JP2018103240A - 異材接合用アーク溶接法、接合補助部材、異材溶接継手、及び、接合補助部材付き板材 - Google Patents
異材接合用アーク溶接法、接合補助部材、異材溶接継手、及び、接合補助部材付き板材 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金と鋼とを安価なアーク溶接設備を用いて、強固かつ信頼性の高い品質で接合でき、かつ開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる、異材接合用アーク溶接法、接合補助部材、異材溶接継手、及び、接合補助部材付き板材を提供する。【解決手段】アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の上板10には、下板20との重ね合わせ面に臨む円形の穴11を有し、軸部31とフランジ部32とを持った段付きの外形形状を有し、且つ、軸部31及びフランジ部32を貫通する中空部33が形成され鋼製の接合補助部材30をさらに備える。接合補助部材30は、上板10に設けられた穴11に圧入され、接合補助部材30の中空部33は、鉄合金、または、Ni合金の溶接金属40で充填されると共に、溶接金属40と、溶融された下板20及び接合補助部材30の一部とによって溶融部Wが形成される。【選択図】図1B
Description
本発明は、異材接合用アーク溶接法、接合補助部材、異材溶接継手、及び、接合補助部材付き板材に関する。
自動車を代表とする輸送機器には、(a)有限資源である石油燃料消費、(b)燃焼に伴って発生する地球温暖化ガスであるCO2、(c)走行コストといった各種の抑制を目的として、走行燃費の向上が常に求められている。その手段としては、電気駆動の利用など動力系技術の改善の他に、車体重量の軽量化も改善策の一つである。軽量化には現在の主要材料となっている鋼を、軽量素材であるアルミニウム合金、マグネシウム合金、炭素繊維などに置換する手段がある。しかし、全てをこれら軽量素材に置換するには、高コスト化や強度不足になる、といった課題があり、解決策として鋼と軽量素材を適材適所に組み合わせた、いわゆるマルチマテリアルと呼ばれる設計手法が注目を浴びている。
鋼と上記軽量素材を組み合わせるには、必然的にこれらを接合する箇所が出てくる。鋼同士やアルミニウム合金同士、マグネシウム合金同士では容易である溶接が、異材では極めて困難であることが知られている。この理由として、鋼とアルミニウムあるいはマグネシウムの溶融混合部には極めて脆い性質である金属間化合物(IMC)が生成し、引張や衝撃といった外部応力で溶融混合部が容易に破壊してしまうことにある。このため、抵抗スポット溶接法やアーク溶接法といった溶接法が異材接合には採用できず、他の接合法を用いるのが一般的である。鋼と炭素繊維の接合も、後者が金属ではないことから溶接を用いることができない。
従来の異材接合技術の例としては、鋼素材と軽量素材の両方に貫通穴を設けてボルトとナットで上下から拘束する手段があげられる。また、他の例としては、かしめ部材を強力な圧力をかけて片側から挿入し、かしめ効果によって拘束する手段が知られている(例えば、特許文献1参照)。
さらに、他の例としては、アルミ合金素材に鋼製の接合部材をポンチとして押し込むことで穴あけと接合部材を仮拘束し、次に鋼素材と重ね合わせ、上下両方から銅電極にて挟み込んで、圧力と高電流を瞬間的に与えて鋼素材と接合部材を抵抗溶接する手段が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
また、他の例としては、摩擦攪拌接合ツールを用いてアルミ合金と鋼の素材同士を直接接合する手段も開発されている。(例えば、特許文献3参照)。
しかしながら、ボルトとナットによる接合法は、鋼素材と軽量素材が閉断面構造を構成するような場合(図32A参照)、ナットを入れることができず適用できない。また、適用可能な開断面構造の継手の場合(図32B、図32C参照)でも、ナットを回し入れるのに時間を要し能率が悪いという課題がある。
また、特許文献1に記載の接合法は、比較的容易な方法ではあるが、鋼の強度が高い場合には挿入できない問題があり、且つ、接合強度は摩擦力とかしめ部材の剛性に依存するので、高い接合強度が得られないという問題がある。また、挿入に際しては表・裏両側から治具で押さえ込む必要があるため、閉断面構造には適用できないという課題もある。
さらに、特許文献2に記載の接合法も、閉断面構造には適用できず、また、抵抗溶接法は設備が非常に高価であるという課題がある。
特許文献3に記載の接合法は、アルミ合金素材を低温領域で塑性流動させながら鋼素材面に圧力をかけることで、両素材が溶融し合うことがなく、金属間化合物の生成を防止しながら金属結合力が得られるとされ、鋼と炭素繊維も接合可能という研究成果もある。しかしながら、本接合法も閉断面構造には適用できず、また高い圧力を必要とするので機械的に大型となり、高価であるという問題がある。また、接合力としてもそれほど高くならない。
したがって、既存の異材接合技術は、(i)部材や開先形状が開断面構造に限定される、(ii)接合強度が低い、(iii)設備コストが高価であるといった一つ以上の問題を持っている。このため、種々の素材を組み合わせたマルチマテリアル設計を普及させるためには、(i’)開断面構造と閉断面構造の両方に適用できる、(ii’)接合強度が十分に高く、かつ信頼性も高い、(iii’)低コストであるという全ての要素を兼ね備えた、使いやすい新技術が求められている。
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、アルミニウム合金(以下「Al合金」とも言う)もしくはマグネシウム合金(以下、「Mg合金」とも言う)と鋼の異材を、既に世に普及している安価なアーク溶接設備を用いて、強固かつ信頼性の高い品質で接合でき、かつ開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる、異材接合用アーク溶接法、接合補助部材、異材溶接継手、及び、接合補助部材付き板材を提供することにある。
ここで、Al合金もしくはMg合金と鋼を溶融接合させようとすると、上述したように金属間化合物(IMC)の生成が避けられない。一方、鋼同士の溶接は最も高い接合強度と信頼性を示すことは、科学的にも実績的にも自明である。
そこで、本発明者らは、鋼同士の溶接を結合力として用い、さらに拘束力を利用して異材の接合を達成する手段を考案した。
そこで、本発明者らは、鋼同士の溶接を結合力として用い、さらに拘束力を利用して異材の接合を達成する手段を考案した。
従って、本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の第1の板と、鋼製の第2の板と、を接合する異材接合用アーク溶接法であって、
前記第1の板に円形の穴を空ける工程と、
軸部とフランジ部とを持った段付きの外形形状を有し、且つ、前記軸部及び前記フランジ部を貫通する中空部が形成され、前記軸部の最大外径及び前記フランジ部の幅が前記第1の板の穴の直径よりそれぞれ大きく、前記軸部がフランジ部側でくびれ部を有する鋼製の接合補助部材を、前記第1の板の穴に圧入する工程と、
前記第1の板と前記第2の板を重ね合わせる工程と、
以下の(a)〜(e)のいずれかの手法によって、前記接合補助部材の中空部を溶接金属で充填すると共に、前記第2の板及び前記接合補助部材を溶接する工程と、
を備える異材接合用アーク溶接法。
(a)鉄合金、または、Ni合金の前記溶接金属が得られる溶接ワイヤを溶極として用いるガスシールドアーク溶接法。
(b)前記溶接ワイヤを溶極として用いるノンガスアーク溶接法。
(c)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるガスタングステンアーク溶接法。
(d)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるプラズマアーク溶接法。
(e)鉄合金、または、Ni合金の前記溶接金属が得られる被覆アーク溶接棒を溶極として用いる被覆アーク溶接法。
(2) 前記第2の板には、絞り加工により膨出部が形成されており、
前記重ね合わせ工程において、前記第2の板の膨出部が、前記第1の板の穴内に配置される、(1)に記載の異材接合用アーク溶接法。
(3) 前記重ね合わせ工程の前に、前記第1の板と前記第2の板の少なくとも一方の重ね合せ面には、前記穴の周囲に、全周に亘って接着剤を塗布する工程を、さらに備える、(1)又は(2)に記載の異材接合用アーク溶接法。
(4) 前記圧入工程において、前記接合補助部材と、該接合補助部材と対向する前記第1の板との間の少なくとも一方の対向面に、接着剤を塗布する、(1)〜(3)のいずれかに記載の異材接合用アーク溶接法。
(5) 前記圧入工程の際、又は、前記充填溶接工程後に、前記接合補助部材と、前記第1の板の表面との境界部に接着剤を塗布する、(1)〜(4)のいずれかに記載の異材接合用アーク溶接法。
(6) 前記接合補助部材の軸部の高さPH1は、前記第1の板の板厚BHの10%以上100%以下である、(1)〜(5)のいずれかに記載の異材接合用アーク溶接法。
(7) 前記接合補助部材の軸部の最大外径PD1は、前記第1の板の穴の直径BDに対し102%以上125%以下である、(1)〜(6)のいずれかに記載の異材接合用アーク溶接法。
(8) 前記接合補助部材のフランジ部の幅PD2は、前記第1の板の穴の直径BDに対し105%以上である、(1)〜(7)のいずれかに記載の異材接合用アーク溶接法。
(9) 前記接合補助部材のフランジ部の厚さPH2は、前記第1の板の板厚BHの50%以上150%以下である、(1)〜(8)のいずれかに記載の異材接合用アーク溶接法。
(10) 前記充填溶接工程において、前記接合補助部材の表面上に余盛りが形成され、かつ前記余盛りの直径WDが、前記接合補助部材の中空部の直径PSに対し、105%以上となる、(1)〜(11)のいずれかに記載の異材接合用アーク溶接法。
(1) アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の第1の板と、鋼製の第2の板と、を接合する異材接合用アーク溶接法であって、
前記第1の板に円形の穴を空ける工程と、
軸部とフランジ部とを持った段付きの外形形状を有し、且つ、前記軸部及び前記フランジ部を貫通する中空部が形成され、前記軸部の最大外径及び前記フランジ部の幅が前記第1の板の穴の直径よりそれぞれ大きく、前記軸部がフランジ部側でくびれ部を有する鋼製の接合補助部材を、前記第1の板の穴に圧入する工程と、
前記第1の板と前記第2の板を重ね合わせる工程と、
以下の(a)〜(e)のいずれかの手法によって、前記接合補助部材の中空部を溶接金属で充填すると共に、前記第2の板及び前記接合補助部材を溶接する工程と、
を備える異材接合用アーク溶接法。
(a)鉄合金、または、Ni合金の前記溶接金属が得られる溶接ワイヤを溶極として用いるガスシールドアーク溶接法。
(b)前記溶接ワイヤを溶極として用いるノンガスアーク溶接法。
(c)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるガスタングステンアーク溶接法。
(d)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるプラズマアーク溶接法。
(e)鉄合金、または、Ni合金の前記溶接金属が得られる被覆アーク溶接棒を溶極として用いる被覆アーク溶接法。
(2) 前記第2の板には、絞り加工により膨出部が形成されており、
前記重ね合わせ工程において、前記第2の板の膨出部が、前記第1の板の穴内に配置される、(1)に記載の異材接合用アーク溶接法。
(3) 前記重ね合わせ工程の前に、前記第1の板と前記第2の板の少なくとも一方の重ね合せ面には、前記穴の周囲に、全周に亘って接着剤を塗布する工程を、さらに備える、(1)又は(2)に記載の異材接合用アーク溶接法。
(4) 前記圧入工程において、前記接合補助部材と、該接合補助部材と対向する前記第1の板との間の少なくとも一方の対向面に、接着剤を塗布する、(1)〜(3)のいずれかに記載の異材接合用アーク溶接法。
(5) 前記圧入工程の際、又は、前記充填溶接工程後に、前記接合補助部材と、前記第1の板の表面との境界部に接着剤を塗布する、(1)〜(4)のいずれかに記載の異材接合用アーク溶接法。
(6) 前記接合補助部材の軸部の高さPH1は、前記第1の板の板厚BHの10%以上100%以下である、(1)〜(5)のいずれかに記載の異材接合用アーク溶接法。
(7) 前記接合補助部材の軸部の最大外径PD1は、前記第1の板の穴の直径BDに対し102%以上125%以下である、(1)〜(6)のいずれかに記載の異材接合用アーク溶接法。
(8) 前記接合補助部材のフランジ部の幅PD2は、前記第1の板の穴の直径BDに対し105%以上である、(1)〜(7)のいずれかに記載の異材接合用アーク溶接法。
(9) 前記接合補助部材のフランジ部の厚さPH2は、前記第1の板の板厚BHの50%以上150%以下である、(1)〜(8)のいずれかに記載の異材接合用アーク溶接法。
