以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず図1を参照して、転造平ダイス1の全体構成について説明する。図1(a)は本発明の第1実施の形態における転造平ダイス1の側面図である。図1(b)は転造平ダイス1の斜視図である。図1(a)では、複数の加工歯を模式的に示している。図1(b)には、転造平ダイス1の始端側の一部を図示している。
図1に示すように、転造平ダイス1は、円柱状の被加工物10(図2(a)参照)の外周面を塑性変形させてスプラインや歯車などの歯11を転造したり、既に歯11が形成された被加工物10に仕上転造を施したりするための工具である。転造平ダイス1は、合金工具鋼または高速度工具鋼等の金属材料から略直方体状に形成される。転造平ダイス1は、転造方向D(図1(a)の左側から右側へ向かう方向)に亘って幅(図1(a)の紙面垂直方向の寸法)が略同一に設定される。
転造平ダイス1は、その上面(図1(a)の紙面上側)における始端側から終端側(図1(a)の右側から左側)へ向けて形成される食付き部2と、その食付き部2の終端側に連設される仕上げ部3と、その仕上げ部3の終端側に連設される逃げ部4と、を備える。なお、「始端側」及び「終端側」とは、転造方向Dにおける始端側および終端側と定義し、以下の説明においても同様とする。
食付き部2、仕上げ部3及び逃げ部4には、複数の加工歯が刻設され、それら複数の加工歯が食付き部2の始端側から逃げ部4の終端側にかけて等間隔に形成される。複数の加工歯は、転造方向Dに対してねじれを有さずに刻設される。即ち、複数の加工歯は、リード角が略90°で刻設され、その歯幅方向Wが転造方向Dと直交する。なお、この複数の加工歯のうち、食付き部2に形成されるものを食付き歯20、仕上げ部3に形成されるものを仕上げ歯5、逃げ部4に形成されるものを逃げ歯6として説明する。
加工歯(食付き歯20、仕上げ歯5及び逃げ歯6)は、側面視において略台形状に形成される突起である。加工歯は、転造方向D及び上下方向(加工歯の高さ方向、図1(a)の紙面上下方向)に直交する方向(歯幅方向W)に延設される。
加工歯は、突起の先端部分である歯頂部21と、歯頂部21の転造方向Dの両端から下降傾斜して形成される一対の歯面22とを備える。転造方向Dに隣り合う加工歯どうしの間が歯底23である。歯底23は、隣接する加工歯の歯面22にそれぞれ接続される。また、加工歯の歯頂部21と歯面22との接続部分が歯先である。
食付き部2は、食付き歯20を被加工物10の外周面に食付かせると共に、その食付き歯20によって被加工物10を徐々に塑性変形させるための部位である。食付き歯20の歯頂部21を結ぶ平面は、始端側から終端側にかけて上昇傾斜して形成される。本実施の形態では、複数の食付き歯20間の歯底23を含む平面である歯底面が転造平ダイス1の支持面(図1(a)の下側の面)に対して平行に形成される。なお、食付き部2の歯底面を始端側から終端側にかけて上昇傾斜するように形成しても良い。
仕上げ部3は、食付き部2において被加工物10に転造された歯11を仕上げるための部位である。その仕上げ部3の仕上げ歯5の歯頂部21どうしを結ぶ平面、及び、仕上げ部3の歯底面は、転造平ダイス1の支持面に対して平行に形成される。即ち、全ての仕上げ歯5は、略同一形状および同一寸法に設定される。
逃げ部4は、仕上げ部3によって仕上げられた被加工物10を排出するための部位である。その逃げ部4の逃げ歯6の歯頂部21どうしを結ぶ平面、及び、逃げ部4の歯底面は、始端側から終端側にかけて下降傾斜して形成される。
次に、食付き歯20について更に詳しく説明する。図1(b)に示すように、複数の食付き歯20には、歯幅方向Wに亘って歯たけHや歯厚Tが0である除去部24が設けられる。即ち、除去部24は、1つの食付き歯20を除去したものと見なすことができる。除去部24は、歯底23との同一平面である。なお、歯たけHとは、食付き歯20(加工歯)の高さであって、歯底23から歯頂部21までの上下方向寸法である。また、歯厚Tを、歯底面における食付き歯20の転造方向Dの寸法とする。
複数の食付き歯20のうち、除去部24の両隣が一対の噛合歯25,26である。噛合歯25は、最も始端側の食付き歯20であり、除去部24の始端側に位置する。噛合歯26は、除去部24の終端側に位置する。
噛合歯25及び噛合歯26は、それぞれ歯幅方向Wに亘って歯たけH及び歯厚Tが均一である。噛合歯25の歯厚Tと噛合歯26の歯厚Tとは略同一である。食付き歯20の歯頂部21を結ぶ平面は、始端側から終端側にかけて上昇傾斜して形成されるため、噛合歯25の歯たけHよりも噛合歯26の歯たけHが若干(本実施の形態では約0.2%)大きい。
このような転造平ダイス1を製造するには、例えば、まず研削加工によって、同一形状および同一寸法の複数の食付き歯20や、複数の仕上げ歯5、複数の逃げ歯6を等間隔に形成する。その後、食付き歯20の歯頂部21を結ぶ平面が始端側から終端側にかけて上昇傾斜するように、食付き歯20の歯頂部21を研削する。最後に、食付き歯20の一部を研削加工などにより除去して、除去部24を形成する。なお、複数の食付き歯20を形成する段階で除去部24に当たる部分を研削して、除去部24を形成しても良い。
また、食付き歯20を確実に除去するために、歯底23(歯底面)に対して凹むように食付き歯20を研削して除去部24を形成しても良い。このように、歯底23に対して除去部24が凹んだ場合も、除去部24の歯たけを0と定義する。
次に、図2(a)を参照して転造平ダイス1による被加工物10への転造方法について説明する。図2(a)は転造平ダイス1を用いた被加工物10への転造方法を示す模式的な説明図である。なお、図2(a)では、移動前(転造前)の転造平ダイス1を二点鎖線で示している。また、図2(a)では、転造平ダイス1の加工歯や、被加工物10の歯11を模式的に示している。なお、本明細書では、説明の都合上、各図面の紙面上側に位置する転造平ダイス1を上側の転造平ダイス1とし、紙面下側に位置する転造平ダイス1を上側の転造平ダイス1としているが、この上下は必ずしも転造平ダイス1を使用するときの上下ではない。
