JP2019006031A - 漆塗り積層シート - Google Patents
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Abstract
【課題】和紙に施した漆塗り加工の品位・風合いと立体感を損なうことなく様々な形状に成形でき、成形した形状を維持できると共に繰り返して変形できる形状自在性を有する漆塗り積層シートを提供する。【解決手段】表裏を貫通する複数の開口部を有すると共に形状自在性を有するシート状基材11と、シート状基材11の表裏両面に積層された和紙シート12a〜12dとから構成され、表裏両面に積層された和紙シート12a〜12dは、シート状基材11の複数の開口部13を介して互いに接着されており、和紙シート12a〜12dの表面から内部にかけて漆塗り加工が施されている漆塗り積層シート10。好ましくは、形状自在性を有するシート状基材11が金属線材を編み込んだ金網であり、和紙シート12a〜12dが天然繊維を抄造した手漉き和紙である、漆塗り積層シート10。【選択図】図1
Description
本発明は、漆工芸を利用した漆塗り積層シートに関するものであり、特に形状自在性を有する基材に貼り付けた和紙に漆塗り加工を施した漆塗り積層シートに関するものである。
一般に漆工芸の用途としては、漆器、家具、仏具などがある。これらは、木工品や木工家具の表面に漆塗り加工を施すものである。また、より実用的な用途としては、一閑張などがある。これは、竹や木で組んだ骨組みに和紙を何度も張り重ねて形を作り、これに柿渋や漆を塗って、色を付けたり防水加工や補強にするものである。
この一閑張は、軽くて丈夫で実用性に優れると同時に、その素朴な風合いが好まれる。しかし、単に基材に貼り付けた和紙に漆を塗るだけであることから表面変化に乏しいものであった。そこで、単に和紙や織物の表面に漆塗り加工を施すだけでなく、表面変化のある漆工芸品を作る方法などが提供されている。
例えば、下記特許文献1においては、予め凹凸模様を施した和紙シートの裏面に補強材を添えて、表裏両面から漆塗り加工を施した疑似皮革を提案している。また、下記特許文献2においては、予め籠や家具などの表面に和紙や粘土などで隆起形状を形成しておき、これに漆塗り加工を施した立体感のある漆工芸品を提案している。
ところで、上記特許文献1の疑似皮革においては、凹凸模様を施した和紙シートで立体感を表現し、漆塗り加工でその立体感を保っている。また、疑似皮革自体がシート状であるので様々な形状に成形することができ、色々な製品の材料として使用することができる。しかし、変形を繰り返すと和紙シートの凹凸模様が崩れ、耐久性のある立体感が得られなかった。また、様々な形状に成形することができるが、成形した形状を疑似皮革自体が維持することができず、他の材料で形状を固定する必要があった。そのため、疑似皮革自体で様々な形状に成形し、これを繰り返して他の形状に変更することができなかった。
また、上記特許文献2の工芸品においては、基材の表面に粘度などで隆起形状を形成しているので、立体感は表現できるがシート状にすることができなかった。従って、様々な形状に成形することができず、変形すると粘度の形状が崩れて立体感が維持できなかった。
そこで、本発明は、以上のようなことに対処して、和紙に施した漆塗り加工の品位・風合いと立体感を損なうことなく様々な形状に成形でき、成形した形状を維持できると共に繰り返して変形できる形状自在性を有する漆塗り積層シートを提供することを目的とする。
上記課題の解決にあたり、本発明者は、鋭意研究の結果、形状の成形が容易でその形状を維持できる基材と和紙とを組み合わせ、これに漆塗り加工を施すことにより本発明の完成に至った。
即ち、本発明に係る漆塗り積層シートは、請求項1の記載によると、
表裏を貫通する複数の開口部を有すると共に形状自在性を有するシート状基材と、
当該シート状基材の表裏両面に積層された和紙シートとから構成され、
前記表裏両面に積層された和紙シートは、前記複数の開口部を介して互いに接着されており、
当該和紙シートの表面から内部にかけて漆塗り加工が施されていることを特徴とする。
表裏を貫通する複数の開口部を有すると共に形状自在性を有するシート状基材と、
当該シート状基材の表裏両面に積層された和紙シートとから構成され、
前記表裏両面に積層された和紙シートは、前記複数の開口部を介して互いに接着されており、
当該和紙シートの表面から内部にかけて漆塗り加工が施されていることを特徴とする。
また、本発明は、請求項2の記載によると、請求項1に記載の漆塗り積層シートであって、
前記形状自在性を有するシート状基材は、金属線材を編み込んだ金網であることを特徴とする。
前記形状自在性を有するシート状基材は、金属線材を編み込んだ金網であることを特徴とする。
また、本発明は、請求項3の記載によると、請求項1又は2に記載の漆塗り積層シートであって、
前記和紙シートは、天然繊維を抄造した手漉き和紙であることを特徴とする。
前記和紙シートは、天然繊維を抄造した手漉き和紙であることを特徴とする。
上記構成によれば、和紙に施した漆塗り加工の品位・風合いと立体感を損なうことなく様々な形状に成形でき、成形した形状を維持できると共に繰り返して変形できる形状自在性を有する漆塗り積層シートを提供することができる。