(10) 前記充填溶接工程において、前記接合補助部材の表面上に余盛りが形成され、かつ前記余盛りの直径WDが、前記接合補助部材の中空部の直径PSに対し、105%以上となる、(1)〜(11)のいずれかに記載の異材接合用アーク溶接法。
(11) (1)〜(10)のいずれかに記載の異材接合用アーク溶接法に用いられ、
鋼製で、軸部とフランジ部とを持った段付きの外形形状を有し、且つ、前記軸部及び前記フランジ部を貫通する中空部が形成され、前記軸部の最大外径及び前記フランジ部の幅が前記第1の板の穴の直径よりそれぞれ大きく、前記軸部がフランジ部側でくびれ部を有する、接合補助部材。
鋼製で、軸部とフランジ部とを持った段付きの外形形状を有し、且つ、前記軸部及び前記フランジ部を貫通する中空部が形成され、前記軸部の最大外径及び前記フランジ部の幅が前記第1の板の穴の直径よりそれぞれ大きく、前記軸部がフランジ部側でくびれ部を有する、接合補助部材。
(12) アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の第1の板と、該第1の板にアーク溶接された、鋼製の第2の板と、を備える異材溶接継手であって、
前記第1の板は、前記第2の板との重ね合わせ面に臨む円形の穴を有し、
前記第1の板に設けられた穴に圧入されている軸部と、フランジ部と、を持った段付きの外形形状を有し、且つ、前記軸部及び前記フランジ部を貫通する中空部が形成され、前記軸部の最大外径及び前記フランジ部の幅が前記第1の板の穴の直径よりそれぞれ大きく、前記軸部がフランジ部側でくびれ部を有する鋼製の接合補助部材をさらに備え、
前記接合補助部材の中空部は、鉄合金、または、Ni合金の溶接金属で充填されると共に、前記溶接金属と、溶融された前記第2の板及び前記接合補助部材の一部とによって溶融部が形成される、異材溶接継手。
(13) 前記第1の板の穴内には、前記第2の板に形成された膨出部が配置される、(12)に記載の異材溶接継手。
(14) 前記第1の板と前記第2の板の少なくとも一方の前記重ね合せ面には、前記穴の周囲に、全周に亘って設けられた接着剤を備える、(12)又は(13)に記載の異材溶接継手。
(15) 前記接合補助部材と、該接合補助部材と対向する前記第1の板との間の少なくとも一方の対向面に設けられた接着剤を備える、(12)〜(14)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(16) 前記接合補助部材と、前記第1の板の表面との境界部に設けられた接着剤を備える、(12)〜(15)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(17) 前記接合補助部材の軸部の高さPH1は、前記第1の板の板厚BHの10%以上100%以下である、(12)〜(16)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(18) 前記接合補助部材の軸部の最大外径PD1は、前記第1の板の穴の直径BDXに対し102%以上125%以下である、(12)〜(17)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(19) 前記接合補助部材のフランジ部の幅PD2は、前記第1の板の穴の直径BDXに対し105%以上である、(12)〜(18)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(20) 前記接合補助部材のフランジ部の厚さPH2は、前記第1の板の板厚BHの50%以上150%以下である、(12)〜(19)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(21) 前記接合補助部材の表面上に余盛りが形成され、かつ前記余盛りの直径WDが、前記接合補助部材の中空部の直径PSに対し、105%以上となる、(12)〜(20)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(22) 前記接合補助部材の軸部は、前記第1の板の穴に圧入して固定されている、(12)〜(21)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(23) 鋼製の板材とアーク溶接することで異材溶接継手を形成可能な接合補助部材付き板材であって、
円形の穴を有するアルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の板材と、
軸部と、フランジ部と、を持った段付きの外形形状を有し、且つ、前記軸部及び前記フランジ部を貫通する中空部が形成され、前記軸部の最大外径及び前記フランジ部の幅が前記板材の穴の直径よりそれぞれ大きく、前記軸部がフランジ部側でくびれ部を有する鋼製の接合補助部材と、
を備え、
前記接合補助部材は、前記軸部が前記板材に設けられた穴内に固定されることで、前記板材に取り付けられている、接合補助部材付き板材。
(24) 前記接合補助部材の軸部は、前記板材の穴に圧入して固定されている、(23)に記載の接合補助部材付き板材。
前記第1の板は、前記第2の板との重ね合わせ面に臨む円形の穴を有し、
前記第1の板に設けられた穴に圧入されている軸部と、フランジ部と、を持った段付きの外形形状を有し、且つ、前記軸部及び前記フランジ部を貫通する中空部が形成され、前記軸部の最大外径及び前記フランジ部の幅が前記第1の板の穴の直径よりそれぞれ大きく、前記軸部がフランジ部側でくびれ部を有する鋼製の接合補助部材をさらに備え、
前記接合補助部材の中空部は、鉄合金、または、Ni合金の溶接金属で充填されると共に、前記溶接金属と、溶融された前記第2の板及び前記接合補助部材の一部とによって溶融部が形成される、異材溶接継手。
(13) 前記第1の板の穴内には、前記第2の板に形成された膨出部が配置される、(12)に記載の異材溶接継手。
(14) 前記第1の板と前記第2の板の少なくとも一方の前記重ね合せ面には、前記穴の周囲に、全周に亘って設けられた接着剤を備える、(12)又は(13)に記載の異材溶接継手。
(15) 前記接合補助部材と、該接合補助部材と対向する前記第1の板との間の少なくとも一方の対向面に設けられた接着剤を備える、(12)〜(14)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(16) 前記接合補助部材と、前記第1の板の表面との境界部に設けられた接着剤を備える、(12)〜(15)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(17) 前記接合補助部材の軸部の高さPH1は、前記第1の板の板厚BHの10%以上100%以下である、(12)〜(16)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(18) 前記接合補助部材の軸部の最大外径PD1は、前記第1の板の穴の直径BDXに対し102%以上125%以下である、(12)〜(17)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(19) 前記接合補助部材のフランジ部の幅PD2は、前記第1の板の穴の直径BDXに対し105%以上である、(12)〜(18)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(20) 前記接合補助部材のフランジ部の厚さPH2は、前記第1の板の板厚BHの50%以上150%以下である、(12)〜(19)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(21) 前記接合補助部材の表面上に余盛りが形成され、かつ前記余盛りの直径WDが、前記接合補助部材の中空部の直径PSに対し、105%以上となる、(12)〜(20)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(22) 前記接合補助部材の軸部は、前記第1の板の穴に圧入して固定されている、(12)〜(21)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(23) 鋼製の板材とアーク溶接することで異材溶接継手を形成可能な接合補助部材付き板材であって、
円形の穴を有するアルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の板材と、
軸部と、フランジ部と、を持った段付きの外形形状を有し、且つ、前記軸部及び前記フランジ部を貫通する中空部が形成され、前記軸部の最大外径及び前記フランジ部の幅が前記板材の穴の直径よりそれぞれ大きく、前記軸部がフランジ部側でくびれ部を有する鋼製の接合補助部材と、
を備え、
前記接合補助部材は、前記軸部が前記板材に設けられた穴内に固定されることで、前記板材に取り付けられている、接合補助部材付き板材。
(24) 前記接合補助部材の軸部は、前記板材の穴に圧入して固定されている、(23)に記載の接合補助部材付き板材。
本発明によれば、アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金と、鋼との異材を、安価なアーク溶接設備を用いて、強固かつ信頼性の高い品質で接合でき、かつ開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる。
以下、本発明の一実施形態に係る異材接合用アーク溶接法、接合補助部材、異材溶接継手、及び、接合補助部材付き板材を図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態の異材接合用アーク溶接法は、互いに重ね合わせされる、アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の上板10(第1の板)と、鋼製の下板20(第2の板)とを、鋼製の接合補助部材30を介して、後述するアーク溶接法によって接合することで、図1A及び図1Bに示すような異材溶接継手1を得るものである。
上板10には、板厚方向に貫通して、下板20の重ね合わせ面に臨む円形の穴11が設けられており、この穴11に接合補助部材30が圧力をかけて挿入される。
図2A及び図2Bに示すように、接合補助部材30は、上板10の穴11に圧入固定される軸部31と、上板10の上面に配置され、軸部31に対して外向きのフランジ部32と、を持った段付きの外形形状を有する。接合補助部材30には、軸部31及びフランジ部32を貫通する円形の中空部33が形成されている。
また、後述するように、軸部31の最大外径PD1及びフランジ部32の幅PD2は、上板10の穴11の直径BDよりそれぞれ大きく設定されている(図21A参照)。
また、後述するように、軸部31の最大外径PD1及びフランジ部32の幅PD2は、上板10の穴11の直径BDよりそれぞれ大きく設定されている(図21A参照)。
さらに、本実施形態では、軸部31の外形形状は、フランジ部側でくびれ部39を有する構成としている。具体的に、軸部31は、外周面が先端からフランジ部12側に向かって徐々に拡径し、最大外径PD1を規定するテーパ部35と、該テーパ部35の最大外径PD1よりも小径の小径円筒部36と、を有する。したがって、小径円筒部36によって、軸部31の外形形状は、フランジ部側でくびれ部39を有する。
軸部31の外形形状は、フランジ部側でくびれ部39を有することで、上板10にかしめ拘束力を持って接合補助部材30を固定するものであれば、特に限定されない。例えば、図3Aに示すように、軸部31は、外周面が先端からフランジ部32まで徐々に縮径する縮径テーパ部37としてもよい。また、図3Bに示すように、軸部31は、先端側に設けられた大径円筒部38と、フランジ部側に設けられた小径円筒部36と、で構成してもよい。
なお、くびれ部39における機能は、図2、図3A、図3Bの接合補助部材30のいずれであっても実質的に変わらないため、任意の接合補助部材30を用いて以降の説明を行っている。また、図4は、図3Aの接合補助部材30を用いた場合の異材溶接継手1の図1Bに対応する断面図である。
なお、くびれ部39における機能は、図2、図3A、図3Bの接合補助部材30のいずれであっても実質的に変わらないため、任意の接合補助部材30を用いて以降の説明を行っている。また、図4は、図3Aの接合補助部材30を用いた場合の異材溶接継手1の図1Bに対応する断面図である。
接合補助部材30のフランジ部32の外形形状は、図2Bに示すような円形に限定されず、溶接後に上板10に空けられた穴11を塞いでいれば、任意の形状とすることができる。例えば、図5A〜図5Dに示す四角形以上の多角形でもよい。また、図5Bや図5Dに示すように、多角形の角部を丸くしてもよい。
なお、これらの接合補助部材30では、後述するフランジ部32の幅PD2は、最も短い対向面間距離で規定される。
なお、これらの接合補助部材30では、後述するフランジ部32の幅PD2は、最も短い対向面間距離で規定される。
このように、接合補助部材30が上板10に圧入されることで、軸部31及び中空部33は上板10の穴11と同軸上に位置している。
また、接合補助部材30の中空部33には、アーク溶接によってフィラー材(溶接材料)が溶融した、鉄合金、または、Ni合金の溶接金属40が充填されると共に、溶接金属40と、溶融された下板20及び接合補助部材30の一部とによって溶融部Wが形成される。したがって、溶融部Wは、上板10の穴11内にも配置されて、接合補助部材30と下板20とを溶接しており、これによって、上板10と下板20とが接合される。
