以下、本発明のロータリ圧縮機の実施例について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各実施例の共通部分は同一図を用いて説明する。また、各図における同一符号は同一物または相当物を示し、重複した説明を省略する。
また、本発明に係るロータリ圧縮機は、基本構成、基本動作が共通する二つの圧縮機構を上下に並置したものである。両圧縮機構に共通する構成要素には共通の符号を付したうえで、上側圧縮機構対応の符号にはa、下側圧縮機構対応の符号にはbを付加する。さらに、上下圧縮機構の共通構成、共通動作については、上側圧縮機構を例に説明し、下側圧縮機構についての同等説明を省略するが、相違点ある場合は、下側圧縮機構の構成、動作も説明することとする。
実施例1のロータリ圧縮機1は、空気調和機、冷蔵庫、冷凍機、給湯機などの熱サイクルの一部を構成するものであり、ピストン(ローラ)とブレード(ベーン)が分離し、クランクシャフトが鉛直方向に設けられた縦型のロータリ圧縮機である。このロータリ圧縮機について、図1〜4、および、図7Aを用いて説明する。
図1は、ロータリ圧縮機1のブレード機構(ベーン機構)を通る位置での縦断面図である。図2は、図1のMで示す圧縮機構部付近の拡大縦断面図である。図3Aは、上側圧縮機構を図2のha−haで切断した拡大横断面図、図3Bは、下側圧縮機構を図2のhb−hbで切断した拡大横断面図を示す。図4Aは、図3AのNa部に示す上ブレード機構付近の拡大横断面図、図4Bは、図3BのNb部に示す下ブレード機構付近の拡大横断面図を示す。また、図7Aは、図2のSa、Sb部であって、端板側ピストン端面隙間付近の拡大縦断面図を示す。なお、ロータリ圧縮機1には、通常、上吸込パイプ50aや下吸込パイプに繋がる気液分離器も含むが、本実施例は気液分離器と直接関係がないため、以下では気液分離器を省略する。
まず、ロータリ圧縮機1の全体構成と作動流体(冷媒)及び油の概略の流れ(後述する圧縮機構部M内の流れは除く)を、主に図1と図2を用いて説明する。
図1に示すように、ロータリ圧縮機1は、上ケーシング8dと下ケーシング8e、円筒ケーシング8cから成るケーシング8の内部空間であるケーシング空間140の下方に圧縮機構部Mを配置し、その上方に回転駆動力を発生させる回転駆動源(モータ7)を配置した構成となっている。
圧縮機構部Mは、外周が円筒ケーシング8cに溶接固定された上軸受プレート4aと、その下方に設けられ、図3Aに示す上吸込パイプ50aから吸い込まれた作動流体を圧縮する上側圧縮機構と、図3Bに示す下吸込パイプ50bから吸い込まれた作動流体を圧縮する下側圧縮機構と、を備えている。
圧縮機構部Mとモータ7は、クランクシャフト6で接続されており、このクランクシャフト6は、圧縮機構部Mの上端部を成す上軸受プレート4aに設けられた上プレート軸受4a2と、下端部を成す下軸受プレート4bに設けられた下プレート軸受4b2で支持されている。
また、モータ7はロータ7c及びステータ7dを備えて構成され、ステータ7dの巻き線と繋がるモータ線7eが、上ケーシング8dに溶接されたハーメチック端子220を介して、外部の電源に接続される。ステータ7dは円筒ケーシング8cに焼嵌めや溶接等により固定されており、ロータ7cはクランクシャフト6に焼嵌めや圧入等により固定されている。ここで、ロータ7cの上下端部には、バランスウエイトが装着されるが、各アンバランス量は小さいため、図示を省略する。
ケーシング8は、円筒ケーシング8cと上ケーシング8dと下ケーシング8eから構成されており、円筒ケーシング8cに上ケーシング8dと下ケーシング8eを溶接することで密閉されたケーシング空間140を形成する。ケーシング空間140の上部は、圧縮機構部Mの吐出領域であり、上ケーシング8dには外部吐出流路となる吐出パイプ55が備えられている。また、ケーシング空間140の下部は貯油部120となる。
図2に示すように、ケーシング空間140は、上側圧縮機構の上面に設けた上吐出弁18aと、下側圧縮機構の下面に設けた下吐出弁18bから吐出する吐出圧の作動流体によって、吐出圧となっている。
ここで、上吐出弁18a、下吐出弁18bのバルブ音を低減するため、図1に示すように、圧縮機構部Mの上下面に上吐出カバー15aと下吐出カバー15bを設ける。このうち、下吐出カバー15bは下吐出弁18bから吐出する作動流体と貯油部120の油を仕切る役割も担う。そして、下吐出カバー15b内に吐出した作動流体は圧縮機構部Mを上下に貫通する吐出連通路130を通って上吐出カバー15a内に入り、上吐出弁18aから吐出する作動流体と合流する。合流した作動流体は、上吐出カバー15aの中央に開口する内部吐出流路である吐出カバー穴15a1からケーシング空間140へ吐出される。この後、作動流体は、ステータ7dの外周面に設けた複数のステータ周囲溝7d1を主に通ってモータ7の上部へ流れ、最後にロータリ圧縮機1の外部と繋がる吐出パイプ55からロータリ圧縮機1の外部へ吐出される。
一方の油は、貯油部120からクランクシャフト6の中心に設けられる給油縦穴6cを通り、図2に示す、上給油横穴6a2と下給油横穴6b2の出口にあるクランクシャフト6の首部の空間である上首部空間150aと下首部空間150bへ吸い上げられる。この油吸い上げは、上給油横穴6a2と下給油横穴6bの遠心ポンプ作用と後述するねじポンプ作用によって実現する。この後、油の流れは、以下で示す通り、2つに分岐する。
一つは、上らせん溝4a4や下らせん溝4b4のねじポンプ作用によって、クランクシャフト6を軸支する上プレート軸受4a2や下プレート軸受4b2へ供給する軸受給油の流れである。この後、下プレート軸受4b2に供給された油は、直接、貯油部120へ戻る。一方、上プレート軸受4a2に供給された油は、上軸受プレート4aの上部に一旦溜まり、周囲の上プレート貫通穴4a8を通って貯油部120へ戻る。
もう一つの流れは、クランクシャフト6の軸方向位置を規定する上スラスト面6a1の上スラスト溝6a3と、下スラスト面6b1の下スラスト溝6b3を通って、上プレート室160aと下プレート室160bのそれぞれへ入る。この上プレート室160aや下プレート室160bの詳細は、後述する圧縮機構部Mで述べる。
