本発明による環状構造は、好ましくは8員環又は9員環、より好ましくは8員環であり、この環状構造は、環に組み込まれた(E)−1,4−ジオキソ−ブタ−2−エン部分(トランス配座の−C(O)−C=C−C(O)−部分)を含む、すなわち4個の炭素原子が環の一部となっている。8員環又は9員環中、特に8員環中の2つのさらなるsp2炭素原子と隣接するE配置の炭素−炭素二重結合の存在は、当技術分野で前例がない。
環状構造の環を形成する8個又は9個の原子を「環原子」と呼ぶ。(E)−1,4−ジオキソ−ブタ−2−エン部分により、環状構造は、少なくとも4個の炭素環原子を含有する。4個又は5個のさらなる環原子は、好ましくは、炭素、酸素、及び窒素から、より好ましくは、炭素及び酸素から選択される。好適な環系は0〜3個の酸素環原子、より好ましくは1〜2個の酸素環原子、最も好ましくは1個の酸環原子を有し、残りの環原子は炭素原子である。環状構造が8員環である場合には、環は、好ましくは7個の炭素原子及び1個の酸素原子を含有する。環状構造が9員環である場合には、環は、好ましくは8個の炭素原子及び1個の酸素原子を含有する。
好適な実施形態によると、本発明による環状構造は、好ましくは、1個の酸素環原子及び7個又は8個、好ましくは7個の炭素環原子を有する。酸素は、好ましくは、(E)−1,4−ジオキソ−ブタ−2−エン部分のカルボニル部分のうちの1つとすぐ隣に位置し、したがってこの環状構造はラクトンである。したがって、環状構造は、好ましくは、環に組み込まれた(E)−4−オキソ−ブタ−2−エノエート(トランス配座の−C(O)−C=C−C(O)−O−部分)を含む、すなわち4個の炭素原子及び単結合した酸素原子が環の一部となっている。本発明によるラクトン環状構造は、(E)−7−ヒドロキシ−4−オキソ−ヘプタ−2−エン酸ラクトン環又は(E)−8−ヒドロキシ−4−オキソ−オクタ−2−エン酸ラクトン環と呼ぶことができる。この環状構造は、(E)−7−ヒドロキシ−4−オキソ−ヘプタ−2−エン酸ラクトン環であるのが好ましい。そのような好適な環状構造は、(E)−7,8−ジヒドロ−2H−オキソシン−2,5(6H)−ジオン環とも呼ぶこともできる。
本発明による化合物において、環状構造は置換されていても置換されていなくてもよい。本発明の関連において、水素原子は置換基と考えない。置換基は、置換に使用できる任意の原子に存在してもよい。特に、1,4−ジオキソ−2−E−エチレン部分の一部でない環原子は、置換されていてもよい。本発明による環状構造は単一の8員環又は9員環であるが、環状構造の1個又は2個の環原子を架橋するそのような置換基によりスピロ環系又は縮合環系の一部であってもよい。
したがって、好適な実施形態において、本発明の環状構造は、置換されていないか、又はハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アミノ、ヒドロキシル、アルコキシ、アシル、アシルオキシ、アミノカルボニル、シアノ、及びニトロから、好ましくはハロゲン及びアルキルから選択された1つ又は複数の置換基で、より好ましくはF若しくは(C1−3)アルキルで、最も好ましくはメチルで置換されている。さらなる好適な実施形態において、本発明の環状構造は、置換されていないか、又はハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アミノ、ヒドロキシル、アルコキシ、アシル、アシルオキシ、アミノカルボニル、シアノ、及びニトロから、好ましくはハロゲン及びアルキルから選択された1〜3個の置換基で、より好ましくはF若しくは(C1−3)アルキルで、最も好ましくはメチルで置換されている。さらなる好適な実施形態において、本発明の環状構造は、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アミノ、ヒドロキシル、アルコキシ、アシル、アシルオキシ、アミノカルボニル、シアノ、及びニトロから、好ましくはハロゲン及びアルキルから選択された1〜2個の置換基で、より好ましくはF若しくは(C1−3)アルキルで、最も好ましくはメチルで置換されている。さらなる好適な実施形態において、本発明の環状構造は、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アミノ、ヒドロキシル、アルコキシ、アシル、アシルオキシ、アミノカルボニル、シアノ、及びニトロから、好ましくはハロゲン及びアルキルから選択された1個の置換基で、より好ましくはF若しくは(C1−3)アルキルで、最も好ましくはメチルで置換されている。
本明細書において、「アミノ」は、第1級アミン部分(NH2)、第2級アミノ部分(アルキルアミノ)、及び第3級アミノ部分(ジアルキルアミノ)を指す。本明細書において、用語「アルキル」は、指定の数の炭素原子を有するか、又は数が指定されていない場合は、好ましくは最大12個の炭素原子、より好ましくは最大6個の炭素原子を有する、直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基、環状アルキル基、及びそれらの組み合わせを含む脂肪族不飽和部分を指す。この定義は、アルキルアミノ部分、ジアルキルアミノ部分、アルコキシ部分、アシル部分、及びアシルオキシ部分に存在するアルカン基にも適用される。同様に、用語「アルケニル」及び「アルキニル」は、それぞれ少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は少なくとも1個の炭素−炭素三重結合を含有し、好ましくは最大12個の炭素原子、より好ましくは最大6個の炭素原子を有する、上記に定義したアルキル部分を指す。
本発明による好適な化合物は、(E)−7−ヒドロキシ−4−オキソ−ヘプタ−2−エン酸ラクトン環又は(E)−8−ヒドロキシ−4−オキソ−オクタ−2−エン酸ラクトン環である環状構造を有し、これらは(C1−3)アルキル、好ましくはメチルである1個の置換基で置換されている。したがって、炭素環原子の他の全ての原子価は、水素原子で占められている。上記メチル置換基は、ラクトン基の酸素環原子の隣の炭素環原子に位置するのが好ましい。最も好適な実施形態によると、本発明による化合物は、(E)−7−ヒドロキシ−4−オキソ−オクタ−2−エン酸ラクトンであり、これは(E)−8−メチル−7,8−ジヒドロ−2H−オキソシン−2,5(6H)−ジオンと呼ぶこともでき、すなわち本明細書の式(I)による化合物である。
一実施形態において、本発明による環状構造は、アセチル部分で置換されておらず、特に、本発明による化合物は、(E)−8−ヒドロキシ−4,9−ジオキソ−デカ−2−エン酸ラクトンではない。一実施形態において、本発明による環状構造は、8個の炭素環原子を有する8員環ではなく、特に本発明による化合物は、trans−2−シクロオクテン−1,4−ジオンではない。
本発明は、本発明による化合物の塩、エステル、及びプロドラッグ、好ましくは本発明による化合物の薬学的に許容される塩、エステル、及びプロドラッグ、より好ましくは本発明による化合物の薬学的に許容される塩にも関する。
