A.第1実施形態:
A−1.ガスセンサの構成:
図1は、本発明の第1実施形態としてのガスセンサ10の構成を示す断面図である。ガスセンサ10は、図示しない内燃機関(エンジン)の排気管に固定されて、被測定ガスとしての排気ガス中に含まれる特定ガスの濃度を測定する。特定ガスとしては、例えば、酸素、NOx等が挙げられ、本実施形態のガスセンサ10は酸素ガス濃度を測定する。
図1は、軸線CA方向におけるガスセンサ10の断面を示している。軸線CAは、ガスセンサ10の中心において、ガスセンサ10の長手方向に延びる軸線である。以下の説明では、図1の紙面に対して下側を「先端側」と呼び、上側を「後端側」と呼び、軸線CAを通過して軸線CAに垂直な方向を「径方向」と呼ぶ。
ガスセンサ10は、主として、センサ素子100と、主体金具200と、プロテクタ300と、セラミックヒータ150と、外筒410と、セパレータ600と、グロメット710と、を備える。
センサ素子100は、排気ガス中の酸素濃度を検出するための信号を出力する。センサ素子100は、先端部が閉じた有底筒状に形成されると共に、後端で開口する筒孔112が形成されている。センサ素子100は、主として、固体電解質体110と、固体電解質体110の内表面に形成された基準電極120と、固体電解質体110の外表面に形成された検知電極130と、を備えている。これら各構成については後述する。センサ素子100は、主体金具200の内部に固定されている。センサ素子100の先端部は、主体金具200の先端より突出しており、この先端部に排気ガスが供給される。また、センサ素子100の後端部は主体金具200の後端より突出しており、センサ素子100の筒孔112には接続端子510が挿入されている。さらに、センサ素子100の略中央には、径方向外側に突出する鍔部170が設けられている。本実施形態における「センサ素子100」は、「ガスセンサ素子」として機能する。
主体金具200は、センサ素子100の周囲を取り囲んで保持する筒状の金属部材であって、排気管にガスセンサ10を取り付けるために用いられる。本実施形態の主体金具200は、SUS430で形成されている。
主体金具200の外周には、先端側から順に、先端部240と、ネジ部210と、鍔部220と、後端部230と、加締部252とが形成されている。先端部240は、主体金具200の先端側において、主体金具200の外径が縮径するように形成された部位である。主体金具200の先端部240がプロテクタ300の内部に挿入された状態で、主体金具200とプロテクタ300とが接合される。ネジ部210は、排気管にガスセンサ10を螺合して取り付けるために形成された雄ねじである。鍔部220は、主体金具200の外径が、径方向の外側に向かって多角形状に突出するように形成された部位である。鍔部220は、排気管にガスセンサ10を取り付けるための工具に係合させるために使用される。このため、鍔部220は、工具に係合する形状(例えば、六角ボルト状)とされる。後端部230は、主体金具200の後端側において、主体金具200の外径が縮径するように形成された部位である。主体金具200の後端部230が外筒410の内部に挿入された状態で、主体金具200と外筒410とが接合される。
主体金具200には、軸線CAに沿って主体金具200を貫通する貫通孔であって、センサ素子100が挿入される筒孔250が設けられている。筒孔250を形成する主体金具200の内表面には、主体金具200の内径が縮径するように形成された段部260が設けられている。段部260には、パッキン159を介してセラミックホルダ161が係合される。さらに、セラミックホルダ161には、パッキン160を介してセンサ素子100の鍔部170が係合される。また、主体金具200の筒孔250において、セラミックホルダ161の後端側には、シール部162と、セラミックスリーブ163と、金属リング164とが配置される。シール部162は、滑石粉末を充填することにより形成されたタルク層である。シール部162は、センサ素子100と主体金具200との間隙における軸線CA方向の先端側と後端側との通気を遮断する。セラミックスリーブ163は、センサ素子100の外周を囲む筒状の絶縁部材である。金属リング164は、センサ素子100の外周を囲むステンレス製の平ワッシャである。
主体金具200には、さらに、後端側の開口端を径方向内側(筒孔250側)に屈曲させることにより、加締部252が形成される。加締部252により、金属リング164とセラミックスリーブ163とを介してシール部162が押圧され、センサ素子100が主体金具200内に固定される。
