以下、本発明に係るメカニカルシール装置の実施の形態について、油圧ショベルの走行装置に適用した場合を例に挙げ、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
油圧ショベル1の車体は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3とにより構成されている。上部旋回体3の前部側には、フロント装置4が俯仰動可能に設けられている。油圧ショベル1は、上部旋回体3を旋回させつつフロント装置4を用いて土砂等の掘削作業を行う。
下部走行体2は、前,後方向に延びる左,右のサイドフレーム5A(左側のみ図示)を備えたトラックフレーム5と、各サイドフレーム5Aの長手方向の一端側に設けられた後述の走行装置9と、各サイドフレーム5Aの長手方向の他端側に設けられた遊動輪6と、各サイドフレーム5Aの下側に設けられた複数の下案内ローラ7と、遊動輪6、各下案内ローラ7、後述の駆動輪19に巻回された履帯8とを含んで構成されている。
図2に示すように、走行装置9は、各サイドフレーム5Aの長手方向の一端側に固定された走行装置ブラケット10と、走行装置ブラケット10に後述の固定側ハウジング13を介して取付けられた油圧モータ11と、油圧モータ11の回転を減速する後述の減速装置12とを含んで構成されている。走行装置9は、油圧モータ11の回転を減速装置12によって減速することにより駆動輪19を大きなトルクをもって回転させ、駆動輪19と遊動輪6とに巻装された履帯8を周回駆動させるものである。
減速装置12は、油圧モータ11の回転を減速して駆動輪19に伝達するものである。この減速装置12は、後述の固定側ハウジング13、回転側ハウジング15、遊星歯車減速機構23,24,25等を含んで構成されている。
固定側ハウジング13は、油圧モータ11が取付けられた状態で走行装置ブラケット10に固定して設けられている。固定側ハウジング13は、回転側ハウジング15の軸線(回転軸線)O−Oに沿って延びる段付円筒状に形成され、減速装置12の一部を構成すると共に後述するメカニカルシール装置26の固定体を構成している。
ここで、固定側ハウジング13は大径なフランジ部13Aを有し、このフランジ部13Aは複数のボルト14を用いて走行装置ブラケット10に固定されている。走行装置ブラケット10から突出した固定側ハウジング13の先端側には、回転側ハウジング15を支持するハウジング支持部13Bと、後述する遊星歯車減速機構25のキャリア25Cが結合される雄スプライン部13Cとが設けられている。フランジ部13Aとハウジング支持部13Bとの間には、ハウジング支持部13Bよりも大径な段付き円筒状をなし回転側ハウジング15に向けて突出した円筒突出部13Dが設けられている。
図3に示すように、円筒突出部13Dの内周側には円筒状の固定体側シール収容部13Eが設けられ、この固定体側シール収容部13Eには後述の固定体側鉄リング28および固定体側Oリング30が収容されている。固定体側シール収容部13Eは、回転側ハウジング15との対向面から軸方向に伸長しつつ径方向内向きに傾斜した固定体側傾斜面13Fと、固定体側傾斜面13Fの奥部に配置され回転側ハウジング15の軸線O−Oと直交して内径側に延びた固定体側奥壁面13Gと、固定体側奥壁面13Gの内径側の端縁からさらに軸方向に延長された固定体側延長面13Hとを有している。
固定体側傾斜面13Fは、固定体側シール収容部13Eの全周に亘って形成され、円筒突出部13D側から固定体側奥壁面13Gに向けて内径寸法が徐々に小さくなるテーパ面として形成されている。固定体側奥壁面13Gは、固定体側シール収容部13Eの底部となるもので、回転側ハウジング15の軸線O−Oに対して直交する壁面を形成している。固定体側延長面13Hの内周側には、後述する固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cが配置されている。
回転側ハウジング15は、固定側ハウジング13との間に後述の隙間20を形成した状態で固定側ハウジング13に対して回転可能に設けられている。回転側ハウジング15は、減速装置12の一部を構成すると共に、後述するメカニカルシール装置26の回転体を構成している。回転側ハウジング15は、全体として有蓋円筒状に形成され、その内部に遊星歯車減速機構23,24,25を収容するものである。ここで、回転側ハウジング15は、後述の軸受17を介して固定側ハウジング13のハウジング支持部13Bに支持され外周側にフランジ部15A1を有する段付き円筒状の支持筒体15Aと、支持筒体15Aにボルト16を用いて固定され内周側に内歯15B1,15B2が形成された円筒状のリングギヤ15Bと、リングギヤ15Bを施蓋する円板状の蓋体15Cとを含んで構成されている。
ここで、回転側ハウジング15には、支持筒体15Aのフランジ部15A1から固定側ハウジング13に向けて突出する段付き円筒状の円筒突出部15Dが設けられている。円筒突出部15Dは、固定側ハウジング13に回転側ハウジング15を取付けた状態で、固定側ハウジング13の円筒突出部13Dと僅かな隙間をもって対面するものである。
円筒突出部15Dの内周側には、後述の回転体側鉄リング29および回転体側Oリング32が収容される円筒状の回転体側シール収容部15Eが設けられている。図3に示すように、回転体側シール収容部15Eは、固定側ハウジング13との対向面から軸方向に伸長しつつ径方向内向きに傾斜した回転体側傾斜面15Fと、この回転体側傾斜面15Fの奥部に配置され回転側ハウジング15の軸線O−Oと直交して内径側に延びた回転体側奥壁面15Gと、回転体側奥壁面15Gの内径側の端縁からさらに軸方向に延長された回転体側延長面15Hとを有している。
回転体側傾斜面15Fは、回転体側シール収容部15Eの全周に亘って形成され、円筒突出部15D側から回転体側奥壁面15Gに向けて内径寸法が徐々に小さくなるテーパ面として形成されている。回転体側奥壁面15Gは、回転体側シール収容部15Fの底部となるもので、回転側ハウジング15の軸線O−Oに対して直交する壁面を形成している。回転体側延長面15Hの内周側には、後述する回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cが配置されている。回転側ハウジング15の支持筒体15Aの内周側は、固定側ハウジング13のハウジング支持部13Bに軸受17を介して回転可能に取付けられている。支持筒体15Aのフランジ部15A1には、複数のボルト18を用いて駆動輪(スプロケット)19が固定されている。
