JP2018165255A - 鉄含有輸液剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】 コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を助長するアスコルビン酸を、輸液剤1L当たりにつき100mg以上の高い量で含有しているにも拘わらず、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を効果的に抑制することができ、それによって解離した遊離鉄によるヘプシジン誘導を回避することのできる鉄含有輸液剤の提供。【解決手段】 鉄化合物と共に、アスコルビン酸およびリン化合物を含有する鉄含有輸液剤であって、アスコルビン酸の含有量が100〜200mg/Lであり、リン化合物をグリセロリン酸塩の形態で含有する鉄含有輸液剤。【選択図】 なし

Description

本発明は、微量元素としての鉄の補給が必要な静脈栄養施行患者に対して投与される鉄含有輸液剤に関する。より詳細には、本発明は、高カロリー輸液剤中におけるコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を抑制することで、解離した遊離鉄によるヘプシジン誘導を回避して、鉄代謝を阻害することなく患者に鉄を補給することのできる鉄含有輸液剤に関する。
鉄は、ヘモグロビン合成、全身の細胞の酸化還元反応、分裂、増殖に関与する必須の微量金属元素である。しかし、鉄が過剰になると、フェントン反応により毒性の強いヒドロキシラジカルを産生し、DNAの損傷やアポトーシスを誘導する。そのため、鉄代謝は数多くの関連分子により巧妙に制御されている(非特許文献1)。
鉄代謝の特徴は、積極的な排泄経路を持たず、ほとんどの鉄が再利用される半閉鎖的回路を構築していることである。
鉄は1日に1mg程度が上部消化管から吸収されて血液中に入り、トランスフェリンと結合して全身に運搬されるが、体内で利用される鉄のほとんどは網内系による赤血球ヘモグロビン鉄の再利用によりまかなわれる。赤血球の寿命は平均120日であり、1日あたり20mgの鉄が網内系マクロファージで処理される。ヘモグロビンから取り出された鉄は、生体内で唯一の鉄輸送膜蛋白であるフェロポルチンを介して再び血液中に入り再利用される(非特許文献2)。
ヘプシジン−25は、21世紀初頭に発見されたペプチドホルモンで、ヘプシジン−25・フェロポルチン系により鉄代謝を負に制御している。
フェロポルチンは、網内系マクロファージ、上部小腸粘膜上皮細胞、肝細胞などに存在する鉄輸送膜蛋白であって、ヘプシジン−25の受容体である。フェロポルチンはヘプシジン−25により負の制御を受けており、フェロポルチンがヘプシジン−25と結合すると細胞内部へ移行し、ライソゾームでヘプシジン−25とともに分解される。分解により減少したフェロポルチンが新たに合成されるのに2〜3日を要するため、その間はフェロポルチンの膜分布密度が低下し、細胞からの鉄放出量が減少する。
ヘプシジン−25は炎症や鉄負荷などにより誘導されるが、血清ヘプシジン−25が持続的に高値であると、鉄の利用が阻害されて、赤血球合成に鉄を利用できない機能性鉄欠乏状態となり貧血を発現することが知られている(非特許文献3)。
高カロリー輸液療法施行時には、ビタミンおよび微量元素補給のために総合ビタミンおよび微量元素製剤を高カロリー輸液剤に配合して投与する。
微量元素製剤中の鉄は、遊離鉄による副作用を避け、さらに水酸化第二鉄の粗大分子の沈殿生成を防止するために、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドの形態にして輸液剤中に配合されている(非特許文献4、5)。
近年、高カロリー輸液剤に鉄を含む微量元素製剤を混合すると、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドから鉄が経時的に解離することが報告されている(非特許文献6)。コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を助長する成分としては、還元物質であるアスコルビン酸、システインおよび亜硫酸水素ナトリウムが挙げられる(非特許文献7、8)。
コンドロイチン硫酸・鉄コロイドから解離した遊離鉄(遊離した鉄イオン)を含む輸液剤を静脈内に投与すると、ヘプシジン−25を誘導し、鉄の利用を阻害する危険がある(非特許文献6、9、10)。
高カロリー輸液療法におけるビタミン必要量は、1975年に米国医師会(American Medical Association:AMA)からガイドラインが示され、アスコルビン酸の推奨量は1日当たり100mgであったが、その後、2000年に米国食品医薬品局によって1日当たり200mgに改訂されている。通常、高カロリー輸液剤は、成人に対して1日当たり2L投与されることから、高カロリー輸液剤中のアスコルビン酸濃度は50mg/Lであったが、改訂後は100mg/Lとなる。
アスコルビン酸は、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を助長する成分の一つであることから、高カロリー輸液剤中のアスコルビン酸の含有量が多くなると、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドから鉄がより解離しやすい環境となる。解離した遊離鉄を多量に含む輸液剤を投与すると、ヘプシジン−25を誘導し、鉄の利用が阻害される。
また、高カロリー輸液剤中には、アスコルビン酸と共に、一般に、システイン、アセチルシステイン、亜硫酸塩などの還元性物質が配合されており、これらの還元性物質もコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を助長する。
