以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
(第1実施形態)
第1実施形態の有機EL表示装置について、図1〜図6を参照して述べる。図1では、後述する複数の画素100の配列を分かりやすくするため、本実施形態の有機EL表示装置の構成要素のうち基板10、バンク30および画素100以外の要素については省略している。
本実施形態の有機EL表示装置は、図2に示すように、一面10aを有する基板10と、一面10a上に形成された第1電極20と、第1電極20を囲むバンク30と、発光媒体層40および第2電極50とを備えてなる。このような構成において、発光媒体層40および第2電極50は、第1電極20のうちバンク30に囲まれた領域上に形成されている。本実施形態の有機EL表示装置は、図1に示すように、一面10aに対する法線方向(以下「一面法線方向」という)から見て、例えば長方形状とされた第1開口部101と第2開口部102とにより構成される発光領域である画素100が複数形成されている。画素100は、図1に示すように、図1の左右方向をX方向とし、X方向の属する平面上であってX方向と直交する方向をY方向として、例えばX方向とY方向に沿って規則的に並ぶように配列されている。
一面10aを有する基板10は、有機EL表示装置の支持体である。基板10には、例えばガラスなどの透明基板を用いることができるが、ガラスには限られず、樹脂基板や金属基板など様々なものを用いることができる。樹脂基板などを基板10として用いる場合には、必要に応じて、樹脂基板等に水分や酸素などの透過を抑制するバリア膜を形成したものを用いてもよい。なお、基板10は、リジッドな基板であってもよいし、フレキシブルな基板であってもよい。
第1電極20は、本実施形態では、発光媒体層40を機能させる電圧を印加するための電極であり、本実施形態では、ホール注入電極として機能する。第1電極20は、複数設けられ、透明または半透明の電極を形成することのできる公知の導電性物質で構成される。具体的には、第1電極20として酸化物を用いる場合、酸化物には、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化亜鉛アルミニウム、酸化亜鉛ガリウム、酸化チタンニオブ等を用いることができる。このうち、特にITOは、低抵抗であること、耐溶剤性があること、透明性に優れていることなどの利点を有する材料である。
金属材料を第1電極20として用いる場合には、基板10の一面10a上に、例えばアルミニウム、金、銀等の金属材料を蒸着したものが挙げられる。また、ポリアニリン等の有機半導体を用いて第1電極20としても良い。さらに、ITO等の酸化物上に金属材料を成膜した積層体や金属材料上にITO等の酸化物を成膜した積層体を第1電極20として用いても良い。
第1電極20については、スパッタリングなどによって基板10の一面10a上に成膜することができる。必要に応じて、第1電極20の成膜後にエッチングによってディスプレイなどにおいて要求される形状にパターニングしたり、UVオゾン処理やプラズマ処理などにより表面の活性化を行ったりしてもよい。
バンク30は、図1もしくは図2に示すように、第1電極20の一部を囲む枠体状の主隔壁31と主隔壁31を分割するように設けられた副隔壁32とを有してなり、複数設けられた各第1電極20の上に設けられる。バンク30は、例えば図1に示すように、枠体状とされた主隔壁31と主隔壁31のうち一辺とこれに対向する他辺とを直線的に繋ぐように形成され、主隔壁31に囲まれた領域を2つの領域に分割する副隔壁32とにより構成されている。主隔壁31と副隔壁32の詳細については、後述するバンク30の配置関係の説明にて述べる。
バンク30には、例えば所望の形状とするためによく用いられる材料である感光性材料を用いることができる。バンク30として感光性材料を用いる場合には、ポジ型レジスト、ネガ型レジストのどちらの感光性材料を用いてもよく、市販されている材料を用いてもよい。感光性材料としては、例えばポリイミド系、アクリル樹脂系、ノボラック樹脂系、フルオレン系等を使用することができるが、他の材料を使用してもよい。また、有機EL表示装置の画素100を発光させた場合におけるコントラストを上げる目的で、遮光性の材料を感光性材料に含有させてもよい。
なお、バンク30が十分な絶縁性を有さない場合には、バンク30を通じて隣り合う第1電極20に電流が流れてしまい表示不良が発生し得るため、バンク30を形成する感光性材料は、絶縁性を有する必要がある。