軸方向の隙間20は、固定側ハウジング13の円筒突出部13Dの軸方向端面13Jと、回転側ハウジング15の円筒突出部15Dの軸方向端面15Jとの間に、全周に亘って環状に形成されている。また、隙間20よりも径方向の外側にはラビリンス21が形成されている。ラビリンス21は、隙間20に連通するクランク状の迷路を形成し、土砂等が隙間20内に侵入するのを抑制するものである。
回転軸22は、回転側ハウジング15内に設けられ、油圧モータ11の回転出力を導出するものである。回転側ハウジング15の軸線O−Oは、回転軸22の軸中心と一致している。回転軸22の基端側は油圧モータ11の出力軸に連結され、回転軸22の先端側はリングギヤ15B内を軸方向に伸長している。蓋体15Cの近傍に位置する回転軸22の先端部には、後述の太陽歯車23Aが一体形成されている。
回転側ハウジング15内には、3段の遊星歯車減速機構23,24,25が設けられている。これら3段の遊星歯車減速機構23,24,25は、油圧モータ11の回転を3段減速し、回転側ハウジング15のフランジ部15A1に取付けられた駆動輪19を大きなトルクをもって回転させるものである。
ここで、1段目の遊星歯車減速機構23は、回転軸22の先端部に一体形成された太陽歯車23Aと、太陽歯車23Aとリングギヤ15Bの内歯15B1とに噛合し、太陽歯車23Aの周囲を自転しつつ公転する複数の遊星歯車23B(1個のみ図示)と、各遊星歯車23Bを回転可能に支持するキャリア23Cとを含んで構成されている。そして、1段目の遊星歯車減速機構23は、太陽歯車23Aの回転を減速し、各遊星歯車23Bの公転をキャリア23Cを介して2段目の太陽歯車24Aに伝達する。
2段目の遊星歯車減速機構24は、回転軸22に遊嵌された状態で1段目のキャリア23Cにスプライン結合された円筒状の太陽歯車24Aと、太陽歯車24Aとリングギヤ15Bの内歯15B1とに噛合し、太陽歯車24Aの周囲を自転しつつ公転する複数の遊星歯車24B(1個のみ図示)と、各遊星歯車24Bを回転可能に支持するキャリア24Cとを含んで構成されている。そして、2段目の遊星歯車減速機構24は、太陽歯車24Aの回転を減速し、各遊星歯車24Bの公転をキャリア24Cを介して3段目の太陽歯車25Aに伝達する。
3段目の遊星歯車減速機構25は、回転軸22に遊嵌された状態で2段目のキャリア24Cにスプライン結合された円筒状の太陽歯車25Aと、太陽歯車25Aとリングギヤ15Bの内歯15B2とに噛合し、太陽歯車25Aの周囲を自転しつつ公転する複数の遊星歯車25B(1個のみ図示)と、各遊星歯車25Bを回転可能に支持するキャリア25Cとを含んで構成されている。
3段目のキャリア25Cは、固定側ハウジング13の雄スプライン部13Cにスプライン結合されている。従って、キャリア25Cに支持された各遊星歯車25Bの公転は、リングギヤ15Bの内歯15B2を介して回転側ハウジング15に伝達される。これにより、回転側ハウジング15は、遊星歯車減速機構23,24,25によって3段減速された状態で、固定側ハウジング13に対して回転する構成となっている。これら各遊星歯車減速機構23,24,25、軸受17等は、回転側ハウジング15内に充填された潤滑油Lによって潤滑される構成となっている。
次に、本実施の形態に用いられるメカニカルシール装置26について説明する。
メカニカルシール装置26は走行装置9に設けられ、各遊星歯車減速機構23,24,25、軸受17等を潤滑する潤滑油を、回転側ハウジング15内に封止するものである。ここで、メカニカルシール装置26は、固定体としての固定側ハウジング13と、回転体としての回転側ハウジング15と、フローティングシール27とを備えている。フローティングシール27は、固定側ハウジング13と回転側ハウジング15との間に形成された軸方向の隙間20をシールするもので、後述の固定体側鉄リング28、回転体側鉄リング29、固定体側Oリング30、回転体側Oリング32を含んで構成されている。
固定体側鉄リング28は、固定側ハウジング13に設けられた固定体側シール収容部13Eの内周側に配置されている。固定体側鉄リング28は、回転体側鉄リング29と対をなすもので、例えば耐摩耗性、耐食性に優れた鉄系金属材料を用いて円筒状に形成されている。図3に示すように、固定体側鉄リング28は、固定体側Oリング30を挟んで固定側ハウジング13の固定体側傾斜面13Fと対面する外周面である傾斜面28Aと、後述する固定体側Oリング30から軸方向に離間して傾斜面28Aから隙間20寄り(回転側ハウジング15側)の部位に形成された大径鍔部28Bと、傾斜面28Aを挟んで大径鍔部28Bとは反対側に形成された大径鍔部28Bよりも小径な小径鍔部28Cとを含んで構成されている。
固定体側鉄リング28の傾斜面28Aは、大径鍔部28Bから小径鍔部28Cに向けて外径寸法が徐々に小さくなるテーパ状に形成されている。この傾斜面28Aは、大径鍔部28B側の始端部である大径側始端28A1と、小径鍔部28C側の始端部である小径側始端28A2との間に形成されている。固定体側鉄リング28の大径鍔部28Bは、傾斜面28Aの回転側ハウジング15側の端部から全周に亘って径方向外向きに張出している。この大径鍔部28Bは、固定体側鉄リング28と固定体側Oリング30を固定体側シール収容部13Eに収容した状態で固定体側Oリング30から軸方向に離間し、固定体側Oリング30に対して非接触となっている。大径鍔部28Bの軸方向端面は、環状の平坦面からなるシール面28Dとシール面28Dから径方向内向きに傾斜するテーパ面28D1とを有している(図4参照)。
