図1は、本発明が適用される車両10の走行に関わる各部の概略構成を説明する図であると共に、その各部を制御する為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、走行用の駆動力源となり得る、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2と、動力伝達装置14と、駆動輪16とを備えるハイブリッド車両である。
エンジン12は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等、所定の燃料を燃焼させて動力を出力させる公知の内燃機関である。このエンジン12は、後述する電子制御装置80によってスロットル開度或いは吸入空気量、燃料供給量、点火時期等の運転状態が制御されることにより、エンジントルクTeが制御される。
第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、駆動トルクを発生させる電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、インバータ部や平滑コンデンサなどを有する電力制御ユニット18を介してバッテリユニット20に接続されており、後述する電子制御装置80によって電力制御ユニット18が制御されることにより、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々の出力トルク(力行トルク又は回生トルク)であるMG1トルクTmg1及びMG2トルクTmg2が制御される。
動力伝達装置14は、エンジン12と駆動輪16との間の動力伝達経路に備えられており、車体に取り付けられる非回転部材であるケース22内に、第1回転機MG1及び第2回転機MG2と共に収容されている。動力伝達装置14は、第1動力伝達部24、第2動力伝達部26、第1動力伝達部24の出力回転部材であるドライブギヤ28と噛み合うドリブンギヤ30、ドリブンギヤ30を相対回転不能に固設するドリブン軸32、ドリブン軸32に相対回転不能に固設されたファイナルギヤ34(ドリブンギヤ30よりも小径のファイナルギヤ34)、デフリングギヤ36を介してファイナルギヤ34と噛み合うディファレンシャルギヤ38等をケース22内に備えている。又、動力伝達装置14は、ディファレンシャルギヤ38に連結された車軸40等を備えている。
第1動力伝達部24は、第1動力伝達部24の入力回転部材である入力軸42と同軸心に配置されており、変速部44と差動部46とを備えている。変速部44は、第1遊星歯車機構48、クラッチC1、及びブレーキB1を備えている。差動部46は、第2遊星歯車機構50及びクラッチCSを備えている。
第1遊星歯車機構48は、第1サンギヤS1、第1ピニオンギヤP1、第1ピニオンギヤP1を自転及び公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1ピニオンギヤP1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を有する公知のシングルピニオン型の遊星歯車機構であり、差動作用を生じる差動機構として機能する。第1遊星歯車機構48は、第2遊星歯車機構50よりもエンジン12側に配置された入力側差動機構である。第1キャリヤCA1は、入力軸42に一体的に連結され、その入力軸42を介してエンジン12が動力伝達可能に連結された回転要素(例えば第1回転要素RE1)であり、変速部44の入力回転部材として機能する。第1サンギヤS1は、ブレーキB1を介してケース22に選択的に連結される回転要素(例えば第2回転要素RE2)である。第1リングギヤR1は、差動部46の入力回転部材(すなわち第2遊星歯車機構50の第2キャリヤCA2)に連結された回転要素(例えば第3回転要素RE3)であり、変速部44の出力回転部材として機能する。又、第1キャリヤCA1と第1サンギヤS1とは、クラッチC1を介して選択的に連結される。
クラッチC1及びブレーキB1は、好適には何れも湿式の摩擦係合装置であり、油圧アクチュエータによって係合制御される多板型の油圧式摩擦係合装置である。このクラッチC1及びブレーキB1は、車両10に備えられた油圧制御回路52が後述する電子制御装置80によって制御されることにより、その油圧制御回路52から各々供給される油圧(例えばC1油圧Pc1、B1油圧Pb1)に応じて作動状態(係合や解放などの状態)が制御される。
クラッチC1及びブレーキB1が共に解放された状態においては、第1遊星歯車機構48の差動が許容される。よって、この状態では、第1サンギヤS1にてエンジントルクTeの反力トルクが取れない為、変速部44は機械的な動力伝達が不能な中立状態(ニュートラル状態)とされる。又、クラッチC1が係合され且つブレーキB1が解放された状態においては、第1遊星歯車機構48は各回転要素が一体回転させられる。よって、この状態では、エンジン12の回転は等速で第1リングギヤR1から第2キャリヤCA2へ伝達される。一方で、クラッチC1が解放され且つブレーキB1が係合された状態においては、第1遊星歯車機構48は第1サンギヤS1の回転が止められ、第1リングギヤR1の回転が第1キャリヤCA1の回転よりも増速される。よって、この状態では、エンジン12の回転は増速されて第1リングギヤR1から出力される。このように、変速部44は、直結状態(ギヤ比=1.0)となるローギヤと、オーバードライブ状態(例えばギヤ比=0.7)となるハイギヤとに切り替えられる2段の有段変速機として機能する。クラッチC1は、係合によって変速部44の第1のギヤ段としてのローギヤを形成する第1係合装置であり、ブレーキB1は、係合によって変速部44の第2のギヤ段としてのハイギヤを形成する第2係合装置である。よって、クラッチC1及びブレーキB1のうちの一方が係合された状態では、変速部44は、上記第1,第2のギヤ段の何れかが形成された、機械的な動力伝達が可能な非中立状態とされる。又、クラッチC1及びブレーキB1が共に係合された状態においては、第1遊星歯車機構48は各回転要素の回転が止められる。よって、この状態では、変速部44の出力回転部材である第1リングギヤR1の回転が停止されることで、差動部46の入力回転部材である第2キャリヤCA2の回転が停止させられる。
第2遊星歯車機構50は、第2サンギヤS2、第2ピニオンギヤP2、第2ピニオンギヤP2を自転及び公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2ピニオンギヤP2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を有する公知のシングルピニオン型の遊星歯車機構であり、差動作用を生じる差動機構として機能する。第2遊星歯車機構50は、第1遊星歯車機構48よりも駆動輪16側に配置された出力側差動機構である。第2キャリヤCA2は、変速部44の出力回転部材(すなわち第1遊星歯車機構48の第1リングギヤR1)に連結された入力要素としての回転要素(例えば第1回転要素RE1)であり、差動部46の入力回転部材として機能する。第2サンギヤS2は、第1回転機MG1のロータ軸54に一体的に連結されており、第1回転機MG1が動力伝達可能に連結された反力要素としての回転要素(例えば第2回転要素RE2)である。第2リングギヤR2は、ドライブギヤ28に一体的に連結されており、駆動輪16に連結された出力要素としての回転要素(例えば第3回転要素RE3)であり、差動部46の出力回転部材として機能する。又、第2サンギヤS2は、クラッチCSを介して第1キャリヤCA1と選択的に連結される。よって、クラッチCSは、第1キャリヤCA1に連結されたエンジン12と、第2サンギヤS2に連結された第1回転機MG1とを選択的に連結する第3係合装置である。
