以下、本発明を、液体を吐出する装置であるインクジェット記録装置に使用される液体吐出ヘッドに適用した一実施形態について説明する。
なお、本発明は、以下に例示する実施形態によって限定されるものではない。
インクジェット記録装置は、騒音が極めて小さくかつ高速印字が可能であり、更には画像形成用の液体であるインクの自由度があり、安価な普通紙を使用できるなど多くの利点がある。そのために、インクジェット記録装置は、プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像形成装置として広く展開されている。
インクジェット記録装置において使用する液体吐出ヘッドは、画像形成用の液体(インク)を吐出するノズルと、ノズルに連通する加圧液室と、加圧液室内のインクを吐出するための圧力を発生する圧力発生手段とを備えている。本実施形態における圧力発生手段は、加圧液室の壁面の一部を構成する振動板と、その振動板を変形させる圧電体からなる薄膜の電気機械変換膜を有する電気機械変換素子と、を備えたピエゾ方式の圧力発生手段である。この電気機械変換素子は、所定の電圧が印加されることにより自らが変形し、加圧液室に対して振動板の表面を変位させることで加圧液室内の液体に圧力を発生させる。この圧力により、加圧液室に連通したノズルから液体(インク滴)を吐出させることができる。
前記電気機械変換膜を構成する圧電体は、電圧の印加によって変形する圧電特性を有する材料である。この圧電体として、本実施形態では、ペロブスカイト結晶構造を有する三元系金属酸化物であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zrx,Ti1−x)O3)を用いている。このPZTからなる電気機械変換膜を有する電気機械変換素子に駆動電圧を印加したときの振動モードとしては、前述のように複数種類の振動モードがある。例えば、圧電定数d33による膜厚方向の変形を伴う縦振動モード(プッシュモード)や、圧電定数d31によるたわみ変形を伴う横振動モード(ベンドモード)がある。更には、膜の剪断変形を利用したシェアモード等もある。
前記電気機械変換膜を有する電気機械変換素子は、後述のように、半導体プロセスやMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の技術を利用し、Si基板に加圧液室及び電気機械変換素子を直接作り込むことができる。これにより、電気機械変換素子を、加圧液室内に圧力を発生させる薄膜の圧電アクチュエータとして形成することができる。
図1及び図2は、それぞれ、実施形態における電気機械変換素子を有する圧電アクチュエータの概略構成の一例を示す断面図である。
図1の構成例において、圧電アクチュエータ20は、基板21と振動板22と電気機械変換素子200とが積層されている。電気機械変換素子200は、基板21上に振動板22を介して形成された第1の電極としての下部電極23と、下部電極23上に形成された電気機械変換膜24と、電気機械変換膜24上に形成された第2の電極としての上部電極25とを有している。
下部電極23は、電気機械変換膜24の第1の表面としての下面に直接又は下地層などの中間層を介して設けられた金属層などからなる電極層である。また、上部電極25は、電気機械変換膜24の第2の表面としての上面に直接又は中間層を介して設けられた金属層などからなる電極層である。下部電極23と上部電極25との間に電圧を印加することにより、電気機械変換膜24の膜厚方向に電界を形成することができる。
ここで、下部電極23及び上部電極25はそれぞれ、電気的な抵抗が十分小さい金属層と、導電性を有する酸化物電極層とを組み合わせたものであってもよい。例えば図2の構成例において、下部電極23は、振動板22側の金属層231と、電気機械変換膜24側の酸化物電極層232とを積層したものである。また、上部電極25は、電気機械変換膜24側の酸化物電極層251と、金属層252とを積層したものである。酸化物電極層232,251を設けることは、圧電アクチュエータとして機能させた際、連続的に駆動させ続けたときの電気機械変換素子200の変形量(表面変位量)の低下を抑制する上で効果的である。酸化物電極層232,251は、例えば、チタン酸鉛(PT)からなるシード層であってもよく、この場合は、電気機械変換素子200の変形量(表面変位量)の低下をより確実に抑制することができる。
図3は、本実施形態の電気機械変換素子200を有する圧電アクチュエータ20を例えば液体吐出ヘッドなどに用いる際の具体的構成の一例を示す図であり、図3(a)は、実施形態に係る液体吐出ヘッドに設けた電気機械変換素子の概略構成例を示す断面図であり、図3(b)は、その電気機械変換素子の上面図である。
なお、図3(b)については、電気機械変換素子200の構成が分かり易いように、第1、第2の絶縁保護膜(層間絶縁膜)31,38については記載を省略している。また、図3(a)は、図3(b)のI−I’の断面図である。
図3(a)に示すように、圧電アクチュエータ20は、下部電極23と電気機械変換膜24と上部電極25とを備えた電気機械変換素子200を有している。また、図3(b)に示すように、かかる構成の複数の電気機械変換素子200が、基板21の面に沿った所定の方向に配列するように設けられている。この複数の電気機械変換素子200は、基板21上に振動板22を介して形成されている。
下部電極23及び上部電極25のうちのいずれか一方の電極については、複数の電気機械変換素子200について共有に用いられるように1つの共通電極として構成することができる。この場合、下部電極23及び上部電極25のうちの他方の電極はそれぞれの電気機械変換素子200に対応した互いに独立した個別電極として別個に構成されることとなる。なお、図3の構成例では、下部電極23を共通電極として構成し、上部電極25を電気機械変換素子200毎に独立した別個の個別電極として構成した例を示している。
上部電極25及び下部電極23の上の所定エリアには層間絶縁膜としての第1の絶縁保護膜31が設けられている。第1の絶縁保護膜31は後述するように無機化合物により構成してもよい。また、第1の絶縁保護膜31の所定位置には、上部電極25および下部電極23が他の電極と電気的に接続できるようにコンタクトホール32が形成されている。
図3において、個別電極である上部電極25はそれぞれ、外部回路に接続するための個別電極パッド34に接続されている。上部電極(個別電極)25と個別電極パッド34との間は例えば接続部材35により電気的に接続することができる。
また、図3において、共通電極である下部電極23は、外部回路に接続するための共通電極パッド36に接続されている。と接続された構成とすることができ、下部電極(共通電極)23と共通電極パッド36との間は例えばパッド間接続部材37により電気的に接続することができる。
共通電極パッド36及び個別電極パッド34の上には、第2の絶縁保護膜38が設けられている。第2の絶縁保護膜38は後述のように例えば無機化合物により構成してもよい。また、第2の絶縁保護膜38には、共通電極パッド36及び個別電極パッド34それぞれの一部を露出させる開口部が設けられている。
次に、前記構成の電気機械変換素子200の製造工程において電気機械変換膜24に分極処理を施す方法について説明する。
図4は、実施形態に係る電気機械変換素子の製造工程において電気機械変換膜の分極処理に用いられる分極処理装置40の概略構成例を示す斜視図である。
図4において、分極処理装置40は、コロナ電極41と、グリッド電極42と、対向電極を有するステージ43とを備えている。コロナ電極41及びグリッド電極42はそれぞれコロナ電極用電源411及びグリッド電極用電源421に接続されている。コロナ電極41は例えばワイヤー形状を有するものであってもよい。グリッド電極42については、メッシュ加工を施し、コロナ電極41に高電圧を印加したときに、コロナ放電により発生するイオンや電荷等を効率良く下のサンプルステージに降り注ぐように構成してもよい。また、放電処理対象である試料(電気機械変換素子)に対して電荷が流れやすくするように、試料を設置するステージ43にはアース線44が接続された構成にしてもよい。また、ステージ43には、電気機械変換素子を加熱できるように温調機能を設けてもよい。この際の加熱温度は特に限定されるものではないが、最大350[℃]まで加熱できるように構成してもよい。
コロナ電極41及びグリッド電極42それぞれに印加する電圧の大きさや、試料と各電極間の距離は特に限定されるものではない。例えば、試料に対して十分に分極処理を施すことができるように、コロナ電極41及びグリッド電極42それぞれに印加する電圧の大きさや試料と各電極間の距離は試料に応じて調整し、コロナ放電の強弱をつけるようにしてもよい。
図5は、分極処理装置40における分極処理の説明図である。
図5に示すように、コロナ電極41(例えば、コロナワイヤー)を用いてコロナ放電させる場合、分極処理は、大気中の分子401をイオン化させることで陽イオンを発生する。発生した陽イオンは、電気機械変換素子200の例えば共通電極パッドや個別電極パッドを介して電気機械変換膜に流れ込み、電気機械変換素子200に電荷が蓄積した状態となる。そして、上部電極と下部電極との電荷差によって内部電位差が生じて、分極処理が行われる。
前記分極処理に必要な電荷量Qについては特に限定されるものではないが、例えば電気機械変換素子200に1.0×10−8[C]以上の電荷量が蓄積されるようにしてもよい。また、電気機械変換素子200に4.0×10−8[C]以上の電荷量が蓄積されるようにしてもよい。このような範囲の電荷量を電気機械変換素子200に蓄積させることにより、より確実に後述の分極率となるように分極処理を行うことができる。蓄積される電荷量が、1.0×10−8[C]以上とすることで、電気機械変換素子の連続駆動後の変位劣化について十分な特性が得られる。
電気機械変換素子200の分極処理の状態については、電気機械変換素子200のP−Eヒステリシスループから判断することができる。
図6は、電気機械変換素子200の分極処理の状態を判断することができるP−Eヒステリシスループの例を示している。図6(a)は、分極処理を行う前の電気機械変換素子のP−Eヒステリシスループの一例を示す特性図であり、図6(b)は、分極処理後の電気機械変換素子のP−Eヒステリシスループの一例を示す特性図である。
