以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図面は、便宜的に実際とは異なる縮尺で描かれている場合がある。また、各図面において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明を省略する。
なお、以下の説明において、主走査方向とは、偏向器の回転軸と光学系の光軸方向とに垂直な方向であり、副走査方向とは、偏向器の回転軸に平行な方向である。また、主走査断面とは、光軸方向及び主走査方向に平行な断面(副走査方向に垂直な断面)であり、副走査断面とは、光軸方向及び副走査方向に平行な断面(主走査方向に垂直な断面)である。すなわち、これらの各方向及び各断面は、光学系毎に異なる場合がある。
図1は、本発明の実施形態に係る光走査装置100の要部概略図である。光走査装置100は、第1及び第2の光束を偏向して被走査面(第1の被走査面)7の有効領域を主走査方向に走査する共通の偏向器5と、偏向器5により偏向された第1及び第2の光束を被走査面7に導光する結像光学系6と、を備えている。
図1では、被走査面7の有効領域の主走査方向における中心(中心像高)712と偏向器5の回転軸51とを通るx軸と、x軸と直交し偏向器5の偏向点(反射点)を通るy軸と、x軸及びy軸と直交するz軸と、によって絶対座標系xyzを定めている。なお、y軸を定める偏向点は、第1の光束が後述する印字位置711に向かうときの偏向点である。また、図1では、第1及び第2の光束が被走査面7における各像高に異なるタイミングで入射するときの様子を、便宜的に1つの図で示している。
第1及び第2の光束は、回転軸51を含み主走査方向に垂直な基準面9(x軸を含みy軸に垂直な面)に対して、互いに異なる側から偏向器5に入射する。具体的には、第1の光束はy軸方向におけるプラス側から偏向器5に入射し、第2の光束はy軸方向におけるマイナス側から偏向器5に入射している。なお、第1及び第2の光束は、2つの光源の夫々から出射するものであってもよいし、1つの共通の光源から出射する光束を分割して得られたものであってもよい。
結像光学系6は、基準面9に対して互いに異なる側に配置される第1の結像光学系61及び第2の結像光学系62を有している。第1及び第2の結像光学系61,62の夫々は、第1及び第2の光束の夫々を、有効領域の主走査方向において互いに異なる第1の領域71及び第2の領域72に導光する。本実施形態に係る第1及び第2の結像光学系61,62の夫々は、単一の結像素子(第1及び第2の結像素子)から成るが、必要に応じて複数の結像素子で構成してもよい。
第1の領域71は、有効領域における基準面9に対して第1の光束が偏向器5に入射する側の領域、すなわちy軸方向におけるプラス側の最軸外像高710から中心像高712までの印字領域である。また、第2の領域72は、有効領域における基準面9に対して第2の光束が偏向器5に入射する側の領域、すなわち中心像高712からy軸方向におけるマイナス側の最軸外像高714までの印字領域である。
このように、本実施形態に係る光走査装置100は、第1及び第2の光束によって共通の被走査面7の主走査方向において互いに異なる印字領域を走査するカスケード走査方式を採用している。このとき、光走査装置100は、第1及び第2の光束を共通の偏向器5によって走査する構成を採っているため、上述した特許文献1に記載の構成よりも部品点数を少なくして装置全体の小型化を実現することができる。
なお、ここでの「互いに異なる印字領域」とは、「少なくとも一部が互いに異なる印字領域」のことを示している。すなわち、第1及び第2の領域71,72は、図1に示すように完全に分離していなくてもよい。例えば、各部材の組み立て公差などを考慮して、第1及び第2の領域71,72の夫々が中心像高712を越えて、互いの一部が重複するように構成してもよい。
ここで、第1の領域71を、第1の結像光学系61の第1の光軸610に対して、領域71E及び領域71Cの2つの領域に分けて考える。領域71Eは、第1の光軸610と被走査面7との交点711に対して第2の領域72とは反対側、すなわち基準面9とは反対側(最軸外像高710〜交点711)の領域(外側印字領域)である。また、領域71Cは、交点711に対して第2の領域72の側、すなわち基準面9の側(交点711〜中心像高712)の領域(内側印字領域)である。このとき、図1に示す通り、主走査方向における領域71Eの幅は領域71Cの幅よりも長くなっている。
同様に、第2の領域72を、第2の結像光学系62の第2の光軸620に対して、領域72E及び領域72Cの2つの領域に分けて考える。領域72Eは、第2の光軸620と被走査面7との交点713(軸上像高)に対して第1の領域71とは反対側、すなわち基準面9とは反対側(交点713〜最軸外像高714)の領域(外側印字領域)である。また、領域72Cは、交点713に対して第1の領域71の側、すなわち基準面9の側(中心像高712〜交点713)の領域(内側印字領域)である。このとき、図1に示す通り、主走査方向における領域72Eの幅は領域72Cの幅よりも長くなっている。