現状では、高カロリー輸液剤に鉄を含む微量元素製剤を混合した際に、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を抑制する鉄含有輸液剤は開示されていない。さらに、鉄の解離を抑制することでヘプシジン−25の誘導を回避しつつ、患者に鉄を補給できる鉄含有輸液剤は開示されていない。
上記の点から、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を助長するアスコルビン酸を、輸液剤1L当たりにつき50mgを超える量で含有しているにも拘わらず、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を抑制することのできる鉄含有輸液剤の開発が求められている。
また、アスコルビン酸を輸液剤1L当たりにつき50mgを超える量で含有する鉄含有輸液剤であって、輸液剤中にシステイン、アセチルシステイン、亜硫酸塩などの他の還元性物質が更に含まれていても、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を抑制することのできる鉄含有輸液剤の開発が求められている。
高後裕ほか、「Iron Overload と鉄キレート療法」、p.25−33(2007) 生田克哉ほか、「血液フロンティア」、21(6)、p.23−30(2011) 友杉直久、「血液フロンティア」、21(6)、p.31−39(2011) 「医薬ジャーナル」、28(5)、p.83−88(1992) 「医薬品インタビューフォーム、高カロリー輸液用微量元素製剤.エレジェクト注」 「外科と代謝・栄養」、48(5)、p.149−257(2014) 「日病薬誌」、33(4)、p.57−60(1997) 「薬事59」(臨時増刊)、p.169−172(2008) 加藤治樹、「日本臨床栄養学会雑誌」、36(1)、p.40−45(2014) 加藤治樹、「日本臨床栄養学会雑誌」、36(4)、p.202−205(2014)
本発明の目的は、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を助長するアスコルビン酸を、輸液剤1L当たりにつき100mg以上の高い量で含有していて、そのままではコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離がより生じ易い状態にある鉄含有輸液剤において、アスコルビン酸の含有量をそのまま高く維持しながら、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を効果的に抑制することのできる鉄含有輸液剤を提供することである。
本発明の目的は、アスコルビン酸を、輸液剤1L当たりにつき、100mg以上の多い量で含有していて、アスコルビン酸(ビタミンC)による抗酸化作用、免疫機能の向上作用、コラーゲンの生成作用、カルシウムの吸収と代謝作用、糖の代謝作用、アレルギー反応で生じるヒスタミンの放出抑制作用、ストレスを軽減するホルモンの生成作用などを効果的に発揮しながら、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を良好に抑制して、輸液剤を投与されている患者において、ヘプシジン−25を誘導することなく鉄の再利用を促進させることのできる鉄含有輸液剤を提供することである。
本発明の目的は、アスコルビン酸を輸液剤1L当たりにつき100mg以上で含有する鉄含有輸液剤であって、システイン、アセチルシステイン、亜硫酸塩などの他の還元性物質をさらに含有していても、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を抑制することのできる鉄含有輸液剤を提供することである。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねてきた。その結果、アスコルビン酸を輸液剤1L当たりにつき100mg以上、特に100〜200mg/Lという多い量で含有する鉄含有輸液剤において、リン化合物として、従来用いられてきたリン酸二カリウムなどのリン酸塩に代えて、グリセロリン酸塩を含有させると、アスコルビン酸の含有量が多くても、鉄含有輸液剤に含まれるコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を大幅に抑制できることを見いだした。
さらに、本発明者らは、アスコルビン酸を輸液剤1L当たりにつき100mg以上、特に100〜200mg/Lという多い量で含有する鉄含有輸液剤において、リン化合物としてグリセロリン酸塩を含有させると、システイン、アセチルシステイン、亜硫酸塩などの他の還元性物質をさらに含有していても、鉄含有輸液剤に含まれるコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を大幅に抑制できることを見いだし、それらの知見に基づいて本発明を完成した。
したがって、本発明は、
(1) 鉄化合物と共に、アスコルビン酸およびリン化合物を含有する鉄含有輸液剤であって、アスコルビン酸の含有量が100〜200mg/Lであり、リン化合物をグリセロリン酸塩の形態で含有することを特徴とする鉄含有輸液剤である。
そして、本発明は、
(2) 鉄化合物が、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドの形態で輸液中に存在する前記(1)の鉄含有輸液剤;
(3) 成人患者1人に対する1日当たりの鉄の投与量が鉄元素に換算して0.1〜2mgとなる量で鉄化合物を含有する前記(1)または(2)の鉄含有輸液剤;
(4) 糖濃度が50〜250g/Lであり、糖としてグルコース、フルクトース、キシリトール、ソルビトール、マルトースおよびグリセロールの1種または2種以上を含有する前記(1)〜(3)のいずれかの鉄含有輸液剤;および、
(5) アミノ酸濃度が10〜60g/Lである前記(1)〜(4)のいずれかの鉄含有輸液剤;
である。
さらに、本発明は、
