しかしながら、特開2003−305528号公報に記載の技術では、転造ダイスの前半部で細目ねじを形成した後、転造ダイスの後半部で並目ねじを形成するため、並目ねじの形成時に細目ねじがつぶれるという問題点があり、実用に耐える品質を確保することができなかった。
また、特開2003−220438号公報に記載の技術では、並目ねじ用平ダイスにより並目ねじを予め形成した後に、別工程にて、細目ねじ用平ダイスによって細目ねじの転造加工を行う必要があり、工程数が増加するため、生産性が低下するという問題点があった。
更に、上述の前者の技術では、転造面が前半部と後半部とに分割され、ダイス素材の転造方向長さが通常よりも長くなるため、また、後者の技術では、2種類の転造ダイスが必要とされ、ダイス素材の使用量が増加するため、共に、材料コストが嵩むという問題点もあった。
一方、特開2003−260532号公報に記載の技術では、一の転造工程にて2重ねじを一度に転造加工することができ、また、その2重ねじの品質も確保することができるが、並目雄ねじ形成用突条と細目雄ねじ形成用突条とを高硬度のダイス素材に研削加工により形成するものであるため、加工コストが嵩み、転造ダイスを安価に製造することができないという問題点があった。
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、ダイス素材への加工コストを削減して、安価に製造することができる転造ダイス、及び、転造ダイスの製造方法を提供することを目的としている。
この目的を達成するために、請求項1記載の転造ダイスは、第1転造歯形面を有する第1ダイスと、第2転造歯形面を有する第2ダイスとを備え、それら第1及び第2ダイスを相対移動させることにより、前記第1及び第2転造歯形面の対向面間に挟持された被転造素材の外周面を塑性変形させ、並目ねじと細目ねじとが互いに交差して形成された2重ねじを転造するものであり、前記第1ダイスの第1転造歯形面は、食付き部、仕上げ部及び逃げ部を備えると共に、それら食付き部、仕上げ部及び逃げ部には、研削加工によって、前記並目ねじを形成するための並目ねじ形成用歯形のみが設けられ、前記第2ダイスの第2転造歯形面は、食付き角及び逃げの角が共に略0°に設定されることで、仕上げ部のみを備え、その仕上げ部には、放電加工によって、前記細目ねじを形成するための細目ねじ形成用歯形と前記並目ねじ形成用歯形とが互いに交差した状態に設けられている。
請求項2記載の転造ダイスの製造方法は、第1転造歯形面を有する第1ダイスと、第2転造歯形面を有する第2ダイスとを備え、それら第1及び第2ダイスを相対移動させることにより、前記第1及び第2転造歯形面の対向面間に挟持された被転造素材の外周面を塑性変形させ、並目ねじと細目ねじとが互いに交差して形成された2重ねじを転造する転造ダイスの製造方法であって、前記第1ダイスとなるダイス素材に研削加工を施すことで、食付き部、仕上げ部及び逃げ部を備え、かつ、それら食付き部、仕上げ部及び逃げ部に、前記並目ねじを形成するための並目ねじ形成用歯形のみが設けられた前記第1転造歯形面を形成する第1転造歯形面形成工程と、電極素材に前記並目ねじに対応する歯形を研削した後、前記細目ねじに対応する歯形を研削し、前記並目ねじと細目ねじとが平面状に展開された放電用歯形面を形成する電極研削工程と、その電極研削工程により形成された放電用歯形面を電極として、前記第2ダイスとなるダイス素材に放電加工を施すことで、食付き角及び逃げの角が共に略0°に設定された仕上げ部のみを備え、かつ、その仕上げ部に、前記細目ねじを形成するための細目ねじ形成用歯形と前記並目ねじ形成用歯形とが互いに交差した状態に設けられた前記第2転造歯形面を形成する放電加工工程とを備えている。