これにより、上スラスト面6a1と下スラスト面6b1の潤滑を行う。特に、下スラスト面6b1には、ロータ7cを含むクランクシャフト6の自重がかかるため、摩擦損失を低減する効果が大きい。この流れは、この後、作動室に入って、作動流体とともにケーシング空間140へ吹き出す流れである。この流れの説明は、圧縮機構部Mの構成に関わるため、後述する圧縮機構部Mの説明の中で行う。
ところで、貯油部120から上プレート室160aや下プレート室160bまでの油流路は、流路口径が十分大きいため、流路抵抗は実質的に0である。さらに、この間には、トロコイドポンプのような容積型ポンプが無いので、逆方向の流路抵抗を極めて大きくする要素も無く、上プレート室160aや下プレート室160bへ強制的に油が送り込まれることも無い。また、給油縦穴4cの下端には、遠心力を増大させるために給油縦穴6cの入口直径を絞る給油キャップ85が設けられているが、この給油縦穴6cの入口直径でも十分に大きく、流路抵抗は実質0である。つまり、上プレート室160aや下プレート室160bの圧力は、定常運転時において、常時、貯油部120と同一の圧力、すなわち吐出圧となっている。
次に、圧縮機構部Mの構成及び作動流体の圧縮動作を、図2、図3A、図3Bを用いて説明する。まず構成を説明する。
まず、圧縮機構部Mの上側では、上軸受プレート4aの上プレート軸受4a2にクランクシャフト6を通し、偏心部である上偏心シャフト6aに上ピストン穴3a7で上ピストン3aを装着し、それらを上シリンダ2aに設けられた円筒状の上シリンダ穴2a1へ入れる。このとき、上シリンダ穴2a1が上ピストン3aと常時一箇所で近接するような配置で、上シリンダ2aを上軸受プレート4aの上プレート端板4a1へ上シリンダボルト穴4a9を通した上シリンダボルト90aにより固定する。そして、互いに近接する上吸込口2a2と上吐出口2a3の吸込吐出近接領域に後で詳細に説明する上ブレード機構20aを設ける。
ところで、上軸受プレート4aの上プレート端板4a1は、上記した通り、上シリンダ穴2a1を覆うとともに上ピストン3aが摺動して作動室の一壁面となり、上吐出弁18aが装着される上吐出弁口4a3が設けられる。さらに、クランクシャフト6と上プレート軸受4a2の下端部との当たりを緩和する上軸周囲溝4a5が中央寄りに設けられる。
次に、圧縮機構部Mの下側では、下シリンダ2b、下ピストン3b、下軸受プレート4bを中仕切板5を挟んで上シリンダ2aの下面へ、上記上シリンダ側と同様にして組み付ける。このとき、中仕切板5は、中仕切板5の軸穴5hにクランクシャフト6を通した状態で挟み込む。この下シリンダの組み立ての詳細は、上記上シリンダ側の組み立ての説明において、要素名の上を全て下(符号のaをb)に読み替えればよいため、省略する。
次に、上側圧縮機構に設けられる上ブレード機構20aを、図3A、図4Aを用いて説明する。なお、図3B、図4Bに示す下側圧縮機構に設けられる下ブレード機構20bの構成、動作は同等であるため、共通する説明は省略する。
図3A、図4Aに示すように、上シリンダ2aに設けられる上ブレード機構20aは、上シリンダ2aの吸込吐出近接領域に開口する上ベーン溝2a20に隙間勘合した上ベーン20a1を、後述するベーン付勢手段で付勢して上ピストン3aの外周面に当接させた、上ピストン3aと上ベーン20a1を別体とした分離型ブレード機構である。
ここで用いられるベーン付勢手段は、上ベーン20a1背面の上ベーン横穴2a21に挿入される圧縮した上ベーンばね21aと上ベーン背面穴2a22から導入されるケーシング空間の吐出圧によって実現している。
次に、上記のようにして組み立てられた圧縮機構部Mの各ピストンに形成される三日月形空間の説明を、上シリンダ2a側を例に行う。
この三日月形空間は、図3A等に示すように、クランクシャフト6に垂直な平面上では、上シリンダ穴2a1の内周面とそこへ挿入された上ピストン3aの外周面の間に形成されており、また、図2等に示すように、クランクシャフト6の軸方向では、上軸受プレート4aと中仕切板5の間に形成されている。
また、図3Aに示すように、上シリンダ穴2a1の外周面には、上吸込口2a2が設けられており、ここに挿入される上吸込パイプ50aを介して、三日月形空間と外部吸込領域が接続されている。
上吸込口2a2に近接する上吐出口2a3は、図2に示す上吐出弁口4a3と上吐出弁18aを介して、上吐出カバー15aの内部空間と繋がり、最終的に図1に示すケーシング空間140と繋がっている。
上シリンダ2aに形成される三日月形空間は、上ブレード機構20aによって、上吸込口2a2と繋がる上吸込室95aと、上吐出口2a3と繋がる上圧縮室100a(上吐出室105a)に仕切られる。なお、以下では、内部圧が低く上吐出弁18aが閉じた状態を上圧縮室100aと呼び、内部圧が吐出圧に達し上吐出弁18aが開いた状態を上吐出室105aと呼ぶ。
また、図4Aの矢印で示すように、上偏心シャフト6aは、上吸込室95aの容積を拡大するとともに、上吐出室105aの容積を縮小する方向に、上ピストン3aを偏心旋回させる。この偏心旋回によって、上圧縮室100a内の作動流体が圧縮され、圧縮された作動流体が上吐出口2a3、上吐出弁口4a3、上吐出弁18a、上吐出カバー15a内部空間を介して、ケーシング空間140に吐出される。
また、図2に示すように、上プレート室160aは、上偏心シャフト6aの上面と上スラスト面6a1を形成する段差部の外周と上ピストン穴3a7によって形成される。
さらに、図2に示すように、中仕切室110は、中仕切板5の軸穴5h内面とクランクシャフト6の間に形成される空間、上偏心シャフト6aの下方に形成される空間、下偏心シャフト6bの上方に形成される空間、の三者から構成される。
また、図1、2で明示されるように、上偏心シャフト6aと下偏心シャフト6bは偏心方向が180°ずれているため、上吸込室95aと下吸込室95bの吸込み行程、上圧縮室100aと下圧縮室100bの圧縮行程、そして、上吐出室105aと下吐出室105bの吐出行程は、常に180°位相がずれている。
