以下、図面を参照して、本発明の三次元造形物の製造方法と三次元造形装置の実施形態について説明する。尚、以下の説明中では、層という用語は、溶融した熱可塑性樹脂を複数回付与することで厚み方向に積み重ねて三次元造形物を形成する場合に、一回の付与で積まれる部分をいう。吐出ヘッドとステージを相対的に走査しながら熱可塑性樹脂を付与して積み重ねる場合には、一回の走査で付与する部分である。三次元造形物の断面観察等で層と層の境界が確認できる場合もあるが、熱可塑性樹脂の均一性が高い場合などには、層と層の境界が明確に検出されない場合もある。
[第一の実施形態]
本発明の第一の実施形態に係る三次元造形装置の構成と、三次元造形方法を順に説明する。
[装置構成]
図1は、本発明の第一の実施形態にかかる三次元造形装置を模式的に示す斜視図である。
1は造形材、2は材料導入部、3は加熱供給部、4は吐出ノズル、5は吐出口、6はステージ、7はX移動機構、8はY移動機構、9はZ移動機構、10はリールである。
造形材1は、三次元造形に用いる原材料である。本実施形態では、熱可塑性樹脂をフィラメントに成形したものを用いるが、ペレットや粉末等の他の形体の材料を用いることもできる。
造形材1として用いるフィラメントは、たとえば、断面形状が円形で、直径が1.5〜3.0mmで、長さが10〜1000mのものが、好適である。造形材1は、リール10に巻き取られて収納されている。リール10を回転することにより、造形材1を材料導入部2に供給することができる。
本実施形態で用いられ得る熱可塑性樹脂は、例えば、PC(ポリカーボネート)樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂、PC/ABSポリマーアロイがある。さらには、PLA(ポリ乳酸)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、PEI(ポリエーテルイミド)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、およびこれらを改質した樹脂等が挙げられる。
加熱供給部3は、造形材1である熱可塑性樹脂を取り込んでから加熱部に送り出し、ガラス転移温度(Tg)以上に加熱して溶融し、吐出ノズル4に供給する。加熱供給部3に内蔵されている送り出し機構を図2に示す。
図2において、21と22はフィラメント状の造形材1を取り込んで加熱部に送り出すためのローラである。造形材1は、ローラ21とローラ22に挟持されており、各ローラが図中矢印の方向に回転することにより、リール10からフィラメントを引込み、加熱部に送り込むことができる。
不図示の加熱部は、取り込み機構から供給される熱可塑性樹脂を加熱して溶融させる。加熱部は、ヒータを備えており、ヒータの発熱量を制御することで、溶融した樹脂の温度を調整することができる。
溶融状態となった熱可塑性樹脂は、後続の材料に押出されることにより、吐出部の吐出ノズル4に送り込まれる。吐出ノズル4の先端部まで押し出された熱可塑性樹脂は、吐出口5から吐出する。
ローラ21とローラ22を回転させたり停止したりすることにより、吐出口5から溶融樹脂を吐出させたり吐出させなかったりすることができる。また、ローラの回転速度を制御することで、加熱部への造形材の供給量を調整することができる。したがって、ローラの回転速度を制御することで、吐出口5からの溶融樹脂の吐出速度、吐出量、吐出圧力を制御することができる。
ステージ6は、造形される三次元造形物を上面で支持するための基台である。図中、座標軸に示すように、ステージ6の上面は、X軸とY軸で規定されるX−Y平面と平行である。またX−Y平面に垂直な方向をZ方向とする。
本実施形態の三次元造形装置では、吐出部が備える吐出ノズル4のステージ6に対する相対的位置を変更させながら熱可塑性樹脂を吐出し、積層してゆくことによって三次元造形物を形成することができる。図1の装置では、ステージ6はZ移動機構9によりZ軸に沿って移動可能となっている。また、吐出ノズル4は、X移動機構7およびY移動機構8により、X−Y面に沿って移動可能となっている。もっとも、吐出ノズル4がステージ6に対してXYZの3方向で相対的に移動できれば良いので、装置構成は必ずしも図1の例に限られない。たとえば、ステージは固定して、吐出ノズルをXYZの3方向に移動可能な構成としても良い。
尚、本実施形態では、後述するように、内実部を形成する際に、すでに形成した骨格部の上面に吐出ノズルの底面を接触させる場合がある。単に接触させる場合には、Z移動機構9で、ステージ6のZ方向の位置制御を行う。たとえば、骨格部の積層厚の設計値を参照して、骨格部の上面の位置が、吐出ノズルの底面の位置と一致するようにステージ6のZ方向の位置を制御すればよい。あるいは、骨格部の上面と吐出ノズルの底面の相対位置を観察可能なデジタルカメラを設け、画像認識にもとづいてステージ6のZ方向の位置制御を行ってもよい。一方、吐出ノズルの底面が骨格部の上面に対して所定の接触圧力を印加しながら接触するようにしたい場合には、Z移動機構9は、位置制御と力制御の両方を組み合わせた方式で動作させる。たとえば、Z移動機構9に、Z方向にかかる外力を検出可能な力センサを設け、骨格部の上面と吐出ノズルの底面との間に所定の接触圧力が付加されるように、Z移動機構9の駆動部を制御すればよい。
[制御ブロック]
図3に、本実施形態の三次元造形装置の制御ブロックを簡易的に示す。
制御部30は、三次元造形装置の各部の動作を制御するための制御回路である。制御部30は、CPU、制御プログラムや制御用数値テーブルを記憶した不揮発性メモリであるROM、演算等に使用する揮発性メモリであるRAM、装置外や装置内各部と通信するためのI/Oポート、等を備えている。なお、ROMには、三次元造形装置の基本動作を制御するためのプログラムが記憶されている。
コンピュータ31は、CPU、記憶装置および入出力装置を備えた電子計算機で、三次元形状編集ソフトウェアを実行可能である。コンピュータ31は、造形しようとする三次元モデル情報に基づき、吐出ヘッドで形成するのに適した骨格部モデルと内実部モデルを構築し、順次パターンを形成するための指示を制御部30に対して発することができる。コンピュータ31は、三次元造形装置に内蔵されたコンピュータであってもよいし、ネットワーク等を介して三次元造形装置と接続可能な外部コンピュータであってもよい。また、制御部30とコンピュータ31の機能を、ひとつのコンピュータに実装し、単一の制御部と見なしてもよい。
33は、三次元造形装置を使用するユーザのための操作パネルである。操作パネル33は、三次元造形装置の操作者が装置に指示を与えるための入力部と、操作者に情報を表示するための表示部を有している。入力部は、キーボードや操作ボタンを備えている。表示部は、三次元造形装置の動作状況等を表示する表示パネルを備えている。
制御部30は、操作パネル33から入力されるユーザの指示に基づき、三次元装置の各部を制御し、三次元造形の各工程を遂行する。具体的には、制御部30は三次元造形開始の指示を受けると、加熱供給部3に制御信号を送信して、ローラ21とローラ22やヒータの駆動を制御し、溶融した熱可塑性樹脂の吐出ノズル4への供給を調整する。制御部30は、X移動機構7、Y移動機構8、Z移動機構9を制御して、吐出ノズル4およびステージ6の相対位置を制御し、三次元造形プロセスにおける骨格部と内実部の形成を遂行させる。
[三次元造形プロセス]
次に、本実施形態の三次元造形プロセスについて、順を追って説明する。図4は、本実施形態の三次元造形プロセスの工程順を示すフローチャートである。
まず、工程S1では、三次元造形モデル情報として三次元形状データを、コンピュータ31のメモリに格納する。三次元形状データは、コンピュータ31が作成したものであってもよいし、CADや三次元形状計測装置が作成したデータを、ネットワークや記憶媒体を介して入力したものであってもよい。三次元形状データ形式は、STEP形式、Parasolid形式、STL形式などが用いられるが、三次元形状をデジタルデータとして表現できるものであれば、その種類は限定されない。
続く工程S2乃至S3では、コンピュータ31が、内蔵する演算装置と三次元形状編集ソフトウェアを用いて、骨格部モデルと内実部モデルを作成する。
ここで、骨格部モデルとは、造形する三次元モデルを複数の区画に分割する隔壁構造のモデルである。骨格部モデルは、造形する三次元モデルの外表面となる外殻部を含む。コンピュータ31は、本実施形態の三次元造形装置で形成可能なパターン幅および一層の厚みを勘案して、骨格部モデルを作成する。
また、内実部モデルとは、骨格部モデルの隔壁構造で仕切られた区画の内部空間の形状モデルである。すなわち、骨格部モデルと内実部モデルを合わせれば、造形する三次元モデル全体になるわけである。
ここでは、工程S1でコンピュータ31に格納した三次元モデルが、図5(a)に示すように、各辺の長さがLx,Ly,Lzの直方体の三次元モデル100であった場合を例に説明する。説明の便宜のために、単純な直方体を例示するが、もちろん三次元モデル100は、これより複雑な形状であっても差し支えない。
工程S2で、コンピュータ31は、骨格部モデルを作成するが、図5(b)はその一例である骨格部モデル50の正面図、図5(c)は骨格部モデル50の平面図である。
図5(b)に示すように、骨格部モデル50は高さ方向、すなわち三次元造形プロセスにおける積層方向に関して、本実施形態の三次元造形装置で形成可能な一層の厚みtを単位とする層を積み重ねた多層構造を有している。すなわち、図5(b)の例では、高さLzの造形モデルに基づいて作成された8層構造よりなる骨格部モデルが示されている。
骨格部モデル50の各層は、図5(c)に示す平面形状を有している。図示の便宜上、骨格部モデルの部分を斜線で示している。骨格部モデルは、三次元モデル100の4つの側面となる外殻部を含み、三次元モデルを14個の区画に分割する隔壁構造を成している。外殻部および隔壁の幅wは、本実施形態の三次元造形装置で形成可能なライン幅と等しいか、またはその整数倍とするのがよい。
たとえば、本実施形態の三次元造形装置の吐出部が備える吐出ノズル4が、図7(a)の側面図、および図7(b)の下面図で示される形状を有していたとする。図示のように、吐出ノズル4の先端部は、直径Bwの円形の平坦面をなし、その中心に内径Dの円形の吐出口5が設けられているとする。この吐出ノズルで形成しえるライン幅は、概ね吐出口の内径Dと等しいといえる。もちろん、溶融樹脂の粘度、吐出圧、ノズルの走査速度、等を考慮して、より厳密にライン幅を決定してもよいが、いずれにせよ、骨格部モデルの外殻部および隔壁の幅wは、三次元造形装置で形成可能なライン幅と等しいか、その整数倍とするのがよい。