固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cは、傾斜面28Aのうち大径鍔部28Bとは反対側の端部から全周に亘って径方向外向きに張出している。図5に示すように、固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cの外径寸法D1は、固定体側延長面13Hの内径寸法D2よりも小さく(D1<D2)設定されている。小径鍔部28Cは、固定側ハウジング13の固定体側延長面13Hの内周側に配置され、小径鍔部28Cの外周面28C1と固定体側延長面13Hの内周面との間には微小な径方向隙間Aが形成されている。また、傾斜面28Aの小径側始端28A2と小径鍔部28Cの外周面28C1との間、即ち、図3中の寸法Cで示す範囲は、傾斜面28Aと小径鍔部28Cとの間を滑らに連続させる円弧面28Fとなっている。
ここで、固定側ハウジング13の固定体側奥壁面13Gは、固定体側Oリング30との間に後述の空間31を確保した状態で、固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cの軸方向端面28Eよりも大径鍔部28B側に寄った位置に配置されている。具体的には、固定側ハウジング13の固定体側奥壁面13Gは、小径鍔部28Cの外周面28C1のうち傾斜面28A側に位置する傾斜面側始端28Gと傾斜面28Aの小径側始端28A2との間の寸法Cの範囲に配置されている。従って、固定体側鉄リング28の小径鍔部28C側は、固定体側奥壁面13Gと小径鍔部28Cの軸方向端面28Eとの間の軸方向長さBの範囲で固定側ハウジング13の固定体側延長面13Hと重り合っている。
回転体側鉄リング29は、回転側ハウジング15に設けられた回転体側シール収容部15Eの内周側に配置されている。回転体側鉄リング29も、固定体側鉄リング28と同じ鉄系金属材料を用いて円筒状に形成され、回転体側Oリング32を挟んで回転側ハウジング15の回転体側傾斜面15Fと対面する外周面である傾斜面29Aと、後述する回転体側Oリング32から軸方向に離間して傾斜面29Aから隙間20寄り(固定側ハウジング13側)の部位に形成された大径鍔部29Bと、傾斜面29Aを挟んで大径鍔部29Bとは反対側に形成された小径鍔部29Cとを含んで構成されている。
回転体側鉄リング29の傾斜面29Aは、大径鍔部29Bから小径鍔部29Cに向けて外径寸法が徐々に小さくなるテーパ状に形成されている。回転体側鉄リング29の大径鍔部29Bは、傾斜面29Aの固定側ハウジング13側の端部から全周に亘って径方向外向きに張出している。この大径鍔部29Bは、回転体側鉄リング29と回転体側Oリング32を回転体側シール収容部15Eに収容した状態で回転体側Oリング32から軸方向に離間し、回転体側Oリング32に対して非接触となっている。大径鍔部29Bの軸方向端面は、環状の平坦面からなるシール面29Dとシール面29Dから径方向内向きに徐々に傾斜するテーパ面29D1とを有している(図4参照)。
回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cは、傾斜面29Aのうち大径鍔部29Bとは反対側の端部から全周に亘って径方向外向きに張出している。図5に示すように、回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cの外径寸法D1′は、回転体側延長面15Hの内径寸法D2′よりも小さく(D1′<D2′)設定されている。小径鍔部29Cは、回転側ハウジング15の回転体側延長面15Hの内周側に配置され、小径鍔部29Cの外周面29C1と回転体側延長面15Hの内周面との間には微小な径方向隙間A′が形成されている。また、傾斜面29Aの小径側始端29A2と小径鍔部29Cの外周面29C1との間、即ち、図3中の寸法C′で示す範囲は、傾斜面29Aと小径鍔部29Cとの間を滑らに連続させる円弧面29Fとなっている。
ここで、回転側ハウジング15の回転体側奥壁面15Gは、回転体側Oリング32との間に後述の空間33を確保した状態で、回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cの軸方向端面29Eよりも大径鍔部29B側に寄った位置に配置されている。具体的には、回転側ハウジング15の回転体側奥壁面15Gは、小径鍔部29Cの外周面29C1のうち傾斜面29A側に位置する傾斜面側始端29Gと傾斜面29Aの小径側始端29A2との間の寸法C′の範囲に配置されている。従って、回転体側鉄リング29の小径鍔部29C側は、回転体側奥壁面15Gと小径鍔部29Cの軸方向端面29Eとの間の軸方向長さB′の範囲で回転側ハウジング15の回転体側延長面15Hと重り合っている。
固定体側Oリング30は、固定側ハウジング13の固定体側傾斜面13Fと固定体側鉄リング28の傾斜面28Aとの間に設けられている。固定体側Oリング30は、回転体側Oリング32と対をなすもので、例えばニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム等の耐油性を有するゴム材料を用いて、線径(直径)が10mm〜13mmの円形の断面形状を有する環状に形成されている。固定体側Oリング30は、固定側ハウジング13の固定体側傾斜面13Fと固定体側鉄リング28との間をシールすると共に、固定体側鉄リング28を回転体側鉄リング29に向けて軸方向に押圧する。
ここで、固定側ハウジング13の固定体側シール収容部13E内に氷塊等が堆積していない状態(固定体側Oリング30が氷塊等によって押圧されない状態)では、固定側ハウジング13の固定体側奥壁面13Gと固定体側Oリング30との間には、軸方向の空間31が確保されている。従って、油圧ショベル1が長期に亘って稼働することにより固定体側シール収容部13E内に氷塊等が堆積するまでの間は、固定体側Oリング30は、固定体側奥壁面13Gに対して非接触の状態を保持する。このため、固定体側Oリング30の弾性力により固定体側鉄リング28に対して横方向(回転体側鉄リング29に向かう方向)の荷重が過大に付与されることがなく、固定体側鉄リング28のシール面28Dを、回転体側鉄リング29のシール面29Dに対して適度な面圧で摺接させることができる。