以下、異材溶接継手1を構成する異材接合用アーク溶接法について、図6A〜図6Dを参照して説明する。
まず、図6Aに示すように、上板10に穴11を空ける穴開け作業を行う(ステップS1)。次に、図6Bに示すように、接合補助部材30の軸部31を、上板10の上面から、上板10の穴11に圧入する(ステップS2)。さらに、図6Cに示すように、上板10と下板20を重ね合わせる重ね合わせ作業を行う(ステップS3)。そして、図6Dに示すように、以下に詳述する(a)溶極式ガスシールドアーク溶接法、(b)ノンガスアーク溶接法、(c)ガスタングステンアーク溶接法、(d)プラズマアーク溶接法、(e)被覆アーク溶接法のいずれかのアーク溶接作業を行うことで、上板10と下板20とを接合する(ステップS4)。なお、図6Dは、(a)溶極式ガスシールドアーク溶接法を用いてアーク溶接作業が行われた場合を示している。
まず、図6Aに示すように、上板10に穴11を空ける穴開け作業を行う(ステップS1)。次に、図6Bに示すように、接合補助部材30の軸部31を、上板10の上面から、上板10の穴11に圧入する(ステップS2)。さらに、図6Cに示すように、上板10と下板20を重ね合わせる重ね合わせ作業を行う(ステップS3)。そして、図6Dに示すように、以下に詳述する(a)溶極式ガスシールドアーク溶接法、(b)ノンガスアーク溶接法、(c)ガスタングステンアーク溶接法、(d)プラズマアーク溶接法、(e)被覆アーク溶接法のいずれかのアーク溶接作業を行うことで、上板10と下板20とを接合する(ステップS4)。なお、図6Dは、(a)溶極式ガスシールドアーク溶接法を用いてアーク溶接作業が行われた場合を示している。
ステップS1の穴開け作業の具体的な手法としては、a)ポンチを用いた打抜き、b)金型を用いたプレス型抜き、c)レーザ、プラズマ、ウォータージェット法などによる切断があげられる。
また、ステップS4のアーク溶接作業は、上板10の穴11内の溶接金属40を介して接合補助部材30と下板20を接合し、かつ接合補助部材30に設けられた中空部33を充填するために必要とされる。したがって、アーク溶接には充填材となるフィラー材(溶接材料)の挿入が不可欠となる。具体的に、以下の4つのアーク溶接法により、フィラー材が溶融して溶接金属40が形成される。
(a) 溶極式ガスシールドアーク溶接法は、一般的にMAG(マグ)やMIG(ミグ)と呼ばれる溶接法であり、ソリッドワイヤもしくはフラックス入りワイヤをフィラー兼アーク発生溶極として用い、CO2,Ar,Heといったシールドガスで溶接部を大気から遮断して健全な溶接部を形成する手法である。
(b)ノンガスアーク溶接法は、セルフシールドアーク溶接法とも呼ばれ、特殊なフラックス入りワイヤをフィラー兼アーク発生溶極として用い、一方、シールドガスを不要として、健全な溶接部を形成する手段である。
(c)ガスタングステンアーク溶接法は、ガスシールドアーク溶接法の一種であるが非溶極式であり、一般的にTIG(ティグ)とも呼ばれる。シールドガスは、ArまたはHeの不活性ガスが用いられる。タングステン電極と母材との間にはアークが発生し、フィラーワイヤはアークに横から送給される。
一般的に、フィラーワイヤは通電されないが、通電させて溶融速度を高めるホットワイヤ方式TIGもある。この場合、フィラーワイヤにはアークは発生しない。
一般的に、フィラーワイヤは通電されないが、通電させて溶融速度を高めるホットワイヤ方式TIGもある。この場合、フィラーワイヤにはアークは発生しない。
(d)プラズマアーク溶接法はTIGと原理は同じであるが、ガスの2重系統化と高速化によってアークを緊縮させ、アーク力を高めた溶接法である。
(e)被覆アーク溶接法は、金属の芯線にフラックスを塗布した被覆アーク溶接棒をフィラーとして用いるアーク溶接法であり、シールドガスは不要である。
フィラー材(溶接材料)の材質については、溶接金属40がFe合金となるものであれば、一般的に用いられる溶接用ワイヤまたは溶接棒が適用可能である。なお、Ni合金でも鉄との溶接には不具合を生じないので適用可能である。
具体的には、JISとして(a)Z3312,Z3313,Z3317,Z3318,Z3321,Z3323,Z3334、(b)Z3313、(c)Z3316,Z3321,Z3334,(d)Z3211,Z3221,Z3223,Z3224、AWS(American Welding Society)として、(a)A5.9,A5.14,A5.18,A5.20,A5.22,A5.28,A5.29,A5.34、(b)A5.20、(c)A5.9,A5.14,A5.18,A5.28,(d)A5.1,A5.4,A5.5,A5.11といった規格材が流通している。
具体的には、JISとして(a)Z3312,Z3313,Z3317,Z3318,Z3321,Z3323,Z3334、(b)Z3313、(c)Z3316,Z3321,Z3334,(d)Z3211,Z3221,Z3223,Z3224、AWS(American Welding Society)として、(a)A5.9,A5.14,A5.18,A5.20,A5.22,A5.28,A5.29,A5.34、(b)A5.20、(c)A5.9,A5.14,A5.18,A5.28,(d)A5.1,A5.4,A5.5,A5.11といった規格材が流通している。
これらのアーク溶接法を用いて接合補助部材30の中空部33をフィラー材で充填するが、一般的にフィラーワイヤもしくは溶接棒の狙い位置は移動させる必要がなく、適切な送給時間を経てアークを切って溶接終了させれば良い。ただし、中空部33の面積が大きい場合は、フィラーワイヤもしくは溶接棒の狙い位置を中空部33内で円を描くように移動させても良い。
溶接金属40は接合補助部材30の中空部33を充填し、さらに接合補助部材30の表面に余盛りWaを形成するのが望ましい(図1B参照)。余盛りを形成しない、すなわち、図7Aに示すように、中空部33が溶接後に外観上残る状態だと、特に、板厚方向(3次元方向)の外部応力に対しては、接合強度が不足となる可能性がある(図7B参照)。このため、余盛りWaを形成することで、図8に示すように、板厚方向(3次元方向)の外部応力に対しては、接合補助部材30の変形が抑えられ、高い接合強度が得られる。
一方、余盛り側と反対側の溶込みについては、図9Aに示すように、下板20を適度に溶融していることが必要である。なお、図9Bに示すように、下板20の板厚を超えて溶接金属40が形成される、いわゆる裏波が出る状態にまで溶けても問題はない。
ただし、下板20が溶けずに、溶接金属40が乗っかっているだけであると、高い強度は得られない。また、溶接金属40が深く溶け込みすぎて、溶接金属40と下板20が溶け落ちてしまわないように溶接する必要がある。
以上の作業によって、Al合金やMg合金製の上板10と鋼製の下板20は高い強度で接合される。
ただし、下板20が溶けずに、溶接金属40が乗っかっているだけであると、高い強度は得られない。また、溶接金属40が深く溶け込みすぎて、溶接金属40と下板20が溶け落ちてしまわないように溶接する必要がある。
以上の作業によって、Al合金やMg合金製の上板10と鋼製の下板20は高い強度で接合される。
以下、上記アーク溶接法において使用される鋼製の接合補助部材30の役割について説明する。
まず、接合補助部材を使用せず、図10A及び図10Bに示すように、単純にアルミ製の上板10と鋼製の下板20とを重ね、上板側から鋼もしくはニッケル合金製溶接ワイヤを用いたアーク溶接を定点で一定時間保持したアークスポット溶接を行った場合、形成される溶接金属40aはアルミと鋼、もしくはアルミと鋼とニッケルの合金となる。この合金は、アルミ含有量が多いので脆性的特性である金属間化合物(IMC)を呈している。このような異材溶接継手100aは、一見接合されている様に見えても、横方向に引張応力がかかる(せん断引張)と、図11A及び図11Bに示すように、溶接金属40aが容易に破壊して、外れてしまう。また、縦方向に引張応力がかかる(剥離引張)場合でも、図12A及び図12Bに示すように、溶接金属40aが破断するか、もしくは溶接金属40aと上板10の境界部あるいは溶接金属40aと下板20の境界部が破断し、上板10が抜けるようにして接合が外れてしまう。
このように単にアルミ製の上板10と鋼製の下板20を重ねて、貫通溶接しようとしても、溶接金属40aは全部分が金属間化合物になってしまうので、せん断引張にも剥離引張にも弱く、溶接継手としては実用にならない。
このように単にアルミ製の上板10と鋼製の下板20を重ねて、貫通溶接しようとしても、溶接金属40aは全部分が金属間化合物になってしまうので、せん断引張にも剥離引張にも弱く、溶接継手としては実用にならない。
また、図13A及び図13Bに示すように、上板10に適当なサイズの穴11を開けておき、その穴11を埋めるように鋼もしくはニッケル合金の溶接材料を溶かし込む手法が考えられる。
この場合、溶接初期に形成される下板20となっている鋼と溶接材料で形成される溶接金属40bはアルミを溶かしていないので、金属間化合物は生成せず、高い強度と靱性を有しており、下板20と強固に結合されている。また、上板10に開けられた穴11の内部に形成された溶接金属40bは、アルミが溶融する割合が非常に少なく、金属間化合物の生成は大幅に抑制され、特に中心部は健全性を有している。ただし、上板10に設けられた穴11の近傍に限れば、アルミと鋼、あるいはアルミとニッケルの金属化合物層を形成する。このような異材溶接継手100bに対し、図14Aに示すように、せん断引張応力がかかった場合、下板側は強固に金属結合しているため、高い応力に耐える。一方、上板側は金属間化合物が穴周囲に形成されてはいるが、それが剥離して動くことは形状的にできないため、初期には上板10、下板20の母材が変形する。このため、ほぼ変形せずに脆性破断する図9A及び図9Bの異材溶接継手100aと比較すると、変形能力の向上が見られる。しかし、母材の変形が進み、図14Bに示すように、接合部が90°近く傾斜すると上下剥離引張と同じ状態になる。このようになると穴11の周囲部に形成された金属間化合物が剥離し、上板10が溶接部から容易に抜けてしまう。つまり、改善が不十分である。この結果は、図15A及び図15Bに示すように、上下引張方向試験でも無論同じである。
この場合、溶接初期に形成される下板20となっている鋼と溶接材料で形成される溶接金属40bはアルミを溶かしていないので、金属間化合物は生成せず、高い強度と靱性を有しており、下板20と強固に結合されている。また、上板10に開けられた穴11の内部に形成された溶接金属40bは、アルミが溶融する割合が非常に少なく、金属間化合物の生成は大幅に抑制され、特に中心部は健全性を有している。ただし、上板10に設けられた穴11の近傍に限れば、アルミと鋼、あるいはアルミとニッケルの金属化合物層を形成する。このような異材溶接継手100bに対し、図14Aに示すように、せん断引張応力がかかった場合、下板側は強固に金属結合しているため、高い応力に耐える。一方、上板側は金属間化合物が穴周囲に形成されてはいるが、それが剥離して動くことは形状的にできないため、初期には上板10、下板20の母材が変形する。このため、ほぼ変形せずに脆性破断する図9A及び図9Bの異材溶接継手100aと比較すると、変形能力の向上が見られる。しかし、母材の変形が進み、図14Bに示すように、接合部が90°近く傾斜すると上下剥離引張と同じ状態になる。このようになると穴11の周囲部に形成された金属間化合物が剥離し、上板10が溶接部から容易に抜けてしまう。つまり、改善が不十分である。この結果は、図15A及び図15Bに示すように、上下引張方向試験でも無論同じである。
上記2つの異材溶接継手100a、100bにおける課題から、せん断方向の引張応力及び上下剥離方向の応力にも耐えるように本実施形態の2段階形状の接合補助部材30が使用される。つまり、図6A〜図6Dに示すように、上板10に穴開けを施し、さらに接合補助部材30の軸部31を上板10に設けられた穴11に圧入して固定した後、接合すべき下板20と重ね、上板10および接合補助部材30の内部を充填するようにアーク溶接にて溶接金属40を形成する。このようにすると、断面としては接合補助部材30、溶接金属40、下板20が強固な金属結合によって溶接接合されている状態になる。上板10に設けられた穴11よりも幅広である接合補助部材30のフランジ部32の最大の役割は、上下剥離応力に対する抵抗である。図8に示したように、適切なサイズの接合補助部材30を適用することにより、上板10と溶接金属40の界面が剥離して抜けてしまう現象を防止することが可能となる。一般的に、溶接金属40は、十分に塑性変形した後、破断する。なお、接合補助部材30は、せん断方向の引張応力に対しても、初期応力に対して悪影響を及ぼすことはなく、さらに母材変形による溶接部が90°傾斜(図14B参照)後の剥離応力変化に対して、上板10と溶接金属40の界面が剥離して抜けてしまう現象を防止する。
