JP2018034166A - 異材接合用アークスポット溶接法、接合補助部材、及び、異材溶接継手 - Google Patents

異材接合用アークスポット溶接法、接合補助部材、及び、異材溶接継手 Download PDF

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Abstract

【課題】アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金と、鋼との異材を、安価なアーク溶接設備を用いて、強固かつ信頼性の高い品質で接合でき、かつ開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる、異材接合用アークスポット溶接法、接合補助部材、及び、異材溶接継手を提供する。
【解決手段】異材溶接継手1は、アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の上板10と、上板10にアークスポット溶接された、鋼製の下板20と、を備え、上板10は、下板20との重ね合わせ面に臨む穴11を有し、円形の穴部33が形成される鋼製の接合補助部材30をさらに備え、接合補助部材30は、穴部33が上板10に設けられた穴11と同軸となるように上板10上に配置され、接合補助部材30の穴部33は、鉄合金、または、Ni合金の溶接金属40で充填されると共に、溶接金属40と、溶融された下板20及び接合補助部材30の一部とによって溶融部Wが形成される。
【選択図】図1A

Description

本発明は、異材接合用アークスポット溶接法、接合補助部材、及び、異材溶接継手に関する。
自動車を代表とする輸送機器には、(a)有限資源である石油燃料消費、(b)燃焼に伴って発生する地球温暖化ガスであるCO、(c)走行コストといった各種の抑制を目的として、走行燃費の向上が常に求められている。その手段としては、電気駆動の利用など動力系技術の改善の他に、車体重量の軽量化も改善策の一つである。軽量化には現在の主要材料となっている鋼を、軽量素材であるアルミニウム合金、マグネシウム合金、炭素繊維などに置換する手段がある。しかし、全てをこれら軽量素材に置換するには、高コスト化や強度不足になる、といった課題があり、解決策として鋼と軽量素材を適材適所に組み合わせた、いわゆるマルチマテリアルと呼ばれる設計手法が注目を浴びている。
鋼と上記軽量素材を組み合わせるには、必然的にこれらを接合する箇所が出てくる。鋼同士やアルミニウム合金同士、マグネシウム合金同士では容易である溶接が、異材では極めて困難であることが知られている。この理由として、鋼とアルミニウムあるいはマグネシウムの溶融混合部には極めて脆い性質である金属間化合物(IMC)が生成し、引張や衝撃といった外部応力で溶融混合部が容易に破壊してしまうことにある。このため、抵抗スポット溶接法やアーク溶接法といった溶接法が異材接合には採用できず、他の接合法を用いるのが一般的である。鋼と炭素繊維の接合も、後者が金属ではないことから溶接を用いることができない。
従来の異材接合技術の例としては、鋼素材と軽量素材の両方に貫通穴を設けてボルトとナットで上下から拘束する手段があげられる。また、他の例としては、かしめ部材を強力な圧力をかけて片側から挿入し、かしめ効果によって拘束する手段が知られている(例えば、特許文献1参照)。
さらに、他の例としては、アルミ合金素材に鋼製の接合部材をポンチとして押し込むことで穴あけと接合部材を仮拘束し、次に鋼素材と重ね合わせ、上下両方から銅電極にて挟み込んで、圧力と高電流を瞬間的に与えて鋼素材と接合部材を抵抗溶接する手段が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
また、他の例としては、摩擦攪拌接合ツールを用いてアルミ合金と鋼の素材同士を直接接合する手段も開発されている。(例えば、特許文献3参照)。
特開2002−174219号公報 特開2009−285678号公報 特許第5044128号公報
しかしながら、ボルトとナットによる接合法は、鋼素材と軽量素材が閉断面構造を構成するような場合(図24A参照)、ナットを入れることができず適用できない。また、適用可能な開断面構造の継手の場合(図24B、図24C参照)でも、ナットを回し入れるのに時間を要し能率が悪いという課題がある。
また、特許文献1に記載の接合法は、比較的容易な方法ではあるが、鋼の強度が高い場合には挿入できない問題があり、且つ、接合強度は摩擦力とかしめ部材の剛性に依存するので、高い接合強度が得られないという問題がある。また、挿入に際しては表・裏両側から治具で押さえ込む必要があるため、閉断面構造には適用できないという課題もある。
さらに、特許文献2に記載の接合法も、閉断面構造には適用できず、また、抵抗溶接法は設備が非常に高価であるという課題がある。
特許文献3に記載の接合法は、アルミ合金素材を低温領域で塑性流動させながら鋼素材面に圧力をかけることで、両素材が溶融し合うことがなく、金属間化合物の生成を防止しながら金属結合力が得られるとされ、鋼と炭素繊維も接合可能という研究成果もある。しかしながら、本接合法も閉断面構造には適用できず、また高い圧力を必要とするので機械的に大型となり、高価であるという問題がある。また、接合力としてもそれほど高くならない。
したがって、既存の異材接合技術は、(i)部材や開先形状が開断面構造に限定される、(ii)接合強度が低い、(iii)設備コストが高価であるといった一つ以上の問題を持っている。このため、種々の素材を組み合わせたマルチマテリアル設計を普及させるためには、(i’)開断面構造と閉断面構造の両方に適用できる、(ii’)接合強度が十分に高く、かつ信頼性も高い、(iii’)低コストであるという全ての要素を兼ね備えた、使いやすい新技術が求められている。
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、アルミニウム合金(以下「Al合金」とも言う)もしくはマグネシウム合金(以下、「Mg合金」とも言う)と鋼の異材を、既に世に普及している安価なアーク溶接設備を用いて、強固かつ信頼性の高い品質で接合でき、かつ開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる、異材接合用アークスポット溶接法、接合補助部材、及び、異材溶接継手を提供することにある。
ここで、Al合金もしくはMg合金と鋼を溶融接合させようとすると、上述したように金属間化合物(IMC)の生成が避けられない。一方、鋼同士の溶接は最も高い接合強度と信頼性を示すことは、科学的にも実績的にも自明である。
そこで、本発明者らは、鋼同士の溶接を結合力として用い、さらに拘束力を利用して異材の接合を達成する手段を考案した。
従って、本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の第1の板と、鋼製の第2の板と、を接合する異材接合用アークスポット溶接法であって、
前記第1の板に穴を空ける工程と、
前記第1の板と前記第2の板を重ね合わせる工程と、
円形の穴部が形成される鋼製の接合補助部材を、該穴部が前記第1の板に設けられた穴と同軸となるように前記第1の板上に配置する工程と、
以下の(a)〜(d)のいずれかの手法によって、前記接合補助部材の穴部を溶接金属で充填すると共に、前記第1の板の穴内の前記溶接金属を介して前記第2の板及び前記接合補助部材を溶接する工程と、
を備える異材接合用アークスポット溶接法。
(a)鉄合金、または、Ni合金の前記溶接金属が得られる溶接ワイヤを溶極として用いるガスシールドアーク溶接法。
(b)前記溶接ワイヤを溶極として用いるノンガスアーク溶接法。
(c)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるガスタングステンアーク溶接法。
(d)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるプラズマアーク溶接法。
(e)鉄合金、または、Ni合金の前記溶接金属が得られる被覆アーク溶接棒を溶極として用いる被覆アーク溶接法。
(2) 前記第2の板には、絞り加工により膨出部が形成されており、
前記重ね合わせ工程において、前記第2の板の膨出部が、前記第1の板の穴内に配置される、(1)に記載の異材接合用アークスポット溶接法。
(3) 前記重ね合わせ工程の前に、前記第1の板と前記第2の板の少なくとも一方の重ね合せ面には、前記穴の周囲に、全周に亘って接着剤を塗布する工程を、さらに備える、(1)又は(2)に記載の異材接合用アークスポット溶接法。
(4) 前記配置工程において、前記接合補助部材と、該接合補助部材と対向する前記第1の板との間の少なくとも一方の対向面に、接着剤を塗布する、(1)〜(3)のいずれかに記載の異材接合用アークスポット溶接法。
(5) 前記配置工程の際、又は、前記充填溶接工程後に、前記接合補助部材と、前記第1の板の表面との境界部に接着剤を塗布する、(1)〜(4)のいずれかに記載の異材接合用アークスポット溶接法。
