以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る定着装置、画像形成装置、および定着装置用プログラムについて詳細に説明する。なお、図面において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
図1は、実施形態に係る画像形成装置を有する画像形成システムの概略構成を示す図である。図2は、画像形成システムのハードウェア構成を示すブロック図である。図3および図4は、定着部の概略構成の例1を示す図である。図3には、用紙Sの搬送方向に並行な方向から見た定着部46の構成が示されている。図4には、用紙Sの搬送方向と直交する方向から見た定着部46の構成が示されている。
画像形成システム100は、画像形成装置101および後処理装置102を有する。
画像形成システム100は、制御部10、記憶部20、画像制御部30、画像形成部40、給紙搬送部50、操作パネル60、後処理部70、および通信インターフェース80を有し、これらは信号をやりとりするためのバスを介して相互に接続される。
画像形成装置101は用紙Sに画像を形成する。後処理装置103は、画像形成装置101で画像が形成された用紙Sの後処理を行う。
制御部10は、CPU(Central Processing Unit)により構成され、プログラムにしたがって画像形成システム100の各部の制御および演算処理を行う。
記憶部20は、制御部10の作業領域として一時的にプログラムやデータを記憶するRAM(Random Access Memory)、あらかじめ各種プログラムや各種データを格納するROM(Read Only Memory)、オペレーションシステムを含む各種プログラムおよび各種データを格納するHDD(Hard Disc Drive)を有する。
画像制御部30は、印刷ジョブに含まれる印刷データのレイアウト処理およびラスタライズ処理を行い、画像データを生成する。印刷ジョブとは、画像形成システム100に対する印刷命令の総称であり、印刷データおよび印刷設定が含まれる。印刷データとは、印刷の対象である文書のデータであり、印刷データには、例えば、イメージデータ、ベクタデータ、テキストデータといった各種データが含まれ得る。具体的には、印刷データは、PDL(Page Description Language)データ、PDF(Portable Document Format)データまたはTIFF(Tagged Image File Format)データであり得る。印刷設定とは、用紙への画像形成および後処理に関する設定であり、たとえば、用紙の種類、印刷部数、ページ割付、カラーまたはモノクロの選択、および平綴じなどの各種設定が含まれる。
画像形成部40は、中間転写ベルト41、感光体ドラム42、現像部43、書込部44、2次転写部45、および定着部46を有する。中間転写ベルト41、感光体ドラム42、現像部43、書込部44、および2次転写部45はトナー画像形成部を構成する。定着部46は定着装置を構成する。
感光体ドラム42、現像部43、および書込部44は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、およびブラック(K)の各色に対応した構成をそれぞれ有するが、図1では、感光体ドラム42および現像部43については、Y以外の符号の表記を省略している。
書込部44は、画像データに基づいて、帯電された感光体ドラム42の表面を露光し、静電潜像を形成する。現像部43は、形成された静電潜像をトナーにより現像して、各感光体ドラム42の表面に各色のトナー画像を形成する。これらを各色の1次転写部(図示せず)で中間転写ベルト41上に順次重ねてゆき、フルカラーのトナー画像を形成する。トナー画像は、2次転写部45で用紙S上に転写された後、定着部46で加熱および加圧されることで用紙S上にフルカラーの画像を形成する。
