図1は、一実施形態に係る電磁ブレーキ30の摩耗検出装置(以下、単に摩耗検出装置と称す)50を備えるモータシステム1のブロック図である。モータシステム1は、例えば工場の生産ラインなどで用いられる。図1に示すように、モータシステム1は、モータ10と、エンコーダ20と、電磁ブレーキ30と、モータ制御装置40と、摩耗検出装置50と、を備える。
モータ10は、その回転軸に取り付けられたロボットアームなどの負荷(図示せず)を駆動する。
エンコーダ20は、モータ10の回転角度を検出して、回転角度を表す角度信号ASをモータ制御装置40に出力する。
電磁ブレーキ30は、周知の無励磁作動形のブレーキである。図示は省略するが、電磁ブレーキ30は、モータ10の筐体に固定された固定板と、モータ10の回転軸方向において固定板に向かい合う摩擦板と、固定板との間に摩擦板を挟んでモータ10の回転軸に固定されたアーマチュアと、電磁石と、バネとを有する。電磁ブレーキ30は、電磁石が通電されていない場合に、バネの反発力によりアーマチュアが摩擦板を固定板に押し付けることで発生する摩擦力を用いてモータ10にブレーキをかける。また電磁ブレーキ30は、電磁石が通電されている場合に、電磁石の磁力によりアーマチュアが電磁石に吸引されて摩擦板が解放されることでブレーキを解除する。
モータ制御装置40は、モータ10と電磁ブレーキ30を制御する。モータ制御装置40は、モータ制御部42と、ブレーキ制御部44とを有する。
モータ制御部42は、エンコーダ20からの角度信号ASに基づいて、モータ10の回転角度(回転位置)が所望の角度になるように、モータ10に電流(指令電流)Imを供給する。所望の角度は、プログラムや外部からの信号などにより設定される。つまりモータ制御部42は、モータ10が回転角度を所望の角度で保持するように、電流Imを制御する。モータ制御部42は、モータ10の回転軸に負荷から加えられるトルクが大きいほど、大きい電流Imをモータ10に供給する。電流Imは、摩耗検出装置50にも供給される。
ブレーキ制御部44は、電磁ブレーキ30を制御するブレーキ制御信号BSを電磁ブレーキ30に供給する。電磁ブレーキ30は、ブレーキ制御信号BSに応じて、ブレーキをかけるか、ブレーキを解除するかを切り替える。電磁ブレーキ30は、ブレーキ制御信号BSがローレベル(接地電圧)の場合にブレーキをかけ、ブレーキ制御信号BSがハイレベルの場合にブレーキを解除する。ブレーキ制御信号BSは、摩耗検出装置50にも供給される。
摩耗検出装置50は、ブレーキ制御信号BSと電流Imに基づいて、電磁ブレーキ30が一定以上摩耗していることを検出する。摩耗検出装置50は、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働、またはハードウェア資源のみにより実現できる。ハードウェア資源としてアナログ素子、マイクロコンピュータ、DSP、ROM、RAM、FPGA、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてファームウェア等のプログラムを利用できる。摩耗検出装置50は、モータ制御装置40内に設けられてもよい。
摩耗検出装置50は、算出部52と、検出部54とを有する。算出部52は、ブレーキ制御信号BSの変化と、電流Imの値を検出する。算出部52は、モータ10が回転角度を保持するようにモータ10に供給される電流Imが制御されている状態で、ブレーキをかけている電磁ブレーキ30にブレーキ解除を指示するブレーキ制御信号BSが検出されたタイミングから、電流Imが変化するタイミングまでのブレーキ解除時間Trを算出する。例えば、モータ10の電流Imが変化するタイミングは、電流Imの二乗平均値が所定値を超えるタイミングであってもよいし、電流値の時間変化量が所定値を超えるタイミングであってもよい。
検出部54は、ブレーキ解除時間Trに基づいて、ブレーキ解除時間Trが予め定められた閾値より大きい場合に、電磁ブレーキ30が一定以上摩耗していることを検出し、ブレーキ交換指示をディスプレイなどのユーザインターフェース(図示せず)に出力する。検出部54は、ブレーキ解除時間Trが閾値以下の場合に、電磁ブレーキ30が一定以上摩耗していることを検出しない。閾値は、実験などによって適宜定めることができる。
次に、電磁ブレーキ30の摩耗検出動作を説明する。摩耗検出は、モータシステム1の通常動作時に、モータシステム1の電源がオフからオンになる毎に行われる。摩耗検出のためだけに電磁ブレーキ30を動作させる必要はない。まず、モータシステム1の電源がオフになった場合、電流Imがゼロになり、モータ10の回転角度を保持する制御が停止される。また、ブレーキ制御信号BSはローレベルになるので、電磁ブレーキ30はモータ10にブレーキをかける。これにより、電源オフ中に負荷の重さでモータ10の回転軸が回転することを防止でき、負荷を静止させ続けることができる。
モータシステム1の電源が再びオンになった場合、電磁ブレーキ30がブレーキをかけている状態で、モータ制御部42は、サーボロックを開始して、モータ10が現在の回転角度を保持するように電流Imを制御する。このとき、モータ10には電磁ブレーキ30によるブレーキがかかっているため、モータ10の回転軸に加わるトルクは十分に小さく、電流Imは小さい。この状態は、図2の時刻t0付近に示される。
