JP2018087304A - 膜形成用液組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】形成した膜に撥水撥油性の防汚機能及び離型性を付与するとともに、成膜性に優れ、基材への密着性が良好で、強度の高く、虹色の干渉縞を発生しない膜を形成できる。【解決手段】本発明の膜形成用液組成物は、ケイ素アルコキシドとしてのテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランと、エポキシ基含有シランと、一般式(1)で示されるフッ素含有シランとからなるシラン化合物の加水分解物と、所定の溶媒とを含む。エポキシ基含有シランがケイ素アルコキシドとエポキシ基含有シランの合計質量に対して1〜40質量%含まれ、フッ素含有シランがシラン化合物の加水分解物に対して0.1〜10質量%含まれ、加水分解物の固形分が液組成物100質量%に対して0.1〜10質量%含まれ、所定の溶媒が、沸点が120℃以上160℃未満の第1溶媒と、沸点が160℃以上220℃以下の第2溶媒と、沸点が120℃未満の第3溶媒と、水とを混合した混合溶媒であり、第1溶媒と第2溶媒と第3溶媒との質量比が、9〜15:1〜3:82〜90である。【化1】【選択図】なし

Description

本発明は、複数の機能を付与し得る膜を形成するための液組成物に関する。更に詳しくは、撥水性及び撥油性(以下、撥水撥油性という。)を有する防汚性膜及び金型に代表される型(以下、金型等という。)に離型性を付与し得る膜(以下、離型性付与膜という。)を形成するための液組成物に関するものである。
従来、撥水撥油性を付与することができる化合物として、特定のペルフルオロアミン構造を有する含フッ素シラン化合物が開示されている(例えば特許文献1参照。)。この含フッ素シラン化合物は、炭素数8以上のペルフルオロアルキル基を含有せず、生体蓄積性や環境適応性の点で問題となるペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)又はペルフルオロオクタン酸(PFOA)を生成する懸念がない化学構造でありながら、優れた撥水撥油性を付与することが可能であり、多種多様な用途に適用可能性を有するフッ素系シランカップリング剤として有用である特徴がある。
特開2015−196644号公報(要約)
特許文献1に示される含フッ素シラン化合物を少量だけ添加して液組成物を調製すると、この液組成物により形成した膜に撥水撥油性を付与することができる。しかしこの含フッ素シラン化合物を一般的なアルコール溶媒とを混合して液組成物を調製した場合、この含フッ素シラン化合物の表面張力がアルコール溶媒の表面張力と大きく異なってしまう。このため、この液組成物を基材上にバーコーターで塗布した場合、塗膜に水玉模様やコーター筋が生じて、成膜性に劣る。また含フッ素シラン化合物と溶媒だけを混合した液組成物で塗膜を形成した場合、塗膜の強度が低いうえ、塗膜の基材への密着性が十分でない。更に成膜した後の膜厚が、可視光線の波長程度(100nm〜800nm)であるため、塗布し、溶媒が揮発する乾燥過程でウェット膜厚が薄い部位から徐々に揮発していくため、膜に虹色の干渉縞を発生する問題があった。
本発明の目的は、形成した膜に撥水撥油性の防汚機能を付与するとともに、成膜性に優れ、基材への密着性が良好で、強度の高く、虹色の干渉縞を発生しない膜を形成可能な防汚性膜形成用液組成物を提供することにある。本発明の別の目的は、形成した膜に離型性を付与するとともに、成膜性に優れ、基材への密着性が良好で、強度の高く、虹色の干渉縞を発生しない膜を形成可能な離型性付与膜形成用液組成物を提供することにある。
本発明の第1の観点は、ケイ素アルコキシド(A)としてのテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランと、エポキシ基含有シラン(B)と、下記一般式(1)で示されるフッ素含有シラン(C)とからなるシラン化合物の加水分解物(D)と、所定の溶媒とを含む膜形成用液組成物である。この液組成物は、前記エポキシ基含有シラン(B)が前記ケイ素アルコキシド(A)と前記エポキシ基含有シラン(B)の合計質量に対して1〜40質量%含まれ、前記フッ素含有シラン(C)が前記シラン化合物の加水分解物(D)に対して0.1〜10質量%含まれ、前記加水分解物の固形分が液組成物100質量%に対して0.1〜10質量%含まれ、前記所定の溶媒が、沸点が120℃以上160℃未満の第1溶媒と、沸点が160℃以上220℃以下の第2溶媒と、沸点が120℃未満の第3溶媒と、水とを混合した混合溶媒であり、前記第1溶媒、前記第2溶媒及び前記第3溶媒の質量比が、第1溶媒:第2溶媒:第3溶媒=9〜15:1〜3:82〜90であることを特徴とする。
