本発明の環状水素化シランは、下記式(1)で表され、不純物であるハロゲン元素の含有量は、質量基準で100ppm以下(0ppmを含む)である。下記式(1)において、nは3〜8である。ハロゲン元素含有量を上記範囲に低減することで、環状水素化シランの保存安定性を改善できる。また、環状水素化シランは、例えばステンレス製容器に保管され、半導体等の原料として用いられるが、環状水素化シランにハロゲン元素が含まれると、保管容器や半導体素子が腐食したり、半導体膜の電気特性(例えば、移動度など)が劣化する。しかし、ハロゲン元素含有量を上記範囲に低減することで、環状水素化シランを、例えばステンレス製容器に保管したり、半導体等の原料として用いても、腐食しにくくなるため、耐容器腐食性や半導体膜の電気特性を改善できる。
(SiH2)n ・・・(1)
上記ハロゲン元素とは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素であり、特に、塩素である。
上記環状水素化シランは、上記式(1)におけるnが3〜8であり、具体的には、シクロトリシラン、シクロテトラシラン、シクロペンタシラン、シクロヘキサシラン、シクロヘプタシラン、シクロオクタシランなどの枝分れシリル基を有さない環状水素化シラン、シリルシクロトリシラン、シリルシクロテトラシラン、シリルシクロペンタシラン、シリルシクロヘキサシラン、シリルシクロヘプタシランなどの枝分れシリル基を有する環状水素化シランが挙げられ、枝別れシリル基を有さない環状水素化シランが好ましい。上記環状水素化シランの中でも、上記式(1)におけるnが6のシクロヘキサシランが有用である。
上記環状水素化シラン中、ハロゲン元素含有量は、質量基準で、好ましくは50ppm以下、より好ましくは30ppm以下、特に好ましくは20ppm以下である。下限は、質量基準で、0ppbが最も好ましいが、1ppb程度、または3ppb程度であってもよい。
本発明の環状水素化シランの純度は、例えば、95%以上であることが好ましく、より好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上である。上記環状水素化シランの純度は、例えば、ガスクロマトグラフを用いて測定できる。
本発明の環状水素化シランは、種々の方法で得られた環状水素化シランから適切な方法でハロゲン元素含有量を低減することによって得ることができる。ハロゲン元素含有量が低減される前の環状水素化シラン自体の製造方法は特に限定されず、公知の種々の製造方法が採用できるが、好適にはハロシランを環化して、得られた環状ハロシランを還元する方法が採用される。
上記ハロシラン(ハロゲン化シラン)としては、例えば、ジクロロシラン、ジブロモシラン、ジヨードシラン、ジフルオロシラン等のジハロシラン;トリクロロシラン、トリブロモシラン、トリヨードシラン、トリフルオロシラン等のトリハロシラン;テトラクロロシラン、テトラブロモシラン、テトラヨードシラン、テトラフルオロシラン等のテトラハロシラン;等を用いることができる。これらの中でも好ましくはトリハロシランであり、特に好ましくはトリクロロシランである。
上記ハロシランを環化する方法は特に制限されないが、例えば、下記(A)または(B)の方法が好ましい。
(A)ハロシラン(ハロゲン化モノシラン)と、ホスホニウム塩および/またはアンモニウム塩とを接触させる工程を含み、環状ハロシランの塩を得る方法[以下、方法Aという場合がある]。
(B)ハロシランと、下記(I)および(II)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物とを接触させる工程を含み、環状ハロシラン中性錯体を得る方法[以下、方法Bという場合がある]。
(I)XRnとして表される化合物[以下、化合物Iという場合がある]。XがPまたはP=Oのときはn=3であり、Rは同一または異なって置換または無置換のアルキル基またはアリール基を表す。XがS、S=O、Oのときはn=2であり、Rは同一または異なって置換または無置換のアルキル基またはアリール基を表す。XがCNのときはn=1であり、Rは置換または無置換のアルキル基またはアリール基を表す。但し、XRn中のアミノ基の数は0または1である。
(II)環中に非共有電子対を有するN、O、SまたはPを含む置換または無置換の複素環化合物からなる群より選択される少なくとも1種の複素環化合物[以下、化合物IIという場合がある]。但し、複素環化合物が有する置換基としての第3級アミノ基の数は0または1である。
まず、上記方法Aについて説明する。
上記ホスホニウム塩は、第4級ホスホニウム塩であることが好ましく、下記式(11)で表される塩が好ましく挙げられる。下記式(11)において、R1〜R4は各々異なっていてもよいが、全て同じ基であることが好ましい。
また、上記アンモニウム塩は、第4級アンモニウム塩であることが好ましく、下記式(12)で表される塩が好ましく挙げられる。下記式(12)において、R5〜R8は各々異なっていてもよいが、全て同じ基であることが好ましい。
上記式(11)、上記式(12)において、R1〜R4およびR5〜R8は各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基を表し、A-は1価のアニオンを示す。
上記R1〜R4およびR5〜R8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロへキシル基等の炭素数1〜16のアルキル基が好ましく挙げられ、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましい。
上記R1〜R4およびR5〜R8のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜18のアリール基が好ましく挙げられ、炭素数6〜12のアリール基がより好ましい。