図6(a)及び(b)に示すように、電気機械変換素子に電圧を印加して±150[kV/cm]の電界強度かけてヒステリシスループを測定した場合に、電気機械変換素子に電圧を印加する前の0[kV/cm]時の分極をPiniとする。また、電気機械変換素子に+150[kV/cm]の電圧印加後に0[kV/cm]まで戻したときの0[kV/cm]時の分極をPrとする。このとき、Pr−Piniの値を「分極率」として定義し、この分極率により、分極の状態が適切であるか否かを判断することができる。具体的には、図6(b)に示すように、分極処理を行った後の電気機械変換素子について測定した分極率Pr−Piniの値が所定値以下になった場合に、分極の状態が適切であると判断することができる。例えば、分極率Pr−Piniの値が10[μC/cm2]以下になった場合に分極の状態が適切であると判断してよい。また、分極率Pr−Piniの値が5[μC/cm2]以下となった場合に、分極の状態が適切であると判断してよい。Pr−Piniの値が十分に小さくなっていない場合は、分極が十分になされておらず、電気機械変換素子の所定駆動電圧に対する変形量(表面変位量)が安定しない状態となる。また、電気機械変換素子の連続駆動後の変形量(表面変位量)の劣化を抑制できない場合がある。
次に、本実施形態における電気機械変換素子の各部材の具体例について説明する。
上述したように、本実施形態の電気機械変換素子200は、基板21上に振動板22を介して形成することができる。基板21の材料としては特に限定されるものではないが、加工の容易性や、入手しやすさ等を鑑みると、シリコン単結晶基板を用いることが好ましい。シリコン単結晶基板としては、面方位が(100)、(110)、(111)の3種あるが、特に限定されるものではなく、加工の内容等に応じて適切な基板を選択することができる。
例えば、基板21に対してエッチング加工を要する場合には、エッチング加工の内容にあわせて所定の面方位を有する基板を選択することができる。後述する液体吐出ヘッドを形成する場合を例に説明すると、通常エッチングにより基板に加圧液室を作製するが、この際のエッチング方法としては一般的に異方性エッチングが用いられている。ここで、異方性エッチングとは、結晶構造の面方位に対してエッチング速度が異なる性質を利用したものであり、例えばKOH等のアルカリ溶液に浸漬させた異方性エッチングでは、(100)面に比べて(111)面は約1/400程度のエッチング速度となる。従って、面方位(100)では約54[°]の傾斜を持つ構造体が作製できるのに対して、面方位(110)では深い溝を掘ることができ、より剛性を保ちつつ、配列密度を高くすることができることが分かっている。このため、例えば液体吐出ヘッドを構成する基板の場合には(110)の面方位を持ったシリコン単結晶基板を好ましく用いることができる。
基板21の厚さは用途等により選択することができ、特に限定されるものではないが、例えば、100〜600[μm]の厚みを持つものであってもよい。
振動板22としては、本実施形態のような液体吐出ヘッドを形成する場合、電気機械変換素子200によって発生した力を受けて、下地膜である振動板22が変形(表面変位)して、圧力室のインク滴を吐出させる機能を有する。そのため、下地膜としては所定の強度を有するものでもよい。振動板22の材料としては、Si、SiO2、Si3N4をCVD(Chemical Vapor Deposition)法により作製したものが挙げられる。さらに、前述の図1に示すような下部電極23及び電気機械変換膜24の線膨張係数に近い線膨張係数を有する材料を選択してもよい。特に、電気機械変換膜24の材料としては、一般的にPZTが使用されることから、PZTの線膨張係数8×10−6[1/K]に近い5×10−6〜10×10−6[1/K]の線膨張係数を有する材料で振動板22を形成してもよい。さらには、7×10−6〜9×10−6[1/K]の線膨張係数を有する材料で振動板22を形成してもよい。振動板22の具体的な材料は、例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム及びそれらの化合物等である。これらの材料を用い、スパッタ法により、又はゾルゲル(Sol−gel)法を用いてスピンコーターにより、振動板22を作製することができる。振動板22の膜厚は0.1〜10[μm]の範囲でもよいし、さらには0.5〜3[μm]の範囲でもよい。この範囲内とすることで、前述の圧力室の加工がしやすくなり、さらに下地膜として変形(表面変位)しやすくなり、液体を吐出する装置に用いた場合に液体(インク滴)の吐出が安定する。
また振動板22の膜応力によって、その上に作製される電気機械変換膜24の膜物性(結晶性)に影響を与える。振動板22の応力については、Si等からなる基板21上に単層膜を成膜し、成膜前後の反り量を評価することで算出することができる。振動板22では、基板21上に振動板22を構成する全ての単層膜を積層した直後の基板21の反り量を見たときに、上に凸となるように応力設計することが好ましい。すなわち、振動板22では、振動板22全体として圧縮応力を有するように、各単層膜の材料を選択することが好ましい。
これは、電気機械変換膜24や下部電極23として用いる材料の多くが引張応力を有しているためである。例えば、電気機械変換膜24としてPZT膜を用いる場合や下部電極23としてPt(白金)膜を用いる場合には、PZT膜やPt膜が引張応力を有している。このため、これらの引っ張り応力を打ち消すように、振動板22の膜の内部応力としては全体的に圧縮応力を有する膜構成で構成されるとアクチュエータの特性として良好な品質をえることができる。
振動板22は、圧縮応力を有する単層膜を少なくとも1層含む積層膜から形成する。すなわち、振動板22は、圧縮応力を有する単層膜及び引張応力を有する単層膜の両方を有する構成、若しくは、全て圧縮応力のみの構成とする。
下部電極23及び上部電極25については、特に限定されるものではなく、任意に選択することができる。例えば、下部電極23及び上部電極25は、金属膜や酸化物電極層により構成することができ、特に金属膜と酸化物電極層の積層体で構成してもよい。また、前述の図2に示したように、下部電極23及び上部電極25はそれぞれ、電気的な抵抗が十分小さい金属層231,252を有してもよい。金属層231,252の金属材料としては、高い耐熱性と低い反応性を有する白金が用いることができる。但し、鉛に対しては十分なバリア性を持つとはいえない場合もあるため、イリジウムや白金−ロジウムなどの白金族元素や、これら合金膜を金属層231,252に使用してもよい。また、白金を使用する場合には下地(特にSiO2)との密着性が悪いために、中間層としてTi、TiO2、Ta、Ta2O5、Ta3N5等を先に積層することが好ましい。作製方法としては、スパッタ法や真空蒸着法等を用いることができる。膜厚は、0.05〜1[μm]の範囲に設定してもよいし、0.1〜0.5[μm]の範囲に設定してもよい。
また、前述の図2に示したように、下部電極23及び上部電極25は、電気機械変換膜24との界面に導電性を有した酸化物電極層232,251を有してもよい。酸化物電極層232,251の材料としては、例えばSrRuO3やLaNiO3を用いることができる。酸化物電極層232,251の成膜方法についても特に限定されるものではないが、例えばスパッタ法により成膜することができる。
下部電極23を構成する酸化物電極層232は、その上に作製する電気機械変換膜24の配向制御にも影響してくるため、配向優先させたい方位によっても選択される材料は異なってくる。本実施形態においては、電気機械変換膜を(100)面に優先配向させたいため、酸化物電極層232としては、LaNiO3、TiO2又はPbTiO3からなるシード層を金属層231上に作製し、その後電気機械変換膜を形成してもよい。
上部電極25を構成する酸化物電極層251としてはSROを用いることができる。酸化物電極層251の膜厚は20[nm]〜80[nm]の範囲でもよいし、また30[nm]〜50[nm]の範囲でもよい。この膜厚範囲とすることで、初期の変形量(表面変位量)や経時おける変形量(表面変位量)の劣化特性については十分な特性が得られる。さらに、その後に成膜した電気機械変換膜の絶縁耐圧が得られ、リークを抑制することができる。
電気機械変換膜24の材料としては、Pbを含んだ酸化物(例えば、PZT)で形成することができる。PZTとは、ジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸鉛(PbTiO3)の固溶体で、その比率により特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成はPbZrO3とPbTiO3の比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53,Ti0.47)O3、一般的にはPZT(53/47)とも示される。
電気機械変換膜24の材料としては、前記PZT以外の複合酸化物としてチタン酸バリウムなども挙げられる。この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。
本実施形態では、電気機械変換膜24としてPZTを使用し、PZTの(100)面を優先配向とする場合について例示している。この場合、Zr/Tiの組成比率:Ti/(Zr+Ti)は、0.40(40%)以上0.55(55%)以下の範囲に設定し、好ましくは、0.45(45%)以上0.53(53%)以下の範囲に設定する。
電気機械変換膜24の作製方法としては特に限定されるものではないが、例えばスパッタ法により、又は、ゾルゲル(Sol−gel)法を用いてスピンコーターにより作製することができる。いずれの場合でも、パターニング化が必要となるので、フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。
電気機械変換膜24をゾルゲル(Sol−gel)法により作製する場合は、例えば次の手順で作製する。まず、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒としてメトキシエタノールにこれらの出発材料を溶解させ均一溶液を得ることで、PZT前駆体溶液が作製できる。金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定化剤を適量、添加してもよい。
下部電極等が形成された下地基板全面に電気機械変換膜を得る場合、スピンコートなどの溶液塗布法により塗膜を形成し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことで得られる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜を得るには一度の工程で100[nm]以下の膜厚が得られるように前駆体溶液の濃度を調整することが好ましい。