図3と図4は、あるタイミングにおけるシリンダ2とピストン3の位置関係を示す断面図であり、上ピストン3aと下ピストン3bの位相が180°ずれていることを示している。なお、図3Aと図4Aは、上方から見た断面図であるのに対し、図3Bと図4Bは、下方から見た断面図である。
以上で説明したように、上下の圧縮機構の工程が180°ずれているため、モータ7にかかる負荷トルクが平準化され、モータ効率向上による圧縮機効率向上という効果を奏する。また、吸込み流量や吐出流量も平準化され、吸込圧損や吐出圧損の低下による圧縮機効率向上という効果も奏する。
次に、圧縮機構部Mにおける油の流れの詳細を、主に図2を用いて説明する。ところで、全体の油の流れとして説明したとおり、下給油横穴6b2と上給油横穴6a2を経由する油の流れが同様であることは、その下流にあたる圧縮機構部Mへの油の流れにも当てはまる。よって、上プレート室160aと下プレート室160bを始点とする圧縮機構部Mにおける油の流れでも、上プレート室160aを始点とする油の流れだけを説明し、下プレート室160bを始点とする油の流れについては共通する説明を省略する。
前記のとおり、上プレート室160a内の油の圧力は吐出圧であるため、上プレート室160a内の油は、端板側上ピストン端面3a1とピストン側上端板面4a6が形成する端板側上ピストン端面隙間と上偏心シャフト6aの軸受隙間へ流入する。
まず最初に、端板側上ピストン端面隙間へ入る油の流れを説明する。端板側上ピストン端面隙間の上プレート室160a側開口部へ至った油は、差圧によって、吸込圧である上吸込室95aや吐出圧よりも低圧の上圧縮室100aといった吐出圧低下領域となる作動室へ漏れ込む。そして、圧縮行程の間、作動流体に混ざって、各部のシールや潤滑を行う。その後、上圧縮室100aの圧力が吐出圧に達した時点で圧縮工程が完了し、上圧縮室100aへの油の漏れ込み流れが止まる。また、上吐出弁18aが開放され、上圧縮室100aが上吐出室105aとして機能するようになると、上吐出室105a内の油は、上吐出口2a3、上吐出弁口4a3を通って上吐出カバー15aの内部空間へ流出し、最終的に、作動流体とともにケーシング空間140に吐出される。
次に、もう一方の、上偏心シャフト6aの軸受隙間へ流入する油の流れを説明する。この油の流路は、中仕切室110へ至るため、これまで説明した貯油部120から上プレート室160aまでの給油路と合わせて、中仕切給油路を構成する。前記した通り、貯油部120から上プレート室160aまでの給油路には流路抵抗がほとんど無いが、上プレート室160aから中仕切室110までの流路は、上偏心シャフト6aの軸受隙間に形成されるものであるため流路抵抗は大きい。この関係から、上プレート室160a・中仕切室110間の流路抵抗は、貯油部120・上プレート室160a間の流路抵抗よりも桁違いに大きくなっている。
ここで、本実施例では、上プレート室160a・中仕切室110間の油流路として、軸受隙間に加えて、圧縮負荷のかからない方向に上平面カット部6a4(図4Aではクランクシャフト6の右上方向の位置)を設けて給油量を補填している。上平面カット部6a4は、軸受隙間よりは流路抵抗が小さいものの、軸受隙間よりやや小さい程度の流路抵抗を持つため、貯油部120から上プレート室160aまでの給油路に比べると、流路抵抗は軸受隙間と同様に桁違いに大きい。この上平面カット部6a4は、必須ではなく、設定しなくてももちろん良い。これより、貯油部120から上プレート室160aまでの油路は中仕切給油路上流部、上プレート室160aから中仕切室110までの流路は、上偏心シャフトへの給油路であるとともに中仕切給油路下流部とみなすことができる。
以上で説明した本実施例の構成では、貯油部120の圧力が吐出圧であり、また、中仕切給油路下流の入口までの圧力低下が実質的に無いことから、中仕切給油路下流入口までの圧力も吐出圧となる。また、中仕切給油路下流入口は、上偏心シャフト6aの軸受隙間の上プレート室160a側開口部なので、上プレート室160aまでが吐出圧となる。
ところで、本実施例では、上プレート室160aのみを中仕切給油路下流入口としたが、例えば、図6の細い二点鎖線で示すような、上平面カット部6a4の途中に開口する上偏心横穴6a5を追加し、その開口部も中仕切給油路下流入口としてもよい。
上偏心横穴6a5を追加することにより、遠心ポンプ作用が大きくなり、貯油部120の液面が低下しても、各部への給油が継続するため、給油信頼性を向上できるという効果がある。また、流路抵抗の大きい中仕切給油路下流部を、上偏心シャフト6aの軸受給油路としたことで、新たな流路を設けることが不要となり、圧縮機の構成が単純化されて、加工コストが低減するという効果がある。
このようにして、中仕切室110へ入った油は、中仕切側上ピストン端面3a2と中仕切板5の上面である上中仕切面5aとの隙間である中仕切側上ピストン端面隙間を通って、上吸込室95aや上圧縮室100aへ流入する。
その後は、前記した端板側上ピストン端面隙間から流入した油と同様の流れとなる。この中仕切側上ピストン端面隙間は、前記した中仕切給油路上流部よりも十分流路抵抗が大きい上に、中仕切室110から吐出圧よりも低い圧力領域である吐出圧低下領域へ油を流出させる流路であるため、中仕切油流出路とみなすことができる。
以上より、中仕切室110は流路抵抗の大きい中仕切給油路下流部と同様に流路抵抗の大きい中仕切油流出路に挟まれる。そして、上記の通り、中仕切給油路下流部の最上流部である中仕切給油路下流入口が定常な運転時においては常に吐出圧となり、一方、中仕切油流出路の最下流部は吸込圧か吐出圧よりも低い吐出圧低下領域となっていることから、中仕切室110の圧力である中仕切圧は、常に吐出圧と吸込圧の中間である中間圧となる。
この結果、中仕切室110が吐出圧かそれ以上の圧力となっている場合と比較して、中仕切側上ピストン端面隙間の圧力差を小さくすることができる。よって、中仕切室110から上吸込室95aや上圧縮室100aへ流入する油量を低減させることができる。