請求項1記載の転造ダイスによれば、ダイス素材は高硬度であるため、研削加工が困難で、加工コストが嵩むところ、第1ダイスの第1転造歯形面には、並目ねじ形成用歯形のみを設け、細目ねじ形成用歯形の形成を省略する構成としたので、その分、研削工数の減少を図ることができるという効果がある。その結果、加工コストを低減して、転造ダイスを安価に製造することができるという効果がある。
ここで、2重ねじの品質を確保するためには、従来品では、転造中の滑りを防止するべく、一対の転造歯形面が互いに同形状でなければ不可能であるとされていたが(上述した特許文献1〜3参照)、本発明では、第1転造歯形面と第2転造歯形面とが非対称(即ち、第1転造歯形面への細目ねじ形成用歯形の形成が省略される)構成としながらも、以下に示す理由により、2重ねじの品質を十分に確保することができる。
即ち、並目ねじと比較して、細目ねじの転造であれば、塑性変形量が少なく、必要な加工力が小さいため、細目ねじ形成用歯形を第2転造歯形面のみに設ける(即ち、第1転造歯形面が細目ねじ形成用歯形を備えない)構成であっても、細目ねじ(2重ねじ)の品質を十分に確保することができる。
更に、第1及び第2転造歯形面が共に並目ねじ形成用歯形を備える構成であるので、被転造素材が第1及び第2転造歯形面上を転動して、細目ねじが転造される場合には、各並目ねじ形成用歯形がそれぞれガイドの役割を果たすこととなり、被転造素材の滑りを防止することができるため、この点からも、細目ねじ(2重ねじ)の品質を十分に確保することができる。
なお、後述するように、第2転造歯形面は、食付き角及び逃げの角が略0°に設定され、食付き部及び逃げ部を有さない構成とされるが、この場合であっても、上述と同様の理由により、細目ねじ(2重ねじ)の品質を十分に確保することができる。
一方、第2ダイスの第2転造歯形面には、並目ねじ形成用歯形と細目ねじ形成用歯形とを、放電加工によって設ける構成としたので、加工コストを削減して、その分、転造ダイスをより安価に製造することができるという効果がある。
即ち、ダイス素材は高硬度であるため、研削加工が困難で、加工コストが嵩むのに対し、放電加工用の電極材料は柔らかく加工が容易である。そのため、上述したように、並目ねじ形成用歯形に加え、細目ねじ形成用歯形も形成する必要のある第2転造歯形面においては、加工の容易な電極材料で電極を作成し、その電極を利用した放電加工により第1及び第2転造歯形面を形成する構成とすることで、加工工数を低減して、その分、加工コストの削減を図ることができる。
更に、第2転造歯形面は、食付き角及び逃げの角が共に略0°に設定されているので、この第2転造歯形面を放電加工するための放電電極の作成に際しては、その放電電極の放電用歯形面を平行面として、その放電用歯形面の加工コストの削減を図ることができるという効果がある。
即ち、放電用歯形面が凹面になると、その屈折部で研削工具の往復動作が阻害され、放電用歯形面の加工が困難になるところ、放電用歯形面が平行面であれば、凹面を加工する場合と比較して、研削工具の往復動作が阻害されることなく円滑に行うことができる。これにより、放電用歯形面の加工を高効率に行うことができ、加工コストの更なる削減を図ることができる。
ここで、第1転造歯形面にも、放電加工により、並目ねじ形成用歯形と細目ねじ形成用歯形とを共に設けることも考えられるが、以下の2つの理由により、研削加工が採用されている。
第1に、第1転造歯形面は食い付き部及び逃げ部を備える構成であるため、この第1転造歯形面を放電加工するためには、放電電極の放電用歯形面が凹面となる。上述したように、凹面では、研削工具の往復動作が阻害され、その研削加工が極めて困難となる。その結果、第1転造歯形面については、並目ねじ形成用歯形を研削加工により形成する方が、放電加工による場合と比較して、加工コストの削減を図ることができるためである。