上記R1〜R4およびR5〜R8は、アルキル基またはアリール基であることが好ましく、アリール基がより好ましい。R1〜R4およびR5〜R8がアリール基であれば、後述するように、環状ハロシランの塩を製造する際に、環状ハロシランの塩が反応液中で沈殿生成して、環状ハロシランの塩を高純度で得ることが容易になる。また、同様の理由から、アンモニウム塩よりもホスホニウム塩を用いる方が好ましい。
上記式(11)、式(12)において、A-で示される1価のアニオンとしては、ハロゲン化物イオン(例えば、Cl-、Br-、I-等)、ボレートイオン(例えば、BF4-)、リン系アニオン(例えば、PF6-)等が挙げられる。これらの中でも入手の容易さの点からハロゲン化イオンが好ましく、より好ましくはCl-、Br-、I-、特に好ましくはCl-、Br-である。
上記ホスホニウム塩とアンモニウム塩は、どちらか一方のみ用いてもよく、両方用いてもよい。ホスホニウム塩は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。アンモニウム塩は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記ホスホニウム塩および/またはアンモニウム塩の使用量(2種以上を用いる場合はその合計使用量)は、ハロシラン1molに対して、好ましくは0.01mol以上、より好ましくは0.05mol以上、さらに好ましくは0.08mol以上、また好ましくは1.0mol以下、より好ましくは0.7mol以下、さらに好ましくは0.5mol以下である。ホスホニウム塩および/またはアンモニウム塩の使用量が上記範囲であると、環状ハロシランの塩の収率が向上する傾向にある。
上記方法Aは、ポリエーテル、ポリチオエーテル、多座ホスフィン等のキレート型配位子の存在下で行うことが好ましい。環化カップリング反応をキレート型配位子の存在下で行うことにより、環状ハロシランの塩を効率良く製造できる。また、用いるキレート型配位子の種類を適宜選択することにより、得られる環状ハロシラン中の水素数や組成比を調整できる。
上記ポリエーテルとしては、例えば、1,1−ジメトキシエタン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジプロポキシエタン、1,2−ジイソプロポキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、1,2−ジフェノキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、1,3−ジエトキシプロパン、1,3−ジプロポキシプロパン、1,3−ジイソプロポキシプロパン、1,3−ジブトキシプロパン、1,3−ジフェノキシプロパン、1,4−ジメトキシブタン、1,4−ジエトキシブタン、1,4−ジプロポキシブタン、1,4−ジイソプロポキシブタン、1,4−ジブトキシブタン、1,4−ジフェノキシブタン等のジアルコキシアルカン類が挙げられる。これらの中でも、特に好ましくは1,2−ジメトキシエタンが挙げられる。
上記ポリチオエーテルとしては、前記例示したポリエーテルの酸素原子を硫黄原子に置換したものが挙げられる。
上記多座ホスフィンとしては、例えば、1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジエチルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジプロピルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジブチルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3−ビス(ジメチルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジエチルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジプロピルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジブチルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジメチルホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ジエチルホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ジプロピルホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ジブチルホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン等のビス(ジアルキルホスフィノ)アルカン類やビス(ジアリールホスフィノ)アルカン類が挙げられる。これらの中でも、特に好ましくは1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンが挙げられる。
上記キレート型配位子の使用量は適宜設定すればよいが、例えば、ハロシラン1molに対して、好ましくは0.01mol以上、より好ましくは0.05mol以上、さらに好ましくは0.1mol以上、また好ましくは50mol以下、より好ましくは40mol以下、さらに好ましくは30mol以下である。
上記方法Aで得られる環状ハロシランの塩は、例えば、下記式(13)で表されるものが好適である。
上記式(13)において、X1とX2はそれぞれ独立してハロゲン原子を表し、Lはアニオン性配位子を表し、pは配位子Lの価数として−2〜0の整数を表し、Kは対カチオンを表し、qは対カチオンKの価数として0〜2の整数を表し、nは0〜5の整数を表し、aとbとcは0以上、“2n+6”以下の整数(ただし、a+b+c=2n+6であり、aとcは同時に0ではない)を表し、dは0〜3の整数(ただし、aとdは同時に0ではない)、eは0〜3の整数(ただし、d+e=3)を表し、mは1〜2であり、sは1以上の整数を表し、tは1以上の整数を表す。
