図1は本発明のレンズ鏡筒1をカメラボディ2に装着した状態を前面側(被写体側)から見た正面図、図2はこのレンズ鏡筒1の一部を破断した左側面図である。このレンズ鏡筒1の周面の前面側にはフォーカス操作環73が配設されており、ユーザーがこのフォーカス操作環73をレンズ鏡筒1の光軸回りに回転(以下、単に回転と称する)操作することにより手動での焦点合せを行うことができる。前記レンズ鏡筒1の周面の後面側(像面側)にはズーム操作環63が配設されており、ユーザーがこのズーム操作環63を回転操作することによりレンズ鏡筒1の焦点距離を変化させることができる。
レンズ鏡筒1の左側面の周面の一部には、レンズ鏡筒1の光軸方向(以下、単に光軸方向と称する)の中間位置、すなわち前記フォーカス操作環73と前記ズーム操作環63との間に、手動焦点調整を不能な状態に解除するための解除機構8の解除スイッチ85が配設されている。この解除機構8の詳細については後述するが、ユーザーが解除スイッチ85をレンズ鏡筒1の周面に沿って周方向にスライド操作することにより、フォーカス操作環73での手動焦点調整(マニュアルフォーカス)を有効にする状態と、これを解除して無効にする状態を切り替えるようになっている。ここでは、下方向にスライド操作して解除状態にしたときには、フォーカス操作環73を操作しても手動焦点調整ができなくなる。
図3はレンズ鏡筒の縦断面図であり、本発明に関連の深い部材にのみハッチングを施してある。レンズ鏡筒1内には、本発明における光学要素の例として、図3の左側、すなわち被写体側から1群レンズL1、2群レンズL2、3群レンズL3、4群レンズL4、5群レンズL5が配設されている。これら1〜5の群レンズL1〜L5は、前記ズーム操作環63を回転操作したときにレンズ鏡筒1の光軸方向に移動して当該レンズ鏡筒1の焦点距離を変化させる。また、2群レンズL2はズーム時及び焦点調整時に光軸方向に移動して焦点調整を行うためのフォーカスレンズとして構成されている。
レンズ鏡筒1内の像面側寄りにはフォーカスモーター3が配設されている。このフォーカスモーター3は、例えば前記カメラボディ2に設けられている不図示の自動焦点制御装置によって回転が制御され、回転したときに前記2群レンズL2を光軸方向に移動して自動焦点調整を実行するものである。このフォーカスモーター3は自動焦点調整のためのアクチュエータの一部を構成する。ここではフォーカスモーター3としてDCモーターを採用しているが、ブラシレスDCモーター、ステッピングモーター、超音波モーター等であってもよい。
前記レンズ鏡筒1内には、前記フォーカスモーター3により駆動される自動焦点調整機構4と、前記フォーカス操作環73により駆動される手動焦点調整機構5と、これら自動焦点調整機構4と手動焦点調整機構5を連係する差動機構6が設けられている。この差動機構6により、フォーカスモーター3が回転したときに自動焦点調整機構4により2群レンズL2を自動焦点調整し、一方ではフォーカス操作環73を手操作したときに手動焦点調整機構5により2群レンズL2を手動焦点調整することが可能となる。そして、この差動機構6に付設された前記解除スイッチ85により手動焦点調整機構5と差動機構6との連係を断続させるようになっている。連係を断にした解除状態にしたときには、前記したようにフォーカス操作環73による手動焦点調整が不能になる。
前記レンズ鏡筒1は、レンズマウント90を備えた第1固定環91を備えている。この第1固定環91には第2固定環92と、その内径側の第3固定環93が連結されている。前記フォーカス操作環73と前記ズーム操作環63はこれら第2と第3の固定環92,93に支持されている。第2固定環92の内径位置には後側支持環53が連結されており、この後側支持環53の被写体側には前側支持環50が連結されている。また、これら前後の支持環50,53の連結部には第2支持環57が連結されている。
前記後側支持環53の内径位置には内径方向に向けて順次に、直進環32とズームカム環31が同心配置されている。このズームカム環31の内径位置には、3群レンズL3を保持した3群レンズ枠21と、フォーカスカム環12と、2群レンズL2を保持した2群レンズ枠11が同心配置されている。また、ズームカム環31の被写体側の内径位置には1群レンズ枠15が配設され、像面側の内径位置には4群レンズ枠16と5群レンズ枠17が配設されている。
