JP2018145582A - プリプレグおよび繊維強化複合材料、並びに表面改質強化繊維 - Google Patents

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Abstract

【課題】放電による繊維強化複合材料の損傷を抑制することができるプリプレグを提供する。
【解決手段】少なくとも、強化繊維と、マトリクス樹脂と、からなるプリプレグ1であって、強化繊維からなる繊維層2の片面又は両面に、マトリクス樹脂からなる樹脂層3とから構成され、樹脂層3には複数の導電部4が形成されてなり、繊維層2の厚み6方向の体積抵抗率ρ(Ωcm)と、繊維層2の厚みt6(cm)と、プリプレグ表面に配置された導電部4の平均間隔L(cm)と、が以下の式(1)を満たすプリプレグ。t/ρ×1/L×100≧0.5・・・式(1)
【選択図】図1

Description

本発明は、放電による繊維強化複合材料の損傷を抑制することができるプリプレグ、およびかかるプリプレグを用いて得られる繊維強化複合材料、並びにかかるプリプレグに用いられる導電性に優れた表面改質強化繊維に関する。
強化繊維とマトリクス樹脂とからなる繊維強化複合材料(以下、複合材料と称する)は、軽量、高強度、高弾性率等の特長を有し、航空機、スポーツ・レジャー、一般産業などに広く応用されている。この複合材料は、予め強化繊維とマトリクス樹脂とが一体化されているプリプレグを経由して製造されることが多い。複合材料には、使用時に電流又は電圧が加えられる場合がある。例えば、航空機や風力発電装置の構造材に用いられた場合の落雷や、集積回路の基板に用いられた場合の静電気の蓄積などである。複合材料に、電流又は電圧が加えられた場合、複合材料が放電による損傷を受ける可能性がある。
強化繊維にマトリクス樹脂が含浸されてなるプリプレグを積層成形して製造される複合材料は、一般的に、積層された各繊維層の層間に、マトリクス樹脂からなる樹脂層を備えている。通常、複合材料に使用されるマトリクス樹脂は導電性が低いため、たとえ強化繊維に導電性のある繊維を用いたとしても、繊維層間の樹脂層により複合材料の厚み方向(各層の面に直行する方向)の導電性が低いことが知られている。そのため、複合材料の放電による損傷を防ぐため、特に複合材料の厚み方向の導電性を改善するさまざまな検討が行われてきた。
複合材料の厚み方向の導電性を向上させる方法として、マトリクス樹脂組成物に金属やカーボンなどの導電性を有する粒子を配合し、複合材料の樹脂層の導電性を改善する方法(例えば、特許文献1、2)や、プリプレグの表面に導電材を配置して、複合材料の樹脂層導電パスを形成する方法(例えば、特許文献3)が提案されている。
しかし、これらの方法で、複合材料の厚み方向の導電性を向上させても、複合材料に高い電圧がかかった場合などに、複合材料の繊維層などで放電が依然として発生してしまい、放電による複合材料の損傷を防ぐには不十分であった。
そのため、放電による複合材料の損傷を抑制することができるプリプレグが望まれている。
特開2008−231395号公報 特表2013−503930号公報 国際公開第2016/017553号
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、放電による繊維強化複合材料の損傷を抑制することができるプリプレグを提供することにある。
上記課題を解決する本発明のプリプレグは、少なくとも、強化繊維とマトリクス樹脂からなるプリプレグであって、強化繊維からなる繊維層の片面または両面に、導電部が形成されているプリプレグであり、
繊維層の厚み方向の体積抵抗率ρ(Ωcm)と、繊維層の厚みt(cm)とプリプレグ表面に形成された導電部の平均間隔L(cm)と、が以下の式(1)を満たすプリプレグである。
t/ρ × 1/L × 100 ≧ 0.5 ・・・式(1)
本発明において、繊維層の厚み方向の体積抵抗率ρは、50Ωcm以下であることが好ましい。
導電部の平均間隔Lは、0.025cm以上であることが好ましい。
導電部は導電材Aを含んで構成される。また、本発明で用いる強化繊維は、繊維表面に導電材Bが付着した強化繊維であることが好ましい。導電材A及び導電材Bについては後述する。
繊維層が、強化繊維の単繊維間に存在する導電材Bを含んでいることも好ましい。
また、強化繊維と、前記強化繊維の表面に付着する有機金属錯体及び/又は有機金属錯体熱分解物と、から成る表面改質強化繊維を用いることも好ましい。
本発明は、本発明のプリプレグを用いて得られる繊維強化複合材料を包含する。また、本発明は、強化繊維の表面に有機金属錯体及び/又は有機金属錯体熱分解物が付着して成る表面改質強化繊維を包含する。
本発明のプリプレグは、所定の導電部が形成されている。そのため、該プリプレグを硬化させて製造される繊維強化複合材料は、放電による損傷を抑制することができる。
本発明の表面改質強化繊維は、その表面に有機金属錯体及び/又は有機金属錯体熱分解物が付着しているので高い導電性を有する。この表面改質強化繊維を用いて作製したプリプレグは、高い導電性を備える繊維強化複合材料を製造することができる。
本発明の繊維強化複合材料は、優れた導電性を有し、放電による損傷を抑制できるため、電磁遮蔽、静電気保護、電流リターン、及び導電性が必要な多くの用途に適用できる。
本発明のプリプレグの一例を示す概念図である。
1 プリプレグ
2 繊維層
3 樹脂層
4 導電部
5 導電部の間隔
6 繊維層の厚み(t)
1.プリプレグ
以下、本発明のプリプレグについて説明する。なお、以下の説明において、特に示した場合を除き、体積は25℃における体積を意味する。
本発明のプリプレグは、少なくとも、強化繊維とマトリクス樹脂とからなるプリプレグであって、該強化繊維からなる繊維層の片面または両面に、導電部が形成されているプリプレグである。このプリプレグは、プリプレグの厚み方向の体積抵抗率ρ(Ωcm)と、繊維層の厚みt(cm)と、プリプレグ表面に配置された導電部の平均間隔L(cm)と、が以下の式(1)を満たすプリプレグである。
t/ρ × 1/L × 100 ≧ 0.5 ・・・式(1)
式(1)を満たす本発明のプリプレグを用いて得られる複合材料は、高い電流又は電圧が加えられた場合にも、繊維層に掛かる電圧を分散して低く抑えることができるため、繊維層での放電を抑制することができる。そのため、本発明のプリプレグによれば、複合材料の放電による損傷を抑制することができる。
t/ρ × 1/L × 100の値の上限は、特に限定されないが、5000であれば十分である。t/ρ × 1/L × 100の値は、0.8以上2000以下であることがより好ましい。
以下、本発明の実施形態に付き、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明のプリプレグの好ましい一形態を示す概念図である。図1中、[1]はプリプレグで、強化繊維にマトリクス樹脂が含浸した繊維層[2]と、繊維層の表面に配置されたマトリクス樹脂からなる樹脂層[3]と、から構成され、樹脂層には複数の導電部[4]が形成されている。図1においては、強化繊維は、複数の単繊維が一方向に引き揃えられたシート状に形成されている。
本発明において、繊維層の表面に配置される導電部[4]は、後述の導電材Aを含んで形成される。導電材Aは、電気的に良好な導体として機能する導電物質であり、好ましくは体積固有抵抗が100〜10−9Ωcmであり、より好ましくは10〜10−9Ωcmであり、さらに好ましくは1〜10−9Ωcmであり、特に好ましくは10−1〜10−9Ωcmである導電物質である。体積固有抵抗が低い方が、得られる複合材料の導電性をより効率よく向上させることができる。導電材Aとしては、例えば、金属材料、炭素材料、導電性高分子や、無機材料又は有機材料のコア材を導電性物質で被覆した物質などを使用することができる。その中でも、高い導電性及び安定性を示すことから、金属材料、炭素材料が好ましい。
導電部[4]の中心点から、プリプレグの同一表面上で隣接する最も近い他の導電部[4]の中心点までの距離[5]が導電部の間隔である。2つの導電部[4]が接触している場合、もしくは、2つの導電部[4]が導通を生じる距離にある場合、これらの導電部は1つの導電部を形成しているものと見なす。本発明において、導電部[4]の端部と、導電部[4]に隣接する最も近い導電部の端部と、は、0.001cm以上離間していることが好ましく、0.005cm以上離間していることがより好ましい。また、導電部の平均間隔(L)は0.025cm以上であることが好ましく、0.05cm以上であることがより好ましく、0.1cm以上であることがさらに好ましい。平均間隔(L)は2.0cm以下であることが好ましく、1.0cm以下であることがより好ましい。
導電部[4]の形成パターンとしては、例えば線状や格子状などの連続配置や、点状や島状などの不連続配置が挙げられる。導電部[4]は、不連続に配置されることが特に好ましい。不連続に配置される場合には、個々の点や島が、格子状や千鳥状、円状などに連なって配置されていても良いし、ランダムに配置されていても良い。
導電部[4]が線状や格子状などの連続配置である場合、導電部[4]の中心点とは線幅の中心点をいう。導電部[4]が点状や島状などの不連続配置である場合、導電部[4]の中心点とは、導電部[4]に外接する最小の外接円の中心点をいう。
導電部[4]が一定程度の長さを持って連続的に形成されている場合、その幅は底面(繊維層との界面を意味する。以下同じ。)において1μm〜5mmであることが好ましく、10μm〜1mmであることがより好ましい。
導電部[4]が不連続に配置されている場合、その底面の形状に特に制限はなく、円形、楕円形、方形、多角形、星形、不定形等任意の形状とすることができる。また、その大きさは、底面における外接円の直径が0.1μm〜5mmとなることが好ましく、1μm〜1mmとなることがより好ましく、10〜500μmとなることがさらに好ましい。また、各導電部[4]の底面の面積は、0.01〜500,000μmであることが好ましく、0.1〜100,000μmであることがより好ましく、1〜10,000μmであることがさらに好ましい。
導電部[4]の高さは特に制限されない。マトリクス樹脂に不溶な粒子を配合する場合(後述)、その平均粒子径より高いことが好ましい。導電部[4]の高さ(プリプレグの厚み方向に延びる方向の長さをいう)は、プリプレグまたは樹脂層の厚みに応じて適宜調整すればよいが、樹脂層の厚みの80%以上の厚みであることが好ましい。具体的には、導電部[4]の高さは、1〜3000μmであることが好ましく、2〜300μmであることがより好ましい。導電部[4]の立体的な形状は、特に制限がなく、円柱状、角柱状、円錐状、角錐状、半球状、半楕円体状など任意の形状を採用することができる。プリプレグを積層した際に、一の繊維層と他の繊維層とにおける接触面積の差が小さくなることから、円柱状、角柱状、半球状、半楕円体状であることが好ましい。導電材又は導電性ペーストを連続的に配置する場合は、幅方向の断面が方形状、台形状、円状、半円状、または半楕円状となるよう配置することが好ましい。
