JP2018135592A - 高圧水素用オーステナイト系ステンレス鋼 - Google Patents

高圧水素用オーステナイト系ステンレス鋼 Download PDF

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Abstract

【課題】Moを積極添加せず、−60℃の低温においても水素脆化感受性が低く、かつ冷間加工に頼らず、固溶化熱処理ままで、高耐力、高硬さの得られる高圧水素用オーステナイト系ステンレス鋼を提供すること。【解決手段】化学成分が、質量%で、C:0.40〜1.00%、Si:1.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Ni:8.00〜14.00%、Cr:16.00〜21.00%、N:0.09%以下を含有し、残部Fe及び不純物元素からなり、54.8C+3.7Ni+2.5Mn−1.6Cr−0.9Si+266N−39.6>0の条件を満足し、鋼中にCr炭化物が、面積率で23%以上存在することを特徴とする高圧水素用オーステナイト系ステンレス鋼。【選択図】図1

Description

本発明は、特に配管継手やバルブ等、高圧水素用ガスに接触する部位への適用に好適な高圧水素用オーステナイト系ステンレス鋼に関する。
たとえば、燃料電池自動車や燃料電池自動車に燃料である水素ガスを補給する水素ステーションでは、高圧の水素ガスを取り扱うための配管継手やバルブ、安全弁、ブースター等の高圧水素用機器が多数用いられている。
これらの機器は、その設計を容易とするため高圧水素環境においても顕著な延性低下を示さないことが求められる。さらには、機器の軽量化および、省資源化の観点から、高い0.2%耐力が求められる。また、チェックバルブやバルブ等、部品の擦動がある場合においては、部品の摩滅を低減する観点からも、高い硬さが求められる。
また、高圧水素用機器は、開放検査等を行うことがあり、その場合には、機器を分解しなければならないことがある。この際には、部品を脱着することになるため、繰返し脱着した場合でもネジ部等において、塑性変形を小さく抑えられるようにする必要があり、この点からも、高い0.2%耐力と硬さが求められる。
また、高圧水素ガス環境において用いられる機器は、高圧水素ガス中においても、大気中と同等の0.2%耐力および、引張強さを示し、顕著な延性低下を示さないことが求められる。水素は鋼を脆化する原因となる元素としてよく知られているが、高圧水素用として適用可能とするには、高圧水素ガス中においても、大気中と比べ機械的特性が低下しないことが必須となる。上記の観点から、従来、高圧水素用機器の素材には、水素ガス中でも機械的特性が優れているSUS316、SUS316L、SUH660等が用いられてきた。
すなわち、鋼種としてSUS316やSUS316Lおよび、SUH660が選択されてきた理由は、オーステナイトの安定性に優れ、水素脆化を示すδフェライトや加工誘起マルテンサイトが生じ難いため、高圧水素中でも大気中とほぼ変わりのない機械的性質を示すからである。すなわち、高圧空気中の部品に適用される設計の仕方を、そのまま高圧水素中で用いられる部品の設計に適用することができる。
ただし、機器に接触する水素ガスの温度が低温となる場合、例えば寒冷な気候環境に曝される機器の場合や、例えば−40℃といった極めて低温のガス温度で燃料電池自動車に水素ガスを充填するプレクール等に用いる機器においては、Niの添加量をSUS316の規格内で高めとなる13%程度まで増量して、加工誘起マルテンサイトをより生じにくくするといった、高圧水素用の成分設計がなされたSUS316やSUS316Lが用いられてきた。
特開2014−114471号公報
しかしながら、上記従来技術には、以下の問題がある、
