JP2018076523A - 脂肪族カルボン酸の存在下でセルロースエーテルのエステルを調製する方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】それぞれ、同一のエーテル置換基及びエステル置換基を有するが異なる重量平均分子量を有する、セルロースエーテルの二つ以上のエステルを調製する方法の提供。
【解決手段】それぞれ、同一のエーテル置換基及びエステル置換基を有するが異なる重量平均分子量を有する、セルロースエーテルの二つ以上のエステルが、(i)脂肪族無水モノカルボン酸、又は(ii)無水ジカルボン酸、又は(iii)脂肪族無水モノカルボン酸と無水ジカルボン酸との組合せを用いて、反応希釈剤としての脂肪族カルボン酸の存在下で、二つ以上の別個の反応においてセルロースエーテルをエステル化するステップを含む方法において調製され、各反応では、異なるモル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を使用して、異なる重量平均分子量のセルロースエーテルのエステルの製造。
【選択図】なし
【解決手段】それぞれ、同一のエーテル置換基及びエステル置換基を有するが異なる重量平均分子量を有する、セルロースエーテルの二つ以上のエステルが、(i)脂肪族無水モノカルボン酸、又は(ii)無水ジカルボン酸、又は(iii)脂肪族無水モノカルボン酸と無水ジカルボン酸との組合せを用いて、反応希釈剤としての脂肪族カルボン酸の存在下で、二つ以上の別個の反応においてセルロースエーテルをエステル化するステップを含む方法において調製され、各反応では、異なるモル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を使用して、異なる重量平均分子量のセルロースエーテルのエステルの製造。
【選択図】なし
Description
本発明は、セルロースエーテルのエステルを調製する改良された工程に関する。
緒言
セルロースエーテルのエステル、それらの使用、及びそれらを調製する工程は、当該技術分野では概して公知である。セルロースエーテルエステルを製造する一方法が、米国特許第2,852,508号に記載されており、これには、セルロースエーテルと、遊離したエステル化可能なヒドロキシル基を含有するセルロースの低級脂肪酸エステルとから選択されるセルロース材料を、単位重量部のセルロース材料あたり、エステル化剤としての3重量部以下の無水ジカルボン酸、溶媒としての3重量部以下の低級脂肪酸、及び塩基性触媒からなる溶液を用いて反応させることが開示されている。セルロースエーテル−エステルを製造する別の方法が、米国特許第3,435,027号に記載されている。
セルロースエーテルのエステル、それらの使用、及びそれらを調製する工程は、当該技術分野では概して公知である。セルロースエーテルエステルを製造する一方法が、米国特許第2,852,508号に記載されており、これには、セルロースエーテルと、遊離したエステル化可能なヒドロキシル基を含有するセルロースの低級脂肪酸エステルとから選択されるセルロース材料を、単位重量部のセルロース材料あたり、エステル化剤としての3重量部以下の無水ジカルボン酸、溶媒としての3重量部以下の低級脂肪酸、及び塩基性触媒からなる溶液を用いて反応させることが開示されている。セルロースエーテル−エステルを製造する別の方法が、米国特許第3,435,027号に記載されている。
様々な既知のセルロースエーテルのエステル、例えばメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルセルローススクシネート、又はヒドロキシプロピルメチルセルローススクシネートは、投与剤形用の腸溶性ポリマーとして有用である。腸溶性ポリマーは、胃の酸性環境中で耐溶解性のものである。そのようなポリマーを用いて被覆された剤形は、酸性環境中で不活性化若しくは分解から薬物を保護する、又は薬物による胃の刺激を防ぐ。米国特許第4,365,060号では、非常に優れた腸溶性挙動を有すると言われる腸溶性カプセルが開示されている。
米国特許第4,226,981号には、セルロースエーテルの混合エステル、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)を、無水コハク酸及び無水酢酸を用い、エステル化触媒としてアルカリカルボン酸塩、そして反応媒質として酢酸の存在下で、ヒドロキシプロピルメチルセルロースをエステル化することにより調製する工程が開示されている。基本材料としてのセルロースエーテルは、反応媒質としての約100〜2,000重量部のカルボン酸、及び触媒としての約20〜200重量部のアルカリカルボン酸塩とともに反応容器に導入されるが、これらの量はすべて、100重量部のセルロースエーテルあたりで表現されており、その後さらに、所定量の無水コハク酸及び脂肪族モノカルボン酸の無水物が導入され、結果として得られた混合物は、60〜110℃で2〜25時間の間、加熱される。実施例では、50gのヒドロキシプロピルメチルセルロースあたり、250gの酢酸と50gの酢酸ナトリウムが使用されている。15〜60gの無水コハク酸と25〜80gの無水酢酸が添加され、反応混合物は、85℃で強く攪拌しながら3時間、加熱される。
欧州特許出願公開第0219426号には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、又はヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)を製造する工程が開示されており、この場合には、100重量部のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、80重量部の酢酸ナトリウム、及び300重量部の酢酸を、120重量部の無水フタル酸、又は25重量部の無水コハク酸と38重量部の無水酢酸との組合せのいずれかを用いて反応させている。
現在知られている多数の薬物は、水に対する溶解度が低いので、剤形を調製するには複雑な技術が必要である。既知の一方法は、水と随意に混合させた有機溶媒中に、薬剤的に許容できる水溶性ポリマーと一緒にそのような薬物を溶解させ、溶液を噴霧乾燥させることを含む。薬剤的に許容できる水溶性ポリマーは、薬物の結晶性を低減させることを目的としており、これにより、薬物の溶解に必要な活性化エネルギーが最低になるだけでなく、薬物分子の周囲に親水性条件が確立され、これにより、薬物自体の溶解度が向上して、その生物学的利用能、すなわち、摂取時での個体によるそのインビボ吸収が増加する。
国際公開第2005/115330号には、特定の組合せの置換レベルを有する、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテート(HPMCA)ポリマー及びヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)ポリマーが開示されている。HPMCAポリマーは、アセチル基置換度(DOSAc)が少なくとも0.15である。HPMCASポリマーは、スクシノイル基置換度(DOSS)が少なくとも0.02、DOSAcの置換度が少なくとも0.65、そしてDOSAc及びDOSSの合計が少なくとも0.85である。国際公開第2005/115330号には、これらのHPMCAS及びHPMCAポリマーが、疎水性薬物の固体非晶質の分散体を形成するのに有用であることが開示されており、これらのHPMCAS及びHPMCAポリマーを、過飽和水溶液から速やかに結晶化する傾向のある薬物と組み合わせて使用する場合には、HPMCAS及びHPMCAポリマーは、高い薬物濃度を維持するのに特に有効であり、これによりインビボでの薬物吸収が促進されることが示唆されている。国際公開第2005/115330号では、アセテート置換を増加させると、噴霧乾燥させる溶液への活性物質の溶解度を増加させうる一方で、スクシネート置換を増加させると、水溶液へのポリマーの溶解度が増加することが開示されている。
