以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下においては、本発明に係るデコンプレッション機構を自動二輪車のエンジンに適用した例について説明するが、適用対象はこれに限定されることなく変更可能である。例えば、本発明に係るデコンプレッション機構を、他のタイプの自動二輪車や、バギータイプの自動三輪車、自動四輪車等のエンジンに適用してもよい。また、方向について、車両前方を矢印FR、車両後方を矢印REでそれぞれ示す。また、以下の各図では、説明の便宜上、一部の構成を省略している。
図1を参照して、本実施の形態に係るエンジンが適用される自動二輪車の概略構成について説明する。図1は、本実施の形態に係るデコンプレッション機構が適用されたエンジンを備える自動二輪車の概略構成を示す側面図である。
図1に示すように、自動二輪車1は、パワーユニット、電装系等の各部を搭載する鋼製又はアルミ合金製の車体フレーム10にエンジン2を懸架して構成される。エンジン2は、例えば、単気筒の4サイクルエンジンである。エンジン2は、クランクケース21の上方にシリンダブロックやシリンダヘッド等を組み合わせたシリンダアセンブリ20(以下、単にシリンダ20という)を取り付けて構成される。
シリンダ20内には、ピストン(不図示)や、動弁装置5(図2参照)等の構成部品が収容されている。詳細は後述するが、本実施の形態に係る動弁装置5は、SOHC(Single OverHead Camshaft)式の動弁装置で構成される。また、クランクケース21内には、クランクシャフト(不図示)の他、クランクシャフトの回転を伝達する各種軸等が収容される。
エンジン前方の排気口には、エキゾーストパイプ11が接続されている。エキゾーストパイプ11は、排気口から下方に延出し、クランクケース21の下方で屈曲して車体後方へ延びている。エキゾーストパイプ11の後端には、マフラー12が取り付けられている。燃焼後の排気ガスは、エキゾーストパイプ11及びマフラー12を通って外部に排出される。
車体フレーム10の上部には、燃料タンク13が配置される。燃料タンク13の後方には、運転者シート14及び同乗者シート15がリヤカウル16と共に配置されている。車体フレーム10の前頭部には、左右一対のフロントフォーク30がハンドルバー31と共に操舵可能に支持されている。ハンドルバー31の前方には、ヘッドランプ32が設けられている。フロントフォーク30の下部には前輪33が回転可能に支持されており、前輪33の上方はフロントフェンダ34によって覆われている。
車体フレーム10の後部には、スイングアーム(不図示)が上下に揺動可能に連結されている。スイングアームの後部には、後輪40が回転可能に支持されている。後輪40の左側には、ドリブンスプロケット(不図示)が設けられており、ドライブチェーン(不図示)によってエンジン2の動力が後輪40に伝達される。後輪40の上方は、リヤカウル16の後部に設けられたリヤフェンダ41により覆われる。
次に、図2を参照して、本実施の形態に係る動弁装置について説明する。図2は、エンジンからシリンダヘッドカバーを取り外した図であり、本実施の形態に係る動弁装置の斜視図を示している。
図2に示すように、シリンダ20の上部には、吸気バルブ50及び排気バルブ51の開閉を制御する動弁装置5が設けられている。上記したように、動弁装置5は、SOHC式の動弁装置であり、吸気バルブ50及び排気バルブ51の上方にカムシャフトアセンブリ6(以下、単にカムシャフト6という)を配置して構成される。
カムシャフト6に対して車両後方側には、2つの吸気バルブ50が左右方向(車幅方向)に並んで配置されている。また、カムシャフト6に対して車両前方側には、2つの排気バルブ51が左右方向に並んで配置されている。吸気バルブ50及び排気バルブ51には、それぞれバルブスプリング52が設けられている。吸気バルブ50及び排気バルブ51は、バルブスプリング52によって常時上方向(閉方向)に付勢されている。