また、複合材料の導電性と機械強度を両立しやすくする観点から、プリプレグ表面に配置された一つの導電部の体積は、0.1μm〜1mmであることが好ましく、0.5μm〜0.5mmであることがより好ましく、1μm〜0.1mmであることがさらに好ましい。
各導電部[4]は、略同一の形状で形成されていることが好ましい。ここで、略同一の形状とは、導電部[4]の大きさや高さがその平均値の±50%以内に収まる範囲をいう。同様に各導電部[4]は、略等間隔で形成されていることが好ましい。ここで、略等間隔とは、導電部[4]の間隔がその平均値(L)の±50%以内に収まる範囲をいう。
また、導電部[4]を構成する導電材Aがプリプレグのマトリクス樹脂に占める体積占有率は、複合材料の機械特性の観点から、50体積%以下であることが好ましく、10体積%以下であることがより好ましく、5体積%以下であることがより好ましい。体積占有率の下限は、特に限定されないが、得られる複合材料の導電性の観点から、0.0001体積%以上であることが好ましく、0.0005体積%以上であることがより好ましく、0.001体積%以上であることがさらに好ましく、0.01体積%以上であることが特に好ましい。
本発明において、繊維層の厚み方向の体積抵抗率(ρ)は50Ωcm以下であることが好ましく、25Ωcm以下であることがより好ましく、15Ωcm以下がさらに好ましい。繊維層の厚み方向の体積抵抗率(ρ)は、例えば、強化繊維自体の導電性を変更する方法、強化繊維の単繊維間に導電材Bを配置する方法などにより調節することができる。強化繊維の単繊維間に導電材Bを配置する方法としては、例えば、繊維表面に導電材Bを付着させる方法、繊維層のマトリクス樹脂に導電材Bを混合する方法がある。得られる複合材料の機械物性の観点から、繊維表面に導電材Bが付着した強化繊維を用いることが好ましい。
本発明において、繊維層の厚み(t)は、特に制限されるものではないが、0.01〜3mmが好ましく、0.1〜1.5mmであることがより好ましい。繊維層の厚み(t)は、強化繊維に開繊処理を施したり、繊維目付けを変更したりするなどの方法で調節することができる。
上記のような本発明のプリプレグによれば、樹脂層及び繊維層内での放電を抑制できるため、複合材料の放電による損傷を抑制することができる。
本発明のプリプレグで用いる各成分を以下により詳しく説明する。
(1−1) 強化繊維
強化繊維として用いられる繊維としては、特に制限はなく、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、セラミック繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、鉱物繊維、岩石繊維及びスラッグ繊維などが挙げられる。本発明においては、繊維層の導電性の観点から、導電性繊維であることが好ましい。導電性繊維としては、例えば、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、金属繊維が挙げられる。また、繊維表面が、例えば金属メッキ処理などの方法により、導電性物質で被覆された強化繊維を用いることもできる。
これらの強化繊維の中でも、比強度、比弾性率が良好で、軽量かつ高強度の複合材料が得られる点で、炭素繊維がより好ましい。引張強度に優れる点でポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維が特に好ましい。
PAN系炭素繊維を用いる場合、その引張弾性率は、100〜600GPaであることが好ましく、より好ましくは200〜500GPaであり、230〜450GPaであることが特に好ましい。また、引張強度は2000MPa〜10000MPa、好ましくは3000〜8000MPaである。炭素繊維の直径は4〜20μmが好ましく、5〜10μmがより好ましい。このような炭素繊維を用いることにより、得られる複合材料の機械的性質を向上できる。
プリプレグの繊維層の導電性を向上させるために、強化繊維として繊維表面に導電材Bが付着した強化繊維を用いることが好ましい。強化繊維の表面に付着させる導電材Bとしては、電気的に良好な導体として機能する導電物質であれば良く、導体のみに限定されない。好ましくは体積固有抵抗が10−1〜10−9Ωcmである導電物質である。体積固有抵抗が低い方が、繊維層の導電性をより効率よく向上させることができる。プリプレグの表面に形成される導電部を作製するために用いる導電材Aと同じ導電材を用いても良い。強化繊維への導電材Bの付着量は、0.01〜5質量%が好ましく0.05〜3質量%がより好ましい。
強化繊維の表面に付着させる導電材Bとしては、その最小径が用いる強化繊維の繊維径よりも小さい導電材Bであることが好ましい。導電材Bの最小径が用いる強化繊維の繊維径よりも小さいと、導電材Bが強化繊維の単繊維間に入り込みやすくなるため、繊維層の導電性をより高めることができる。強化繊維の表面に付着させる導電材Bとしては、その最小径が1nm〜3μmであることが好ましく、5nm〜1μmであることがより好ましく、10nm〜0.5μmであることがさらに好ましい。
強化繊維の表面に導電材Bを付着させる方法としては、強化繊維基材に導電材Bを直接降り掛ける方法や、導電材Bを含む溶液中に強化繊維を浸漬させる方法などが挙げられる。導電材Bを含む溶液中に強化繊維を浸漬させる方法が強化繊維束の内部まで導電材Bを付着させることができるため好ましい。導電材Bを含む溶液中を用いる場合、かかる溶液は、サイジング剤を含む溶液であっても良い。サイジング剤を含む溶液を用いると、プリプレグを製造する工程において、強化繊維から導電材Bが脱離しにくくなる。また、強化繊維表面に導電材Bを付着させた後、定着剤を付与することも好ましい。
サイジング剤は特に限定されるものではないが、通常の場合は、成形材料に使用される樹脂と同じ種類の樹脂、例えばポリアルキレングリコール、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン、ビニルエステル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は単一成分で使用してもよく、2種以上併用し混合物としてもよい。また、水分散させるために界面活性剤等を添加してもよい。
本発明のプリプレグに用いる強化繊維としては、後述する本発明の表面改質炭素繊維を用いることが特に好ましい。
強化繊維はシート状の基材に形成して用いることが好ましい。強化繊維基材シートとしては、例えば、多数本の繊維を一方向に引き揃えたシートや、平織や綾織などの二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組紐、強化繊維を抄紙した紙などを挙げることができる。
シート状の強化繊維基材の厚さは、0.01〜3mmが好ましく、0.1〜1.5mmがより好ましい。これらの強化繊維基材シートは、公知のサイジング剤を公知の含有量で含んでいても良い。
(1−2) 導電材
本発明で導電材Aおよび導電材Bとして用いる導電材としては、電気的に良好な導体として機能する導電物質であれば良く、導体のみに限定されない。好ましくは体積固有抵抗が100〜10−9Ωcmであり、より好ましくは10〜10−9Ωcmであり、さらに好ましくは1〜10−9Ωcmであり、特に好ましくは10−1〜10−9Ωcmである導電物質である。体積固有抵抗が低い方が、得られる複合材料の導電性をより効率よく向上させることができる。
本発明で用いる導電材としては、その最小径が用いる強化繊維の繊維径よりも小さい導電材であることが好ましい。導電材の最小径が用いる強化繊維の繊維径よりも小さいと、導電材が強化繊維の単繊維間に入り込みやすくなる。導電材Aとして用いた場合は、導電部が繊維層と密接しやすくなるため、得られる複合材料の導電性をより高めることができる。また、導電材Bとして用いた場合は、単繊維間に入り込んだ導電材が複数の繊維と接触しやすくなるため、繊維層の導電性をより高めることができる。本発明で用いる導電材としては、その最小径が1nm〜3μmであることが好ましく、5nm〜1μmであることがより好ましく、10nm〜0.5μmであることがさらに好ましい。
導電材としては、例えば、金属材料、炭素材料、導電性高分子、無機材料又は有機材料のコア材を他の導電性物質で被覆した物質などを使用することができる。また、本発明において、プリプレグに使用される導電材としては、複合材料に成形された後に導電性を電気的に良好な導体として機能する導電物質であれば良く、複合材料の成形温度で導体に転換される物質でもよい。複合材料の成形温度は、一般的に、80〜300℃である。このような温度で導体に転換される物質としては、例えば有機金属化合物や有機金属錯体などが挙げられる。
上記の導電材の中でも、高い導電性及び安定性を示すことから、金属材料、炭素材料が好ましい。
金属材料としては、金属材料と強化繊維との電位差により生じる腐食を防ぐことができるので、白金、金、銀、銅、錫、ニッケル、チタン、コバルト、亜鉛、鉄、クロム、アルミニウム、又はこれらを主成分とする合金等が好ましい。更には、酸化錫、酸化インジウム、酸化インジウム・錫(ITO)等も好ましい。これらの中でも、高い導電性及び化学的安定性を示すことから、白金、金、銀、銅、錫、ニッケル、チタン又はこれらを主成分とする合金が特に好ましい。
本発明で用いる導電材の形態は、特に制限はなく、フィラーや連続体状の導電材などを用いる事が出来る。本発明において、導電材の形態は、得られる複合材料の機械物性の観点からフィラーであることが好ましい。
本発明においてフィラーとは、不連続体状の形態を指し、好ましくはそのアスペクト比が1〜1000の材料である。フィラー状の導電材としては、例えば、粒子状、繊維状、星形状の導電材を用いることができる。粒子状のフィラーを用いる場合、その平均粒子径は、プリプレグのマトリクス樹脂内に充填できる大きさであれば限定されないが、0.001〜10μmが好ましく、0.005〜3μmがより好ましく、0.01〜1μmがさらに好ましく、0.05〜0.5μmが特に好ましい。
繊維状のフィラーを用いる場合、その長さは0.1〜500μmが好ましく、1〜20μmがより好ましい。直径は、0.001〜100μmが好ましく、0.005〜5μmがより好ましく、0.01〜1μmがさらに好ましく、0.05〜0.5μmが特に好ましい。
導電性フィラーとしては、金属材料では、例えば、金属粒子、金属ファイバー、有機金属粒子、有機金属錯体粒子、金属ナノ粒子、金属ナノファイバー、有機金属ナノ粒子などが挙げられる。炭素材料では、例えば、黒鉛粒子、炭素粒子、カーボンミルドファイバー、カーボンブラック、カーボン・ナノチューブ、気相成長法炭素繊維(VGCF)が挙げられる。
カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなどを使用することができ、これらを2種類以上ブレンドしたカーボンブラックも好適に使用することができる。
連続体の導電材としては、例えば、長繊維状、フィルム状の導電材を用いることが出来る。連続体の導電材としては、例えば、炭素長繊維、金属長繊維、グラファイトフィルム、金属箔、カーボンナノコイル、金属ナノワイヤなどが挙げられる。
プリプレグ全体に占める導電材Aの添加量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。プリプレグ全体に占める導電材Aの添加量の下限は、特に限定されないが、得られる複合材料の導電性の観点から、0.0005質量%以上であることが好ましく、0.001質量%以上であることがより好ましい。また、強化繊維として、繊維表面に導電材Bが付着してなる強化繊維を用いる場合、導電材Aの添加量と導電材Bの添加量の総量が、プリプレグ全体に対して、20質量%以下であることが好ましく、0.01〜10質量%以下であることがより好ましく、0.05〜5質量%以下であることがさらに好ましく、0.1〜3質量%であることが特に好ましい。なお、ここでいう導電材の添加量は、強化繊維が導電性を有している場合であっても係る強化繊維自体の質量は含まない。
(1−3) マトリクス樹脂
本発明で用いるマトリクス樹脂には特に制限はなく、例えば硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を用いることができる。マトリクス樹脂として硬化性樹脂を用いると、高い耐熱性を有する複合材料を製造できるので、好ましい。熱硬化性樹脂としては、耐熱性および機械特性の観点から、熱により架橋反応が進行して、少なくとも部分的に三次元架橋構造を形成する熱硬化性樹脂が好ましい。
マトリクス樹脂として用いる硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、トリアジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂およびポリイミド樹脂等が挙げられる。更に、これらの変性体および2種類以上のブレンド樹脂なども用いることができる。これらの硬化性樹脂は、加熱により自己硬化するものであっても良いし、硬化剤や硬化促進剤などを配合することにより硬化する樹脂であっても良い。
これらの硬化性樹脂の中でも、耐熱性、機械特性および炭素繊維との接着性のバランスに優れているエポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂が好ましく、機械特性の面からはエポキシ樹脂がさらに好ましく、耐熱性の面からはビスマレイミド樹脂がより好ましい。
エポキシ樹脂としては、特に制限はないが、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アルコール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ヒドロフタル酸型エポキシ樹脂、ダイマー酸型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂などの2官能エポキシ樹脂;テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、トリス(グリシジルオキシフェニル)メタンのようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;ノボラック型エポキシ樹脂であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。
更には、フェノール型エポキシ樹脂などの多官能エポキシ樹脂等が挙げられる。また更に、ウレタン変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂などの各種変性エポキシ樹脂も用いることができる。
中でも、分子内に芳香族基を有するエポキシ樹脂を用いることが好ましく、グリシジルアミン構造、グリシジルエーテル構造の何れかを有するエポキシ樹脂がより好ましい。また、脂環族エポキシ樹脂も好適に用いることができる。
グリシジルアミン構造を有するエポキシ樹脂としては、N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、N,N,O−トリグリシジル−p−アミノフェノール、N,N,O−トリグリシジル−m−アミノフェノール、N,N,O−トリグリシジル−3−メチル−4−アミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾールの各種異性体などが例示される。
グリシジルエーテル構造を有するエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が例示される。
これらのエポキシ樹脂は、必要に応じて、芳香族環構造などに非反応性置換基を有していても良い。非反応性置換基としては、メチル、エチル、イソプロピルなどのアルキル基、フェニルなどの芳香族基、アルコキシル基、アラルキル基、塩素や臭素などのハロゲン基などが例示される。
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型樹脂、ビスフェノールF型樹脂、ビスフェノールAD型樹脂、ビスフェノールS型樹脂等が挙げられる。具体的にはジャパンエポキシレジン社製jER815(商品名)、jER828(商品名)、jER834(商品名)、jER1001(商品名)、jER807(商品名)、三井石油化学製エポミックR−710(商品名)、大日本インキ化学工業製EXA1514(商品名)等が例示される。
脂環型エポキシ樹脂としては、ハンツマン社製アラルダイトCY−179(商品名)、CY−178(商品名)、CY−182(商品名)、CY−183(商品名)等が例示される。
フェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン社製jER152(商品名)、jER154(商品名)、ダウケミカル社製DEN431(商品名)、DEN485(商品名)、DEN438(商品名)、DIC社製エピクロンN740(商品名)等が例示される。クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、ハンツマン社製アラルダイトECN1235(商品名)、ECN1273(商品名)、ECN1280(商品名)、日本化薬製EOCN102(商品名)、EOCN103(商品名)、EOCN104(商品名)等が例示される。
各種変性エポキシ樹脂としては、例えば、ウレタン変性ビスフェノールAエポキシ樹脂として旭電化製アデカレジンEPU−6(商品名)、EPU−4(商品名)等が例示される。
これらのエポキシ樹脂は、適宜選択して1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。この中で、ビスフェノール型に代表される2官能エポキシ樹脂は、分子量の違いにより液状から固形まで種々のグレードの樹脂がある。従って、これらの樹脂はプリプレグ用マトリクス樹脂の粘度調整を行う目的で配合すると好都合である。
マトリクス樹脂として用いる熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂、およびその共重合体やブレンド物であるポリオレフィン系樹脂、ポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド12等の脂肪族ポリアミド系樹脂、酸成分として芳香族成分を有する半芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)やポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂(ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ABS樹脂等)、あるいは、ポリ乳酸系などの脂肪族ポリエステル系樹脂などを挙げることができる。
(1−4) マトリクス樹脂組成物のその他の添加物
[マトリクス樹脂に不溶な粒子]
本発明のマトリクス樹脂組成物には、マトリクス樹脂に不溶な粒子が含まれていてもよい。マトリクス樹脂に不溶な粒子は、プリプレグを製造する際、強化繊維シート表面に残留し、層間粒子となりやすい。この層間粒子は、FRPが受ける衝撃の伝播を抑制する。その結果、得られるFRPの耐衝撃性が向上する。マトリクス樹脂に不溶な粒子としては、無機粒子、ゴム粒子、樹脂粒子などが挙げられる。複合材料の機械特性の観点から、後述のマトリクス樹脂不溶性熱可塑性樹脂からなる粒子であることが好ましい。
マトリクス樹脂に不溶な粒子平均粒子径は、1〜50μmであることが好ましく、3〜30μmであることが特に好ましい。
[硬化剤]
マトリクス樹脂として硬化性樹脂を用いる場合は、必要に応じて樹脂を硬化させる硬化剤がマトリクス樹脂組成物に配合されていてもよい。硬化剤としては、マトリクス樹脂を硬化させる公知の硬化剤が用いられる。
例えば、硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合に使用される硬化剤としては、ジシアンジアミド、芳香族アミン系硬化剤の各種異性体、アミノ安息香酸エステル類が挙げられる。ジシアンジアミドは、プリプレグの保存安定性に優れるため好ましい。また、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ジアミン化合物及びそれらの非反応性置換基を有する誘導体は、耐熱性の良好な硬化物を与えるという観点から特に好ましい。ここで、非反応性置換基は、エポキシ樹脂の説明において述べた非反応性置換基と同様である。
アミノ安息香酸エステル類としては、トリメチレングリコールジ−p−アミノベンゾエートやネオペンチルグリコールジ−p−アミノベンゾエートが好ましく用いられる。これらを用いて硬化させた複合材料は、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体と比較して耐熱性は劣るが、引張伸度に優れる。そのため、複合材料の用途に応じて、使用する硬化剤の種類は適宜選択される。
マトリクス樹脂組成物に含まれる硬化剤の量は、少なくとも樹脂組成物に配合されているマトリクス樹脂を硬化させるのに適する量を、用いるマトリクス樹脂及び硬化剤の種類に応じて適宜調節すればよい。配合量は、硬化剤・硬化促進剤の有無と添加量、硬化性樹脂との化学反応量論及び組成物の硬化速度などを考慮して、適宜、所望の配合量で用いることができる。保存安定性の観点から、樹脂組成物に含まれるマトリクス樹脂100質量部に対して、硬化剤を30〜100質量部配合することが好ましく、30〜70質量部がより好ましい。