(6) 前記接合補助部材の穴部の直径Pは、前記第1の板の穴の直径Bに対し50%以上100%以下である、(1)〜(5)のいずれかに記載の異材接合用アークスポット溶接法。
(7) 前記接合補助部材の外形寸法Pは、前記第1の板の穴の直径Bに対し105%以上である、(1)〜(6)のいずれかに記載の異材接合用アークスポット溶接法。
(8) 前記接合補助部材の厚さPは、前記第1の板の板厚Bの50%以上150%以下である、(1)〜(7)のいずれかに記載の異材接合用アークスポット溶接法。
(9) 前記充填溶接工程において、前記接合補助部材の表面上に余盛りが形成され、かつ前記余盛りの直径Wが、前記接合補助部材の穴部の直径Pに対し、105%以上となる、(1)〜(8)のいずれかに記載の異材接合用アークスポット溶接法。
(10) 前記第1の板には、複数の前記穴が空けられると共に、前記接合補助部材は、複数の前記穴部を備え、
前記接合補助部材の前記複数の穴部と、前記第1の板に設けられた前記複数の穴とが同軸上にそれぞれ配置され、
前記接合補助部材の前記複数の穴部を溶接金属でそれぞれ充填すると共に、前記第2の板及び前記接合補助部材を溶接する、(1)〜(9)のいずれかに記載の異材接合用アークスポット溶接法。
(11) (1)〜(10)のいずれかに記載の異材接合用アークスポット溶接法に用いられ、
鋼製で、円形の穴部が形成される、接合補助部材。
(12) アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の第1の板と、該第1の板にアークスポット溶接された、鋼製の第2の板と、を備える異材溶接継手であって、
前記第1の板は、前記第2の板との重ね合わせ面に臨む穴を有し、
円形の穴部が形成される鋼製の接合補助部材をさらに備え、
前記接合補助部材は、前記穴部が前記第1の板に設けられた穴と同軸となるように前記第1の板上に配置され、
前記接合補助部材の穴部は、鉄合金、または、Ni合金の溶接金属で充填されると共に、前記溶接金属と、溶融された前記第2の板及び前記接合補助部材の一部とによって溶融部が形成される、異材溶接継手。
(13) 前記第1の板の穴内には、前記第2の板に形成された膨出部が配置される、(12)に記載の異材溶接継手。
(14) 前記第1の板と前記第2の板の少なくとも一方の前記重ね合せ面には、前記穴の周囲に、全周に亘って設けられた接着剤を備える、(12)又は(13)に記載の異材溶接継手。
(15) 前記接合補助部材と、該接合補助部材と対向する前記第1の板との間の少なくとも一方の対向面に設けられた接着剤を備える、(12)〜(14)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(16) 前記接合補助部材と、前記第1の板の表面との境界部に設けられた接着剤を備える、(12)〜(15)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(17) 前記接合補助部材の穴部の直径Pは、前記第1の板の穴の直径Bに対し50%以上100%以下である、(12)〜(16)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(18) 前記接合補助部材の外形寸法Pは、前記第1の板の穴の直径Bに対し105%以上である、(12)〜(17)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(19) 前記接合補助部材の厚さPは、前記第1の板の板厚Bの50%以上150%以下である、(12)〜(18)のいずれかに記載の異材溶接継手。
(20) 前記接合補助部材の表面上に余盛りが形成され、かつ前記余盛りの直径Wが、前記接合補助部材の穴部の直径Pに対し、105%以上となる、(12)〜(19)のいずれかに記載の異材溶接継手。
本発明によれば、アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金と、鋼との異材を、安価なアーク溶接設備を用いて、強固かつ信頼性の高い品質で接合でき、かつ開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる。
本発明の一実施形態に係る異材溶接継手の斜視図である。 図1AのI−I線に沿った異材溶接継手の断面図である。 本実施形態の異材接合用アークスポット溶接法の穴開け作業を示す図である。 本実施形態の異材接合用アークスポット溶接法の重ね合わせ作業を示す図である。 本実施形態の異材接合用アークスポット溶接法の挿入作業を示す図である。 本実施形態の異材接合用アークスポット溶接法の溶接作業を示す図である。 接合補助部材の第1変形例の正面図である。 接合補助部材の第2変形例の正面図である。 接合補助部材の第3変形例の正面図である。 接合補助部材の第4変形例の正面図である。 接合補助部材の第5変形例の正面図である。 接合補助部材の第6変形例の正面図である。 余盛りが形成されない異材溶接継手を示す断面図である。 図4Aの異材溶接継手に板厚方向(3次元方向)の外部応力が作用した状態を示す断面図である。 図1Bの異材溶接継手に板厚方向(3次元方向)の外部応力が作用した状態を示す断面図である。 溶接金属の溶込みを説明するための異材溶接継手の断面図である。 溶接金属の溶込みを説明するための異材溶接継手の断面図である。 アルミ製の上板と鋼製の下板を重ねて貫通溶接した比較例としての異材溶接継手の斜視図である。 図7Aの異材溶接継手の断面図である。 図7Aの異材溶接継手にせん断引張が作用した状態を示す断面図である。 図8Aの異材溶接継手を示す斜視図である。 図7Aの異材溶接継手に上下剥離引張が作用した状態を示す断面図である。 図9Aの異材溶接継手を示す斜視図である。 穴を有するアルミ製の上板と鋼製の下板を重ねて貫通溶接した比較例としての異材溶接継手の斜視図である。 図10Aの異材溶接継手の断面図である。 図10Aの異材溶接継手にせん断引張が作用した状態を示す断面図である。 図10Aの異材溶接継手にせん断引張が作用し、接合部が90°近くずれた状態を示す斜視図である。 図10Aの異材溶接継手に上下剥離引張が作用した状態を示す断面図である。 図12Aの異材溶接継手を示す斜視図である。 上板と下板との間に空隙が存在するアーク溶接前の状態を示す上板、下板、及び接合補助部材の断面図である。 アーク溶接後の状態を熱収縮力と共に示す異材溶接継手の断面図である。 接合補助部材の寸法関係を説明するための上板、下板、及び接合補助部材の断面図である。 接合補助部材の穴部の直径が小さすぎる異材溶接継手にせん断方向の応力が作用した状態を示す断面図である。 接合補助部材の穴部の直径が小さすぎる異材溶接継手に上下剥離応力が作用した状態を示す断面図である。 異材接合用アークスポット溶接法の第1変形例を説明するための上板と下板の斜視図である。 異材接合用アークスポット溶接法の第1変形例を説明するための上板と下板の断面図である。 異材接合用アークスポット溶接法の第2変形例を説明するための上板と下板の斜視図である。 異材接合用アークスポット溶接法の第2変形例を説明するための上板と下板の断面図である。 異材接合用アークスポット溶接法の第3変形例を説明するための上板、下板、及び接合補助部材の斜視図である。 異材接合用アークスポット溶接法の第3変形例を説明するための上板、下板、及び接合補助部材の断面図である。 第3変形例において、横向き姿勢でアーク溶接が施されている状態を示す図である。 異材接合用アークスポット溶接法の第4変形例を説明するための異材溶接継手の斜視図である。 異材接合用アークスポット溶接法の第4変形例を説明するための異材溶接継手の断面図である。 図1A及び図1Bの接合補助部材を示す上面図、側面図、及び下面図である。 接合補助部材の第7変形例を示す上面図、側面図、及び下面図である。 接合補助部材の第8変形例を示す上面図、側面図、及び下面図である。 異材接合用アークスポット溶接法、及び異材溶接継手の第5変形例を説明するための断面図である。 図22の下板に膨出部を絞り加工する前の状態を示す図である。 図22の下下板に膨出部が絞り加工された後の状態を示す図である。 本実施形態の異材溶接継手が適用された閉断面構造を示す斜視図である。 本実施形態の異材溶接継手が適用された、L字板と平板による開断面構造を示す斜視図である。 本実施形態の異材溶接継手が適用された、2枚の平板による開断面構造を示す斜視図である。 複数の穴部を有する接合補助部材を使用しつつ、本実施形態の異材溶接継手が適用された、閉断面構造を示す斜視図である。 複数の穴部を有する接合補助部材を使用しつつ、本実施形態の異材溶接継手が適用された、L字板と平板による開断面構造を示す斜視図である。 複数の穴部を有する接合補助部材を使用しつつ、本実施形態の異材溶接継手が適用された、2枚の平板による開断面構造を示す斜視図である。 複数の穴部を有する接合補助部材の一例を示す正面図及び断面図である。 複数の穴部を有する接合補助部材の他の例を示す正面図及び断面図である。 複数の穴部を有する接合補助部材のさらに他の例を示す正面図及び断面図である。