プロテクタ300は、センサ素子100を保護するための、有底円筒状の金属部材である。プロテクタ300は、主体金具200の先端側から突出したセンサ素子100の周囲を取り囲むようにして、先端部240にレーザ溶接により固定される。プロテクタ300は、内側プロテクタ310と、外側プロテクタ320との二重プロテクタからなる。内側プロテクタ310および外側プロテクタ320には、それぞれ、ガス導入孔311、312と、ガス排出孔313とが形成されている。ガス導入孔311、312は、プロテクタ300の内側(センサ素子100)に対して排気ガスを導入するために形成された貫通孔である。ガス排出孔313は、プロテクタ300の内側から外側に向かって、排気ガスを排出するために形成された貫通孔である。
セラミックヒータ150は、センサ素子100を所定の活性温度に昇温させることにより、固体電解質体110における酸素イオンの導電性を高め、センサ素子100の動作を安定させる。セラミックヒータ150は、センサ素子100の筒孔112の内部に配置されている。セラミックヒータ150は、発熱部151と、ヒータ接続端子152とを備えている。発熱部151は、タングステンなどの伝導体によって形成された発熱抵抗体であり、電力の供給を受けて発熱する。ヒータ接続端子152は、セラミックヒータ150の後端側に設けられ、ヒータリード線590に接続されている。ヒータ接続端子152は、ヒータリード線590を介して外部から電力の供給を受ける。なお、ガスセンサ10は、セラミックヒータ150を有しないヒータレスタイプのガスセンサとすることも可能である。
外筒410は、軸線CAに沿った貫通孔を有する円筒状の金属部材である。外筒410の先端部411には、主体金具200の後端部230が挿入されている。外筒410と主体金具200とはレーザ溶接により接合されている。外筒410の後端部412には、後述するグロメット710が嵌め込まれている。グロメット710は、外筒410の後端部412が加締められることで外筒410に固定されている。
セパレータ600は、アルミナ等の絶縁部材によって略円筒状に形成された部材であり、外筒410の内側に配置されている。セパレータ600には、セパレータ本体部610と、セパレータフランジ部620とが形成されている。セパレータ本体部610には、軸線CAに沿ってセパレータ600を貫通するリード線挿通孔630と、セパレータ600の先端側において開口した保持孔640と、が形成されている。リード線挿通孔630の後端側からは、後述する素子リード線570、580と、ヒータリード線590とが挿入される。保持孔640には、セラミックヒータ150の後端部が挿入される。挿入されたセラミックヒータ150は、その後端面が保持孔640の底面に当接することにより、軸線CA方向における位置決めがされる。セパレータフランジ部620は、セパレータ600の後端側において、セパレータ600の外径が拡径するように形成された部位である。セパレータフランジ部620が、外筒410とセパレータ600との隙間に配置された保持部材700により支持されることで、外筒410の内側においてセパレータ600が固定される。
グロメット710は、耐熱性に優れるフッ素ゴム等によって形成されて、外筒410の後端部412に嵌め込まれている。グロメット710には、中央部において軸線CAに沿ってグロメット710を貫通する貫通孔730と、貫通孔730の周囲において軸線CAに沿ってグロメット710を貫通する4つのリード線挿通孔720と、が形成されている。貫通孔730には、貫通孔730を閉塞するフィルタユニット900(フィルタ及び金属筒)が配置されている。
素子リード線570、580およびヒータリード線590は、それぞれ、樹脂製の絶縁被膜により被覆された導線により形成されている。素子リード線570、580およびヒータリード線590の導線の後端部は、それぞれ、コネクタに設けられたコネクタ端子に対して、電気的に接続される。素子リード線570の導線の先端部は、センサ素子100の後端側に内嵌された内側接続端子520の後端部に加締められて接続される。内側接続端子520は、素子リード線570と、センサ素子100の基準電極120との間を、電気的に接続する導体である。素子リード線580の導線の先端部は、センサ素子100の後端側に外嵌された外側接続端子530の後端部に加締められて接続される。外側接続端子530は、素子リード線580と、センサ素子100の検知電極130との間を、電気的に接続する導体である。ヒータリード線590の導線の先端部は、セラミックヒータ150のヒータ接続端子152に対して、電気的に接続される。また、素子リード線570、580およびヒータリード線590は、セパレータ600のリード線挿通孔630と、グロメット710のリード線挿通孔720とに挿通されて、外筒410の内部から外部に向かって引き出されている。