硬化剤として、コート剤によりマイクロカプセル化されたDDS(ジアミノジフェニルスルホン)(例えば、DDSコート10(松本油脂社製))を用いることも可能である。マイクロカプセル化されたDDSは室温状態において未硬化のエポキシ樹脂と反応することを防止するため、物理的、化学的な結合によりDDS粒子の表層をエポキシ樹脂と反応性の少ない物質、具体的には、ポリアミド、変性尿素樹脂、変性メラミン樹脂、ポリオレフィン、ポリパラフィン(変性品も含む)等のコート剤によりコートしたものである。これらのコート剤は、単独使用又は併用してもよく、また、前記以外の種々のコート剤によりマイクロカプセル化されたDDSを用いることもできる。
[熱可塑性樹脂]
マトリクス樹脂として、低粘度の樹脂を用いる場合、樹脂組成物に適切な粘度を与えるために、熱可塑性樹脂を配合してもよい。この樹脂組成物に粘度調節のために配合する熱可塑性樹脂には、最終的に得られる複合材料の耐衝撃性などの機械特性を向上させる効果もある。
マトリクス樹脂組成物に配合する上記熱可塑性樹脂の量は、樹脂組成物に用いるマトリクス樹脂の種類に応じて異なり、樹脂組成物の粘度が後述する適切な値になるように適宜調節すればよい。通常、樹脂組成物に含まれるマトリクス樹脂100質量部に対して、熱可塑性樹脂は5〜100質量部となるように配合することが好ましい。
マトリクス樹脂組成物の好ましい粘度は、80℃におけるその最低粘度が10〜450Poiseであり、より好ましくは最低粘度が50〜400Poiseである。樹脂組成物の最低粘度が10Poise以上ある場合、導電領域の導電材の流出を抑制し、導電材をプリプレグの所望の位置に局在化させる効果が高くなる。なお、粘度は、レオメーターを用いて測定される温度−粘度曲線から得られる粘度をいう。マトリクス樹脂の粘度は、熱可塑性樹脂、特に後述するマトリクス樹脂可溶性熱可塑性樹脂の添加量により調整することができる。
熱可塑性樹脂としては、マトリクス樹脂可溶性熱可塑性樹脂とマトリクス樹脂不溶性熱可塑性樹脂とが挙げられる。マトリクス樹脂可溶性熱可塑性樹脂とは、マトリクス樹脂に一部又は全部が加熱等により溶解し得る熱可塑性樹脂である。ここで、マトリクス樹脂に一部が溶解するとは、マトリクス樹脂100質量部に対して、平均粒子径が1〜50μmの熱可塑性樹脂10質量部を混合して190℃で1時間撹拌した際に粒子が消失するか、粒子の大きさが10%以上変化することを意味する。マトリクス樹脂不溶性熱可塑性樹脂とは、FRPを成形する温度又はそれ以下の温度において、マトリクス樹脂に実質的に溶解しない熱可塑性樹脂をいう。即ち、マトリクス樹脂100質量部に対して、平均粒子径が1〜50μmの熱可塑性樹脂10質量部を混合して190℃で1時間撹拌した際に、粒子の大きさが10%以上変化しない熱可塑性樹脂をいう。なお、一般的に、FRPを成形する温度は100〜190℃である。また、粒子径は、顕微鏡によって目視で測定され、平均粒子径とは、無作為に選択した100個の粒子の粒子径の平均値を意味する。
マトリクス樹脂可溶性熱可塑性樹脂が完全に溶解していない場合は、マトリクス樹脂組成物の硬化過程で加熱されることによりマトリクス樹脂に溶解し、マトリクス樹脂組成物の粘度を増加させることができる。これにより、硬化過程における粘度低下に起因するマトリクス樹脂組成物のフロー(プリプレグ内から樹脂組成物が流出する現象)を防止することができる。
[マトリクス樹脂可溶性熱可塑性樹脂]
マトリクス樹脂可溶性熱可塑性樹脂は、マトリクス樹脂の硬化温度においてマトリクス樹脂に80質量%以上溶解する樹脂が好ましい。
マトリクス樹脂可溶性熱可塑性樹脂の具体的例としては、例えば、マトリクス樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート等が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
マトリクス樹脂可溶性熱可塑性樹脂は、マトリクス樹脂と反応性を有する反応基又は水素結合を形成する官能基を有していることが好ましい。このようなマトリクス樹脂可溶性熱可塑性樹脂は、マトリクス樹脂の硬化過程中における溶解安定性を向上させることができる。また、硬化後に得られるFRPに靭性、耐薬品性、耐熱性及び耐湿熱性を付与することができる。
マトリクス樹脂との反応性を有する反応基としては、例えば、マトリクス樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、水酸基、カルボン酸基、イミノ基、アミノ基などが好ましい。水酸基末端のポリエーテルスルホンを用いると、得られるFRPの耐衝撃性、破壊靭性及び耐溶剤性が特に優れるためより好ましい。
マトリクス樹脂組成物に含まれるマトリクス樹脂可溶性熱可塑性樹脂の含有量は、マトリクス樹脂の粘度に応じて適宜調整される。プリプレグの加工性の観点から、マトリクス樹脂100質量部に対して、5〜100質量部が好ましく、5〜50質量部がより好ましく、10〜40質量部がさらに好ましい。
マトリクス樹脂可溶性熱可塑性樹脂の形態は、特に限定されないが、粒子状であることが好ましい。粒子状のマトリクス樹脂可溶性熱可塑性樹脂は、樹脂組成物中に均一に配合することができる。また、得られるプリプレグの成形性が高い。マトリクス樹脂可溶性熱可塑性樹脂の平均粒子径は、1〜50μmであることが好ましく、3〜30μmであることが特に好ましい。
[マトリクス樹脂不溶性熱可塑性樹脂]
マトリクス樹脂組成物には、マトリクス樹脂可溶性熱可塑性樹脂の他に、マトリクス樹脂不溶性熱可塑性樹脂を含有していても良い。本発明において、マトリクス樹脂組成物はマトリクス樹脂可溶性熱可塑性樹脂及びマトリクス樹脂不溶性熱可塑性樹脂の両者を含有していることが好ましい。
マトリクス樹脂不溶性熱可塑性樹脂やマトリクス樹脂可溶性熱可塑性樹脂の一部(硬化後のマトリクス樹脂において溶解せずに残存したエポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂)は、その粒子がFRPのマトリクス樹脂中に分散する状態となる(以下、この分散している粒子を「層間粒子」ともいう)。この層間粒子は、FRPが受ける衝撃の伝播を抑制する。その結果、得られるFRPの耐衝撃性が向上する。
マトリクス樹脂不溶性熱可塑性樹脂としては、例えば、マトリクス樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルニトリル、ポリベンズイミダゾールが例示される。これらの中でも、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミドは、靭性及び耐熱性が高いため好ましい。ポリアミドやポリイミドは、FRPに対する靭性向上効果が特に優れている。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用しても良い。また、これらの共重合体を用いることもできる。
特に、非晶性ポリイミドや、ナイロン6(登録商標)(カプロラクタムの開環重縮合反応により得られるポリアミド)、ナイロン12(ラウリルラクタムの開環重縮合反応により得られるポリアミド)、非晶性のナイロン(透明ナイロンとも呼ばれ、ポリマーの結晶化が起こらないか、ポリマーの結晶化速度が極めて遅いナイロン)のようなポリアミドを使用することにより、得られるFRPの耐熱性を特に向上させることができる。
マトリクス樹脂組成物中のマトリクス樹脂不溶性熱可塑性樹脂の含有量は、マトリクス樹脂組成物の粘度に応じて適宜調整される。プリプレグの加工性の観点から、マトリクス樹脂100質量部に対して、5〜60質量部であることが好ましく、15〜40質量部であることがより好ましい。マトリクス樹脂不溶性熱可塑性樹脂の好ましい平均粒子径や形態は、マトリクス樹脂可溶性熱可塑性樹脂と同様である。
[他の導電材]
マトリクス樹脂組成物は、必要に応じて、プリプレグ表面に配置される導電材以外に、繊維層のマトリクス樹脂中などに導電材を含んでいても良い。導電材としては、前述の導電材と同じものを用いることができる。導電材の配合量は、マトリクス樹脂組成物に含まれる主剤樹脂100質量部に対して、0.0001〜20質量部となるように配合することが好ましく、0.0005〜10質量部がより好ましく、0.001〜5質量部が特に好ましい。
[その他の添加剤]
マトリクス樹脂組成物は、上記成分以外に、本発明の目的・効果を阻害しない限り、必要に応じて、適宜、酸無水物、ルイス酸、ジシアンジアミド(DICY)やイミダゾール類の如く塩基性硬化剤、尿素化合物、有機金属塩、反応希釈剤、充填剤、酸化防止剤、難燃剤、顔料などの各種添加剤を含むことができる。
具体的には、酸無水物としては、無水フタル酸、トリメリット酸無水物、無水ピロメリット酸等が例示される。ルイス酸としては、三フッ化ホウ素塩類が例示され、更に詳細には、BFモノエチルアミン、BFベンジルアミン等が例示される。イミダゾール類としては、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールが例示される。また、尿素化合物である3−[3,4−ジクロロフェニル]−1,1−ジメチル尿素(DCMU)等や、有機金属塩であるCo[III]アセチルアセトネート等を例示することができる。反応性希釈剤としては、例えば、ポリプロピレンジグリコール・ジグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル等の反応性希釈剤が例示される。
次に、プリプレグの製造方法を以下に詳しく説明する。
(1−5) マトリクス樹脂組成物の製造方法
マトリクス樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの方法を用いてもよい。例えば、マトリクス樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合は、樹脂組成物製造時に適用される混練温度としては、10〜160℃の範囲が例示できる。160℃を超える場合は、エポキシ樹脂の熱劣化や、部分的に硬化反応が開始し、得られる樹脂組成物並びにそれを用いて製造されるプリプレグの保存安定性が低下する場合がある。10℃より低い場合は、エポキシ樹脂組成物の粘度が高く、実質的に混練が困難となる場合がある。好ましくは20〜130℃であり、更に好ましくは30〜110℃の範囲である。
