そこで、本出願人は、スプライン転造用の転造工具と、ねじ又はウォーム転造用の転造工具とを並列に配置した並列型の転造工具を開発した。これによれば、ねじ又はウォーム転造用の転造工具を駆動源として、被転造素材をスプライン転造用の転造工具上で強制的に回転させることができるので、被転造素材に歯数13以下の少数歯スプラインを転造することができる。
しかしながら、上述した並列型の転造工具では、ねじ又はウォーム転造用の転造工具を別途設ける必要があるため、その分、転造工具の製造コストが増大するという問題点があった。また、この並列型の転造工具では、被転造素材の外周面にねじ又はウォームが転造されるため、これを切り落とす等の後加工が必要になるという問題点があった。
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、歯数13以下の少数歯スプラインを転造可能な転造工具を提供することを目的としている。
この目的を達成するために、請求項1記載の転造工具は、複数の加工歯が設けられる転造歯形面を備え、その転造歯形面の加工歯を被転造素材の外周面に食い込ませ、前記被転造素材の外周面に歯数13以下の少数歯スプラインを転造するものであり、前記転造歯形面は、前記被転造素材に食い付く食付き部と、その食付き部の転造方向終端側に連設される仕上げ部とを備え、前記食付き部の加工歯が所定の食付き角で山払いされると共に、前記食付き部の歯底面および山払いされる前の前記食付き部の歯先面が前記仕上げ部の歯底面および歯先面に対して転造方向終端側から始端側へ向けて上昇傾斜して構成され、前記食付き部の転造方向始端から所定数の加工歯は、それらの加工歯の歯底がそれぞれ同一形状に形成されている。
請求項2記載の転造工具は、請求項1記載の転造工具において、前記食付き部の加工歯は、少なくとも転造方向始端から前記被転造素材の外周面に転造される歯数と同数の加工歯の先端角が、前記仕上げ部における加工歯の先端角よりも大きくかつ前記仕上げ部における加工歯の先端角の2倍よりも小さい角度で構成されている。
請求項1記載の転造工具によれば、複数の加工歯が設けられる転造歯形面を備え、その転造歯形面は、被転造素材に食い付く食付き部と、その食付き部の転造方向終端側に連設される仕上げ部とを備えるものであり、前記食付き部の加工歯が所定の食付き角で山払いされると共に、前記食付き部の歯底面および山払いされる前の前記食付き部の歯先面が前記仕上げ部の歯底面および歯先面に対して転造方向終端側から始端側へ向けて上昇傾斜して構成され、前記食付き部の転造方向始端から所定数の加工歯は、それらの加工歯の歯底がそれぞれ同一形状に形成されている。
ここで、従来の転造工具で歯数13以下の少数歯スプラインを転造すると、転造面上を被転造素材が転動する際に、転造工具の加工歯と被転造素材の歯とが非接触となる状態が生じるため、被転造素材を適切な回転ピッチで転動させることができず、スプラインの転造が不可能となる。
これに対し、本発明によれば、食付き部の歯底面を仕上げ部の歯底面および歯先面に対して転造方向終端側から始端側へ向けて上昇傾斜させる構成であるので、従来の転造工具と食付き角を同じ角度に設定した場合でも、加工歯の根元側を切断して、加工歯の先端面(山払い面)の面積(転造方向に沿う長さ)をより大きくすることができる。また、食付き部の歯底面および山払いされる前の歯先面が仕上げ部の歯底面および歯先面に対して転造方向終端から始端側へ向けて上昇傾斜して構成されているので、従来の転造工具と食付き角を同じ角度に設定した場合でも、仕上げ部の歯底面および歯先面に対する山払い面の傾斜角度を大きく確保でき、その分、加工歯の先端面(山払い面)の面積(転造方向に沿う長さ)をより大きくすることができる。その結果、転造工具の加工歯と被転造素材の歯との接触面積を確保して、転造工具の加工歯と被転造素材の歯とが非接触となることを防止することができるので、被転造素材を適切な回転ピッチで転動させて、歯数13以下の少数歯スプラインを転造することができるという効果がある。