Figure 2018087304
上記式(1)中、m及びnは、それぞれ同一又は互いに異なる1〜6の整数である。また、Rf1は、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であって、直鎖状又は分枝状であってもよい。また上記式(1)中、Xは、炭素数2〜10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO−NH結合及びO−CO−NH結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。更に上記式(1)中、R1及びZはアルコキシ基である(ただし、aは0〜3の整数)。
本発明の第2の観点は、第1の観点の観点の膜形成用液組成物であって、前記第1溶媒が2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノールからなる群より選ばれた1種又は2種以上の溶媒であり、前記第2溶媒がジアセトンアルコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、N−メチルピロリドン及び3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールからなる群より選ばれた1種又は2種以上の溶媒であり、前記第3溶媒が炭素数1〜3の範囲にある1種又は2種以上のアルコールであることを特徴とする。
本発明の第1の観点の膜形成用液組成物では、液組成物中のフッ素含有シランが分子内に含窒素ペルフルオロアルキル基とアルコキシシリル基とをそれぞれ1以上有する構造となっていて、窒素原子に炭素数が6以下の短鎖長のペルフルオロアルキル基が複数結合した含窒素ペルフルオロアルキル基を有しており、分子内のフッ素含有率が高く、シラン化合物の加水分解物に対して所定の範囲で含むことにより、形成した膜に優れた撥水撥油性と離型性を付与することができる。またケイ素アルコキシドであるテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランを用いるため、高い強度の塗膜が得られ、かつ塗膜の基材への密着性が良好となる。更に沸点の異なる3種類の溶媒を用い、これらの溶媒を所定の質量比で配合することにより、フッ素系の溶媒を用いずに、溶媒の乾燥速度を調整して、塗膜を成膜性良く形成することができる。また上記膜形成用液組成物はエポキシ基含有シランの加水分解物を含むため、エポキシ基も加水分解重合過程において開環し重合に寄与することで、乾燥過程にレベリング性が改善し膜厚さが均一化された理由で、形成した膜は虹色の干渉縞を発生しない。
本発明の第2の観点の膜形成用液組成物では、第1溶媒、第2溶媒及び第3溶媒に特定の溶媒を用いる。第1溶媒は第2溶媒と第3溶媒の中間の沸点を有することから、塗膜の乾燥時に第2溶媒と第3溶媒の沸点差に伴う塗膜の乾燥速度の大きな差を緩和する作用があり、第2溶媒は第1溶媒よりも高沸点であり、塗膜の乾燥速度が遅いことから塗膜の急激な乾燥を防止して急激な乾燥に伴う膜の不均一性を防止する作用があり、第3溶媒は沸点が最も低いことから塗膜の乾燥を速くする作用がある。このように沸点の異なる3種類の溶媒を用いることにより溶媒の乾燥速度を調整して、より的確にかつ効率的に塗膜を成膜性良く形成することができる。
次に本発明を実施するための形態を説明する。
(a)膜形成用液組成物
本実施の形態の膜形成用液組成物は、ケイ素アルコキシド(A)としてのテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランと、エポキシ基含有シラン(B)と、上記一般式(1)で示されるフッ素含有シラン(C)とからなるシラン化合物の加水分解物(D)と、所定の溶媒とを含む。
(a−1)加水分解物