(6) 用時に剥離可能な隔壁によって区画された複数の室を有する複室型容器に収容されており、複数の室の1つに鉄化合物を含む液が収容され、鉄化合物を含む液が収容された室とは異なる室に、アスコルビン酸を含む液が収容されている、前記(1)〜(5)のいずれかの鉄含有輸液剤;および、
(7) 鉄化合物を含む液とアスコルビン酸を含む液とが混合されたときに、当該混合液を波長450nm以下の光を遮断した遮光状態で室温下に24時間保存した際のコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が50%以下である前記(6)の鉄含有輸液剤;
である。
また、本発明は、
(8) 下記のアミノ酸の遊離型、誘導体または塩を、アミノ酸の遊離型に換算して、下記の量で含有する前記(1)〜(7)のいずれかの鉄含有輸液剤である。
イソロイシン 0.5〜6.5g/L
ロイシン 0.5〜10.0g/L
バリン 0.5〜7.5g/L
リシン 0.5〜7.0g/L
メチオニン 0.1〜3.0g/L
フェニルアラニン 0.5〜6.0g/L
トレオニン 0.1〜4.0g/L
トリプトファン 0.1〜2.0g/L
グリシン 0.1〜5.0g/L
アラニン 0.5〜7.5g/L
アルギニン 0.5〜8.5g/L
ヒスチジン 0.5〜6.0g/L
プロリン 0.5〜6.0g/L
セリン 0.5〜4.5g/L
チロシン 0.05〜1.0g/L
システイン 0.05〜2.0g/L
アスパラギン酸 0.05〜4.0g/L
グルタミン酸 0.05〜4.0g/L
本発明の鉄含有輸液剤は、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を助長するアスコルビン酸を、輸液剤1L当たりにつき100〜200mgという高濃度で含有しているにも拘らず、リン化合物としてグリセロリン酸塩を含有することにより、鉄化合物を含む液とアスコルビン酸を含む液が混合されたときに、当該混合液を波長450nm以下の光を遮断した遮光状態で室温下に24時間保存した際のコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が50%以下と低く、解離した鉄によるヘプシジン−25の誘導を防ぐことができ、それによって患者における鉄の利用を促進することができる。
本発明の鉄含有輸液剤は、リン化合物としてグリセロリン酸塩を含有することにより、アスコルビン酸と共に、システイン、アセチルシステイン、亜硫酸塩などの還元性物質をさらに含有しても、鉄化合物を含む液と、アスコルビン酸並びにシステイン、アセチルシステインおよび亜硫酸塩から選ばれる還元性物質の1種または2種以上を含有する液が混合されたときに、当該混合液を波長450nm以下の光を遮断した遮光状態で室温下に24時間保存した際のコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が50%以下と低く、解離した鉄によるヘプシジン−25の誘導を防ぐことができ、それによって患者における鉄の利用を促進することができる。
本発明の鉄含有輸液剤は、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離が抑制されるため、解離した鉄によるヘプシジン−25の誘導も抑制されて、網内系に鉄を過剰に蓄積させることがなく、しかも細胞内の自由鉄の濃度を増加させないことから、ヒドロキシラジカルの産生を抑制し、DNAの損傷やアポトーシスの誘導を抑制することができる。
本発明の鉄含有輸液剤は、輸液剤1L当たりにつきアスコルビン酸を100〜200mgという高い濃度で含有しているため、アスコルビン酸(ビタミンC)による抗酸化作用、免疫機能の向上作用、コラーゲンの生成作用、カルシウムの吸収と代謝作用、糖の代謝作用、アレルギー反応で生じるヒスタミンの放出抑制作用、ストレスを軽減するホルモンの生成作用などを効果的に発揮させることができる。
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の鉄含有輸液剤に配合される鉄化合物としては、生体に対して安全で且つ水などの液体に溶解する鉄化合物を用いることができる。
鉄化合物の好ましい具体例としては、塩化第二鉄、クエン酸第二鉄、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄などの第二鉄塩を挙げることができ、そのうちでも、塩化第二鉄が使用実績の豊富な点からより好ましく用いられる。
本発明の鉄含有輸液剤における鉄化合物の含有量は、成人患者1人に対する1日当たりの鉄の投与量が、鉄元素に換算して、0.1〜2mgとなる量であることが好ましく、0.1〜1.5mgとなる量であることがより好ましく、0.1〜1mgとなる量であることが更に好ましい。
鉄含有輸液剤における鉄化合物の含有量が、鉄元素に換算して鉄の投与量が2.0mg/成人患者1人・1日を超える量であると、鉄過剰となり、フェリチンまたはヘモジデリンとして体内に蓄積される。一方、鉄含有輸液剤における鉄化合物の含有量が、鉄元素に換算して鉄の投与量が0.1mg/成人患者1人・1日未満となる量であると、十分な鉄補給が困難になる。
本発明の鉄含有輸液剤は、アスコルビン酸(L−アスコルビン酸;ビタミンC)を、鉄含有輸液剤1L当たりにつき、100〜200mgの量で含有する。
ここで、本発明における「鉄含有輸液剤1L当たり」とは、患者に投与される時点での鉄含有輸液剤の全量(合計量)に基づく1L当たりの含有量を言う。鉄含有輸液剤が複数の室に区画された複室型容器に収容されていて、複数の室に収容されている液や成分を混合して患者に投与するものでは、混合後の液全体の1L当たりの含有量をいう。
鉄含有輸液剤1L当たりのアスコルビン酸の含有量が100mg未満であると、必要量を満たさずアスコルビン酸を配合したことによる効果が発揮されにくくなる。
一方、鉄含有輸液剤1L当たりのアスコルビン酸の含有量が200mgを超えると、必要量を超えるために利用されることなく排泄される。
