本発明は、対象物をコーティングする方法に関する。1または複数のコーティング層を有するコーティングが対象物に対して適用され、少なくとも1つのコーティング層が、本質的にアルミニウム、チタン、および窒素から形成される。このコーティング層は、少なくともいくつかの領域において、化学組成が変化する相互に隣接した複数のラメラを含み、少なくとも1つのアルミニウム前駆体および少なくとも1つのチタン前駆体を有する気相から堆積される。
さらに本発明は、化学蒸着(CVD)により対象物に対して適用されるコーティングに関する。このコーティングは、1または複数のコーティング層を含み、少なくとも1つのコーティング層は、本質的にアルミニウム、チタン、および窒素から形成され、少なくともいくつかの領域において、化学組成が変化する相互に隣接した複数のラメラを含む。
切断用途における耐用年数を増大させるために、複数の切断ツールまたは複数の切削インサートが、チタン、アルミニウム、および窒素から構成された複数のコーティング層によって被覆されることが、従来技術から公知である。この点に関し、一般に、複数のTiAlNコーティング層が参照されることが多い。平均的な化学組成は、1または複数の相がこのコーティング層に存在するかどうかにかかわらず、Ti1−xAlxNによって特定される。チタンよりもアルミニウムを多く含む複数のコーティング層に対しては、AlTiN、または、より正確にはAlxTi1−xNという命名法が一般的である。
AlTiN系において立方晶構造を有する複数の単相のコーティング層の生成が、国際公開第03/085152A2号から公知である。この場合、67モルパーセント(mol%)までの窒化アルミニウム(AlN)の相対含有量で、AlTiNの立方晶構造が得られている。75mol%までの、より高いAlN含有量においては、立方晶AlTiNと六方晶AlNの混合物が生成され、75mol%よりも高いAlN含有量においては、独占的に六方晶AlNおよび立方晶窒化チタン(TiN)が生成される。引用される文献に従うと、説明される複数のAlTiNコーティング層は、物理蒸着(PVD)により堆積される。PVD法の場合、AlNの最大相対含有量は、その結果、事実上67mol%までに制限される。さもなくば、六方晶AlNの形でアルミニウムだけを含む複数の相への変化が可能だからである。しかしながら、専門家の見解に従うと、立方晶AlNのより高い相対含有量が、最大限可能な程度まで耐摩耗性を最大化するために所望される。
PVD法の代わりに化学蒸着(CVD)を使用することもまた、この従来技術から公知である。複数の立方晶AlTiNコーティング層は、例えば、この種のコーティング層の準安定構造に起因して、≧1000℃の温度においては生成され得ないので、700℃から900℃までの温度領域内の比較的低い温度においてCVD法が行われることになる。必要であれば、米国特許第6,238,739B1号明細書に従うと、さらに一層低い温度、すなわち、550℃から650℃までの温度領域内にすることもまたできる。この場合、コーティング層中の高い塩素含有量が容認されるべきである。しかしながら、これは、応用事例に対して不都合なことが判明している。従って、上記の複数の方法を用いて、コーティング層の高いアルミニウム含有量および立方晶構造を有する複数のAlTiNコーティング層が生成され得るような、CVD法を最適化するための複数の試みが成されてきた(I. Endler et al., Proceedings Euro PM 2006, Ghent, Belgium, 23 to 25 October 2006, Vol. 1, 219)。たとえこれらのコーティング層が高い微小硬度を有していたとしても、従って、使用時の高い耐摩耗性にとって根本的に有利な性質を有しているとしても、この種のコーティング層の接着強度が、あまりにも低くなり過ぎてしまい得ることが示されてきた。従って、この観点から、独国特許出願公開第10 2007 000 512 B3号明細書においては、位相勾配層として形成され、六方晶AlN、TiN、および立方晶AlTiNの位相混合から構成される1μm厚のコーティング層が、3μm厚の立方晶AlTiNコーティング層の下方に提供されることが提案されている。この場合、立方晶AlTiNの含有量が、(独占的)立方晶AlTiNコーティング層から外へ向かって、または立方晶AlTiNコーティング層に向かって割合が増大する。そのような態様で被覆された複数の切削板が、ミルのスチールに使用された。しかしながら、この場合、PVD法により生成された複数のコーティング層と比べて、耐摩耗性のわずかな改善が達成されただけだった。