上記環状ハロシランの塩は、ルイス酸と接触させて反応させることにより、フリーの環状ハロシランとしても良い。フリーの環状ハロシランとは、例えば、Si5Cl10やSi6Cl12などの非錯体型の環状ハロシランを意味する。具体的には、環状ハロシランの塩をルイス酸と接触させると、ルイス酸が環状ハロシランの塩に含まれるアニオン性配位子に求電子的に作用して、環状ハロシランの塩からアニオン性配位子を引き抜くとともに対カチオンが遊離し、対応するフリーの環状ハロシランを得ることができる。
上記ルイス酸の種類は特に限定されないが、金属ハロゲン化物を用いることが好ましい。金属ハロゲン化物としては、例えば、金属塩化物、金属臭化物、金属ヨウ化物等が挙げられるが、反応性や反応の制御の容易性の点から、金属塩化物を用いることが好ましい。金属ハロゲン化物を構成する金属元素としては、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム等の13族元素、銅、銀、金等の11族元素、チタン、ジルコニウム等の4族元素、鉄、亜鉛、カルシウム等が挙げられる。ルイス酸としては、具体的に、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素等のハロゲン化ホウ素;塩化アルミニウム、臭化アルミニウム等のハロゲン化アルミニウム;塩化ガリウム、臭化ガリウム等のハロゲン化ガリウム;塩化インジウム、臭化インジウム等のハロゲン化インジウム;塩化タリウム、臭化タリウム等のハロゲン化タリウム;塩化銅、臭化銅等のハロゲン化銅;塩化銀、臭化銀等のハロゲン化銀;塩化金、臭化金等のハロゲン化金;塩化チタン、臭化チタン等のハロゲン化チタン;塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウムなどのハロゲン化ジルコニウム;塩化鉄、臭化鉄等のハロゲン化鉄;塩化亜鉛、臭化亜鉛などのハロゲン化亜鉛;塩化カルシウム、臭化カルシウム等のハロゲン化カルシウム;等が挙げられる。
上記ルイス酸の使用量は、環状ハロシランの塩とルイス酸との反応性に応じて適宜調整すればよいが、例えば、環状ハロシランの塩1molに対して、好ましくは0.5mol以上、より好ましくは1.5mol以上、また好ましくは20mol以下、より好ましくは10mol以下である。
上記環状ハロシランの塩とルイス酸との反応は、溶媒または分散媒(これらを単に溶媒という)中で行うことが好ましい。反応において使用する溶媒(反応溶媒)としては、ヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等のエーテル系溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。なお反応溶媒は、その中に含まれる水や溶存酸素を取り除くため、反応前に蒸留や脱水等の精製を施しておくことが好ましい。
上記環状ハロシランの塩とルイス酸との反応を行う際の反応温度は、反応性に応じて適宜調整すればよいが、例えば、好ましくは−80℃以上、より好ましくは−50℃以上、さらに好ましくは−30℃以上、また好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。
次に、上記方法Bについて説明する。
上記化合物IのXRnでは、Xが環状ハロシランに配位して環状ハロシラン中性錯体を形成する。XがPまたはP=Oである場合、Xは3価であり、Rの数を示すnは3である。Rは同一または異なって置換または無置換のアルキル基またはアリール基を表す。Rは置換または無置換のアリール基であることがより好ましい。Rがアルキル基の場合は、直鎖、分岐状または環状のアルキル基が挙げられ、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロへキシル基等の炭素数1〜16のアルキル基が好ましく挙げられる。また、Rがアリール基の場合は、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜18程度のアリール基が好ましく挙げられる。
上記化合物IのXRnにおいて、XがNのときも、Xが環状ハロシランに配位して環状ハロシラン中性錯体を形成する。但し、XRn中のアミノ基の数は1である。XがNである場合、Xは3価であり、Rの数を示すnは3である。Rは同一または異なって置換または無置換のアルキル基またはアリール基を表す。Rは置換または無置換のアルキル基がより好ましい。Rがアルキル基の場合は、直鎖、分岐状または環状のアルキル基が挙げられ、炭素数1〜16のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜3のアルキル基がさらに好ましいものとして挙げられる。また、Rがアリール基の場合は、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜18程度のアリール基が好ましく挙げられる。
上記XがP、P=Oのときや、XがNのときのXRnにおいて、上記アルキル基が有していてもよい置換基としては、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、スルホニル基等が挙げられ、アリール基が有していてもよい置換基としては、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、スルホニル基等が挙げられる。アミノ基としては、ジメチルアミノ基やジエチルアミノ基が挙げられるが、アミノ基の数はXR3中1つ以下であり、第3級ポリアミンを除く趣旨である。なお、3個のRは、同一であっても、異なっていてもよい。