国際公開第2011/159626号には、活性成分と、メトキシ基置換度(DSM)≦1.45、そしてアセチル基(DSAc)及びスクシノイル基(DSs)の組み合わせの置換度(DSAc+DSs)≧1.25であるHPMCASとが開示されている。ポリマーである、HPMCAS−K(1)、HPMCAS−K(2)、及びHPMCAS−K(3)は、Methocel(登録商標) K3 Premium LV(ダウケミカル社(Dow Chemical))を出発物質として使用して合成された。HPMCAS−K(1)は、122gのHPMC、97.9gの無水酢酸、及び総量で41.1gの無水コハク酸から、198.8gの氷酢酸、79.3gの酢酸ナトリウム、及び1.9gの塩素酸ナトリウムの存在下で製造された。HPMCAS−K(2)は、122gのHPMC、109.5gの無水酢酸、及び総量で30gの無水コハク酸から、165gの氷酢酸、72.4gの酢酸ナトリウム、及び1.8gの塩素酸ナトリウムの存在下で製造された。HPMCAS−K(3)は、122.2gのHPMC、142gの無水酢酸、及び総量で16gの無水コハク酸から、約183gの氷酢酸、77gの酢酸ナトリウム、及び1.9gの塩素酸ナトリウムの存在下で製造された。各反応においては、無水コハク酸、及び酢酸ナトリウムは、二回に分けて加えられた。国際公開第2011/159626号において考察されている従来技術よりも、この工程によって、さらに高いDSアセテート、さらに高いDSスクシネート、そして明瞭な分子量が達成された。
しかしながら、薬物の大きな多様性という観点では、アセチル基及びスクシノイル基の高い置換度を有するエステル化セルロースエーテルの多様性に限界があることから、あらゆる要求を満たせないことは自明である。Edgar et al., Cellulose (2007), 14:49−64 “Cellulose esters in drug delivery”で、彼らの調査論文の結論において:「セルロースエステルの基本的性質は、薬物送達を向上させるのに非常に適している。・・・薬物送達系を向上させるよく研究されたセルロースエステルの応用において、近年、大きな進展があった。それらは、薬剤への応用に関連しているので、特に構造と特性の関係を掘り下げた研究によりさらに大きく前進する余地がある。この試みが完全に成功するには、相当な洞察力が必要であろう。なぜなら、新規の医薬品賦形剤向けに市販するに至るまでの現在の道のりは、困難で、長く、不確かさに満ちており、金がかかるからである」と述べている。
従って、本発明の一目的は、エステル化セルロースエーテルの修飾を、それらのエステル基置換度を増加させることによらず行う他の方法を見出すことである。
意外ことに、セルロースエーテルのエステルの重量平均分子量は、セルロースエーテルをエステル化する工程において、特定の工程パラメータを変化させることにより、セルロースエーテルを出発物質として使用してエステル化剤の量を同一に保った場合でも変化させうることが見いだされた。
出願人は、エステル化セルロースエーテルの重量平均分子量の制御が、エステル化セルロースエーテル中の薬物の固体分散体からの薬物放出速度に影響を及ぼす重要な因子であると考えている。Edgar et al., Cellulose (2007), 14:49−64では、分子量が実質的に異なるだけの同様な組成の二つのCABs(セルロースアセテートブチレート)を用いてテオフィリンの微粒子形成を行う研究への言及がある。テオフィリンの放出は、ポリマー分子量が高くなると劇的に減速し、粒子サイズが下がると劇的に増速し、粘度を高めた溶液からの粒子形成により実質的に低減した。
具体的には、セルロースエーテルのエステルの重量平均分子量は、エステル化セルロースエーテルを製造する工程において、モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を変化させることにより変化させうることが見出された。意外なことに、特定のモル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]により、特に高い重量平均分子量のセルロースエーテルのエステルが得られることが見いだされた。
従って、本発明の一態様は、それぞれ、同一のエーテル置換基及びエステル置換基を有するが異なる重量平均分子量を有する、セルロースエーテルの二つ以上のエステルを調製する工程であって、
セルロースエーテルを、(i)脂肪族無水モノカルボン酸、又は(ii)無水ジカルボン酸、又は(iii)無水肪族モノカルボン酸と無水ジカルボン酸との組合せを用いて、反応希釈剤としての脂肪族カルボン酸の存在下で、二つ以上の別個の反応においてエステル化するステップを含み、
各反応においては、異なるモル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を使用して、異なる重量平均分子量のセルロースエーテルのエステルを製造する工程である。
セルロースエーテルを、(i)脂肪族無水モノカルボン酸、又は(ii)無水ジカルボン酸、又は(iii)無水肪族モノカルボン酸と無水ジカルボン酸との組合せを用いて、反応希釈剤としての脂肪族カルボン酸の存在下で、二つ以上の別個の反応においてエステル化するステップを含み、
各反応においては、異なるモル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を使用して、異なる重量平均分子量のセルロースエーテルのエステルを製造する工程である。
本発明の別の態様は、セルロースエーテルを、(i)脂肪族無水モノカルボン酸、又は(ii)無水ジカルボン酸、又は(iii)脂肪族無水モノカルボン酸と無水ジカルボン酸との組合せを用いて、脂肪族カルボン酸の存在下でエステル化し、エステル化セルロースエーテルの重量平均分子量Mwを、モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を変化させることにより変化させうる、エステル化セルロースエーテルを調製する工程である。
さらに本発明の別の態様は、セルロースエーテルを、脂肪族無水モノカルボン酸、又は脂肪族無水モノカルボン酸と無水ジカルボン酸との組合せを用いて、反応希釈剤としての脂肪族カルボン酸の存在下でエステル化し、モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が、[5.5/1.0]〜[13.0/1.0]であり、モル比[脂肪族モノカルボン酸無水物/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が、[0.9/1.0〜10.0/1.0]である、エステル化セルロースエーテルを調製する工程である。