図2(a)に示すように、まず、円柱状の被加工物10を転造盤(図示せず)などに回転可能に支持し、互いの転造方向Dが反対かつ平行となるように一対の転造平ダイス1をそれぞれ被加工物10の両側に配置する。なお、一対の転造平ダイス1に対する被加工物10の外径は、最大3つの食付き歯20に同時に噛み合い可能な寸法に設定されている。
次いで、被加工物10に対して一対の転造平ダイス1を互いに反対方向に平行に相対移動させることで、被加工物10の外周に複数の歯11を転造する。なお、歯11の先端部分が歯頂部12であり、歯頂部12の両側から下降傾斜する部位が歯面13であり、歯面13どうしを結ぶ部位が歯底14である(いずれも図3(a)参照)。
また、一対の転造平ダイス1の一方を固定し、一対の転造平ダイス1の他方を転造方向Dに移動させることで被加工物10に転造加工しても良い。このとき、被加工物10を転造盤などに支持せず、固定された転造平ダイス1上で被加工物10を転がしたり、一対の転造平ダイス1が立設される支持面に被加工物10を立てて、支持面上で被加工物10を摺動させたりしても良い。
なお、転造平ダイス1は食付き歯20の一部を除去した除去部24を有するが、転造加工時には、除去部24の両隣に位置する噛合歯25,26が被加工物10に同時に噛み合い可能(噛合歯25,26から被加工物10へ転造方向の力を付与可能)となっている。そのため、一度目の転造加工において、除去部24の位置で転造平ダイス1と被加工物10とが噛み合わなくても、除去部24の両隣の噛合歯25,26が被加工物10に噛み合う。これにより、転造平ダイス1に対して被加工物10が空転することを防止できる。
また、一度目の転造加工では、被加工物10の外径や素材などによって、歯11の形状精度が不十分となり、被加工物10に所望の形状の歯11を形成できないことがある。なお、転造平ダイス1の長さ(転造方向寸法)を大きくして加工時間および加工距離を長くすることで、所望の形状の歯11を得ることができる。しかし、転造平ダイス1が長い程、その転造平ダイス1を使用可能な装置が限られるため好ましくない。
そのため、同一の転造平ダイス1を用いて被加工物10に再度転造(仕上転造)し、被加工物10に所望の形状の歯11を形成することが好ましい。一対の転造平ダイス1による被加工物10への二度目の転造を開始する前には、一度目の転造加工で既に形成された被加工物10の歯11を転造平ダイス1の食付き歯20に噛み合わせる必要がある。
図2(b)から図2(d)、及び、図3(a)を参照して、歯11と食付き歯20との噛み合わせ方法について説明する。図2(b)から図2(d)は一対の転造平ダイス1間に被加工物10を挿入する挿入工程を示した模式的な説明図である。図3(a)は挿入工程時の転造平ダイス1及び被加工物10の側面図である。
なお、図2(b)から図2(d)では、上側の転造平ダイス1の始端側を紙面手前に向け、下側の転造平ダイス1の終端側を紙面手前に向けている。また、図3(a)では、食付き歯20や被加工物10の歯11を模式的に示しており、一度目の転造条件、転造平ダイス1の詳細形状などによって歯11の詳細形状が異なる(図3(b)や図4も同様)。
図3(a)には、除去部24が噛合歯25,26と略同一形状の食付き歯20であるとした場合の、即ち除去される前の食付き歯20として、仮想歯27が破線で示されている(図3(b)や図4等も同様)。即ち、除去部24は、仮想歯27を除去したものとみなすことができる。
まず、図2(b)及び図3(a)に示すように、一対の転造平ダイス1の食付き部2どうしを対向させる(以下、「対向工程と称す」)。より詳しくは、一対の転造平ダイス1の食付き部2のうち、噛合歯25から噛合歯26の間を対向させている。なお、一対の転造平ダイス1の対向間隔は、被加工物10に一度目の転造を行うときと同一の対向間隔である。即ち、食付き歯20(加工歯)の歯底23間の対向距離が被加工物10の歯11の歯頂部12における外径であり、仕上げ歯5(図1(a)参照)の歯頂部21間の対向距離が被加工物10の歯11の歯底14における外径である。
次いで、図2(c)、図2(d)及び図3(a)に示すように、対向する一対の転造平ダイス1間に被加工物10を軸方向に挿入する(以下、「挿入工程」と称す)。この挿入工程時には、被加工物10の歯11が一対の噛合歯25,26のいずれか一方に噛み合うように、転造平ダイス1間に被加工物10を挿入する。
なお、対向工程では、噛合歯25から噛合歯26の間の全てを対向させる必要はなく、噛合歯25から噛合歯26の間の一部が対向していれば良い。これにより、挿入工程において、一対の噛合歯25,26のいずれか一方に被加工物10の歯11を噛み合わせることができる。
挿入工程時、被加工物10の歯11を一対の噛合歯25,26のいずれか一方に噛み合うようにすると、噛合歯25,26の隣が、歯底23と同一平面の除去部24なので(噛合歯25,26の隣の食付き歯20が除去されているので)、除去部24に被加工物10を干渉し難くできる。このように、挿入工程時、転造平ダイス1の食付き歯20と被加工物10の歯11との干渉箇所を少なくできるので、一対の転造平ダイス1と被加工物10との噛み合わせを容易にできる。
また、一対の転造平ダイス1によって一度転造された歯11は、食付き歯20の間の空間(歯溝)よりも小さくなっている。なお、歯11の形状を整える仕上転造では、転造平ダイス1に対して被加工物10をスムーズに動かして転造を行う必要があるので、仕上転造前の歯11の形成方法に係わらず、仕上転造前の歯11が食付き歯20間の歯溝よりも小さくなっている。同様に、仕上転造前の歯11間の歯溝よりも、食付き歯20が小さくなっている。従って、仕上転造時および挿入工程時、歯11と食付き歯20との間に、一対の転造平ダイス1に対して被加工物10を回転可能とする隙間が生じる。
歯11と食付き歯20との間の隙間が生じることによって、相対位置が固定された一対の転造平ダイス1間に被加工物10を挿入可能となる、被加工物10の回転角度の範囲を確保できる。なお、一対の転造平ダイス1の対向方向(図3(a)の紙面上下方向)と、転造平ダイス1に最も近い歯11の高さ方向とのなす角度を、被加工物10の回転角度と定義する。