また、詳細後述するが、接合補助部材30のフランジ部32は、面積が大きく、かつ厚さPH2が大きいほど板厚方向(3次元方向)の外部応力に対して強度を増すため、望ましい。だが、必要以上に大きいと重量増要因や、上板10の表面からの出っ張り過剰により、美的外観劣化や近接する他の部材との干渉が生じる。このため、接合補助部材30のサイズは、必要設計に応じて決定される。
さらに、接合補助部材30は、Al合金やMg合金の溶融を避けるための防護壁作用を有する。この作用は、接合補助部材30の軸部31が主に担う。Al合金やMg合金の接合部で最も溶融しやすい箇所は、穴11の内面や、該内面の周囲の表面である。これらの面を接合補助部材30で覆うことで、アーク溶接の熱が直接Al合金やMg合金に伝わるのを防ぎ、鋼と混合して金属間化合物(IMC)を作るのを防止する。アーク溶接の溶込み範囲が接合補助部材30と下板20のみとなれば、AlやMgの溶接金属40への希釈はゼロとなり、IMCは完全に防止される。したがって、軸部31は、図17Aに示すように、板幅方向(2次元方向)の外部応力への抵抗作用として働く。
一方、本実施形態ではIMCの発生がゼロである必要はなく、IMCの多少の形成は許容される。図17Bに示すように、穴11の内面にIMCが形成されても、溶接金属40が延性と適度な強度を有していれば、溶接金属40が板幅方向(2次元方向)への外部応力への抵抗作用として働くので、溶接金属40の周囲に形成されるIMC層の影響は小さいからである。また、IMCは脆性的であるが、構造体として引張応力が作用しても、接合部には圧縮応力と引張応力が同時に働く仕組みになっており、圧縮力に対してIMCは十分な強さを維持することから、IMC層の形成は破壊伝播にはならない。したがって、接合補助部材30の軸部31は必ずしも、上板10の板厚と同じである必要はない。
また、接合補助部材30は、Al合金もしくはMg合金である上板10と鋼である下板20とを重ね合わせる際に、重ね合わせ面に生じる空隙(ギャップ)gを最小化する役割を果たす(図18A参照)。アーク溶接工程では、溶接金属40は熱収縮するため、その際、下板20と接合補助部材30が共に近づく方向に力が作用する。それによって、溶接前に多少の空隙gがあっても、図18Bに示すように、溶接後には空隙gは減少し、接合部の設計精度が高まる。
以上述べたとおり、接合補助部材30は、軸部31とフランジ部32それぞれに役割があるが、軸部31の最大外径PD1、及びフランジ部32の幅PD2は上板10に設けた穴11の直径BDよりも大径であり、かつ軸部31とフランジ部32の境界部分には径が小さな”くびれ部39”を設けることが必要である。軸部31の最大外径PD1が上板10の穴径よりも小さければ、接合状態においても、上板10を水平方向に拘束する力は無いため、図19に示すように、水平方向のせん断応力を受けると比較的容易に接合補助部材30と上板10の穴11間の隙間分ずれを生じる。
その後、接合補助部材30は容易には移動しないが、わずかでもずれが生じやすい状態となるのは、設計精度の劣化要因であるので、許容されない。したがって、接合状態において接合補助部材30と上板10の穴11間には隙間が無い状態にする必要がある。この状態を実現するには、接合補助部材30の軸部31の最大外径PD1を上板10の穴11の直径BDよりも大きく設計し、圧力をかけて挿入することで為しえる。しかし、金属には弾性という性質があり、多少の歪みは、応力が消失すると元に戻る。逆に言えば、元に戻す力があるということであり、圧力をかけて押し込んでも、押し戻される可能性がある。そこでこのような問題が起きないようにするべく、軸部31におけるフランジ部側の境界域にくびれ部39を設け、接合補助部材30の押し込み時に、上板10の母材の一部がくびれ部39に金属流入することでかしめ効果を得て、容易に接合補助部材30が外れないようすることができる。
このように接合補助部材30を圧入させることで、いくつかの副次的効果も得られる。一つは、どのような姿勢でも接合できるようになることである。上板10の穴11の直径BDに対して軸部31の最大外径PD1が小さく、容易に出し入れできるようであれば、例えば、上向姿勢になった場合には接合補助部材30が落下してしまい、接合できない。しかしながら、図20に示すように、接合補助部材30を上板10の穴11に圧入してあれば、接合補助部材30は容易には落下しないので、接合作業が可能である。
また、接合工程の前、例えば、接合とは別の工場で接合補助部材30を上板10であるアルミニウムやマグネシウム合金にまとめて圧入しておき、容易には外れないことから、接合工場に搬送して接合工程とすることができる。
圧入方法については手段を問わないが、人の手で押し込んだり、ハンマー等で叩いたり、油圧、水圧、空気圧、ガス圧、電気駆動などの動力を用いるプレス機を用いたりといった実用的手段があげられる。また、接合補助部材30は穴11に回し入れることによって圧入も可能で、そのような手段を用いる場合は、軸部31の先端にネジ状の規則的な起伏を設けて回し入れやすくすることができる。例えば、図21に示すように、軸部31のテーパ部35には、溝35aが形成されてもよい。
なお、押し込み圧力が強いと軸部31だけでなく、フランジ部32の一部まで上板10の母材に押し込まれることがあるが、問題は無い(図4参照)。むしろ、フランジ部32の外径が非円形(図5A、図5B、図5C、図5D参照)であれば、フランジ部32の一部が上板10の母材に押し込まれることで、上板10が下板20に対して水平方向の回転力が作用したとき比較的弱い力でかしめ効果が外れて回転してしまう現象を防止する効果があるので、望ましい。
なお、押し込み圧力が強いと軸部31だけでなく、フランジ部32の一部まで上板10の母材に押し込まれることがあるが、問題は無い(図4参照)。むしろ、フランジ部32の外径が非円形(図5A、図5B、図5C、図5D参照)であれば、フランジ部32の一部が上板10の母材に押し込まれることで、上板10が下板20に対して水平方向の回転力が作用したとき比較的弱い力でかしめ効果が外れて回転してしまう現象を防止する効果があるので、望ましい。
以上の理由から、接合補助部材30は、鋼製で、軸部31とフランジ部32とを持った段付きの外形形状を有し、且つ、軸部31及びフランジ部32を貫通する中空部33が形成され、軸部31の最大外径PD1及びフランジ部32の幅PD2が上板10の穴11よりそれぞれ大きく、軸部31がフランジ部側でくびれ部39を有するものが使用される。
なお、鋼製の接合補助部材30の材質は、純鉄および鉄合金であれば、特に制限されるものでなく、例えば、軟鋼、炭素鋼、ステンレス鋼などがあげられる。
また、接合補助部材30の各種寸法は、図22A及び図22Bに示すように、上板10との関係で次のように設定される。なお、図22Aは、本実施形態の接合補助部材30を用いた場合を示し、図22Bは、第1変形例の接合補助部材30を用いた場合を示す。
・軸部高さPH1
軸部高さPH1は、上板10の板厚BHの10%以上100%以下に設計される。接合補助部材30の軸部31は、上述したAl,Mgの上板10の溶接工程時の溶融量低減および、および接合補助部材30の上板10の穴11への圧入によるかしめ拘束効果がある。軸部高さPH1が大きいほど、アーク熱の上板10への伝熱を防ぐため、前者の効果が高くなって望ましい。しかし、軸部高さPH1が、上板10の板厚BHを超えて大きくなると、上板10と下板20にギャップができてしまうので望ましくない。したがって、軸部高さPH1の上限は、板厚BHに対し100%である。一方、10%より小さいと、前者の効果が得られなくなり、上板10の溶融による溶接金属40の脆化が著しくなる。また、後者のかしめ拘束効果も得られなくなり、容易に外れてしまう。したがって、軸部高さPH1の下限は10%である。
軸部高さPH1は、上板10の板厚BHの10%以上100%以下に設計される。接合補助部材30の軸部31は、上述したAl,Mgの上板10の溶接工程時の溶融量低減および、および接合補助部材30の上板10の穴11への圧入によるかしめ拘束効果がある。軸部高さPH1が大きいほど、アーク熱の上板10への伝熱を防ぐため、前者の効果が高くなって望ましい。しかし、軸部高さPH1が、上板10の板厚BHを超えて大きくなると、上板10と下板20にギャップができてしまうので望ましくない。したがって、軸部高さPH1の上限は、板厚BHに対し100%である。一方、10%より小さいと、前者の効果が得られなくなり、上板10の溶融による溶接金属40の脆化が著しくなる。また、後者のかしめ拘束効果も得られなくなり、容易に外れてしまう。したがって、軸部高さPH1の下限は10%である。
・軸部の最大外径PD1
軸部31の最大外径PD1は、上板10の穴11の直径BDに対し102%以上125%以下に設計される。接合補助部材30の軸部31には、上板10への圧入によるかしめ拘束をさせる働きがある。その効果を発揮させるには、上板10の穴径よりも大きくなければならない。穴径BDに対し、最低2%以上大きくなければ、上板穴近傍に適切な圧力をかけることができない。ゆえに最大102%以上である。一方、軸部31の最大外径PD1が大きくなるほど、かしめ力は強くなるが、圧入に必要な力が大きくなって、簡便性が損なわれ、さらには上板穴周辺の圧力に耐えられず、亀裂発生してしまうことにもなりかねない。これらの理由から軸部31の最大外径PD1の上限は決まり、具体的には125%とする。
軸部31の最大外径PD1は、上板10の穴11の直径BDに対し102%以上125%以下に設計される。接合補助部材30の軸部31には、上板10への圧入によるかしめ拘束をさせる働きがある。その効果を発揮させるには、上板10の穴径よりも大きくなければならない。穴径BDに対し、最低2%以上大きくなければ、上板穴近傍に適切な圧力をかけることができない。ゆえに最大102%以上である。一方、軸部31の最大外径PD1が大きくなるほど、かしめ力は強くなるが、圧入に必要な力が大きくなって、簡便性が損なわれ、さらには上板穴周辺の圧力に耐えられず、亀裂発生してしまうことにもなりかねない。これらの理由から軸部31の最大外径PD1の上限は決まり、具体的には125%とする。
・フランジ部の幅PD2
フランジ部32の幅PD2は、上板10の穴11の直径BDに対し105%以上に設計される。接合補助部材30のフランジ部32は、上述したように、板厚方向への外部応力、言い換えれば引き剥がす応力が働いた際への抵抗力としての主体的役割を持つ。部材構成の中では、軸部31も上板10に対するかしめ拘束効果である程度、剥離応力に対する抵抗力を持つが、フランジ部32はその役割が大きい。接合補助部材30はフランジ部32の幅PD2が大きく、かつ厚さが大きいほど板厚方向(3次元方向)の外部応力に対して強度を増すため、望ましい。フランジ部32の幅PD2が穴11の直径BDXに対し105%未満では、接合補助部材30が板厚方向への外部応力に対して弾塑性変形した場合、上板10の穴11の大きさ以下の見かけ寸法に容易になりやすく、さすれば上板10が抜けてしまいやすくなる。つまり、接合補助部材30が高い抵抗力を示さない。したがって、フランジ部32の幅PD2は、穴11の直径BDの105%をそれぞれ下限とする。より好ましくは、フランジ部32の幅PD2は、穴11の直径BDの120%をそれぞれ下限とするとよい。一方、接合部強度の観点では上限を設ける必要は無い。
フランジ部32の幅PD2は、上板10の穴11の直径BDに対し105%以上に設計される。接合補助部材30のフランジ部32は、上述したように、板厚方向への外部応力、言い換えれば引き剥がす応力が働いた際への抵抗力としての主体的役割を持つ。部材構成の中では、軸部31も上板10に対するかしめ拘束効果である程度、剥離応力に対する抵抗力を持つが、フランジ部32はその役割が大きい。接合補助部材30はフランジ部32の幅PD2が大きく、かつ厚さが大きいほど板厚方向(3次元方向)の外部応力に対して強度を増すため、望ましい。フランジ部32の幅PD2が穴11の直径BDXに対し105%未満では、接合補助部材30が板厚方向への外部応力に対して弾塑性変形した場合、上板10の穴11の大きさ以下の見かけ寸法に容易になりやすく、さすれば上板10が抜けてしまいやすくなる。つまり、接合補助部材30が高い抵抗力を示さない。したがって、フランジ部32の幅PD2は、穴11の直径BDの105%をそれぞれ下限とする。より好ましくは、フランジ部32の幅PD2は、穴11の直径BDの120%をそれぞれ下限とするとよい。一方、接合部強度の観点では上限を設ける必要は無い。
・フランジ部の厚さPH2
フランジ部32の厚さPH2は、上板10の板厚BHの50%以上150%以下に設計される。上記で述べたとおり、接合補助部材30のフランジ部32は外形寸法が大きく、かつ厚さPH2が大きいほど板厚方向(3次元方向)の外部応力に対して強度を増すため、望ましい。このフランジ部32の厚さPH2は継手の上板10の板厚BHに応じて大きくすることで高い抵抗力を発揮する。フランジ部32の厚さPH2が上板10の板厚BHの50%未満では、接合補助部材30のフランジ部32が板厚方向への外部応力に対して容易に弾塑性変形を生じ、上板10の穴11の大きさ以下の見かけ寸法になると、抜けやすくなる。つまり、接合補助部材30が高い抵抗力を示さない。したがって、フランジ部32の厚さPH2は上板10の板厚BHの50%を下限とする。一方、フランジ部32の厚さPH2が上板10の板厚BHの150%を超えて大きくすると、継手強度的には問題ないが、過剰に張り出した形状となって外観が悪いだけでなく、重量も重くなる。したがって、フランジ部32の厚さPH2は、上板10の板厚BHの150%以下にすることが必要である。