以上説明した本実施形態のガスセンサ10は、グロメット710の貫通孔730から、フィルタユニット900を通過させて外筒410内に大気を導入することより、センサ素子100の筒孔112内に大気を導入する。センサ素子100の筒孔112内に導入された大気は、ガスセンサ10(センサ素子100)が排気ガス内の酸素を検知するための基準となる基準ガスとして利用される。また、本実施形態のガスセンサ10は、プロテクタ300のガス導入孔311、312から、プロテクタ300内に排気ガス(被測定ガス)を導入することにより、センサ素子100が排気ガスに曝されるように構成されている。これにより、センサ素子100には、基準ガスと、被測定ガスとしての排気ガスとの間の酸素濃度差に応じた起電力が発生する。センサ素子100の起電力は、素子リード線570、580を介してガスセンサ10の外部へ、センサ出力として出力される。
A−2.センサ素子の構成:
図2は、センサ素子100の先端部の様子を示す断面図である。本実施形態のセンサ素子100は、固体電解質体110と、基準電極120と、検知電極130と、下地層183と、触媒部180と、多孔質保護層184と、を備えている。
固体電解質体110は、基準電極120および検知電極130と共に、排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃淡電池として機能する。固体電解質体110は、軸線CA方向に延び、先端側が閉じた有底筒状に形成されている。固体電解質体110は、酸化物イオン伝導性(酸素イオン伝導性)を有する固体電解質からなり、本実施形態では、安定化剤として酸化イットリウム(Y2O3)を添加した酸化ジルコニウム(ZrO2)、すなわちイットリア安定化ジルコニア(YSZ)によって構成している。あるいは、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化セリウム(CeO2)、酸化スカンジウム(Sc2O3)等から選択される酸化物を添加した安定化ジルコニア等の、他の固体電解質によって固体電解質体110を構成しても良い。
基準電極120は、固体電解質体110において基準ガスである大気が供給される内表面に形成されており、基準ガスに曝される。検知電極130は、固体電解質体110において被測定ガスである排気ガスが供給される外表面上に形成されており、被測定ガスに曝される。基準電極120および検知電極130は、白金(Pt)や白金合金等の、貴金属あるいは貴金属合金によって形成されることが好ましい。
固体電解質体110の外表面には、検知電極130全体を覆う多孔質な下地層183が形成されている。下地層183は、例えば、スピネルなどのセラミックの溶射層から成る。下地層183は、後述する触媒部180の密着性を向上させると共に、検知電極130を保護する機能を有する。また、下地層183は、検知電極130に流入する排気ガスの流れに対する抵抗となって、排気ガスの流れを均等に拡散させて検知電極130に送る機能を有する。なお、下地層183は省略してもよい。
触媒部180は、第1の触媒層181と第2の触媒層182とを備える。第1の触媒層181は、固体電解質体110の外表面において、検知電極130全体を覆うように形成されている。第2の触媒層182は、固体電解質体110の外表面において、上記第1の触媒層181全体を覆うように形成されている。これらの第1の触媒層181および第2の触媒層182は、多孔質体である。触媒部180は、排気ガスを検知電極130に供給するための経路の途中に設けられて、排気ガスを透過させることができ、第2の触媒層182および第1の触媒層181は、この順序で排気ガスの透過方向(上記経路の上下流方向)に積層されている。なお、第2の触媒層182は、第1の触媒層181全体を覆わなくてもよいが、排気ガス中の未燃成分の電極への到達を防止するためには、触媒部180により検知電極130全体が覆われることが望ましい。