また、歯11と食付き歯20との間の隙間が生じることによって、被加工物10の回転角度を固定したとき、一対の転造平ダイス1間に被加工物10を挿入可能となる、一対の転造平ダイス1の相対位置の範囲を確保できる。これらの結果、食付き歯20間の歯溝よりも歯11が小さいことによって、一対の転造平ダイス1と被加工物10との噛み合わせをより容易にできる。
図3(a)に加え、図3(b)及び図4を参照して、一対の転造平ダイス1間への被加工物10の挿入パターンを例示して説明する。図3(a)及び図3(b)は挿入工程時の転造平ダイス1及び被加工物10の側面図である。図4(a)及び図4(b)は挿入工程の別例を示した転造平ダイス1及び被加工物10の側面図である。なお、図4では、被加工物10の軸心に対して点対称に一対の転造平ダイス1及び被加工物10が配置されるので、被加工物10の紙面上側と、上側の転造平ダイス1とを省略して図示している。
図3の状態では、挿入工程時に転造平ダイス1に噛み合い可能な歯11が3つであるため、その噛み合い可能な歯11を始端側から歯11a,11b,11cとして説明する。また、図4の状態では、噛み合い可能な歯11が2つであるため、その歯11を始端側から歯11a,11bと説明する。
図3(a)の状態では、側面視において食付き歯20の歯面22と歯11bの歯面13が略平行であり(被加工物10の回転角度が0であり)、一対の転造平ダイス1の食付き歯20の始端側に歯11が接触する。より詳しくは、上側の転造平ダイス1では、歯11aの歯面13が噛合歯25の歯先に接触し、歯11bが噛合歯25と除去部24(仮想歯27)との間に位置し、歯11cの歯先が噛合歯26の歯面22に接触する。下側の転造平ダイス1では、歯11aが除去部24(仮想歯27)と噛合歯25との間に位置し、歯11bの歯面13が噛合歯26の歯面22に接触し、歯11cの歯先が噛合歯26の終端側の食付き歯20の歯面22に接触する。
また、一度目の転造による加工精度によっては、歯11の寸法が異なり、歯11bの歯頂部12と転造平ダイス1の歯底23とが互いに離れたり接触したりする。歯11bの歯頂部12と歯底23とが離れた方が、挿入工程時に歯11bを転造平ダイス1に接触し難くできるので、挿入工程をスムーズにでき、一対の転造平ダイス1と被加工物10との噛み合わせをより容易にできる。
図3(a)の状態での挿入工程時、下側の転造平ダイス1の仮想歯27の歯先と、歯11aの歯面13との接触を、仮想歯27を除去した除去部24によりなくしている。除去部24によって挿入工程時の摩擦を低減できるので、挿入工程をスムーズに行うことができ、一対の転造平ダイス1と被加工物10との噛み合わせをより容易にできる。
また、上側の転造平ダイス1の仮想歯27の歯面22と、歯11bの歯面13との接触を、仮想歯27を除去した除去部24によりなくしている。挿入工程時、歯11の歯面13と食付き歯20の歯面22とが接触する場合は、歯先と歯面13,22とが接触する場合などと比較して、擦れ合う面積が大きく摩擦が大きくなる。この摩擦が大きい歯面13,22どうしの接触を除去部24によってなくすことができるので、挿入工程時の摩擦をより低減できる。その結果、挿入工程をよりスムーズにできるので、一対の転造平ダイス1と被加工物10との噛み合わせをより容易にできる。
また図3(a)の状態では、側面視において各歯11a,11b,11cの始端側に食付き歯20との隙間がある。そのため、一対の転造平ダイス1の相対位置を固定した状態で、被加工物10を反時計回り(下側の歯11bが噛合歯26から離れる回転方向)にずらしても、一対の転造平ダイス1間に被加工物10を挿入できる。その結果、一対の転造平ダイス1と被加工物10との噛み合わせを更に容易にできる。
図3(b)の状態では、側面視において食付き歯20の歯面22と歯11bの歯面13が略平行であり(被加工物10の回転角度が0であり)、上側の転造平ダイス1の食付き歯20の始端側に歯11が接触し、下側の転造平ダイス1の食付き歯20の終端側に歯11が接触する。
図3(b)の状態は、図3(a)の状態から下側の転造平ダイス1のみを左方向へ移動させたものである。図3(b)において、上側の転造平ダイス1と被加工物10との接触の仕方は、図3(a)の状態と同一である。下側の転造平ダイス1では、歯11aの歯先が噛合歯25の歯面22に接触し、歯11bが仮想歯27と噛合歯26との間に位置し、歯11cの歯面13が噛合歯26の歯先に接触する。
この図3(b)の状態での挿入工程時には、一対の転造平ダイス1の仮想歯27の歯面22と、上下の歯11bの歯面13との接触を、仮想歯27を除去した除去部24によってなくしている。歯面13,22どうしの接触をなくすことができるため、挿入工程をよりスムーズにでき、一対の転造平ダイス1と被加工物10との噛み合わせをより容易にできる。
さらに、図3(b)の状態では、側面視において各歯11a,11b,11cの左側(下側の転造平ダイス1の終端側)に一対の転造平ダイス1との隙間がある。そのため、一対の転造平ダイス1の相対位置を固定した状態で、左方向へ被加工物10をずらしても、一対の転造平ダイス1間に被加工物10を挿入できる。その結果、一対の転造平ダイス1と被加工物10との噛み合わせを更に容易にできる。
さらに、図3(b)の状態から被加工物10を左方向へずらすことで、歯11と食付き歯20とを全て接触しないようにできる。さらに、上下の歯11bと食付き歯20とが接触しない程度に被加工物10を僅かに回転させても、歯11と食付き歯20とを全て接触しないようにできる。これらの結果、一対の転造平ダイス1間への挿入工程を更にスムーズにでき、一対の転造平ダイス1と被加工物10との噛み合わせを更に容易にできる。
図4(a)の状態では、側面視において、除去部24の中央よりも始端側と終端側とで被加工物10が対称となり、被加工物10の回転角度が最大となるように、転造平ダイス1に被加工物10が噛み合わせられる。歯11aの歯先が噛合歯25の終端側の歯面22に接触し、歯11bの歯先が噛合歯26の始端側の歯面22に接触する。