この様に、高圧水素中でも大気中とほぼ変わりのない機械的性質を示し、低温での特性も優れたSUS316やSUS316Lではあるが、固溶化熱処理ままの特性は、0.2%耐力は約270MPa、硬さは約140HV程度と高圧水素ガス用の部品として必要な耐力、硬さと比べると非常に低く、前記した部品の軽量化、部品摩滅低減といった耐久性の良い部品を設計することや、繰返しの開放検査時の塑性変形抑制の要求に対応することが難しい。そのため、従来は、固溶化熱処理後に冷間加工を行って、耐力、硬さを高めて使用するということが行われている。しかしながら、この冷間加工による強度向上は、強度改善効果が冷間加工歪の大きさに左右されるため、強度を保証するために加工率のコントロールが求められる。よって、長手方向に均一な加工を行う冷間引抜加工や、冷間圧延加工においては、冷間加工後の鋼材の強度保証も比較的容易であるが、複雑な部品形状を形成する冷間鍛造等では、対象部位から引張試験片を切り出すことが困難となり、強度の保証が容易ではない。よって、冷間加工に頼ることなく、固溶化熱処理ままで、高耐力高硬度の得られる高圧水素用オーステナイト系ステンレス鋼の開発が強く望まれていた。
さらに、SUS316やSUS316Lは、希少で高価な元素であるMoの積極添加が必須であり、省資源性の面で課題がある。本出願人は、この問題解決のため、Moを不純物の範囲でしか含有せず安価であり、−40℃においても水素脆化感受性が低い高圧水素用オーステナイト系ステンレス鋼を開発し、特許文献1に記載の発明を提案したが、この発明は、Moの積極添加が不要な点では問題ないものの、SUS316、SUS316Lと同様に耐力、硬さが低く、冷間加工による強度向上に頼らないと、前記要求に十分に対応することができなかった。
一方、SUH660は、析出硬化熱処理により高い強度を確保でき、0.2%耐力は約590MPa、硬さが約260HVと比較的高く、高圧水素ガス用として、部品の軽量化設計や、耐久性の良い部品を設計することが可能である。しかしながら、Moを多く添加する必要があることに加え、24%以上のNiと1.9%程度のTiを含有し、省資源性に課題がある。加えて、前記強度を得るための析出硬化処理のため、複雑な複数回の熱処理を施す必要があり、非常に高価になってしまうという問題がある。
本発明は、以上説明した課題を解決可能とするために成されたものであり、高価なMoを添加する必要がない等、成分的に安価な鋼であって、かつ冷間加工による強度向上に頼ることなく、固溶化熱処理ままで優れた耐力、硬さを得ることのでき、低温での耐水素脆化特性も優れた高圧水素用オーステナイト系ステンレス鋼を提供可能とすることを目的とする。
本発明は、質量%で、C:0.40〜1.00%、Si:1.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Ni:8.00〜14.00%、Cr:16.00〜21.00%、N:0.09%以下を含有し、残部Fe及び不純物元素からなり、さらに、54.8C+3.7Ni+2.5Mn−1.6Cr−0.9Si+266N−39.6>0の条件(式1)を満足し、固溶化熱処理ままで用いられ、鋼中にCr炭化物が、面積率で23%以上存在することを特徴とする高圧水素用オーステナイト系ステンレス鋼である。
本発明の高圧水素用ステンレス鋼は、上記各成分の範囲内であって、かつ式1に示す成分式を満たす成分組成に限定してある。特に、通常のオーステナイト系ステンレス鋼が、耐食性の低下を懸念して粒界に形成されるCr炭化物の生成を抑制するため、Cを0.10%以下程度に抑制しているのに対し、本発明では、逆にCr炭化物を面積率で23%以上形成させるため、Cを大幅に増量させている。このC増量による効果により、固溶化熱処理状態の強度を、室温において0.2%耐力が330MPa以上、かつ200Hv以上の硬さという従来のSUS316等の固溶化熱処理状態で得られる耐力、硬さに比べ、その値を大幅に高めることができる。
また、Cを大幅に増量し、Cr炭化物を多量に生成させたことにより、破断伸びを低下させ、加工誘起マルテンサイト生成が起きる前の歪で破断に到るようにして、水素脆化の原因となる加工誘起マルテンサイトの生成を抑制するとともに、δフェライトの生成を抑制することができる。