更に、食付き部の歯底面を仕上げ部の歯底面および歯先面に対して転造方向終端側から始端側へ向けて上昇傾斜させる構成であるので、従来の転造工具と食付き角を同じ角度に設定した場合でも、歯底面が上昇した分だけ、隣り合う加工歯により形成される谷の容積を小さくすることができる。その結果、盛り上げられた余肉を谷に充填させて、転造工具の加工歯と被転造素材の歯とが非接触となることを防止することができるので、被転造素材を適切な回転ピッチで転動させて、歯数13以下の小数歯スプラインを転造することができるという効果がある。
また、食付き部の転造方向始端から所定数の加工歯は、それらの加工歯の歯底がそれぞれ同一形状に形成されるので、転造工具の製造時において転造歯形面を形成する際に、食付き部の転造方向始端から所定数の加工歯を一の研削砥石で形成することができる。よって、転造工具の製造時における転造歯形面の形成作業を効率よく行うことができるという効果がある。
また、本発明によれば、食付き部の歯底面を仕上げ部の歯底面および歯先面に対して転造方向終端側から始端側へ向けて上昇傾斜させる構成により、被転造素材を適切な回転ピッチで転動させることができるので、従来の転造工具のように、被転造素材を強制的に回転させる駆動源が不要となる、即ち、ねじ又はウォーム転造用の転造工具を別途配設することが不要となり、その分、転造工具の製造コストを低減することができるという効果がある。
また、ねじ又はウォーム転造用の転造工具で被転造素材を強制的に回転させる従来の転造工具では、被転造素材の外周面にねじ又はウォームが形成されるため、これを切断する等の後加工が必要となる。これに対し、本発明によれば、スプライン転造用の転造工具のみで歯数13以下の少数歯スプラインを転造することができる、即ち、ねじ又はウォーム転造用の転造工具で被転造素材を強制的に回転させることが不要となり、被転造素材の外周面にねじ又はウォームが形成されないので、ねじ又はウォームを切断する等の後加工が不要となり、その分、少数歯スプラインの製造能率の向上を図ることができるという効果がある。
請求項2記載の転造工具よれば、請求項1記載の転造工具の奏する効果に加え、食付き部の加工歯は、少なくとも転造方向始端から被転造素材の外周面に転造される歯数と同数の加工歯の先端角が、仕上げ部における加工歯の先端角よりも大きくかつ仕上げ部における加工歯の先端角の2倍よりも小さい角度で構成されている。
ここで、食付き部の加工歯において、少なくとも転造方向始端における加工歯の先端角が、仕上げ部における加工歯の先端角よりも小さい場合では、加工歯の先端面(山払い面)の面積(転造方向に沿う長さ)が小さくなり、その分、被転造素材と加工歯との接触面積が小さくなる。その結果、転造工具の加工歯と被転造素材の歯との接触面積を十分に確保することができないので、転造工具の加工歯と被転造素材の歯とが非接触となる状態が生じ、被転造素材を適切な回転ピッチで転動させることができない。
また、食付き部の加工歯において、少なくとも転造方向始端における加工歯の先端角が、仕上げ部における加工歯の先端角よりも小さい場合では、谷が深くなり、その分、谷の容積が大きくなる。その結果、盛り上げられた余肉を谷に完全に充填させることができないので、転造工具の加工歯と被転造素材の歯とが非接触となる状態が生じ、被転造素材を適切な回転ピッチで転動させることができない。
これに対し、本発明によれば、食付き部の加工歯は、少なくとも転造方向始端から被転造素材の外周面に転造される歯数と同数の加工歯の先端角が、仕上げ部における加工歯の先端角よりも大きい角度で構成されているので、加工歯の先端面の面積を大きくして、その分、加工歯と被転造素材との接触面積を確保することができる。その結果、転造工具の加工歯と被転造素材の歯とが非接触となることを防止して、被転造素材を適切な回転ピッチで転動させることができるという効果がある。
更に、本発明によれば、食付き部の加工歯は、少なくとも転造方向始端から被転造素材の外周面に転造される歯数と同数の加工歯の先端角が、仕上げ部における加工歯の先端角よりも大きい角度で構成されているので、谷を浅くして、その分、谷の容積を小さくすることができる。その結果、盛り上げられた余肉を谷に完全に充填させることができるので、転造工具の加工歯と被転造素材の歯とが非接触となることを防止して、被転造素材を適切な回転ピッチで転動させることができるという効果がある。