仮想歯27がある場合には、歯11a,11bの内側の歯面13がそれぞれ仮想歯27の歯先に接触する。しかし、その接触を、仮想歯27を除去した除去部24によってなくすことができる。このように、除去部24によって転造平ダイス1と被加工物10との挿入工程時の干渉箇所を少なくできる。その結果、一対の転造平ダイス1と被加工物10との噛み合わせをより容易にできる。
また、一度目の転造で形成された歯11の詳細な形状によっては、歯11a,11bの一方が噛合歯25,26に接触しても他方が接触しないことがある。この場合、一対の転造平ダイス1の相対位置を固定した状態で、被加工物10を左右(始端側または終端側)にずらしたり、被加工物10の回転角度を変えたりしても、一対の転造平ダイス1間に被加工物10を挿入できる。その結果、一対の転造平ダイス1と被加工物10との噛み合わせを更に容易にできる。
図4(b)の状態では、側面視において、噛合歯25の中央よりも始端側と終端側とで被加工物10が対称となり、被加工物10の回転角度が最大となるように、転造平ダイス1に被加工物10が噛み合わせられる。噛合歯25は、最も始端側の食付き歯20なので、噛合歯25の始端側に位置する歯11aの始端側が食付き歯20に接触することはない。また、噛合歯25の終端側には除去部24が設けられるので、噛合歯25の終端側に位置する歯11aの終端側が食付き歯20に接触することがない。即ち、噛合歯25に噛み合う2つの歯11a,11bの外側が食付き歯20に接触することはない。
さらに、側面視において歯11a,11b間の歯溝は、噛合歯25よりも大きくなっている。これらの結果、一対の転造平ダイス1の相対位置を固定した状態で、歯11a,11bの内側の歯面13が噛合歯25に接触しない程度に、被加工物10を左右にずらしたり、被加工物10の回転角度を変えたりしても、一対の転造平ダイス1間に被加工物10を挿入できる。その結果、一対の転造平ダイス1と被加工物10との噛み合わせを更に容易にできる。
また、食付き部2の始端側では、仕上げ部3の仕上げ歯5(図1(a)参照)よりも歯たけHが小さい(本実施の形態では約20%小さい)。仕上転造(二度目の転造)時には、仕上げ歯5の歯頂部21が被加工物10の歯11間の歯底14に接触するように、被加工物10と転造平ダイス1との距離が設定される。
そのため、一対の転造平ダイス1の噛合歯25の歯頂部21間の対向寸法よりも、被加工物10の歯底14における外径が小さい。その結果、噛合歯25に被加工物10を噛み合わせるような挿入工程時には、被加工物10を噛合歯25の歯頂部21側に干渉し難くできる。その結果、一対の転造平ダイス1と被加工物10との噛み合わせを更に容易にできる。
図4(b)の状態での挿入工程時では、図3(a)、図3(b)及び図4(a)の状態での挿入工程時に比べて、被加工物10と一対の転造平ダイス1との干渉箇所をより少なくできると共に、相対位置が固定された一対の転造平ダイス1に対する被加工物10の左右移動可能な範囲や回転可能な範囲を大きくできる。よって、図4(b)の状態で挿入工程を行うことで、一対の転造平ダイス1間に被加工物10を最も挿入し易くでき、一対の転造平ダイス1と被加工物10との噛み合わせを最も容易にできる。
また、噛合歯25の始端側には食付き歯20がなく、噛合歯25の終端側には仮想歯27を除去した除去部24が設けられるので、作業者などは噛合歯25の位置を容易に認識できる。そのため、一対の転造平ダイス1間への被加工物10の挿入が最も容易になるように、認識し易い噛合歯25を目掛けて被加工物10を一対の転造平ダイス1間に挿入できる。その結果、一対の転造平ダイス1と被加工物10との噛み合わせを更に容易にできる。
特に、食付き歯20のうち最も始端側の噛合歯25のみを上下に対向させた場合、一対の転造平ダイス1間への被加工物10の挿入位置は、被加工物10が噛合歯25に噛み合う位置に定められる。噛合歯25のみが対向し、その噛合歯25に被加工物10を噛み合わせる場合は、図4(b)の状態での挿入工程となる。よって、噛合歯25のみを上下に対向させることで、一対の転造平ダイス1への被加工物10の挿入位置が、被加工物10を最も挿入し易い位置に定められる。その結果、一対の転造平ダイス1と被加工物10との噛み合わせをより一層容易にできる。
次に図5(a)を参照して第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、除去部24の歯たけHや歯厚Tが0である場合について説明した。これに対し第2実施の形態では、両隣の噛合歯25,26の歯たけH1よりも除去部32の歯たけH2が小さい場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図5(a)は第2実施の形態における転造平ダイス30及び被加工物10の側面図である。図5(a)では、被加工物10の軸心に対して点対称に一対の転造平ダイス30及び被加工物10が配置されるので、被加工物10の紙面上側と、上側の転造平ダイス30とを省略して図示している。
図5(a)に示すように、転造平ダイス30の食付き部2には、複数の加工歯として、複数の食付き歯31が等間隔に刻設される。複数の食付き歯31は、転造方向Dに対してねじれを有さずに刻設される。即ち、複数の食付き歯31は、リード角が略90°で刻設され、その歯幅方向Wが転造方向Dと直交する。
複数の食付き歯31は、所定距離をあけて配置される一対の噛合歯25,26と、一対の噛合歯25,26の間の食付き歯31である除去部32とを備える。噛合歯25は、始端側から2つ目の食付き歯31である。噛合歯26は始端側から4つ目の食付き歯31である。
除去部32と噛合歯25,26とは歯厚Tが同一である。除去部32の歯たけH2は、噛合歯25,26の歯たけH1よりも小さく設定される。本実施の形態では、除去部32の歯たけH2は、噛合歯25,26の歯たけH1の約半分である。なお、歯たけH2は、歯たけH1の約半分に限らず、適宜設定可能である。
除去部32は、噛合歯25,26と略同一形状に形成された食付き歯31の一部を研削加工して形成される。1つの食付き歯20全体を除去して除去部24を設ける第1実施の形態に比べて、食付き歯31の一部を除去して除去部32を設ける第2実施の形態では、除去部32の形成を容易にできる。特に、除去部32の歯たけH1を小さくするだけなので、除去部32の歯厚Tを小さくする場合に比べて、除去部32の形成を容易にできる。