上記シラン化合物の加水分解物(D)は液組成物100質量%に対して0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜5質量%含まれる。加水分解物の含有割合が下限値の0.1質量%未満では、形成した膜に撥水撥油性の防汚機能及び離型性を付与できず、また塗膜の基材への密着性に劣り、高い強度の塗膜が得られない。また上限値の10質量%を超えると、塗膜の弾き等が発生し成膜性に劣る。
(a−2)所定の溶媒
上記所定の溶媒は、沸点が120℃以上160℃未満の第1溶媒と、沸点が160℃以上220℃以下の第2溶媒と、沸点が120℃未満の第3溶媒と、水とを混合した混合溶媒である。これらの第1溶媒、第2溶媒及び第3溶媒は、質量比で、第1溶媒:第2溶媒:第3溶媒=9〜15:1〜3:82〜90の割合、好ましくは10〜14:1〜3:83〜89の割合で上記液組成物中に含まれる。第1溶媒は第2溶媒と第3溶媒の中間の沸点を有することから、塗膜の乾燥時に第2溶媒と第3溶媒の沸点差に伴う塗膜の乾燥速度の大きな差を緩和する作用があり、第2溶媒は第1溶媒よりも高沸点であり、塗膜の乾燥速度が遅いことから塗膜の急激な乾燥を防止して急激な乾燥に伴う膜の不均一性を防止する作用があり、第3溶媒は沸点が最も低いことから塗膜の乾燥を速くする作用がある。このように沸点の異なる3種類の溶媒を用いることにより、高価なフッ素系溶媒を用いることなく、フッ素含有シランを溶解することができるとともに、成膜時の溶媒の乾燥速度を調整して、均一な膜を形成することができる。第1溶媒を例示すれば、2−メトキシエタノール(沸点125℃)、2−エトキシエタノール(沸点136℃)、2−イソプロポキシエタノール(沸点142℃)、1−メトキシ−2−プロパノール(沸点120℃)及び1−エトキシ−2−プロパノール(沸点132℃)からなる群より選ばれた1種又は2種以上の溶媒が挙げられる。また第2溶媒を例示すれば、ジアセトンアルコール(沸点169℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、N−メチルピロリドン(沸点202℃)及び3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(沸点173℃)からなる群より選ばれた1種又は2種以上の溶媒が挙げられる。更に第3溶媒を例示すれば、炭素数1〜3の範囲にある1種又は2種以上のアルコールが挙げられる。このアルコールとしては、例えば、メタノール(沸点64.7℃)、エタノール(沸点約78.3℃)、プロパノール(n−プロパノール(沸点97−98℃)、イソプロパノール(沸点82.4℃))が挙げられる。
(a−3)シラン化合物
上記シラン化合物の中で、エポキシ基含有シラン(B)はケイ素アルコキシド(A)とエポキシ基含有シラン(B)の合計質量に対して1〜40質量%、好ましくは2.5〜20質量%含まれる。エポキシ基含有シラン(B)が下限値の1質量%未満では、形成した膜に虹色の干渉縞が依然として発生し、上限値の40質量%を超えると、形成した膜の強度が低くなる。エポキシ基含有シラン(B)を上記1〜40質量%の範囲含むと、形成した膜は虹色の干渉縞を発生しないのは、エポキシ基も加水分解重合過程において開環し重合に寄与することて、乾燥過程にレベリング性が改善し膜厚さが均一化されたためである。またシラン化合物の中で、フッ素含有シラン(C)はシラン化合物の加水分解物(D)100質量%に対して0.1〜10質量%含まれる。好ましい含有割合は0.5〜5質量%である。フッ素含有シラン(C)が下限値の0.1質量%未満では、形成した膜に撥水撥油性の防汚性及び離型性が生じにくく、上限値の10質量%を超えると、成膜性に劣り、防汚性及び離型性の機能を発現しにくい。
(a−4)ケイ素アルコキシド
上記ケイ素アルコキシド(A)としては、具体的には、テトラメトキシシラン、そのオリゴマー又はテトラエトキシシラン、そのオリゴマーが挙げられる。例えば、硬度の高い膜を得る目的には、テトラメトキシシランを用いることが好ましく、一方、加水分解時に発生するメタノールを避ける場合は、テトラエトキシシランを用いることが好ましい。
(a−5)エポキシ基含有シラン
上記エポキシ基含有シラン(B)としては、具体的には、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン又は多官能エポキシシランが挙げられる。
(a−6)フッ素含有シラン