また、インクジェット工法により作製していく場合については、酸化物電極層232と同様の作製フローにてパターニングされた膜を得ることができる。表面改質材については、下地の金属層231の材料によっても異なるが、酸化物を下地とする場合は、主にシラン化合物を選定し、金属を下地とする場合は主にアルカンチオールを選定することができる。
電気機械変換膜24の膜厚としては特に限定されるものではなく、要求される変形量(表面変位量)等により任意に選択することができる。例えば、その膜厚は0.5〜5[μm]の範囲でもよいし、さらには1〜2[μm]の範囲でもよい。このような範囲の膜厚とすることにより十分な変形量(表面変位量)を発生させることができる。また、前記範囲の膜厚であれば、積層して形成する工程数も必要以上に多くはならないため、生産性良く製造することができる。
第1の絶縁保護膜31、第2の絶縁保護膜38及び接続部材35,37は、例えば次のように作製することができる。
第1の絶縁保護膜31は、成膜及びエッチングの工程による電気機械変換素子200へのダメージを防ぐとともに、大気中の水分が透過しづらい材料を用いてもよい。このため、例えば緻密な無機材料(無機化合物)を用いてもよい。また、第1の絶縁保護膜31は、薄膜で高い保護性能を得るには、酸化物、窒化物、炭化膜を用いてもよい。また、第1の絶縁保護膜31と接触する下地の材料(上部電極25及び下部電極23及び電気機械変換膜24の材料や基板21上面の材料)と密着性が高い材料であってもよい。このような材料としては、例えば、Al2O3、ZrO2、Y2O3、Ta2O3、TiO2などのセラミクス材料に用いられる酸化膜が挙げられる。
第1の絶縁保護膜31の成膜方法は特に限定されるものではないが、電気機械変換素子200を損傷しない成膜方法を選択してもよい。例えば、蒸着法又はALD法を用いることができ、中でも適用できる材料の選択肢が多いALD法により成膜してもよい。特にALD法によれば、膜密度の非常に高い薄膜を作製することができ、プロセス中での電気機械変換素子へのダメージを抑制することができる。
第1の絶縁保護膜31の膜厚は特に限定されるものではないが、電気機械変換素子の保護性能を確保できる十分な厚さであり、かつ、電気機械変換素子の変位を阻害しないように可能な限り薄くしてもよい。例えば、第1の絶縁保護膜31の膜厚は20[nm]以上、100[nm]以下の範囲であってもよい。この範囲とすることで、電気機械変換素子200の変位を阻害することなく、さらに電気機械変換素子200の保護層としての機能が十分に得られる。
また、第1の絶縁保護膜31を複数層からなる構成としてもよい。例えば2層から構成する場合、2層目の絶縁保護膜を厚くするため、電気機械変換素子の振動変位を著しく阻害しないように上部電極付近において2層目の絶縁保護膜に開口部を形成する構成も挙げられる。この場合、2層目の絶縁保護膜としては、任意の酸化物、窒化物、炭化物またはこれらの複合化合物を用いることができる。例えば半導体デバイスで一般的に用いられるSiO2を用いてもよい。成膜は任意の手法を用いることができ、CVD法、スパッタリング法等により成膜することができる。特に電極形成部等のパターン形成部の段差被覆を考慮すると等方的に成膜できるCVD法を用いてもよい。2層目の絶縁保護膜の膜厚についても特に限定されるものではなく、各電極に印加される電圧を考慮し、絶縁破壊されない膜厚を選択することができる。例えば、絶縁保護膜に印加される電界強度を、絶縁破壊しない範囲に設定する。さらに、絶縁保護膜の下地の表面性やピンホール等を考慮すると膜厚は200[nm]以上にしてもよく、更には500[nm]以上にしてもよい。
接続部材35,37の材料は特に限定されるものではなく、各種導電性材料を用いることができる。例えば、接続部材35,37は、Cu、Al、Au、Pt、Ir、Ag合金、Al合金から選択されるいずれかの金属電極材料で構成することができる。
また、接続部材35,37の作製方法についても特に限定されるものではなく、任意の方法により形成することができる。例えば、接続部材35,37は、スパッタ法又はスピンコート法を用いて作製し、その後フォトリソエッチング等により所望のパターンを得ることができる。
また、接続部材35,37の膜厚についても特に限定されるものではなく、例えば0.1[μm]以上20[μm]以下の範囲でもよく、さらには、0.2[μm]以上10[μm]以下の範囲でもよい。この範囲とすることで、電極に十分な電流を流すことができ、さらに製造プロセスに要する時間を低下させることができる。
また、第1の絶縁保護膜31を設ける場合、接続部材35,37はそれぞれ、第1の絶縁保護膜31にコンタクトホール部を設け、このコンタクトホール部において共通電極及び個別電極と接続することができる。コンタクトホール部のサイズは特に限定されるものではないが、例えば10[μm]×10[μm]の大きさとすることができる。また、コンタクトホール部における接触抵抗として、共通電極については10[Ω]以下、個別電極については1[Ω]以下となるように構成してもよい。このような範囲とすることにより、各電極に十分な電流を安定して供給できる。特に、共通電極については5[Ω]以下、個別電極については0.5[Ω]以下としてもよい。この範囲とすることで、電気機械変換素子200を後述する液体吐出ヘッド(図19参照)に用いたときに、十分な電流を供給することができる。
第2の絶縁保護膜38は、接続部材35,37を保護する機能を有するパッシベーション層である。第2の絶縁保護膜38は、個別電極パッド34及び共通電極パッド36の部分を除き、接続部材35,37上を被覆する。これにより、これらの接続部材35,37に安価なAlもしくはAlを主成分とする合金材料を用いた場合でも、電気機械変換素子200の信頼性を高めることができる。また、これらの接続部材35,37に安価な材料を用いることができるため、電気機械変換素子200のコストを低減することができる。
第2の絶縁保護膜38の材料としては、特に限定されるものではなく、任意の無機材料、有機材料を使用することができ、例えば透湿性の低い材料を使用してもよい。無機材料としては、例えば、酸化物、窒化物、炭化物等を用いることができる。また、有機材料としては、例えば、ポリイミド、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。但し、有機材料の場合、絶縁保護膜として機能させるためには、その膜厚が厚くなり、パターニングを行うことが困難な場合がある。このため、薄膜で配線保護機能を発揮できる無機材料を用いてもよい。特に、接続部材35,37としてAl配線を用いた場合には、第2の絶縁保護膜としては半導体デバイスで実績のあるSi3N4を用いてもよい。
第2の絶縁保護膜38の膜厚は200[nm]以上としてもよく、さらには500[nm]以上としてもよい。この範囲とすることで、十分なパッシベーション機能を発揮でき、接続部材の腐食による断線を抑制することができる。
また、第2の絶縁保護膜38は、電気機械変換素子200上に開口部をもつ構造であってもよい。また、後述する液体吐出ヘッドに適用する場合、第2の絶縁保護膜38はさらに振動板の部分にも開口部を有する構造としてもよい。これにより、より高効率かつ高信頼性の電気機械変換素子とすることができる。
また、第2の絶縁保護膜38は、共通電極パッド36及び個別電極パッド34を露出するための開口部を形成してもよい。この開口部の形成には、フォトリソグラフィー法とドライエッチングを用いることができる。
また、共通電極パッド36及び個別電極パッド34の面積については特に限定されるものではない。但し、共通電極パッド36及び個別電極パッド34と第2の絶縁保護膜38とを形成した後に分極処理を行う場合、各パッド部36、34から電荷が供給されるため、分極処理が十分に行えるように面積を設定してもよい。例えば、各パッド部の大きさは50×50[μm2]以上に設定してもよく、さらには100×300[μm2]以上に設定してもよい。共通電極パッド36及び個別電極パッド34の面積を、前記範囲とすることで、十分な分極処理を行うことができ、連続駆動後の経時における変形量(表面変位量)の劣化を低減することができる。
次に、本実施形態におけるPZTからなる電気機械変換膜24の結晶配向性と電気機械変換素子200としての特性との関係について説明する。
なお、本明細書において、電気機械変換膜における厚さ方向と直交するように配向したある特定の結晶面の「配向率」は、次のような測定によって定義された値である。すなわち、電気機械変換膜についてX線回折(XRD:X‐Ray Diffraction)法のθ−2θスキャン測定を行う。そして、得られた2θスペクトル曲線上で観測される前記特定の結晶面に対応するピークの面積と、2θスペクトル曲線上で観測されるすべてのピーク又は主要なピークそれぞれの面積とを求める。この特定の結晶面に対応するピークの面積を前記すべてのピーク又は主要なピークそれぞれの面積の和で割った値を百分率で表したものが、前記特定の結晶面の「配向率」である。
また、本明細書において、電気機械変換膜の(hkl)面の配向度ρ(hkl)は、ρ(hkl)=I(hkl)/ΣI(hkl)の式で定義される。ここで、I(hkl)は、電気機械変換膜に対するX線回折法のθ−2θ測定で得られる任意の(hkl)面に由来する回折ピークのピーク強度である。また、ΣI(hkl)は、電気機械変換膜に対するX線回折法のθ−2θ測定で得られる複数の回折ピークのピーク強度の総和である。
図7は、X線回折法のθ−2θ測定で得られた電気機械変換膜の(200)面における回析ピーク位置を示すグラフである。図7の横軸は、X線回折法のθ−2θ測定における2θの値であり、縦軸は各2θで測定された回折強度である。
本発明者らの実験及び検討により、前述のPZTのZr/Tiの組成比率を変化させると、図7に示すように電気機械変換膜の(200)面(以下「PZT(200)面」という。)に対応する2θピーク位置(回析ピーク位置)やそのピークの非対称性が異なってくることがわかった。この結果から、高角度側となるPZT(200)面の2θピーク位置やピークの非対称性が良好になるように製造工程の各種パラメータを制御することにより、液体吐出ヘッドに適用した場合の液体吐出特性を良好に保持できる変形量(表面変位量)が確保できる。