この一対の転造平ダイス30間に被加工物10を軸方向に挿入する挿入工程時について説明する。噛合歯25,26の歯たけH1より除去部32の歯たけH2が小さいので、挿入工程時、被加工物10の歯11を一対の噛合歯25,26のいずれか一方に噛み合うようにすると、噛合歯25,26の隣の除去部32に被加工物10を干渉し難くできる。なお、歯たけH2が小さい程、除去部32に被加工物10をより干渉し難くできる。このように第1実施の形態と同様に、挿入工程時、転造平ダイス30の食付き歯31と被加工物10の歯11との干渉箇所を少なくできるので、一対の転造平ダイス30と被加工物10との噛み合わせを容易にできる。
除去部32は、1つの食付き歯31の上側を除去したものなので、転造平ダイス30を用いた一度目の転造でも、被加工物10に除去部32を押し付ける(噛み合わせる)ことができる。第1実施の形態では、被加工物10に除去部24が噛み合わないので、一度目の転造加工において転造平ダイス1に対する被加工物10の空転を防止するため、例えば、除去部24の両側の噛合歯25,26を被加工物10に同時に噛み合わせる必要がある。しかし、第2実施の形態では、噛合歯25,26が被加工物10に同時に噛み合わなくても、除去部32が被加工物10に噛み合うので、一度目の転造加工において、転造平ダイス30に対する被加工物10の空転を防止できる。
次に図5(b)を参照して第3実施の形態について説明する。第1実施の形態では、除去部24の歯たけHや歯厚Tが0である場合について説明した。これに対し第3実施の形態では、両隣の噛合歯25,26の歯厚T1よりも除去部42の歯厚T2が小さい場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図5(b)は第3実施の形態における転造平ダイス40及び被加工物10の側面図である。図5(b)では、被加工物10の軸心に対して点対称に一対の転造平ダイス40及び被加工物10が配置されるので、被加工物10の上側と、上側の転造平ダイス40とを省略して図示している。
図5(b)に示すように、転造平ダイス40の食付き部2には、複数の加工歯として、複数の食付き歯41が等間隔に刻設される。複数の食付き歯41は、転造方向Dに対してねじれを有さずに刻設される。即ち、複数の食付き歯41は、リード角が略90°で刻設され、その歯幅方向Wが転造方向Dと直交する。
複数の食付き歯41は、所定距離をあけて配置される一対の噛合歯25,26と、一対の噛合歯25,26の間の食付き歯41である除去部42とを備える。噛合歯25は、始端側から2つ目の食付き歯41である。噛合歯26は始端側から4つ目の食付き歯41である。
除去部42と噛合歯25,26とは歯たけHが同一である。除去部42の歯厚T2は、噛合歯25,26の歯厚T1よりも小さく設定される。本実施の形態では、除去部42の歯厚T2は、噛合歯25,26の歯厚T1の約半分である。なお、歯厚T2は、歯厚T1の約半分に限らず、適宜設定可能である。
除去部42は、噛合歯25,26と略同一形状に形成された食付き歯41の一部を研削加工して形成される。1つの食付き歯20全体を除去して除去部24を設ける第1実施の形態に比べて、食付き歯41の一部を除去して除去部42を設ける第3実施の形態では、除去部42の形成を容易にできる。
この一対の転造平ダイス40間に被加工物10を軸方向に挿入する挿入工程時について説明する。噛合歯25,26の歯厚T1より除去部42の歯厚T2が小さいので、挿入工程時、被加工物10の歯11を一対の噛合歯25,26のいずれか一方に噛み合うようにすると、噛合歯25,26の隣の除去部42に被加工物10を干渉し難くできる。なお、歯厚T2が小さい程、除去部42に被加工物10をより干渉し難くできる。このように第1,2実施の形態と同様に、挿入工程時、転造平ダイス40の食付き歯41と被加工物10の歯11との干渉箇所を少なくできるので、一対の転造平ダイス40と被加工物10との噛み合わせを容易にできる。
被加工物10の歯11は、食付き歯41の歯面22や歯先に接触し易い。そのため、除去部32の歯たけH2を小さくした第2実施の形態に比べ、除去部42の歯厚T2を小さくする第3実施の形態の方が、被加工物10の歯11を除去部42に干渉し難くできる。そのため、一対の転造平ダイス40と被加工物10との噛み合わせをより容易にできる。
除去部42と噛合歯25,26とは歯たけHが略同一なので、転造平ダイス40を用いた一度目の転造でも、被加工物10に除去部42を確実に押し付ける(噛み合わせる)ことができる。これにより、除去部42の両隣の噛合歯25,26が被加工物10に同時に噛み合わなくても、一度目の転造加工において、転造平ダイス40に対する被加工物10の空転を確実に防止できる。
次に図6(a)を参照して第4実施の形態について説明する。第1実施の形態では、噛合歯25が歯幅方向Wに亘って略一様である場合について説明した。これに対し第4実施の形態では、噛合歯52の歯幅方向Wの端縁に第1面取部53が設けられる場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図6(a)は第4実施の形態における転造平ダイス50の斜視図である。
図6(a)に示すように、転造平ダイス50の食付き部2には、複数の加工歯として、複数の食付き歯51が等間隔に刻設される。複数の食付き歯51は、転造方向Dに対してねじれを有さずに刻設される。即ち、複数の食付き歯51は、リード角が略90°で刻設され、その歯幅方向Wが転造方向Dと直交する。
複数の食付き歯51は、所定距離をあけて配置される一対の噛合歯52,26と、一対の噛合歯52,26の間の食付き歯51である除去部24とを備える。噛合歯52は、最も始端側の食付き歯51である。噛合歯26は始端側から3つ目の食付き歯51である。
噛合歯52の歯頂部21は、歯幅方向Wの端縁の一方(転造方向Dに対して右側)へ向かって傾斜する第1面取部53を備える。第1面取部53は、歯頂部21の歯幅方向Wの略中央と、歯底面(歯底23を含む平面)の歯幅方向Wの端縁とを結んだ平面であり、噛合歯52の一部を研削加工等により面取りして形成される。