本発明に係る漆塗り積層シートは、シート状基材とこのシート状基材の表裏両面に積層された和紙シートとから構成され、和紙シートの表面から内部にかけて漆塗り加工が施されている。また、シート状基材は、表裏を貫通する複数の開口部を有している。シート状基材の表裏両面に積層された和紙シートは、シート状基材の複数の開口部を介して互いに接着されている。このことにより、シート状基材と表裏両面に積層された和紙シートとが一体となって積層シート(漆を塗る前の状態をいう)を構成する。
また、シート状基材は、形状自在性を有している。ここで、形状自在性とは自由自在に形状を変化できることをいい、変化した形状を維持できることをいう。シート状基材が形状自在性を有することにより、和紙シートと積層された状態においても積層シートは形状自在性を有することができる。なお、積層シートに漆塗り加工を施した状態(漆塗り積層シート)においても、この性質は維持されている。
ここで、本発明に係る漆塗り積層シートを一実施形態において説明する。なお、本発明は、下記に示す実施形態にのみ限定されるものではない。図1は、本実施形態に係る漆塗り積層シートの構成を示す斜視図である。図1において、漆塗り積層シート10は、漆塗り加工が施される前の状態(積層シート10a)であり、中央のシート状基材11を介して表裏両面にそれぞれ2枚ずつの和紙シート12(12a、12b、12c、12d)で構成されている。
シート状基材11は、上述のように、表裏を貫通する複数の開口部13を有すると共に、形状自在性を有している。シート状基材11が形状自在性を有することにより、これを積層した漆塗り積層シート10を様々な形状に成形でき、成形した形状を維持できると共に繰り返して変形できるようになる。なお、形状自在性を有する素材としては、特に限定するものではないが、各種金属或いは一部のプラスチックなどが適している。竹材などの素材も考えうるが弾性が強く、変化した形状を維持するという点では、金属などを使用することが好ましい。
また、複数の開口部13は、その開口率を特に限定するものではないが、シート状基材11の表裏両面に積層される和紙シートが互いに強く接着するために必要である。表裏両面の和紙シートが互いに強く接着することにより、繰り返して変形できる形状自在性を維持することができる。なお、複数の開口部13を有する点からは、線材を編み込んだ編物状或いは網状の基材が適している。しかし、これに限定するものではなく、板状のものを開口工作するようにしてもよい。例えば、薄い金属板にパンチングで複数の開口部を形成するようにしてもよい。
本実施形態においては、シート状基材11として金属線材を編み込んだ金網を使用した。なお、金網に使用する金属線材の素材及び線径は特に限定するものではないが、漆塗り積層シート10の形状自在性を維持する点から選定することが好ましい。また、和紙シートを互いに接着する接着剤や漆塗り加工の漆で腐食しない素材を選定することが好ましい。本実施形態においては、線径0.3mmの亜鉛メッキ鉄線を亀甲状に編み込んだ金網を使用した。この金網には、多くの開口部が形成されている。
和紙シート12は、シート状基材11と一体となって形状自在性が維持できる素材を選定することが好ましい。なお、洋紙なども使用することができるが、漆塗り加工の各工程に適すると共に仕上がりの品位・風合いの点から適切な和紙を使用することが好ましい。本実施形態においては、和紙シート12として天然繊維を抄造した手漉き和紙を使用した。手漉き和紙は、繊維の絡みが多く独特の表面感と強度を有し、シート状基材11への密着性と変形時の伸びに優れ、形状自在性を維持するうえで破れなどの欠点がない。
また、本実施形態においては、図1のように和紙シート12は、表裏両面にそれぞれ2枚ずつ使用するものであるが、これに限定するものではない。表裏両面の和紙シート12は、それぞれ1枚ずつ或いは3枚以上ずつ、又は、表裏両面で枚数が異なるようにしてもよい。
次に、漆塗り積層シート10を製造方法の面から説明する。図2は、本実施形態に係る漆塗り積層シートに使用する材料を示す写真である。図2において、シート状基材11(以下「金網11」という)とその表裏両面に積層される和紙シート12a、12bを示している。なお、和紙シート12a、12bに更に積層される和紙シート12c、12dは示していない。
まず、和紙シート12を金網11の表裏両面に接着する接着剤を準備する。接着剤の種類は特に限定するものではないが、漆塗り加工に通常に用いられるものでよい。本実施形態においては、加工デンプンなどの糊剤と酢酸ビニル樹脂乳化物とを配合して使用した。次に、和紙シート12a、12bの各表面に接着剤を塗布する。次に、金網11の表裏両面に接着剤を塗布した2枚の和紙シート12a、12bを密着させ、金網11と和紙シート12a、12bとの接着、及び、金網11の開口部を介して和紙シート12aと和紙シート12bとの接着を行う。
