以下、特に、シフトダウンの作動について考察する。通常、シフトダウン要求があった場合、上述した「クラッチの入れ替え」を含む以下のような制御(以下、「通常制御」と呼ぶ)がなされる(詳細は、後述する図6を参照)。
先ず、接合側クラッチのクラッチトルクがゼロに維持され、開放側クラッチのクラッチトルクが前記完全接合用トルクから減少して「前記操作量相当値(=エンジントルク)より小さく且つゼロより大きい第1半接合用トルク」に調整される。即ち、接合側クラッチが「分断状態」に維持され、開放側クラッチが「完全接合状態」から「半接合状態」に変更される。この状態にて、「エンジントルクが第1半接合用トルクより大きいことに起因して増大していくエンジンの回転速度」が「同期回転速度」に達すると、「クラッチの入れ替え」が行われる。即ち、接合側クラッチのクラッチトルクがゼロから増大されて前記完全接合用トルク(>エンジントルク)に調整され、開放側クラッチのクラッチトルクが第1半接合用トルクから減少されてゼロに調整される。即ち、開放側クラッチが「半接合状態」から「分断状態」に変更され、接合側クラッチが「分断状態」から「完全接合状態」に変更される。以上の作動によって、シフトダウンが達成され得る。
ここで、「同期回転速度」とは、「変速後の変速段が実現された状態における車両の速度に対応する変速機の入力軸の回転速度」であり、変速後の変速段の減速比と車両の速度とから決定され得る。以下、駆動輪への駆動トルクの伝達に寄与する変速機入力軸の回転速度(=エンジンの出力軸の回転速度)が「同期回転速度」に一致することを「同期」と呼び、変速機入力軸の回転速度を「同期回転速度」に一致するように変更・調整することを、「同期を行う」、「同期する」などと呼ぶ(以下、本明細書において同じ)。
ところで、この通常制御では、上述のように、エンジントルクに基づく駆動トルクを駆動輪に対して途切れなく伝達し続けながらシフトダウンが達成され得る。しかしながら、一方で、開放側クラッチが「完全接合状態」から「半接合状態」に変更されることにより駆動輪に伝達される駆動トルク(駆動輪駆動トルク)が低下すること(図6の時刻t1を参照)、並びに、「クラッチの入れ替え」(特に、接合側クラッチの「分断状態」から「完全接合状態」への変更)に伴って駆動輪駆動トルクが増大する(復帰する)こと(図6の時刻t2を参照)、に起因して、駆動輪駆動トルクの変化が不可避的に発生する(詳細については後述する)。
この通常制御における駆動輪駆動トルクの変化は、シフトダウンが単発で発生する場合には車両の乗員に対して大きな不快感を与え難い。しかしながら、アクセルペダルが継続して踏み増しされる状況(即ち、アクセルペダルの操作量が単調増加していく状況)のように、シフトダウンが比較的短い期間内で複数回発生する場合、上述した駆動輪駆動トルクの変化が複数回繰り返される(詳細は、後述する図7を参照)。この結果、車両の乗員は大きな不快感を覚え易い。このような状況において、駆動輪駆動トルクにおける繰り返される変化の度合いが小さい車両の動力伝達制御装置の到来が望まれていたところである。
本発明の目的は、DCTを用いた車両の動力伝達制御装置であって、シフトダウンが比較的短い期間内で複数回発生する状況において、駆動輪駆動トルクにおける繰り返される変化の度合いが小さい車両の動力伝達制御装置を提供することにある。
本発明に係る車両の動力伝達制御装置は、上記「背景技術」の欄に記載したものと同様のDCTを用いた装置である。この装置は、通常、シフトダウンの際、「発明の概要」の欄で記載した「通常制御」を実行する。
この動力伝達制御装置の特徴は、「前記加速操作部材の操作量の増加勾配がゼロより大きい所定の範囲内にある状態(操作量増加状態)が所定期間だけ継続した時点から「操作量増加状態」の継続が終了するまでの間に亘って特殊モードが成立していると判定される」点、並びに、「特殊モードが成立していると判定されている間においてのみ、シフトダウンの際、通常制御に代えて特殊制御が実行される」点、にある。
ここで、「特殊モードが成立していると判定されている間」が、上述したアクセルペダルが継続して踏み増しされる状況(即ち、アクセルペダルの操作量が単調増加していく状況)に対応する。換言すれば、この装置では、アクセルペダルが継続して踏み増しされる状況において、シフトダウンの際、通常制御に代えて特殊制御が実行される。
特殊制御では、シフトダウン要求があった場合、先ず、接合側クラッチのクラッチトルクがゼロに維持され、開放側クラッチのクラッチトルクが「前記操作量相当値より小さく且つ前記第1半接合用トルクより大きい第2半接合用トルク」に調整される。この状態にて、次のシフトダウン要求があると、「クラッチの入れ替え」が行われる。「クラッチの入れ替え」では、接合側クラッチのクラッチトルクがゼロから増大されて「第2半接合用トルク」に調整され、開放側クラッチのクラッチトルクが「第2半接合用トルク」から減少されてゼロに調整される。特殊制御では、以上説明した一連の作動が、所定の終了条件が成立するまで繰り返される。
このように、特殊制御は、以下の点で、通常制御と異なる。
1.開放側クラッチの「半接合状態」におけるクラッチトルクが、通常制御と比べて大きい値に調整される。
2.通常制御では、動力源の回転速度の同期が完了したときに「クラッチの入れ替え」が行われるのに対し、特殊制御では、次のシフトダウン要求があったときに「クラッチの入れ替え」が行われる。
3.通常制御では、接合側クラッチが「分断状態」から「完全接合状態」に変更されるのに対し、特殊制御では、接合側クラッチが「分断状態」から「半接合状態」に変更される。