被加工物10の歯11(いずれも図3等参照)が噛合歯52に噛み合うように、一対の転造平ダイス50間に第1面取部53側から被加工物10を挿入するとき、第1面取部53によって被加工物10を噛合歯52の歯頂部21側に干渉し難くできる。特に、第1面取部53は、歯底面の歯幅方向Wの端縁から上昇傾斜するので、一対の転造平ダイス50間への挿入初期では、噛合歯52に被加工物10をより干渉し難くできる。
また、第1面取部53側から一対の転造平ダイス50間に挿入される被加工物10は、第1面取部53の傾斜に沿って、噛合歯52と噛み合う位置まで案内される。これらの結果、一対の転造平ダイス50と被加工物10との噛み合わせをより容易にできる。
さらに、第1面取部53を有する噛合歯52は、第1面取部53を有しないその他の食付き歯51と形状が異なるので、作業者などは噛合歯52の位置を容易に認識できる。そのため、一対の転造平ダイス50間への被加工物10の挿入が容易になるように、認識し易い噛合歯52を目掛けて被加工物10を一対の転造平ダイス50間に挿入できる。その結果、一対の転造平ダイス50と被加工物10との噛み合わせを更に容易にできる。
次に図6(b)を参照して第5実施の形態について説明する。第1実施の形態では、噛合歯25が歯幅方向Wに亘って略一様である場合について説明した。これに対し第5実施の形態では、噛合歯62の歯幅方向Wの端縁に第1面取部63を設け、噛合歯62の両側の歯底23に第2面取部64を設ける場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図6(b)は第5実施の形態における転造平ダイス60の斜視図である。
図6(b)に示すように、転造平ダイス60の食付き部2には、複数の加工歯として、複数の食付き歯61が等間隔に刻設される。複数の食付き歯61は、転造方向Dに対してねじれを有さずに刻設される。即ち、複数の食付き歯61は、リード角が略90°で刻設され、その歯幅方向Wが転造方向Dと直交する。
複数の食付き歯61は、所定距離をあけて配置される一対の噛合歯62,26と、一対の噛合歯62,26の間の食付き歯61である除去部24とを備える。噛合歯62は、最も始端側の食付き歯61である。噛合歯26は始端側から3つ目の食付き歯61である。
噛合歯62の歯頂部21は、歯幅方向Wの端縁の一方(転造方向Dに対して右側)へ向かって傾斜する第1面取部63を備える。第1面取部63は、噛合歯62の歯幅方向Wの一部を研削加工等によりR面取りして形成される。
噛合歯62の転造方向Dの両隣に位置する歯底23は、歯幅方向Wの端縁の一方へ向かって傾斜する第2面取部64を備える。第2面取部64は、第1面取部63と同じ側の歯幅方向Wの端縁における転造平ダイス60の一部を研削加工等によりR面取りして形成される。
被加工物10の歯11が噛合歯62に噛み合うように、一対の転造平ダイス60間に第1面取部63及び第2面取部64側から被加工物10を挿入するとき、第1面取部63によって被加工物10を噛合歯62の歯頂部21側に干渉し難くできる。さらに、挿入工程時、第2面取部64によって被加工物10を転造平ダイス60の歯底23側に干渉し難くできる。これらの結果、一対の転造平ダイス60と被加工物10との噛み合わせをより容易にできる。
また、第1面取部63及び第2面取部64の両方が転造平ダイス60に設けられているので、一対の転造平ダイス60の対向方向に被加工物10をずらした状態で、噛合歯62に噛み合うように一対の転造平ダイス60間に被加工物10を挿入できる。そして、一対の転造平ダイス60間に被加工物10を挿入していくにつれ、第1面取部63及び第2面取部64に沿って、噛合歯62と噛み合う位置まで被加工物10が案内される。これらの結果、一対の転造平ダイス60と被加工物10との噛み合わせを更に容易にできる。
ここで、第1面取部63及び第2面取部64が平面状である場合には、第1面取部63や第2面取部64以外の歯頂部21や歯底23と、第1面取部63や第2面取部64との接続部分に角が生じる。挿入工程時に、その角に被加工物10が接触すると、被加工物10に傷などが生じるおそれがある。しかし、本実施の形態では、第1面取部63及び第2面取部64が曲面状なので、転造平ダイス60間への挿入工程時に被加工物10に傷を生じ難くできる。
第2面取部64の溝幅L1(転造方向Dの寸法)は、食付き歯61間の歯底23の幅L2(転造方向Dの寸法)以上に設定される。第2面取部64を有しない場合、被加工物10の歯11を噛合歯62に噛み合わせるとき、噛合歯62から幅L2までの歯底23に噛合歯62が干渉することがある。
本実施の形態では、噛合歯62に被加工物10を噛み合わせる挿入工程時に、歯11が比較的干渉し易い範囲の全てを第2面取部64としているので、被加工物10を転造平ダイス60の歯底23側に更に干渉し難くできる。これらの結果、一対の転造平ダイス60と被加工物10との噛み合わせを更に容易にできる。
さらに、噛合歯62には第1面取部63が設けられ、噛合歯62の両隣には第2面取部64が配設されるので、作業者などは噛合歯62の位置を容易に認識できる。そのため、一対の転造平ダイス60間への被加工物10の挿入が容易になるように、認識し易い噛合歯62を目掛けて被加工物10を一対の転造平ダイス60間に挿入できる。その結果、一対の転造平ダイス60と被加工物10との噛み合わせを更に容易にできる。
次に図7(a)を参照して第6実施の形態について説明する。第1実施の形態では、一対の噛合歯25,26の間に1つの除去部24が設けられる場合について説明した。これに対し第6実施の形態では、一対の噛合歯72,73の間に2つの除去部74が設けられる場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図7(a)は第6実施の形態における転造平ダイス70の斜視図である。