すなわち、光走査装置100は、第1及び第2の領域71,72の夫々について、他方の領域の側(基準面9の側)の幅をYc[mm]、他方の領域とは反対側(基準面9とは反対側)の幅をYe[mm]、とするとき、以下の条件式(1)を満たしている。ただし、Yc及びYeの値は、第1の領域71と第2の領域72とで互いに異なっていてもよい。
Yc<Ye ・・・(1)
条件式(1)を満たすことにより、第1及び第2の光束が、第1及び第2の結像光学系61,62の夫々の光軸に対して両側の印字領域を非対称に走査するように構成することができる。これにより、第1及び第2の領域71,72の境界である中心像高712に入射する光束と被走査面7への垂線(x軸)とのなす角度を十分に小さくすることができる。よって、被走査面7の位置が光軸方向にずれた場合に、第1及び第2の領域71,72の境界における第1及び第2の光束の入射位置のずれを抑制することができ、良好な画像を形成することが可能になる。
ここで、本実施形態に係る光走査装置100の効果について、図9を用いて説明する。図9は、上述した特許文献1に記載の構成と同様に、共通の被走査面における2つの印字領域の夫々を、並列して配置された2つの光走査装置により分担して走査する構成を示している。図9に示す各光走査装置は、本実施形態に係る光走査装置100とは異なり、結像光学系の光軸に対して両側の印字領域の幅が互いに等しい構成を採っている。
図9に示す通り、被走査面の位置ずれが生じていない場合、すなわち被走査面が実線7aの位置に配置されている場合は、2つの光走査装置からの中心像高の側の最軸外光束の夫々が、2つの印字領域の境界である中心像高712に入射する。しかし、被走査面7が破線7bの位置にずれた場合、2つの光走査装置からの最軸外光束の夫々は、中心像高712からずれた位置に入射してしまう。
例として、被走査面が感光ドラムの感光面であり、感光ドラムの回転軸が中心軸に対して光軸方向に0.05mm偏心した場合を考える。このとき、感光ドラムが1回転する毎に、被走査面と光走査装置との間隔がd=±0.05mm変動する。例えば、中心像高の側の各最軸外光束と被走査面への垂線とのなす角度がε=35°であるとすると、各最軸外光束の相対的な入射位置ずれは、Δ=d×tanε×2=±0.05×tan35°×2=±0.07mmとなる。
このように、被走査面の位置ずれが生じると、2つの印字領域の境界における光束の入射位置が大きくずれてしまい、良好な画像を形成することが困難になってしまう。そして、2つの印字領域の境界における光束の入射位置ずれは、その光束の入射角に比例して大きくなるため、特に光路長を短縮するために走査画角(偏向画角)を大きくした構成において顕著になる。
上述したように、本実施形態に係る光走査装置100は、条件式(1)を満足することで、第1及び第2の領域71,72の夫々における光軸に対して他方の領域の側(内側)の走査画角を、他方の領域とは反対側(外側)の走査画角よりも小さく設定している。すなわち、領域71Eに対する走査画角よりも領域71Cに対する走査画角の方を小さくし、かつ領域72Eに対する走査画角よりも領域72Cに対する走査画角の方を小さくしている。これにより、領域71C及び領域72Cでの各光束の入射角εを小さくすることができるため、入射位置ずれΔ=d×tanε×2を低減することが可能になる。
なお、本実施形態に係る光走査装置100は、主走査断面内における偏向器5の外接円の半径をRd[mm]とするとき、以下の条件式(2)を満たすことが望ましい。
Yc<Rd<Ye ・・・(2)
実施形態に係る光走査装置100のように、被走査面に垂直入射する光束の主光線と結像光学系の光軸とが一致する構成においては、条件式(2)の下限を下回った場合にコマ収差が発生する可能性がある。このとき、結像光学系を複数の結像素子で構成することによりコマ収差を補正する方法が考えられるが、部品点数が増加してしまうため好ましくない。また、条件式(2)を上回ると、偏向器5が大きくなり過ぎてしまい、装置全体の小型化が困難になる。
次に、本実施形態に係る光走査装置100の光学配置について詳細に説明する。
図2Aは、本実施形態における、偏向器5が回転軸51を中心として回転したときの状態と、各状態において偏向器5に入射する光束Lの主光線L1が偏向される様子とを示す図である。図2Aでは、説明を簡素化するために、回転軸51を通りx軸に垂直な基準線Lpに平行な方向から、光束Lが偏向器5に入射する場合を想定している。
