以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
なお、本明細書において、「板」、「シート」、「フィルム」の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。例えば、「導電体付シート」は板やフィルムと呼ばれ得るような部材をも含む概念であり、したがって、「導電体付シート」は、「導電体付板(基板)」や「導電体付フィルム」と呼ばれる部材と、呼称の違いのみにおいて区別され得ない。
また、「シート面(板面、フィルム面)」とは、対象となるシート状(板状、フィルム状)の部材を全体的かつ大局的に見た場合において対象となるシート状部材(板状部材、フィルム状部材)の平面方向と一致する面のことを指す。また、シート状(板状、フィルム状)の部材に対して用いる法線方向とは、当該シート状(板状、フィルム状)の部材のシート面(板面、フィルム面)への法線方向のことを指す。
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件ならびにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
図1〜図6は、本発明による一実施の形態を説明するための図である。このうち図1は、発熱板を備えた自動車を概略的に示す図であり、図2は、発熱板をその板面の法線方向から見た図であり、図3は、図2のIII−III線に沿った発熱板の断面図である。
図1に示されているように、乗り物の一例としての自動車1は、フロントウィンドウ、リアウィンドウ、サイドウィンドウ等の窓ガラスを有している。ここでは、フロントウィンドウ5が発熱板10で構成されているとする。また、自動車1はバッテリー等の電源7を有している。
この発熱板10をその板面の法線方向から見たものを図2に示す。また、図2の発熱板10のIII−III線に対応する断面図を図3に示す。図3に示された例では、発熱板10は、一対の基板11,12と、一対の基板11,12の間に配置された導電体付きシート20と、基板11,12と導電体付きシート20とを接合する接合層13,14と、を有している。なお、図1および図2に示した例では、発熱板10は湾曲しているが、その他の図では、図示の簡略化および理解の容易化のために、発熱板10および基板11,12を平板状に図示している。
また、図2によく示されているように、発熱板10は、発熱用導電体30に通電するための配線部15を有している。図示された例では、バッテリー等の電源7によって、配線部15からバスバー25を介して発熱用導電体30に通電し、発熱用導電体30を抵抗加熱により発熱させる。発熱用導電体30で発生した熱は基板11,12に伝わり、基板11,12が温められる。これにより、基板11,12に付着した結露による曇りを取り除くことができる。また、基板11,12に雪や氷が付着している場合には、この雪や氷を溶かすことができる。したがって、乗員の視界が良好に確保される。尚、図示は省略するが、通常、電源7と発熱用導電体30のバスバー25との間に、開閉器が挿入(直列に接続)される。そして、発熱板10の加熱が必要な時のみ開閉器を閉じて発熱用導電体30に通電する。
以下、発熱板10の各構成要素、すなわち、基板11,12、接合層13,14および導電体付きシート20について説明する。
まず、基板11,12について説明する。基板11,12は、図1で示された例のように自動車のフロントウィンドウに用いる場合、乗員の視界を妨げないよう可視光透過率が高いものを用いることが好ましい。このような基板11,12の材質としては、ソーダライムガラスや青板ガラスが例示できる。基板11,12の可視光透過率は90%以上であることが好ましい。ここで、基板11,12の可視光透過率は、分光光度計((株)島津製作所製「UV−3100PC」、JIS K 0115準拠品)を用いて測定波長380nm〜780nmの範囲内で測定したときの、各波長における透過率の平均値として特定される。なお、基板11,12の一部または全体に着色するなどして、この一部分の可視光透過率を低くしてもよい。この場合、太陽光の直射を遮ったり、車外から車内を視認しにくくしたりすることができる。