図7(a)に示すように、一対の転造平ダイス70,80は、対向間に被加工物10を挟んで転造加工を施す工具である。転造平ダイス70,80の食付き部2には、複数の加工歯として、複数の食付き歯71,81がそれぞれ等間隔に刻設される。複数の食付き歯71,81は、転造方向Dに対してねじれを有さずにそれぞれ刻設される。即ち、複数の食付き歯71,81は、リード角が略90°でそれぞれ刻設され、その歯幅方向Wが転造方向Dと直交する。
複数の食付き歯71は、所定距離をあけて配置される一対の噛合歯72,73と、一対の噛合歯72,73の間の食付き歯71である除去部74とを備える。噛合歯72は、最も始端側の食付き歯71である。噛合歯73は、始端側から4つ目の食付き歯71である。除去部74は、始端側から2つ目と3つ目の食付き歯71(仮想歯75)の歯たけHや歯厚Tを0にした(仮想歯75を除去した)ものである。
複数の食付き歯81は、始端側から終端側へ向かって歯頂部21を結ぶ平面が僅かに上昇傾斜する以外は、全て略同一形状に形成される。複数の食付き歯81は、除去部74を除く食付き歯71と略同一形状に形成される。このように、転造平ダイス80は、除去部74を有しない従来の転造平ダイスである。
このような転造平ダイス70,80による被加工物10への転造方法について説明する。まず、円柱状の被加工物10に、一対の転造平ダイス70,80を用いて一度目の転造加工を施す。なお、被加工物10は、除去部74の両隣の一対の噛合歯72,73に同時に噛み合い不可能な外径に設定されている。
そのため、一度目の転造加工において、2つの転造平ダイス70を用いた場合には、噛合歯72を被加工物10に押し付けたあと、噛合歯73が被加工物10に押し付けられるまで、転造平ダイス70に対して被加工物10が空転する。被加工物10が空転すると、被加工物10の歯11の形状精度が低下する。
しかし、本実施の形態では、一対の転造平ダイス70,80を用い、被加工物10が転造盤(図示せず)に回転可能に支持され、転造平ダイス70,80がそれぞれ同速度で転造方向Dに移動することで転造加工を行う。そのため、転造平ダイス70の除去部74の位置で食付き歯71が被加工物10に押し付けられていなくても、転造平ダイス80の食付き歯81が被加工物10に押し付けられる。これにより、仮想歯75が食い込んだように、転造平ダイス70の移動に合わせて被加工物10が回転する。その結果、転造平ダイス70に対する被加工物10の空転を防止できる。
なお、一対の転造平ダイス70を用いて一度目の転造加工を行う場合、噛合歯72,73間に被加工物10を軸方向に挿入してから転造を開始することで、一対の転造平ダイス70に対する被加工物10の空転を防止できる。但し、この場合、噛合歯72が転造に寄与しない。
一度目の転造加工後、一対の転造平ダイス70,80間に被加工物10を軸方向に挿入してから、一対の転造平ダイス70,80を用いて被加工物10に二度目の転造加工を行う。2つの除去部74によって噛合歯72,73間が、被加工物10に対して十分に広く設定されているので、一対の転造平ダイス70,80間に被加工物10を挿入することで、一対の転造平ダイス70,80と被加工物10との噛み合わせを容易にできる。
転造平ダイス80に対する被加工物10の位置は、歯11が食付き歯81に噛み合う位置に特定される。しかし、転造平ダイス70に対する被加工物10の位置は、転造開始後に噛合歯73が被加工物10と噛み合えば(即ち、噛合歯72,73間であれば)、歯11が仮想歯75に噛み合う位置でなくても良い。
これにより、転造平ダイス80に対して転造平ダイス70が転造方向Dにずれた状態でも、一対の転造平ダイス70,80間に被加工物10を挿入できる。また、相対位置が固定された一対の転造平ダイス70,80に挿入可能となる、被加工物10の回転角度の範囲を大きくできる。これらの結果、一対の転造平ダイス70,80と被加工物10との噛み合わせをより容易にできる。
次に図7(b)を参照して第7実施の形態について説明する。第1実施の形態では、除去部24を1箇所のみに設ける場合について説明した。これに対し第7実施の形態では、噛合歯93の両隣に除去部95を設ける場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図7(b)は第7実施の形態における転造平ダイス90の斜視図である。
図7(b)に示すように、転造平ダイス90の食付き部2には、複数の加工歯として、複数の食付き歯91が等間隔に刻設される。複数の食付き歯91は、転造方向Dに対してねじれを有さずに刻設される。即ち、複数の食付き歯91は、リード角が略90°で刻設され、その歯幅方向Wが転造方向Dと直交する。
複数の食付き歯91は、それぞれ所定距離をあけて配置される噛合歯92,93,94と、一対の噛合歯92,93間、及び、一対の噛合歯93,94間の食付き歯91である除去部95とを備える。噛合歯92は、最も始端側の食付き歯91である。噛合歯93,94は、それぞれ始端側から3つ目、5つ目の食付き歯91である。
除去部95は、歯幅方向Wに亘って歯たけHや歯厚Tが0である。即ち、噛合歯92,93間、及び、噛合歯93,94間の食付き歯91(仮想歯96)を除去して設けられる。除去部95は、噛合歯93の転造方向Dの両隣に配置される。
歯11が形成された被加工物10を一対の転造平ダイス90間に挿入する挿入工程時について説明する。被加工物10の2つの歯11を、最も始端側の食付き歯91である噛合歯92に噛み合わせる場合の挿入工程時には、第1実施の形態において図4(b)を参照して説明した通り、噛合歯92に噛み合う2つの歯11の外側をそれぞれ食付き歯91に干渉し難くできる。その結果、一対の転造平ダイス90間に被加工物10を最も挿入し易くできるので、一対の転造平ダイス90と被加工物10との噛み合わせを最も容易にできる。
また、噛合歯93の両隣に除去部95が配置されるので、被加工物10の2つの歯11を噛合歯93に噛み合わせる場合の挿入工程時でも、噛合歯92に噛み合わせる場合と同様に、噛合歯93に噛み合う2つの歯11の外側をそれぞれ食付き歯91(除去部95)に干渉し難くできる。その結果、一対の転造平ダイス90間に被加工物10を最も挿入し易くできるので、一対の転造平ダイス90と被加工物10との噛み合わせを最も容易にできる。
