JP2018194129A - 自動変速機の制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】摩擦締結要素の掴み換えを行う際の、摩擦締結要素の過度な発熱を防止しつつ、ドライバビリティの低下を防止することが可能な変速制御を行うことが可能な自動変速機の制御装置を提供する。【解決手段】自動変速機の制御装置は、掴み換え時に締結される摩擦締結要素の変速終了時の温度を推定する温度推定部と、前記掴み換え時に解放される摩擦締結要素の前記掴み換え開始時におけるトルク容量の目標値を、前記温度に基づいて設定するトルク容量設定部と、前記掴み換え開始に先だって、前記解放される摩擦締結要素のトルク容量を、前記目標値に低減させるトルク容量低減部と、を備える。【選択図】図2

Description

本発明は、自動変速機の制御装置に関する。
従来、複数の摩擦締結要素の掴み換えを伴って変速する自動変速機が種々知られている。例えば、エンジンと奇数段ギヤ列との間に設けられた第1クラッチ(摩擦締結要素)と、エンジンと偶数段ギヤ列との間に設けられた第2クラッチ(摩擦締結要素)とを備え、エンジンからの駆動力を第1クラッチ又は第2クラッチを介して出力側に伝達するデュアルクラッチトランスミッション(DCT)が知られている。また、遊星歯車を構成する要素同士の相対回転を停止させるクラッチ(摩擦締結要素)と、当該要素の回転を停止させるブレーキ(摩擦締結要素)とを備え、エンジンからの駆動力を遊星歯車を介して出力側に伝達する自動変速機(AT)が知られている。
これらの自動変速機における複数の摩擦締結要素の掴み換え、すなわち、互いに並行して行われる一方の摩擦締結要素の解放と他方の摩擦締結要素の締結は、各摩擦締結要素において摩擦熱を発生させる。過度な摩擦熱の発生は摩擦締結要素を損傷させる。よって何らかの熱対策が必要である。一方、変速時にドライバが予測しない加減速感をドライバに与えることはドライバビリティを低下させるので望ましくない。
摩擦熱対策に関する発明として、特許文献1には、「クラッチの温度が予め設定された温度以上となった場合には、クラッチの発熱を抑制するようにした自動変速機の制御装置」(要約)が記載されている。
特開2013−83318号公報
特許文献1に記載の制御装置は、「クラッチ20の温度を導出するクラッチ温度導出部23bと、クラッチ温度導出部によって導出されたクラッチ温度が予め設定された設定温度より高くなったか否かを判定するクラッチ温度判定部(S102)を有し、クラッチ温度が、設定温度以下と判定された場合には、変速制御時に、クラッチを半クラッチ状態となる第1制御パターンで係合制御し、設定温度以上と判定された場合には、クラッチを半クラッチ状態よりもスリップ量の少ない第2制御パターンで係合制御する変速制御部23a」(要約)を備える。
しかしながら、特許文献1に記載の制御装置はクラッチ温度に応じて単に制御パターンを切り替えるものに過ぎず、必ずしも変速時のドライバビリティの低下を防止できるものではない。
本発明はこのような状況に鑑みなされたものであり、摩擦締結要素の掴み換えを行う際の、摩擦締結要素の過度な発熱を防止しつつ、ドライバビリティの低下を防止することが可能な変速制御を行うことが可能な自動変速機の制御装置を提供することを課題とする。
本発明に係る変速機の制御装置は、掴み換え時に締結される摩擦締結要素の変速終了時の温度を推定する温度推定部と、前記掴み換え時に解放される摩擦締結要素の前記掴み換え開始時におけるトルク容量の目標値を、前記温度に基づいて設定するトルク容量設定部と、前記掴み換え開始に先だって、前記解放される摩擦締結要素のトルク容量を、前記目標値に低減させるトルク容量低減部と、を備える。
本発明によれば、摩擦締結要素の掴み換えを行う際の、摩擦締結要素の過度な発熱を防止しつつ、ドライバビリティの低下を防止することが可能な自動変速機の制御装置を提供することができる。
本発明に係る自動変速機の制御装置が適用された車両を示す概略構成図 本発明に係る自動変速機の制御装置の機能ブロック図 本発明に係る自動変速機の制御装置による制御の流れを示すフローチャート クラッチ吸収エネルギと変速終了時のクラッチの温度の推定値との関係を示すマップ 通常変速によってアップシフトが行われるときのタイムチャート 保護変速によってアップシフトが行われるときのタイムチャート クラッチトルク低減量とマージンとの関係を示すマップ 通常変速によってダウンシフトが行われるときのタイムチャート 保護変速によってダウンシフトが行われるときのタイムチャート