そして、固定体側Oリング30が、固定体側シール収容部13E内に堆積した氷塊等によって軸方向に押圧され、固定体側鉄リング28の傾斜面28Aに沿って小径鍔部28C側に移動したときには、図6に示すように、固定体側Oリング30は、固定側ハウジング13の固定体側奥壁面13Gに当接する。この場合、固定体側奥壁面13Gは、固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cの外周面28C1の傾斜面側始端28Gよりも大径鍔部28B側に寄った位置に配置されている。これにより、固定体側Oリング30の一部が固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cの外周面28C1に乗上げるのを抑えることができる構成となっている。
回転体側Oリング32は、回転側ハウジング15の回転体側傾斜面15Fと回転体側鉄リング29の傾斜面29Aとの間に設けられている。回転体側Oリング32も、固定体側Oリング30と同じゴム材料を用いて環状に形成されている。回転体側Oリング32は、回転側ハウジング15の回転体側傾斜面15Fと回転体側鉄リング29との間をシールすると共に、回転体側鉄リング29を固定体側鉄リング28に向けて軸方向に押圧する。
ここで、回転側ハウジング15の回転体側シール収容部15E内に氷塊等が堆積していない状態(回転体側Oリング32が氷塊等によって押圧されない状態)では、回転側ハウジング15の回転体側奥壁面15Gと回転体側Oリング32との間には、軸方向の空間33が確保されている。従って、油圧ショベル1が長期に亘って稼働することにより回転体側シール収容部15E内に氷塊等が堆積するまでの間は、回転体側Oリング32は、回転体側奥壁面15Gに対して非接触の状態を保持する。このため、回転体側Oリング32の弾性力により回転体側鉄リング29に対して横方向(固定体側鉄リング28に向かう方向)の荷重が過大に付与されることがなく、回転体側鉄リング29のシール面29Dを、固定体側鉄リング28のシール面28Dに対して適度な面圧で摺接させることができる。
そして、回転体側Oリング32が、回転体側シール収容部15E内に堆積した氷塊等によって軸方向に押圧され、回転体側鉄リング29の傾斜面29Aに沿って小径鍔部29C側に移動したときには、図6に示すように、回転体側Oリング32は、回転側ハウジング15の回転体側奥壁面15Gに当接する。この場合、回転体側奥壁面15Gは、回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cの外周面29C1の傾斜面側始端29Gよりも大径鍔部29B側に寄った位置に配置されている。これにより、回転体側Oリング32の一部が回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cの外周面29C1に乗上げるのを抑えることができる構成となっている。
ここで、固定体側Oリング30および回転体側Oリング32は、メカニカルシール装置26の組立初期には永久歪や劣化がないため押付力(弾性力)が大きいが、経時的に永久歪や劣化が進むことにより押付力は低下していく。固定体側Oリング30および回転体側Oリング32の永久歪や劣化が小さい組立初期において、固定体側Oリング30が固定体側奥壁面13Gに当接すると共に回転体側Oリング32が回転体側奥壁面15Gに当接した場合には、固定体側鉄リング28のシール面28Dと回転体側鉄リング29のシール面29Dとの間の摩擦力が増大する。これにより、固定体側鉄リング28のシール面28Dと回転体側鉄リング29のシール面29Dとが焼付いたり、固定体側Oリング30および回転体側Oリング32が熱劣化を生じる。
このため、固定体側奥壁面13Gは、固定体側Oリング30との間に軸方向の空間31を確保した状態で、固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cの外周面28C1の傾斜面側始端28Gよりも大径鍔部28B側に寄った位置に配置されている。同様に、回転体側奥壁面15Gは、回転体側Oリング32との間に軸方向の空間33を確保した状態で、回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cの外周面29C1の傾斜面側始端29Gよりも大径鍔部29B側に寄った位置に配置されている。
一方、固定側ハウジング13の固定体側シール収容部13E内に堆積した氷塊等によって固定体側Oリング30が押圧され、回転側ハウジング15の回転体側シール収容部15E内に堆積した氷塊等によって回転体側Oリング32が押圧されるまでには長い時間が経過するため、固定体側Oリング30および回転体側Oリング32は、永久歪や劣化が進むことにより押付力が低下する。従って、固定体側Oリング30が、固定体側シール収容部13Eに堆積した氷塊等に押圧されて固定体側奥壁面13Gに当接し、回転体側Oリング32が、回転体側シール収容部15Eに堆積した氷塊等に押圧されて回転体側奥壁面15Gに当接したとしても、固定体側鉄リング28のシール面28Dと回転体側鉄リング29のシール面29Dとの間の摩擦力が増大するのを抑えることができる。この結果、固定体側鉄リング28のシール面28Dと回転体側鉄リング29のシール面29Dとが焼付いたり、固定体側Oリング30および回転体側Oリング32が熱劣化を生じるのを抑えることができる構成となっている。
一方、本実施の形態では、固定体側Oリング30および回転体側Oリング32の線径を10mm〜13mmとした場合に、固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cの外周面28C1と固定側ハウジング13の固定体側延長面13Hの内周面との間に形成される径方向隙間Aと、回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cの外周面29C1と回転側ハウジング15の回転体側延長面15Hの内周面との間に形成される径方向隙間A′とは、それぞれ0.5mm以上で1.5mm以下の範囲に設定されている。
ここで、固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cの外周面28C1と固定側ハウジング13の固定体側延長面13Hの内周面との間の径方向隙間Aと、回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cの外周面29C1と回転側ハウジング15の回転体側延長面15Hの内周面との間の径方向隙間A′を、0.5mm以上で1.5mm以下の範囲に設定した理由について説明する。
