JP6771333B2 - 鉄含有注射用製剤 - Google Patents
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鉄代謝の特徴は、積極的な排泄経路を持たず、ほとんどの鉄が再利用される半閉鎖的回路を構築していることである。
鉄は1日に1mg程度が上部消化管から吸収されて血液中に入り、トランスフェリンと結合して全身に運搬されるが、体内で利用される鉄のほとんどは網内系による赤血球ヘモグロビン鉄の再利用によりまかなわれる。赤血球の寿命は平均120日であり、1日当たり20mgの鉄が網内系マクロファージで処理される。ヘモグロビンから取り出された鉄は、生体内で唯一の鉄輸送膜蛋白であるフェロポルチンを介して再び血液中に入り再利用される(非特許文献2)。
フェロポルチンは、網内系マクロファージ、上部小腸粘膜上皮細胞や肝細胞などに存在する鉄輸送膜蛋白であって、ヘプシジン−25の受容体である。フェロポルチンはヘプシジン−25により負の制御を受けており、フェロポルチンがヘプシジン−25と結合すると細胞内部へ移行し、ライソゾームでヘプシジン−25とともに分解される。分解により減少したフェロポルチンが新たに合成されるまでに2〜3日を要するため、その間はフェロポルチンの膜分布密度が低下し、細胞からの鉄放出量が減少する。
ヘプシジン−25は炎症や鉄負荷などにより誘導されるが、血清ヘプシジン−25が持続的に高値であると、鉄の再利用が阻害されて、赤血球合成に鉄を利用できない機能性鉄欠乏状態となり、貧血を発現することが知られている(非特許文献3)。
近年、鉄などの5種類の微量元素を配合した微量元素製剤を高カロリー輸液に混合して投与すると、高齢者ではヘプシジン−25が誘導されて鉄代謝が阻害されることが、報告されている(非特許文献4)。
成長期にあり、必要な熱量が投与され、体重が増加する状況では、ヘプシジン−25の誘導は認められないが、成長期を過ぎた、体重増加の起こらない成人や高齢者、低栄養状態の患者では、鉄、銅、亜鉛、ヨウ素およびマンガンを含有する微量元素製剤を投与すると、ヘプシジン−25を誘導して鉄代謝が阻害された状況になり易い。しかしながら、ヘプシジン−25を誘導することなく鉄分を補給することのできる鉄含有注射用製剤は、現状、知られていない。
(1) 成人患者1人に対する1日当たりの鉄の投与量が、鉄元素に換算して0.1〜0.6mgとなる量で鉄化合物を含有することを特徴とする鉄含有注射用製剤である。
そして、本発明は、
(2) 液体製剤または固体製剤である前記(1)の鉄含有注射用製剤;および、
(3) 静脈栄養用輸液剤、プレフィルドシリンジ製剤、バイアル充填製剤またはアンプル充填製剤である前記(1)または(2)の鉄含有注射用製剤;
である。
本発明の鉄含有注射用製剤は、成人患者1人に対する1日当たりの鉄の投与量が、鉄元素に換算して、0.1〜0.6mgとなる量で鉄化合物を含有する鉄含有注射用製剤であり、成人患者1人に対する1日当たりの鉄の投与量が,鉄元素に換算して、0.1〜0.5mgとなる量で鉄を含有することが好ましく、0.15〜0.45mgとなる量で鉄を含有することがより好ましく、0.20〜0.35mgとなる量で鉄を含有することがさらに好ましい。
成人患者1人に対する1日当たりの鉄の投与量が、鉄元素に換算して、0.6mgを超える量で鉄化合物を含有する鉄含有注射用製剤を投与すると、ヘプシジン−25を誘導し、鉄代謝が阻害され易くなる。一方、鉄化合物の含有量が、成人患者1人に対する1日当たりの鉄の投与量が、鉄元素に換算して、0.1mg未満となる量であると、十分な鉄補給が困難になる。
本発明の鉄含有注射用製剤は、成人患者1人に対する1日当たりの鉄の投与量が、鉄元素に換算して0.1〜0.6mgとなる量で鉄化合物を少量配合することにより、血清ヘプシジン−25を誘導することなく鉄の供給を可能にし、しかも網内系に鉄が過剰に蓄積されないため、ヒドロキシラジカルの産生を抑制して、DNAの損傷やアポトーシスの誘導を抑制することができる。