特殊制御では、上記「1」の観点に起因して、通常制御と比べて、開放側クラッチが「完全接合状態」から「半接合状態」に変更される際の駆動輪駆動トルクの低下量が小さい。加えて、特殊制御では、上記「2」及び「3」の観点に起因して、「クラッチの入れ替え」が複数回繰り返され得る特殊制御中に亘って、駆動輪への駆動トルクの伝達に寄与する(接合状態にある)クラッチについて「半接合状態」が連続的に維持される。従って、通常制御(接合側クラッチが「分断状態」から「完全接合状態」へ変更される)と比べて、「クラッチの入れ替え」に伴う駆動輪駆動トルクの増大量が小さい。
以上のことから、この装置によれば、アクセルペダルが継続して踏み増しされる状況(即ち、シフトダウンが比較的短い期間内で複数回発生する状況)において、通常制御に代えて特殊制御が実行されるので、通常制御が実行される場合と比べて、駆動輪駆動トルクにおける繰り返される変化の度合いが小さくなる。
この装置においては、特殊制御中にて「クラッチの入れ替え」を行う際、接合側クラッチが「半接合状態」に調整される際のクラッチトルク(=第2半接合用トルク)の初期値が、開放側クラッチが「半接合状態」に調整されていた際のクラッチトルク(=第2半接合用トルク)の最終値より小さいことが好適である。更に好ましくは、接合側クラッチに対する前記「第2半接合用トルクの初期値」が、開放側クラッチに対する前記「第2半接合用トルクの最終値」に、「クラッチの入れ替えの前にて開放側クラッチに対応する機構部にて確立されていた変速段の減速比を、クラッチの入れ替えの後にて接合側クラッチに対応する機構部にて確立されている変速段の減速比で除した値」(=1より小さい正の値)を乗じて得られる値、に設定され得る。
特殊制御中の「クラッチの入れ替え」によって、駆動輪への駆動トルクの伝達に寄与する変速段が1段だけ低速側に移行する。換言すれば、「変速機の出力軸の回転速度」に対する「駆動輪への駆動トルクの伝達に寄与する変速機の入力軸の回転速度」の割合(=減速比)が大きくなる。従って、接合側クラッチに対する前記「第2半接合用トルクの初期値」を、開放側クラッチに対する前記「第2半接合用トルクの最終値」に対して、前記「減速比の増大」に相当する分だけ小さくすれば、「クラッチの入れ替え」の前後での「減速比の増大」に起因する駆動輪駆動トルクの変化の度合いを極力小さくできる。上記構成は、係る知見に基づく。
また、この装置においては、「特殊モード」の判定に使用される前記「所定期間」に関し、前記加速操作部材の操作量の増加勾配が大きくなるにつれて前記所定期間が長くなるように前記所定期間が設定されることが好適である。
一般に、加速操作部材の操作量の増加勾配が比較的大きい場合は、運転者が「大きな加速度を直ちに得るため、シフトダウンに要する時間を短くしたい」と希望する場合が多い。ここで、特殊制御で使用される第2半接合用トルクが、通常制御で使用される第1半接合用トルクより大きいことを考慮すると、特殊制御では、通常制御と比べて、動力源の回転速度の同期に要する時間が長くなることによって、シフトダウンに要する時間が長くなる傾向がある。従って、加速操作部材の操作量の増加勾配が比較的大きい場合は、特殊制御を選択するより通常制御を選択する方が運転者の意思に沿う、と考えられる。
上記構成は係る知見に基づく。上記構成によれば、加速操作部材の操作量の増加勾配が大きいほど、「特殊モードが成立している」という判定がなされ難くなる。換言すれば、加速操作部材の操作量の増加勾配が比較的大きい場合、特殊制御が選択され難くなる(通常制御が選択され易くなる)。従って、シフトダウンに要する時間を短くすることができ、運転者の意思に沿って、大きな加速度を直ちに得ることができる。
また、この装置において、前記加速操作部材の操作量及び前記車両の速度と、前記選択変速段と、の間の事前に定められた関係に基づいて、前記選択変速段を決定するように構成される場合、前記車両の速度の増加勾配と、前記加速操作部材の操作量の増加勾配と、前記関係と、に基づいて次の前記シフトダウン要求が発生するまでの時間を推定し、前記推定された時間に基づいて前記第2半接合用トルクを調整するように構成され得る。
これによれば、前記推定された時間に基づいて、次のシフトダウン要求が発生する時期と同時に動力源の回転速度の同期が完了するように、第2半接合用トルク(従って、動力源の回転速度の増加度合)を制御することができる。従って、次のシフトダウン要求が発生する時期と動力源の回転速度の同期が完了する時期とを略一致させることができる。この結果、「クラッチの入れ替え」が複数回繰り返され得る特殊制御中に亘って、駆動輪への駆動トルクの伝達に寄与する(接合状態にある)クラッチについて「半接合状態」がより一層安定して連続的に維持され得る。よって、駆動輪駆動トルクにおける繰り返される変化の度合いがより一層安定して小さくされ得る。
また、この装置においては、前記推定された時間が所定の時間以上の場合に、前記特殊制御の前記終了条件が成立するように構成されることが好適である。特殊制御中において、次のシフトダウン要求が発生するまでに非常に長い時間を要する場合、並びに、次のシフトダウン要求が発生し得ない場合、継続中の特殊制御を終了すべきである。上記構成は係る知見に基づく。なお、特殊制御の継続中において「特殊モード」が不成立と判定された場合も、特殊制御が終了される。
以下、本発明の実施形態に係る車両の動力伝達制御装置(本装置)について図面を参照しつつ説明する。本装置は、変速機T/Mと、第1クラッチC1と、第2クラッチC2と、ECUとを備えている。この変速機T/Mは、車両前進用に6つの変速段(1速〜6速)、及び、車両後進用に1つの変速段(リバース)を備えている。
変速機T/Mは、第1入力軸Ai1と、第2入力軸Ai2と、出力軸Aoと、第1機構部M1と、第2機構部M2とを備える。第1、第2入力軸Ai1,Ai2は、同軸的且つ相対回転可能に、ケース(図示せず)に支持されている。出力軸Aoは、第1、第2入力軸Ai1,Ai2からずれた位置で第1、第2入力軸Ai1,Ai2と平行にケースに支持されている。