上吸込室95aへ流入する油は、吐出領域内の貯油部120に溜まっているため一般に高温である。よって、上吸込室95aへ流入する油量を低減することにより、上吸込室95a内の作動流体の加熱を抑制することができる。
これより、上吸込室95aの作動流体の密度が増大するため、同一の動力を加えても体積効率が向上し、圧縮機効率の向上という効果を奏する。
一方、上圧縮室100aへ流入する油を低減することにより、上圧縮室100a内の作動流体の温度上昇による圧力上昇を抑制することができる。よって、圧縮に要する動力を低減でき、圧縮機効率の向上という効果を奏する。このようにして、体積効率が高く、さらに圧縮機効率が高いロータリ圧縮機を提供できるという効果がある。
次に、図5、図6、図7Aを用いて、実施例2のロータリ圧縮機について説明する。なお、実施例1と共通する点は説明を省略する。
上述した通り、実施例1の構成によれば、ロータリ圧縮機の体積効率、圧縮機効率をともに高めることができるが、以下の不利益もある。
実施例1の構成では、中仕切油流出路となる中仕切側上ピストン端面隙間は変化が大きく、その隙間が狭くなるにつれて流路抵抗が増大する。一方、中仕切給油路下流部である上偏心シャフト6aの軸受隙間は変化が小さく、その流路抵抗はほぼ一定である。
これにより、中仕切側上ピストン端面隙間または中仕切側下ピストン端面隙間が小さくなると中仕切圧は上昇する。なぜならば、中仕切給油路下流口から中仕切室110を経由して吸込室95や圧縮室100へ至る油流路のうち、中仕切室110より下流側の流路抵抗だけ増大するため、中仕切圧は低圧側から離れて吐出圧に近づくためである。
ところが、中仕切圧が上昇すると、上ピストン3aや下ピストン3bにかかる軸方向の力が変化して、中仕切板5から上ピストン3aや下ピストン3bを離す向きの力が増加し、中仕切側ピストン端面隙間が逆に増大してしまう。上ピストン3aや下ピストン3bにかかる軸方向の力は、中仕切側上ピストン端面3a2と端板側上ピストン端面3a1にかかる圧力差で決まり、中仕切側上ピストン端面3a2の圧力が上昇すると上ピストン3aは上プレート端板4a側へ移動するためである。
このように、なんらかの理由で、上ピストン3aが軸方向に移動すると、中仕切圧が変動し、その中仕切圧は、上ピストン3aの軸方向の移動量を低減する方向に変化する。このメカニズムが収斂する場合は、問題無いが、振動したり、発散したりする場合がある。
以上で説明したように、実施例1の構成では、圧縮機の寸法精度等の制御不可能なパラメータや運転状況によって、中仕切圧が変動する場合が生じ、中仕切室110から上吸込室95aや上圧縮室100aへ流入する油量を低減できない現象が予測不能に起こることも考えられる。
実施例2は、この予測不能な現象を回避できるロータリ圧縮機1に関するものであり、その詳細を、図5、図6、および、図7Aを用いて説明する。
図5は、実施例2のロータリ圧縮機1の、図2のHc−Hc位置での断面図(中仕切側上ピストン端面隙間を通る拡大横断面図)であり、本実施例で新たに設けた上油切欠き200aの連通動作を説明するものである。この上油切欠き200aは、上圧縮室100aと中仕切室110を連通する中仕切油流出路の一種であり、実施例1で説明した中仕切油流出路に加えて設けたものである。
図5において、図5Aは連通開始時、図5Bは連通路の最大開口時、図5Cは連通終了時に対応しており、クランクシャフト6が120°回転する図5Aから図5Cに至る期間、上圧縮室100aと中仕切室110が上油切欠き200aを介して連通する状況を示している。ここで、実線はクランクシャフト6、給油縦穴6c、中仕切室110、上油切欠き200aなど、中仕切板5の上面と同じ高さに配置された構成を示しており、二点鎖線は、上ピストン3a、上シリンダ2aの上シリンダ穴2a1、上ブレード機構20a(もしくは後述する上バルーンピストン30a)、上吐出口2a3など、中仕切板5の上面よりも上方に配置された構成を示す。
一方、図6は、図5BのV−Vでの拡大縦断面図であって、上油切欠き200aと下油切欠き200bの形状、位置を示すものである。さらに、図7Aは、図6のSaに示す、端板側上ピストン端面隙間付近の拡大縦断面図である。なお、図6に示すように、下油切欠き200bは、上油切欠き200aの真下に設けた、形状同一のものであるため、下油切欠き200bに関する上油切欠き200aと共通の説明は省略する。
図5に示すように、本実施例では、中仕切板5の軸穴5hの特定の方向に切欠き状の上油切欠き200aを設けている。その特定の方向とは、上圧縮室100a内の圧力が中仕切圧と略等しい圧力になったときに、上シリンダ2aと上ピストン3aの近接点と、クランクシャフト6の中心の二点を結んだ直線を延長した方向であり、本実施例では、図5Bのように、クランクシャフト6の中心から見て、上偏心シャフト6aの方向から180°ずれた正反対の方向である。
ここで、中仕切圧と吸込圧の比を圧力比αとすると、本実施例の構成における圧力比αの設定適正値は、大凡1.5〜1.8程度とすれば良いことを試作により得ている。また、圧力比αを1.5〜1.8とした場合、上油切欠き200aの設置位置は、クランクシャフト6の回転方向に、上ブレード機構20aから300〜350°進んだ位置、より望ましくは、330°進んだ位置とすればよい。
また、上油切欠き200aが、中仕切側上ピストン端面3a2によって全て閉塞されて、上油切欠き200aによる中仕切油流出路が閉じるタイミングがあるように、クランクシャフト6中心から上油切欠き200aの外側端部までの距離を、上ピストン3aの外周半径と上偏心シャフト6aの偏心量の和よりも小さくなるように設定する。さらに、上油切欠き200aが、中仕切側上ピストン端面3a2で閉塞されないで、中仕切油流出路として機能するタイミングがあるように、クランクシャフト6中心から上油切欠き200aの外側端部までの距離を、上ピストン3aの外周半径から上偏心シャフト6aの偏心量を引いた差よりも大きくなるように設定する。
この上油切欠き200aは、クランクシャフト6の回転位相に応じて流路断面積が変化する油流路であり、中仕切室110と上圧縮室100aを繋ぐ流路としては、実施例1の中仕切側上ピストン端面隙間に並列するバイパス流路として機能する。