フランジ部32の厚さPH2は、上板10の板厚BHの50%以上150%以下に設計される。上記で述べたとおり、接合補助部材30のフランジ部32は外形寸法が大きく、かつ厚さPH2が大きいほど板厚方向(3次元方向)の外部応力に対して強度を増すため、望ましい。このフランジ部32の厚さPH2は継手の上板10の板厚BHに応じて大きくすることで高い抵抗力を発揮する。フランジ部32の厚さPH2が上板10の板厚BHの50%未満では、接合補助部材30のフランジ部32が板厚方向への外部応力に対して容易に弾塑性変形を生じ、上板10の穴11の大きさ以下の見かけ寸法になると、抜けやすくなる。つまり、接合補助部材30が高い抵抗力を示さない。したがって、フランジ部32の厚さPH2は上板10の板厚BHの50%を下限とする。一方、フランジ部32の厚さPH2が上板10の板厚BHの150%を超えて大きくすると、継手強度的には問題ないが、過剰に張り出した形状となって外観が悪いだけでなく、重量も重くなる。したがって、フランジ部32の厚さPH2は、上板10の板厚BHの150%以下にすることが必要である。
また、図1Bに示すように、アークによる充填溶接工程において、接合補助部材30の表面上に余盛りWaが形成される際、余盛りWaの直径WDは、接合補助部材30の中空部33の直径PSの105%以上に設定される。
上述のとおり、接合補助部材30は、板厚方向(3次元方向)の外部応力に対して抵抗力を発揮する役割があるが、中空部33を完全に埋めなければ高い抵抗力を発揮しない。中空部33が完全に埋まらず、中空部33の内側面が残った状態であると、接合補助部材30と溶接金属40との結合面積が不足し、容易に外れてしまうことがある。接合補助部材30と溶接金属40の結合面積を高めるためには、完全に充填し、余盛りWaが形成されることが望ましい。余盛りWaが形成されると、その直径WDは接合補助部材30の中空部33の直径PSを超えることになる。余盛りWaの直径WDは、それぞれ接合補助部材30の中空部33の直径PSの105%以上とすると確実に余盛り形成されたことになるため、これを下限値とする。
上述のとおり、接合補助部材30は、板厚方向(3次元方向)の外部応力に対して抵抗力を発揮する役割があるが、中空部33を完全に埋めなければ高い抵抗力を発揮しない。中空部33が完全に埋まらず、中空部33の内側面が残った状態であると、接合補助部材30と溶接金属40との結合面積が不足し、容易に外れてしまうことがある。接合補助部材30と溶接金属40の結合面積を高めるためには、完全に充填し、余盛りWaが形成されることが望ましい。余盛りWaが形成されると、その直径WDは接合補助部材30の中空部33の直径PSを超えることになる。余盛りWaの直径WDは、それぞれ接合補助部材30の中空部33の直径PSの105%以上とすると確実に余盛り形成されたことになるため、これを下限値とする。
なお、上板10及び下板20の板厚については、限定される必要は必ずしもないが、施工能率と、重ね溶接としての形状を考慮すると、上板10の板厚は、4.0mm以下であることが望ましい。一方、アーク溶接の入熱を考慮すると、板厚が過度に薄いと溶接時に溶け落ちてしまい、溶接が困難であることから、上板10、下板20共に0.5mm以上とすることが望ましい。
以上の構成により、上板10がアルミニウム合金もしくはマグネシウム合金、下板20が鋼の素材を強固に接合することができる。
ここで、異種金属同士を直接接合する場合の課題としては、IMCの形成という課題以外に、もう一つの課題が知られている。それは、異種金属同士が接すると、ガルバニ電池を形成する為に腐食を加速する原因になる。この原因(電池の陽極反応)による腐食は電食と呼ばれている。異種金属同士が接する面に水があると腐食が進むので、接合箇所として水が入りやすい場所に本実施形態が適用される場合は、電食防止を目的として、水の浸入を防ぐためのシーリング処理を施す必要がある。本接合法でもAl合金やMg合金と鋼が接する面は複数形成されるので、樹脂系の接着剤をさらなる継手強度向上の目的のみならず、シーリング材として用いることが好ましい。
例えば、図23A及び図23Bに示す第1変形例のように、上板10及び下板20の接合面で、溶接部周囲に接着剤60を全周に亘って環状に塗布してもよい。なお、接着剤60を上板10及び下板20の接合面で、溶接部周囲に全周に亘って塗布する方法としては、図24A及び図24Bに示す第2変形例のように、溶接箇所を除いた接合面の全面に塗布する場合も含まれる、これにより、上板10、下板20、及び溶接金属40の電食速度を下げることができる。
また、図25A及び図25Bに示す第3変形例のように、上板10の穴11の周囲と接合補助部材30の下面との間に接着剤60を塗布してもよい。これにより、上板10、接合補助部材30、及び溶接金属40の電食速度を下げることができる。
さらに、図26A及び図26Bに示す第4変形例のように、接合補助部材30と上板10の表面との境界部に接着剤60を塗布してもよい。これにより、電食速度低下の効果が得られる。なお、図25A及び図25Bに示す第3変形例では、塗布は溶接工程前にしか実施できないが、図26A及び図26Bに示す第4変形例では、塗布は溶接工程前でも溶接工程後でも可能である。
なお、接合補助部材30の上板10との接触面は、図27Aに示すように、必ずしも平坦な面である必要はない。即ち、接合補助部材30の上板10との接触面は、図27B及び図27Cに示すように、必要に応じてスリット34a、34bを設けて良い。特に、上板10との接触面側に円周状のスリット34a、格子状のスリット34b、又は放射状のスリット(図示せず)を設けると、接着剤60の塗布がスリット34a、34bの隙間に入り込んで逃げなくなるため、安定した接着が行なわれ、シーリングの効果も確実となる。このような平坦ではない面の場合の接合補助部材30のフランジ部32の厚さPH2の定義は、高さの最も大きな部分とする。
また、図28に示すように、接合補助部材30の辺に当たる箇所には、使用時の安全性や鍛造時の制限などの点から、丸みを持たせることには何ら問題がない。特に、中空部33の上面端面はすり鉢状に広げておくと、溶接金属40と接合補助部材30の馴染み性が向上し、外観が向上する効果もある。
なお、接合補助部材30に空けられる中空部33の面は平坦な円筒面でかまわないが、図29に示すように、ネジ溝33aを形成していてもかまわない。本工法では雄ネジは用いないが、ネジ溝33aがあることで、アーク溶接時に溶融池との接触表面積が増え、より強固に溶接金属40と接合補助部材30が結合される。ネジ溝33aなど平坦面でない場合の穴11の直径PSは、最も広い対面間距離と定義する。
さらに、図30に示す第5変形例のように、下板20に膨出部21を設けてもよい。
Al合金やMg合金製の上板10の板厚が比較的薄い場合には、下板20は無加工とし、上板10は穴開けして、接合時に接合補助部材30を穴11に挿入するだけで良好な溶接が可能となる。しかし、上板10の板厚が大きいと、溶接工程で、接合補助部材30の中空部33を充填するのに時間がかかり、能率が悪くなる。また、熱量が過大となって、充填完了するより先に下板20の鋼板が溶け落ちしてしまいやすくなる。このため、下板20について絞り加工で膨出部21を設ければ、穴11の体積が小さくなるので溶け落ち欠陥を防ぎながら、充填することができる。
Al合金やMg合金製の上板10の板厚が比較的薄い場合には、下板20は無加工とし、上板10は穴開けして、接合時に接合補助部材30を穴11に挿入するだけで良好な溶接が可能となる。しかし、上板10の板厚が大きいと、溶接工程で、接合補助部材30の中空部33を充填するのに時間がかかり、能率が悪くなる。また、熱量が過大となって、充填完了するより先に下板20の鋼板が溶け落ちしてしまいやすくなる。このため、下板20について絞り加工で膨出部21を設ければ、穴11の体積が小さくなるので溶け落ち欠陥を防ぎながら、充填することができる。
また、第5変形例では、下板20の膨出部21は、上板10と下板20とを位置合わせをするための目印となり、下板20の膨出部21と上板10の穴11を容易に合わせることができ、重ね合わせ作業の効率向上につながる。
なお、膨出部21の絞り加工は、図31Aに示すように、下板20の膨出部21が形成される部分の周辺部をダイ52で拘束する。そして、図31Bに示すように、膨出部21が形成される部分に圧力をかけてポンチ53を押し込むことで、膨出部21が成形される。
また、本実施形態の溶接法は、接合面積が小さい点溶接と言えるので、ある程度の接合面積を有する実用部材同士の重ね合わせ部分Jを接合する場合は、本溶接法を図32A〜図32Cに示すように、複数実施すればよい。これにより、重ね合わせ部分Jにおいて強固な接合が行われる。本実施形態は、図32B及び図32Cに示すような開断面構造にも使用できるが、特に、図32Aに示すような閉断面構造において好適に使用することができる。
以上説明したように、本実施形態の異材接合用アーク溶接法によれば、上板10に円形の穴11を空ける工程と、軸部31とフランジ部32とを持った段付きの外形形状を有し、且つ、軸部31及びフランジ部32を貫通する中空部33が形成され、軸部31の最大外径PD1及びフランジ部32の幅PD2が上板10の穴11の直径BDよりそれぞれ大きく、軸部31がフランジ部側でくびれ部39を有する鋼製の接合補助部材30を、上板10に設けられた穴11に圧入する工程と、上板10と下板20を重ね合わせる工程と、以下の(a)〜(e)のいずれかの手法によって、接合補助部材30の中空部33を溶接金属40で充填すると共に、下板20及び接合補助部材30を溶接する工程と、を備える。
(a)鉄合金、または、Ni合金の溶接金属40が得られる溶接ワイヤを溶極として用いるガスシールドアーク溶接法。
(b)前記溶接ワイヤを溶極として用いるノンガスアーク溶接法。
(c)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるガスタングステンアーク溶接法。
(d)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるプラズマアーク溶接法。
(e)鉄合金、または、Ni合金の溶接金属40が得られる被覆アーク溶接棒を溶極として用いる被覆アーク溶接法。
これにより、Al合金もしくはMg合金の上板10と鋼の下板20を、安価なアーク溶接設備を用いて、強固かつ信頼性の高い品質で接合でき、かつ開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる。
(b)前記溶接ワイヤを溶極として用いるノンガスアーク溶接法。
(c)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるガスタングステンアーク溶接法。
(d)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるプラズマアーク溶接法。
(e)鉄合金、または、Ni合金の溶接金属40が得られる被覆アーク溶接棒を溶極として用いる被覆アーク溶接法。
これにより、Al合金もしくはMg合金の上板10と鋼の下板20を、安価なアーク溶接設備を用いて、強固かつ信頼性の高い品質で接合でき、かつ開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる。
また、下板20には、絞り加工により膨出部21が形成されており、重ね合わせ工程において、下板20の膨出部21が、上板10の穴11内に配置される。これにより、上板10の板厚が大きな場合でも溶け落ち欠陥を防止して溶接することができ、また、上板10と下板20を容易に位置決めすることができる。
また、重ね合わせ工程の前に、上板10と下板20の少なくとも一方の重ね合せ面には、穴11の周囲に、全周に亘って接着剤60を塗布する工程を、さらに備える。これにより、接着剤は、継手強度向上の他、シーリング材として作用し、上板10、下板20及び溶接金属40の電食速度を下げることができる。
また、圧入工程において、接合補助部材30と、該接合補助部材と対向する上板10との間の少なくとも一方の対向面に、接着剤60を塗布する。これにより、上板10、接合補助部材30及び溶接金属40の電食速度を下げることができる。
また、圧入工程の際、又は、充填溶接工程後に、接合補助部材30と、上板10の表面との境界部に接着剤60を塗布する。これにより、上板10と接合補助部材30の接合強度を向上することができる。
また、接合補助部材30の軸部31の高さPH1は、上板10の板厚BHの10%以上100%以下であるので、溶接工程時の上板10の溶融量を低減でき、且つ、接合補助部材30を上板10の穴11にかしめ拘束することができる。
また、接合補助部材30の軸部31の最大外径PD1は、上板10の穴11の直径BDに対し102%以上125%以下であるので、接合補助部材30を上板10の穴11にかしめ拘束することができる。
また、接合補助部材30のフランジ部32の幅PD2は、上板10の穴11の直径BDに対し105%以上であるので、接合補助部材30は、板厚方向の外部応力への抵抗力として機能することができる。