カムシャフト6は左右方向に延びている。このカムシャフト6には、吸気カム62及び排気カム63が左右に並んで設けられている。具体的には、図2及び図3に示すように、軸方向左側が吸気カム62であり、軸方向右側が排気カム63である。また、カムシャフト6の右端には、カムスプロケット53が設けられている。カムスプロケット53には、クランクシャフトの回転を伝達するカムチェーン(共に不図示)が巻き掛けられる。
カムシャフト6は、吸気カムシャフト60(第1のカムシャフト)と、排気カムシャフト61(第2のカムシャフト)とを同軸上にアセンブリして構成される(図4参照)。詳細は後述するが、カムシャフト6及びこれらの周辺部品は、吸気バルブ50及び排気バルブ51の開閉タイミングを切り替える可変動弁機構7を構成する。
カムシャフト6(吸気カム62及び排気カム63)の上方には、吸気バルブ50を開閉する吸気ロッカーアーム54と、排気バルブ51を開閉する排気ロッカーアーム55が設けられている。吸気ロッカーアーム54は、左右に延びる吸気ロッカーシャフト(不図示)に対して揺動可能に支持されている。具体的に吸気ロッカーアーム54は、揺動支点となる支持部54aと、吸気カム62に当接する当接部54bと、吸気バルブ50を押圧する押圧部54cとによって構成される。
支持部54aは、吸気ロッカーシャフトを挿通可能な筒形状を有している。当接部54bは、支持部54aから前下方に延び先端にローラ54dを取り付けて構成される。ローラ54dの外面は、吸気カム62の外面に当接している。押圧部54cは、支持部54aから後下方に向かって二又に延びており、各先端部分が吸気バルブ50の上端に当接している。
排気ロッカーアーム55も同様に、左右に延びる排気ロッカーシャフト(不図示)に対して揺動可能に支持されている。具体的に排気ロッカーアーム55は、揺動支点となる支持部55aと、排気カム63に当接する当接部55bと、排気バルブ51を押圧する押圧部55cとによって構成される。
支持部55aは、排気ロッカーシャフトを挿通可能な筒形状を有している。当接部55bは、支持部55aから後下方に延び先端にローラ55dを取り付けて構成される。ローラ55dの外面は、排気カム63の外面に当接している。押圧部55cは、支持部55aから前下方に向かって二又に延びており、各先端部分が排気バルブ51の上端に当接している。
このように構成される動弁装置5では、クランクシャフトの回転に伴ってカムシャフト6が回転されると、吸気カム62(排気カム63)のカム面(外面)に沿って当接部54b(当接部55b)が摺動する。特に、吸気カム62(排気カム63)の突出部分では、当接部54b(当接部55b)が上方に押し上げられる。このため、吸気ロッカーアーム54(排気ロッカーアーム55)が支持部54a(支持部55a)を支点に回動し、押圧部54c(押圧部55c)が下方に移動する。
このとき、押圧部54c(押圧部55c)は、バルブスプリング52の付勢力に抗して吸気バルブ50(排気バルブ51)を下方(開方向)に押し下げる。この結果、吸気バルブ50(排気バルブ51)が開放される。当接部54b(当接部55b)が吸気カム62(排気カム63)の突出部分を乗り越えると、吸気バルブ50(排気バルブ51)は、バルブスプリング52の付勢力によって上方に押し上げられる。この結果、吸気バルブ50(排気バルブ51)が閉じられる。このようにして、吸気バルブ50及び排気バルブ51の開閉が制御される。
次に、図3から図6を参照して、本実施の形態に係る可変動弁機構について説明する。図3は、本実施の形態に係る可変動弁機構の一部を示す斜視図である。図4は、図3に示す可変動弁機構の分解斜視図である。図5は、本実施の形態に係るカムシャフトアセンブリ(カムシャフト)の分解斜視図である。図6は、図3に示す可変動弁機構の断面図である。
上記したように、本実施の形態に係る動弁装置5(図2参照)は、エンジン回転数に応じて吸気バルブ50又は排気バルブ51(共に図2参照)の開閉タイミングを切り替える可変動弁機構7を備えている。具体的には、図3に示すように、可変動弁機構7は、カムシャフト6(カムスプロケット53)の回転に伴って生じる遠心力を用いて吸気バルブ50のバルブタイミングを進角させる、いわゆるガバナー式の可変バルブタイミング機構である。