耐摩耗性におけるわずかに過ぎない改善に加えて、独国特許出願公開第10 2007 000 512 B3号明細書に従った接合層のさらなる欠点は、実験室規模の実験においてさえも、接合層または位相勾配層が、極めて急速に成長することである(I. Endler et al., Proceedings Euro PM 2006, Ghent, Belgium, 23 to 25 October 2006, Vol. 1, 219)。複数の切削板の工業的コーティングに対して設計された、より大きな反応器中での生成の場合、これは、最終的に意図される立方晶AlTiNコーティング層を形成するための温度が下げられねばならいので、十分な時間を必要とするために、提供されるコーティングプロセスにおいて接合層または位相勾配層が極めて厚くなることにつながる。しかしながら、工業的反応器においては高速の冷却が可能ではないので、プロセス温度のこの低下の間、接合層または位相勾配層の厚さが急激に増大する。より長い期間にわたってコーティングプロセスを中断すること、または、冷却を中断することが考えられるだろうが、これは、費用効率が高くない。
国際公開第2013/134796A1号から、被覆された物体および物体をコーティングする方法が公知となっている。この場合、AlxTi1−xNの特別なコーティング層が、個々の領域においてラメラ構造を有するように形成されている。このラメラ構造は、Ti1−xAlxN(金属として大部分がTi)の交互ラメラ、およびこれと交互のAlxTi1−xN(金属として大部分がAl)から構成される。このTi1−xAlxNは立方晶相として存在し、これに対して、AlxTi1−xNは六方晶構造を有する。上記の説明に従うと、六方晶AlNまたはAlxTi1−xNそれ自体は所望されないとしても、立方晶TiNまたはTi1−xAlxNとの交互の実施形態における六方晶AlNまたはAlxTi1−xNは、この特別な構造において有利であることが判明している。これは、ナノメートルスケールでの複数のラメラの形成に起因するものである。
国際公開第2013/134796A1号に従ったAlxTi1−xNコーティング層が優れた複数の性質を既に示しているものの、硬度の観点において、より一層良好な複数のコーティング層を提供できることが好ましいだろう。これが、本発明が対処する目的であり、冒頭で挙げた種類の方法を特定することを意図し、これによって、対応するコーティング層を用いた複数のコーティングが生成され得る。
本発明のさらなる目的は、高い硬度を有するAlxTi1−xNコーティング層を含む、冒頭で挙げた種類のコーティングを特定することである。
冒頭で挙げた種類の方法において、チタンに対するアルミニウムのモル比を調節することによって、化学組成が変化する複数のラメラがそれぞれ立方晶構造で形成される場合、この方法に関連した目的が達成される。この場合、結晶系を維持しながら、その他複数の金属によってアルミニウムとチタンが部分的に置き換えられることができ、酸素および/または炭素によって窒素が部分的に置き換えられることができる。