前記ズームカム環31は内外径に貫通するカム溝31aが設けられ、前記直進還32には光軸方向に延びる縦溝32aが設けられ、3群レンズ枠21の外周に植立したローラー(カムフォロアとも言う)21aが滑合している。また、これらズームカム環31と直進環32に設けられたカム溝31bと縦溝32bには前記1群レンズ枠15に設けられたローラー15aが滑合し、同様にカム溝31cと縦溝32cには4群レンズ枠16に設けられたローラー16aが滑合している。さらに、5群レンズ枠17に設けられたローラー17aは4群レンズ枠16に設けられた縦溝16bに滑合している。
これにより、ズーム操作環63が手動操作されてズームカム環31が回転されると、1群レンズ枠15と3群レンズ枠21は光軸方向に移動し、1群レンズL1と3群レンズL3が移動する。また、このズームカム環31の回転により、3群レンズL3とともに、1群レンズ枠15と4群レンズ枠16と5群レンズ枠17が光軸方向に移動し、さらには2群レンズ枠11も連動して光軸方向に移動する。これにより、1〜5群レンズL1〜L5が移動され、レンズ鏡筒1の焦点距離が変化する。
前記3群レンズ枠21の内周面には円周溝21bが設けられており、この円周溝21bに円周配置した複数の球14をフォーカスカム環12との間で挟持することで、フォーカスカム環12を回転自在にその内部に保持している。フォーカスカム環12は内外径に貫通するカム溝12aを有している。また、3群レンズ枠21には光軸方向に延びる縦溝21cが設けられている。その上で、2群レンズ枠11の外周に設けたローラー11aが、前記カム溝12aを貫通して縦溝21cに滑合している。これにより、2群レンズ枠11の回転を規制し、光軸方向のみ移動できるようになっている。
前記フォーカスカム環12には、光軸方向の像面側に延伸するフォーカスレバー13がネジ(符号省略)で固定されている。このフォーカスレバー13は、前記差動機構6の出力を受けて回転し、この回転によりフォーカスカム環12を一体的に回転し、かつ同時にフォーカスカム環12と共に光軸方向に進退する。
図4Aは前記差動機構6を含む領域の縦断面図であり、図3の一部のみを示し、かつ要部にのみ参照符号を付してある。この差動機構6は、前記第2固定環92と前記直進環32との径方向間の領域で、かつ前記フォーカス操作環73と、図3に示した前記フォーカスモーター3との光軸方向の間の領域に配設されている。この差動機構6は、いわゆる遊星機構で構成されている。
前記後側支持環53の外径側には出力環51が配設されている。この後側支持環53の外周面には周方向の溝53aが設けられ、この溝53aに円周方向に配列した複数の球54を出力環51との間に介装することで、出力環51は後側支持環53に対して光軸方向には移動しないが、光軸回りには回転自在に保持される。
図5は前記出力環51の外観斜視図であり、図6は図4AのA−A線に沿った断面図である。出力環51には光軸方向に延びる出力レバー52がネジで固定されていて、その先端は前記フォーカスレバー13と滑合している。この滑合は、回転方向には一体で光軸方向には自由である。したがって、出力環51が回転すると出力レバー52が回転し、さらにフォーカスレバー13にその回転が伝達し、これと一体のフォーカスカム環12が回転する。このフォーカスカム環12の回転により2群レンズ枠11が光軸方向に進退して焦点調整を行うことは前記したとおりである。
また、出力環51の外周面の円周方向3箇所には、外径方向に延伸する3つの回転軸51aが等配に設けられていて、その回転軸51aには円形をした遊星コロ55が遊合している。さらに、その外径側から蓋56が出力環51にネジ固定されることで遊星コロ55の抜け止めとなっている。
図4Aに示したように、レンズ鏡筒1内には、これら3つの遊星コロ55を光軸方向に挟むように駆動ギア環61と駆動環71が配設されている。像面側の駆動ギア環61と第3固定環93との光軸方向の間には第1の付勢手段としての波ワッシャー62が介装されている。この波ワッシャー62は駆動ギア環61を被写体側に向けて付勢しており、この付勢力によって駆動ギア環61の被写体側の摺動面61aが遊星コロ55の像面側の周面に圧接されている。
また、前記駆動ギア環61の像面側の端縁には内歯車61bが設けられており、この内歯車61bには、前記フォーカスモーター3が不図示のギア機構を介して連結されている。これにより、駆動ギア環61はフォーカスモーター3が回転したときに、これに連動して回転する。駆動ギア環61は、この回転により圧接されている遊星コロ55を回転させて出力環51を回転させ、さらにはフォーカスカム環12を回転させて2群レンズL2による焦点調整を行うので、前記自動焦点調整機構4の一部を構成することになる。また、この駆動ギア環61は差動機構6の1つの入力部を構成しており、前記した遊星機構の第2の太陽車を構成する。