本発明の鉄含有注射用製剤の具体的な剤形としては、静脈栄養用輸液剤、プレフィルドシリンジ製剤、バイアル充填製剤、アンプル充填製剤などを挙げることができる。
鉄化合物を含有する輸液剤の処方としては、鉄化合物を含有し、更に糖、電解質、アミノ酸、ビタミン、鉄以外の微量元素のうちの2種または3種以上を組み合わせたものを挙げることができ、それらの成分は、別々の容器に分けて収容されていてもよいし、1室型の1つの容器に一緒に収容されていてもよいし、用時連通可能な隔壁によって複数の室に区分された複数室型の容器のいずれかの室に分けて収容されていてもよく、鉄化合物は、前記した成分が収容されているいずれか1つの容器または複数の容器、或いはいずれか1つの室または複数の室に配合することができる。
鉄化合物を輸液剤中に含有させるに当たっては、輸液剤中の鉄化合物の濃度は、成人患者1人に対する1日当たりの鉄の投与量が、鉄元素に換算して本発明で規定する範囲内の量となる量で鉄化合物を含有させる必要がある。例えば、成人患者1人に対する1日当たりの輸液剤の投与量が1Lである場合には、輸液剤1L中の鉄化合物の含有量は、鉄元素に換算して0.1〜0.6mgである。また、成人患者1人に対する1日当たりの輸液剤の投与量が2Lである場合には、輸液剤1L中の鉄化合物の含有量は、前記の2分の1の量、すなわち、0.05〜0.3mgである。
輸液剤の処方で用いるアミノ酸の種類としては、例えば、イソロイシン、ロイシン、バリン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、グリシン、アラニン、アルギニン、ヒスチジン、プロリン、セリン、チロジン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸などのアミノ酸を挙げることができ、特に前記したアミノ酸の全てを含有させると、輸液用のアミノ酸溶液製剤として十分な機能を有するようになる。
輸液剤中のアミノ酸の濃度は、十分な窒素量(アミノ酸)を投与するために、15〜70g/Lであることが好ましく、20〜50g/Lであることがより好ましい。
本発明の鉄含有注射用製剤が、鉄化合物を含有する静脈栄養用輸液剤である場合には、当該輸液剤の成人患者1名に対する1日当たりの投与総熱量が、600〜2000kcal、特に600〜1500kcalであることが好ましい。
本発明の鉄含有注射用製剤が、鉄化合物を含有する溶液(特に鉄化合物を含有する水溶液)をシリンジに予め収容したプレフィルドシリンジ溶液製剤である場合は、成人患者1人に対して当該プレフィルドシリンジ溶液製剤を1日当たりに使用する個数(本数)に対応して、1日当たりの鉄の投与量が鉄元素に換算して0.1〜0.6mgとなるように、シリンジ中の鉄化合物の含有量を調整する必要がある。
例えば、鉄化合物を含有する溶液を充填したプレフィルドシリンジ溶液製剤が、成人患者1人に対して1日に1個(1本)の割合で用いられるものでは、シリンジ中の鉄化合物の含有量を、鉄元素に換算して0.1〜0.6mgとなる量にする。また、鉄化合物を含有する溶液を充填したプレフィルドシリンジ溶液製剤が、成人患者1人に対して1日に2個(2本)の割合で用いられるものでは、シリンジ中の鉄化合物の含有量を、鉄元素に換算して0.05〜0.3mgとなる量にする。
また、プレフィルドシリンジ溶液製剤におけるシリンジの内容積は、取り扱い性、保管性などの点から、0.5〜20.0mLであることが好ましく、2.0〜10.0mLであることがより好ましい。
プレフィルドシリンジ製剤(溶液製剤および粉末製剤)の形態をなす本発明の鉄含有注射用製剤は、患者に輸液剤を投与する際に、シリンジ中の鉄化合物溶液を輸液中に注入混合することで、輸液と一緒に患者に投与することができる。