一方、食付き部の加工歯において、少なくとも転造方向始端から被転造素材の外周面に転造される歯数と同数の加工歯の先端角が、仕上げ部における加工歯の先端角の2倍よりも大きい場合では、隣り合う加工歯のフランク同士がなす角度が緩やかになるので、盛り上げられた余肉を収容する谷の容積を確保することができず、盛り上げられた余肉が谷からはみ出して、加工歯の先端面に蓄積される。その結果、加工歯の先端面に蓄積された余肉が転造工具の加工歯と被転造素材の歯との接触を阻害する、即ち、転造工具の加工歯と被転造素材の歯とが非接触となる状態が生じるので、被転造素材を適切な回転ピッチで転動させることができない。
これに対し、本発明によれば、食付き部の加工歯は、少なくとも転造方向始端から被転造素材の外周面に転造される歯数と同数の加工歯の先端角が、仕上げ部における加工歯の先端角の2倍よりも小さい角度で構成されているので、谷の容積を確保して、盛り上げられた余肉全体を谷に充填させることができる。その結果、盛り上げられた余肉が加工歯の先端面に蓄積されることを防止することができるので、加工歯の先端面に蓄積された余肉が転造工具の加工歯と被転造素材の歯との接触を阻害することにより、転造工具の加工歯と被転造素材の歯とが非接触となることを防止して、被転造素材を適切な回転ピッチで転動させることができるという効果がある。
ここで、スプラインの転造開始時では、被転造素材の外周面に歯が形成されていないので、被転造素材が加工歯に対して滑りやすい。その結果、被転造素材の回転ピッチの精度が低下して、スプラインの加工精度が低下する。
これに対し、本発明によれば、少なくとも転造方向始端から被転造素材の外周面に転造される歯数と同数の加工歯の先端角が、仕上げ部における加工歯の先端角よりも大きくかつ仕上げ部における加工歯の先端角の2倍よりも小さい角度で構成されている。これにより、上述したように、最初に食い付く加工歯と被転造素材との接触面積を確保することができると共に、盛り上げられた余肉を谷からはみ出すことなく完全に充填させることができるので、転造開始時に被転造素材が滑ることを防止することができる。その結果、被転造素材の回転ピッチの精度が低下することを抑制して、スプラインの加工精度が低下することを抑制することができるという効果がある。
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施の形態における転造工具1を説明する図であり、図1(a)は、転造工具1の上面図であり、図1(b)は、転造工具1の側面図である。
まず、図1を参照して、転造工具1の全体構成について説明する。転造工具1は、円柱状に構成された被転造素材の外周面を塑性変形させて、歯数13以下の少数歯スプラインを転造加工により転造するための工具である。
なお、図1では、一対の転造工具1のうち、転造盤(図示せず)に固定される一方の転造工具1を図示しており、かかる一方の転造工具1に対して平行移動される他方の転造工具1の図示を省略している。
転造工具1は、図1に示すように、転造に適した合金工具鋼又は高速度工具鋼等の金属材料から略直方体状に形成されており、その上面側(図1(a)紙面手前側、図1(b)上側)には、被転造素材の外周面にスプラインの転造を行うための転造歯形面2が設けられている。
転造歯形面2には、図1に示すように、転造工具1の転造方向始端側(図1右側)から終端側(図1左側)へ向けて、食付き部21、仕上げ部22及び逃げ部23が順に連続して設けられている。
なお、これら食付き部21、仕上げ部22及び逃げ部23で構成された転造歯形面2には、複数の加工歯3が刻設されている。これら複数の加工歯3は、被転造素材の外周寸法に対応した一定のピッチで転造方向(図1左右方向)へ列設されると共に、転造方向に対して略直交する方向(図1(b)上下方向)へ向けて連続して延設されている。
食付き部21は、転造歯形面2を被転造素材の外周面に食い付かせるための部位であり、いわゆる食付き部として用いられる。この食付き部21は、図1(b)に示すように、その終端側(図1(b)左側)から始端側(図1(b)右側)へ向けて食付き角αで下降傾斜するように山払い加工が施されている。
また、食付き部21の加工歯3の谷同士を結ぶ平面である歯底面21aは、仕上げ部22の後述する歯底面22aに対して傾斜角β(図2(a)及び図2(b)参照)で傾斜すると共に、食付き部21の転造方向終端側から始端側へ向けて上昇して形成されている。なお、図1では、傾斜角βの図示が省略されている。