具体的なPZT(200)面の回析ピーク位置(2θ)は、下地の基板の拘束がある状態においては、2θ=44.50°以上44.80°以下の範囲であり、さらには2θ=44.65°以上44.75°以下の範囲であってもよい。
また、後述する液体吐出ヘッドを形成する場合(図19参照)、液室が加工されて電気機械変換膜が下地の基板の拘束が無い状態で実施される。この場合においては、基板の面に垂直方向に結晶格子が伸びるため、PZT(200)面の回折ピーク位置(2θ)は小さくなる。具体的には、下地の基板の拘束が無い状態においては、PZT(200)面の回折ピークの位置は2θ=44.45°以上44.75°以下の範囲であり、さらには、2θ=44.55°以上44.70°以下の範囲であってもよい。
PZTのZr/Tiの組成比率を前述の所定範囲とする、又は、PZT(200)面の2θ位置(回析ピーク位置)を前述の所定範囲とすることで、後述の回転歪をともなう変形量(表面変位量)と後述の圧電歪による変形量(表面変位量)が得られる。そのため、電気機械変換素子200の変形量(表面変位量)を十分に確保することができる。
図8は、X線回折法のθ−2θ測定で得られた電気機械変換膜の(400)面に由来する回折ピークに着目してピーク分離を行った結果を示すグラフである。図8の横軸は、X線回折法のθ−2θ測定における2θの値であり、縦軸は各2θで測定された回折強度である。
前述のZr/Tiの組成比率により前記所定の範囲の2θ位置(回析ピーク位置)に制御された電気機械変換膜に対して(400)面に由来する回折ピークに着目してピーク分離を行い、結晶構造の帰属状態を同定する。
図8に示す回析ピークの非対称性が大きい場合には、3つの結晶構造に帰属されている。具体的には、正方晶のaドメイン構造X1と、cドメイン構造Y1と、菱面体晶、斜方晶及び疑立方晶のうちのいずれか1つからなる混合構造Z1との3つの結晶構造に帰属されている。
ここで、「aドメイン」とは、電気機械変換膜のペロブスカイト型結晶(PZT結晶)に含まれている複数種類のドメインのうち、そのペロブスカイト型結晶(PZT結晶)のa軸が膜厚方向と平行になっているドメインである。また、「cドメイン」とは、そのペロブスカイト型結晶(PZT結晶)のc軸(自発分極軸)が膜厚方向と平行になっているドメインである。また、aドメイン構造X1はaドメインの結晶構造であり、cドメイン構造Y1はcドメインの結晶構造である。
前記結晶構造において、正方晶のaドメイン構造X1の分離回析ピーク面積をSaとし、混合構造Z1に帰属する分離回析ピーク面積をSbとし、cドメイン構造Y1に帰属する分離回析ピーク面積をScとする。本実施形態では、aドメイン構造X1に帰属する分離回析ピーク面積Saと混合構造Z1に帰属する分離回析ピーク面積Sbとcドメイン構造Y1に帰属する分離回析ピーク面積Scとの和に対する分離回析ピーク面積Sbの比率(混合構造比率)S1に着目した。この混合構造比率S1=Sb/(Sa+Sb+Sc)が1%以上60%以下であると、さらに好ましくは15%以上40%以下であると、回転歪をともなう変形量(表面変位量)が大きく、電気機械変換素子200の変形量(表面変位量)を十分に確保することができる。
ここで、「回転歪」について説明すると、正方晶のcドメイン構造に対してa軸方向に電界を形成すると、aドメイン構造とcドメイン構造とがドメイン壁によって隔てられた境界を有する90[°]ドメイン壁の領域で、cドメインの分極方向がa軸方向に変化し、ドメイン方向が90°回転するという現象(以下「90[°]ドメイン回転」という。)が生じる。これにより、cドメイン構造が90°回転してaドメイン構造になるので、aドメイン構造とcドメイン構造との境界であるドメイン壁が移動する。c軸方向からa軸方向への90[°]ドメイン回転は、cドメイン構造がaドメイン構造に接している90[°]ドメイン壁の領域でないと起こらない。つまり、cドメイン構造同士が接している領域に対し、a軸方向に電界を形成しても90[°]ドメイン回転は起こらない。これは、電圧を印加して電界を形成したときには、まず、aドメイン構造が圧電効果による圧電歪を生じ、この圧電歪が90[°]ドメイン壁を介して隣接するcドメイン構造に伝わることで、cドメイン構造の分極方向が電界形成方向に回転するからである。圧電効果による圧電歪に比べて、90°ドメイン回転等による回転歪は、大きな変形量を生む。つまり、電気機械変換素子において回転歪を効率よく生じさせることができれば、電気機械変換素子の変形量を向上させることができる。
図8に示す回析ピークの非対称性が大きい場合には、電気機械変換素子の変形量が大きくなることが分かっている。これは、正方晶と菱面体晶等との異なる結晶構造を混在させることで、回転歪を効率よく生じさせることができるためだと考えられている。実際、図8に示すように、X線回折法のθ−2θ測定で得られた電気機械変換膜の高角側の(400)面に由来する回折ピークに着目し、この回折ピークを、正方晶のaドメイン構造X1と、正方晶のcドメイン構造Y1と、菱面体晶、斜方晶及び疑立方晶のうちのいずれか1つからなる混合構造Z1とに対応する3つの分離回折ピークにピーク分離できる。
このピーク分離の方法は、まず、予め帰属される結晶構造を推定した上で、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)カード情報記載の2θ位置を中心にフィッティングを行っていく。例えば、1つの分離回折ピークでフィッティングを行う場合は、その分離回折ピークのピーク位置を、実測値においてピーク強度が最大となる2θ位置に合わせてフィッティングを行う。フィッティングさせる分離回折ピークを増やしていくほど(フィッティング本数を増やしていくほど)、フィッティング残渣が小さくなってくるが、フィッティング残渣の変化が緩慢になるところでフィッティング本数を決定する。
本実施形態では、このようなピーク分離方法により、フィッティングさせる分離回折ピークの本数(フィッティング本数)を、例えばフィッティング残渣が10%以下になるまで増やすとともに、フィッティング残渣の変化が緩慢になる本数を、ピーク分離できる分離回折ピークの本数として決定する。本実施形態においては、図9に示すように、フィッティング残渣が10%以下であり、フィッティング残渣の変化が緩慢になるところで、分離回折ピークの本数を3本としている。
なお、ピーク分離(フィッティング)を行うにあたっては、一定のバラつきが発生するため、繰り返しフィッティングを実施したときの平均値を取っている。このとき、極端にフィッティングがずれたものは除外して平均値を算出する。フィッティングの繰り返し回数としては6〜10回くらいを目安としている。
図10は、ジルコニウム(Zr)とチタン(Ti)の組成比率Ti/(Zr+Ti)であるTi比率と、混合構造比率S1=Sb/(Sa+Sb+Sc)との関係を示すグラフである。
図10に示すように、X線回折法のθ−2θ測定で得られる(200)面もしくは(400)面に由来する回折ピークが非対称性を示す範囲内でTi比率を振ってみたとき、Ti比率が多くなるほど混合構造比率S1が少なくなるという傾向が見られる。
また、図10のグラフには、後述する膜厚方向でのZr組成変動を抑制している場合(Zr組成変動抑制有)と、膜厚方向でのZr組成変動を抑制していない場合(Zr組成変動抑制無)の2つのケースが示されている。図10に示すように、膜厚方向でのZr組成変動を抑制している場合には、膜厚方向でのZr組成変動を抑制していない場合より、同じTi比率でも、非対称性を保ちながら混合構造比率S1=Sb/(Sa+Sb+Sc)を更に下げることができる。
菱面体晶、斜方晶、擬立法晶のいずれかである混合構造Z1は、それ自身で直接伸び縮みするような圧電歪を生じさせるわけでなく、また、それ自身が回転するような回転歪を生じさせるわけでない。そのため、混合構造Z1の機能あるいは役割は、図11に示すように、格子定数の異なる正方晶のcドメイン構造Y1とaドメイン構造X1との繋ぎとなる双晶面のような位置づけで存在する役割であると考えられる。このように、cドメイン構造Y1と正方晶のaドメイン構造X1との繋ぎとなる役割である混合構造Z1が所定の割合で存在することで、トータルの結晶構造として見たときに、cドメイン構造Y1や正方晶のaドメイン構造X1による圧電歪及び回転歪の両面でバランス良く歪性能が得られ、高い圧電性能をもつ構造体となるものと考えられる。
図12は、混合構造比率S1=Sb/(Sa+Sb+Sc)と圧電性能(変形量)との関係を示すグラフである。
図12に示すように、混合構造比率S1が小さいほど、大きな変形量が得られる傾向が見られる。したがって、X線回折法のθ−2θ測定で得られる(200)面もしくは(400)面に由来する回折ピークが非対称形状となるTi比率の範囲内において、後述するように膜厚方向でのZr組成変動を抑制することで、混合構造比率S1を更に小さくすることができ、これにより大きな変形量が得られる。
図13は、膜厚方向でのZr組成変動が抑制されていない場合のZr組成変動を示すグラフである。
図14は、膜厚方向でのZr組成変動が抑制されている場合のZr組成変動を示すグラフである。
図13及び図14に示すグラフは、TEM−EDSで測定した膜厚方向における組成分布を示すものであり、いずれも膜厚方向において周期的なZr組成の変動が見られる。なお、図13及び図14に示すいずれの電気機械変換膜も、溶液プロセスから電気機械変換膜を成膜していく際に、PZT前駆体膜を作成する前駆体膜作成工程と結晶化を行う焼成工程とを繰り返すことで所定の膜厚を得ている。また、1回の焼成工程で形成される一層分のPZT膜は、PZT前駆体溶液により複数回(例えば3回)に分けてPZT前駆体膜を積層した後に焼成工程で結晶化したものである。
図13に示す電気機械変換膜は、1回の焼成工程で形成される一層分のPZT膜を成膜する際に、複数回(例えば3回)に分けてPZT前駆体膜を成膜するときのPZT前駆体溶液が、いずれの回でも同じものを用いている。焼成工程時におけるZrとTiとの間の結晶化スピードの違いにより、Zr比率は上層側ほど高くなり、膜厚方向でのZr組成変動が生じる。その結果、図13に示すように、1回の焼成工程で形成される一層分のPZT膜内で上層側ほどZr比率が高くなるというZr組成変動が生じ、このようなPZT膜を積層した電気機械変換膜は、Zr比率が膜厚方向に対して周期的に変動するものとなる。
一方、図14に示す電気機械変換膜は、1回の焼成工程で形成される一層分のPZT膜を成膜する際に、複数回(例えば3回)に分けてPZT前駆体膜を成膜するときのPZT前駆体溶液が、各回で異なるものを用いている。具体的には、先に用いられるPZT前駆体溶液ほど(下層側ほど)、Zr比率の高いPZT前駆体溶液を用いている。その結果、図14に示すように、1回の焼成工程で形成される一層分のPZT膜内におけるZr組成変動が抑制されている。