本発明による化合物は、単離形態であるか、或いは、乾燥重量に基づき、本発明による化合物を少なくとも38、40、50、100、200、500、若しくは1,000ppm(w/w)、又は少なくとも0.2、0.5、1.0、2.0、5.0、若しくは10.0%(w/w)含む組成物中に存在するのが好ましい。本発明による化合物は、単離形態であるのがより好ましい。本発明による化合物は、合成によって、又は天然の供給源からの単離によって、例えば、ウロクラジウム・ラヌギノスム(Ulocladium lanuginosum)(CBS 102.26として入手可能)から(二次)代謝産物として得ることができる。
本発明の化合物は、抗微生物活性又は抗生物質活性を有するのが好ましく、抗菌活性を有するのがより好ましい。抗微生物活性又は抗菌活性は、当業者に公知の適切なアッセイによって、好ましくは、本明細書において例示するような増殖抑制アッセイによって評価することができる。増殖抑制は、抗菌化合物の存在下、又は不在下で、ルリアブロス(LB)中、37℃で一晩細菌を培養することにより、評価するのが好ましい。アッセイの読み取りを目視により行い、細菌が目に見えて増殖している場合、その試料を非抑制性として記録する。ブロスが完全に透明な場合、その試料を抑制性として記録する。
また、当業者に公知のように、血液寒天プレートでの細菌単離体の増殖に対する対象化合物の影響を時間で評価する増殖動態アッセイも好適である。要するに、培養液をミューラーヒントンブロスに接種し、37℃で一晩インキュベートする。その一晩培養物を用いて、ミューラーヒントンブロス中の0.05〜0.1マクファーランド懸濁液を調製し、この懸濁液を37℃で0.5マクファーランド(約1×106CFU/ml)になるまでインキュベートする。これらの懸濁液を用いて、前もって温めたミューラーヒントンブロス5mlにおよそ1.5×105CFU/mlで適当な対象抗生物質化合物とともに接種する。細菌懸濁液の添加直後に、0.25mlの試料を採取する。さらなる0.25mlの試料を1時間後、3時間後、6時間後、及び24時間後に採取し、これらの試料を生理食塩水2.25mlに添加する。この懸濁液を用いて、CFU決定用のプレートを調製する。検出の下限値は40CFU/mlとする。抗生物質を含まない細菌懸濁液は、24時間後に正常な増殖を確認するのが好ましい。化合物は、増殖動態アッセイで1時間後、3時間後、6時間後、又は好ましくは24時間後に評価するCFUが少なくとも3log10減少していれば、本明細書において抗菌活性を有すると理解される。
好ましくは、本発明の化合物は、本明細書において定義するアッセイで評価したとき、グラム陽性菌、より好ましくは、連鎖球菌(Streptococcus)、ブドウ球菌(Staphylococcus)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、リステリア(Listeria)、バチルス(Bacillus)、腸球菌(Enterococcus)、及びクロストリジウム(Clostridium)からなる群から選択された属に属する細菌、又は、より詳細には、ストレプトコッカス・アガラクチア(Streptococcus agalactiae)、肺炎連鎖球菌、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、腐性ブドウ球菌(Staphylococcus saprophyticus)、コリネバクテリウム・ジフテリエ(Corynebacterium diphtheria)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、炭疽菌(Bacillus anthracis)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、及び破傷風菌(Clostridium tetani)からなる群から選択された種に属する細菌に対する抗菌活性を有する。本発明の化合物は、本明細書において定義するアッセイで評価したとき、表皮ブドウ球菌株(08A1071)、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌株476(S0101)(ATCCから番号BAA−1721で入手可能)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)株ST8:USA300(S1474)(Network on Antimicrobial Resistance in Staphylococcus aureus (NARSA;www.narsa.net)コレクションから番号NRS482で入手可能)、エンテロコッカス・フェシウム株(15A623)、エンテロコッカス・フェシウム株(16D030)、A群連鎖球菌株(23M092)、B群連鎖球菌株(05A396)、肺炎連鎖球菌株(14B186)、及びリステリア・モノサイトゲネス株(41−4a)に対する抗菌活性を有するのがさらに好ましく、好ましくは、これらの株のうちの少なくとも2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、又は全てに対する抗菌活性を有する。本発明の化合物は、メチシリン耐性ブドウ球菌、好ましくはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を有するのが最も好ましい。本発明の化合物は、本明細書において定義するアッセイで評価したとき、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌株ST8:USA300(S1474)に対する抗菌活性を有するのがさらに好ましい。
本明細書において、化合物は、最大200μg/ml、最大150μg/ml、最大100μg/ml、最大75μg/ml、最大50μg/ml、最大25μg/ml、最大10μg/ml、最大5μg/ml、最大4.7μg/ml、又は好ましくは最大1μg/mlの化合物を含む試料が、本明細書において定義するアッセイで、本明細書において定義する細菌を使用したときに記録された場合に、抗菌活性を有すると理解するのが好ましい。本明細書において、化合物は、本明細書において定義する細菌を使用して本明細書において定義するアッセイで評価したときに、その化合物が式Iの化合物の活性の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は好ましくは100%を有する場合に、抗菌活性を有すると理解するのがより好ましい。