本発明の鉄含有輸液剤は、アスコルビン酸を、鉄含有輸液剤1L当たりにつき、100〜200mgの量で含有することが好ましい。
本発明の鉄含有輸液剤は、アスコルビン酸と共に、システイン、アセチルシステインおよび亜硫酸塩から選ばれる還元性物質の1種または2種以上を含有することができ、システインおよびアセチルシステインの一方または両方と、亜硫酸塩を含有することが好ましい。
システインおよび/またはアセチルシステインの含有量(両者を含有する場合は合計含有量)は、鉄含有輸液剤1L当たりにつき0.05〜2.0gであることが好ましい。
亜硫酸塩としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カリウムなどを挙げることができる。
亜硫酸塩の含有量は、鉄含有輸液剤1L当たりにつき0.01〜0.5gであることが好ましく、0.01〜0.05gであることがより好ましい。
従来の輸液剤では、リン化合物としてリン酸二水素カリウム、リン酸二カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムなどが用いられてきたが、本発明の鉄含有輸液剤は、リン化合物としてグリセロリン酸塩を含有する。
グリセロリン酸塩としては、生体に対して安全で一般の注射剤などに用いられるグリセロリン酸塩を使用することができ、具体例としては、グリセロリン酸二カリウムなどのグリセロリン酸カリウム、グリセロリン酸二ナトリウムなどのグリセロリン酸ナトリウム、グリセロリン酸カルシウム、グリセロリン酸マグネシウムなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
そのうちでも、グリセロリン酸塩としては、グリセロリン酸二カリウムが、使用実績が豊富である点から好ましく用いられる。
本発明の鉄含有輸液剤におけるグリセロリン酸塩の含有量は、リンの補給、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離の防止の点から、鉄含有輸液剤1L当たりにつき、1〜10g(リンとして約63mg〜625mg)であることが好ましく、2〜8g(リンとして約125mg〜500mg)であることがより好ましい。
グリセロリン酸塩の含有量が多すぎると、リンの投与量が過剰となり、一方、グリセロリン酸塩の含有量が少なすぎると、リンの投与量が不足し、リンの供給源としてリン酸二水素カリウムやリン酸二カリウムを配合するとコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を防止しにくくなる。
本発明の鉄含有輸液剤における糖の含有量は、患者に十分な熱量を投与するために、鉄含有輸液剤1L当たりにつき50〜250gであることが好ましく、60〜250gであることがより好ましい。
糖としては、輸液剤で用いられている糖のいずれもが使用することができ、具体例としては、グルコース、フルクトース、キシリトール、ソルビトール、マルトース、グリセロールなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を含有させることができる。
本発明の鉄含有輸液剤は、輸液用のアミノ酸溶液製剤として十分な機能を発揮させるために、アミノ酸(全アミノ酸の合計)を、鉄含有輸液剤1L当たりにつき、10〜60gの割合で含有することが好ましく、15〜50gの割合で含有することがより好ましい。
本発明の鉄含有輸液剤で用い得るアミノ酸の種類としては、例えば、イソロイシン、ロイシン、バリン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、グリシン、アラニン、アルギニン、ヒスチジン、プロリン、セリン、チロシン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸などのアミノ酸の遊離型、誘導体または塩を挙げることができる。特に、前記したアミノ酸の全てを含有させると、輸液用のアミノ酸溶液製剤として十分な機能を有するようになる。
本発明の鉄含有輸液剤は、各アミノ酸を、鉄含有輸液剤1L当たりにつき、以下の量で含有することが好ましい。
なお、以下におけるアミノ酸の含有量は、アミノ酸の遊離型に換算した量である。
イソロイシン 0.5〜6.5g/L
ロイシン 0.5〜10.0g/L
バリン 0.5〜7.5g/L
リシン 0.5〜7.0g/L
メチオニン 0.1〜3.0g/L
フェニルアラニン 0.5〜6.0g/L
トレオニン 0.1〜4.0g/L
トリプトファン 0.1〜2.0g/L
グリシン 0.1〜5.0g/L
アラニン 0.5〜7.5g/L
アルギニン 0.5〜8.5g/L
ヒスチジン 0.5〜6.0g/L
プロリン 0.5〜6.0g/L
セリン 0.5〜4.5g/L
チロシン 0.05〜1.0g/L
システイン 0.05〜2.0g/L
アスパラギン酸 0.05〜4.0g/L
グルタミン酸 0.05〜4.0g/L
本発明の鉄含有輸液剤は、当該輸液剤の成人患者1名に対する1日当たりの投与総熱量が500〜1800kcalあることが好ましく、600〜1500kcalであることがより好ましい。
本発明の鉄含有輸液剤は、微量元素として、鉄化合物と共に、必要に応じて、マンガン化合物、亜鉛化合物、銅化合物、ヨウ素化合物およびセレン化合物の1種または2種以上をさらに含有することができる。
これらの微量元素化合物の含有量は、成人患者1人に対する1日当たりの投与量が(金属)元素に換算して、マンガンが0.01〜0.3mg、特に0.02〜0.2mg、亜鉛が0.5〜10.0mg、特に1.0〜8mg、銅が0.01〜2.0mg、特に0.05〜1.0mgおよびヨウ素が0.01〜1.0mg、特に0.05〜0.3mg、セレンが0.005〜0.2mg、特に0.01〜0.1mgであることが好ましい。