また、基板11,12は、1mm以上5mm以下の厚みを有していることが好ましい。このような厚みであると、強度及び光学特性に優れた基板11,12を得ることができる。一対の基板11,12は、同一の材料で同一に構成されていてもよいし、或いは、材料および構成の少なくとも一方において互いに異なるようにしてもよい。
次に、接合層13,14について説明する。一方の接合層13が、一方の基板11と導電体付きシート20との間に配置され、一方の基板11と導電体付きシート20とを互いに接合する。他方の接合層14が、他方の基板12と導電体付きシート20との間に配置され、他方の基板12と導電体付きシート20とを互いに接合する。
このような接合層13,14としては、種々の接着性または粘着性を有した材料からなる層を用いることができる。また、接合層13,14は、可視光透過率が高いものを用いることが好ましい。典型的な接合層としては、ポリビニルブチラール(PVB)からなる層を例示することができる。接合層13,14の厚みは、それぞれ0.15mm以上1mm以下であることが好ましい。一対の接合層13,14は、同一の材料で同一に構成されていてもよいし、或いは、材料および構成の少なくとも一方において互いに異なるようにしてもよい。
なお、発熱板10には、図示された例に限られず、特定の機能を発揮することを期待されたその他の機能層が設けられても良い。また、1つの機能層が2つ以上の機能を発揮するようにしてもよいし、例えば、発熱板10の基板11,12、接合層13,14、後述する導電体付きシート20の基材フィルム21の、少なくとも一つに何らかの機能を付与するようにしてもよい。発熱板10に付与され得る機能としては、一例として、反射防止(AR)機能、耐擦傷性を有したハードコート(HC)機能、赤外線遮蔽(反射)機能、紫外線遮蔽(反射)機能、防汚機能等を例示することができる。
次に、導電体付きシート20について説明する。導電体付きシート20は、基材フィルム21と、一対のバスバー25と、基材フィルム21の一方の基板11に対面する面上に設けられた発熱用導電体30と、を有する。本実施の形態において、導電体付きシート20は、基板11,12と略同一の平面寸法を有して、発熱板10の全体にわたって配置されているが、図1の例における運転席の正面部分等、発熱板10の一部にのみ配置されてもよい。以下、導電体付きシート20の各構成要素について説明する。
基材フィルム21は、発熱用導電体30を支持する基材として機能する。基材フィルム21は、可視光線波長帯域の波長(380nm〜780nm)を透過する一般に言うところの透明である電気絶縁性のフィルムである。基材フィルム21としては、可視光を透過し、発熱用導電体30を適切に支持し得るものであればいかなる材質のものでもよいが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、環状ポリオレフィン等を挙げることができる。また、基材フィルム21は、光透過性や、発熱用導電体30の適切な支持性等を考慮すると、0.03mm以上0.20mm以下の厚みを有していることが好ましい。
なお、「透明」とは、当該基材フィルムを介して当該基材フィルムの一方の側から他方の側を透視し得る程度の透明性を有していることを意味しており、例えば、30%以上、より好ましくは70%以上の可視光透過率を有していることを意味する。可視光透過率は、分光光度計((株)島津製作所製「UV−3100PC」、JIS K 0115準拠品)を用いて測定波長380nm〜780nmの範囲内で測定したときの、各波長における透過率の平均値として特定される。
バスバー25は、対応する配線部15と電気的に接続されている。一対のバスバー25間には、配線部15と接続された電源7の電圧が印加されるようになる。一対のバスバー25は、互いが平行となるように配置されている。また、各バスバー25は、導電体付きシート20における外縁部近傍に配置されている。
次に、図4を参照しながら、発熱用導電体30について説明する。図4は、導電体付きシート20をそのシート面の法線方向から見た平面図である。
発熱用導電体30は、一対のバスバー25に間に配置されており、一対のバスバー25間を結ぶようにそれぞれ電気的に接続されている。発熱用導電体30は、所定のパターンで配置された線状導電体31によって形成されている。発熱用導電体30は、配線部15及びバスバー25を介して電圧を印加されると、抵抗加熱によって発熱する。そして、この熱が接合層13,14を介して基板11,12に伝わることで、基板11,12が温められる。