バンク30は、膜厚が0.5μmから5.0μmの範囲内であることが好ましい。バンク30の膜厚が低すぎると、隣接画素間で発光媒体層40経由でのリーク電流の発生や短絡発生、異なる発光色の有機発光材料の混合による混色などが生じ得るためである。また、バンク30の膜厚が厚すぎると、後述する発光媒体層40の塗布工程で第1電極20がバンク30から露出した領域に接液しにくいなどの支障をきたすおそれがあり、必要以上にバンク30を厚く形成する理由もないためである。
バンク30は、第1電極20を備える基板10上に、例えば感光性材料を塗布した後、パターン露光および現像を行って隔壁パターンを形成して乾燥を行うフォトリソグラフィ法により形成される。具体的には、感光性材料の塗布工程においては、例えばスピンコーター、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター等の公知の塗布方法を用いている。パターン露光、現像の工程においては、従来公知の露光、現像方法によりバンク30のパターンを形成できる。乾燥工程においては、例えばオーブン、ホットプレート等の従来公知の方法によりバンク30を乾燥させることができる。
発光媒体層40は、電圧が印加された際に第1電極20側から正孔が注入されると共に、第2電極50側から電子が注入され、これらの正孔と電子とが再結合したときに生じるエネルギーの一部を光に変換する機能を果たす。具体的には、発光媒体層40は、第1電極20と第2電極50との間に設けられ、本実施形態では、例えば正孔注入層、正孔輸送層、発光層などがこの順に積層された構成とされている。
正孔注入層は、電圧が印加された際に正孔を発生させ、正孔注入層の上に接して設けられる正孔輸送層に発生した正孔を注入する層である。正孔注入層については、正孔輸送性を有する公知の物質で構成することができる。正孔輸送性を有する物質としては、例えばPEDOT(Poly(3,4−ethylenedioxythiophene)の略称)などが挙げられる。
正孔注入層の材料としては、正孔輸送層および発光層の材料を溶かす溶媒に溶けないかもしくは溶解性が小さいものを使用することが好ましい。正孔注入層上に正孔輸送層、発光層が順次積層された構成となっているため、正孔注入層の材料として正孔輸送層および発光層の材料を溶かす溶媒によく溶解するものを使用すると、正孔輸送層や発光層の積層が困難になるためである。
なお、正孔注入層の材料のガラス転移点またはガラス転移点のない材料の場合にはその融点が、後述する正孔輸送層および発光層の乾燥温度よりも高いことが好ましい。正孔輸送層および発光層の乾燥工程における正孔注入層への熱的ダメージを抑制できるためである。
正孔注入層は、正孔注入層材料を含む溶液(以下「正孔注入層塗液」という。)をバンク30が形成された基板10上に塗布した後、溶媒を乾燥して除去することにより形成される。具体的には、塗布工程においては、例えばディスペンサー法、インクジェット法、凸版印刷法、転写法等の従来公知の方法により正孔注入層塗液を例えばY方向に沿って部分的に塗布することができる。具体的には、例えば凸版印刷法により、Y方向に繰り返し配列される各画素100を形成する領域に塗布することで、正孔注入層塗液をストライプ状に塗布できる。そして、乾燥工程においては、例えばオーブン、ホットプレート等の従来公知の方法により正孔注入層塗液の溶媒を乾燥して除去することができる。
なお、上記のような部分的に塗布できる方法であれば、上記の方法に限られず、他の公知の塗布方法を用いてもよい。この際、正孔注入層塗液を吐出もしくは印刷する位置については、一面法線方向から見て、副隔壁32上に当該塗液を吐出もしくは印刷して副隔壁32から第1開口部101と第2開口部102に流し込むことにより行うことができる。これにより、副隔壁32が形成されていない従来の有機EL表示装置に比べて、塗布の工程を増やすことなく、第1開口部101および第2開口部102に正孔注入層を形成できる。具体的には、副隔壁32により形成された第1開口部101および第2開口部102のそれぞれに正孔注入層塗液を吐出もしくは印刷する必要がなくなり、塗布における工数増加を防ぐことができる。
正孔輸送層は、正孔注入層から注入された正孔を、正孔輸送層の上に接して設けられる発光層に輸送するための層である。正孔輸送層は、正孔輸送性を有する物質で構成される。正孔輸送性を有する物質としては、例えば1,3,5−トリス[N,N−ビス(4’−メチル−4−ビフェニリル)アミノ]ベンゼンなどが挙げられる。