第2に、第2転造歯形面に加え、第1転造歯形面でも、食付き角及び逃げの角を略0°に設定したのでは、被転造素材を第1及び第2転造歯形面に食い付かせることができず、転造加工そのものが不可能となるからである。
請求項2記載の転造ダイスの製造方法によれば、ダイス素材は高硬度であるため、研削加工が困難で、加工コストが嵩むところ、第1転造歯形面形成工程では、第1ダイスの第1転造歯形面に、並目ねじ形成用歯形のみを設け、細目ねじ形成用歯形の形成は省略されるので、その分、研削工数の減少を図ることができるという効果がある。その結果、加工コストを低減して、転造ダイスを安価に製造することができるという効果がある。
ここで、2重ねじの品質を確保するためには、従来品では、転造中の滑りを防止するべく、一対の転造歯形面が互いに同形状でなければ不可能であるとされていたが(上述した特許文献1〜3参照)、本発明では、第1転造歯形面形成工程において、第1転造歯形面に並目ねじ形成用歯形のみを設ける(即ち、細目ねじ形成用歯形の形成が省略され、第1転造歯形面と第2転造歯形面とが非対称とされる)ものでありながら、以下に示す理由により、2重ねじの品質を十分に確保することができる。
即ち、並目ねじと比較して、細目ねじの転造であれば、塑性変形量が少なく、必要な加工力が小さいため、細目ねじ形成用歯形を第2転造歯形面のみに設ける(即ち、第1転造歯形面が細目ねじ形成用歯形を備えない)構成であっても、細目ねじ(2重ねじ)の品質を十分に確保することができる。
更に、第1及び第2転造歯形面が共に並目ねじ形成用歯形を備える構成であるので、被転造素材が第1及び第2転造歯形面上を転動して、細目ねじが転造される場合には、各並目ねじ形成用歯形がそれぞれガイドの役割を果たすこととなり、被転造素材の滑りを防止することができるため、この点からも、細目ねじ(2重ねじ)の品質を十分に確保することができる。
なお、後述するように、第2転造歯形面は、食付き角及び逃げの角が略0°に設定され、食付き部及び逃げ部を有さない構成とされるが、この場合であっても、上述と同様の理由により、細目ねじ(2重ねじ)の品質を十分に確保することができる。
一方、第2ダイスの第2転造歯形面には、放電加工によって、並目ねじ形成用歯形と細目ねじ形成用歯形とを設ける構成としたので(放電加工工程)、加工コストを削減して、その分、転造ダイスをより安価に製造することができるという効果がある。
即ち、ダイス素材は高硬度であるため、研削加工が困難で、加工コストが嵩むのに対し、放電加工用の電極材料は柔らかく加工が容易である。そのため、上述したように、並目ねじ形成用歯形に加え、細目ねじ形成用歯形も形成する必要のある第2転造歯形面においては、加工の容易な電極材料で放電用歯形面を作成し(電極研削工程)、その放電用歯形面を利用した放電加工により第1及び第2転造歯形面を形成する構成とすることで、加工工数を低減して、その分、加工コストの削減を図ることができる。
更に、第2転造歯形面は、食付き角及び逃げの角が共に略0°に設定されているので、この第2転造歯形面を放電加工するための放電電極の作成に際しては、その放電電極の放電用歯形面を平行面として、その放電用歯形面の加工コストの削減を図ることができるという効果がある。
即ち、放電用歯形面が凹面になると、その屈折部で研削工具の往復動作が阻害され、放電用歯形面の加工が困難になるところ、放電用歯形面が平行面であれば、凹面を加工する場合と比較して、研削工具の往復動作が阻害されることなく円滑に行うことができる。これにより、放電用歯形面の加工を高効率に行うことができ、加工コストの更なる削減を図ることができる。
ここで、第1転造歯形面形成工程においては、第1転造歯形面にも、放電加工により、並目ねじ形成用歯形と細目ねじ形成用歯形とを共に設けることも考えられるが、以下の2つの理由により、研削加工が採用されている。