次に、工程S3で、コンピュータ31は、内実部モデルを作成するが、図6(a)はその一例である内実部モデル60の正面図、図6(b)は内実部モデル60の平面図である。図示の便宜上、三次元モデル100の外形を点線で示している。
図6(a)に示すように、内実部モデル60は高さ方向、すなわち三次元造形プロセスにおける積層方向に関して、本実施形態の三次元造形装置で形成可能な一層の厚みtの整数倍を単位とする厚さのユニットを積み重ねた構造を有している。図6(a)では、高さLzの造形モデルをもとに、Iz=4×tを単位とする2層のユニット構造よりなる内実部モデル60が示されている。
内実部モデル60の各層は、図6(b)に示す平面形状を有している。平面視における内実部モデル60は、三次元モデル100から骨格部モデル50を除いた部分と等しい。すなわち、内実部モデル60は、骨格部モデル50の隔壁構造によりwの距離隔てられた14個の独立構造を成している。各構造の平面視におけるサイズは、吐出ノズル4の底面よりも小さく、吐出口5と等しいか、やや大きいのが望ましい。たとえば、平面視におけるX方向の長さIxおよびY方向の長さIy、あるいは平面視における対角線の長さは、いずれもBwよりも小さいのが望ましい。また、IxおよびIyは、Dと等しいか、またはDよりも大きなほうがよい。これらの寸法関係が望ましい理由については、詳しくは後述するが、骨格部を形成した後に、順に14個の内実部を形成する際に、吐出ノズルで隔壁に蓋をして、溶融樹脂を確実に充填するためである。
工程S4では、コンピュータ31は、工程S2で作成した骨格部モデルおよび工程S3で作成した内実部モデルを参照しながら、三次元造形装置が三次元モデルを造形するために必要な命令セットを作成し、制御部30に送信する。尚、コンピュータ31が命令セットを作成しないで、骨格部モデルおよび内実部モデルを制御部30に送信してもよい。その場合には、制御部30が、内蔵するCPUを用いて、造形するために必要な命令セットを作成するように、制御プログラムを構成しておけばよい。
命令セットは、複数層分の骨格部モデルに相当する部分を三次元造形し、その後に内実部モデルに相当する部分を三次元造形するシーケンスを実行するための命令として構成される。
たとえば、図5(b),(c)の骨格部モデル、および図6(a),(b)の内実部モデルをもとに作成される命令セットは、以下のようなシーケンスを実行する命令セットとして構成される。すなわち、まず吐出ノズル4をステージ6に対して相対走査させて、下から4層分の骨格部モデルを順次形成する。次に、骨格に内接する内実部を1個ずつ順次形成するが、各内実部を形成する際は、4層分の骨格部モデルの厚みIzに達するまで,溶融樹脂を連続して充填する。その後、同様にさらに4層分の骨格部モデルを形成してから、内実部を形成し、三次元造形物を完成させる。かかるシーケンスを実行させるための命令セットは、制御部30のRAMに記憶される。
次に、工程S5では、制御部30は、工程S4で作成した命令セットに従い装置各部を動作させ、たとえば、図8(a)、図8(b)に示すように、三次元造形物の骨格部80を熱可塑性樹脂で形成する。図8に示すのは、図5(c)における幅wを、吐出ノズル4を一回走査したときの線幅と等しく設定し、骨格部モデルの4層目までを造形した状態である。
尚、ここでは、層とは、溶融した熱可塑性樹脂を複数回付与することで厚み方向に積み重ねて三次元造形物を形成する場合に、一回の付与で積まれる部分をいう。吐出ヘッドとステージを相対的に走査しながら熱可塑性樹脂を付与して積み重ねる場合には、一回の走査で付与する部分である。三次元造形物の断面観察等で層と層の境界が確認できる場合もあるが、熱可塑性樹脂の均一性が高い場合などには、層と層の境界が明確に検出されない場合もある。
制御部30は、ローラ21とローラ22を駆動させて適量の未溶融の熱可塑性樹脂フィラメントを加熱部に供給する。制御部30は、加熱部に内蔵されたヒータを駆動させ、熱可塑性樹脂フィラメントを加熱して溶融させる。制御部30は、吐出ノズル4とステージ6を相対的に移動させ、図8(a)に示すように、熱可塑性樹脂で骨格部80を形成する。
図8(a)に示すように、4層分の骨格部80のパターンを熱可塑性樹脂で形成したら、制御部30は、ローラ21とローラ22を一旦停止させ、吐出ノズル4からの溶融樹脂の吐出を停止させる。骨格部が形成された段階で、骨格部を構成する隔壁により、水平方向が囲まれるが上方向は開放された空間が複数配置されたことになる。したがって、工程S5は、隔壁形成工程であるとも言える。
次に、工程S6では、制御部30は命令セットに従い装置各部を動作させ、たとえば、図9(a)の斜視図、図9(b)の部分断面図に示すように、三次元造形物の骨格部80に内接する内実部90を、熱可塑性樹脂で形成する。三次元造形物の骨格部の4層分は、すでに工程S5で形成されているので、それによって水平方向が囲まれた領域に、上方向から熱可塑性樹脂を付与し、内実部を形成する。
制御部30は、再びローラ21とローラ22を駆動させて適量の未溶融の熱可塑性樹脂フィラメントを加熱部に供給する。制御部30は、加熱部に内蔵されたヒータを駆動し、熱可塑性樹脂フィラメントを加熱して溶融させる。
制御部30は、吐出ノズル4とステージ6を相対的に移動させ、図9(b)に示すように、骨格部80により構成された隔壁で囲まれた部分に、上方向から熱可塑性樹脂を充填して内実部90を形成する。隔壁で囲まれた各区画は、4層分の骨格部に相当する高さがあるが、ひとつの区画を4層分の高さまで充填した後、次の区画を充填する。すなわち、内実部となる複数の区画を、一区画ずつ順番に溶融樹脂で充填してゆくように、吐出ノズル4は走査される。
内実部を構成する各区画のサイズは、図6(b)の内実部モデルの平面形状と図7の吐出ヘッド底面形状との関係で説明したように、吐出口5よりも各区画の方が若干大きいか、または等しくなるよう設定される。なおかつ、吐出ヘッドの底面の大きさよりも、各区画の大きさの方が狭くなるように設定されている。このため、図9(b)に示すように、吐出ヘッドを区画と位置合わせすれば、吐出口はひとつの区画のみに、選択的に溶融樹脂を充填することができる。この際には、吐出ヘッドの吐出口周辺の平坦な底面が、骨格部の隔壁の上面と接し、蓋をするような状態となる。この蓋の効果により、溶融樹脂を区画に注入する際、ローラ21とローラ22の駆動を適宜制御すれば、所定の注入圧力をかけることが可能になる。
この際、Z移動機構9で吐出ヘッドに対するステージ6の位置を制御することで、吐出ヘッドの底面が骨格部の上面と密着して接し、蓋をするようにすることができる。蓋としての密閉性を向上するために、骨格部の上面と吐出ノズルの底面との間に所定の接触圧力を印加しながら接触させる場合には、Z移動機構9は、位置制御と力制御の両方を組み合わせた方式で動作する。
そして、骨格部の4層分の高さに相当する容積の溶融樹脂の注入を終了するタイミングにあわせて、ローラ21とローラ22の駆動を停止することにより、区画から溶融樹脂が溢れることを防止することができる。一つの区画への溶融樹脂の充填が完了したら、Z移動機構9でステージ6を下げて吐出ヘッドをいったん離間させ、X移動機構7とY移動機構8で吐出ヘッドを次の区画の上方に移動させる。その後、Z移動機構9でステージ6を上昇させて、吐出ヘッドが次の区画の蓋をするように、相対位置を制御する。
このように、順番に各区画を吐出ヘッドの底面で蓋をして、適宜の圧力で吐出口から注入してゆくことにより、骨格部と内実部を隙間なく接合させることが可能になる。
図10は、図9(b)の断面図の一部を拡大して示したものである。骨格部80は、複数の層を積層して形成しているため、その側面は平坦ではなく、図中101で示すように凹部が存在する。本実施形態によれば、各区画に吐出ヘッドの底面で蓋をして、適宜の圧力で吐出口から注入することにより、かかる凹部101にも確実に溶融樹脂を充填することが可能である。
本実施形態では、骨格部に蓋をして適宜の圧力をかけて溶融樹脂で充填するために、特に好適な形状の吐出ヘッドを用いた。図11は、吐出ヘッドのノズル先端付近の形状を示した斜視図である。図11は、先端形状を図示する便宜上、通常の使用状態とは、上下を逆にして示している。ノズル先端の吐出口5の周辺は、通常は平坦面であるが、本実施形態においては、エア抜きのための溝110が設けられている。この例では、溝110は、幅が0.5mmで、深さが0.01mmの形状を有している。溝の幅や深さは、骨格部の区画に蓋をして溶融樹脂を注入する際に、区画内のエアを効率的に排気できる大きさであることが望ましい。その一方で、溝を通じて樹脂が漏れ出したりしない程度に幅や深さを制限する必要がある。かかる要請が満たされるならば、エア抜きの溝110の形状は図11の例に限られるわけではなく、たとえば吐出口5を中心に複数の溝を放射状に設けるものであってもよい。
工程S6で内実部に樹脂を充填した後、工程S7では、三次元造形モデルの全層の形成が完了したかを確認する。
図5(a)の三次元造形モデルの例では、図5(b)のように全体の高さLZを、8層に分割する骨格部モデルを構築したが、図9の段階では、まだ4層分の骨格部と内実部しか形成していないので、再び工程S5に戻ることになる。そして、さらに4層分の骨格部を形成した後、工程S6で上段の内実部を形成する。
そして、工程S7で三次元造形モデルの全層の形成が完了したことを確認できたら、三次元造形プロセスを終了する。
本実施形態によれば、たとえば図9において、各内実部90は、4層を順次形成するのではなく、一回の充填で一体として形成されるので、層間の境目がなく強固である。しかも、内実部90は、骨格部80の凹部101にも確実に充填されているため、内実部90と骨格部80はアンカー効果を発揮して互いに相手を拘束する。このため、本実施形態により形成した三次元造形物は、従来のように一層ずつ平面パターンを積層して形成した三次元造形物と比較して、はるかに大きな強度を有する構造体であると言える。しかも、あらかじめ骨格部の一部として外殻部を形成してあるため、形状精度は従来の方式と比較して何ら遜色がないと言える。
[第二の実施形態]