図2は、図1のモータシステム1のブレーキ制御信号BSと電流Imの時間変化を示す図である。時刻t0の後、時刻t1において、ブレーキ制御部44は、ブレーキ制御信号BSを、ブレーキ解除を指示するハイレベルに切り替える。これより、電磁ブレーキ30の電磁石が磁力を発生し、摩擦板が解放されるまでの時間が経過した時刻t2において、実際にブレーキが解除される。時刻t1から時刻t2までの時間は、ブレーキ解除時間Trである。ブレーキ解除時間Trは、吸引時間と呼ぶこともできる。電磁ブレーキ30の摩擦板が摩耗して薄くなるほど、ブレーキをかけているときの電磁石とアーマチュアとの間の距離が長くなり、アーマチュアに対する電磁石の吸引力が低下するので、ブレーキ解除時間Trは長くなる。
ブレーキが解除されたモータ10の回転軸には負荷の重さがかかるので、回転軸に加わるトルクが大きくなり、時刻t2以降、モータ10の回転角度を保持するための電流Imが増加する。そのため、電流Imが変化するタイミング(時刻t2)は、実際にブレーキが解除されたタイミングとほぼ等しい。このように、負荷は、電磁ブレーキ30によるブレーキが解除された場合に電流Imが増加する程度の重さを有する。
以上の動作はモータシステム1の電源がオフからオンになる毎に行われるので、複数のブレーキ解除時間Trが得られる。
図3は、図1のモータシステム1のブレーキ解除時間Trとばらつき推定範囲VRの推移の一例を示す図である。検出部54は、一定期間内に算出された複数のブレーキ解除時間Trの標準偏差を用いて、ブレーキ解除時間Trのばらつき推定範囲VRを算出する。図3では、一定期間は1日であり、9月9日のばらつき推定範囲VRが算出されたタイミングを示している。
検出部54は、算出されたばらつき推定範囲VRを算出日毎に記憶しておき、記憶された複数のばらつき推定範囲VRから、回帰分析などの周知の統計手法を用いて、所定期間後の将来のばらつき推定範囲VRを予測する。図3では、9月9日に、9月5日から9日までのばらつき推定範囲VRに基づいて、所定期間後のd1日のばらつき推定範囲VRを予測している。
検出部54は、予測された将来のばらつき推定範囲VRが閾値より大きい場合、アラームとして、交換用ブレーキ手配指示をユーザインターフェースに出力する。図3では、9月9日において、予測されたd1日のばらつき推定範囲VRが閾値より大きいので、交換用ブレーキ手配指示が出力される。交換用ブレーキ手配指示を確認したユーザは、交換が必要になる前に交換用の電磁ブレーキ30を手配することができる。
検出部54は、将来のばらつき推定範囲VRを予測せずに、ばらつき推定範囲VRが算出される毎に、算出されたばらつき推定範囲VRが閾値より大きい場合、交換用ブレーキ手配指示をユーザインターフェースに出力してもよい。
検出部54は、ブレーキ解除時間Trが閾値より大きい場合に、電磁ブレーキ30が一定以上摩耗していることを検出する。図3では、9月9日の現在ではブレーキ解除時間Trが閾値以下であるが、この後、日付がd2日になったときブレーキ解除時間Trが閾値より大きくなる状況を示している。
図4は、図1のモータシステム1における摩耗検出動作を示すフローチャートである。この処理は、モータシステム1の電源がオフからオンになる毎に行われる。まず、モータ制御部42は、サーボロックを開始する(S10)。次に、モータ制御部42は、モータ10の角度変化があるか判定し(S12)、角度変化がある場合(S12のY)、ユーザインタフェースに故障通知を行い(S14)、処理を終了する。モータ10の角度変化がある場合、電磁ブレーキ30が故障している可能性があるためである。モータ10の角度変化がない場合(S12のN)、ブレーキ制御部44は、ブレーキ制御信号BSをターンオンして(S16)、電磁ブレーキ30のブレーキを解除する。
次に、算出部52は、モータ10の電流Imが変化したか判定し(S18)、変化していない場合(S18のN)、S18に戻る。算出部52は、モータ10の電流Imが変化した場合(S18のY)、ブレーキ解除時間Trを算出し(S20)、検出部54は、算出されたブレーキ解除時間Trを記憶する(S22)。
次に、検出部54は、ばらつき推定範囲VRが閾値より大きいか判定し(S24)、大きくない場合(S24のN)、処理を終了し、大きい場合(S24のY)、交換用ブレーキ手配指示をユーザインターフェースに出力する(S26)。
次に、検出部54は、ブレーキ解除時間Trが閾値より大きいか判定し(S28)、大きくない場合(S28のN)、処理を終了し、大きい場合(S28のY)、ブレーキ交換指示をユーザインターフェースに出力し(S30)、処理を終了する。
このように本実施形態によれば、ブレーキ解除を指示するブレーキ制御信号BSが検出されたタイミングから、モータ10の電流Imが変化するタイミングまでのブレーキ解除時間Trを算出し、このブレーキ解除時間Trに基づいて摩耗を検出している。つまり、電磁ブレーキ30およびモータ10の制御に必要なブレーキ制御信号BSとモータ10の電流Imとを摩耗検出に共用している。そのため、摩耗検出専用の信号を生成する部品を新たに追加する必要がない。従って、摩耗検出装置50の構成の複雑化およびコスト増加を抑制できる。
以上、実施形態をもとに本発明を説明した。実施形態はあくまでも例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
例えば、電磁ブレーキ30は、電磁石が通電されている場合にブレーキをかけ、電磁石が通電されていない場合にバネの反発力によりブレーキを解除する励磁作動形でもよい。この場合、電磁ブレーキ30の摩擦板が摩耗して薄くなるほど、ブレーキをかけている間のバネの反発力が増加し、ブレーキ解除時間Trは短くなる。そこで検出部54は、ブレーキ解除時間Trが閾値未満の場合に、電磁ブレーキが摩耗していることを検出する。このような構成でも、以上の実施形態と同様の効果が得られる。