また、被加工物10の2つの歯11を、一対の転造平ダイス90の一方の噛合歯92に噛み合わせ、転造平ダイス90の他方の噛合歯93に噛み合わせる場合の挿入工程時でも、一対の転造平ダイス90の噛合歯92にそれぞれ噛み合わせる場合と同様に、一対の転造平ダイス90と被加工物10との噛み合わせを最も容易にできる。
以上、上記実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、食付き歯20,31,41,51,61,71,81,91の形状や寸法などは適宜設定できる。
上記各実施の形態では、転造平ダイス1,30,40,50,60,70,90の食付き部2の始端側に除去部24,32,42,74,95を設ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。食付き部2のいずれの位置に除去部24,32,42,74,95を設けても良い。但し、除去部24,32,42,74,95よりも終端側の食付き歯20,31,41,51,61,71,91が主に仕上転造に寄与するので、除去部24,32,42,74,95を始端側に位置させる程、多くの食付き歯20,31,41,51,61,71,91により被加工物10に仕上転造を施すことができる。その結果、転造平ダイス1,30,40,50,60,70,90による転造加工の精度を向上できる。
上記各実施の形態では、一対の同一の転造平ダイス1,30,40,50,60,90や、転造平ダイス70と従来の転造平ダイス80とで、被加工物10に一度目の転造加工をし、一度目と同一の転造平ダイス1,30,40,50,60,70,80,90の組を用いて被加工物10に二度目の転造(仕上転造)を施す場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。二度目の転造加工により仕上転造が施された被加工物10に三度目の転造加工をすることで、被加工物10に再度仕上転造を施して、被加工物10の形状精度を更に向上させても良い。
また、転造平ダイス1,30,40,50,60,70,80,90から2種類を選んで被加工物10に一度目の転造や仕上転造を施しても良い。なお、除去部24,32,42,74,95を有する転造平ダイス1,30,40,50,60,70,90の組を仕上転造に用いることで、一対の転造平ダイスの一方が従来の転造平ダイス80である場合に比べて、仕上転造の開始前の挿入工程において、食付き歯20,31,41,51,61,71,91と被加工物10の歯11との干渉箇所をより少なくできる。その結果、一対の転造平ダイスと被加工物10との噛み合わせをより容易にできる。
また、一度目の転造加工で使用した転造平ダイス1,30,40,50,60,70,80,90の組と異なる組を用いて、被加工物10に仕上転造を施しても良い。一度目の転造加工では、一対の従来の転造平ダイス80を用いて被加工物10に歯11を転造しても良い。また、切削加工や研削加工など転造加工以外で歯11が形成された被加工物10に、一対の転造平ダイス1,30,40,50,60,70,80,90を用いて仕上転造を施しても良い。
上記各実施の形態では、最大3つの食付き歯20,31,41,51,61,71,91に被加工物10が同時に噛み合い可能な寸法に被加工物10の外径が設定される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。最大2つや4つ以上の食付き歯20,31,41,51,61,71,91に同時に噛み合うように、被加工物10の外径を設定しても良い。
なお、同時に噛み合い可能な食付き歯20,31,41,51,61,71,91の数から2を引いた数の除去部24,32,42,74,95を連続して設けても良い。この場合、除去部24,32,42,74,95の始端側および終端側の一対の噛合歯に被加工物10を同時に噛み合わせることができる。そのため、一度目の転造時に除去部の位置で転造平ダイスに対する被加工物10の空転を防止できる。さらに、除去部の数を多くする程、挿入工程時における食付き歯20,31,41,51,61,71,91と被加工物10との干渉箇所を少なくできるので、転造平ダイスと被加工物10との噛み合わせを容易にできる。
また、同時に噛み合い可能な食付き歯20,31,41,51,61,71,91の数や、その数から1を引いた数の除去部24,32,42,74,95を連続して設けても良い。この場合、一度目の転造時に転造平ダイスに対して被加工物10が空転しないようにする必要がある。その空転を防止するには、一対の転造平ダイスのうち少なくとも一方に、被加工物10に除去部が噛み合うように除去部の歯たけHを所定値に設定した転造平ダイスを用いたり、除去部の両隣の噛合歯が被加工物10に同時に噛み合い可能な転造平ダイスを用いたり、従来の転造平ダイス80を用いたりする必要がある。
上記第4,5実施の形態では、転造平ダイス50,60の歯幅方向Wの一方(転造方向Dに対して右側)のみに第1面取部53,63や第2面取部64を設ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。転造平ダイス50,60の歯幅方向Wの両方に第1面取部53,63や第2面取部64を設けても良い。また、転造平ダイス50,60の歯幅方向Wのうち転造方向Dに対して左側のみに、第1面取部53,63や第2面取部64を設けても良い。
上記各実施の形態では、転造平ダイス1,30,40,50,60,70,90の幅(歯幅方向W寸法)が転造方向Dに亘って略同一である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。転造平ダイス1,30,40,50,60,70,90の始端側の幅方向の一部を除去し、その除去した部分に、食付き歯20,31,41,51,61,71,91と同一形状および同一間隔の歯を有する弾性体を組み付けても良い。この場合、仕上転造の開始前には、一対の転造平ダイス1,30,40,50,60,70,90を転造方向Dに移動させて、弾性体の歯を被加工物10の歯11に噛み合わせた後、被加工物10を軸方向に移動させて、一対の転造平ダイス1,30,40,50,60,70,90間に被加工物10を挿入しても良い。