バイパス流路としての上油切欠き200aは、流路抵抗が中仕切側上ピストン端面隙間の大きさに依存しない安定した流路であるため、これを有さない実施例1の構成と比較して、中仕切室110と上圧縮室100aを繋ぐ中仕切油流出路の流路抵抗が安定し、中仕切圧も安定することになる。
この結果、中仕切室110から上吸込室95aや上圧縮室100aへ流入する油量を安定して低減できるため、実施例1の構成で生じ得る、流入油量を低減できないという予測不能な現象を回避できるので、体積効率と圧縮機効率も安定して向上するという効果がある。
また、図5からも分かるように、この新たに設置した中仕切油流出路(上油切欠き200a)は、上吸込室95aには繋がらず、上圧縮室100aだけに繋がることから圧縮室油流入路となっている。これにより、中仕切側上ピストン端面隙間から上吸込室95aへ流入する高温の油を無くすことができるため、吸込み加熱を抑制できる。さらに、油に溶け込んでいる作動流体が吸込室へ流入する際の発泡による体積効率の低下を抑制できる。以上より、体積効率の向上やそれに伴う圧縮機効率の向上を実現できるという効果がある。
さらにまた、この新たな中仕切油流出路(上油切欠き200a)は、クランクシャフト6の回転に同期して、間欠的に通じることから、圧縮室間欠油流入路となっている。これにより、常時連通の油流入路に求められる高精度の流路断面積管理が不要となるため、加工コストを低減できるという効果がある。また、中仕切室110と通じる上圧縮室100aの圧力範囲が限定されるため、中仕切圧が安定化し、圧縮動作や各漏れ隙間に形成される油膜が安定する。よって、漏れ損失や摩擦損失が低減し、圧縮機効率が向上するという効果もある。
この中仕切圧は、この圧縮室間欠油流入路の連通期間が短いほど安定する。本実施例は、連通期間はクランクシャフト6の120°回転期間とし(図5参照)、非連通期間よりも短く設定してある。これにより、中仕切圧が一層安定化し、一層圧縮機効率が向上するという効果がある。
ところで、上油切欠き200aは、上圧縮室100aへの連通時に油が噴き出す。このときは、大きな圧力差のために、噴き出す速度が極めて高くなり、霧状となる。さらに、油に作動流体が溶解している場合には、圧力低下による溶解度の低下により、油から作動流体がガス化して発泡し、それによってもさらに油滴が微細化する。この結果、作動流体の漏れ流れに乗りやすくなり、漏れ隙間に容易に流入してシールを行うため、内部漏れを抑制し、圧縮機効率を向上するという効果がある。
さらに、上油切欠き200aの設置箇所は、高圧期間が長い上吐出口2a3近くであるため、シールが必要な箇所であることから、効果的な噴き出し箇所となっている。特に、上ブレード機構20aは、上吸込室95aと高圧側作動室である上圧縮室100aや上吐出室105aの仕切りとなっているため、その周囲の隙間は、最もシールを要する場所である。本実施例では、上油切欠き200aは、上ブレード機構20aを臨む位置で開口するため、連通時に多量の油をブレードに直接噴き付けシール性能を高めることができる。これにより、内部漏れを極めて効果的に抑制できるため、圧縮機効率を一層向上できるという効果がある。また、上吸込室95aへの吐出流体の漏れ込みも抑制することから、体積効率も向上し、さらに一層圧縮機効率が向上する。
次に、実施例3に係るロータリ圧縮機について、図7B、図8Aなどを用いて説明する。なお、上記した実施例と共通する点については説明を省略する。図7Bは本実施例における端板側上ピストン端面隙間付近(図6のSa部)の拡大縦断面図であり、図8Aはシール波板ばね11a1の中心線に沿った展開断面模式図である。ここで、端板側上ピストン端面隙間(図6のSa部)と端板側下ピストン端面隙間(図6のSb部)の状況は同一であるため、端板側上ピストン端面隙間について説明し、端板側下ピストン端面隙間に関しては共通する説明を省略する。
図7Bに示す通り、本実施例のロータリ圧縮機1では、端板側上ピストン端面3a1に上ピストンリング溝3a3を設け、そこへ、上シール波板ばね11a1と上リングシール9aを重ねて装着する。また、図8Aに示すように、上シール波板ばね11a1は、上ピストンリング溝3a3に挿入された上リングシール9aを下方から付勢する板ばねであり、複数の凹凸を有するものである。
この構成により、内周側の上プレート室160aから、吐出圧の油が上リングシール9aの底面に流入し、上リングシール9aをピストン側上端板面4a6へ付勢するとともに、外周側へも付勢するため、端板側上ピストン端面隙間のシール性を向上させることができる。これにより、上プレート室160aからの吐出油の作動室への流入や作動流体の内部漏れが抑制され、体積効率や圧縮機効率が向上する効果がある。
ここで、中仕切室110を中間圧とする実施例2では、上ピストン3aが中仕切板5へ付勢され、端板側上ピストン端面隙間が拡大するという現象が生じる。この理由を以下に述べる。
中仕切側上ピストン端面3a2は、外周の作動室と内周の中仕切室110との間の漏れ流れにより圧力分布が生じる。それは内周側の圧力と外周側の圧力を直線で繋ぐ分布となるため、中仕切側上ピストン端面3a2にかかる圧力による力は、中仕切側上ピストン端面3a2を中央で二分割した中央円の内側環状部に中仕切圧、外側環状部に作動室圧力がかかる簡略化圧力分布で近似計算可能となる。
対する端板側上ピストン端面3a1にかかる力も、同様に、中央円の内側環状部に上プレート室160aの圧力である吐出圧、外側環状部に作動流体圧力がかかるとして、計算可能である(厳密にいえば、中仕切側上ピストン端面3a2は、面積的に狭い中央寄りの一部領域が中仕切室110に臨むため、中央円で圧力領域を分割すると誤差が生じるが、その誤差は小さいため無視する。)。
これより、中央円の外側環状部は二端面とも同一の作動流体圧力が同様にかかるため、つり合う。よって、残りの外側環状部の圧力の大きい方が、合力は大きくなる。外側環状部全面に吐出圧がかかる端板側上ピストン端面3a1の方が中間圧がかかる中仕切側上ピストン端面3a2よりも圧力が大きくなることから、結局、上ピストン3aは中仕切板5側へ付勢される。このため、実施例2では、中仕切側上ピストン端面隙間はほぼ0となる反面、端板側上ピストン端面隙間は拡大してしまう。