以下、本発明の一実施形態に係る異材接合用アークスポット溶接法、接合補助部材、及び、異材溶接継手を図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態の異材接合用アークスポット溶接法は、互いに重ね合わせされる、アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の上板10(第1の板)と、鋼製の下板20(第2の板)とを、鋼製の接合補助部材30を介して、後述するアークスポット溶接法によって接合することで、図1A及び図1Bに示すような異材溶接継手1を得るものである。
上板10には、板厚方向に貫通して、下板20の重ね合わせ面に臨む円形の穴11が設けられている。
接合補助部材30は、円形の穴部33を有して円環状に形成されている。接合補助部材30は、穴部33が上板10に設けられた穴11と同軸となるように上板10上に配置されている。なお、接合補助部材30の外形形状は、図1Aに示すような円形に限定されず、任意の形状とすることができる。例えば、図3Aに示す楕円や、図3B〜図3Fに示す四角形以上の多角形でもよい。また、図3Cや図3Fに示すように、多角形の角部を丸くしてもよい。さらに、これらの非円形の接合補助部材30では、後述する外径寸法Pは、最も短い対向面間距離で規定される。
さらに、接合補助部材30の穴部33には、アークスポット溶接によってフィラー材(溶接材料)が溶融した、鉄合金、または、Ni合金の溶接金属40が充填されると共に、溶接金属40と、溶融された下板20及び接合補助部材30の一部とによって溶融部Wが形成される。したがって、溶融部Wは、上板10の穴11内にも配置されて、接合補助部材30と下板20とを溶接しており、これによって、上板10と下板20とが接合される。
以下、異材溶接継手1を構成する異材接合用アークスポット溶接法について、図2A〜図2Dを参照して説明する。
まず、図2Aに示すように、上板10に穴11を空ける穴開け作業を行う(ステップS1)。次に、図2Bに示すように、上板10と下板20を重ね合わせる重ね合わせ作業を行う(ステップS2)。さらに、図2Cに示すように、接合補助部材30を、穴部33が上板10に設けられた穴11と同軸となるように上板10上に配置する(ステップS3)。そして、図2Dに示すように、以下に詳述する(a)溶極式ガスシールドアーク溶接法、(b)ノンガスアーク溶接法、(c)ガスタングステンアーク溶接法、(d)プラズマアーク溶接法、(e)被覆アーク溶接法のいずれかのアーク溶接作業を行うことで、上板10と下板20とを接合する(ステップS4)。なお、図2Dは、(a)溶極式ガスシールドアーク溶接法を用いてアーク溶接作業が行われた場合を示している。
ステップS1の穴開け作業の具体的な手法としては、a)電動ドリルやボール盤といった回転工具を用いた切削、b)ポンチを用いた打抜き、c)金型を用いたプレス型抜き、d)レーザ、プラズマ、ウォータージェット法などによる切断があげられる。
また、ステップS4のアーク溶接作業は、上板10の穴11内の溶接金属40を介して接合補助部材30と下板20を接合し、かつ接合補助部材30に設けられた穴部33を充填するために必要とされる。したがって、アーク溶接には充填材となるフィラー材(溶接材料)の挿入が不可欠となる。具体的に、以下の4つのアーク溶接法により、フィラー材が溶融して溶接金属40が形成される。
(a) 溶極式ガスシールドアーク溶接法は、一般的にMAG(マグ)やMIG(ミグ)と呼ばれる溶接法であり、ソリッドワイヤもしくはフラックス入りワイヤをフィラー兼アーク発生溶極として用い、CO,Ar,Heといったシールドガスで溶接部を大気から遮断して健全な溶接部を形成する手法である。
(b)ノンガスアーク溶接法は、セルフシールドアーク溶接法とも呼ばれ、特殊なフラックス入りワイヤをフィラー兼アーク発生溶極として用い、一方、シールドガスを不要として、健全な溶接部を形成する手段である。
(c)ガスタングステンアーク溶接法は、ガスシールドアーク溶接法の一種であるが非溶極式であり、一般的にTIG(ティグ)とも呼ばれる。シールドガスは、ArまたはHeの不活性ガスが用いられる。タングステン電極と母材との間にはアークが発生し、フィラーワイヤはアークに横から送給される。
一般的に、フィラーワイヤは通電されないが、通電させて溶融速度を高めるホットワイヤ方式TIGもある。この場合、フィラーワイヤにはアークは発生しない。
(d)プラズマアーク溶接法はTIGと原理は同じであるが、ガスの2重系統化と高速化によってアークを緊縮させ、アーク力を高めた溶接法である。
(d)被覆アーク溶接法は、金属の芯線にフラックスを塗布した被覆アーク溶接棒をフィラーとして用いるアーク溶接法であり、シールドガスは不要である。
フィラー材(溶接材料)の材質については、溶接金属40がFe合金となるものであれば、一般的に用いられる溶接用ワイヤまたは溶接棒が適用可能である。なお、Ni合金でも鉄との溶接には不具合を生じないので適用可能である。
具体的には、JISとして(a)Z3312,Z3313,Z3317,Z3318,Z3321,Z3323,Z3334、(b)Z3313、(c)Z3316,Z3321,Z3334,(d)Z3211,Z3221,Z3223,Z3224、AWS(American Welding Society)として、(a)A5.9,A5.14,A5.18,A5.20,A5.22,A5.28,A5.29,A5.34、(b)A5.20、(c)A5.9,A5.14,A5.18,A5.28,(d)A5.1,A5.4,A5.5,A5.11といった規格材が流通している。
これらのアーク溶接法を用いて接合補助部材30の穴部33をフィラー材で充填するが、一般的にフィラーワイヤもしくは溶接棒の狙い位置は移動させる必要がなく、適切な送給時間を経てアークを切って溶接を終了させれば良い。ただし、穴部33の面積が大きい場合は、フィラーワイヤもしくは溶接棒の狙い位置を穴部33内で円を描くように移動させても良い。
溶接金属40は接合補助部材30の穴部33を充填し、さらに接合補助部材30の表面に余盛りWaを形成するのが望ましい(図1B参照)。余盛りを形成しない、すなわち、図4Aに示すように、穴部33が溶接後に外観上残る状態だと、特に、板厚方向(3次元方向)の外部応力に対しては、接合強度が不足となる可能性がある(図4B参照)。このため、余盛りWaを形成することで、図5に示すように、板厚方向(3次元方向)の外部応力に対しては、接合補助部材30の変形が抑えられ、高い接合強度が得られる。
一方、余盛り側と反対側の溶込みについては、図6Aに示すように、下板20を適度に溶融していることが必要である。なお、図6Bに示すように、下板20の板厚を超えて溶接金属40が形成される、いわゆる裏波が出る状態にまで溶けても問題はない。
ただし、下板20が溶けずに、溶接金属40が乗っかっているだけであると、高い強度は得られない。また、溶接金属40が深く溶け込みすぎて、溶接金属40と下板20が溶け落ちてしまわないように溶接する必要がある。
以上の作業によって、Al合金やMg合金製の上板10と鋼製の下板20は高い強度で接合される。
以下、上記アークスポット溶接法において使用される鋼製の接合補助部材30の役割について説明する。
まず、接合補助部材を使用せず、図7A及び図7Bに示すように、単純にアルミ製の上板10と鋼製の下板20とを重ね、上板側から鋼もしくはニッケル合金製溶接ワイヤを用いたアーク溶接を定点で一定時間保持したアークスポット溶接を行った場合、形成される溶接金属40aはアルミと鋼、もしくはアルミと鋼とニッケルの合金となる。この合金は、アルミ含有量が多いので脆性的特性である金属間化合物(IMC)を呈している。このような異材溶接継手100aは、一見接合されている様に見えても、横方向に引張応力がかかる(せん断引張)と、図8A及び図8Bに示すように、溶接金属40aが容易に破壊して、外れてしまう。また、縦方向に引張応力がかかる(剥離引張)場合でも、図9A及び図9Bに示すように、溶接金属40aが破断するか、もしくは溶接金属40aと上板10の境界部あるいは溶接金属40aと下板20の境界部が破断し、上板13が抜けるようにして接合が外れてしまう。
このように単にアルミ製の上板10と鋼製の下板20を重ねて、貫通溶接しようとしても、溶接金属40aは全部分が金属間化合物になってしまうので、せん断引張にも剥離引張にも弱く、溶接継手としては実用にならない。
また、図10A及び図10Bに示すように、上板10に適当なサイズの穴11を開けておき、その穴11を埋めるように鋼もしくはニッケル合金の溶接材料を溶かし込む手法が考えられる。