前記遊星コロ55を被写体側から挟む前記駆動環71は、像面側の端面が摺動面71aとして構成され、この摺動面71aは前記遊星コロ55に光軸方向に対向されている。また、詳細については図7及び図8を参照して後述するが、駆動環71の光軸方向の中間部位に設けられた光軸回りの円環状をした段差面71dと、これに光軸方向に対向する前記前側支持環50の円環状をした段差面50aとの光軸方向の間に第2の付勢手段72が配設されている。この第2の付勢手段72は駆動環71を光軸方向の像面側に付勢しており、この付勢力により前記摺動面71aは前記遊星コロ55の被写体側の周面に圧接されている。
前記駆動環71の被写体側の外周には、円周方向の複数箇所にローラー71bが外径方向に植立されていて、これらローラー71bは前記フォーカス操作環73の内周面に設けられている複数の光軸方向の縦溝73aにそれぞれ滑合している。これにより、駆動環71はフォーカス操作環73に対して光軸方向に相対移動可能であるが、ユーザーがフォーカス操作環73を回転操作すると、縦溝73aとローラー71bとの滑合によって駆動環71が回転される。前記摺動面71aが前記遊星コロ55に圧接されているときには、駆動環71の回転により遊星コロ55を回転させて出力環51を回転させ、さらにはフォーカスカム環12を回転させて2群レンズL2による焦点調整を行うので、前記手動焦点調整機構5の一部を構成することになる。
この差動機構6の動作について説明する。図4Aにおいて、自動焦点調整時に、フォーカスモーター3が駆動されると、駆動ギア環61が回転され、その摺動面61aに圧接している遊星コロ55に駆動力が伝達される。遊星コロ55は出力環51の回転軸51a周りに回転する。このとき被写体側にある駆動環71は第1波ワッシャー72との間で発生する摩擦トルクにより回転せずに静止している。よって、遊星コロ55は回転軸51aの周りに自転しながら、出力環51は光軸回りに回転する。このとき出力環51は駆動ギア環61の略半分の回転量で回転することになる。
一方、ユーザーがフォーカス操作環73を操作すると駆動環71が回転され、その摺動面71aに圧接されている遊星コロ55に駆動力が伝達されて、遊星コロ55は出力環51の回転軸51a周りに回転する。このとき像面側にある駆動ギア環61は第2波ワッシャー62との間で発生する摩擦トルクにより回転せずに静止している。よって遊星コロ55は回転軸51aの周りに回転し、出力環51は光軸回りに回転する。
以上のようにして出力環51が回転すると、前記したように出力環51と一体の出力レバー52が回転し、さらにフォーカスレバー13にその回転が伝達し、これと一体のフォーカスカム環12が回転する。このフォーカスカム環12の回転により2群レンズ枠11が光軸方向に進退して焦点調整を行うことになる。
図7は前記第2の付勢手段72の実施形態1を拡大して示す要部断面図であり、図8はその概略斜視図である。前記前側支持環50の段差面50aには円周方向の複数箇所、ここでは円周方向に等配した3箇所にそれぞれ光軸方向の孔50bが開口されており、この孔50bには支持ピン74が光軸方向から内挿されている。この支持ピン74は、被写体側に向けられた基端側の部位が前記孔50bに圧入され、先端側の部位の外周には圧縮コイルバネ75が嵌装されている。この圧縮コイルバネ75は支持ピン74の光軸方向の長さよりも長いバネ長の状態で伸縮されるように設計されている。
前記圧縮コイルバネ75と前記駆動環71の段差面71dとの間には円環状をした潤滑ワッシャー76が介装されている。この潤滑ワッシャー76は被写体側に向けられた面に前記圧縮コイルバネ75が当接されており、この圧縮コイルバネ75の付勢力により像面側に向けられた面は前記段差面71dに当接されている。この潤滑ワッシャー76は摩擦係数の小さい材料で形成されることが好ましく、少なくとも前記段差面71dに当接される面の潤滑性が高められている。
前記潤滑ワッシャー76の内周縁には、円周方向に等配した3箇所にそれぞれ内径方向に突出したキー76aが一体に設けられている。また、前記前側支持環50の周面には、前記キー76aに対応する円周位置にそれぞれ光軸方向に延びるキー溝50cが内径方向に凹設されている。図7と図8ではそのうちの一つのキー76aとキー溝50cが図示されている。各キー溝50cには潤滑ワッシャー76の各キー76aが係合されており、これにより潤滑ワッシャー76は前側支持環50に対して光軸方向には移動可能であるが回転方向には一体化されている。
