遊星歯車式の有段変速部は、例えばシングルピニオン型或いはダブルピニオン型の単一の遊星歯車機構を備えて構成される。遊星歯車機構はサンギヤ、キャリア、およびリングギヤの3つの回転要素を備えているが、それ等の回転速度を直線で結ぶことができる共線図において、例えば中間に位置する回転速度が中間の回転要素(シングルピニオン型遊星歯車機構のキャリア、ダブルピニオン型遊星歯車機構のリングギヤ)にエンジンが連結され、両側の回転要素の一方が出力部材に連結され、他方が変速用ブレーキを介して選択的に回転不能に固定される。この場合は、変速比が1より小さい増速ギヤ段(オーバードライブ)を成立させることができるとともに、3つの回転要素の何れか2つを変速用クラッチによって選択的に連結することにより、遊星歯車機構が一体的に回転する変速比が1の等速ギヤ段を成立させることができる。また、例えば共線図の中間に位置する回転要素を出力部材に連結し、両側の回転要素の一方にエンジンを連結し、他方を変速用ブレーキによって選択的に回転不能に固定できるようにした場合、変速比が1より大きい減速ギヤ段(アンダードライブ)を成立させることができる。
上記有段変速部は、変速用のクラッチおよびブレーキが共に解放されると、動力伝達が遮断される中立状態(ニュートラル状態)となり、クラッチおよびブレーキが共に係合させられると、エンジンを含めて総ての回転要素の回転が停止する静止状態となる。変速用クラッチおよびブレーキとしては、摩擦係合式のクラッチおよびブレーキが好適に用いられるが、噛合い式のクラッチやブレーキ、或いはベルト式ブレーキ等を採用することもできる。
電気式差動部の差動機構としては、シングルピニオン型或いはダブルピニオン型の単一の遊星歯車機構が好適に用いられる。この遊星歯車機構はサンギヤ、キャリア、およびリングギヤの3つの回転要素を備えているが、それ等の回転速度を直線で結ぶことができる共線図において、例えば中間に位置する回転速度が中間の回転要素(シングルピニオン型遊星歯車機構のキャリア、ダブルピニオン型遊星歯車機構のリングギヤ)に機械式変速部の出力部材が連結され、両側の回転要素に第1回転機および駆動輪が連結されるが、中間の回転要素に駆動輪を連結するようにしても良い。駆動輪に連結される回転要素が出力要素である。この3つの回転要素は、常に差動回転可能であっても良いが、任意の2つをクラッチにより一体的に連結できるようにして、運転状態に応じて一体回転させるようにしたり、第1回転機が連結される回転要素をブレーキにより回転停止できるようにしたりして、差動回転を制限することも可能である。
回転機は回転電気機械のことで、第1回転機および第2回転機としては、電動モータおよび発電機の機能を択一的に用いることができるモータジェネレータが適当であるが、第2回転機として電動モータを採用することもできる。
エンジンと第1回転機とを選択的に連結できる直結係合部は、動力伝達を接続、遮断できる断接装置で、摩擦係合式のクラッチが好適に用いられるが、噛合い式クラッチを採用することもできる。必要に応じて変速ギヤ等を介してエンジンと第1回転機とを連結しても良い。すなわち、この直結係合部は、遊星歯車式の有段変速部および電気式差動部に対して並列に配設され、それ等の遊星歯車式の有段変速部および電気式差動部を介することなくエンジンと第1回転機とを動力伝達可能に連結できるものであれば良い。
切換判定部は、例えばアクセル操作量や車速等の運転状態をパラメータとして定められた走行モード切換マップ、或いは走行モード領域マップ等の走行モード切換条件に従って切換判断を行なう。バッテリの蓄電残量等の車両状態に応じて複数種類の走行モード切換条件を定めることもできるし、車両状態に応じて基本の走行モード切換条件を補正することもできる。そして、例えばアクセル操作量等の車両負荷に応じてEV単駆動モードからEV両駆動モードへ切り換えられ、更にHV走行モードへ切り換えられるような場合に、本発明は好適に適用される。また、EV走行モード領域であっても、バッテリの蓄電残量SOCが少ない場合にはHV走行モードへ切り換えるように走行モード切換条件が定められている場合にも、好適に適用される。すなわち、HV切換予測部は、例えば車両負荷の変化率(アクセル変化率など)に基づいて第2切換判断が行われるか否かを予測したり、蓄電残量SOCに基づいて第2切換判断が行われるか否かを予測したりすることができる。また、車速に応じて走行モードが切り換えられる場合には、車速の変化率(加減速度)に基づいて第2切換判断が行われるか否かを予測することもできるなど、走行モード切換条件に応じて種々の予測態様が可能である。
切換実行部は、例えば第2切換判断が行われると予測された時には第1係合パターンの両駆動モードへ切り換え、第2切換判断が行われると予測されなかった場合は第2係合パターンの両駆動モードへ切り換えるように構成される。第2係合パターンではエンジンを含めて有段変速部の各回転要素が回転停止させられるため、エンジンが連れ廻り回転させられる第1係合パターンに比較して優れた燃費性能が得られる。反面、エンジンブレーキが効かないため、例えば下り坂などエンジンブレーキが必要な運転状態では第1係合パターンの両駆動モードとすることが望ましいなど、第2切換判断が行われると予測されなかった場合の両駆動モードの係合パターンについては適宜定められる。蓄電残量SOCが多い場合も、第1回転機および第2回転機の回生制御が制限され、被駆動走行時に回生トルクによる制動作用が得られない可能性があるため、エンジンブレーキが可能な第1係合パターンの両駆動モードとすることが望ましい。すなわち、第2切換判断が行われると予測されなかった場合には、車両の運転状態や蓄電残量SOC等によりエンジンブレーキが必要と判断される時には第1係合パターンの両駆動モードとし、それ以外は基本的に第2係合パターンの両駆動モードとすることが望ましい。EV要求スイッチがON操作されてEV走行モードのみで走行する場合など、第2切換判断が行われる可能性が無いか低い場合も、第2係合パターンの両駆動モードへ切り換えれば良い。第1係合パターンの両駆動モードによる走行時は、エンジンが連れ廻り回転させられるため、エンジンブレーキの必要がない駆動走行時には、デコンプ(decompression;減圧)装置などでポンピング作用による回転抵抗を抑制することが望ましい。
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明が適用されたハイブリッド車両10の走行に関与する概略構成を説明する骨子図で、走行モードの切換制御に関する制御系統の要部を併せて示した図である。図1において、ハイブリッド車両10は、走行用の駆動源として用いることができるエンジン12、第1モータジェネレータMG1、および第2モータジェネレータMG2を備えており、動力伝達装置14を介して駆動輪(前輪)16を回転駆動する。エンジン12は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等、所定の燃料を燃焼させて動力を出力する内燃機関である。このエンジン12は、電子制御装置80によって吸入空気量、燃料供給量、点火時期等の作動状態が制御されることにより、エンジントルクTeが制御される。