本発明の鉄含有輸液剤は、アスコルビン酸と共に、必要に応じて、他の水溶性ビタミン(ビタミンB1、B2、B6、ビオチン、B12、ニコチン酸アミド、パントテン酸、葉酸など)、脂溶性ビタミン(ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKなど)の1種または2種以上を含有することができる。
各ビタミンの含有量は、従来から高カロリー輸液剤において採用されているのと同程度の量とすることができる。
本発明の鉄含有輸液剤は、必要に応じて脂肪乳剤を含有することができる。しかし、脂肪乳剤中の脂肪粒子は、高カロリー輸液剤中において粗大化する恐れがあることから、脂肪乳剤は配合しない方が好ましい。
アスコルビン酸による鉄コロイドからの鉄の解離、またはアスコルビン酸とシステイン、アセチルシステインおよび/または亜硫酸水素塩からなる還元性物質による鉄コロイドからの鉄の解離を防止して、長期にわたって安定に保存するために、本発明の鉄含有輸液剤は、用時に剥離可能な隔壁によって区画された複数の室を有する複室型容器の1つに鉄化合物を含む液を収容し、鉄化合物を含む液が収容された室とは異なる室に、アスコルビン酸を含む液、またはアスコルビン酸とシステイン、アセチルシステインおよび/または亜硫酸水素塩からなる還元性物質を含む液を収容した多室型容器の形態にするのがよい。
その際に、鉄化合物を含有する液に、遊離鉄による副作用を避け、さらに水酸化第二鉄の粗大分子の沈殿生成を防止するために、コンドロイチン硫酸エステルナトリウムなどのコロイドの安定化剤を含有させて、鉄を、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドの形態にしておく。
コロイドの安定化剤の含有量は、液中に含まれる鉄(鉄元素として)1質量部に対して、5質量部以上であることが好ましい。
本発明の鉄含有輸液剤中に、微量元素として、マンガン、亜鉛、銅、セレンなどの金属の化合物の1種または2種以上を含有させる場合は、鉄を含有する液に同時に含有させるとよい。
一方、アスコルビン酸、またはアスコルビン酸とシステインまたはアセチルシステイン、亜硫酸塩からなる還元性物質は、その液を、鉄を含有する液を収容した室とは異なる室に収容する。
用時に剥離可能な隔壁によって区画された複数の室を有する複室型容器は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン)、環状ポリオレフィンなどのポリオレフィン、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリジオレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマーなどの1種または2種以上よりなる単層または複層のシートまたはフィルムを用いて、従来から知られている方法で、複室型バッグ状容器などにして製造することができる。
以下に試験例、実施例などにより本発明について具体的に説明するが、本発明は、以下の例に限定されるものではない。
《参考例1》
アスコルビン酸の含有量が50mg/L(100mg/日)、鉄の含有量が0.98mg/Lであり、リン化合物をリン酸二カリウムの形態で含有する、下記の表1の参考例1の欄に示す成分組成を有する液(注射用水にて全量を1000mLに調製するとともにpHを5.4に調整)を、0.22μmメンブランフィルターでろ過し、これを輸液バッグ(1室型)に無菌的に充填して、輸液剤中の全成分が混合された状態にある輸液剤を製造した後、直ちに遮光カバー(波長450nmの光の透過率が約1%、波長600nmの光の透過率が約50%)を装着した。
《参考例2》
アスコルビン酸の含有量を100mg/Lとした以外は参考例1と同様に行って、下記の表1の参考例2の欄に示す成分組成を有する輸液剤を製造した後、直ちに遮光カバー(波長450nmの光の透過率が約1%、波長600nmの光の透過率が約50%)を装着した。
《参考例3》
アスコルビン酸の含有量を200mg/Lとした以外は参考例1と同様に行って、下記の表1の参考例3の欄に示す成分組成を有する輸液剤を製造した後、直ちに遮光カバー(波長450nmの光の透過率が約1%、波長600nmの光の透過率が約50%)を装着した。
Figure 2018165255
《試験例1》
参考例1〜3で得られた遮光カバーを装着した輸液剤を、室温下に24時間保存し(24時間保存時の温度21〜26℃)、24時間保存した時点でのコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率を下記の方法で求めた。
その結果を、下記の表2に示す。
[コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率]
(i)総鉄濃度の測定:
参考例1〜3で得られた、室温下に24時間保存する前の輸液剤について、チオグリコール酸を添加した後、60℃に加温して、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからすべての鉄を解離させ、ニトロソ−PSAP法にて総鉄濃度(CA)を測定した。
(ii)非コロイド鉄濃度の測定:
室温下に遮光カバーを装着した状態で24時間保存した輸液剤を、遠心式フィルターユニット「Amicon Ultra−4(30K)」を使用して、5000Gで30分間遠心ろ過し、それにより得られた濾液を用いて、ニトロソ−PSAP法にて非コロイド鉄濃度(CB)を測定した。
(iii)コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率の算出:
下記の数式(I)により、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率を求めた。
コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率(%)=(CB/CA)×100 (I)
Figure 2018165255