本発明の第二の実施形態に係る三次元造形装置の構成と、三次元造形方法を順に説明する。第一の実施形態が、同一の吐出ヘッドを用いて骨格部と内実部を形成していたのに対して、第二の実施形態では、骨格部と内実部をそれぞれ専用の吐出ヘッドを用いて形成する点が異なる。
[装置構成]
図12は、本発明の第二の実施形態にかかる三次元造形装置を模式的に示す斜視図である。1は造形材、2は材料導入部、3は加熱供給部、6はステージ、7はX移動機構、8はY移動機構、9はZ移動機構、10はリールである。材料導入部2、加熱供給部3、リール10が2個ずつ設けられている点を除けば、これらの部分については、第一の実施形態の装置と概ね同じであるため、詳しい説明は省略する。
また、121は骨格部形成用の吐出ノズル、122は骨格部形成用の吐出口、123は内実部形成用の吐出ノズル、124は内実部形成用の吐出口である。
図7(a),(b)を参照して、骨格部形成用と内実部形成用のノズル先端部の形状の違いについて説明する。骨格部形成用の吐出ノズル121の先端面の直径Bwは、内実部形成用の吐出ノズル123の先端面の直径Bwよりも小さい。また、骨格部形成用の吐出口122の内径Dは、内実部形成用の吐出口124の内径Dよりも小さい。このような構成とすることで、骨格部を形成する時には、微細な形状の形成に適したヘッドを用いることができ、高い形状精度で外殻部や隔壁を形成することができる。一方、内実部を形成する時には、底面および吐出口が大きなヘッドを用いることができ、隔壁を覆う蓋のサイズを大きくできるため、内実部を形成するための骨格部の区画サイズを大きくすることができる。すなわち、内実部形成用の吐出ノズル123の先端面の直径Bwが大きいため、図6(b)におけるIx,Iyを大きくすることができる。そして、内実部を形成するための一区画の容積が大きくなったとしても、内実部形成用の吐出口124の内径Dは大きく設定されているため、短時間で溶融樹脂を充填することができる。なお、内実部形成用の吐出ノズル123の先端部には、図11で説明したエア抜きのための溝110を形成するのが望ましいが、骨格部形成用の吐出ノズル121には溝110は設けなくともよい。
[制御ブロック]
第二の実施形態の装置の制御ブロックは、図3に示した第一の実施形態の制御ブロックと概ね同様である。
ただし、施形態においては、骨格部形成用と内実部形成用の専用ノズルを有するため、吐出ノズルの制御系は2系統備えている。また、骨格部形成用と内実部形成用のノズルサイズが異なるため、コンピュータ31が実行する骨格部モデルと内実部モデルを構築するためのプログラムは、第一の実施形態とは異なるものを採用している。
[三次元造形プロセス]
第二の実施形態の三次元造形プロセスは、図4のフローチャートで説明した第一の実施形態の三次元造形プロセスと概ね同様である。
ただし、工程S2で骨格部モデルを作成する際の隔壁の幅wは、骨格部形成用の吐出ノズル121によって一走査で形成可能な線幅の整数倍に設定される。
また、内実部モデルを作成する際の区画の大きさIx,Iyは、内実部形成用の吐出ノズル123の先端面の直径Bwよりも小さく、内実部形成用の吐出口124の内径Dと等しいか、やや大きく設定される。内実部形成用ノズルの先端で骨格部を構成する隔壁に蓋をして、溶融樹脂を適宜の圧力で充填するためである。
また、第一の実施形態では、たとえば図5(a)の三次元造形物を形成する際に、造形物の4つの側面は、骨格部モデルに含まれた外殻部として形成したが、底面と上面は骨格部と内実部が混在する面として形成していた。これに対して、第二の実施形態は、工程S2において、側面だけでなく底面と上面も外殻部として含む骨格部モデルを作成し、工程S5において底面と上面も骨格部形成用の吐出ノズル121によって形成する点で異なる。
また、工程S4で作成される造形命令セットは、第二の実施形態においては、2系統の吐出ノズルを適宜使い分ける命令セットとなる。すなわち、骨格部の形成時は骨格部形成用の吐出ノズルを駆動し、内実部の形成時は内実部形成用の吐出ノズルを駆動する命令セットとなる点で、第一の実施形態とは異なる。
工程S5では、骨格部を骨格部形成用の吐出ノズル121によって形成し、工程S6では、内実部を内実部形成用の吐出ノズル123によって形成する。
工程S6において、内実部を形成している途中の状態を、図13(a)の斜視図、(b)の一部断面図に示す。
本実施形態では、底面も骨格部として形成するため、図13(b)に示すように、ステージ6と接する底面層と、その上の4層分を合わせた5層分の骨格部80が、吐出口が小さな骨格部形成用の吐出ノズルを用いて形成されている。そして、内実部形成用の吐出ノズル123を用いて、4層分の骨格部の隔壁で区画された空間に、順次溶融樹脂を充填させ、内実部90を形成している。内実部形成用の吐出ノズル123の先端面の直径Bwと吐出口124の径は、骨格部形成用の吐出ノズル121よりも大きいので、実施形態1と比較して大きなサイズの区画に充填できることが、同図から明らかである。
以下、第一の実施形態と同様に、三次元造形物を構成する全層の積層が完了するまで、S5ないしS7を繰り返す。ただし、本実施形態では、三次元造形物の上面に相当する最上層は、骨格部に含まれる外殻として、骨格部形成用の吐出ノズル121で形成する。
本実施形態によれば、たとえば図13において、内実部90は、4層を順次形成するのではなく、一回の充填で一体として形成されるので、層間の境目がなく強固である。しかも、内実部90は、骨格部80の凹部101にも確実に充填されているため、内実部90と骨格部80はアンカー効果を発揮して互いに相手を拘束する。このため、本実施形態による三次元造形物は、従来の一層ずつ平面パターンを積層して形成した三次元造形物と比較して、はるかに大きな強度を有する構造体であると言える。しかも、吐出口が小さな吐出ノズルを使って、すべての外面を骨格部の一部として形成してあるため、形状精度も従来の方式と比較して何ら遜色がないと言える。
さらに、本実施形態によれば、骨格部と内実部をそれぞれ専用の吐出ヘッドを用いて形成する装置構成としたことにより、骨格部と内実部のモデル形状の設計自由度が拡大する。
内実部形成用の吐出ヘッドの先端面の面積を大きくすることにより、内実部を形成するための一区画のサイズを大きくしても確実に蓋をすることができる。また、区画サイズが大きくなれば、内実部形成用の吐出口のサイズを大きくできるため、溶融樹脂の流量を大きくすることができ、造形に要する時間を短縮することができる。
また、加圧充填のためのエア抜き溝は、内実部形成用の吐出ヘッドだけに設ければよく、骨格部形成用の吐出ヘッドには設ける必要がない。このため、骨格部形成用の吐出ヘッドにおいて吐出する溶融樹脂は、エア抜き溝の影響を一切受けないため、三次元造形物の外形の形状精度を高く保つことができる。
以上、第一の実施形態と第二の実施形態について説明したが、本発明の実施形態はこれらに限られるものではない。
たとえば、上記実施形態では、骨格部の幅wは、吐出ノズルによって一走査で形成可能な線幅と等しく設定したが、線幅の整数倍とすることが可能である。幅wを大きくすれば、隔壁としての強度が増加するうえ、内実部を形成する際に吐出ヘッドで蓋をする際の接触面積を大きくでき密封性が向上するため、内実部を充填する際の溶融樹脂の圧力を大きくすることができる。また、三次元造形物の外表面になる外殻部と、内実部を区切る隔壁の部分とで、互いに幅wを異ならせてもよい。
また、第一の実施形態と第二の実施形態を適宜組み合わせることも可能で、たとえば、第一の実施形態の装置を用いて、第二の実施形態のように三次元造形物の底面と上面も含めて骨格部として形成しても構わない。逆に、第二の実施形態の装置を用いて、第一の実施形態のように、三次元造形物の底面と上面は、骨格部と内実部を混在する形態で造形しても構わない。
また、隔壁によって規定される内実部となる空間の形態は、上記実施形態では、IxとIyを辺とする矩形の底面を有し、高さがIzの直方体または立方体の空間としたが、必ずしもこれに限る必要はない。要は、内実部を形成する際に、吐出ヘッドの先端面形状との関係で、溶融樹脂が他の区画にはみ出さないように蓋をできる区画形状にできればよい。造形しようとする三次元造形物の形状によっては、直方体の内実部を規則的に配置するだけでは、幾何学的に構成することが困難な場合もあるので、たとえば三角柱や六角中のような多角柱の形状をした内実部を形成してもよい。
また、吐出ヘッドの吐出口形状は、上記実施例のように円形に限られるものではなく、たとえば、正方形などの多角形形状を採用することも可能である。
また、第二の実施形態のように、骨格部形成用の吐出ヘッドと、内実部形成用の吐出ヘッドを別体で設ける場合には、ヘッド構造を異なるものにするだけでなく、使用する熱可塑性樹脂を互いに異なるものとしてもよい。たとえば、骨格用と内実部形成用で、異なる色の樹脂を用いてもよく、また、骨格用と内実部形成用で固化した際の弾性係数が異なる樹脂を用いてもよい。
[実施例1]
以下に、具体的に三次元造形物を造形した例として、実施例1乃至実施例4と、参考のための比較例1、比較例2を説明する。
実施例1乃至実施例4と、比較例1、比較例2は、いずれも円形で開口径が0.5mmの吐出口を備えた吐出ヘッドを用いて、図5(a)に示した直方体形状の樹脂部品を作成した。樹脂部品の具体的形状は、LX=80mm、LY=10mm、LZ=2mm、である。
実施例1乃至実施例4では、骨格部を構成する隔壁の幅wを0.5mm、骨格部の1層の厚さtを0.4mm、連続して積層する骨格部の総数を5層、内実部の形状はIx、Iy、Izの順に0.5mm、0.5mm、2.0mmとした。そして、第一の実施形態で説明した三次元造形方法を用いて、樹脂部品を形成した。
比較例1と比較例2は、骨格部と内実部を分けたりせずに、特許文献1に記載されたように、下から順に一層ずつ平面パターンを積層して三次元造形物を形成する方法で樹脂部品を作成した。
実施例1乃至実施例4と、比較例1、比較例2について、樹脂部品を造形した際の造形条件と、曲げ弾性率をまとめて、表1に示す。
表1に示すように、実施例1、実施例3、実施例4、比較例1は、熱可塑性樹脂としてABSすなわちアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体を用いた。また、実施例2と比較例2は、PC/ABSすなわちポリカーボネートとABSのポリマーアロイを用いた。各材料は、直径が1.75mmのフィラメントタイプに加工したものを用い、図1の造形装置を使用した。ノズルのヒータ温度は摂氏230度に制御し、吐出口の大きさはΦ0.5mmの大きさのものを使用した。