混練機械装置としては、従来公知のものを用いることができる。具体的な例としては、ロールミル、プラネタリーミキサー、ニーダー、エクストルーダー、バンバリーミキサー、攪拌翼を供えた混合容器、横型混合槽などが挙げられる。各成分の混練は、大気中又は不活性ガス雰囲気下で行うことができる。大気中で混練が行われる場合は、温度、湿度管理された雰囲気が好ましい。特に限定されるものではないが、例えば、30℃以下の一定温度に管理された温度や、相対湿度50%RH以下の低湿度雰囲気で混練することが好ましい。
(1−6) プリプレグの製造方法
本発明のプリプレグは、マトリクス樹脂組成物を、強化繊維基材を構成する各繊維基材の間隙に含浸させてなる。樹脂の含有率は、プリプレグの全質量を基準として、15〜60質量%であることが好ましい。含有率が15質量%よりも少ない場合は、得られる複合材料に空隙などが発生し、機械特性を低下させる場合がある。含有率が60質量%を超える場合は、強化繊維による補強効果が不十分となり、実質的に質量対比機械特性が低いものになる場合がある。含有率は、好ましくは20〜50量%であり、より好ましくは25〜50質量%である。
ここで、マトリクス樹脂がエポキシ樹脂の場合、樹脂の含有率は、プリプレグを硫酸に浸漬し、必要により加熱し、エポキシ樹脂が分解して質量を減少させるために生じる質量変化量から算出される割合から求めることが出来る。
具体的には、先ず、プリプレグを100mm×100mmに切り出して試験片を作製し、その質量を測定する。次いで、このプリプレグの試験片を硫酸中で浸漬または煮沸を行い、樹脂分を分解して溶出させる。その後、残った繊維をろ別し、硫酸で洗浄し、乾燥し、乾燥繊維の質量を測定する。最後に、硫酸分解操作の前後の質量変化から樹脂の含有率を算出する。
プリプレグの形態は、強化繊維基材に、マトリクス樹脂組成物が含浸されている形状であれば、特に制限はないが、強化繊維と、前記強化繊維間に含浸されたマトリクス樹脂組成物とからなる繊維層と、前記繊維層の表面に被覆された樹脂層とからなるプリプレグであることが好ましい。樹脂層の厚みは2〜100μmが好ましい。樹脂層の厚みは、5〜50μmがより好ましく、10〜40μmが特に好ましい。
本発明において、強化繊維基材にマトリクス樹脂組成物を含浸して一体化させる方法は、特に制限が無く、従来公知のいかなる方法も採用できる。具体的には、ホットメルト法や、溶剤法が好適に採用でき、中でもホットメルト法を用いることが好ましい。
ホットメルト法は、離型紙の上に、上記マトリクス樹脂組成物を薄いフィルム状に塗布して樹脂組成物フィルムを形成し、次いで形成したフィルムを離型紙から剥離して樹脂組成物フィルムを得、その後強化繊維基材に樹脂組成物フィルムを積層して加圧下に加熱することにより樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させる方法である。
樹脂組成物を樹脂組成物フィルムにする方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの方法を用いることもできる。具体的には、ダイ押し出し、アプリケーター、リバースロールコーター、コンマコーターなどを利用し、離型紙、フィルムなどの支持体上に樹脂組成物を流延、キャストをすることにより得ることが出来る。フィルムを製造する際の樹脂温度としては、フィルムを製造する樹脂の組成、粘度に応じて適宜決定する。フィルムを製造する際の樹脂温度としては、10〜160℃の範囲が例示できる。160℃を超える場合は、樹脂組成物の熱劣化や、部分的な硬化反応が開始し、プリプレグの保存安定性が低下する場合がある。10℃より低い場合は、樹脂組成物の粘度が高く、フィルムの製造が困難となる場合がある。好ましくは20〜130℃であり、更に好ましくは30〜110℃の範囲である。
樹脂組成物フィルムを用いて強化繊維基材へマトリクス樹脂組成物を含浸させる際の含浸圧力は、その樹脂組成物の粘度・樹脂フローなどを勘案し、適宜決定する。含浸は1回ではなく、複数回に分けて任意の圧力と温度にて、多段的に行うこともできる。
マトリクス樹脂としてエポキシ樹脂を用い、エポキシ樹脂組成物フィルムをホットメルト法で強化繊維基材に含浸させる場合の含浸温度は、50〜150℃の範囲が好ましい。含浸温度は60〜145℃がより好ましく、70〜140℃が特に好ましい。
(1−7) 導電部の形成方法
本発明のプリプレグは、繊維層の片面または両面に、導電部が形成されている。導電部を形成する方法は、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。具体的には、前述の導電材Aをプリプレグ表面に散布する方法;導電材Aを配置した離型紙、または導電材Aを含んだ樹脂フィルムをプリプレグの表面に貼着する方法;導電材Aを含んで成る導電性ペーストを用いる方法などが挙げられる。
本発明において、繊維層の表面に配置される導電部は、例えば導電性フィラーを含む導電性ペーストをプリプレグ表面に配置することによって形成することができる。本発明において、導電性ペーストとは、導電材Aを樹脂などの分散材に分散したものをいう。導電材Aを分散させる分散材としては、溶媒や樹脂(バインダー樹脂)を用いることができ、マトリクス樹脂と相溶性のある樹脂を用いることが好ましく、マトリクス樹脂と同一の樹脂を用いることがより好ましい。マトリクス樹脂と相溶性のある樹脂を用いると、導電性ペーストに含まれるバインダー樹脂が、樹脂層のマトリクス樹脂と連続相を形成することができる。バインダー樹脂が樹脂層のマトリクス樹脂と連続相を形成することで、導電性ペーストとマトリクス樹脂の境界領域での破壊が抑制されるため、複合材料の機械特性が向上する。
分散材として溶媒を使用する場合は、導電性ペーストを配置した後、溶媒を除去することが好ましい。また、分散材として樹脂を使用する場合、熱硬化性樹脂、UV硬化樹脂等、硬化可能な樹脂を用いることが好ましい。
また、導電性ペーストのバインダー樹脂として、硬化性樹脂を用いる場合には、硬化性樹脂を半硬化(B−ステージ)の状態としてプリプレグに配置することも好ましい。B−ステージの樹脂に導電材Aが分散した状態で導電性ペーストをプリプレグの表面に配置することで、導電材Aが導電性ペースト周辺のマトリクス樹脂内に拡散することを防ぐことができるため、より精密に導電部を配置することができる。さらに、B−ステージの樹脂組成物は、複合材料を製造する際に、周囲のマトリクス樹脂と反応することができる。そのため、導電性ペーストのバインダー樹脂とマトリクス樹脂とが一体化した連続相を形成することができる。
導電性ペーストの体積固有抵抗は10Ωcm〜10−9Ωcmであることが好ましく、1Ωcm〜10−9Ωcmであることがより好ましく、10−2Ωcm〜10−9Ωcmであることがさらに好ましい。また、導電性ペーストに含まれる導電材Aの配合量は、体積占有率が20〜95体積%となるように配合することが好ましい。
導電部の形成に導電性ペーストを用いる場合、導電性ペーストをプリプレグ表面に所定間隔で直接配置して形成する方法;導電性ペーストを所定間隔で配置した樹脂フィルムをプリプレグ表面に貼着させる方法;マトリクス樹脂を繊維基材に含浸させる際に用いられるマトリクス樹脂フィルム上に、導電性ペーストを所定間隔で配置し、繊維基材と一体化させる方法などが挙げられる。導電性ペーストを樹脂フィルム上に配置する方法としては、離型紙などの支持体上に導電性ペーストを所定間隔で配置した後、樹脂を流延し樹脂フィルムを形成する方法;支持体上に樹脂を流延し、樹脂フィルムを作製した後、かかるフィルム上に導電性ペーストを所定間隔で配置する方法;導電性ペーストを所定間隔で配置したフィルムを樹脂フィルムに貼り合わせる方法;導電性ペーストを所定間隔で支持体の上に配置し、これを樹脂フィルムに転写する方法などが挙げられる。
樹脂フィルム上、または支持体やフィルム上に導電性ペーストを配置する場合、これらのフィルム上に、スクリーン印刷やインクジェット印刷、ディスペンサーによる塗布などの方法で導電性ペーストを配置しても良い。また、これらのフィルムを穿孔し、導電性ペーストを充填しても良い。
転写により導電部を形成する場合、転写の支持体は特に限定されるものではないが、シリコーン系離型剤などの離型剤を含んだ離型紙や、フッ素樹脂フィルムなどの離形フィルムなど、離形性を有する面状体であることが好ましい。
上記方法を用いて得られる本発明のプリプレグは、目的に応じて積層され、成形並びに硬化されて複合材料が製造される。この製造方法自体は公知である。本発明を用いて得られるプリプレグによれば、優れた導電性と機械特性とを兼ね備えた本発明の繊維強化複合材料を得ることができる。
2.表面改質強化繊維
(2−1) 表面改質強化繊維
本発明の表面改質強化繊維は、強化繊維と、この強化繊維の表面に付着する有機金属錯体及び/又は有機金属錯体熱分解物と、から成る。
本発明で用いる強化繊維は、特に制限はないが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、セラミック繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、鉱物繊維、金属繊維、岩石繊維及びスラッグ繊維などの強化繊維を用いることができる。得られる繊維強化複合材料の導電性を優れたものにするために、導電性繊維であることが好ましい。導電性繊維としては、例えば、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、金属繊維が挙げられる。
これらの強化繊維の中でも、比強度、比弾性率が良好で、軽量かつ高強度の繊維強化複合材料が得られる点で、炭素繊維がより好ましい。引張強度に優れる点でポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維が特に好ましい。
PAN系炭素繊維を用いる場合、その引張弾性率は、100〜600GPaであることが好ましく、より好ましくは200〜500GPaであり、230〜450GPaであることが特に好ましい。また、引張強度は2000MPa〜10000MPa、好ましくは3000〜8000MPaである。炭素繊維の直径は4〜20μmが好ましく、5〜10μmがより好ましい。このような炭素繊維を用いることにより、繊維強化複合材料の機械的性質を向上できる。
本発明で用いる有機金属錯体は、熱分解によって有機金属錯体熱分解物を生成する金属錯体である。熱分解の温度としては200℃以下であることが好ましく、80〜200℃であることが好ましく、100〜160℃であることがより好ましい。この温度範囲で熱分解することにより、成形時の加熱によって強化繊維に付着した有機金属錯体が熱分解して有機金属錯体熱分解物たる金属を強化繊維の表面に生成することができる。
有機金属錯体を構成する金属としては、白金、金、銀、銅、錫、ニッケル、チタン、コバルト、亜鉛、鉄、クロム、アルミニウムが例示されるが、銀であることが高い導電性を得る観点から好ましい。有機銀錯体としては、特に限定されないが、例えば以下に記載する有機銀錯体を例示できる。