第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2は、何れも電動モータおよび発電機(ジェネレータ)として択一的に用いることができる。第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2は、インバータ部や平滑コンデンサなどを有する電力制御ユニット18を介してバッテリユニット20に接続されており、電子制御装置80によって電力制御ユニット18が制御されることにより、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2の各々のトルク(力行トルクまたは回生トルク)であるMG1トルクTmg1、MG2トルクTmg2が制御される。第1モータジェネレータMG1は第1回転機で、第2モータジェネレータMG2は第2回転機である。
動力伝達装置14は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式の車両用で、非回転部材であるトランスアクスルケース22内に、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2と共に収容されている。動力伝達装置14は、エンジン12および第1モータジェネレータMG1の少なくとも一方の出力を駆動輪16へ伝達する第1動力伝達部24と、第2モータジェネレータMG2の出力を駆動輪16へ伝達する第2動力伝達部26とを備えている。第1動力伝達部24は、機械式変速部44および電気式差動部46を備えており、電気式差動部46の出力部材であるドライブギヤ28から、ドリブンギヤ30、ドリブン軸32、ファイナルギヤ34、デフリングギヤ36を介してディファレンシャル装置38に動力伝達され、一対の車軸40を介して左右の駆動輪16に分配される。
機械式変速部44および電気式差動部46は、エンジン12によって回転駆動される入力軸42と同軸に配置されており、機械式変速部44は、第1遊星歯車機構48、クラッチC1、およびブレーキB1を備えている。第1遊星歯車機構48は、差動回転可能な3つの回転要素として、サンギヤS1、ピニオンギヤP1を自転および公転可能に支持するキャリアCA1、およびピニオンギヤP1を介してサンギヤS1と噛み合うリングギヤR1を有するシングルピニオン型の遊星歯車機構で、キャリアCA1は入力軸42に一体的に連結されており、機械式変速部44の入力部材として機能する。サンギヤS1は、ブレーキB1を介してトランスアクスルケース22に選択的に連結されるようになっており、サンギヤS1およびキャリアCA1は、クラッチC1を介して互いに選択的に連結されるようになっている。リングギヤR1は、機械式変速部44の出力部材として機能する連結部材45を介して電気式差動部46に連結されている。本実施例では、サンギヤS1が第1回転要素で、キャリアCA1が第2回転要素で、リングギヤR1が第3回転要素であり、クラッチC1は変速用クラッチで、ブレーキB1は変速用ブレーキである。
クラッチC1およびブレーキB1は、何れも油圧アクチュエータによって係合制御される多板型の油圧式摩擦係合装置であり、油圧制御回路52の油路切換弁や油圧制御弁が電子制御装置80によって制御されることにより、その油圧制御回路52から各々供給されるC1油圧Pc1、B1油圧Pb1に応じて係合、解放制御される。そして、クラッチC1およびブレーキB1が何れも解放されると、第1遊星歯車機構48の差動が許容され、サンギヤS1が自由回転してエンジントルクTeの反力トルクを取れないため、機械式変速部44は中立状態(ニュートラル状態)とされて動力伝達が不能な遮断状態となる。クラッチC1およびブレーキB1が何れも係合させられると、第1遊星歯車機構48は一体的に回転停止させられる静止状態となり、入力軸42を介してエンジン12も回転停止状態に保持される。クラッチC1が係合させられ且つブレーキB1が解放されると、第1遊星歯車機構48が一体回転させられるようになり、エンジン12の回転速度(エンジン回転速度)Neが等速で、すなわち変速比γ1=1で、リングギヤR1から連結部材45を介して電気式差動部46へ出力される。変速比γ1は、エンジン回転速度Ne/リングギヤR1の回転速度である。また、クラッチC1が解放され且つブレーキB1が係合させられると、サンギヤS1が回転停止させられることにより、リングギヤR1が入力軸42に対して増速回転させられるようになり、変速比γ1<1で連結部材45を介して電気式差動部46へ出力される。すなわち、機械式変速部44は、直結状態(変速比γ1=1)のローギヤ段と、オーバードライブ状態(変速比γ1<1)のハイギヤ段とに切り換えられる2段の有段変速部である。
図3〜図11における左側に示す共線図は、上記機械式変速部44に関するもので、「ENG」はエンジン12である。この共線図は、第1遊星歯車機構48の3つの回転要素(サンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1)の回転速度を直線で結ぶことができるもので、各回転要素を表す3本の縦線Y1〜Y3の間隔は、第1遊星歯車機構48のギヤ比(サンギヤS1の歯数/リングギヤR1の歯数)に応じて定まる。本実施例では、この共線図の中間に位置する回転要素、すなわち差動状態において回転速度が中間の速度になる回転要素であるキャリアCA1に入力軸42が連結されて、エンジン12から動力が入力されるようになっている。また、共線図の両側に位置する2つの回転要素(サンギヤS1およびリングギヤR1)の一方(実施例ではリングギヤR1)が出力部材である連結部材45に連結され、他方(実施例ではサンギヤS1)がブレーキB1を介して選択的に回転不能に固定される。
電気式差動部46は、第2遊星歯車機構50を備えている。第2遊星歯車機構50は、差動回転可能な3つの回転要素として、サンギヤS2、ピニオンギヤP2を自転および公転可能に支持するキャリアCA2、およびピニオンギヤP2を介してサンギヤS2と噛み合うリングギヤR2を有するシングルピニオン型の遊星歯車機構であり、差動作用を生じる差動機構として機能する。キャリアCA2は、前記連結部材45に一体的に連結されており、電気式差動部46の入力部材として機能する。サンギヤS2は、差動制御用の第1モータジェネレータMG1のロータ軸54に一体的に連結されている。リングギヤR2は、電気式差動部46の出力部材として機能するドライブギヤ28に一体的に連結されている。本実施例では、キャリアCA2が第4回転要素で、サンギヤS2が第5回転要素で、リングギヤR2が第6回転要素であり、リングギヤR2は出力要素として機能する。
