JP2018002832A - 筆記具用水性インキ組成物、およびそれを用いた筆記具 - Google Patents
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Abstract
Description
しかしながら、インキタンクを含む筆記具の多くの部品は樹脂で構成されていることが多く、それらは疎水性であるため、水性インキ組成物の濡れ性が不足すると、筆記具をペン先下向き状態にしても、表面張力による抗力のため水性インキ組成物は流下せずに、元の位置に留まってしまう。この状態では、ペン先にまで水性インキ組成物が供給されず、筆跡がかすれたり、最悪、筆記することができなくなってしまうことがあった。
しかしながら、前記マルトシルサイクロデキストリン等は、良好なインキ反転性が得られる程度に水性インキ組成物中に添加すると、インキ粘度が上昇し、インキ追従性が低下したり、水への溶解性が低いためペン先の耐ドライアップ性に影響を及ぼすなどの課題を有する。
また、表面張力の調整によらずに上記課題の解決を試みた従来のインキ組成物では、筆記具に収容して用いた場合、筆記性や得られる筆跡に課題が生じるなど、水性インキ組成物としての性能を十分に満足するものではなかった。
特に、インキ流量を調節する適宜のインキ流量調節体を介してペン先が軸筒端部に取り付けられ、前記軸筒内に水性インキ組成物を収容するインキタンクが備えられた構造である筆記具に好適に用いられるような粘性指数nの高い筆記具用水性インキ組成物や低粘度の筆記具用水性インキ組成物においては、上記課題を同時に解決することは難しく、大きな課題となっていた。
本発明による筆記具用水性インキ組成物(以下、場合により、水性インキ組成物と表す。)は、水と、着色剤と、HLB値が10〜20であるポリエーテルアミンと、を含んでなり、前記筆記具用水性インキ組成物の20℃における表面張力が35〜55mN/mであることを特徴とする。以下、本発明による水性インキ組成物を構成する物性、各成分について説明する。
さらに、インキのボタ落ち現象の抑制や、インキの吐出性を考慮すると、水性インキ組成物の表面張力は、40〜50mN/mであることが好ましい。
なお、表面張力は、20℃環境下において、協和界面科学株式会社製の表面張力計測器を用い、白金プレートを用いて、垂直平板法によって測定して求められる。
本発明の水性インキ組成物は、HLB値が10〜20であるポリエーテルアミンを含んでなる。HLB値が10〜20であるポリエーテルアミンは、水性インキ組成物の表面張力を適正な範囲に調整し、かつ、インキタンクおよびインキ流量調節体に対する濡れ性を適度に保つことができる。
前記ポリエーテルアミンは、インキタンクに対する濡れ性を適度に保つことができることから、筆記具を横置き状態やペン先上向き状態から、筆記するためにペン先下向き状態にした場合でも、水性インキ組成物がインキタンク内で元の位置に留まらず、ペン先方向へ円滑に流下させることができる。よって、前記ポリエーテルアミンは、水性インキ組成物のインキタンク内のインキ反転性を向上させることができる。
また、前記ポリエーテルアミンは、インキタンクだけでなく、インキ流量調節体に対する濡れ性も適度に保つことができる。このため、インキ流量調節体の機能を十分に得ることができ、ペン先からのインキ吐出性を良好に維持することが可能となり、また、後にも記載するが、くし歯状のインキ保留部材に余剰なインキがスムーズに流入することができるため、インキのボタ落ち現象を抑制することができる。
また、前記ポリエーテルアミンは、水性インキ組成物の表面張力を極端に低下させることなく、適正な範囲に調整することができるため、本発明の水性インキ組成物を筆記具に収容して筆記した場合、紙面への浸透性が高くなって筆跡が滲んでしまったり、裏抜けしてしまったりすることがなく、良好な筆跡を得ることができる。
ポリエーテルアミンは分子中に窒素元素を含んでおり、この窒素元素部位は水中の水素イオンと結合しやすく、その錯体は弱いプラス電荷を帯びることになる。一方、多くの樹脂材料はマイナス電荷を帯びており、ポリエーテルアミンと樹脂材料の間で電荷中和が起こる。このため、前記ポリエーテルアミンを含んでなる水性インキ組成物は樹脂材料に対し、特異的に良好な濡れ性を得ることができる。