有機銀錯体としては、下記化学式(1)
Figure 2018145582
(但し、上記化学式(1)中、nは1〜4の整数であり、Xは、酸素、硫黄、ハロゲン、シアノ、シアネート、カーボネート、ニトレート、ニトライト、サルフェート、ホスフェート、チオシアネート、クロレート、パークロレート、テトラフルオロボレート、アセチルアセトネート、及びカルボキシレートである。)
で表される銀化合物と、
下記化学式(2)〜(4)
Figure 2018145582
Figure 2018145582
Figure 2018145582
から選択される1つ以上のアンモニウムカルバメート系化合物又はアンモニウムカーボネート系化合物と、
を反応させて得られる有機銀錯体が例示される。
(但し、上記化学式(2)〜(4)中、R乃至Rは、それぞれ水素、炭素数1〜30個の脂肪族アルキル基、脂肪族アリール基、脂環族アルキル基、脂環族アリール基又はこれらの混合であるアラルキル基、置換基を有するアルキル基及びアリール基、ヘテロ環化合物基、高分子化合物基又はその誘導体からなる基である。R乃至Rは、互いに同じでも異なっていてもよい。)
上記化学式(1)で表される銀化合物としては、酸化銀、チオシアネート化銀、硫化銀、塩化銀、シアン化銀、シアネート化銀、炭酸銀、硝酸銀、亜硝酸銀、硫酸銀、リン酸銀、過塩素酸化銀、四フッ素ボレート化銀、アセチルアセトネート化銀、酢酸銀、乳酸銀、シュウ酸銀及びその誘導体などが挙げられる。酸化銀や炭酸銀を使用することが好ましい。
上記化学式(2)〜(4)中、R乃至Rとしては、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、アミル、ヘキシル、エチルヘキシル、ヘプチル、オクチル、イソオクチル、ノニル、デシル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、ドコデシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、アリル、ヒドロキシ、メトキシ、ヒドロキシエチル、メトキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、メトキシプロピル、シアノエチル、エトキシ、ブトキシ、ヘキシルオキシ、メトキシエトキシエチル、メトキシエトキシエトキシエチル、ヘキサメチレンイミン、モルホリン、ピペリジン、ピペラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ピロール、イミダゾール、ピリジン、カルボキシメチル、トリメトキシシリルプロピル、トリエトキシシリルプロピル、フェニル、メトキシフェニル、シアノフェニル、フェノキシ、トリル、ベンジル及びその誘導体、そしてポリアリルアミンやポリエチレンイミンのような高分子化合物基及びその誘導体などが挙げられる。
上記化学式(1)で表されるアンモニウムカルバメート系化合物又はアンモニウムカーボネート系化合物としては、アンモニウムカルバメート、アンモニウムカーボネート、アンモニウムバイカーボネート、エチルアンモニウムエチルカルバメート、イソプロピルアンモニウムイソプロピルカルバメート、n−ブチルアンモニウムn−ブチルカルバメート、イソブチルアンモニウムイソブチルカルバメート、t−ブチルアンモニウムt−ブチルカルバメート、2−エチルヘキシルアンモニウム2−エチルヘキシルカルバメート、オクタデシルアンモニウムオクタデシルカルバメート、2−メトキシエチルアンモニウム2−メトキシエチルカルバメート、2−シアノエチルアンモニウム2−シアノエチルカルバメート、ジブチルアンモニウムジブチルカルバメート、ジオクタデシルアンモニウムジオクタデシルカルバメート、メチルデシルアンモニウムメチルデシルカルバメート、ヘキサメチレンイミンアンモニウムヘキサメチレンイミンカルバメート、モルホリニウムモルホリンカルバメート、ピリジニュムエチルヘキシルカルバメート、トリエチレンジアミニウムイソプロピルバイカルバメート、ベンジルアンモニウムベンジルカルバメート、トリエトキシシリルプロピルアンモニウムトリエトキシシリルプロピルカルバメート、エチルアンモニウムエチルカーボネート、イソプロピルアンモニウムイソプロピルカーボネート、イソプロピルアンモニウムバイカーボネート、n−ブチルアンモニウムn−ブチルカーボネート、イソブチルアンモニウムイソブチルカーボネート、t−ブチルアンモニウムt−ブチルカーボネート、t−ブチルアンモニウムバイカーボネート、2−エチルヘキシルアンモニウム2−エチルヘキシルカーボネート、2−エチルヘキシルアンモニウムバイカーボネート、2−メトキシエチルアンモニウム2−メトキシエチルカーボネート、2−メトキシエチルアンモニウムバイカーボネート、2−シアノエチルアンモニウム2−シアノエチルカーボネート、2−シアノエチルアンモニウムバイカーボネート、オクタデシルアンモニウムオクタデシルカーボネート、ジブチルアンモニウムジブチルカーボネート、ジオクタデシルアンモニウムジオクタデシルカーボネート、ジオクタデシルアンモニウムバイカーボネート、メチルデシルアンモニウムメチルデシルカーボネート、ヘキサメチレンイミンアンモニウムヘキサメチレンイミンカーボネート、モルホリンアンモニウムモルホリンカーボネート、ベンジルアンモニウムベンジルカーボネート、トリエトキシシリルプロピルアンモニウムトリエトキシシリルプロピルカーボネート、ピリジニウムバイカーボネート、トリエチレンジアミニウムイソプロピルカーボネート、トリエチレンジアミニウムバイカーボネート及びその誘導体などが挙げられる。
このような有機銀錯体の製造方法は公知であり、例えば特表2014−516463号公報に記載されている。このような有機銀錯体としては市販品を用いることもできる。市販品としては、インクテックカンパニーリミテッド社製の各種錯体銀インクの中から上記温度範囲で熱分解するものを選択して用いることができる。
強化繊維に付着する有機金属錯体及び/又は有機金属錯体熱分解物の量は、強化繊維の質量に対して8質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることがより好ましく、0.5質量%未満であることがさらに好ましく、0.25質量%未満であることが特に好ましく、0.2質量%未満であることがより好ましい。有機金属錯体及び/又は有機金属錯体熱分解物の付着量の下限値は、特に限定されないが、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましく、0.03質量%以上であることがさらに好ましく、0.04質量%以上であることが特に好ましい。8質量%以上である場合、導電性物質の付着量に対する導電性向上の効果が小さくなり、主として経済性の観点から好ましくない。0.01質量%未満である場合、導電性向上の効果が小さくなる場合がある。
本発明の表面改質強化繊維から成る強化繊維層と、マトリクス樹脂組成物と、から成る繊維強化複合材料は、導電性物質の使用量がわずかであっても高い導電性を示す。本発明の表面改質強化繊維を用いた繊維強化複合材料は、強化繊維層に対して垂直方向、即ち厚さ方向への体積抵抗率が低く、8Ω・cm以下の繊維強化複合材料を得ることができる。
繊維強化複合材料は、強化繊維層に対して垂直方向、即ち厚さ方向への体積抵抗率が1.0×10−7〜8Ω・cmであり、1.0×10−6〜6Ω・cmであることが好ましく、1.0×10−6〜4Ω・cmであることがより好ましい。
(2−2) 表面改質強化繊維の製造方法
本発明の表面改質強化繊維は、有機金属錯体を含有する水溶液(以下、「錯体水溶液」ともいう)を強化繊維に付着させた後、乾燥することによって製造される。
錯体水溶液の錯体濃度は特に限定されないが、0.1〜100g/Lであることが好ましく、1〜50g/Lであることがより好ましい。0.1g/L未満である場合、強化繊維に付着する有機金属錯体の量が少な過ぎて十分な導電性を付与し難い。100g/Lを超える場合、主として経済性の観点から好ましくない。
錯体水溶液は、強化繊維を集束するサイジング剤として用いることもできる。係る場合、公知のサイジング剤に有機金属錯体を添加して用いることもできる。
錯体水溶液が付着した強化繊維は、必要に応じて脱水された後、乾燥される。乾燥温度は特に限定されない。強化繊維に付着した有機金属錯体は、この乾燥工程においてその一部又は全部が熱分解しても良い。また、乾燥工程の後に熱処理工程を設けて有機金属錯体を熱分解しても良い。あるいは、後述する繊維強化複合材料の成形時の加熱により、熱分解しても良い。なお、有機金属錯体は必ずしも最終的に熱分解される必要はない。
強化繊維への錯体水溶液の付着は、単繊維や繊維束の状態で行っても良いし、後述の繊維強化基材を形成した後に行っても良い。
強化繊維への錯体水溶液の付着方法は、特に限定されないが、錯体水溶液の浴中に強化繊維を浸漬する方法や、強化繊維に錯体水溶液を噴霧する方法が例示される。
強化繊維に付着した錯体水溶液の乾燥方法は、特に限定されないが、冷風又は熱風を用いる乾燥や自然乾燥、減圧乾燥、熱ローラーに接触させる乾燥が例示される。
3. 繊維強化複合材料
本発明の繊維強化複合材料は、本発明のプリプレグを目的に応じて積層し、成形並びに硬化させることで、従来公知の方法により製造することができる。複合材料の製造方法としては、例えば、マニュアルレイアップ、自動テープレイアップ(ATL)、自動繊維配置、真空バギング、オートクレーブ硬化、オートクレーブ以外の硬化、流体援用加工、圧力支援プロセス、マッチモールドプロセス、単純プレス硬化、プレスクレーブ硬化、又は連続バンドプレスを使用する方法が適用される。
繊維強化複合材料は、強化繊維層に対して垂直方向、即ち厚さ方向への体積抵抗率が1.0×10−7〜8Ω・cmであり、1.0×10−6〜6Ω・cmであることが好ましく、1.0×10−6〜4Ω・cmであることがより好ましい。
繊維強化複合材料は、マトリクス樹脂組成物の含有率が、繊維強化複合材料の全質量を基準として、15〜60質量%であることが好ましい。含有率が15質量%よりも少ない場合は、得られる繊維強化複合材料に空隙などが発生し、機械特性を低下させる場合がある。含有率が60質量%を超える場合は、強化繊維による補強効果が不十分となり、実質的に質量対比機械特性が低いものになる場合がある。好ましくは、含有率は、20〜50質量%であり、より好ましくは25〜50質量%である。
このようにして得られる繊維強化複合材料は、優れた導電性を有し、放電による損傷を抑制できるため、電磁遮蔽、静電気保護、電流リターン、及び導電性が必要な多くの用途に適用できる。特に、航空宇宙部品、風力タービン、圧力容器、建物、船舶、列車、自動車、燃料タンク及びその他の分野において、電磁気的な諸問題を解決するために使用することができる。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本実施例、比較例において使用する成分や試験方法を以下に記載する。