好適な実施形態において、本発明の化合物は、本明細書において定義するアッセイで評価したときに、上記に定義するグラム陽性菌に対して抗菌活性を有し、このとき上記化合物は、グラム陰性菌に対する抗菌活性は全く示さない。本発明の化合物は、本明細書において定義するアッセイで評価したときに、アシネトバクター(Acinetobacter)、アクチノバチルス(Actinobacillus)、ボルデテラ(Bordetella)、ブルセラ(Brucella)、カンピロバクター(Campylobacter)、ラン藻(Cyanobacteria)、エンテロバクター(Enterobacter)、エルウィニア(Erwinia)、大腸菌(Escherichia coli)、フランシセラ(Franciscella)、ヘリコバクター(Helicobacter)、ヘモフィルス(Hemophilus)、クレブシエラ(Klebsiella)、レジオネラ(Legionella)、モラクセラ(Moraxella)、ナイセリア(Neisseria)、パスツレラ(Pasteurella)、プロテウス(Proteus)、シュードモナス(Pseudomonas)、サルモネラ(Salmonella)、セラチア(Serratia)、赤痢菌(Shigella)、トレポネーマ(Treponema)、ビブリオ(Vibrio)、及びエルシニア(Yersinia)から選択された属に属する細菌、又は、より詳細には、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)(MR44)、アシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)(15A600)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、ステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)、クレブシエラ肺炎桿菌(Klebsiella pneumonia)、クレブシエラ肺炎桿菌、クレブシエラ肺炎桿菌、大腸菌、大腸菌、及び大腸菌から選択された種に属する細菌に対して抗菌活性を有さないのが好ましい。本発明の化合物は、本明細書において定義するアッセイで評価したときに、肺炎桿菌(MR44)、アシネトバクター・カルコアセティカス(15A600)(The Netherlands Culture Collection of Bacteria(NCCB)から番号NCCB 100514で入手可能)、緑膿菌(04A191)(NCCBから番号NCCB 100515で入手可能)、ステノトロホモナス・マルトフィリア(20A226)(NCCBから番号NCCB 100516で入手可能)、クレブシエラ肺炎桿菌(CP14)、クレブシエラ肺炎桿菌(JS006)、クレブシエラ肺炎桿菌(JS264)、大腸菌(JS004)、大腸菌(CP131)、大腸菌(JS203)からなる群から選択された株に対して抗菌活性を有さないのがより好ましく、化合物は、これらの株のうちの少なくとも2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種、又は全てに対して抗菌活性を有さないのが好ましい。
本明細書において、化合物は、本明細書において定義するアッセイで評価したときに、少なくとも1μg/ml、少なくとも4.7μg/ml、少なくとも5μg/ml、少なくとも10μg/ml、少なくとも25μg/ml、少なくとも50μg/ml、少なくとも75μg/ml、少なくとも100μg/ml、少なくとも150μg/ml、好ましくは少なくとも200μg/mlの化合物を含む試料が、本明細書において定義する細菌を使用して本明細書において定義するアッセイで非抑制性として記録された場合に、抗菌活性を有さないと理解するのが好ましい。本明細書において、化合物は、本明細書において定義する細菌を使用して本明細書において定義するアッセイで評価したときに、化合物が式Iの化合物の活性の100%以下、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、又は好ましくは40%以下を有する場合に、抗菌活性を有さないと理解するのがより好ましい。
第2の態様において、本発明は、活性成分として本発明による化合物を含む医薬組成物に関する。本明細書において、活性成分は、本明細書において上記に定義する抗生物質活性、より好ましくは抗菌活性を有する成分と理解される。
医薬組成物は、好ましくは、活性成分に加え、薬学的に許容される担体、医薬品添加剤、及び/又は賦形剤をさらに含む。したがって、本発明による化合物は、薬学的又は生理学的に許容される医薬品添加剤、担体、及び賦形剤などの添加物を用いた製剤化により、医薬品又は組成物として製剤化することができる。好適な薬学的又は生理学的に許容される医薬品添加剤、担体、及び賦形剤には、加工剤、並びに薬物送達調節剤及び促進剤、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、単糖類、二糖類、デンプン、ゼラチン、セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デキストロース、ヒドロキシプロピル−P−シクロデキストリン、ポリビニルピロリジノン、低融点ワックス、イオン交換樹脂など、さらにそれらのうちのいずれか2つ以上の組み合わせが含まれる。他の好適な薬学的に許容される医薬品添加剤は、参照により本明細書に援用される、“Remington’s Pharmaceutical Sciences”、Mack Pub.Co.、New Jersey(1991)、並びに“Remington:The Science and Practice of Pharmacy”、Lippincott Williams & Wilkins、Philadelphia、第20版(2003)及び第21版(2005)に記載されている。
医薬品又は組成物は、単位用量が治療効果を有するのに十分な用量である、単位用量製剤を含んでもよい。単位用量は、単一用量として、治療効果を有するのに十分であってもよい。或いは、単位用量は、感染性疾患の一連の処置において定期的に投与される用量であってもよい。
本発明の化合物を含有する医薬組成物は、例えば、溶液、懸濁液、又は乳剤などを含む、意図する投与の方法に適した任意の形態であってもよい。溶液、懸濁液、及び乳剤を調製する際に、通常は液体担体が用いられる。本発明を実施する際の使用が想定される液体担体には、例えば、水、食塩水、薬学的に許容される有機溶媒(複数可)、薬学的に許容される油及び脂肪など、さらにそれらのうちの2つ以上の混合物が含まれる。液体担体は、可溶化剤、乳化剤、栄養剤、緩衝剤、保存剤、懸濁剤、増粘剤、粘性調節剤、安定剤など、他の好適な薬学的に許容される添加物を含有してもよい。好適な有機溶媒には、例えば、エタノールなどの一価アルコール、及びグリコールなどの多価アルコールが含まれる。好適な油には、例えば、大豆油、ココナッツ油、オリーブ油、ベニバナ油、綿実油などが含まれる。非経口投与の場合、担体は、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピルなどの油性エステルであってもよい。本発明の組成物は、微粒子、マイクロカプセル、リポソームカプセルなど、さらにそれらのうちのいずれか2つ以上の組み合わせの形態であってもよい。