図3及び図4に示すように、可変動弁機構7は、カムシャフト6の右端に設けられたカムスプロケット53の右側面に、ガバナーフランジ70や、一対のガバナーアーム71をボルト72、73で取り付けて構成される。詳細は後述するが、ガバナーアーム71は、カムシャフト6の回転に伴って生じる遠心力によって回動可能に構成される。
カムスプロケット53の中心には円形穴53aが形成されている。また、カムスプロケット53の側面には、ガバナーアーム71の回動支点となる2つの貫通口53bが形成されている。2つの貫通口53bは、円形穴53aを挟んで対向する位置に形成されている。カムスプロケット53は、後述するスプロケットフランジ66を介して排気カムシャフト61に回転一体に取り付けられる。
ガバナーフランジ70は、後述する吸気カムシャフト60に係合する円形部70aと、円形部70aの外周から径方向外側に広がるフランジ部70bとを有している。円形部70aの中央には、円形穴70cが形成されている。この円形穴70cにボルト72が通され、ボルト72が吸気カムシャフト60にねじ込まれることにより、ガバナーフランジ70が吸気カムシャフト60に固定される。
円形部70aには、中心から径方向に離れた位置に係合ピン70dが取り付けられている。係合ピン70dは、カムシャフト6側に突出している。吸気カムシャフト60の係合溝60bに係合ピン70dが係合することで、ガバナーフランジ70と吸気カムシャフト60とが回転一体に構成される。フランジ部70bには、軸方向外側(右側)に突出する2つの係合ピン70eが設けられている。各係合ピン70eは、ガバナーアーム71の係合穴71dに係合する。このように構成されるガバナーフランジ70は、カムスプロケット53の回転を吸気カムシャフト60に伝達する伝達部材として機能する。
ガバナーアーム71は、カムスプロケット53の周方向に沿うように、略三日月状に形成されている。具体的にガバナーアーム71は、カムスプロケット53に対して回動可能に支持される支持部71aと、支持部71aから離間して形成されるウェイト部71bと、ガバナーフランジ70(係合ピン70e)に係合する係合部71cとを有している。
支持部71aは、ボルト73を挿通可能な円筒形状を有している。ガバナーアーム71は、支持部71aから回転方向前側に向かって延びており、先端が僅かに径方向内側に屈曲している。この屈曲した先端部分がウェイト部71bとなっている。また、係合部71cは、支持部71aから回転方向後側に向かって僅かに延びており、後端が支持部71aより僅かに径方向内側に位置している。係合部71cの後端部分には、上記した係合ピン70eが係合可能な係合穴71dが形成されている。係合穴71dは、径方向に長い略S字形状を有している。
一対のガバナーアーム71は、係合穴71dにガバナーフランジ70の係合ピン70eを係合させた状態で支持部71a及びカムスプロケット53の貫通口53bにボルト73を挿通し、ボルト73をスプロケットフランジ66にねじ込むことで、カムスプロケット53に対して回動可能に取り付けられる。詳細は後述するが、ガバナーアーム71は、カムスプロケット53とガバナーフランジ70との相対回転又は一体回転を切替え可能にする中間作動部材として機能する。
また、一対のガバナーアーム71には、各ウェイト部71bを径方向内側に付勢する一対のガバナースプリング74が設けられている。ガバナースプリング74は、例えば圧縮コイルバネで構成される。ガバナースプリング74の一端は、いずれか一方側のガバナーアーム71のウェイト部71bの基端(ガバナーアーム71の前側の屈曲部分)に係合している。また、ガバナースプリング74の他端は、対向する他方側のガバナーアーム71の後端部分(支持部71aと係合部71cとの間)に係合している。
次に、カムシャフト6の詳細構成について説明する。図5に示すように、カムシャフト6は、吸気カムシャフト60に対して円筒状の排気カムシャフト61、デコンプレッション機構8、リングスペーサ64及びベアリング65を通し、排気カムシャフト61の右端にスプロケットフランジ66を取り付けて構成される。