〔成分〕
[強化繊維基材]
・CF−1:炭素繊維ストランド 「テナックス」 IMS60(商品名)
引張強度:5800MPa、引張弾性率:290GPa、フィラメント数:12000
・CF−2:金属被覆炭素繊維ストランド 「テナックス」 HTS40 MC(商品名)
引張強度:2900MPa、引張弾性率:230GPa、被覆金属:ニッケル
[有機金属錯体]
・有機銀錯体ペースト:[インクテックカンパニーリミテッド社製のTEC−PA−010(商品名)]
[エポキシ樹脂組成物]
(エポキシ樹脂)
・グリシジルアミン型エポキシ樹脂 (3官能基) [ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製アラルダイトMY0600(商品名)] (MY0600)
・グリシジルアミン型エポキシ樹脂 (4官能基) [ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製アラルダイトMY721(商品名)] (MY721)
(エポキシ樹脂硬化剤)
・4,4’−ジアミノジフェニルスルホン [和歌山精化社製の芳香族アミン系硬化剤] (4,4’−DDS)
(熱可塑性樹脂)
・熱可塑性樹脂A
平均粒子径20μmのポリエーテルスルホン [住友化学工業(株)製PES−5003P(商品名)](エポキシ樹脂に可溶な熱可塑性樹脂)
・熱可塑性樹脂B
平均粒子径20μmのグリルアミド [エムスケミージャパン社製TR−55(商品名)] (エポキシ樹脂に不溶な熱可塑性樹脂)
[導電材料]
(導電性ペースト)
銀ペースト:サンユレック株式会社製エレクトロニクス用導電性接着剤 GA−6278(商品名)(導電材A:銀微粒子(平均粒子径:2μm)、 分散材:エポキシ樹脂、 体積抵抗率:5×10−4Ωcm)
(導電材B)
・銀コートシリカ粒子 TFM S02P(平均粒子径2μm(カタログ値))[東洋アルミニウム(株)製]
・グラファイト BF−3AK(平均粒子径3μm(カタログ値))[株式会社中越黒鉛工業所製]
[測定方法]
(1)繊維層の厚み測定
プリプレグをカット後、積層構成[+45/0/−45/90]2Sの積層体を得た。オートクレーブを用い、0.49MPaの圧力下、180℃で120分間の条件で成形した。成型体の断面を、サンドペーパーを用いて、成形物の表面を炭素繊維が露出するまで研磨した。最後に、2000番のサンドペーパーを用いて表面仕上げを行い、試験片を得た。得られた試験片を、顕微鏡で300倍に拡大し、繊維層の厚みを30点測定し、その平均値を繊維層の厚み(t)とした。
(2)Z方向体積抵抗率測定
本発明において、繊維層および積層体の電気抵抗は、Z方向(厚さ方向)の体積抵抗率を用いて評価した。体積抵抗率とは、所与の材料の固有抵抗である。三次元材料の導電率の測定の単位はオーム−cm(Ωcm)である。材料のZ方向体積抵抗率ρは、通常下式により定義される。
ρ= RA/d
R:試験片の電気抵抗値(デジタルオームメーターで測定)
d:試験片の厚さ(m)
A:試験片の断面積 (m
本発明においては、体積抵抗はZ方向にのみ(複合材料の厚み方向)測定する。計算においては厚みが常に考慮されるので、すべての場合において、この値は「体積」抵抗率となる。
(繊維層のZ方向体積抵抗率測定用試料の作製方法)
1ply(1層)のプリプレグをカット後、オートクレーブを用い、0.49MPaの圧力下、180℃で120分間加熱し成形した。得られた成形物を幅 40mm × 長さ 40mmの寸法に切断し、サンドペーパーを用いて、成形物の表面を炭素繊維が露出するまで研磨した。最後に、2000番のサンドペーパーを用いて表面仕上げを行い、試験片を得た。かかる研磨処理により、プリプレグ表面の樹脂層が除去され、繊維層の厚み方向の体積抵抗率が測定される。得られた試験片を、幅50mm×長さ50mmの金メッキを施した2枚の電極間に挟んだ。
両電極間に0.06MPaの荷重をかけた状態で、デジタルオームメーター(ADEX社製 AX−114N)でZ方向の試験片の抵抗値を測定し、上式から体積抵抗率を求めた。10枚の試験片について抵抗値を測定し、体積抵抗率を算出し、その平均値を用いて評価した。
(積層体のZ方向体積抵抗率測定用試料の作製方法)
プリプレグをカット、積層し、積層構成[+45/0/−45/90]2Sの積層体を得た。真空オートクレーブ成形法を用い、0.49MPaの圧力下、180℃で120分間成形した。得られた成形物を幅 40mm × 長さ 40mmの寸法に切断し、サンドペーパーを用いて、成形物の表面を炭素繊維が露出するまで研磨した。最後に、2000番のサンドペーパーを用いて表面仕上げを行い、試験片を得た。得られた試験片を、幅50mm×長さ50mmの金メッキを施した2枚の電極間に挟んだ。
両電極間に0.06MPaの荷重をかけた状態で、デジタルオームメーター(ADEX社製 AX−114N)でZ方向の試験片の抵抗値を測定し、上式から体積抵抗率を求めた。10枚の試験片について抵抗値を測定し、体積抵抗率を算出し、その平均値を用いて評価した。
(3)導電部の平均間隔の測定方法
プリプレグをカット後、更にその両面に樹脂フィルムを積層し、積層体を得た。オートクレーブを用い、0.49MPaの圧力下、180℃で120分間の条件で成形した。成型体の表面を光学顕微鏡で20倍に拡大し観察した。無作為に抽出した1つの導電部を中心にして平面を90度毎4象限に分割し、それぞれの象限毎に最も近い距離にある隣接導電部との距離を測定した。導電部30点に対し同様に4つの隣接導電部との距離を測定し、それらの算術平均値を導電部の平均間隔Lとした。
(4)エッジグロー放電の測定方法
プリプレグをカット後、積層構成[+45/0/−45/90]3Sの積層体を得た。得られた積層体を360mm×50mmの大きさにカットした後、オートクレーブを用い、0.49MPaの圧力下、180℃で120分間の条件で成形した。
得られた成形板の中央及び両端に電極を通し、中央部の電極から20kAおよび30kAの電流をそれぞれ流し、試験片の側面からの放電による発光の有無を目視にて確認した。
(5)改質強化繊維の導電性物質付着量
導電性物質付着前の繊維質量(W)と導電性物質付着後の繊維質量(W)とを測定し、下式により付着量を算出した。
付着量[質量%] = (W−W)÷ W × 100
(実施例1)
直径50μmのドット(円)状の開孔を幅方向、長さ方向それぞれ0.32cm間隔で格子状に配置させたスクリーン印刷版を用意した。FEPフィルム上にサンユレック株式会社製真空印刷機VPES−HAIVを使用し、導電材Aとして銀微粒子を含む銀ペーストを印刷した。印刷時の圧力は100KPa、クリアランスは1mmであった。印刷後、120℃で120分間乾燥した。印刷後の導電性ペーストの形状は直径40μm、高さ30μmの半球状であった。
次いで、混練装置で、エポキシ樹脂である50質量部のMY0600と50質量部のMY721に、可溶性熱可塑性樹脂である10質量部のポリエーテルスルホン5003P(熱可塑性樹脂A)を添加し、120℃で30分間攪拌機を用いて撹拌し、熱可塑性樹脂Aを完全溶解させエポキシ樹脂組成物を調製した。次いで、調製したエポキシ樹脂組成物を、フィルムコーターを用いて離型フィルム上に塗布し、表層用樹脂フィルム(樹脂目付:10g/m)を得た。得られた表層用樹脂フィルムの表面に、導電性ペーストがスクリーン印刷されたFEPフィルムを、印刷面がエポキシ樹脂組成物に接するようにして貼り合わせた。その後、FEPフィルムを剥がし、導電性ペーストを表層用樹脂フィルムに転写させた。転写後の導電性ペーストは半球体の形態を保っていた。
次いで、新たに、50質量部のMY600と50質量部のMY721に、10質量部の熱可塑性樹脂Aを添加し、120℃で30分間攪拌機を用いて撹拌し、熱可塑性樹脂Aを完全溶解させた後、樹脂温度を80℃以下に冷却した。その後、30質量部の熱可塑性樹脂Bを混練し、さらに4,4’−DDSを45質量部混練して、エポキシ樹脂組成物を調製した。調製した樹脂組成物を、フィルムコーターを用いて離型紙上に塗布して40g/mの含浸用樹脂フィルムを作製した。
ついで、強化繊維ストランドとしてCF−1を導電材Bとして銀コートシリカ粒子を2.5質量%混合した水溶液に浸し、繊維表面に導電材Bを付着させた。強化繊維への導電材付着量は2wt%であった。導電材Bを付着させた強化繊維を一方向に引き揃え、繊維目付け190g/mの強化繊維基材とした。得られた強化繊維基材の両面に、含浸用樹脂フィルムを貼り合わせ、ホットメルト法により、樹脂組成物を繊維基材に含浸させ一次プリプレグを作製した。得られた一次プリプレグの両面に、導電性ペーストを転写させた表層用樹脂フィルムを、導電性ペーストが繊維基材と接するように貼り合わせプリプレグを作製した。
作製したプリプレグを用いて繊維層の体積抵抗率測定試料を成形し、導電性を評価した。繊維層の体積抵抗率(ρ)は、5Ωcmを示した。また、繊維層の厚みを測定したところ、190μmであった。
実施例1で得られたプリプレグを用いて作製した複合材料(積層体)の評価結果を表1に示した。式(1)の値が、1.19である実施例1では、20kAを付与した際にエッジグロー放電は発生しなかった。
(実施例2、3、比較例1)
スクリーン印刷版のドットの大きさと間隔を変更し、導電材Aの配合量および繊維層を変更せずに、導電部の直径、導電部間の距離(L)を表1の値とした以外は実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層体を作製した。得られた積層体の評価結果を表1に示した。式(1)の値が、0.5を超える実施例2、3では、いずれも20kAを付与した際にエッジグロー放電は発生しなかった。
一方、同量の導電材Aを添加し、同じ繊維層を用いているにもかかわらず、式(1)の値が、0.25であった比較例1では、20kAの電流によりエッジグロー放電が発生した。
(実施例4、5、比較例2)
スクリーン印刷版の間隔を変更し、導電部間の距離(L)を表1の値とした以外は実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層体を作製した。得られた積層体の評価結果を表1に示した。式(1)の値が、0.5を超える実施例4,5では、いずれも20kAを付与した際エッジグロー放電は発生しなかった。
一方、式(1)の値が、0.38であった比較例2では、20kAの電流によりエッジグロー放電が発生した。
(比較例3)
強化繊維に導電材Bを付着させなかった以外は実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層体を作製した。強化繊維に導電材Bを付着させなかったため、繊維層の体積抵抗率(ρ)は、100Ωcmと実施例1と比べ高くなった。
