JP2019044281A - 潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維、濃染性ポリエステル極細繊維、濃染性ポリエステル極細繊維の製造方法および濃染性ポリエステル極細繊維を含む織編物 - Google Patents

潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維、濃染性ポリエステル極細繊維、濃染性ポリエステル極細繊維の製造方法および濃染性ポリエステル極細繊維を含む織編物 Download PDF

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Abstract

【課題】濃染性、布帛とした場合の風合いに優れるポリエステル極細繊維を提供する。【解決手段】易溶性ポリエステル樹脂によって難溶性ポリエステル樹脂組成物が複数個に分割される潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維である。前記難溶性ポリエステル樹脂組成物は難溶性ポリエステル樹脂と生成粒子とを含み、前記生成粒子はリン化合物とアルカリ土類金属化合物とに由来するものであるか又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来するものであり、前記生成粒子の平均粒子径が0.05〜0.5μmである。【選択図】図1

Description

本発明は、繊維の横断面において、易溶性ポリエステル樹脂によって難溶性ポリエステル樹脂組成物が複数個に分割されてなり、アルカリ減量処理後に染色した際の濃染性に優れる潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維と、染色時の濃染性に優れる濃染性ポリエステル極細繊維、および前記濃染性ポリエステル極細繊維の製造方法、前記濃染性ポリエステル極細繊維を含む織編物に関する。
従来、高速紡糸を応用して、単繊維繊度が1dtex以下のポリエステルマルチフィラメント繊維を製造する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、単繊維繊度が0.2〜0.5dtexの極細繊維の製造方法が記載されている。繊維を極細化することで極めて柔らかい風合いを得ることができ、衣料用途にて好適に使用できる。
特開2003−313725 特開2011−063646
しかし、特許文献1に記載された技術において得られたポリエステルマルチフィラメントは、極細であることに起因してギラツキ感が大きいために、濃染性を向上させることが困難であり、ブラックフォーマル用途では好適に使用できない場合がある。そこで、ギラツキ感を抑制し、濃染性に優れるポリエステルマルチフィラメントを得る手法として特許文献2に記載された手法が知られている。特許文献2では、ポリエステル樹脂中に粒子を生成させ、そのポリエステル樹脂から構成される繊維に対し、アルカリ減量処理を施すことで、繊維表面の粒子を脱落させ微細孔を有することで、濃染性に優れるポリエステル繊維を得る手法が記載されている。しかし、いわゆる極細繊維においては、濃染加工に伴いアルカリ減量処理を施した時、より単繊維繊度が細く、繊維の総表面積が大きい為に減量が進行しやすく、糸質が劣化して、繊維強度が大きく低下したり、織編物とした場合に、極細繊維であることに由来する滑らかな風合いが損なわれたりするという問題がある。前記の理由により、直接紡糸にて濃染性に優れるポリエステル極細繊維を得ることは困難となっている。本発明の目的は、こうした従来技術の問題点を改良し、濃染性に優れ、織編物とした場合の風合いに優れるポリエステル極細繊維を得ようとすることである。
本発明者らは、上記の課題を解決するために、易溶性ポリエステル樹脂が難溶性ポリエステル樹脂組成物を分割してなる横断面形状繊維(分割型複合繊維)に対し、アルカリ減量処理工程により易溶性ポリエステル樹脂を溶出させて得られた濃染性ポリエステル極細繊維において、ギラツキが抑制された優れた濃染性と、強度低下抑制とを同時に達成することについて検討した。その結果、単繊維表面に特定のサイズを有する微細孔が特定個数で(高密度で)存在する濃染性ポリエステル極細繊維は、織編物とした後に染色すると、ギラツキの発生が抑えられ、ブラックフォーマル衣料用途などに好適な濃染性を得ることができ、極細繊維に起因する柔軟な生地風合いも同時に達成し得ることに加えて、アルカリ減量処理により繊維強度が低下しないことを知見し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(4)を要旨とする。
(1)易溶性ポリエステル樹脂によって難溶性ポリエステル樹脂組成物が複数個に分割される潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維であって、前記難溶性ポリエステル樹脂組成物は難溶性ポリエステル樹脂と生成粒子とを含み、前記生成粒子はリン化合物とアルカリ土類金属化合物とに由来するものであるか又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来するものであり、前記生成粒子の平均粒子径が0.05〜0.5μmである、潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維。
(2)単繊維の表面において微細孔を有する濃染性ポリエステル極細繊維であって、前記微細孔は、前記単繊維表面における2μm×2μmサイズの領域中に5個以上(12.5×10個/mm以上)であり、長軸の長さが1.0μm以下、かつ短軸の長さが0.6μm以下であり、単繊維繊度が0.01dtex〜0.5dtexである、濃染性ポリエステル極細繊維。
(3)筒編地として黒色染色加工を施したときのL値が13.5以下である、(2)の濃染性ポリエステル極細繊維。
(4)(2)または(3)の濃染性ポリエステル極細繊維を含む、織編物。