図4Aに示したように、手動焦点調整手段5が差動機構6に接続しているときには、フォーカス操作環73を操作することにより駆動環71が回転して出力環51を回転する。潤滑ワッシャー76は駆動環71の段差面71dに付勢力、すなわち圧縮コイルバネ75のバネ力により当接されているので、駆動環71は潤滑ワッシャー76に接触しながら回転される。すなわち、第2の付勢手段72は駆動環71の段差面71dと前側支持環50の段差面50aとの間に介装されたスラスト滑り軸受として構成される。第2の付勢手段72によって駆動環71が光軸方向の像面側に付勢されると、摺動面71aが遊星コロ55に当接される。これにより、手動焦点調整を行う際にフォーカス操作環73を回転操作すると、駆動環71は摺動面71aが遊星コロ55に当接した状態で回転することになり、前記したように差動機構6が動作され、手動焦点調整が行われる。
このとき、駆動環71の段差面71dは円周方向の全周において潤滑ワッシャー76に接触した状態で回転されるので、波ワッシャーのように両者が円周方向の離散的な箇所で接触されることはなく、かつ潤滑ワッシャー76の潤滑性によって円滑に回転される。したがって、手動焦点調整時に駆動環71を回転操作させたときに振動等が生じることはなく、フォーカス操作環73の操作も円滑なものとなり、操作性が改善される。
ここで、図4Aに示した状態では、自動焦点調整と手動焦点調整が共に可能である。そのため、自動焦点調整により焦点調整したときに、ユーザーがフォーカス操作環73を操作すると、差動機構6を介して出力環51が回転してしまい、焦点位置がずれてしまうことがある。実施形態におけるレンズ鏡筒1では、これを解消するための解除機構8が設けられている。この解除機構8について説明する。
図9は解除機構8の部分分解斜視図であり、前記駆動環71の外径位置に円環状をした解除部材81が配設され、これを光軸方向に挟むように像面側に解除切換環82が配設され、被写体側に押え環84が配設されている。なお、解除切換環82は前記出力環51の周囲を囲む光軸位置に配設されている。
前記解除切換環82は第2固定環92の内径位置において回転可能に保持されている。この解除切換環82が解除部材81と対向する面、すなわち軸方向の被写体側の面には円周方向に複数個(ここでは6個)の解除カム82aが形成されている。また、解除切換環82には後方に延伸する係合キー82bが設けられており、前記解除スイッチ85を支持している後述する解除スイッチ取付部材86の係合溝86aに係合している。これにより解除切換環82は解除スイッチ85に連結され、ユーザーが解除スイッチ85を円周方向に操作すると、これに連動して解除切換環82は光軸回りに回転する。
前記解除部材81は外周面に円周方向の3箇所に光軸方向に向けられた直進キー81aが設けられ、前記第2固定環92の内周面に設けられた縦溝92aに滑合していて、第2固定環92の内部において光軸回りの回転を規制されて直進可能に保持されている。また、解除部材81には前記解除切換環82の解除カム82aと光軸方向に対向する係合突起81bが設けられている。さらに、解除部材81の光軸方向の被写体側の面には全周にわたって、前記駆動環71に設けられて光軸方向の像面側に向けられた段差面(前記段差面71dとは別の像面側に向けられた段差面、符号省略)に対向するようにリブ81cが形成されている。
前記押え環84は第2固定環92の前側部位にネジ等で固定されている。これら押え環84と解除部材81との間には円周方向の複数箇所において複数個(実施形態では6個)の圧縮コイルバネ83が介装されており、これらのバネ力によって解除部材81を光軸方向の像面側に向けて付勢している。この付勢により、解除部材81の係合突起81bは解除切換環82の解除カム82aに当接し、解除切換環82を付勢する。解除切換環82は解除部材81と第2固定環92の内周面に複数個設けられた押さえリブ92bとの間で保持されることになる。
前記解除スイッチ85は前記したように、ユーザーが解除スイッチ85をレンズ鏡筒1の周面に沿ってスライド操作することが可能となっており、前記した解除スイッチ取付部材86に支持されている。この解除スイッチ取付部材86には、導電ブラシ87、板バネ88が取り付けられている。この導電ブラシ87はレンズ鏡筒内に配設されている不図示のフレキシブルプリント基板に電気的に接触され、解除スイッチ85の回転位置を検出する。図6に示すように、板バネ88はユーザーが操作スイッチ85を操作した際にスイッチの切り替わりを伝えるためのものであり、先端の曲げ部88aが第2固定環92の内周面に形成された谷部92c,92dに入り込むことでユーザーにクリック感としてスイッチの切り替わりを伝える。