仕上げ部22は、食付き部21によって被転造素材に転造されたスプラインを仕上げるための部位であり、図1(b)に示すように、仕上げ部22の加工歯3の谷同士を結ぶ平面である歯底面22a及び仕上げ部22の加工歯3の先端同士を結ぶ平面である歯先面22bは、転造工具1の支持面(図1(b)下側面)に対して略平行に形成されている。
逃げ部23は、仕上げ部22により仕上げられた被転造素材を転造歯形面2から排出するための部位であり、いわゆる逃げ部として用いられている。この逃げ部23は、図1(b)に示すように、仕上げ部22の終端から転造工具1の転造方向終端(図1(b)左側)へ向けて傾斜角γで下降傾斜して形成されている。
次いで、図2を参照して、加工歯3の詳細について説明する。図2(a)は、図1(a)の矢印IIa方向から見た転造工具1の側面図であり、図2(b)は、図1(a)の矢印IIb方向から見た転造工具1の側面図であり、図2(c)は、図1(a)の矢印IIc方向から見た転造工具1の側面図である。なお、図2(a)及び図2(b)では、理解を容易とするために、山払いされる前の加工歯3の形状が点線で図示されている。また、図2では、食付き部21及び仕上げ部22の歯底面21a,22aが2点鎖線で図示されている。
なお、矢印IIaとは、食付き部21の転造方向始端側から13個の加工歯3の内の一部を指す矢印が該当する。また、矢印IIbとは、食付き部21の転造方向始端側から14個目の加工歯3と食付き部21の転造方向終端の加工歯3との間に位置する加工歯3の内の一部を指す矢印が該当する。また、矢印IIcとは、仕上げ部22における加工歯3の内の一部を指す矢印が該当する。
まず、図2(a)を参照して、食付き部21の矢印IIa(図1(a)参照)方向から見た加工歯3の詳細について説明する。食付き部21の転造方向始端側(図2(a)右側)から13個の加工歯3は、図2(a)に示すように、隣り合う2つのフランクがなす先端角がθ1に設定されている。なお、本実施の形態では、先端角θ1は、100°に設定されている。また、食付き部21の転造方向始端側から13個の加工歯3は、食付き角αで山払い加工を施して形成される山払い面31を備えている。
ここで、食付き部21の転造方向始端側から13個の加工歯3は、その先端角θ1が100°に設定されているので、先端角θ1が仕上げ部22の後述する先端角θ3(図2(c)参照)と同じ角度である60°に設定される場合と比較して、山払い面31の転造方向(図2(a)左右方向)における寸法が大きくなり、その分、山払い面31の転造方向における面積が大きくなる。
また、食付き部21の転造方向始端側から13個の加工歯3は、その先端角θ1が100°に設定されているので、先端角θ1が先端角θ3と同じ角度に設定される場合と比較して、谷が浅くなり、その分、谷の容積が小さくなる。
次に、図2(b)を参照して、食付き部21の矢印IIb(図1(a)参照)方向から見た加工歯3の詳細について説明する。食付き部21の転造方向始端側(図2(b)右側)から14個目の加工歯3と食付き部21の転造方向終端側(図2(b)左側)の加工歯3との間に位置する加工歯3は、図2(b)に示すように、隣り合う2つのフランクがなす先端角がθ2に設定されている。なお、先端角θ2は、仕上げ部22の後述する先端角θ3(図2(c)参照)と同じ角度に設定されるものであり、本実施の形態では、60°に設定されている。
また、食付き部21の転造方向始端側から14個目の加工歯3と食付き部21の転造方向終端側の加工歯3との間に位置する加工歯3は、食付き部21の転造方向始端側から13個の加工歯3と同様に、食付き角αで山払い加工を施して形成される山払い面31を備えている。
次に、図2(c)を参照して、仕上げ部22の矢印IIc(図1(a)参照)方向から見た加工歯3の詳細について説明する。仕上げ部22の加工歯3は、図2(c)に示すように、隣り合う2つのフランクがなす先端角がθ3に設定されている。なお、本実施の形態では、先端角θ3は、60°に設定されている。