本発明に従った方法により達成される1つの利点は、少なくとも1つのアルミニウム前駆体および少なくとも1つのチタン前駆体の対応する導入によってチタンに対するアルミニウムのモル比を調節することにより、複数のラメラにおける複数の結晶系が、立方晶構造または立方晶相の方向に目標とされる態様で調節され得るということに見ることができる。先行技術と比較してチタン含有量が比較的高く維持される場合、交互に存在する態様でTi1−xAlxNおよび立方晶AlxTi1−xNを含む複数のラメラを形成する。交互な複数のラメラのうちの一方にはTiNに近付く組成が存在し、他方にはAlNに近付く組成が存在する。たとえ六方晶相が原理的には予測されるとしても、2つのラメラの構造が立方晶である場合、比例的に高いチタン前駆体の導入により、隣接する複数のAlxTi1−xNラメラに対して立方晶構造を強制する、複数の立方晶Ti1−xAlxNラメラをもたらすことができる。
交互な複数のラメラのそれぞれの立方晶構造が、対応するコーティング層の優れた硬度をもたらす点で有利である。しかしながら、さらに、先行技術と比較して低減されたアルミニウム含有量にもかかわらず、優れた耐酸化性が提供されることもまた示されてきた。原理上は、低減されたアルミニウム含有量の場合、より乏しい耐酸化性が予測されるものの、これは、化学組成が変化する複数の立方晶ラメラによる複数のラメラ系においては観測され得なかった。明らかに、複数のラメラの設定された並びが、より高いチタン含有量に依拠したより高い硬度につながるだけでなく、高い耐酸化性にもまたつながる。
結晶系が維持される限り、アルミニウムとチタンは、その他複数の金属によって部分的に置き換えられ得る。具体的にケイ素がそのために使用され得る。複数のラメラの初期形成を過剰に妨げることを避けるために、ケイ素のような、それらの置換金属の含有量は、例えば、20%まで、好ましくは10%まで、特に7.5%までに制限され得る。他方、クロムのような複数の置換金属の低含有量における使用は、目標とされる態様での複数の使用要件に対して、コーティング層の複数の性質を微調整する可能性をもたらす。
やはりまた結晶系が維持されるという条件下で、酸素および/または炭素によって窒素が部分的に置き換えられることも同様に可能である。例えば、酸素による窒素の少量の置換は、いくつかの機械加工用途にとって有利であり得る。酸素および/または炭素による窒素の部分的置換を通じて、複数のラメラにおいて設定される結晶系が維持されることが、やはりまた必要である。それにより、窒素の可能な置換に対する閾値の上限が生じる。
特に、少なくともコーティング層の個々の領域において立方晶構造を有する複数のラメラの形成にとっては、本質的にアルミニウム、チタン、および窒素から成る少なくとも1つのコーティング層の堆積に対し、気相中のモルAl/Ti比が、少なくとも一時的に、最大3.0まで、好ましくは最大2.0まで、特に、最大1.5までに制限されることが好都合である。より高いチタンのモル含有量においては、複数の立方晶Ti1−xAlxNラメラ(Al含有量より高いTi含有量を有する)の形成が容易になり、複数のラメラは複数のAlxTi1−xNラメラ(Ti含有量より高いAl含有量を有する)と交互に存在する態様で成長する。この場合、第1のタイプの複数のラメラが立方晶で形成され、第2のタイプの複数のラメラに対してこの立方晶構造または結晶系を強制する。
複数のラメラの厚さは、チタンに対するアルミニウムのモル比を調節することによってもまた変更され得る。複数のラメラが、20nmより小さなラメラ周期性、好ましくは3nmから17nmまで、特に5nmから15nmまでのラメラ周期性で堆積されることが好ましい。特に、約8nmから13nmまでの範囲内では、コーティング層の少なくともいくつかの領域において、独占的に立方晶で形成された複数のラメラを有する、優れた複数のコーティング層をもたらす。
本質的にアルミニウム、チタン、および窒素から成る少なくとも1つのコーティング層が、三塩化アルミニウム、四塩化チタン、およびアンモニアを含む気相から、AlxTi1−xNの平均組成で堆積されることが好ましい。もちろん、窒素および/または水素のような複数のキャリアガスもまた使用され得る。原理的には、アルミニウムに対して1つの前駆体およびチタンに対して1つの前駆体がそれぞれ協働することが可能であるものの、必要であれば、個々の金属に対して多数の前駆体もまた使用され得ることが理解される。特に、アルミニウムおよび/またはチタンがその他複数の金属によってわずかに置換されるべき場合は、コーティング層の複数の性質を細かく調節すべく、追加の複数の前駆体を混合することもまた可能である。例えば、コーティング層にクロムまたはケイ素を組み込むために、それぞれ、複数のクロム化合物および/または複数のケイ素化合物が反応性ガスに混合され得る。例えば、5%までのクロムおよび/または5%までのケイ素が、アルミニウムおよび/またはチタンを置換するために提供され得る。