上記第1モータジェネレータMG1のロータ軸54は、直結クラッチCSを介して入力軸42に選択的に連結されるようになっている。直結クラッチCSは、油圧アクチュエータによって係合制御される多板型の油圧式摩擦係合装置であり、前記クラッチC1、ブレーキB1と同様に、油圧制御回路52の油路切換弁や油圧制御弁が電子制御装置80によって制御されることにより、その油圧制御回路52から供給されるCS油圧Pcsに応じて係合、解放制御される。この直結クラッチCSは、動力伝達を接続、遮断できる断接装置で、機械式変速部44および電気式差動部46に対して並列に配設され、それ等の機械式変速部44および電気式差動部46を介することなくエンジン12と第1モータジェネレータMG1とを動力伝達可能に連結できる直結係合部に相当する。
上記直結クラッチCSが解放されると、第2遊星歯車機構50の差動が許容される。この状態では、第2遊星歯車機構50は、キャリアCA2に入力される動力を第1モータジェネレータMG1およびリングギヤR2へ分配する動力分配機構として機能することが可能である。すなわち、電気式差動部46において、リングギヤR2へ分配される機械的な動力伝達に加え、第1モータジェネレータMG1に分配された動力で第1モータジェネレータMG1が回転駆動されることによって発電し、その発電した電力で第2モータジェネレータMG2を駆動したり、バッテリユニット20を充電したりすることができる。電気式差動部46は、電子制御装置80によって電力制御ユニット18が制御されて第1モータジェネレータMG1の運転状態が制御されることにより、変速比γ2(=キャリアCA2の回転速度/リングギヤR2の回転速度)を連続的に制御する電気式無段変速機として機能する。つまり、電気式差動部46は、差動機構としての第2遊星歯車機構50と、その第2遊星歯車機構50に動力伝達可能に連結された差動制御用回転機としての第1モータジェネレータMG1とを有し、第1モータジェネレータMG1の運転状態が制御されることにより第2遊星歯車機構50の差動状態が制御される電気式変速機構である。また、直結クラッチCSが係合させられた状態では、エンジン12と第1モータジェネレータMG1とが連結されるため、エンジン12の動力によって第1モータジェネレータMG1を回転駆動して発電し、その発電した電力でバッテリユニット20を充電したり第2モータジェネレータMG2を駆動したりすることが可能である。
図3〜図11における右側に示す共線図は、上記電気式差動部46に関するもので、「OUT」は出力部材として機能するドライブギヤ28である。この共線図は、第2遊星歯車機構50の3つの回転要素(サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2)の回転速度を直線で結ぶことができるもので、各回転要素を表す3本の縦線Y4〜Y6の間隔は、第2遊星歯車機構50のギヤ比(サンギヤS2の歯数/リングギヤR2の歯数)に応じて定まる。本実施例では、この共線図の中間に位置する回転要素、すなわち差動状態において回転速度が中間の速度になる回転要素であるキャリアCA2に連結部材45が連結されて、エンジン12から動力が入力されるようになっている。また、共線図の両側に位置する2つの回転要素(サンギヤS2およびリングギヤR2)の一方および他方に、第1モータジェネレータMG1、駆動輪16が動力伝達可能に連結されている。
このように構成された第1動力伝達部24においては、エンジン12の動力や第1モータジェネレータMG1の動力がドライブギヤ28からドリブンギヤ30へ伝達される。従って、エンジン12および第1モータジェネレータMG1は、第1動力伝達部24を介して駆動輪16に動力伝達可能に連結される。また、機械式変速部44は、直結状態またはオーバードライブ状態で動力伝達するため、第1モータジェネレータMG1の高トルク化が抑制される。
第1動力伝達部24では、機械式変速部44および電気式差動部46が直列に接続されているため、機械式変速部44を変速すれば第1動力伝達部24の全体の変速比γ0(=γ1×γ2)も変化させられる。そこで、機械式変速部44の変速時に第1動力伝達部24の変速比γ0の変化が抑制されるように、機械式変速部44の変速に合わせて電気式差動部46の変速を実行する。例えば、機械式変速部44がローギヤ段からハイギヤ段へアップシフトされる場合、それと同時に電気式差動部46をダウンシフトする。これにより、第1動力伝達部24は、全体として所謂電気式無段変速機として機能させることができる。
第2動力伝達部26は、入力軸42とは別にその入力軸42と平行に配置された第2モータジェネレータMG2のロータ軸56、およびそのロータ軸56に一体的に取り付けられてドリブンギヤ30と噛み合う小径のリダクションギヤ58を備えている。この第2動力伝達部26においては、第2モータジェネレータMG2の動力がリダクションギヤ58からドリブンギヤ30へ伝達され、ドリブン軸32、ファイナルギヤ34、およびデフリングギヤ36を介してディファレンシャル装置38に伝達される。すなわち、第2モータジェネレータMG2は、第1動力伝達部24の機械式変速部44および電気式差動部46を介することなく、駆動輪16に対して動力伝達可能に連結されており、リダクションギヤ58による減速比の設定の自由度が高く、その減速比を大きくとることができる。
ハイブリッド車両10は、走行に関わる各種の制御を行なうコントローラとして電子制御装置80を備えている。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、ハイブリッド車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置80は、エンジン12、第1モータジェネレータMG1、および第2モータジェネレータMG2の各出力制御や、複数の走行モードの切換制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用、MG制御用、油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置80には、ハイブリッド車両10に設けられたエンジン回転速度センサ60、出力回転速度センサ62、レゾルバ等のMG1回転速度センサ64、レゾルバ等のMG2回転速度センサ66、アクセル操作量センサ68、シフトポジションセンサ70、EV要求スイッチ72、バッテリセンサ74等から、エンジン回転速度Ne、車速Vに対応するドリブンギヤ30の回転速度である出力回転速度Nout、第1モータジェネレータMG1の回転速度(MG1回転速度)Nmg1、第2モータジェネレータMG2の回転速度(MG2回転速度)Nmg2、アクセルペダルの操作量(アクセル操作量)θacc、シフトレバーの操作位置Psh、EV要求Sev、バッテリユニット20のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibat、バッテリ電圧Vbatなど、制御に必要な各種の情報が供給される。また、電子制御装置80からは、エンジン12、電力制御ユニット18、油圧制御回路52などにエンジン制御指令信号Se 、MG制御指令信号Sm、油圧制御指令信号Spなどが出力される。電子制御装置80は、例えばバッテリ充放電電流Ibatおよびバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリユニット20の蓄電残量SOCを算出する。EV要求スイッチ72は、運転席近傍のインストルメントパネル等に配設され、運転者によってON操作(押圧操作など)されることにより、モータジェネレータMG1、MG2のみを駆動源として走行するEV走行モードで走行することを要求するEV要求Sevを表す信号を電子制御装置80に出力する。