第1の触媒層181および第2の触媒層182は、貴金属触媒、および、この貴金属触媒を担持する担体によって構成される。具体的には、第1の触媒層181は、セラミックスによって構成される第1の担体と、この担体上に担持される触媒金属である第1の貴金属と、を備える。また、第2の触媒層182は、セラミックスによって構成される第2の担体と、この担体上に担持される触媒金属である第2の貴金属と、を備える。
第1および第2の担体としては、酸化物の一次粒子が集合して形成される多孔体を用いることが望ましい。担体の比表面積を大きく確保する観点から、高温雰囲気で相転移や比表面積の急減がない高温耐久性が高いものが望ましく、本実施形態では、第1および第2の担体の双方を、酸化アルミニウム(Al2O3;アルミナ)の粉末によって構成している。
第1および第2の貴金属は、水素の燃焼反応を促進する活性の高さに違いがあり、第1の貴金属よりも第2の貴金属の方が、上記活性が高い。本実施形態では、第1の貴金属としてロジウム(Rh)を用いており、第2の貴金属としてパラジウム(Pd)を用いている。第1の貴金属および第2の貴金属については、後にさらに詳しく説明する。
多孔質保護層184は、センサ素子100を保護する層であり、下地層183および触媒部180を間に介して検知電極130全体を覆っている。多孔質保護層184は、例えば、アルミナ、チタニア、スピネル、ジルコニア、ムライト、ジルコン及びコージェライトからなる群より選ばれる1種以上のセラミックスを主成分として形成される。なお、多孔質保護層184はガラスを含んでいてもよく、また、多孔質保護層184を省略してもよい。
なお、センサ素子に設けられた触媒層が、上記した第1の触媒層181および第2の触媒層182の構成を有することは、例えば、センサ素子における触媒層を含む断面を、EPMA−WDS(波長分散型X線分光器)あるいはEPMA−EDS(エネルギー分散型X線分光器)を用いて、各貴金属についてのマッピングを行なうことにより確認することができる。
A−3.センサ素子の製造方法:
図3は、本実施形態のセンサ素子100の製造方法を示すフローチャートである。センサ素子100を製造する際には、まず、固体電解質体110を用意し、用意した固体電解質体110の表面上に、基準電極120、検知電極130、および下地層183を形成する(工程T100)。具体的には、固体電解質体110の材料(例えばイットリア安定化ジルコニア粉末)をプレスし、図2に示す形状(筒状)となるように切削し、生加工体(未焼結成形体)を得た後に焼成し、固体電解質体110を得る。そして、例えば無電解めっき法により、固体電解質体110の表面の所定の位置に、基準電極120および検知電極130を形成する。その後、検知電極130を覆うように、セラミック(例えば、スピネル)を溶射することにより下地層183を形成する。
その後、第1の触媒層181を形成するために、第1の貴金属を第1の担体に担持させて、第1のスラリを作製する(工程T110)。本実施形態では、第1の貴金属であるロジウム(Rh)を含む溶液、具体的には、例えば塩化ロジウム、硝酸ロジウムあるいは硫酸ロジウム等の水溶性の溶液を用いて、第1の担体であるアルミナ粉末上にRhを分散担持させる。担持の方法は、例えば、上記ロジウム塩溶液に第1の担体を浸漬させて、イオン交換法、あるいは含浸法(蒸発乾固)により行なえばよい。第1の担体に第1の貴金属を担持させた後、乾燥・焼成を行ない、バインダを加えて第1のスラリを作製する。
その後、得られた第1のスラリを、固体電解質体110の外表面上において、下地層183を覆うように塗布して乾燥させる(工程T120)。
また、第2の触媒層182を形成するために、第2の貴金属を第2の担体に担持させて、第2のスラリを作製する(工程T130)。本実施形態では、第2の貴金属であるパラジウム(Pd)を含む溶液、具体的には、例えば塩化パラジウム、硝酸パラジウムあるいは硫酸パラジウム等の水溶性の溶液を用いて、担体であるアルミナ粉末上にPdを分散担持させる。担持の方法は、既述した第1の貴金属と同様である。第2の担体に第2の貴金属を担持させた後、乾燥・焼成を行ない、バインダを加えて第2のスラリを作製する。
その後、得られた第2のスラリを、固体電解質体110の外表面上において、既述した第1のスラリの層を覆うように塗布して乾燥させる(工程T140)。
上記乾燥の後、第1のスラリの層および第2のスラリの層を形成した固体電解質体110を加熱処理して(工程T150)、第1の触媒層181および第2の触媒層182から成る触媒部180を形成する。ここで、加熱処理(工程150)は、スラリ中のバインダ成分を焼き飛ばす目的で行なう処理であり、例えば加熱炉を用いて、加熱炉の炉内雰囲気温度を1000℃とすることができる。