(2)又は(3)の濃染性ポリエステル極細繊維を製造する方法であって、ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応させて、ポリエステルオリゴマーを生成する工程と、前記ポリエステルオリゴマーに、リン化合物とアルカリ土類金属化合物とを添加するか、又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とを添加し、次いで重縮合反応を行って難溶性ポリエステル樹脂組成物を得る工程と、前記難溶性ポリエステル樹脂組成物を易溶性ポリエステル樹脂により複数個に分割された形状に配するように複合紡糸し、潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維を得る工程と、前記潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維をアルカリ減量処理に付する工程と、を含む、濃染性ポリエステル極細繊維の製造方法。
本発明によれば、そのままの状態では濃染性を発現していないが、アルカリ減量処理を行った後に濃染性を顕在化させることができるという潜在濃染性を有し、さらに実用上の繊維強度に優れる潜在濃染性分割型ポリエステル繊維を得ることができる。さらに、本発明の濃染性ポリエステル極細繊維は、単繊維表面に特定サイズを有する微細孔が特定個数存在することで、微細孔が存在しない場合と比較して、ギラツキの発生が抑制されて、染色時の濃染性によりいっそう優れる。また、繊維強度の低下が抑制されるとともに、生地(織編物等)にした際には、細繊度であることに起因した滑らかな風合いが発現する。さらに本発明の製造方法によれば、こうした濃染性ポリエステル極細繊維を生産性よく製造することができる。
本発明の潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維を構成する単糸の異形断面の一実施態様を示す横断面模式図である。 実施例1で得られた本発明の濃染性ポリエステル極細繊維の単繊維表面を撮影した写真である(倍率;20000倍) 比較例4で得られた極細ポリエステル繊維の単繊維表面を撮影した写真である(倍率:20000倍)。
以下、本発明について詳細に説明する。
[潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維]
本発明の潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維は、易溶性ポリエステル樹脂によって難溶性ポリエステル樹脂組成物が複数個に分割されてなる。難溶性ポリエステル樹脂組成物は難溶性ポリエステル樹脂と生成粒子とを含む。生成粒子はリン化合物とアルカリ土類金属化合物とに由来するものであるか又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来する。生成粒子の平均粒子径が0.05〜0.5μmである。
図1に示すように、本発明の潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維は、横断面において、易溶性ポリエステル樹脂Aによって、難溶性ポリエステル樹脂組成物Bが複数個に分割された構成を有するものである。分割の形態は特に限定されないが、後述のアルカリ減量処理により得られる濃染性ポリエステル極細繊維の単繊維繊度をいっそう細くするために、難溶性ポリエステル樹脂組成物が3個以上で分割されていることが好ましく、8個以上で分割されていることがより好ましい。ここで、易溶性ポリエステル樹脂ポリエステルAと、難溶性ポリエステル樹脂組成物Bとの質量比は、アルカリ溶出後に得られる本発明の濃染性ポリエステル極細繊維の単繊維繊度を特定の範囲とし易く、または紡糸性により優れるために、(易溶性ポリエステル樹脂ポリエステルA):(難溶性ポリエステル樹脂組成物B)=5:95〜50:50であることが好ましい。なお、本発明において、易溶性とはアルカリ(塩基性化合物)による溶出が容易であることをいい、難溶性とはアルカリ(塩基性化合物)による溶出が容易ではないことをいう。
易溶性ポリエステル樹脂Aは、後述の難溶性ポリエステル樹脂組成物Bに含まれる難溶性ポリエステル樹脂よりも、アルカリ等の溶剤に対する溶解速度が5倍以上速いものであることが好ましい。そのため、易溶性ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分のうち1〜3モル%がスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分であり、かつ平均分子量が1000〜10000のポリアルキレングリコールを5〜15質量%含有することが好ましい。
スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−ナトリウムスルホテレフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、5−ナトリウムスルホテレフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸、5−ホスホニウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分が、ジカルボン酸成分の1モル%以上であると、アルカリに対する溶解速度が十分に速くなる。一方、3モル%以下であると、高速時においても製糸性が良好であり糸切れ等のトラブル発生を抑制できる。
また、ポリアルキレングリコールは、平均分子量が1000〜10000のものが好ましい。1000以上であると、易溶性ポリエステル樹脂Aのガラス転移点が低下することがなく、紡糸工程で融着が発生し難くなる。10000以下であると、相溶性が良好となり均一に含有させ易くなる。
易溶性ポリエステル樹脂において、ポリアルキレングリコール含有量が5質量%以上であると、アルカリに対する溶解速度が十分に速くなる。15質量%以下であると、溶解速度を速くしつつも製糸性が良好となり、紡糸工程で糸切れ等のトラブルを抑制することができる。
難溶性ポリエステル樹脂組成物は、難溶性ポリエステル樹脂と特定サイズの生成粒子とを含有する。難溶性ポリエステル樹脂としては、テレフタル酸成分とエチレングリコール成分からなり、全構成単位の80モル%以上(好ましくは、90モル%以上、より好ましくは100モル%)がエチレンテレフタレートであるポリエステルが好適である。また、一般的に使用されている添加剤、艶消し剤、制電剤、酸化防止剤等を含有するものであってもよい。
生成粒子は、リン化合物とアルカリ土類金属化合物とに由来するか、又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来する。なお、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物を、単に金属化合物と称する場合がある。本発明において、潜在濃染性とは、そのままの状態では濃染性を発現しないが、ポリエステル繊維に対して後述のアルカリ減量処理を施して生成粒子を脱落させ、単繊維表面に微細孔を形成することで発現する濃染性をいう。