第1入力軸Ai1は、第1クラッチC1を介して車両の動力源であるエンジンE/Gの出力軸AEと接続されている。同様に、第2入力軸Ai1は、第2クラッチC2を介してエンジンE/Gの出力軸AEと接続されている。出力軸Aoは、車両の駆動輪と動力伝達可能に接続されている。
第1機構部M1は、互いに常時噛合する1速の駆動ギヤG1i及び1速の被動ギヤG1oと、互いに常時噛合する3速の駆動ギヤG3i及び3速の被動ギヤG3oと、互いに常時噛合する5速の駆動ギヤG5i及び5速の被動ギヤG5oと、互いに常時噛合しないリバースの駆動ギヤGRi及びリバースの被動ギヤGRoと、駆動ギヤGRi及び被動ギヤGRoとそれぞれ常時噛合するリバースアイドルギヤGRdと、スリーブS1,S2とを備える。スリーブS1,S2はそれぞれ、スリーブアクチュエータAS1,AS2により駆動される。
駆動ギヤG1i,G3i,G5i,GRiのうち、G1i,GRiは第1入力軸Ai1に一体回転するように固定され、G3i,G5iは第1入力軸Ai1に相対回転可能に支持されている。被動ギヤG1o,G3o,G5o,GRoのうち、G1o,GRoは出力軸Aoに相対回転可能に支持され、G3o,G5oは出力軸Aoに一体回転するように固定されている。
スリーブS1は、出力軸Aoと一体回転するハブに対して軸方向に移動可能に常時スプライン嵌合している。スリーブS1が図1に示す位置(非接続位置)にある場合、スリーブS1は、被動ギヤG1oと一体回転する1速ピース、及び、被動ギヤGRoと一体回転するリバースピースに対して共にスプライン嵌合しない。スリーブS1が非接続位置より左側の位置(1速位置)に移動すると、スリーブS1が1速ピースに対してスプライン嵌合し、右側の位置(リバース位置)に移動すると、スリーブS1がリバースピースに対してスプライン嵌合する。
スリーブS2は、第1入力軸Ai1と一体回転するハブに対して軸方向に移動可能に常時スプライン嵌合している。スリーブS2が図1に示す位置(非接続位置)にある場合、スリーブS2は、駆動ギヤG3iと一体回転する3速ピース、及び、駆動ギヤG5iと一体回転する5速ピースに対して共にスプライン嵌合しない。スリーブS2が非接続位置より左側の位置(3速位置)に移動すると、スリーブS2が3速ピースに対してスプライン嵌合し、右側の位置(5速位置)に移動すると、スリーブS2が5速ピースに対してスプライン嵌合する。
以上より、第1機構部M1では、スリーブS1,S2を共に非接続位置に調整すると、第1入力軸Ai1と出力軸Aoとの間で動力伝達系統が形成されないニュートラル状態が得られる。ニュートラル状態においてスリーブS1が1速位置へ移動すると、1速の減速比を有する動力伝達系統が形成され(1速が確立され)、ニュートラル状態においてスリーブS1がリバース位置へ移動すると、リバースの減速比を有する動力伝達系統が形成される(リバースが確立される)。ニュートラル状態においてスリーブS2が3速位置へ移動すると、3速の減速比を有する動力伝達系統が形成され(3速が確立され)、ニュートラル状態においてスリーブS2が5速位置へ移動すると、5速の減速比を有する動力伝達系統が形成される(5速が確立される)。
第2機構部M2は、互いに常時噛合する2速の駆動ギヤG2i及び2速の被動ギヤG2oと、互いに常時噛合する4速の駆動ギヤG4i及び4速の被動ギヤG4oと、互いに常時噛合する6速の駆動ギヤG6i及び6速の被動ギヤG6oと、スリーブS3,S4とを備える。スリーブS3,S4はそれぞれ、スリーブアクチュエータAS3,AS4により駆動される。
駆動ギヤG2i,G4i,G6iは全て、第2入力軸Ai2に一体回転するように固定されている。被動ギヤG2o,G4o,G6oは全て、出力軸Aoに相対回転可能に支持されている。
スリーブS3は、出力軸Aoと一体回転するハブに対して軸方向に移動可能に常時スプライン嵌合している。スリーブS3が図1に示す位置(非接続位置)にある場合、スリーブS3は、被動ギヤG2oと一体回転する2速ピース、及び、被動ギヤG4oと一体回転する4速ピースに対して共にスプライン嵌合しない。スリーブS3が非接続位置より右側の位置(2速位置)に移動すると、スリーブS3が2速ピースに対してスプライン嵌合し、左側の位置(4速位置)に移動すると、スリーブS3が4速ピースに対してスプライン嵌合する。
スリーブS4は、出力軸Aoと一体回転するハブに対して軸方向に移動可能に常時スプライン嵌合している。スリーブS4が図1に示す位置(非接続位置)にある場合、スリーブS4は、被動ギヤG6oと一体回転する6速ピースに対してスプライン嵌合しない。スリーブS4が非接続位置より右側の位置(6速位置)に移動すると、スリーブS4が6速ピースに対してスプライン嵌合する。
以上より、第2機構部M2では、スリーブS3,S4を共に非接続位置に調整すると、第2入力軸Ai2と出力軸Aoとの間で動力伝達系統が形成されないニュートラル状態が得られる。ニュートラル状態においてスリーブS3が2速位置へ移動すると、2速の減速比を有する動力伝達系統が形成され(2速が確立され)、ニュートラル状態においてスリーブS3が4速位置へ移動すると、4速の減速比を有する動力伝達系統が形成される(4速が確立される)。ニュートラル状態においてスリーブS4が6速位置へ移動すると、6速の減速比を有する動力伝達系統が形成される(6速が確立される)。なお、本明細書で、「N速の減速比GN」(N:1〜6の自然数)とは、「N速が確立された状態における、出力軸Aoの回転速度に対する、N速に対応する入力軸(Ai1、or、Ai2)の回転速度の割合」を指す。ここで、「G1>G2>G3>G4>G5>G6」という関係が成立している。