クラッチCSは、好適には湿式の摩擦係合装置であり、油圧アクチュエータによって係合制御される多板型の油圧式摩擦係合装置である。このクラッチCSは、後述する電子制御装置80によって油圧制御回路52が制御されることにより、その油圧制御回路52から供給される油圧(例えばCS油圧Pcs)に応じて作動状態(係合や解放などの状態)が制御される。
クラッチCSが解放された状態においては、第2遊星歯車機構50の差動が許容される。よって、この状態では、第2遊星歯車機構50は、第2キャリヤCA2に入力される動力を第1回転機MG1及び第2リングギヤR2へ分配する動力分配機構として機能することが可能である。すなわち、差動部46において、第2リングギヤR2へ分配される機械的な動力伝達に加え、第1回転機MG1に分配された動力で第1回転機MG1が発電され、その発電された電力が蓄電されたりその電力で第2回転機MG2が駆動される。これにより、差動部46は、後述する電子制御装置80によって電力制御ユニット18が制御されて第1回転機MG1の運転状態が制御されることによりギヤ比(変速比)を制御する公知の電気式差動部(電気式無段変速機)として機能する。つまり、差動部46は、エンジン12に動力伝達可能に連結された差動機構としての第2遊星歯車機構50と、第2遊星歯車機構50に動力伝達可能に連結された差動用回転機としての第1回転機MG1とを有し、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより第2遊星歯車機構50の差動状態が制御される電気式変速機構である。又、クラッチCSが係合された状態においては、エンジン12と第1回転機MG1とが連結される為、エンジン12の動力によって第1回転機MG1にて発電を行い、その発電した電力を蓄電したりその電力で第2回転機MG2を駆動することが可能である。
このように構成された第1動力伝達部24においては、エンジン12の動力や第1回転機MG1の動力はドライブギヤ28からドリブンギヤ30へ伝達される。従って、エンジン12及び第1回転機MG1は、第1動力伝達部24を介して駆動輪16に動力伝達可能に連結される。又、変速部44は、オーバードライブであるので、第1回転機MG1の高トルク化が抑制される。
第2動力伝達部26は、入力軸42とは別にその入力軸42と平行に配置された、第2回転機MG2のロータ軸56、及びドリブンギヤ30と噛み合うと共にそのロータ軸56に連結されたリダクションギヤ58(ドリブンギヤ30よりも小径のリダクションギヤ58)を備えている。これにより、第2動力伝達部26においては、第2回転機MG2の動力は第1動力伝達部24を介すことなくドリブンギヤ30へ伝達される。従って、第2回転機MG2は、第1動力伝達部24を介さずに駆動輪16に動力伝達可能に連結される。つまり、第2回転機MG2は、第1動力伝達部24を介さずに動力伝達装置14の出力回転部材である車軸40に動力伝達可能に連結された回転機である。尚、動力伝達装置14の出力回転部材としては、車軸40の他に、ファイナルギヤ34やデフリングギヤ36も同意である。
このように構成された動力伝達装置14は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式の車両に好適に用いられる。又、動力伝達装置14では、エンジン12の動力や第1回転機MG1の動力や第2回転機MG2の動力は、ドリブンギヤ30へ伝達され、そのドリブンギヤ30から、ファイナルギヤ34、ディファレンシャルギヤ38、車軸40等を順次介して駆動輪16へ伝達される。又、動力伝達装置14では、エンジン12、第1動力伝達部24、及び第1回転機MG1と、第2回転機MG2とが異なる軸心上に配置されることで、軸長が短縮化されている。又、第2回転機MG2の減速比を大きくとることができる。
車両10は、走行に関わる各部を制御する制御装置を含む電子制御装置80を備えている。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置80は、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2の各出力制御、後述する走行モードの切替制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用、回転機制御用、油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置80には、車両10に設けられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ60、出力回転速度センサ62、レゾルバ等のMG1回転速度センサ64、レゾルバ等のMG2回転速度センサ66、アクセル開度センサ68、シフトポジションセンサ70、バッテリセンサ72など)による検出値に基づく各種信号(例えばエンジン回転速度Ne、車速Vに対応するドリブンギヤ30の回転速度である出力回転速度Nout、MG1回転速度Nmg1、MG2回転速度Nmg2、アクセル開度θacc、シフトレバーの操作位置Psh、バッテリユニット20のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbatなど)が供給される。又、電子制御装置80からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン12、電力制御ユニット18、油圧制御回路52など)に各種指令信号(例えばエンジン制御指令信号Se、回転機制御指令信号Sm、油圧制御指令信号Spなど)が供給される。尚、電子制御装置80は、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリユニット20の充電状態(充電容量)SOCを算出する。
電子制御装置80は、車両10における各種制御の為の制御機能を実現する為に、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部82、及び動力伝達切替手段すなわち動力伝達切替部84を備えている。
ハイブリッド制御部82は、電子スロットル弁を開閉制御し、燃料噴射量や噴射時期を制御し、点火時期を制御するエンジン制御指令信号Seを出力して、エンジントルクTeの目標トルクが得られるようにエンジン12の出力制御を実行する。又、ハイブリッド制御部82は、第1回転機MG1や第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御指令信号Smを電力制御ユニット18へ出力して、MG1トルクTmg1やMG2トルクTmg2の目標トルクが得られるように第1回転機MG1や第2回転機MG2の出力制御を実行する。
ハイブリッド制御部82は、アクセル開度θaccからそのときの車速Vにて要求される駆動トルク(要求駆動トルク)を算出し、充電要求値(充電要求パワー)等を考慮して低燃費で排ガス量の少ない運転となるように、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2の少なくとも1つから要求駆動トルクを発生させる。