正孔輸送層の材料のガラス転移点またはガラス転移点のない材料の場合にはその融点が、次に積層される発光層の乾燥温度よりも高いことが好ましい。発光層の乾燥温度による正孔輸送層への熱的ダメージを抑制できるためである。なお、正孔輸送層は、正孔注入層と同様に上記の塗布法で形成される。
正孔輸送層の材料としては、発光層の材料を溶かす溶媒に溶けないかもしくは溶解性が小さいものを使用することが好ましい。正孔輸送層の材料として発光層の材料を溶かす溶媒によく溶解するものを使用すると、次に積層する発光層の成膜が困難になるからである。
なお、正孔輸送層は、正孔注入層と同様の工程により形成されるが、正孔輸送層として架橋性の官能基を有する材料を用いる場合には、上記の工程に加えて発光層の材料を溶かす溶媒に対して不溶化するための加熱処理がなされてもよい。
発光層は、第1電極20側から輸送された正孔と第2電極50側から輸送された電子が再結合した際に生じるエネルギーの一部を光に変換するための層である。発光層には、高分子材料や低分子材料もしくはこれらの混合物を用いることができるが、高分子材料を用いることが好ましい。発光層の材料を溶かした溶液を塗布する際に、高分子材料のほうが低分子材料よりも、特性低下の要因となり得る他の材料の添加をすることなく、塗布方法に適した溶液調整、例えば粘度調整などを行うのに適しているためである。発光層には、蛍光性発光材料や燐光性発光材料もしくはこれらの混合物を用いることができる。
なお、発光層は、正孔注入層や正孔輸送層と同様の工程により形成されるが、水分や酸素に弱い発光層の材料へのダメージを軽減するため、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスなど非酸化雰囲気中にて塗布および乾燥を行うことが好ましい。また、発光層は、正孔注入層や正孔輸送層と同様に上記の塗布法で形成される。
第2電極50は、本実施形態では、発光層の上に配置され、発光層に電子を注入する電子注入層と第1電極20と第2電極50との間に配置された発光媒体層40に電圧を印加する電極層とが積層された層である。第2電極50のうち電子注入層には、仕事関数の低い材料を用いること、すなわち発光層との仕事関数の差が小さくなる材料を用いることが好ましい。発光層と電子注入層との仕事関数の差を小さくすることで、電子を発光層に注入するためのエネルギー障壁が小さくなり、各画素100を発光させるために要する電圧を低くできるためである。
具体的には、電子注入層としては、例えばアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のハロゲン化物などを用いることができる。電極層としては、例えばAl、Agなどの導電性の金属材料などを用いることができる。より具体的には、第2電極50としては、Al/Ca、Al/Ba、Al/Li、Al/LiF、Al/NaF、Al/CsF、Al/CaF、Al/Ca/LiF等の積層構造などが採用できる。また、これらの積層構造については、例えば真空蒸着法などによって形成することができる。なお、上記の例では、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のハロゲン化物が発光層側に積層されている。
なお、本実施形態の有機EL表示装置については、第2電極50まで形成した後、最後に乾燥窒素雰囲気中にて図示しない封止缶を基板10の素子形成側に貼り合わせ、封止している。
以上が本実施形態における有機EL表示装置の基本的な構成である。次に、有機EL表示装置におけるバンク30における主隔壁31と副隔壁32の配置等の詳細について、具体的に述べる。
本実施形態の有機EL表示装置では、主隔壁31は、例えば図1のX方向に沿った辺とY方向に沿った辺とにより構成され、X方向がY方向よりも短い長方形枠体状とされている。この長方形枠体状の主隔壁31とこれに囲まれた領域を分割する副隔壁32とにより構成されたバンク30において、副隔壁32は、本実施形態では、図1に示すように、Y方向に沿って形成され、主隔壁31をX方向において分割するように形成されている。副隔壁32は、主隔壁31に囲まれた領域内にインクを塗布した際に、該インクが濡れ広がる幅を狭め、該インクに含まれる溶媒が揮発して膜を形成するまでの該溶媒の蒸発ムラを低減するために形成される。つまり、溶媒の蒸発ムラを低減することで、第1開口部101および第2開口部102のそれぞれにおける中心部での膜厚がそれぞれの端部における膜厚よりも厚くなることを抑制し、発光媒体層40の平坦性を向上するためである。平坦性が向上する推定メカニズムについては、後で詳しく説明する。