第1に、第1転造歯形面は食い付き部及び逃げ部を備える構成であるため、この第1転造歯形面を放電加工するためには、放電電極の放電用歯形面が凹面となる。上述したように、凹面では、研削工具の往復動作が阻害され、その研削加工が極めて困難となる。その結果、第1転造歯形面については、並目ねじ形成用歯形を研削加工により形成する方が、放電加工による場合と比較して、加工コストの削減を図ることができるためである。
第2に、第2転造歯形面に加え、第1転造歯形面でも、食付き角及び逃げの角を略0°に設定したのでは、被転造素材を第1及び第2転造歯形面に食い付かせることができず、転造加工そのものが不可能となるからである。
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。転造ダイス1は、円柱状の軸状素材として構成された被転造素材の外周面を塑性変形させて、並目ねじ52と細目ねじ53とが交差した状態に形成された2重ねじ51(図4参照)を一度の転造加工により転造するための工具であり、転造盤(図示せず)に固定される第1ダイス10(図1参照)と、その第1ダイス10に対して平行移動される第2ダイス20(図2参照)とを備えて構成されている。
まず、図1を参照して、第1ダイス10について説明する。図1は、本発明の一実施の形態における転造ダイス1を説明する図であり、(a)及び(b)は、それぞれ第1ダイス10の正面図及び側面図である。なお、図1(a)では、加工歯12の山頂線を実線で図示する一方、谷底線を省略して図示している。
第1ダイス10は、図1に示すように、転造に適した合金工具鋼または高速度工具鋼等の金属材料から略直方体状に形成されており、その一面側(図1(a)紙面手前側、図1(b)上側)には、被転造素材の外周面に2重ねじ51の転造を行うための転造歯形面11が設けられている。
第1転造歯形面11には、図1(a),(b)に示すように、第1ダイス10の転造方向始端側(図1(a),(b)右側)から終端側(図1(a),(b)左側)へ向けて、食付き部11a、仕上げ部11bおよび逃げ部11cが順に連続して設けられている。
食付き部11aは、第1ダイス1の第1転造歯形面11(及び、第2ダイス20の第2転造歯形面21)を被転造素材の外周面に食い付かせる為の部位であり、いわゆる食付き部として用いられる。この食付き部11aは、図1(b)に示すように、第1ダイス10の転造方向始端側(図1(a),(b)右側)から仕上げ部11b側(図1(a),(b)左側)へ向けて所定の傾斜角で上昇傾斜して形成されている。
仕上げ部11bは、食付き部11aによって被転造素材に転造された並目ねじ52(図4参照)を仕上げるための部位であり、図1(b)に示すように、第1ダイス10の支持面(図1(b)下側面)に対して略平行に形成されている。
逃げ部11cは、仕上げ部11bにより仕上げられた被転造素材を第1ダイス1の第1転造歯形面11(及び、第2ダイス20の第2転造歯形面21)から排出するための部位であり、いわゆる逃げ部として用いられている。この逃げ部11cは、図1(b)に示すように、仕上げ部11bの終端から第1ダイス10の転造方向終端端(図1(b)左側)へ向けて所定の傾斜角で下降傾斜して形成されている。
これら食付き部11a、仕上げ部11b及び逃げ部11cで構成された第1転造歯形面11には、複数のねじ山(以下、「加工歯」と称す。)12が刻設されている。これら複数の加工歯12は、並目ねじ52(図4参照)を形成するための加工歯であり、それぞれ食付き部11aの始端(図1右側)から逃げ部11cの終端(図1左側)へ向けて連続して形成されている。
これら複数の加工歯12は、図1(a)に示すように、第1ダイス10の長手方向(図1左右方向)に対して所定のリード角で食付き部11aの始端から逃げ部11cの終端へ向けて傾斜して刻設されている。なお、本実施の形態では、加工歯12のリード角は3°02′、ピッチ(隣り合う各加工歯12間の間隔)は1.5mmとされている。