ハイブリッド制御部82は、走行モードとして、モータ走行モード(EV走行モード)或いはハイブリッド走行モード(HV走行モード)を走行状態に応じて選択的に成立させる。EV走行モードは、エンジン12の運転を停止させると共に、第1回転機MG1及び第2回転機MG2のうちの少なくとも一方の回転機を走行用の駆動力源として走行するモータ走行(EV走行)を可能とする制御様式である。HV走行モードは、少なくともエンジン12を走行用の駆動力源として走行する(すなわちエンジン12の動力を駆動輪16へ伝達して走行する)エンジン走行を可能とする制御様式である。尚、エンジン12の動力が機械的に駆動輪16へ伝達されなくても、例えばエンジン12の動力が第1回転機MG1の発電によって電力に変換され、その電力によって第2回転機MG2を駆動して走行する場合であれば、HV走行モードに含まれる。つまり、このような場合、エンジントルクTeは機械的に駆動輪16へ伝達されないが、第2回転機MG2を駆動する基の動力源はエンジン12であるので、この走行(すなわち後述するシリーズ走行)もエンジン走行に含まれる。
ハイブリッド制御部82は、車速Vと要求駆動トルクとを変数としてエンジン走行領域とモータ走行領域(単駆動領域、両駆動領域)との境界線を有する予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された(すなわち予め定められた)図2に示すような関係(駆動力源切替マップ)に車速V及び要求駆動トルクを適用することで、走行状態がモータ走行領域とエンジン走行領域との何れにあるかを判断する。ハイブリッド制御部82は、モータ走行領域にあると判断した場合には、EV走行モードを成立させる一方で、エンジン走行領域にあると判断した場合には、HV走行モードを成立させる。尚、ハイブリッド制御部82は、走行状態がモータ走行領域にあるときであっても、バッテリ温度THbatが低かったり充電容量SOCが低かったりしてバッテリユニット20から出力可能な電力が制限されている場合、又はエンジン12の暖機が必要な場合などには、エンジン12を運転するようにHV走行モードを成立させる。図2に示すように、モータ走行領域(単駆動領域、両駆動領域)は、エンジン走行領域と比較して、車速Vの低車速域、又は、要求駆動トルクの低トルク域にある。
ハイブリッド制御部82は、EV走行モードを成立させたときには、更に、図2に示すような駆動力源切替マップに車速V及び要求駆動トルクを適用することで、単駆動領域と両駆動領域との何れにあるかを判断する。例えば、ハイブリッド制御部82は、第2回転機MG2のみで要求駆動トルクを賄える場合には、単駆動EVモードを成立させる一方で、第2回転機MG2のみでは要求駆動トルクを賄えない場合には、両駆動EVモードを成立させる。ハイブリッド制御部82は、単駆動EVモードを成立させた場合には、第2回転機MG2のみを走行用の駆動力源とするEV走行を可能とする一方で、両駆動EVモードを成立させた場合には、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の両方を走行用の駆動力源とするEV走行を可能とする。ハイブリッド制御部82は、第2回転機MG2のみで要求駆動トルクを賄えるときであっても、MG2回転速度Nmg2及びMG2トルクTmg2で表される第2回転機MG2の動作点が第2回転機MG2の効率を悪化させる動作点として予め定められた領域内にある場合には(換言すれば第1回転機MG1及び第2回転機MG2を併用した方が効率が良い場合には)、両駆動EVモードを成立させる。ハイブリッド制御部82は、両駆動EVモードを成立させた場合には、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の運転効率に基づいて、第1回転機MG1及び第2回転機MG2にて要求駆動トルクを分担させる。
ハイブリッド制御部82は、走行状態がエンジン走行領域にあることでHV走行モードを成立させた場合には、例えばシリーズパラレルモードを成立させる。ハイブリッド制御部82は、シリーズパラレルモードを成立させた場合には、エンジン12の動力に対する反力を第1回転機MG1の発電により受け持つことでドライブギヤ28にエンジン直達トルクを伝達すると共に第1回転機MG1の発電電力により第2回転機MG2を駆動することで駆動輪16にトルクを伝達してエンジン走行を可能とする。すなわち、ハイブリッド制御部82は、シリーズパラレルモードを成立させた場合には、第1回転機MG1の運転状態を制御することによりエンジン12の動力を駆動輪16へ伝達して走行するシリーズパラレル走行を可能とする。ハイブリッド制御部82は、このシリーズパラレルモードでは、公知のエンジン12の最適燃費線を考慮したエンジン動作点(すなわちエンジン回転速度NeとエンジントルクTeとで表されるエンジン動作点)にてエンジン12を作動させる。又、このシリーズパラレルモードでは、第1回転機MG1の発電電力にバッテリユニット20からの電力を加えて第2回転機MG2を駆動することも可能である。
ハイブリッド制御部82は、走行状態がモータ走行領域(単駆動領域、両駆動領域)にあるときに、バッテリユニット20から出力可能な電力が制限されている場合又はエンジン12の暖機が必要な場合などには、HV走行モードを成立させる。ハイブリッド制御部82は、例えば走行状態が両駆動領域にあるときにHV走行モードを成立させる場合にはシリーズパラレルモードを成立させる一方で、走行状態が単駆動領域にあるときにHV走行モードを成立させる場合にはシリーズモードを成立させる。ハイブリッド制御部82は、シリーズモードを成立させた場合には、エンジン12を作動させて第1回転機MG1を発電させ、第1回転機MG1の発電電力により第2回転機MG2を駆動することで駆動輪16にMG2トルクTmg2を伝達して走行するシリーズ走行が可能である。尚、このシリーズモードは、バッテリユニット20から出力可能な電力が制限されていない場合であっても実行可能であり、このような場合、単駆動領域がより拡げられるという見方もできる。
ハイブリッド制御部82は、HV走行モードを成立させた場合には、パラレルモードを成立させることも可能である。ハイブリッド制御部82は、パラレルモードを成立させた場合には、エンジン12の動力に加えて、第1回転機MG1の動力及び/又は第2回転機MG2の動力を駆動輪16へ伝達して走行するパラレル走行を可能とする。このパラレルモードは、要求駆動トルクが大きかったり、車速Vが高かったりする走行状態の場合に有用である。
動力伝達切替部84は、ハイブリッド制御部82により成立させられた走行モードに基づいて、クラッチC1、ブレーキB1、及びクラッチCSの各係合作動(作動状態)を制御する。動力伝達切替部84は、ハイブリッド制御部82により成立させられた走行モードにて走行する為の動力伝達が可能となるように、クラッチC1、ブレーキB1、及びクラッチCSを各々係合及び/又は解放させる油圧制御指令信号Spを油圧制御回路52へ出力する。