定着部46は、ヒーターランプ463により加熱される加熱ローラー464およびパッド465に掛架した無端状の定着ベルト462が、加圧ローラー461により押圧されることで形成されるニップ部Nで用紙Sを加熱および加圧する。加圧ローラー461は、定着ベルト462のパッド465に掛架された部分を押圧する。加圧ローラー461は、定着ベルト462を押圧しつつモーター(図示せず)により回転駆動されることで、摩擦力により定着ベルト462を従動回転させる。これにより、用紙Sは、ニップ部Nで挟持され搬送される。定着ベルト462は回転体を構成する。
なお、定着部46は、パッド465に代えて定着ローラーを用いて構成されてもよい。すなわち、定着ベルト462が掛架された定着ローラーを、定着ベルト462を介して加圧ローラー461で押圧することにより、加圧ローラー461と定着ベルト462の間にニップ部Nを形成する構成を有してもよい。
また、定着部46は、定着ベルト462およびパッド465を用いず、定着ローラーを兼ねる加熱ローラー464を加圧ローラー461で押圧することでニップ部Nを形成する構成を有してもよい。この場合、加熱ローラー464が回転体を構成し、加圧ローラー461は、加熱ローラー464を押圧しつつ回転することで、摩擦力により加熱ローラー464を従動回転させる。
定着部46は、定着部46の温度を計測する一般的な温度センサー467と、定着部46における相対湿度を計測する一般的な湿度センサー468を有する。
定着部46は、後述するように、加圧ローラー461の用紙Sが通過する通過領域AT1の、用紙Sが通過する方向に直交する方向に対し両側に設けられた、通過領域AT1より摩擦係数の大きいグリップ部G1、G2を冷却するための冷却部466を有する。
給紙搬送部50は、給紙トレイ51、搬送路52(52a〜52c)、複数の搬送ローラー53、搬送ローラー53を駆動する駆動モーター(図示せず)、および排紙トレイ54を有する。
給紙搬送部50は、駆動モーターの駆動によって各搬送ローラー53を回転させ、給紙トレイ51から用紙Sを給紙し、搬送路52を搬送させる。
搬送路52は、画像形成装置101内の搬送路52a、52b、および後処理装置102内の搬送路52cから構成される。
給紙トレイ51から給紙された用紙Sは、搬送路52aを搬送される。搬送路52aには、クラッチにより回転、停止することで用紙Sの搬送タイミングを調整するレジストローラー531が配置される。
搬送路52aを搬送され、画像形成部40により画像形成された用紙Sは、下流側の搬送路52cを経由して、印刷ジョブの印刷設定に応じた各処理がなされた後、機外に排出され排紙トレイ54上に配置される。
印刷ジョブの印刷設定が両面印刷の設定であれば、一方の面に画像形成された用紙Sを画像形成装置101のADU(Auto Duplex Unit)搬送路である搬送路52bに搬送する。ADU搬送路52bに搬送された用紙Sは、スイッチバック経路で表裏を反転された後、搬送路52aに合流し、画像形成部40で他方の面に画像が形成される。
操作パネル60は、タッチパネル、テンキー、スタートボタン、ストップボタンなどを備えており、印刷条件などの各種設定、および各種指示の入力がされる。また、操作パネル60は、各種情報を表示する。
後処理部70は、搬送路52cに設けられる。後処理部70では、たとえば用紙Sをスタックするスタック部とステープル部とを有し、複数枚の用紙Sをスタック部で重ねた後、ステープル部でステープルを用いた平綴じ処理を行う。平綴じされた用紙Sの束は、排紙トレイ54上に排出される。また平綴じしない用紙Sは、そのまま搬送路52cを経由して排出される。
通信インターフェース80には、SATA、PCI ExpreS、USB、イーサネット(登録商標)、IEEE1394などの規格によるネットワークインターフェース、Bluetooth(登録商標)、IEEE802.11などの無線通信インターフェース、などの各種ローカル接続インターフェースが用いられる。通信インターフェース80を通じてPC(Personal Computer)等の外部の端末から印刷ジョブが受信される。