上記フッ素含有シラン(C)は、上記一般式(1)で示される。上記式(1)中の含窒素ペルフルオロアルキル基としては、より具体的には、下記式(2)〜(13)で示されるペルフルオロアミン構造を挙げることができる。
Figure 2018087304
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また、上記式(1)中のXとしては、下記式(14)〜(17)で示される構造を挙げることができる。なお、下記式(14)はエーテル結合、下記式(15)はエステル結合、下記式(16)はアミド結合、下記式(17)はウレタン結合を含む例を示している。
Figure 2018087304
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ここで、上記式(14)〜(17)中、R2及びR3は炭素数が0から10の炭化水素基、R4は水素原子または炭素数1から6の炭化水素基である。R3の炭化水素基の例とは、メチル基、エチル基等のアルキル基挙げられ、R4の炭化水素基の例とは、メチル基、エチル基等のアルキル基の他、フェニル基等も挙げられる。
また、上記式(1)中、R1は、加水分解基のメトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。
また、上記式(1)中、Zは、加水分解されてSi−O−Si結合を形成可能な加水分解性基であれば特に限定されるものではない。このような加水分解性基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基などのアリールオキシ基、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのアラルキルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などのアシルオキシ基等が挙げられる。これらの中でも、メトキシ基、エトキシ基を適用することが好ましい。
ここで、上記式(1)で表されるペルフルオロアミン構造を有するフッ素含有シランの具体例としては、例えば、下記式(18)〜(28)で表される構造が挙げられる。なお、下記式(19)〜(29)中、Rはメチル基又はエチル基である。
Figure 2018087304
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上述したように、本実施の形態のフッ素含有シラン(C)は、分子内に含窒素ペルフルオロアルキル基とアルコキシシリル基とをそれぞれ1以上有する構造となっていて、窒素原子に炭素数が6以下の短鎖長のペルフルオロアルキル基が複数結合した含窒素ペルフルオロアルキル基を有しており、分子内のフッ素含有率が高いため、形成した膜に優れた撥水撥油性と離型性を付与することができる。
(b)膜形成用液組成物の製造
上記シラン化合物の加水分解物(D)を調製する方法について説明する。先ず、ケイ素アルコキシド(A)と、エポキシ基含有シラン(B)と、上記一般式(1)で示されるフッ素含有シラン(C)とからなるシラン化合物に第3溶媒と水を添加して、好ましくは10〜30℃の温度で5〜20分間撹拌することにより第1液を調製する。次に、上記調製した第1液を、好ましくは30〜80℃の温度に保持して、第1液に有機酸、無機酸又はチタン化合物を触媒として添加し、上記温度を保持した状態で、好ましくは1〜24時間撹拌する。これにより、上記シラン化合物の加水分解物(D)が生成される。この加水分解物は、ケイ素アルコキシドを1〜40質量%、エポキシ基含有シランを0.01〜24質量%、フッ素含有シランを0.01〜4質量%、第3溶媒を20〜98質量%、水を0.5〜40質量%、有機酸、無機酸又はチタン化合物を触媒として0.001〜5質量%の割合で混合してシラン化合物の加水分解反応を進行させることで得られる。この加水分解により得られた液に沸点が120℃以上160℃未満の第1溶媒と沸点が160℃以上220℃以下の第2溶媒と沸点が120℃未満の第3溶媒を加えて混合して膜形成用液組成物を製造する。これらの第1溶媒、第2溶媒及び第3溶媒は、製造された膜形成用液組成物において、質量比で、第1溶媒:第2溶媒:第3溶媒=9〜15:1〜3:82〜90の割合、好ましくは10〜14:1〜3:83〜89の割合になるように、添加混合される。