この場合、溶接初期に形成される下板20となっている鋼と溶接材料で形成される溶接金属40bはアルミを溶かしていないので、金属間化合物は生成せず、高い強度と靱性を有しており、下板20と強固に結合されている。また、上板10に開けられた穴11の内部に形成された溶接金属40bは、アルミが溶融する割合が非常に少なく、金属間化合物の生成は大幅に抑制され、特に中心部は健全性を有している。ただし、上板10に設けられた穴11の近傍に限れば、アルミと鋼、あるいはアルミとニッケルの金属化合物層を形成する。このような異材溶接継手100bに対し、図11Aに示すように、せん断引張応力がかかった場合、下板側は強固に金属結合しているため、高い応力に耐える。一方、上板側は金属間化合物が穴周囲に形成されてはいるが、それが剥離して動くことは形状的にできないため、初期には上板10、下板20の母材が変形する。このため、ほぼ変形せずに脆性破断する図7A及び図7Bの異材溶接継手100aと比較すると、変形能力の向上が見られる。しかし、母材の変形が進み、図11Bに示すように、接合部が90°近く傾斜すると上下剥離引張と同じ状態になる。このようになると穴11の周囲部に形成された金属間化合物が剥離し、上板10が溶接部から容易に抜けてしまう。つまり、改善が不十分である。この結果は、図12A及び図12Bに示すように、上下引張方向試験でも無論同じである。
上記2つの異材溶接継手100a、100bにおける課題から、せん断方向の引張応力及び上下剥離方向の応力にも耐えるように本実施形態の接合補助部材30が使用される。つまり、図2A〜図2Dに示すように、上板10に穴開けを施し、さらに中心に穴部33が空いている鋼製の接合補助部材30を同軸上に載せて、上板10および接合補助部材30の内部を充填するようにアーク溶接にて溶接金属40を形成する。このようにすると、断面としては接合補助部材30、溶接金属40、下板20が強固な金属結合によって溶接接合されている状態になる。上板10に設けられた穴11よりも幅広である接合補助部材30の最大の役割は、上下剥離応力に対する抵抗である。図5に示したように、適切なサイズの接合補助部材30を適用することにより、上板10と溶接金属40の界面が剥離して抜けてしまう現象を防止することが可能となる。一般的に、溶接金属40は、十分に塑性変形した後、破断する。なお、接合補助部材30は、せん断方向の引張応力に対しても、初期応力に対して悪影響を及ぼすことはなく、さらに母材変形による溶接部が90°傾斜(図11B参照)後の剥離応力変化に対して、上板10と溶接金属40の界面が剥離して抜けてしまう現象を防止する。
また、詳細後述するが、接合補助部材30は、外径寸法P(円形の場合、直径)が大きく、かつ厚さPが大きいほど板厚方向(3次元方向)の外部応力に対して強度を増すため、望ましい。だが、必要以上に大きいと重量増要因や、上板10の表面からの出っ張り過剰により、美的外観劣化や近接する他の部材との干渉が生じる。このため、接合補助部材30のサイズは、必要設計に応じて決定される。
さらに、詳細後述するが、接合補助部材30の穴部の直径Pは上板10に設けられた穴径Pと同じか、もしくは小さくなければならない。接合補助部材30の穴部の直径Pの方が大きければ、Al合金やMg合金が超高温であるアークに当たって沢山溶融し、形成される溶接金属40内に多量の金属間化合物を形成して脆化しやすくなるためである。また、アーク溶接時にAlやMgが蒸発し、多量のスパッタやヒュームを発生して周囲環境を汚染する。AlやMgはできるだけ溶融や蒸発させないことが、本溶接法では重要であり、ゆえに溶接金属40が接合補助部材30の高さに到達するまでは露出していないことが必要である。
また、接合補助部材30は、Al合金もしくはMg合金である上板10と鋼である下板20とを重ね合わせる際に、重ね合わせ面に生じる空隙(ギャップ)gを最小化する役割を果たす(図13A参照)。アーク溶接工程では、溶接金属40は熱収縮するため、その際、下板20と接合補助部材30が共に近づく方向に力が作用する。それによって、溶接前に多少の空隙gがあっても、図13Bに示すように、溶接後には空隙gは減少し、接合部の設計精度が高まる。
なお、鋼製の接合補助部材30の材質は、純鉄および鉄合金であれば、特に制限されるものでなく、例えば、軟鋼、炭素鋼、ステンレス鋼などがあげられる。
また、接合補助部材30の各種寸法は、図14に示すように、上板10との関係で次のように設定される。
・穴部直径P
穴部33の直径Pは、上板10の穴11の直径Bに対し50%以上100%以下に設計される。上述したように、接合補助部材30の穴部33の直径Pが上板10に空けられる穴11の直径Bと同じか、もしくは小さくなければならない(即ち、100%以下)。しかしながら、穴部33の直径Pが小さすぎるのは望ましくない。穴部33の直径Pが穴11の直径Bに対し50%未満であると、図15Aに示すように、形成される溶接金属40と上板10の穴壁間に空隙が出来、せん断方向の応力が作用すると大きな位置ずれを起こしやすくなる。また、上下剥離応力に対しても、図15Bに示すように、接合補助部材30が変形して抜けやすくなる。これらの理由により、接合補助部材30の穴部33の直径Pが上板10に空けられる穴11の直径Bに対し50%以上とするのが望ましい。
・接合補助部材の外形寸法(円形の場合、直径)P
接合補助部材30の外形寸法Pは、上板10の穴11の直径Bに対し105%以上に設計される。接合補助部材30は、上述したように、板厚方向への外部応力、言い換えれば引き剥がす応力が働いた際への抵抗力としての主体的役割を果たす。接合補助部材30は外形寸法Pが大きく、かつ厚さが大きいほど板厚方向(3次元方向)の外部応力に対して強度を増すため、望ましい。接合補助部材30の外形寸法Pが穴11の直径Bに対し105%未満では、接合補助部材30が板厚方向への外部応力に対して弾塑性変形した場合に、上板10の穴11の直径B以下の見かけ直径に容易になりやすく、さすれば上板10が抜けてしまいやすくなる。つまり、接合補助部材30が高い抵抗力を示さない。したがって、接合補助部材30の外形寸法Pは、穴11の直径Bの105%を下限とする。より好ましくは、接合補助部材30の外形寸法Pは、穴11の直径Bの120%を下限とするとよい。一方、接合部強度の観点では上限を設ける必要は無い。
・接合補助部材の厚さP
接合補助部材30の厚さPは、上板10の板厚Bの50%以上150%以下に設計される。上記で述べたとおり、接合補助部材30は外形寸法Pが大きく、かつ厚さPが大きいほど板厚方向(3次元方向)の外部応力に対して強度を増すため、望ましい。この接合補助部材30の厚さPは継手の上板10の板厚Bに応じて大きくすることで高い抵抗力を発揮する。接合補助部材30の厚さPが上板10の板厚Bの50%未満では、接合補助部材30が板厚方向への外部応力に対して容易に弾塑性変形を生じ、上板10の穴11の直径B以下の見かけ直径になると、抜けやすくなる。つまり、接合補助部材30が高い抵抗力を示さない。したがって、接合補助部材30の厚さPは上板10の板厚Bの50%を下限とする。一方、接合補助部材30の厚さPが上板10の板厚Bの150%を超えて大きくすると、継手強度的には問題ないが、過剰に張り出した形状となって外観が悪いだけでなく、重量も重くなる。したがって、接合補助部材30の厚さPは、上板10の板厚Bの150%以下にすることが必要である。
また、図1Bに示すように、アークによる充填溶接工程において、接合補助部材30の表面上に余盛りWaが形成される際、余盛りWaの直径Wは、接合補助部材30の穴部33の直径Pの105%以上に設定される。
上述のとおり、接合補助部材30は、板厚方向(3次元方向)の外部応力に対して抵抗力を発揮する役割があるが、穴部33を完全に埋めなければ高い抵抗力を発揮しない。穴部33が完全に埋まらず、穴部33の内側面が残った状態であると、接合補助部材30と溶接金属40との結合面積が不足し、容易に外れてしまうことがある。接合補助部材30と溶接金属40の結合面積を高めるためには、完全に充填し、余盛りWaが形成されることが望ましい。余盛りWaが形成されると、その直径Wは接合補助部材30の穴部33の直径Pを超えることになる。余盛りWaの直径Wは、接合補助部材30の穴部33の直径Pの105%以上とすると確実に余盛り形成されたことになるため、これを下限値とする。
なお、上板10及び下板20の板厚については、限定される必要は必ずしもないが、施工能率と、重ね溶接としての形状を考慮すると、上板10の板厚は、4.0mm以下であることが望ましい。一方、アーク溶接の入熱を考慮すると、板厚が過度に薄いと溶接時に溶け落ちてしまい、溶接が困難であることから、上板10、下板20共に0.5mm以上とすることが望ましい。
以上の構成により、上板10がアルミニウム合金もしくはマグネシウム合金、下板20が鋼の素材を強固に接合することができる。
ここで、異種金属同士を直接接合する場合の課題としては、IMCの形成という課題以外に、もう一つの課題が知られている。それは、異種金属同士が接すると、ガルバニ電池を形成する為に腐食を加速する原因になる。この原因(電池の陽極反応)による腐食は電食と呼ばれている。異種金属同士が接する面に水があると腐食が進むので、接合箇所として水が入りやすい場所に本実施形態が適用される場合は、電食防止を目的として、水の浸入を防ぐためのシーリング処理を施す必要がある。本接合法でもAl合金やMg合金と鋼が接する面は複数形成されるので、樹脂系の接着剤をさらなる継手強度向上の目的のみならず、シーリング材として用いることが好ましい。