第1、第2クラッチC1,C2は、同軸的且つ軸方向に直列に配置構成されている。第1クラッチC1のクラッチストロークSt1は、クラッチアクチュエータAC1により調整される。図2に示すように、クラッチストロークSt1を調整することで、第1クラッチC1が伝達可能な最大トルク(第1クラッチトルクTc1)が調整され得る。「Tc1=0」の状態では、エンジンE/Gの出力軸AEと第1入力軸Ai1との間で動力伝達系統が形成されない。この状態を「分断状態」と呼ぶ。また、「Tc1>0」の状態では、エンジンE/Gの出力軸AEと第1入力軸Ai1との間で動力伝達系統が形成される。この状態を「接合状態」と呼ぶ。「接合状態」において、クラッチに滑りが伴う状態を特に「半接合状態」と呼び、クラッチに滑りが伴わない状態を特に「完全接合状態」と呼ぶ。なお、クラッチストロークとは、クラッチアクチュエータにより駆動される摩擦部材(図示せず)の原位置(クラッチストローク=0)からの圧着方向(クラッチトルクの増大方向)への移動量を意味する。
同様に、第2クラッチC2のクラッチストロークSt2は、クラッチアクチュエータAC2により調整される。図2に示すように、クラッチストロークSt2を調整することで、第2クラッチC2が伝達可能な最大トルク(第2クラッチトルクTc2)が調整され得る。第2クラッチC2についても、第1クラッチC1と同様に、「分断状態」及び「接合状態」(半接合状態、及び、完全接合状態)が定義される。
また、本装置は、車両の車輪の車輪速度を検出する車輪速度センサV1と、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)APを検出するアクセル開度センサV2と、シフトレバーSFの位置を検出するシフト位置センサV3と、ブレーキペダルBPの踏み込み力(ブレーキ液の圧力に相当)を検出するブレーキ液圧センサV4と、を備えている。なお、ブレーキペダルBPの踏み込み力に応じてブレーキ液圧(従って、ブレーキディスクに対するブレーキパッドの押圧力、摩擦制動力)の大きさが調整されるようになっている。
更に、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサV1〜V4からの情報等に基づいて、クラッチアクチュエータAC1,AC2、並びにスリーブアクチュエータAS1〜AS4を制御することで、変速機T/Mの変速段、及び第1、第2クラッチC1,C2の状態を制御する。このように、本装置は、ダブルクラッチトランスミッション(DCT)を用いた動力伝達装置である。
また、本装置では、通常、エンジンE/Gの出力軸AEのトルク(エンジントルク)Teは、アクセル開度APに応じた値(開度相当値、前記「操作量相当値」に対応)Temに制御される。開度相当値Temは、例えば、図3に示すように、アクセル開度APの増加につれて増加するように設定される。エンジントルクTeの調整は、エンジンE/Gにおいて燃料噴射量、及び点火タイミング等を調整することによってなされ得る。
本装置では、シフトレバーSFの位置が「自動モード」に対応する位置にある場合、ECU内のROM(図示せず)に記憶された図4に示す変速マップに基づいて変速機T/Mの変速段が決定される。より具体的には、車輪速度センサV1から得られる車輪速度に基づいて算出される車速Vと、アクセル開度センサV2から得られるアクセル開度APとの組み合わせが、変速マップ上におけるどの変速段の領域に対応するかにより、達成すべき1つの変速段(以下、「選択変速段」と呼ぶ。)が選択される。例えば、現在の車速Vがαで現在のアクセル開度APがβである場合(図4に示す黒点を参照)、選択変速段として「3速」が選択される。
図4に示す変速マップは、車速Vとアクセル開度APとの組み合わせに対して最適な変速段を適合する実験を、前記組み合わせを種々変更しながら繰り返し行うことにより取得され得る。また、この変速マップは、ECU内のROMに記憶されている。なお、シフトレバーSFの位置が「手動モード」に対応する位置にある場合、運転者によるシフトレバーSFの操作に基づいて選択変速段が選択される。
以下、説明の便宜上、第1クラッチC1、第1入力軸Ai1、及び第1機構部M1で構成される系統を「第1系統」と呼び、第2クラッチC2、第2入力軸Ai2、及び第2機構部M2で構成される系統を「第2系統」と呼ぶ。また、第1、第2機構部M1,M2、第1、第2クラッチC1,C2、第1、第2入力軸Ai1,Ai2、第1、第2系統のうちで、選択変速段に対応する方をそれぞれ、「選択機構部」、「選択クラッチ」、「選択入力軸」、「選択系統」と呼び、選択変速段に対応しない方をそれぞれ、「非選択機構部」、「非選択クラッチ」、「非選択入力軸」、「非選択系統」と呼ぶ。
上述したように、この変速機T/Mでは、第1機構部M1にて1速を含む奇数段(1速、3速、5速)が選択的に確立され得、第2機構部M2にて2速を含む偶数段(2速、4速、6速)が選択的に確立され得る。従って、選択変速段が現在の変速段から現在の変速段より1段だけ高速側の変速段へ変更(シフトアップ)される毎に、或いは、選択変速段が現在の変速段から現在の変速段より1段だけ低速側の変速段へ変更(シフトダウン)される毎に、第1、第2系統間において選択系統と非選択系統とが入れ替わる。
本装置では、選択機構部において選択変速段が確立され、且つ、選択クラッチのクラッチトルクがエンジントルクTeよりも大きいトルク(以下、「完全接合用トルクT1」と呼ぶ)に調整されて選択クラッチが滑りを伴わない完全接合状態に制御される。一方、非選択機構部において「隣接変速段」が確立され、且つ、非選択クラッチのクラッチトルクがゼロに調整されて非選択クラッチが分断状態に制御される。
隣接変速段とは、現在の選択変速段の次に選択される(であろう)変速段であり、具体的には、現在の選択変速段に対して1段だけ高速側又は低速側の変速段である。本装置では、周知の手法の1つにより、現在までの車両の運転状態の推移(例えば、車速の推移、エンジントルクの推移、アクセル開度の推移等)に基づいて、シフトアップ及びシフトダウンの何れが次になされるかが予測される。そして、シフトアップがなされると予測される場合、隣接変速段が「現在の選択変速段よりも1段だけ高速側の変速段」に設定され、シフトダウンがなされると予測される場合、隣接変速段が「現在の選択変速段よりも1段だけ低速側の変速段」に設定される。