上記の表2の結果にみるように、アスコルビン酸の含有量が50mg/L(100mg/日)である参考例1の輸液剤は、遮光カバーを装着した状態で室温下に24時間保存したときのコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が81.3%、アスコルビン酸の含有量が100mg/L(200mg/日)である参考例2の輸液剤は、遮光カバーを装着した状態で室温下に24時間保存したときのコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が94.4%およびアスコルビン酸の含有量が200mg/L(400mg/日)である参考例3の輸液剤は、遮光カバーを装着した状態で室温下に24時間保存したときのコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が100%である。
上記の表2の結果から、配合したリン化合物の形態がリン酸二カリウムである輸液剤中では、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が80%を超えて高いこと、しかもアスコルビン酸の含有量が多くなるにつれてコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率は上昇し、アスコルビン酸の含有量が200mg/Lである参考例3の輸液剤では、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからすべての鉄が解離したことがわかる。
《実施例1》
(1) 注射用水に、ブドウ糖と共に、下記の表3の溶液Aの欄に記載されている電解質、ビタミン類を溶解し、コハク酸でpHを4.5に調整した後、ろ過を行い、表3に示す溶液Aを調製した。
(2) 注射用水に、アミノ酸と共に、下記の表3の溶液Bの欄に記載されている電解質、アスコルビン酸、リボフラビンリン酸エステルナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムを溶解し、さらにリン化合物としてグリセロリン酸カリウム50%液を加え、クエン酸水和物と氷酢酸でpHを6.5に調整した後、ろ過を行い、表3に示す溶液Bを調製した。
(3) レチノールパルミチン酸エステル、コレカルシフェロール、トコフェロール酢酸エステル、フィトナジオンをポリソルベート80およびポリソルベート20に溶解して脂溶性ビタミン/界面活性剤混合液を調製した。注射用水に、シアノコバラミン、葉酸、ビオチン、ヨウ化カリウムおよびD−ソルビトールを溶解し、これに前記で調製した脂溶性ビタミン/界面活性剤混合液を加えて攪拌混合し、クエン酸水和物と水酸化ナトリウムを適量添加してpHを6.0に調整し、ろ過を行い、表3に示す溶液Cを調製した。
(4) 注射用水にコンドロイチン硫酸ナトリウムを溶解し、塩化第二鉄六水和物の水溶液と水酸化ナトリウムを交互に加えて、コンドロイチン硫酸・鉄コロイド溶液を調製した。このコンドロイチン硫酸・鉄コロイド溶液に塩化マンガン四水和物、硫酸銅五水和物、硫酸亜鉛七水和物を加え、水酸化ナトリウムでpHを5.8に調整し、ろ過を行い、表3に示す溶液Dを調製した。
(5) 用時に剥離可能な隔壁によって4つの室に仕切られたポリプロピレン製の4室型容器(バッグ)を準備し、第1室に溶液Aを663mL充填し、第2室に溶液Bを333mL充填し、第3室に溶液Cを2.7mL充填し、第4室に溶液Dを1mL充填して、高カロリー輸液入りバッグを製造した。
(6) 上記(5)で得られた高カロリー輸液入りバッグを常法に従い高圧蒸気滅菌した後、脱酸素剤と共に酸素非透過性の外包材で包装して、実施例1の高カロリー輸液剤を得た。
《実施例2》
溶液Bにおけるアスコルビン酸の含有量を200mg/Lとした以外は、実施例1と同様にして高カロリー輸液剤を製造した。
《実施例3》
溶液Bにおいて、アセチルシステインの代わりにシステインを配合した以外は、実施例1と同様にして高カロリー輸液剤を製造した。
《比較例1》
溶液Bにおいて、アセチルシステインの代わりにシステインを配合し、グリセロリン酸カリウムの代わりにリン酸二水素カリウムを配合した以外は、実施例1と同様にして高カロリー輸液剤を製造した。
《比較例2》
(1) 注射用水に、ブドウ糖と共に、下記の表4の溶液Aの欄に記載されている電解質、ビタミン類を溶解し、更にリン化合物としてリン酸二カリウムを添加し、氷酢酸とコハク酸でpHを4.5に調整した後、ろ過を行い、表4に示す溶液Aを調製した。
(2) 注射用水に、アミノ酸と共に、下記の表4の溶液Bの欄に記載されている電解質とビタミン類を加え、亜硫酸水素ナトリウムを溶解し、クエン酸水和物と氷酢酸でpHを6.9に調整した後、ろ過を行い、表4に示す溶液Bを調製した。
(3) レチノールパルミチン酸エステル、コレカルシフェロール、トコフェロール酢酸エステル、フィトナジオンをポリソルベート80およびポリソルベート20に溶解し脂溶性ビタミン/界面活性剤混合液を調製した。注射用水に、リボフラビンリン酸エステルナトリウム、アスコルビン酸、ビオチン、ヨウ化カリウム、D−ソルビトール、マクロゴール400を溶解し、これに前記で調製した脂溶性ビタミン/界面活性剤混合液を加えて攪拌混合し、クエン酸水和物と水酸化ナトリウムを適量添加してpHを5.9に調整し、ろ過を行い、表4に示す溶液Cを調製した。
(4) 注射用水に、コンドロイチン硫酸ナトリウムを溶解し、塩化第二鉄六水和物の水溶液と水酸化ナトリウムを交互に加え、コンドロイチン硫酸・鉄コロイド溶液を調製した。このコンドロイチン硫酸・鉄コロイド溶液に塩化マンガン四水和物、硫酸銅五水和物、硫酸亜鉛七水和物を加え、水酸化ナトリウムでpHを5.8に調整し、ろ過を行い、表4に示す溶液Dを調製した。
(5) 用時に剥離可能な隔壁によって4つの室に仕切られたポリプロピレン製の多室型の容器(バッグ)を準備し、その第1室に溶液Aを692mL充填し、第2室に溶液Bを300mL充填し、第3室に溶液Cを4mL充填し、第4室に溶液Dを4mL充填して、高カロリー輸液入りバッグを製造した。