ここで、車両10にて実行可能な走行モードについて図3、及び図4−図10を用いて説明する。図3は、各走行モードにおけるクラッチC1、ブレーキB1、及びクラッチCSの各作動状態を示す図表である。図3の図表中の○印は係合装置(C1,B1,CS)の係合を示し、空欄は解放を示し、△印は運転停止状態のエンジン12を連れ回し状態とするエンジンブレーキ(エンブレともいう)の併用時に何れか一方を係合することを示している。又、「G」は回転機(MG1,MG2)を主にジェネレータとして機能させることを示し、「M」は回転機(MG1,MG2)を駆動時には主にモータとして機能させ、回生時には主にジェネレータとして機能させることを示している。図3に示すように、車両10は、走行モードとして、EV走行モード及びHV走行モードを選択的に実現することができる。EV走行モードは、単駆動EVモードと両駆動EVモードとの2つのモードを有している。HV走行モードは、シリーズパラレルモードとパラレルモードとシリーズモードとの3つのモードを有している。
図4−図10は、第1遊星歯車機構48及び第2遊星歯車機構50の各々における3つの回転要素RE1,RE2,RE3の回転速度を相対的に表すことができる共線図である。この共線図において、第1遊星歯車機構48における各回転要素の回転速度を表す縦線Y1−Y3は紙面向かって左から順に、縦線Y1がブレーキB1を介してケース22に選択的に連結される第2回転要素RE2である第1サンギヤS1の回転速度を、縦線Y2がエンジン12に連結された第1回転要素RE1である第1キャリヤCA1の回転速度を、縦線Y3が第2キャリヤCA2に連結された第3回転要素RE3である第1リングギヤR1の回転速度をそれぞれ示している。又、第2遊星歯車機構50における各回転要素の回転速度を表す縦線Y4−Y6は紙面向かって左から順に、縦線Y4が第1回転機MG1に連結された第2回転要素RE2である第2サンギヤS2の回転速度を、縦線Y5が第1リングギヤR1に連結された第1回転要素RE1である第2キャリヤCA2の回転速度を、縦線Y6がドライブギヤ28に連結された第3回転要素RE3である第2リングギヤR2の回転速度をそれぞれ示している。
図4は、単駆動EVモード時の共線図である。単駆動EVモードは、図3に示すように、クラッチC1、ブレーキB1、及びクラッチCSを共に解放した状態で実現される。単駆動EVモードでは、図4に示すように、クラッチC1及びブレーキB1が解放されることで、第1遊星歯車機構48の差動が許容され、変速部44は中立状態とされる。変速部44が中立状態とされると、第1リングギヤR1に連結された第2キャリヤCA2にてMG1トルクTmg1の反力トルクが取れない為、差動部46は中立状態とされ、第1動力伝達部24も中立状態とされる。この状態で、ハイブリッド制御部82は、エンジン12の運転を停止させると共に、第2回転機MG2から走行用のMG2トルクTmg2を出力させる。後進時は、前進時に対して第2回転機MG2を逆回転させる。車両走行中には、第2回転機MG2の回転(ここでは駆動輪16の回転も同意)に連動してドライブギヤ28に連結された第2リングギヤR2が回転させられる。単駆動EVモードでは、第1回転機MG1を無負荷として空転させても良いが、第1回転機MG1における引き摺り損失等を低減する為に、ハイブリッド制御部82は、MG1回転速度Nmg1をゼロに維持する。例えば、ハイブリッド制御部82は、第1回転機MG1をジェネレータとして機能させて、フィードバック制御によりMG1回転速度Nmg1をゼロに維持する。或いは、ハイブリッド制御部82は、第1回転機MG1の回転が固定されるように第1回転機MG1に電流を流す制御(d軸ロック制御)を実行して、MG1回転速度Nmg1をゼロに維持する。或いは、MG1トルクTmg1をゼロとしても第1回転機MG1のコギングトルクによりMG1回転速度Nmg1をゼロに維持できるときはMG1トルクTmg1を加える必要はない。尚、MG1回転速度Nmg1をゼロに維持する制御を行っても、第1動力伝達部24は中立状態であるので、駆動トルクに影響を与えない。
単駆動EVモードでは、第1リングギヤR1は第2キャリヤCA2に連れ回されるが、変速部44は中立状態であるので、運転が停止されたエンジン12は連れ回されずゼロ回転で停止状態とされる。よって、単駆動EVモードでの走行中に第2回転機MG2にて回生制御を行う場合、回生量を大きく取ることができる。単駆動EVモードでの走行時に、バッテリユニット20が満充電状態となり回生エネルギーが取れない場合、エンジンブレーキを併用することが考えられる。エンジンブレーキを併用する場合は、図3に示すように、ブレーキB1又はクラッチC1が係合される(図3の単駆動EVモードのエンブレ併用を参照)。ブレーキB1又はクラッチC1が係合されると、エンジン12は連れ回し状態とされて、エンジンブレーキが作用させられる。MG1回転速度Nmg1を上昇させることで、エンジン12の連れ回し状態におけるエンジン回転速度Neを上昇させることができる。
上述したように、ブレーキB1又はクラッチC1を係合することでエンジン回転速度Neを上昇させることができるので、EV走行モードからエンジン12を始動するときには、ブレーキB1又はクラッチC1を係合した状態として、必要に応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを引き上げて点火する。このとき、第2回転機MG2に反力キャンセルトルクを追加で出力させる。尚、車両停止時にエンジン12を始動する際には、ブレーキB1又はクラッチC1を係合した状態で第1回転機MG1により第2キャリヤCA2の回転を引き上げることでエンジン回転速度Neを上昇させても良いし、又、第1回転機MG1により第2キャリヤCA2の回転を引き上げてからブレーキB1又はクラッチC1を係合することでエンジン回転速度Neを上昇させても良い。
図5は、両駆動EVモード時の共線図である。両駆動EVモード(「Ne=0」)は、図3に示すように、クラッチC1及びブレーキB1を係合した状態、且つクラッチCSを解放した状態で実現される。この両駆動EVモードでは、図5に示すように、クラッチC1及びブレーキB1が係合されることで、第1遊星歯車機構48の差動が規制され、第1サンギヤS1の回転が停止させられる。その為、第1遊星歯車機構48は何れの回転要素も回転が停止させられる。これによって、エンジン12はゼロ回転で停止状態とされ、又、第1リングギヤR1に連結された第2キャリヤCA2の回転も停止させられる。第2キャリヤCA2の回転が停止させられると、第2キャリヤCA2にてMG1トルクTmg1の反力トルクが取れる為、MG1トルクTmg1を第2リングギヤR2から機械的に出力させて駆動輪16へ伝達することができる。ハイブリッド制御部82は、エンジン12の運転を停止させると共に、第1回転機MG1及び第2回転機MG2から各々走行用のMG1トルクTmg1及びMG2トルクTmg2を出力させる。この両駆動EVモードでは、前進時に対して第1回転機MG1及び第2回転機MG2を共に逆回転させて後進走行することも可能である。
図6は、HV走行モードのロー状態でのシリーズパラレルモード(以下、シリーズパラレルローモードという)時の共線図である。シリーズパラレルローモードは、図3に示すように、クラッチC1を係合した状態、且つブレーキB1及びクラッチCSを解放した状態で実現される。シリーズパラレルローモードでは、図6に示すように、クラッチC1が係合されることで、第1遊星歯車機構48の差動が規制され、第1遊星歯車機構48の回転要素が一体回転させられる。その為、エンジン12の回転は等速で第1リングギヤR1から第2キャリヤCA2へ伝達される。