例えば、図16A及び図16Bに示す第1変形例のように、上板10及び下板20の接合面で、溶接部周囲に接着剤60を全周に亘って環状に塗布してもよい。なお、接着剤60を上板10及び下板20の接合面で、溶接部周囲に全周に亘って塗布する方法としては、図17A及び図17Bに示す第2変形例のように、溶接箇所を除いた接合面の全面に塗布する場合も含まれる、これにより、上板10、下板20、及び溶接金属40の電食速度を下げることができる。
また、図18A及び図18Bに示す第3変形例のように、上板10の穴11の周囲と接合補助部材30の下面との間に接着剤60を塗布してもよい。これにより、上板10、接合補助部材30、及び溶接金属40の電食速度を下げることができる。
この場合、副次的効果として、アーク溶接前に接合補助部材30を上板10に仮止めしておく作用がある。特に、図19に示すように、アーク溶接が、横向や上向姿勢になる場合、接着剤60を塗布しておくことで、接合補助部材30が重力によって落下するのを防ぐことができ、溶接を適切に施工することができる。
さらに、図20A及び図20Bに示す第4変形例のように、接合補助部材30と上板10の表面との境界部に接着剤60を塗布してもよい。これにより、電食速度低下の効果が得られると共に、接着剤塗布をアーク溶接前に行えば、接合補助部材30を上板10に仮止めしておく作用が得られる。なお、図18A及び図18Bに示す第3変形例では、塗布は溶接工程前にしか実施できないが、図20A及び図20Bに示す第4変形例では、塗布は溶接工程前でも溶接工程後でも可能である。
なお、接合補助部材30の上板10との接触面は、図21Aに示すように、必ずしも平坦な面である必要はない。即ち、接合補助部材30の上板10との接触面は、図21B及び図21Cに示すように、必要に応じてスリット34a、34bを設けて良い。特に、上板10との接触面側に円周状のスリット34a又は放射状のスリット34bを設けると、接着剤60の塗布がスリット34a、34bの隙間に入り込んで逃げなくなるため、安定した接着が行なわれ、シーリングの効果も確実となる。このような平坦ではない面の場合の接合補助部材30の厚さPの定義は、高さの最も大きな部分とする。
さらに、図22に示す第5変形例のように、下板20に膨出部21を設けてもよい。
典型的に、AlやMg合金製上板10の板厚が大きな場合がある。上板10の板厚が大きいと、溶接工程で溶接ワイヤを沢山溶融して、上板10の穴11を越えて接合補助部材30の穴部33を埋める必要があり、熱量が過大となって、充填完了するより先に下板20の鋼板が溶け落ちしてしまいやすくなる。このため、下板20について絞り加工で膨出部21を設ければ、穴11の体積が小さくなるので溶け落ち欠陥を防ぎながら、充填することができる。
また、第5変形例では、下板20の膨出部21は、上板10と下板20とを位置合わせをするための目印となり、下板20の膨出部21と上板10の穴11を容易に合わせることができ、重ね合わせ作業の効率向上につながる。
なお、膨出部21の絞り加工は、図23Aに示すように、下板20の膨出部21が形成される部分の周辺部をダイ50で拘束する。そして、図23Bに示すように、膨出部21が形成される部分に圧力をかけてポンチ51を押し込むことで、膨出部21が成形される。
また、本実施形態の溶接法は、接合面積が小さい点溶接と言えるので、ある程度の接合面積を有する実用部材同士の重ね合わせ部分Jを接合する場合は、本溶接法を図24A〜図24Cに示すように、複数実施すればよい。これにより、重ね合わせ部分Jにおいて強固な接合が行われる。本実施形態は、図24B及び図24Cに示すような開断面構造にも使用できるが、特に、図24Aに示すような閉断面構造において好適に使用することができる。
また、実用部材同士の重ね合わせ部分Jを接合する場合、強度や剛性を確保する観点から、近接した領域に複数の接合部を設けることが一般的である。図24A〜図24Cに示すような継手では、全ての溶接位置毎に接合補助部材30を一枚ずつ挿入している。しかしながら、近接した領域に複数の溶接位置がある場合には、図25A〜図25Cに示すように、複数の溶接位置の距離に合わせた複数の穴部33を持った接合補助部材30Aを使用するほうが、接合補助部材30の配置の作業性を向上できる。
図26A〜図26Cは、複数の穴部33を有する接合補助部材30Aの各例をそれぞれ示している。このような接合補助部材30Aを使用する場合には、上板10にも複数の穴11が空けられ、接合補助部材30Aの複数の穴部33と、上板10に設けられた複数の穴11とが同軸上にそれぞれ配置される。そして、接合補助部材30の複数の穴部33を溶接金属40でそれぞれ充填すると共に、下板20及び接合補助部材30を溶接する。なお、図26Cの角丸四角形の接合補助部材30Aにおいて、穴部33の中心から四角形の一辺までの距離Pの寸法規定は、上述した上板10との関係で与えられる外形寸法Pを用いて、P=2・Pとして与えられる。
以上説明したように、本実施形態の異材接合用アークスポット溶接法によれば、上板10に穴11を空ける工程と、上板10と下板20を重ね合わせる工程と、円形の穴部33が形成される鋼製の接合補助部材30を、該穴部33が上板10に設けられた穴11と同軸となるように上板10上に配置する工程と、以下の(a)〜(d)のいずれかの手法によって、接合補助部材30の穴部33を溶接金属40で充填すると共に、上板10の穴11内の溶接金属40を介して下板20及び接合補助部材30を溶接する工程と、を備える。
(a)鉄合金、または、Ni合金の溶接金属40が得られる溶接ワイヤを溶極として用いるガスシールドアーク溶接法。
(b)前記溶接ワイヤを溶極として用いるノンガスアーク溶接法。
(c)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるガスタングステンアーク溶接法。
(d)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるプラズマアーク溶接法。
(e)鉄合金、または、Ni合金の溶接金属40が得られる被覆アーク溶接棒を溶極として用いる被覆アーク溶接法。
これにより、Al合金もしくはMg合金の上板10と鋼の下板20を、安価なアーク溶接設備を用いて、強固かつ信頼性の高い品質で接合でき、かつ開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる。
また、下板20には、絞り加工により膨出部21が形成されており、重ね合わせ工程において、下板20の膨出部21が、上板10の穴11内に配置される。これにより、上板10の板厚が大きな場合でも溶け落ち欠陥を防止して溶接することができ、また、上板10と下板20を容易に位置決めすることができる。
また、重ね合わせ工程の前に、上板10と下板20の少なくとも一方の重ね合せ面には、穴11の周囲に、全周に亘って接着剤60を塗布する工程を、さらに備える。これにより、接着剤は、継手強度向上の他、シーリング材として作用し、上板10、下板20及び溶接金属40の電食速度を下げることができる。
また、配置工程において、接合補助部材30と、該接合補助部材と対向する上板10との間の少なくとも一方の対向面に、接着剤60を塗布する。これにより、上板10、接合補助部材30及び溶接金属40の電食速度を下げることができる。
また、配置工程の際、又は、充填溶接工程後に、接合補助部材30と、上板10の表面との境界部に接着剤60を塗布する。これにより、上板10と接合補助部材30の接合強度を向上することができる。なお、挿入工程の際に、接着剤60を塗布すれば、接合補助部材30を仮止めできる作用が得られる。
また、接合補助部材30の穴部33の直径Pは、上板10の穴11の直径Bに対し50%以上100%以下であるので、溶接金属40内の金属間化合物の抑制、及び、せん断応力による位置ずれや、上下剥離応力による上板10の抜けを防止することができる。
また、接合補助部材30の外径寸法Pは、上板10の穴11の直径Bに対し105%以上であるので、接合補助部材30は、板厚方向の外部応力への抵抗力として機能することができる。
また、接合補助部材30の厚さPは、上板10の板厚Bの50%以上150%以下であるので、接合補助部材30は、外観性及び重量増を考慮しつつ、板厚方向の外部応力への抵抗力として機能することができる。
また、充填溶接工程において、接合補助部材の表面上に余盛りWaが形成され、かつ余盛りWaの直径Wが、接合補助部材30の穴部33の直径Pに対し、105%以上となるので、余盛りWaは、板厚方向の外部応力への抵抗力として機能することができる。