本発明の工程において出発物質として使用されるセルロースエーテルは、β−1,4グリコシド結合したD−グルコピラノース反復単位を有するセルロース主鎖を有し、この単位が、本発明の文脈において無水グルコース単位に指定され、非置換セルロースとして、式
上に定義されたセルロースエーテルの例となるのは、アルキルセルロース、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、及びプロピルセルロース;ヒドロキシアルキルセルロース、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシブチルセルロース;並びにヒドロキシアルキルアルキルセルロース、例えばヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシメチルエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、及びヒドロキシブチルエチルセルロース;並びに二つ以上のヒドロキシアルキル基を有するもの、例えばヒドロキシエチルヒドロキシプロピルメチルセルロースである。最も好ましくは、セルロースエーテルはヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
ヒドロキシアルコキシル基による、無水グルコース単位の2−、3−及び6−位でのヒドロキシル基置換度は、ヒドロキシアルコキシル基のモル置換、MS(ヒドロキシアルコキシル)により表現される。MS(ヒドロキシアルコキシル)は、セルロースエーテル中の無水グルコース単位あたりのヒドロキシアルコキシル基の平均モル数である。ヒドロキシアルキル化反応の間、セルロース主鎖に結合したヒドロキシアルコキシル基のヒドロキシル基は、アルキル化剤、例えばメチル化剤、及び/又はヒドロキシアルキル化剤によりさらにエーテル化されうることが理解されるべきである。無水グルコース単位の同一炭素原子位置に対して引き続く複数のヒドロキシアルキル化エーテル化反応により側鎖が生じ、複数のヒドロキシアルコキシル基がエーテル結合により互いに共有結合し、各側鎖は全体として、セルロース主鎖にヒドロキシアルコキシル置換基を形成する。
このように、用語「ヒドロキシアルコキシル基」は、MS(ヒドロキシアルコキシル)の文脈中では、上に概説した、単一のヒドロキシアルコキシル基又は側鎖のいずれかを含む、ヒドロキシアルコキシル置換基の構成単位としてのヒドロキシアルコキシル基であって、二つ以上のヒドロキシアルコキシ単位は、エーテル結合によって互いに共有結合しているものを指すと解釈する必要がある。この定義の範囲内では、ヒドロキシアルコキシル置換基の末端のヒドロキシル基がさらにアルキル化されている、例えば、メチル化されているか否かということは重要ではなく;アルキル化された及びアルキル化されていないヒドロキシアルコキシル置換基のどちらも、MS(ヒドロキシアルコキシル)の定量に含まれる。本発明の工程で使用されるセルロースエーテルは概して、ヒドロキシアルコキシル基のモル置換が、0.05〜1.00、好ましくは0.08〜0.90、より好ましくは0.12〜0.70、最も好ましくは0.15〜0.60、そして特に0.20〜0.50の範囲内にある。
アルコキシル基、例えばメトキシル基により置換されたヒドロキシル基の、無水グルコース単位あたりの平均数は、アルコキシル基置換度、DS(アルコキシル)として指定される。上に与えられたDSの定義では、用語「アルコキシル基により置換されたヒドロキシル基」は、本発明の範囲内では、セルロース主鎖の炭素原子に直接結合した、アルキル化されたヒドロキシル基だけでなく、セルロース主鎖に結合したヒドロキシアルコキシル置換基の、アルキル化されたヒドロキシル基を含むと解釈されることになる。本発明の工程で出発物質として使用されるセルロースエーテルは、好ましくはDS(アルコキシル)が、1.0〜2.5、より好ましくは1.1〜2.4、最も好ましくは1.2〜2.2、そして特に1.6〜2.05の範囲内にある。
アルコキシル基置換度、及びヒドロキシアルコキシル基のモル置換は、ヨウ化水素を用いたセルロースエーテルのザイゼル(Zeisel)開裂、そして引き続く定量ガスクロマトグラフィー分析により、定量することができる(G. Bartelmus and R. Ketterer, Z. Anal. Chem., 286 (1977) 161−190)。最も好ましくは、本発明の工程で使用されるセルロースエーテルは、DS(アルコキシル)について上に表示された範囲内にあるDS(メトキシル)、及びMS(ヒドロキシアルコキシル)について上に表示された範囲内にあるMS(ヒドロキシプロポキシル)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
本発明の工程で出発物質として使用されるセルロースエーテルは、ASTMのD2363−79(2006に再承認)に従って、20℃で2重量%水溶液として測定された場合に、好ましくは2.4〜200mPa・s、好ましくは2.4〜100mPa・s、より好ましくは2.5〜50mPa・s、特に3〜30mPa・sの粘度を有する。そのような粘度のセルロースエーテルは、より高い粘度のセルロースエーテルを部分的脱重合化工程に付すことにより得ることができる。部分的脱重合化工程は、当該技術分野で周知であり、例えば、欧州特許出願公開第1,141,029号;第210,917号;第1,423,433号;及び米国特許第4,316,982号に記載されている。代替方法として、部分的脱重合化は、セルロースエーテルの製造中、例えば酸素又は酸化剤の存在下で達成することができる。
セルロースエーテルは、(i)脂肪族モノカルボン酸、又は(ii)無水ジカルボン酸、又は(iii)脂肪族無水モノカルボン酸と無水ジカルボン酸との組合せを用いて反応させる。好ましい脂肪族無水モノカルボン酸は、無水酢酸、無水酪酸、及び無水プロピオン酸からなる群から選択される。好ましい無水ジカルボン酸は、無水コハク酸、無水マレイン酸、及び無水フタル酸からなる群から選択される。好ましい脂肪族無水モノカルボン酸は、単独で使用することができ;又は好ましい無水ジカルボン酸は、単独で使用することができ;又は好ましい脂肪族無水モノカルボン酸は、好ましい無水ジカルボン酸と組み合わせて使用することができる。
もし、脂肪族無水モノカルボン酸及び無水ジカルボン酸を使用してセルロースエーテルをエステル化する場合には、二つの無水物を同時に、又は個別に一つずつ反応容器に導入してもよい。反応容器に導入することになる各無水物の量は、最終産物において得られることになる所望のエステル化度に依存して決まり、通常、エステル化による無水グルコース単位の所望のモル置換度の1〜10倍の化学量論的量である。
脂肪族モノカルボン酸の無水物とセルロースエーテルの無水グルコース単位との間のモル比は概して、0.1/1以上、好ましくは0.3/1以上、より好ましくは0.5/1以上、最も好ましくは1/1以上、そして具体的には1.5/1以上である。脂肪族モノカルボン酸の無水物とセルロースエーテルの無水グルコース単位との間のモル比は、概して17/1以下、好ましくは10/1以下、より好ましくは8/1以下、最も好ましくは6/1以下、そして特に4/1以下である。
ジカルボン酸の無水物とセルロースエーテルの無水グルコース単位との間のモル比は、好ましくは0.01/1以上、より好ましくは0.04/1以上、そして最も好ましくは0.2/1以上である。ジカルボン酸の無水物とセルロースエーテルの無水グルコース単位との間のモル比は、好ましくは2.5/1以下、より好ましくは1.5/1以下、そして最も好ましくは1/1以下である。