さらに、本発明鋼は、Moを不純物としてしか含有せず、Ni含有率も従来のSUS316と同レベルでよいため、安価で高圧水素用オーステナイト系ステンレス鋼を得ることができる。
なお、Cr炭化物の多量生成により、耐食性の点では低下するが、前記した高圧水素用機器は、従来のオーステナイト系ステンレス鋼が有しているレベルの耐食性は要求されない。その一方で、前記した通り炭化物の多量析出により逆に耐水素脆化特性が改善されるため、高圧水素ガス用として非常に適した鋼材の提供を可能とすることができる。
実施例3の金属組織を示す説明図。 実験例において用いる引張試験片の形状を示す説明図。
次に、本発明の高圧水素用オーステナイト系ステンレス鋼における化学成分組成の限定理由を説明する。
C:0.40〜1.00%、
Cは、本発明において特に重要な元素である。本発明では、従来のオーステナイト系ステンレス鋼に比較して、Cを大幅に増量しているので、添加したCは、鋼中に一部しか固溶できず、固溶できなかったCがCrと結合し、固溶化熱処理後の金属組織中に多数の炭化物を形成する。この炭化物の存在等の効果により塑性変形させる際の変形抵抗が増加するため、0.2%耐力、硬さを高めることができる。また、炭化物の生成は、前記した通り加工誘起マルテンサイトの生成抑制という本発明にとって最も重要な効果を有する。C含有の下限を0.40%としたのは、上記効果を十分に得るために必要なためであり、上限を1.00%としたのは、含有させすぎると、加工性が低下し、圧延、鍛造、切削等により素材を所定の部品形状へ加工するのが難しくなるためである。
Si:1.00%以下、
Siは、ステンレス鋼の溶製において還元精錬を行うために必要な成分である。しかし、Siはフェライト安定化元素であり、過剰に添加すると水素脆化の感受性が高いフェライトを安定化させてしまいδフェライトを生成してしまうため、上限を1.00%とする。
Mn:2.00%以下、
Mnは、ステンレス鋼の溶製においてSiと共に還元精錬を行うために必要な成分である。また、スクラップを元に溶製する場合において、含有が不可避な元素でもある。しかし、過剰に添加するとガスのリークを引き起こす可能性がある粗大なMnSを形成しやすくなるため、上限を2.00%とする。
P:0.040%以下、
Pは、ステンレス鋼の精錬工程において不可避的に混入する元素である。Pを過剰に含有すると凝固時にワレを生じやすくなるため、上限を0.040%とした。より好ましくは、上限を0.035%とするのが良い。
S:0.030%以下、
Sは、鋼中のMnと結合し、MnSを形成することで、切削性を改善する元素である。過剰に添加するとガスのリークを引き起こす可能性がある粗大なMnSを形成しやすくなるため、上限を0.030%とした。より好ましくは、上限を0.010%とするのが良い。
Ni:8.00%〜14.00%、
Niは、強力なオーステナイト安定化元素であり、δフェライトの生成や加工誘起マルテンサイトの生成を抑制する効果が高い重要な元素である。好ましくは、12.00%以上含有させるのがよい。しかしながら、高価な元素であるとともに、多量に含有させても効果が飽和するため、上限を14.00%とした。
Cr:16.00〜21.00%、
Crは、ステンレス鋼の耐食性に寄与する元素であるが、Cと結合することで炭化物を形成する元素でもある。炭化物を形成したCrは耐食性に寄与しなくなると共に、加工誘起マルテンサイトの抑制にも寄与しなくなるため、炭化物の形成による固溶Cr量の減少分を考慮して、必要な添加量を定める必要がある。本発明では、その点を考慮して、下限を16.00%とした。しかしながら、Crを添加しすぎると、δフェライトが生成し、オーステナイト組織を安定して得られにくくなるため、その上限を21.00%とした。
N:0.09%以下、
