JP2018104853A - ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体、それを含むポリカーボネート樹脂複合材 - Google Patents

ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体、それを含むポリカーボネート樹脂複合材 Download PDF

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Abstract

【課題】ポリカーボネート樹脂と親和性があるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体、およびそれを構成要素として含むポリカーボネート樹脂複合材を提供する。【解決手段】水分量が15質量%未満になった履歴を有しない水分量15〜200質量%に調整されたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維骨格内に、アクリル系またはスチレン系樹脂ディスパージョンを、上記繊維の水分量を0質量%に換算したときの繊維質量に対して、固形分として0.1質量%以上10.0質量%以下、付着浸透させたことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体、および、それを構成要素として含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂複合材である。【選択図】なし

Description

本発明は、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体およびそれを構成要素として含むポリカーボネート樹脂複合材に関するものである。
ポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下、PPTAと記すことがある。)繊維は、紡糸時にポリマー溶解の溶媒として濃硫酸を用い液晶状態とした後、口金によるせん断を与えて結晶化度の高い糸に形成される。溶媒である濃硫酸は、紡糸直後に水洗およびアルカリにより中和処理され、200℃以上で乾燥・熱処理された後、フィラメントとして巻き取られて製造されることが知られている(特許文献1)。
PPTA繊維は、高強度、高弾性率、高耐熱性、非導電性、錆びないなどの高い機能性と、有機繊維特有のしなやかさと、軽量性を併せ持った合成繊維である。これらの特徴から、自動車や自動二輪、および自転車用のタイヤ、自動車用歯付きベルト、コンベヤ等のゴム補強材料、あるいは光ファイバーケーブルの補強やロープ等として利用されている。さらに、防弾チョッキや、刃物に対して切れにくい性質を利用した作業用手袋や作業服などの防護衣料への応用、燃え難さを利用した消防服への応用等も行われている。
しかし、PPTA繊維は化学的に安定であり、そのままの状態では樹脂やゴムなどの材料に対する親和性が劣るため、何らかの前処理が必要とされることがある。
一般的に強化繊維(例えば、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維等)を樹脂に適用して樹脂を改質する手段として、強化繊維のチョップドストランドと熱可塑性樹脂をドライブレンドしたものを押出機で押出し、強化繊維を熱可塑性樹脂中に分散させてペレット化し、このペレットを熱可塑性樹脂に添加して所望の成形を行い成形品を得る方法が知られている。しかし、この方法では強化繊維の配合量を高くできないため、所望の樹脂特性が得られ難い問題点がある。
さらに、強化繊維の連続繊維束を溶融した熱可塑性樹脂中に通し、プルトリュージョン法により強化繊維束を熱可塑性樹脂で被覆した後、ペレット化する方法、または、強化繊維の連続繊維束を熱可塑性樹脂エマルジョンに浸漬した後、乾燥したものを切断してペレット化する方法等もある。前者のプルトリュージョン法によれば、従来品に比べて、成形品の機械的特性が10〜20%程度向上するものの、更なる向上が望まれている。
後者の連続繊維束を熱可塑性樹脂エマルジョンに浸漬、乾燥する方法は、主としてガラス繊維や炭素繊維等の無機繊維について多くの検討がなされている。
例えば、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂エマルジョンに、ガラス繊維束を浸漬し、付着した樹脂を乾燥もしくは乾燥溶融し、樹脂で被覆されたガラス繊維束を所定長さに切断して得たペレットと熱可塑性樹脂を配合したものを押出成形してなる樹脂組成物は、チョップドストランド法で得た樹脂組成物に比べ、引張強さ、曲げ強さ、弾性率、耐衝撃性等の点で優れることが開示されている(特許文献2)。
また、ジエン系モノマー(ブタジエン)−スチレン共重合体で、ガラス転移点が20℃〜100℃の熱可塑性樹脂エマルジョンを連続繊維(ガラス繊維、炭素繊維)束に付着させ、前記熱可塑性樹脂のガラス転移点〜300℃の温度で乾燥溶融した連続繊維束を所定長さに切断して得た樹脂ペレットは、ポリカーボネート樹脂中での分散性が良好であることが開示されている(特許文献3)。
さらに、アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル−メタクリル酸グリシジル共重合体あるいはアクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル−スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂エマルジョンを、エポキシシランカップリング剤と共に連続繊維(炭素繊維)束に付着させたものを所定長さに切断し、切断した繊維束をポリプロピレン樹脂に混練して得たペレットを用いて成形した成形品は、エポキシ系サイジング剤を付着させたペレットを用いて成形した成形品に比べ、引張破断強度、曲げ強さ、アイゾット強度に優れることが開示されている(特許文献4)。