生成粒子とは、シリカ微粒子のような公知の不活性微粒子とは異なるものであり、後述のリン化合物と金属化合物とをあらかじめ反応させずに個別にポリエステル樹脂組成物の製造段階(合成反応系)に添加することで、リン化合物と金属化合物とが反応し形成される粒子である。
生成粒子の平均粒子径は0.05〜0.5μmであり、より好ましくは0.08〜0.4μmである。平均粒子径が上記範囲であると、アルカリ減量処理により濃染性ポリエステル繊維を得た場合に、後述のような適切なサイズを有する微細孔を、高密度(特定範囲の個数)で形成し得る生成粒子となり、またポリエステル繊維を紡糸する際に溶融ポリマーをろ過するフィルターが目詰まりすることもなく、圧力の上昇又は糸切れの発生を抑制することができる。生成粒子の平均粒子径は、例えば、リン化合物と金属化合物との組み合わせ、又はリン化合物と金属化合物との添加量を好ましいものとすることで、上記の範囲に制御することができる。本発明におけるリン化合物と金属化合物との好ましい組み合わせ、及びリン化合物と金属化合物との添加量については後述する。また、本発明における微細孔のサイズ及び個数の範囲についても後述する。なお、生成粒子を用いずにシリカ微粒子のような公知の不活性微粒子を添加させた場合は、凝集により微粒子が粗大化してしまい、適切なサイズを有する微細孔を高密度で形成することができず、本発明の効果を奏することはできない。
リン化合物としては、例えば、リン酸類、ホスホン酸類、又はホスフィン酸類が挙げられる。なかでも、生成粒子の平均粒子径が大きすぎることがなく、ポリエステル繊維の濃染性(又は潜在濃染性)及び製糸工程の安定性が良好となるため、脂肪族のリン酸類が好ましく、特にリン酸エステルが好ましい。濃染性に優れる観点から、リン酸エステルの中でもリン酸トリエチル(トリエチルホスフェート、TEP)が特に好ましい。
アルカリ金属化合物とは、特に、カルボン酸のアルカリ金属塩であり、その具体例として、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、又は安息香酸カリウムが挙げられる。なかでも、生成粒子の平均粒子径が最適な範囲となり、ポリエステルの重合反応時の副生成物を抑制できることから、酢酸リチウムが好ましい。
アルカリ土類金属化合物とは、特に、カルボン酸のアルカリ土類金属塩であり、その具体例として、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、シュウ酸マグネシウム、プロピオン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸カルシウム、又は酢酸マンガンが挙げられる。特にカルボン酸のマグネシウム塩を用いた場合は、ポリエステル樹脂中に形成される生成粒子の粒子径が過大となることがなく、濃染性及びポリエステル繊維の製糸工程の安定性が良好となるため好ましい。なかでも、濃染性及び取扱性に優れるために、酢酸マグネシウムが特に好ましい。
リン化合物と金属化合物との好ましい組み合わせは、生成粒子の平均粒子径を上記範囲に制御し、濃染性に顕著に優れるポリエステル繊維(潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維、濃染性ポリエステル極細繊維)を得る観点から、リン酸エステルと酢酸の金属塩との組み合わせが好ましく、より好ましくはトリエチルホスフェート(リン酸トリエチル)と酢酸マグネシウムとの組み合わせであり、さらに、これらに加えて酢酸リチウムを併用することが最も好ましい。なお、金属化合物として酢酸リチウムを単独で用いた場合は、生成粒子が粗大になり過ぎる傾向がある。すなわち、本発明においては、生成粒子の平均粒子径を上記範囲に制御し、濃染性を顕著に向上させるという相乗効果を奏するために、リン化合物としてトリエチルホスフェート(リン酸トリエチル)と、金属化合物として酢酸マグネシウム及び酢酸リチウムとの併用が最適なのである。
潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維の単繊維繊度は、製糸性又は取扱性などの観点から、例えば、1dtex以上15dtex以下であることが好ましい。潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維のフィラメント数は特に限定されるものではないが、例えば10〜80本程度であることが好ましい。
[濃染性ポリエステル極細繊維]
本発明の濃染性ポリエステル極細繊維は、上記したような潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維において、アルカリ減量することにより易溶性ポリエステル樹脂が溶出されて分割(割繊)され、同時に上記のような平均粒子径の生成粒子が表面から脱落することにより、単繊維表面に微細孔(凹凸形状)が形成されて得られるものであり、すなわち難溶性ポリエステル樹脂組成物から構成されるものである。
濃染性ポリエステル極細繊維における、微細孔と濃染性との関係性について以下に述べる。通常、ポリエステル繊維表面に光が入射すると、この入射光が反射することでギラツキが発生し、深みのある色合い又は十分な濃染性を発現することができない。特に単繊維繊度が細ければ細いほど、ギラツキの発生が顕著になり、深みのある色合い又は十分な濃染性を達成することが困難となる。しかし、本発明においては特定サイズの微細孔が高密度で存在することにより、単繊維表面に入射光が反射する際に散乱と再散乱とを繰り返した後、反射光が繊維表面に再度入射することで繊維中に吸収される光を増加させることができる。すなわち、風合い等の向上を目的として繊度を細くしても、入射光を繊維表面へ多重散乱させて反射光を低減し、優れた濃染性と深みある色合いとを発揮することができる。
入射光の多重散乱を促進させてギラツキを抑制し濃染性を高めるために、濃染性ポリエステル極細繊維の単繊維表面において、可視光の波長(380〜780nm)に適切に対応するようなサイズの微細孔が高密度に存在することが必要である。つまり本発明は、可視光が良好に多重散乱しうるための微細孔のサイズ及び個数と、濃染性との関係を初めて見出し達成されたものである。こうした微細孔のサイズを達成するためには、潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維において、生成粒子の平均粒子径を上記のような範囲とすることが肝要である。詳しくは、微細孔のサイズは長軸が1.0μm以下、かつ短軸が0.6μm以下であり、長軸が0.4〜1.0μm、短軸が0.2〜0.6μmであることが好ましい。長軸が0.5〜0.8μm、短軸が0.3〜0.5mであることがより好ましく、長軸が0.5〜0.7μm、短軸が0.4〜0.5μmであることがさらに好ましい。