次いで、図3を参照して、転造方法について説明する。図3(a)は、本発明の転造工具1における食付き部21を模式的に示した側面図であり、図3(b)は、従来の転造工具101における食付き部121を模式的に示した側面図である。なお、図3では、理解を容易とするために、山払いされる前の加工歯3,103の形状が点線で図示されている。また、図3では、食付き部21,121の歯底面21a,121a、仕上げ部22の歯底面22a及び歯先面22bが2点鎖線で図示されている。
なお、本発明の転造工具1と従来の転造工具101との比較を容易とするために、本発明の転造工具1と従来の転造工具101とは、同じ食付き角αを有して構成されている。同様に、本発明の転造工具1における加工歯3と従来の転造工具101における加工歯103とは、それらの隣り合う2つのフランクがなす先端角が同じ角度で構成されている。
まず、本発明の転造工具1は、図3(a)に示すように、食付き部21の歯底面21aが転造方向終端側(図3(a)左側)から始端側(図3(a)右側)へ向かって傾斜角βで上昇傾斜して形成されている。
一方、従来の転造工具101は、図3(b)に示すように、食付き部121の歯底面121aが仕上げ部(図示せず)の歯底面と略平行に形成されている。また、食付き部121の加工歯103は、食付き角αで山払い加工が施されて形成された山払い面131を備えている。
ここで、従来の転造工具101で歯数13以下の少数歯スプラインを転造すると、転造面上を被転造素材が転動する際に、加工歯103と被転造素材とが非接触となる状態が生じるため、被転造素材を適切な回転ピッチで転動させることができず、スプラインの転造ができない。
これに対し、本発明の転造工具1では、上述したように、その歯底面21aが転造方向終端側から始端側へ向かって傾斜角βで上昇傾斜されている。これにより、本発明の転造工具1における加工歯3は、図3に示すように、従来の転造工具101における加工歯103と比較して、加工歯3の根元を山払いすることができるので、その分、山払い面31の転造方向長さ(図3(a)左右方向長さ)を大きくすることができる、即ち、山払い面31の面積を転造方向に沿って大きくすることができる。
その結果、食付き部21上を転動する被転造素材と加工歯3との接触面積を確保することができるので、被転造素材が転動した場合に、被転造素材と加工歯3との接触状態を維持することができる、即ち、被転造素材の歯と加工歯3とが非接触となることを防止することができる。これにより、被転造素材を適切な回転ピッチで転動させて、歯数13以下の少数歯スプラインを転造することができる。
更に、本発明の転造工具1では、上述したように、その歯底面21aが転造方向終端側から始端側へ向かって傾斜角βで上昇傾斜されている。これにより、本発明の転造工具1は、図3に示すように、歯底面21aが上昇した分、山払い面31と歯底面21aとの距離を短くして、谷の容積を小さくすることができる。
その結果、加工歯3により盛り上げられた余肉を谷に完全に充填させることができるので、盛り上げられた余肉と谷との間に隙間が生じることを防止する、即ち、被転造素材の歯と加工歯3とが非接触となることを防止することができる。これにより、被転造素材を適切な回転ピッチで転動させて、歯数13以下の少数歯スプラインを転造することができる。
また、本発明の転造工具1では、食付き部21の歯底面21aを傾斜角βで傾斜させることにより、被転造素材を適切な回転ピッチで転動させることができるので、従来の転造工具101のように、被転造素材を強制的に回転させるために、ねじ又はウォーム転造用の転造工具を別途配設することが不要となり、その分、転造工具1の製造コストの低減を図ることができる。
また、ねじ又はウォーム転造用の転造工具で被転造素材を強制的に回転させる従来の転造工具101では、被転造素材の外周面にねじ又はウォームが形成されるため、これを切断する等の後加工が必要となる。これに対し、本発明の転造工具1では、スプライン転造用の転造工具1のみで歯数13以下の少数歯スプラインを転造することができる、即ち、ねじ又はウォーム転造用の転造工具で被転造素材を強制的に回転させることが不要となり、被転造素材の外周面にねじ又はウォームが形成されないので、ねじ又はウォームを切断する等の後加工が不要となり、その分、少数歯スプラインの製造能率の向上を図ることができる。