焼成の後、固体電解質体110の外表面上において、第2の触媒層182を覆うように多孔質保護層184を形成し(工程T160)、センサ素子100を完成する。多孔質保護層184を形成する際には、まず、第2の触媒層182上に、セラミックスを主成分とする保護層用材料を塗布し、その後に熱処理を行なえばよい。
A−4.触媒部について:
以上のように構成された本実施形態のガスセンサ10によれば、検知電極130から離間する側に設けられた第2の触媒層182が備える触媒金属は、検知電極130に接する側に設けられた第1の触媒層181が備える触媒金属よりも、水素を燃焼させる活性がより高くなっている。そのため、被測定ガスとしての排気ガスが検知電極130に供給される際に、排気ガス中の他の成分よりも分子サイズが小さく拡散速度が速い水素を、触媒部180における排気ガスの透過方向(検知電極130に向かって排気ガスが供給される経路の上下流方向)の上流側において燃焼反応により消費することができる。その結果、排気ガス中の酸素濃度を検出する際に、検知電極130に到達する排気ガスにおいて、水素の拡散速度が速いことに起因して水素濃度が上昇し、ガスセンサ10における検出精度が低下する(出力ずれが生じる)ことを抑制可能となる。
排気ガスを被測定ガスとして酸素濃度を検出するガスセンサは、例えば、内燃機関における空燃比を判断するために用いられる。排気ガスの未燃成分には、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC)、水素(H2)などが含まれる。未燃成分が存在すると、燃焼時に消費される酸素量が完全燃焼時とは異なるため、ガスセンサによる検出精度が悪くなる。さらに、未燃成分のうち、例えば水素などは酸素(O2)とのガス拡散速度差があるため、検知電極近辺の酸素濃度が排気ガス中の酸素濃度とは異なる濃度になり、ガスセンサによる検出精度が悪くなる。検知電極に到達するのに先立って排気ガスを触媒と接触させて未燃成分を燃焼させることにより、ガスセンサによる検出精度を高めることができる。
特に、排気ガスに含まれる未燃成分の1種である水素は、分子サイズが非常に小さく拡散速度が速いため、ガスセンサにおいては、水素が他の成分よりも早く検知電極に到達することに起因して、出力ずれが生じ得る。そして、検知電極に対して排気ガス流れの上流側に触媒層を設けたとしても、水素の拡散速度が極めて早いために、一部の水素は、燃焼される前に他の成分に先駆けて検知電極に到達し得る。この場合には、検知電極では、実際の排気ガスよりも水素濃度が高くなり、酸素濃度が低く検出される(出力ずれが生じる)ことになる。
本実施形態のガスセンサ10によれば、触媒部180における排気ガスの透過方向(検知電極130に向かって排気ガスが供給される経路の上下流方向)の上流側において、水素を燃焼させる活性がより高い第2の貴金属を配置しているため、排気ガスが多孔質体内を拡散するのに先立って、排気ガス中の他の成分に先駆けて水素を優先的に燃焼させることができる。そのため、検知電極130に到達する排気ガス中における水素濃度の上昇を抑え、ガスセンサ10の検出精度を向上させることができる。
上記したように、本実施形態のガスセンサ10は、検知電極130上において、水素を燃焼させる活性の高さが異なる2つの触媒層を重ねて設け、検知電極130から離間する側の第2の触媒層182における触媒活性を、検知電極130に近接する側の第1の触媒層181における触媒活性よりも高くすることを特徴とする。以下に、種々の貴金属触媒における触媒活性についてさらに説明する。
図4は、種々の触媒金属が水素(H2)を燃焼させる活性の高さを、触媒温度を異ならせて調べた結果を示す図である。ここでは、貴金属触媒として、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)を用い、各貴金属触媒について、600℃、400℃、300℃のそれぞれの温度条件で、水素を燃焼させる活性を調べた。