図2Aにおいて、光線L0,L+,L−の夫々は、偏向器5が第1の状態500(実線),第2の状態500+(一点鎖線),第3の状態500−(破線)の夫々である場合に偏向された主光線L1を示している。光線L0は有効領域における軸上像高に向かい、光線L+,L−は有効領域の最軸外像高に向かっている。なお、偏向器5によって偏向された後の光束Lのマージナル光線L2,L3は省略している。
ここで、図2Aの構成は、主光線L1がx軸に平行な方向へ偏向されるとき(第1の状態500)の偏向器5における主光線L1の入射位置と回転軸51(基準線Lp)との光軸方向での距離をLx[mm]、とするとき、以下の条件式(3)を満たしている。
−Rd/2≦Lx≦Rd/2 ・・・(3)
条件式(3)を満たすことで、偏向器5における主光線L1の入射位置(偏向点の位置)が基準線Lpに近づき、光線L−が光線L0に近づくため、光線L0と光線L+とのなす角度ω+に対して光線L0と光線L−とのなす角度ω−が十分に小さくなる。言い換えると、結像光学系の光軸に対してx軸側の走査画角ω−が、x軸とは反対側の走査画角ω+よりも十分に小さくなる。よって、本実施形態に係る光走査装置100は、条件式(3)を満たすことが望ましい。
図2Bは、比較例における、偏向器5が回転したときの状態と、各状態において偏向器5に入射する主光線L1が偏向される様子とを示したものである。図2Bの構成は、上記条件式(1)及び(3)を満たしていないという点で、図2Aの構成とは異なる。具体的に、図2Bの構成は、走査画角ω+と走査画角ω−とが互いに等しくなるように、すなわち印字領域を光軸に対して対象に走査するように構成されているため、条件式(1)を満たさず、被走査面の位置ずれの影響を抑制することができない。
また、図2Bの構成においては、第2の状態500+における偏向器5の偏向面と第3の状態500−における偏向器5の偏向面との交点に向けて主光線L1を入射させている。これにより、光束Lのマージナル光線L2を、第3の状態500−における偏向面のエッジよりもx軸方向におけるプラス側に入射させ、光束Lが偏向器5の偏向面で蹴られないようにしている。このとき、各種公差を考慮すると、Lxの値は0.55Rd〜0.60Rd程度となるため、図2Bの構成は上記条件式(3)を満たさない。
図2Cは、図2Aにおける偏向器5の第2の状態500+の代わりに、第4の状態500back(二点鎖線)を示したものである。偏向器5が時計回りに回転して、第1の状態500、第3の状態500−、第4の状態500backの順に変化した場合、偏向器5により偏向された主光線L1は、光線L0、光線L−、光線Lbackの順に変化する。図2Cに示すように、光線L−及び光線Lbackが向かう方向は互いに大きく異なる。これは、偏向器5が第3の状態500−から時計回りに回転する際に、偏向面53によって光束Lがマージナル光線L2の側から徐々に蹴られ始め、第4の状態500backになったときに隣接する偏向面54に入射するからである。
光線Lbackが向かう方向には結像光学系が配置されていないため、第4の状態500backにおいては被走査面に光線Lbackが向かわない。つまり、光線L−が被走査面に入射した後のしばらくの間、被走査面に光束Lが入射しなくなる。このことを利用すれば、複数の光束によって被走査面における異なる領域を順次異なるタイミングで走査する時分割走査を行うことができる。
例えば、2本の光束をx軸の両側から偏向器5の互いに対向する2つの偏向面に入射させた場合を考える。この場合、偏向器5が図2Aにおける第2の状態500+、第1の状態500、第3の状態500−、の順に変化することで、一方の光束によって被走査面におけるx軸に対する一方の側を走査することができる。そして、偏向器5が更に回転して第4の状態500backから第2の状態500+に変化するまでの間は、一方の光束が被走査面に向かわなくなるため、他方の光束によって被走査面におけるx軸に対する他方の側を走査することが可能になる。
このとき、1つの光源から出射した光束を複数の光束に分割して、その複数の光束によって時分割走査を行ってもよい。また、第4の状態500backから第2の状態500+に変化するまでの間に偏向された光束によって、他の被走査面を時分割走査するように構成してもよい。このように時分割走査を行うことにより、各被走査面の各印字領域に夫々異なる画像を形成することが可能になる。
なお、光走査装置100は、図1に示したように、第1及び第2の光束がy軸に対して角度をもって(基準面9に対して非垂直な方向から)偏向器5に入射する構成を採ることが望ましい。第1及び第2の光束がy軸に対して平行(基準面9に対して垂直)な方向から偏向器に5に入射する場合、時分割走査を行う際に軸外光束が偏向面で蹴られてしまい、印字領域の全てを走査できなくなる可能性が生じる。
以上、本実施形態に係る光走査装置100は、小型かつ簡素な構成でありながら、カスケード走査方式を採用した際の2つの印字領域の境界における光束の入射位置のずれを抑制し、良好な画像を形成することができる。