図7は、HV走行モードのハイ状態でのシリーズパラレルモード(以下、シリーズパラレルハイモードという)時の共線図である。シリーズパラレルハイモードは、図3に示すように、ブレーキB1を係合した状態、且つクラッチC1及びクラッチCSを解放した状態で実現される。シリーズパラレルハイモードでは、図7に示すように、ブレーキB1が係合されることで、第1サンギヤS1の回転が停止させられる。その為、エンジン12の回転は増速されて第1リングギヤR1から第2キャリヤCA2へ伝達される。
シリーズパラレルモードでは、クラッチC1又はブレーキB1が係合されることで変速部44は非中立状態とされ、第2キャリヤCA2に伝達されたエンジン12の動力に対する反力を第1回転機MG1により受け持つことでエンジントルクTeの一部(エンジン直達トルク)を第2リングギヤR2から機械的に出力させて駆動輪16へ伝達することができる。動力伝達切替部84は、クラッチC1を係合することで変速部44をローギヤに切り替える一方で、ブレーキB1を係合することで変速部44をハイギヤに切り替える。ハイブリッド制御部82は、エンジン12を運転(作動)させると共に、エンジントルクTeに対する反力トルクとなるMG1トルクTmg1を第1回転機MG1の発電により出力させると共に、第1回転機MG1の発電電力により第2回転機MG2からMG2トルクTmg2を出力させる。シリーズパラレルモードでは、前進時に対して第2回転機MG2を逆回転させて後進走行することも可能である。
ハイブリッド制御部82は、車速Vが予め定められた閾値以上の高車速時には、シリーズパラレルハイモードを成立させる一方で、車速Vが予め定められた閾値未満の中低車速時には、シリーズパラレルローモードを成立させる。ここで、MG1回転速度Nmg1がゼロとされてエンジン12の動力が電気パス(第1回転機MG1や第2回転機MG2の電力授受に関わる電気経路である電気的な動力伝達経路)を介することなく全て機械的にドライブギヤ28へ伝達される状態となる所謂メカニカルポイントでは、差動部46の動力伝達効率(出力されたパワー/入力されたパワー)の理論値(理論伝達効率)が最大の「1」となる。このメカニカルポイントは、図6,7の共線図における差動部46(縦線Y4−Y6参照)において、MG1回転速度Nmg1がゼロとなる状態(すなわち第2サンギヤS2の回転速度がゼロとなる状態)である。シリーズパラレルモードにおいて変速部44がハイ状態(ハイギヤ)とロー状態(ローギヤ)とに切り替えられることでこのメカニカルポイントが2つとなり、ハイ状態でのシリーズパラレルモードを有することでメカニカルポイントが高車速側に増えることになり、高速燃費が向上する。
第1動力伝達部24において、変速部44と差動部46とは直列に接続されている。変速部44を変速すれば第1動力伝達部24のギヤ比も変化させられる。そこで、ハイブリッド制御部82は、例えば変速部44の変速時に第1動力伝達部24のギヤ比の変化が抑制されるように、動力伝達切替部84による変速部44の変速に合わせて、差動部46の変速を実行する。例えば、ハイブリッド制御部82は、変速部44がローギヤからハイギヤへアップシフトされる場合、それと同時に、差動部46をダウンシフトする。これによって、第1動力伝達部24は、所謂電気的無段変速機として機能させられる。又、変速部44と差動部46とが直列に接続された第1動力伝達部24はギヤ比幅がワイドになるので、差動部46から駆動輪16までの動力伝達経路におけるギヤ比を比較的大きくとることができる。
シリーズパラレルハイモードはシリーズパラレルローモードと比べて同じエンジン回転速度Neに対して第2キャリヤCA2の回転速度が高くされるので、シリーズパラレルモードにおけるエンジン走行では、高車速時に第1回転機MG1が負回転且つ負トルクの力行状態となって第1回転機MG1に電力が供給される動力循環状態となることが抑制される。
図8は、HV走行モードのシリーズモード時の共線図である。シリーズモードは、図3に示すように、クラッチC1及びブレーキB1を共に解放した状態、且つクラッチCSを係合した状態で実現される。シリーズモードでは、図8に示すように、クラッチC1及びブレーキB1が解放されることで、第1遊星歯車機構48の差動が許容され、変速部44は中立状態とされる。従って、差動部46は中立状態とされ、第1動力伝達部24も中立状態とされる。加えて、シリーズモードでは、クラッチCSが係合されることで、エンジン12と第1回転機MG1とが連結される。その為、エンジン12を作動させることで第1回転機MG1を回転駆動して発電をすることができる。この際、第1動力伝達部24は中立状態であるので、エンジントルクTeは機械的に駆動輪16へ伝達されない。ハイブリッド制御部92は、エンジン12を作動させ、エンジン12の動力によって第1回転機MG1を発電させ、第1回転機MG1の発電電力により第2回転機MG2を駆動して第2回転機MG2から走行用のMG2トルクTmg2を出力させる。シリーズモードでは、前進時に対して第2回転機MG2を逆回転させて後進走行することも可能である。車両走行中には、駆動輪16の回転に連動してドライブギヤ28に連結された第2リングギヤR2が回転させられる。又、エンジン回転速度Neに連動して第2サンギヤS2が回転させられる。差動部46においては、このように回転させられる、第2リングギヤR2の回転速度と第2サンギヤS2の回転速度とにより、第2キャリヤCA2の回転が決められる。
図9は、HV走行モードのロー状態でのパラレルモード(以下、パラレルローモードという)時の共線図である。パラレルローモードは、図3に示すように、クラッチC1及びクラッチCSを係合した状態、且つブレーキB1を解放した状態で実現される。パラレルローモードでは、図9に示すように、クラッチC1が係合されることで、第1遊星歯車機構48の差動が規制され、第1遊星歯車機構48の回転要素が一体回転させられる。その為、エンジン12の回転は等速で第1リングギヤR1から第2キャリヤCA2へ伝達される。加えて、パラレルローモードでは、クラッチCSが係合されることで、エンジン12と第1回転機MG1とが連結される。
図10は、HV走行モードのハイ状態でのパラレルモード(以下、パラレルハイモードという)時の共線図である。パラレルハイモードは、図3に示すように、ブレーキB1及びクラッチCSを係合した状態、且つクラッチC1を解放した状態で実現される。パラレルハイモードでは、図10に示すように、ブレーキB1が係合されることで、第1サンギヤS1の回転が停止させられる。その為、エンジン12の回転は増速されて第1リングギヤR1から第2キャリヤCA2へ伝達される。加えて、パラレルハイモードでは、クラッチCSが係合されることで、エンジン12と第1回転機MG1とが連結される。
パラレルモードでは、クラッチCSの係合によるエンジン12と第1回転機MG1との連結に加えて、クラッチC1又はブレーキB1が係合されることで変速部44はギヤ比が固定される為、第1動力伝達部24のギヤ比(すなわち変速部44と差動部46との全体のギヤ比)が固定される(以下、パラレルモードをパラレル有段モードということもある)。パラレル走行では、車速V(出力回転速度Nout)に対してエンジン回転速度Neが一意に決められる、有段走行状態とされる(以下、パラレル走行をパラレル有段走行ということもある)。このパラレルモードでは、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2の何れの動力をも駆動輪16へ機械的に伝達することが可能である。例えば、パラレルモードの単駆動時には、エンジン12の動力に加えて、第2回転機MG2の動力を駆動輪16へ伝達して走行する。パラレルモードの両駆動時には、エンジン12の動力に加えて、第1回転機MG1の動力及び第2回転機MG2の動力を駆動輪16へ伝達して走行する。ハイブリッド制御部82は、エンジン12を運転させると共に、第1回転機MG1からMG1トルクTmg1を出力させたり、第2回転機MG2からMG2トルクTmg2を出力させる。パラレルモードでは、ハイブリッド制御部82は、変速部44を非中立状態とし且つクラッチCSを係合状態とするように動力伝達切替部84へ指令を出力して、エンジン12を運転させて走行するパラレル走行を実行する。動力伝達切替部84は、クラッチC1又はブレーキB1を係合することで変速部44を非中立状態とする。