次いで、図2を参照して、第2ダイス20について説明する。図2(a)及び図2(b)は、それぞれ第2ダイス20の正面図及び側面図である。なお、図2(a)では、加工歯22の山頂線を実線で、加工歯23の山頂線を破線で、それぞれ図示する一方、各加工歯22,23の谷底線を省略して図示している。
第2ダイス20は、第1ダイス10と同様に、転造に適した合金工具鋼または高速度工具鋼等の金属材料から略直方体状に形成されており、図2に示すように、その一面側(図2(a)紙面手前側、図2(b)上側)には、被転造素材の外周面に2重ねじ51の転造を行うための転造歯形面21が設けられている。
第2転造歯形面21は、図2(b)に示すように、食付き角及び逃げの角が共に0°に設定されており、これにより、仕上げ部21bのみを備えて構成されている。即ち、第2転造歯形面21は、図2(b)に示すように、転造方向始端側(図2右側)から終端側(図2左側)までの全範囲にわたって、第2ダイス20の支持面(図2(b)下側面)に対して略平行に形成されている。
第2転造歯形面21には、図2(a)に示すように、2種類の加工歯22,23がそれぞれ複数刻設されている。複数の加工歯22は、並目ねじ52(図4参照)を形成するための加工歯であり、上述した第1転造歯形面11の加工歯12と同じ形状に構成されている。一方、複数の加工歯23は、細目ねじ53(図4参照)を形成するための加工歯である。
これら加工歯22,23は、図2(a)に示すように、それぞれ第2転造歯形面21の始端(図2右側)から終端(図2左側)へ向けて連続して形成されると共に、第2ダイス20の長手方向(図1左右方向)に対して、それぞれ所定のリード角で傾斜して刻設されている。
なお、本実施の形態では、第2転造歯形面21のねじ面の長さ(図2左右方向長さ)は、上述した第1転造歯形面11の食付き部11a及び逃げ部11cの長さを含むねじ面の長さ(図1左右方向長さ)と同等に設定されている。また、加工歯22は、加工歯12と同様に、リード角が3°02′、ピッチが1.5mmとされる一方、加工歯23のリード角は1°26′、ピッチは0.75mmとされている。
ここで、図3を参照して、第2転造歯形面21の加工歯22,23の詳細構成について説明する。図3(a)は、第2転造歯形面21の部分拡大正面図であり、図3(b)から図3(f)は、それぞれ図3(a)のb−b線からf−f線における第2転造歯形面21の部分拡大断面図である。
なお、図3(a)では、加工歯22の山頂線を実線で、加工歯23の山頂線を破線で、それぞれ示す一方、谷底線を省略して図示している。また、図3(b)から図3(f)では、理解を容易とするために、加工歯23のねじ山形状を2点鎖線を用いて仮想的に図示している。また、加工歯22,23のねじ山形状を鋭角に図示しているが、実際には、山頂及び谷底は幅狭の曲面及び平坦面とされている。
図3(a)に示すように、加工歯22,23は、互いに交差して延びている。上述したように、加工歯23のピッチは、加工歯22の半分のピッチで構成されているので、転造方向(図3(a)上下方向)への位相が360°ずれるごとに、加工歯23が加工歯22を横切ることとなる。
その結果、加工歯23は、図3(b)から図3(f)に示すように、隣り合った加工歯22のうちの一方の加工歯22の傾斜面から他方の加工歯22の傾斜面へ向けて、断面積を徐々に変化させつつずれていく。なお、加工歯23は、図3(b)に示すように、その谷底が加工歯22の谷底に一致する深さ位置に形成されている。
次いで、図4を参照して、転造ダイス1により転造される2重ねじボルト50について説明する。図4(a)は、2重ねじボルト50の正面図であり、図4(b)は、2重ねじ51の部分拡大図である。なお、図4(b)では、図面を簡素化するために、2重ねじボルト50の2重ねじ50を模式的に図示している。