米国特許第3,767,756号明細書 特開平10−330503号公報 特開2000−167828号公報 特開2005−146431号公報
しかしながら、特許文献2および特許文献3に開示されている付着樹脂溶融法は、繊維束に対する樹脂付着量が増加する点で優れているが、付着樹脂の繊維に対する親和性が乏しい場合、付着樹脂が繊維表面から脱落するおそれがある。一方、特許文献4に開示されている樹脂エマルジョン付着法は、シランカップリング剤等の助剤が必要であると共に、炭素繊維束をプレサイジング処理する必要があることから、処理工程が煩雑である。
ところで、各種熱可塑性樹脂の中でも、とりわけポリカーボネート樹脂は、卓越した耐衝撃性を有しており、ガラス転移点が高く荷重たわみ温度が高いことから、高強度、高弾性率、高耐熱性、非導電性、錆びない等の高機能性、しなやかさ、軽量性を併せ持ったアラミド繊維と複合化することにより、従来無かった高機能複合材となり得る可能性がある。
本発明の目的は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、ポリカーボネート樹脂と親和性があるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体、およびそれを構成要素として含むポリカーボネート樹脂複合材を提供することにある。
本発明者等は、ポリカーボネート樹脂と親和性があるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体に関し鋭意検討を行った結果、水分量が15質量%未満になった履歴を有しない水分量15〜200質量%に調整されたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維骨格内に、アクリル系またはスチレン系樹脂ディスパージョンを付着浸透させることにより、ポリカーボネート樹脂と親和性がある繊維複合体が得られることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)水分量が15質量%未満になった履歴を有しない水分量15〜200質量%に調整されたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維骨格内に、アクリル系またはスチレン系樹脂ディスパージョンを、上記繊維の水分量を0質量%に換算したときの繊維質量に対して、固形分として0.1質量%以上10.0質量%以下、付着浸透させたことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
(2)樹脂ディスパージョンを構成する樹脂が、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂である、前記(1)に記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
(3)樹脂ディスパージョンを構成する樹脂が、スチレン系樹脂である、前記(1)に記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
(4)樹脂ディスパージョンを構成する樹脂が、酸変性樹脂である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体を構成要素として含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂複合材。
本発明によれば、樹脂が付着浸透していないポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維と比べ、ポリカーボネート樹脂との接着性が向上する。それにより、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維本来の高ヤング率を保持しつつ、ポリカーボネート樹脂等の強化繊維として有用な繊維複合体を提供できる。このポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体は、複合材料で幅広い用途に展開できる。
本発明におけるポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)とは、テレフタル酸とパラフェニレンジアミンを重縮合して得られる重合体であるが、少量のジカルボン酸およびジアミンを共重合したものも使用でき、重合体または共重合体の分子量は通常20,000〜25,000が好ましい。
通常のPPTA繊維は、PPTAを濃硫酸に溶解し、その粘調な溶液を紡糸口金から押し出し、空気中または水中に紡出することによりフィラメント状にした後、水酸化ナトリウム水溶液で中和し、最終的には120〜500℃の乾燥・熱処理をして得られる。