さらに、入射光の多重散乱を促進させてギラツキを抑制し濃染性を高めるために、微細孔は単繊維表面における2μm×2μmサイズの領域に、5個以上(12.5×10個/mm以上)の個数で存在するものであり、10個以上(25.0×10個/mm以上)の個数で存在することがより好ましく、15個以上(37.5×10個/mm以上)の個数で存在することがさらに好ましく、20個以上(50.0×10個/mm以上)の個数で存在することが特に好ましく、25個以上(62.5×10個/mm以上)の個数で存在することが最も好ましい。2μm×2μmの領域における微細孔の個数の上限は、特に限定されないが、50個程度(125.0×10個/mm以上)であり、微細孔の個数は45個以下(112.5×10個/mm以下)であることがより好ましく、40(100.0×10個/mm以下)個以下であることがさらに好ましい。
本発明の濃染性ポリエステル極細繊維は、上述したように、微細孔のサイズおよび個数、分割後の単繊維繊度を同時に特定の範囲とすることにより、入射光を多重散乱させて反射光を低減させ、ギラツキの多い極細繊維においても顕著に優れた濃染性を達成できるうえ、織編物にした際の柔軟な風合いを同時に発現できる。具体的には、本発明の濃染性ポリエステル極細繊維の単繊維繊度は0.01dtex〜0.5dtexであり、0.01dtex〜0.3dtexであることが好ましく、0.01dtex〜0.2dtexがより好ましく、0.01dtex〜0.05dtexであることが特に好ましい。単繊維繊度が0.5dtex以下と、より細くなることで織編物にした際の風合いがより柔軟となる。0.01dtex以上であると実用上の強度等を満足するものとなる。濃染性ポリエステル極細繊維のフィラメント数は特に限定されるものではないが、例えば、100〜1500本程度であることが好ましい。
なお、本発明の濃染性ポリエステル極細繊維を筒編地とした後に黒色染色加工を施したときのL値は13.5以下であることが好ましく、13.0以下であることがより好ましい。L値の測定方法の詳細は、実施例において後述する。
[濃染性ポリエステル極細繊維の製造方法]
本発明の濃染性ポリエステル極細繊維の製造方法について、以下に述べる。本発明の製造方法は、
ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応させて、ポリエステルオリゴマーを生成する工程(工程(I))と、
前記ポリエステルオリゴマーに、リン化合物とアルカリ土類金属化合物とを添加するか、又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とを添加し、次いで重縮合反応を行って難溶性ポリエステル樹脂組成物を得る工程(工程(II))と、
繊維横断面が前記難溶性ポリエステル樹脂組成物を易溶性ポリエステル樹脂が分割するように配し、複合紡糸し、潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維を得る工程(工程(III))と、
前記潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維をアルカリ減量処理に付する工程(工程(IV))と、を含む。上述したように本明細書においては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物を金属化合物と称する場合がある。
<工程(I)>
ジカルボン酸としては、主にテレフタル酸を用いることができる。本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて他の成分が共重合されていてもよい。テレフタル酸以外の成分としては、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、p−ヒドロキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、又は1,4−シクロヘキシルジカルボン酸などが挙げられる。
ジオール成分としては、主にエチレングリコールを用いることができる。本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて他の成分が共重合されていてもよい。エチレングリコール以外の成分としては、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチレングリコール)、ジプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジメチロールプロピオン酸、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、又はポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールなどが挙げられる。
工程(I)では、ジカルボン酸(テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸)とジオール(エチレングリコールを主成分とするジオール)とをエステル化反応させて、ポリエステルオリゴマーを得る。ここで、ポリエステルオリゴマーとはジカルボン酸成分及びジオール成分が、それぞれテレフタル酸及びエチレングリコールの場合には、ビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレートを含み、さらに、一分子内にエチレンテレフタレートの繰り返し単位を2以上含み、かつ、いまだポリエチレンテレフタレートと呼べるほど極限粘度・分子量・重合度が上がっておらず、末端がカルボキシル基又はヒドロキシエチル基である化合物を表す。そのようなポリエステルオリゴマーが生成するまで、例えば、250℃の温度で3〜8時間エステル化反応を行うことができる。エステル化反応の反応率を検知するために、生成する水の量を測定することができる。