吸気カムシャフト60は、中空形状を有しており、左右方向に延びている。吸気カムシャフト60の左端側には、吸気カム62が一体的に設けられている。吸気カムシャフト60の右端には、ボルト72(図4参照)用のネジ穴60aが形成されている。また、吸気カムシャフト60の右端外周側には、ガバナーフランジ70の係合ピン70dが係合する係合溝60bが形成されている。
また、吸気カムシャフト60のうち吸気カム62より右側であって、排気カムシャフト61の内側に収まる部分では、基端部と右端部がその中間部分60eに比べて径方向に大きく(太く)形成されている。この吸気カムシャフト60の太くなった部分が、排気カムシャフト61を支持する支持部60cとして機能する。具体的に支持部60cの外径は、排気カムシャフト61の内径と略同一の大きさを有している。また、支持部60cの外面には、環状溝60dが形成されている。これらの環状溝60d及び中間部分60eは、吸気カムシャフト60と排気カムシャフト61の摺動面にオイルを供給するためのオイル供給経路として機能する。
排気カムシャフト61は、吸気カムシャフト60を挿通可能な円筒形状を有している。具体的に排気カムシャフト61の内径は、吸気カムシャフト60の外径より僅かに大きく設定されている。排気カムシャフト61の長さは、吸気カム62より右側における吸気カムシャフト60の長さと略同一である。また、排気カムシャフト61と吸気カムシャフト60とは、相対回転可能に構成される。
排気カムシャフト61の左端側には、排気カム63が一体的に設けられている。また、排気カムシャフト61の外面には、内面に向かって貫通する貫通穴61aが形成されている。貫通穴61aは、排気カム63の右側において、軸方向に長い略矩形状を有している。詳細は後述するが、この貫通穴61aは、デコンプカム82を収容する収容部として機能する。また、貫通穴61aの下方側の排気カムシャフト61の外面には、内面に向って貫通する様にガイド穴61bが形成されている。詳細は後述するが、このガイド穴61bにはデコンプレッション機構8のガイドピン83bが係合し、排気カムシャフト61とデコンプレッション機構8が回転一体に構成される。
デコンプレッション機構8は、エンジン始動時に排気バルブ51(図2参照)を開放して燃焼室を減圧させるものであり、概してリング形状を有している。デコンプレッション機構8の外径は、ベアリング65の外径を越えない程度の大きさを有している。なお、デコンプレッション機構8の詳細構成については後述する。スプロケットフランジ66には、カムスプロケット53の貫通口53bに対応して2つのネジ穴66aが形成されている。スプロケットフランジ66は、排気カムシャフト61に対して回転一体に取り付けられると共に、カムスプロケット53が固定される。
次に、図7を参照して、本実施の形態に係る可変動弁機構の動作について説明する。図7は、本実施の形態に係る可変動弁機構の動作説明図である。図7Aはガバナーアームが閉じた状態を示し、図7Bはガバナーアームが開いた状態を示している。なお、図7では説明の便宜上、ガバナースプリングや一部の構成を省略している。
可変動弁機構7では、図7に示すように、ガバナースプリング74(不図示)によってガバナーアーム71がカムスプロケット53の径方向内側に付勢されている。例えば、エンジン回転数が所定回転数以下の場合、図7Aに示すように、ウェイト部71bに生じる遠心力がガバナースプリング74の付勢力よりも小さい。このため、ガバナーアーム71は支持部71aを支点に回動することがない。
また、ウェイト部71bは、カムスプロケット53の外縁から径方向外側に突出しない閉位置に位置付けられている。このとき、ガバナーフランジ70の係合ピン70eは、係合穴71dの径方向内側の端部に接触している。この場合、ガバナーフランジ70とカムスプロケット53は、相対回転することなく一体的に回転する。これにより、ガバナーフランジ70に係合する吸気カムシャフト60及び排気カムシャフト61(共に図5参照)もカムスプロケット53と一体回転する。この結果、動弁装置5(図2参照)では、通常のバルブタイミングで吸気バルブ50及び排気バルブ51の開閉が制御される。