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は一例であり、本発明はこの実施形態により限定されるものではない。
まず、図1を参照して、車両の全体構成について説明する。図1に示すように、車両1は、エンジン10と、第1クラッチ20、第2クラッチ30、変速部40及び油圧回路90からなるDCT2(自動変速機)と、制御装置50とを備えている。そして、DCT2の出力側に、不図示のプロペラシャフトおよびデファレンシャルギヤを介して、駆動輪が動力伝達可能に連結されている。
エンジン10は、例えばディーゼルエンジンである。エンジン10の出力回転数(以下、「エンジン回転数」と記載する。)および出力トルクは、アクセル開度センサ101によって検出されるアクセルペダルのアクセル開度Accに基づいて制御される。また、エンジン出力軸11には、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ102が設けられている。
第1クラッチ20は、複数の第1入力側クラッチ板21および複数の第1出力側クラッチ板22を有する油圧作動式の湿式多板クラッチである。第1入力側クラッチ板21は、エンジン10によって回転させられるエンジン出力軸11と一体回転する。第1出力側クラッチ板22は、変速部40の第1入力軸41と一体回転する。
第1クラッチ20は、不図示のリターンスプリングによって断方向に付勢されており、油圧回路90から供給されるクラッチ作動油圧によって第1ピストン23が移動して、第1入力側クラッチ板21および第1出力側クラッチ板22を圧接することで接とされる。第1クラッチ20が接とされることで、エンジン10の動力が第1入力軸41に伝達される。第1クラッチ20の断接は、制御装置50によって制御される。なお、第1クラッチ20は乾式単板クラッチであってもよい。
第2クラッチ30は、複数の第2入力側クラッチ板31および複数の第2出力側クラッチ板32を有する油圧作動式の湿式多板クラッチである。第2入力側クラッチ板31は、エンジン出力軸11と一体回転する。第2出力側クラッチ板32は、変速部40の第2入力軸42と一体回転する。
第2クラッチ30は、不図示のリターンスプリングによって断方向に付勢されており、油圧回路90から供給されるクラッチ作動油圧によって第2ピストン33が移動して、第2入力側クラッチ板31および第2出力側クラッチ板32を圧接することで接とされる。第2クラッチ30が接とされることで、エンジン10の動力が第2入力軸42に伝達される。第2クラッチ30の断接は、制御装置50によって制御される。なお、第2クラッチ30は乾式単板クラッチであってもよい。以下、必要に応じ、第1入力側クラッチ板21、第2入力側クラッチ板31、第1出力側クラッチ板22及び第2出力側クラッチ板32を単に「クラッチ板」と記載する。
第2クラッチ30は、第1クラッチ20の外周側に設けられている。また、第1入力軸41には、軸方向油路および1つまたは複数の径方向油路からなる不図示の潤滑油路が設けられており、第1入力軸41から潤滑油が放射状に噴射されることで、第1クラッチ20の各クラッチ板が冷却され、さらに、第2クラッチ30の各クラッチ板が冷却される。第2クラッチ30の各クラッチ板を冷却した潤滑油は、第2クラッチ30の外径側等から流出し、油圧回路90が備える不図示のオイルパンに戻る。なお、本実施形態では、第2クラッチ30が第1クラッチ20の外周側に設けられているものを例に挙げて説明を行うが、第1クラッチ20および第2クラッチ30の配置関係はこれに限定されない。具体的には、例えば、第2クラッチ30を、第1クラッチ20の後側に配置するようにしてもよい。
変速部40は、第1クラッチ20の出力側に接続された第1入力軸41と、第2クラッチ30の出力側に接続された第2入力軸42とを備えている。また、変速部40は、第1入力軸41および第2入力軸42と平行に配置された副軸43と、第1入力軸41および第2入力軸42と同軸上に配置された出力軸44と、を備えている。また、出力軸44の後端側には、車両1の速度である車速Vを検出する車速センサ103が設けられている。