本質的にアルミニウム、チタン、および窒素から成る少なくとも1つのコーティング層が、0.70≦x≦0.90、好ましくは0.75≦x≦0.85を有するAlxTi1−xNの平均組成で堆積されることもまた好ましい。耐酸化性を最大化すべく可能な限り最も高いアルミニウム含有量を有する一般式AlxTi1−xNの複数の立方晶構造の生成にその目的が存在した従来技術と比べて、本発明によれば、耐酸化性を不都合に下げることなく、幾分か低い相対含有量のアルミニウムが意図的にコーティング層に提供され得る。
本質的にアルミニウム、チタン、および窒素から成るこの少なくとも1つのコーティング層はCVD法で堆積される。この場合、10mbarから80mbarまで、特に20mbarから50mbarまでの圧力が設定され得る。圧力のこの設定は、複数のキャリアガスを伴う、複数の反応性ガスまたは複数の前駆体の対応する導入により生じる。
CVD法での堆積に対しては、本質的にアルミニウム、チタン、および窒素から成る少なくとも1つのコーティング層が、約750℃から850℃までの温度で堆積されるように、温度制御が選択される。この温度領域内では、反応性ガス中のアルミニウムとチタンのモル分率を変化させることにより、困難なく、立方晶構造をした複数のラメラの所望の形成が設定され得る。
本質的にアルミニウム、チタン、および窒素から成る少なくとも1つのコーティング層は、通常、1μmから20μmまで、特に3μmから8μmまでの厚さで堆積される。
本質的にアルミニウム、チタン、および窒素から成る少なくとも1つのコーティング層が、サファイアのような適切な基板上に堆積される場合、エピタキシャルな堆積が起こり得る。
本発明に開示される方法に従うと、あらゆる所望の対象物が被覆され得るとしても、この方法は、硬質金属から成る対象物、特に、インデックス付きの切削板のような切削インサートをコーティングする場合に、好ましく使用される。
本発明に従った方法においては、本質的にアルミニウム、チタン、および窒素から成るコーティング層が、対象物に対して適用される唯一のコーティング層であることができる。しかしながら、特に切削板または切削ブレードのような切削インサートのコーティングに対しては、多層コーティングを堆積することが好都合である。第1コーティング層として、好ましくは0.1μmよりも小さな厚さを有するTiNの接合層が堆積され得る。
本質的にアルミニウム、チタン、および窒素から成る少なくとも1つのコーティング層が、TiCNから成るコーティング層上に堆積されることが有利ということが分かる。TiCNから成るコーティング層は、従来技術から公知であるように、好ましくは、中程度の温度のTiCN(MT−TiCN)コーティング層である。この種のTiCNコーティング層は、基板の表面から離れるように垂直に延びる尖った構造を含む。この種のコーティング層上では、本質的にアルミニウム、チタン、および窒素から成り、化学組成は変化するが、それぞれが立方晶構造を有する複数のラメラを有するコーティング層が、非常に良好に、且つ、高い接着強度を有するように堆積され得る。これは、複数の応用目的にとって最適である。