上記した通り、実施例2では中仕切側上ピストン端面隙間はほぼ0となって、シール性が向上する一方、端板側上ピストン端面隙間は拡大し、シール性が低下する。しかし、隙間の大きさは安定化するため、油膜の形成が容易となり、シール性低下は小さい。よって、総合的に、油流入や作動流体の内部漏れが抑制され、圧縮機効率が向上する。
本実施例は、この拡大する端板側上ピストン端面隙間に、上リングシール9aを装着して、漏れ流路を遮断したため、端板側上ピストン端面隙間が拡大したにもかかわらず、シール性を格段に向上できる。以上より、中仕切室110の中間圧化による中仕切側上ピストン端面3a2の隙間縮小と合わせて、主要な漏れ流路である上ピストン3aの両端面における油流入と作動流体の内部漏れを抑制できるため、体積効率や圧縮機効率を、格段に向上できるという効果がある。
本実施例は、上ピストン3aに、片側の端面のみに上リングシール9aを装着するだけで、両端面のシール性を向上できることから、シール性向上の割に製造コストが低減するという効果がある。
さらに本実施例は、上ピストンリング溝3a3の外周を、端板側上ピストン端面3a1の中央円よりも内側に設ける。上ピストンリング溝3a3は吐出圧であるため、端板側上ピストン端面3a1にかかる力は、吐出圧領域が縮小し、吐出圧よりも低い圧力がかかる領域が拡大するため、低下する。これにより、上ピストン3aの中仕切板5への付勢力を低減できるため、そこで発生する摩擦力を低減し、圧縮機効率が向上するという効果がある。
また本実施例は、上リングシール9aの背面に上シール波板ばね11aを装着し、起動時の吐出圧が昇圧しない場合でも、上リングシール9aを端板側上ピストン端面3a1へ付勢できるため、圧縮動作の開始を円滑に行うことができるという効果がある。この上シール波板ばね11aは無くてももちろん良い。
さらに、上プレート室160a側の上ピストンリング溝3a3の内壁を一周に渡って切欠いた上ピストンリング内側一周切欠き3a4を設けたため、上リングシール9aの背面に吐出油が容易に流入できるようになり、起動時の圧縮動作の開始を円滑に行うことができるという効果がある。この上ピストンリング内側一周切欠き3a4はリングシール付勢手段であり、その中のリングシール背面吐出油導入路である。
次に、実施例4に係るロータリ圧縮機について、図8Bのシール切立て板ばねの中心線に沿った展開断面模式図を用いて説明する。本実施例は、リングシールの背面に装着する板ばね形状を変更する以外は、実施例3と同様であるため、同様な箇所に関する説明は省略する。
実施例3では、複数の凹凸を有する1枚の上シール切立て板ばね11a1で上リングシール9aを下方から付勢する構成としたが、本実施例では、一端が凸部であり他端が凹部である上シール切立て板ばね11a2を複数枚並べて上リングシール9aを下方から付勢する構成とした。
本実施例で用いる上シール切立て板ばね11a2は加工しやすい形状であるため、実施例3に比べ、加工コストが低減するという効果がある。また、上リングシール9aが起動時などで上下に振動すると、上リングシール9aを切立ての傾斜側(図8Bでは左側)に相対的に移動させる作用があるため、上リングシール9aと上シール切立て板ばね11a2を相対的に移動させて、異常な片当たりなどを抑制することができる。これにより、信頼性をさらに向上できるという効果がある。
次に、実施例5に係るロータリ圧縮機について、図8Cのシール波板傾斜板ばね11a3の中心線に沿った展開断面模式図を用いて説明する。本実施例は、リングシールの背面に装着する板ばねを外周側(図8Cでは右側)がわずかに下がるように傾斜させた以外は、実施例3と同様であるため、同様な箇所に関する説明は省略する。
上シール波板傾斜板ばね11a3は、板ばねの中心線を外周側が下がるようにわずかに傾斜させて配置したものであるため、上リングシール9aを上ピストンリング溝3a3の外周壁に容易に付勢できる。この結果、圧縮動作の開始を含む過渡的な圧縮機運転時でも、上リングシール9aをピストン側上端板面4a6に付勢できるため、運転条件の変更を一層円滑に行うことができるという効果がある。
次に、実施例6に係るロータリ圧縮機について、図8Dのシール切立て傾斜板ばねの中心線に沿った展開断面模式図を用いて説明する。本実施例は、リングシールの背面に装着する板ばねを外周側にわずかに傾斜させた形状に変更する以外は、実施例4と同様であるため、同様な箇所に関する説明は省略する。
上シール切立て傾斜板ばね11a4は、実施例5と同様、板ばねの中心線を外周側がわずかに下がるように傾斜させた形状であるため、上リングシール9aを上ピストンリング溝3a3の外周壁に容易に付勢できる。この結果、圧縮動作の開始を含む過渡的な圧縮機運転時でも、上リングシール9aをピストン側上端板面4a6に付勢できるため、運転条件の変更を一層円滑に行うことができるという効果がある。
次に、実施例7に係るロータリ圧縮機について、図7Cの端板側ピストン端面隙間付近の拡大縦断面図(図6のSa)を用いて説明する。本実施例は、上ピストン3aのリングシール背面吐出油導入路を、上ピストンリング溝3a3内周壁の一箇所または複数か所を切欠いた上ピストンリング内側切欠き3a5とする以外は、実施例3から実施例6と同様であるため、同様な箇所に関する説明は省略する。
図7Aに示した上ピストンリング内側一周切欠き3a4は、一周切欠きとしたため、旋盤などでの加工が可能となるため加工コストが低減するが、上リングシール9aの背面に近い箇所まで切欠いて、吐出圧の導入を容易にしようとした場合、上ピストンリング溝3a3の内周壁が全域で低くなり、上リングシール9aが上ピストンリング溝3a3から逸脱してしまうという不利益があった。
これに対して本実施例は、上リングシール9aの背面に近い箇所のみ深く切欠いて、吐出圧の導入を集中させることができるため、圧縮動作の開始を含む過渡的な圧縮機運転時でも、上リングシール9aをピストン側上端板面4a6に付勢でき、運転条件の変更を一層円滑に行うことができるという効果がある。