次に、別の2枚の和紙シート12c、12dの各表面に接着剤を塗布する。次に、金網11の表裏両面に接着した和紙シート12a、12bの各表面に和紙シート12c、12dを密着させ、和紙シート12aと和紙シート12cとの接着、及び、和紙シート12bと和紙シート12dとの接着を行う。このようにして、金網11と4枚の和紙シート1212a、12b、12c、12dとが密着した状態で、この積層シート10aを12時間〜24時間圧着すると共に積層シート10aを乾燥する。
図3は、材料を積層接着した積層シートの表面を示す写真である。図3において、圧着された積層シート10aの表面には、金網11を構成する金属線材の形状が浮き上がるようにして立体模様が表現されている。なお、裏面も同様である。図4は、圧着された積層シート10aの断面の概略図である。図4において、金網11を構成する金属線材11aの間には、金網11の開口部13が形成されている。この開口部13を介して、金網11の表側の和紙シート12a、12bと裏側の和紙シート12c、12dとが密着して接着していることが分かる。また、和紙シート12a、12b、12c、12dは、いずれも金属線材11aの部分で隆起して立体模様を表現している。
次に、乾燥した積層シート10aに漆塗り加工を施す。漆は、溶剤で希釈して和紙シートに吸い込ませるようにして塗布する。漆の希釈には、通常の溶剤を使用すればよい。例えば、透明漆の場合には、テレピン油で希釈する。また、色漆の場合には、顔料を混合してシンナーで希釈する。漆塗り加工は、複数回繰り返すことが好ましい。積層シート10aの和紙シート12に漆を塗布し、乾燥する。この操作を複数回繰り返して漆塗り積層シート10を得る。
図5は、積層シート10aの表面に漆塗り加工を施した漆塗り積層シート10を示す写真である。図5において、漆塗り積層シート10の表面には、金網11を構成する金属線材の形状が浮き上がるようにして立体模様が表現されていると共に、漆塗り加工による工芸的な表面品位/風合いが表現されている。
このようにして作製した漆塗り積層シート10は、和紙に施した漆塗り加工の品位・風合いと立体感を損なうことなく様々な形状に成形でき、成形した形状を維持できると共に繰り返して変形できる形状自在性を有していた。また、変形を繰り返しても立体形状が崩れることもなく、また、表面の和紙シートが破れるということもなかった。図6〜図8は、作製した漆塗り積層シート10を材料として成形した用途例を示す写真である。例えば、電球の傘、バッグ、小物入れなどである。また、この漆塗り積層シート10は、壁紙などとして各種インテリアの材料に利用することができる。
以上のことから、本発明によれば、和紙に施した漆塗り加工の品位・風合いと立体感を損なうことなく様々な形状に成形でき、成形した形状を維持できると共に繰り返して変形できる形状自在性を有する漆塗り積層シートを提供することができる。
なお、本発明の実施にあたり、上記実施形態に限らず次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記実施形態においては、形状自在性を有するシート状基材として亀甲模様の金網を使用したが、これに限るものではなく、他の形状の金網や金網以外の基材を使用するようにしてもよい。
(2)上記実施形態においては、金網に積層する和紙シートを表裏2枚ずつ計4枚使用したが、これに限るものではなく、表裏それぞれ1枚或いは3枚以上積層するようにしてもよい。また、表面と裏面とで積層する和紙シートの枚数を変化させるようにしてもよい。
(3)上記実施形態においては、色漆(使用したのは茶漆)を使用したが、これに限るものではなく、透明漆或いは他の色漆を使用するようにしてもよい。
(1)上記実施形態においては、形状自在性を有するシート状基材として亀甲模様の金網を使用したが、これに限るものではなく、他の形状の金網や金網以外の基材を使用するようにしてもよい。
(2)上記実施形態においては、金網に積層する和紙シートを表裏2枚ずつ計4枚使用したが、これに限るものではなく、表裏それぞれ1枚或いは3枚以上積層するようにしてもよい。また、表面と裏面とで積層する和紙シートの枚数を変化させるようにしてもよい。
(3)上記実施形態においては、色漆(使用したのは茶漆)を使用したが、これに限るものではなく、透明漆或いは他の色漆を使用するようにしてもよい。
10…漆塗り積層シート、10a…積層シート、11…シート状基材(金網)、
11a…金属線材、12、12a、12b、12c、12d…和紙シート、
13…開口部。
11a…金属線材、12、12a、12b、12c、12d…和紙シート、
13…開口部。
Claims (3)
- 表裏を貫通する複数の開口部を有すると共に形状自在性を有するシート状基材と、
当該シート状基材の表裏両面に積層された和紙シートとから構成され、
前記表裏両面に積層された和紙シートは、前記複数の開口部を介して互いに接着されており、
当該和紙シートの表面から内部にかけて漆塗り加工が施されていることを特徴とする漆塗り積層シート。 - 前記形状自在性を有するシート状基材は、金属線材を編み込んだ金網であることを特徴とする請求項1に記載の漆塗り積層シート。
- 前記和紙シートは、天然繊維を抄造した手漉き和紙であることを特徴とする請求項1又は2に記載の漆塗り積層シート。
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