電子制御装置80は、予め定められた切換条件に従って複数の走行モードを切り換えながら走行する走行モード切換制御部82を機能的に備えている。すなわち、本実施例のハイブリッド車両10は、図2に示す種々の走行モードで走行することが可能である。図2において、EV走行モードは、エンジン12の運転を停止した状態で、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2の少なくとも一方を走行用駆動源として用いて走行する制御様式である。HV走行モードは、少なくともエンジン12を運転状態として、そのエンジン12のみを走行用駆動源として用いて走行したり、一定の条件下で第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2の少なくとも一方を走行用駆動源として用いて走行したりする制御様式である。そして、EV走行モードでは、更に単駆動モードおよび両駆動モードの2つの走行モードが定められており、HV走行モードでは、シリーズパラレルモード、パラレルモード、およびシリーズモードの3つの走行モードが定められている。
図2は、各走行モードにおけるクラッチC1、ブレーキB1、直結クラッチCS、モータジェネレータMG1、MG2の作動状態を説明する図である。図2の図中の「○」印は係合装置(C1,B1,CS)の係合を意味し、空欄は解放を意味し、「△」印は運転停止状態のエンジン12を連れ廻し状態とするエンジンブレーキ(エンブレともいう)の併用時に何れか一方を係合させることを意味する。また、「G」はモータジェネレータMG1、MG2を主にジェネレータとして機能させることを意味し、「M」はモータジェネレータMG1、MG2を駆動走行時には主に電動モータとして機能させ、被駆動走行時には主にジェネレータとして機能させることを意味する。但し、HVのパラレルモードでは、高負荷時等にアシスト的にモータジェネレータMG1、MG2が電動モータとして作動させられ、低負荷時には作動停止(フリー回転状態)とされる。
各走行モードについて具体的に説明すると、EVの単駆動モードでは、クラッチC1、ブレーキB1、および直結クラッチCSを何れも解放した状態で、基本的に第2モータジェネレータMG2を走行用駆動源として用いて走行する。図3は、このEV単駆動モード時の共線図である。クラッチC1およびブレーキB1が解放されることで、第1遊星歯車機構48の差動が許容され、機械式変速部44は中立状態(ニュートラル状態)となって動力伝達が遮断される。機械式変速部44が中立状態とされると、リングギヤR1に連結されたキャリアCA2にてMG1トルクTmg1の反力トルクが取れないため、電気式差動部46も中立状態になり、第1動力伝達部24が全体として中立状態になる。この状態で、エンジン12の運転を停止させるとともに、第2モータジェネレータMG2から走行用のMG2トルク(力行トルク)Tmg2を出力させる。後進時は、前進時に対して第2モータジェネレータMG2を逆回転させる。車両走行中には、第2モータジェネレータMG2の回転(ここでは駆動輪16の回転も同意)に連動してドライブギヤ28に連結されたリングギヤR2が回転させられる。EV単駆動モードでは、第1モータジェネレータMG1を無負荷として空転させても良いが、第1モータジェネレータMG1における引き摺り損失等を低減するために、MG1回転速度Nmg1を0(回転停止状態)に維持することが望ましい。例えば、第1モータジェネレータMG1をジェネレータとして機能させて、フィードバック制御によりMG1回転速度Nmg1を0とすることができる。或いは、第1モータジェネレータMG1の回転が固定されるように電流供給するd軸ロック制御(d−q軸座標系におけるd軸電流のみを供給する制御)を実行して、MG1回転速度Nmg1を0に維持することもできる。また、MG1トルクTmg1を0としても第1モータジェネレータMG1のコギングトルクによりMG1回転速度Nmg1を0に維持できるときはMG1トルクTmg1を加える必要はない。なお、MG1回転速度Nmg1を0に維持する制御を行っても、第1動力伝達部24は中立状態であるので、駆動トルクに影響を与えない。
上記EV単駆動モードではまた、リングギヤR1がキャリアCA2と一体的に連れ廻されるが、機械式変速部44は中立状態であるので、運転が停止されたエンジン12は連れ廻されずに停止状態となる。よって、EV単駆動モードでの走行中に第2モータジェネレータMG2を回生制御(発電制御ともいう)する場合、回生量を大きく取ることができる。EV単駆動モードでの走行時に、バッテリユニット20が満充電状態となり回生エネルギーが取れない場合、エンジンブレーキを併用することが考えられる。エンジンブレーキを併用する場合は、ブレーキB1またはクラッチC1が係合させられる(図2のEV単駆動モードのエンブレ併用を参照)。ブレーキB1またはクラッチC1が係合させられると、エンジン12は連れ廻り回転させられ、エンジンブレーキが作用するようになる。第1モータジェネレータMG1の力行制御などでMG1回転速度Nmg1を上昇させることにより、エンジン12の連れ廻し状態におけるエンジン回転速度Ne、すなわちエンジンブレーキトルクを上昇させることができる。
上述したように、ブレーキB1またはクラッチC1を係合させることでエンジン回転速度Neを上昇させることができるので、EV走行モードからエンジン12を始動するときには、ブレーキB1またはクラッチC1を係合した状態として、必要に応じて第1モータジェネレータMG1の力行制御によりエンジン回転速度Neを引き上げて点火する。このとき、第2モータジェネレータMG2に反力キャンセルトルクを追加で出力させる。なお、車両停止時にエンジン12を始動する際には、ブレーキB1またはクラッチC1を係合した状態で第1モータジェネレータMG1によりキャリアCA2の回転を引き上げることでエンジン回転速度Neを上昇させても良いし、第1モータジェネレータMG1によりキャリアCA2の回転を引き上げてからブレーキB1またはクラッチC1を係合させることでエンジン回転速度Neを上昇させても良い。直結クラッチCSを係合させて、第1モータジェネレータMG1により直接エンジン12の回転速度Neを引き上げてクランキングすることもできる。