定着部46の構成について、図3、4を参照して、さらに詳細に説明する。
定着部46は、上述したように、加圧ローラー461、定着ベルト462、ヒーターランプ463、加熱ローラー464、パッド465、冷却部466、温度センサー467、および湿度センサー468を有する。
加圧ローラー461は、用紙Sが通過する通過領域AT1を表面に有する中央部CP1と、通過領域AT1より摩擦係数の大きいグリップ部G1、G2を表面に有する端部EP1、EP2とを有する。中央部CP1は、円柱状の芯金461aと、芯金461aの円柱状の側面を覆うゴム層461bと、ゴム層461bの表面を覆う耐熱性に優れた離形剤の表層461cとにより構成され得る。ゴム層461bには、たとえばシリコーンゴムが用いられ得る。表層461cには、たとえばテフロン(登録商標)系の材料が用いられ得る。端部EP1、EP2は、円柱状の芯金461aと、芯金461aの円柱状の側面を覆うゴム層461bとにより構成され得る。すなわち、中央部CP1と端部EP1、EP2は、前者がゴム層461bの表面に離型剤の表層461cを有し、後者が離型剤の表層を有さない点を除き、同じ構成を有し得る。したがって、中央部CP1と端部EP1、EP2の芯金461aおよびゴム層461bは一体形成され得る。通過領域AT1の表面に離型剤の表層461cを設けることにより、加熱により溶融した用紙S上のトナーが加圧ローラー461に張り付くことを防止できる。グリップ部G1、G2において離型剤の表層を設けず摩擦係数の大きいゴム層を露出させることで、グリップ部G1、G2の摩擦係数を通過領域ATの摩擦係数より大きくできる。なお、グリップ部G1、G2において露出させたゴム層461bの表面に細かい凹凸を設けることで、グリップ部G1、G2の摩擦係数をさらに大きくできる。
加圧ローラー461に、摩擦係数の大きいグリップ部G1、G2を設けることにより、回転駆動される加圧ローラー461から定着ベルト462が得るグリップ力を増大できる。
ヒーターランプ463は、加熱ローラー464の中空芯金の内部に配置され、加熱ローラー464を加熱する。ヒーターランプ463は、少なくとも加熱ローラー464の回転軸方向の幅以上の長さを有する長尺状のハロゲンランプにより構成され得る。これにより、ヒーターランプ463は加熱ローラー464の表面温度が均一になるように加熱ローラー464を加熱できる。
加熱ローラー464は、回転軸の周りを回転自在に設けられ、掛架される定着ベルト462と当接することで定着ベルト462を加熱する。その際、加圧ローラー461が定着ベルト462を押圧しつつ回転することで、定着ベルト462が従動回転する。定着ベルト462の回転に伴い、加熱ローラー464は定着ベルト462と当接する部分を加熱しつつ従動回転する。加熱ローラー464は、たとえばニッケルやステンレス鋼などの金属で構成され得る。
定着ベルト462は、ポリイミドなどの樹脂材料、またはニッケルやステンレス鋼などの金属により構成され得る。定着ベルト462は、加熱により溶融した用紙S上のトナーが定着ベルト462に張り付くことを防止するために、加圧ローラー461により押圧される表面に耐熱性に優れた離形剤の表層をさらに有し得る。
パッド465は、加圧ローラー461からの押圧力を定着ベルト462に印加させるために、定着ベルト462を介して加圧ローラー461と対向する位置に配置される。すなわち、パッド465は、加圧ローラー461により定着ベルト462を押圧させてニップ部Nを形成させるための受け部材として機能する。パッド465の定着ベルト462を介して加圧ローラー461と当接する面は、加圧ローラー461の曲率と整合する曲率の凹形状を有し得る。これにより、ニップ部Nにおいて用紙Sをより均一に押圧できる。パッド465は、耐熱性を有する樹脂材やフッ素ゴムなどのゴム材により構成され得る。パッド465は、定着ベルト462との摺動抵抗を低減するためにフッ素樹脂などを用いた潤滑部材の表層や摺動シートを有し得る。定着ベルト462のパッド465と当接する裏面には、定着ベルト462とパッド465との間の摩擦力を低減するために、グリース等の潤滑剤が塗布され得る。