次に解除機構8の動作について説明する。図10は解除スイッチ85と解除切換環82と押え環84の各一部を模式的に示す図であり、レンズ鏡筒の上方側から解除機構8を仮想的に見た図である。図10と図4A及び図4Bを参照して説明する。ユーザーが解除スイッチ85を操作して図6に示す状態、すなわちレンズ鏡筒の上側にスライド操作されているときには、板バネ88の曲げ部88aが谷部92cの位置にあり手動焦点調整が可能な状態となる。このとき、導電ブラシ87によってこの操作位置を検出することが可能である。
すなわち、図10(a)のように、解除スイッチ85が手動焦点調整が可能な位置に操作されると、解除切換環82は、解除カム82aと係合突起81bが当接しない位置まで回転される。そのため、解除部材81は圧縮コイルバネ83の付勢力により像面側に移動され、解除部材81のリブ81cは駆動環71の段差面から離間される。したがって、図4Aに示したように、駆動環71は第2付勢手段72の付勢力によって駆動環71の摺動面71aが遊星コロ55に圧接される。よって、ユーザーがフォーカス操作環73を操作すると出力環51が回転して手動にて焦点調整を行うことができる。
一方、図6において、解除スイッチ85が図示の位置から時計方向、すなわちレンズ鏡筒の下方に向けてスライド操作され、板バネ88の曲げ部88aが谷部92dの位置になると、手動焦点調整が解除された状態となる。図10(b)のように、解除スイッチ85が手動焦点調整を解除する位置に操作されると、解除切換環82は解除カム82aと係合突起81bが当接する位置に回転される。そのため、図4Bに示すように、解除部材81は圧縮コイルバネ83の付勢力に抗して被写体側に移動され、解除部材81のリブ81cは駆動環71の段差面(前記段差面71dとは別の段差面)に当接する。これにより、駆動環71は第2付勢手段72の付勢力に抗して被写体側に移動され、駆動環71の摺動面71aは遊星コロ55から離間される。このときには、駆動環71と共に潤滑ワッシャー76は圧縮コイルバネ75を撓めながら移動される。よって、ユーザーがフォーカス操作環73を操作しても出力環51が回転することはなく、手動焦点調整を行うことができなくなる。
なお、導電ブラシ87により解除スイッチ85が解除位置まで操作されたことを検出したときに、説明を省略した制御回路においてフォーカスモーター3への通電を遮断して自動焦点調整による焦点調整を禁止する。
図11は第2の付勢手段72の実施形態2の要部断面図である。実施形態1の構成では、潤滑ワッシャー76のキー76aと前側支持環50のキー溝50cとの間に円周方向のガタがあると、手動焦点調整時に潤滑ワッシャー76が駆動環71の回転によって周方向に微小振動し、これがフォーカス操作環73を操作する際に、その操作性に微妙な影響を与えることが考えられる。また、微小振動に伴う異音が発生することも考えられる。実施形態2では、潤滑ワッシャー76の円周方向のガタを解消するために、実施形態1のキー76aとキー溝50cに代えた構成を採用している。
図11において、実施形態1と等価な部分には同一符号を付してある。前記前側支持環50の段差面50aには、実施形態1と同様に円周を等配した3箇所に光軸方向の孔50bが開口されており、この孔50bには係止ピン74が孔50b内で光軸方向に滑動できる状態に内挿されている。この係止ピン74は軸部74bと、この軸部74bの先端に太径の円錐台形状をした頭部74aを有しており、当該軸部74bが孔50bに内挿される。また、軸部74bには前記段差面50aと頭部74aとの間に圧縮コイルバネ75が撓められた状態で嵌装されている。なお、この係止ピン74は実施形態1の支持ピン74に対応するものであるが、後述するように潤滑ワッシャー76のガタを解消するための係止を行うので、ここでは係止ピンと称している。
一方、潤滑ワッシャー76は実施形態1と同様に円環状に形成されているが、その円周方向の複数箇所、すなわち前記係止ピン74に対応する円周方向の3箇所には、前記係止ピン74の頭部74aの外径よりも小径であるが、当該頭部74aの先端面の径寸法よりは大径の穴76bが板厚方向に貫通して開口されている。この穴76bには圧縮コイルバネ75の付勢力によって係止ピン74の頭部74aの先端部が光軸方向から密接状態に係合されている。
実施形態2によれば、圧縮コイルバネ75の付勢力によって係止ピン74は頭部側、すなわち像面側に向けて光軸方向に付勢される。また、係止ピン74の頭部74aに係合している潤滑ワッシャー76も像面側に付勢される。これにより、潤滑ワッシャー76が駆動環71の段差面71dに当接され、駆動環71は潤滑ワッシャー76に当接された状態で回転されることになり、第2の付勢手段72は駆動環71の段差面71dと前側支持環50の段差面50aとの間に介装されたスラスト滑り軸受として構成される。