図2において、EVの両駆動モード(Ne=0)では、クラッチC1およびブレーキB1を何れも係合させるとともに、直結クラッチCSを解放した状態で、モータジェネレータMG1およびMG2を共に走行用駆動源として用いて走行する。図4は、このEV両駆動(Ne=0)モード時の共線図である。クラッチC1およびブレーキB1が係合させられることにより、第1遊星歯車機構48の差動が規制され、サンギヤS1の回転が停止させられる。そのため、第1遊星歯車機構48は何れの回転要素も回転が停止する静止状態とされる。これによって、エンジン12は回転停止状態とされ、また、連結部材45を介してリングギヤR1に連結されたキャリアCA2の回転も停止させられる。キャリアCA2の回転が停止させられると、キャリアCA2にてMG1トルクTmg1の反力トルクが取れるため、MG1トルク(ここでは逆回転方向の力行トルク)Tmg1によりリングギヤR2から機械的に駆動力を出力させて駆動輪16へ伝達することができる。すなわち、エンジン12の運転を停止させるとともに、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2から各々走行用のMG1トルクTmg1およびMG2トルクTmg2を出力させることができる。このEV両駆動(Ne=0)モードでは、前進時に対して第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2を共に逆回転させて後進走行することも可能である。両駆動(Ne=0)モードは、第2係合パターンの両駆動モードである。
EVの両駆動モードでは、直結クラッチCSを係合させるとともに、クラッチC1およびブレーキB1の何れか一方を係合させることにより、機械式変速部44をハイギヤ段またはローギヤ段に保持した状態で、エンジン12を所定の回転速度で連れ廻り回転させつつ、モータジェネレータMG1およびMG2を共に走行用駆動源として用いて走行することも可能である。図5は、直結クラッチCSおよびブレーキB1を係合させて機械式変速部44をハイギヤ段に保持した両駆動(Neフリーハイギヤ)モードの共線図で、図6は、直結クラッチCSおよびクラッチC1を係合させて機械式変速部44をローギヤ段に保持した両駆動(Neフリーローギヤ)モードの共線図である。これ等の両駆動(Neフリー)モードでは、エンジン12が車速VすなわちMG2回転速度Nmg2に応じて連れ廻り回転させられるため、被駆動走行時にはエンジン12のポンピング作用等による回転抵抗でエンジンブレーキを発生させることができる。駆動走行時には、デコンプ装置などでエンジンブレーキを抑制することが望ましい。デコンプ装置は、例えば吸排気バルブのリフト量を制御できるもので、圧縮行程におけるリフト量を大きくして開状態とすることにより、気筒内の圧力上昇を抑制してポンピング作用を低減する。その他のデコンプ装置を用いることも可能である。この両駆動(Neフリー)モードは第1係合パターンの両駆動モードで、本実施例ではブレーキB1を係合させる両駆動(Neフリーハイギヤ)モード、およびクラッチC1を係合させる両駆動(Neフリーローギヤ)モードの2種類の両駆動(Neフリー)モードを選択できるが、何れか一方の両駆動(Neフリー)モードを設定するだけでも良い。
上記EV両駆動モードは、第2モータジェネレータMG2のみで要求駆動トルクを賄える場合であっても、MG2回転速度Nmg2およびMG2トルクTmg2で表される第2モータジェネレータMG2の動作点が第2モータジェネレータMG2の効率を悪化させる領域内にある場合、言い換えれば第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2を併用した方が効率が良い場合には、EV両駆動モードが選択される。EV両駆動モードでは、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2の運転効率に基づいて、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2にて要求駆動トルクを分担させる。
図2において、HVのシリーズパラレルモードでは、直結クラッチCSを解放するとともに、クラッチC1およびブレーキB1の何れか一方を係合させることにより、機械式変速部44をハイギヤ段またはローギヤ段に保持した状態で、エンジン12を運転(作動)させるとともに第2モータジェネレータMG2を力行制御することにより、何れも走行用駆動源として用いて走行する。図7は、このシリーズパラレルモードにおいて機械式変速部44がハイギヤ段とされた場合の共線図で、図8は、シリーズパラレルモードにおいて機械式変速部44がローギヤ段とされた場合の共線図である。クラッチC1またはブレーキB1が係合させられることで機械式変速部44が非中立状態、すなわち動力伝達状態とされ、キャリアCA2に伝達されたエンジン12の動力に対する反力を第1モータジェネレータMG1で受け持つことにより、エンジントルクTe の一部(エンジン直達トルク)をリングギヤR2から機械的に出力させて駆動輪16へ伝達することができる。第1モータジェネレータMG1は、回生制御されてジェネレータとして用いられ、上記反力を受け持つことができるとともに、発電した電力で第2モータジェネレータMG2を力行制御してMG2トルクTmg2を出力させる。なお、このシリーズパラレルモードでは、前進時に対して第2モータジェネレータMG2を逆回転させて後進走行することも可能である。
ここで、MG1回転速度Nmg1が0となり、エンジン12の動力が電気パス(第1モータジェネレータMG1や第2モータジェネレータMG2の電力授受に関わる電気経路である電気的な動力伝達経路)を介することなく全て機械的にドライブギヤ28へ伝達される状態になる所謂メカニカルポイントでは、電気式差動部46の動力伝達効率(出力されたパワー/入力されたパワー)の理論値(理論伝達効率)が最大の「1」となる。このメカニカルポイントは、図7、図8の共線図において電気式差動部46のMG1回転速度Nmg1が0となる状態(すなわちサンギヤS2の回転速度が0となる状態)である。シリーズパラレルモードでは、機械式変速部44がハイギヤ段とローギヤ段とに切り換えられることでメカニカルポイントが2つになり、ハイギヤ段のシリーズパラレルモードを有することでメカニカルポイントが高車速側に増えるため、高速燃費が向上する。すなわち、図12、図13の走行モード切換マップから明らかなように、ハイギヤ段のシリーズパラレルモード(シリーズパラレルハイ)は、比較的高車速側で選択されるようになっており、高車速側のメカニカルポイントが増えて高速燃費が向上するのである。