「完全接合用トルクT1」は、エンジントルクTeよりも大きい範囲内(即ち、選択クラッチに滑りが発生しない範囲内)において任意の値に設定され得る。例えば、完全接合用トルクT1は、最大値Tmax(一定)に設定されてもよいし(図2を参照)、エンジントルクに対して一定値だけ大きい値に調整されてもよい。
以上、選択変速段が或る変速段に維持された状態では、エンジンE/Gの出力軸AEと変速機T/Mの出力軸Aoとの間で、選択系統を介して選択変速段の減速比を有する動力伝達系統が形成される。この結果、選択系統を介してエンジントルクが駆動輪に伝達され得る。
(変速時の制御)
次に、車両の状態(車速とアクセル開度の組み合わせ)の変化により選択変速段が現在確立されている変速段(以下、「変更前変速段」とも呼ぶ)から1段だけ高速側又は低速側の変速段(以下、「変更後変速段」とも呼ぶ)に変更される場合の作動(変速作動)について説明する。ここで、変更後変速段が変更前変速段に対して1段だけ高速側の変速段である場合が「シフトアップ」に対応し、変更後変速段が変更前変速段に対して1段だけ低速側の変速段である場合が「シフトダウン」に対応する。
本装置では、非選択機構部において「選択変速段に対して1段だけ高速側(又は低速側)の変速段」が確立された状態で、選択変速段が1段だけ高速側(又は低速側)に変更されるシフトアップ要求(又はシフトダウン要求)があった場合、第1、第2クラッチC1、C2について、「接合状態にあったクラッチを分断状態に変更する作動」と「分断状態にあったクラッチを接合状態に変更する作動」とが同時期に実行される。これにより、エンジントルクTeを変速機の出力軸Ao(従って、駆動輪)に対して途切れなく伝達し続けながらシフトアップ(又はシフトダウン)が達成され得る。この結果、シフトアップ(又はシフトダウン)の際の変速ショックが低減され得る。なお、シフトアップ要求(又はシフトダウン要求)は、図4に示す変速マップにおいて、「車速V及びアクセル開度APの組み合わせに対応する点」が変速線(L1〜L5の何れか)を跨ぐときに発生する。
以下、シフトアップ(又はシフトダウン)の際に、第1、第2クラッチC1、C2うちで、「接合状態から分断状態に変更されるクラッチ」を「開放側クラッチ」と呼び、「分断状態から接合状態に変更されるクラッチ」を「接合側クラッチ」と呼ぶ。開放側クラッチのクラッチトルクを「開放側クラッチトルクTk」と呼び、接合側クラッチのクラッチトルクを「接合側クラッチトルクTs」と呼ぶ。また、「開放側クラッチを分断状態に変更する作動」と「接合側クラッチを接合状態に変更する作動」とを同時期に実行する作動を、「クラッチの入れ替え」と呼ぶ。
(シフトアップ時の制御)
以下、先ず、本装置によるシフトアップ時の制御について、より具体的に説明する。シフトアップ時では、接合側クラッチトルクTsがゼロから増大されて「選択側トルク」に調整されるとともに、開放側クラッチトルクTkが完全接合用トルクT1から減少されて「非選択側トルク」に調整される。「選択側トルク」とは、ゼロより大きく且つ完全接合用トルクT1より小さいトルクであり、「非選択側トルク」とは、ゼロより大きく且つ選択側トルクより小さいトルクである。加えて、同時期に、開度相当値Temに調整され続けてきたエンジントルクTeが、開度相当値Tem(図3を参照)から減少させられる。
エンジントルクTeが開度相当値Temから減少したことに起因して減少していくエンジンの出力軸AEの回転速度(エンジン回転速度Ne)が「同期回転速度」に達すると、エンジントルクTeが開度相当値Temに向けて増大されるとともに、「クラッチの入れ替え」が行われる。即ち、接合側クラッチトルクTsが「選択側トルク」から増大されて「完全接合用トルクT1」に調整されるとともに、開放側クラッチトルクTkが「非選択側トルク」から減少されてゼロに調整される。以上の作動によって、エンジントルクTeに基づく駆動トルクを駆動輪に対して途切れなく伝達し続けながら、シフトアップが達成される。
(シフトダウン時の制御)
次に、本装置によるシフトダウン時の制御について、より具体的に説明する。通常、本装置は、シフトダウンに際し、「通常制御」を実行する。以下、「通常制御」について、図5に示すフローチャート、及び、図6に示すタイムチャートを参照しながら説明する。図6は、車両が4速で(選択変速段が4速の状態で)走行中において、運転者が車両を加速させるためにアクセル開度APを増大したことに起因して、時刻t1にて、選択変速段が4速から3速に変更された場合(即ち、シフトダウン要求があった場合)における、通常制御によるシフトダウンの作動の一例を示す。図6において、Ni1、Ni2は、それぞれ、第1、第2入力軸Ai1、Ai2の回転速度である。
この例では、第1、第2クラッチトルクTc1、Tc2が、ぞれぞれ、接合側クラッチトルクTs、及び、開放側クラッチトルクTkに対応する。この例では、時刻t1以前にて、第1、第2機構部M1、M2にて、それぞれ、3速、4速が確立されている。
通常制御では、シフトダウン要求があると、先ず、接合側クラッチトルクTsがゼロに維持され、開放側クラッチトルクTkが完全接合用トルクT1から減少して第1半接合用トルクT2に調整される(図5のステップ505、及び、図6の時刻t1の前後を参照)。第1接合用トルクT2は、開度相当値Temより小さく且つゼロより大きい範囲内で、車両の走行状態(典型的には、エンジン回転速度Ne、車速V、及び、アクセル開度AP)に基づいて決定される。即ち、接合側クラッチが「分断状態」に維持され、開放側クラッチが「完全接合状態」から「半接合状態」に変更される。