一般的な界面活性剤では、水性インキ組成物の表面張力を適正な範囲に調整することは可能なものの、樹脂材料に対して濡れ性が足りず、樹脂製のインキタンクの場合には、インキ反転性が劣ることが見られる。しかし、前記ポリエーテルアミンを含んでなる水性インキ組成物は、該水性インキ組成物の表面張力を適正な範囲に保ちながら、かつ、樹脂材料に対する濡れ性をも向上させることができるため、インキのボタ落ち現象を防ぎつつ、かつ、樹脂製のインキタンク内のインキ反転性を向上させることができる。
また、本発明の検討過程において、ポリエーテルアミン中の酸化エチレンは水溶液の気泡安定性(破泡性)に寄与していることを確認した。前記ポリエーテルアミンの平均酸化エチレン付加モル数(EO数)が上記数値範囲内であると、水性インキ組成物中に発生した気泡の消失が早くなる。このため、発生した気泡に阻害されず、水性インキ組成物は、円滑に流動可能となり、インキタンク内のインキ反転性を向上させることができる。また、気泡に阻害されることなくペン先からのインキ吐出性も向上することができるため、筆記具に用いた場合には、良好な筆記性およびその筆跡を得ることができる。特に、本発明の水性インキ組成物のインキ粘度が、B型回転粘度計を用いて、BLアダプタ、回転数60rpm、20℃で測定し、1〜3mPa・sである場合、インキ流動性が良好なためインキタンク内で移動が頻繁に起こりやすく、気泡が発生しやすい。これらの発生した気泡はインキタンク内のインキ反転性やペン先からのインキ吐出性およびインキ残量の確認などに不具合を起こす原因となることから、気泡の消失は早いほうが望ましい。よって、平均酸化エチレン付加モル数(EO数)が上記数値範囲内である前記ポリエーテルアミンを含むと気泡の消失速度を向上でき、上記不具合を解決することができるため、特に効果的である。
このように、気泡の発生を少なくし、発生したとしても、気泡消えが良好な状態をもたらす性質は酸化エチレンの立体障害に依存する。よって、ポリエーテルアミンの平均酸化エチレン付加モル数(EO数)が一定量あるものが破泡性に優れると考える。
前記のようなインキ流量調節体を備えた筆記具は、基本的には毛細管現象を利用しインキの吐出を行うこととなる。インキタンクの内圧上昇が起こると余剰なインキがペン先より吹き出してしまうなど、インキのボタ落ち現象が起こる可能性がある。しかし、くし歯状のインキ保留部材が配置されていると、この余剰なインキはくし歯状の構造の中に取り込まれてインキのボタ落ちを抑制することができる。
ただし、このくし歯状のインキ保留部材を有効に使うためには、用いられる水性インキ組成物は、インキ保留部材に対し、ある程度の濡れ性が必要となる。単にインキ組成物の表面張力を下げた場合では、重力や運動エネルギーなどの内圧変化以外の外力に対し、表面張力によるインキの抗力が不足してしまい、インキ保留部材内でインキを保持することができなくなる。逆に、インキの表面張力が極端に高い場合には、主にインキ通路にインキが円滑に流入せず、ペン先からのインキの吐出性が悪くなる。
本発明の水性インキ組成物は、前記ポリエーテルアミンを含んでなるため、水性インキ組成物の表面張力を適正な範囲に調整するだけでなく、インキ流量調節体(くし歯状のインキ保留部材)に対する濡れ性を適度に保つことができるようになる。このため、くし歯状のインキ保留部材の機能を有効に使うことが可能となり、前記のようなインキ流量調節体として、くし歯状のインキ保留部材が配置された筆記具に、本発明のインキ組成物を好適に用いることができ、インキのボタ落ち現象を十分に抑制し、更に、良好な筆記性と筆跡を得ることができる。
本発明において用いることができる着色剤としては、通常、筆記具用水性インキ組成物に用いる染料、顔料などが挙げられる。
水としては、特に制限はなく、例えば、イオン交換水、限外ろ過水または蒸留水などを用いることができる。
本発明による水性インキ組成物は、インキ物性や機能を向上させる目的で、水溶性有機溶剤、pH調整剤、保湿剤、防錆剤、防腐剤、キレート剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
中でも、ポリエーテルアミンとの相性が良く、安定して存在できることから、ポリエーテルアミンの効果を効率的に得ることができる、ジエチレングリコール、エチレングリコール、グリセリンなどを用いることが良好である。