また、上記シリーズパラレルモードでは、MG1回転速度Nmg1に応じてキャリアCA2の回転速度、更にはエンジン回転速度Neを制御できるため、例えばエンジン12の最適燃費線を考慮したエンジン動作点(すなわちエンジン回転速度NeとエンジントルクTeとで表されるエンジン動作点)にてエンジン12を作動させることもできる。また、シリーズパラレルモードでは、第1モータジェネレータMG1の発電電力にバッテリユニット20からの電力を加えて第2モータジェネレータMG2を高トルクで駆動することも可能である。
図2において、HVのパラレルモードでは、直結クラッチCSを係合させるとともに、クラッチC1およびブレーキB1の何れか一方を係合させることにより、機械式変速部44をハイギヤ段またはローギヤ段に保持した状態で、エンジン12を運転(作動)させるとともに、必要に応じて第1モータジェネレータMG1および/または第2モータジェネレータMG2を力行制御することにより、それ等を走行用駆動源として用いて走行する。図9は、このパラレルモードにおいて機械式変速部44がハイギヤ段とされた場合の共線図で、図10は、パラレルモードにおいて機械式変速部44がローギヤ段とされた場合の共線図であり、何れもエンジン12のみが走行用駆動源として用いられているが、このまま第1モータジェネレータMG1および/または第2モータジェネレータMG2を力行制御することにより走行用駆動源として用いることができる。
上記パラレルモードでは、直結クラッチCSの係合によるエンジン12と第1モータジェネレータMG1との連結に加えて、クラッチC1またはブレーキB1が係合させられることで、機械式変速部44の変速比γ1に応じて第1動力伝達部24の全体の変速比γ0が固定される。これにより、車速V(出力回転速度Nout)に対してエンジン回転速度Neが一意的に決められる。このパラレルモードでは、エンジン12、第1モータジェネレータMG1、および第2モータジェネレータMG2の何れの動力も駆動輪16へ機械的に伝達することが可能である。例えば、パラレルモードの単駆動時には、エンジン12の動力に加えて、第2モータジェネレータMG2の動力を駆動輪16へ伝達して走行する。パラレルモードの両駆動時には、エンジン12の動力に加えて、第1モータジェネレータMG1の動力および第2モータジェネレータMG2の動力を駆動輪16へ伝達して走行する。なお、パラレルモードにおける各係合装置(C1,B1,CS)の作動状態は、EV両駆動(Neフリー)モードと同じであり、図9および図10の共線図は、EV両駆動(Neフリー)モードの共線図(図5、図6)と同じである。
図2において、HVのシリーズモードでは、直結クラッチCSを係合させるとともに、クラッチC1およびブレーキB1を何れも解放した状態で、エンジン12の運転により第1モータジェネレータMG1を回転駆動して発電し、その発電した電力で第2モータジェネレータMG2を力行制御することにより、その第2モータジェネレータMG2を走行用駆動源として用いて走行する。図11は、このシリーズモード時の共線図である。クラッチC1およびブレーキB1が共に解放されることで、第1遊星歯車機構48の差動が許容され、機械式変速部44は中立状態とされる。従って、電気式差動部46は中立状態とされ、第1動力伝達部24も中立状態とされる。加えて、シリーズモードでは、直結クラッチCSが係合させられることで、エンジン12と第1モータジェネレータMG1とが連結される。そのため、エンジン12を作動させることで第1モータジェネレータMG1を回転駆動して発電をすることができる。この際、第1動力伝達部24は中立状態であるので、エンジントルクTeは機械的に駆動輪16へ伝達されない。エンジン12の動力によって第1モータジェネレータMG1を回転駆動し、その第1モータジェネレータMG1を回生制御して発電させることにより、その発電電力で第2モータジェネレータMG2を駆動して走行用のMG2トルクTmg2を出力させることができる。シリーズモードでは、前進時に対して第2モータジェネレータMG2を逆回転させて後進走行することも可能である。
前記走行モード切換制御部82は、図2に示す複数の走行モードを切り換えながら走行するもので、走行モード切換制御装置に相当する。この走行モード切換制御部82は、切換判定部84、HV切換予測部86、および切換実行部88を機能的に備えており、切換判定部84は、例えば図12および図13に示す走行モード切換マップ等の走行モード切換条件に従って複数の走行モードの切換判断を行なう。走行モード切換マップは、アクセル操作量θacc等の車両負荷および車速Vをパラメータとして選択すべき走行モードの領域が、実験やシミュレーション等によって予め定められており、電子制御装置80の記憶部に予め記憶されている。図13は、バッテリ温度THbatや蓄電残量SOCなどによってバッテリユニット20とモータジェネレータMG1、MG2との間の入出力(充放電)が制限されている場合の走行モード切換マップである。また、図12は、そのような入出力制限が無い場合、すなわちモータジェネレータMG1、MG2によるトルクアシストや発電によるバッテリユニット20に対する充電等を比較的自由に行なうことができる場合の走行モード切換マップである。
バッテリユニット20の入出力制限がある図13の走行モード切換マップの場合、車両負荷が正(駆動状態)で比較的小さく且つ低車速時にはシリーズモードが選択される。そして、車速Vの上昇に伴ってパラレルハイモード或いはシリーズパラレルハイモードへ移行する。パラレルハイモードでは変速比γ0が固定されるため、エンジン12が最小燃費動作点から外れ易く、比較的狭い車両負荷領域に設定される。また、車両負荷が大きくなると、シリーズパラレルローモードへ移行する。駆動力が優先される場合に有効な走行モードである。一方、車両負荷が負(被駆動状態)の場合はシリーズモードとする。シリーズモードは、同一車速においてエンジン回転速度Neを任意に制御可能であるため、運転者の要求に応じたエンジンブレーキトルクを出力可能である。また、MG1回転速度Nmg1とエンジン回転速度Neとが同一であるため、他の走行モードに比べて、MG1回転速度Nmg1の上限によるエンジン回転速度Neの制約を受けにくく、エンジンブレーキトルクの絶対値を大きくできる。