したがって、実施形態1と同様に、駆動環71は第2の付勢手段72によって光軸方向の像面側に付勢され、摺動面71aが遊星コロ55に当接される。手動焦点調整を行う際に、フォーカス操作環73が回転操作されるときには、前記したように駆動環71の摺動面71aが遊星コロ55に当接して差動機構6を動作させ、手動焦点調整が実行される。また、駆動環71の段差面71dは円周方向の全周において潤滑ワッシャー76に接触した状態で回転されるので、潤滑ワッシャー76の潤滑性によって円滑に回転され、手動焦点調整時に駆動環71を回転操作させるフォーカス操作環73の操作も円滑なものとなり、操作性が改善される。手動焦点調整の解除時には、実施形態1と同様に、駆動環71と潤滑ワッシャー76、さらに支持ピン74は一体となって圧縮コイルバネ75を撓めながら光軸方向に移動される。
係止ピン74は前側支持環50の孔50bに内挿されて回転方向に固定されており、係止ピン74の頭部74aは潤滑ワッシャー76の穴76bに密接状態に係合していることにより、潤滑ワッシャー76は係止ピン74とともに前側支持環50に対して回転方向に一体的に支持される。これにより、駆動環71が回転したときに、駆動環71と潤滑ワッシャー76の接触面における摩擦によっても潤滑ワッシャー76が回転方向に移動されることはない。また、潤滑ワッシャー76と駆動環71の段差面71dとの接触面は均一な平面であり、かつ両者の接触面での潤滑性が高められていることにより、駆動環71は円滑に回転する。これにより、フォーカス操作環73に振動が生じることはなく、フォーカス操作環を手動操作する際の操作性が改善される。
なお、特許文献2に記載の構成、特にカムピンとカム溝との光軸方向のガタを解消するためのコイルバネとテーパー面を利用した構成をこの種のガタ防止に採用することが考えられるが、特許文献2の技術はカムピンを備えた移動筒と、カム溝を備えたカム筒が相対移動する際のガタを解消する技術であって、この実施形態2のように、固定すべき部材、すなわち潤滑ワッシャーにおけるガタを解消する技術にそのまま適用することはできない。また、ガタの方向も特許文献2は光軸方向であるのに対し、実施形態2は周方向のガタを改善するものであり、この点からも特許文献1と2の技術から実施形態2の構成が得られることはない。
図13は実施形態2A(実施形態2の変形例)の要部断面図であり、この実施形態2Aは実施形態2の係止ピン74の光軸方向の向きを反対にし、その頭部74aと前側支持環50の段差面50aとの間に潤滑ワッシャー76を介装した構成とされている。なお、実施形態2の各部と等価な部分には同一符号を付してある。ここでは駆動環71の段差面71dに孔71cが開口され、ここに係止ピン74の軸部74bが光軸方向に滑動可能に内挿されている。当該軸部74bには圧縮コイルバネ75が嵌装されており、係止ピン74を光軸方向の被写体側に向けて付勢している。また、潤滑ワッシャー76はこの係止ピン74の頭部74aと前側支持環50の段差面50aとの間に介装されており、当該潤滑ワッシャー76に開口された穴76bには当該係止ピン74の円錐台形状の頭部74aが係合されている。
この実施形態2Aでは、圧縮コイルバネ75の付勢力によって係止ピン74は被写体側に向けて付勢され、係止ピン74の頭部74aに係合している潤滑ワッシャー76も被写体側に付勢される。これにより、潤滑ワッシャー76は前側支持環50の段差面50aに当接される。したがって、駆動環71は潤滑ワッシャー76と共に前側支持環50に対して回転されることになり、第2の付勢手段72は前側支持環50の段差面50aと駆動環71の段差面71dとの間に介装されたスラスト滑り軸受として構成される。
実施形態2Aにおいて、手動焦点調整時にフォーカス操作環73が回転操作されることにより駆動環71が回転され、差動機構6によって手動焦点調整が実行されることは実施形態2と同じである。また、駆動環71は、段差面71dの全周において潤滑ワッシャー76に接触した状態で回転されるので、潤滑ワッシャー76の潤滑性によって円滑に回転され、手動焦点調整時に駆動環71を回転操作させるフォーカス操作環73の操作も円滑なものとなり、操作性が改善される。
手動焦点調整の解除時には駆動環71は被写体側に向けて移動されるが、このときには駆動環71は圧縮コイルバネ75を撓めながら孔71cの内面が支持ピン74の軸部74bに沿って滑動する。これにより、解除動作に支障が生じることはない。