次に、実施例8に係るロータリ圧縮機について、図7Dの端板側ピストン端面隙間付近の拡大縦断面図(図6のSa)を用いて説明する。本実施例は、上ピストン3aのリングシール背面吐出油導入路を、上ピストンリング溝3a3内周壁の一箇所または複数か所を切欠いた上ピストンリング内側底穴3a6とする以外は、実施例3から実施例6と同様であるため、同様な箇所に関する説明は省略する。
本実施例では、実施例7の上ピストンリング内側切欠き3a5に代え、底部に向けて貫通する上ピストンリング内側底穴3a6を上ピストンリング溝3a3内周壁に設けた。これにより、上リングシール9aが上ピストンリング溝3a3から逸脱する量を増大させることなく、上リングシール9aの背面に直接吐出油を導く流路になるため、圧縮動作の開始を含む過渡的な圧縮機運転時でも、上リングシール9aをピストン側上端板面4a6に確実に付勢できるため、運転条件の変更をより一層円滑に行うことができるという効果がある。
次に、実施例9に係るロータリ圧縮機について、図9、10A、11を用いて説明する。なお、本実施例は、上吸込口2a2近傍のピストン側上端板面4a6に上ポケット給油穴4a20を追加した構成に特徴があり、他の構成は上述した実施例と共通するため、詳細な説明は省略する。
図9Aは、上軸受プレート4aのシリンダ側の平面図、図9Bは、下軸受プレート4bのシリンダ側の平面図、図10Aは上ポケット給油穴付近の拡大図(図9AのT部)、図11は、ポケット給油動作の説明図である。ここで、図9Aと図9Bでは二点鎖線によって、装着されるシリンダ形状を示している。上軸受プレート4aと下軸受プレート4bは外周の形状は異なるが、以下で説明する中央寄りの構造や動作は同様であるため、上軸受プレート4aのみで上ポケット給油穴4a20の説明を行い、下ポケット給油穴4b20の説明は省略する。
これまで述べてきたとおり、ロータリ圧縮機における作動室への吐出油流入は、圧縮機効率低下の主因の一つである。しかし、この油は、作動室のシール性向上を担う役割も持っており、作動室流入油の過度な抑制は、逆に作動室のシール性を低下させ、圧縮機効率を低下させる。これまで示してきた、中仕切室110の中間圧化と端板側ピストン端面隙間へのシール挿入によると、作動室流入油の主要な流路であるピストン端面隙間をほぼ完全にシールしてしまうため、油切欠きや油穴の圧縮室油流入路で実現する吐出口付近の給油以外の箇所で給油不足が生じる。特に、圧縮室油流入路の出口から遠い吸込口付近などで給油の不足が発生する。この吸込室給油不足を改善する策の一つが、本実施例で示すポケット給油穴による吸込室給油である。
図11に示す通り、上ポケット給油穴4a20は、上ピストン3aの旋回運動によって、上吸込室95aと上プレート室160aを交互に連通する。これにより、上ポケット給油穴4a20は、上プレート室160aに臨んだ際に、吐出圧の油が入り、上吸込室95aへ臨んだ際に圧力差でその油が上吸込室95aへ噴き出す。これにより、上吸込室95aへのポケット給油を実現する。この動作によって、吸込室側の給油不足が改善され、体積効率や圧縮機効率が向上する。
ところで、上ポケット給油穴4a20が、上吸込室95aと上プレート室160aを交互に行き来するためには、図10Aで示すように、端板側ピストン端面外線の最内位置と端板側ピストン端面外線の最外位置を示す円で挟まれた環状領域に入っている必要がある。
本実施例は3個のポケット給油穴で構成しているが、必要な給油量に応じて数を変更してかまわない。また、3個の各々のポケット給油穴は、すべて上軸受プレート中心から等距離(L1=L2=L3)に配置されているが、これによって、各々のポケット給油穴が給油を開始するタイミングは等時間間隔となる。さらに、上ポケット給油穴4a20の総容積は、上吸込室の最大容積の4000分の1から1000分の1とする。これにより、圧縮機効率が最大になることが、実験等により見出されている。
次に、実施例10に係るロータリ圧縮機について、図10Bを用いて説明する。図10Bは、上ポケット給油穴付近の拡大図(図9AのT部)であり、3個の各々のポケット給油穴の配置する位置が、ブレード機構に近づくほど上軸受プレート中心から離れて(L1>L2>L3)配置される、上ポケット距離増加給油穴4a21とする以外は、実施例9と同様であるので、同様な箇所に関する説明は省略する。
これにより、L1=L2=L3となる実施例9の場合に比べて、3個のポケット給油穴で給油するクランクシャフト6の回転位相角期間が延びる。よって、クランクシャフト6の回転速度が比較的小さい条件で高効率を狙う場合に適している。
次に、実施例11に係るロータリ圧縮機について、図10Cを用いて説明する。図10Cは、上ポケット給油穴付近の拡大図(図9AのT部)であり、3個の各々のポケット給油穴の配置する位置が、ブレード機構に近づくほど上軸受プレート中心に近づいて(L1<L2<L3)配置される、上ポケット距離減少給油穴4a22とする以外は、実施例9と同様であるので、同様な箇所に関する説明は省略する。
これにより、L1=L2=L3となる実施例9の場合に比べて、3個のポケット給油穴で給油するクランクシャフト6の回転位相角期間が短くなり短時間に一気に給油される。よって、クランクシャフト6の回転速度が比較的大きい条件で高効率を狙う場合に適している。
次に、実施例12に係るロータリ圧縮機について、図9Aと図12Aと図12Bを用いて説明する。図9Aは、上軸受プレート4aの平面図、図12Aは、ブレード給油穴付近の拡大縦断面図(図2のG部)であり、図12Bは、上吐出カバー15aの平面図である。
実施例9で説明した通り、中仕切室110の中間圧化と端板側ピストン端面隙間へのシール挿入では、圧縮室油流入路の出口から遠い吸込口付近などで給油の不足が発生するため、その吸込室給油不足を改善する対策が必要となる。
本実施例は、その一策であり、ブレード機構の隙間から吸込室へ給油するために、後方穴(上ベーン背面穴2a22、上ブレード背面穴2a32)の上方にブレード給油穴4a10を設けるとともに、ブレード給油穴4a10を覆う上吐出カバー15aのカバー拡大部15a2と、そこに繋がるカバー傾斜部15a3を設ける以外は、実施例3から実施例11と同様であるので、同様な箇所に関する説明は省略する。