まず、メカニカルシール装置26の組立て時に、固定体側鉄リング28および回転体側鉄リング29の中心が回転側ハウジング15の軸線O−Oに対して偏心したときの偏芯量の許容値は0.5mmである。このため、前記径方向隙間Aと前記径方向隙間A′の下限値は0.5mmに設定されている。
一方、10mm〜13mmの線径を有する固定体側Oリング30が固定側ハウジング13の固定体側奥壁面13Gに押付けられたときに、この固定体側Oリング30が固定体側鉄リング28の小径鍔部28C側にはみ出すことがない許容値は1.5mmである。同様に、回転体側Oリング32が回転側ハウジング15の回転体側奥壁面15Gに押付けられたときに、この回転体側Oリング32が回転体側鉄リング29の小径鍔部29C側にはみ出すことがない許容値は1.5mmである。このため、前記径方向隙間Aと前記径方向隙間A′の上限値は1.5mmに設定されている。この上限値は、固定体側Oリング30によって押圧される固定体側鉄リング28のシール面28Dと、回転体側Oリング32によって押圧される回転体側鉄リング29のシール面29Dとの間に、図4に示す適正な摺接面34を形成することができる許容値でもある。
また、固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cが、固定側ハウジング13の固定体側延長面13Hの内周面に対して径方向で重り合う軸方向長さBと、回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cが、回転側ハウジング15の回転体側延長面15Hの内周面に対して径方向で重り合う軸方向長さB′とは、それぞれ2.5mm以上で3.5mm以下の範囲に設定されている。
ここで、固定側ハウジング13の固定体側奥壁面13Gと固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cの軸方向端面28Eとの間の軸方向長さBと、回転側ハウジング15の回転体側奥壁面15Gと回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cの軸方向端面29Eとの間の軸方向長さB′とを、2.5mm以上で3.5mm以下の範囲に設定した理由について説明する。
まず、10mm〜13mmの線径を有する固定体側Oリング30および回転体側Oリング32を備えたメカニカルシール装置26の組立て時に、固定体側鉄リング28および回転体側鉄リング29が軸方向に片寄る量(片寄り量)は最大で約1.0mmである。また、回転側ハウジング15が回転するときに固定体側鉄リング28および回転体側鉄リング29が軸方向に揺動する量(揺動量)は最大で約0.5mmである。さらに、氷塊等によって固定体側Oリング30および回転体側Oリング32が軸方向に押圧されることにより、固定体側鉄リング28および回転体側鉄リング29が軸方向に片寄る量の増加分(片寄り増加量)は最大で約0.5mmである。そして、上述の片寄り量1.0mmと、揺動量0.5mmと、片寄り増加量0.5mmとを合算した上で、固定側ハウジング13の固定体側奥壁面13Gと固定体側延長面13Hとが交わる角部の面取り形状、回転側ハウジング15の回転体側奥壁面15Gと回転体側延長面15Hとが交わる角部の面取り形状等を考慮することにより、前記軸方向長さBと前記軸方向長さB′の下限値は2.5mmに設定されている。一方、固定体側鉄リング28および回転体側鉄リング29の剛性を考慮することにより、前記軸方向長さBと前記軸方向長さB′の上限値は3.5mmに設定されている。
本実施の形態によるメカニカルシール装置26は上述の如き構成を有するもので、このメカニカルシール装置26を備えた走行装置9を組立てるときには、例えば図5に示すように、固定体側Oリング30を、固定体側鉄リング28の小径鍔部28C側の傾斜面28Aに取付け、これら固定体側鉄リング28と固定体側Oリング30を、固定側ハウジング13の固定体側シール収容部13E内に挿入する。一方、回転体側Oリング32を、回転体側鉄リング29の小径鍔部29C側の傾斜面29Aに取付け、これら回転体側鉄リング29と回転体側Oリング32を、回転側ハウジング15の回転体側シール収容部15E内に挿入する。
この状態で、回転側ハウジング15を、固定側ハウジング13のハウジング支持部13Bに軸受17を介して組付けることにより、固定体側鉄リング28のシール面28Dと回転体側鉄リング29のシール面29Dとが当接し、固定体側鉄リング28と回転体側鉄リング29とは互いに軸方向に押圧される。これにより、固定体側Oリング30は、固定側ハウジング13の固定体側傾斜面13Fと固定体側鉄リング28の傾斜面28Aとの間で押圧されて変形し、徐々に固定体側奥壁面13G側へと移動する。一方、回転体側Oリング32は、回転側ハウジング15の回転体側傾斜面15Fと回転体側鉄リング29の傾斜面29Aとの間で押圧されて変形し、徐々に回転体側奥壁面15G側へと移動する。
走行装置9の組立てが終了すると、固定側ハウジング13の円筒突出部13Dと回転側ハウジング15の円筒突出部15Dとの間には、所定の隙間20とラビリンス21とが形成される。このとき、図3に示すように、固定体側Oリング30は、固定側ハウジング13の固定体側奥壁面13Gとの間に軸方向の空間31を保った状態で、固定側ハウジング13の固定体側傾斜面13Fと固定体側鉄リング28の傾斜面28Aとの間に配置される。一方、回転体側Oリング32は、回転側ハウジング15の回転体側奥壁面15Gとの間に軸方向の空間33を保った状態で、回転側ハウジング15の回転体側傾斜面15Fと回転体側鉄リング29の傾斜面29Aとの間に配置される。
走行装置9を組立てた状態で油圧モータ11を回転させると、油圧モータ11の回転が減速装置12の遊星歯車減速機構23,24,25によって3段減速され、回転側ハウジング15に伝達される。これにより、回転側ハウジング15が大きなトルクをもって回転し、この回転側ハウジング15に固定した駆動輪19と遊動輪6とに巻回された履帯8が駆動され、油圧ショベル1を走行させることができる。