実施例1と実施例2は、内実部を形成する際に、ノズル先端が骨格部の隔壁に接触するように位置制御するが、隔壁に対する接触圧力は印加しなかった。また、内実部を形成する際に、溶融樹脂に注入圧力を加圧せずに造形を実施した。
これに対して、実施例3では、隔壁に対するノズル先端の接触圧力と、溶融樹脂の注入圧力とが、共に3MPaになるように制御して造形した。
実施例4では、隔壁に対するノズル先端の接触圧力を3MPa付加し、溶融樹脂の注入圧力を5MPa付加して造形した。
造形した部材の強度を評価するため、曲げ弾性率の測定を行った。測定は株式会社島津製作所製の卓上形精密万能試験機を用い実施した。
表1に示すように実施例1及至実施例4の樹脂部材は、比較例1と比較例2の樹脂部材と比べて、高い曲げ弾性率が確保されていた。
また、同じABS材料を用いながら、注入圧力を付加しなかった実施例1に比べて、注入圧力を付加した実施例3と実施例4の方が、曲げ弾性率の数値が向上しており、高い構造強度を達成した。これは、注入圧力と接触圧力を付加したことにより、骨格部の凹部の隅々にまで内実部の樹脂が入り込み、構造体としての強度が向上したと考えられる。
尚、実施例4は、実施例3よりも高い注入圧力を印加したにもかかわらず、実施例3と曲げ弾性率にほとんど差がなかったが、ひとつには、骨格部の凹部に充填するのには、3MPaで、すでに十分であったことが考えられる。ただし、実施例4では、接触圧力よりも注入圧力が上回っていたため、吐出ヘッドと隔壁の接触部から若干の樹脂の流出が発生した可能性もあり、高い注入圧力が実効的に付加されず実施例3の曲げ弾性率と差がなかったとも考えられる。したがって、骨格部の隔壁の幅wをより大きくして、隔壁の構造強度を強化した上で、接触圧力を5MPaまで上げれば、蓋としての密閉性が向上し、注入圧力を5MPaにすれば、さらに強度を向上させられる可能性がある。すなわち、蓋としての密閉性を確保するために、接触圧力は、隔壁を変形させない程度に抑制する必要はあるものの、溶融樹脂の漏れを防止するためには、接触圧力は注入圧力以上であることが望ましい。
以上、表1に示したように、比較例に対し、本発明の熱溶融積層造形法を用いて製造された造形物は、高い構造強度を有することが確認された。尚、実施例と比較例の部品の形状は、開口径が同一の吐出ノズルを用いているため、ほぼ同一の形状精度であった。
[実施例2]
第二の実施形態で説明した三次元造形方法にもとづいて、樹脂部品を造形した実施例5、実施例6を説明する。
実施例5、実施例6は、図12に示した三次元造形装置を用いて、図5(a)に示した直方体形状の樹脂部品を作成した。樹脂部品の具体的形状は、LX=80mm、LY=10mm、LZ=2mm、である。
実施例5、実施例6では、骨格部を構成する隔壁の幅wを0.5mm、骨格部の1層の厚さtを0.4mm、連続して積層する骨格部の総数を5層、内実部の形状はIx、Iy、Izの順に1.5mm、1.5mm、2.0mmとした。
実施例5、実施例6について、樹脂部品を造形した際の造形条件と、曲げ弾性率をまとめて、表2に示す。
実施例5、実施例6は、ともに熱可塑性樹脂として、ABSすなわちアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体を用いた。材料は、直径が1.75mmのフィラメントタイプに加工したものを用いた。
実施例5、実施例6では、表2における第一のノズルと第二のノズルを、それぞれ骨格部形成用ノズルと内実部形成用ノズルとして用いた。第一のノズルも、第二のノズルも、内蔵するヒータの温度は摂氏230度に制御した。
実施例5では、第一のノズルとして、吐出口がΦ0.5mmの円形のものを使用し、第二のノズルとして、吐出口がΦ1.5mmの円形のものを使用した。
実施例6では、第一のノズルとして、吐出口がΦ0.5mmの円形のものを使用し、第二のノズルとして、吐出口が1.5mm×1.5mmの正方形形状のものを使用した。
実施例5と実施例6では、内実部を形成する際の吐出ヘッドの骨格部に対する接触圧力と、溶融樹脂の注入圧力として、共に3MPaを付加して造形した。
表2に示すように、実施例5と実施例6の樹脂部品は、同じ樹脂材料を用いて造形した比較例1の樹脂部品と比べて、大きな曲げ弾性率を有しており、高い構造強度を達成していた。
また、実施例5と実施例6では、内実部の一区画のサイズを大きくし、大きな吐出口を備えた吐出ヘッドで区画を充填して内実部を形成したため、実施例1乃至実施例4と比較して、三次元造形に要する時間を短縮することが可能であった。
[第三の実施形態]
本発明の第三の実施形態に係る三次元造形装置の構成と、三次元造形方法を順に説明する。
[装置構成]
図14は、本発明の第三の実施形態にかかる三次元造形装置を、模式的に示す斜視図である。
201は造形材、202は材料導入部、203は加熱部、204は吐出ノズル、205は吐出口、206は吐出ヘッド、207は温度センサ、208は赤外温度センサ、209は溶融樹脂、210はリール、211はステージ、212は振動子である。また、213はステージ移動装置、214は吐出ヘッド移動装置、215は制御部、216はコンピュータ、217は三次元造形物である。
造形材201は、三次元造形に用いる原材料である。本実施形態では、熱可塑性樹脂をフィラメントに成形したものを用いるが、ペレットや粉末等の他の形体の材料を用いることもできる。
造形材201として用いるフィラメントは、たとえば、断面形状が円形で、直径が1.5〜3.0mmで、長さが10〜1000mのものが、好適である。造形材201は、リール210に巻き取られて収納されている。リール210を図中矢印の方向に回転することにより、造形材201を材料導入部202に供給することができる。
また、本実施形態で用いられ得る熱可塑性樹脂は、例えば、PC(ポリカーボネート)樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂、PC/ABSポリマーアロイがある。さらには、PLA(ポリ乳酸)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、PEI(ポリエーテルイミド)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、およびこれらを改質した樹脂等が挙げられる。
吐出ヘッド206は、造形材201である熱可塑性樹脂を加熱して溶融し、その粘度を制御しつつ柱状の溶融樹脂209として吐出させるヘッドである。吐出ヘッド206は、材料導入部202、加熱部203、吐出ノズル204、吐出口205、温度センサ207を含んでいる。
材料導入部は、造形材を吐出ヘッドに導入する部分であるが、その構成の一例を図2に示す。図2において、21と22はローラである。造形材1は、ローラ21とローラ22に挟持されており、各ローラが図中矢印の方向に回転することにより、リール210からフィラメントを引込み、加熱部203に送り込むことができる。制御部215がローラの回転速度を制御することで、加熱部203への造形材の供給量を調整することができる。
加熱部203は、材料導入部202から供給される熱可塑性樹脂を加熱して溶融させる。加熱部203は、不図示のヒータを備えており、ヒータの発熱量を制御することで、溶融した樹脂の温度を調整することができる。後述するように、溶融した樹脂の粘度は温度に依存して変化するため、溶融した樹脂の温度を調整することにより、その粘度を制御することができる。
溶融状態となった熱可塑性樹脂は、後続の材料に押出されることにより、吐出ノズル204に送り込まれる。吐出ノズル204は、所定形状の吐出口205と、温度センサ207を備えている。溶融状態となった熱可塑性樹脂は、吐出口205から溶融樹脂209として、図中のZ方向に対して逆方向に吐出される。
なお、吐出口205の開口は、たとえば円形にすればよいが、吐出する熱可塑性樹脂の粘度によって開口の大きさや形状を変更できるように、開口形状可変機構を設けるのが望ましい。
吐出口205から吐出された溶融樹脂209は、柱状の粘性流体として、鉛直方向すなわちステージ211の方向に進行する。三次元造形物217の第一層目を形成するステップでは、溶融樹脂209はステージ211の表面に着接するが、第二層目以降を形成する場合には、すでに積層された下層の表面に着接する。どちらの場合であっても、溶融樹脂209は、着接した後に温度がガラス転移点(Tg)以下に降下し、固化する。
温度センサ207は、吐出する熱可塑性樹脂の温度を計測するためのセンサで、吐出ノズル204の内部で、吐出口205の近傍に設置されている。
また、赤外温度センサ208は、吐出された直後の溶融樹脂209の温度を非接触で計測するためのセンサで、吐出ノズル204の外部で、吐出口205の近傍に設置されている。
温度センサ207および赤外温度センサ208は、温度を計測して制御部215に伝達するが、後述するように、計測結果は、溶融樹脂209の粘度を制御するために参照される。
本実施形態では、溶融樹脂209の粘度の制御の信頼性を高くするため、温度センサ207と赤外温度センサ208を用いたが、必ずしも両者が必要であるとは限らず、いずれか一方だけで足りる場合もある。
ステージ211は、三次元造形物を支持するための基台で、振動子212が付設されている。振動子212は、後述するように、低粘度の溶融樹脂を吐出させて造形する時に、ステージ211を振動させるための振動子で、たとえば超音波を発振可能な超音波振動子を用いるが、それ以外のデバイスであってもよい。
ステージ移動装置213は、ステージ211をXYZの3方向に移動させるための機構であり、制御部215の制御の下で動作する。
吐出ヘッド移動装置214は、吐出ヘッド206をXYZの3方向に移動させるための機構であり、制御部215の制御の下で動作する。
尚、三次元造形物を形成する際に、一層を造形するには、吐出ヘッド206とステージ211は、相対的にZ方向の距離を一定にして、XY面内で相対的に走査する動作を行う。また、次の層を形成するには、吐出ヘッド206とステージ211は、相対的にZ方向の距離を一層分増加させてから、XY面内で相対的に走査する動作を行う。例えば、円筒形状の三次元造形物217を造形する場合、溶融樹脂209を吐出させながら、吐出ヘッド206かステージ211のいずれか一方にXY平面内での円運動をさせる。そして、積層数が増加するにしたがって、両者のZ方向の距離が、しだいに大きくなるような運動をさせることになる。