副隔壁32は、本実施形態では、主隔壁31のうち一辺およびこれに対向する他辺と直交するように設けられると共に、主隔壁31に囲まれた領域を2つに等分割するように形成されている。具体的には、図1に示すように、主隔壁31に囲まれた領域が副隔壁32によって、第1開口部101と第2開口部102とに二分割され、第1開口部101のX方向における幅をL1とし、第2開口部102のX方向における幅をL2とする。また、X方向における主隔壁31のうち隣接する内壁同士の幅を画素幅Lとし、副隔壁32のX方向における幅を副隔壁幅Wとする。
このような場合において、副隔壁32は、画素幅Lに対するWの比率、すなわちW/Lが0.096〜0.217の範囲内となるように形成されている。また、副隔壁32は、L2に対するL1の比率、すなわちL1/L2が0.86〜1.16の範囲内となるように形成されることが好ましく、L1/L2が1.0となるように形成されることがより好ましい。これにより、画素100の領域内における発光媒体層40の膜厚の平坦性が向上し、画素100内もしくは画素100間における発光ムラが改善され、発光ムラが低減された有機EL表示装置となるためである。W/LおよびL1/L2の範囲の具体例については、後で詳しく説明する。
次に、副隔壁32を第1開口部101および第2開口部102の幅L1、L2に対する比率やL1とL2との比率が上記の所定の範囲とすることにより、発光媒体層40の平坦性が改善される推定メカニズムについて、図3を参照して説明する。
まず、図3(a)、図3(b)に示すように、本実施形態の有機EL表示装置でいう副隔壁32が形成されてないバンク30内の領域に発光媒体層40の材料を含むインク41(以下単に「インク41」という)を塗布する場合について説明する。この場合、画素の開口部の幅は、主隔壁31のうち互いに向かい合う内壁同士の距離となり、副隔壁32が形成されている場合に比べて開口部の幅が広い。
ここで、液滴の乾燥において、単位面積当たりの溶媒の存在量に分布があることにより、溶媒の蒸発量に分布が生じること、すなわち液滴のうち端部と中心部とではその溶媒の蒸発量が異なることが知られている。具体的には、端部における溶媒の蒸発量が、中心部における溶媒の蒸発量よりも多く、端部付近から乾燥が始まり、中心部付近についてはその後に乾燥する。このように、端部から中心部に向かって液滴の乾燥が起きると、液滴に溶質が存在する場合には、端部から中心部に向かって膜形成が起きる。
ここで、図3(a)に示すように、副隔壁32が形成されていないバンク30に囲まれた領域にインク41が塗布された場合において、この画素の開口部の幅Lが広い、例えば40μm以上とされたときについて検討する。このインク41の乾燥については、端部側、すなわちバンク30の内壁側から始まり、その後、バンク30に囲まれた領域の中心部に向かって進むこととなる。つまり、バンク30の内壁側から中心部に向かって膜形成が進むことから、中心部付近のインク41が溜まり、最後に蒸発する。その結果、図3(b)に示すように、バンク30のうち中心部付近が凸形状の膜、すなわち中心部付近が厚膜化された膜が形成されやすい。一方、バンク30の内壁付近については、バンク30の内壁に沿ってインク41の一部が濡れ広がって這い上がるため、部分的に液量が多くなり、結果として乾燥が最初に始まる端部に比べて厚膜化された発光媒体層40が形成される。つまり、バンク30内に形成される発光媒体層40の分布としては、図3(b)に示すように、内壁付近では厚く、端部付近では薄く、中心付近では厚いといった具合となる。したがって、このような形状のバンク30に形成される発光媒体層40は、膜厚のムラが大きい、すなわち平坦性が低い膜となってしまうと考えられる。