Nは、Cと同様にCr等と結合し、窒化物を形成する元素である。しかしながら、Nを多量に添加すると、低温において延性−脆性遷移挙動を示す傾向が一般的に知られているため、上限を0.09%とした。
式1:54.8C+3.7Ni+2.5Mn−1.6Cr−0.9Si+266N−39.6>0、
上記の高圧水素用ステンレス鋼は、上記各成分の範囲内において式1の成分式を満たす成分組成に規制する。式1の各項において、Cを除く成分の係数は、前記した特許文献1の係数と同じ値を用いている。そして、この式1の意味は、この式で限定されるように成分調整することにより、オーステナイト形成元素によるオーステナイトの安定化効果が、フェライト生成元素のフェライト安定化効果を上回るようにすることができるという意味である。従って、この式を満足するよう成分調整することにより、オーステナイトが安定化し、加工誘起マルテンサイトの生成抑制および、δフェライトの生成抑制を図ることができる。
なお、前記した特許文献1においては、C含有率が0.06%以下と本発明に比べ極端に少量であり、添加したCのほぼ全ては、固溶化熱処理により固溶するため、オーステナイトの安定化の観点において、固溶Cの影響は、式左辺最後の成分を含まない数値のみの項に繁栄させているため、オーステナイトの安定性を示す前記式にCの項は記載していない。
一方で、本発明では、オーステナイトの金属組織に多数の炭化物を分散させることにより、高い0.2%耐力と高い硬さを得るものであり、Cはオーステナイトの安定化させ、加工誘起マルテンサイトの抑制に大きく影響する重要元素であり、炭化物として存在するCの寄与率を無視できないため、Cの項を追加記載している。
なお、本発明において、C含有率は、前記特許文献1の発明に比べはるかに多量の0.40%以上であり、添加したCのかなりの割合が固溶できず、Crと結合して炭化物を形成し、固溶Cr量を減少させるため、水素脆化を引き起こす加工誘起マルテンサイトを生成し易くし、耐水素脆化特性を低下させる。その一方で、添加したCは、Crと結合して炭化物を形成し、強度を高めると共に、前記の通り破断伸びを低下させ、水素脆化を引き起こす加工誘起マルテンサイトの生成を抑制する効果も併せ持つ。さらには、炭化物の形成に伴い固溶Cr量が低下するため水素脆化を引き起こすδフェライトの生成を抑制する効果も併せ持つ。従って、固溶Cr量の減少による耐水素脆性の低下と同じく固溶Cr量の減少によるδフェライトの生成抑制効果及びCr炭化物の生成による耐水素脆性の向上効果を総合して得られる効果が問題となるが、C含有率が0.40%以上とした場合には、耐水素脆性の向上効果が低下要因による影響を大きく上回り、優れた耐水素脆化特性が得られることを見出した結果、本発明の完成に到ったものである。
以上検討した結果成された本発明からなる高圧水素用ステンレス鋼は、冷間加工に頼ることなく、固溶化熱処理状態で330MPa以上の0.2%耐力と200HV以上の高い硬さを達成するとともに、耐水素脆化特性に有害なδフェライトの生成を抑制し、−60℃という低温環境においても、耐水素脆化特性に有害な加工誘起マルテンサイトの生成を抑制可能とする特徴を有している。
なお、本発明では、高価なMoについては、意図的な積極添加は行わないが、スクラップを原材料として溶製した場合には、スクラップ中に少量のMoを含有していることから、製造上不純物として不可避に含有される場合がある。その場合の含有は大半が0.5%程度以下であるが、仮に0.5%を超えて含有した場合でも、不純物としての含有の範囲であれば、本発明の前記した特徴に大きな影響はなく、問題なく使用できる。
また、本発明では炭化物の量が得られる特性に大きく影響するため、C含有率と固溶化熱処理条件を調整し、炭化物の存在状態を変化させて、得られる効果を確認した結果、炭化物を鋼材断面に占める面積率で23%以上、より望ましくは25%以上、存在させた状態とすることによって、優れた耐水素脆化特性が得られることを確認したものである。