本実施形態では、ステージ移動装置213と吐出ヘッド移動装置214の両方ともXYZの3方向に移動動作可能な機構としたが、上記の動作を行うには必ずしも両方共が3方向に移動動作可能である必要はない。したがって、たとえばステージ移動装置213をXYの2方向に移動させる機構とし、吐出ヘッド移動装置214をZ方向に移動させる機構としてもよい。あるいは、XYZの3方向に移動動作可能な機構として、ステージ移動装置213か吐出ヘッド移動装置214のいずれか一方を設け、他方を設けないようにすることも可能である。
制御部215は、三次元造形装置の各部の動作を制御するための制御回路である。制御部215は、CPU、制御プログラムや制御用数値テーブルを記憶した不揮発性メモリであるROM、演算等に使用する揮発性メモリであるRAM、装置外や装置内各部と通信するためのI/Oポート、等を備えている。なお、ROMには、三次元造形装置の基本動作を制御するためのプログラム、および、各種熱可塑性樹脂についての温度に対する粘度の情報が記憶されている。
コンピュータ216は、記憶装置、演算装置および入出力装置を備えた電子計算機で、三次元形状編集ソフトウェアを実行可能である。コンピュータ216は、造形しようとする三次元モデル情報に基づき、吐出ヘッドで形成するのに適した多層モデルを構築し、各層を順次形成するための指示を制御部215に対して発することができる。
コンピュータ216は、三次元造形装置に内蔵されたコンピュータであってもよいし、ネットワーク等を介して三次元造形装置と接続可能な外部コンピュータであってもよい。
[制御ブロック]
図15に示すのは、装置各部の制御線の接続関係を示す簡易ブロック図である。207は温度センサ、208は赤外温度センサ、213はステージ移動装置、214は吐出ヘッド移動装置、215は制御部、216はコンピュータ、231はローラ駆動部、232はヒータ駆動部、233は振動子駆動部である。
温度センサ207、赤外温度センサ208、ステージ移動装置213、吐出ヘッド移動装置214、制御部215、コンピュータ216については、すでに説明した通りである。
ローラ駆動部231は、吐出ヘッド206の材料導入部2に内蔵されたローラ221およびローラ222を駆動する回路で、制御部215からの駆動指令を受信する回路や、ローラ駆動用モータを動かすドライバ回路等を備えている。
ヒータ駆動部232は、吐出ヘッド206の加熱部203に内蔵されたヒータを駆動する回路で、ヒータ用電源や、通電制御回路、制御部215からの加熱指令を受信する回路等を備えている。
振動子駆動部233は、ステージ211に付設された振動子212を駆動する回路で、圧電素子にパルス電圧を供給する発振回路や、制御部215からの振動指令を受信する回路等を備えている。
[三次元造形プロセス]
次に、本実施形態の三次元造形プロセスについて、順を追って説明する。図16は、本実施形態の三次元造形プロセスの工程順を示すフローチャートである。
まず、工程S11では、造形する三次元モデルの三次元形状データを、コンピュータ216に格納する。三次元形状データは、コンピュータ216が作成したものであってもよいし、CADや三次元形状計測装置が作成したデータを、ネットワークや記憶媒体を介して入力したものであってもよい。三次元形状データ形式は、STEP形式、Parasolid形式、STL形式などが用いられるが、三次元形状をデジタルデータとして表現できるものであれば、その種類は限定されない。
次に、工程S12乃至S13では、複数の層を積層して三次元モデルを形成するときに用いる各層の形状データを、三次元形状データに基づいて、コンピュータ216が作成する。
工程S12では、コンピュータ216は、内蔵する演算装置と三次元形状編集ソフトウェアを用いて、本実施形態の三次元造形装置で積層可能な一層の厚みで三次元モデル形状を分割した1次分割モデルを作成する。
たとえば、図17(a)に示すように、造形しようとする三次元モデルが直方体250であった場合、三次元造形装置で積層可能な一層の厚みtで分割する。説明の便宜のため、ここではN個の層に分割したものとし、下から順に250−1層、250−2層、・・、250−N層と呼ぶことにする。
工程S13では、コンピュータ216は、1次分割モデルの250−1層〜250−N層の各層について、三次元造形物の表面を含む部分と、表面を含む部分に内接する領域とに分割した2次分割モデルを作成する。尚、説明の便宜上、三次元造形物の表面を含む部分を外殻部と呼び、表面を構成する部分に内接する領域を内実部と呼ぶ場合もある。
たとえば、1次分割モデルの2層目である250−2層についてみれば、層の中で外周部は三次元モデルの外側表面を構成するが、それ以外の部分は三次元モデルの表面を構成するわけではない。そこで、図17(b)に示すように、コンピュータ216は250−2層を250−2A層と250−2B層に分割する。
ここで、250−2A層は、三次元モデルの側面つまり外殻部を構成する部分であり、250−2層の外周部分である。250−2A層の幅wは、高粘度の熱可塑性樹脂で描画し得る線幅もしくはその整数倍であり、外殻部の厚さに相当する。また、250−2B層は、三次元モデルの外側表面を含む部分である250−2A層を250−2層から除外した領域であり、言葉を変えれば、250−2A層と接触する領域である内実部である。
工程S14では、コンピュータ216は、工程S13で作成した2次分割モデルを参照しながら、三次元造形装置が三次元モデルを造形するために必要な命令セットを作成し、制御部215に送信する。尚、コンピュータ216が2次分割モデルを制御部215に送信し、制御部215が造形するために必要な命令セットを作成する構成としてもよい。
命令セットは、1層目からN層目までを積層する手順を含むが、先に、三次元造形物の表面を構成する部分を粘度の高い熱可塑性樹脂で形成し、その後、表面を構成する部分に内接する領域を粘度の低い熱可塑性樹脂で形成する命令として構成される。たとえば、1次分割モデルの2層目である250−2層を形成する命令セットは、まず三次元モデルの外側表面を構成する部分である250−2A層を形成し、その後、250−2A層と接触する領域である250−2B層を形成するように構成される。
次に、工程S15では、制御部215は命令セットに従い装置各部を動作させ、たとえば、図18(a)に示すように、三次元造形物の表面を構成する部分を、粘度の高い熱可塑性樹脂で形成する。
制御部215は、ローラ駆動部231を駆動させて適量の未溶融の熱可塑性樹脂フィラメントを加熱部203に供給する。制御部215は、ヒータ駆動部232を駆動させ、熱可塑性樹脂フィラメントを加熱して溶融させる。その際に、温度センサ207の計測値を参照し、熱可塑性樹脂の粘度が1100Pa・S以上で3000Pa・S以下の範囲内に入るように、ヒータ駆動部232をフィードバック制御する。制御部215は、熱可塑性樹脂の温度に対する粘度の情報をあらかじめ記憶しており、温度センサ207の計測値に基づいてヒータ駆動部232の駆動をフィードバック制御することにより、熱可塑性樹脂の温度を制御して所望の粘度に調整することが可能である。
制御部215は、吐出ヘッド206とステージ211を相対的に移動させ、図18(a)に示すように、1100Pa・S以上で3000Pa・S以下の粘度を有する熱可塑性樹脂で、外殻部を形成する。熱可塑性樹脂の粘度が高めに設定されているため、吐出ヘッド206を相対的に走査してパターンを描画する際に、パターンがだれることは少なく、高い形状精度が確保される。熱可塑性樹脂を吐出口205から吐出する間、赤外温度センサ208で吐出した直後の熱可塑性樹脂の温度を計測してヒータ駆動にフィードバックすることにより、制御部215は、高い精度で粘度の制御を行うことが可能である。
図18(a)に示すように、三次元モデルの外側表面を構成する部分について高粘度の熱可塑性樹脂でパターンを形成したら、制御部215は、吐出ヘッド206からの吐出を一旦停止させる。
次に、工程S16では、制御部215は命令セットに従い装置各部を動作させ、たとえば、図19(a)に示すように、三次元造形物の表面を構成する部分と接触する領域を、粘度の低い熱可塑性樹脂で形成する。三次元造形物の表面を構成する部分は、すでに工程S15で形成されているので、それに囲まれた領域に、500Pa・S以上で1000Pa・S以下の粘度を有する熱可塑性樹脂を付与し、内実部を形成する。
制御部215は、ローラ駆動部231を駆動させて適量の未溶融の熱可塑性樹脂フィラメントを加熱部203に供給する。低粘度の熱可塑性樹脂は、高粘度の熱可塑性樹脂に比べて単位時間当たりの吐出量を多くすることが可能なので、工程S16の方が工程S15よりもフィラメントの供給速度を高くすることが可能である。制御部215は、ヒータ駆動部232を駆動させ、熱可塑性樹脂フィラメントを加熱して溶融させる。その際に、温度センサ207の計測値を参照し、熱可塑性樹脂の粘度が500Pa・S以上で1000Pa・S以下の範囲内に入るように、ヒータ駆動部232をフィードバック制御する。
制御部215は、吐出ヘッド206とステージ211を相対的に移動させ、図19(a)に示すように、500Pa・S以上で1000Pa・S以下の粘度を有する熱可塑性樹脂でパターンを形成する。熱可塑性樹脂の粘度が低めに設定されているため、吐出ヘッド206を相対的に走査してパターンを描画する際に、下地に凹凸があったとしても熱可塑性樹脂が入り込みやすく、隙間を生じさせることが極めて少ない。また、粘度が低めに設定されていると、上面の平坦性が高い層が形成されるため、この層の上に更に上層を形成するときに平坦性の高い下地となることができる。このため、層の間の密着性が極めて高く、構造的に強靭な三次元造形物を形成することができる。
熱可塑性樹脂を吐出口205から吐出する間、赤外温度センサ208で吐出した直後の熱可塑性樹脂の温度を計測してヒータ駆動にフィードバックすることにより、制御部215は、高い精度で粘度の制御を行うことが可能である。尚、温度センサ207および赤外温度センサ208のいずれも用いないで、ヒータの電力制御のみで樹脂の粘度を変更することも可能ではあるが、その場合には、投入電力と樹脂粘度の関係をあらかじめ制御部に記憶させておく必要がある。尚、熱可塑性樹脂は、一般には温度が高いほど粘度が低下するので、三次元造形物の表面となる部分を形成する工程における熱可塑性樹脂の温度は、三次元造形物の内実部を形成する工程における熱可塑性樹脂の温度よりも低い。