例えば、“Treatise on Controlled Drug Delivery”、A.Kydonieus編、Marcel Dekker,Inc.、New York 1992中の、Lee、“Diffusion−Controlled Matrix Systems”、155〜198ページ、並びにRon及びLanger、“Erodible Systems”、199〜224ページに記載されているような拡散制御マトリックス系又は浸食系など、持効性又は徐放性送達系を使用してもよい。マトリックスは、例えば、加水分解、又は例えばプロテアーゼによる酵素的切断により、in situ及びin vivoで自発的に分解することができる例えば生分解性材料であってもよい。送達系は、例えば、例えばヒドロゲルの形態の天然又は合成のポリマー若しくはコポリマーであってもよい。切断可能な結合を有するポリマーの例には、ポリエステル、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物(polyanhydride)、多糖、ポリ(ホスホエステル)、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ(イミドカーボネード)、及びポリ(ホスファゼン)がある。
本発明の化合物は、必要に応じて、従来の非毒性の薬学的又は生理学的に許容される担体、佐剤、及び賦形剤を含有する投薬単位製剤として、経腸投与、経口投与、非経口投与、舌下投与、吸入投与(例えば、ミスト又はスプレー)、直腸投与、又は局所投与することができる。例えば、好適な投与の方法には、経口投与、皮下投与、経皮投与、経粘膜投与、イオン導入投与、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、鼻内投与(例えば、鼻粘膜を介して)、硬膜下投与、直腸投与、胃腸投与など、並びに特定の、又は罹患した器官若しくは組織への直接投与が含まれる。中枢神経系への送達では、脊髄投与及び硬膜外投与、又は脳室への投与を使用することができる。局所投与は、経皮パッチ又はイオン導入デバイスなどの経皮投与の使用も含みうる。本明細書で用いる非経口という用語は、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、胸骨内注射、又は輸液技法を含む。化合物は、所望の投与経路に適した薬学的に許容される担体、佐剤、及び賦形剤と混合される。経口投与は好適な投与経路であり、経口投与に適した製剤は好適な製剤である。本明細書において使用を記載する化合物は、固体形態、液体形態、エアロゾル形態、又は錠剤、丸剤、粉末混合物、カプセル剤、顆粒剤、注射剤、クリーム、溶液剤、坐剤、浣腸剤、腸洗浄剤、乳剤、分散液、食品プレミックスの形態、及び他の適切な形態で投与することができる。また化合物は、リポソーム製剤として投与してもよい。また化合物は、プロドラッグとして投与してもよく、このプロドラッグは、処置を受ける対象の体内で治療効果のある形態に変化する。さらなる投与の方法は、当該技術分野で公知である。
注射用調製物、例えば水性又は油性の滅菌注射用懸濁液は、適切な分散剤又は湿潤剤、及び懸濁剤を用いて、公知の技術により製剤化することができる。滅菌注射用調製物は、非毒性の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒中の滅菌注射用溶液又は懸濁液、例えば、プロピレングリコール溶液であってもよい。使用することができる許容される賦形剤及び溶媒には、水、リンガー溶液、及び等張食塩水がある。さらに、滅菌固定油は、溶媒又は懸濁媒として従来法で使用されている。この目的で、合成モノグリセリド又はジグリセリドを含む、任意の無刺激性固定油を使用してもよい。さらに、オレイン酸などの脂肪酸も注射剤の調製に利用できる。
薬物を直腸投与するための坐剤は、薬物を室温では固体であるが直腸温では液体であり、そのため直腸内で融解して薬物を放出する、ココアバター及びポリエチレングリコールなどの適切な非刺激性医薬品添加剤と混合することにより、調製することができる。
経口投与用の固形剤形には、カプセル剤、錠剤、丸剤、粉剤、及び顆粒剤を含みうる。そのような固形剤形では、活性化合物は、ショ糖、乳糖、又はデンプンなどの少なくとも1つの不活性希釈剤と混合してもよい。またそのような剤形は、不活性希釈剤以外のさらなる物質、例えば、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤を含んでもよい。カプセル剤、錠剤、及び丸剤の場合、剤形は、緩衝剤も含んでもよい。錠剤及び丸剤は、腸溶性コーティング剤でさらに調製することができる。
経口投与用の液体剤形には、当技術分野で一般に使用される、水などの不活性希釈剤を含有する、薬学的に許容される乳剤、溶液、懸濁液、シロップ、及びエリキシル剤を含みうる。そのような組成物はまた、湿潤剤、乳化剤及び懸濁剤、シクロデキストリン、並びに甘味料、香味料、及び香料などの佐剤を含んでもよい。
本発明の化合物は、リポソームの形態で投与することもできる。当技術分野で公知のように、リポソームは、一般的に、リン脂質又は他の脂質物質に由来する。リポソームは、水性媒体中に分散された単膜又は多重膜水和液晶によって形成される。リポソームを形成することができる任意の非毒性の生理学的に許容され、且つ代謝可能な脂質を使用してもよい。リポソーム形態の本組成物は、本発明の化合物に加え、安定剤、保存剤、医薬品添加剤などを含有してもよい。好適な脂質は、天然及び合成のリン脂質及びフォスファチジルコリン(レシチン)である。リポソームを形成する方法は、当該技術分野で公知である。例えば、Prescott、編、Methods in Cell Biology、Volume XIV、Academic Press、New York,N.Y.、33ページ以下(1976)を参照されたい。
本発明による化合物は、治療有効量で投与されるが、この治療有効量は、使用する特定の医薬組成物の活性、その組成物の代謝安定性及び作用時間、患者の年齢、体重、全般的健康、性別、及び食事、投与の方法及び時期、排泄速度、併用薬物、特定の障害又は状態の重症度、並びに治療を受ける対象を含む種々の要因によってさまざまである。一般的には、治療上有効な一日用量は、約0.001mg/kg〜約100mg/kg、好ましくは約0.01mg/kg〜約50mg/kg、より好ましくは約1mg/kg〜約25mg/kgである。
動物に使用する場合、用量は一般的に、体重1kg当たり1日に1〜200mgの範囲、及び好ましくは5〜100mgの範囲であるが、投与目的(治療目的又は予防目的)、動物の種類及び大きさ、病原生物の種類、並びに症状の重症度によってさまざまである。