シラン化合物の加水分解物(D)中のSiO2濃度(SiO2分)は0.5〜20質量%であるものが好ましい。加水分解物のSiO2濃度が下限値未満では、重合が不十分であり、膜の密着性の低下やクラックの発生が起こりやすく、上限値を超えると、相対的に水の割合が高くなりケイ素アルコキシド等が溶解せず、反応液がゲル化する不具合を生じる。水の割合を上記範囲に限定したのは、下限値未満では加水分解速度が遅くなるために、重合が進まず、塗布膜の密着性並びに成膜性が不十分になり、一方、上限値を超えると加水分解反応中に反応液がゲル化し、水が多過ぎるためシラン化合物がアルコール水溶液に溶解せず、分離する不具合を生じるからである。水としては、不純物の混入防止のため、イオン交換水や純水等を使用するのが望ましい。
有機酸、無機酸又はチタン化合物は加水分解反応を促進させるための触媒として機能する。有機酸としてはギ酸、シュウ酸が例示され、無機酸としては塩酸、硝酸、リン酸が例示され、チタン化合物としてはテトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、乳酸チタン等が例示される。触媒は上記のものに限定されない。上記触媒の割合を上記範囲に限定したのは、下限値未満では反応性に乏しく重合が不十分になるため、膜が形成されず、一方、上限値を超えても反応性に影響はないが、残留する酸による基材の腐食等の不具合を生じる。
第3溶媒としてはメタノール又はエタノールが好ましい。これらのアルコールは、ケイ素アルコキドとの混合がしやすいためである。第3溶媒の割合を上記範囲に限定したのは、第3溶媒の割合が下限値未満では、ケイ素アルコキシドが、溶液中に溶解せず分離してしまうこと、加水分解反応中に反応液がゲル化しやすく、一方、上限値を超えると、加水分解に必要な水、触媒量が相対的に少なくなるために、加水分解の反応性が低下して、重合が進まず、膜の密着性が低下するためである。フッ素含有シランをケイ素アルコキシドとエポキシ基含有シランとともに混合して加水分解するのは、フッ素含有シランのみで別に加水分解を行って加水分解物を生成すると、フッ素のみの塊ができてしまい、成膜性に劣るので好ましくないからである。
(c)防汚性膜及び離型性付与膜の形成方法
本実施の形態の防汚性膜及び離型性付与膜は、例えば、基材であるステンレス鋼(SUS)、鉄、アルミニウム等の金属板上、窓ガラス、鏡等のガラス上、タイル上、ポリ塩化ビニル(PVC)等のプラスチック上、又はポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム上に、上記液組成物を、スクリーン印刷法、バーコート法、ダイコート法、ドクターブレード、スピン法等により塗布した後に、室温乾燥もしくは乾燥機等により室温から基材が耐え得る温度までの範囲の温度で、例えば130℃で乾燥させることにより、形成される。
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
初めに、実施例と比較例で用いられる9種類の加水分解物1〜9について説明する。
<加水分解物1>
ケイ素アルコキシド(A)としてのテトラメトキシシラン(TMOS)の3〜5量体(三菱化学社製、商品名:MKCシリケートMS51)98.5gと、エポキシ基含有シラン(B)としての3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名:KBM−403)1.0gと、上記式(21)に示されるフッ素含有シラン(C)0.5gからなるシラン化合物にエタノール(EtOH)(沸点78.3℃)196.2gを有機溶媒として添加し、更にイオン交換水36.0gを添加して、セパラブルフラスコ内で25℃の温度で5分間撹拌することにより混合液を調製した。また、この混合液に、触媒として濃度35質量%の塩酸1.1gを添加し、40℃で2時間撹拌した。これにより、上記シラン化合物の加水分解物1を得た。
<加水分解物2〜9の作製>
加水分解物2〜9は、加水分解物1と同様の手順で、表1に示す条件で作製した。加水分解物2は、フッ素含有シラン(C)として式(28)、触媒として濃度60質量%の硝酸を用い、加水分解の重合条件である撹拌は40℃で2時間行った。加水分解物3は、フッ素含有シラン(C)として式(28)、触媒としてテトライソプロポキシチタンを用い、加水分解の重合条件である撹拌は40℃で2時間行った。加水分解物4は、エポキシ基含有シラン(B)として3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製、商品名:KBE−403)、フッ素含有シラン(C)として式(25)、触媒として酢酸を用い、加水分解の重合条件である撹拌は25℃で24時間行った。