冷却部466は、送風機466aを有する。送風機466aは、冷却風CAをグリップ部G1、G2に当てることによりグリップ部G1、G2を冷却する。送風機466aは、たとえば熱交換器およびファンにより構成され得る。なお、図4に示すように、冷却部466は、冷却風CAをグリップ部G1、G2に沿って流すためのガイド流路466bを有し得る。
図5は、定着部の概略構成の例2を示す図である。
図5に示す定着部46は、冷却部466に遮蔽板466cを有する。遮蔽板466cは、冷却風CAが通過領域AT1に当たらないように送風機466aから送風される冷却風を遮蔽する。遮蔽板466cを設けることにより、冷却風CAが通過領域ATに当たることで定着温度が変動し、トナー画像の用紙Sへの定着に影響を及ぼすことを防止できる。
図6および図7は、定着部の概略構成の例3を示す図である。図6には、用紙Sの搬送方向に並行な方向から見た定着部46の構成が示されている。図7には、用紙Sの搬送方向と直交する方向から見た定着部46の構成が示されている。
図6および図7に示す定着部46は、冷却部466に、グリップ部当接部材466d、流路管466e、送風機466a、隔壁466f、およびベアリング466gを有する。
グリップ部当接部材466dは、グリップ部G1、G2の、加圧ローラー461の回転軸方向の幅(以下、「グリップ幅」と称する)の長さと同じ長さの厚さを有する円板形状を有し得る。グリップ部当接部材466dは、金属等の熱伝導率の高い部材により構成される。グリップ部当接部材466dは、たとえばアルミニウムにより構成され得る。グリップ部当接部材466dは中央に流路管466eを貫通させるための貫通穴THを有する。グリップ部当接部材466dは、図示しない移動機構により、円板形状の、厚さ方向に直交する方向の側面がグリップ部G1、G2と当接および離間可能に設けられ得る。
流路管466eは、グリップ部当接部材466dを貫通穴THにおいて貫通し、グリップ部当接部材466dに固定される。流路管466eは、金属等の熱伝導率の高い部材により構成される。流路管466eは、たとえばアルミニウムにより構成され得る。流路管466eには冷却部466から送風される冷却風CAが流れる。これにより、流路管466eは、貫通穴THにおいて当接するグリップ部当接部材466dを冷却する。
流路管466eは、固定されたベアリング466gにより回転自在に保持される。これにより、グリップ部当接部材466dは、グリップ部G1、G2に当接することで、加圧ローラー461の回転により従動回転する。流路管466eにより冷却されたグリップ部当接部材466dは、グリップ部G1、G2と当接しつつ回転することでグリップ部G1、G2を冷却する。
隔壁466fは、送風機466aから送風される冷却風CAを外部から隔てて流路管466eに案内する。これにより冷却風CAを効率的に流路管466eに供給できる。
定着部46は、グリップ部当接部材466dを、円板形状の厚さ方向に直交する方向の側面がグリップ部G1、G2と当接および離間させるための図示しない移動機構をさらに有し得る。
図8は、定着部の概略構成の例4を示す図である。
図8に示す定着部46においては、加圧ローラー461だけでなく、定着ベルト462にもグリップ部G3、G4を設ける。すなわち、定着ベルト462の、用紙Sが通過する通過領域AT2の両側にも、通過領域AT2より摩擦係数の大きいグリップ部G3、G4を設ける。たとえば、グリップ部G3、G4をシリコーンゴム等のゴム材で構成することで、通過領域AT2よりもグリップ部G3、G4の摩擦係数を大きくできる。これにより、回転駆動される加圧ローラー461から定着ベルト462が得るグリップ力をさらに増大できる。また、加圧ローラー461から定着ベルト462が一定のグリップ力を得るために必要な各グリップ部G1〜G4のグリップ幅を低減できる。冷却部466は、グリップ部G1、G2に冷却風CAを当てることでグリップ部G1、G2を冷却する。なお、冷却部466は、グリップ部G3、G4にも冷却風CAを当てることでグリップ部G3、G4も冷却し得る。