パラレルモードにおける各係合装置(C1,B1,CS)の作動状態は、図3に示した両駆動EVモード(「Neフリー」)と同じである。つまり、図9及び図10の共線図は、エンジン12の運転を停止させれば、両駆動EVモード(「Neフリー」)の共線図である。この両駆動EVモード(「Neフリー」)は、両駆動EVモード(「Ne=0」)と同様に、第1回転機MG1の動力及び第2回転機MG2の動力を駆動輪16へ伝達して走行することが可能である。しかしながら、両駆動EVモード(「Neフリー」)は、走行中には、車速Vに応じてエンジン回転速度Neが一意に決まる為、エンジン回転速度Neをゼロとすることができない点が、両駆動EVモード(「Ne=0」)と異なる。
動力伝達装置14では、クラッチC1、ブレーキB1、及びクラッチCSの各作動状態の切替えや各部の潤滑や各部の冷却に用いられる作動油(オイル)を供給する為の機械式のオイルポンプ(図8のMOP参照)が第2キャリヤCA2に連結されており、第2キャリヤCA2の回転に伴って駆動される。よって、HV走行モードのシリーズ走行中には、潤滑等に必要なオイルが上記オイルポンプから供給可能である。尚、両駆動EVモードのように第2キャリヤCA2の回転が停止される場合、電動式のオイルポンプ(不図示)によりオイルが供給される。
ところで、パラレル走行の状態で変速部44のギヤ段を切り替える場面が発生する場合がある。例えば、パラレル走行中に変速部44のギヤ段の切替えを実行する場面が発生する場合、すなわちパラレル走行中に変速部44の変速が判断される場合がある。前述したように、パラレルモードでは車速Vに対してエンジン回転速度Neが一意に決められる有段走行状態とされる。その為、パラレル走行の状態で変速部44の変速を実行するときには、変速ショックの抑制と適切な変速速度とを両立させる目標の変速進行度(例えばエンジン回転速度Neの変化態様)とする為の予め定められた手順に従ってクラッチC1及びブレーキB1の作動状態を制御することが考えられる。しかしながら、パラレル走行の状態で変速部44を変速するときに、クラッチC1及び/又はブレーキB1のトルク容量の実際値が指令値に対してばらつくと、目標のエンジン回転速度Neの変化態様に対して実際のエンジン回転速度Neが変動してしまい、変速ショックが増大する可能性があった。
そこで、電子制御装置80は、パラレル走行の状態で変速部44のギヤ段を切り替える場面が発生した場合には、クラッチCSの解放状態で変速部44のギヤ段の切替え(すなわち変速)を実行する。変速部44の変速前後の状態は、クラッチC1及びブレーキB1のうちの何れか一方が係合された状態であり、この状態においてクラッチCSが解放された状態は、エンジン12運転中であればシリーズパラレルモードの状態である。シリーズパラレルモードは、エンジン回転速度Neが車速Vに対して一意に決められない無段走行状態であるので、変速部44の変速中に、エンジン回転速度Neを所望する変化態様にて変化させるように差動部46で制御することができる。従って、クラッチCSが解放された状態では、変速部44の変速中のエンジン回転速度Neの変動に伴うショックを差動部46で吸収し易くされる。
電子制御装置80は、上述したクラッチCSの解放状態で変速部44を変速する制御を実現する為に、条件成立判定手段すなわち条件成立判定部86、及び係合作動制御手段すなわち係合作動制御部88を更に備えている。
条件成立判定部86は、パラレルモードでの走行中(すなわちパラレル走行中)に変速部44のギヤ段の切替え(すなわち変速)を実行する車両状態切替条件Aが成立したか否かを判定する。この車両状態切替条件Aは、パラレル走行中であるという条件、及び、変速部44の変速を実行すべきと判断された(すなわち変速部44の変速が発生した)という条件である。より具体的には、条件成立判定部86は、パラレル走行中であるか否かを判定する。加えて、条件成立判定部86は、変速部44の変速を実行すべきと判断されたか否かを判定する。そして、条件成立判定部86は、パラレル走行中であると判定し、且つ、変速部44の変速を実行すべきと判断されたと判定した場合には、車両状態切替条件Aが成立したと判定する。又、条件成立判定部86は、実行された変速部44の変速が終了(完了)したか否かを判定する。
係合作動制御部88は、条件成立判定部86により車両状態切替条件Aが成立したと判定された場合には、クラッチCSの解放状態で変速部44のギヤ段の切替えを実行し、そのギヤ段の切替え完了後にクラッチCSを係合状態とする。より具体的には、係合作動制御部88は、条件成立判定部86により車両状態切替条件Aが成立したと判定された場合には、先ず、係合状態のクラッチCSを解放状態へ切替える指令を動力伝達切替部84へ出力し、パラレルモードからシリーズパラレルモードへ切り替える。係合作動制御部88は、このシリーズパラレルモードにおいて変速部44の変速を実行する(すなわちクラッチC1及びブレーキB1の作動状態の切替えを実行する)指令を動力伝達切替部84へ出力する。そして、係合作動制御部88は、条件成立判定部86により変速部44の変速が終了したと判定された場合には、解放状態のクラッチCSを係合状態へ切替える指令を動力伝達切替部84へ出力し、シリーズパラレルモードからパラレルモードへ切り替える。
又、係合作動制御部88は、シリーズパラレルモードからパラレルモードへ切り替える際、クラッチCSの係合前後においてエンジン回転速度Neの変化が抑制されるように、シリーズパラレルモードの状態において、クラッチCSの係合後のエンジン回転速度Ne(例えばパラレルモードにおける固定ギヤ比×出力回転速度Nout)となるように、第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを制御することが好適である。
図11は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわちパラレル走行の状態で変速部44のギヤ段を切り替える場面が発生したときに、変速ショックが増大してしまうことを回避又は抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば走行中に繰り返し実行される。図12は、図11のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