ポリエステルオリゴマーにはトリメリット酸、トリメシン酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、トリメリット酸モノカリウム塩などの多価カルボン酸、グリセリン、ペンタエリトリトール、ジメチロールエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロールプロピオン酸カリウムなどの多価ヒドロキシ化合物を、本発明の目的を達成する範囲内で共重合してもよい。
<工程(II)>
上記のポリエステルオリゴマーに金属化合物とリン化合物とを添加し、次いで重縮合反応を行って、難溶性ポリエステル樹脂組成物を得る。工程(II)においては、重縮合反応とともに、リン化合物と金属化合物との反応が起こり、ポリエステル樹脂に不溶である上述したような生成粒子が形成する。リン化合物と金属化合物の添加順については、リン化合物を先としてもよいし、リン化合物を後にしてもよく、また、リン化合物と金属化合物とを混合して同時添加としてもよい。
金属化合物の添加量は、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対して10×10−4〜100×10−4モルであることが好ましく、より好ましくは25×10−4〜80×10−4モルであり、さらに好ましくは30×10−4〜80×10−4モルであり、特に好ましくは45×10−4〜80×10−4モルである。含有量が10×10−4以上であると、ポリエステル極細繊維の濃染性を良好とするのに十分なサイズの生成粒子を形成し易く、かつポリエステル極細繊維表面に濃染性を良好とするために必要な前述の個数の微細孔を発現させ易くる。100×10−4モル以下であると、粗大粒子の発生をいっそう抑制できるので、紡糸する際に溶融したポリエステル樹脂組成物をろ過するフィルターの目詰まりを抑制でき、潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維の製糸工程の安定性をより良好に保つことができる。
リン化合物の添加量は、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対して10×10−4〜100×10−4モルであることが好ましく、より好ましくは20×10−4〜90×10−4モルであり、さらに好ましくは30×10−4〜90×10−4モルであり、特に好ましくは45×10−4〜90×10−4モルである。含有量が10×10−4モル以上であると、ポリエステル極細繊維の濃染性を良好とするのに十分なサイズの生成粒子を形成し易くなり、かつポリエステル極細繊維表面に濃染性を良好とするために必要な前述の個数の微細孔を発現し易くなる。100×10−4モル以下であると、粗大な生成粒子の発生をいっそう抑制できるので、紡糸する際に溶融したポリエステル樹脂組成物をろ過するフィルターの目詰まりを抑制でき、潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維の製糸工程の安定性をより良好に保つことができる。なお、金属化合物とリン化合物とのモル比は、製糸安定性及び潜在濃染性に優れるために、(金属化合物)/(リン化合物)=0.5〜1.5であることが好ましい。
次いで、重縮合触媒(例えば、エチレングリコール溶液)を添加し重縮合反応を行って、難溶性ポリエステル樹脂組成物を得ることができる。重縮合反応系には、必要に応じて、共重合モノマー又は着色防止剤のような添加剤を、エチレングリコール溶液又は分散液として添加してもよい。この場合、エチレングリコールを留去(減圧下でエチレングリコールを除去)することによって重縮合反応を開始し、引き続き留去しながら反応を行った後、常法によってストランドを払い出し、チップ化することができる。ここで、生成粒子の生成は重縮合触媒が添加されてから開始される。そして、溶液が留去されるにつれて生成物の溶解度が低下し、この生成物が粒子として析出する。
難溶性ポリエステル樹脂組成物の極限粘度(固有粘度)は、0.5〜1.5dL/gであることが好ましい。極限粘度がこの範囲であると、難溶性ポリエステル樹脂組成物を紡糸して得られる潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維の物性が低下せず、難溶性ポリエステル樹脂組成物又は潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維が製造し易い。
<工程(III)>
公知の紡糸方法(例えば、溶融紡糸法)を採用し、好ましい紡糸ノズルを選定し、工程(II)で得られた難溶性ポリエステル樹脂組成物と、易溶性ポリエステル樹脂とを複合紡糸(例えば、溶融紡糸)することで、マルチフィラメント糸としての潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維を得る。これを公知の方法で未延伸糸として巻き取った後に延伸を行ってもよいし、吐出後一旦巻き取ることなく延伸した後、巻き取ってもよい。また、2500〜9000m/分の速度で巻き取った上で、別途延伸せずにそのままの状態で糸加工、又は製織編に使用してもよい。
紡糸条件は特に限定されないが、例えば、紡糸温度が270〜300℃であり、引き取り速度が1000〜2000m/分で一旦巻き取った未延伸糸を、延伸温度が70〜100℃であり、熱セット温度が120〜190℃であり、延伸速度が200〜1000m/分であり、延伸倍率が未延伸糸の最大延伸倍率の0.65〜0.85倍程度で延伸するFDY法が挙げられる。最大延伸倍率とは、延伸温度80℃、熱セット温度145℃、及び延伸速度600m/分の条件下で未延伸糸が切断されるまで延伸した時の倍率をいう。
なお、紡糸及び延伸の他の手法として、例えば、POY法(2000m/分以上の高速紡糸により、半未延伸糸として巻き取る方法)、HOY法(5000m/分以上の超高速紡糸により、高配向未延伸糸として巻き取る方法)又はスピンドロー法(200m/分以上で紡糸し、一旦巻き取ることなく続けて延伸する方法)が挙げられる。
<工程(IV)>