変速部40は、第1変速部60と、第2変速部70と、前後進切替部80と、を備えている。第1変速部60は、第1高速ギヤ列61と、第1低速ギヤ列62と、第1連結機構63とを備えている。
第1高速ギヤ列61は、第1入力軸41に対して相対回転可能に設けられた第1入力ギヤ61aと、第1入力ギヤ61aと噛合し、副軸43と一体回転するように設けられた第1副ギヤ61bとからなる。
第1低速ギヤ列62は、第1入力軸41に対して相対回転可能に設けられた第2入力ギヤ62aと、第2入力ギヤ62aと噛合し、副軸43と一体回転するように設けられた第2副ギヤ62bとからなる。
第1連結機構63は、不図示のギヤシフトアクチュエータによって第1スリーブ63aを軸方向(図1の左右方向)に移動させることによって、第1入力ギヤ61aおよび第2入力ギヤ62aを択一的に第1入力軸41と一体回転させる。
第2変速部70は、第2高速ギヤ列71と、第2低速ギヤ列72と、第2連結機構73とを備えている。第2高速ギヤ列71は、第2入力軸42に対して相対回転可能に設けられた第3入力ギヤ71aと、第3入力ギヤ71aと噛合し、副軸43と一体回転するように設けられた第3副ギヤ71bとからなる。
第2低速ギヤ列72は、第2入力軸42に対して相対回転可能に設けられた第4入力ギヤ72aと、第4入力ギヤ72aと噛合し、副軸43と一体回転するように設けられた第4副ギヤ72bとからなる。
第2連結機構73は、不図示のギヤシフトアクチュエータによって第2スリーブ73aを軸方向に移動させることによって、第3入力ギヤ71aおよび第4入力ギヤ72aを択一的に第2入力軸42と一体回転させる。
前後進切替部80は、前進ギヤ列81と、後進ギヤ列82と、第3連結機構83とを備えている。前進ギヤ列81は、出力軸44に対して相対回転可能に設けられた第1出力ギヤ81aと、第1出力ギヤ81aと噛合し、副軸43と一体回転するように設けられた第5副ギヤ81bとからなる。
後進ギヤ列82は、出力軸44に対して相対回転可能に設けられた第2出力ギヤ82aと、第2出力ギヤ82aとアイドラギヤ82cを介して噛合し、副軸43と一体回転するように設けられた第6副ギヤ82bとからなる。
第3連結機構83は、不図示のギヤシフトアクチュエータによって第3スリーブ83aを軸方向に移動させることによって、第1出力ギヤ81aおよび第2出力ギヤ82aを択一的に出力軸44と一体回転させる。
ここで、DCT2における動力伝達経路について簡単に説明する。1速は、第1連結機構63によって第2入力ギヤ62aと第1入力軸41とを連結し、第3連結機構83によって第1出力ギヤ81aと出力軸44とを連結し、かつ第1クラッチ20を接とすることで成立する。これにより、エンジン10の動力は、第1クラッチ20から、第1入力軸41、第1低速ギヤ列62、副軸43、前進ギヤ列81、出力軸44の順に伝達される。
2速は、第2連結機構73によって第4入力ギヤ72aと第2入力軸42とを連結し、第3連結機構83によって第1出力ギヤ81aと出力軸44とを連結し、かつ第2クラッチ30を接とすることで成立する。これにより、エンジン10の動力は、第2クラッチ30から、第2入力軸42、第2低速ギヤ列72、副軸43、前進ギヤ列81、出力軸44の順に伝達される。
3速は、第1連結機構63によって第1入力ギヤ61aと第1入力軸41とを連結し、第3連結機構83によって第1出力ギヤ81aと出力軸44とを連結し、かつ第1クラッチ20を接とすることで成立する。これにより、エンジン10の動力は、第1クラッチ20から、第1入力軸41、第1高速ギヤ列61、副軸43、前進ギヤ列81、出力軸44の順に伝達される。
4速は、第2連結機構73によって第3入力ギヤ71aと第2入力軸42とを連結し、第3連結機構83によって第1出力ギヤ81aと出力軸44とを連結し、かつ第2クラッチ30を接とすることで成立する。これにより、エンジン10の動力は、第2クラッチ30から、第2入力軸42、第2高速ギヤ列71、副軸43、前進ギヤ列81、出力軸44の順に伝達される。
制御装置50は、CPU51、メモリ52、並びに、種々のセンサ及び装置と接続され信号を授受する図示しないインタフェース等から構成されている。CPU51はメモリ52に記憶されているプログラムを実行することにより、エンジン10を制御するとともに、油圧回路90の制御を介してDCT2を制御する。具体的には、CPU51はメモリ52に記憶されているプログラムを実行することにより、図2に示されるように、変速条件成立判断部53、温度推定部54、温度比較部55、トルク容量設定部56、トルク容量低減部57及び実行部58として機能する。