ここで、本発明の転造工具1は、歯数13の少数歯スプラインを転造するための工具であり、食付き部21の転造方向始端側から13個の加工歯3が被転造素材に食い付く際に、被転造素材の外周面に歯が形成されていないので、被転造素材が加工歯3に対して滑りやすい。その結果、被転造素材の回転ピッチの精度が低下して、スプラインの加工精度が低下する可能性がある。
そこで、本発明の転造工具1では、上述したように、食付き部21の転造方向始端側から13個の加工歯3、即ち、被転造素材の転造開始時における1回転に対応した13個の加工歯3は、上述したように、その先端角θ1(図2(a)参照)が100°に設定されている。
これにより、食付き部21の転造方向始端側から13個の加工歯3は、上述したように、先端角θ1が仕上げ部22の先端角θ3(60°、図2(c)参照)と同じ角度に設定される場合と比較して、その山払い面31の転造方向における面積を大きくすることができる。即ち、被転造素材を転動させた場合に、被転造素材と加工歯3との接触状態を維持することができる。
その結果、加工歯3と被転造素材の歯とが非接触となる状態が生じることを防止することができるので、転造開始時に被転造素材が加工歯3に対して滑ることを防止することができる。これにより、被転造素材の回転ピッチの精度が低下することを防止して、スプラインの加工精度が低下することを抑制することができる。
更に、食付き部21の転造方向始端側から13個の加工歯3は、上述したように、先端角θ1が仕上げ部22の先端角θ3(60°)と同じ角度に設定される場合と比較して、谷の容積を小さくすることができる。
その結果、盛り上げられた余肉を谷に完全に充填させることができるので、盛り上げられた余肉と谷との間に隙間が生じることを防止する、即ち、被転造素材の歯と加工歯3とが非接触となることを防止することができる。これにより、転造開始時において被転造素材が加工歯3に対して滑ることを防止することができるので、被転造素材の回転ピッチの精度が低下することを防止して、スプラインの加工精度が低下することを抑制することができる。
なお、本実施の形態では、食付き部21の転造方向始端側から13個の加工歯3は、その先端角θ1が100°に設定されているが、必ずしもこれに限られるものではなく、仕上げ部22の加工歯3の先端角θ3よりも大きく、かつ、仕上げ部22の加工歯3の先端角θ3の2倍よりも小さい範囲内で種々に変更可能である。
ここで、加工歯3の先端角θ1が、仕上げ部22における加工歯3の先端角θ3よりも小さい場合では、山払い面31の転造方向(図3左右方向)における寸法が小さくなるので、山払い面31の転造方向における面積が小さくなり、その分、被転造素材と加工歯3との接触面積が小さくなる。その結果、加工歯3と被転造素材の歯との接触面積を十分に確保することができないので、加工歯3と被転造素材とが非接触となる状態が生じ、被転造素材を適切な回転ピッチで転動させることができない。
また、加工歯3の先端角θ1が、仕上げ部22における加工歯3の先端角θ3よりも小さい場合では、谷が深くなり、その分、谷の容積が大きくなる。その結果、盛り上げられた余肉を谷に完全に充填させることができないので、余肉と谷との間に隙間が生じる、即ち、加工歯3と被転造素材とが非接触となる状態が生じ、被転造素材を適切な回転ピッチで転動させることができない。
そこで、上述したように、加工歯3の先端角θ1を仕上げ部22における加工歯3の先端角θ3よりも大きくすることで、山払い面31の転造方向における面積を大きくすることができると共に、谷の容積を小さくすることができるので、加工歯3と被転造素材とが非接触となることを防止して、被転造素材を適切な回転ピッチで確実に転動させることができる。
一方、加工歯3の先端角θ1が、仕上げ部22における加工歯3の先端角θ3の2倍よりも大きい場合では、フランク同士のなす角度が緩やかになるので、盛り上げられた余肉を収容する谷の容積を確保することができず、盛り上げられた余肉が谷からはみ出して、山払い面31上に蓄積される。その結果、山払い面31上に蓄積された余肉が山払い面31と被転造素材の歯との接触を阻害する、即ち、加工歯3と被転造素材の歯とが非接触となる状態が生じるので、被転造素材を適切な回転ピッチで転動させることができない。