上記XがS、S=O、Oのとき、Xは2価であり、Rの数を示すnは2である。Rは、XがP、P=Oである場合のRと同じ意味であり、置換または無置換のアルキル基またはアリール基である。Rは置換または無置換のアリール基であることがより好ましい。また、XがCNのとき、Xは1価であり、Rの数を示すnは1である。この場合も、Rは、XがP、P=Oである場合のRと同じ意味であり、置換または無置換のアルキル基またはアリール基である。Rは置換または無置換のアリール基であることがより好ましい。
上記化合物Iの具体例としては、トリフェニルホスフィン(PPh3)、トリフェニルホスフィンオキシド(Ph3P=O)、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン(P(MeOPh)3)等のXがPまたはP=Oの化合物;ジメチルスルホキシド等のXがS=Oの化合物;p−トルニトリル(p−メチルベンゾニトリルともいう)等のXがCNの化合物等が挙げられる。
上記(II)の複素環化合物(化合物II)においては、環中に非共有電子対を有していることが必要であり、この非共有電子対が環状ハロシランに配位して環状ハロシラン中性錯体を形成する。このような複素環化合物としては、環中にローンペアを有するN,O,SまたはPを含む置換または無置換の複素環化合物1種以上が挙げられる。複素環化合物が有していてもよい置換基は、上記Rがアリール基の場合に有していてもよい置換基と同じである。複素環化合物としては、ピリジン類、イミダゾール類、ピラゾール類、オキサゾール類、チアゾール類、イミダゾリン類、ピラジン類、チオフェン類、フラン類等が挙げられる。具体例としては、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
上記化合物Iおよび化合物IIのうち、反応温度において液体である化合物は溶媒の役目も兼ねることができる。
上記化合物Iおよび上記化合物IIの使用量は適宜決定すればよく、ハロシラン6molに対し、上記化合物を、例えば、0.1〜50mol用いてもよく、0.5〜3mol用いることが好ましい。
上記方法Bで得られる上記環状ハロシラン中性錯体は、原料とするハロシランのケイ素原子が3〜8個(好ましくは5個または6個、特に6個)から形成され、ケイ素原子が連なった環を含む錯体であり、一般式[Y]l[SimZ2m-aHa]で表すことができる。上記一般式で、Yは上記化合物Iまたは上記化合物IIであり、Zは、同一または異なって、Cl、Br、I、Fのいずれかのハロゲン原子を表し、lは1または2、mは3〜8、好ましくは5または6、特に好ましくは6、aは0〜2m−1、好ましくは0〜mである。
上記方法A、方法Bにおけるハロシランの環化反応は、第3級アミンを添加して行うことが好ましい。第3級アミンを添加することにより生成する塩酸を中和することができる。
上記環化反応で用いられる第3級アミンとしては、例えば、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリイソブチルアミン、トリイソペンチルアミン、ジエチルメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、ジメチルブチルアミン、ジメチル−2−エチルヘキシルアミン、ジイソプロピル−2−エチルヘキシルアミン、メチルジオクチルアミン等が好ましく挙げられる。
上記第3級アミンは、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、第3級アミンには、環状ハロシランに配位するものも含まれ、例えば、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン等の、比較的嵩高くなく、対称性の高いアミン等は、比較的効率よく配位すると考えられる。しかし、前記化合物IのXRnで表される第3級アミンだけでは、環状ハロシラン中性錯体の収率が低くなる傾向にあるため、第3級アミン以外の化合物Iを併用することが好ましい。
上記第3級アミンは、ハロシラン1molに対して、0.5〜4mol用いることが好ましく、同molとすることが特に好ましい。
なお、本発明では、限定はされないが、炭素原子を2個以上有し、アミノ基を3個以上有する第3級ポリアミンは用いないことが好ましい。上記第3級ポリアミンを用いると、対カチオンにケイ素を含む環状ハロシランの塩が生成し、保管時や還元反応時にシランガスが発生するため、安全性の観点から好ましくない。
上記方法A、方法Bにおける上記ハロシランの環化反応は、必要に応じて有機溶媒中で実施できる。この有機溶媒としては、環化反応を妨げない溶媒が好ましく、例えば、炭化水素系溶媒(例えば、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン等)、ハロゲン化炭化水素系溶媒(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等)、エーテル系溶媒(例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等)、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒が好ましく挙げられる。これらの中でも、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等の塩素化炭化水素系溶媒が好ましく、特に1,2−ジクロロエタンが好ましい。なお、これら有機溶媒は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記有機溶媒の使用量は、特に制限されないが、通常、ハロシランの濃度が0.5〜10mol/Lとなるように調整することが好ましく、より好ましい濃度は0.8〜8mol/L、さらに好ましい濃度は1〜5mol/Lである。
環化反応における反応温度は、反応性に応じて適宜設定でき、例えば0〜120℃程度、好ましくは15〜70℃程度である。また環化反応は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが推奨される。