バイアルまたはアンプルの内容積は、取り扱い性、保管性などの点から、0.5〜20.0mLであることが好ましく、2.0〜10.0mLであることがより好ましい。
本発明の鉄含有注射用製剤が、粉末、錠剤などの固体状の鉄化合物をバイアルまたはアンプルに収容したものである場合は、バイアルまたはアンプルに必要量の溶媒(水など)を加えて鉄化合物溶液にした後に、バイアルまたはアンプル中の鉄化合物溶液を注射器などで吸い出し、それを輸液中に注入混合することで、輸液と一緒に患者に投与することができる。
本発明の鉄含有注射用製剤が、鉄化合物溶液または固体状の鉄化合物をバイアルまたはアンプル中に収容したものである場合は、鉄化合物と共に、必要に応じて、銅、マンガン、亜鉛、ヨウ素、セレンなどの微量元素の化合物の1種または2種以上を含有することができ、また必要に応じてビタミン類や、電解質類などの1種または2種以上を含有することができる。
本発明の鉄含有注射用製剤は、鉄の投与が必要な成人患者に投与され、特に体重増加の起きにくい成人、高齢者、低栄養状態の患者などへの投与に好適である。
下記の表1の実施例1の欄に示す成分組成を採用し、それを1000mLとなるように注射用水に溶解した後、0.22μmメンブランフィルターでろ過して、塩化第二鉄(六水和物)を1.183mg/L(鉄元素として0.2438mg/L)の量で含有する輸液剤をつくり、これを無菌的に輸液バッグに充填して、鉄化合物を含有する静脈栄養用輸液剤を調製した。
この実施例1で得られた静脈栄養用輸液剤中の鉄の含有量は、鉄元素に換算して、現行の鉄含有静脈栄養用輸液剤配合(高カロリー輸液剤配合)(以下の比較例3のもの)に含まれる鉄の量の4分の1である。この実施例1で得られた静脈栄養用輸液剤は、1日当たり2000mL投与するため、鉄の投与量は1日当たり鉄元素に換算して0.4876mgとなる。
下記の表1の比較例1の欄に示す鉄化合物を含まない成分組成を採用し、それを1000mLとなるように注射用水に溶解した後、0.22μmメンブランフィルターでろ過して、鉄を含まない輸液剤をつくり、これを無菌的に輸液バッグに充填して、鉄を含まない静脈栄養用輸液剤を調製した。この比較例1で得られた静脈栄養用輸液剤は、1日当たり2000mL投与する。
下記の表1の比較例2の欄に示す成分組成を採用し、それを1000mLとなるように注射用水に溶解した後、0.22μmメンブランフィルターでろ過して、塩化第二鉄(六水和物)を2.365mg/L(鉄元素として0.4875mg/L)の量で含有する輸液剤をつくり、これを無菌的に輸液バッグに充填して、鉄化合物を含有する静脈栄養用輸液剤を調製した。
この比較例2で得られた静脈栄養用輸液剤中の鉄の含有量は、鉄元素に換算して、現行の鉄含有静脈栄養用輸液剤配合(高カロリー輸液剤配合)(以下の比較例3のもの)に含まれる鉄の量の2分の1である。この比較例2で得られた静脈栄養用輸液剤は、1日当たり2000mL投与するため、鉄の投与量は1日当たり鉄元素に換算して0.9750mgとなる。
下記の表1の比較例3の欄に示す成分組成を採用し、それを1000mLとなるように注射用水に溶解した後、0.22μmメンブランフィルターでろ過して、塩化第二鉄(六水和物)を4.730mg/L(鉄元素として0.9750mg/L)の量で含有する輸液剤をつくり、これを無菌的に輸液バッグに充填して、鉄化合物を含有する静脈栄養用輸液剤を調製した。
この比較例3で得られた静脈栄養用輸液剤中の鉄の含有量は、現行の鉄含有静脈栄養用輸液剤(高カロリー輸液剤)における鉄の含有量に相当する。この比較例3で得られた静脈栄養用輸液剤は、1日当たり2000mL投与するため、鉄の投与量は1日当たり鉄元素に換算して1.950mgとなる。