一方、エンジン回転数が所定回転数を超えると、ウェイト部71bに生じる遠心力がガバナースプリング74の付勢力よりも大きくなる。このため、図7Bに示すように、ガバナーアーム71は支持部71aを支点に回動し、ウェイト部71bが径方向外側に移動する。これにより、ウェイト部71bは、カムスプロケット53の外縁から径方向外側に突出した開位置に位置付けられる。
また、ガバナーアーム71が回動することで係合部71cは径方向内側に移動する。これに伴い、ガバナーフランジ70は、係合穴71dの径方向外側の端部に係合ピン70eが接触すると共に、カムスプロケット53に対して反対方向に相対回転する。この結果、吸気バルブ50の開閉タイミングが調整される。このように、可変動弁機構7では、エンジン回転数に応じてガバナーアーム71を回動させ、ガバナーフランジ70とカムスプロケット53とを相対回転させることにより、吸気バルブ50の開閉タイミングを変化させることが可能になっている。
次に、図5、図8及び図9を参照して、本実施の形態に係るデコンプレッション機構について説明する。図8は、本実施の形態に係るデコンプレッション機構の分解斜視図である。図9は、本実施の形態に係るデコンプアームの斜視図である。
図5、図8及び図9に示すように、本実施の形態に係るデコンプレッション機構8は、エンジン始動時に排気バルブ51(図2参照)を開放して燃焼室を減圧するように構成される。具体的にデコンプレッション機構8は、環状に形成されるデコンプホルダ80に、遠心力を受けて回動可能なデコンプアーム81と、デコンプアーム81の回動に応じて回動するデコンプカム82とを取り付けて構成される。
デコンプホルダ80は、軸方向に所定幅を有する略リング形状を有している。デコンプホルダ80は、図8に示す略上半部が略下半部に対して軸方向に窪んでおり、前後方向から見て段形状を有している。説明の便宜上、デコンプホルダ80の略下半部において比較的肉厚な部分を肉厚部83とし、略上半部において比較的肉薄な部分を肉薄部84とする。
図8に示す肉薄部84の前側の外縁部には、デコンプアーム81を支持する支持部84aが形成されている。支持部84aには、軸方向右側に突出する係合ピン84bが設けられている。この係合ピン84bには、デコンプアーム81のピボット部81aが係合し、デコンプアーム81の回動支点となる。肉薄部84の上側の内周面には、径方向外側に向かって窪んだ凹部84cが形成されている。凹部84cは、軸方向から見て略円弧状に形成されている。この凹部84cには、デコンプカム82が収容される。
また、凹部84cの上方における肉薄部84の外縁には、軸方向右側に突出する突起部84dが形成されている。この突起部84dは、デコンプアーム81の所定角度以上の回動を規制するストッパとして機能する。また、肉厚部83の下側の内周面には、径方向外側に向かって窪んだ凹部83aが形成されている。この凹部83aには、上記したガイドピン83b(図5参照)が係合する。
デコンプアーム81は、デコンプホルダ80の周方向に沿うように、略三日月状に形成されている。具体的にデコンプアーム81は、カムスプロケット53に対して回動可能に支持されるピボット部81aと、デコンプカム82に係合する係合部81bと、デコンプアーム81の錘として機能するウェイト部81cとを有している。
ピボット部81aは、デコンプアーム81の一端に設けられており、軸方向に貫通する穴で構成される。当該穴に係合ピン84bが挿通されることで、デコンプアーム81は、ピボット部81aを支点に回動可能に構成される。係合部81bは、デコンプアーム81の他端に設けられており、軸方向左側に突出する係合ピン81dを有している。当該係合ピン81dは、後述するデコンプカム82の直線溝82aに係合する。
ウェイト部81cは、ピボット部81aと係合部81bとの間(ピボット部81aとデコンプカム82との中間部)に設けられており、ピボット部81a及び係合部81bに対して軸方向左側に(デコンプホルダ80に向かって)突出した形状を有している。なお、デコンプホルダ80では、支持部54aと突起部84dとの間における肉薄部84の外周部分が、ウェイト部81cの形状に対応するように抉られている。すなわち、肉薄部84の抉られた部分が、ウェイト部81cを収容する収容部として機能する。