例えば非経口又は経口投与を意図する本発明の医薬組成物は、適切な投薬量が得られるように、ある量の本発明の化合物を含有するべきである。通常は、化合物の量は、本発明の医薬組成物の少なくとも0.01%である。経口投与を意図する場合、この量は、組成物の重量の0.1%〜約70%の間でさまざまであってもよい。好適な経口医薬組成物は、約4%〜約50%の間の本発明の化合物を含有する。本発明による好適な医薬組成物及び調製物は、非経口投薬単位が、希釈前に0.01重量%〜10重量%の間の本発明の化合物を含有するように調製される。
第3の態様において、本発明は、薬剤として使用するための本発明による化合物、又は活性成分として本発明による化合物を含む医薬組成物に関する。この薬剤は、ヒト用及び動物用の薬剤であってもよい。
第4の態様において、本発明は、微生物感染の処置に使用するための本発明による化合物、又は活性成分として本発明による化合物を含む医薬組成物に関する。化合物又は組成物は、ヒト又は動物対象において、微生物感染を処置又は予防するために使用するのが好ましい。微生物感染は、細菌感染であるのが好ましい。別の実施形態において、本発明による化合物、又は本発明による化合物を含む組成物は、美容法及び非治療法において、微生物感染を処置若しくは予防するため、及び/又はヒト若しくは動物対象とその身体部分とを消毒するために使用される。したがって、活性成分として本発明による化合物を含む上述の医薬組成物は、このように美容用組成物若しくは消毒剤であっても、又は美容用組成物若しくは消毒剤として使用してもよい。
一実施形態において、本発明による化合物、又は活性成分として本発明による化合物を含む医薬組成物は、多剤耐性細菌による感染の処置又は予防のために使用される。本明細書において、多剤耐性細菌は、1種類を超える抗生物質に耐性があり、そのため処置が不可能でないとしてもより困難な菌株と理解される。よく知られた多剤耐性細菌の例には、例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)及び広域スペクトルベータラクタマーゼ(ESBL)産生腸内細菌科が含まれる。
好適な実施形態において、本発明による化合物、又は活性成分として本発明による化合物を含む医薬組成物は、グラム陽性菌、特に病原性グラム陽性菌による感染の処置又は予防に使用される。本発明による化合物又は組成物を用いて処置及び/又は予防できるグラム陽性菌による感染には、連鎖球菌、ブドウ球菌、コリネバクテリウム、リステリア、バチルス、腸球菌、及びクロストリジウムから選択された属に属する細菌、又は、より詳細には、ストレプトコッカス・アガラクチア、肺炎連鎖球菌、化膿性連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、腐性ブドウ球菌、コリネバクテリウム・ジフテリエ、リステリア・モノサイトゲネス、大便連鎖球菌、エンテロコッカス・フェシウム、炭疽菌、バチルス・セレウス、ボツリヌス菌、クロストリジウム・ディフィシル、ウェルシュ菌、及び破傷風菌から選択された種に属する細菌による感染が含まれる。メチシリン耐性ブドウ球菌、好ましくはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌による感染の処置及び/又は予防に本発明による化合物又は組成物を使用したとき、良好な結果が得られる。
別の実施形態において、本発明による化合物、又は活性成分として本発明による化合物を含む医薬組成物は、マイコバクテリウム(Mycobacterium)又はマイコプラズマ(Mycoplasma)、例えば、らい菌(Mycobacterium leprae)、結核菌、マイコバクテリウム・ウルセランス(Mycobacterium ulcerans)、及びマイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)による感染の処置及び/又は予防に使用される。
第5の態様において、本発明は、微生物感染性疾患を有する対象を処置する方法であって、有効量の本発明による化合物又は活性成分として本発明による化合物を含む医薬組成物を対象に投与するステップを含む方法に関する。対象は、微生物感染を患うヒト対象又は動物対象であってもよい。微生物感染は、本明細書において上記で定義する細菌による感染であってもよい。
本発明による化合物、又は活性成分化合物として本発明による化合物を含む医薬組成物は、例えば、手術創を含む創傷の細菌感染、肺感染(例えば、結核)、皮膚感染、及び全身性細菌感染から選択された微生物感染又は疾患を処置又は予防する方法において使用することができる。例えば、本発明の抗菌化合物により処置又は予防することができる疾患には、炭疽、食中毒、毛包炎、せつ、よう、丹毒、蜂窩織炎、リンパ管炎/リンパ節炎、ひょう疽、皮下膿瘍、汗腺炎、顔面播種性粟粒性狼瘡(acne agminata)、感染性粉瘤、肛門周囲膿瘍、乳腺炎、外傷後の表在性二次感染、熱傷又は外科的外傷、咽喉頭炎、急性気管支炎、扁桃炎、慢性気管支炎、気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎、慢性呼吸器疾患の二次感染、肺炎、腎盂腎炎、膀胱炎、前立腺炎、精巣上体炎、尿道炎、胆のう炎、胆管炎、細菌性赤痢、腸炎、子宮付属器炎、子宮内感染、バルトリン腺炎、眼瞼炎、麦粒腫、涙嚢炎、瞼板腺炎、角膜潰瘍、中耳炎、副鼻腔炎、歯周症、歯冠周囲炎、下顎炎、腹膜炎、心内膜炎、敗血症、髄膜炎、及び皮膚感染が含まれるが、これらに限定されない。
第6の態様において、本発明は、活性成分として本発明による化合物を含む抗菌組成物、好ましくは消毒剤に関する。消毒剤は、無生物物体(inanimate object)での使用に特化した抗菌剤である。本発明の抗菌組成物又は消毒剤は、液体、固体、又は半流動体若しくは半固体の形態であってもよい。上記抗菌組成物又は消毒剤は、グラム陽性菌、特に病原性グラム陽性菌を制御するためのものであるのが好ましい。グラム陽性菌は、連鎖球菌、ブドウ球菌、コリネバクテリウム、リステリア、バチルス、腸球菌、及びクロストリジウムから選択された属に属し、又は、より詳細には、ストレプトコッカス・アガラクチア、肺炎連鎖球菌、化膿性連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、腐性ブドウ球菌、コリネバクテリウム・ジフテリエ、リステリア・モノサイトゲネス、大便連鎖球菌、エンテロコッカス・フェシウム、炭疽菌、バチルス・セレウス、ボツリヌス菌、クロストリジウム・ディフィシル、ウェルシュ菌、及び破傷風菌から選択された種に属するのが好ましい。メチシリン耐性ブドウ球菌、好ましくはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌が最も好ましい。