第1コーティング層の堆積およびこれに続く各追加のコーティング層の堆積において、堆積温度がそれぞれ下げられる、または維持される場合、本発明に従った方法が特に効率的に管理され得る。従って、その上にコーティングが形成される基板または対象物が、最初に所望される特定の温度にされ、その後、多数のコーティング層を有するコーティングの堆積が開始され得る。第1コーティング層の堆積後にさらに加熱する必要が無いので、多数のコーティング層を有するコーティングの適用が、比較的急速に、従って高い費用効率で起こり得る。特に、TiNから成る接合層、次にMT−TiCNコーティング層、そして最後に、本質的にアルミニウム、チタン、および窒素から成り、このコーティング層内にラメラ構造を有するコーティング層が提供される場合、全てのコーティング層が、750℃から900℃までの温度領域内で堆積され得る。全てのコーティング層の堆積に対する温度領域が既に比較的狭いので、そして、それ故に、次のコーティング層を形成するための冷却に必要な、短い期間だけ待機すればよいので、もしくは、場合によってはまた同じ温度で作業が実行され得るので、多数のコーティング層を有するコーティングの極めて迅速な生成をもたらす。
本質的にアルミニウム、チタン、および窒素から成る少なくとも1つのコーティング層は、CVD法により堆積される。複数の追加のコーティング層が提供される場合、これらもまた、CVD法により有利に堆積される。
本発明の他の目的は、冒頭で挙げた種類のコーティングにより達成される。この場合、化学組成が変化する複数のラメラが、それぞれ立方晶構造で形成される。この場合、立方晶構造を維持しながら、アルミニウムおよびチタンが、その他複数の金属によって部分的に置き換えられることができ、窒素が、酸素および/または炭素によって置き換えられることができる。
本発明に従ったコーティングは、化学組成は変化するが、異なる複数のラメラ内で同一の結晶系であり、それら自身がこのコーティング層の成分である複数のラメラを有する構造のため、このコーティングが優れた性質を生じさせるということによって、特に特徴付けられる。特に、それぞれが立方晶構造を有する複数のラメラの構造においては、これら複数のラメラを有するコーティング層に対して、高い硬度と、これと同時に耐酸化性をもたらす。
複数のラメラは、好ましくは、20nmより小さいラメラ周期性、好ましくは3nmから17nmまで、特に5nmから15nmまでのラメラ周期性で形成される。その結果、ラメラ周期性は、一定のアルミニウム前駆体含有量とともに導入されるチタン前駆体の含有量を変更することにより、生成する間に調節され得る。特に、ラメラ周期性として5nmから15nmまでの範囲、好ましくは、約8nmから13nmまでの範囲が、高い硬度のためにとりわけ有利なことが判明してきた。透過型電子顕微鏡において見られるように、化学組成が変化する2つのラメラの並びの厚さがラメラ周期性とみなされる。
高い硬度と同時に高い耐酸化性を有する最適条件を得るために、本質的にアルミニウム、チタン、および窒素から成る少なくとも1つのコーティング層は、0.70≦x≦0.90、好ましくは0.75≦x≦0.85を有する平均組成のAlxTi1−xNによって形成され得る。
本質的にアルミニウム、チタン、および窒素から成る少なくとも1つのコーティング層は、1μmから20μmまで、特に3μmから8μmまでの厚さを有することができる。
サファイアのような適切な基板が提供される場合、本質的にアルミニウム、チタン、および窒素から成る少なくとも1つのコーティング層において、エピタキシャル成長が可能である。
異なる様々な切断用途に対してコーティングプロファイルを微調整するために、このコーティングが多層構造を有することが好都合となり得る。切削インサートが硬質金属の場合、第1コーティング層としての接合層が好都合となり得るが、その他複数の場合にもまた好都合となり得る。複数の硬質金属に対しては、この点に関し、好ましくは1.0μmよりも小さい厚さのTiNから成る第1コーティング層を提供することが有利なことが判明している。この第1コーティング層または接合層上に、多数の追加のコーティング層がその後堆積され得る。本質的にアルミニウム、チタン、および窒素から成るコーティング層に対しては、その結果、この層が、TiCNから成るコーティング層、典型的にはMT−TiCN上に堆積されることが好都合なことが判明している。その結果、TiCNから成るコーティング層が、TiNから成るコーティング層上に直接堆積されることが可能である。しかしながら、多数の追加の層がそれらの間に堆積されることもまた可能である。本質的にアルミニウム、チタン、および窒素から成る多数のコーティング層が、その他複数のコーティング層と交互に存在する態様で堆積されること、および/または、例えば、TiN、Al2O3、またはダイヤモンドから成り、コーティングを仕上げる外側のコーティング層が提供されることもまた可能である。