なお、この炭化物状態を得るには、特に特殊な条件で固溶化熱処理する必要はなく、1000〜1080℃の範囲で固溶化熱処理すればよい。この範囲の温度を推奨するのは、温度が高すぎると、脱炭が顕著に生じるという問題が生じ、逆に温度が低すぎると、熱処理によりオーステナイト結晶の歪を解消する効果が得難いためである。固溶化熱処理温度としては、1040℃の均熱を推奨する。
以下、本発明である高圧水素用オーステナイト系ステンレス鋼により得られる効果を明らかにするための実施例について説明する。本実施例では、化学成分の異なる数種類の試料を準備して、室温および−60℃(従来鋼SUS316は−50℃)にて引張試験を実施し各種評価を行った。また、一部の試料においては、室温の85MPa高圧水素ガス環境においてSSRT(SLow Strain Rate Test)試験を行い評価した。
(試験準備)
表1に示す様に、実施例、比較例の試料として、成分組成が異なる5種類の試料を準備した。このうち、実施例1〜実施例3が、本発明の成分、式1、炭化物量等の条件を満足する実施例であり、比較例1、比較例2は、C含有率が低く、本発明の条件を満足しない比較例であり、従来鋼はJISのSUS316である。
なお、母相(素地)であるオーステナイト結晶の耐水素脆化特性は、加工誘起マルテンサイトの生成を抑制することで改善されることは、特許文献1や、高圧水素用にNi添加量を高めたSUS316L等で既に一般的に知られているため、実施例は、特に未知であるCの含有率に着目し、C含有率を大きく変化させた試験材を準備した。
すなわち、オーステナイト系ステンレス鋼の組織状態として一般的な、固溶化熱処理により炭化物が分解され、ほぼ単相状態のオーステナイト相となっているステンレス鋼においては、オーステナイト相の安定化に着目し、加工誘起マルテンサイトの生成抑制および、δフェライトの生成抑制を図ることで耐水素脆化特性が得られることは、既に公知となっている。
よって、本発明における、素地であるオーステナイトに多量の炭化物が分散した、オーステナイトと炭化物の二相の組織状態においても、大きなひずみを受けた際に破壊が生じるのは炭化物ではなく、素地であるオーステナイトであるため、素地であるオーステナイトの耐水素脆化特性を考慮すればよく、特許文献1の式を基にしてCの効果を追加すれば、他の成分の効果に関しては公知である。そのため、実施例においてはC以外の成分の影響については、調査不要と判断し、C含有率のみ広範囲に変化させて実験を行った。
実施例1〜3および比較例1の試験材は、次の手順により作製した。まず、VIM(Vacuum Induction Melting:真空誘導溶解装置)を用いて15〜30kgの鋼塊を得た。この鋼塊に1250℃にてソーキング熱処理を施した後に、鍛伸により直径20mmの丸棒を得た。これらの丸棒に1040℃にて固溶化熱処理を実施し、固溶化熱処理状態の試験材を得た。
また、比較例2、従来鋼の試験材は、次の手順により作製した。まず、50tonAOD炉を用いて精錬し、連続鋳造により鋳片を得た。鋳片にソーキング熱処理を施した後に、熱間圧延を行い、直径36mmの丸棒を得た。得られた圧延丸棒に1080℃にて固溶化熱処理を実施し、固溶化熱処理状態の試験材を得た。
その後、各試験材の硬さをビッカース硬度計を用いて測定すると共に、希釈王水を用いてエッチングした各素材断面を光学顕微鏡を用いて観察し、ミクロ組織における炭化物の量を、画像解析を用いて断面積の割合として求めた。尚、炭化物の量の測定は、測定する機器によって分解能が異なり、あまり小さいものは測定精度も低下することから、本実施例では確実に測定できる長径0.75μm以上の炭化物を測定対象とした。図1に実施例3におけるミクロ組織を示す。
また、前記の通り準備した試験材より、引張試験片1(図2)を作製し、以下の方法で引張試験を実施した。
(引張試験の実施)
引張試験は、室温大気中と、−60℃(従来鋼のみ−50℃)のシリコンオイル中にて引張試験を実施した。0.2%耐力と破断後の試験片の伸びについては、室温での引張試験結果を表1に示した。