変速条件成立判断部53は、アクセル開度Acc、車速V、及び、メモリ52に記憶されている変速マップ等に基づいて、変速条件が成立したか否かを判断する。
温度推定部54は、第1クラッチ20及び第2クラッチ30(複数の摩擦締結要素)のうち変速時の掴み換えによって締結されるクラッチの変速終了時の温度を推定する。
温度比較部55は、温度推定部54によって推定された温度とメモリ52に記憶されている基準温度とを比較する。
トルク容量設定部56は、第1クラッチ20及び第2クラッチ30のうち変速時の掴み換えによって解放されるクラッチの掴み換え開始時におけるトルク容量の目標値を、温度推定部54によって推定された温度に基づいて設定する。
トルク容量低減部57は、掴み換え開始に先立って、第1クラッチ20及び第2クラッチ30のうち変速時の掴み換えによって解放されるクラッチのトルク容量を、トルク容量設定部56によって設定された目標値に低減させる。
実行部58は、油圧回路90を介して第1クラッチ20の断接、第2クラッチ30の断接、並びに、第1スリーブ63a、第2スリーブ73a及び第3スリーブ83aの移動を行い、アップシフト又はダウンシフトを実行する。
なお、上に説明した各機能部の全てが制御装置50によって実現される必要はなく、上に説明した各機能部のうちの何れか1つ以上が制御装置50とは別の他の制御装置によって実現されてもよい。例えば、制御装置50は温度推定部54、トルク容量設定部56及びトルク容量低減部57として機能するように構成されていてもよい。また、上に説明した各機能部のうち何れか1つが他の機能部の機能をも兼ねるように構成されていても良いことは勿論である。
以下、掴み換え開始前に、掴み換えによって解放されるクラッチのトルク容量を、トルク容量設定部56によって設定された目標値に低減させてから行う変速を、必要に応じ、「保護変速」と記載する。また、掴み換え開始前に、変速時の掴み換えによって解放されるクラッチのトルク容量を、トルク容量設定部56によって設定された目標値に低減させることなく行う変速を、必要に応じ、「通常変速」と記載する。
続いて、図3のフローチャートを参照して、本実施形態に係る変速機の制御装置による変速制御について詳細に説明する。なお、以下では、掴み換え時に締結されるクラッチが第2クラッチ30である場合を説明する。掴み換え時に締結されるクラッチが第1クラッチ20である場合も同様に変速制御を行うことができることは勿論である。
まず、変速条件成立判断部53によって、変速条件が成立したか否かが判断される(S1)。変速条件が成立したか否かは、アクセル開度Acc、車速V、及び、変速マップ等に基づいて判断される。変速条件が成立していない(S1においてNO)と判断される間は、変速条件が成立した(S1においてYES)と判断されるまで、変速条件が成立したか否かの判断が繰り返される。
変速条件が成立したと判断されると、温度推定部54によって、第2クラッチ30の変速終了時の温度の推定値TEST_C2が算出される(S2)。推定値TEST_C2は、次の数式1に基づいて算出される。
Figure 2018194129
数式1において、T0ATFは変速開始時の第2クラッチ30まわりの潤滑油温度、CC2は第2クラッチ30の摩擦材の比熱、KC2は第2クラッチ30の摺動面の熱伝達係数、tは変速開始時間、記号^付tは推定される変速終了時間、記号^付τC2は推定される第2クラッチ30のトルク容量、記号^付ωは推定されるエンジン回転数、記号^付ωc2は推定される第2入力軸42の回転数、αC2は有効潤滑油流量係数、fc2(t)は第2クラッチ30からの放熱量である。なお、数式1の右辺中の各パラメータは、あらかじめ定められているか、本願出願時に公知となっている方法によって求めることができるものである。よって詳細な説明は省略する。
推定値TEST_C2は、変速中の第2クラッチ30の吸収エネルギEC2と、変速終了時の第2クラッチ30の変速終了時の温度の推定値TEST_C2との関係を示す情報(例えばマップ又はテーブル)を参照して求めることも可能である。当該情報は予め実験的に求められメモリ52に記憶されている。当該情報の一例であるマップを図4に示す。なお、クラッチ吸収エネルギEC2は、以下の数式2に基づいて算出することができる。