具体的には、各々の貴金属触媒を備えるガスセンサ(酸素センサ)と、コントロールとして貴金属触媒を有しないガスセンサとを作製した。そして、センサ素子の先端部の温度を上記した600℃、400℃、あるいは300℃に保ちつつ、被測定ガスとして、排気ガスに代えて、水素と酸素と窒素とを混合したモデルガスを用いて測定を行なった。各々の触媒金属を備えるガスセンサは、図1と同様の構成を有しているが、貴金属触媒は、特別に設けた触媒部に担持させるのではなく、多孔質体である下地層183に貴金属溶液を含浸させることによって、下地層183に担持させた。酸素濃度の測定は、被測定ガスである上記モデルガスにおいて、水素濃度を0.33%一定とし、酸素濃度を変化させて行なった(窒素はバランスガス)。そして、酸素センサの検出信号が急激に低下するときの、被測定ガスにおける水素量に対する酸素量の割合(空気過剰率=1に相当し、以下、λ点とも呼ぶ)を求め、貴金属触媒を有しないコントロールのガスセンサにおけるλ点とのずれ量を求めた。ここでは、用いた貴金属触媒の種類、およびガスセンサにおける加熱温度以外の条件(例えば、センサ素子の下地層183に貴金属溶液を含浸させる際の担持量等の条件やモデルガスの流量等)は、全て同じにした。
図4では、水素を燃焼させる活性の高さを、定性的に調べた結果を示している。触媒における水素を燃焼させる活性が高いほど、λ点のずれが小さくなる。λ点のずれの大きさに基づいて、水素を燃焼させる活性の高さを分類した。「◎」は、水素を燃焼させる活性が非常に高いことを示し、「×」は、水素を燃焼させる活性がほとんどないことを示す。「○」は、水素を燃焼させる活性がある程度認められることを示す。
図5は、種々の触媒金属が一酸化炭素(CO)を燃焼させる活性の高さを、触媒温度を異ならせて調べた結果を、図4と同様にして示す図である。ここでは、Ru、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、およびAuについて、600℃、400℃、270℃のそれぞれの温度条件で、COを燃焼させる活性を調べた。評価は、図4と同様に、各貴金属触媒を備える酸素センサと、貴金属触媒を備えない酸素センサとを用いて行なった。そして、酸素センサに供給するモデルガスにおいて、CO濃度を1.5%に固定しつつ酸素濃度を変化させて(窒素はバランスガス)λ点を求め、コントロールの酸素センサと比較することによりλ点のずれ量を求めた。触媒活性の評価基準は、図4と同様である。
図6は、種々の触媒金属が、排気ガス中に含まれる炭化水素の1種であるプロピレン(C3H6)を燃焼させる活性の高さについて、触媒温度を異ならせて調べた結果を、図4と同様にして示す図である。ここでは、Ru、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、およびAuについて、600℃、および、一部の触媒金属については270℃の温度条件で、C3H6を燃焼させる活性を調べた。評価は、図4と同様に、各貴金属触媒を備える酸素センサと、貴金属触媒を備えない酸素センサとを用いて行なった。そして、酸素センサに供給するモデルガスにおいて、C3H6濃度を1.0%に固定しつつ酸素濃度を変化させて(窒素はバランスガス)λ点を求め、コントロールの酸素センサと比較することによりλ点のずれ量を求めた。触媒活性の評価基準は、図4と同様である。
触媒は、一般に、十分な活性を得るための使用に適した温度範囲があり、このような温度範囲よりも温度が低下するほど、触媒活性が低くなる傾向がある。図4に示すように、パラジウム(Pd)は、300℃〜600℃の温度範囲で、水素を燃焼させる高い活性を有している。そして、ロジウム(Rh)は、300℃〜600℃の温度範囲において、水素を燃焼させる活性は低いものの(図4参照)、一酸化炭素およびプロピレンを燃焼させる活性は高い(図5および図6参照)。そのため、本実施形態のように、第1の貴金属としてRhを用いると共に第2の貴金属としてPdを用いることで、拡散速度の速い水素を、拡散に先立って効率的に燃焼させると共に、排気ガスが検知電極130に到達するまでの間に、排気ガス中の他の成分(COやC3H6など)もRhによって十分に燃焼させて、ガスセンサ10の検出精度を向上させることができることが分かる。
なお、第2の貴金属として用いたPdは、図6に示すように、270℃〜600℃の温度範囲において、プロピレンを燃焼させる触媒活性がRhよりも低かった。そのため、本実施形態のように、第1の触媒としてRhを用いると共に第2の貴金属としてPdを用いるならば、水素を燃焼させる活性が高いPdのみを触媒金属として用いて触媒部180を構成する場合に比べて、水素だけでなく他の未燃成分を燃焼させる活性を高め、ガスセンサ10の検出精度を高めることができるといえる。