次に、本実施形態に係る光走査装置100の実施例について詳細に説明する。
[実施例1]
以下、本発明の実施例1に係る光走査装置110について説明する。本実施例に係る光走査装置110において、上述した実施形態に係る光走査装置100と同等の構成については説明を省略する。
図3は本実施例に係る光走査装置110の要部概略図であり、図4は図3の一部を拡大したものである。光走査装置110は、光源1、カップリングレンズ(コリメータレンズ)2、絞り3、分離素子(光路分離素子)41、シリンダレンズ(シリンドリカルレンズ)42、反射素子(折り返しミラー)8、偏向器5、及び結像光学系6を備えている。なお、本実施例において、第1の光束が印字位置711に向かうときの偏向器5における偏向点は、回転軸51からx軸方向に2.359mm離れている。
本実施例において、光源1から出射した光束は、カップリングレンズ2により収束度が変えられて平行光束に変換された後、絞り3により規制されることで光束幅が決定される。絞り3には2つの開口が設けられているため、共通の光源1から出射した光束に2つの開口を通過させることで、第1及び第2の光束を生成することができる。絞り3を通過した後、第1の光束は分離素子41に入射し、第2の光束は分離素子41を介さずに反射素子8に入射する。分離素子41は、主走査断面内においては第1の光束の進行方向を変えるプリズムの役割を果たしており、これにより第1及び第2の光束の光路を分離することができる。
分離素子41により偏向された第1の光束はそのまま偏向器5に入射し、反射素子8により反射された第2の光束はシリンダレンズ42を介して偏向器5に入射する。分離素子41の出射面及びシリンダレンズ42の入射面は、副走査断面内において屈折力(曲率)を有するシリンドリカル面である。この各シリンドリカル面によって、第1及び第2の光束が副走査断面内で集光されることで、偏向器5の基準面9に対して両側の偏向面の夫々の近傍に線像が形成される。
このように、本実施例では、1つの光源から出射した光束より第1及び第2の光束を生成する構成を採っており、光源1、カップリングレンズ2、及び絞り3を第1及び第2の光束で共用しているため、各部材を複数設ける必要がない。これにより、部品点数を少なくして、装置全体の小型化を実現することができる。
なお、分離素子41により第1及び第2の光束を分離することができるのであれば、必要に応じて第2の光束が分離素子41を通過するように構成してもよい。その際、シリンダレンズ42の代わりに、分離素子41によって第2の光束を副走査断面内で集光させるようにしてもよい。また、分離素子41をハーフミラーなどで構成し、分離された第1及び第2の光束の光路の夫々にシリンダレンズを設けてもよい。このとき、分離素子41によって第1及び第2の光束を生成することができるため、絞り3の代わりに、第1及び第2の光束の光路の夫々に1つの開口が設けられた絞りを配置してもよい。
本実施例に係る偏向器5は、4つの偏向面を有する回転多面鏡(ポリゴンミラー)であり、不図示の駆動部(モータ)の駆動力により一定速度で回転しながら第1及び第2の光束を偏向することで、被走査面7の有効領域を主走査方向に走査する。なお、偏向器5としては、5つ以上の偏向面を有する回転多面鏡や、1又は2つの偏向面を有する揺動ミラー等を採用してもよい。
偏向器5により偏向された第1及び第2の光束の夫々は、結像光学系6が有する第1及び第2の結像光学系61,62によって、被走査面7の有効領域における第1及び第2の領域71,72に導光される。本実施例に係る第1及び第2の結像光学系61,62は、上述した実施形態とは異なり、互いに一体化した複合素子(複合レンズ)である。よって、本実施例では、第1及び第2の結像光学系61,62をプラスチックモールドレンズとして一体成形することができるため、上述した実施形態と比較して部品点数を削減し、装置全体の製造及び組み立ての工数を低減することが可能になる。
本実施例に係る光走査装置110の設計例を表1乃至5に示す。ただし、各表においては、光源1から第1の領域71までの光路中の各光学部材を第1光学系とし、光源1から第2の領域72までの光路中の各光学部材を第2光学系としている。また、表2,4における角度α1,α2の夫々は、偏向器5に入射するときの第1及び第2の光束とx軸とのなす角度を示している。
次に、本実施例に係る各光学面(レンズ面)の面形状について説明する。
本実施例に係るカップリングレンズ2、分離素子41、シリンダレンズ42、第1の結像光学系61、及び第2の結像光学系62の夫々の入射面及び出射面の面頂点を含む主走査断面内での形状(母線形状)は、以下の式で表される。ここでは、各光学面の面頂点と各光軸との交点を原点とし、光軸方向の軸をX軸、主走査断面内においてX軸と直交する軸をY軸、X軸及びY軸に直交する軸をZ軸、としたローカル座標系XYZを定めている。