環化反応後は、環状ハロシランを含む反応液を非ハロゲン溶媒で洗浄する工程を含むことが好ましい。即ち、環化反応が終われば、環状ハロシラン(環状ハロシランの塩、フリーの環状ハロシラン、環状ハロシラン中性錯体等)の溶液あるいは分散液が生成する。これを濃縮あるいは濾過し、得られた固体を例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン溶媒やアセトニトリル、ヘキサンなどの非ハロゲン溶媒等で洗浄することで、精製しても良い。環状ハロシランを、非ハロゲン溶媒を用いて洗浄する工程を含むことにより、環状水素化シランに含まれるハロゲン元素含有量が顕著に低減される傾向にある。
上記非ハロゲン溶媒で洗浄するに先立って、ハロゲン溶媒で洗浄する工程を含むことが好ましい。ハロゲン溶媒で洗浄することによりアミン塩酸塩を除去でき、非ハロゲン溶媒で洗浄することによりハロゲン溶媒を除去できる。
上記ハロゲン溶媒を用いた洗浄、および上記非ハロゲン溶媒を用いた洗浄は、それぞれ1回ずつでもよいし、それぞれ2回以上であってもよい。
上記環状ハロシランは、精製により、高純度な固体として得ることが可能である。しかし、所望により、不純物を含む環状ハロシランを含む組成物として得ることも可能である。環状ハロシランを含む組成物は、環状ハロシランを80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。上限は例えば99.99質量%である。上記不純物としては、溶剤や上記化合物Iまたは上記化合物IIの残渣、環状ハロシランの分解物やハロシランポリマー等である。環状ハロシランを含む組成物における上記不純物の含有量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、下限は例えば0.01質量%である。
上記環状ハロシラン(環状ハロシランの塩、フリーの環状ハロシラン、環状ハロシラン中性錯体等)を、還元する工程(還元工程)を含むことにより、環状水素化シランを製造できる。上記還元工程は、好ましくは還元剤の存在下で行われる。
上記還元工程で用いることのできる還元剤は特に制限されないが、アルミニウム系還元剤、ホウ素系還元剤からなる群より選ばれる1種以上を用いることが好ましい。アルミニウム系還元剤としては、例えば、水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4;LAH)、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL)、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム[「Red−Al」(シグマアルドリッチ社の登録商標)]等の金属水素化物等が挙げられる。ホウ素系還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム等の金属水素化物や、ジボラン等が挙げられ、金属水素化物を用いることが好ましい。なお、還元剤は1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記還元工程における還元剤の使用量は、適宜設定すればよく、例えば、環状ハロシランのケイ素−ハロゲン結合1個に対する還元剤中のヒドリドの当量を、少なくとも0.9当量以上とすることが好ましい。上記還元剤の使用量は、より好ましくは1.0〜50当量、さらに好ましくは1.0〜30当量、特に好ましくは1.0〜15当量、最も好ましくは1.0〜2当量である。還元剤の使用量が多すぎると、後処理に時間を要し生産性が低下する傾向がある。一方、還元剤の使用量が少なすぎると、ハロゲンが還元されずに残り、収率が低下する傾向がある。
上記還元工程では、還元助剤としてルイス酸触媒を上記還元剤と併用してもよい。ルイス酸触媒としては、塩化アルミニウム、塩化チタン、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化鉄等の塩化物;臭化アルミニウム、臭化チタン、臭化亜鉛、臭化スズ、臭化鉄等の臭化物;ヨウ化アルミニウム、ヨウ化チタン、ヨウ化亜鉛、ヨウ化スズ、ヨウ化鉄等のヨウ化物;フッ化アルミニウム、フッ化チタン、フッ化亜鉛、フッ化スズ、フッ化鉄等のフッ化物;等のハロゲン化金属化合物が挙げられる。これらは1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記還元工程における反応は、必要に応じて、有機溶媒の存在下で行うことができる。上記有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等のエーテル系溶媒;等が挙げられる。これら有機溶媒は1種を用いてもよいし2種以上を併用してもよい。また、環状ハロシランを製造するときに得られた有機溶媒溶液を、そのまま還元工程における有機溶媒溶液として用いてもよいし、環状ハロシランを含む有機溶媒溶液から、有機溶媒を留去して、新たな有機溶媒を添加して還元工程を行ってもよい。なお、還元工程における反応に用いる有機溶媒は、その中に含まれる水や溶存酸素を取り除くため、反応前に蒸留や脱水等の精製を行っておくことが好ましい。
還元反応に用いる有機溶媒の使用量としては、環状ハロシランの濃度が0.01〜1mol/Lとなるように調整することが好ましく、より好ましくは0.02〜0.7mol/L、さらに好ましくは0.03〜0.5mol/Lである。上記範囲で反応を行うことにより、環状水素化シランに含まれるハロゲン元素含有量が顕著に低減される傾向にある。