冷却部466がグリップ部G1、G2を冷却することによる作用について説明する。
グリップ幅を一定にした場合の加圧ローラー461と定着ベルト462との間の摩擦力Fは一般的に次の式で表される。
F∝Fa+Fh=A・s+k・E’−1/3・tanδ
ここで、Faは粘着摩擦、Fhはヒステリシス摩擦、Aは接触面積、sはせん断強さ、kは定数、E’は貯蔵弾性率、tanδは損失正接である。
上記式によれば、ヒステリシス摩擦Fhは損失正接tanδに依存するが、損失正接tanδは温度依存性を有する。具体的には、温度が低下すると損失正接tanδが大きくなるため、ヒステリシス摩擦Fhが大きくなる。したがって、摩擦力Fは温度が上昇すると小さくなり、温度が低下すると大きくなる。グリップ力は摩擦力Fに正比例するので、温度が低くなるとグリップ力が大きくなる。
図9は、グリップ部の温度と、加圧ローラーと定着ベルトとの間の摩擦力との関係の実測結果を示すグラフである。グラフにおいては、グリップ幅が10mmの場合と20mmの場合とが示されている。定着部46の各部材の条件は、次の通りである。加熱ローラー464の直径は18mm、定着ベルト462のベルト直径は40mm、加圧ローラー461の直径は32mm、加圧ローラー461の用紙Sの搬送方向に直交する方向の幅(以下、「加圧ローラーの幅」と称する)は340mmである。加圧ローラー461による荷重は610N、ニップ部Nの用紙Sの搬送方向の幅(以下、「ニップ幅」と称する)は11mm(パッド465を使用)である。297mm×100mmのサイズの用紙Sの一端をニップ部に挿入し、他端を固定した際に用紙Sにかかる引っ張り力を加圧ローラー461と定着ベルト462との間の摩擦力(以下、単に「摩擦力」と称する)として実測している。
図9に示すように、グリップ部G1、G2の温度を170℃から110℃まで冷却することにより、摩擦力を約1.5倍増大できる。したがって、グリップ部G1、G2を冷却して摩擦力を増大させることにより、加圧ローラー461の回転に対し定着ベルト462および用紙Sがスリップすること(以下、単に「スリップ」と称する)を防止できる。
スリップが発生しやすくなる条件について説明する。
用紙Sの厚さが薄いとスリップが発生しやすくなる。すなわち、用紙Sの厚さが薄いと、用紙Sの厚さによるニップ部Nを形成する加圧ローラー461および定着ベルト462への抗力が小さくなる。このため、用紙S、加圧ローラー461、および定着ベルト462の相互にかかる圧力が弱まることで摩擦力が低下し、スリップが発生しやすくなる。用紙Sの厚さが所定の厚さ以下である場合に、グリップ部G1、G2を冷却して摩擦力を増大させることにより、スリップの発生を防止できる。所定の厚さは、実験により任意の値に決定し得る。所定の厚さは、以下説明する他の条件による影響をも考慮され得る。所定の厚さは、たとえば83μmとし得る。
なお、一般的に、たとえば、坪量が79.1g/m2のコート紙の厚さは60μmであり比較的薄いため、トナー画像の定着のための加熱に必要な熱量が小さく、加圧ローラーの用紙の搬送方向に直交する方向の端部に長時間用紙が通過しなくても当該端部の温度上昇は小さい。このため、用紙の厚さが比較的薄い場合は、加圧ローラーの端部の温度上昇が問題になることは稀であり、加圧ローラーの端部の過度の温度上昇を防止することを目的とした当該端部の冷却は通常は行われない。しかし、本実施形態においては、用紙Sの厚さが薄いとスリップが発生しやすくことから、スリップ防止のために、用紙Sの厚さが所定の厚さ以下である場合にグリップ部G1、G2を冷却する。