また、デコンプアーム81には、係合部81b側を径方向内側に付勢するデコンプスプリング85が設けられる。デコンプスプリング85は、例えば圧縮コイルバネで構成され、一端がデコンプアーム81に引っ掛けられ、他端がデコンプホルダ80に引っ掛けられる。具体的に、デコンプアーム81には、ピボット部81aの近傍でピボット部81aより係合部81b側に、デコンプスプリング85の一端を引っ掛けるための係止穴81eが形成されている。また、デコンプホルダ80には、肉薄部84の最下端部(凹部83aの近傍)に、デコンプスプリング85の他端を引っ掛けるための切欠き部84eが形成されている。詳細は後述するが、上記のように構成されるデコンプアーム81は、排気バルブ51を開放可能なデコンプ作動位置と、排気バルブ51を閉鎖可能なデコンプ解除位置との間で回動可能に構成される。
デコンプカム82は、左右方向に延びる円柱形状を有している。デコンプカム82の略右半部は、デコンプホルダ80の円弧状の凹部84cに収容される。なお、凹部84cの内径はデコンプカム82の外面と相補形状であり、デコンプカム82は、凹部84cの内面に沿って回転可能に構成される。また、デコンプカム82の右端には、軸方向右側から見て直径方向に延びる直線溝82aが形成されている。この直線溝82aは、デコンプアーム81の係合ピン81dを受容可能な幅を有している。係合ピン81dは、デコンプアーム81の回動に応じて直線溝82aに対して係合した状態で移動可能に構成される。
デコンプカム82の略左半部は、排気カム63(図5参照)のカム面に対して出没可能な外面形状を有している。具体的にデコンプカム82の左端には、軸方向から見て一部が切欠かれており、円弧状に形成される円弧面82bと、平坦に形成される平坦面82cとを有している。このように構成されるデコンプカム82は、全体として排気カムシャフト61の貫通穴61aに収容される。
このように構成されるデコンプレッション機構8では、例えば、エンジン始動時には、排気カム63のカム面からデコンプカムの円弧面82bが突出することで、排気ロッカーアーム55(図2参照)を介して排気バルブ(図2参照)が僅かに開放される。これにより、燃焼室内が減圧され、圧縮行程時のエンジンフリクションが低減される。
一方、エンジン始動後にエンジン回転数が所定の回転数を超えると、遠心力によってデコンプアーム81が回動する。この結果、デコンプカム82が回転され、平坦面82cが排気カムシャフト61に対して表出したとき、平坦面82cは、排気カム63のカム面内に収められる。これにより、圧縮行程時に排気バルブが開放される動作(デコンプ動作)が解除される。このように、デコンプレッション機構8は、エンジン回転数に応じて排気バルブ51を開閉するように動作する。
ところで、従来のデコンプレッション機構においては、デコンプアームの重心位置が回動支点(ピボット部)から離れた位置にあるため、遠心力を受けた場合にデコンプアームを回動させる(デコンプ動作を解除する)、デコンプアーム81の作動方向(デコンプアーム81が開く方向)に作用するモーメントが比較的大きくなる。例えばエンジンが急停止するような状況にあっては、急停止時の慣性程度でもデコンプアームが回動してデコンプ動作が解除されたまま、エンジンが停止することが考えられ、次回このデコンプ動作が効かない状態でエンジンが始動し難くなる、いわゆるデコンプロックが発生する場合がある。このデコンプロックを防止し、エンジンの再始動性を向上させるためには、エンジンが急停止するような状況であってもデコンプアームが不用意に開いてしまうことを抑制する必要がある。
そこで、本実施の形態では、デコンプアーム81のウェイト部81cをピボット部81aと係合部81bとの間(ピボット部81aとデコンプカム82との中間部)に設けたことで、デコンプアーム81の重心をピボット部81a側に近づけることが可能になった。この結果、デコンプアーム81に遠心力が働いても、デコンプアーム81の作動方向(デコンプアーム81が開く方向)に作用するモーメントを小さくすることができ、デコンプアーム81が回動し難くなる。よって、エンジンが急停止するような状況において、不用意にデコンプ動作が解除されるのを抑制することができる。このように、エンジンが急停止するような状況であっても安定的にデコンプ動作を実施することができる。