また、上板10には、複数の穴11が空けられると共に、接合補助部材30は、複数の穴部33を備え、接合補助部材30の複数の穴部33と、上板10に設けられた複数の穴11とが同軸上にそれぞれ配置され、接合補助部材30の複数の穴部33を溶接金属40でそれぞれ充填すると共に、下板20及び接合補助部材30を溶接する。これにより、複数の接合部を設ける場合に、接合補助部材30の配置の作業性を向上できる。
また、本実施形態の接合補助部材30は、鋼製で、円形の穴部33が形成される。これにより、接合補助部材30は、上述した異材接合用アークスポット溶接法に好適に用いられる。
また、本実施形態の異材溶接継手1は、アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の上板10と、上板10にアークスポット溶接された、鋼製の下板20と、を備え、上板10は、下板20との重ね合わせ面に臨む穴11を有し、円形の穴部33が形成される鋼製の接合補助部材30をさらに備え、接合補助部材30は、穴部33が上板10に設けられた穴11と同軸となるように上板10上に配置され、接合補助部材30の穴部33は、鉄合金、または、Ni合金の溶接金属40で充填されると共に、溶接金属40と、溶融された下板20及び接合補助部材30の一部とによって溶融部Wが形成される。
これにより、Al合金もしくはMg合金の上板10と鋼の下板20とを備えた異材溶接継手1は、安価なアーク溶接設備を用いて、強固かつ信頼性の高い品質で接合され、かつ開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる。
尚、本発明は、前述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
ここで、以下の実施例A〜Dを用いて、本実施形態の有効性を確認した。
<実施例A>
実施例Aでは、上板10を板厚1.6mmのアルミニウム合金A5083、下板20を板厚1.4mmの590MPa級高張力鋼板とした組合せの重ね継手を用いた。また、この重ね継手は、直径1.2mmのJIS Z3312 YGW16の鋼製溶接ワイヤを用い、Ar80%+CO20%の混合ガスをシールドガスとしたマグ溶接法にて、一定時間定点でのアーク溶接を行って接合された。
この溶接継手1に対して、JIS Z3136「抵抗スポット及びプロジェクション 溶接継手のせん断試験に対する試験片寸法及び試験方法」、およびJIS Z3137「抵抗スポット及びプロジェクション溶接継手の十字引張試験」に従って、破壊試験を行った。ここでは、Z3136の引張強度をTSSとして表し、Z3137の引張強度をCTSとして表す。合否判定値として、TSS≧8kN、CTS≧5kNとした。
さらに、必須ではないが好ましい性能値として、溶接継手を塩水噴霧→乾燥→湿潤を繰り替えして加速腐食させるJASO−CCT(Japanese Automobile Standards Organization Cyclic Corrosion Test)を28日間実施し、その後同様に破壊試験を実施して、腐食後TSSおよび腐食後CTSを取得した。これら好ましい性能値の合格判定値は腐食無し試験の値に対し80%以上とした。
表1では、比較例をNo.A1〜A5、本実施例をNo.A6〜A15に示す。
Figure 2018034166
No.A1は、接合補助部材を用いず、上板10に穴も開けず、上板10に対して直接アーク溶接を実施したものである。また、接着剤も用いていない。鋼製溶接ワイヤとアルミ母材が溶融混合するので、形成された溶接金属は極めて脆い金属間化合物となり、低いTSS,CTSとなった。
No.A2は上板10に直径7.0mmの穴11を設けるが、接合補助部材30を用いないでアーク溶接を実施したものである。No.A1に比べると溶接金属のアルミ混合量が低下するので、金属間化合物量が少なく、脆化度合も低いが、それでもなお低いTSS,CTSであった。
No.A3は穴開けをしていない上板10の上に接合補助部材30を載せて、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30の材質はJIS G3106 SM490Cであり、外形形状が円形である(以降、実施例Aの材質、外径形状は同じ)。なお、ここでは接合補助部材30には穴開けをしていない。この結果、接合補助部材30と上板10を貫通して下板20まで溶け込ますことができず、溶接することができなかった。
No.A4は直径7.0mmの穴11を穴開けした上板10の上に接合補助部材30を載せて、その上からアーク溶接したものである。なお、ここでは接合補助部材30には穴開けをしていない。この結果、接合補助部材30を貫通して下板20まで溶け込ますことは何とかできたものの、下板20の溶込み幅が非常に小さく、破壊試験をすると容易に破断した。
No.A5は穴開けをしていない上板10の上に接合補助部材30を載せて、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30には直径5.0mmの穴開けをしている。この結果、溶接金属はNo.A1と同様に鋼製溶接ワイヤとアルミ母材が溶融混合したものになるので、形成された溶接金属は極めて脆い金属間化合物となり、低いTSS,CTSとなった。
一方、No.A6〜A15は、直径7.0mmの穴11を穴開けをした上板10の上に接合補助部材30を載せて、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30には本発明の範囲の適当な径の穴開けを施している。これらの試験体では形成される溶接金属40のアルミ流入が接合補助部材30の存在によりゼロもしくは極めて低く抑制され、高品質の溶接金属が形成される。さらに、下板20の溶込みも十分大きくなり、また接合補助部材30が上板10の穴11に対して広い面積を有する構造となっているため、十字引張試験ではすっぽ抜けが防げて高いCTSも得られた。さらにまた、適切な箇所に金属用常温速硬化型2液混合接着材を塗布した試験体(A7〜A9,A12〜A14)では、アルミと鋼界面の電食を防ぐ作用があり、腐食によるCTSやTSSの低下が抑制されて、高い腐食後CTS,TSSを示した。具体的にはNo.A6に対して、No.A7、No.A8、No.A9と接着剤塗布箇所を増やすにつれ、腐食後TSSおよび腐食後CTSが順に高まっていることがわかる。
<実施例B>
実施例Bでは、上板10を板厚0.8mmのマグネシウム合金ASTM AZ31B、下板20を板厚1.0mmの780MPa級高張力鋼板とした組合せの重ね継手を用いた。また、この重ね継手は、Ar100%ガスをシールドガスとして用いた交流ティグ溶接法にて、直径1.0mmのJIS Z3316 YGT50の鋼製溶接ワイヤを非通電フィラーとして挿入しながら一定時間定点でのアーク溶接を行って接合した。
この溶接継手1に対して、JIS Z3136およびJIS Z3137に従って、破壊試験を行った。ここではZ3136の引張強度をTSSとして表し、Z3137の引張強度をCTSと表す。合否判定値として、TSS≧4kN、CTS≧3kNとした。
さらに、必須ではないが好ましい性能値として、実施例Aと同様に、溶接継手1に対してJASO−CCTを28日間実施し、その後同様に破壊試験を実施して、腐食後TSSおよび腐食後CTSを取得した。これら好ましい性能値の合格判定値は腐食無し試験の値に対し80%以上とした。
表2では、比較例をNo.B1〜B5、本実施例をNo.B6〜B14に示す。
Figure 2018034166
No.B1は接合補助部材を用いず、上板10に穴も開けず、上板10に対して直接アーク溶接を実施したものである。接着剤も用いていない。鋼製溶接ワイヤとマグネシウム母材が溶融混合するので、形成された溶接金属は極めて脆い金属間化合物となり、低いTSS,CTSとなった。
No.B2は上板10に直径5.0mmの穴11を設けるが、接合補助部材を用いないでアーク溶接を実施したものである。No.B1に比べると溶接金属のマグネシウム合金混合量が低下するので、金属間化合物量が少なく、脆化度合も低いが、それでもなお低いTSS,CTSであった。
No.B3は穴開けをしていない上板10の上に接合補助部材30を載せて、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30の材質はJIS G3101 SS400であり、外形形状が円形である(以降、実施例Bの材質、外径形状は同じ)。なお、ここでは接合補助部材30には穴開けをしていない。この結果、接合補助部材30と上板10を貫通して下板20まで溶け込ますことは何とかできたものの、下板20の溶込み幅が非常に小さく、破壊試験をすると容易に破断した。
No.B4は直径5.0mmの穴11を穴開けした上板10の上に接合補助部材30を載せて、その上からアーク溶接したものである。なお、ここでは接合補助部材30には穴開けをしていない。この結果、接合補助部材30を貫通して下板20まで溶け込ますことは何とかできたものの、下板20の溶込み幅が非常に小さく、破壊試験をすると容易に破断した。