用紙Sの搬送方向に直交する方向の幅(以下、「用紙幅」と称する)が広いとスリップが発生しやすくなる。すなわち、用紙幅が広いと、ニップ部Nにおいて、加圧ローラー461と定着ベルト462との間に用紙Sが介在する範囲が増大するため、加圧ローラー461と定着ベルト462とが接触する面積が減少する。これにより、加圧ローラー461の駆動力が定着ベルト462に伝わりにくくなる。また、用紙幅が広いと、ニップ部Nにおいて通過領域AT1、AT2を通過する用紙Sの搬送方向に直交する方向の両端がグリップ部G1、G2に接近する。このため、用紙Sの厚みにより加圧ローラー461および定着ベルト462の用紙Sの搬送方向に直交する方向の両端が互いに離隔する方向の力を受け、グリップ部G1、G2が定着ベルト462を押圧する力が減少する。これにより、摩擦力が減少する。したがって、スリップが発生しやすくなる。用紙Sの幅が所定の幅以上である場合に、グリップ部G1、G2を冷却して摩擦力を増大させることにより、スリップの発生を防止できる。所定の幅は、実験により任意の値に決定し得る。所定の幅は、他の条件による影響をも考慮され得る。所定の幅は、たとえば297μmとし得る。
なお、一般的に、たとえば用紙幅が320mmのSRA3サイズの用紙を、最大用紙幅が320mmの一般的な装置で画像形成する場合は、定着部における加熱領域全体を用紙が通過する。この場合、加圧ローラーの端部の過度の温度上昇は生じないため、当該端部の過度の温度上昇を防止することを目的とした冷却は不要である。しかし、本実施形態においては、用紙幅が広いとスリップが発生しやすくなることから、スリップ防止のために、用紙Sの幅が所定の幅以上である場合に、グリップ部G1、G2を冷却する。
加圧ローラー461が定着ベルト462を押圧する圧接が開始されることで、定着ベルト462の熱により加圧ローラー461の温度が上昇するとスリップが発生しやすくなる。すなわち、加圧ローラー461の温度は、未定着トナー画像のニップ部Nにおける加熱への影響が小さい。また、両面印刷において一旦用紙Sに定着されたトナー画像が再溶融すると画質の劣化につながる。このため、加圧ローラー461の温度は定着ベルト462より低い定常温度に保たれる。しかし、定着開始により、加圧ローラー461による定着ベルト462の圧接が開始された瞬間から急に加圧ローラー461が定着ベルト462により加熱され、加圧ローラー461の温度が上昇する。定着開始後、ニップ部Nを通過する用紙Sの枚数が少ない当初は、用紙Sに奪われる熱量がまだ少ないため、加圧ローラー461の温度は定常温度より高めに推移する。加圧ローラー461の温度が高いと用紙Sに含まれる水分が加熱により蒸発し用紙Sの加圧ローラー461と接触する側の面に水の膜を形成する。これにより摩擦力が低下する。また、加圧ローラー461の温度が上昇することでグリップ部G1、G2の温度も上昇するためさらに摩擦力が低下する。したがって、スリップが発生しやすくなる。加圧ローラー461による定着ベルト462の押圧が開始された当初の加圧ローラー461の温度が所定の温度以上になっている場合に、グリップ部G1、G2を冷却して摩擦力を増大させることにより、スリップの発生を防止できる。所定の温度は、実験により任意の値に決定し得る。所定の温度は、他の条件による影響をも考慮され得る。所定の温度は、加圧ローラー461の定常状態の温度を超える任意の温度とすることができる。
なお、一般的に、加圧ローラーの端部の過度の温度上昇を防止することを目的とした当該端部の冷却は、定着開始後の通紙枚数が多くなった場合に行われる。しかし、本実施形態においては、圧接開始当初の加圧ローラー461の温度上昇によりスリップが発生しやすくなることから、スリップ防止のために、圧接開始当初に加圧ローラー461の温度が所定の温度以上になっている場合に、グリップ部G1、G2を冷却する。