(6) 上記(5)で得られた高カロリー輸液入りバッグを常法に従い高圧蒸気滅菌した後、脱酸素剤と共に酸素非透過性の外包材で包装して、比較例2の高カロリー輸液剤を得た。
Figure 2018165255
Figure 2018165255
《試験例2》
実施例1〜3および比較例1〜2で得られた高カロリー輸液剤のそれぞれについて、バッグを外方から押圧して隔壁を剥離させて、4つの室に充填した溶液A〜Dの全てを混合させた後、遮光カバー(波長450nmの光の透過率が1%、波長600nm以上の光の透過率が約50%)を装着して室温下に24時間保存し(24時間保存時の温度21〜26℃)、24時間保存した時点でのコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率を、試験例1におけるのと同様にして求めた。
その結果を、下記の表5に示す。
Figure 2018165255
上記の表5の結果にみるように、実施例1〜3の高カロリー輸液剤は、リン化合物をグリセロリン酸カリウムの形態で含有することにより、バッグ内の隔壁を剥離させて全液を混合(コンドロイチン硫酸・鉄コロイドを含む液とアスコルビン酸を含む液を混合)して、室温下に遮光カバーを装着した状態で24時間保存したときに、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を助長するアスコルビン酸を133mg/Lまたは200mg/Lという高い濃度で含有しているにも拘わらず、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が、33.2%(実施例1)、38.5%(実施例2)または40.6%(実施例3)と低い。しかも、実施例1〜3における当該低い鉄の解離率は、システインの形態にも影響を受けない。
一方、比較例1および比較例2の高カロリー輸液剤は、リン化合物をリン酸二水素カリウムまたはリン酸二カリウムの形態で含有することにより、バッグ内の隔壁を剥離させて全液を混合(コンドロイチン硫酸・鉄コロイドを含む液とアスコルビン酸を含む液を混合)して、室温下に遮光カバーを装着した状態で24時間保存したときに、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を助長するアスコルビン酸の含有量が100mg/Lを超えていても、または100mg/Lよりも少なくても、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が、100%(比較例1)または80.9%(比較例2)と高く、特に、アスコルビン酸の含有量が133mg/Lと多い比較例1では、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が100%と極めて高い。
《実施例4〜6》
実施例1と同様にして、下記の表6の実施例4〜6の欄に記載されている成分組成を有する溶液A、B、CおよびDを調製し、それぞれの溶液を用時に剥離可能な隔壁により仕切られた4室型の容器(バッグ)のそれぞれの室に充填した後、常法に従い高圧蒸気滅菌し、脱酸素剤と共に酸素非透過性の外包材で包装して、実施例4〜6の高カロリー輸液剤を製造した。
《比較例3および4》
実施例1と同様にして、下記の表6の比較例3および比較例4の欄に記載されている成分組成を有する溶液A、B、CおよびDを調製し、それぞれの溶液を用時に剥離可能な隔壁により仕切られた4室型の容器(バッグ)のそれぞれの室に充填した後、常法に従い高圧蒸気滅菌し、脱酸素剤と共に酸素非透過性の外包材で包装して、比較例3および4の高カロリー輸液剤を製造した。
Figure 2018165255
《試験例3》
実施例4〜6および比較例3〜4で得られた高カロリー輸液剤のそれぞれについて、バッグを外方から押圧して隔壁を剥離させて、4つの室に充填した溶液A〜Dの全てを混合させた後、遮光カバー(波長450nmの光の透過率が約1%、波長600nm以上の光の透過率が約50%)を装着して室温下に24時間保存し(24時間保存時の温度21〜26℃)、24時間保存した時点でのコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率を、試験例1におけるのと同様にして求めた。
その結果を、下記の表7に示す。
また、下記の表7には、実施例1の結果も併記した。
Figure 2018165255
上記の表7の結果にみるように、実施例1および実施例4〜6の高カロリー輸液剤は、リン化合物をグリセロリン酸カリウムの形態で含有することにより、バッグ内の隔壁を剥離させて全液を混合(コンドロイチン硫酸・鉄コロイドを含む液とアスコルビン酸を含む液を混合)して、室温下に遮光カバーを装着した状態で24時間保存したときに、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が、33.2%(実施例1)、34.3%(実施例4)、31.1%(実施例5)または38.1%(実施例6)と低い。しかも、実施例1および実施例4〜6における当該低い鉄の解離率は、輸液剤中の糖濃度およびアミノ酸濃度によって影響を受けない。
一方、比較例3および比較例4の高カロリー輸液剤は、リン化合物をリン酸二水素カリウムの形態で含有することにより、バッグ内の隔壁を剥離させて全液を混合(コンドロイチン硫酸・鉄コロイドを含む液とアスコルビン酸を含む液を混合)して、室温下に遮光カバーを装着した状態で24時間保存したときに、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が、86.9%(比較例3)または98.2%(比較例4)と高い。
《実施例7〜9》