水性インキ組成物における水溶性有機溶剤の含有量は、水性インキ組成物の総質量を基準として、0.1〜10質量%であることが好ましい。
本発明によるインキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
本発明の水性インキ組成物は、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップまたはボールペンチップなどを筆記先端としたマーキングペンやボールペン、金属製の筆記先端を用いた万年筆などの筆記具に用いることができる。
また、前記インキタンクの素材が樹脂である場合には、インキタンクは水性インキ組成物との濡れ性が悪い傾向にあるため、更にインキタンク内のインキ反転性を考慮する必要がある。本発明のインキ組成物は、このような場合においても、インキタンクにおける濡れ性を適度に保つことができ、インキタンク内のインキ反転性に優れる。よって、インキタンクの素材が樹脂である場合においても、本発明のインキ組成物を好適に用いることができ、良好な筆記性と筆跡を得ることができる。
このため、水性インキ組成物に濡れ性付与剤を添加することが一般的であるが、濡れ性付与剤が添加されると、紙面への浸透性が極端にあがり、筆跡が滲んでしまったり、裏抜けが発生してしまうなどの課題が生じる。本発明の水性インキ組成物は、表面張力を極端に低下させることなく、ペン先からのインキ吐出性と筆記性を向上させ、紙面に対する筆跡滲みや裏抜けも抑えることができるため、本発明のインキ組成物を、前述のようなインキ供給機構にインキ流量調節体を備える筆記具に好適に用いることができる。中でも、インキ流量調節体として、くし歯状のインキ保留部材が配置され、水性インキ組成物を筆記先端に供給する機構を備える筆記具においては、上記のような課題が生じる傾向が高いため、本発明のインキ組成物を用いることは、更に効果的である。
更に、万年筆が備えるインキタンクには、筆記具本体に着脱自在に交換可能なインキタンク(インキカートリッジ)や、また、インキ瓶のようなインキ収容体から、インキタンク内に直接インキを吸入することができる機能をもつインキタンク(コンバーター)が用いられ、かつ、該インキタンクの素材が樹脂である可能性が高い。
以上より、水性インキ組成物の表面張力を適正に調整し、インキタンクおよびインキ流量調節体への濡れ性を適度に保ち、インキタンク内のインキ反転性および、インキのボタ落ち現象を抑制し、更に筆記性に優れ、滲みや裏抜けなどない良好な筆跡を得ることができる本発明のインキ組成物は、万年筆用の水性インキ組成物として好適に用いることができる。
下記原材料および配合量にて、着色材以外の原材料をプロペラ撹拌により、混合してベース液を得た。その後、ベース液に着色剤を添加し、プロペラ撹拌により混合して、筆記具用水性インキ組成物を得た。得られた水性インキ組成物の粘度をB型回転粘度計(機種:BLII、ローター:BLアダプタ、東機産業株式会社製、サンプル量20ml)により測定し、その粘度を元に粘性指数nを算出した。具体的には、20℃、回転速度12rpmにおける粘度は、1.20mPa・sであり、20℃、回転速度60rpmにおける粘度は1.51mPa・sであった。これらの粘度から粘性指数nは1.14と算出された。また、得られた水性インキ組成物の表面張力を、表面張力計測器(20℃環境下、白金プレート、垂直平板法、協和界面科学株式会社製)により測定したところ、43.3mN/mであった。さらに、IM−40S型pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて、20℃において水性インキ組成物のpHを測定した結果、pHは9.12であった。
・着色剤 3.5質量%
(Bayscript Black SP、固形分:30%)
・ポリエーテルアミン 1.0質量%
(ポリオキシエチレン−ステアリルアミン、商品名:ナイミーンS−220、HLB値15.4)
・pH調整剤 1.0質量%
(トリエタノールアミン)
・水溶性有機溶剤 3.0質量%
(ジエチレングリコール)
・水 91.5質量%
実施例1に対して、配合する成分の種類や添加量を表1、表2に示した通りに変更して、実施例2〜実施例9、比較例1〜比較例6の水性インキ組成物を得た。