本実施形態では、図13に示すように、膜厚方向におけるZr比率の平均値を(Zr/(Zr+Ti))aveとし、一周期内における最大のZr比率を(Zr/(Zr+Ti))maxとし、一周期内における最小のZr比率を(Zr/(Zr+Ti))minとし、(Zr/(Zr+Ti))max−(Zr/(Zr+Ti))ave、及び、(Zr/(Zr+Ti))ave−(Zr/(Zr+Ti))minのうちのいずれか大きい方の値をΔZr1としたとき、ΔZr1は15[%]以下であるのが好ましく、7[%]以下であるのが更に好ましい。また、ΔZr2=(Zr/(Zr+Ti))max−(Zr/(Zr+Ti))minとしたとき、ΔZr2は25%以下であるのが好ましく、10%以下であるのが更に好ましい。
図15は、膜厚方向でのZr組成変動の変動量ΔZr1と、混合構造比率S1=Sb/(Sa+Sb+Sc)との関係を示すグラフである。
なお、図15に示すグラフには、膜中の中心組成(膜厚方向での平均的なZr比率)や焼成条件(特に結晶化させるときの焼成条件や雰囲気)を変えたときの3つの例が記載されている。膜中の中心組成や焼成条件の違いによって同じ混合構造比率S1でもΔZr1に僅かな差が出ているが、いずれの例においても、ΔZr1が低くなるほど混合構造比率S1が小さくなる傾向が見られる。そして、ΔZr1やΔZr2を上述の上限値以下とすることで、混合構造比率S1=Sb/(Sa+Sb+Sc)を60%よりも小さくすることができ、結果的に十分な変形量が得られる。
また、本実施形態に係る電気機械変換膜24の優先配向と、その配向度(配向率)について説明する。ここで、電気機械変換膜の(100)面が他の面よりも優先的に配向していることを「(100)優先配向」といい、本実施形態においては、(100)優先配向とするのが好ましい。配向度は、(hkl)面方位の配向度をρ(hkl)とし、X線回折法のθ−2θ測定で得られる任意の配向のピーク強度をI(hkl)とし、各ピーク強度の総和をΣI(hkl)としたとき、下記の式(1)によって算出される。
ρ(hkl)=I(hkl)/ΣI(hkl) ・・・(1)
図16に示すように、(100)配向の配向度は、70%〜80%よりも、0.95(95%)以上が好ましく、0.99(99%)以上であるのが更に好ましい。
ところで、上述したX線回折法のθ−2θ測定は、測定する膜の基板面上のある点での膜厚方向において、結晶面の間隔がどのように分布しているかを判断するために用いられるものである。そのため、基板面上のある点から基板面水平方向に微小に移動した点では、膜厚方向において結晶面の間隔がどのように分布しているかを判断することができない。これを判断するためには、さらにロッキングカーブ法による測定を行う必要がある。なお、ロッキングカーブ法は、X線の入射角度と検出器の角度(2θ)はθ-2θ測定で回折強度が最大となる位置に固定し、基板面と入射X線の角度(ω)のみをθ付近で微小に変化させて回折強度を測定するものである。
また、測定する膜の結晶成長方向は、膜の基板面に対し垂直になっているとは限らない。膜の結晶成長方向が膜の基板面に対して垂直ではない場合、結晶面は基板面に対して傾く。この傾きの程度を判断するためには、θ-2θ測定で回折強度が最大となる位置(2θ)において、さらにあおり角(χ)を振った測定を行う必要がある。なお、「あおり角」とは、電気機械変換膜に含まれる結晶の(lmn)(l、m、nは、0又は1)面が、(lmn)面と平行な面に対して傾きを有する際、(lmn)面と傾きを有する面との間でなす角度を指すものとする。
図17(a)及び(b)は、(100)面に優先配向させた本実施形態の電気機械変換膜において、X線回折法のθ-2θ測定で得られた回折ピークの形状の非対称性が大きくなったものについて、さらにあおり角(χ)を振った測定を行ったときの測定結果を示すグラフである。
このグラフは、θ-2θ測定で得られた回折ピークのうち、(200)面に対応する回折ピークの回折強度が最大となる位置(2θ)で、あおり角(χ)を振ったものであり、あおり角(χ)を横軸に、測定面から反射されてくる回折X線の回折強度を縦軸にとったものである。
本実施形態の電気機械変換膜は、図17(b)に示すように、本実施形態の電気機械変換膜のうち、あおり角(χ)を振った測定をして得られた回折ピークがピーク分離によって3つの分離回折ピークに分離できる。すなわち、図17(a)に示すグラフでは、複数の結晶面に対応するピークが重なり合った状態であるが、これをピーク分離することによって、図17(b)に示すように、符号A、B、Cで示す3つの分離回折ピークに分離することができる。
符号A、B、Cで示す各分離回折ピークにおいて、回折強度が最大となる位置での回折強度をそれぞれpeak1、peak2、peak3とする。各分離回折ピークにおいて、回折強度が最大となるあおり角をそれぞれχ1、χ2、χ3とする。また、各分離回折ピークにおける半値幅をそれぞれσ1、σ2、σ3とする。ここで、半値幅とは、それぞれの分離回折ピークにおいて、その最大回折強度peak1,peak2,peak3の半分の値になるあおり角(χ)の幅をいう。
この半値幅は、電気機械変換素子の変形量の大小を判断するための1つの指標となる。しかし、複数の結晶面に対応するピークが重なり合って1つのピークのようになったものをピーク分離せずに1つのピークとして扱ってしまうと、電気機械変換素子の変形量の大小を正確に判断できない。ピーク分離によっても複数のピークに分離できないピーク同士を比較する場合、半値幅が狭い方が電気機械変換素子の変形量が大きくなることが実験により分かっている。
ここで、上述したように周期的なZr組成変動を抑制すると、図17に示すグラフの山と谷の差が顕著になっていく。これは、Zr組成変動を抑制することで、菱面体晶や擬立法晶等の結晶構造比率が下がり、より正方晶性(tetragonality)が高くなるため、双晶面ができやすくなった結果、斜めに成長する面が多くなった結果を表しているものと考えられる。
これを定量的に評価すると、図17(b)に示す3つの分離回折ピークA,B,Cについて、あおり角(χ)が最小である分離回折ピークAとあおり角(χ)が最大である分離回折ピークBの間に位置する分離回折ピークCのピーク強度P1(=peak2)が、分離回折ピークA及び分離回折ピークCのピーク強度peak1,peak3よりも小さく、かつ、分離回折ピークA及び分離回折ピークCのうちピーク強度peak1,peak3が大きい方のピーク強度をP2としたとき、P1/P2が0.995(99.5[%])以下であるのが好ましく、0.85(85[%])以下であるのが更に好ましい。この範囲とすることで、周期的なZr組成変動を抑制でき、電気機械変換素子の変形量を大きくすることができる。
なお、ここでは、図17(b)に示すように、あおり角(χ)を振って測定した回折ピークをピーク分離して得られる3つの分離回折ピークA,B,Cを対象に評価しているが、上述したロッキングカーブ法により測定(角度(ω)を振って測定)した回折ピークをピーク分離して得られる3つの分離回折ピークを対象にしても、同様の評価が可能である。
また、上述したように周期的なZr組成変動を抑制すると、電気機械変換膜の結晶粒径も変化し、比較的に大きな結晶粒径が得られやすくなる。この傾向については、X線回折法のθ−2θ測定で得られる図7に示すような(200)面に由来する回折ピークの半値幅に表れ、粒径サイズが大きくなると半値幅が小さくなる傾向がある。この半値幅は、10[°]以下であるのが好ましい。
また、X線回折法のθ−2θ測定で得られる図7に示すような(200)面に由来する回折ピークにおけるピーク強度が最大となる位置(2θ)は、44.50°以上44.80°以下であるのが好ましい。2θの位置から結晶構造の格子定数(c軸方向)についての情報が分かる。この範囲とすることで、十分な変形量を得ることができる。
また、上述したように、図8に示すように、正方晶のaドメイン構造X1の分離回析ピーク面積をSaとし、混合構造Z1に帰属する分離回析ピーク面積をSbとし、cドメイン構造Y1に帰属する分離回析ピーク面積をScとしたとき、cドメイン構造比率S2=Sc/(Sa+Sc)が18%以下であるのが好ましい。この範囲とすることで、回転歪による効果が得られ、十分な変形量を得ることができる。
次に、本実施形態に係る液体吐出ヘッドのより具体的な実施例を、比較例とともに説明する。ただし、液体吐出ヘッドの実施例は、以下に例示したものに限定されるものではない。
〔実施例1〕
6インチシリコンウェハに振動板となる熱酸化膜(SiO2、膜厚1[μm])を形成し、これを基板21及び振動板22として用いた。次いで、この基板21上に作成された振動板22となる部分の上に下部電極23を形成した。下部電極23は、密着層と金属電極膜とが積層された構造を有している。密着層は、チタン膜(膜厚20[nm])を成膜温度350[℃]でスパッタ装置にて成膜した後、急速加熱アニーリング(RTA:Rapid Thermal Annealing)処理を用いて750[℃]で熱酸化することにより形成した。そして、引き続き、金属電極膜として、白金膜(膜厚160[nm])を成膜温度300[℃]でスパッタ装置にて成膜した。
次に、下地層となるPbTiO3層(以下「PT層」という。)として、物質量比がPb:Ti=1:1に調整された溶液(以下「PT溶液」という。)を準備した。また、電気機械変換膜として、物質量比がPb:Zr:Ti=115:55:45に調整された第1PZT前駆体溶液と、115:49:51に調整された第2PZT前駆体溶液と、115:43:57に調整された第3PZT前駆体溶液とを準備した。
具体的なPZT前駆体塗布液の合成については、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学量論組成に対し鉛量を過剰にしてある。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、先記の酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでPZT前駆体溶液を合成した。この際、PZT前駆体溶液中のPZT濃度は0.5[mol/L]にした。PT溶液に関しても、PZT前駆体溶液と同様に作製した。