発熱用導電体30は、種々のパターンで配列することができる。一例として、図4に示された例において、発熱用導電体30は、複数の線状導電体31が多数の開口部35を画成するメッシュ状のパターンで配置されることによって形成されている。線状導電体31は、図5に示すように、線状部32と、拡幅部33(図5における右上−左下斜線部)と、交差部34(図5における左上−右下斜線部)と、を有する。線状部32は、他の線状導電体とは独立して延びている。一方、交差部34は、他の線状導電体と交差する位置に設けられている。拡幅部33は、線状部32と交差部34との間において、線状導電体31を拡幅させている。すなわち、線状部32は、2つの拡幅部33と隣接して設けられ、2つの拡幅部33を接続している。
線状部32は、直線、曲線、波線、折れ線等、任意の形状であってよい。ただし、各線状部32が延在する方向、および線状部32の配列方向は、後述する線状導電体31の回折光があらゆる方向に分散して発生することを防止するために、完全に不規則でなく、好ましくは規則的である。
交差部34は、線状部32の延長上の領域内に位置する。一つの線状導電体31に含まれる一の交差部34は、全域において、当該一つの線状導電体31と交差する他の線状導電体31の交差部を成している。すなわち、図5によく示されているように、各線状導電体31は、他の線状導電体31と交差部34を共有する。さらに言い換えると、一つの交差部34は、二つの線状導電体31に含まれ得ることになる。
また、各線状導電体31は、他の線状導電体31と拡幅部33の一部を共有している。具体的には、交差する2つの線状導電体31のいずれにも含まれない拡幅部33の一部を、他の拡幅部33と共有している。図示された例では、交差部34において、4つの線状部32が拡幅部33を介して等角度で接続されることにより、4つの線状部32、4つの拡幅部33および4つの交差部34で囲まれた格子状の開口部35が多数画成されている。なお、図5は、図4示した導電体付きシート20の発熱用導電体30の一部を拡大して示す図である。
各開口部35の重心間距離が大きすぎると、発熱用導電体30において発熱むらが発生する。また、各開口部35の重心間距離が大きすぎると、線状導電体31が視認されてしまうこともある。これのことから、図5に示す開口部35の重心間距離Dは1500μm以下となっていることが好ましい。また、開口部35の重心間距離Dが小さすぎると、透過率が悪化し、透視性が損なわれるため、開口部35の重心間距離Dは250μm以上となっていることが好ましい。
図5を参照しながら、発熱用導電体30について詳しく説明する。図5に示すように、各線状導電体31の幅は、拡幅部33において線状部32より拡幅している。すなわち、拡幅部33の幅w2は、線状部32の幅w1より大きくなっている。拡幅部33の幅w2は、線状部32の幅w1の5倍以上10倍以下となっていることが好ましい。ここで、線状部32の幅w1とは、線状導電体31の延在方向に直交する方向における当該線状部32の最大の長さをいい、拡幅部33の幅w2とは、線状導電体31の延在方向に直交する方向における他の線状導電体と重ならない部分での当該拡幅部33の最大の長さをいう。拡幅部33の幅w2が線状部32の幅w1の5倍以上であることで、拡幅部33は線状部32より十分に拡幅していることになる。また、拡幅部33の幅w2が線状部32の幅w1の10倍以下であることで、拡幅部33の幅が線状部32に対して大きすぎて、拡幅部33が視認されてしまうことを防止することができる。
また、線状導電体31の拡幅部33の輪郭は、開口部35との境界となる位置に、曲率半径が15μm以上60μm以下である曲線部33aを含んでいる。ここで、線状導電体31の輪郭は、線状導電体31の基材フィルム21の板面に沿った側の輪郭を意味する。曲線部33aは、当該曲線部33aが面する開口部35に向けて凹な曲線となっている。開口部35に向けて凹な曲線とは、単に交差部34をなす二つの線状導電体の交差中心に向けて凹んでいることを意味するのではなく、数学的に凹型であることを意味する。すなわち、開口部に向けて凹な曲線とは、当該曲線における任意の2点を結んだ直線が、当該2点の間において、該2点の間にある曲線から離間して開口部内に位置することを意味し、さらに言い換えると当該曲線の任意の部分が、当該部分の両端間において、当該部分の両端を結ぶ直線より内方に位置することを意味する。したがって、曲線部33aの曲率半径を規定する曲率中心が、当該曲線部33aによって画成される線状導電体の側ではなく、当該曲線部によって画成される開口部の側に存在する。また、曲線部33aの長さLは、20μm以上になっている。