但し、Rは光軸上における主走査断面内での曲率半径(母線曲率半径)であり、K,B2,B4,B6,B8,B10,B12,B14,B16は主走査断面内での非球面係数である。なお、非球面係数B2〜B16は、各光軸(X軸)の両側で(Y軸方向におけるプラス側とマイナス側とで)互いに数値を異ならせてもよい。これにより、母線形状を光軸に対して主走査方向に非対称な形状とすることができる。本実施例に係る第1及び第2の結像光学系61,62の各光学面の主走査断面内での形状は、表3,5に示す通り12次までの項を含む非球面形状となっている。
表3おける各係数について、添え字uはY軸方向におけるプラス側(光源1と同じ側)を示し、添字lはY軸方向におけるマイナス側(光源1とは反対側)を示している。添え字u及びlが付いていない係数は、両側で共通の係数である。
また、本実施例に係る第1及び第2の結像光学系61,62の入射面及び出射面の、主走査方向の各位置における副走査断面内での形状(子線形状)は、以下の式で表される。なお、子線形状は、主走査方向における各位置(各像高)での母線上の面法線を含む主走査断面に垂直な断面内での面形状と言い換えることができる。
なお、mj_kは副走査断面内での非球面係数である。また、r´は、主走査方向において光軸からYだけ離れた位置における副走査断面内での曲率半径(子線曲率半径)を示しており、以下の式で表される。
但し、rは光軸上での子線曲率半径であり、E2,E4,E6,E8,E10,E12,E14,E16は子線変化係数である。子線変化係数E2〜E16をY軸方向におけるプラス側とマイナス側とで互いに異なる数値とすることで、子線形状の非球面量を主走査方向において非対称に設定することができる。なお、上記式は偶数項のみを含んでいるが、必要に応じて奇数項を加えてもよい。
また、子線形状Sの式におけるZの1次の項は、副走査断面内でのレンズ面のチルト量(子線チルト量)に寄与する項である。よって、Y軸方向におけるプラス側での非球面係数m0_1u〜m16_1uとマイナス側での非球面係数m0_1l〜m16_1lとを互いに異なる数値とすることで、子線チルト量を主走査方向において非対称に変化させることができる。
本実施例に係る第1及び第2の結像光学系61,62は、主走査断面内において、偏向器5により偏向された光束が被走査面7を非等速で走査するように、すなわちfθ特性(等速特性)を満たさないように構成されている。各結像光学系にfθ特性を持たせるためには、主走査断面内での光学面の形状を、軸上像高と軸外像高とで大きく異ならせる必要がある。ここで、各結像光学系を偏向器5に近づけ過ぎると、主走査断面内における光学面の形状変化が急峻になり、コマ収差が増大してしまう。よって、各結像光学系の光学性能とfθ特性とを両立するためには、各結像光学系を偏向器5からある程度離して配置する必要がある。
これに対して、本実施例では、被走査面7において光束が等速性を満たさないような走査特性を第1及び第2の結像光学系61,62に持たせている。これにより、各結像光学系の光学性能を保ちつつ、各結像光学系をより偏向器5に近接して配置することを可能にし、各結像光学系及び装置全体の更なる小径化を実現している。また、この構成により、各結像光学系の設計自由度を高めることができるという効果も得られる。
本実施例に係る各結像光学系の走査特性は、偏向器5による走査角度(偏向角度)をθ、走査角度θで偏向された光束の被走査面7での主走査方向の集光位置(像高)をY[mm]、軸上像高での結像係数をK[mm]、とするとき以下の式(4)で表される。
Y=K×θ+P×θ3 ・・・(4)
集光位置Yは、絶対座標系xyzにおける位置ではなく、ローカル座標系XYZでの位置を示している。すなわち、第1の光束の集光位置Yは、第1の結像光学系61の光軸610と被走査面7との交点711からの距離を示し、第2の光束の集光位置Yは、第2の結像光学系の光軸620と被走査面7との交点713からの距離を示す。
また、結像係数Kは、各結像光学系に平行光束が入射する場合の走査特性であるfθ特性:Y=fθにおけるfに相当する係数(Kθ係数)であり、fθ特性を平行光束以外の光束に対して拡張するための係数である。すなわち、結像係数Kは、各結像光学系に平行光束を含むあらゆる収束度を持つ光束が入射する場合に、集光位置Yと走査角度θとを比例関係にするための係数である。本実例においては、各結像光学系に平行光束が入射しているため、結像係数Kは各結像光学系の光軸上での焦点距離に等しくなる。
なお、式(4)におけるPは、本実施例に係る第1及び第2の結像光学系61,62の走査特性を決定するための係数(走査特性係数)である。表1に示す通り、本実施例においてはP=9である。例えば、P=0のときは、式(4)はY=Kθとなりfθ特性に相当するが、P≠0のときは、式(4)は集光位置Yと走査角度θとが比例関係にならない走査特性となる。
ここで、式(4)を走査角度θで微分すると、以下の式(5)に示すように、被走査面7での光束の走査角度θに対する走査速度が得られる。