本発明の工程において使用されるセルロースエーテルの無水グルコース単位のモル数は、置換された無水グルコース単位の平均分子量をDS(アルコキシル)及びMS(ヒドロキシアルコキシル)から計算することにより、出発物質として使用されるセルロースエーテルの重量から定量することができる。
セルロースエーテルのエステル化は、反応希釈剤としての脂肪族カルボン酸、例えば酢酸、プロピオン酸、又はブタン酸中で実行される。反応希釈剤は、室温で液体であってセルロースエーテルと反応しない少量のその他の溶媒又は希釈剤、例えば芳香族又は脂肪族の溶媒、例えばベンゼン、トルエン、1,4−ジオキサン、若しくはテトラヒドロフラン;又はハロゲン化C1−C3誘導体、例えばジクロロメタン、若しくはジクロロメチルエーテルを含んでいてもよいが、脂肪族カルボン酸の量は概して、反応希釈剤の全重量を基準にして50パーセント超、好ましくは少なくとも75パーセント、そしてより好ましくは少なくとも90パーセントであるべきである。最も好ましくは反応希釈剤は、脂肪族カルボン酸から成る。
意外なことに、重量平均分子量の異なるセルロースエーテル、例えば無水グルコース単位の数が異なる、若しくはエーテル置換基の程度が異なるセルロースエーテルを使用しなくとも、又は量の異なる脂肪族モノカルボン酸の無水物を使用しなくとも、重量平均分子量の異なるセルロースエーテルのエステルを製造できるということが見出された。本発明により、製造されるセルロースエーテルのエステル(すなわち、エステル化セルロースエーテル)の重量平均分子量の調節は、モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]の調節により可能となる。
本発明の一実施形態では、それぞれ、同一のエーテル置換基及びエステル置換基を有するが異なる重量平均分子量を有する、セルロースエーテルの二つ以上のエステルを調製する。この実施形態では、セルロースエーテルを、脂肪族無水モノカルボン酸、及び/又は無水ジカルボン酸を用いて、反応希釈剤としての脂肪族カルボン酸の存在下で、二つ以上の別個の反応においてエステル化し、各反応では、異なるモル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を使用して、異なる重量平均分子量の、セルロースエーテルのエステルを製造する。各反応では、モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は、一つ又は複数のその他の反応におけるモル比とは、概して少なくとも[0.2/1.0]だけ異なる、好ましくは少なくとも[0.5/1.0]だけ異なる、より好ましくは少なくとも[0.8/1.0]だけ異なる、そして最も好ましくは少なくとも[1.5/1.0]だけ異なる。典型的には各反応におけるモル比は、その他の一つ又は複数の反応におけるモル比とは、[10/1]まで異なる、さらに典型的には[5/1]まで異なる、そして最も典型的には[2/1]まで異なる。各反応におけるモル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]として好ましい範囲は、[2/1]〜[70/1]、又は[3/1]〜[60/1]、又は[3.5/1]〜[20/1]、又は[3.8/1]〜[15/1]、又は[4/1]〜[12/1]である。モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]として最も好ましい範囲は、[5.5/1.0]〜[13.0/1.0]、又は[5.8/1.0]〜[11.5/1.0]、又は[6.2/1.0]〜[10.0/1.0]又は[6.5/1.0]〜[9.2/1.0]である。
それぞれ、同一のエーテル置換基及びエステル置換基を有するが異なる重量平均分子量を有する、セルロースエーテルの二つ以上のエステルを、セルロースエーテルのエステル化により、反応希釈剤としての脂肪族カルボン酸の存在下で、二つ以上の別個の反応において、好ましくは各反応において調製する、本発明の実施形態では、ほぼ同一の重量平均分子量(2重量パーセント水溶液としてその粘度として表現される)、同一タイプのエーテル置換基、そして例えば、DS(アルコキシル)、及び/又はMS(ヒドロキシアルコキシル)として表現されるほぼ同一量のエーテル置換基を有するセルロースエーテルを、出発物質として使用する。好ましくは各反応では、セルロースエーテルを(i)同一の脂肪族無水モノカルボン酸、又は(ii)同一の無水ジカルボン酸、又は(iii)脂肪族無水モノカルボン酸と無水ジカルボン酸との同一の組合せを用いて、前記一つ又は複数の無水物とセルロースエーテルとの間のモル比をほぼ同一にして反応させる。
本発明によるエステル化セルロースエーテルを調製する工程の別の態様によると、上に記載されるセルロースエーテルは、上に記載の、(i)脂肪族無水モノカルボン酸、又は(ii)無水ジカルボン酸、又は(iii)脂肪族無水モノカルボン酸と無水ジカルボン酸との組合せを用いて、脂肪族カルボン酸の存在下でエステル化され、エステル化セルロースエーテルの重量平均分子量Mwは、モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を変化させることにより変化する。好ましいモル比は、上に記載のとおりである。エステル化セルロースエーテルの重量平均分子量Mwは好ましくは、反応剤の、セルロースエーテル、脂肪族無水モノカルボン酸、及び無水ジカルボン酸、並びにこれらの反応剤の間の重量比を、実質的に一定に保ちつつ変化させる。
本発明の別の態様は、セルロースエーテルを、脂肪族無水モノカルボン酸、又は脂肪族無水モノカルボン酸と無水ジカルボン酸の組合せを用いて、反応希釈剤としての脂肪族カルボン酸の存在下でエステル化し、モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が、[5.5/1.0]〜[13.0/1.0]、好ましくは[5.8/1.0]〜[11.5/1.0]、より好ましくは[6.2/1.0]〜[10.0/1.0]、そして最も好ましくは[6.5/1.0]〜[9.2/1.0]であり、モル比[脂肪族無水モノカルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は、[0.9/1.0〜10.0/1.0]、好ましくは[1.0/1.0〜8.0/1.0]、より好ましくは[1.0/1.0〜6.0/1.0]、そして最も好ましくは[1.0/1.0〜4.0/1.0]である、エステル化セルロースエーテルを調製する工程である。
特に好ましくは、モル比[脂肪族モノカルボン酸の無水物/ジカルボン酸の無水物]は、[3.5/1]〜[8.8/1]であり、そしてモル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は、[4.9/1.0]〜[11.5/1.0]である。
エステル化反応は概して、エステル化触媒の存在下で、好ましくはカルボン酸アルカリ金属塩、例えば、酢酸ナトリウム又は酢酸カリウムの存在下で実行される。モル比[アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は概して、[0.2/1.0]〜[50.0/1.0]、好ましくは[0.3/1.0]〜[10.0/1.0]、より好ましくは[0.4/1.0]〜[3.8/1.0]、そして最も好ましくは[1.5/1.0]〜[3.5/1.0]である。