還元は、環状ハロシランと還元剤とを接触させることにより行うことができる。環状ハロシランと還元剤との接触に際しては、溶媒の存在下で接触させることが好ましい。溶媒の存在下で環状ハロシランと還元剤とを接触させるには、例えば、(a)環状ハロシランの溶液または分散液に、還元剤をそのまま加える、(b)環状ハロシランの溶液または分散液に、還元剤を溶媒に溶解または分散させた溶液または分散液を加える、(c)溶媒中に環状ハロシランと還元剤を同時にもしくは順次加える、などの混合手順を採用すればよい。これらの中で特に好ましいのは上記(b)の態様である。
また環状ハロシランと還元剤との接触に際しては、還元を行う反応系内に、環状ハロシランの溶液または分散液と、還元剤の溶液または分散液との少なくともいずれか一方を滴下することが好ましい。このように環状ハロシランおよび還元剤の一方または両方を滴下することにより、還元反応で生じる発熱を滴下速度等でコントロールすることができるので、例えばコンデンサー等の小型化が可能になるなど、生産性の向上に繋がる効果が得られる。
環状ハロシランと還元剤の一方または両方を滴下する場合の好ましい態様としては、以下の3つの態様がある。即ち、A)反応器内に環状ハロシランの溶液または分散液を仕込んでおき、これに還元剤の溶液または分散液を滴下する態様、B)反応器内に還元剤の溶液または分散液を仕込んでおき、これに環状ハロシランの溶液または分散液を滴下する態様、C)反応器内に、環状ハロシランの溶液または分散液と還元剤の溶液または分散液とを同時または順次滴下する態様である。これらの中でも上記A)の態様が好ましい。
環状ハロシランと還元剤の一方または両方を上記A)〜C)の態様で滴下する場合、環状ハロシランの溶液または分散液の濃度は、好ましくは0.01mol/L以上、より好ましくは0.02mol/L以上、さらに好ましくは0.04mol/L以上、特に好ましくは0.05mol/L以上である。環状ハロシランの濃度が低すぎると、目的生成物を単離する際に留去しなければいけない溶媒量が増えるので、生産性が低下する傾向がある。一方、環状ハロシランの溶液または分散液の濃度の上限は、好ましくは1mol/L以下、より好ましくは0.8mol/L以下、さらに好ましくは0.5mol/L以下である。
滴下時の温度(詳しくは、滴下用の溶液または分散液の温度)の下限は、好ましくは−198℃以上、より好ましくは−160℃以上、さらに好ましくは−100℃以上である。また、滴下時の温度の上限は、好ましくは+150℃以下、より好ましくは+100℃以下、さらに好ましくは+80℃以下、特に好ましくは+40℃以下である。なお、反応容器の温度(反応温度)は、環状ハロシランや還元剤の種類に応じて適宜設定すればよく、通常、下限を−198℃以上とすることが好ましく、より好ましくは−160℃以上、さらに好ましくは−100℃以上である。反応容器(反応溶液)の温度の上限は、+150℃以下が好ましく、より好ましくは+100℃以下、さらに好ましくは+80℃以下、特に好ましくは+40℃以下である。反応温度が低いと、中間生成物や目的物の分解や重合を抑制できるので、収量が向上する。反応時間は、反応の進行の程度に応じて適宜決定すればよく、通常、10分以上72時間以下、好ましくは1時間以上48時間以下、より好ましくは2時間以上24時間以下である。
なお、環状水素化シラン中のハロゲン元素含有量の低減を目的とする場合は、反応温度を高めにすることもハロゲン元素含有量低減の一手法になる。この場合、反応温度は、例えば、−60℃以上、好ましくは−50℃以上とすることが推奨される。
一例として、上記方法Bにおいて、ハロシランとしてトリクロロシラン、化合物Iとしてトリフェニルホスフィン(PPh3)、第3級アミンとしてN,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を用いたスキーム例を下記に示す。
トリクロロシランを出発原料とし、上記化合物Iをトリフェニルホスフィン(PPh3)とすると、通常、上記スキームのように6員環のドデカクロロシクロヘキサシランを含む錯体(ドデカクロロシクロヘキサシランにトリフェニルホスフィンが配位した中性錯体([PPh3]2[Si6Cl12]))となる。この環状ハロシラン中性錯体は環構造を形成するケイ素原子以外にケイ素原子を含まないため、還元やアルキル化もしくはアリール化した際にシランガスや有機モノシランが発生しないか、発生してもその量を低く抑えることができる。
この環化反応で生じた環状ハロシラン中性錯体の収量・収率は、錯体が定量的に反応する下記スキームで表されるメチル化反応を利用して算出できる。
上記環状ハロシラン中性錯体(例えば、[PPh3]2[Si6Cl12])を還元して環状水素化シラン(例えば、シクロヘキサシラン)を得る方法は、例えば、還元剤としてLiAlH4を用いた場合は、以下のスキームで表される。
以下、ハロゲン元素含有量低減手法を、上記手法を含め、複数提示するが、これら手法はハロゲン元素の除去達成度を参考に、適宜、組み合わせることが推奨される。即ち一の手法でハロゲン元素含有量を目的の量まで低減できない場合は、複数の手法を組み合わせて、目的の量まで低減すればよい。
還元反応は、通常、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。
前記還元反応で生成した環状水素化シランは、例えば、還元後に得られた反応液から固体(副生した塩等の不純物)を固液分離した後、溶媒を減圧蒸留させるなどして、単離する。
上記固液分離の手法は、濾過が簡便であるため好ましく採用できるが、これに限定されるものではなく、例えば、遠心分離やデカンテーションなど公知の固液分離の手法を適宜採用できる。
環状水素化シラン中のハロゲン元素含有量を低減するための手法としては、上述したように、還元反応で得られた環状ハロシランを、非ハロゲン溶媒を用いて洗浄する方法の他、上記固液分離を少なくとも2回行うことが挙げられる。即ち、環状ハロシランを還元した後は、固液分離を少なくとも2回行う工程を含むことが好ましい。例えば、環状水素化シランを含む液と固体とを一度固液分離した後(第1分離)、環状水素化シランを含む液を好ましくは濃縮して炭化水素系溶媒(ヘキサンなど)を希釈溶媒として加えた後、好ましくは濃縮して析出してきた固体を再度分離し(第2分離)、必要に応じて第1分離から第2分離までの操作を繰り返してもよい。第1分離後に、溶媒希釈、濃縮、固液分離を1回以上行うことがより好ましく、複数回繰り返しても良い。この様に固液分離を少なくとも2回行うことによって、副生した塩等に含まれるハロゲンを除去でき、環状水素化シラン中のハロゲン元素含有量を低減できる。上記固液分離は、2回でもよいし、3回以上でもよい。上記固液分離の回数は特に限定されないが、生産性を考慮すると、上限は、5回程度以下である。