第6の態様による抗菌組成物若しくは消毒剤、又は第2の態様による医薬組成物は、薬学的に許容される担体、及び/又はバクテリオファージ、静菌剤、殺菌剤、抗生物質、界面活性剤、及び/又は酵素からなる群から選択されたさらなる活性成分をさらに含むのが好ましい。本発明の抗生物質は、抗生物質及び化学療法剤を含む、当該技術分野で公知の任意の抗生物質であってもよく、これにはバンコマイシン、ナイシン、ダノフロキサシン、及びネオマイシンが含まれるが、これらに限定されない。本発明の抗菌組成物に有用な酵素には、限定するものではないが多糖解重合酵素(polysaccharide depolymerise enzyme)及びプロテアーゼなど、バイオフィルム(例えば、加工装置及び/又は医療装置に見られるバイオフィルム)を分解するのに有用な酵素が含まれるが、これらに限定されない。本発明の組成物に有用な界面活性剤は、本発明の化合物を含む本発明の活性成分がさまざまな表面に正しく分布されるように表面を湿潤させ、また微生物、好ましくは細菌が本発明の活性成分に到達できるように汚れを可溶化して除去するのに有用である。適切な界面活性剤には、ポリソルベート(tween)80、20、及び81、並びにDobanols(Shell Chemical Co.RTM)が含まれるが、これらに限定されない。本発明の抗菌組成物又は消毒剤は、限定するものではないが安息香酸及びPBTなど、当該技術分野で公知の表面消毒剤、好ましくは、本発明の第1の態様の化合物と適合する表面消毒剤をさらに含んでもよい。
第7の態様において、本発明は、本発明の第1の態様による化合物又は第6の態様による抗菌組成物の抗菌剤、好ましくは消毒剤としての使用を提供する。抗菌組成物又は消毒剤は、グラム陽性菌、特に病原性グラム陽性菌を制御するためのものであるのが好ましい。グラム陽性菌は、連鎖球菌、ブドウ球菌、コリネバクテリウム、リステリア、バチルス、腸球菌、及びクロストリジウムから選択された属に属し、又は、より詳細には、ストレプトコッカス・アガラクチア、肺炎連鎖球菌、化膿性連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、腐性ブドウ球菌、コリネバクテリウム・ジフテリエ、リステリア・モノサイトゲネス、大便連鎖球菌、エンテロコッカス・フェシウム、炭疽菌、バチルス・セレウス、ボツリヌス菌、クロストリジウム・ディフィシル、ウェルシュ菌、及び破傷風菌から選択された種に属するのが好ましい。メチシリン耐性ブドウ球菌、好ましくはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌が最も好ましい。
第8の態様において、本発明は、本発明の第1の態様による化合物、又は本発明の第6の態様による組成物を加工装置又は医療装置と接触させるステップを含む、加工装置又は医療装置における微生物混入を制御する方法を提供する。本発明による方法は、グラム陽性菌、特に病原性グラム陽性菌を制御するためのものであるのが好ましい。グラム陽性菌は、連鎖球菌、ブドウ球菌、コリネバクテリウム、リステリア、バチルス、腸球菌、及びクロストリジウムから選択された属に属し、又は、より詳細には、ストレプトコッカス・アガラクチア、肺炎連鎖球菌、化膿性連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、腐性ブドウ球菌、コリネバクテリウム・ジフテリエ、リステリア・モノサイトゲネス、大便連鎖球菌、エンテロコッカス・フェシウム、炭疽菌、バチルス・セレウス、ボツリヌス菌、クロストリジウム・ディフィシル、ウェルシュ菌、及び破傷風菌から選択された種に属するのが好ましい。メチシリン耐性ブドウ球菌、好ましくはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌が最も好ましい。
上記制御する方法は、加工装置又は医療装置のそのような細菌の数の低減、及び/又は第一にそれらの細菌の増殖の防止を含むのが好ましい。上記方法は、胃カメラ、腹腔鏡、胸腔鏡、及び関節鏡のようなファイバースコープなどの医療装置、並びに長い導管又は空洞部分を有し、ヒトの体内に導入することにより繰り返し使用される傾向のあるカテーテル及びチューブのような医療用品を清浄及び滅菌するための制御する方法であるのが好ましい。本発明の方法は、限定するものではないが、本発明の第1の態様による化合物又は第6の態様による組成物の混合、噴霧、又は直接塗布を含む数々の手段による、本発明の第1の態様による上記化合物又は第6の態様による組成物の加工装置又は医療装置のさまざまな身体部位への適用を包含する。任意選択で、本発明の方法は、超音波洗浄、放射線又は加熱滅菌、エタノール、アンモニウム、ヨウ素、及び/又はアルデヒド消毒剤などの消毒剤溶液への装置の浸漬、或いはホルマリンガス又はエチレンオキシドガスなどの密閉雰囲気にデバイスを保持することによるガス滅菌の使用など、当該技術分野で公知の任意の滅菌方法又は消毒剤と組み合わせてもよい。
第9の態様において、本発明は、 本発明の第1の態様による化合物を産生する方法に関する。好ましい化合物を産生する方法は、a)化合物の産生を助長する培地中、好ましくは化合物の産生を助長する条件下で、真菌ファミリープレオスポラ科(Pleosporaceae)の真菌を培養するステップと、b)任意選択で、その化合物を回収するステップとを含むのが好ましい。真菌ファミリープレオスポラ科の真菌は、本発明による化合物を産生する真菌であるのが好ましい。本明細書において、本発明による化合物を産生する真菌は、真菌培養用の標準培地(例えば、ツァペックドックスブロス(CDB)+0.5%酵母エキス)で増殖させたときに、a)本明細書において上記で定義したアッセイで、化合物が抗菌活性を有するという特徴、b)化合物が、酢酸エチルを用いて培地から抽出できるという特徴、c)化合物が分子量およそ154.05を有するという特徴、d)化合物がUV最大吸光度221nmを有するという特徴、及び本明細書において定義する、又は本明細書の実施例で決定される他の特徴のうちの1つ又は複数を有する化合物を培地中で産生する真菌と理解される。
真菌は、ウロクラジウム(Ulocladium)属に属する真菌であるのが好ましく、真菌は、ウロクラジウム・ラヌギノスム種の真菌であるのがより好ましく、真菌は、ウロクラジウム・ラヌギノスム株CBS 102.26であるか、或いは例えば遺伝子組み換え及び/又は突然変異誘発、並びに選択により、これらの真菌に由来する株であるのが最も好ましい。
真菌を培養するための培地は、少なくとも適切な炭素源を含み、真菌の増殖を援助するさらなる栄養剤及び成分をさらに含む培地である。真菌の発酵に適した培地は、当該技術分野自体で周知である。例えば、グルコース、糖蜜、デキストリン、ショ糖、デンプン、廃糖蜜などを含む適切な炭素源を使用することができる。培地は、通常は、例えば、大豆粉、コムギ胚芽、コーンスティープリカー、綿実粕、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素などの窒素源をさらに含む。さらなる培地の構成成分は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、コバルト、塩素、リン酸、硫酸、及び同様のイオンを生じることができる無機塩であってもよい。