反応混合物は概して、60℃〜110℃に、好ましくは70〜100℃で、反応が完了するのに充分な期間、すなわち、典型的には2〜25時間、さらに典型的には2〜8時間、加熱される。出発物質としてのセルロースエーテルは、脂肪族カルボン酸に常に可溶性であるわけではなく、特に、セルロースエーテルにおける置換度が比較的小さい場合には、脂肪族カルボン酸中に分散させる、又は脂肪族カルボン酸により膨潤させることしかできない。エステル化反応は、そのような分散した、又は膨潤したセルロースエーテルを用いても生じる可能性があり、エステル化反応が進行するにつれて、反応下のセルロースエーテルは概して、反応希釈剤に溶解し、均一な反応混合物が最終的には得られる。
エステル化反応の完了後、例えば、米国特許第4,226,981号、国際公開第2005/115330号、又は欧州特許出願第0219426号に記載のとおりに、反応混合物を既知の方法、例えば大容積の水と接触させることにより、反応産物を沈殿させることができる。しかしながら、本発明の好ましい実施形態では、反応産物の混合物を、エステル化に使用されるセルロースエーテルの重量部あたり、5〜400、好ましくは8〜300、より好ましくは10〜100、及び最も好ましくは12〜50重量部の水と接触させる。重量比[水/水を除く反応産物の混合物]は概して、1/1〜10/1、好ましくは1.4/〜5/1、より好ましくは2/1〜3/1である。本発明の好ましい実施形態では、水と反応産物の混合物は、少なくとも800s−1、好ましくは少なくとも1500s−1、より好ましくは少なくとも3000s−1、そして最も好ましくは少なくとも8000s−1のずり速度を受けて一つにされる。ずり速度は概して、600,000s−1まで、そして典型的には500,000s−1までである。本発明の工程において、そのようなずり速度を適用することは、反応産物の混合物からの沈殿及び分離の際に非粘着性で細かい粒子サイズである、セルロースエーテルのエステルを得るには有用である。既知の沈殿工程によれば、そのような非粘着性で細かい粒子は実現されていない。このずり速度は、回転子−固定子型ミキサーすなわちホモジナイザー、高せん断ミル、又は高せん断ポンプとしても知られる、高せん断ミキサー等の高せん断装置中で得ることができる。高せん断装置は一般に、「ステーショナリー(stationary)」と称されるせん断装置の固定部分、例えば固定子又は筐体と組み合わせた、回転子を含む。ステーショナリーは、回転子とそれ自体の間に近接した隙間を生じ、この間隙中の材料に対して高いせん断領域を形成する。ステーショナリーは、単一又は複数列の、開口部、間隙、又は歯を含むことによって、ある種のせん断周波数と乱流エネルギーの増加を誘発させることができる。混合の程度又は完全性に関する一つの計量が、高い先端速度を有する混合装置により発生するせん断力である。流体は、流体の一領域が、近接領域と比較して異なる速度で移動する場合にせん断を受ける。回転子の先端速度は、式:先端速度=回転子の回転速度×回転子の外周、に従う回転により生じる運動エネルギーの尺度である。ずり速度は、回転子と、せん断装置の静止部分であって固定子又は筐体と一般に称される部分との間の間隙距離の間に成り立つ反比例関係に基づいている。高せん断装置が固定子を備えていない場合には、沈殿容器の内壁が固定子としての役割を果たす。式:ずり速度=先端速度/回転子の外径とステーショナリーとの間の間隙距離、が適用される。高せん断装置は概して、少なくとも4m/s、好ましくは少なくとも8m/s、より好ましくは少なくとも15m/s、そして最も好ましくは少なくとも30m/sの先端速度で稼働する。先端速度は概して、320m/sまで、典型的には280m/sまでである。
セルロースエーテルの分散エステルは引き続き、混合物の残りから既知の方法、例えば遠心分離、又はろ過、又はデカンテーションによる沈降時に分離することができる。回収された、セルロースエーテルのエステルは、水で洗浄して不純物を除去し、乾燥させて、エステル化セルロースエーテルを粉末の形態で製造することができる。
本発明の工程によれば、(i)脂肪族の一価のアシル基、又は(ii)式、−C(O)−R−COOAの基であって、Rが二価の脂肪族又は芳香族炭化水素基である基、又は(iii)脂肪族の一価のアシル基と、式、−C(O)−R−COOAの基であって、Rが二価の脂肪族又は芳香族炭化水素基、そしてAが水素又はカチオンである基との組合せ、を有するエステル化セルロースエーテルが製造される。カチオンは、好ましくはアンモニウムカチオン、例えばNH4 +、又はアルカリ金属イオン、例えばナトリウム若しくはカリウムイオン、より好ましくはナトリウムイオンである。最も好ましくは、Aは水素である。
脂肪族の一価のアシル基は、好ましくは、アセチル、プロピオニル、及びブチリル、例えばn−ブチリル又はi−ブチリルからなる群から選択される。
式、−C(O)−R−COOAの好ましい基は、
−C(O)−CH2−CH2−COOA、例えば−C(O)−CH2−CH2−COOH、若しくは−C(O)−CH2−CH2−COO−Na+、
−C(O)−CH=CH−COOA、例えば−C(O)−CH=CH−COOH、若しくは−C(O)−CH=CH−COO−Na+、又は
−C(O)−C6H4−COOA、例えば−C(O)−C6H4−COOH、若しくは−C(O)−C6H4−COO−Na+である。
−C(O)−CH2−CH2−COOA、例えば−C(O)−CH2−CH2−COOH、若しくは−C(O)−CH2−CH2−COO−Na+、
−C(O)−CH=CH−COOA、例えば−C(O)−CH=CH−COOH、若しくは−C(O)−CH=CH−COO−Na+、又は
−C(O)−C6H4−COOA、例えば−C(O)−C6H4−COOH、若しくは−C(O)−C6H4−COO−Na+である。
式、−C(O)−C6H4−COOAの基では、カルボニル基及びカルボキシル基は、好ましくはオルト位に配置している。
好ましいエステル化セルロースエーテルは、
i)HPMCXY、及びHPMCXであって、HPMCはヒドロキシプロピルメチルセルロース、XはA(アセテート)、若しくはXはB(ブチレート)、若しくはXはPr(プロピオネート)、及びYはS(スクシネート)、若しくはYはP(フタレート)、若しくはYはM(マレエート)であり、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートフタレート(HPMCAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートマレエート(HPMCAM)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)、若しくはヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテート(HPMCA);又は
ii)ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP);ヒドロキシプロピルセルロースアセテートスクシネート(HPCAS)、ヒドロキシブチルメチルセルロースプロピオネートスクシネート(HBMCPrS)、ヒドロキシエチルヒドロキシプロピルセルロースプロピオネートスクシネート(HEHPCPrS);及びメチルセルロースアセテートスクシネート(MCAS)である。