また、接合補助部材30のフランジ部32の厚さPH2は、上板10の板厚BHの50%以上150%以下であるので、接合補助部材30は、外観性及び重量増を考慮しつつ、板厚方向の外部応力への抵抗力として機能することができる。
また、充填溶接工程において、接合補助部材の表面上に余盛りWaが形成され、かつ余盛りWaの直径WDが、接合補助部材30の中空部33の直径PSに対し、105%以上となるので、余盛りWaは、板厚方向の外部応力への抵抗力として機能することができる。
また、本実施形態の接合補助部材30は、鋼製で、軸部31とフランジ部32とを持った段付きの外形形状を有し、且つ、軸部31及びフランジ部32を貫通する中空部33が形成され、軸部31の最大外径PD1及びフランジ部32の幅PD2が上板10の穴11の直径BDよりそれぞれ大きく、軸部31がフランジ部側でくびれ部39を有する。これにより、接合補助部材30は、上述した異材接合用アーク溶接法に好適に用いられる。
また、本実施形態の異材溶接継手1は、アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の上板10と、上板10にアーク溶接された、鋼製の下板20と、を備え、上板10は、下板20との重ね合わせ面に臨む円形の穴11を有し、上板10に設けられた穴11に圧入されている軸部31と、フランジ部32と、を持った段付きの外形形状を有し、且つ、軸部31及びフランジ部32を貫通する中空部33が形成され、軸部31の最大外径PD1及びフランジ部32の幅PD2が上板10の穴11の直径BDよりそれぞれ大きく、軸部31がフランジ部側でくびれ部39を有する鋼製の接合補助部材30をさらに備え、接合補助部材30の中空部33は、鉄合金、または、Ni合金の溶接金属40で充填されると共に、溶接金属40と、溶融された下板20及び接合補助部材30の一部とによって溶融部Wが形成される。
これにより、Al合金もしくはMg合金の上板10と鋼の下板20とを備えた異材溶接継手1は、安価なアーク溶接設備を用いて、強固かつ信頼性の高い品質で接合され、かつ開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる。
これにより、Al合金もしくはMg合金の上板10と鋼の下板20とを備えた異材溶接継手1は、安価なアーク溶接設備を用いて、強固かつ信頼性の高い品質で接合され、かつ開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる。
さらに、本実施形態の接合補助部材付き板材は、円形の穴11を有するアルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の上板(アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の板材)10と、軸部31とフランジ部32とを持った段付きの外形形状を有し、且つ、軸部31及びフランジ部32を貫通する中空部33が形成され、軸部31の最大外径PD1及びフランジ部32の幅PD2が上板10の穴11の直径BDよりそれぞれ大きく、軸部31がフランジ部側でくびれ部39を有する鋼製の接合補助部材と、を備え、接合補助部材30は、軸部31が上板10に設けられた穴11内に固定されることで、上板19に取り付けられている。
これにより、接合補助部材付き板材は、鋼製の下板(鋼製の板材)20とアーク溶接することで、強固かつ信頼性の高い品質で異材溶接継手を形成することができる。
これにより、接合補助部材付き板材は、鋼製の下板(鋼製の板材)20とアーク溶接することで、強固かつ信頼性の高い品質で異材溶接継手を形成することができる。
尚、本発明は、前述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
ここで、以下の実施例A〜Eを用いて、本実施形態の有効性を確認した。
<実施例A>
実施例Aでは、上板10を板厚1.6mmのアルミニウム合金A5083、下板20を板厚1.4mmの590MPa級高張力鋼板とした組合せの重ね継手を用いた。また、この重ね継手は、直径1.2mmのJIS Z3312 YGW16の鋼製溶接ワイヤを用い、Ar80%+CO220%の混合ガスをシールドガスとしたマグ溶接法にて、一定時間定点でのアーク溶接を行って接合された。
実施例Aでは、上板10を板厚1.6mmのアルミニウム合金A5083、下板20を板厚1.4mmの590MPa級高張力鋼板とした組合せの重ね継手を用いた。また、この重ね継手は、直径1.2mmのJIS Z3312 YGW16の鋼製溶接ワイヤを用い、Ar80%+CO220%の混合ガスをシールドガスとしたマグ溶接法にて、一定時間定点でのアーク溶接を行って接合された。
この溶接継手1に対して、JIS Z3136「抵抗スポット及びプロジェクション 溶接継手のせん断試験に対する試験片寸法及び試験方法」、およびJIS Z3137「抵抗スポット及びプロジェクション溶接継手の十字引張試験」に従って、破壊試験を行った。ここでは、Z3136の引張強度をTSSとして表し、Z3137の引張強度をCTSとして表す。合否判定値として、TSS≧8kN、CTS≧5kNとした。
さらに、必須ではないが好ましい性能値として、溶接継手を塩水噴霧→乾燥→湿潤を繰り替えして加速腐食させるJASO−CCT(Japanese Automobile Standards Organization Cyclic Corrosion Test)を28日間実施し、その後同様に破壊試験を実施して、腐食後TSSおよび腐食後CTSを取得した。これら好ましい性能値の合格判定値は腐食無し試験の値に対し80%以上とした。
表1では、比較例をNo.A1〜A9、本実施例をNo.A10〜A18に示す。
No.A1は、接合補助部材を用いず、上板10に穴も開けず、上板10に対して直接アーク溶接を実施したものである。また、接着剤も用いていない。鋼製溶接ワイヤとアルミ母材が溶融混合するので、形成された溶接金属は極めて脆い金属間化合物となり、低いTSS,CTSとなった。
No.A2は上板10に直径7.0mmの穴11を設けるが、接合補助部材30を用いないでアーク溶接を実施したものである。No.A1に比べると溶接金属のアルミ混合量が低下するので、金属間化合物量が少なく、脆化度合も低いが、それでもなお低いTSS,CTSであった。
No.A3は穴開けをしていない上板10の上に接合補助部材30を載せて、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30の材質はJIS G3106 SM490Cである(以降、実施例Aの材質は同じ)。なお、ここでは接合補助部材30には穴開けをしていない。この結果、接合補助部材30と上板10を貫通して下板20まで溶け込ますことができず、溶接することができなかった。
No.A4は直径7.0mmの穴開けをした上板10に接合補助部材30を圧入して、その上からアーク溶接したものである。なお、ここでは接合補助部材30には穴開けをしていない。この結果、接合補助部材30を貫通して下板20まで溶け込ますことは何とかできたものの、下板20の溶込み幅が非常に小さく、破壊試験をすると容易に破断した。
No.A5は穴開けをしていない上板10の上に接合補助部材30を載せて、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30には直径5.0mmの穴開けをしている。この結果、溶接金属はNo.A1と同様に鋼製溶接ワイヤとアルミ母材が溶融混合したものになるので、形成された溶接金属は極めて脆い金属間化合物となり、低いTSS,CTSとなった。
No.A6は直径7.0mmの穴開けをした上板10に、直径5.0mmの穴開けをした接合補助部材30を挿入して、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30の軸部31にはくびれ部39を設けているが、軸部31の最大外径は上板10の穴径よりも小さい。ゆえに、接合補助部材30は、軸部31が、穴11に圧入ではなく、穴11内に置いてある状態でアーク溶接されている。接合補助部材30の軸部31と上板10の穴11の壁面間には隙間があることから、せん断引張試験(TSS)で容易にずれが生じ、低い値であった。
No.A7は直径7.0mmの穴開けをした上板10に、直径5.0mmの穴開けをした接合補助部材30を圧入して、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30の軸部31にはくびれ部39を設けているが、フランジ部32の径は上板10の穴径よりも小さい。アーク溶接の余盛で上板10の穴11を塞いでいる状態であるが、応力がかかると容易に破断したため、CTS、TSS共に低い値であった。
No.A8は直径7.0mmの穴開けをした上板10に、直径5.0mmの穴開けをした接合補助部材30を圧入して、その上からアーク溶接したものである。フランジ部32、軸部31とも上板10の穴径よりも大きいが、軸部31にはくびれ部がなく、寸胴である。この場合、接合補助部材30は、一時的に穴11に圧入することは出来たが、くびれ部がないことから、かしめ効果が得られず、接合補助部材30が飛び出して外れてしまった。ゆえに溶接自体が出来なかった。
No.A9は直径7.0mmの穴開けをした上板10に、直径5.0mmの穴開けをした接合補助部材30を挿入して、その上からアーク溶接したものである。しかし、接合補助部材30は軸部31とフランジ部32の境界、さらにはくびれ部もない、つまり円形鋼管の形態であり、その径は上板10の穴11よりも小さい。接合補助部材30の軸部31と上板10の穴11の壁面間には隙間があり、上板10の表面もかろうじて余盛で接合補助部材30と繋がっているだけなので、応力がかかると容易に破断した。CTS、TSS共に低い値であった。
一方、No.A10〜A18は、直径7.0mmの穴開けをした上板10に直径5.0mmの穴開けをした接合補助部材30を圧入して、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30は、軸部31の最大外径及びフランジ部32の幅が上板10の穴径よりもそれぞれ大きく、一方、軸部31のフランジ部側にはくびれ部39を持たせた形状となっている。これらの試験体では形成される溶接金属40のアルミ流入が接合補助部材30の軸部31の存在によりゼロもしくは極めて低く抑制され、高品質の溶接金属が形成される。さらに、下板20の溶込みも十分大きくなり、また接合補助部材30のフランジ部32が上板10の穴11に対して広い面積を有する構造となっているため、十字引張試験ではすっぽ抜けが防げて高いCTSも得られた。また、上板10と接合補助部材30がかしめ拘束されていることから、せん断応力を受けるTSSも高い値であった。さらにまた、適切な箇所に高温硬化型2液混合接着材を塗布した後、180℃×0.5時間環境に保持して硬化させた試験体(A11〜A13,A16〜A18)では、アルミと鋼界面の電食を防ぐ作用があり、腐食によるCTSやTSSの低下が抑制されて、高い腐食後CTS,TSSを示した。具体的にはNo.A10に対して、No.A11、No.A12、No.A13と接着剤塗布箇所を増やすにつれ、腐食後TSSおよび腐食後CTSが順に高まっていることがわかる。
<実施例B>
実施例Bでは、上板10を板厚0.8mmのマグネシウム合金ASTM AZ31B、下板20を板厚1.0mmの780MPa級高張力鋼板とした組合せの重ね継手を用いた。また、この重ね継手は、Ar100%ガスをシールドガスとして用いたティグ溶接法にて、直径1.0mmのJIS Z3316 YGT50の鋼製溶接ワイヤを非通電フィラーとして挿入しながら、一定時間定点でのアーク溶接を行って接合した。
実施例Bでは、上板10を板厚0.8mmのマグネシウム合金ASTM AZ31B、下板20を板厚1.0mmの780MPa級高張力鋼板とした組合せの重ね継手を用いた。また、この重ね継手は、Ar100%ガスをシールドガスとして用いたティグ溶接法にて、直径1.0mmのJIS Z3316 YGT50の鋼製溶接ワイヤを非通電フィラーとして挿入しながら、一定時間定点でのアーク溶接を行って接合した。
この溶接継手1に対して、JIS Z3136およびJIS Z3137に従って、破壊試験を行った。ここではZ3136の引張強度をTSSとして表し、Z3137の引張強度をCTSと表す。合否判定値として、TSS≧4kN、CTS≧3kNとした。
さらに、必須ではないが好ましい性能値として、実施例Aと同様に、溶接継手1に対してJASO−CCTを28日間実施し、その後同様に破壊試験を実施して、腐食後TSSおよび腐食後CTSを取得した。これら好ましい性能値の合格判定値は腐食無し試験の値に対し80%以上とした。
表2では、比較例をNo.B1〜B8、本実施例をNo.B9〜B17に示す。
No.B1は接合補助部材を用いず、上板10に穴も開けず、上板10に対して直接アーク溶接を実施したものである。接着剤も用いていない。鋼製溶接ワイヤとマグネシウム母材が溶融混合するので、形成された溶接金属は極めて脆い金属間化合物となり、低いTSS,CTSとなった。
No.B2は上板10に直径5.0mmの穴11を設けるが、接合補助部材を用いないでアーク溶接を実施したものである。No.B1に比べると溶接金属のマグネシウム合金混合量が低下するので、金属間化合物量が少なく、脆化度合も低いが、それでもなお低いTSS,CTSであった。