油圧ショベル1の走行時において、メカニカルシール装置26の回転体側鉄リング29は回転側ハウジング15と一体に回転し、この回転体側鉄リング29のシール面29Dが、固定体側鉄リング28のシール面28Dに摺接することにより、回転側ハウジング15と固定側ハウジング13との間を液密にシールすることができる。これにより、回転側ハウジング15内に潤滑油Lを封止し、この潤滑油Lによって軸受17、遊星歯車減速機構23,24,25等を適正に潤滑することができ、回転側ハウジング15を円滑に回転させることができる。
図3に示すように、固定側ハウジング13の固定体側奥壁面13Gと固定体側Oリング30との間に空間31が保たれている状態では、固定体側Oリング30の弾性力により、固定体側鉄リング28の傾斜面28Aに対して垂直方向に荷重Fが作用する。一方、回転側ハウジング15の回転体側奥壁面15Gと回転体側Oリング32との間に空間33が保たれている状態では、回転体側Oリング32の弾性力により、回転体側鉄リング29の傾斜面29Aに対して垂直方向に荷重F′が作用する。
固定体側鉄リング28に作用する荷重Fは、水平分力F1と鉛直分力F2とに分けられ、回転体側鉄リング29に作用する荷重F′は、水平分力F1′と鉛直分力F2′とに分けられる。このため、荷重Fの水平分力F1と荷重F′の水平分力F1′とにより、固定体側鉄リング28のシール面28Dと回転体側鉄リング29のシール面29Dとが適度な面圧をもって摺接する。
一方、固定体側鉄リング28に対して荷重Fの鉛直分力F2が作用することにより、固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cは内周側に変形する。また、回転体側鉄リング29に対して荷重F′の鉛直分力F2′が作用することにより、回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cは内周側に変形する。このため、図4に示すように、固定体側鉄リング28のシール面28Dとテーパ面28D1とが交わる稜線部分と、回転体側鉄リング29のシール面29Dとテーパ面29D1とが交わる稜線部分とは大きな面圧をもって互いに摺接し、平滑な摺接面34が形成される。従って、回転側ハウジング15が回転することにより、固定体側鉄リング28のシール面28Dと回転体側鉄リング29のシール面29Dとに形成された摺接面34に潤滑油Lが浸入し、油膜が形成される。
この場合、摺接面34を挟んで固定体側鉄リング28のシール面28Dと回転体側鉄リング29のシール面29Dとがなす角度と、摺接面34を挟んで固定体側鉄リング28のテーパ面28D1と回転体側鉄リング29のテーパ面29D1とがなす角度には差があるため、摺接面34に形成される油膜には圧力勾配が形成される。この結果、固定体側鉄リング28および回転体側鉄リング29の外側が負圧となり、回転側ハウジング15内の潤滑油Lを外部に漏らさないように封止することができる。
ここで、長期に亘って油圧ショベル1が稼働する間に、固定側ハウジング13の固定体側シール収容部13E、および回転側ハウジング15の回転体側シール収容部15Eには土砂が浸入し、この土砂はフローティングシール27の周囲に徐々に堆積する。さらに、寒冷地においては、フローティングシール27の周囲に堆積した土砂が凍結することにより、フローティングシール27の周囲に凍土が堆積する。フローティングシール27の周囲に堆積した凍土は、回転側ハウジング15が固定側ハウジング13に対して回転するときに砕けて氷塊となり、回転側ハウジング15の回転に伴って移動、凝集することにより固定体側Oリング30および回転体側Oリング32を軸方向に押圧する。これにより、固定体側Oリング30は、固定体側鉄リング28の傾斜面28Aに沿って小径鍔部28C側へと移動し、回転体側Oリング32は、回転体側鉄リング29の傾斜面29Aに沿って小径鍔部29C側へと移動する。
このとき、図6に示すように、固定体側Oリング30は、固定側ハウジング13の固定体側奥壁面13Gに当接することによりそれ以上の小径鍔部28C側への移動が制限される。また、回転体側Oリング32は、回転側ハウジング15の回転体側奥壁面15Gに当接することによりそれ以上の小径鍔部29C側への移動が制限される。従って、固定体側Oリング30が、固定側ハウジング13の固定体側延長面13Hと固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cとの間の隙間内にはみ出すように変形したとしても、小径鍔部28Cの外周面28C1に乗上げるのを抑えることができる。同様に、回転体側Oリング32が、回転側ハウジング15の回転体側延長面15Hと回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cとの間の隙間内にはみ出すように変形したとしても、小径鍔部29Cの外周面29C1に乗上げるのを抑えることができる。
この結果、固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cに対し、固定体側Oリング30の弾性力によって径方向内向きの荷重が付与されるのを抑えることができる。また、回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cに対し、回転体側Oリング32の弾性力によって径方向内向きの荷重が付与されるのを抑えることができる。この結果、固定体側Oリング30から固定体側鉄リング28に作用する径方向の荷重と、回転体側Oリング32から回転体側鉄リング29に作用する径方向の荷重とのバランスを良好に保つことができ、フローティングシール27のシール性を長期に亘って適正に保つことができる。