なお、プレクールを想定した場合、燃料電池自動車に充填されるガスの温度は−40℃であるが、水素ステーション側の機器はさらに低温となる。よって、−40℃よりもさらに加工誘起マルテンサイトが生成しやすい−60℃(従来鋼は−50℃)にて、試験材の低温引張試験を行った。
(δフェライト、加工誘起マルテンサイトの判定方法)
引張試験前の引張試験片の平行部および引張試験片の破断部近傍にて、ポータブル型の透磁率計を用いて、透磁率を測定した。この測定により、加工誘起マルテンサイトが生成した場合は、透磁率が上昇することにより確認することができる。
なお、引張試験前の引張試験片の平行部は、何れの試験片も比透磁率が1.01以下であり、δフェライトは存在しておらず、加工誘起マルテンサイトは生成されていないことを確認した上で試験を行った。結果は、引張試験後の引張試験片近傍において、比透磁率が1.10を越える場合を、加工誘起マルテンサイトの生成が顕著であるとし、「×」で表示し、1.10以下の場合は合格と判断し、「○」と表示した。
以上説明した試験の結果を表1に示す。
比較例1は、式1を満足しておらず、C含有率が低い例であるが、C含有率が低いため炭化物が面積率で18%と少なく、その結果引張試験後に比透磁率の上昇が確認され、加工誘起マルテンサイトの生成が抑制されておらず、耐水素脆化特性が劣っていることが確認できた。また、C含有率が低いため、強度向上効果が劣り、室温における0.2%耐力、硬さ共に前記した狙いの値を得られないことが確認できた。
比較例2は、式1を満足しているが、C含有率が比較例2よりもさらに低い例である。そして、炭化物は面積率で1%と少ないものの、式1を満足し、オ−ステナイト安定性は問題ないため、−60℃における引張試験の結果から、加工誘起マルテンサイトの生成が抑制されていることが確認できた。しかしながら、C含有率が低いため、0.2%耐力、硬さが大きく劣っていた。
従来鋼は、本発明との性能比較のため、同様の実験を行い、結果を示したものであるが、加工誘起マルテンサイトの生成は抑制されていたが、比較例2と同様に0.2%耐力、硬さが大きく劣るものであった。
以上の比較例、従来鋼に対し、本発明の結果である実施例1〜3は、−60℃における引張試験の結果より、破断部近傍においても加工誘起マルテンサイトの生成が抑制されており、耐水素脆化特性に優れることが確認できた。また、室温における引張試験の結果より330MPa以上の高い0.2%耐力が認められ、かつ200HV以上の高い硬さが認められた。また、ミクロ組織観察の結果、炭化物の量はいずれも23%以上であることを確認した。この結果、炭化物の存在が性能向上に大きく寄与することを確認できた。
(高圧水素中SSRT試験)
実施例3の試料に対して、室温の85MPa高圧水素ガス環境において、SSRT試験を行い、大気中でのSSRT試験の結果と比較して耐水素脆化特性を評価した。その結果、実施例3の試料は、高圧水素ガス環境においても大気中と同等の0.2%耐力および、引張強さを示した。また、高圧水素ガス中SSRT試験における絞りを大気中SSRT試験における絞りで除した値である相対絞りは、1.04という結果となり、優れた耐水素脆化特性が改めて確認された。
1 引張試験片

Claims (1)

  1. 質量%で、C:0.40〜1.00%、Si:1.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Ni:8.00〜14.00%、Cr:16.00〜21.00%、N:0.09%以下を含有し、残部Fe及び不純物元素からなり、さらに、54.8C+3.7Ni+2.5Mn−1.6Cr−0.9Si+266N−39.6>0の条件(式1)を満足し、固溶化熱処理ままで用いられ、鋼中にCr炭化物が、面積率で23%以上存在することを特徴とする高圧水素用オーステナイト系ステンレス鋼。
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