次に、最初にPT溶液を用いてPT層をスピンコートにより成膜し、その後、ホットプレートにより120[℃]乾燥を実施した。その後、Zr比率の高い第1PZT前駆体溶液をスピンコートにより成膜し、その後、ホットプレートにより120[℃]乾燥、400[℃]熱分解を行った。更に、第1PZT前駆体溶液よりもZr比率の低い第2PZT前駆体溶液をスピンコートにより成膜し、その後、ホットプレートにより120[℃]乾燥、400[℃]熱分解を行った。更に、第2PZT前駆体溶液よりもZr比率が更に低い第3PZT前駆体溶液をスピンコートにより成膜し、その後、ホットプレートにより120[℃]乾燥、400[℃]熱分解を行った。
このように成膜、乾燥、熱分解の工程を繰り返し行って3層の積層膜を形成し、3層目の熱分解工程後に、結晶化熱処理(温度730[℃])をRTA処理(急速熱処理)にて行った。この結晶化の熱処理が終わったときのPZT膜の膜厚は240[nm]であった。
このPZT前駆体溶液の塗布、乾燥、熱分解による3層の積層膜の成膜並びに結晶化の熱処理の工程を計8回実施し、合計で24層積層して、膜厚が約2.0[μm]の電気機械変換膜24を得た。
次に、上部電極25を形成した。まず酸化物電極層として、LaNiO3膜(膜厚40[nm])を形成し、さらに、金属電極膜として白金(Pt)膜(膜厚125[nm])をスパッタ成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した後、ICPエッチング装置(サムコ製)を用いて、図3に示すようなパターンを作製した。
次に、第1の絶縁保護膜31として、ALD(原子層堆積)工法を用いてAl2O3膜を膜厚が50[nm]になるように成膜した。このとき、原材料としてAlについては、TMA(トリメチルアルミニウム:シグマアルドリッチ社製)を、Oについてはオゾンジェネレーターによって発生させたO3を交互に供給、積層させることで、成膜を進めた。
次に、図3に示すように、エッチングによりコンタクトホール32を形成した。そして、個別電極−個別電極パッド間の接続部材35、共通電極−共通電極パッド間の接続部材37、個別電極パッド34及び共通電極パッド36として、Alをスパッタ成膜し、エッチングによりパターニング形成した。
次に、第2の絶縁保護膜38としてSi3N4をプラズマCVD法により膜厚が500[nm]になるように成膜し、その後、個別電極パッド34及び共通電極パッド36の位置に開口部を形成し、電気機械変換素子200を作製した。
この後、図4に示す分極処理装置40を用いて、コロナ帯電処理により分極処理を行った。コロナ帯電処理に用いるコロナ電極としては、φ50[μm]のタングステンのワイヤーを用いている。分極処理条件としては、処理温度80[℃]、コロナ電圧9[kV]、グリッド電圧2.5[kV]、処理時間30[s]、コロナ電極−グリッド電極間距離4[mm]、グリッド電極−ステージ間距離4[mm]にて行った。
そして、基板21の裏面に対し、図18に示すような加圧液室80となる貫通孔部を形成した後、ノズル81が形成されたノズル板82を基板21の裏面に接合し、図19に示すような液体吐出ヘッドを作製した。本実施例1の液体吐出ヘッドにおいて、加圧液室80の短尺方向長さLxは60[μm]とし、長尺方向長さLyは1000[μm]とした。また、個別電極パッド34間の距離は80[μm]とした。
〔実施例2〕
本実施例2の液体吐出ヘッドについては、電気機械変換膜として、物質量比がPb:Zr:Ti=115:59:41に調整された第1PZT前駆体溶液と、115:53:47に調整された第2PZT前駆体溶液と、115:47:53に調整された第3PZT前駆体溶液とを準備し、スピンコート法により膜を成膜した以外は、実施例1と同様に電気機械変換素子を作製した。
〔実施例3〕
本実施例3の液体吐出ヘッドについては、電気機械変換膜として、第1PZT前駆体溶液、第2PZT前駆体溶液、第3PZT前駆体溶液のいずれも、物質量比がPb:Zr:Ti=115:53:47に調整されたものを準備し、スピンコート法により膜を成膜した以外は、実施例1と同様に電気機械変換素子を作製した。
〔実施例4〕
本実施例4の液体吐出ヘッドについては、電気機械変換膜として、物質量比がPb:Zr:Ti=115:65:35に調整された第1PZT前駆体溶液と、115:53:47に調整された第2PZT前駆体溶液と、115:41:59に調整された第3PZT前駆体溶液とを準備し、スピンコート法により膜を成膜した以外は、実施例1と同様に電気機械変換素子を作製した。
〔実施例5〕
本実施例5の液体吐出ヘッドについては、電気機械変換膜として、物質量比がPb:Zr:Ti=115:59:41に調整された第1PZT前駆体溶液と、115:53:47に調整された第2PZT前駆体溶液と、115:47:53に調整された第3PZT前駆体溶液とを準備して、スピンコート法により膜を成膜し、結晶化のための熱処理(温度680[℃])のRTA(急速熱処理)を実施した以外は、実施例1と同様に電気機械変換素子を作製した。
〔実施例6〕
本実施例6の液体吐出ヘッドについては、電気機械変換膜として、物質量比がPb:Zr:Ti=115:51:49に調整された第1PZT前駆体溶液と、115:45:55に調整された第2PZT前駆体溶液と、115:39:61に調整された第3PZT前駆体溶液とを準備し、スピンコート法により膜を成膜した以外は、実施例1と同様に電気機械変換素子を作製した。
〔実施例7〕
本実施例7の液体吐出ヘッドについては、電気機械変換膜として、物質量比がPb:Zr:Ti=115:65:35に調整された第1PZT前駆体溶液と、115:53:47に調整された第2PZT前駆体溶液と、115:41:59に調整された第3PZT前駆体溶液とを準備して、スピンコート法により膜を成膜し、結晶化のための熱処理時にO2ガスを加えながらRTA処理を実施した以外は、実施例1と同様に電気機械変換素子を作製した。
〔実施例8〕
本実施例8の液体吐出ヘッドについては、電気機械変換膜24の下地層となる酸化物電極層232であるPbTiO3(PT)層の代わりに、TiO2層を成膜し、電気機械変換膜として、第1PZT前駆体溶液、第2PZT前駆体溶液、第3PZT前駆体溶液のいずれも、物質量比がPb:Zr:Ti=115:53:47に調整されたものを準備して、スピンコート法により膜を成膜し、結晶化のための熱処理(温度680[℃])のRTA(急速熱処理)を実施した以外は、実施例1と同様に電気機械変換素子を作製した。
〔比較例1〕
本比較例1の液体吐出ヘッドについては、電気機械変換膜として、物質量比がPb:Zr:Ti=115:75:25に調整された第1PZT前駆体溶液と、115:53:47に調整された第2PZT前駆体溶液と、115:31:69に調整された第3PZT前駆体溶液とを準備し、スピンコート法により膜を成膜した以外は、実施例1と同様に電気機械変換素子を作製した。
〔比較例2〕
本比較例2の液体吐出ヘッドについては、電気機械変換膜として、物質量比がPb:Zr:Ti=115:43:57に調整された第1PZT前駆体溶液と、115:47:53に調整された第2PZT前駆体溶液と、115:51:49に調整された第3PZT前駆体溶液とを準備し、スピンコート法により膜を成膜した以外は、実施例1と同様に電気機械変換素子を作製した。
〔比較例3〕
本比較例3の液体吐出ヘッドについては、電気機械変換膜として、第1PZT前駆体溶液、第2PZT前駆体溶液、第3PZT前駆体溶液のいずれも、物質量比がPb:Zr:Ti=115:62:38に調整されたものを準備し、スピンコート法により膜を成膜した以外は、実施例1と同様に電気機械変換素子を作製した。
〔比較例4〕
本比較例4の液体吐出ヘッドについては、電気機械変換膜として、第1PZT前駆体溶液、第2PZT前駆体溶液、第3PZT前駆体溶液のいずれも、物質量比がPb:Zr:Ti=115:38:62に調整されたものを準備し、スピンコート法により膜を成膜した以外は、実施例1と同様に電気機械変換素子を作製した。
上述した実施例1〜8及び比較例1〜4で作製した電気機械変換素子について、プロセス過程において電気機械変換膜24を作製した直後に、X線回折法による結晶性の評価と、TEM−EDSによる組成の評価を行った。結晶性の評価は、図19に示すように、基板21に対して加圧液室80の加工を施した後の状態(基板21に拘束されていない状態)の電気機械変換膜24についての結晶性の評価である。この測定に用いたX線回折(XRD)装置は、Philips社製の「X’Pert MRD」であり、X線源はCuKα、X線の波長は1.541[Å](0.1541[nm])、Slit1/4、Mask15を用いた。
また、上述した実施例1〜8及び比較例1〜4それぞれにおいて作製した液体吐出ヘッドに対し、電気特性及び変形(表面変位)特性(圧電定数)の評価も行った。変形(表面変位)特性の評価については、基板21に対して加圧液室80の加工を施した後の状態で、振動評価を実施した。具体的には、電気機械変換素子に150[kV/cm]の電界を形成する所定のパルス波形(1[kHz]の三角波)の駆動電圧を印加したときの振動板22の下面の表面変形量を、レーザードップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせ込みから、圧電定数d31の値を算出した。初期特性を評価した後に、耐久性特性(1×1010回繰り返し前記所定のパルス波形の駆動電圧を加えた直後の特性)の評価を実施した。
これらの実施例1〜8及び比較例1〜4の詳細な評価結果を、フィッティング本数(X線回折法のθ−2θ測定で得られる(400)面に由来する回折ピークをピーク分離できる分離回折ピークの数)、混合構造比率S1=Sb/(Sa+Sb+Sc)、(100)優先配向の配向度(配向率)などと併せて、下記の表1に示す。
前記表1における判定基準を以下に示す。
「◎」:耐久後の圧電定数d31の絶対値が160[pm/V]以上である。
「○」:耐久後の圧電定数d31の絶対値が140[pm/V]以上160[pm/V]未満である。
「△」:耐久後の圧電定数d31の絶対値が120[pm/V]以上140[pm/V]未満である。
「×」:耐久後の圧電定数d31の絶対値が120[pm/V]未満である。
実施例1〜8については、初期及び耐久性試験後の変形(表面変位)特性の結果について、一般的なセラミック焼結体と同等の特性を有していた。圧電定数d31の値に換算すると、初期から耐久性試験後まで、−120〜−160[pm/V]の範囲の特性が維持された。一方、比較例1〜4については、耐久性試験後の特性について見ると、上述した実施例1〜8に比べて劣っており、耐久後の圧電定数d31の絶対値は120[pm/V]を下回る結果となった。