本方法のステップa)では、真菌は、(少なくとも一部の)炭素源を発酵させて本発明による化合物にするのが好ましい。真菌は、ステップa)において、30℃未満、29℃未満、28℃未満、27℃未満、26℃未満、又は25℃未満の温度で培養するのが好ましい。(ステップaにおける)発酵は、24℃以下、23℃以下、22℃以下、又は21℃以下であり、且つ少なくとも15℃、少なくとも16℃、少なくとも17℃、少なくとも18℃、又は少なくとも19℃の温度で実施するのがより好ましく、この温度はおよそ20℃であるのが最も好ましい。発酵は、好気性発酵が好ましく、特に深部好気性発酵が好適である。
本発明の化合物を産生する方法は、化合物が回収、精製、及び/又は単離されるステップb)をさらに含むのが好ましい。化合物は、任意選択で培地からバイオマスを回収したあと、溶媒抽出により培地から回収するのが好ましい。当業者は、例えば、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロロメタン、エーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、又はそれらの組み合わせなど、培地から及び/又は分離した菌糸体から化合物を抽出するのに適した有機溶媒について知っている。溶媒抽出に好適な溶媒は、酢酸エチルである。抽出物の濃縮後、本発明の化合物をさらに精製し、例えば通常のクロマトグラフィー吸着剤又は担体材料を用いて単離してもよい。
本文書及びその特許請求の範囲において、「含む(to comprise)」という動詞及びその活用形は、その非限定的意味で使用され、その語に続く項目が含まれるが、特に言及されていない項目を除外するものではないことを意味する。さらに、不定冠詞「a」又は「an」による要素の表記は、文脈から1つ、且つ1つのみの要素があることが明らかに要求されない限り、1つを超える要素が存在する可能性を除外するものではない。したがって、不定冠詞「a」又は「an」は通常は「少なくとも1つ」を意味する。
本明細書において引用する全ての特許及び文献参照は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
以下の実施例は、例示を目的に提示するにすぎず、本発明の範囲をいかようにも制限することを意図しない。
真菌の増殖
真菌ウロクラジウム・ラヌギノスムのCBS 102.26株(Centraalbureau voor Schimmelcultures、オランダ、ユトレヒト、www.cbs.knaw.nlより入手可能)を麦芽エキス寒天プレートで、7日間25℃で培養した。続いて、50mlのツァペックドックスブロス(CDB)+0.5%酵母エキスが入った3つのフラスコに、この真菌を接種した。それぞれのフラスコは、室温(RT)、25℃、又は30℃と異なる温度で、7日間インキュベートした。7日後、真菌培地を濾過滅菌した(0.45μm孔フィルター)。濾液の1mlの一定分量を作製し、残りの濾液を酢酸エチル(EtOAc)で3回抽出した。EtOAcを回転蒸発器で蒸発させ、残渣をH2O中の5%DMSO1mlに溶解した。濾液及び抽出物をブロス中のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA、ブタ株)で以下のように試験した。
抗生物質アッセイ
細菌をルリアブロス(LB)中、37℃で一晩培養する。この培養物を新鮮なLBで100倍に希釈する。次に、この新鮮な培養物を用いて、濾液及び抽出物を試験する。濾液は、2倍から始め、係数2で256倍までさらに希釈した連続希釈物で試験した。抽出物は、10倍希釈から始め、係数2で1280倍までさらに希釈して試験した。細菌を濾液又は抽出物とともに37℃で一晩インキュベートした。アッセイの読み取りを目視により行い、細菌が目に見えて増殖している場合、その試料を非抑制性として記録する。ブロスが完全に透明な場合、その試料を抑制性として記録する。このアッセイを用いて、本発明者らは、室温で増殖した真菌からの抽出物が増殖を抑制することを証明した。25℃で増殖した真菌からの抽出物は作用が弱く、30℃での真菌からの抽出物は効果を有さなかった。
抗生物質活性を有する化合物の精製
最初の結果に基づき、20ジャーの50ml CDB+0.5%酵母エキスに真菌ウロクラジウム・ラヌギノスムCBS 102.26を接種し、室温で7日間インキュベートした。培地を記載のように濾過滅菌し、出発物質を試験できるように濾液の1mlの一定分量を作製し、残りをEtOAcで3回抽出した。EtOAcを蒸発させ、残渣を1mlのDMSOに溶解した。次に、分取HPLCで(表4の機器情報を参照)、C18 Reprosilカラムを用いて、214nm〜254nmの間のUV−検出で抽出物を分画した。使用する緩衝液は、表1に記載する。緩衝液Bの勾配は、表2に記載のとおりである。
回収した95画分を6画分ごとにプールして、そのプールした画分をspeed−vacで一晩乾燥させた。画分残渣を1mlの5%DMSOに溶解し、2倍から始める連続希釈物で、エンテロコッカス・フェシウム(15A623)で試験した。第9画分プールのみが細菌の増殖を抑制したので、第9画分プールの個々の画分(画分49〜54)をさらに試験した。各画分1mlをspeed−vacで一晩乾燥させ、各画分残渣を1mlの5%DMSOに溶解して、エンテロコッカス・フェシウムで試験した。画分49が細菌の増殖を抑制した唯一の画分であり、これはHPLC分画のUV検出(データは示さず)と一致する。次に、この画分を19種のさらなる菌株で試験した(表3)。濾液及び抽出物は、グラム陽性菌を抑制するが、グラム陰性菌は抑制しないことがわかった。
抗生物質活性を有する化合物の同定
試料を分析HPLC(表4の機器情報を参照)にかけ、それにより化合物が純度>95%であることが示された(データは示さず)。LC−MS(表4の機器情報を参照)及び高分解能質量分析法を用いて、画分49の一定分量を分析した。計算されたモノアイソトピック質量は308.1067であり、分子式予測はC16H20O6であった。しかしながら、高分解能MSで測定したMS/MSスペクトルは、計算された質量が実際には2Mであることを示した。このスペクトルは、155.1(M+Hを表す)、309.2(2M+Hを表す)、及び617.4(4M+Hを表す)にピークを示し(図1)、正確な質量は実際には154.05(M)であり、分子式はC8H10O3であることを示している。UV−VISも測定し、221nmにUV−maxが示された(データは示さず)。
生物活性化合物の構造の解明