第1接合用トルクT2は、一定であってもよいし、開度相当値Temに応じて調整されてもよい。例えば、T2は、「Tem−T2」が「Ne及びAPに基づいて決定される値」で一定になるように調整され得る。なお、エンジントルクTeは、通常制御中に亘って開度相当値Temに維持される。
開放側クラッチトルクTkが第1接合用トルクT2に調整されている状態では、エンジントルクTe(=Tem)がT2より大きいことに起因して、エンジン回転速度Neが増大していく。図6のt1〜t2では、Neが、4速の「同期回転速度」(=Ni2)から3速の「同期回転速度」(=Ni1)に向けて増大している。
エンジン回転速度Neが「同期回転速度」に達すると、「クラッチの入れ替え」が行われる(図5のステップ510、515、及び、図6の時刻t2の前後を参照)。即ち、接合側クラッチトルクTsがゼロから増大されて完全接合用トルクT1(>開度相当値Tem)に調整され、開放側クラッチトルクTkが第1半接合用トルクT2から減少されてゼロに調整される。即ち、開放側クラッチが「半接合状態」から「分断状態」に変更され、接合側クラッチが「分断状態」から「完全接合状態」に変更される。以上の作動によって、エンジントルクTeに基づく駆動トルクを駆動輪に対して途切れなく伝達し続けながら、シフトダウンが達成され得る。なお、Neが「同期回転速度」に達したことは、エンジンの出力軸AEの回転速度を検出するセンサの検出結果が「同期回転速度」に達したか否かに基づいて判定され得る。
ところで、この通常制御では、開放側クラッチが「完全接合状態」から「半接合状態」に変更されることにより駆動輪に伝達される駆動トルク(駆動輪駆動トルク)が低下すること、並びに、「クラッチの入れ替え」(特に、接合側クラッチの「分断状態」から「完全接合状態」への変更)に伴って駆動輪駆動トルクが増大する(復帰する)こと、に起因して、駆動輪駆動トルクの変化が不可避的に発生する。図6に示す例では、駆動輪駆動トルクは、時刻t1の前後にて「G4・Tem」から「G4・T2」に低下し、時刻t2の前後にて「G4・T2」から「G3・Tem」に増大している。
この通常制御における駆動輪駆動トルクの変化は、シフトダウンが単発で発生する場合には車両の乗員に対して大きな不快感を与え難い。しかしながら、図7に示すように、アクセル開度APが単調増加していく状況(アクセルペダルが継続して踏み増しされる状況)のように、シフトダウンが比較的短い期間内で複数回発生する場合、上述した駆動輪駆動トルクの変化が複数回繰り返される。図7に示す例では、時刻t1以前から継続してアクセル開度APが単調増加することによって、時刻t1、t2、t3にて、それぞれ、「4速からの3速へのシフトダウン要求」、「3速から2速へのシフトダウン要求」、「2速から1速へのシフトダウン要求」が発生している。この結果、時刻t1〜t4に亘って、上述した駆動輪駆動トルクの変化が繰り返されている。このように駆動輪駆動トルクの変化が繰り返されると、車両の乗員は大きな不快感を覚え易い。なお、図7に示す例では、時刻t1以前にて、第1、第2機構部M1、M2にて3速、4速が確立されており、時刻t1〜t2にて、第1、第2機構部M1、M2にて3速、2速が確立されており、時刻t2以降にて、第1、第2機構部M1、M2にて1速、2速が確立されている。
そこで、本装置は、図8に示すように、上述した「アクセル開度APが単調増加していく状況」に対応する「特殊モード」を設定し(ステップ805を参照)、特殊モードがOFFの状態でシフトダウン要求があった場合には、上記「通常制御」を行う(ステップ810を参照)一方で、特殊モードがONの状態でシフトダウン要求があった場合には、上記「通常制御」に代えて「特殊制御」を実行する(ステップ815を参照)。
ここで、「特殊モード」は、「アクセル開度APの増加勾配(アクセル開度増加勾配ΔAP)がゼロより大きい所定の範囲内にある状態」(以下、「アクセル開度単調増加状態」と呼ぶ)が所定期間TDだけ継続した時点にて「OFF」から「ON」に変更され、その後、「アクセル開度単調増加状態」が継続する限りにおいて「ON」に維持され、「アクセル開度単調増加状態」が終了した時点にて「ON」から「OFF」に変更される。即ち、特殊モードがONの状態は、「アクセル開度APが単調増加していくことによって、シフトダウン要求が比較的短い期間内で複数回発生する可能性が高い状態」に対応している。なお、アクセル開度APが所定の極短時間(例えば、6msec)の経過毎に離散的に計測される場合、アクセル開度増加勾配ΔAPとして、「アクセル開度APの今回計測値」から「アクセル開度APの前回計測値」を減じて得られる値が採用されてもよい。
所定期間TDは一定でもよい。或いは、図9に示すように、アクセル開度増加勾配ΔAPが大きくなるにつれて長くなるようにTDが設定されてもよい。これは以下の理由に基づく。一般に、アクセル開度増加勾配ΔAPが比較的大きい場合は、運転者が「大きな加速度を直ちに得るため、シフトダウンに要する時間を短くしたい」と希望する場合が多い。ここで、特殊制御で使用される第2半接合用トルクT3(後述)が、通常制御で使用される第1半接合用トルクT2より大きいことを考慮すると、特殊制御では、通常制御と比べて、エンジン回転速度Neの「同期」に要する時間が長くなることによって、シフトダウンに要する時間が長くなる傾向がある。従って、アクセル開度増加勾配ΔAPが比較的大きい場合は、特殊制御を選択するより通常制御を選択する方が運転者の意思に沿う、と考えられる。
図9に示す所定期間TDは、係る知見に基づいて設定されている。即ち、この設定によれば、アクセル開度増加勾配ΔAPが大きいほど、特殊モードが「ON」になり難くなる。換言すれば、アクセル開度増加勾配ΔAPが比較的大きい場合、特殊制御が選択され難くなる(通常制御が選択され易くなる)。従って、シフトダウンに要する時間を短くすることができ、運転者の意思に沿って、大きな加速度を直ちに得ることができる。なお、特殊モードのON・OFF判定において、ΔAPが前記「所定の範囲」より大きい場合に前記「アクセル開度単調増加状態」とは判定されない(従って、特殊モードが「ON」にならない)ことも、上記と同じ趣旨に因る。