なお、ラットは高カロリー輸液投与下で銅を投与しないと早期に銅が欠乏し、鉄代謝に影響を及ぼす可能性があるため、実施例1、比較例1および比較例2の銅含有量は比較例3と等しくなるように設定した。
実施例1および比較例1〜3で調製したそれぞれの静脈栄養用輸液剤を用いて、以下の動物実験を行った。
(1) 8週齢のCrl:CD(SD)系雄性ラット24匹を一夜絶食し(絶食後の体重中央値276.7g)、各群間に体重差がないように6匹ずつ第1群〜第4群の4群に分けた後、右外頸静脈にカテーテルを留置した。
(2) 無拘束下で、第1群の6匹のラットには実施例1で調製した静脈栄養輸液剤を、第2群の6匹のラットには比較例1で調製した静脈栄養輸液剤を、第3群の6匹のラットには比較例2で調製した静脈栄養輸液剤を、第4群の6匹のラットには比較例3で調製した静脈栄養輸液剤を、それぞれ3日間持続投与した。
静脈栄養輸液剤の投与量は、各群とも、245mL/ラット体重kg/day、投与総熱量は200kcal/ラット体重kg/dayとした。通常、8週齢のラットの必要総熱量は300kcal/ラット体重kg/dayであるが、体重増減のない条件とするために、投与総熱量は、通常の3分の2である前記200kcal/ラット体重kg/dayに制限した。
(3) 3日間の静脈栄養輸液剤の投与終了後にラットの体重を測定し、投与開始前の体重を基準にして体重増加率(%)を算出した。
その結果を、下記の表2に示す。
HPLC(島津UFLC)
分離カラム:セミマイクロ逆相(C8)カラム
流量:0.3mL/min
溶離条件:0.1%ギ酸水溶液および0.1%ギ酸アセトニトリル液によるグラジエント溶出
MS(ABI Sciex QTRAP 4000)
イオン化法、印加電圧:ESI、+6kV
CID:30V
MS/MS分析モード:MRM
図1において、箱の上辺は血清ヘプシジン−25の濃度の75%値、箱の内部の横線は血清ヘプシジン−25の濃度の中央値、箱の下辺は血清ヘプシジン−25の濃度の25%値、箱外部の縦軸正方向の上端は血清ヘプシジン−25の濃度の最大値、箱外部の縦軸負方向の下端は血清ヘプシジン−25の濃度の最小値を示す。
通常、8〜9週齢前後の摂食ラットの体重増加率は6〜9%であることから、投与総熱量を通常の3分の2に制限することで体重増加率が抑制されて、各群のラットは低栄養状態にあった。
一方、塩化第二鉄(六水和物)2.365mg/L(鉄元素として0.4875mg/L)を含有する比較例2の静脈栄養輸液剤を投与した第3群のラットでは、血清ヘプシジン−25の濃度の中央値は31.3ng/mL(n=6)であり、塩化第二鉄(六水和物)4.730mg/L(鉄元素として0.975mg/L)を含有する比較例3の静脈栄養輸液剤を投与した第4群のラットでは、血清ヘプシジン−25の濃度の中央値は54.4ng/mL(n=6)であり、鉄[塩化第二鉄(六水和物)]を含有しない比較例1の静脈栄養輸液剤を投与した第2群のラットに比べて、血清ヘプシジン−25の濃度の中央値は有意に高値であった。
これに対して、現行の鉄含有静脈栄養用輸液剤(高カロリー輸液剤)における鉄の含有量の2分の1よりも少ない、4分の1の鉄を含有する実施例1の静脈栄養用輸液剤を投与すると、体重増減のない条件下でも血清ヘプシジン−25の誘導を抑制し、鉄の再利用を阻害することなく鉄の補給が可能であることが分かる。
有効である。
Claims (1)
- 成人患者1人に対する1日当たりの鉄の投与量が、鉄元素に換算して0.1〜0.6mgとなる量で鉄化合物を含有し、かつ、糖、電解質、アミノ酸、ビタミンおよび鉄以外の微量元素をさらに含有し、成人の患者または低栄養状態の患者に投与される静脈栄養用輸液剤であることを特徴とする鉄含有注射用製剤。
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