これにより、上吐出弁18aから作動流体とともに吐出する油は、上吐出カバー15aに衝突して、作動流体から分離し、カバー傾斜部15a3の内面を伝って、カバー拡大部15a2に至る。そして、重力によって、下方のブレード給油穴4a10を通り、ブレードが臨む後方穴に油が垂れる。これにより、差圧によってブレード周囲の隙間から上吸込室95aと下吸込室95bに給油される。これにより、体積効率や圧縮機効率が向上する。
ところで、ブレード給油穴4a10を通る油は、上吐出カバー15aに衝突して作動流体が油から発泡した直後であるため、温度は低い。これにより、低温の油を吸込室に給油できるため、吸込み加熱を抑制できるから、体積効率や圧縮機効率を一層向上できる
次に、実施例13に係るロータリ圧縮機について、図13の圧縮室間欠油流入路である貫通油切欠きの拡大縦断面図(図5BのV−V)を用いて説明する。上下の油切欠きを一体化した貫通油切欠き205を設ける以外は、実施例3から実施例12と同様なので、同様な箇所に関する説明は省略する。
上下の溝位置を合わせる必要がなく、一箇所の溝加工で圧縮室間欠油流入路を実現できるため、加工コストが低減するという効果がある。
次に、実施例14に係るロータリ圧縮機について、図14の圧縮室間欠油流入路である油穴の拡大縦断面図(図5BのV−V)を用いて説明する。圧縮室間欠油流入路を、中央油穴210cと上油穴210aと下油穴210bからなる油穴とする以外は、実施例3から実施例12と同様なので、同様な箇所に関する説明は省略する。
中仕切室110では、油がミスト状もしくは泡状になっているため、重力の影響を受けて、上方よりも下方の方が油の存在密度が高い。よって、上圧縮室100aと下圧縮室100bで圧縮間欠油流入路の中仕切室110側開口部の高さが異なる場合、下方寄りに開口した圧縮間欠油流入路の方が流量が多くなる。
例えば、実施例3では下圧縮室100bへの流入油量が上圧縮室100aへの流入油量よりも多くなる。このため、上圧縮室100aの給油不足によるシール性低下の可能性または下圧縮室100bの給油過多による、作動流体加熱の影響が出て、圧縮機効率が低下する問題が発生する場合がある。
これを改善するため、本実施例では、圧縮間欠油流入路の中仕切室110との連通箇所を、中央油穴210cの開口位置が限定された一箇所とした。この結果、上圧縮室100aと下圧縮室100bにほぼ同量の油を供給することができ、圧縮機効率が向上するという効果がある。ここで、中央油穴210cから上油穴210aと下油穴210bへ分岐する際に下油穴210bへ多く油が分岐する可能性は低い。それは、流路断面積が限定され場所での油の流れであるために、流速が大きく、重力の影響が小さくなるためである。
次に、実施例15に係るロータリ圧縮機について、図15Aと図15Bを用いて説明する。図15Aは、上ブレード機構付近の拡大横断面図(図3AのNa部)、図15Bは下ブレード機構付近の拡大横断面図(図3BのNb部)である。上ブレード機構と下ブレード機構は同様の構造で動作も同様であるため、上ブレード機構で説明を行い、下ブレード機構の対応する説明は省略する。
上ブレード機構のブレード部を上ピストン3aと一体化して、上ピストンブレード30a1とし、上バルーンピストン30aを形成する。そして、上ピストンブレード30a1を、上シリンダ2aの吸込吐出近接領域に開口する上ブレード溝2a30と、上ブレード溝2a30に接続する円形穴である上ヒンジ穴2a31と上ブレード背面穴2a32に挿入する。そして、上ピストンブレード30a1と上ヒンジ穴2a31の間の空間に半円柱形状の上セミシリンダ31aを隙間嵌合する。このように、ブレード機構を、上ピストン3aと一体化した上バルーンピストン30aとする以外は、実施例1から実施例14と同様である。
上述した実施例のように、分離ブレード機構で中仕切室110を中間圧にした場合、上ピストン3aが上軸受プレート4a側へ押し付けられるため、上ピストン3aの回転が阻害され、上ブレード機構20aが長期間ピストンの同一箇所へ押圧されて、ベーンとピストン間が異常磨耗し、漏れ増大による圧縮機効率低下の可能性があった。
しかし、本実施例の一体化ブレード機構では、ベーンとピストンの押圧箇所が無いことから、漏れ増大を原因とする性能低下を回避でき、安定した性能を維持して信頼性の高いロータリ圧縮機を提供できるという効果がある。
最後に、実施例16に係るロータリ圧縮機について、図16と図17と図8を用いて説明する。
図16は、ピストンブレードの拡大断面図(図15Aと図15BのJ―J)であり、図17は、ピストンブレード先端部の拡大図(図16のW部)、そして図8は、各種板ばねの中心線に沿った断面模式図である。上ブレード機構と下ブレード機構は同様の構造で動作も同様であるため、上ブレード機構で説明を行い、下ブレード機構の対応する説明は省略する。ピストンブレードの端面のうちで軸受プレート側の面に、直線状シールを設ける以外は、実施例15と同様なので、同様な箇所に関する説明は省略する。
本実施例では、図16に示すように、上ピストンブレード30a1の上軸受プレート4a側の端面に上ピストン直線溝30a2を設け、その中に、図8に示す各種上板ばね11a1、11a2、11a3、11a4とともに、上ラインシール10aを重ねて装着する。さらに、図17に示す通り、上ピストン直線溝30a2が間欠的に上ブレード背面穴2a32に臨むようにしてあるため、これによって、上ラインシール10aの背面に吐出圧を導入し、上軸受プレート4aへ確実に付勢でき、シール性を向上する。
以上で説明した本実施例の構成によれば、中仕切室110の中間圧化によって、上バルーンピストン30aの円環状部である上ピストン3aが中仕切板5側へ付勢されるために、上ピストンブレード30a1も中仕切板5側へ付勢される。この結果、上ピストンブレード30a1の上軸受プレート4a側の端面隙間が拡大するが、そこへ上ラインシール10aを設けたために、シールが確保され、内部漏れが抑制されて、圧縮機効率や体積効率が向上するという効果がある。