Figure 2018194129
推定値TEST_C2が求まると、温度比較部55は、推定値TEST_C2と、第2クラッチ30が損傷しない許容温度Tmax(基準温度)と比較する(S3)。許容温度Tmaxはあらかじめ定められており、メモリ52に記憶されている。推定値TEST_C2が許容温度Tmaxよりも大きい場合(S3においてYES)、保護変速が実行される(S4)。また、推定値TEST_C2が許容温度Tmax以下である場合(S3においてNO)、通常変速が実行される(S5)。
保護変速について説明する前に、通常変速のタイムチャートを示す図5を参照しながら、通常変速について説明する。ここでは、3速から4速へのアップシフトが行われる場合を例に挙げて説明する。
通常変速が開始されると、まず、中段のチャートに示されるように、実行部58又はトルク容量低減部57は、第1クラッチ20のトルク容量(伝達可能トルク)をエンジントルクまで低減する。なおこのとき、エンジントルクはドライバ要求エンジントルクに一致している。
続いて、実行部58は、第1クラッチ20のトルク容量を徐々に低減させつつ、第2クラッチ30のトルク容量を徐々に増加させる。すなわち、クラッチの掴み換えが行われる。
その結果、下段のチャートに示されるように、第1クラッチ20及び第1変速部60を介して出力軸44に伝達されるトルクである第1クラッチ系統出力トルクは徐々に減少する。また、第2クラッチ30及び第2変速部70を介して出力軸44に伝達されるトルクである第2クラッチ系統出力トルクは徐々に増加する。出力軸44から出力されるトルクである変速機出力トルク(DCT2の出力トルク)は、第1クラッチ系統出力トルクと第2クラッチ系統出力トルクの和となる。通常変速実行時、実行部58は、掴み換えの前後を通じて、変速機出力トルクがドライバ要求出力トルクに一致するように、各クラッチのトルク容量を制御する。
第1クラッチ系統出力トルクが0になり、変速機出力トルクが第2クラッチ系統出力トルクと等しくなると、実行部58は、次のように制御を行う。すなわち、中段のチャートに示されるように、実行部58は、所定時間、第2クラッチ30のトルク容量を、クラッチの掴み換えが行われていたときのエンジントルクと同じ値に維持するとともに、エンジントルクを所定量低減する。その結果、上段のチャートに示されるように、エンジン回転数は第1入力軸41の回転数から第2入力軸42の回転数に遷移する。エンジン回転数が第2入力軸42の回転数に一致すると、いずれのクラッチにおいても滑りが生じていない状態となる。
エンジン回転数が第2入力軸42の回転数に一致すると、実行部58は、中段のチャートに示されるように、第2クラッチ30のトルク容量を、滑りが生じないように所定量増加させる。これにより、4速が達成され通常変速が完了する。
なお、通常変速実行中は、変速機出力トルクがドライバ要求出力トルクに一致している。よって、変速実行中にドライバに違和感を与えることは少ない。ただし、変速機出力トルクが比較的高い結果、掴み換え時に各クラッチで吸収されるエネルギも比較的大きくなるので、各クラッチの温度が高くなる傾向がある。
次に、保護変速のタイムチャートを示す図6を参照しながら、保護変速について説明する。ここでは、3速から4速へのアップシフトが行われるものとする。保護変速が開始されると、まず、トルク容量設定部56によって、第1クラッチ20の掴み換え前におけるトルク容量の目標値が、温度推定部54によって推定された温度に基づいて設定される。なお、当該目標値がどのように設定されるかについては後に詳しく説明する。
トルク容量設定部56によって目標値が設定されると、下段のチャートに示されるように、トルク容量低減部57は変速機出力トルクをドライバ要求出力トルクから、所定の出力トルクまで低減させる。具体的には、中段のチャートに示されるように、トルク容量低減部57はエンジントルクを所定値まで低減させつつ、締結されているクラッチである第1クラッチ20のトルク容量を、目標値まで低減させる。
続いて、中段のチャートに示されるように、実行部58は第1クラッチ20のトルク容量を徐々に低減させつつ、第2クラッチ30のトルク容量を徐々に増加させる。すなわち、クラッチの掴み換えが行われる。この間、各クラッチのトルク容量の和は、トルク容量設定部によって設定された目標値とされる。