用紙Sの表面の平滑度が高いとスリップが発生しやすくなる。すなわち、たとえばコート紙などの用紙Sの表面の平滑度が高い用紙Sは、加圧ローラー461との間および定着ベルト462との間の摩擦力が低下する。したがって、スリップが発生しやすくなる。用紙Sがコート紙である場合に、グリップ部G1、G2を冷却して摩擦力を増大させることにより、スリップの発生を防止できる。
定着部46における相対湿度が高いとスリップが発生しやすくなる。すなわち、定着部46における相対湿度が高いと、用紙Sがニップ部Nを通過する際に加熱により蒸発する水分が増加して用紙S上に付着しやすくなる。これにより摩擦力が低下しやすくなり、スリップが発生しやすくなる。定着部46における相対湿度が所定の湿度以上である場合に、グリップ部G1、G2を冷却して摩擦力を増大させることにより、スリップの発生を防止できる。所定の湿度は実験により任意の値に決定し得る。所定の湿度は、たとえば70%とすることができる。
用紙Sとしてコート紙を用い、用紙Sの厚さと用紙Sの幅を変えたときのスリップの発生の有無の実験結果について説明する。
実験条件は、次の通りである。定着部46の構成は、定着部46の例4(図6、図7参照)の構成である。加熱ローラー464の直径は40mm、定着ベルト462のベルト直径は80mmである。加圧ローラー461の直径は50mm、加圧ローラー461のゴム層461bの厚さは5mm、加圧ローラー461の幅は390mmである。定着温度は180℃で、用紙Sの搬送速度は300mm/s、加圧ローラー461による荷重は800N、ニップ幅は15mmである。グリップ幅は15mmである。
実験結果を表1に示す。表1において、丸印はスリップが発生したことを示し、バツ印はスリップが発生したことを示している。
グリップ部G1、G2を冷却しない場合は、次のような結果を示している。すなわち、用紙Sの厚さが83μm以下になると、用紙Sの幅が297mm、320mmの場合にスリップが発生する場合がある。用紙Sの幅が297mm以上になると、用紙Sの厚さが60μm、83μmの場合にスリップが発生する場合がある。すなわち、用紙Sの厚さが60μmで、幅が320mmの条件においてスリップが発生していないが、その他の条件においては、用紙Sの厚さが薄く、用紙Sの幅が広いほどスリップが発生しやすい傾向を示している。用紙Sの厚さが60μmで、用紙Sの幅が320mmの条件においてスリップが発生していないことは、用紙Sの厚さおよび用紙Sの幅以外の複数の条件が絡んだ結果と考えられる。
一方、グリップ部G1、G2を冷却した場合は、用紙Sの厚さが60μm、83μm、131μm、および用紙Sの幅が210mm、297mm、320mmのいずれの組み合わせの条件においてもスリップは発生していない。
上記実験結果によれば、用紙Sの厚さが83μm以下で、かつ用紙Sの幅が297mm以上で、かつ用紙Sがコート紙という条件を満たしたときにグリップ部G1、G2を冷却することで、スリップを防止し得ることが判る。
画像形成システム100の動作について説明する。
図10は、定着部の動作を示すフローチャートである。本フローチャートは、記憶部20に記憶された、定着部46を制御するための制御プログラムにしたがい制御部10により実行され得る。
制御部10は、印刷ジョブに基づいて、用紙Sへの画像の形成を開始するために、加圧ローラー461の定着ベルト462への圧接を開始する(S101)。
制御部10は、加圧ローラー461の温度が所定の温度以上かどうか判断する(S102)。制御部10は、加圧ローラー461の温度が所定の温度以上であると判断したときは(S102:YES)、グリップ部G1、G2を冷却部466により冷却する(S107)。グリップ部G1、G2を冷却することで、加圧ローラー461と定着ベルト462との間の摩擦力を増加させてスリップを防止できる。