図14は実施形態3の要部断面図であり、実施形態2と等価な部分には同一符号を付してある。この実施形態3は実施形態2の変形例とも言えるものであり、実施形態3における係止ピン74は全長にわたって均一な径寸法に形成されており、頭部74aは光軸方向の像面側に向けられている。また、前側支持環50の段差面50aに開口された孔50bの内径寸法は、当該係止ピン74の径寸法にほぼ等しい径寸法に増大されている。係止ピン74は頭部74aと反対側の底端面に頭部側に向けて有底穴(盲穴)74cが開口されており、この有底穴74c内に圧縮コイルバネ75が内装されている。係止ピン74の頭部74aが円錐台の形状に形成されて潤滑ワッシャー76の穴76bに係合される構成は実施形態2と同じである。
実施形態3では、実施形態2と同様に、圧縮コイルバネ75の付勢力によって係止ピン74は像面側に向けて光軸方向に付勢される。また、係止ピン74の頭部74aに係合している潤滑ワッシャー76も像面側に付勢される。これにより、潤滑ワッシャー76が駆動環71の段差面71dに当接され、駆動環71は潤滑ワッシャー76に当接された状態で回転されることになり、第2の付勢手段72は駆動環71の段差面71dと前側支持環50の段差面50aとの間に介装されたスラスト滑り軸受として構成される。
手動焦点調整を行う際に、フォーカス操作環73が回転操作されるときには、駆動環71の摺動面71aが遊星コロ55に当接して差動機構6を動作させ、手動焦点調整が実行される。駆動環71の段差面71dは円周方向の全周において潤滑ワッシャー76に接触した状態で回転されるので、潤滑ワッシャー76の潤滑性によって円滑に回転され、手動焦点調整時に駆動環71を回転操作させるフォーカス操作環73の操作も円滑なものとなり、操作性が改善される。手動焦点調整の解除時には、実施形態1と同様に、駆動環71と潤滑ワッシャー76、さらに支持ピン74は一体となって圧縮コイルバネ75を撓めながら光軸方向に移動される。
また、実施形態3では、係止ピン74の長さ方向の大部分が前側支持環50の孔50b内に埋設され、かつ係止ピン74の有底穴74c内に圧縮コイルバネ75が内装された構造であるので、係止ピン74と圧縮コイルバネ75が占める光軸方向の寸法を低減することができる。すなわち、前側支持環50の段差面50aと、駆動環71の段差面71dの光軸方向の対向間隔寸法を、図7に示した実施形態1の対向間隔寸法L1や、図11に示した実施形態2の対向間隔寸法L2に対して、図14の対向間隔寸法L3のように低減することができ、光軸長を低減した小型のレンズ鏡筒が構成できる。
図15は実施形態3A(実施形態3の変形例)の要部断面図であり、実施形態3と等価な部分には同一符号を付してある。この実施形態3Aは実施形態3の構成を光軸方向に反対向きに構成したものである。すなわち、駆動環71の段差面71dに係止ピン74の径寸法にほぼ等しい径寸法の孔71cが開口されている。係止ピン74は像面側の部分が当該孔71c内に内挿されている。また、係止ピン74の底端面には頭部側に向けて有底穴74cが開口されており、この有底穴74c内に圧縮コイルバネ75が内装されている。係止ピン74の頭部74aが円錐台の形状に形成されて潤滑ワッシャー76の穴76bに係合される構成は実施形態3と同じである。
実施形態3Aでは、係止ピン74は有底穴71cに内装されている圧縮コイルバネ75によって被写体側に付勢され、さらに潤滑ワッシャー76も被写体側に付勢され、前側支持環50の段差面50aに当接されている。これにより、実施形態3と同等なスラスト滑り軸受構造の第2の付勢手段72が構成されることになり、手動焦点調整時に駆動環71を回転操作させるフォーカス操作環73の操作も円滑なものとなり、操作性が改善される。解除時における各部の動作については実施形態2Aとほぼ同じである。
実施形態3Aでも、係止ピンの長さ方向の大部分が前側支持環の孔内に埋設され、かつ係止ピンの内部の有底穴にコイルバネが内装された構造であるので、実施形態3の図14に示した対向間隔寸法L3に低減することができ、光軸長を低減した小型のレンズ鏡筒が構成できる。
図16は実施形態4の要部断面図である。この実施形態4は第2の付勢手段72にスラスト転がり軸受を用いた構成である。実施形態1と等価な部分には同一符号を付してある。前側支持環50の段差面50aには円周方向の複数箇所、例えば実施形態1と同様に3箇所にそれぞれ光軸方向に孔50bが開口され、この孔50bには像面側から支持ピン74の基端側の部位が内挿されている。また、支持ピン74の先端側の部位の外周には、それよりも大径の圧縮コイルバネ75が嵌装されている。この圧縮コイルバネ75は支持ピン74の光軸方向の長さよりも長いバネ長の状態で伸縮されるように設計されている。