dY/dθ=K+3P×θ2 ・・・(5)
さらに、式(5)を軸上像高における速度dY(0)/dθ=Kで除すると、以下の式(6)に示すようになる。
(dY/dθ)/K=1+3P×θ2/K ・・・(6)
式(6)は、軸上像高に対する各軸外像高での等速性のずれ量、すなわち軸上像高での部分倍率に対する軸外像高での部分倍率のずれ量(部分倍率ずれ)を表している。本実施例に係る光走査装置110は部分倍率を有するため、P≠0の場合は、軸上像高と軸外像高とで光束の走査速度が異なることになる。つまり、軸外像高における走査位置(単位時間あたりの走査距離)は部分倍率ずれに応じて間延びしてしまうため、この部分倍率ずれを考慮せずに被走査面7を光走査した場合は、被走査面7に形成される像の劣化(印字性能の劣化)を招いてしまう。
そこで、本実施例においては、不図示の制御部により、P≠0の場合に部分倍率ずれに応じて光源1の発光の制御、具体的には光源1の変調タイミング(発光タイミング)及び変調時間(発光時間)の制御を行っている。これにより、被走査面7における走査位置及び走査時間を電気的に補正することができるため、部分倍率ずれ及び像の劣化を補正し、fθ特性を満たす場合と同様に良好な印字性能を得ることが可能になる。
以上、本実施例に係る光走査装置110は、小型かつ簡素な構成でありながら、カスケード走査方式を採用した際の2つの印字領域の境界における光束の入射位置のずれを抑制し、良好な画像を形成することができる。更に、本実施例では、1つの光源から出射した光束より第1及び第2の光束を生成する構成、かつ第1及び第2の結像光学系を一体化した構成を採ることで、従来の構成と比較して部品点数を削減し、装置全体の更なる小型化及び簡素化を実現することができる。
[実施例2]
以下、本発明の実施例2に係る光走査装置120について説明する。本実施例に係る光走査装置120において、上述した実施例1に係る光走査装置110と同等の構成については説明を省略する。
図5は本実施例に係る光走査装置120の要部概略図である。本実施例に係る光走査装置120は、第1及び第2の結像光学系61,62の夫々が複数の結像素子から成るという点で、実施例1に係る光走査装置110とは異なる。また、光走査装置120の各設計値も光走査装置110とは異なり、光走査装置120の走査画角は光走査装置110の走査画角よりも大きくなっている。
本実施例に係る光走査装置120の設計例を表6乃至10に示す。
本実施例に係る光走査装置120は、実施例1に係る光走査装置110よりも走査画角が大きい構成を採っているため、光軸方向における光路長をより短縮して小型化を実現することができる。このように走査画角が大きな構成においては、被走査面の位置ずれに起因する2つの印字領域の境界における光束の入射位置ずれが顕著になるため、上記条件式(1)を満足することにより得られる効果が特に大きくなる。
[実施例3]
以下、本発明の実施例3に係る光走査装置130について説明する。本実施例に係る光走査装置130において、上述した実施例1,2に係る光走査装置110,120と同等の構成については説明を省略する。
図6は本実施例に係る光走査装置130の要部概略図であり、図7は図6の一部を拡大したものである。本実施例に係る光走査装置130は、2つの光源と4つの結像光学系とを備えており、2つの被走査面を共通の偏向器5によりカスケード走査しているという点で、実施例2に係る光走査装置120とは異なる。光走査装置130は、第1及び第2の光源11,12、第1及び第2の絞り(不図示)、第1及び第2のカップリングレンズ21,22、第1及び第2の分離素子43,44、偏向器5、第1乃至第4の結像光学系61,62,63,64、を備えている。
本実施例に係る光走査装置130の設計例を表11乃至17に示す。ただし、各表においては、第1の光源11から第1の領域71までの光路中の各光学部材を第1光学系とし、第2の光源12から第2の領域72までの光路中の各光学部材を第2光学系としている。また、第1の光源11から第3の領域73までの光路中の各光学部材を第3光学系とし、第2の光源12から第4の領域74までの光路中の各光学部材を第4光学系としている。
なお、第1光学系の各光学面の形状と第3光学系の各光学面の形状とは、y軸に対して互いに回転対称である。すなわち、第1光学系のローカル座標系XYZとy軸に対して回転対称な座標系を第3光学系のローカル座標系とすれば、第3光学系の各非球面係数の値は第1光学系と同じになる。同様に、第2光学系の各光学面の形状と第4光学系の各光学面の形状とは、y軸に対して互いに回転対称である。すなわち、第2光学系のローカル座標系XYZとy軸に対して回転対称な座標系を第4光学系のローカル座標系とすれば、第4光学系の各非球面係数の値は第2光学系と同じになる。