そこで、上述したように、加工歯3の先端角θ1を仕上げ部22における加工歯3の先端角θ3の2倍よりも小さくすることで、フランク同士のなす角度が大きくなり、盛り上げられた余肉を収容する谷の容積を確保することができる。これにより、盛り上げられた余肉全体を谷に完全に充填させることができるので、盛り上げられた余肉が谷からはみ出すことを防止する、即ち、盛り上げられた余肉が山払い面31に蓄積されることを防止することができる。その結果、山払い面31に蓄積された余肉が加工歯3と被転造素材の歯との接触を阻害することにより、加工歯3と被転造素材の歯とが非接触となることを防止して、被転造素材を適切な回転ピッチで転動させることができる。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
例えば、本実施の形態では、食付き部21の転造方向始端から13個の加工歯3は、その先端角θ1が、仕上げ部22の先端角θ3よりも大きくかつ仕上げ部22の先端角θ3の2倍よりも小さい角度に設定されているが、仕上げ部22の先端角θ3の1.2倍よりも大きくかつ仕上げ部22の先端角θ3の1.8倍よりも小さい角度に設定することが望ましく、また、仕上げ部22の先端角θ3の1.4倍よりも大きくかつ仕上げ部22の先端角θ3の1.6倍よりも小さい角度に設定することが更に望ましい。
これにより、山払い面31の転造方向における面積を確実に大きくすることができると共に、谷の容積を確実に小さくすることができるので、加工歯3と被転造素材の歯とが非接触となることを確実に防止して、被転造素材を適切な回転ピッチで確実に転動させることができる。
更に、盛り上げられた余肉を充填させる谷の容積を確実に確保することができるので、谷から余肉がはみ出すことを確実に防止して、盛り上げられた余肉が山払い面31に蓄積されることを確実に防止することができる。その結果、山払い面31と被転造素材の歯との間に余肉が介在することを確実に防止することができるので、加工歯3と被転造素材の歯とが非接触となることを確実に防止して、被転造素材を適切な回転ピッチで確実に転動させることができる。
また、本実施の形態では、食付き部21の転造方向始端から13個の加工歯3の先端角θ1が、仕上げ部22の先端角θ3よりも大きくかつ仕上げ部22の先端角θ3の2倍よりも小さい角度に設定されているが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、歯数12の少数歯スプラインを転造する場合には、食付き部21の転造方向始端から12個の加工歯の先端角を、仕上げ部22の先端角θ3よりも大きくかつ仕上げ部22の先端角θ3の2倍よりも小さい角度に設定すればよい。
即ち、歯数nの少数歯スプラインを転造する場合には、食付き部21の転造方向始端からn個の加工歯3の先端角を、仕上げ部22の先端角θ3よりも大きくかつ仕上げ部22の先端角θ3の2倍よりも小さい角度に設定すればよい。
これにより、被転造素材に最初に食い付く加工歯3と被転造素材との接触面積を確保することができると共に、盛り上げられた余肉を谷に完全に充填させることができるので、加工歯3と被転造素材の歯とが非接触となることを防止して、転造開始時に被転造素材が滑ることを防止することができる。その結果、被転造素材の回転ピッチの精度が低下することを抑制して、スプラインの加工精度が低下することを抑制することができる。
また、本実施の形態では、食付き部21の転造方向始端から13個の加工歯3は、その先端角θ1が全て同じ角度で構成されているが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、食付き部21の転造方向始端から13個の加工歯3の先端角θ1を、仕上げ部22における加工歯3の先端角θ3よりも大きくかつ仕上げ部22における加工歯3の先端角θ3の2倍よりも小さい範囲内で、転造方向始端から終端へ向けて漸次小さくなるように構成してもよい。
これにより、食付き部21の転造方向始端から13個の加工歯3は、その先端角θ1が転造方向始端から終端へ向けて仕上げ部22の加工歯3と同一の角度に近づくので、形成される被転造素材の歯を所望のスプラインの形状に近づけることができる。その結果、転造能率の向上を図ると共に、スプラインの加工精度が低下することを抑制することができる。