2重ねじボルト50は、図4(a)に示すように、六角ボルトの一種であり、いわゆるダブルナット方式による緩み止め機能をより発揮させるべく、2重ねじ51を備えて構成されている。2重ねじ51には、並目ねじ52と細目ねじ53とが互いに交差した状態で形成されている。即ち、細目ねじ53は、図4(b)に示すように、並目ねじ52を横切る状態で延びている。
かかる2重ねじボルト50の製造は、上述した転造ダイス1(第1及び第2ダイス10,20)により行われる。即ち、第1及び第2ダイス10,20の第1及び第2転造歯形面11,12間に被転造素材を挟持し、第1ダイス10に対して、第2ダイス20を平行移動(相対移動)させる。
これにより、被転造素材は、第1及び第2転造歯形面11,12上を転造方向先端側から後端側へ向けて転動し、その外周面には、加工歯12,22,23によって、並目ねじ52と細目ねじ53とが互いに交差して形成された2重ねじ51が、一度の転造加工で同時に形成される。
次いで、図5及び図6を参照して、放電電極30について説明する。図5(a)及び図5(b)は、それぞれ放電電極30の正面図及び側面図である。なお、図5(a)では、並目用放電歯32の山頂線を実線で、細目用放電歯33の山頂線を破線で、それぞれ図示する一方、各放電歯32,33の谷底線を省略して図示している。
放電電極30は、第2ダイス20の第2転造歯形面21に加工歯22,23を形成するために使用される放電加工用の電極である。この放電電極30は、放電加工に適した金属材料(例えば、銅−ダングステン合金や銀−ダングステン合金のほか、銅、黄銅、グラファイト、銅−グラファイト等)から略直方体状に形成されており、その一面側(図5(a)紙面手前側)には、第2ダイス20(第2転造歯形面21)に放電加工を施すための放電用歯形面31が設けられている。
この放電用歯形面31には、図5(a)に示すように、並目用放電歯32と細目用放電歯33とがそれぞれ複数刻設されている。複数の並目用放電歯32は、第2転造歯形面21の加工歯22(図2及び図3参照)を形成するための放電歯であり、複数の細目用放電歯33は、第2転造歯形面21の加工歯23(図2及び図3参照)を形成するための放電歯である。
これら各放電歯32,33は、図5(a)に示すように、それぞれ放電用歯形面31の始端(図5右側)から終端(図5左側)へ向けて連続して形成され、並目用放電歯32は加工歯22と、細目用放電歯33は加工歯23と、それぞれ同じリード角及びピッチを有して構成されている。
ここで、図6を参照して、放電用歯形面31の各放電歯32,33の詳細構成について説明する。図6(a)は、放電用歯形面31の部分拡大正面図であり、図6(b)から図6(f)は、それぞれ図6(a)のb−b線からf−f線における放電用歯形面31の部分拡大断面図である。
なお、図6(a)では、並目用放電歯32の山頂線を実線で、細目用放電歯33の山頂線を破線で、それぞれ示す一方、それら各放電歯32,33の谷底線を省略して図示している。一方、図6(b)から図6(f)では、理解を容易とするために、細目用放電歯33のねじ山形状を2点鎖線を用いて仮想的に図示している。また、加工歯22,23のねじ山形状を鋭角に図示しているが、実際には、山頂及び谷底は幅狭の平坦面及び曲面とされている。
図6(a)に示すように、各放電歯32,33は、上述したように、加工歯22,23と同じピッチ(即ち、細目用放電歯33のピッチは、並目用放電歯32の半分のピッチ)で構成されているので、転造方向(図6(a)上下方向)への位相が360°ずれるごとに、細目用放電歯33が並目用放電歯32を横切ることとなる。