前記圧縮コイルバネ74の像面側の先端と、駆動環71の段差面71dとの間にはスラスト転がり軸受77が介装されている。このスラスト転がり軸受けは、光軸方向に対向配置された一対の軌道盤77a,77bと、これら軌道盤77a,77bに挟まれて円周方向に配列された複数の転動玉77cとで構成されており、汎用のスラスト玉軸受が使用可能である。そして、像面側の軌道盤77aは駆動71の段差面71dに固定され、あるいはある程度の摩擦力によって円周方向に一体化される程度に当接されている。反対側の軌道盤77bには光軸方向の凹部(符号省略)が設けられ、この凹部に前記圧縮コイルバネ75の先端部が嵌入状態で当接されている。
実施形態4では、スラスト玉軸受77は圧縮コイルバネ75によって像面側に付勢され、駆動環71の段差面71dに一体化され、あるいは当接されている。これにより、駆動環71は圧縮コイルバネ75によって光軸方向の像面側に付勢され、前記したように摺動面71aが遊星コロ55に当接される。手動焦点調整を行う際に、フォーカス操作環73が回転操作されるときには、駆動環71の摺動面71aが遊星コロ55に当接して差動機構6を動作させ、手動焦点調整が実行される。
手動焦点調整時に駆動環71が前側支持環50に対して回転されるが、スラスト玉軸受77は、転がり摩擦で動作する軸受であるので、駆動環71は実施形態1〜3の滑り軸受に比較して小さい力で回転され、かつ円滑な回転が可能となり、手動焦点調整時に駆動環71を回転操作させるフォーカス操作環73の操作は軽快でかつ極めて円滑なものとなり、操作性が改善される。
図17は実施形態4A(実施形態4の変形例)の要部断面図であり、実施形態4と等価な部分には同一符号を付してある。この実施形態4Aは実施形態4の構成を光軸方向に反対向きに構成したものである。駆動環71の段差面71dに孔71cを設けて支持ピン74を内挿し、これに圧縮コイルバネ75を嵌装している。また、この圧縮コイルバネ75の被写体側に向けられている先端部と、前側支持環50の段差面50aとの間にスラスト玉軸受77を介装している。このスラスト玉軸受77と、前側支持環50の段差面50aとの当接構造、及び圧縮コイルバネ75との当接構造は実施形態4と同様に適宜に構成できる。
実施形態4Aでは、スラスト玉軸受77は圧縮コイルバネ75によって被写体側に付勢され、前側支持環50の段差面50aに一体化され、あるいは当接されている。また、駆動環71は圧縮コイルバネ75によって光軸方向の像面側に付勢され、前記したように摺動面71aが遊星コロ55に当接される。手動焦点調整を行う際に、フォーカス操作環73が回転操作されるときには、駆動環71の摺動面71aが遊星コロ55に当接して差動機構6を動作させ、手動焦点調整が実行される。
実施形態4Aにおいても実施形態4と同様に、手動焦点調整時に駆動環71が前側支持環50に対して回転されるが、スラスト玉軸受77は、転がり摩擦の軸受であるので、滑り軸受に比較して小さい力で回転され、かつ円滑な回転が可能であるので、手動焦点調整時に駆動環71を回転操作させるフォーカス操作環73の操作は軽快でかつ極めて円滑なものとなり、操作性が改善される。
ここで、実施形態4と実施形態4Aにおいては、図示は省略するが、支持ピンを省略するとともに、コイルバネの基端部の一部を駆動環あるいは前側支持環の段差面に設けた孔に埋設した状態に配設してもよい。孔から露呈されているコイルバネの先端部をスラスト玉軸受に当接させる構造とすることで、スラスト玉軸受を配設したときに、実施形態1〜3のスラスト滑り軸受を用いた構造に比較してスラスト玉軸受の光軸方向の寸法が増大することによるレンズ鏡筒の光軸方向の長さが増大することを抑制することができる。
なお、本発明におけるスラスト軸受は、実施形態1〜3に記載したスラスト滑り軸受や、実施形態4に記載したスラスト転がり軸受に限られるものではなく、種々の軸受を利用することができる。
また、第2の付勢手段に用いるバネは、実施形態1〜4に記載したコイルバネに限定されるものではなく、他のバネの利用も可能である。例えば、波ワッシャーを利用することも可能である。
本発明は以上説明した交換レンズ等のレンズ鏡筒に限られるものではなく、カメラボディに一体化されたレンズ鏡筒にも適用できる。また、静止画撮影用カメラのレンズ鏡筒に限られるものではなく、動画撮影用カメラのレンズ鏡筒、さらにデジタル撮像装置用のレンズ鏡筒にも適用できる。さらに、本発明は、このレンズ鏡筒を交換レンズとして、あるいは、装置本体に一体的に組み込んだカメラあるいは動画撮影用の撮像装置として構成された形態を含むものであることは言うまでもない。