No.B3は穴開けをしていない上板10の上に接合補助部材30を載せて、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30の材質はJIS G3101 SS400である(以降、実施例Bの材質は同じ)。なお、ここでは接合補助部材30には穴開けをしていない。この結果、接合補助部材30と上板10を貫通して下板20まで溶け込ますことは何とかできたものの、下板20の溶込み幅が非常に小さく、破壊試験をすると容易に破断した。
No.B4は、No.B2と同様、直径5.0mmの穴11を穴開けした上板10に接合補助部材30を圧入して、その上からアーク溶接したものである。なお、ここでは接合補助部材30には穴開けをしていない。この結果、接合補助部材30を貫通して下板20まで溶け込ますことは何とかできたものの、下板20の溶込み幅が非常に小さく、破壊試験をすると容易に破断した。
No.B5は穴開けをしていない上板10の上に接合補助部材30を載せて、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30には直径3.8mmの穴開けをしている。この結果、溶接金属はNo.B1と同様に鋼製溶接ワイヤとマグネシウム合金母材が溶融混合したものになるので、形成された溶接金属は極めて脆い金属間化合物となり、低いTSS,CTSとなった。
No.B6は直径5.0mmの穴開けをした上板10に、直径3.8mmの穴開けをした接合補助部材30を挿入して、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30の軸部31にはくびれ部39を設けているが、軸部31の最大外径は上板10の穴径よりも小さい。ゆえに、接合補助部材30は、軸部31が、穴11に圧入ではなく、穴11内に置いてある状態でアーク溶接している。接合補助部材30の軸部31と上板10の穴11の壁面間には隙間があることから、せん断引張試験(TSS)で容易にずれが生じ、低い値であった。
No.B7は直径5.0mmの穴開けをした上板10に、直径3.8mmの穴開けをした接合補助部材30を圧入して、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30の軸部31にはくびれ部39を設けているが、フランジ部32の径は上板10の穴径よりも小さい。アーク溶接の余盛で上板10の穴11を塞いでいる状態であるが、応力がかかると容易に破断したため、CTS、TSS共に低い値であった。
No.B8は直径5.0mmの穴開けをした上板10に、直径3.8mmの穴開けをした接合補助部材30を圧入して、その上からアーク溶接したものである。フランジ部32、軸部31とも上板10の穴径よりも大きいが、軸部31にはくびれがなく、寸胴である。この場合、接合補助部材30は、一時的に穴11に圧入することは出来たが、くびれ部がないことから、かしめ効果が得られず、接合補助部材30が飛び出して外れてしまった。ゆえに溶接自体が出来なかった。
一方、No.B9〜B17は、直径5.0mmの穴開けをした上板10に直径3.8mmの穴開けをした接合補助部材30を圧入して、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30は、軸部31の最大外径及びフランジ部32の幅が上板10の穴径よりもそれぞれ大きく、一方、軸部31のフランジ部側にはくびれ部39を持たせた形状となっている。これらの試験体では形成される溶接金属40のマグネシウム流入が接合補助部材30の軸部31の存在によりゼロもしくは極めて低く抑制され、高品質の溶接金属40が形成される。さらに、下板20の溶込みも十分大きくなり、また接合補助部材30のフランジ部32が上板10の穴11に対して広い面積を有する構造となっているため、十字引張試験ではすっぽ抜けが防げて高いCTSも得られた。また、上板10と接合補助部材30がかしめ拘束されていることから、せん断応力を受けるTSSも高い値であった。さらにまた、適切な箇所に高温硬化型2液混合接着材を塗布した後、180℃×0.5時間環境に保持して硬化させた試験体(B10〜B17)では、マグネシウム合金と鋼界面の電食を防ぐ作用があり、腐食によるCTSやTSSの低下が抑制されて、高い腐食後CTS,TSSを示した。具体的にはNo.B9に対して、No.B10、No.B11、No.B12と接着剤塗布箇所を増やすにつれ、腐食後TSSおよび腐食後CTSが順に高まっていることがわかる。
<実施例C>
実施例Cでは、上板10が板厚3.6mmのアルミニウム合金A6061、下板20が板厚2.2mmの400MPa級鋼板とした組合せの重ね継手を用いた。また、重ね継手は、直径4.0mmのJIS Z3252 ECNi−CIのNi合金被覆アーク溶接棒を用いた被覆アーク溶接法にて、一定時間定点でのアーク溶接を行って接合した。なお、上板10に穴開けを施した場合、下板20の溶接箇所にポンチによる深絞り加工を行い、1.8mmの高さ、すなわち上板10に設けた穴11の板厚中央まで入り込むように加工した。
実施例Cでは、上板10が板厚3.6mmのアルミニウム合金A6061、下板20が板厚2.2mmの400MPa級鋼板とした組合せの重ね継手を用いた。また、重ね継手は、直径4.0mmのJIS Z3252 ECNi−CIのNi合金被覆アーク溶接棒を用いた被覆アーク溶接法にて、一定時間定点でのアーク溶接を行って接合した。なお、上板10に穴開けを施した場合、下板20の溶接箇所にポンチによる深絞り加工を行い、1.8mmの高さ、すなわち上板10に設けた穴11の板厚中央まで入り込むように加工した。
この溶接継手1に対して、JIS Z3136およびJIS Z3137に従って、破壊試験を行った。ここではZ3136の引張強度をTSSとして表し、Z3137の引張強度をCTSと表す。合否判定値として、TSS≧9kN、CTS≧6kNとした。
さらに、必須ではないが好ましい性能値として、実施例A、Bと同様に、溶接継手1に対して、JASO−CCTを28日間実施し、その後同様に破壊試験を実施して、腐食後TSSおよび腐食後CTSを取得した。これら好ましい性能値の合格判定値は腐食無し試験の値に対し80%以上とした。
表3では、比較例をNo.C1〜C7、本実施例をNo.C8〜C14に示す。
No.C1は接合補助部材を用いず、上板10に穴も開けず、上板10に対して直接アーク溶接を実施したものである。接着剤も用いていない。Ni合金被覆アーク溶接棒とアルミニウム母材が溶融混合するので、形成された溶接金属は極めて脆い金属間化合物となり、低いTSS,CTSとなった。
No.C2は上板10に直径9.0mmの穴11を設けるが、接合補助部材30を用いないでアーク溶接を実施したものである。No.C1に比べると溶接金属のアルミニウム合金混合量が低下するので、金属間化合物量が少なく、脆化度合も低いが、それでもなお低いTSS,CTSであった。
No.C3は穴開けをしていない上板10の上に接合補助部材30を載せて、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30の材質はJIS G4051 S12Cである(以降、実施例Cの材質は同じ)。なお、ここでは接合補助部材30には穴開けをしていない。この結果、接合補助部材30と上板10を貫通して下板20まで溶け込ますことができず、溶接することができなかった。
No.C4は直径9.0mmの穴開けをした上板10に接合補助部材30を圧入して、その上からアーク溶接したものである。なお、ここでは接合補助部材30には穴開けをしていない。この結果、接合補助部材30を貫通して下板20まで溶け込ますことは何とかできたものの、下板20の溶込み幅が非常に小さく、破壊試験をすると容易に破断した。
No.C5は穴開けをしていない上板10の上に接合補助部材30を載せて、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30には直径7.0mmの穴開けをしている。この結果、溶接金属はNo.C1と同様にNi合金溶接棒とマグネシウム合金母材が溶融混合したものになるので、形成された溶接金属は極めて脆い金属間化合物となり、低いTSS,CTSとなった。
No.C6は直径9.0mmの穴開けをした上板10に、直径7.0mmの穴開けをした接合補助部材30を挿入して、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30の軸部31にはくびれ部39を設けているが、軸部31の最大外径は上板10の穴径よりも小さい。ゆえに、接合補助部材30は、軸部31が、穴11に圧入ではなく、穴11内に置いてある状態でアーク溶接している。接合補助部材30の軸部31と上板10の穴11の壁面間には隙間があることから、せん断引張試験(TSS)で容易にずれが生じ、低い値であった。
No.C7は直径9.0mmの穴開けをした上板に、直径7.0mmの穴開けをした接合補助部材30を圧入して、その上からアーク溶接したものである。フランジ部32、軸部31とも上板10の穴径よりも大きいが、軸部31にはくびれ部がなく、寸胴である。この場合、接合補助部材30は、一時的に穴11に圧入することは出来たが、くびれがないことから、かしめ効果が得られず、接合補助部材30が飛び出して外れてしまった。ゆえに溶接自体が出来なかった。
一方、No.C8〜C14は、直径9.0mmの穴開けをした上板10に直径7.0mmの穴開けをした接合補助部材30を圧入して、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30は、軸部31の最大外径及びフランジ部32の幅が上板10の穴径よりもそれぞれ大きく、一方、軸部31のフランジ部側にはくびれ部39を持たせた形状となっている。これらの試験体では形成される溶接金属のアルミ流入が接合補助部材30の軸部31の存在によりゼロもしくは極めて低く抑制され、高品質の溶接金属が形成される。さらに、下板20の溶込みも十分大きくなり、また接合補助部材30のフランジ部32が上板10の穴11に対して広い面積を有する構造となっているため、十字引張試験ではすっぽ抜けが防げて高いCTSも得られた。上板10の板厚は3.6mmと比較的厚いが、下板20の深絞り加工によって溶接箇所では接合補助部材30と下板20間の距離が小さくなり、溶接能率の向上や溶落ち防止効果が得られた。また、上板10と接合補助部材30がかしめ拘束されていることから、せん断応力を受けるTSSも高い値であった。さらにまた、適切な箇所に高温硬化型2液混合接着材を塗布した後、180℃×0.5時間環境に保持して硬化させた試験体(No.C9〜C13)では、アルミと鋼界面の電食を防ぐ作用があり、腐食によるCTSやTSSの低下が抑制されて、高い腐食後CTS,TSSを示した。
<実施例D>
実施例Dでは、上板10が板厚1.2mmのアルミニウム合金A6N01、下板20が板厚1.2mmのSPCC鋼板とした組合せの重ね継手を用いた。また、重ね継手は、直径1.2mmのJIS Z3313 T49T14−0NS−Gの鋼製フラックス入りワイヤを用いたセルフシールドアーク溶接法にて、一定時間定点でのアーク溶接を行って接合した。
実施例Dでは、上板10が板厚1.2mmのアルミニウム合金A6N01、下板20が板厚1.2mmのSPCC鋼板とした組合せの重ね継手を用いた。また、重ね継手は、直径1.2mmのJIS Z3313 T49T14−0NS−Gの鋼製フラックス入りワイヤを用いたセルフシールドアーク溶接法にて、一定時間定点でのアーク溶接を行って接合した。
この溶接継手1に対して、JIS Z3136およびJIS Z3137に従って、破壊試験を行った。ここではZ3136の引張強度をTSSとして表し、Z3137の引張強度をCTSと表す。合否判定値として、TSS≧6kN、CTS≧4kNとした。
さらに、必須ではないが好ましい性能値として、実施例A,B,Cと同様に、溶接継手1に対して、JASO−CCTを28日間実施し、その後同様に破壊試験を実施して、腐食後TSSおよび腐食後CTSを取得した。これら好ましい性能値の合格判定値は腐食無し試験の値に対し80%以上とした。
表4では、比較例をNo.D1〜D3、本実施例をNo.D4〜D5に示す。
No.D1は接合補助部材を用いず、上板10に穴も開けず、上板10に対して直接アーク溶接を実施したものである。接着剤も用いていない。鋼製溶接ワイヤとアルミニウム母材が溶融混合するので、形成された溶接金属は極めて脆い金属間化合物となり、低いTSS,CTSとなった。
No.D2は上板10に直径6.0mmの穴11を設けるが、接合補助部材30を用いないでアーク溶接を実施したものである。No.D1に比べると溶接金属のアルミニウム合金混合量が低下するので、金属間化合物量が少なく、脆化度合も低いが、それでもなお低いTSS,CTSであった。
No.D3は直径6.0mmの穴開けをした上板に、直径4.4mmの穴開けをした接合補助部材30を挿入して、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30の軸部31は上板10の穴径よりも小さく、くびれ部もない。ゆえに、接合補助部材30は、軸部31が、穴11に圧入ではなく、穴11内に置いてある状態でアーク溶接している。接合補助部材30の軸部31と上板10の穴11の壁面間には隙間があることから、せん断引張試験(TSS)で容易にずれが生じ、低い値であった。
