従来の化学薬品による治療によって引き起こされる副作用の欠点に関して、本発明の目的は、脂肪代謝の調節に供する医薬品の製造のための第一鉄アミノ酸キレートを含む組成物の使用を提供することである。 前記第一鉄アミノ酸キレートを含有する組成物は、脂肪代謝の調節に効果を有する。
上記の目的を達成するために、本発明は、脂肪代謝の調節に供する医薬品の製造のための第一鉄アミノ酸キレートを含む組成物の使用を提供し、であって、前記医薬品は、脂肪代謝の調節に効果を有する有効量の第一鉄アミノ酸キレートを含有する組成物と、医薬的に許容される担体とを含む。
本発明において、「第一鉄アミノ酸キレートを含む組成物」とは、無機鉄とアミノ酸とを混合して製造される第一鉄アミノ酸キレート(ferrous amino acid chelate)を含む組成物をいう。
好ましくは、前記無機鉄は、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、またはピロリン酸第一鉄を含むが、これらに限られたものではない。好ましくは、前記アミノ酸はグリシンである。
より好ましくは、前記第一鉄アミノ酸キレートを含む組成物は、95重量%ないし100重量%の第一鉄グリシンキレートを含み、さらに好ましくは、98重量%ないし99.9重量%の第一鉄グリシンキレートを含むものである。
好ましくは、前記第一鉄アミノ酸キレートを含む組成物は、硫酸第一鉄(ferrous sulfate)とグリシン(glycine)とを混合した後、60℃ないし90℃で8時間ないし48時間加熱することにより製造されるものであり、前記硫酸第一鉄とグリシンとの比は、1:1.2ないし1:1.5である。
本発明による第一鉄アミノ酸キレートを含む組成物は、少なくとも1つの第一鉄アミノ酸キレートを含み、第一鉄アミノ酸キレートにおける、第一鉄とアミノ酸とのキレート比は、1:1ないし1:4である。より好ましくは、第一鉄アミノ酸キレートにおける、第一鉄とアミノ酸とのキレート比は、1:1.5ないし1:2.5である。
好ましくは、第一鉄アミノ酸キレートを含む組成物は、還元剤を含む。還元剤は、組成物中に含まれる第一鉄アミノ酸キレートの第一鉄の酸化状態を維持することができる。さらに、還元剤はまた、被験者における第一鉄アミノ酸キレートを含む組成物の腸内吸収速度を高めることができる。還元剤は、アスコルビン酸(ascorbic acid)、クエン酸(citric acid)、酢酸(acetic acid)、プロピオン酸(propionic acid)、酪酸(butyric acid)、乳酸(lactic acid)、リンゴ酸(malic acid)、スルホン酸(sulfonic acid)またはコハク酸(succinic acid)を含むが、これらに限定されない。
本発明によれば、本発明による「脂肪代謝の調節」という用語は、血中脂肪が異常的に高い状態を効果的に治療または緩和することを意味する。脂肪代謝の調節は、脂肪合成の低減および脂肪酸代謝の増強を含むが、これに限定されない。本発明の実施形態に示されるように、脂肪代謝の調節は、体重制御、体脂肪減少およびトリアシルグリセロールの調節を意味する。
本発明によれば、用語「有効量」は、必要な期間に脂肪代謝を効果的に調節するために使用される医薬の投与量を意味する。本発明の実施形態に示されるように、脂肪代謝の有効な調節に使用される医薬の投与量は、第一鉄アミノ酸キレートを含む組成物を所定量投与し、特定の期間において体重、血清生化学値および体脂肪に対して測定することができる。
本発明によれば、用語「血清生化学値」は、トリアシルグリセロール、コレステロール、低密度リポタンパク質、および高密度リポタンパク質を含むが、これらに限定されない。
好ましくは、第一鉄アミノ酸キレートを含む組成物の有効量は、0.1mg/kg/日ないし5mg/kg/日である。より好ましくは、該有効量は、0.16mg/kg/日ないし4mg/kg/日である。
本発明によれば、「薬学的に許容される担体」という用語は、任意的に選択し得るあらゆる生理学的に適合する溶媒、分散媒体、コーティング材料、抗菌剤、抗真菌剤、等張剤、および吸収遅延剤、ならびにそれらの類似体を含む。 薬学的に許容される担体の例は、水、リン酸塩緩衝生理食塩水(phosphate buffered solution、PBS)、デキストロース、グリセロール、エタノール、およびそれらの類似体における任意の一種または多種の組み合わせを含む。 多くの状況において、好ましくは、薬学的に許容される担体は、等張剤、例えば、糖、マンニトールおよびソルビトールなどのポリアルコール、または塩化ナトリウムを含む。 薬学的に許容される担体は、湿潤剤、乳化剤、防腐剤または緩衝剤のようなマイクロ補助物質をさらに含むことができる。