得られた積層体の評価結果を表1に示した。式(1)の値が、0.06と低い比較例3の積層体では、20kAの電流によりエッジグロー放電が発生した。
(実施例6)
強化繊維に付着させた導電材Bの量を0.5質量%に変更した以外は実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層体を作製した。繊維層の体積抵抗率(ρ)は、10Ωcmと実施例1と比べやや高くなった。
得られた積層体の評価結果を表2に示した。式(1)の値が、0.59の実施例6の積層体では、20kAの電流ではエッジグロー放電は発生しなかった。
(実施例7)
強化繊維として、CF−1に変えて金属被覆炭素繊維であるCF−2を用いた以外は比較例3と同様にしてプリプレグおよび積層体を作製した。強化繊維として金属被覆炭素繊維を用いたため、繊維層の体積抵抗率(ρ)は、3.5Ωcmと低くなった。
得られた積層体の評価結果を表2に示した。式(1)の値が、1.70の実施例7の積層体では、20kAの電流ではエッジグロー放電は発生しなかった。
(実施例8)
強化繊維に付着させた導電材Bとして、銀コートシリカ粒子に変えてグラファイトを用いた以外は実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層体を作製した。繊維層の体積抵抗率(ρ)は、10Ωcmと実施例1と比べやや高くなった。
得られた積層体の評価結果を表2に示した。式(1)の値が、0.59の実施例8の積層体では、20kAの電流ではエッジグロー放電は発生しなかった。
(比較例4、実施例9、10)
強化繊維基材の目付けを変更し、繊維層の厚みを変更した以外は実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層体を作製した。
得られた積層体の評価結果を表2に示した。式(1)の値が、0.5を超える実施例9、10の積層体では、いずれも20kAの電流ではエッジグロー放電は発生しなかった。
一方、式(1)の値が、0.47の比較例4の積層体は、CFRPの厚み方向の体積低効率が低いにもかかわらず、20kAの電流でエッジグロー放電が発生した。
(実施例11)
実施例1と同様にして導電性ペーストを転写した表層用樹脂フィルム(樹脂目付:10g/m)を得た。
次いで、新たに、50質量部のMY600と50質量部のMY721に、10質量部の熱可塑性樹脂Aを添加し、120℃で30分間攪拌機を用いて撹拌し、熱可塑性樹脂Aを完全溶解させた後、樹脂温度を80℃以下に冷ました。その後、30質量部の熱可塑性樹脂Bと、10質量部の銀コートシリカ粒子を混練し、さらに4,4’−DDSを45質量部混練して、エポキシ樹脂組成物を調製した。調製した樹脂組成物を、フィルムコーターを用いて離型紙上に塗布して40g/mの含浸用樹脂フィルムを作製した。
次いで、強化繊維ストランドとして導電材Bを付着させていないCF−1を一方向に引き揃え、繊維目付け190g/mの強化繊維基材とした。得られた強化繊維基材の両面に、含浸用樹脂フィルムを貼り合わせ、ホットメルト法により、樹脂組成物を繊維基材に含浸させて一次プリプレグを作製した。得られた一次プリプレグの両面に、導電性ペーストを転写させた表層用樹脂フィルムを、導電性ペーストが繊維基材と接するように貼り合わせプリプレグを作製した。
作製したプリプレグを用いて繊維層の体積抵抗率測定試料を成形し、導電性を評価した。繊維層の体積抵抗率は、10Ωcmを示した。
得られた積層体の評価結果を表2に示した。式(1)の値が、0.59である実施例11の積層体では、20kAを付与した際エッジグロー放電は発生しなかった。
(実施例12)
混練装置で、エポキシ樹脂である50質量部のMY0600と50質量部のMY721に、可溶性熱可塑性樹脂である10質量部のポリエーテルスルホン5003P(熱可塑性樹脂A)を添加し、120℃で30分間攪拌機を用いて撹拌し、熱可塑性樹脂Aを完全溶解させエポキシ樹脂組成物を調製した。次いで、調製したエポキシ樹脂組成物を、フィルムコーターを用いて離型フィルム上に塗布し、表層用樹脂フィルム(樹脂目付:10g/m)を得た。導電性ペーストを凍結粉砕し、表層用樹脂フィルムの表面に、散布した。
次いで、実施例1と同様にして含浸用樹脂フィルムおよび強化繊維基材を作製した。得られた強化繊維基材の両面に、含浸用樹脂フィルムを貼り合わせ、ホットメルト法により、樹脂組成物を繊維基材に含浸させ一次プリプレグを作製した。得られた一次プリプレグの両面に、導電性ペーストを散布した表層用樹脂フィルムを、導電性ペーストが繊維基材と接するように貼り合わせプリプレグを作製した。
得られた積層体の評価結果を表2に示した。式(1)の値が、1.19である実施例12の積層体では、20kAを付与した際エッジグロー放電は発生しなかった。
Figure 2018145582
Figure 2018145582
(実施例13)
前駆体繊維であるPAN繊維(単繊維繊度1.2dtex、フィラメント数24000)を、空気中250℃で、繊維比重1.35になるまで耐炎化処理を行い、次いで窒素ガス雰囲気下、最高温度500℃で低温炭素化させた。その後、窒素雰囲気下1300℃で高温炭素化させて製造した炭素繊維を、10質量%の硫酸アンモニウム水溶液を用い、20C/gの電気量で電解酸化により表面処理を行い、未サイジング炭素繊維束(引張強度5000MPa、引張弾性率250GPa、炭素含有量98質量%、フィラメント数24000、総繊度1600tex)を得た。
得られた未サイジング表面改質炭素繊維束に、エポキシ系サイジング剤を1.0質量%付着させた。
次いで、得られた炭素繊維束を有機銀錯体水溶液(銀錯体濃度15g/L)の浴中に浸漬させた後、乾燥して表面改質炭素繊維束を作製した。有機銀錯体(分解物含む)の付着量は0.1質量%であった。
その後、この表面改質炭素繊維束を一方向に引き揃え、表面改質炭素繊維基材(目付:190g/m)を作製した。
混練装置で、50質量部のMY600と50質量部のMY721に、10質量部の熱可塑性樹脂を添加し、120℃で30分間攪拌機を用いて撹拌し、熱可塑性樹脂を完全溶解させた後、樹脂温度を80℃以下に冷ました。その後、4,4’−DDSを45質量部混練して、エポキシ樹脂組成物を調製した。調製した樹脂組成物を、フィルムコーターを用いて離型紙上に塗布して50g/mのマトリクス樹脂フィルムを作製した。
表面改質炭素繊維基材の両面に、マトリクス樹脂フィルムを貼り合わせ、ホットメルト法により、樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させ、プリプレグを作製した。
作製したプリプレグを用いて体積抵抗率測定試料を成形し、繊維強化複合材料の導電性を評価した。得られた繊維強化複合材料の電気抵抗は、1.6Ω・cmであった。
(実施例14)
有機銀錯体水溶液の銀錯体濃度を変更して表3に記載するとおりの付着量を有する表面改質炭素繊維束を作製した他は、実施例13と同様の方法でプリプレグ及び繊維強化複合材料を作製し、導電性を評価した。
(参考例1)
参考例1では、以下の手法により、実施例14と同量の有機金属錯体を炭素繊維束に付着させるのに変えて、マトリクス樹脂組成物に混合してプリプレグを得た。
実施例13と同様の方法で未サイジング炭素繊維束を作製した。
得られた未サイジング炭素繊維束に、エポキシ系サイジング剤を1.0質量%付着させた後、一方向に引き揃え、導電性物質の付着していない炭素繊維基材(目付:190g/m)を作製した。
混練装置で、50質量部のMY600と50質量部のMY721に、10質量部の熱可塑性樹脂、有機銀錯体0.2質量部を添加し、120℃で30分間攪拌機を用いて撹拌し、熱可塑性樹脂を完全溶解させた後、樹脂温度を80℃以下に冷ました。その後、4,4’−DDSを45質量部混練して、エポキシ樹脂組成物を調製した。調製した樹脂組成物を、フィルムコーターを用いて離型紙上に塗布して50g/mのマトリクス樹脂フィルムを作製した。
炭素繊維基材の両面に、マトリクス樹脂フィルムを貼り合わせ、ホットメルト法により、樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させ、プリプレグを作製した。プリプレグ中の炭素繊維の質量に対する有機金属錯体の添加量は表3に示した。
作製したプリプレグを用いて体積抵抗率測定試料を成形し、繊維強化複合材料の導電性を評価した。評価結果は表1に示した。
Figure 2018145582
(実施例15)
強化繊維ストランドとして、実施例13で得られた表面改質強化繊維を用いた以外は実施例1と同様にして同様にしてプリプレグおよび積層体を作製した。繊維層の体積抵抗率(ρ)は、前述の通り1.6Ωcmと実施例1と比べ低い。
得られた積層体の評価結果を表4に示した。式(1)の値が、3.7の実施例15の積層体では、20kAの電流ではエッジグロー放電は発生しなかった。
(実施例16)
強化繊維ストランドとして、実施例14で得られた表面改質強化繊維を用いた以外は実施例1と同様にして同様にしてプリプレグおよび積層体を作製した。繊維層の体積抵抗率(ρ)は、前述の通り2.3Ωcmと実施例1と比べ低い。
得られた積層体の評価結果を表4に示した。式(1)の値が、2.6の実施例16の積層体では、20kAの電流ではエッジグロー放電は発生しなかった。
Figure 2018145582

Claims (6)

  1. 強化繊維と、
    前記強化繊維の表面に付着する有機金属錯体及び/又は有機金属錯体熱分解物と、
    から成ることを特徴とする表面改質強化繊維。
  2. 前記有機金属錯体が、有機銀錯体である請求項1に記載の表面改質強化繊維。
  3. 前記有機金属錯体及び/又は有機金属錯体熱分解物の付着量が、前記強化繊維の質量に対して1質量%未満である請求項1又は2に記載の表面改質強化繊維。
  4. 有機金属錯体を含有する水溶液を強化繊維に付着させた後、乾燥することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面改質強化繊維の製造方法。
  5. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面改質強化繊維から成る強化繊維層と、
    前記強化繊維層に含浸したマトリクス樹脂組成物と、
    を含んで成ることを特徴とするプリプレグ。
  6. 導電性物質が付着して成る表面改質強化繊維から成る強化繊維層と、
    マトリクス樹脂組成物と、
    から成る繊維強化複合材料であって、
    前記導電性物質の付着量が前記表面改質強化繊維の質量に対して8質量%未満であり、
    前記強化繊維層に対して垂直方向への体積抵抗率が8Ω・cm以下であることを特徴とする繊維強化複合材料。
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