次に、上記固液分離により得られた環状水素化シランを含む溶液を必要によって濃縮した後、高濃度化した環状水素化シランを蒸留する。この蒸留は、減圧蒸留であるのが好ましい。減圧蒸留する方法は特に限定されず、公知の蒸留塔で行えばよい。上記蒸留は、留分を複数に分けて行うことが好ましく、得られた留分のうち、ハロゲン元素含有量を考慮して適切な留分のみを選択してもよい。
特に環状水素化シラン中のハロゲン元素の含有量を低減するための一つの手法として、前記蒸留(特に減圧蒸留)を2回以上行うことが挙げられる。例えば、環状水素化シランを含む溶液を減圧蒸留し、ハロゲン元素含有量が適切な留分を回収した後(第1蒸留)、この回収留分を再度減圧蒸留してハロゲン元素含有量が適切な留分を回収し(第2蒸留)、さらに必要に応じて第2蒸留を繰り返す操作を行ってもよい。
減圧蒸留を2回以上行う場合は、先の減圧蒸留での液温(内温)は、好ましくは25〜80℃、より好ましくは30〜70℃で行うのがよく、後の減圧蒸留での液温(内温)は、好ましくは20〜75℃、より好ましくは30〜65℃で行うのがよい。先の減圧蒸留における液温と後の減圧蒸留における液温は同じでもよい。
減圧蒸留を2回以上行う場合は、先の減圧蒸留は、好ましくは5〜400Pa、より好ましくは10〜300Paで行うのがよく、後の減圧蒸留は、好ましくは5〜300Pa、より好ましくは10〜200Paで行うのがよい。先の減圧蒸留における圧力と後の減圧蒸留における圧力は同じでもよい。
上記減圧蒸留は、環状水素化シランよりも高沸点の不純物および低沸点の不純物を分けるため、また環状水素化シラン中のハロゲン元素含有量を低減させるために、バッチ式で行ってもよい。
環状水素化シランの水素の一部が−SiH3で置換された化合物(例えば、シリルシクロペンタシランなど)は、例えば、質量基準で10ppb以上含有してもよい。上限は、例えば、質量基準で1%以下が好ましい。
以上、減圧蒸留して得られた環状水素化シランは、ハロゲン元素含有量が100ppm以下に低減されている。よって保存中にSi−Si結合の切断等によって純度が低下することが抑制されるため保存安定性を改善でき、耐容器腐食性や半導体電気特性なども改善できる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
下記実験1では、環状ハロシランであるビス(トリフェニルホスフィン)ドデカクロロシクロヘキサシランを製造し、下記実験2では、実験1で得られたビス(トリフェニルホスフィン)ドデカクロロシクロヘキサシランを用い、環状水素化シランであるシクロヘキサシランを製造した。下記実験3では、実験2で得られたシクロヘキサシランに含まれるハロゲン元素量を測定した。下記実験4では、実験2で得られたシクロヘキサシランのうち、本蒸留品として得られた留分4のシクロヘキサシランの保存安定性を評価した。
(1)実験1(環状ハロシランの製造)
温度計、コンデンサー、滴下ロート、および撹拌装置を備えた容量3Lの四つ口フラスコ内を窒素ガスで置換した後、該フラスコ内に、上記化合物Iとしてトリフェニルホスフィン155g(0.591mol)と、第3級アミンとしてジイソプロピルエチルアミン458g(3.54mol)と、溶媒として1,2−ジクロロエタン1789g(18.2mol)とを入れた。
続いて、フラスコ内の溶液を撹拌しながら、25℃条件下で、滴下ロートからハロシランとしてトリクロロシラン481g(3.54mol)をゆっくりと滴下した。滴下終了後、そのまま2時間撹拌し、続いて60℃で8時間加熱撹拌して環化カップリング反応を行い、均一な反応液を得た。得られた反応液を濃縮し、クロロホルム7200gを加えて室温で1時間撹拌して洗浄した後、濾過し、濾過残渣を減圧下で乾燥することにより、白色固形物の粗製品を得た。
次に、得られた白色固形物(粗製品)に、質量基準で5倍量のヘキサンを加えて室温で24時間撹拌し洗浄した後、濾過した。得られた濾過残渣に対し、上記と同じ手順で、ヘキサンで洗浄、濾過を再度行い、得られた濾過残渣を減圧下で乾燥して、環状ハロシラン中性錯体[ビス(トリフェニルホスフィン)ドデカクロロシクロヘキサシラン、[Ph3P]2[Si6Cl12]]の精製品を得た。洗浄から乾燥までの工程は全て窒素雰囲気下で行った。
得られた精製品に含まれる成分をガスクロマトグラフ(島津製作所製「GC2014」)で分析したところ、ハロゲン化炭化水素としてクロロホルムが1質量%、アミン塩(アミン塩酸塩)が1質量%含まれていた。
(2)実験2(環状水素化シランの製造)
窒素雰囲気下で、容量10Lのフラスコに上記実験1と同様にして得られた環状ハロシラン中性錯体の精製品1099gとジエチルエーテル5281gを入れ、―40℃で撹拌した。この中に、LiAlH4の1Mジエチルエーテル溶液2004gを滴下ロートから滴下した。環状ハロシラン中性錯体のケイ素−ハロゲン結合1個に対する還元剤中のヒドリドの当量は1.01当量である。滴下終了後、―40℃で3時間撹拌して還元反応を行った(還元工程)。3時間撹拌後、反応液を室温まで昇温した後、窒素雰囲気下で、デカンテーションにより固液分離(第1分離)し、得られた液体分6350gからジエチルエーテルを減圧下で留去し、液量が1100gになるまで濃縮した後、脱水ヘキサン3455gを加えた。その後、残存しているジエチルエーテルおよびヘキサンを再度減圧下にて留去し、液量が1180gになるまで濃縮した後、濾過により固液分離(第2分離)して析出固体を取り除いた。得られた濾液から溶媒をさらに留去し、液量が420gになるまで濃縮した後、濾過し、濾液として環状水素化シランであるシクロヘキサシランの粗製品169gを得た。上記操作を2バッチ行い、合計でシクロヘキサシランの粗製品426gを製造した。