本発明において、水分量15〜200質量%に調整されたPPTA繊維は、例えば、以下のようにして得ることができる。すなわち、PPTAを濃硫酸に溶解して18〜20質量%の粘調な溶液とし、これを紡糸口金から吐出して、わずかの間空気中に紡出後、水中へ紡糸し(この時、口金吐出時のせん断速度を25,000〜50,000sec−1にするのが好ましい。)、水洗中和処理を経た後、得られた原糸を100〜160℃で、好ましくは5〜20秒間乾燥する。水分率が15質量%未満では、樹脂ディスパージョンを均一に繊維骨格内に浸透させることが困難となり、一方、水分率が200質量%を超えると、浸透させた樹脂ディスパージョンが巻き取り工程までにガイド等に接触した際に水分と共に脱落する恐れがあり、また、繊維の巻き取り工程が難しくなる。PPTA繊維の水分率は、樹脂ディスパージョンのPPTA繊維骨格内への浸透性、PPTA繊維の水分調整の容易性および生産効率等の観点より、好ましくは15〜100質量%、より好ましくは20〜50質量%、特に好ましくは35〜50質量%である。
本発明のPPTA繊維複合体は、温度100〜160℃で熱処理条件などを変更しながら、PPTA繊維の結晶サイズが50オングストローム未満の状態を保ち、かつ、水分率が15〜200重量%の状態を保つようなPPTA繊維とし、該PPTA繊維骨格内に樹脂ディスパージョンを付着浸透させることによって得られる。PPTA繊維の結晶サイズが50オングストローム以上になると、樹脂ディスパージョンを繊維骨格内に浸透させることが難しくなる。ここで、付着浸透としたのは、樹脂ディスパージョンをPPTA繊維骨格内に浸透させる際にPPTA繊維表面に付着する樹脂ディスパージョンも含まれることを意味する。
また、PPTA繊維は、紡出後水分率が15質量%未満に乾燥された履歴を持たないことが望ましい。常に水分率が15質量%以上に調整されたPPTA繊維を用いることにより、樹脂ディスパージョンが浸透し易い状態を保持することができるからである。
上記の水分量15〜200質量%に調整されたPPTA繊維骨格内に浸透させる樹脂ディスパージョンは、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤を併用しないことが、処理工程の煩雑化や成形品の機械的特性低下を防止するという観点からは好ましいが、所望により併用しても良い。樹脂ディスパージョンがシランカップリング剤を含有する場合、PPTA繊維骨格内にわずかに存在する官能基と優先的に反応することで、ディスパージョン中の樹脂との親和性を阻害するおそれがある。
樹脂ディスパージョンを付着浸透させたPPTA繊維複合体を、例えば、巻き取り工程でボビンに巻き取り、その後ボビンから巻き出し、熱処理して水分を除去し、水分率を15質量%未満とすることにより、本発明のPPTA繊維複合体を得ることができる。
樹脂ディスパージョンは、PPTA繊維の水分量を0%に換算した繊維質量に対して、固形分として0.1〜10.0質量%、より好ましくは0.2〜5.0質量%付着浸透させるのがよい。付着浸透量が少ないと接着性付与効果が充分発揮されなくなるおそれがある。
本発明では、水分量が15質量%未満になった履歴を有しない水分量15〜200質量%に調整されたPPTA繊維骨格内に浸透させる樹脂ディスパージョンとして、アクリル系またはスチレン系樹脂ディスパージョンが用いられる。
(アクリル系樹脂ディスパージョン)
アクリル系樹脂ディスパージョンを構成するアクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、アクリロニトリル系共重合体等が挙げられる。なお、本発明において(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを意味する。
前記(メタ)アクリル酸エステル系共重合体は、(メタ)アクリル酸エステルと他の共重合可能なエチレン性不飽和化合物との共重合体であり、前記アクリロニトリル系共重合体は、アクリロニトリルと他の共重合可能なエチレン性不飽和化合物との共重合体である。
アクリル系樹脂としては、PPTA繊維骨格内への浸透性およびポリカーボネート樹脂に対する接着性の観点から、(メタ)アクリル酸エステルまたはアクリロニトリルと、他の共重合可能なエチレン性不飽和化合物との2〜4元共重合体が好ましい。質量平均分子量(Mw)は、2,000〜100,000程度が好ましい。
前記(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソ−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸イソ−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル等の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘプチル、(メタ)アクリル酸シクロオクチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル等のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類;等が挙げられる。これらの化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、入手容易性、PPTA繊維骨格内への浸透性の点より、脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル類が好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルがより好ましい。