i)HPMCXY、及びHPMCXであって、HPMCはヒドロキシプロピルメチルセルロース、XはA(アセテート)、若しくはXはB(ブチレート)、若しくはXはPr(プロピオネート)、及びYはS(スクシネート)、若しくはYはP(フタレート)、若しくはYはM(マレエート)であり、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートフタレート(HPMCAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートマレエート(HPMCAM)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)、若しくはヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテート(HPMCA);又は
ii)ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP);ヒドロキシプロピルセルロースアセテートスクシネート(HPCAS)、ヒドロキシブチルメチルセルロースプロピオネートスクシネート(HBMCPrS)、ヒドロキシエチルヒドロキシプロピルセルロースプロピオネートスクシネート(HEHPCPrS);及びメチルセルロースアセテートスクシネート(MCAS)である。
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)は、最も好ましいエステル化セルロースエーテルである。
エステル化セルロースエーテルは、上に表示したとおり、DS(メトキシル)及びMS(ヒドロキシアルコキシル)を有する。
エステル化セルロースエーテルは概して、一価のアシル基、例えばアセチル、プロピオニル、又はブチリル基の置換度が、0〜1.75、好ましくは0.05〜1.50、より好ましくは0.10〜1.25、そして最も好ましくは0.20〜1.00である。
エステル化セルロースエーテルは概して、式、−C(O)−R−COOA、例えばスクシノイル基の置換度が、0〜1.6、好ましくは0.05〜1.30、より好ましくは0.05〜1.00、及び最も好ましくは0.10〜0.70又はさらには0.10〜0.60である。
i)一価のアシル基の置換度とii)式、−C(O)−R−COOAの基の置換度との総和は、0より大きい。それは、概して0.05〜2.0、好ましくは0.10〜1.4、より好ましくは0.20〜1.15、最も好ましくは0.30〜1.10、そして特に0.40〜1.00である。
アセテート及びスクシネートエステル基の含有量は、“Hypromellose Acetate Succinate, United States Pharmacopia and National Formulary, NF 29, pp. 1548−1550”に従って定量する。報告値は、揮発物に関して補正する(上のHPMCASの論文の節“loss on drying”に記載のとおりに定量する)。この方法を同様に使用して、プロピオニル、ブチリル、フタリル及びその他のエステル基の含有量を定量してもよい。
エステル化セルロースエーテル中のエーテル基の含有量は、“Hypromellose”, United States Pharmacopeia and National Formulary, USP 35, pp 3467−3469に記載のものと同様にして決定する。
上の解析により得られたエーテル及びエステル基の含有量は、以下の式に従って、個々の置換基のDS及びMS値に変換する。式を同様に使用して、その他のセルロースエーテルエステルの置換基のDS及びMSを決定してもよい。
慣例により、重量パーセントは、すべての置換基を含むセルロース反復単位の全重量を基準にした平均重量パーセントである。メトキシル基の含有量は、メトキシル基(すなわち、−OCH3)の質量を基準にして報告する。ヒドロキシアルコキシル基の含有量は、ヒドロキシアルコキシル基(すなわち、O−アルキレン−OH);例えばヒドロキシプロポキシル(すなわち、−O−CH2CH(CH3)−OH)の質量を基準にして報告する。脂肪族の一価のアシル基の含有量は、−C(O)−R1であってR1が一価の脂肪族基、例えばアセチル(−C(O)−CH3)の質量を基準にして報告する。式、−C(O)−R−COOHの基の含有量は、この基の質量、例えばスクシノイル基(すなわち、−C(O)−CH2−CH2−COOH)の質量を基準にして報告する。
本発明の工程に従って製造されるエステル化セルロースエーテルは、出発物質として使用されるセルロースエーテルの重量平均分子量に基づき予想されるよりも、高い重量平均分子量を有することが見出されている。理論に拘束されるのを望むものではないが、このさらに高い分子量は、疎水性/親水性の鎖の会合、及び/又は架橋反応により生成されると考えられる。
上に記載される工程に従えば、製造されるエステル化セルロースエーテルは概して、重量平均分子量Mwが、40,000〜700,000ダルトン、好ましくは70,000〜400,000ダルトン、より好ましくは100,000〜250,000ダルトンである。本発明の一実施形態では、製造される二つ以上のエステル化セルロースエーテルは、好ましくはMwの差が、10,000〜200,000ダルトン、より好ましくは20,000〜100,000ダルトンである。
上に記載される工程に従えば、製造されるエステル化セルロースエーテルは概して、数平均分子量Mnが、10,000〜250,000ダルトン、好ましくは15,000〜150,000ダルトン、より好ましくは20,000〜50,000ダルトンである。本発明の一実施形態では、製造される二つ以上のセルロースエーテルエステルは好ましくは、Mnの差が、3,000〜80,000ダルトン、より好ましくは5,000〜50,000ダルトンである。
上に記載される工程に従えば、製造されるエステル化セルロースエーテルは概して、z平均分子量、Mzが、150,000〜2,500,000ダルトン、好ましくは300,000〜2,000,000ダルトン、より好ましくは500,000〜1,800,000ダルトンである。本発明の一実施形態では、製造される二つ以上のセルロースエーテルエステルは好ましくは、Mzの差が50,000〜1,000,000ダルトン、より好ましくは50,000〜600,000ダルトンである。
Mw、Mn、及びMzは、Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 56 (2011) 743に従い、移動相として、50mMのNaH2PO4、及び0.1MのNaNO3を含有する、40容積部のアセトニトリル及び60容積部の緩衝水溶液の混合物を使用して測定する。移動相はpHを8.0に調整する。Mw、Mn、及びMzの測定は、実施例にさらに詳細に記載する。
本発明のいくつかの実施形態を、以下の実施例に詳細に記載する。
実施例1〜3:
別途、言及のない限り、あらゆる部、及び百分率は重量による。実施例では、以下の試験手順を使用する。
別途、言及のない限り、あらゆる部、及び百分率は重量による。実施例では、以下の試験手順を使用する。
エーテル及びエステル基の含有量
エステル化セルロースエーテルにおけるエーテル基の含有量を、“Hypromellose”, United States Pharmacopeia and National Formulary, USP 35, pp 3467−3469に記載のものと同一の方法で定量した。