示される複数の利点に従うと、切削板のような切断ツールが、本発明に従ったコーティングを含むことができる。
本発明の複数の追加の特徴、利点、および効果が、下記に説明される例示的な複数の実施形態から得られる。これに関して参照される複数の図面は以下を示す。
対象物上のコーティングの基本的な構造である。
透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して撮られた画像である。
図2に従った画像に対する回折パターンである。
X線ディフラクトグラムである。
硬度および弾性係数のグラフである。
TEM画像である。
極点図の一例である。
図1において、本発明に従った対象物1が概略的に示される。対象物1は、典型的には、焼結された硬質金属から形成される。これは、タングステン、チタン、ニオブ、またはその他複数の金属の炭化物および/または炭窒化物、並びに、コバルト、ニッケル、および/または鉄を含む群から選択されるバインダ金属から構成される。これに関して、バインダ金属の含有量は、通常、10wt%までである。典型的には、対象物1は10wt%までのコバルトおよび/またはその他複数のバインダ金属で構成され、残りは、炭化タングステン、および、5wt%までのその他の炭化物および/またはその他複数の金属の炭窒化物である。
接合層として機能するTiNのコーティング層3が、対象物1上に堆積される。コーティング層3は、通常、2μmよりも小さな厚さ、好ましくは0.4から1.2μmまでの厚さを有する。コーティング層3上に、中間層として機能するTiCNのコーティング層4が堆積される。このコーティング層4はMT−TiCNコーティング層である。この種のコーティング層4は、通常、本質的には対象物1上の表面法線と平行に整列された、尖った結晶の柱状構造を有する。最後に、追加のコーティング層5がコーティング層4上に堆積される。コーティング層5は、本質的にアルミニウム、チタン、および窒素から形成され、CVD法により堆積される。プロセス管理または使用される複数の気体に応じて、より小さな含有量の塩素および酸素もまた、コーティング層5に存在することができる。その他のコーティング層3、4もまた、CVD法を使用して堆積され得る。
対象物1は、具体的に、インデックス付きの切削板のような切削インサートであることができる。この切削板に被覆するため、または、コーティング2を形成するために、TiNの接合層またはコーティング層3が、第1ステップにおいて、880℃から900℃までのプロセス温度で、窒素、水素、および四塩化チタンを含有する、またはこれらから構成される気体から堆積される。その後温度が下げられ、例えば820℃から840℃までの温度で、MT−TiCNから形成されるコーティング層4が、2μmから5μmまでの厚さで堆積される。その結果、窒素、水素、アセトニトリル、および四塩化チタンから構成される気体から堆積が起こる。対応するプロセス温度、および、炭素または窒素源としてのアセトニトリルの使用が、TiCNの柱状の成長または尖った結晶を有する中間層の形成を保証する。その結果、TiCNコーティング層が、断面において、対象物1の表面法線に対し、好ましくは平行だが、少なくとも大部分が±30°の角度で延びる、縦方向に延在する複数の結晶を含む。対応するTiCNコーティング層により、平均組成AlxTi1−xNを有し、続いて堆積されるコーティング層5の適切な接合をもたらす。この点に関し、TiCNコーティング層は、aが0.3から0.8まで、特に0.4から0.6までの範囲にある、TiCaN1−aの平均組成を有することが好都合である。