次に、図10及び図11を参照して、本実施の形態に係るデコンプレッション機構の動作について説明する。図10及び図11は、本実施の形態に係るデコンプレッション機構の動作説明図である。具体的に図10は、デコンプ動作が効いている状態を表しており、デコンプアームが、排気バルブを開放可能なデコンプ作動位置に位置付けられた状態を示している。一方、図11は、デコンプ動作が解除された状態を表しており、デコンプアームが、排気バルブを閉鎖可能なデコンプ解除位置に位置付けられた状態を示している。また、図10A及び図11Aはデコンプレッション機構を左側から見た図であり、図10B及び図11Bはデコンプレッション機構を右側から見た図である。
図10に示すように、エンジン2(図1参照)が始動していない状態においては、クランクシャフト(不図示)が回転していないため、カムスプロケット53、排気カムシャフト61(図4又は図5参照)及びデコンプレッション機構8も回転していない。このとき、デコンプアーム81には、デコンプスプリング85による付勢力のみが働いている。特に図10Aに示すように、デコンプアーム81は、デコンプスプリング85によって径方向内側に付勢されており、ウェイト部81cの内周側の端面がデコンプホルダ80の外面に接触している。
このように、ウェイト部81cがデコンプホルダ80に当接することで、デコンプホルダ80の一部を、デコンプアームが回動する際のストッパとして機能させることができる。この結果、デコンプアーム81の回動を規制するための部品を別途設ける必要がなく、構成が簡略化される。
また、デコンプアーム81がデコンプ作動位置に位置している場合、図10Bに示すように、デコンプアーム81の係合ピン81dが直線溝82aの後端側(図10Bの紙面左端部)に位置付けられている。この場合、図10Aに示すように、デコンプカム82の円弧面82bが排気カム63のカム面から径方向外側に突出している。これにより、エンジン始動の際には、デコンプカム82の円弧面82bで排気ロッカーアーム55(当接部55b(共に図2参照))を押し上げることができ、排気バルブ51が僅かに開放される。この結果、デコンプ動作を効かせた状態でエンジンを始動し易くすることができる。
一方、エンジン始動後、エンジン回転数(カムスプロケット53の回転数)が所定回転数を超えると、ウェイト部81cに生じる遠心力がデコンプスプリング85の付勢力よりも大きくなる。このため、デコンプアーム81はピボット部81aを支点に回動し、係合部81b(係合ピン81d)が径方向外側に移動する。これに伴い、デコンプカム82は凹部84cの内面に沿って摺動して回転する。この結果、図11Aに示すように、デコンプカム82の平坦面82cが排気カムシャフト61の外側に表出する。このとき、平坦面82cは、排気カム63のカム面内に収められているため、デコンプカム82によって排気ロッカーアーム55が押し上げられることが無い。すなわち、デコンプ動作が解除された状態となっている。
なお、図11Bに示すように、デコンプアーム81がデコンプ解除位置に位置付けられた状態においては、デコンプアーム81の上端がデコンプホルダ80の突起部84dに当接することで、デコンプアーム81の回動が規制される。この結果、デコンプアーム81が必要以上に回動するのを防止すると共に、係合ピン84bが直線溝82aから脱落するのを防止することができる。
このように、本実施の形態では、エンジン回転数が所定回転数を越えた場合、デコンプアーム81が遠心力によってデコンプ解除位置に位置付けられる一方、エンジン回転数が所定回転数以下の場合、デコンプアーム81はデコンプ作動位置に位置付けられる。この構成によれば、デコンプアーム81(ウェイト部81c)に働く遠心力を用いて、エンジン回転数に応じてデコンプアーム81を所定位置(デコンプ作動位置又はデコンプ解除位置)に回動させることにより、適切にデコンプ動作の切り替えを行うことができる。