工程(III)で得られた潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維の表面に塩基性化合物を接触させてアルカリ減量処理を施し、易溶性ポリエステル樹脂を溶出させ、難溶性ポリエステル樹脂組成物からなる部分を分割(割繊)させて極細繊維とするとともに、難溶性ポリエステル樹脂組成物から形成される単繊維表面に存在する生成粒子を脱落させて、微細孔を形成する。これにより、本発明の濃染性ポリエステル極細繊維が得られる。アルカリ減量処理により、単繊維表面において適切なサイズを有する微細孔を高密度で形成させることができ、この微細孔に起因して、優れた濃染性が発現する。この塩基性化合物との接触は、例えば塩基性化合物の水溶液で処理することにより行うことができる。塩基性化合物との接触は、潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維を必要に応じて延伸加熱処理又は仮撚加工などの処理に供した後で行ってもよいし、潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維を布帛とした後に行ってもよい。
工程(IV)で使用する塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、炭酸ナトリウム、又は炭酸カリウムなどが挙げられる。中でも水酸化ナトリウム、又は水酸化カリウムが好ましい。塩基性化合物水溶液の濃度は、塩基性化合物の種類又はアルカリ減量処理条件などによって異なるが、例えば0.1〜30質量%の範囲である。処理温度は、例えば、常温〜100℃の範囲である。アルカリ減量率は、易溶性ポリエステル樹脂を完全に減量(溶出)させる範囲で選定されるものであり、潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維中に含まれるアルカリ易溶性成分の質量比に加えて、例えば1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。アルカリ減量処理による分割と同時に生成粒子を脱落させることで、繊維強度を維持できる。
本発明の濃染性ポリエステル極細繊維を他の繊維と複合し、例えば紡績糸としたり、混繊糸としたりしてもよい。また、本発明の濃染性ポリエステル極細繊維の形態は長繊維であっても短繊維であってもよく、必要に応じて捲縮加工、仮撚加工、又は薬液による処理のような後加工が施されていてもよい。
本発明においては、繊維の分割(割繊)と同時に生成粒子の脱落を行うために、アルカリ減量処理による糸条の劣化を最小限に抑制することができるため、糸質が脆くならずに強度低下を抑制するとともに、細繊度に起因する滑らかな風合いを達成することができるうえ、ギラツキが抑制された濃染性に優れる濃染性ポリエステル極細繊維を得ることができる。
さらに、本発明の織編物は、本発明の濃染性ポリエステル極細繊維を含むものである。本発明の織編物は、衣料(特に、ブラックフォーマル)、水着、スポーツインナー、ランジェリー、又はファンデーションのような濃染性が必要とされる繊維製品に好適に用いられる。
以下、実施例に従って本発明を具体的に説明する。本発明はこの実施例に限定されない。
本発明の実施例における測定方法、又は評価方法は、以下の通りである。
(1)極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、温度20℃の条件下で、常法に基づき測定した。
(2)生成粒子の平均粒子径(メジアン径)
潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維を、ヘキサフルオロ−2−プロピルアルコールへ溶解させた溶液に対し、レーザー回折・散乱式粒度分析装置(島津製作所製、「SALD―7100」)を用いて測定した。
(3)L値
潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維を編機(小池機械製作所製、針本数:300本、釜径:3.5インチ)を用いて筒編地に編成し、後述の条件でアルカリ減量処理及び染色を施して、濃染性ポリエステル極細繊維を含む筒編地を得た。この筒編地に対し、色彩色差計(マクベス社製分光光度計 CE−3100)を用いてL値を測定した。なお、L値はその値が小さいほど深みのある濃色であることを示す。
(4)微細孔の個数
染色後の筒編地から、濃染性ポリエステル極細繊維の単繊維をランダムに10本採取した。この単繊維の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率20000倍で撮影した。撮影写真においてランダムに縦2μm×横2μmの検査領域を設定し、この領域内に存在する微細孔の数をカウントし、10本の平均値を算出した。微細孔の個数は、1mmあたりの個数にも換算した。
(5)微細孔のサイズ
上記(4)にて撮影された写真において、繊維表面に存在する微細孔をランダムに30個選定した。繊維の長手方向の長さを長軸とし、長手方向に直行する方向の長さを短軸として測定し、それぞれの平均値を求めた。
(6)紡糸性
24時間継続して操業した際の、紡糸時の糸切れの回数に従って、下記の基準で評価した。
○:糸切れ回数が0〜1回
△:糸切れ回数が2〜4回
×:糸切れ回数が5回以上
(7)アルカリ減量前の単繊維繊度
JIS−L−1013に記載の手法により測定した総繊度とフィラメント数から、アルカリ減量前の単繊維繊度を算出した。
(8)アルカリ減量後の単繊維繊度
総繊度およびフィラメント数、横断面形状における分割数、アルカリ減量率(30%)から、アルカリ減量後の単繊維繊度を算出した。
(9)筒編地風合い
潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維を編機(小池機械製作所製、針本数:300本、釜径:3.5インチ)を用いて筒編地に編成し、後述の条件でアルカリ減量処理及び染色を施して、濃染性ポリエステル極細繊維を含む筒編地を得た。得られた筒編地の風合いを手触りにて下記の基準で評価した。
○:風合いがとても柔らかい
△:風合いが柔らかい
×:風合いが硬い
ポリエステル樹脂組成物(アルカリに対して難溶性のポリエステル樹脂組成物)の製造
<ポリエステル樹脂組成物A>
ポリエステル低重合体の存在するエステル化反応器に、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のスラリー(モル比がTPA:EG=1.6)を連続的に供給し、温度250℃、圧力50hPaの条件で反応させ、エステル化反応率95%のポリエステル低重合体を連続的に得た。このポリエステル低重合体を重縮合反応缶に投入し、容器内を窒素で置換した。次いで、重縮合触媒として三酸化アンチモンをポリエステルを構成する酸成分1モルに対して2.0×10−4モル、リン化合物としてリン酸トリエチル(TEP)をポリエステルを構成する酸成分1モルに対して60×10−4モル、酢酸マグネシウムをポリエステルを構成する酸成分1モルに対して50×10−4モルとなるよう添加した。圧力を徐々に減じて1時間後に1.2hPa以下とした。この条件で攪拌しながら重縮合反応を4時間行った後、常法により払い出してペレット化し、極限粘度が0.69dL/gのポリエステル樹脂組成物Aを得た。