さらに、本実施形態では、500Pa・S以上で1000Pa・S以下の粘度を有する熱可塑性樹脂でパターンを形成する際に、ステージ211に付設された振動子212を駆動する。これにより、ステージを振動させ、熱可塑性樹脂の流動性を向上させ、下地の凹凸への入り込みを促進させている。振動子212を過度な振幅で駆動すると、形成中の三次元造形物がステージ211から剥離する可能性もあるので、振動子の駆動条件や配置は、適宜調整するのが望ましい。
図19(b)に示すように、かかる工程S15と工程S16により、工程S12で作成した1次分割モデルの1層分の三次元造形が完了する。
工程S17では、制御部215は、N層の1次分割モデルの全層の三次元造形が完了したかを判断し、未完了の場合は工程S15と工程S16を再度行い、完了したら三次元造形を終了する。
本実施形態によれば、三次元造形物の表面となる部分を、1100Pa・S以上で、かつ3000Pa・S以下の、高い粘度の熱可塑性樹脂で形成することにより、三次元造形物の外形表面を高い形状精度で造形することが可能である。
そして、本実施形態によれば、500Pa・S以上で、かつ1000Pa・S以下の、低い粘度の熱可塑性樹脂で、表面となる部分に内接する領域を形成することにより、下層との間に隙間ができるのを抑制することができる。熱可塑性樹脂の粘度が低めに設定されているため、吐出ヘッド206を相対的に走査してパターンを描画する際に、下地に凹凸があったとしても熱可塑性樹脂が入り込みやすく、下層との間に隙間を生じさせることが極めて少ない。また、粘度が低めに設定されていると、上面の平坦性が高い層が形成されるため、この層の上に上層を形成するときに平坦性の高い下地となることができる。このため、層間の密着性が極めて高く、構造的に強靭な三次元造形物を形成することができる。
本実施形態によれば、あらかじめ高い粘度の熱可塑性樹脂で外形表面となる部分を形成した後、それに囲まれた部分を低い粘度の熱可塑性樹脂で形成するため、低い粘度の熱可塑性樹脂がはみ出すことはなく、高い形状精度を達成できる。また、低い粘度の熱可塑性樹脂は、単位時間あたりの吐出量を大きくすることができるので、三次元造形に要する総時間を短縮することができる。
また、本実施形態によれば、低い粘度の熱可塑性樹脂を付与する際に、ステージを振動させることにより、熱可塑性樹脂の流動性が高まり、三次元造形物の内実部に隙間ができるのを効果的に抑制することができる。
[第四の実施形態]
本発明の第四の実施形態に係る三次元造形装置の構成と三次元造形方法を順に説明する。
第三の実施形態の三次元造形装置では、同一の吐出ヘッドを用いて吐出ヘッドの加熱部の温度を変更することで熱可塑性樹脂の粘度を変更し、高い粘度と低い粘度で順次パターンを形成していた。これに対して、第四の実施形態においては、吐出ヘッドを複数設け、ヘッド毎に異なる粘度の熱可塑性樹脂を吐出するように構成している。
[装置構成]
図20は、本発明の第四の実施形態にかかる三次元造形装置を、模式的に示す斜視図である。
211はステージ、212は振動子、213はステージ移動装置、215は制御部、216はコンピュータ、217は三次元造形物であり、これらについては第三の実施形態と同様であるので説明を省略する。
本実施形態では、吐出ヘッド206Aと吐出ヘッド206Bの、2基の吐出ヘッドが設けられている。201Aと201Bは、各吐出ヘッドに供給されるフィラメント状の造形材であり、リールは図示が省略されている。吐出ヘッド206Aが備える202Aは材料導入部、203Aは加熱部、204Aは吐出ノズル、205Aは吐出口、206Aは吐出ヘッド、207Aは温度センサである。同様に、吐出ヘッド206Bが備える202Bは材料導入部、203Bは加熱部、204Bは吐出ノズル、205Bは吐出口、206Bは吐出ヘッド、207Bは温度センサである。
吐出ヘッド206Aは、高い粘度すなわち1100Pa・S以上で、かつ3000Pa・S以下の粘度で熱可塑性樹脂を吐出口から吐出し、三次元造形物の表面を含む外殻部を形成するための吐出ヘッドである。
吐出ヘッド206Bは、低い粘度すなわち500Pa・S以上で、かつ1000Pa・S以下の粘度で吐出口から吐出し、三次元造形物の内実部を形成するための吐出ヘッドである。
吐出ヘッド206Aと吐出ヘッド206Bは、制御部215により互いに独立に制御され、吐出ヘッド移動装置214Aと吐出ヘッド移動装置214Bにより、互いに独立に移動可能である。
[制御ブロック]
第三の実施形態では、図15に示したように、1基の吐出ヘッドを制御するために、温度センサ207、ローラ駆動部231、ヒータ駆動部232、吐出ヘッド移動装置214が制御部215と接続されていた。本実施形態においては、図示を省略するが、制御部215は、吐出ヘッド206Aと吐出ヘッド206Bそれぞれが備える温度センサ、ローラ駆動部、ヒータ駆動部、吐出ヘッド移動装置と接続され、吐出ヘッド206Aと吐出ヘッド206Bを独立に制御する。
[三次元造形プロセス]
本実施形態においても、図16のフローチャートにしたがって、三次元造形プロセスを実行する。ただし、第三の実施形態の三次元形成装置においては、工程S15と工程S16を実行する際に、単一の吐出ヘッドで加熱部203の温度を変更することで熱可塑性樹脂の粘度を制御していた。このため、高い粘度と低い粘度を交互に切り替えて外殻部と内実部を交互に形成する際に、粘度の変更と安定化に時間がかかる場合があった。
これに対して、本実施形態の装置では、吐出ヘッド206Aの加熱部は、高い粘度すなわち1100Pa・S以上で、かつ3000Pa・S以下になるよう、常に熱可塑性樹脂の温度を制御している。同様に、吐出ヘッド206Bは、低い粘度すなわち500Pa・S以上で、かつ1000Pa・S以下になるよう、常に熱可塑性樹脂の温度を制御している。
したがって、吐出ヘッド206Aと吐出ヘッド206Bを備える本実施形態の装置では、外殻部と内実部を交互に形成する際に、吐出ヘッドを切替えて使用することにより、粘度を変更するための待ち時間が不要となり、次々と層を形成することが可能である。
また、本実施形態では、外殻部と内実部を別種の熱可塑性樹脂で形成することも可能であり、たとえば外殻部と内実部を異なる色や光沢を有する材料で形成することも可能である。
本実施形態においても第三の実施形態と同様に、三次元造形物の表面となる部分を、1100Pa・S以上で、かつ3000Pa・S以下の高い粘度の熱可塑性樹脂で形成することにより、三次元造形物の外形表面を高い形状精度で造形することが可能である。
そして、本実施形態においても、500Pa・S以上で、かつ1000Pa・S以下の低い粘度の熱可塑性樹脂で、表面となる部分に内接する領域を形成することにより、下層との間に隙間ができるのを抑制することができる。熱可塑性樹脂の粘度が低めに設定されているため、吐出ヘッド206を相対的に走査して内実部を形成する際に、下地に凹凸があったとしても熱可塑性樹脂が入り込みやすく、下層との間に隙間を生じさせることが極めて少ない。また、粘度が低めに設定されていると、上面の平坦性が高い層が形成されるため、この層の上に更に上層を形成するときに平坦性の高い下地となることができる。このため、層間の密着性が極めて高く、構造的に強靭な三次元造形物を形成することができる。
本実施形態においても、あらかじめ高い粘度の熱可塑性樹脂で外形表面となる部分を形成した後、それに囲まれた部分を低い粘度の熱可塑性樹脂で形成するため、低い粘度の熱可塑性樹脂がはみ出すことはなく、高い形状精度を達成できる。また、低い粘度の熱可塑性樹脂は、単位時間あたりの吐出量を大きくすることができるので、三次元造形に要する総時間を短縮することができる。
また、本実施形態においても、低い粘度の熱可塑性樹脂を付与する際に、ステージを振動させることにより、熱可塑性樹脂の流動性が高まり、三次元造形物の内実部に隙間ができるのを効果的に抑制することができる。
尚、図20では2基の吐出ヘッドを備えた装置を示したが、装置が備える吐出ヘッドの数はこれに限られたものではなく、より多数の吐出ヘッドを備えた三次元造形装置であってもよい。
[第五の実施形態]
第三の実施形態および第四の実施形態では、図18と図19で説明したように、1次分割モデルの下層から上層に向かって、各層毎に外殻部を形成し、続いて内実部を形成した。
これに対して、第五の実施形態は、三次元造形物の表面を含む部分、つまり外殻部を複数層積層してから、表面を含む部分に内接する領域、つまり内実部を形成する点が異なる。
尚、本実施形態においても、三次元造形物の外殻部は1100Pa・S以上かつ3000Pa・S以下の粘度の熱可塑性樹脂で形成する。また、内実部は500Pa・S以上かつ1000Pa・S以下の粘度の熱可塑性樹脂で形成する。以下、第三の実施形態および第四の実施形態と比較しながら、違いを説明する。
図21(a)は第三の実施形態および第四の実施形態で説明した形成手順を例示する断面図で、図21(b)は第五の実施形態の形成手順を例示する断面図である。
図21(a)では、ステージ211上に、1層目の外殻部250−1A、1層目の内実部250−1B、2層目の外殻部250−2Aの順に形成が完了しており、2層目の内実部である250−2Bを吐出ヘッド206が形成している状況を示している。すでに説明したように、内実部は外殻部と比較して低粘度の熱可塑性樹脂で形成するため、下地との境界部Gに隙間ができるのを抑制できる。また、低粘度の熱可塑性樹脂で形成するため、上面Uの平坦性が向上する。振動子12を用いてステージ211を適度な強度で振動させることにより、これらの効果は、強調される。
一方、図21(b)では、ステージ211上に、1層目の外殻部250−1A、2層目の外殻部250−2Aの順に形成が完了した後、2層分の内実部を吐出ヘッド206が形成している状況を示している。本実施形態においては、内実部の250−1Bと250−2Bを別途形成するのではなく、同時に形成するので、2層の間に隙間が生じるようなことはない。本実施形態においても、内実部は外殻部と比較して低粘度の熱可塑性樹脂で形成するため、上面の平坦性が向上する。そして、内実部は、3層目以上も低粘度の熱可塑性樹脂で形成するため、層の境界に隙間ができるのを抑制できる。
尚、以上に説明した第五の実施形態の形成手順は、図14に示した単一の吐出ヘッドを備えた装置でも、図20に示した複数の吐出ヘッドを備えた装置でも、実施することが可能である。ただし、2層分の内実部を短時間に形成するため、低粘度の熱可塑性樹脂を吐出する際の吐出ヘッドの吐出口形状は、高粘度の熱可塑性樹脂を吐出して外殻部を形成する際の吐出口形状と比較して、面積を大きくすることが望ましい。