その結果、下段のチャートに示されるように、第1クラッチ20及び第1変速部60を介して出力軸44に伝達されるトルクである第1クラッチ系統出力トルクは徐々に減少する。また、第2クラッチ30及び第2変速部70を介して出力軸44に伝達されるトルクである第2クラッチ系統出力トルクは徐々に増加する。出力軸44から出力されるトルクである変速機出力トルクは、第1クラッチ系統出力トルクと第2クラッチ系統出力トルクの和となる。
第1クラッチ系統出力トルクが0になり、変速機出力トルクが第2クラッチ系統出力トルクと等しくなると、実行部58は、次のように制御を行う。すなわち、中段のチャートに示されるように、実行部58は、所定時間、第2クラッチ30のトルク容量を、トルク容量設定部によって設定された目標値に維持するとともに、エンジントルクを所定量低減する。その結果、上段のチャートに示されるように、エンジン回転数は第1入力軸41の回転数から第2入力軸42の回転数に遷移する。エンジン回転数が第2入力軸42の回転数に一致すると、いずれのクラッチにおいても滑りが生じていない状態となる。
エンジン回転数が第2入力軸42の回転数に一致すると、実行部58は、中段のチャートに示されるように、第2クラッチ30のトルク容量を、滑りが生じないように所定量増加させる。また、エンジントルクをドライバ要求エンジントルクに回復させる。これにより、4速が達成され保護変速が完了する。
保護変速実行中、第1クラッチ20と第2クラッチ30の掴み換え工程において、第1クラッチ20及び第2クラッチ30は滑っている。また、エンジン回転数の遷移工程において、第2クラッチ30は滑っている。しかしながら、通常変速実行時と比較して、2つのクラッチのトルク容量の和、すなわち、2つのクラッチの吸収エネルギの和は、図6中に斜線で示される分低減している。よって、各クラッチにおける発熱量は通常変速実行時よりも小さくなる。よって、保護変速を行うことによって、各クラッチにおける過度な発熱を防止することができる。しかも、DCT2の出力トルクである変速機出力トルクが低減した状態でクラッチの掴み換え工程やエンジン回転数の遷移工程が行われるので、より確実に、各クラッチにおける発熱量を低減させることができる。
また、掴み換え工程、及び、エンジン回転数の遷移工程を通じて、2つのクラッチのトルク容量の合計値は、トルク容量設定部56によって設定された目標値とされている。この目標値は、温度推定部54によって推定された第2クラッチ30の変速完了時の温度に基づいて設定されている。したがって、締結されるクラッチである第2クラッチ30が許容温度を超えることは確実に防止される。しかも、目標値は温度推定部54によって推定された第2クラッチ30の変速完了時の温度に基づいて設定されているので、過度に小さな値ではない。よって、変速時に変速機出力トルクが過度に小さくなりドライバに違和感を与えることも防止することができる。すなわち、ドライバビリティの低下を防止することが可能である。
ここで、第1クラッチ20の掴み換え前におけるトルク容量の目標値がトルク容量設定部56によってどのように設定されるかについて説明する。本実施形態において、当該目標値は、変速開始時のエンジントルクを基準として、当該エンジントルクから所定量のトルクが低減された値として設定される。
具体的には、まず、トルク容量設定部56は、第2クラッチ30の許容温度Tmaxと、温度推定部によって推定された第2クラッチ30の変速完了時の温度TEST_C2との差であるマージン(Tmax−TEST_C2)を算出する。
次に、トルク容量設定部56は、クラッチトルク低減量(保護量)とマージンとの関係を示す情報(例えばマップ又はテーブル)を参照し、クラッチトルク低減量を設定する。当該情報は予めメモリ52に記憶されており、例えば図7に示されるようなマップである。図7に示されるように、クラッチトルク低減量はマージンに対して単調減少、すなわち、推定された温度に対して単調非減少(単調増加又は不変)な量とすることが好ましい。そうすることよって、推定された温度が高くなるほどクラッチトルク低減量が大きくなる傾向となり、推定された温度に対して必要十分なクラッチトルク低減量を得ることができる。なお、図7に示されるマップは、マージンがある程度小さくなると、保護量は最大値(100%の保護状態)に達し、第2クラッチ30が切断された状態となることを示している。
続いて、トルク容量設定部56は、変速開始時のエンジントルクからクラッチトルク低減量を減じ、得られた値を掴み換え開始時における第1クラッチ20のトルク容量の目標値として設定する。