なお、比較例3については、フィッティング本数が2本であり、3つの分離回折ピークにピーク分離したときのフィッティング残渣が大きすぎて、混合構造比率S1=Sb/(Sa+Sb+Sc)の算出を行うことができなかった。
また、比較例2については、フィッティング本数が4本であり、4つの分離回折ピークにピーク分離される。詳しくは、正方晶のaドメイン構造X1、cドメイン構造Y1、菱面体晶の構造Z1−1、斜方晶と擬立法晶のいずれかの構造Z1−2の合計4本の分離回折ピークに分離される。比較例2については、混合構造比率S1=Sb/(Sa+Sb+Sc)の算出にあたり、菱面体晶構造Z1−1に対応する分離回折ピークと、斜方晶と擬立法晶のいずれかに対応する分離回折ピークとを比較して大きい方のピーク面積をSbとして算出したところ、その構造比率S1は0.547(54.7[%])であり、60%以下であるが、判定結果が「×」であり、十分な大きさの圧電定数d31が得られていない。一方、菱面体晶構造Z1−1に対応する分離回折ピークと、斜方晶と擬立法晶のいずれかに対応する分離回折ピークとの両方のピーク面積を足し合わせた値をSbとして算出した場合には、その構造比率S1は0.72(72[%])であり、60%を超えている。
また、比較例4については、Ti比率(Ti/(Zr+Ti))が高いため、正方晶の割合が非常に高くなっており、混合構造比率S1=Sb/(Sa+Sb+Sc)の値が非常に小さい。比較例4については、圧電歪が十分得られていない影響からか、圧電定数d31はあまり高くなってはいないが、初期時における圧電定数d31の絶対値は120[pm/V]を超えている。しかしながら、回転歪による効果が相対的に大きくなる耐久後については、圧電定数d31の絶対値が96[pm/V]まで大きく低下し、120[pm/V]を大きく下回る結果となっている。
次に、本実施形態に係る液体吐出ヘッドを備えた液体を吐出する装置であるインクジェット記録装置の一例について説明する。
図20は、実施形態に係るインクジェット記録装置の一例を示す斜視図であり、図21は、図20のインクジェット記録装置の機構部の一例を示す側面図である。
本実施形態のインクジェット記録装置は、記録装置本体91の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ、キャリッジに搭載した液体吐出ヘッドである記録ヘッド、記録ヘッドへインクを供給するインクカートリッジ等で構成される印字機構部92等を収納している。
記録装置本体91の下方部には前方側から多数枚の用紙93を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)94を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙93を手差しで給紙するための手差しトレイ95を開倒することができる。そして、給紙カセット94或いは手差しトレイ95から給送される用紙93を取り込み、印字機構部92によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ96に排紙する。
印字機構部92は、左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド101と従ガイドロッド102とでキャリッジ103を主走査方向に摺動自在に保持している。キャリッジ103にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する液体吐出ヘッドとしての記録ヘッド104を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列している。そして、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ103には記録ヘッド104に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ105を交換可能に装着している。
インクカートリッジ105は、上方に大気と連通する大気口、下方には記録ヘッド104へインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有している。そして、多孔質体の毛管力により記録ヘッド104へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、液体吐出ヘッドとしてここでは各色の記録ヘッド104を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個の記録ヘッドでもよい。
ここで、キャリッジ103は、後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド101に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド102に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ103を主走査方向に移動走査するため、主走査モーター107で回転駆動される駆動プーリ108と従動プーリ109との間にタイミングベルト110を張装している。このタイミングベルト110をキャリッジ103に固定しており、主走査モーター107の正逆回転によりキャリッジ103が往復駆動される。
次に、給紙カセット94にセットした用紙93を記録ヘッド104の下方側に搬送する機構について説明する。まず、給紙カセット94から用紙93を分離給装する給紙ローラ111及びフリクションパッド112と、用紙93を案内するガイド部材113と、給紙された用紙93を反転させて搬送する搬送ローラ114を有している。そして、この搬送ローラ114の周面に押し付けられる搬送コロ115及び搬送ローラ114からの用紙93の送り出し角度を規定する先端コロ116と、を設けている。搬送ローラ114は、副走査モーター117によってギヤ列を介して回転駆動される。
キャリッジ103の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ114から送り出された用紙93を記録ヘッド104の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材119を設けている。この印写受け部材119の用紙搬送方向下流側には、用紙93を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ121、拍車122を設けている。さらに用紙93を排紙トレイ96に送り出す排紙ローラ123及び拍車124と、排紙経路を形成するガイド部材125、126とを配設している。
記録時には、キャリッジ103を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド104を駆動することにより、停止している用紙93にインクを吐出して1行分を記録し、用紙93を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙93の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙93を排紙する。
また、キャリッジ103の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、記録ヘッド104の吐出不良を回復するための回復装置127を配置している。回復装置127は、キャップング手段と吸引手段とクリーニング手段とを有している。キャリッジ103は印字待機中には、この回復装置127側に移動されてキャッピング手段で記録ヘッド104をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段で記録ヘッド104の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出す。これにより、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
本実施形態のインクジェット記録装置においては、前述の液体吐出ヘッドからなる記録ヘッド104を備えている。このため、記録ヘッド104の電気機械変換素子はインク吐出特性を良好に保持できる変形量(表面変位量)を十分確保すると共に、連続吐出しても変形量(表面変位量)の劣化が十分抑制され、本インクジェット記録装置は安定したインク吐出を行うことが可能になる。
本実施形態のインクジェット記録装置においては、実施例1〜8で作製した液体吐出ヘッドを搭載している。このインクジェット記録装置を用いて液体の吐出評価を行った。具体的には、粘度を5[cp]に調整したインクを用いて、単純Push波形により−10〜−30[V]の印加電圧を加えたときの吐出状況を確認した。その結果、すべてのノズル孔からも吐出できていることを確認した。
一方、比較例1〜4で作製した液体吐出ヘッドを搭載したインクジェット記録装置についても同様の吐出評価を行ったところ、すべてのノズル孔から吐出させるのに必要な印加電圧が実施例1〜8よりも高く設定する必要があったうえ、吐出状態も不安定であった。
本明細書において、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッド又は液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
前記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
前記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス、壁紙や床材などの建材、衣料用のテキスタイルなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
また、「液体」は、液体吐出ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30[mPa・s]以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどであり、これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。具体的には、「液体」は、インク、処理液、DNA試料、レジスト、パターン材料、結着剤、造形液、又は、アミノ酸、たんぱく質、カルシウムを含む溶液及び分散液なども含まれる。