他の共重合可能なエチレン性不飽和化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、シクロヘキセンジカルボン酸等の不飽和カルボン酸;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル等の窒素含有化合物;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有化合物;スチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;ベンジル(メタ)アクリレート等の不飽和カルボン酸アルキルエステル;アミノエチル(メタ)アクリレート等の不飽和カルボン酸アミノアルキルエステル;グリシジル(メタ)アクリレート等の不飽和カルボン酸グリシジルエステル;ビニルピリジン、(メタ)アクリルアミド等の窒素含有化合物;1,3−ブタジエン、イソプレン等の脂肪族共役ジエン;等が挙げられる。これらの化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの化合物の中でも、入手容易性、アクリル系樹脂ディスパージョンの安定性の点より、不飽和カルボン酸、芳香族ビニル化合物またはエポキシ基含有化合物が好ましく、特に不飽和カルボン酸が好ましい。不飽和カルボン酸は、1種または2種以上を任意に組み合わせて用いることができる。
不飽和カルボン酸を共重合することにより、カルボキシル基を有する酸変性アクリル系樹脂を得ることができるが、不飽和カルボン酸の中でも、入手容易性の点より、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましい。また、無水マレイン酸を他の単量体として用いる場合、スチレン等の芳香族ビニル化合物をさらに共重合することにより、無水マレイン酸の比率を上げることができ、ポリカーボネート樹脂に対する接着性を向上させることができる。
酸変性アクリル系樹脂において、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を構成する全単量体中における、(メタ)アクリル酸エステルと不飽和カルボン酸以外の他の共重合可能なエチレン性不飽和化合物の比率は、PPTA繊維骨格内への浸透性および樹脂ディスパージョンの安定性の点より、合計で、50〜99質量%であることが好ましく、50〜95質量%であることがより好ましい。不飽和カルボン酸の比率は、1〜50質量%であることが好ましく、5〜50質量%であることがより好ましい。不飽和カルボン酸の比率は、酸変性アクリル系樹脂の酸価が、0.1〜500になるように決めることが好ましい。
なお、酸価は、試料中のカルボキシル基を中和するのに要する水酸化カリウムの量を、試料1.0gに対するmg数で表したもので、試料中のカルボキシル基の含有量を示す尺度である。
(スチレン系樹脂ディスパージョン)
スチレン系樹脂ディスパージョンを構成するスチレン系樹脂としては、カルボキシル基を有する酸変性スチレン系樹脂が好ましく用いられる。前記スチレン系樹脂としては、芳香族ビニル化合物と他の共重合可能な不飽和化合物との共重合体が挙げられる。
スチレン系樹脂としては、ポリカーボネート樹脂に対する接着性の観点から、スチレンと、共重合可能な不飽和化合物との2〜4元共重合体で、酸価が0.1〜500の共重合体が好ましい。質量平均分子量(Mw)は、2,000〜100,000程度が好ましい。
前記芳香族ビニル化合物としては、スチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。
他の共重合可能な不飽和化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、シクロヘキセンジカルボン酸等の不飽和カルボン酸;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル;ビニルピリジン、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル等の窒素含有化合物;等が挙げられる。これらの化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、入手容易性、樹脂ディスパージョンの安定性の点より、ジエン類、不飽和カルボン酸または窒素含有化合物が好ましく、不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましい。
芳香族ビニル化合物と他の共重合可能な不飽和化合物との共重合体における、芳香族ビニル化合物の比率は、PPTA繊維骨格内への浸透性および樹脂ディスパージョンの安定性の点より、50〜99質量%であることが好ましく、50〜95質量%であることがより好ましい。他の共重合可能な不飽和化合物の比率は、1〜50質量%であることが好ましく、5〜50質量%であることがより好ましい。
樹脂ディスパージョンは、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の公知の重合方法で得たものを用いることができる。水分量15〜200質量%に調整されたPPTA繊維骨格内に樹脂ディスパージョンを浸透させることを考慮すると、乳化重合法で得たもの、あるいは、それ以外の重合法により得た重合体を強制乳化により、水、水性溶媒またはこれらの混合溶媒中に分散させたものが好ましく用いられる。
水性溶媒としては、エステル類、脂肪族アルコール類、(ポリ)アルキレングリコールエーテル類、ケトン類等が挙げられ、2種以上の混合溶媒でも良い。また、これら以外の有機溶媒が混合されていても良い。