No.B5は穴開けをしていない上板10の上に接合補助部材30を載せて、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30には直径3.8mmの穴開けをしている。この結果、溶接金属はNo.B1と同様に鋼製溶接ワイヤとマグネシウム合金母材が溶融混合したものになるので、形成された溶接金属は極めて脆い金属間化合物となり、低いTSS,CTSとなった。
一方、No.B6〜B14は、直径5.0mmの穴11を穴開けした上板10の上に接合補助部材30を載せて、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30には本発明の範囲の適当な径の穴開けを施している。これらの試験体では形成される溶接金属40のマグネシウム流入が接合補助部材30の存在によりゼロもしくは極めて低く抑制され、高品質の溶接金属40が形成される。さらに、下板20の溶込みも十分大きくなり、また接合補助部材30が上板10の穴11に対して広い面積を有する構造となっているため、十字引張試験ではすっぽ抜けが防げて高いCTSも得られた。さらにまた、適切な箇所に接着材を塗布した試験体(B7〜B14)では、マグネシウム合金と鋼界面の電食を防ぐ作用があり、腐食によるCTSやTSSの低下が抑制されて、高い腐食後CTS,TSSを示した。具体的にはNo.B6に対して、No.B7、No.B8、No.B9と接着剤塗布箇所を増やすにつれ、腐食後TSSおよび腐食後CTSが順に高まっていることがわかる。
<実施例C>
実施例Cでは、上板10が板厚3.6mmのアルミニウム合金A6061、下板20が板厚2.6mmの400MPa級鋼板とした組合せの重ね継手を用いた。また、重ね継手は、直径4.0mmのJIS Z3252 ECNi−C1のNi合金被覆アーク溶接棒を用いた被覆アーク溶接法にて、一定時間定点でのアーク溶接を行って接合した。なお、上板10に穴開けを施した場合、下板20の溶接箇所にポンチによる深絞り加工を行い、1.8mmの高さ、すなわち上板10に設けた穴11の板厚中央まで入り込むように加工した。
この溶接継手1に対して、JIS Z3136およびJIS Z3137に従って、破壊試験を行った。ここではZ3136の引張強度をTSSとして表し、Z3137の引張強度をCTSと表す。合否判定値として、TSS≧9kN、CTS≧6kNとした。
さらに、必須ではないが好ましい性能値として、実施例A、Bと同様に、溶接継手1に対して、JASO−CCTを28日間実施し、その後同様に破壊試験を実施して、腐食後TSSおよび腐食後CTSを取得した。これら好ましい性能値の合格判定値は腐食無し試験の値に対し80%以上とした。
表3では、比較例をNo.C1〜C5、本実施例をNo.C6〜C12に示す。
Figure 2018034166
No.C1は接合補助部材を用いず、上板10に穴も開けず、上板10に対して直接アーク溶接を実施したものである。接着剤も用いていない。Ni合金溶接棒とアルミニウム母材が溶融混合するので、形成された溶接金属は極めて脆い金属間化合物となり、低いTSS,CTSとなった。
No.C2は上板10に直径9.0mmの穴11を設けるが、接合補助部材30を用いないでアーク溶接を実施したものである。No.C1に比べると溶接金属のアルミニウム合金混合量が低下するので、金属間化合物量が少なく、脆化度合も低いが、それでもなお低いTSS,CTSであった。
No.C3は穴開けをしていない上板10の上に接合補助部材30を載せて、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30の材質はJIS G4051 S12Cであり、外径形状は角丸正方形である(以降、実施例Cの材質、外径形状は同じ)。なお、ここでは接合補助部材30には穴開けをしていない。この結果、接合補助部材30と上板10を貫通して下板20まで溶け込ますことができず、溶接することができなかった。
No.C4は直径9.0mmの穴11を穴開けした上板10の上に接合補助部材30を載せて、その上からアーク溶接したものである。なお、ここでは接合補助部材30には穴開けをしていない。この結果、接合補助部材30を貫通して下板20まで溶け込ますことは何とかできたものの、下板20の溶込み幅が非常に小さく、破壊試験をすると容易に破断した。
No.C5は穴開けをしていない上板10の上に接合補助部材30を載せて、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30には直径7.0mmの穴開けをしている。この結果、溶接金属はNo.C1と同様にNi合金溶接棒とマグネシウム合金母材が溶融混合したものになるので、形成された溶接金属は極めて脆い金属間化合物となり、低いTSS,CTSとなった。
一方、No.C6〜C12は、直径9.0mmの穴11を穴開けした上板10の上に接合補助部材30を載せて、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30には本発明の範囲の適切な径の穴開けを施している。これらの試験体では形成される溶接金属のアルミ流入が接合補助部材30の存在によりゼロもしくは極めて低く抑制され、高品質の溶接金属が形成される。さらに、下板20の溶込みも十分大きくなり、また接合補助部材30が上板10の穴11に対して広い面積を有する構造となっているため、十字引張試験ではすっぽ抜けが防げて高いCTSも得られた。上板10の板厚は3.6mmと比較的厚いが、下板20の深絞り加工によって溶接箇所では接合補助部材30と下板20間の距離が小さくなり、溶接能率の向上や溶落ち防止効果が得られた。さらにまた、適切な箇所に接着材を塗布した試験体(No.C7〜C11)では、アルミと鋼界面の電食を防ぐ作用があり、腐食によるCTSやTSSの低下が抑制されて、高い腐食後CTS,TSSを示した。
<実施例D>
実施例Dでは、上板10が板厚1.2mmのアルミニウム合金A6N01、下板20が板厚1.2mmのSPCC鋼板とした組合せの重ね継手を用いた。また、重ね継手は、直径1.2mmのJIS Z3313 T49T14−0NS−Gの鋼製フラックス入りワイヤを用いたセルフシールドアーク溶接法にて、一定時間定点でのアーク溶接を行って接合した。
この溶接継手1に対して、JIS Z3136およびJIS Z3137に従って、破壊試験を行った。ここではZ3136の引張強度をTSSとして表し、Z3137の引張強度をCTSと表す。合否判定値として、TSS≧6kN、CTS≧4kNとした。
さらに、必須ではないが好ましい性能値として、実施例A,B,Cと同様に、溶接継手1に対して、JASO−CCTを28日間実施し、その後同様に破壊試験を実施して、腐食後TSSおよび腐食後CTSを取得した。これら好ましい性能値の合格判定値は腐食無し試験の値に対し80%以上とした。
表4では、比較例をNo.D1〜D2、本実施例をNo.D3〜D4に示す。
Figure 2018034166
No.D1は接合補助部材を用いず、上板10に穴も開けず、上板10に対して直接アーク溶接を実施したものである。接着剤も用いていない。鋼製溶接ワイヤとアルミニウム母材が溶融混合するので、形成された溶接金属は極めて脆い金属間化合物となり、低いTSS,CTSとなった。
No.D2は上板10に直径6.0mmの穴11を設けるが、接合補助部材30を用いないでアーク溶接を実施したものである。No.D1に比べると溶接金属のアルミニウム合金混合量が低下するので、金属間化合物量が少なく、脆化度合も低いが、それでもなお低いTSS,CTSであった。
一方、No.D3〜D4は、直径6.0mmの穴11を穴開けした上板10の上に、JIS G3106 SM490A材を加工した接合補助部材30を載せて、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30には本発明の範囲の適切な径の穴開けを施しており、外形形状が八角形である。これらの試験体では形成される溶接金属40のアルミ流入が接合補助部材30の存在によりゼロもしくは極めて低く抑制され、高品質の溶接金属40が形成される。さらに、下板20の溶込みも十分大きくなり、また接合補助部材30が上板10の穴11に対して広い面積を有する構造となっているため、十字引張試験ではすっぽ抜けが防げて高いCTSも得られた。さらにまた、適切な箇所に接着材を塗布した試験体No.D4では、アルミと鋼界面の電食を防ぐ作用があり、腐食によるCTSやTSSの低下が抑制されて、接着材無しの試験体No.D3に比べて高い腐食後CTS,TSSを示した。
<実施例E>
実施例Eでは、上板10を板厚4.0mmのアルミニウム合金A7N01、下板20を板厚3.0mmの1180MPa級高張力鋼板とした組合せの重ね継手を用いた。下板20の溶接すべき箇所には、ポンチによる絞り加工により高さ1.5mmの膨出部21を形成し、上板10に設けた穴11に入り込むように配置した。また、この重ね継手は、直径1.2mmのJIS Z3321 YS309Lのステンレス鋼製溶接ワイヤを用い、シールドガス:Ar99%+H1%、プラズマガス:Ar100%としたプラズマアーク溶接法にて、一定時間定点でのアーク溶接を行って接合された。