このような発熱用導電体30及びバスバー25を構成するための材料としては、例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、クロム、モリブデン、ニッケル、チタン、パラジウム、インジウム、タングステン等の金属、及び、これらの金属の1種以上を含んでなる合金の一以上を例示することができる。発熱用導電体30及びバスバー25は、同一の材料を用いて形成されていてもよいし、或いは、互いに異なる材料を用いて形成されていてもよい。
発熱用導電体30は、上述したように不透明な金属材料を用いて形成され得る。その一方で、発熱用導電体30によって覆われていない基材フィルム21上の領域の割合、すなわち開口率は、70%以上99%以下程度と高くなっている。また、線状導電体31の線幅は、2μm以上50μm以下程度となっている。このため、発熱用導電体30が設けられている領域は、全体として透明に把握され、発熱用導電体30の存在が発熱板10の透視性を害さないようになっている。
図3に示された例では、線状導電体31は、全体として台形状の断面を有している。線状導電体31の幅W、すなわち、基材フィルム21の板面に沿った幅Wは2μm以上50μm以下とし、高さ(厚さ)H、すなわち、発熱板10の板面への法線方向に沿った高さ(厚さ)Hは1μm以上30μm以下とすることが好ましい。なお、線状導電体31の幅Wにおいて、線状部32の幅w1は、2μm以上15μm以下であり、拡幅部33の幅w2は、2μm以上50μm以下である。このような寸法の線状導電体31によれば、その線状導電体31が十分に細線化されているので、発熱用導電体30を効果的に不可視化することができる。
また、図3に示されたように、線状導電体31は、導電性金属層36、導電性金属層36の表面のうち、基材フィルム21に対向する側の面を覆う第1の暗色層37、導電性金属層36の表面のうち、基板11に対向する側の面及び両側面を覆う第2の暗色層38を含むようにしてもよい。優れた導電性を有する金属材料からなる導電性金属層36は、比較的高い反射率を呈する。そして、発熱用導電体30の線状導電体31をなす導電性金属層36によって光が反射されると、その反射した光が視認されるようになり、乗員の視界を妨げる場合がある。また、外部から導電性金属層36が視認されると、意匠性が低下する場合がある。そこで、第1及び第2の暗色層37,38が、導電性金属層36の表面の少なくとも一部分を覆っている。第1及び第2の暗色層37,38は、導電性金属層36よりも可視光の反射率が低い層であればよく、例えば黒色等の暗色の層である。この暗色層37,38によって、導電性金属層36が視認されづらくなり、乗員の視界を良好に確保することができる。また、外部から見たときの意匠性の低下を防ぐことができる。
なお、前述したように、発熱板10の透視性または発熱板10を介した視認性を確保する観点から、開口率が高くなるように、発熱用導電体30の線状導電体31は基材フィルム21上に形成されている。その結果、図3に示すように、接合層13と導電体付きシート20の基材フィルム21とは、線状導電体31の非被覆部、すなわち隣り合う線状導電体31の間となる領域を介して接触している。すなわち、発熱用導電体30は、接合層13内に埋め込まれた状態となっている。
ところで、上述したように、線状導電体を含んだ発熱板を介して光、例えば対向車の照明を観察した場合、尾を引くように観察される光の筋、すなわち光芒が当該照明の周囲に観察される。このような光芒の発生は、発熱板を介した視認性を悪化させることになる。そして、本件発明者らは、鋭意検討を重ねた結果として、光芒の発生する方向が、発熱板への入射光が線状導電体で回折される方向と一致することを知見した。本件発明者らの知見に基づけば、発熱用導電体30をなす線状導電体31の長手方向を不規則化することにより、特定の方向へ光芒が延びることを防止することができる。しかしながら、線状導電体31の配列を完全に不規則化すると、光芒とされてきた筋状の明部の発生は防止できるが、回折光が発熱板のあらゆる箇所に分散して輝点が発生してしまい、かえって目立ってしまい視界の妨げになる。また、線状導電体31の配列を不規則化することは、設計負荷を増加させたり、面内での発熱むらを生じさせたりする可能性もあるため、好ましくない。さらに、近接して目視したとき、透過率、もしくは反射率の面内ムラとして認識され易い。そこで本件発明者らは、さらに鋭意検討を重ね、線状導電体31の配列(分布)の規則性を維持しながら、線状導電体31に拡幅部33を設けることで光芒を効果的に目立たなくさせることを可能にした。以下、光芒の発生原因と、光芒を目立たなくさせる方法について説明する。