以下、特殊モードがONの状態にてシフトダウン要求があった場合に実行される特殊制御について、上述した図5及び図7にそれぞれ対応する図10及び図11を参照しながら説明する。図11では、上述した図7に示した状況と同じ状況が想定されており、図11において、実線は「特殊制御」が実行された場合の推移に対応し、破線は「通常制御」が実行された場合の推移(図7にて実線で示した推移と同じ推移)に対応している。
特殊制御では、シフトダウン要求があると、先ず、接合側クラッチトルクTsがゼロに維持され、開放側クラッチトルクTkが完全接合用トルクT1から減少して第2半接合用トルクT3に調整される(図10のステップ1005、及び、図11の時刻t1の前後を参照)。第2接合用トルクT3は、開度相当値Temより小さく且つ第1半接合用トルクT2より大きい範囲内で、車両の走行状態(典型的には、車速V、及び、アクセル開度AP)に基づいて決定される。即ち、接合側クラッチが「分断状態」に維持され、開放側クラッチが「完全接合状態」から「半接合状態」に変更される。なお、エンジントルクTeは、特殊制御中に亘って開度相当値Temに維持される。
第2接合用トルクT3は、一定であってもよいし、開度相当値Temに応じて調整されてもよい。T3は、次のシフトダウン要求が発生する時期と同時にエンジン回転速度Neの同期が完了するように、制御されることが好適である。この場合、具体的には、図12に示すように、車速の増加勾配ΔVと、アクセル開度増加勾配ΔAPと、図4に示した変速マップと、に基づいて、次のシフトダウン要求が発生するまでの時間(推定時間TE)が推定され、推定時間TEに基づいて第2半接合用トルクT3が制御され得る。
図12に示す例では、現在の「V及びAPの組みあわせ」が点Aに対応している場合(選択変速段が3速)に、現在のΔVの大きさと現在のΔAPの大きさとから「V及びAPの組みあわせ」に対応する点の移動方向及び移動速度が決定される。次いで、「点Aを通り且つその移動方向に平行な直線」が隣接変速段の変速線L2と交わる点Bが決定される。そして、「V及びAPの組みあわせ」が点Aから点Bまで前記決定された移動方向に沿って前記決定された移動速度で移動するのに要する時間が決定される。その時間が推定時間TEとして使用される。
推定時間TEが決定されると、図13に示すマップに従って、クラッチトルク低減量ΔTが決定される。TEが長くなるにつれてΔTが小さい値に決定される。そして、第2半接合用トルクT3が、「開度相当値Tem−ΔT」に決定される。従って、推定時間TEが長くなるにつれて、T3が大きい値に決定される(T3がTemに近づく)。T3が大きい(小さい)ほど、エンジン回転速度Neの増加勾配が小さく(大きく)なり、エンジン回転速度Neの同期が完了するまでの時間が長く(短く)なる。従って、このような手順を利用してT3を逐次決定・変更していくことによって、次のシフトダウン要求が発生する時期と同時にエンジン回転速度Neの同期が完了するように、T3を決定・変更していくことができる。
開放側クラッチトルクTkが第2接合用トルクT3に調整されている状態では、エンジントルクTe(=Tem)がT3より大きいことに起因して、エンジン回転速度Neが増大していく。図11のt1〜t2では、Neが、4速の「同期回転速度」(=Ni2)から3速の「同期回転速度」(=Ni1)に向けて増大している。図11から理解できるように、Tkが第1接合用トルクT2に調整されている状態(図11の破線、通常制御)と比べて、Neの増加勾配が小さい。
開放側クラッチトルクTkが第2接合用トルクT3に調整されている状態にて、特殊制御の「終了条件」が成立しているか否かが判定される(図10のステップ1010を参照)。「終了条件」は、例えば、上記推定時間TEが所定時間以上となる場合(例えば、無限に長い時間となる場合。典型的には、次のシフトダウン要求が発生し得ない場合)、並びに、上述した「特殊モード」がONからOFFに変更された場合等に成立する。以下、先ず、「終了条件」が成立していない場合について説明していく。
「終了条件」が成立していない場合、「エンジン回転速度Neが「同期回転速度」に達したとき」ではなく、「次のシフトダウン要求があったとき」に、「クラッチの入れ替え」が行われる(図10のステップ1015、1020、及び、図11の時刻t2の前後を参照)。具体的には、接合側クラッチトルクTsがゼロから増大されて第2半接合用トルクT3(T2<T3<Tem)に調整され、開放側クラッチトルクTkが第2半接合用トルクT3から減少されてゼロに調整される。即ち、開放側クラッチが「半接合状態」から「分断状態」に変更され、接合側クラッチが「分断状態」から「半接合状態」に変更される。なお、図11に示す例では、前記「次のシフトダウン要求」があった時期(t2)と同時に、エンジン回転速度Neの同期が完了している(Neが3速の同期回転速度に達している)。
ここで、「クラッチの入れ替え」の直後のT3は、「クラッチの入れ替え」の直前のT3に対して、「クラッチの入れ替え」に起因する「減速比の増大分」だけ小さい値に設定されることが好適である。例えば、「図11のt2の直後のT3の初期値」は、「図11のt2の直前のT3の最終値」に対して、「G4/G3」(<1)を乗じた値に設定されることが好ましい。これにより、「クラッチの入れ替え」の前後での「減速比の増大」に起因する駆動輪駆動トルクの変化の度合いを極力小さくできる。その後、T3は、次のシフトダウン要求が発生する時期と同時にエンジン回転速度Neの同期が完了するように、逐次決定・変更されていく。