本実施例において、第1の光源11から出射した光束は、第1のカップリングレンズ21により平行光束に変換された後、2つの開口が設けられた第1の絞りにより第1及び第3の光束に分割され、第1の分離素子43に入射する。図7に示すように、第1の分離素子43は、主走査断面内において第1及び第3の光束の夫々を偏向する光学素子431及び光学素子433で構成されており、第1及び第3の光束の夫々を互いに異なる入射角で偏向器5に入射させている。
一方、第2の光源12から出射した光束は、第2のカップリングレンズ22により平行光束に変換された後、2つの開口が設けられた第2の絞りにより第2及び第4の光束に分割され、第2の分離素子44に入射する。第2の分離素子44は、主走査断面内において第2及び第4の光束の夫々を偏向する光学素子442及び光学素子444で構成されており、第2及び第4の光束の夫々を互いに異なる入射角で偏向器5に入射させている。
なお、第1及び第2の絞りの夫々において、2つの開口のZ方向の位置は互いに異なっている。そして、第1及び第2の分離素子43,44は、偏向点を含むxy平面に対して異なる側から2本の光束を偏向器5に入射させる副走査斜入射系となっている。また、第1及び第2の分離素子43,44の夫々の出射面は、副走査断面内において屈折力を有するシリンドリカル面であり、各光束を副走査断面内で集光することで偏向器5の偏向面の近傍に線像を形成する。
図6に示すように、第1及び第3光束は基準面9に対してy軸方向におけるプラス側から偏向器5に入射し、第2及び第4光束は基準面9に対してy軸方向におけるマイナス側から偏向器5に入射する。すなわち、第1の被走査面701を走査する第1及び第2の光束は基準面9に対して互いに異なる方向から偏向器5に入射し、第2の被走査面702を走査する第3及び第4光束は基準面9に対して互いに異なる方向から偏向器5に入射する。
第1及び第2の光束の夫々は、偏向器5により偏向された後、基準面9に対して互いに異なる側に配置される第1及び第2の結像光学系61,62に入射する。第1の結像光学系61は、2つの結像素子611,612で構成され、第1の光束を第1の被走査面701における第1の領域71(710〜712)に導光する。第2の結像光学系62は、2つの結像素子621,622で構成され、第2の光束を第1の被走査面701における第2の領域72(712〜714)に導光する。
また、第3及び第4の光束の夫々は、偏向器5により偏向された後、基準面9に対して互いに異なる側に配置される第3及び第4の結像光学系63,64に入射する。第3の結像光学系63は、2つの結像素子631,632で構成され、第3の光束を第2の被走査面702における第3の領域73(720〜722)に導光する。第4の結像光学系64は、2つの結像素子641,642で構成され、第4の光束を第2の被走査面702における第4の領域74(722〜724)に導光する。
このように、本実施例に係る光走査装置130は、光源から出射した複数の光束を1つの偏向器により偏向して、2つの被走査面を互いに異なるタイミングで走査する構成を採っている。これにより、部品点数の増加を抑制しつつ、装置全体を小型化することができる。また、光走査装置130は、第1及び第2の光束によって第1の被走査面における互いに異なる印字領域を走査し、第3及び第4の光束によって第2の被走査面における互いに異なる印字領域を走査する、カスケード走査方式を採用している。これにより、偏向器5から各被走査面に至る光路長を短縮することができる。
そして、光走査装置130では、第1乃至第4の領域71,72,73,74の夫々において、光軸に対して基準面9の側の印字領域の幅が、基準面9とは反対側の印字領域の幅よりも小さく設定されている。この構成によって、各被走査面の位置ずれに起因する各印字領域の境界における光束の入射位置ずれを抑制することが可能になる。
なお、本実施例において、結像素子611及び結像素子621、結像素子631及び結像素子641、結像素子612及び結像素子622、結像素子632及び結像素子642、の夫々は、互いに一体化した複合素子である。また、第1及び第2の絞り、第1及び第2のカップリングレンズ21,22、第1及び第2の分離素子43,44の夫々を、複数の光束で共有している。この構成により、従来の構成と比較して部品点数を削減し、装置全体の更なる小型化及び簡素化を実現することができる。
ここで、図7に示すように、第1の光源11から出射する第1及び第3光束は、偏向器5における共通の偏向面に対して互いに異なる入射角で入射している。具体的に、偏向器5に入射するときの第1の光束とx軸とのなす角度はα1=107.2度、偏向器5に入射するときの第3の光束とx軸とのなす角度はα3=72.8度であるため、第1及び第3光束は34.4度の位相差をもって偏向される。このため、第1の光束によって第1の被走査面701を走査する際に、あるタイミングで第3の光束が第1の結像光学系61に入射してゴースト光束になってしまう可能性がある。