光芒は、発熱板10を透過する光が線状導電体31によって回折することで発生する。すなわち、観察される光芒は、線状導電体31によって起こる回折の回折像が筋状に延びることで発生する。発熱板10に線状導電体31を配置する以上、回折像を発生させないことはできない。したがって、発生する回折像について、視認性に対して影響が小さくすることを考える。
発熱板10を介した視認性に対して影響が小さい回折像とは、光芒として認識される筋状の強い光を含まない像である。このような回折像の一例として、入射光を特定の方向に回折させない、言い換えると、全方向に回折光を分散させて筋状の明部が認識されないようにすることで、光芒を目立たなくさせることが考えられる。しかしながら、上述したように、回折光があらゆる方向に分散すると、筋状の明部が認識されることは防止できるが、発熱板のあらゆる箇所に回折光による輝点が発生してしまい、かえって視界の妨げになる。そこで、光芒として認識される筋状の光をぼやけさせることで目立たなくさせることが考えられる。
ある構造を透過する光の回折像の形状は、その構造について光が透過する部分と遮蔽される部分との境界の形状によって決定される。例えば、長手方向を有する構造、例えば長手方向を有した矩形形状の構造に起因して生じる回折像は、当該構造の長手方向に直交する方向に延びて光芒となる。したがって、一つの構造をなす境界の形状に直交する方向が、その一部において異なっていれば、当該部分によって異なる方向に筋状の光が発生することになり、他の部分によって発生する筋状の光がぼやけることになる。
そのような線状導電体31の構造として、図5に示すような、線状導電体31の幅が拡幅部33において拡幅して、拡幅部33の輪郭が曲線部33aとなっている構造が考えられる。拡幅部33の輪郭が曲線部33aとなることで、構造をなす境界の形状に直交する方向が、当該曲線部において異なることになる。
このような本実施の形態の発熱用導電体30の作用について、従来の発熱用導電体130と比較して説明する。図6に示す従来の発熱用導電体130では、直線に延びる複数の線状導電体131が交差してパターンを形成している。線状導電体131の幅は、交差部133においても線状部132と同じであり、一定となっている。このような発熱用導電体130においては、構造をなす境界の形状、すなわち線状導電体131の境界の形状に直交する方向が、図6における縦方向および横方向のみである。したがって、発熱用導電体130を有する発熱板を介した視界においては、横方向および縦方向に延びる強い筋状の光が観察される。
一方、図5に示す本発明の発熱用導電体30では、直線に延びる複数の線状導電体31が交差して図6に示したパターンと同じパターンを形成している。しかしながら、図6に示した従来の発熱用導電体と異なり、線状導電体31の幅は、拡幅部33において拡幅して、拡幅部33の輪郭が曲線部33aとなっている。このような発熱用導電体30においては、構造をなす境界の形状、すなわち線状導電体31の境界の形状に直交する方向が、その一部である曲線部33aにおいて異なっている。したがって、発熱用導電体30を有する発熱板10を介した視界においては、主に線状部32によって発生する横方向および縦方向に延びる筋状の光が、拡幅部33の曲線部33aによって発生する筋状の光の分だけぼやけることになる。
とりわけ、本実施の形態では、曲線部33aの曲率半径が15μm以上であるため、拡幅部33が十分な長さの曲線部33aを有することができる。具体的には、曲線部33aの長さは20μm以上である。曲線部が十分に長いことで、線状部32によって発生する光芒が、拡幅部33の曲線部33aによって発生する光芒によって、十分にぼやけさせられることになる。また、曲線部33aの曲率半径が60μm以下であるため、拡幅部33の曲線部33aによる光芒は、線状部32による光芒の周囲に発生するが、十分に弱い光芒であるため、発熱板10を介した視界においては観察されにくくなる。