実施例1〜実施例9、比較例1〜比較例6で得られた水性インキ組成物を樹脂製のコンバーター(パイロットコーポレーション社製、CON−70、インキ容量1.1ml)に、コンバーター開口部上向きの状態で0.5ml注入した。このコンバーターを、インキ流量調節体として、くし歯状のインキ保留部材(表面改質したもの)が配置された、万年筆形態のペン先を有する筆記具(パイロットコーポレーション社製、万年筆、カクノ)に、ペン先が上向きのまま装着した。この筆記具を試験用ペンとする。
試験用ペンをペン先上向き状態にして、充填された水性インキ組成物をインキタンク内のペン先反対側にすべて落とした。この後、ペン先を静かに下向き状態にした際、インキタンク内で水性インキ組成物がペン先側に流下する様子を目視にて確認し、下記基準に従ってインキタンク内のインキ反転性能を評価した。得られた評価結果を表1および表2にまとめた。
○:1秒以内に水性インキ組成物が、インキタンクのペン先側にすべて流下した。
△:1秒以内に水性インキ組成物は、インキタンクのペン先側に大部分が流下したが、一部流下せず、インキタンク内の壁面などに残っていた。
×:1秒経過しても水性インキ組成物が、インキタンクのペン先側にすべて流下しなかった。
試験1で使用した試験用ペンを暫くペン先下向き状態にし、充填された水性インキ組成物をペン先まで流入させ、筆記可能な状態にした。その状態で任意の紙面上に連丸を10個筆記し、その筆跡を確認し、下記基準に従って、筆記性能を評価した。得られた評価結果を表1および表2にまとめた。なお、筆記試験用紙としてJIS P3201 筆記用紙Aを用いて、評価を行った。
○:にじみやかすれ、裏抜けなどない、良好な筆跡が得られた。
×:筆跡ににじみやかすれ、裏抜けなどが確認された。
試験2で使用した試験用ペンをペン先下向き状態にし、減圧デシケーター中に静置させた。この状態で、5分間でデシケーター内を70mmHgまで減圧させ、その後、70mmHgの減圧状態を保ったまま、更に5分間、デシケーター中に試験用ペンを放置させた。この時の試験用ペンのペン先から水性インキ組成物の吹き出しがないか、インキのボタ落ちの有無を確認し、下記基準に従って、インキのボタ落ち性能を評価した。
○:ペン先からの水性インキ組成物の吹き出しはなく、インキのボタ落ちは発生しなかった。
△:デシケーター内を5分間で70mmHgまで減圧した際には、ペン先からの水性インキ組成物の吹き出しは見られずインキのボタ落ちは発生しなかったが、70mmHgの減圧状態を維持した5分の間に、ペン先から水性インキ組成物が少量吹き出し、インキのボタ落ちが若干発生した。しかしながら、実用上問題のないレベルであった。
×:デシケーター内を5分間で70mmHgまでの減圧した際、ペン先からの水性インキ組成物の吹き出しがあり、インキのボタ落ちが発生した。
以上より、水と、着色剤と、HLB値が10〜20であるポリエーテルアミンと、を含んでなり、20℃における表面張力が35〜55mN/mである実施例1〜実施例9の水性インキ組成物は、<インキタンク内インキ反転性試験>、<筆記試験>、<耐圧力変化試験(インキのボタ落ち性試験)>のいずれにおいても良好な結果が得られ、筆記具用水性インキ組成物として優れたものであることがわかった。さらに、実施例1〜実施例9の水性インキ組成物が収容してなる筆記具は、良好な筆記性と筆跡が得られることがわかった。
Claims (5)
- 水と、着色剤と、HLB値が10〜20であるポリエーテルアミンとを含んでなる筆記具用水性インキ組成物であり、前記筆記具用水性インキ組成物の20℃における表面張力が、35〜55mN/mであることを特徴とする筆記具用水性インキ組成物。
- B型回転粘度計を用いて、回転数60rpm、20℃で測定したインキ粘度が、1〜3mPa・sである、請求項1に記載の水性インキ組成物。
- 20℃における粘性指数nが、0.9〜1.2である、請求項1または2に記載の水性インキ組成物。
- 前記ポリエーテルアミンの平均酸化エチレン付加モル数(EO数)が、10〜35である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の水性インキ組成物。
- 請求項1〜4のいずれか一項に記載の水性インキ組成物が収容されてなることを特徴とする、筆記具。
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