エステル化セルロースエーテルにおけるエーテル基の含有量を、“Hypromellose”, United States Pharmacopeia and National Formulary, USP 35, pp 3467−3469に記載のものと同一の方法で定量した。
アセチル基(−CO−CH3)を用いたエステル置換、及びスクシノイル基(−CO−CH2−CH2−COOH)を用いたエステル置換は、Hypromellose Acetate Succinate, United States Pharmacopia and National Formulary, NF 29, pp. 1548−1550”に従って定量した。エステル置換に関しての報告値は、揮発物に関して補正した(上のHPMCASの論文の節“loss on drying”に記載のとおりに決定した)。
Mw、Mn、及びMzの定量
Mw、Mn、及びMzは、他に言明のない限り、Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 56 (2011) 743に従って測定する。移動相は、50mMのNaH2PO4、及び0.1MのNaNO3を含有する、40容積部のアセトニトリル、及び60容積部の緩衝水溶液の混合物であった。移動相のpHは、8.0に調節した。セルロースエーテルエステルの溶液は、0.45μmの孔サイズのシリンジフィルターに通してHPLCバイアル中にろ過した。
Mw、Mn、及びMzは、他に言明のない限り、Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 56 (2011) 743に従って測定する。移動相は、50mMのNaH2PO4、及び0.1MのNaNO3を含有する、40容積部のアセトニトリル、及び60容積部の緩衝水溶液の混合物であった。移動相のpHは、8.0に調節した。セルロースエーテルエステルの溶液は、0.45μmの孔サイズのシリンジフィルターに通してHPLCバイアル中にろ過した。
より詳細には、使用した化学品及び溶媒は次のとおりである:
ポリエチレンオキシド標準材料(PEOX 20K、及びPEOX 30Kと略す)を、アジレントテクノロジーズ社(Agilent Technologies,Inc)、カリフォルニア州、パロアルト、製品番号PL2083−1005、及びPL2083−2005、から購入した。
アセトニトリル(HPLCグレード≧99.9%、CHROMASOL plus)、カタログ番号34998、水酸化ナトリウム(半導体グレード、99.99%、微量金属基準)、カタログ番号306576、水(HPLCグレード、CHROMASOLV Plus)カタログ番号34877、及び硝酸ナトリウム(99,995%、微量金属基準)カタログ番号229938を、シグマアルドリッチ社(Sigma−Aldrich)、スイス、から購入した。
リン酸二水素ナトリウム(≧99.999% TraceSelect)カタログ番号71492を、フルカ社(FLUKA)、スイス、から購入した。
5mg/mLのPEOX 20Kの標準化溶液、2mg/mLのPEOX 30Kの標準溶液、及び2mg/mLのHPMCASの試料溶液は、秤量したポリマーをバイアルに加え、体積を測定した移動相を用いてこれを溶解させることにより調製した。すべての溶液は、キャップをしたバイアル中で、PTFE被覆した磁気攪拌棒を使用し、室温で24時間、攪拌放置して溶解させた。
標準化溶液(PEOX 20k、単一の調製、N)及び標準溶液(PEOX 30K、二通りの調製、S1及びS2)を、0.02μmの孔サイズ及び25mm直径(Whatman Anatop25、カタログ番号6809−2002)、ワットマン社(Whatman)、のシリンジフィルターに通してHPLCバイアル中にろ過した。
試験試料溶液(HPMCAS、二通りの調製、T1、T2)及び実験室標準(HPMCAS、単一の調製、LS)を、0.45μmの孔サイズ(ナイロン、例えば、Acrodisc 13mm VWR カタログ番号514−4010)のシリンジフィルターに通してHPLCバイアル中にろ過した。
クロマトグラフィーの調整と溶出手順は、Chen, R. et al.;Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 56 (2011) 743−748)に記載のとおりに行った。SEC−MALLS機器の設定には、アジレントテクノロジーズ社(Agilent Technologies、Inc.、カリフォルニア州、パロアルト)製のHP1100 HPLCシステム;DAWNHeleos II 18角度レーザー光散乱検出器、及びOPTILAB rex屈折率検出器、共にワイアットテクノロジーズ社(Wyatt Technologies、Inc.、カリフォルニア州、サンタバーバラ)製のもの、が含まれていた。分析的サイズ排除カラム(TSK−GEL(登録商標) GMPWXL、300×7.8mm)を、トーソーバイオサイエンス社(Tosoh Bioscience)から購入した。OPTILAB、及びDAWNは両方とも、35℃で動作させた。分析的SECカラムは、室温(24±5℃)で動作させた。移動相は、50mMのNaH2PO4及び0.1MのNaNO3を含む、40容積部のアセトニトリル及び60容積部の緩衝水溶液の混合物であり、以下のとおりに調整した:
緩衝水溶液:7.20gのリン酸二水素ナトリウム及び10.2gの硝酸ナトリウムを、清浄な2Lのガラス瓶中の1.2Lの純水に、溶解するまで攪拌しながら加えた。
移動相:800mLのアセトニトリルを、上に調製した1.2Lの緩衝水溶液に加え、良好な混合物が達成され温度が周囲温度と平衡に達するまで攪拌した。
移動相は、10MのNaOHを用いてpHを8.0に調節し、0.2mのナイロンメンブレンフィルターに通してろ過した。流量は、インラインで脱ガスを行いつつ0.5mL/分とした。注入容積は、100μLであり分析時間は35分であった。
Wyatt ASTRAソフトウェア(5.3.4.20版)により、HPMCASについては0.120mL/gのdn/dc値(屈折率の増分)使用して処理した。検出器の光散乱信号(番号1〜4、17、及び18)は、分子量の計算には使用しなかった。代表的なクロマトグラフィー溶出手順を以下に示す:B、N、LS、S1(5×)、S2、T1(2×)、T2(2×)、T3(2×)、T4(2×)、S2、T5(2×)等、S2、LS、Wであり、ここで、Bは移動相のブランク注入を表し、N1は標準化溶液を表し;LSは実験室標準のHPMCASを表し;S1及びS2は標準溶液1及び2をそれぞれ表し;T1、T2、T3、T4、及びT5は試験試料溶液を表し、そしてWは水の注入を表す。(2×)及び(5×)は、同一溶液の注入回数を表す。
OPTILAB及びDAWNは両方とも、製造元の奨励する手順及び頻度に従って定期的に較正した。5mg/mLポリエチレンオキシド標準(PEOX 20K)の100μLの注入を適用し、すべての角度光散乱検出器を、各溶出手順について90°の検出器と比較して正規化した。
この単分散ポリマー標準の使用により、OPTILABとDAWNの間での容積遅れ(volume delay)を定量することも可能であり、光散乱信号の屈折率信号への適切なアラインメント(alignment)が可能になる。これは、各データスライスついての重量平均分子量(Mw)の計算に必要である。