また、曲線部33aは、開口部35に向けて凹な曲線を含んでおり、この開口部35に向けて凹な曲線は、開口部35に向けて突出していない。このような曲線部33aによれば、拡幅部33が大型化して視認されやすくなることを効果的に回避しながら、光芒を目立たなくすることができる。とりわけ、図示された例では、拡幅部33の開口部35を区画する輪郭線が、その両端間において、当該両端を結ぶ直線よりも線状導電体側(内側)を延びている。このような拡幅部33によれば、光芒を目立たなくさせる機能を有した拡幅部33の存在が視認されてしまうことを効果的に回避することができる。
次に、発熱板10の製造方法の一例について、説明する。
まず、基材フィルム21上に第1の暗色層37を形成するようになる暗色膜を設ける。
次に、導電性金属層36を形成するようになる金属膜を暗色膜上に設ける。金属膜は、公知の方法で形成され得る。例えば、銅箔等の金属箔を貼着する方法、電界めっき及び無電界めっきを含むめっき法、スパッタリング法、CVD法、PVD法、イオンプレーティング法、又はこれらの二以上を組み合わせた方法を採用することができる。
その後、金属膜上に、レジストパターンを設ける。レジストパターンは、形成されるべき発熱用導電体30に対応した形となっている。すなわち、線状部32および拡幅部33を有する線状導電体31に対応した形となっている。このレジストパターンは、公知のフォトリソグラフィー技術を用いたパターニングにより形成することができる。
次に、レジストパターンをマスクとして、金属膜及び暗色膜をエッチングする。このエッチングにより、金属膜及び暗色膜がレジストパターンと略同一のパターンにパターニングされる。この結果、パターニングされた金属膜から、線状導電体31の一部をなすようになる導電性金属層36が、形成される。また、パターニングされた暗色膜から、線状導電体31の一部をなすようになる第1の暗色層37が、形成される。
なお、エッチング方法は特に限られることはなく、公知の方法が採用できる。公知の方法としては、例えば、エッチング液を用いるウェットエッチングや、プラズマエッチングなどが挙げられる。その後、レジストパターンを除去する。
その後、導電性金属層36の第1の暗色層37が設けられた面と反対側の面及び側面に第2の暗色層38を形成する。第2の暗色層38は、例えば導電性金属層36をなす材料の一部分に暗色化処理(黒化処理)を施して、導電性金属層36をなしていた一部分から、金属酸化物や金属硫化物からなる第2の暗色層38を形成することができる。また、導電性金属層36の表面に第2の暗色層38を設けるようにしてもよい。また、導電性金属層36の表面を粗化して第2の暗色層38を設けるようにしてもよい。
以上の工程によって、発熱用導電体30を有する導電体付きシート20が作製される。
最後に、発熱用導電体30の側から接合層13及び基板11を積層して、導電体付きシート20と基板11とを接合する。同様に、基材フィルム21の側から接合層14及び基板12を積層して、導電体付きシート20と基板12とを接合する。これにより、図3に示した発熱板10が作製される。
以上のように、本実施の形態によれば、発熱用導電体30は、電圧を印加されると発熱する発熱用導電体であって、複数の開口部35を形成するパターンで配置された複数の線状導電体31を備え、線状導電体31は他の線状導電体31と交差する交差部34と他の線状導電体31とは独立して延びる線状部32と交差部34と線状部32の間において線状導電体31の幅を拡幅させる拡幅部33とを有し、拡幅部33の輪郭は、曲率半径が15μm以上60μm以下の曲線部33aを含み、隣り合う開口部35の重心間距離は、250μm以上1500μm以下であり、線状部32の幅Wは、2μm以上15μm以下であり、線状導電体31の厚さHは、1μm以上30μm以下である。このような発熱用導電体30によれば、発熱用導電体30を介した視界において発生する光芒をぼやけさせ、目立たなくさせることができる。また、発熱用導電体30は、全体として透明に把握され、発熱用導電体30の存在が透視性を害さない。したがって、発熱用導電体30を有する発熱板10を介した視界を良好にすることができる。