図11において、先ず、条件成立判定部86の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、パラレル有段モードでの走行中(すなわちパラレル有段走行中)であるか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS10の判断が肯定される場合は条件成立判定部86の機能に対応するS20において、変速部44の変速を実行すべきと判断されたか否か(すなわち変速部44の変速が発生したか否か)が判定される。このS20の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS20の判断が肯定される場合は係合作動制御部88の機能に対応するS30において、CS油圧Pcsの低下によってクラッチCSが解放状態とされて、シリーズパラレルモードへ切り替えられ、このシリーズパラレルモードにおいて変速部44の変速が実行される。次いで、条件成立判定部86の機能に対応するS40において、変速部44の変速が終了したか否かが判定される。このS40の判断が否定される場合は上記S30へ戻される。このS40の判断が肯定される場合は係合作動制御部88の機能に対応するS50において、クラッチCSが係合されてパラレルモードへの切替えが実行され、パラレルモードへ戻される。
図12は、パラレルモードでの走行中にハイギヤからローギヤへの変速部44の変速が発生した場合(すなわちパラレルハイモードからパラレルローモードへの切替えが発生した場合)を示している。図12において、パラレルハイモードでの走行中に変速部44の変速判断が為されると(t1時点参照)、CS油圧Pcsが低下されて(t1時点−t2時点参照)、クラッチCSが解放状態とされ、一旦、シリーズパラレルモードとされる(t2時点参照)。このシリーズパラレルモードの状態で、変速部44の変速が実行される。この実施態様では、変速部44のダウンシフトであるので、B1油圧Pb1が低下されて(t2時点−t4時点参照)、ブレーキB1が解放状態とされつつ、C1油圧Pc1が供給されて(t3時点−t4時点参照)、クラッチC1が係合状態とされる。変速部44の変速が終了した時点(t4時点参照)からCS油圧Pcsが供給されて(t4時点−t5時点参照)、クラッチCSが係合状態とされ、パラレルローモードへ切り替えられてパラレルモードへ戻される(t5時点参照)。
上述のように、本実施例によれば、パラレル走行中に変速部44のギヤ段の切替えを実行する場面が発生したときには、先ず、クラッチCSを解放状態へ切替え、そのクラッチCSの解放状態で変速部44のギヤ段の切替えを実行し、その後、クラッチCSを係合状態としてパラレル走行を実行する。このように、パラレル走行の状態で変速部44のギヤ段を切り替える場面が発生したときには、クラッチCSの解放状態で変速部44のギヤ段の切替えを実行することにより、ギヤ段の切替え中のクラッチC1及び/又はブレーキB1のトルク容量のばらつきに伴うエンジン回転速度Neの変動が、クラッチCSの解放によって差動状態とされた差動部46において吸収され易くなる。よって、パラレル走行の状態で変速部44のギヤ段を切り替える場面が発生したときに、変速ショックが増大してしまうことを回避又は抑制することができる。
次に、本発明の他の実施例を説明する。尚、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
前述の実施例1では、パラレル走行の状態で変速部44のギヤ段を切り替える場面が発生する場合として、パラレル走行中に変速部44のギヤ段の切替えを実行する場面が発生する場合を例示したが、本実施例では、パラレル走行への切替えと変速部44のギヤ段の切替えとを重ねて実行する場面が発生する場合を例示する。
条件成立判定部86は、車両状態切替条件Aが成立したか否かを判定することに替えて、パラレル走行への切替えと変速部44のギヤ段の切替えとを重ねて実行する車両状態切替条件Bが成立したか否かを判定する。この車両状態切替条件Bは、クラッチCSの解放状態においてクラッチC1及びブレーキB1のうちの一方のみが係合状態とされた走行中であるという条件、及び、クラッチC1及びブレーキB1のうちの他方を係合状態とするパラレルモードへの切替えを実行すべきと判断された(すなわちその切替えが発生した)という条件である。より具体的には、条件成立判定部86は、クラッチCSの解放状態においてクラッチC1及びブレーキB1のうちの一方のみが係合状態とされた走行中であるか否かを判定する。加えて、条件成立判定部86は、クラッチC1及びブレーキB1のうちの他方を係合状態とするパラレルモードへの切替えを実行すべきと判断されたか否かを判定する。そして、条件成立判定部86は、クラッチCSの解放状態においてクラッチC1及びブレーキB1のうちの一方のみが係合状態とされた走行中であると判定し、且つ、クラッチC1及びブレーキB1のうちの他方を係合状態とするパラレルモードへの切替えを実行すべきと判断されたと判定した場合には、車両状態切替条件Bが成立したと判定する。
上述したクラッチCSの解放状態においてクラッチC1及びブレーキB1のうちの一方のみが係合状態とされた走行中は、例えば単駆動EVモードのエンブレ併用(以下、単駆動EVエンブレ併用モードという)のロー状態(クラッチC1係合状態)での走行中、又は、単駆動EVエンブレ併用モードのハイ状態(ブレーキB1係合状態)での走行中、又は、シリーズパラレルローモードでの走行中、又は、シリーズパラレルハイモードでの走行中である。従って、クラッチC1及びブレーキB1のうちの他方を係合状態とするパラレルモードへの切替えを実行すべきと判断されたときの一例としては、単駆動EVエンブレ併用モードのハイ状態での走行中に、パラレルローモードへの切替えを実行すべきと判断されたときである。
係合作動制御部88は、条件成立判定部86により車両状態切替条件Bが成立したと判定された場合には、クラッチCSの解放状態で変速部44のギヤ段の切替えを実行し、そのギヤ段の切替え完了後にクラッチCSを係合状態とする。より具体的には、係合作動制御部88は、条件成立判定部86により車両状態切替条件Bが成立したと判定された場合には、先ず、クラッチCSを解放状態としたままで変速部44の変速を実行する(すなわちクラッチC1及びブレーキB1の作動状態の切替えを実行する)指令を動力伝達切替部84へ出力する。そして変速部44の変速終了後、係合作動制御部88は、クラッチCSを係合状態へ切替える指令を動力伝達切替部84へ出力し、パラレルモードへ切り替える。
ここで、シリーズパラレルローモードの走行中からパラレルハイモードへの切替えでは、又は、シリーズパラレルハイモードの走行中からパラレルローモードへの切替えでは、シリーズパラレルモードとしたままで変速部44の変速が実行され、その後、クラッチCSが係合される。これに対して、単駆動EVエンブレ併用モードでの走行中からパラレルモードへの切替えでは、エンジン12を始動する必要がある。単駆動EVエンブレ併用モードでは、クラッチCSの解放状態において既にブレーキB1又はクラッチC1が係合状態とされているので、第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを引き上げて点火することで、エンジン12を始動することができる。単駆動EVエンブレ併用モードにてエンジン12を始動すれば、シリーズパラレルモードとなる。又、パラレルモードへの切替えが判断されるということは、要求駆動トルクが増大したと見ることができるので、速やかにエンジントルクTeを発生させることが望ましい。