本発明による医薬品は、様々な剤形として存在しても良い。前記剤形は、液体、半固体および固体を含むが、これらに限定されない。前記液体は、これに限定されないが、分散液または懸濁液を含む。 半固体および固体剤形は、錠剤、丸薬、粉末、リポソームまたは座薬を含むが、これらに限定されない。好ましい剤形は、予想される投与様式および治療的適用による。
好ましくは、本発明による医薬品の剤形は、経口投与剤形または注射用溶液剤形である。 好ましい投与様式は、経口投与のような経腸投与の様式である。 本発明の実施形態に示されるように、脂肪代謝を効果的に調節するための第一鉄アミノ酸キレートを含む組成物を含む医薬品が経口投与される。
好ましくは、前記医薬品はさらに、前記医薬品を経腸投与または非経腸投与に適用可能な剤形にする賦形剤(excipient)を含む。
好ましくは、前記経腸投与剤形は、経口投与剤形である。前記経口投与剤形は、溶液、懸濁液、錠剤またはカプセルを含むが、これに限定されない。
本発明の第一鉄アミノ酸キレートを含む組成物は、脂肪代謝の調節に効果を有する。 また、本発明に係る第一鉄アミノ酸キレートを含む組成物において、アミノ酸の分子量が十分小さいことから、被験者の胃を通過する際に安定してキレート状態で第一鉄とキレートすることができる。また、第一鉄アミノ酸キレートを含む組成物は、被験者の体重の変化を効果的に制御することができると共に、脂肪代謝および脂肪分解を促進することができる。
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
調製例1:第一鉄アミノ酸キレートを含む組成物の調製
第一鉄アミノ酸キレートを含む組成物の調製方法を以下に示す。まず、硫酸第一鉄とグリシン(純度98%以上)とを1:1.3の重量比で混合した後、60℃ないし90℃で8時間ないし48時間加熱し、第一鉄アミノ酸キレートを含む組成物を獲得した。前記第一鉄アミノ酸キレートにおける、第一鉄とアミノ酸とのキレート比は、1:1ないし1:4であった。獲得した前記第一鉄アミノ酸キレートを含む組成物は、1ミリリットルごと1マイクログラム含有(すなわち1μg/ml)、3μg/ml、10μg/mlおよび30μg/mlの濃度で調製し、該第一鉄アミノ酸キレートを含む組成物を組成物A1と称する。
調製例2:動物実験
C57BL/6JNR雄マウス(12週齢、約50グラム(g))およびdb/db雄マウス(14週齢、約55g)(台湾財団法人国家実験研究院国家動物中心から購入)を12時間明暗サイクルを繰り返し、水を任意に供給した環境に飼育した。
表1および表2に示すように、マウスを群に分けた。マウスに、組成物A1を0.4mg/kg/日および1.2mg/kg/日の投薬量で12週間毎日経口投与した。マウスの体重を3日毎に測定し、組成物A1を経口投与した後4週間毎にマウスの血清生化学値を測定した。Biochem−Immuno Fully Autoanalyzer(Brea、CA、USA)またはChemistry Analyzer(日立製作所、日本)を用いて血清生化学値のトリアシルグリセロールおよびコレステロールを測定した。組成物A1を3ヶ月間投与した後、マウスをサクリファイスし、マウスの腹部および肝臓に沈着した体脂肪および体重を観察した。
調製例3:組織化学染色分析
調製例2のマウスをサクリファイスし、凍結切片包埋剤(Leica Microsystems、Germany)を用いてマウスの肝臓を固定して凍結組織セグメントを形成させ、凍結組織セグメントを−80℃に保った。凍結した組織片を凍結ミクロトームを用いてスライスし、各切片の厚さは7μmであった。各切片をスライド上で、ヘマトキシリンおよびエオシン(hematoxylin and Eosin、H&E)、オイルレッド(oil red)またはスーダンIII(Sudan III)でそれぞれ染色した。染色方法を以下に示す。
(1)ヘマトキシリンおよびエオシン染色
a.サンプルをヘマトキシリン溶液で5分間染色した;
b.水で洗浄した後、組織が青色になるまで数秒間アンモニア水(1000mlの水中に高濃度アンモニア水2滴)に浸漬した;
c.サンプルを水で洗浄し、次いで0.5%エオシンY溶液で数秒間染色した;
d.サンプルを順次に70%エタノール、95%エタノールおよび100%エタノールに浸漬した;
e.サンプルを順次にキシレン100%エタノール溶液(1:1)、キシレンクレオソート(4:1)、キシレン(I)、キシレン(II)にそれぞれ0.5分間浸漬した;
f.浸漬した各サンプルをキシレンを用いて透明にし、2分後に各サンプルを密閉した。
(2)オイルレッド染色
a.各サンプルを蒸留水で短時間洗浄した;
b.各洗浄サンプルを50%イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)に浸漬した;
c.各サンプルをオイルレッドO溶液で10分〜15分間染色した;
d.各サンプルを水洗した;
e.洗浄したサンプルの各々をMayerヘマトキシリン溶液で3分間対比染色した;
f.各サンプルを水で15分間洗浄した;