本発明では、樹脂ディスパージョン中における樹脂濃度は、特に限定されるものではないが、好適には、樹脂濃度10〜50質量%程度のディスパージョンが用いられる。樹脂粒子径としては、粒子径が小さいものが好ましく、平均粒径(電子顕微鏡法による)が20〜300nm程度のものがより好ましい。樹脂ディスパージョンのpHは6〜10の範囲が好ましい。
本発明において、樹脂ディスパージョンを水分量15〜200質量%に調整されたPPTA繊維骨格内に浸透させる場合、油剤に含ませて用いてもよいし、油剤と別工程で用いてもよい。油剤としては、PPTA繊維に用いられる一般的な油剤、例えば、炭素数18以下の低分子量脂肪酸エステル、ポリエーテル、鉱物油等が挙げられる。樹脂を油剤に含ませて用いる場合は、上記油剤中に約20〜60質量%含有させることが好ましく、より好ましくは30〜50質量%である。
樹脂ディスパージョンおよび当該樹脂ディスパージョンを含む油剤をPPTA繊維に付与する方法は、特に限定されず、従来公知の任意の方法が採用されてよく、例えば、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法等の方法でPPTA繊維に付与される。
樹脂ディスパージョンを付着浸透させたPPTA繊維複合体は、そのまま連続的に、もしくは一旦巻き取り工程でボビンに巻き取った後、巻き取ったPPTA繊維複合体をボビンから巻き出して、熱処理することにより、水分率を15質量%未満、より好ましくは10質量%未満とすることができる。熱処理の条件は特に限定されない。例えば80〜300℃、好ましくは100〜250℃で熱処理をした場合、水分率を15質量%未満にすることができる。この熱処理により、PPTAの結晶サイズが拡大し、結晶間間隙を狭くすることにより樹脂をPPTA繊維骨格内に固定することができる。
PPTA繊維の表面官能基としては、大部分がアミド基であるが、僅かではあるがアミド基の加水分解によりアミン基、カルボキシル基が存在する。水分量が15〜200質量%に調整されたPPTA繊維骨格内に、不飽和カルボン酸類を共重合等により導入した酸変性樹脂ディスパージョンを浸透させると、PPTA繊維骨格内に反応性官能基が導入されることで、PPTA繊維の表面官能基と反応し易い状態を形成することができる。反応は、非加熱下および/または加熱下で行われて良い。反応速度は、導入する樹脂の種類、導入後の乾燥条件によって異なるが、通常、非加熱条件下では反応しないことが多く、加熱することで反応が進行しやすくなるものと推察される。
本発明で得られるPPTA繊維複合体は、ポリカーボネート樹脂との複合材として好適に用いられる。それ以外でも、ゴム材料や、ポリカーボネート樹脂以外のポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂等の樹脂材料との複合材料に広く適用できる。
複合材料の形態は,PPTA繊維複合体と樹脂やゴムとの複合体であれば特に限定されず、ペレット状、シート状などであって良い。また、PPTA繊維複合体は、カットファイバー、繊維束、織物、編物、撚糸、加工糸など種々の形態で複合材料に適用できる。
ゴム補強用として使用する場合は、本発明のPPTA繊維複合体に、公知のレゾルシンホルマリンラテックス(RFL)による浸漬処理を施す方法などが挙げられ、例えば、PPTA繊維複合体に、ゴムラテックス100質量部に対してレゾルシン−ホルムアルデヒド初期縮合物を2〜20質量部含有させた混合物を、固形分濃度で5〜25質量%程度含有するRFL処理液を施した後、100〜260℃で熱処理する。
ゴムラテックスとしては、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ゴムラテックス、スチレン−ブタジエン系ゴムラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン系ゴムラテックス、クロロプレン系ゴムラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンゴムラテックス、アクリレート系ゴムラテックスおよび天然ゴムラテックスなどが挙げられ、レゾルシン−ホルムアルデヒド初期縮合物としては、レゾルシン−ホルムアルデヒドを酸触媒またはアルカリ触媒下で縮合させて得られたノボラック型縮合物などが挙げられる。処理液には、ブロックドポリイソシアネート化合物、エチレンイミン化合物、ポリイソシアネートとエチレンイミンとの反応物などから選ばれた1種以上の化合物が混合されていてもよい。
本発明のPPTA繊維複合体は、PPTA繊維骨格内に樹脂ディスパージョンを浸透させているので、RFL処理液の付着性がよい上に、RFL高温処理を行ったときコードの強力低下が生じにくいという利点が有る。
RFLによる浸漬処理などを施したPPTA繊維複合体を0.1〜5mmにカットしたフロック状の短繊維複合体は、ゴムベルト用補強材として、また、RFL処理を施さずに0.1〜5mmにカットしたフロック状の短繊維複合体は、樹脂用添加剤などとして用いることができる。
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例中における各測定値は次の方法にしたがった。
(1)水分率(質量%)
試料約5gの質量を測定し、105℃×1時間の熱処理を行い、24℃、55%RHで5分間放置した後、再度質量を測定する。ここで使う水分率は、[乾燥前質量−乾燥後質量]/[乾燥後質量]×100で得られるドライベース水分率である。
(2)繊維への樹脂付着量(質量%)