硬度を増大させるために40mol%までチタンがアルミニウムによって置き換えられ得るTiCNの中間層上に、アルミニウム、チタン、および窒素を有するコーティング層5が最後に適用され、これに対しては、約800℃から830℃まで温度が下げられる。最も外側のコーティング層であるコーティング層5は(必ずしも最も外側でなければいけないというものではないが)、三塩化アルミニウム、窒素、水素、塩化チタン、および個別に導入されたアンモニアと窒素の混合物を含有する気体から形成される。従って、中間層を生成するための第2ステップにおいて、および、コーティング層5を生成するための第3ステップにおいて、それぞれに対するプロセス温度が下げられる。これは、極めて費用効率が高く、切削インサート上でのコーティング2の迅速な形成を可能にする。コーティング層5は、好ましくは、20mbarから80mbarまで、特に25mbarから55mbarまでの圧力で堆積される。この場合、圧力は、導入される複数の気体の体積流量率によって制御される。
以下の表1および表2中に、典型的なプロセスパラメータおよび組成が提供される。
図2にはコーティング構造のTEM画像が示される。この構造においては、硬質金属に対してAlTiN勾配層が適用されている。この層は、チタン前駆体の含有量が徐々に増大され、アルミニウム前駆体の含有量が一定に維持されていたものの、本質的には上記にて説明されたように適用された層である。勾配層はAl90Ti10Nで始まり、Al70Ti30Nで終わる。それらの間の範囲においては、チタン前駆体の含有量が依然として低い間に、国際公開第2013/134796A1号から公知である、六方晶構造と立方晶構造の複数のラメラが交互に存在する構造が最初にできる。その後、より高い含有量においては、立方晶相だけが依然として存在する構造ができる。これは、図3に従う。従って、複数の前駆体の比率を変化させることにより、この構造は、ナノメートルスケールで目標とされる態様に設定され得る。ラメラ周期性は約9nmである。
図4には、コーティング層5に対するX線ディフラクトグラムが見られ、ここから、コーティング層5は立方晶構造で形成され、六方晶相は検出され得ないという評価へと続く。これは、勾配層に対する図3の結果を裏付けている。
驚くべきことに、コーティング層5は、高い硬度だけでなく、適切な靱性もまた示す。図2に従う勾配層について図5に示される計測結果が示すように、勾配層は、独占的に立方晶構造となる範囲において、硬度および靱性の両方に対して最大に到達する。
図6には、コーティング層5の高解像度TEM画像が示される。この層は、上記にて説明されたように生成された。この画像においては、数ナノメートルのラメラ周期性を有して形成された複数のラメラが見られる。Ti含有量より高いAl含有量を有するAlxTi1−xNの組成および立方晶構造を有する複数のラメラが、Al含有量より高いTi含有量を有し、これもまた立方晶構造を有するTi1−xAlxNの複数のラメラと、連続して交互に存在する。この特別なナノ構造が、コーティング層5の優れた複数の性質、特に高い硬度および強度の原因であると仮定される。コーティング層5は、特に、酸化に安定で、高い硬度および強度を有するものとして具現化されるだけでなく、熱的に非常に安定なものとしてもまた具現化される。1時間にわたる950℃から1050℃までの連続的な熱負荷は、複数の硬質金属基板において1000℃でクラックが生じ始めるのに対し、複数の硬質金属部品に同時に生じる離脱は別として、コーティング層5がこの熱負荷に耐えることを示した。
サファイアのような適切な基板上にコーティング層5が堆積される場合、エピタキシャル成長もまた起こり得る。これは、サファイア上に直接堆積されたコーティング層5に基づいた、図7の複数の極点図から導かれ得る。
場合によっては追加のコーティング層3、4ともまた一緒であり得るコーティング層5は、インデックス付きの切削板のような複数の切削インサートに好ましく使用されるとしても、使用時に高い温度および機械的応力にさらされ、そしてその結果、高い耐酸化性もまた示さなければならない、所望されるその他のあらゆる切断ツールもまたもちろん被覆され得る。