<ポリエステル樹脂組成物B>
金属化合物の添加を、酢酸マグネシウムをポリエステルを構成する酸成分1モルに対して25×10−4モル、及び、酢酸リチウムをポリエステルを構成する酸成分1モルに対して25×10−4モルとなるよう変更した以外は、ポリエステル樹脂組成物Aと同様に実施し、極限粘度が0.69dL/gであるポリエステル樹脂組成物Bを得た。
<ポリエステル樹脂組成物C〜F>
リン化合物及び金属化合物の添加量を、それぞれ、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対して表1記載の値となるよう変更した以外は、ポリエステル樹脂組成物Aと同様に実施した。各々の極限粘度は、ポリエステル樹脂組成物Cが0.69dL/g、ポリエステル樹脂組成物Dが0.69dL/g、ポリエステル樹脂組成物Eが0.69dL/g、ポリエステル樹脂組成物Fが0.69dL/gであった。
<ポリエステル樹脂組成物G>
金属化合物の添加を、酢酸リチウムのみを用い、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対して50×10−4モルとなるよう変更した以外は、ポリエステル樹脂組成物Aと同様に実施し、極限粘度が0.69dL/gであるポリエステル樹脂組成物Gを得た。
実施例1
アルカリに対して難溶性ポリエステル樹脂組成物と、アルカリに対して易溶性ポリエステル樹脂(スルホン酸ナトリウム0.6質量%(つまり2.0モル%)、および数平均分子量が(6000)であるポリエチレングリコール76.3質量%(つまり12.0モル%)を共重合させた共重合ポリエステル)を常用の溶融紡糸機に投入し、質量比(難溶性ポリエステル樹脂組成物:易溶性ポリエステル樹脂)が80:20となるように、易溶性のポリエステル樹脂が難溶性のポリエステル樹脂組成物を8分割する横断面形状繊維を紡糸可能な48個の紡糸孔が穿設されている口金から紡出させた。紡出した糸条を空気流により冷却し、オイリング装置(油剤供給装置)を通過させて油剤を付与した。この糸条を紡糸速度3500m/分にて引取った(105dtex48f)。得られた糸条を常用の延伸機にて、85℃の熱ローラを介して1.25倍に延伸し、さらに170℃のヒートプレートで熱処理を行って巻き取り、延伸糸である図1の(d)にて示されたような横断面形状のポリエステル繊維(潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維)を得た(84dtex48f)。
この潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維を筒編地に編成し、フレーク苛性ソーダを20g/リットルの割合で用い、温度98℃、時間30分、及び浴比1:50の条件でアルカリ減量処理を行った(減量率30%)。易溶性ポリエステル樹脂を溶出し、繊維を分割すると同時に、難溶性ポリエステル樹脂組成物表面に含まれる生成粒子を脱落させ、本発明の濃染性ポリエステル極細繊維を含む筒編地を得ることができた。
次いで、下記の手法で染色を行った。染料剤(Dystar社製、商品名「ダイアニックブラック HG−FS conc.」、分散染料)を7.5%omfの割合で用いた。浴比を1:50とし、温度135℃かつ時間30分間の条件で染色を行った。次いで、水酸化ナトリウム2g/リットル及びハイドロサルファイト2g/リットルを含む水溶液にて、80℃で20分間還元洗浄し、この筒編地を各種評価に付した。
(実施例2)
ポリエステル樹脂組成物Aに代えてポリエステル樹脂組成物Bを用いた以外は、実施例1と同様におこなった。
(実施例3〜6)
ポリエステル樹脂組成物Aに代えて、それぞれポリエステル樹脂組成物C〜Fを用いた以外は、実施例1と同様におこなった。
(実施例7)
潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維の横断面形状を、易溶性ポリエステル樹脂が難溶性のポリエステル樹脂組成物を20分割する図1の(g)にて示したような横断面形状へ変更した以外は、実施例1と同様におこなった。
(比較例1)
ポリエステル樹脂組成物Aに代えて、極限粘度0.65dL/gのポリエチレンテレフタレートにシリカ微粒子(平均粒子径0.6μm)を1.5質量%の割合で含有させた樹脂組成物を用いた以外は、実施例1と同様におこなった。
(比較例2)
ポリエステル樹脂組成物Aに代えて、極限粘度0.65dL/gのポリエチレンテレフタレートにシリカ微粒子(平均粒子径0.16μm)を1.5質量%の割合で含有させた樹脂組成物を用いた以外は、実施例1と同様におこなった。
(比較例3)
ポリエステル樹脂組成物Aに代えて、ポリエステル樹脂組成物Gを用いた以外は、実施例1と同様におこなった。
(比較例4)
ポリエステル樹脂組成物Aに代えて、極限粘度0.65dL/gのポリエチレンテレフタレートを使用した以外は、実施例1と同様におこなった。
(比較例5)
潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維の横断面形状を、易溶性のポリエステル樹脂が難溶性のポリエステル樹脂組成物を2分割する横断面形状(図1の(a))へ変更した以外は、実施例1と同様におこなった。
(比較例6)
潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維の横断面形状を易溶性ポリエステル樹脂が難溶性ポリエステル樹脂組成物を2分割する横断面形状((図1の(a)))とし得る繊維を、紡糸可能な12個の紡糸孔が穿設されている口金から紡出させ、延伸後の総繊度を134dtex(134dtex12f)とした以外は実施例1と同様に行った。
(比較例7)
アルカリに対して難溶性のポリエステル樹脂組成物を常用の溶融紡糸機に投入し、150個の紡糸孔が穿設されている口金から紡出させた。紡出した糸条を空気流により冷却し、オイリング装置(油剤供給装置)を通過させて油剤を付与した。この糸条を紡糸速度3500m/分にて引取った(34dtex150f)。得られた糸条を常用の延伸機にて、85℃の熱ローラを介して1.25倍に延伸し、さらに170℃のヒートプレートで熱処理を行って巻き取り、延伸糸であるポリエステル繊維(潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維)を得た(27dtex150f)。