尚、図21(b)の例では、外殻部を2層形成してから、2層分の内実部を一度に形成したが、層数はこの例に限られたものではなく、たとえば外殻部を3層形成してから、内実部を形成してもよい。
また、本実施形態においても、低粘度の熱可塑性樹脂で内実部を形成する際に、振動子を用いてステージを適度な強度で振動させることは、有効である。
[第六の実施形態]
三次元造形物の外側表面のうち、高粘度の熱可塑性樹脂で形成するのは、側面だけでもよいが、形状精度を確保する上では、上下の表面も高粘度の熱可塑性樹脂で形成するのが好ましい。
第六の実施形態では、三次元造形物の全ての外側表面を、高粘度の熱可塑性樹脂で形成する。
図22(a)に示すのは、三次元造形モデルの一例で、図16のフローチャートの工程S12で、三次元造形モデルを300−1,300−2,300−3,300−4,300−5の5つの1次分割モデルに分割する時の分割面を、点線で示している。
そして、図22(b)は、工程S13で形成した8個の2次分割モデルを示している。図中、番号の末尾にAが付いているのは、三次元造形物の表面を含む部分、すなわち外殻部を構成する層で、1100Pa・S以上で3000Pa・S以下の粘度の熱可塑性樹脂で形成する部分である。また、番号の末尾にBが付いているのは、三次元造形物の表面を含む部分に内接する領域、すなわち内実部を構成する層で、500Pa・S以上で1000Pa・S以下の粘度を有する熱可塑性樹脂で形成する部分である。
300−1A,300−2A,300−2B,300−3A,300−3B,300−4A,300−4B,300−5Aの順番で、層を積層し、三次元造形物を形成する。
造形は、第三の実施形態で説明した図14の三次元造形装置でも、第四の実施形態で説明した図20の三次元造形装置でも、あるいはそれ以外の装置で行っても差し支えない。
本実施形態によれば、三次元造形物の側面だけでなく、底面および上面の一方または両方を1100Pa・S以上で3000Pa・S以下の、高い粘度の熱可塑性樹脂で形成する。このため、外形形状の精度を高くすることができ、各表面の状態にばらつきが少なく均一な外観とすることができる。
[実施例7]
図14の三次元造形装置を使用して、造形した実施例を説明する。
造形材201の材料として、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂である、ユーエムジー・エービーエス株式会社製の3001Mを用いた。
前記材料を、不図示の株式会社プラスチック工学研究所製の単軸押出機UT−25−TLを用い、スクリュー回転数が50rpm、シリンダ温度が193℃、樹脂圧力が7.9MPaにて、円形断面(φ1.75mm)、長さ約100mのフィラメントに成形した。
図14に示すコンピュータ216は、日本電気株式会社製のPC−MY30XEZE3を用いた。そして、前記コンピュータ上で用いる三次元形状編集ソフトウェアは、KISSlicer Ver.1.1.0を、制御ソフトウェアは、ARDUINO Ver.1.0.6を用いた。
図14に示す温度センサ207には、理化工業株式会社製の高温対応バイヨネット型シース熱電対であるT−212SHを用いた。
図23に本実施例で作成する三次元モデル310の形状を示す。なお、三次元モデル310の形状は、JIS K 7171「プラスチック−曲げ特性の求め方」における、「6.1.2 推奨試験片」に記載の形状(長さ:80.0±2.0mm、幅:10.0±0.2mm、厚さ:4.0±0.2mm)と同一である。
まず、実施例7においては、使用するABS樹脂の温度(℃)と粘度(Pa・S)の関係を求めた。測定方法は、JIS K 7199「プラスチック−キャピラリーレオメータ及びスリットダイレオメータによるプラスチックの流れ特性試験方法」に準拠して行った。なお、測定時のせん断速度は、100[1/s]とした。測定結果を図24に示す。
次に図14の三次元造形装置を使用して、図23に示す三次元モデル310の造形を行った。外殻部及び内実部を、熱可塑性樹脂の粘度の組み合わせを変えて形成し、三次元造形物の強度を確認した。
外殻部及び内実部を造形する樹脂の粘度は、図24に示したABS樹脂の材料温度(℃)と粘度(Pa・S)の関係から設定し、温度センサ207および赤外温度センサ208で溶融樹脂209の温度を測定し、加熱部203をフィードバック制御した。
設定値を表3に示す。
三次元モデル310は高さ4.0mmを16層に分割し、単位層の高さを0.25mmとした。吐出口205の径を調節し、外殻部を造形する際は、押出して積層した樹脂が、高さ0.25mm、幅0.5mmとなるように設定した。
まず溶融樹脂209の粘度が1100Pa・Sになるように加熱部203の温度を調節し、80mm×10mmの外殻部を造形した。次に加熱部203の温度を上げて、溶融樹脂209の粘度が500Pa・Sとなるように調節し、外殻部の内側に内実部を形成した。内実部の形成は、押出した溶融樹脂209がつづら折り状に隙間なく造形され、外殻部の枠内を充填させて単位層を形成するよう吐出ヘッドを相対走査した。引き続き、再び溶融樹脂209の粘度が1100Pa・Sになるように加熱部203の温度を下げて調節し、前記外殻部に重ねて2層目の外殻部を造形した。次に再び加熱部203の温度を上げて、溶融樹脂209の粘度が500Pa・Sとなるように調節し、外殻部の内側に内実部をつづら折り状に造形し、枠内を充填させ2層目の単位層を形成した。
以下同様にして単位層を16層目まで積層し、三次元造形物を得た。得られた三次元造形物は、図23に示す寸法公差を満たしていた。
また、曲げ弾性率の測定は、JIS K 7171「プラスチック−曲げ特性の求め方」に準拠し、試験機には、株式会社島津製作所製卓上形精密万能試験機、オートグラフAGS−Xを用いた。
以下同様にして、外殻部を造形する粘度と内実部を造形する粘度を変更しながら三次元造形物を形成し、形状精度と強度が確保される条件を求めた。得られた結果を表4に示す。
表4において、粘度の単位はPa・Sで、表中の数値は曲げ弾性率(GPa)を示している。また「F」は、外形形状が乱れて寸法公差を満たしていない、または角部の曲率半径が大きくて寸法公差を満たしていない等の形状不良を示している。
外殻部粘度が1000Pa・Sの場合、流動性が大きいため外殻部形状が崩れて、寸法公差から外れた。また外殻部粘度が3500Pa・Sの場合、流動性が小さいため角部形状を正確に造形できず、寸法公差から外れた。
内実部粘度が、500〜1000Pa・Sの範囲では、曲げ弾性率は1.69〜1.87GPaと安定しているが、400Pa・Sでは樹脂温度が高すぎるために樹脂の熱劣化が顕著になり、曲げ弾性率は1.35GPa以下に低下した。また内実部粘度が1100Pa・Sでは流動性が低下して隙間が発生し、曲げ弾性率は1.23GPa以下に低下した。
以上のように、三次元造形物の外殻部を造形する樹脂材料の押出し時粘度が1100Pa・S以上3000Pa・S以下で、内実部を造形する樹脂材料の押し出し時粘度が500Pa・S以上1000Pa・S以下の場合に、好適な結果が得られた。
[実施例8]
図21(b)を用いて説明した第五の実施形態の実施例を説明する。
実施例7と同じ三次元造形装置を使用し、同じ素材を用いた。使用する樹脂の材料温度(℃)と粘度(Pa・S)の関係は、表3を使用した。
三次元モデル310は高さ4.0mmを16層に分割し、単位層の高さを0.25mmとした。吐出口5の径を調節し、外殻部を造形する際は、押し出して積層した樹脂が、高さ0.25mm、幅0.5mmとなるように設定した。
まず溶融樹脂209の粘度が1100Pa・Sになるように加熱部203の温度を調節し、80mm×10mmの外殻部を造形した。続けて前記外殻部の上に重ねて2層目の外殻部を造形した。次に加熱部203の温度を上げて、溶融樹脂209の粘度が500Pa・Sとなるように調節し、2層積んだ外殻部の内側に2層分の内実部を連続して造形した。該内実部の造形は、押出した溶融樹脂209がつづら折り状に隙間なく造形され、外殻部の枠内を充填するよう吐出ヘッドを相対走査させた。
引き続き、再び溶融樹脂209の粘度が1100Pa・Sになるように加熱部203の温度を下げて調節し、前記外殻部に重ねて3層目と4層目の外殻部を造形した。次に再び加熱部203の温度を上げて、溶融樹脂209の粘度が500Pa・Sとなるように調節し、外殻部の内側に2層分の内実部を連続してつづら折り状に造形し、枠内を充填させた。以下同様にして最上層まで積層し、三次元造形物を得た。得られた三次元造形物は、図23に示す寸法公差を満たしていた。
外殻部及び内実部を、熱可塑性樹脂の粘度の組み合わせを変えて形成し、三次元造形物の形状精度と強度を確認した。尚、曲げ弾性率の測定は、実施例7と同様の方法で行った。得られた結果を表5に示す。
表5において、粘度の単位はPa・Sで、表中の数値は曲げ弾性率(GPa)を示している。また「F」は、外形形状が乱れて寸法公差を満たしていないか、または角部の曲率半径が大きくて寸法公差を満たしていない等の形状不良を示している。
実施例8も実施例7と同様に、外殻部を造形する樹脂材料の押し出し時粘度が1100Pa・S以上3000Pa・S以下であり、内実部を造形する樹脂材料の押し出し時粘度が500Pa・S以上1000Pa・S以下の場合に、好適な結果が得られた。
[実施例9]
図22(a)、図22(b)を用いて説明した第六の実施形態の実施例を説明する。
実施例7と同じ三次元造形装置を使用し、同じ素材を用いた。使用する樹脂の材料温度(℃)と粘度(Pa・S)の関係は、表3を使用した。
実施例7と同じ三次元モデルを形成したが、実施例7と異なり、第1層目と第16層目は、粘度が1100Pa・Sになるように加熱部203の温度を調節して形成した。2層目から15層目までは、実施例7と同じ条件で形成した。
得られた三次元造形物は、図23に示す寸法公差を満たしていた。また得られた三次元造形物は、どの外表面も同じ表面状態を有し、均一な外観を有していた。
[実施例10]
実施例10は、外殻部内側に内実部をつづら折り状に造形する際に、振動子212によりステージ211を振動させた点が、実施例7と相違する。振動子212の振動条件は、振幅2mm、周波数20Hz及び240Hzとした。その他の条件は実施例7と共通である。