制御部10は、加圧ローラー461の温度が所定の温度以上ではないと判断したときは(S102:NO)、印刷ジョブの印刷設定に基づき、用紙Sの厚さが所定の厚さ以下かどうか判断する(S103)。制御部10は、用紙Sの厚さが所定の厚さ以下であると判断したときは(S103:YES)、グリップ部G1、G2を冷却する(S107)。
制御部10は、用紙Sの厚さが所定の厚さ以下でないと判断したときは(S103:NO)、印刷ジョブの印刷設定に基づき、用紙Sの幅が所定の幅以上かどうか判断する(S104)。制御部10は、用紙Sの幅が所定の幅以上であると判断したときは(S104:YES)、グリップ部G1、G2を冷却する(S107)。
制御部10は、用紙Sの幅が所定の幅以上でないと判断したときは(S104:NO)印刷ジョブの印刷設定に基づき、用紙Sがコート紙かどうか判断する(S105)。制御部10は、用紙Sがコート紙であると判断したときは(S105:YES)、グリップ部G1、G2を冷却する(S107)。
制御部10は、用紙Sがコート紙でないと判断したときは(S105:NO)、定着部46における相対湿度が所定の湿度以上かどうか判断する(S106)。制御部10は、定着部46における相対湿度が所定の湿度以上であると判断したときは(S106:YES)、グリップ部G1、G2を冷却する(S107)。
制御部10は、定着部46における相対湿度が所定の湿度以上でないと判断したときは(S106:NO)、用紙Sのニップ部Nへの搬送を開始し、用紙S上に形成されたトナー画像加熱および加圧することで用紙Sにトナー画像を定着させる(S108)。制御部10は、グリップ部G1、G2を冷却したときも、用紙Sのニップ部Nへの搬送を開始し、用紙S上にトナー画像を定着させる。
本実施形態は、以下の効果を奏する。
ニップ部を形成する加圧ローラーおよび回転体の間でスリップしやすくなる所定の条件を満たしたときに、加圧ローラーおよび回転体の少なくともいずれかの、用紙の通過領域の両端に設けられたグリップ部を冷却する。これにより、グリップ部の摩擦力を増大でき、ニップ部を形成する部材間のスリップを防止できる。また、加圧ローラーの幅を長くする必要なく、ニップ部のスリップを防止できるので、装置が大型化することもない。
さらに、上記所定の条件に、用紙の厚さが所定の厚さ以下であることを含める。これにより、用紙の厚さが薄いことに起因するスリップを効果的に防止できる。
さらに、上記所定の条件を、用紙の幅が所定の幅以上であることとする。これにより、用紙の幅が広いことに起因するスリップの発生を効果的に防止できる。
さらに、上記所定の条件に、加圧ローラーによる回転体の押圧が開始された当初の加圧ローラーの温度が所定の温度以上になっていることを含める。これにより、加熱された回転体と加圧ローラーが圧接することで加圧ローラーの温度が上昇することに起因するスリップの発生を効果的に防止できる。
さらに、上記所定の条件に、用紙がコート紙であることを含める。これにより、定着する用紙の表面の平滑度が高いことに起因するスリップの発生を効果的に防止できる。
さらに、上記所定の条件に、定着装置における相対湿度が所定の湿度以上であることを含める。これにより、定着装置における相対湿度が高いことに起因するスリップの発生を効果的に防止できる。
本発明に係る定着装置、画像形成装置、および定着装置用プログラムは、上述した実施形態に限定されない。
例えば、上述した実施形態においては、グリップ部を加圧ローラーのみ、もしくは加圧ローラーおよび定着ベルトの両方に設けている。しかし、定着ベルトのみにグリップ部を設けてもよい。この場合、冷却部は、定着ベルトのグリップ部を冷却する。
また、加圧ローラーの、グリップ部を表面に有する端部は加圧ローラーに着脱可能に設けられてもよい。この場合、当該端部が加圧ローラーに装着される際の装着面と反対の面に放熱フィンを設けてもよい。これにより、当該端部の温度が下がりやすくなり、加圧ローラーの定着ベルトに対するグリップ力をさらに増大できる。
また、実施形態においてプログラムにより実行される処理の一部または全部を回路などのハードウェアに置き換えて実施されてもよい。