樹脂ディスパージョンを処理する前の繊維を、あらかじめ決められた長さでサンプリングし、105℃、4時間処理した後の質量を測定する。次に、樹脂ディスパージョン処理後の繊維を、同じ長さでサンプリングし、同じく105℃、4時間処理した後の質量を測定する。ここで使う繊維への樹脂付着量は、[処理後の質量−処理前の質量]×100/[処理前の質量]で得られる。
(3)剥離荷重(N)
引張試験機を用い、板状樹脂サンプルが水平方向にスムーズに動くように設計された治具に、樹脂表面上に端部から20mm程度が貼り付いていない長繊維を貼り付けた樹脂シートを設置し、貼り付いていない端部を垂直方向に移動するチャックにはさみ、チャックを上方に移動させた時の荷重を測定し、剥離荷重とした。
(実施例1)
通常の方法で得られたPPTA(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1,000個有する口金からせん断速度30,000sec−1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理し、その後、110℃×15秒間の低温乾燥をして、水分率35質量%のPPTA繊維(水分率0質量%換算のとき繊度1,670dtex)になるように調整した。更に、このPPTA繊維を、アクリル酸、マレイン酸、アクリル酸メチルおよびスチレンを共重合した4元共重合体(アクリル酸/マレイン酸/アクリル酸メチル/スチレン=0.1/35.0/48.9/16.0(質量比))の樹脂ディスパージョンからなるディップ浴に通した後、ロールで絞り、付着量を調整し、105℃、4時間乾燥させることにより、水分率0質量%換算としたときの繊維に対し2.4質量%(樹脂換算)の樹脂を浸透させたPPTA繊維複合体を製造した。
得られたPPTA繊維複合体に2.08回/インチの片撚りを加えた。
たて方向に1mm間隔で長さ265mm以上になるように、7本のPPTA繊維複合体を引き揃えた後、繊維端部となる部分を決め、端部から繊維引き揃え方向に対し長さ20mm、厚さ4mmのポリカーボネート樹脂シートを乗せ、加熱プレス成形機にて3.8mmのスペーサーを用い、10MPaの荷重下250℃にて15分間処理し樹脂を溶融させた後、引き続き、常温、10MPaの条件下で、金型ごと50℃で冷却固化させることにより、3.8mm厚のポリカーボネート樹脂シート上にPPTA繊維複合体を貼り付けたシートを得た。このシート試験片におけるPPTA繊維複合体の剥離荷重は34Nであった。
(実施例2)
実施例1における樹脂浸透量が、水分率0質量%換算としたときの繊維に対し4.7質量%(樹脂換算)であること以外は、実施例1と同様の方法で、ポリカーボネート樹脂シート上にPPTA繊維複合体を貼り付けたシートを得た。このシート試験片におけるPPTA繊維複合体の剥離荷重は41Nであった。
(比較例1)
実施例1で得た水分率35質量%の処理前のPPTA繊維にディップ液を通すことなく、乾燥させたこと以外は、実施例1と同様の方法で、樹脂付着のない水分率が6.9質量%のPPTA繊維を得た。このPPTA繊維を用い、実施例1に記載した方法で、ポリカーボネート樹脂シート上にPPTA繊維を貼り付けたシートを得た。このシート試験片におけるPPTA繊維の剥離荷重は17Nであった。
(比較例2)
実施例1における樹脂ディスパージョンの代わりに、アミノプロピルトリメトキシシランを水分率0質量%換算としたときの繊維に対し0.63質量%浸透させたこと以外は、実施例1と同様の方法で、ポリカーボネート樹脂シート上にPTA繊維複合体を貼り付けたシートを得た。このシート試験片におけるPPTA繊維の剥離荷重は18Nであった。
Figure 2018104853
表1の結果から、4元共重合体樹脂ディスパージョンを付着させた実施例1〜2のPPTA繊維複合体は、4元共重合体樹脂ディスパージョンを付着させていないPPTA繊維(比較例1)に比べ、ポリカーボネート樹脂に対する接着性が良好であることが分かる。
本発明のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体は、ポリカーボネート樹脂複合材等として各種産業用資材に有用である。

Claims (5)

  1. 水分量が15質量%未満になった履歴を有しない水分量15〜200質量%に調整されたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維骨格内に、アクリル系またはスチレン系樹脂ディスパージョンを、上記繊維の水分量を0質量%に換算したときの繊維質量に対して、固形分として0.1質量%以上10.0質量%以下、付着浸透させたことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
  2. 樹脂ディスパージョンを構成する樹脂が、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂である、請求項1に記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
  3. 樹脂ディスパージョンを構成する樹脂が、スチレン系樹脂である、請求項1に記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
  4. 樹脂ディスパージョンを構成する樹脂が、酸変性樹脂である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体を構成要素として含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂複合材。
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