特に、上記したように、デコンプアーム81のウェイト部81cをピボット部81aと係合部81bとの間に設けたことで、デコンプアーム81の重心をピボット部81a側に近づけることが可能になっている。このため、エンジンが急停止するような状況において、デコンプアーム81に大きな遠心力が働いても、デコンプアーム81の作動方向(デコンプアーム81が開く方向)に作用するモーメントを小さくすることができ、デコンプアーム81が回動し難くなる。よって、不用意にデコンプ動作が解除されるのを抑制することができる。
また、本実施の形態では、デコンプアーム81をデコンプ作動位置側に付勢するデコンプスプリング85の係合箇所が、ピボット部81aとウェイト部81cとの間に設けられている。この場合、デコンプアーム81において、デコンプ動作が解除される方向に遠心力が働いても、デコンプスプリング85の付勢力によって当該遠心力が相殺される。このため、デコンプアーム81を回動し難くすることができる。また、デコンプスプリング85の係合箇所をピボット部81a側に近づけることができるため、デコンプスプリング85を小型化して機構全体をコンパクトにすることができる。
また、ピボット部81a及び係合部81bがデコンプアーム81の両端に離して設けられている。このため、デコンプアーム81の回動角度が小さい場合であっても、係合部の移動量を確保することができる。また、ウェイト部81cが、軸方向において、デコンプホルダ80と重なるように配置されている。このため、デコンプレッション機構が全体として軸方向に大きくなるのを防止することができる。
また、本実施の形態では、デコンプレッション機構8が、排気カム63(吸気カム62)とカムスプロケット53のとの間に設けられている。このため、デコンプレッション機構8がカムシャフトの端部に設けられる場合に比べて、エンジン全体が軸方向に大きくなるのを防止することができる。
また、デコンプレッション機構8では、軸方向において、デコンプホルダ80の肉厚部83の厚み内で周辺部品(デコンプアーム81やデコンプスプリング85)が収められている。このため、デコンプレッション機構8全体として軸方向の寸法を小さくすることができ、動弁装置5が軸方向に大きくなるのを防止することが可能になっている。
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
例えば、上記した実施の形態においては、単気筒のエンジン2を例にして説明したが、この構成に限定されない。例えば、本実施の形態に係る動弁装置5(可変動弁機構7、デコンプレッション機構8)を多気筒のエンジンに適用してもよい。
また、上記した実施の形態において、一気筒につき、吸気バルブ50及び排気バルブ51がそれぞれ2つずつ、合計4つ設けられる、いわゆる4バルブ式の動弁装置で構成したが、この構成に限定されない。吸気バルブ50及び排気バルブ51の数は適宜変更が可能である。
また、上記の実施の形態において、デコンプレッション機構8をSOHCタイプの動弁装置5に適用した場合について説明したが、この構成に限定されない。例えば、デコンプレッション機構8をDOHC(Double OverHead Camshaft)式の動弁装置に適用してもよい。
また、上記の実施の形態では、各部材同士が係合する部分において、一方が係合ピンで他方が係合穴や溝で形成される構成としたが、この構成に限定されない。例えば、一方が係合穴や溝で形成され、他方が係合ピン等の突起で形成されてもよい。
また、上記の実施の形態において、可変動弁機構7は、吸気バルブ50の開閉タイミングを調整する構成としたが、この構成に限定されない。排気バルブ51の開閉タイミングを調整するように可変動弁機構7を構成してもよい。
また、上記の実施の形態において、可変動弁機構7が作動する(ガバナーアーム71が回動する)際の所定の遠心力(エンジン回転数)は、調整したいバルブタイミングに応じて適宜変更が可能である。また、デコンプレッション機構8が作動する(デコンプアーム81が回動する)際の所定の遠心力(エンジン回転数)も、デコンプ動作を解除したいタイミングに合わせて適宜変更が可能である。