加水分解物5は、ケイ素アルコキシド(A)としてテトラエトキシシラン(TEOS)、フッ素含有シラン(C)として式(27)、エポキシ基含有シラン(B)として3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名:KBM−402)、触媒として濃度85質量%のリン酸を用い、加水分解の重合条件である撹拌は60℃で2時間行った。加水分解物6から9までは、加水分解物2と同じ化合物を用い、表1に示す配合比にて加水分解物をそれぞれ作製し、加水分解の重合条件である撹拌は40℃で2時間行った。表1にシラン化合物の加水分解物1〜9を得るための原料の種類と質量と重合条件を示す。加水分解物1〜5は、第1の観点の要件を満たし、加水分解物6〜9は第1の観点の要件を満たさない。
表1において、ケイ素アルコキシド(A)とエポキシ基含有シラン(B)の合計質量に対するエポキシ基含有シラン(B)の「質量%」を(B/A+B)で表す。以下「B/A+B」は同じ意味である。またフッ素含有シランの種類として、例えば「式28」と記載したものは、「式(28)に示される化合物」を意味する。
Figure 2018087304
次に、上記9種類の加水分解物を用いた実施例1〜7及び比較例1〜9を説明する。
<実施例1>
上記シラン化合物の加水分解物1を生成した液10gに、有機溶媒としてのエタノール(EtOH)(沸点78.3℃)67.2gと2−イソプロポキシエタノール(isoPG)(沸点142℃)11.2gとジアセトンアルコール(DAA)(沸点169℃)1.6gを添加し、25℃で3分間撹拌した。これにより、液組成物を得た。
<実施例2〜7、比較例1〜9>
また、表1で得られた加水分解物2〜9を用い、表2に示すように、実施例2〜7、比較例1〜9までの液組成物を実施例1と同じ条件にて作製した。実施例2、比較例1〜4の混合溶媒はエタノール(EtOH)85質量%、2−プロパノール(IPA)5質量%、1−プロパノール(NPA)10質量を均一に混合した溶媒である。
表2において、加水分解物の固形分とは、液組成物中の固形分濃度の意味である。また、第3溶媒の質量は、加水分解物に含まれるエタノール(加水分解物の約6割に当たる)を加えた質量である。加水分解物のSi成分の固形分と水は含んでいない。即ち、第3溶媒の質量は、ケイ素アルコキシドの加水分解によって生じる溶媒と、後から添加する溶媒とを合計した質量である。このようにして、第1溶媒と第2溶媒と第3溶媒の質量比は算出される。表2に加水分解物、第1溶媒、第2溶媒及び第3溶媒の各種類と配合量と配合比率を示す。
Figure 2018087304
<比較試験及び評価>
実施例1〜7及び比較例1〜8で得られた液組成物を、バーコーター(安田精機製作所製、型番No.3)を用いて、厚さ2mm、たて150mm、よこ75mmのアセトンで洗浄したSUS基材上にそれぞれ乾燥後の厚さが0.5〜1μmとなるように塗布し、15種類の塗膜を形成した。ここで、先ずバーコーターによる塗布時の成膜性を評価した。続いてすべての塗膜を室温にて、3時間乾燥して15種類の防汚性と離型性が付与された膜を得た。成膜性の評価に加えて、これらの膜の虹色の干渉縞の有無、膜表面の撥水性、撥油性、膜の耐水性、膜の強度、膜の基材への密着性、膜付き基材からの離型性と密着性を評価した。これらの結果を表3に示す。
(1) 成膜性
成膜性は、膜を目視にて評価した。膜全体に弾き、筋、斑点の発生がなく、液組成物を均一に塗布できたものは「良好」とし、膜の一部に僅かに弾き、筋、斑点が生じたものは「可」とし、膜全体に弾き、筋、斑点が生じたものは「不良」とした。
(2) 虹色の干渉縞の有無
膜を目視して、膜全体にわたって虹色の干渉縞の発生の有無を調べ、干渉縞が無いものは「無し」、有るものは「有り」とした。
(3) 膜表面の撥水性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のイオン交換水を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するSUS基材上の防汚性膜をこの液滴に近づけて防汚性膜に液滴を付着させる。この付着した水の接触角を測定した。静止状態で水が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を水の接触角とし、膜表面の撥水性を評価した。