これに対して、図3(c)に示すように、主隔壁31と副隔壁32とにより構成されたバンク30にインク41が塗布された場合について検討する。この場合、バンク30は、主隔壁31のうち互いに向き合う内壁同士が副隔壁32により分断されることにより、2つの開口部、すなわち第1開口部101と第2開口部102とを有することとなる。このような構成のバンクとされていても、主隔壁31および副隔壁32の内壁付近については、上記と同様にインク41の這い上がりが生じることにより、他の部位に比べて厚膜化される。その一方で、第1開口部101の幅L1および第2開口部102の幅L2は、図3(a)の場合における画素幅Lに比べて約半分程度と狭くなる。その結果、第1開口部101および第2開口部102に塗布されたインク41については、端部における溶媒の蒸発量と中心部における溶媒の蒸発量との差が、副隔壁32を形成しない場合に比べて小さくなる。つまり、インク41のうち端部付近と中心部付近との乾燥に時間差があまり生じず、これらの間での膜厚のムラが副隔壁32を形成しない場合に比べて小さくなる。結果として、主隔壁31と副隔壁32とにより構成されるバンク30内に形成される発光媒体層40は、図3(d)に示すように、1つの画素100全体としての平坦性が高い膜となると考えられる。
なお、画素100が一面法線方向から見て長軸と短軸に分かれるような形状、例えば長方形状とされた場合においては、長軸方向における開口部幅よりも短軸方向における開口部幅のほうが発光媒体層40の平坦性に与える影響が大きい。これは、本発明者らが実験的に得られた結果からの推測であるが、長軸方向における中心部付近であっても短軸方向に配置された主隔壁31および副隔壁32の内壁へのインク41の這い上がりによる影響が大きいためであると考えられる。具体的には、長軸方向における中心部付近のインク41には、短軸方向に配置された主隔壁31および副隔壁32の内壁が近くに存在し、上記の這い上がりの影響を受け、長軸方向における乾燥ムラの影響が相対的に小さくなる。その結果、短軸方向における開口部幅の影響が支配的となると考えられる。したがって、短軸方向における第1開口部101および第2開口部の幅L1、L2が所定の間隔よりも小さくなるように調整するほうが、より上記の平坦性向上の効果が得られると考えられる。
次に、バンク30内に形成された発光媒体層40の平坦性の定義について、図4を参照して説明する。図4において、横軸には、上記図1に示した画素100のうち第1開口部101のX方向における幅である第1開口部幅L1が示されており、縦軸には、発光媒体層40の膜厚が示されている。
なお、第2開口部102のX方向における幅である第2開口部幅L2と発光媒体層40の膜厚との関係についても同様に表すことができる。また、第1開口部101もしくは第2開口部102のY方向における幅と発光媒体層40の膜厚との関係についても同様である。
図4では、塗布、または印刷により得られる第1開口部101における発光媒体層40のX方向における膜形状の例を示している。図4に示されるように、第1開口部幅L1内にて基準値より10nmまで厚い部分の幅を、平坦な部分である平坦部とし、X方向における平坦部の幅をH1とする。また、第1開口部101のY方向についても同様に考え、Y方向における平坦部の幅をH2とする。このとき、第1開口部101における平坦部の面積については、H1×H2により求めることができる。また、第2開口部幅L2内にて基準値より10nmまで厚い部分の幅を、平坦な部分である平坦部とし、X方向における平坦部の幅をH3とし、X方向における平坦部の幅をH4とすると、第2開口部102における平坦部の面積は、H3×H4により求めることができる。また、第1開口部101のY方向における幅をL3とし、第2開口部102のY方向における幅をL4とすると、1つの画素100の発光領域である開口部の面積は、(L1×L3)+(L2×L4)により求めることができる。
なお、上記の開口部の面積や平坦部の面積を算出するL1〜L4、H1〜H4については、例えば図5のように示すことができる。本実施形態では、H1およびH2については、第1開口部101でのX方向およびY方向におけるそれぞれの中心位置での平坦部であり、H3およびH4については、第2開口部102でのX方向およびY方向におけるそれぞれの中心位置での平坦部である。
ここで、図4に示されるように、第1開口部幅L1内における膜厚の最小値を第1開口部101の基準値とし、第2開口部幅L2内における膜厚の最小値を第2開口部102の基準値とする。この基準値の膜厚は、典型的には50nm〜100nm程度のものであり、たとえば60nm程度とされる。
また、図4(a)については、L1とH1が等しい例であり、図4(b)では、発光媒体層40が下凸形状となった例であり、図4(c)では、中心部の膜厚が基準値よりも厚くなった例である。このような発光媒体層40の膜形状のプロファイルや膜厚については、例えば走査型白色干渉計により、確認することができる。