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
また、「液体を吐出する装置」としては他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液をノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
「液体吐出ユニット」とは、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体である。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
例えば、液体吐出ユニットとして、図22に示すように、記録ヘッド104とヘッドタンク441が一体化されている液体吐出ユニット440がある。また、チューブなどで互いに接続されて、記録ヘッド104とヘッドタンク441が一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンク441と記録ヘッド104との間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、図23で示したように、液体吐出ユニットとして、記録ヘッド104とキャリッジ103と主走査移動機構107〜109が一体化されているものがある。
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
また、液体吐出ユニットとして、図24で示したように、ヘッドタンク若しくは流路部品444が取り付けられた記録ヘッド104にチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものとする。
また、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様A)
基板21上に直接又は間接的に形成された下部電極23と、前記下部電極上に形成された電気機械変換膜24と、前記電気機械変換膜上に形成された上部電極25とを有し、前記電気機械変換膜がチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなるペロブスカイト型結晶を有する電気機械変換素子200において、前記電気機械変換膜におけるジルコニウム(Zr)とチタン(Ti)の組成比率Ti/(Zr+Ti)が40%以上55%以下であり、X線回折法のθ−2θ測定で得られる(200)面もしくは(400)面に由来する回折ピークが非対称形状であり、前記回折ピークをピーク分離して、正方晶のaドメイン構造X1に帰属される第一分離回折ピークと、菱面体晶、斜方晶、擬立法晶のいずれかZ1に帰属される第二分離回折ピークと、正方晶のcドメイン構造Y1に帰属される第三分離回折ピークとを得たときの各ピーク面積をSa、Sb、Scとしたとき、S1=Sb/(Sa+Sb+Sc)が1%以上60%以下であることを特徴とする。
本態様によれば、前記電気機械変換膜におけるジルコニウム(Zr)とチタン(Ti)の組成比率Ti/(Zr+Ti)が40%以上55%以下であり、X線回折法のθ−2θ測定で得られる(200)面もしくは(400)面に由来する回折ピークが非対称形状となっている。これにより、上述のとおり、正方晶のaドメイン構造X1とcドメイン構造Y1のほか、菱面体晶、斜方晶及び疑立方晶のうちのいずれか1つからなる混合構造Z1が一定程度存在するものとなる。混合構造Z1は、格子定数の異なるcドメイン構造Y1とaドメイン構造X1との繋ぎとなるものであり、トータルの結晶構造として見たときに、cドメイン構造Y1や正方晶のaドメイン構造X1による圧電歪及び回転歪の両面でバランス良く歪性能が得られ、高い圧電性能(大きな変形量)をもつ構造体となるものと考えられる。そして、どの程度の割合で混合構造Z1が存在すれば高い圧電性能(大きな変形量)を得ることができるかについて検討したところ、混合構造比率S1=Sb/(Sa+Sb+Sc)が1%以上60%以下であることが必要であるが判明した。したがって、本態様によれば、cドメイン構造Y1や正方晶のaドメイン構造X1による圧電歪及び回転歪の両面でバランス良く歪性能が得られる高い圧電性能(大きな変形量)を発揮することができる。
(態様B)
前記態様Aにおいて、前記電気機械変換膜は、ジルコニウム(Zr)の組成比率であるZr比率が膜厚方向に対して周期的に変動するものであり、膜厚方向におけるZr比率の平均値を(Zr/(Zr+Ti))aveとし、一周期内における最大のZr比率を(Zr/(Zr+Ti))maxとし、一周期内における最小のZr比率を(Zr/(Zr+Ti))minとし、(Zr/(Zr+Ti))max−(Zr/(Zr+Ti))ave、及び、(Zr/(Zr+Ti))ave−(Zr/(Zr+Ti))minのうちのいずれか大きい方の値をΔZr1としたとき、ΔZr1が15%以下であることを特徴とする。
膜厚方向でのZr組成変動を抑制することで、上述のとおり、X線回折法のθ−2θ測定で得られる(200)面もしくは(400)面に由来する回折ピークの非対称性を保ちながら、混合構造比率S1=Sb/(Sa+Sb+Sc)を下げることができ、混合構造比率S1を1%以上60%以下の範囲内とすることができる。膜厚方向でのZr組成変動をどの程度抑制すればよいかについては、膜厚方向でのZr組成変動量の指標値となる前記ΔZr1が15%以下であるのが好ましい。したがって、本態様によれば、高い圧電性能(大きな変形量)を発揮することができる。
(態様C)
前記態様A又はBにおいて、前記電気機械変換膜は、X線回折法のθ−2θ測定で得られる(200)面に由来する回折ピークにおけるピーク強度が最大となる位置(2θ)で、あおり角(χ)を振った測定により得られる回折ピークをピーク分離して得られる3つの分離回折ピークA,B,Cについて、あおり角(χ)が最小である第四分離回折ピークAとあおり角(χ)が最大である第六分離回折ピークCの間に位置する第五分離回折ピークBのピーク強度P1が、該第四分離回折ピーク及び該第六分離回折ピークのピーク強度よりも小さく、かつ、該第四分離回折ピーク及び該第六分離回折ピークのうちピーク強度が大きい方のピーク強度をP2としたとき、P1/P2が99.5%以下であることを特徴とする。
前記P1/P2は、膜厚方向でのZr組成変動量を示す指標値となり得るものであり、P1/P2が99.5%以下であれば、膜厚方向でのZr組成変動が抑制され、混合構造比率S1=Sb/(Sa+Sb+Sc)を下げることができ、混合構造比率S1を1%以上60%以下の範囲内とすることができる。したがって、本態様によれば、高い圧電性能(大きな変形量)を発揮することができる。
(態様D)
前記態様A〜Cのいずれかの態様において、前記電気機械変換膜の結晶配向について、(hkl)面方位の配向度をρ(hkl)とし、X線回折法のθ−2θ測定で得られる任意の配向のピーク強度をI(hkl)とし、各ピーク強度の総和をΣI(hkl)としたとき、下記の式(1)によって算出される(100)配向についての配向度が95%以上であることを特徴とする。
ρ(hkl)=I(hkl)/ΣI(hkl) ・・・(1)
本態様によれば、(100)配向についての配向度が95%以上であるため、高い圧電性能(大きな変形量)を発揮することができる。
(態様E)
前記態様A〜Dのいずれかの態様において、前記電気機械変換膜は、X線回折法のθ−2θ測定で得られる(200)面に由来する回折ピークの半値幅が10°以下であることを特徴とする。
上述したように、Zr組成変動を抑制すると、電気機械変換膜の結晶粒径も変化し、比較的に大きな結晶粒径が得られやすくなる。この傾向については、X線回折法のθ−2θ測定で得られる(200)面に由来する回折ピークの半値幅に表れ、粒径サイズが大きくなると半値幅が小さくなる傾向がある。この半値幅を10[°]以下であれば、膜厚方向でのZr組成変動が抑制され、混合構造比率S1=Sb/(Sa+Sb+Sc)を下げることができ、混合構造比率S1を1%以上60%以下の範囲内とすることができる。したがって、本態様によれば、高い圧電性能(大きな変形量)を発揮することができる。
(態様F)
前記態様A〜Eのいずれかの態様において、前記電気機械変換膜は、X線回折法のθ−2θ測定で得られる(200)面に由来する回折ピークにおけるピーク強度が最大となる位置(2θ)が、44.50°以上44.80°以下であることを特徴とする。
これによれば、回転歪及び圧電歪による変形量を十分に確保することができる。
(態様G)
前記態様A〜Fのいずれかの態様において、前記電気機械変換膜は、Sc/(Sa+Sc)が18%以下であることを特徴とする。
十分な変形量を得るためには回転歪を生じさせることが必要である。Sc/(Sa+Sc)が18%を超えると回転歪による効果が得にくくなり、十分な変形量を得ることが困難となる。
(態様H)
前記態様A〜Gのいずれかの態様において、前記電気機械変換膜と前記下部電極との間に、チタン酸鉛からなるシード層を有することを特徴とする。
本態様によれば、高い圧電性能(大きな変形量)を発揮することができる。
(態様I)
インク等の液体を吐出するノズル81と、該ノズルに連通する加圧液室80と、該加圧液室内の液体に圧力を発生させる圧電アクチュエータ20等の圧力発生手段とを備えた記録ヘッド104等の液体吐出ヘッドにおいて、前記圧力発生手段として、前記態様A〜Hのいずれかの態様に係る電気機械変換素子を用いたことを特徴とする。
これによれば、より安定した吐出性能を発揮することができる。
(態様J)
インク等の液体を吐出させる記録ヘッド104等の液体吐出ヘッドと、少なくとも1つの外部部品とを一体化した液体吐出ユニット440において、前記液体吐出ヘッドとして、前記態様Iに係る液体吐出ヘッドを用いたことを特徴とする。
これによれば、より安定した吐出性能を発揮することができる。
(態様K)
前記態様Jにおいて、前記外部部品は、前記液体吐出ヘッドに供給する液体を貯留するヘッドタンク441、前記液体吐出ヘッドを搭載するキャリッジ103、前記液体吐出ヘッドに液体を供給する供給機構、前記液体吐出ヘッドの維持回復を行う維持回復機構、前記液体吐出ヘッドを移動させる移動機構の少なくとも1つであることを特徴とする。
これによれば、より安定した吐出性能を発揮することができる。
(態様L)
インク等の液体を吐出させる記録ヘッド104等の液体吐出ヘッドを備えたインクジェット記録装置等の液体を吐出する装置において、前記液体吐出ヘッドとして、前記態様Iに係る液体吐出ヘッドを用いたことを特徴とする。
これによれば、より安定した吐出性能を発揮することができる。