g.洗浄されたサンプルの各々が半乾燥になった後、グリセリンゼリーで密封した。
(3)スーダンIII染色
a.各サンプルを蒸留水で洗浄した;
b.洗浄した各サンプルを50%アルコールに浸漬した;
c.各サンプルを37℃のスーダンIII−アルコール溶液で1時間染色した;
d.各サンプルを50%アルコールで軽く洗浄して残渣染色液を除去した;
e.軽く洗浄したサンプルの各々をヘマトキシリン溶液で2分間ないし3分間対比染色した;
f.各サンプルを水で20分間洗浄した;
g.各サンプルを半乾燥にして、グリセロールまたはグリセリンゼリーで密封した。
実施例1:組成物A1の投与後のマウスの体重に対する影響の測定
調製例2の表1に示すように、0.4mg/kgおよび1.2mg/kgの組成物A1をそれぞれ12週間経口投与したマウスの3日毎に平均体重および平均体重変化率を測定した。その結果を図1A及び図1Bに示した。組成物A1を投与することによって効果的にマウスの体重を低減させることができる。
調製例2の表2に示すように、db/dbマウスは、レプチン受容体遺伝子(leptin receptor gene)が欠損したことにより、8週齢ないし10週齢で自発的に2型糖尿病に罹患する、先天性遺伝子欠損マウスである。マウスが2型糖尿病に罹患した後、マウスに1.2mg/kgの組成物A1を12週間経口投与した。マウスの平均体重および平均体重変化率を3日毎に測定した。
その結果を図2A及び図2Bに示した。コントロール群のマウスの体重(医薬品を投与しない)は安定して増加した。一方、組成物A1を投与したマウスの体重は、コントロール群のマウスの体重よりも低かった。図2Bに示すように、コントロール群のマウスの体重は1ヶ月で約34%増加した。組成物A1を投与したマウスの体重の平均変化パーセントはわずか22%しかなかった。したがって、組成物A1は、体重の調節に有効であることが分かった。
実施例2:組成物A1の投与後の血清生化学値および体脂肪に対する影響の測定
調製例2の表3および図3Aに示すように、0.16mg/kgおよび0.4mg/kgの組成物A1を投与した高脂肪食餌マウスは、高脂肪食餌を与えた肥満マウス(即ち対照群)と比べ、それぞれ33%および50%トリアシルグリセロールが減少した。さらに、高脂肪食餌マウスに0.4mg/kgの組成物A1を投与した後、マウスのトリアシルグリセロールは、正常食餌を与えたマウス(即ちコントロール群)とほぼ同等であった。結果は、組成物A1が高脂肪食餌に起因する肥満マウスのトリアシルグリセロールを効果的に減少させることを示した。
調製例2の表1に示すように、組成物A1を0.4mg/kg、1.2mg/kgを3ヶ月間経口投与したマウスの血清生化学値を3日毎に測定した。図3Bに示すように、0.4mg/kgおよび1.2mg/kgの組成物A1を投与した一定量の高脂肪食餌を与えたマウスは、コントロール群のマウスに対して、トリアシルグリセロールがそれぞれ30%および45%減少した。さらに、1.2mg/kgの組成物A1を投与された高脂肪食餌マウスのトリアシルグリセロールの減少度も、0.4mg/kgの組成物A1を投与された一定量の高脂肪食餌マウスのそれと同様であった。
調製例2の表4に示すように、対照群のマウスにリン酸塩溶液を投与した。対照群1のマウスに4mg/kg/日の市販品の第一鉄グリシンを投与した。対照群2のマウスに4mg/kg/日の市販の硫酸第一鉄を投与した。実験群のマウスに4mg/kg/日の組成物A1を投与した。図4Aに示すように、トリアシルグリセロールは、比較群1(市販品の第1鉄グリシン投与のB01)、比較群2(市販品の硫酸第一鉄投与のC01)および実験群(組成物A1投与)において、いずれも効果的に減少した。図4Bに示すように、各群のコレステロール濃度は、トリアシルグリセロールの減少結果のように減少しなかった。減少効果は図4Cでは明らかではなかったが、図4Dに示すように、低密度リポタンパク質(LDL)がコントロール群と比較して実験群で約58%減少した。
実施例3:組成物A1の投与後のマウス組織脂肪沈着に対する影響の測定
調製例3に記載の染色方法によれば、図5Aに示す対照群(一定量の高脂肪食餌を与えたマウス)と比べ、図5Bに示す、同じく一定量の高脂肪食餌を与えたマウスに0.4mg/kgの組成物A1を投与した後、肝臓組織中の脂質滴がわずかに減少したことを示した。一定量(図5C)および任意量(図5D)の高脂肪食餌を与えたマウスに1.2mg/kgの組成物A1を投与した後、肝組織中の脂質滴もまた減少したことを示した。
本発明の多くの特徴および利点が、本発明の構造および特徴の詳細とともに前述の説明に記載されているが、本開示は例示的なものに過ぎない。 添付の特許請求の範囲が表現されている用語の広範な一般的意味によって示されるように、本発明の原理内の部分の形状、大きさ、および配置の詳細については、細部において変更を加えることができる。