この場合、図7に示すように、固定体側奥壁面13Gに当接した固定体側Oリング30は、固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cには乗上げないものの、小径鍔部28Cと傾斜面28Aとの間の円弧面28Fには乗上げる。このため、固定体側鉄リング28の傾斜面28Aに対して荷重Fが作用すると共に、円弧面28Fに対し径方向内向きの荷重F3が作用する。同様に、回転体側Oリング32は、回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cと傾斜面29Aとの間の円弧面29Fに乗上げる。このため、回転体側鉄リング29の傾斜面29Aに対して荷重F′が作用すると共に、円弧面29Fに対し径方向内向きの荷重F3′が作用する。このため、互いに摺接する固定体側鉄リング28と回転体側鉄リング29の軸線は、回転側ハウジング15の軸線O−Oに対して偏芯するようになる。
しかし、固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cは、固定側ハウジング13の固定体側延長面13Hの内周側に配置され、固定体側延長面13Hに対し軸方向長さBの範囲で重り合っている。また、回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cは、回転側ハウジング15の回転体側延長面15Hの内周側に配置され、回転体側延長面15Hに対し軸方向長さB′の範囲で重り合っている。このため、固定体側鉄リング28と回転体側鉄リング29の軸線が、回転側ハウジング15の軸線O−Oに対して偏芯したとしても、固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cの外周面28C1が、固定体側延長面13Hの内周面に当接し、回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cの外周面29C1が、回転体側延長面15Hの内周面に当接することにより、偏芯量を制限することができる。
このように、固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cが、固定体側延長面13Hの内周面に当接し、回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cが、回転体側延長面15Hの内周面に当接することにより、固定体側鉄リング28と回転体側鉄リング29の軸線が、回転側ハウジング15の軸線O−Oに対して大きく偏芯するのを抑えることができる。この結果、図4に示すように、固定体側鉄リング28のシール面28Dと回転体側鉄リング29のシール面29Dとに平滑な摺接面34を形成することができ、この摺接面34に油膜が形成されることにより、フローティングシール27のシール性を確保することができる。
次に、本実施の形態によるメカニカルシール装置26と、図8ないし図10に示す比較例によるメカニカルシール装置101との相違について説明する。
比較例によるメカニカルシール装置101は、本実施の形態によるメカニカルシール装置26と同様に、固定側ハウジング13′と、回転側ハウジング15′と、固定体側鉄リング28と、回転体側鉄リング29と、固定体側Oリング30と、回転体側Oリング32とを含んで構成されている。しかし、比較例によるメカニカルシール装置101は、固定側ハウジング13′の固定体側奥壁面13G′が固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cの軸方向端面28Eとほぼ同一平面上に配置され、固定体側延長面13H′の内周側に小径鍔部28Cが配置されていない点、および回転側ハウジング15′の回転体側奥壁面15G′が回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cの軸方向端面29Eとほぼ同一平面上に配置され、回転体側延長面15H′の内周側に小径鍔部29Cが配置されていない点で、本実施の形態によるメカニカルシール装置26とは相違している。
図9に示すように、比較例によるメカニカルシール装置101においては、固定体側Oリング30が、固定体側シール収容部13E内に堆積した氷塊等によって押圧されることにより、固定側ハウジング13′の固定体側奥壁面13G′に当接する。同様に、回転体側Oリング32が、回転体側シール収容部15E内に堆積した氷塊等によって押圧されることにより、回転側ハウジング15′の回転体側奥壁面15G′に当接する。
この場合、固定側ハウジング13′の固定体側奥壁面13G′は、固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cの軸方向端面28Eとほぼ同一平面上に配置されている。このため、例えば図10に示すように、固定体側Oリング30は、固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cと固定側ハウジング13の固定体側延長面13H′との間に形成された隙間内にはみ出すように変形し、小径鍔部28Cの外周面に乗上げるようになる。従って、固定体側鉄リング28の傾斜面28Aに対して荷重Fが作用し、円弧面28Fに対して荷重F3が作用すると共に、小径鍔部28Cに対し径方向内向きの荷重F4が作用する。この結果、固定体側鉄リング28と回転体側鉄リング29との径方向の荷重バランスが崩れ、固定体側鉄リング28と回転体側鉄リング29とが偏芯することにより、固定体側鉄リング28のシール面28Dと回転体側鉄リング29のシール面29Dとの間に油膜を形成することができず、良好なシール性を保つことができなくなる。
これに対し、本実施の形態によるメカニカルシール装置26は、固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cが固定側ハウジング13の固定体側延長面13Hの内周側に配置され、固定側ハウジング13の固定体側奥壁面13Gは、小径鍔部28Cの外周面28C1の傾斜面側始端28Gよりも大径鍔部28B側に寄った位置、具体的には、小径鍔部28Cの外周面28C1の傾斜面側始端28Gと傾斜面28Aの小径側始端28A2との間の範囲に配置されている。同様に、回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cが回転側ハウジング15の回転体側延長面15Hの内周側に配置され、回転側ハウジング15の回転体側奥壁面15Gは、小径鍔部29Cの外周面29C1の傾斜面側始端29Gよりも大径鍔部29B側に寄った位置、具体的には、小径鍔部29Cの外周面29C1の傾斜面側始端29Gと傾斜面29Aの小径側始端29A2との間の範囲に配置されている。