(4) 膜表面の撥油性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のn−ヘキサデカン(以下、油という。)を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するSUS基材上の防汚性膜をこの液滴に近づけて防汚性膜に液滴を付着させる。この付着した油の接触角を測定した。静止状態で油が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を油の接触角とし、膜表面の撥油性を評価した。膜の表面状態が凸凹になって荒れていると通常よりも高い値を示すため、接触角が高過ぎる場合には、成膜性が不良であるとの判断基準となる。
(5) n−ヘキサデカンの転落性試験
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに25℃±1℃のn−ヘキサデカン(以下、油という。)を準備し、水平に置いたSUS基材上にシリンジからn−ヘキサデカンを9μLの液滴を滴下し、基材を2度/分の速度で傾斜させ、n−ヘキサデカンの液滴が移動開始するときの基材の傾けた角度を測定した。(4)の接触角が低くてもこの角度が小さい方が防汚性が高いことを意味する。
(6) 膜の耐水性
評価する防汚性膜をSUS基材とともに5〜15℃の水道水が500mL/分の速度で流れている水中に、水平状態で24時間置き、室温にて乾燥した後、水と油の接触角を測定し、浸漬前の接触角と15度未満の差である場合を「良好」とし、15度以上異なる場合は、「不良」とし、膜の耐水性を評価した。
(7) 膜の強度
水を含ませたスポンジで、膜を20回擦り、膜を目視にて評価した。膜に全く剥離が生じていない場合を「良好」とし、膜の一部に僅かに剥離が生じている場合を「可」とし、膜の大部分に剥離が生じている場合を「不良」とした。
(8) 膜の基材への密着性及び膜付き基材からの離型性
75mm×150mm×厚さ2mmのSUS304基材上に塗膜を形成した。塗膜の上に、セロファンテープを貼り付けた後、テープを剥がしたときに、塗膜がテープ側に全く付かなかった場合を「密着良好」とし、塗膜の一部が僅かにテープ側に付いたが、最終的にテープ側に貼り付かなかった場合を「密着可」とし、塗膜の大部分がテープ側に貼り付き、SUS基材界面で塗膜が剥がれてしまった場合を「密着不良」とした。
膜の基材への密着性を確認するために用いたSUS304基材と同一の基材に膜を形成した。膜の上に、コニシ製エポキシ樹脂とガラスクロスを積層し、8時間乾燥させFRP層を形成した。形成したFRP層をSUS304基材から剥がしたときに、FRP層のみが膜から・離したものは、膜の基材への密着性と膜からの離型性が「良好」であるとした。FRP層が膜とともにSUS基材から剥離したものは密着性が不十分であるが、離型性は「可」とした。FRP層がSUS基材上の膜から全く剥離しなかったものは、離型性は「不良」であるが、膜の基材への密着性は「密着良好」とした。
Figure 2018087304
表3から明らかなように、比較例1の液組成物では、「B/A+B」の割合がが42.3質量%であって、エポキシ含有シランの割合が多過ぎたため、干渉縞は無かったが、膜の強度が不良であった。比較例2の液組成物では、「B/A+B」の割合が0.5質量%であって、エポキシ含有シランの割合が少な過ぎたため、膜の強度は良好であったが、干渉縞が発生していた。
また比較例3の液組成物では、フッ素含有シラン(C)がシラン化合物の加水分解物(D)に対する割合(以下、「C/D」という。)が11質量%であって、フッ素含有シランの割合が多過ぎたため、成膜時に、筋、ムラが発生し、膜厚にばらつきが生じて、成膜性が不良であった。また膜の耐水性、強度、離型性、密着性はすべて不良であった。比較例4の液組成物では、「C/D」の割合が0.05質量%であって、フッ素含有シランの割合が少な過ぎたため、成膜性は良好であるが、ヘキサデカンの転落性が発現せず、また離型性も発現しなかった。