なお、第1開口部幅L1内もしくは第2開口部幅L2内にて基準値よりも10nm以下にて厚い膜厚であれば、すなわち、基準値との膜厚差が10nm以下であれば、定電流駆動の場合、輝度変化が10%未満に抑えられることが確認されている。輝度変化が10%未満であれば、有機EL素子として実用上、問題無いレベルである。このことは、後述する本実施形態の実施例および比較例ともに言えること、すなわち、発光媒体層40を構成する高分子発光材料の分子量に関係なく、言えることである。
そこで、本発明者らは、平坦性のパラメータとして、第1開口部101および第2開口部102の面積の合計である開口部面積に対する平坦部の面積の割合を平坦率とした。具体的には、平坦率は、((H1×H2)+(H3×H4))/((L1×L3)+(L2×L4))×100(%)で求めることができる。
(実施例)
次に、本実施形態の有機EL表示装置にて主隔壁31と副隔壁32とによるバンク30を形成する場合において、副隔壁32の副隔壁幅Wの画素幅Lに対する割合と発光媒体層40の平坦率との関係を調査した結果を表1および図6に示す。
表1に示す「平坦部面積」は、1つの画素100における第1開口部101の平坦部面積(H1×H2)と第2開口部102の平坦部面積(H3×H4)の合計である。表1にいう「開口部面積」は、1つの画素100における第1開口部101の開口部面積(L1×L3)と第2開口部102の開口部面積(L2×L4)の合計である。
表1に示す各実施例および各比較例では、発光媒体層40の形成は、凸版印刷法を用いて行った。ここで、印刷方向は図1中のY方向とした。また、各実施例および各比較例では、図1において、X方向に240個、Y方向に320個の画素100がそれぞれ配置されたマトリクス状とした。そして、各画素100のX方向における画素幅Lを34.5μmとし、Y方向における画素幅を158.5μmとした。また、X方向における画素100同士のピッチを40μm、Y方向における画素100同士のピッチを65μmとした。そして、各画素100において、副隔壁32をY方向に沿って伸びるように設けると共に、第1開口部101と第2開口部102とに等分割するように、すなわちX方向における第1開口部101の幅L1と第2開口部102の幅L2とが等しくなるように形成した。このような配置とした副隔壁32のX方向における副隔壁幅Wを0〜15μmの範囲内で変更した。
まず、基板10としてのガラス基板上に、スパッタ法を用いてITO膜を形成し、フォトリソグラフィエッチング法によりITO膜をパターニングして、上記の画素幅Lおよび画素ピッチを有する第1電極20を形成した。その上に、例えば高分子発光材料をテトラリンに溶解させた溶液をインク41として用い、このインク41を凸版印刷法により第1電極20上に塗布して乾燥し、発光媒体層40を形成した。このとき、図1に示されるY方向を印刷方向とした。
表1および図6に示されるように、副隔壁幅Wを3.3μm〜7.5μmとした、すなわちW/Lが0.096〜0.217の範囲内とした実施例1〜4においては、70%以上の平坦率を示した。これは、上記推定メカニズムで述べたように、主隔壁31で囲まれた領域が、副隔壁32により短軸方向の幅が短い第1開口部101と第2開口部102とに分割されたことで、インク41の蒸発ムラが抑えられ、発光媒体層40の平坦性が向上したためと考えられる。
また、上記の結果から、主隔壁31の画素幅Lについては、15.2μm〜78.1μmの範囲内とされることが好ましいと考えられる。具体的には、画素幅Lが上記の副隔壁幅WおよびW/Lの範囲内において最小となるのは、副隔壁幅Wが3.3μm、かつW/Lが0.217となる場合である。すなわち、3.3μm/L=0.217により導き出されるL=15.2μmが、上記の範囲内におけるLの最小値となる。同様に、画素幅Lが上記の副隔壁幅WおよびW/Lの範囲内において最大となるのは、副隔壁幅Wが7.5μm、かつW/Lが0.096となる場合、すなわちL=78.1μmの場合である。そのため、少なくともLについては、15.2μm〜78.1μmの範囲内とされることで、発光媒体層40の平坦性が確保できると考えられる。