その結果、細目用放電歯33は、図6(b)から図6(f)に示すように、並目用放電歯31の一方の傾斜面から他方の傾斜面へ向けて、その並目用放電歯32を徐々に切除しつつずれていく。なお、細目用放電歯33は、図6(b)に示すように、その山頂が並目用放電歯32の山頂に一致する高さ位置に形成されている。
次いで、転造ダイス1(第1及び第2ダイス10,20)の製造方法について説明する。第1ダイス10(図1参照)の製造に際しては、まず、合金工具鋼または高速度工具鋼等の金属材料からなるダイス素材を略直方体状に切断し熱処理を施す。そして、その熱処理を施した素材の一面側に研削加工を施して、加工歯12を形成する。これにより、ダイス素材の一面側には、食付き部11a、仕上げ部11b及び逃げ部11cで構成された第1転造歯形面11が形成される(第1転造歯形面形成工程)。
一方、第2ダイス20(図2及び図3参照)を製造するに際しては、第1ダイス10と同様に、合金工具鋼または高速度工具鋼等の金属材料からなるダイス素材を略直方体状に切断し熱処理を施すと共に、その一面側に放電電極30(図5及び図6参照)を使用して放電加工を施す。
具体的には、ダイス素材を加工液に浸漬して固定した後、放電加工機(図示せず)に装着した放電電極30の放電用歯形面31をダイス素材の一面側に対向させ、その放電用歯形面31とダイス素材の一面側との対向面間にパルス放電が発生するようにギャップ調整しつつ、放電電極30を下降移動させる。
放電電極30は、パルス放電により溶融された部分を吹き飛ばして除去しつつ下降移動して、その放電用歯形面31の形状をダイス素材の一面側に転写する。その結果、ダイス素材の一面側には、加工歯22,23が互いに交差した状態に設けられ、第2転造歯形面21が形成される(放電加工工程)。
なお、放電電極30(図5及び図6参照)を製造するに際しては、まず、電極素材の一面側に、並目ねじに対応する歯形面(並目用放電歯32)を研削し、次いで、細目ねじに対応する歯形面(細目用放電歯33)を研削する。これにより、電極素材の一面側には、並目ねじ(並目用放電歯32)と細目ねじ(細目用放電歯33)とが平面状に展開された放電用歯形面31が形成される(電極研削工程)。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
例えば、上記実施の形態における転造ダイス1は、第1ダイス10が転造盤に固定される固定側ダイスとして、第2ダイス20が第1ダイス10に対して平行移動される移動側ダイスとして、構成されが、必ずしもこれに限られるものではなく、第1ダイス10を移動側ダイスとして、第2ダイス20を固定側ダイスとして、構成することは当然可能である。また、第1及び第2ダイス10,20を共に移動側ダイスとして構成することも当然可能である。
また、上記実施の形態では、転造ダイス1が2重ねじ51(並目ねじ52及び細目ねじ53)を右ねじとして形成する場合を説明したが、かならずしもこれに限られるものではない。即ち、転造ダイス1は、並目ねじ52及び細目ねじ53を左ねじとして形成するものであっても良く、或いは、並目ねじ52及び細目ねじ53の一方を右ねじとして、他方を左ねじとして形成するものであっても良い。
また、上記実施の形態で説明した各数値は例示であり、他の数値を採用することは当然可能である。同様に、上記実施の形態では、細目ねじ51のピッチが並目ねじ52のピッチの半分で構成される場合を説明したが、かかる両ピッチの比率(1/2)を他の比率(例えば、1/3、2/3等)とすることは当然可能である。
なお、上記実施の形態で説明した並目ねじ52及び細目ねじ53は、JIS規格やISO規格の規定に従うものであることが好ましいが、他の規定や規格外のものであっても良い。即ち、請求項1又は2に記載した並目ねじ及び細目ねじとは、細目ねじが並目ねじに比べて直径に対するピッチの割合が細いねじであれば足りる趣旨であり、他の条件を要求する趣旨ではない。