また、本実施の形態の発熱用導電体30において、曲線部33aの長さは、20μm以上である。このような発熱用導電体30によれば、線状部32によって発生する光芒に対する、拡幅部33の曲線部33aによって発生する光芒の割合を、線状部32によって発生する光芒をぼやけさせるのに十分な割合とすることができる。
さらに、本実施の形態の発熱用導電体30において、曲線部33aは、開口部35に向けて凹な曲線となっている。このような発熱用導電体30によれば、線状導電体31の拡幅部33が曲線部33aとなっている発熱用導電体30を、容易に製造することができる。
また、本実施の形態の発熱用導電体30において、拡幅部33の幅w2は、当該拡幅部33に隣接する線状部32の幅w1の5倍以上10倍以下である。このような発熱用導電体30において、拡幅部33を線状部32より十分に拡幅させながら、拡幅部33の幅が線状部32に対して大きすぎて、発熱用導電体30を介した視界において、拡幅部33が視認されてしまうことを防止することができる。
なお、上述した実施の形態に対して様々な変更を加えることが可能である。
上述した実施の形態では、発熱板10が、基材フィルム21を有している導電体付きシート20を備える例を示したが、製造過程において基材フィルム21を剥離させる等によって、発熱板10中に基材フィルム21を有さないようにしてもよい。この場合、発熱板10の全体を薄型にすることができ、また軽量化することができる。さらに、発熱用導電体30から生じる熱を、発熱板10全体により早く伝達させることもできる。
前述した実施の形態において、発熱板10が曲面状に形成されている例を示したが、この例に限られず、発熱板10が、平板状に形成されていてもよい。
発熱板10は、自動車1のリアウィンドウ、サイドウィンドウやサンルーフに用いてもよい。また、自動車以外の、鉄道車両、航空機、船舶、宇宙船等の乗り物の窓或いは扉の透明部分に用いてもよい。
さらに、発熱板10は、乗り物以外にも、特に室内と室外とを区画する箇所、例えばビルや店舗、住宅の窓或いは扉の透明部分、建物の窓又は扉、冷蔵庫、展示箱、戸棚等の收納乃至保管設備の窓あるいは扉の透明部分等に使用することもできる。
なお、以上において上述した実施の形態に対するいくつかの変形例を説明してきたが、当然に、複数の変形例を適宜組み合わせて適用することも可能である。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
実施例および比較例として、発熱板10を以下のように作成した。まず、図5に示す正方格子パターンで作成した発熱用導電体30を厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートからなる基材フィルム21と合わせて、導電体付きシート20を作成した。この導電体付きシート20を、2mm厚のガラス製の基板11,12と、0.38mm厚のポリビニルブチラールからなる接合層13,14を介して接合することで、発熱板10とした。基板11,12等によって、発熱板10における発熱用導電体30以外の光の透過率は80%程度である。
実施例および比較例の発熱板10において、発熱用導電体30における線状導電体31の拡幅部33の輪郭の曲率半径が10μm、20μm、60μm、80μmとなっているサンプルを用意した。また、隣り合う開口部35の重心間距離Dが200μm、250μm、1500μm、1600μmとなっているサンプルを用意した。線状部32の線幅は6μm、線状導電体31の厚みは7μmとしている。曲率半径は、デジタルマイクロスコープ(キーエンス製VHX−100F)およびワイドレンジズームレンズ(キーエンス製VH−Z100)を用いた最大倍率(総合1000倍、撮像範囲0.30mm×0.23mm)における発熱板10の発熱用導電体30を透過する光の画像から、上述の測定器に付属の半径測定機能によって測定した。重心間距離は、光学顕微鏡での透過照明において撮像を行い、撮像した画像において各開口部35の重心点を決定することで、隣り合う重心点間の距離を測定した。