本実施例では、上述したように、第1及び第3の光束が偏向点を含むxy平面に対して互いに異なる側から偏向器5に入射する構成を採っている。これにより、偏向器5と第1の被走査面701との間に遮光部材を設けることで、ゴースト光束となる第3の光束を遮光することができる。同様に、他の光束がゴースト光束になり得る場合にも、各光路に遮光部材を設ければよい。なお、遮光部材を設ける代わりに、各光束の走査画角及び偏向器への入射角を適切に設定することで、ゴースト光束が発生しないようにしてもよい。
[画像形成装置]
図8は、本発明の実施形態に係る画像形成装置104の要部概略図(副走査断面図)である。画像形成装置104は、上述した実施形態に係る光走査装置(光走査ユニット)100を備えている。
図8に示すように、画像形成装置104には、パーソナルコンピュータ等の外部機器117から出力されたコードデータDcが入力される。このコードデータDcは、装置内のプリンタコントローラ111によって、画像データ(ドットデータ)Diに変換され、光走査ユニット100に入力される。そして、この光走査ユニット100からは、画像信号Diに応じて変調された光束103が出射され、この光束103によって感光ドラム101の感光面(被走査面)が主走査方向に走査される。なお、プリンタコントローラ111は、前述したデータの変換だけでなく、後述するモータ105などの画像形成装置内の各部の制御を行う。
静電潜像担持体(感光体)としての感光ドラム101は、モータ105によって時計廻りに回転させられる。そして、この回転に伴って、感光ドラム101の感光面が光束103に対して副走査方向に移動する。感光ドラム101の上方には、感光面を一様に帯電させる帯電ローラ102が感光面に当接するように設けられている。そして、帯電ローラ102によって帯電した感光面上に、光走査ユニット100からの光束103が照射されるように構成されている。
上述したように、光束103は画像信号Diに基づいて変調されており、この光束103を照射することによって感光面上に静電潜像が形成される。この静電潜像は、光束103の照射位置よりもさらに感光ドラム101の回転方向の下流側で感光面に当接するように配設された現像器107によって、トナー像として現像される。
現像器107によって現像されたトナー像は、感光ドラム101の下方で、感光ドラム101と対向するように配設された転写ローラ(転写器)108によって、被転写材としての用紙112上に転写される。用紙112は感光ドラム101の前方(図8において右側)の用紙カセット109内に収納されているが、手差しでも給紙が可能である。用紙カセット109端部には、給紙ローラ106が配設されており、これにより用紙カセット109内の用紙112が搬送路へ送り込まれる。
未定着トナー像が転写された用紙112は、さらに感光ドラム101後方(図8において左側)の定着器へと搬送される。定着器は、内部に定着ヒータ(不図示)を有する定着ローラ113と、この定着ローラ113に圧接するように配設された加圧ローラ114とで構成されている。この定着器は、転写ローラ108から搬送されてきた用紙112を定着ローラ113と加圧ローラ114との圧接部にて加圧しながら加熱することにより、用紙112上の未定着トナー像を定着させる。さらに、定着ローラ113の後方には排紙ローラ115が配設されており、トナー像が定着された用紙112は画像形成装置104の外に排出される。
なお、光走査ユニット100、感光ドラム101、及び現像器107の夫々を複数設けることにより、画像形成装置104をカラー画像形成装置としてもよい。例えば、上述した実施例1又は2に係る光走査装置を4つ設けるか、或いは上述した実施例3に係る光走査装置を2つ設けることにより、並行して4つの感光ドラムに画像情報を記録するカラー画像形成装置を実現することができる。また、例えばCCDセンサやCMOSセンサ等のラインセンサを備えたカラー画像読取装置を、外部機器117として画像形成装置104に接続することにより、カラーデジタル複写機を構成してもよい。
[変形例]
以上、本発明の好ましい実施形態及び実施例について説明したが、本発明はこれらの実施形態及び実施例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の組合せ、変形及び変更が可能である。
例えば、各結像光学系を構成する結像素子の数は、上述した各実施例におけるものに限らず、適宜選択し得るものである。また、各実施例においては、光源が1つの発光点のみを有するシングルビームレーザであるとして説明したが、光源として複数の発光点を有するモノリシックマルチビームレーザを採用してもよい。なお、各実施例では、簡単のために、光源の発光タイミングを同期検知する同期検知系についての説明は省略したが、既知の同期検知系を設けることで光源の発光タイミングを制御するように構成してもよい。