バッテリユニット20の入出力制限が無い図12の走行モード切換マップの場合、車両負荷が正(駆動状態)で且つ低車速の領域では、エンジン12の作動を停止してモータジェネレータMG1、MG2により走行するEV走行モードが選択される。車両負荷が小さい領域では、第2モータジェネレータMG2だけで走行するEV単駆動モードが選択され、比較的高負荷側では、モータジェネレータMG1およびMG2の両方で走行するEV両駆動モードとする。このEV走行モードを外れると、エンジン12を始動してHV走行モードへ移行するが、エンジン始動時のショックを小さくするため、始動時の反力補償分のトルクを残してEV走行モードを実行する。HV走行モードとしては、図13と同様にシリーズパラレルハイモード、パラレルハイモード、シリーズパラレルローモードが選択されるが、図12の場合、バッテリユニット20の入出力制限が無いため、車両負荷が大きい領域でモータジェネレータMG1および/またはMG2によるトルクアシスト(MGアシスト)を行なうパラレルローモードが選択される。アクセル操作量θaccが急増するキックダウン時に、走行モード切換マップに優先してMGアシストを行なうパラレルローモードが実施されるようにしても良い。一方、車両負荷が負(被駆動状態)の場合も、低車速領域でEV走行モードが選択されるが、車両駆動トルクを発生させないため、そのEV走行モード領域を広くできる。
前記切換判定部84は、例えば図12または図13の走行モード切換マップに従って選択した走行モードが現在の走行モードと違うか否かを判断し、違う場合にその選択した走行モードへ切り換えるべき切換判断を行なう。また、EV要求スイッチ72がON操作されてEV要求Sevを表す信号が供給されている場合は、蓄電残量SOCなどでバッテリユニット20の入出力制限が無いことを条件として、上記図12の走行モード切換マップに優先してEV走行モードを維持する。
ここで、EV両駆動モードには、図2から明らかなように、クラッチC1およびブレーキB1の何れか一方を係合させ且つ他方を解放するとともに直結クラッチCSを係合させる第1係合パターンの両駆動(Neフリー)モードと、クラッチC1およびブレーキB1を共に係合させるとともに直結クラッチCSを解放する第2係合パターンの両駆動(Ne=0)モードとがあり、切換判定部84によって両駆動モードへ切り換える切換判断が為された場合にどの両駆動モードへ切り換えるかが問題となる。前記HV切換予測部86および切換実行部88は、単駆動モードから両駆動モードへ切り換える第1切換判断が為された場合に、車両状態等に基づいて適切な係合パターンの両駆動モードへ切り換えるためのもので、図14のフローチャートのステップS1〜S11(以下、単にS1〜S11という)に従って信号処理を行なう。図14のフローチャートのS3はHV切換予測部86に相当し、S4〜S11は切換実行部88に相当する。
図14のS1では、現在の走行モードがEV単駆動モードか否かを判断し、EV単駆動モードでなければそのまま終了するが、EV単駆動モードの場合にはS2以下を実行する。S2では、前記切換判定部84によって両駆動モードへ切り換えるべき第1切換判断が為されたか否かを判断し、第1切換判断が行われなかった場合はそのまま終了するが、第1切換判断が行われた場合はS3を実行する。S3では、第1切換判断に従ってEV両駆動モードへ切り換えた後に、エンジン12を始動する必要があるHV走行モードへ切り換える第2切換判断が前記切換判定部84によって行われるか否かを予測する。HV走行モードは、例えば図12の走行モード切換マップのように車両負荷が大きい領域、或いは高車速領域に設定されているため、アクセル操作量θaccや車速Vの大きさ、或いはそれ等の変化率などから、第2切換判断が行われる可能性が高いか否かを判断できる。また、EV走行モード領域のままの可能性が高い場合でも、蓄電残量SOCが低下すると第2切換判断が行われる可能性があるため、蓄電残量SOCに基づいて第2切換判断が行われる可能性が高いか否かを判断することもできる。そして、第2切換判断が行われる可能性が高いと判断した場合はS4以下を実行し、第2切換判断が行われる可能性が低い場合はS7以下を実行する。
S4以下は、EV単駆動モードから第1係合パターンの両駆動(Neフリー)モードへ切り換える場合で、S4ではクラッチC1およびブレーキB1の何れか一方のみを係合させる。どちらを係合させるかは、例えば図12の走行モード切換マップ等からHV走行モードの種類を予測し、そのHV走行モードへ切り換える際の係合要素の数が少なくなるようにする。例えばシリーズパラレルローモードが予測される場合は、ローギヤ段を成立させるようにクラッチC1を係合させ、パラレルハイモードやシリーズパラレルハイモードが予測される場合は、ハイギヤ段を成立させるようにブレーキB1を係合させる。また、S5では、エンジン回転速度NeとMG1回転速度Nmg1とが略同じになるようにする同期制御を行って直結クラッチCSを係合させる。同期制御は、MG1回転速度Nmg1が車速VやMG2回転速度Nmg2、変速比γ1等によって定まる所定の同期回転速度となるようにMG1トルクTmg1を制御することによって行われる。この状態ではエンジントルクTeが0であるため、第1モータジェネレータMG1による同期制御を行うことなく、油圧Pcsによる係合トルクだけでエンジン回転速度NeおよびMG1回転速度Nmg1を変化させて直結クラッチCSを係合させることもできる。そして、直結クラッチCSを完全係合させた後にS6を実行し、第2モータジェネレータMG2に加えて第1モータジェネレータMG1も力行制御することにより、両駆動(Neフリー)モードが成立させられる。この両駆動(Neフリー)モードでは、図5或いは図6に示されるように車速Vに応じてエンジン12が連れ廻り回転させられるため、その後にHV走行モードへ移行する際にエンジン12を速やかに始動することが可能であり、エンジン12が回転停止させられる両駆動(Ne=0)モードに比較して、HV走行モードへの切換時間が短縮されて優れた駆動力応答性能が得られる。この両駆動(Neフリー)モードでは、エンジン12の連れ廻り回転でエンジンブレーキが発生するため、駆動走行時には必要に応じてデコンプ装置などでエンジンブレーキが低減される。
図15は、上記フローチャートのS3の判断がYES(肯定)でS4以下が実行され、両駆動(Neフリーローギヤ)モードへ切り換えられた場合の各部の作動状態の変化を説明するタイムチャートの一例である。図15の時間t1は、MG2トルクTmg2だけで走行しているEV単駆動モード時にアクセルペダルが増し踏み操作された時間で、アクセル操作量θaccの増大に伴ってMG2トルクTmg2が増大させられる。時間t2は、アクセル操作量θaccの増加に伴ってEV両駆動モードへ切り換える第1切換判断が為された時間、すなわちS2の判断がYESになった時間で、S3の判断もYESで直ちにS4が実行され、この例では油圧Pc1の増圧によってクラッチC1の係合制御が開始される。時間t3は、クラッチC1が完全係合させられた後に同期制御が開始された時間で、時間t4は、エンジン回転速度NeおよびMG1回転速度Nmg1が略同じになり、直結クラッチCSの係合制御が開始された時間である。時間t5は、直結クラッチCSが完全係合させられた時間で、その後MG1トルクTmg1が上昇させられて両駆動(Neフリーローギヤ)モードが成立させられる。