このため、固定側ハウジング13の固定体側シール収容部13E内に堆積した氷塊等が固定体側Oリング30を軸方向に押圧することにより、固定体側Oリング30が固定体側鉄リング28の小径鍔部28C側に移動したとしても、固定体側Oリング30が固定体側奥壁面13Gに当接することにより、固定体側Oリング30の小径鍔部28C側への移動を制限することができる。同様に、回転側ハウジング15の回転体側シール収容部15E内に堆積した氷塊等が回転体側Oリング32を軸方向に押圧することにより、回転体側Oリング32が回転体側鉄リング29の小径鍔部29C側に移動したとしても、回転体側Oリング32が回転体側奥壁面15Gに当接することにより、回転体側Oリング32の小径鍔部29C側への移動を制限することができる。
従って、固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cの外周面28C1に固定体側Oリング30が乗上げるのを抑え、小径鍔部28Cに径方向内向きの荷重が付与されるのを抑えることができる。同様に、回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cの外周面29C1に回転体側Oリング32が乗上げるのを抑え、小径鍔部29Cに径方向内向きの荷重が付与されるのを抑えることができる。この結果、固定体側鉄リング28および回転体側鉄リング29に作用する径方向の荷重のバランスを良好に保つことができ、固定体側鉄リング28のシール面28Dと回転体側鉄リング29のシール面29Dとのシール性を長期に亘って適正に保つことができる。
また、固定体側鉄リング28の傾斜面28Aは、大径鍔部28B側に位置する大径側始端28A1と小径鍔部28C側に位置する小径側始端28A2との間に形成され、固定側ハウジング13の固定体側奥壁面13Gが、小径鍔部28Cの外周面28C1の傾斜面側始端28Gと傾斜面28Aの小径側始端28A2との間の範囲に配置されることにより、小径鍔部28Cの軸方向端面28Eは、固定体側奥壁面13Gの奥部に設けられた固定体側延長面13H内に配置されている。同様に、回転体側鉄リング29の傾斜面29Aは、大径鍔部29B側に位置する大径側始端29A1と小径鍔部29C側に位置する小径側始端29A2との間に形成され、回転側ハウジング15の回転体側奥壁面15Gが、小径鍔部29Cの外周面29C1の傾斜面側始端29Gと傾斜面29Aの小径側始端29A2との間の範囲に配置されることにより、小径鍔部29Cの軸方向端面29Eは、回転体側奥壁面15Gの奥部に設けられた回転体側延長面15H内に配置されている。
これにより、固定体側鉄リング28と回転体側鉄リング29の軸線が、回転側ハウジング15の軸線O−Oに対して偏芯したとしても、固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cの外周面28C1は、固定体側延長面13Hの内周面に当接し、回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cの外周面29C1は、回転体側延長面15Hの内周面に当接する。この結果、固定体側鉄リング28と回転体側鉄リング29が大きく偏芯するのを抑え、固定体側鉄リング28のシール面28Dと回転体側鉄リング29のシール面29Dとに平滑な摺接面34を形成することがでるので、固定体側鉄リング28のシール面28Dと回転体側鉄リング29のシール面29Dとのシール性を良好に保つことができる。
また、固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cの外周面28C1と固定側ハウジング13の固定体側延長面13Hの内周面との間の径方向隙間Aと、回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cの外周面29C1と回転側ハウジング15の回転体側延長面15Hの内周面との間の径方向隙間A′を、0.5mm以上で1.5mm以下の範囲に設定している。
これにより、メカニカルシール装置26の組立て時における固定体側鉄リング28および回転体側鉄リング29の偏心を許容しつつ、固定側ハウジング13の固定体側奥壁面13Gに押付けられた固定体側Oリング30が固定体側鉄リング28の小径鍔部28C側にはみ出すのを抑制し、回転側ハウジング15の回転体側奥壁面15Gに押付けられた回転体側Oリング32が回転体側鉄リング29の小径鍔部29C側にはみ出すのを抑制することができる。
さらに、固定側ハウジング13の固定体側奥壁面13Gと固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cの軸方向端面28Eとの間の軸方向長さBと、回転側ハウジング15の回転体側奥壁面15Gと回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cの軸方向端面29Eとの間の軸方向長さB′とを、2.5mm以上で3.5mm以下の範囲に設定している。
これにより、上述したメカニカルシール装置26の組立て時における固定体側鉄リング28および回転体側鉄リング29の片寄り量、回転側ハウジング15の回転時における固定体側鉄リング28および回転体側鉄リング29の揺動量、固定体側Oリング30および回転体側Oリング32が軸方向に押圧されたときの片寄り増加量等を許容しつつ、固定体側鉄リング28および回転体側鉄リング29が偏芯した場合には、固定体側鉄リング28の小径鍔部28Cを固定体側延長面13Hの内周面に当接させ、回転体側鉄リング29の小径鍔部29Cを回転体側延長面15Hの内周面に当接させることができ、固定体側鉄リング28と回転体側鉄リング29が大きく偏芯するのを抑えることができる。
なお、実施の形態では、油圧ショベル1の走行装置9に搭載されたメカニカルシール装置26に適用した場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば油圧ショベル1の遊動輪6、下案内ローラ7等の回転機構に搭載されるシール装置に広く適用することができる。