実施例1〜7、及び比較例1〜6の評価を表1にまとめて示す。
表1から明らかなように、実施例1〜7では、形成される生成粒子の平均粒子径が適切な範囲であったため、微細孔のサイズ及び個数が本発明にて規定する範囲を満足範囲とあった。そのため、細繊度であってもギラツキが抑制され、L値が十分に低いものとなり、濃染性に優れるポリエステル繊維を得ることができた。また、アルカリ減量による分割後の単繊維繊度が細く筒編地の風合いも優れる結果であった。
特に、実施例1では、実施例3と比較すると金属化合物およびリン化合物の添加量が多く微細孔の個数が多かったため、L値がより低く濃染性により優れていた。なお、図2は実施例1で得られた本発明の濃染性ポリエステル繊維の単繊維表面を撮影した写真である(倍率;20000倍)。図2から理解できるように、実施例1では単繊維表面に特定の微細孔が高密度で存在するものであることが明らかである。
実施例2においては、実施例5と比較すると酢酸マグネシウムと酢酸リチウムの比率が異なるため、平均粒子径が大きく、微細孔の短軸も長いものであった。そのため、L値がより低く、濃染性にいっそう優れていた。また、実施例6と比較すると金属化合物とリン化合物の比率が異なるため、微細孔の数が多いものであった。そのため、L値がより低く、濃染性に優れていた。
実施例4においては、実施例1と比較すると、金属化合物およびリン化合物の添加量が多く、微細孔の個数がより多かったため、L値がより低く濃染性に特に優れていた。
実施例7においては、実施例1と比較すると、アルカリ減量による分割後の単繊維繊度が低く、筒編地の風合いがより優れる結果となった。実施例7から理解できるように、本発明においては、単繊維繊度がより細いものであってもL値が13以下であり、ギラツキが抑制された十分な濃染性を発現することができる。
比較例1及び比較例2においては、シリカ微粒子の一次粒子径に関わらず、シリカ微粒子の凝集により微細孔が過大となり、微細孔の個数が過少となったため、濃染性に劣るポリエステル繊維しか得られなかった。また、凝集による粗大粒子に起因すると思われる切糸が発生し、紡糸操業性にも劣る結果となった。
比較例3においては、リン化合物とアルカリ金属化合物とに由来するものであり、アルカリ土類金属化合物を含まない生成粒子であることから、形成される生成粒子の平均粒子径が過大であり、微細孔のサイズ及び個数が本発明にて規定する範囲から外れた。そのため、L値が大きくなり濃染性に劣るポリエステル繊維しか得られなかった。また、パック圧の上昇が速く紡糸操業性に劣る結果となった。
比較例4においては、ギラツキ感が大きく、濃染性に劣る繊維しか得られないという結果となった。なお、図3は比較例4で得られた異形断面ポリエステル繊維の単繊維表面を撮影した写真である(倍率:20000倍)。図3から理解できるように、比較例4においては繊維表面に微細孔が存在しないため、濃染性に劣るものであることが明らかである。
比較例5においては、アルカリ減量による分割後の単繊維繊度が高く、筒編地の風合いに劣る結果となった。
比較例6においては、アルカリ減量による分割後の単繊維繊度が比較例5に比べ更に高く、筒編地の風合いにより劣る結果となった。
比較例7においては、アルカリ減量前の単繊維繊度が低い為、直接紡糸による紡糸中に切れ糸が多く発生し、紡糸操業性に劣る結果であった。また、直接紡糸法により得られた極細繊維に対してアルカリ減量を施すことで糸強度が著しく低下したために、得られたポリエステル繊維を用いて筒編地を作製することが不可能であった。
A 易溶性ポリエステル樹脂
B 難溶性ポリエステル樹脂組成物

Claims (5)

  1. 易溶性ポリエステル樹脂によって難溶性ポリエステル樹脂組成物が複数個に分割されてなる潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維であって、
    前記難溶性ポリエステル樹脂組成物は難溶性ポリエステル樹脂と生成粒子とを含み、
    前記生成粒子はリン化合物とアルカリ土類金属化合物とに由来するものであるか、又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来するものであり、
    前記生成粒子の平均粒子径が0.05〜0.5μmであることを特徴とする、潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維。
  2. 単繊維の表面において微細孔を有する濃染性ポリエステル極細繊維であって、
    前記微細孔は、前記単繊維表面における2μm×2μmサイズの領域中に5個以上
    (12.5×10個/mm以上)であり、長軸の長さが1.0μm以下、かつ短軸の長さが0.6μm以下であり、単繊維繊度が0.01dtex〜0.5dtexであることを特徴とする、濃染性ポリエステル極細繊維。
  3. 筒編地として黒色染色加工を施したときのL値が13.5以下であることを特徴とする、請求項2に記載の濃染性ポリエステル極細繊維。
  4. 請求項2または3に記載の濃染性ポリエステル極細繊維を含むことを特徴とする、織編物。
  5. 請求項2又は請求項3に記載の濃染性ポリエステル極細繊維を製造する方法であって、
    ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応させて、ポリエステルオリゴマーを生成する工程と、
    前記ポリエステルオリゴマーに、リン化合物とアルカリ土類金属化合物とを添加するか、又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とを添加し、次いで重縮合反応を行って難溶性ポリエステル樹脂組成物を得る工程と、
    前記難溶性ポリエステル樹脂組成物を易溶性ポリエステル樹脂により複数個に分割された形状に配するように複合紡糸し、潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維を得る工程と、
    前記潜在濃染性分割型ポリエステル複合繊維をアルカリ減量処理に付する工程と、を含むことを特徴とする、濃染性ポリエステル極細繊維の製造方法。
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