また、一般的に、塗布法による成膜において、形成する膜の平坦性を向上するために、塗液の溶媒として複数の溶媒を使用し、濡れ広がりの制御や蒸発ムラの抑制を行うことが行われている。これに対して、インク41の溶媒として1種類の溶媒のみを使用した上記の実施例1〜4の結果から、単一溶媒に発光媒体層材料を溶かした塗液を用いて塗布しても発光媒体層40の平坦性が向上することが判明した。これは、開口部の幅を所定の範囲に制御することで、単一溶媒により構成される塗液であっても蒸発ムラを低減し、平坦性の高い膜を形成できることを示していると考えられる。
これに対して、副隔壁幅Wを0μmとした場合、すなわち副隔壁32を形成しない場合(W/L=0)には、平坦率が49%であった。これは、短軸方向の画素幅が広い形状とされることでインク41の蒸発ムラの発生による中心部付近の厚膜化が生じ、発光媒体層40の平坦性が低下した結果であると考えられる。
また、副隔壁幅Wを15μmとした、すなわちW/Lを0.435とした比較例2では、平坦率が21.4%であった。これは、第1開口部101および第2開口部102の短軸方向の幅が短くなりすぎた結果、主隔壁31および副隔壁32の内壁へのインク41の這い上がりの影響がインク41の蒸発ムラの影響よりも相対的に大きくなったためであると考えられる。具体的には、インク41の這い上がりにより内壁付近の膜厚が他の部位よりも厚くなるが、短軸方向の幅が短い形状では、中心部付近のインク41も主隔壁31および副隔壁32の内壁への這い上がりにより引っ張られ、中心部付近の薄膜化が起きたと推測される。これにより、内壁付近の厚膜化と中心部付近の薄膜化が同時に発生した結果、発光媒体層40の平坦性が低下したと考えられる。
このように、画素100の発光領域を形成するバンク30を枠体状の主隔壁31と主隔壁31の一辺とこれに対向する他辺とを繋ぐように形成された副隔壁32とにより構成することで、当該領域内における発光媒体層40の平坦性を向上できる。
なお、副隔壁32は、上記実施例1〜4では、画素100の画素幅Lを等分割する中心位置に形成されているが、これに限らず、中心位置と異なる位置に形成されていてもよい。具体的には、実施例1では、L1およびL2は(34.5−3.3)÷2=15.6μmとされ、実施例4ではL1およびL2は(34.5−7.5)÷2=13.5μmとされている。つまり、画素幅Lが34.5μmとされている場合において、L1およびL2が、少なくとも13.5μm〜15.6μmの範囲内とされていれば、発光媒体層40の平坦率70%以上を確保できると考えられる。L1およびL2をそれぞれ13.5μm〜15.6μmの範囲内において適宜変更した場合におけるL1/L2は、およそ0.86〜1.16の範囲内となる。すなわち、副隔壁32は、少なくとも0.86≦L1/L2≦1.16を満たす範囲内において中心位置と異なる位置に適宜形成できると考えられる。
次に、副隔壁32を備えるバンク30とすることによる最小の開口部面積の減少が発光寿命に与える影響について検討する。なお、ここでいう最小の開口部面積とは、本実施形態における第1開口部101もしくは第2開口部102の開口部面積を指す。
まず、一般的には、複数の画素100を有する有機EL表示装置においては、各画素100の発光寿命を長くする観点から、発光面積を大きくするほうが好ましい。これは、各画素100の発光面積を大きくすると、各画素100を発光させて得られる画面の視認性を上げるために必要な各画素100の輝度を低くすることができ、低輝度での駆動のほうが高輝度での駆動よりも各画素100の発光寿命が長くできるためである。
ここで、本実施形態の有機EL表示装置では、画素100が副隔壁32の形成により第1開口部101と第2開口部102とに分割されているため、最小の発光領域、すなわち開口部面積が小さくなる。そのため、副隔壁32を備えない従来の有機EL表示装置(以下、単に「従来の有機EL表示装置」という)における各画素に比べて、第1開口部101および第2開口部102の輝度を高くする必要がある。よって、本実施形態の有機EL表示装置の発光寿命は、従来の有機EL表示装置に比べて低下するように思える。
しかし、本実施形態の有機EL表示装置では、上記のように第1開口部101および第2開口部102における発光媒体層40の平坦率が高い。そのため、第1開口部101および第2開口部102の発光寿命については、従来の有機EL表示装置の画素に比べて長くなる。結果として、本実施形態の有機EL表示装置の発光寿命は、従来の有機EL表示装置の画素の開口部面積に比べて、最小の開口部面積が小さくされていても、その低下が抑制され、従来の有機EL表示装置と同等以上となる。