実施例および比較例における、発熱板10の透視性、線見え性、および、光を当てた際の発熱板10を介した視界における視認性を評価した。評価結果を、以下の表1に示す。透視性は、透過率を測定し、透過率が75%以上を基準に評価した。表1の「透視性」の欄において、透過率が75%以上となったサンプルに対して○を付し、透過率が75%未満となったサンプルに対して×を付した。線見え性は、発熱板10から60cm離れて、線状導電体31が視認されるか目視で確認した。表1の「線見え性」の欄において、線状導電体31が視認されなかったサンプルに対して○を付し、線状導電体31が視認されたサンプルに対して×を付した。視認性は、3m離れた位置から発熱板10に白色LED光源を当て、光源を観察した際に強い筋状の光となっている光芒や全方位に輝点が発生して視認性を悪化させるか目視で確認した。表1の「視認性」の欄において、視認性が大きく低下しなかったサンプルに対して○を付し、視認性が大きく低下したサンプルに対して×を付した。
透視性については、開口部35の重心間距離が250μm以上の場合に、透過率が75%以上となり、発熱用導電体30を有する発熱板10を介しても十分に明瞭な視界が得られることが確認された。一方、開口部35の重心間距離が200μmでは、発熱用導電体30を有する発熱板10を介した視界が薄暗く観察された。これは、重心間距離が小さすぎると、線状導電体31が密になりすぎてしまい、十分な透過率が得られないためである。
線見え性については、開口部35の重心間距離が1500μm以下の場合に、各線状導電体31が視認されないことが確認された。一方、開口部35の重心間距離が1600μmでは、線状導電体31が視認された。これは、重心間距離が大きくなりすぎると、線状導電体31が離れることによって各線状導電体31が視認されやすくなってしまうためである。
光源を当てた際の視認性については、拡幅部33の輪郭の曲率半径が20μm〜60μmで光芒や輝点が観察されず、良好な視認性であった。一方、曲率半径が10μmおよび80μmにおいては、発熱板10を介した視認性を悪化させる回折像が発生した。これは、曲率半径が小さすぎると、発熱用導電体30によって生じる光芒を、拡幅部33の曲線部33aによって十分にぼやけさせられることができないためであり、曲率半径が大きすぎると、曲線部33aによって発生する回折光が目立ってしまい、かえって視認性を悪化させるためである、と考えられる。
したがって、表1の実施例および比較例を踏まえると、実施例1〜4の範囲、具体的には、拡幅部33の輪郭の曲率半径が20μm以上60μm以下であり、重心間距離が250μm以上1500μm以下である場合において、発熱板10は、透視性が高く、発熱板10を介しても発熱用導電体30の線状導電体31が視認されず、光を当てた際に光芒等が生じて視認性を悪化させないことが理解される。
また、曲率半径20μm、重心間距離250μmとした実施例1に対し、曲率半径および重心間距離を一定にしたまま、曲線部33aの長さが18μm、20μmになっているサンプルを用意し、視認性について評価した。評価結果を以下の表2に示す。表2の「視認性」の欄において、視認性が大きく低下しなかったサンプルに対して○を付し、視認性がほとんど低下しなかったサンプルに対しては◎を付した。
曲線部33aの長さが20μmになると、18μmの場合に比べて、視認性がよりよくなることが確認された。これは、曲線部33aの長さが20μm以上となると、拡幅部33による光芒を十分に発生させることができるため、線状部32による光芒を分散させることができ、視認性がより改善されるためである。
さらに、曲率半径20μm、重心間距離250μmとした実施例1に対し、曲率半径および重心間距離を一定にしたまま、線状部32の幅に対する拡幅部33の幅の比が4,5,10,11になっているサンプルを用意し、線見え性および視認性について評価した。評価結果を以下の表3に示す。線見え性については、表3の「線見え性」の欄において、線状導電体31が視界の妨げにならない程度にしか視認されなかったサンプルに対して○を付し、肉眼では視認されなかったサンプルに対して◎を付した。視認性については、表3の「視認性」の欄において、視認性が大きく低下しなかったサンプルに対して○を付し、視認性がほとんど低下しなかったサンプルに対しては◎を付した。
線状部32の幅に対する拡幅部33の幅の比が10以下では、11の場合より、線見え性が向上していることが確認された。これは、幅の比が10より大きい場合、拡幅部33が大きくなり線状導電体31の交点が見えることによる線見えが発生するためである。また、線状部32の幅に対する拡幅部33の幅の比が5以上では、4の場合より、視認性が向上することが確認された。これは、線状部32の幅に対する拡幅部33の幅の比が5未満の場合、拡幅部33を十分にとることができず、拡幅部33による回折像が十分に発生しないためである。