以上のように、掴み換え開始時における第1クラッチ20のトルク容量の目標値は、変速開始時のエンジントルクを基準として、当該エンジントルクから所定量のトルクが低減された値として設定される。よって、簡便に適切な目標値を設定することができる。なお、変速開始時のエンジントルクではなく、実験結果などに基づいてあらかじめ基準値を定めておき、当該基準値から所定量のトルクを低減させて目標値を設定してもよい。
なお、本発明に係る保護変速は、ダウンシフトの場合にも適用することができる。図8は3速から2速へのダウンシフトが通常変速によって実行される場合のタイムチャートである。また、図9は、3速から2速へのダウンシフトが保護変速によって実行される場合のタイムチャートである。
これらのタイムチャートから明らかなように、保護変速によってダウンシフトが実行される場合、エンジン回転数の遷移工程、及び、第1クラッチ20と第2クラッチ30の掴み換え工程を通じて、2つのクラッチのトルク容量の合計値は、トルク容量設定部56によって設定された目標値とされている。この目標値は、温度推定部54によって推定された第2クラッチ30の変速完了時の温度に基づいて設定されている。したがって、締結されるクラッチである第2クラッチ30が許容温度を超えることは確実に防止される。しかも、目標値は温度推定部54によって推定された第2クラッチ30の変速完了時の温度に基づいて設定されているので、過度に小さな値ではない。よって、変速時に変速機出力トルクが過度に小さくなりドライバに違和感を与えることも防止することができる。
また、自動変速機は、ギヤ列をさらに多数有し、より多段に変速できるDCTであってもよいし、遊星歯車を構成する要素同士の相対回転を停止させるクラッチと、当該要素の回転を停止させるブレーキとを備える自動変速機であってもよい。
本発明によれば、摩擦締結要素の掴み換えを行う際の、摩擦締結要素の過度な発熱を防止しつつ、ドライバビリティの低下を防止することが可能な変速機の制御装置を提供することができる。よって、その産業上の利用可能性は多大である。
1 車両
2 DCT
10 エンジン
11 エンジン出力軸
20 第1クラッチ
21 第1入力側クラッチ板
22 第1出力側クラッチ板
23 第1ピストン
30 第2クラッチ
31 第2入力側クラッチ板
32 第2出力側クラッチ板
33 第2ピストン
40 変速部
41 第1入力軸
42 第2入力軸
43 副軸
44 出力軸
50 制御装置
51 CPU
52 メモリ
53 変速条件成立判断部
54 温度推定部
55 温度比較部
56 トルク容量設定部
57 トルク容量低減部
58 実行部
60 第1変速部
61 第1高速ギヤ列
61a 第1入力ギヤ
61b 第1副ギヤ
62 第1低速ギヤ列
62a 第2入力ギヤ
62b 第2副ギヤ
63 第1連結機構
63a 第1スリーブ
70 第2変速部
71 第2高速ギヤ列
71a 第3入力ギヤ
71b 第3副ギヤ
72 第2低速ギヤ列
72a 第4入力ギヤ
72b 第4副ギヤ
73 第2連結機構
73a 第2スリーブ
80 前後進切替部
81 前進ギヤ列
81a 第1出力ギヤ
81b 第5副ギヤ
82 後進ギヤ列
82a 第2出力ギヤ
82b 第6副ギヤ
82c アイドラギヤ
83 第3連結機構
83a 第3スリーブ
101 アクセル開度センサ
102 エンジン回転数センサ
103 車速センサ
90 油圧回路

Claims (3)

  1. 掴み換え時に締結される摩擦締結要素の変速終了時の温度を推定する温度推定部と、
    前記掴み換え時に解放される摩擦締結要素の前記掴み換え開始時におけるトルク容量の目標値を、前記温度に基づいて設定するトルク容量設定部と、
    前記掴み換え開始に先だって、前記解放される摩擦締結要素のトルク容量を、前記目標値に低減させるトルク容量低減部と、を備える自動変速機の制御装置。
  2. 前記目標値は変速開始時におけるエンジントルクから所定量を低減させたトルクの値である、
    請求項1に記載の自動変速機の制御装置。
  3. 前記所定量は前記推定された温度に対して単調非減少な量である、
    請求項2に記載の自動変速機の制御装置。
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