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)の製造
氷酢酸、無水酢酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、無水コハク酸及び酢酸ナトリウム(水を含まず)を、以下の表1に列挙された量で、攪拌しながら3L容積の反応容器に導入した。
氷酢酸、無水酢酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、無水コハク酸及び酢酸ナトリウム(水を含まず)を、以下の表1に列挙された量で、攪拌しながら3L容積の反応容器に導入した。
HPMCは、以下の表2に列挙されたメトキシル置換及びヒドロキシプロポキシル置換、そしてASTMのD2363−79(2006に再承認)に従って、20℃で2重量%水溶液として測定された場合に約3mPa・sの粘度を有していた。HPMCの重量平均分子量は、約20,000ダルトンであった。HPMCは、ダウケミカル社からMethocel E3 LV Premiumセルロースエーテルとして購入することができる。
混合物を85℃で3.5時間、強く攪拌しながら加熱し、エステル化を実現した。1.8Lの水を、攪拌しながら反応器に加え、HPMCASを沈殿させた。沈殿した産物を反応器から除去し、高せん断混合を適用し、Ultra−Turrax攪拌器S50−G45を5200rpmで稼働させて使用し、35Lの水で洗浄した。産物をろ過により単離し、50℃で一晩、乾燥させた。
上の表1及び2の結果は、セルロースエーテルのエステルの重量平均分子量を、モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を変化させることにより、出発物質として使用されるセルロースエーテルとエステル化剤の量とが同一に保たれている場合であっても変化させうることを例示している。また、製造されたHPMCASの測定された重量平均分子量Mwは、出発物質として使用されたHPMCのMwに基づいて予想し得るよりも高かった。HPMCのMwは、約20,000ダルトンであった。アセチル及びスクシノイル基による重量増加を考慮すると、約25,000ダルトン(25kDa)のMwが予想し得た。
Claims (14)
- それぞれ、同一のエーテル置換基及びエステル置換基を有するが異なる重量平均分子量を有する、セルロースエーテルの二つ以上のエステルを調製する方法であって、
セルロースエーテルを、(i)脂肪族無水モノカルボン酸、又は(ii)無水ジカルボン酸、又は(iii)脂肪族無水モノカルボン酸と無水ジカルボン酸との組合せを用いて、反応希釈剤としての脂肪族カルボン酸の存在下で、二つ以上の別個の反応においてエステル化するステップを含み、
各反応においては、異なるモル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を使用して、異なる重量平均分子量のセルロースエーテルのエステルを製造する、方法。 - 各反応おける前記モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が、[2/1]〜[70/1]であり、各反応において、前記モル比が、その他の反応における前記モル比から、少なくとも[0.2/1.0]だけ異なる、請求項1に記載の方法。
- 各反応における前記モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が、[5.5/1.0]〜[13.0/1.0]である、請求項2に記載の方法。
- セルロースエーテルを、(i)脂肪族無水モノカルボン酸、又は(ii)無水ジカルボン酸、又は(iii)脂肪族無水モノカルボン酸と無水ジカルボン酸との組合せを用いて、脂肪族カルボン酸の存在下でエステル化し、前記エステル化セルロースエーテルの重量平均分子量Mwを、前記モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を変化させることにより変化させる、エステル化セルロースエーテルを調製する方法。
- 前記エステル化セルロースエーテルの重量平均分子量Mwを変化させる一方で、前記反応剤である、セルロースエーテル、脂肪族無水モノカルボン酸、及び無水ジカルボン酸、並びにこれらの反応剤の間の重量比を実質的に一定に保つ、請求項4に記載の方法。
- セルロースエーテルを、脂肪族無水モノカルボン酸、又は脂肪族無水モノカルボン酸と無水ジカルボン酸との組合せを用いて、
反応希釈剤としての脂肪族カルボン酸の存在下でエステル化し、前記モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が、[5.5/1.0]〜[13.0/1.0]であり、前記モル比[脂肪族無水モノカルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が、[0.9/1.0]〜[10.0/1.0]である、エステル化セルロースエーテルを調製する方法。 - 前記モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が、[5.8/1.0]〜[11.5/1.0]である、請求項6に記載の方法。
- 前記セルロースエーテルが、ASTMのD2363−79(2006に再承認)に従って、20℃で2重量%水溶液として測定された場合に、2.4〜200mPa・sの粘度を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
- 前記セルロースエーテルが、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、又はヒドロキシアルキルアルキルセルロースである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
- 前記脂肪族無水モノカルボン酸が、無水酢酸、無水酪酸、及び無水プロピオン酸からなる群から選択され、前記無水ジカルボン酸が、無水コハク酸、無水マレイン酸、及び無水フタル酸からなる群から選択される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
- ヒドロキシプロピルメチルセルロースを、無水コハク酸及び無水酢酸を用いてエステル化して、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネートを製造する、請求項9又は10に記載の方法。
- 前記エステル化反応を、アルカリ金属カルボン酸塩の存在下で実行する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
- モル比[アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が、[0.4/1.0]〜[3.8/1.0]である、請求項12に記載の方法。
- 前記一つ又は複数の製造されたエステル化セルロースエーテルが、40,000〜700,000ダルトンの重量平均分子量Mwを有する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
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