形成ステップと、
前記剥離層形成ステップで形成された前記剥離層の縁部の一部に、前記剥離層の剥離を補助するための切れ込みを形成する切れ込み形成ステップと、
を含むことを特徴とする熱膨張性シートの製造方法。
(付記10)
前記剥離層形成ステップで形成された前記剥離層の前記縁部に、前記材料を用いて、前記所定のパターンとして、前記剥離層の剥離を補助するための凹凸パターンを前記熱膨張層の熱膨張により当該熱膨張層の表面に形成するためのパターンが、前記切れ込みに対応する位置に印刷する印刷ステップ、
を更に含む、
ことを特徴とする付記9に記載の熱膨張性シートの製造方法。
(付記11)
前記印刷ステップでは、前記切れ込み形成ステップで形成された前記切れ込みと重なる位置に、前記所定のパターンを印刷する、
ことを特徴とする付記10に記載の熱膨張性シートの製造方法。
(付記12)
前記印刷ステップでは、前記切れ込み形成ステップで形成された前記切れ込みを挟む2つの位置に、前記所定のパターンを印刷する、
ことを特徴とする付記10に記載の熱膨張性シートの製造方法。
(付記13)
前記熱膨張層形成ステップで形成された前記熱膨張層と、前記剥離層形成ステップで形成された前記剥離層と、を断裁することにより、前記縁部に切り欠きを形成する切り欠き形成ステップ、
を更に含み、
前記切れ込み形成ステップでは、前記切り欠き形成ステップで前記切り欠きのエッジに対して垂直に前記切れ込みを形成する、
ことを特徴とする付記9から12のいずれか1つに記載の熱膨張性シートの製造方法。