特殊制御では、以上説明した一連の作動が、「終了条件」が成立するまで繰り返される(図10のステップ1010、1015、1020を参照)。これにより、エンジントルクTeに基づく駆動トルクを駆動輪に対して途切れなく伝達し続けながら、複数回のシフトダウンが順に達成されていく。
図11に示した例では、時刻t2以降についても「終了条件」が成立していない。従って、時刻t2以降、開放側クラッチトルクTkが第2接合用トルクT3に調整されている状態にて、次のシフトダウン要求があったときに、「クラッチの入れ替え」が再び行われている(図10のステップ1015、1020、及び、図11の時刻t3の前後を参照)。なお、図11に示す例では、前記「次のシフトダウン要求」があった時期(t3)と同時に、エンジン回転速度Neの同期が完了している(Neが2速の同期回転速度に達している)。
従って、図11に示した例では、時刻t3以降においても、開放側クラッチトルクTkが第2接合用トルクT3に調整されている。ここで、「図11のt3の直後のT3の初期値」は、「図11のt3の直前のT3の最終値」に対して、「G3/G2」(<1)を乗じた値に設定されることが好ましい。これにより、「クラッチの入れ替え」の前後での「減速比の増大」に起因する駆動輪駆動トルクの変化の度合いを極力小さくできる。
図11に示す例では、時刻t3以降について「終了条件」が成立している。「終了条件」が成立している場合は、「次のシフトダウン要求があったとき」ではなく、上記通常制御と同様、エンジン回転速度Neが「同期回転速度」に達すると、「クラッチの入れ替え」が行われる(図10のステップ1010、1025、1030、及び、図12の時刻t4の前後を参照)。具体的には、接合側クラッチトルクTsがゼロから増大されて完全接合用トルクT1(>Tem)に調整され、開放側クラッチトルクTkが第2半接合用トルクT3から減少されてゼロに調整される。即ち、開放側クラッチが「半接合状態」から「分断状態」に変更され、接合側クラッチが「分断状態」から「完全接合状態」に変更される。
このように、特殊制御は、以下の点で、通常制御と異なる。
1.開放側クラッチの「半接合状態」におけるクラッチトルクT3が、通常制御の場合(クラッチトルクT2)と比べて大きい値に調整される。
2.通常制御では、「エンジン回転速度Neの同期が完了したとき」に「クラッチの入れ替え」が行われるのに対し、特殊制御では、「次のシフトダウン要求があったとき」に「クラッチの入れ替え」が行われる。
3.通常制御では、接合側クラッチが「分断状態」から「完全接合状態」に変更されるのに対し、特殊制御では、接合側クラッチが「分断状態」から「半接合状態」に変更される。
特殊制御では、上記「1」の観点に起因して、通常制御と比べて、開放側クラッチが「完全接合状態」から「半接合状態」に変更される際の駆動輪駆動トルクの低下量が小さい。加えて、特殊制御では、上記「2」及び「3」の観点に起因して、「クラッチの入れ替え」が複数回繰り返され得る特殊制御中に亘って、駆動輪への駆動トルクの伝達に寄与する(接合状態にある)クラッチについて「半接合状態」が連続的に維持される。従って、通常制御(接合側クラッチが「分断状態」から「完全接合状態」へ変更される)と比べて、「クラッチの入れ替え」に伴う駆動輪駆動トルクの増大量が小さい。この点、図11に示す例では、時刻t1〜t4に亘って、駆動輪への駆動トルクの伝達に寄与する(接合状態にある)クラッチについて「半接合状態」が連続的に維持されており、且つ、時刻t1、t2、t3、及びt4において駆動輪駆動トルクの変化が小さい(或いは、ない)。
以上のことから、この特殊制御によれば、アクセルペダルが継続して踏み増しされる状況(即ち、シフトダウンが比較的短い期間内で複数回発生する状況)において、通常制御が実行される場合(図11における破線を参照)と比べて、駆動輪駆動トルクにおける繰り返される変化の度合いが小さくなる(図11における実線を参照)。
なお、図11に示す例では、前記「次のシフトダウン要求」があった時期と同時にエンジン回転速度Neの同期が完了するように(図11の時刻t2、t3を参照)、第2半接合用トルクT3が精度良く調整されている(図11の時刻t1〜t2、t2〜t3を参照)。これは、上記推定時間TEの推定精度が高いことに基づく。しかしながら、実際には、前記「次のシフトダウン要求」があった時期と、エンジン回転速度Neの同期が完了する時期とが一致しない場合も発生し得る。
そこで、特殊制御中において、前記「次のシフトダウン要求」があったときにおいて、エンジン回転速度Neが未だ「同期回転速度」に達していない場合(Ne<「同期回転速度」)、前記「次のシフトダウン要求」があった時点で直ちに「クラッチの入れ替え」を行うのではなく、エンジン回転速度Neが「同期回転速度」に達した後(Ne≧「同期回転速度」)に、「クラッチの入れ替え」を行うことが好ましい。これは、Ne<「同期回転速度」の状態で「クラッチの入れ替え」を行うと、車両の減速方向に比較的大きな加速度(減速方向の不快な変速ショック)が発生し易いという事実に基づく。
一方、特殊制御中において、前記「次のシフトダウン要求」が発生する前にエンジン回転速度Neが「同期回転速度」に達した場合(Ne≧「同期回転速度」)、前記「次のシフトダウン要求」があるまで、Ne≦「同期回転速度」の状態が維持されるようにNeをフィードバック制御し、前記「次のシフトダウン要求」があった後に、Ne≧「同期回転速度」の状態で、「クラッチの入れ替え」を行うことが好ましい。これは、上記Neのフィードバック制御を行わないと、Neが際限なく増大し得、車両の乗員に不快感を与えることに基づく。
以上、本装置によれば、アクセルペダルが継続して踏み増しされる状況(即ち、シフトダウンが比較的短い期間内で複数回発生する状況)において、通常制御に代えて特殊制御が実行される。従って、通常制御が実行される場合と比べて、駆動輪駆動トルクにおける繰り返される変化の度合いが小さくなる。