周波数20Hzの場合の結果を表6、周波数240Hzの場合の結果を表7に示す。表において、粘度の単位はPa・Sで、表中の数値は曲げ弾性率(GPa)を示している。また「F」は、外形形状が乱れて寸法公差を満たしていないか、または角部の曲率半径が大きくて寸法公差を満たしていない等の形状不良を示している。
内実部を形成する熱可塑性樹脂の粘度が500〜1000Pa・Sの範囲では、周波数20Hzの場合及び240Hzの場合、ともに実施例7に比べて曲げ弾性率が上昇した。振動によって、樹脂の充填性が向上したと考えられる。しかし内実部粘度が400Pa・Sの場合、樹脂の熱劣化が顕著になるため、効果が見られなかった。また内実部を形成する熱可塑性樹脂の粘度が1100Pa・Sの場合、流動性が低く、振動の効果が見られなかった。
周波数が20Hz、240Hzのとき内実部を形成する熱可塑性樹脂の粘度が、500〜1000Pa・Sの範囲で曲げ弾性率は夫々、1.83〜1.90GPa、1.84〜1.95GPaとなり安定していた。特に内実部を形成する熱可塑性樹脂の粘度が、900〜1000Pa・Sの範囲で、曲げ弾性率の顕著な向上が見られた。一方、内実部を形成する熱可塑性樹脂の粘度が、400Pa・Sと1100Pa・Sの時は、振動による効果が見られなかった。
[実施例11]
実施例10における振動子212の振動条件を、振幅を0.5〜6mmの範囲で変更して造形を行った。周波数20Hz、外殻部を形成する樹脂の粘度は2000Pa・Sとし、内実部を形成する樹脂の粘度は400〜1100Pa・Sとした。
得られた結果を表8に示す。表において、粘度の単位はPa・Sで、表中の数値は曲げ弾性率(GPa)を示している。また「F」は、外形形状が乱れて寸法公差を満たしていないか、または角部の曲率半径が大きくて寸法公差を満たしていない等の形状不良を示している。また、「S」は、造形物がステージから剥離したことを示している。
振幅が0.5mm〜5mmの範囲において、実施例7に比べて曲げ弾性率が同等または増加しているが、振幅が6mmの時は、造形物がステージ211から剥離した。
[実施例12]
実施例12では、実施例7とは異なる熱可塑性樹脂を用い、図20の三次元造形装置を使用して三次元造形物を形成した。実施例12では、熱可塑性樹脂として、PC/ABSポリマーアロイであるバイエル社製T65を用いた。
前記素材を、不図示の株式会社プラスチック工学研究所製の単軸押出機UT−25−TLを用い、スクリュー回転数が50rpm、シリンダ温度が212℃、樹脂圧力が5.1MPaにて、円形断面(φ1.75mm)、長さ約100mのフィラメントに成形した。
実施例12においても、使用するABS樹脂の材料温度(℃)と粘度(Pa・S)の関係を求めた。測定方法は、JIS K 7199「プラスチック−キャピラリーレオメータ及びスリットダイレオメータによるプラスチックの流れ特性試験方法」に準拠して取得した。なお、測定時のせん断速度は、100[1/s]とした。測定結果を図25に示す。
次に図20の三次元造形装置を使用して、図23に示す三次元モデル310の造形を行った。吐出ヘッド206Aを使用して外殻部を造形し、吐出ヘッド206Bを使用して内実部を造形した。三次元造形モデルの形状は、実施例7と同様である。
外殻部及び内実部を、熱可塑性樹脂の粘度の組み合わせを変えて形成し、三次元造形物の形状精度と強度を確認した。
外殻部及び内実部を造形する樹脂の粘度は、図25に示した樹脂PC/ABSの材料温度(℃)と粘度(Pa・S)の関係から設定した。温度センサ207A、温度センサ207Bで各々の吐出ヘッドの溶融樹脂の温度を測定し、加熱部203Aと加熱部203Bをフィードバック制御した。設定値を表9に示す。
三次元モデル310は高さ4.0mmを16層に分割し、単位層の高さを0.25mmとした。吐出口205Aの径を調節し、外殻部を造形する際は、押し出して積層した樹脂が、高さ0.25mm、幅0.5mmとなるように設定した。
まず溶融樹脂の粘度が1100Pa・Sになるように加熱部203Aの温度を調節した吐出ヘッド206Aで、80mm×10mmの外殻部を造形した。次に、溶融樹脂の粘度が500Pa・Sとなるように加熱部203Bの温度を調節した吐出ヘッド206Bで、外殻部の内側に内実部をつづら折り状に造形し、枠内を充填させ単位層を形成した。
以下同様にして単位層を16層まで積層し、三次元造形物を得た。得られた三次元造形物は、図23に示す寸法公差を満たしていた。曲げ弾性率の測定は、実施例7と同様の方法で行った。
そして、外殻部を造形する粘度と内実部を造形する粘度を変更しながら三次元造形物を形成して、形状精度と強度が確保される条件を求めた。得られた結果を表10に示す。
表10において、粘度の単位はPa・Sで、表中の数値は曲げ弾性率(GPa)を示している。また「F」は、外形形状が乱れて寸法公差を満たしていない、または角部の曲率半径が大きくて寸法公差を満たしていない等の形状不良を示している。
表10の結果から、外殻部を形成する熱可塑性樹脂の粘度が1000Pa・Sの場合、流動性が大きいため外殻部形状が崩れて、寸法公差から外れた。また外殻部を形成する熱可塑性樹脂の粘度が3500Pa・Sの場合、流動性が小さいため角部形状を正確に造形できず、寸法公差から外れた。
内実部を形成する熱可塑性樹脂の粘度が、500〜1000Pa・Sの範囲では、曲げ弾性率は2.06〜2.25GPaであった。400Pa・Sでは樹脂温度が高すぎるために樹脂の熱劣化が顕著になり、曲げ弾性率は1.6GPa前後に低下した。また内実部を形成する熱可塑性樹脂の粘度が1100Pa・Sでは、流動性が低下して隙間が発生し、曲げ弾性率は1.5GPa前後に低下した。
[実施例13]
前記実施例12の改良事例を、実施例13として説明する。実施例13では、外殻部の内側に内実部をつづら折り状に造形する際に、振動子212によりステージ211を振動させた。振動子212の振動条件は、振幅2mm、周波数20Hz及び240Hzとした。その他の条件は実施例12と共通とした。
周波数20Hzの場合の結果を表11、周波数240Hzの場合の結果を表12に示す。
表11および表12において、数値は曲げ弾性率(GPa)を示している。また「F」は、外形形状が乱れて寸法公差を満たしていない、または角部の曲率半径が大きくて寸法公差を満たしていない等の形状不良を示している。
表11および表12の結果から、いずれの場合でも外殻部を形成する熱可塑性樹脂の粘度が1000Pa・Sの場合、流動性が大きいため外殻部形状が崩れて、寸法公差から外れた。また外殻部を形成する熱可塑性樹脂の粘度が3500Pa・Sの場合、流動性が小さいため角部形状を正確に造形できず、寸法公差から外れた。
内実部を形成する熱可塑性樹脂の粘度が、500〜1000Pa・Sの範囲では、振動子212の振動が20Hzの場合は、2.20〜2.26GPaであった。振動子212の振動が240Hzの場合は、2.20〜2.27GPaであった。400Pa・Sでは樹脂温度が高すぎるために樹脂の熱劣化が顕著になり、曲げ弾性率は1.6GPa前後に低下した。また内実部を形成する熱可塑性樹脂の粘度が1100Pa・Sでは流動性が低下して隙間が発生し、曲げ弾性率は1.5GPa前後に低下した。
振動子212の振動の周波数が20Hz、240Hzともに特に内実部を形成する熱可塑性樹脂の粘度が、900〜1000Pa・Sの範囲で曲げ弾性率の顕著な向上が見られた。
一方、内実部を形成する熱可塑性樹脂の粘度が、400Pa・Sと1100Pa・Sの時は、振動による効果が見られなかった。
[実施例14]
実施例14として、図20の三次元造形装置を用い、吐出ヘッド206Aと吐出ヘッド206Bに別種の熱可塑性樹脂を供給し、三次元造形を行った例を示す。
造形材201Aには、PC/ABSポリマーアロイであるバイエル社製T65を、造形材1Bには、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂であるユーエムジー・エービーエス株式会社製3001Mを使用して三次元造形を行った。
まず、造形材201Aの粘度が1100Pa・Sになるように、加熱部203Aの温度を調節した吐出ヘッド206Aで、80mm×10mmの外殻部を造形した。次に、造形材201Bの粘度が500Pa・Sとなるように加熱部203Bの温度を調節した吐出ヘッド206Bで、外殻部の内側に内実部をつづら折り状に造形し、枠内を充填させ単位層を形成した。
引き続き、同様にして単位層を最上層まで積層し、三次元造形物を得た。得られた三次元造形物は、図16に示す寸法公差を満たしていた。
そして、外殻部を造形する粘度と内実部を造形する粘度を変更しながら三次元造形物を形成して、形状精度と強度が確保される条件を求めた。得られた結果を表13に示す。
表13において、数値は曲げ弾性率(GPa)を示している。また「F」は、外形形状が乱れて寸法公差を満たしていない、または角部の曲率半径が大きくて寸法公差を満たしていない等の形状不良を示している。
表13の結果から、いずれの場合でも外殻部粘度が1000Pa・Sの場合、流動性が大きいため外殻部形状が崩れて、寸法公差から外れた。また外殻部粘度が3500Pa・Sの場合、流動性が小さいため角部形状を正確に造形できず、寸法公差から外れた。
内実部粘度が、500〜1000Pa・Sの範囲では、曲げ弾性率は1.80〜1.95GPaであった。400Pa・Sでは樹脂温度が高すぎるために樹脂の熱劣化が顕著になり、曲げ弾性率は1.4GPa前後に低下した。また内実部粘度が1100Pa・Sでは流動性が低下して隙間が発生し、曲げ弾性率は1.3GPa前後に低下した。
以上の実施例が示すように、三次元造形物の外殻部を形成する樹脂材料の吐出時の粘度が1100Pa・S以上3000Pa・S以下であり、内実部を形成する樹脂材料の吐出時の粘度が500Pa・S以上1000Pa・S以下であることが好適である。
また、内実部を造形する際に造形ステージを振動させることが望ましい。振動の振幅は、形成する造形物に応じて適切な大きさを設定するのが望ましい。
また、外殻部を複数層形成してから内実部を形成する工程を繰り返しても、同様の結果が得られた。
吐出時の粘度が1100Pa・S以上3000Pa・S以下の熱可塑性樹脂で、三次元造形物の全表面を形成すれば、均一な外観の造形物が得られるという利点がある。
また、吐出ヘッドを複数設けて異なる粘度の樹脂を吐出できるようにすれば、粘度を変更するために樹脂の温度を変更する必要が無くなり、単一の吐出ヘッドを用いる場合と比較して、造形に要する時間が短縮された。また、2系統から別々の材料を吐出することにより、外殻部と内実部を異なる材料で形成することが可能である。