この溶接継手1に対して、JIS Z3136「抵抗スポット及びプロジェクション 溶接継手のせん断試験に対する試験片寸法及び試験方法」、およびJIS Z3137「抵抗スポット及びプロジェクション溶接継手の十字引張試験」に従って、破壊試験を行った。ここでは、Z3136の引張強度をTSSとして表し、Z3137の引張強度をCTSとして表す。合否判定値として、TSS≧10kN、CTS≧8kNとした。
さらに、必須ではないが好ましい性能値として、溶接継手を塩水噴霧→乾燥→湿潤を繰り替えして加速腐食させるJASO−CCT(Japanese Automobile Standards Organization Cyclic Corrosion Test)を28日間実施し、その後同様に破壊試験を実施して、腐食後TSSおよび腐食後CTSを取得した。これら好ましい性能値の合格判定値は腐食無し試験の値に対し80%以上とした。
本実施例をNo.E1〜E3に示す。
Figure 2018034166
No.E1〜E3は、直径11.0mmの穴11を穴開けした上板10の上に接合補助部材30を載せて、その上からアーク溶接したものである。接合補助部材30には本発明の範囲の適当な径の穴開けを施している。これらの試験体では形成される溶接金属のアルミ流入が接合補助部材30の存在によりゼロもしくは極めて低く抑制され、高品質の溶接金属が形成される。さらに、下板20の溶込みも十分大きくなり、また接合補助部材30が上板10の穴11に対して広い面積を有する構造となっているため、十字引張試験ではすっぽ抜けが防げて高いCTSも得られた。さらにまた、適切な箇所に金属用常温速硬化型2液混合接着材を塗布した試験体(E1,E3)では、アルミと鋼界面の電食を防ぐ作用があり、腐食によるCTSやTSSの低下が抑制されて、高い腐食後CTS,TSSを示した。具体的にはNo.E2に対して、No.E3は接着剤塗布しており、腐食後TSSおよび腐食後CTSが高まっていることがわかる。
10 上板
11 穴
20 下板
30 接合補助部材
33 穴部
40 溶接金属
W 溶融部
Wa 余盛り

Claims (20)

  1. アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の第1の板と、鋼製の第2の板と、を接合する異材接合用アークスポット溶接法であって、
    前記第1の板に穴を空ける工程と、
    前記第1の板と前記第2の板を重ね合わせる工程と、
    円形の穴部が形成される鋼製の接合補助部材を、該穴部が前記第1の板に設けられた穴と同軸となるように前記第1の板上に配置する工程と、
    以下の(a)〜(d)のいずれかの手法によって、前記接合補助部材の穴部を溶接金属で充填すると共に、前記第1の板の穴内の前記溶接金属を介して前記第2の板及び前記接合補助部材を溶接する工程と、
    を備える異材接合用アークスポット溶接法。
    (a)鉄合金、または、Ni合金の前記溶接金属が得られる溶接ワイヤを溶極として用いるガスシールドアーク溶接法。
    (b)前記溶接ワイヤを溶極として用いるノンガスアーク溶接法。
    (c)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるガスタングステンアーク溶接法。
    (d)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるプラズマアーク溶接法。
    (e)鉄合金、または、Ni合金の前記溶接金属が得られる被覆アーク溶接棒を溶極として用いる被覆アーク溶接法。
  2. 前記第2の板には、絞り加工により膨出部が形成されており、
    前記重ね合わせ工程において、前記第2の板の膨出部が、前記第1の板の穴内に配置される、請求項1に記載の異材接合用アークスポット溶接法。
  3. 前記重ね合わせ工程の前に、前記第1の板と前記第2の板の少なくとも一方の重ね合せ面には、前記穴の周囲に、全周に亘って接着剤を塗布する工程を、さらに備える、請求項1又は2に記載の異材接合用アークスポット溶接法。
  4. 前記配置工程において、前記接合補助部材と、該接合補助部材と対向する前記第1の板との間の少なくとも一方の対向面に、接着剤を塗布する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の異材接合用アークスポット溶接法。
  5. 前記配置工程の際、又は、前記充填溶接工程後に、前記接合補助部材と、前記第1の板の表面との境界部に接着剤を塗布する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の異材接合用アークスポット溶接法。
  6. 前記接合補助部材の穴部の直径PSは、前記第1の板の穴の直径Bに対し50%以上100%以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の異材接合用アークスポット溶接法。
  7. 前記接合補助部材の外形寸法Pは、前記第1の板の穴の直径Bに対し105%以上である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の異材接合用アークスポット溶接法。
  8. 前記接合補助部材の厚さPは、前記第1の板の板厚Bの50%以上150%以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の異材接合用アークスポット溶接法。
  9. 前記充填溶接工程において、前記接合補助部材の表面上に余盛りが形成され、かつ前記余盛りの直径Wが、前記接合補助部材の穴部の直径Pに対し、105%以上となる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の異材接合用アークスポット溶接法。
  10. 前記第1の板には、複数の前記穴が空けられると共に、前記接合補助部材は、複数の前記穴部を備え、
    前記接合補助部材の前記複数の穴部と、前記第1の板に設けられた前記複数の穴とが同軸上にそれぞれ配置され、
    前記接合補助部材の前記複数の穴部を溶接金属でそれぞれ充填すると共に、前記第1の板の穴内の前記溶接金属を介して前記第2の板及び前記接合補助部材を溶接する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の異材接合用アークスポット溶接法。
  11. 請求項1〜10のいずれか1項に記載の異材接合用アークスポット溶接法に用いられ、
    鋼製で、円形の穴部が形成される、接合補助部材。
  12. アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の第1の板と、該第1の板にアークスポット溶接された、鋼製の第2の板と、を備える異材溶接継手であって、
    前記第1の板は、前記第2の板との重ね合わせ面に臨む穴を有し、
    円形の穴部が形成される鋼製の接合補助部材をさらに備え、
    前記接合補助部材は、前記穴部が前記第1の板に設けられた穴と同軸となるように前記第1の板上に配置され、
    前記接合補助部材の穴部は、鉄合金、または、Ni合金の溶接金属で充填されると共に、前記溶接金属と、溶融された前記第2の板及び前記接合補助部材の一部とによって溶融部が形成される、異材溶接継手。
  13. 前記第1の板の穴内には、前記第2の板に形成された膨出部が配置される、請求項12に記載の異材溶接継手。
  14. 前記第1の板と前記第2の板の少なくとも一方の前記重ね合せ面には、前記穴の周囲に、全周に亘って設けられた接着剤を備える、請求項12又は13に記載の異材溶接継手。
  15. 前記接合補助部材と、該接合補助部材と対向する前記第1の板との間の少なくとも一方の対向面に設けられた接着剤を備える、請求項12〜14のいずれか1項に記載の異材溶接継手。
  16. 前記接合補助部材と、前記第1の板の表面との境界部に設けられた接着剤を備える、請求項12〜15のいずれか1項に記載の異材溶接継手。
  17. 前記接合補助部材の穴部の直径PSは、前記第1の板の穴の直径Bに対し50%以上100%以下である、請求項12〜16のいずれか1項に記載の異材溶接継手。
  18. 前記接合補助部材の外形寸法Pは、前記第1の板の穴の直径Bに対し105%以上である、請求項12〜17のいずれか1項に記載の異材溶接継手。
  19. 前記接合補助部材の厚さPは、前記第1の板の板厚Bの50%以上150%以下である、請求項12〜18のいずれか1項に記載の異材溶接継手。
  20. 前記接合補助部材の表面上に余盛りが形成され、かつ前記余盛りの直径Wが、前記接合補助部材の穴部の直径Pに対し、105%以上となる、請求項12〜19のいずれか1項に記載の異材溶接継手。
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