一方、No.D4〜D5は、直径6.0mmの穴開けをした上板10に、JIS G3106 SM490A材を加工した、直径4.4mmの穴明けをした接合補助部材30を圧入して、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30は、軸部31の最大外径及びフランジ部32の幅が上板10の穴径よりもそれぞれ大きく、一方、軸部31のフランジ部側にはくびれ部39を持たせた形状となっている。これらの試験体では形成される溶接金属40のアルミ流入が接合補助部材30の軸部31の存在によりゼロもしくは極めて低く抑制され、高品質の溶接金属40が形成される。さらに、下板20の溶込みも十分大きくなり、また接合補助部材30のフランジ部32が上板10の穴11に対して広い面積を有する構造となっているため、十字引張試験ではすっぽ抜けが防げて高いCTSも得られた。また、上板10と接合補助部材30がかしめ拘束されていることから、せん断応力を受けるTSSも高い値であった。さらにまた、適切な箇所に高温硬化型2液混合接着材を塗布した後、180℃×0.5時間環境に保持して硬化させた試験体No.D5では、アルミと鋼界面の電食を防ぐ作用があり、腐食によるCTSやTSSの低下が抑制されて、接着材無しの試験体No.D4に比べて高い腐食後CTS,TSSを示した。
<実施例E>
実施例Eでは、上板10を板厚4.0mmのアルミニウム合金A7N01、下板20を板厚3.0mmの1180MPa級高張力鋼板とした組合せの重ね継手を用いた。下板20の溶接すべき箇所には、絞り加工により高さ1.5mmの膨出部21を形成した。また、この重ね継手は、直径1.2mmのJIS Z3321 YS309Lのステンレス鋼製溶接ワイヤを用い、プラズマガス:Ar100%、シールドガス:Ar99%+H21%としたプラズマアーク溶接法にて、一定時間定点でのアーク溶接を行って接合された。
実施例Eでは、上板10を板厚4.0mmのアルミニウム合金A7N01、下板20を板厚3.0mmの1180MPa級高張力鋼板とした組合せの重ね継手を用いた。下板20の溶接すべき箇所には、絞り加工により高さ1.5mmの膨出部21を形成した。また、この重ね継手は、直径1.2mmのJIS Z3321 YS309Lのステンレス鋼製溶接ワイヤを用い、プラズマガス:Ar100%、シールドガス:Ar99%+H21%としたプラズマアーク溶接法にて、一定時間定点でのアーク溶接を行って接合された。
この溶接継手1に対して、JIS Z3136「抵抗スポット及びプロジェクション 溶接継手のせん断試験に対する試験片寸法及び試験方法」、およびJIS Z3137「抵抗スポット及びプロジェクション溶接継手の十字引張試験」に従って、破壊試験を行った。ここでは、Z3136の引張強度をTSSとして表し、Z3137の引張強度をCTSとして表す。合否判定値として、TSS≧10kN、CTS≧8kNとした。
さらに、必須ではないが好ましい性能値として、実施例A〜Dと同様に、溶接継手1に対してJASO−CCTを28日間実施し、その後同様に破壊試験を実施して、腐食後TSSおよび腐食後CTSを取得した。これら好ましい性能値の合格判定値は腐食無し試験の値に対し80%以上とした。
表5では、本実施例をNo.E1〜E3に示す。
No.E1〜E3は直径10.0mmの穴開けをした上板10にSUS304ステンレス鋼材を加工した直径8.0mmの穴明けをした接合補助部材30を圧入して、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30は、軸部31の最大外径及びフランジ部32の幅が上板10の穴径よりもそれぞれ大きく、一方、軸部31のフランジ部側にはくびれ部39を持たせた形状となっている。これらの試験体では形成される溶接金属40へのアルミ流入が接合補助部材30の軸部31の存在によりゼロもしくは極めて低く抑制され、高品質の溶接金属が形成される。さらに、下板20の溶込みも十分大きくなり、また接合補助部材30のフランジ部32が上板10の穴11に対して広い面積を有する構造となっているため、十字引張試験ではすっぽ抜けが防げて高いCTSも得られた。上板10の板厚が4.0mmと比較的厚いが、下板20の深絞り加工によって溶接箇所では接合補助部材30と下板20間の距離が小さくなり、溶接能率の向上や溶落ち防止効果が得られた。また、上板10と接合補助部材30がかしめ拘束されていることから、せん断応力を受けるTSSも高い値であった。さらにまた、適切な箇所に高温硬化型2液混合接着材を塗布した後、180℃×0.5時間環境に保持して硬化させた試験体No.E1,E3では、アルミと鋼界面の電食を防ぐ作用があり、腐食によるCTSやTSSの低下が抑制されて、高い腐食後CTS,TSSを示した。具体的には、接着剤無しの試験体No.E2に対して、No.E3は接着剤塗布しており、腐食後TSSおよび腐食後CTSが向上している。
10 上板
11 穴
20 下板
30 接合補助部材
31 軸部
32 フランジ部
33 中空部
40 溶接金属
W 溶融部
Wa 余盛り
11 穴
20 下板
30 接合補助部材
31 軸部
32 フランジ部
33 中空部
40 溶接金属
W 溶融部
Wa 余盛り
Claims (24)
- アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の第1の板と、鋼製の第2の板と、を接合する異材接合用アーク溶接法であって、
前記第1の板に円形の穴を空ける工程と、
軸部とフランジ部とを持った段付きの外形形状を有し、且つ、前記軸部及び前記フランジ部を貫通する中空部が形成され、前記軸部の最大外径及び前記フランジ部の幅が前記第1の板の穴の直径よりそれぞれ大きく、前記軸部がフランジ部側でくびれ部を有する鋼製の接合補助部材を、前記第1の板の穴に圧入する工程と、
前記第1の板と前記第2の板を重ね合わせる工程と、
以下の(a)〜(e)のいずれかの手法によって、前記接合補助部材の中空部を溶接金属で充填すると共に、前記第2の板及び前記接合補助部材を溶接する工程と、
を備える異材接合用アーク溶接法。
(a)鉄合金、または、Ni合金の前記溶接金属が得られる溶接ワイヤを溶極として用いるガスシールドアーク溶接法。
(b)前記溶接ワイヤを溶極として用いるノンガスアーク溶接法。
(c)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるガスタングステンアーク溶接法。
(d)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるプラズマアーク溶接法。
(e)鉄合金、または、Ni合金の前記溶接金属が得られる被覆アーク溶接棒を溶極として用いる被覆アーク溶接法。 - 前記第2の板には、絞り加工により膨出部が形成されており、
前記重ね合わせ工程において、前記第2の板の膨出部が、前記第1の板の穴内に配置される、請求項1に記載の異材接合用アーク溶接法。 - 前記重ね合わせ工程の前に、前記第1の板と前記第2の板の少なくとも一方の重ね合せ面には、前記穴の周囲に、全周に亘って接着剤を塗布する工程を、さらに備える、請求項1又は2に記載の異材接合用アーク溶接法。
- 前記圧入工程において、前記接合補助部材と、該接合補助部材と対向する前記第1の板との間の少なくとも一方の対向面に、接着剤を塗布する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の異材接合用アーク溶接法。
- 前記圧入工程の際、又は、前記充填溶接工程後に、前記接合補助部材と、前記第1の板の表面との境界部に接着剤を塗布する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の異材接合用アーク溶接法。
- 前記接合補助部材の軸部の高さPH1は、前記第1の板の板厚BHの10%以上100%以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の異材接合用アーク溶接法。
- 前記接合補助部材の軸部の最大外径PD1は、前記第1の板の穴の直径BDに対し102%以上125%以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の異材接合用アーク溶接法。
- 前記接合補助部材のフランジ部の幅PD2は、前記第1の板の穴の直径BDに対し105%以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の異材接合用アーク溶接法。
- 前記接合補助部材のフランジ部の厚さPH2は、前記第1の板の板厚BHの50%以上150%以下である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の異材接合用アーク溶接法。
- 前記充填溶接工程において、前記接合補助部材の表面上に余盛りが形成され、かつ前記余盛りの直径WDが、前記接合補助部材の中空部の直径PSに対し、105%以上となる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の異材接合用アーク溶接法。
- 請求項1〜10のいずれか1項に記載の異材接合用アーク溶接法に用いられ、
鋼製で、軸部とフランジ部とを持った段付きの外形形状を有し、且つ、前記軸部及び前記フランジ部を貫通する中空部が形成され、前記軸部の最大外径及び前記フランジ部の幅が前記第1の板の穴の直径よりそれぞれ大きく、前記軸部がフランジ部側でくびれ部を有する、接合補助部材。 - アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の第1の板と、該第1の板にアーク溶接された、鋼製の第2の板と、を備える異材溶接継手であって、
前記第1の板は、前記第2の板との重ね合わせ面に臨む円形の穴を有し、
前記第1の板に設けられた穴内に固定されている軸部と、フランジ部と、を持った段付きの外形形状を有し、且つ、前記軸部及び前記フランジ部を貫通する中空部が形成され、前記軸部の最大外径及び前記フランジ部の幅が前記第1の板の穴の直径よりそれぞれ大きく、前記軸部がフランジ部側でくびれ部を有する鋼製の接合補助部材をさらに備え、
前記接合補助部材の中空部は、鉄合金、または、Ni合金の溶接金属で充填されると共に、前記溶接金属と、溶融された前記第2の板及び前記接合補助部材の一部とによって溶融部が形成される、異材溶接継手。 - 前記第1の板の穴内には、前記第2の板に形成された膨出部が配置される、請求項12に記載の異材溶接継手。
- 前記第1の板と前記第2の板の少なくとも一方の前記重ね合せ面には、前記穴の周囲に、全周に亘って設けられた接着剤を備える、請求項12又は13に記載の異材溶接継手。
- 前記接合補助部材と、該接合補助部材と対向する前記第1の板との間の少なくとも一方の対向面に設けられた接着剤を備える、請求項12〜14のいずれか1項に記載の異材溶接継手。
- 前記接合補助部材と、前記第1の板の表面との境界部に設けられた接着剤を備える、請求項12〜15のいずれか1項に記載の異材溶接継手。
- 前記接合補助部材の軸部の高さPH1は、前記第1の板の板厚BHの10%以上100%以下である、請求項12〜16のいずれか1項に記載の異材溶接継手。
- 前記接合補助部材の軸部の最大外径PD1は、前記第1の板の穴の直径BDに対し102%以上125%以下である、請求項12〜17のいずれか1項に記載の異材溶接継手。
- 前記接合補助部材のフランジ部の幅PD2は、前記第1の板の穴の直径BDに対し105%以上である、請求項12〜18のいずれか1項に記載の異材溶接継手。
- 前記接合補助部材のフランジ部の厚さPH2は、前記第1の板の板厚BHの50%以上150%以下である、請求項12〜19のいずれか1項に記載の異材溶接継手。
- 前記接合補助部材の表面上に余盛りが形成され、かつ前記余盛りの直径WDが、前記接合補助部材の中空部の直径PSに対し、105%以上となる、請求項12〜20のいずれか1項に記載の異材溶接継手。
- 前記接合補助部材の軸部は、前記第1の板の穴に圧入して固定されている、請求項12〜21のいずれか1項に記載の異材溶接継手。
- 鋼製の板材とアーク溶接することで異材溶接継手を形成可能な接合補助部材付き板材であって、
円形の穴を有するアルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の板材と、
軸部と、フランジ部と、を持った段付きの外形形状を有し、且つ、前記軸部及び前記フランジ部を貫通する中空部が形成され、前記軸部の最大外径及び前記フランジ部の幅が前記板材の穴の直径よりそれぞれ大きく、前記軸部がフランジ部側でくびれ部を有する鋼製の接合補助部材と、
を備え、
前記接合補助部材は、前記軸部が前記板材に設けられた穴内に固定されることで、前記板材に取り付けられている、接合補助部材付き板材。 - 前記接合補助部材の軸部は、前記板材の穴に圧入して固定されている、請求項23に記載の接合補助部材付き板材。
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