実施例1と同様にして、下記の表8の実施例7〜9の欄に記載されている成分組成を有する溶液A、B、CおよびDを調製し、それぞれの溶液を用事に剥離可能な隔壁により仕切られた4室型の容器(バッグ)のそれぞれの室に充填した後、常法に従い高圧蒸気滅菌し、脱酸素剤と共に酸素非透過性の外包材で包装して、実施例7〜9の高カロリー輸液剤を製造した。
Figure 2018165255
《試験例4》
実施例7〜9で得られた高カロリー輸液剤のそれぞれについて、バッグを外方から押圧して隔壁を剥離させて、4つの室に充填した溶液A〜Dの全てを混合させた後、遮光カバー(波長450nmの光の透過率が約1%、波長600nm以上の光の透過率が約50%)を装着して室温下に24時間保存し(24時間保存時の温度21〜26℃)、24時間保存した時点でのコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率を、試験例1におけるのと同様にして求めた。
その結果を、下記の表9に示す。
また、下記の表9には、実施例1の結果も併記した。
Figure 2018165255
上記の表9の結果にみるように、実施例1および実施例7〜9の高カロリー輸液剤は、リン化合物をグリセロリン酸カリウムの形態で含有することにより、バッグ内の隔壁を剥離させて全液を混合(コンドロイチン硫酸・鉄コロイドを含む液とアスコルビン酸を含む液を混合)して、室温下に遮光カバーを装着した状態で24時間保存したときに、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が、33.2%(実施例1)、32.0%(実施例7)、32.5%(実施例8)または36.0%(実施例9)と低い。しかも、実施例1および実施例7〜9における当該低い鉄の解離率は、輸液剤中の鉄濃度によって影響を受けない。
本発明の鉄含有輸液剤は、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を助長するアスコルビン酸を、輸液剤1L当たりにつき100〜200mgという高濃度で含有しているにも拘らず、リン酸塩としてグリセロリン酸塩を用いたことにより、鉄化合物を含む液とアスコルビン酸を含む液が混合して遮光カバーを装着した状態で室温下に24時間保存した際のコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が50%以下と低く、解離した鉄によるヘプシジン−25の誘導を防ぐことができ、それによって患者における鉄の利用を促進することができ、しかも、輸液剤1L当たりにつきアスコルビン酸を100〜200mgという高い濃度で含有しているため、アスコルビン酸(ビタミンC)による抗酸化作用、免疫機能の向上作用、コラーゲンの生成作用、カルシウムの吸収と代謝作用、糖の代謝作用、アレルギー反応で生じるヒスタミンの放出抑制作用、ストレスを軽減するホルモンの生成作用などを効果的に発揮させることができるため、輸液剤として有用である。

Claims (8)

  1. 鉄化合物と共に、アスコルビン酸およびリン化合物を含有する鉄含有輸液剤であって、アスコルビン酸の含有量が100〜200mg/Lであり、リン化合物をグリセロリン酸塩の形態で含有することを特徴とする鉄含有輸液剤。
  2. 鉄化合物が、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドの形態で輸液中に存在する請求項1に記載の鉄含有輸液剤。
  3. 成人患者1人に対する1日当たりの鉄の投与量が鉄元素に換算して0.1〜2mgとなる量で鉄化合物を含有する請求項1または2に記載の鉄含有輸液剤。
  4. 糖濃度が50〜250g/Lであり、糖としてグルコース、フルクトース、キシリトール、ソルビトール、マルトースおよびグリセロールの1種または2種以上を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の鉄含有輸液剤。
  5. アミノ酸濃度が10〜60g/Lである請求項1〜4のいずれか1項に記載の鉄含有輸液剤。
  6. 用時に剥離可能な隔壁によって区画された複数の室を有する複室型容器に収容されており、複数の室の1つに鉄化合物を含む液が収容され、鉄化合物を含む液が収容された室とは異なる室に、アスコルビン酸を含む液が収容されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の鉄含有輸液剤。
  7. 鉄化合物を含む液とアスコルビン酸を含む液とが混合されたときに、当該混合液を波長450nm以下の光を遮断した遮光状態で室温下に24時間保存した際のコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が50%以下である請求項6に記載の鉄含有輸液剤。
  8. 下記のアミノ酸の遊離型、誘導体または塩を、アミノ酸の遊離型に換算して、下記の量で含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の鉄含有輸液剤。
    イソロイシン 0.5〜6.5g/L
    ロイシン 0.5〜10.0g/L
    バリン 0.5〜7.5g/L
    リシン 0.5〜7.0g/L
    メチオニン 0.1〜3.0g/L
    フェニルアラニン 0.5〜6.0g/L
    トレオニン 0.1〜4.0g/L
    トリプトファン 0.1〜2.0g/L
    グリシン 0.1〜5.0g/L
    アラニン 0.5〜7.5g/L
    アルギニン 0.5〜8.5g/L
    ヒスチジン 0.5〜6.0g/L
    プロリン 0.5〜6.0g/L
    セリン 0.5〜4.5g/L
    チロシン 0.05〜1.0g/L
    システイン 0.05〜2.0g/L
    アスパラギン酸 0.05〜4.0g/L
    グルタミン酸 0.05〜4.0g/L
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