続いて、画分49全体をspeed−vacで蒸発させ、残渣を400μlのDMSO−d6に溶解した。この画分の収量は、乾燥重量で約15mg(真菌培養物1Lから)であった。1H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルを測定した。13C−NMRスペクトルは8個の炭素原子を示し、これはモノアイソトピック質量測定結果とともに、計算されたモノアイソトピック質量154.0534を分子式C8H10O3とともに裏付けた。本発明者らは、続いて、いくつかの2D−NMR実験、すなわち、相関分光法(COSY)、全相関分光法(TOCSY)、異核単量子相関分光法(HSQC)、異核多結合相関分光法(HMBC)、及び13C−分極移動無歪感度増大法(13C−DEPT)を実施した。本発明者らは、NMRデータ(示さず)から、構造(E)−8−メチル−7,8−ジヒドロ−2H−オキソシン−2,5(6H)−ジオン、すなわち以下の構造式(I)を導いた。
式(II)は、炭素3と4との間の二重結合が式(I)のトランス配置ではなくシス配置であること以外は、式(I)の化合物と同一の化合物である、(Z)−8−メチル−7,8−ジヒドロ−2H−オキソシン−2,5(6H)−ジオンの構造を示している。
本発明者らが、「ウロクラジン(Ulocladine)」と命名した式(I)の化合物は、これまで報告されていない。しかしながら、類似の構造は以前に公開されている(J.F.Grove(1964)、Metabolic Products of Stemphylium radicinum.Part I.Radicinin.、Journal of the Chemical Society:3234−3239;D.C.Aldridge及びJ.F.Grove、(1964)、Metabolic Products of Stemphylium radicinum.Part II.(−)−7−Hydroxy−4−oxo−oct−2−enoic Acid Lactone、Journal of the Chemical Society:3239−3241;B.Lygo及びN.O’Conner(1990)、Epoxide Ring Opening by Dianions Derived from β−Ketosulphones.Synthetic Studies on the 7− Hydroxy−4−oxopropenoate System and Medium−Ring Lactones、Synlett:282−284)。しかしながら、これらの事例では、二重結合がシス配置である分子の変形、すなわち式(II)の構造を有する分子に関する。式(II)の化合物を含む真菌ステムフィリウム・ラジシナム(Stemphylium radicinum)から得られる調製物は、真菌植物病原体フィトフトラ・エリスロセプティカ(Phytophtora erythroseptica)に対して拮抗作用を有することが開示されている。
式(I)の化合物において、炭素3と4との間の二重結合はトランス配置である。NMRで観察される16Hzの2つのビニルプロトン間のJ結合は、トランス配置を裏付けている。シス配置では、J結合は著しく小さくなる。
式(I)の化合物の存在下でのグラム陽性菌の増殖動態
構造を解明したあと、本発明者らは、化合物が静菌性であるか殺菌性であるかを決定するため、式(I)の化合物50μg/ml、100μg/ml、及び200μg/mlの存在下でのいくつかのグラム+菌の増殖動態を研究した。本化合物の存在下、細菌を37℃で24時間培養し(例外として、肺炎連鎖球菌は6時間培養した)、コロニー計数のために、0時間後、1時間後、3時間後、6時間後、及び24時間後に試料を採取した。
より詳細には、以下に示す細菌単離体を血液寒天プレートで増殖させた。培養液をミューラーヒントンブロスに接種し、37℃で一晩インキュベートした。その一晩培養物を用いて、ミューラーヒントンブロス中の0.05〜0.1マクファーランド懸濁液を調製し、この懸濁液を37℃で0.5マクファーランド(約1×106CFU/ml)になるまでインキュベートした。これらの懸濁液を用いて、前もって温めたミューラーヒントンブロス5mlにおよそ1.5×105CFU/mlで適当な抗生物質とともに適当な抗生物質濃度で接種した。細菌懸濁液の添加直後に、0.25mlの試料を採取した。さらなる0.25mlの試料を1時間後、3時間後、6時間後、及び24時間後に採取した。試料を生理食塩水2.25mlに添加した。この懸濁液を用いて、CFU決定用のプレートを調製した。検出の下限値は40CFU/mlとした。抗生物質を含まない細菌懸濁液を、24時間後の正常な増殖について確認した。有効な殺菌活性は、CFUの少なくとも3log10の減少と定義する。
試験した細菌は、エンテロコッカス・フェシウム2株(図2A及び2B)、MRSA USA300(図2C)、MSSA(図2D)、表皮ブドウ球菌(図2E)、リステリア・モノサイトゲネス(図2F)、A群連鎖球菌(図2G)、B群連鎖球菌(図2H)、及び肺炎連鎖球菌(図2I)であった。
これらの時間−殺菌曲線に基づき、本発明者らは、式(I)の化合物が、B群連鎖球菌及びエンテロコッカス・フェシウムの両株に対しては静菌性であるが、この化合物が、MRSA USA300、表皮ブドウ球菌、MSSA、A群連鎖球菌、肺炎連鎖球菌、及びリステリア・モノサイトゲネスに対しては殺菌性であるとの結論を出すことができる。
水素化は式(I)の化合物の抗菌活性を不活性化する
式(I)の化合物における二重結合のトランス配置は特有であり、反応性の高い部分である求核攻撃のマイケルアクセプターを生じる。本発明者らは、これが抗菌活性に関与する活性コアであると仮定した。二重結合のトランス配置の重要性を裏付ける手法において、本発明者らは、二重結合を水素化した。水素化反応は、Aldrige及びGrove(1964、上記参照)により以前に記載されているように実施した。要するに、化合物を酢酸エチルに溶解し、5%パラジウム−炭素の存在下で96時間水素化した。この生成物を濾過し、酢酸エチルを蒸発させて除去した。次に、残渣をアセトニトリルに溶解し、分析HPLCにより分析して純度を確認した。2690−f49−hydroと命名したこの水素化試料は、LCMSでも分析し、これにより式(I)の化合物+2の正確な質量が予想通りに示された(156.84)(図3)。1H−NMRスペクトルを測定し、このとき7ppmと8ppmとの間のビニルプロトンのピークの不在が、式(I)の化合物の二重結合が飽和していることを裏付けた(データは示さず)。水素化試料の相対濃度を推定するために、式(I)の化合物及び2690−f49−hydroを用いて、分析HPLCで標準的な追加実験を実施した。両試料のピーク下面積はほぼ同じで(データは示さず)、式(I)の化合物及びその水素化誘導体である2690−f49−hydroの濃度が等しいことを示した。式(I)の化合物はエンテロコッカス・フェシウム(15A623)に対して活性であり、一方その水素化誘導体である2690−f49−hydroは、類似の濃度で活性ではなかった。2690−f49 hydroは、16倍高い濃度でさえ、エンテロコッカス・フェシウム(15A623)に対して活性ではなかった。本発明者らは、式(I)の化合物の抗生物質活性には二重結合が必須であるとの結論を下す。