そこで、係合作動制御部88は、単駆動EVエンブレ併用モードでの走行中からパラレルモードへの切替えでは、エンジン12の始動を優先して実行することでシリーズパラレルモードへ切り替え、そのシリーズパラレルモードにおいて変速部44の変速を実行し、その後、クラッチCSを係合することが好適である。すなわち、係合作動制御部88は、エンジン12の運転を停止した状態での走行中に、条件成立判定部86により車両状態切替条件Bが成立したと判定された場合には、クラッチCSの解放状態で変速部44のギヤ段の切替えを実行することに先立って、エンジン12を始動する。これによって、エンジントルクTeを発生させる制御が優先されて、ドライバビリティが向上される。
図13は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわちパラレル走行の状態で変速部44のギヤ段を切り替える場面が発生したときに、変速ショックが増大してしまうことを回避又は抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば走行中に繰り返し実行される。この図13では、クラッチCSの解放状態においてクラッチC1及びブレーキB1のうちの一方のみが係合状態とされた走行中として、単駆動EVエンブレ併用モードのハイ状態(ブレーキB1係合状態)での走行中を例示して本実施例の制御作動を説明する。図14は、図13のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
図13において、先ず、条件成立判定部86の機能に対応するS110において、単駆動EVエンブレ併用モードのハイ状態(ブレーキB1係合状態)での走行中であるか否かが判定される。このS110の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS110の判断が肯定される場合は条件成立判定部86の機能に対応するS120において、ロー状態でのパラレル有段モード(パラレル有段ローモードともいう)への切替えを実行すべきと判断されたか否か(すなわちパラレル有段ローモードへの切替えが発生したか否か)が判定される。このS120の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS120の判断が肯定される場合は係合作動制御部88の機能に対応するS130において、第1回転機MG1により差動部46の第2サンギヤS2の回転速度が上昇させられる。つまり、第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neが引き上げられる。次いで、係合作動制御部88の機能に対応するS140において、エンジン回転速度Neが例えば自立運転可能な所定回転速度以上に上昇したところで、エンジン12が点火される。次いで、係合作動制御部88の機能に対応するS150において、ブレーキB1が解放される。次いで、係合作動制御部88の機能に対応するS160において、クラッチC1が係合されて、変速部44の変速が終了させられる。次いで、係合作動制御部88の機能に対応するS170において、クラッチCSが係合されてパラレルモード(ここではパラレル有段ローモード)へ切り替えられる。
図14は、単駆動EVエンブレ併用モードのハイ状態(ブレーキB1係合状態)での走行中にパラレル有段ローモードへの切替えが発生した場合を示している。図14において、単駆動EVエンブレ併用モードのハイ状態での走行中に、アクセル開度θaccが増加し初め(t1時点参照)、その後、アクセル踏込みが判断されると(すなわちパラレル有段ローモードへの切替えが判断されると)、先ず、エンジン12の始動が開始される(t2時点参照)。このエンジン12の始動では、第1回転機MG1により差動部46の第2サンギヤS2の回転速度が上昇させられ、エンジン回転速度Neが引き上げられる(t2時点−t3時点参照)。そして、エンジン回転速度Neが上昇したところで、エンジン12が点火される(t3時点参照)。このように、エンジントルクTeを出す制御を優先して、ドライバビリティの向上が図られる。続いて、シリーズパラレルモードの状態で、変速部44の変速が実行される。この実施態様では、変速部44のダウンシフトであるので、ブレーキB1が解放されつつ(t4時点−t6時点参照)、クラッチC1が係合される(t5時点−t6時点参照)ように変速部44の変速が進行させられる。変速部44の変速終了後(t6時点参照)にクラッチCSが係合されて(t6時点−t7時点参照)、パラレル有段ローモードへ切り替えられる(t7時点参照)。
上述のように、本実施例によれば、パラレル走行への切替えと変速部44のギヤ段の切替えとを重ねて実行する場面が発生したときには、先ず、クラッチCSを解放状態としたままで変速部44のギヤ段の切替えを実行し、その後、クラッチCSを係合状態としてパラレル走行への切替えを実行する。このように、パラレル走行の状態で変速部44のギヤ段を切り替える場面が発生したときには、クラッチCSの解放状態で変速部44のギヤ段の切替えを実行することにより、ギヤ段の切替え中のクラッチC1及び/又はブレーキB1のトルク容量のばらつきに伴うエンジン回転速度Neの変動が、クラッチCSの解放によって差動状態とされた差動部46において吸収され易くなる。よって、パラレル走行の状態で変速部44のギヤ段を切り替える場面が発生したときに、変速ショックが増大してしまうことを回避又は抑制することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例2における図13のフローチャートでは、クラッチCSの解放状態においてクラッチC1及びブレーキB1のうちの一方のみが係合状態とされた走行中として、単駆動EVエンブレ併用モードのハイ状態(ブレーキB1係合状態)での走行中を例示して実施例2の実施態様を説明した。クラッチC1及びブレーキB1のうちの一方のみが係合状態とされた走行中は、前述したように、例えば単駆動EVエンブレ併用モードのロー状態(クラッチC1係合状態)での走行中、シリーズパラレルローモードでの走行中、及びシリーズパラレルハイモードでの走行中もある。従って、図13のフローチャートにおけるS110は、これらの走行中の何れかの走行中に合わせて、その走行中であるか否かが判定されれば良い。従って、図13のフローチャートにおけるS120は、S110にて肯定された走行中に対応するパラレルモードへの切替えが発生したか否かが判定されれば良い。例えば、S110にて判定される走行状態が変速部44のローギヤでの走行状態である場合には、S120においてはハイ状態でのパラレル有段モード(パラレル有段ハイモード)への切替えが発生したか否かが判定される。又、S110にて判定される走行状態が、既にエンジン12が運転中であるシリーズパラレルモードでの走行である場合には、図13のフローチャートにおけるS130及びS140は除かれる。このように、図13のフローチャートの各ステップは適宜変更され得る。
また、前述の実施例では、車両10は、第2回転機MG2が第1動力伝達部24の軸心とは別の軸心上に配置されるような連結関係のギヤトレーンであったが、例えば第2回転機MG2が第1動力伝達部24の軸心と同じ軸心上に配置されるような連結関係のギヤトレーンなどであっても良い。そもそも、エンジン12と、変速部44と、差動部46と、駆動輪16に動力伝達可能に連結された第2回転機MG2とを備えた車両であれば、本発明を適用することができる。又、FF方式の車両10に好適に用いられる動力伝達装置14を用いて発明を説明したが、本発明は、例えばRR方式など他の方式の車両に用いられる動力伝達装置においても適宜適用することができる。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。