なお、ここでいう発光寿命とは、初期の所定輝度における電流密度を固定して連続駆動させた際において、輝度が初期の所定輝度の半分となるまでの時間、すなわち半減輝度寿命を意味する。
このように、本実施形態によれば、画素100の発光領域を形成するバンク30を枠体状の主隔壁31と主隔壁31に囲まれた領域を分割する副隔壁32とにより構成された構造とすることで、発光媒体層40の平坦性が向上した有機EL表示装置となる。すなわち、画素100における発光ムラが低減された有機EL表示装置となる。また、画素100の発光ムラが低減されることにより、画素100における電流密度のムラも少なくなり、その信頼性が向上する。さらに、主隔壁31および副隔壁32は、異なる厚みとする必要性がなく、バンク30の平坦性も確保される。
また、副隔壁32を設けたバンク30に囲まれた領域内に発光媒体層40を塗布により形成すると共に、副隔壁32上にインク41を吐出もしくは印刷することにより、簡便に、画素100の発光ムラが抑制された有機EL表示装置を製造できる。
(他の実施形態)
なお、上記した第1実施形態に示した有機EL表示装置は、本発明の有機EL表示装置の一例を示したものであり、上記の第1実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
(1)例えば、上記第1実施形態では、副隔壁32が長軸方向に沿って伸びるように1つ形成された例について述べたが、これに加えて短軸方向に沿って伸びる副隔壁32が設けられてもよい。具体的には、図1に示すように長軸方向であるY方向に沿って伸びる副隔壁32と、第1開口部101および第2開口部102をY方向において2つに等分割するように短軸方向であるX方向に沿って伸びる副隔壁32とを備える画素100を作製した。そして、Y方向に沿って伸びる副隔壁32を備える画素100(以下「二分割画素」という)と、X方向とY方向に沿って伸びる副隔壁32を備える画素100(以下「四分割画素」という)における発光媒体層40の平坦性について確認した。
より具体的には、四分割画素では、上記の実施例と同様に各画素100のX方向における画素幅Lを34.5μmとし、Y方向における画素幅を158.5μmとし、2つの副隔壁幅Wをそれぞれ3.3μmとした。その結果、四分割画素における平坦部の面積と開口部の面積がそれぞれ3581μm2、4842μm2であり、その平坦率については3581/4842×100=74.0%であり、副隔壁32を備えない従来の画素に比べて発光媒体層40の平坦性が向上した。
このように、副隔壁32が長軸方向と短軸方向にそれぞれ1つ設けられた画素100とされることで、上記第1実施形態と同様に、発光媒体層40の平坦性が向上した有機EL表示装置となる。
(2)上記第1実施形態では、副隔壁32が主隔壁31のうち一辺および他辺と直交する他の二辺と平行になるように形成されている例について説明したが、これに限らず、他の二辺に対して傾いて形成されていてもよい。また、副隔壁32は、一面法線方向から見て、長軸方向に沿って長方形状とされた例について説明したが、これに限らず、短軸方向における幅が部分的に広くされたり、狭くされたりするなどの形状とされてもよく、他の形状とされてもよい。
(3)上記第1実施形態では、主隔壁31が、一面法線方向から見て、長方形枠体状とされた例について説明したが、これに限らず、正方形枠体状とされてもよく、他の形状とされてもよい。
(4)上記第1実施形態では、発光媒体層40が正孔注入層、正孔輸送層、発光層により構成された例を説明したが、これに限られず、有機EL表示装置として機能する構成であれば、他の層を導入してもよい。例えば、電子輸送層、正孔ブロック層、電子ブロック層などを導入して発光媒体層40としてもよい。また、発光層に正孔や電子といったキャリアを輸送する公知の材料を導入し、正孔注入層や正孔輸送層もしくはその両方を省いた構成を発光媒体層40としてもよく、上記の他の導入する層との組み合わせた構成を発光媒体層40としてもよい。また、発光媒体層40に用いる材料としては、上記第1実施形態で述べた材料の例に限られず、適宜選択することができる。
(5)上記第1実施形態では、発光媒体層40で生じた光が第1電極20側へ透過するボトムエミッション型の有機EL表示装置の例を挙げた。しかし、発光媒体層40で生じた光が第2電極50側へ透過するトップエミッション型としてもよく、第1電極20および第2電極50の両方を透過する両面発光型の有機EL表示装置としてもよい。