また比較例5の液組成物では、固形分濃度が0.08質量%と低過ぎ、かつ溶媒は第3溶媒のみ(100%)であって、第3溶媒が過剰であったため、乾燥速度が速くなり、膜に筋、ムラが発生した。そのため離型性が不良であった。接触角は水が80度、n−ヘキサデカンが42度であって、やや良好な値を示したが、防汚性能を左右するヘキサデカン転落性が劣り不良であった。
また比較例6の液組成物では、第1溶媒の比率が16.8%であって、第1溶媒が過剰であったため、成膜してから24時間放置した後もウエットの状態であった。このため、膜を乾燥状態にするためには、120℃で1時間の乾燥を要した。また膜ムラ、膜筋が発生した。また比較例7の液組成物では、第2溶媒の比率が5.0%であって、第2溶媒が過剰であったため、ヘキサデカン転落性が発現せず、それ以外は、比較例3と同様の結果であった。比較例8の液組成物では、固形分濃度が10.9質量%と高過ぎたため、膜厚が厚くなり過ぎ、膜にひび割れ剥離等が発生した。膜物性は、比較例6と同様の結果であった。
これに対して、表3から明らかなように、実施例1〜7の液組成物では、成膜性、塗膜の撥水撥油性、ヘキサデカンの転落角、耐水性、膜の強度において、可または良好な結果であり、膜付き基材からの離型性及び密着性も良好であった。
本発明の膜形成用液組成物は、機械油を使用する工場、油が飛散する厨房、油蒸気が立ちこめるレンジフード、換気扇、冷蔵庫扉等において、油汚れを防止する分野に用いられる。またプレス成形法、FRP成形法等により樹脂成形体又はセラミック成形体を作る場合に、成形体を金型等から容易に離型させる分野に用いられる。

Claims (2)

  1. ケイ素アルコキシド(A)としてのテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランと、エポキシ基含有シラン(B)と、下記一般式(1)で示されるフッ素含有シラン(C)とからなるシラン化合物の加水分解物(D)と、所定の溶媒とを含む膜形成用液組成物であって、
    前記エポキシ基含有シラン(B)が前記ケイ素アルコキシド(A)と前記エポキシ基含有シラン(B)の合計質量に対して1〜40質量%含まれ、
    前記フッ素含有シラン(C)が前記シラン化合物の加水分解物(D)に対して0.1〜10質量%含まれ、
    前記加水分解物の固形分が前記液組成物100質量%に対して0.1〜10質量%含まれ、
    前記所定の溶媒が、沸点が120℃以上160℃未満の第1溶媒と、沸点が160℃以上220℃以下の第2溶媒と、沸点が120℃未満の第3溶媒と、水とを混合した混合溶媒であり、
    前記第1溶媒、前記第2溶媒及び前記第3溶媒の質量比が、第1溶媒:第2溶媒:第3溶媒=9〜15:1〜3:82〜90である
    ことを特徴とする膜形成用液組成物。
    Figure 2018087304
    上記式(1)中、m及びnは、それぞれ同一又は互いに異なる1〜6の整数である。また、Rf1は、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であって、直鎖状又は分枝状であってもよい。また上記式(1)中、Xは、炭素数2〜10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO−NH結合及びO−CO−NH結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。更に上記式(1)中、R1及びZはアルコキシ基である(ただし、aは0〜3の整数)。
  2. 前記第1溶媒が2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール及び1−エトキシ−2−プロパノールからなる群より選ばれた1種又は2種以上の溶媒であり、前記第2溶媒がジアセトンアルコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、N−メチルピロリドン及び3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールからなる群より選ばれた1種又は2種以上の溶媒であり、前記第3溶媒が炭素数1〜3の範囲にある1種又は2種以上のアルコールである請求項1記載の膜形成用液組成物。
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