次に、得られたシクロヘキサシランの粗製品を減圧蒸留した。上記減圧蒸留は、内液温42〜55℃、圧力130〜200Paの条件で行い、留分は5つ(留分1〜5)とした。減圧蒸留して得られたシクロヘキサシランの粗蒸留品は合計で118gであり、各留分のGC純度(収率)を、キャピラリーカラム(J&W SCIENTIFIC製「DB−1MS」、0.25mm×50m)を装着したガスクロマトグラフ(島津製作所製「GC2014」)を用い、面積百分率法にて測定した。その結果、シクロヘキサシランの粗蒸留品のGC純度は、96.4〜98.9面積%であった。
次に、留分1〜5で得られたシクロヘキサシランの粗蒸留品を1つに集めて再度減圧蒸留した。上記減圧蒸留は、内液温39〜50℃、圧力63〜130Paの条件で行い、留分は5つ(留分1〜5)とした。
減圧蒸留して得られたシクロヘキサシランの本蒸留品は合計で106gであり、各留分のGC純度を上記シクロヘキサシランの粗蒸留品と同じ条件で測定した。その結果、シクロヘキサシランの本蒸留品のGC純度は、98.3〜99.6面積%であった。
(3)実験3(環状水素化シランに含まれるハロゲン元素量)
上記実験2で得られたシクロヘキサシランの粗蒸留品および本蒸留品に前処理を行った後、イオンクロマトグラフ装置でハロゲン元素量を測定した。ハロゲン元素量は、塩素量を測定した。
上記前処理は次の手順で行った。まず、窒素雰囲気下のグローブボックス内で、容量20mLのPFA容器にシクロヘキサシランを100μL入れた。次に、非加熱蒸留したイソプロピルアルコール(IPA)1000μLを入れた。次に、非加熱蒸留したジメチルアミノエタノール1000μLを入れた後、蓋を軽く閉めて1晩静置し、失活させた。1晩静置後、超純水で15倍に希釈し、更に1晩静置して前処理を終了した。前処理したシクロヘキサシランの各留分に含まれる塩素量を、イオンクロマトグラフ装置(DIONEX製、「ICS−2000」)で測定した。測定結果を下記表1に示す。
(4)実験4(環状水素化シランの保存安定性)
上記表1に示したシクロヘキサシランの本蒸留品のうち、留分4について、上記ガスクロマトグラフを用い、GC純度を面積百分率法と検量線法で測定した。面積百分率法では、ガスクロマトグラフで気化しないポリマー成分を正しく分析、評価できないため、本実施例では、面積百分率法と検量線法の2パターンで評価する。2ヶ月経過後にも同様の測定を行い、保存安定性を評価した。検量線法では内部標準物質としてメシチレンを用い、検量線純度を測定した。尚、検量線の作成に用いるシクロヘキサシランは、別の実験で得られた面積百分率法によるGC純度が98%以上の本蒸留品を用い、用いた本蒸留品の面積百分率法で測定したGC純度で補正して検量線を作成した。その結果、GC純度は面積百分率法で99.6面積%、検量線法で99.6%であった。
次に、上記留分4を窒素雰囲気下のグローブボックス内でステンレス製(SUS製)耐圧容器に入れ、室温(20℃)で保管した。2か月経過時点で、上記留分4のGC純度を面積百分率法と検量線法で同様に測定した。その結果、GC純度は面積百分率法で99.0面積%、検量線法で99.5%であった。
上記表1から明らかなように、本発明によれば、減圧蒸留を1回行って得られた粗蒸留品でも、減圧蒸留を2回行って得られた本蒸留品でも、ハロゲン元素含有量が100ppm以下のシクロヘキサシランが得られた。
また、上記(4)の結果から明らかなように、本発明で得られたシクロヘキサシランは、良好な保存安定性を有していた。このシクロヘキサシランは、耐容器腐食性や半導体電気特性なども改善できると考えられる。
(5)実験5(比較例)
上記実験1と同様にして得られた環状ハロシラン中性錯体[ビス(トリフェニルホスフィン)ドデカクロロシクロヘキサシラン]の精製品を用い、上記第2分離を行わない点以外は、上記実験2と同じ条件でシクロヘキサシランの本蒸留品を製造した。具体的には、上記フラスコに上記環状ハロシラン中性錯体の精製品906gとジエチルエーテル4320gを入れ、撹拌し、この中に上記ジエチルエーテル溶液1649gを滴下した。滴下終了後、撹拌して還元反応を行った。撹拌後、反応液を室温まで昇温し、デカンテーションにより固液分離(第1分離)し、得られた液体分5372gからジエチルエーテルを減圧下で留去し、液量が950gになるまで濃縮した後、脱水ヘキサン3000gを加えた。その後、残存しているジエチルエーテルおよびヘキサンを留去して濃縮した後、固液分離(第2分離)せずに環状水素化シランであるシクロヘキサシランの粗製品を255g得た。
次に、得られたシクロヘキサシランの粗製品を上記実験2と同様、2回減圧蒸留し、シクロヘキサシランの本蒸留品を得た。1回目の減圧蒸留は、内液温45〜80℃、圧力100〜170Paの条件で行い、2回目の減圧蒸留は、内液温40〜75℃、圧力70〜170Paの条件で行った。
得られたシクロヘキサシランの本蒸留品について、各留分のGC純度を上記条件で測定した。その結果、GC純度は98.1〜98.9面積%であった。
また、得られたシクロヘキサシランの本蒸留品のうち、留分4(GC純度は98.9面積%)に上記実験3に示した条件で前処理した後、シクロヘキサシランに含まれる塩素量を測定した。その結果、留分4の塩素量は346ppmであった。
次に、上記実験4と同じ条件で、得られたシクロヘキサシランの本蒸留品のうち、留分4のGC純度を面積百分率法と検量線法で測定し、保存安定性を評価した。その結果、上記本蒸留品のうち、上記留分4のGC純度は面積百分率法で98.9面積%、検量線法で98.3%であった。また、2か月経過時点では、GC純度は面積百分率法で98.0面積%、検量線法で96.3%であった。