図14に戻って、S3の判断がNO(否定)の場合、すなわちHV走行モードへ切り換える第2切換判断が行われる可能性が低いと判断した場合には、S7を実行する。S7では、EV走行モードのみの走行に制限されているか否かを判断する。具体的には、EV要求スイッチ72がON操作されてEV要求Sevを表す信号が供給されている場合、或いは蓄電残量SOCが所定値以上で充電不可の場合には、EV走行モードのみの走行状態が維持されると判断してS8以下を実行する。S8、S9のステップは、EV単駆動モードから第2係合パターンの両駆動(Ne=0)モードへ切り換えるもので、S8では直結クラッチCSを解放したままクラッチC1およびブレーキB1を共に係合させる。EV単駆動モードでは、機械式変速部44および電気式差動部46が何れも中立状態(ニュートラル状態)であるため、車速Vに応じて回転速度が規定される電気式差動部46のリングギヤR2を除いて自由に回転変化させることが可能で、同期制御を行うことなくクラッチC1およびブレーキB1を速やかに係合させることができる。必要に応じて、電気式差動部46のキャリアCA2の回転速度が0となるように第1モータジェネレータMG1のトルクTmg1を制御しても良い。S9では、第2モータジェネレータMG2に加えて第1モータジェネレータMG1も力行制御することにより、両駆動(Ne=0)モードが成立させられる。この両駆動(Ne=0)モードでは、図4に示されるようにエンジン回転速度Neが0の静止状態に維持されるため、エンジン12が連れ廻り回転させられる第1係合パターンの両駆動(Neフリー)モードに比較して優れた燃費性能が得られる。
図16は、このようにS3の判断がNOでS7に続いてS8、S9が実行され、両駆動(Ne=0)モードへ切り換えられた場合の各部の作動状態の変化を説明するタイムチャートの一例である。図16の時間t1は、MG2トルクTmg2だけで走行しているEV単駆動モード時にアクセルペダルが増し踏み操作された時間で、アクセル操作量θaccの増大に伴ってMG2トルクTmg2が増大させられる。時間t2は、アクセル操作量θaccの増加に伴ってEV両駆動モードへ切り換える第1切換判断が為された時間、すなわちS2の判断がYESになった時間で、S3の判断がNOでS7に続いてS8が実行され、油圧Pc1、Pb1の増圧によってクラッチC1、ブレーキB1の係合制御が開始される。時間t3は、それ等のクラッチC1、B1が完全係合させられた時間で、その後MG1トルクTmg1が上昇させられて両駆動(Ne=0)モードが成立させられる。
図14に戻って、S7の判断がNOの場合、すなわちEV走行モードのみの走行に制限されていない場合は、S10を実行する。S10では、車両状態などに応じて第1係合パターン或いは第2係合パターンの両駆動モードへ切り換える。例えば、基本的には燃費性能に優れた第2係合パターンの両駆動(Ne=0)モードへ切り換えるため、直結クラッチCSを解放したままクラッチC1およびブレーキB1を共に係合させるが、この両駆動(Ne=0)モードはエンジンブレーキが効かないため、エンジンブレーキが必要と予測される車両状態の場合には、エンジンブレーキが可能な第1係合パターンの両駆動(Neフリー)モードへ切り換えることが望ましい。エンジンブレーキが必要な車両状態としては、例えば下り坂走行が予測される場合や、蓄電残量SOCが多くてモータジェネレータMG1、MG2の回生制御が制限される場合などである。そして、次のS11では、第2モータジェネレータMG2に加えて第1モータジェネレータMG1も力行制御することにより、両駆動モードが成立させられる。
このように本実施例のハイブリッド車両10においては、エンジン12と第1モータジェネレータMG1とを直結クラッチCSによって接続できるため、その直結クラッチCSを接続状態にするとともに機械式変速部44を遮断状態(中立状態)とすることで、エンジン12により第1モータジェネレータMG1を回転駆動して発電するとともに、その発電電力により第2モータジェネレータMG2を力行制御して走行するシリーズモードが可能になるなど、選択できる走行モードの種類が増えて燃費性能や動力性能を一層向上させることができる。
一方、直結クラッチCSを有するハイブリッド車両10の場合、EV両駆動モードとして第1係合パターンの両駆動(Neフリー)モードと第2係合パターンの両駆動(Ne=0)モードが可能であるが、本実施例ではEV単駆動モードから両駆動モードへ切り換える第1切換判断が行われた場合に、更にHV走行モードへ切り換える第2切換判断が行われるか否かを予測し(S3)、第2切換判断が予測された場合は第1係合パターンの両駆動(Neフリー)モードへ切り換える。この両駆動(Neフリー)モードでは、車速Vに応じてエンジン12が連れ廻り回転させられるため、HV走行モードへ移行する際にエンジン12を速やかに始動することが可能であり、エンジン12が回転停止させられる第2係合パターンの両駆動(Ne=0)モードに比較して、HV走行モードへの切換時間が短縮されて優れた駆動力応答性能が得られる。
また、本実施例では、上記第2切換判断が行われる可能性が低い場合に、EV走行モードのみの走行に制限されているか否かを判断し(S7)、EV走行モードのみに制限されている場合は第2係合パターンの両駆動(Ne=0)モードへ切り換える(S8)。EV走行モードのみの走行に制限されない場合でも、エンジンブレーキの必要性が高い等の一定の条件を除いて基本的に第2係合パターンの両駆動(Ne=0)モードへ切り換える(S10)。この両駆動(Ne=0)モードでは、エンジン回転速度Neが0の静止状態に維持されるため、エンジン12が連れ廻り回転させられる第1係合パターンの両駆動(Neフリー)モードに比較して優れた燃費性能が得られる。
すなわち、EV両駆動モードへ切り換える際に、更にHV走行モードへ切り換える可能性が高い場合は、第1係合パターンの両駆動(Neフリー)モードへ切り換えることにより、HV走行モードへ切り換える際に優れた駆動力応答性能が得られるようにする一方、HV走行モードへ切り換える可能性が低い場合は基本的に第2係合パターンの両駆動(Ne=0)モードへ切り換えることにより優れた燃費性能を確保できるのである。
なお、上記実施例では、第2モータジェネレータMG2が第1動力伝達部24の軸心とは別の軸心上に配置されるような連結関係のギヤトレーンであったが、例えば第2モータジェネレータMG2が第1動力伝達部24の軸心と同じ軸心上に配置されるような連結関係のギヤトレーンなどであっても良い。
また、FF方式のハイブリッド車両10に好適に用いられる動力伝達装置14を例として説明したが、本発明は、FR方式やRR方式、4輪駆動方式のハイブリッド車両にも適用することができる。第2モータジェネレータMG2が、エンジン12によって駆動される駆動輪16とは異なる駆動輪(後輪)を駆動する4輪駆動方式のハイブリッド車両に適用することもできる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。