また、第2の貴金属として用いたPdは、図5に示すように、400〜600℃ではCOを燃焼させる触媒活性が高かったが、270℃では、COを燃焼させる触媒活性をほとんど有していなかった。そのため、第1の触媒としてRhを用いると共に第2の貴金属としてPdを用いる場合には、270℃のように低温の条件下であっても、上流側の第2の貴金属によって水素を十分に燃焼させ、下流側の第1の貴金属によってCO等の他の未燃成分を十分に燃焼させることにより、高い検出精度を確保できるといえる。
なお、本実施形態では、第1の貴金属としてRhを用い、第2の貴金属としてPdを用いたが、異なる構成としてもよい。例えば、Pdに代えて、図4に示すようにPdと同様に水素を燃焼させる活性が高い白金(Pt)を、第2の貴金属として用いてもよい。また、図4に示すように、ルテニウム(Ru)およびイリジウム(Ir)も、300〜600℃の温度範囲で、水素を燃焼させる活性をある程度有している。そのため、RuやIrを用いることで得られる触媒活性が十分である場合には、上記したPdあるいはPtに代えて、RuまたはIrを第2の貴金属として用いてもよい。第2の貴金属として、水素を燃焼させる活性がより高い貴金属を用い、触媒部180全体として、排ガス中の未燃成分を十分に燃焼可能であるならば、第1の実施形態のガスセンサ10と同様に、センサの検出精度を高める効果が得られる。
また、本実施形態では、第1の触媒層181は、第1の貴金属であるRhを担持する第1の担体によって構成されており、第2の触媒層182は、第2の貴金属であるPdを担持する第2の担体によって構成されている。すなわち、第1の貴金属であるRhと第2の貴金属であるPdとは、異なる担体に担持されて、異なる触媒層に配置されることにより、互いに離間している。そのため、触媒部180を備えるガスセンサ10の製造工程(例えば焼成工程)やガスセンサ10の使用中に、第1の貴金属および第2の貴金属が高温に曝されても、第1の貴金属と第2の貴金属との合金化を抑えることができる。その結果、ガスセンサ10において、第1の貴金属と第2の貴金属とを併用することにより得られるセンサ特性を安定して維持することが可能になる。
ただし、第1の貴金属と第2の貴金属の各々は、単一の種類の貴金属によって構成されるのではなく、合金化によるセンサ特性の変化が許容できる場合には複数種類の貴金属によって構成されていても良い。例えば、PdとPtとが合金化することによるセンサ特性の変化が許容できる場合には、第2の触媒層182が備える第2の貴金属として、PdとPtの両方を用いても良い。この場合には、Pdを担持させた担体とPtを担持させた担体の混合物によって第2の触媒層182を形成してもよい。また、第2の触媒層182を構成する担体粒子上に、PdとPtとの両方を担持させてもよい。
また、第1の貴金属および第2の貴金属の少なくとも一方が複数の貴金属を含む場合に、第1の貴金属に含まれる貴金属と、第2の貴金属に含まれる貴金属との間で、一部が共通していてもよい。例えば、PdとPtとの合金化、および、RhとPtとの合金化によるセンサ特性の変化が許容できる場合には、第1の貴金属としてRhおよびPtを用い、上流側に配置する第2の貴金属としてPdおよびPtを用いてもよい。あるいは、PdとPtとの合金化、および、RhとPdとの合金化によるセンサ特性の変化が許容できる場合には、第1の貴金属としてRhおよびPdを用い、第2の貴金属としてPdおよびPtを用いてもよい。また、Pd、Pt、およびRhから選択される任意の組合せで合金化することによるセンサ特性の変化、およびセンサ特性の変化が許容できる場合には、第1の貴金属としてRh、Pd、およびPtを用い、第2の貴金属としてPdおよびPtを用いてもよい。
第2の貴金属が、水素を燃焼させる活性が比較的高い貴金属によって構成され、第1の貴金属が、水素を燃焼させる活性は比較的低くても、他の成分を燃焼させる触媒活性が十分に高い貴金属を含んでいれば、既述した実施形態と同様の効果が得られる。本願明細書では、このように、第1の貴金属と第2の貴金属の各々を構成する貴金属の一部が共通する場合も含めて、「複数の触媒層は、触媒金属として、触媒層ごとに異なる種類の貴金属を備える」と規定している。
既述した実施形態では、第1の触媒層181および第2の触媒層182は、貴金属触媒を担持する担体として、同じ材料から成る担体であるアルミナ担体を用いているが、異なる構成としてもよい。担体としては、アルミナに加えて、例えば、酸化チタン(TiO2 ;チタニア)、酸化ジルコニウム(ZrO2 ;ジルコニア)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化セリウム(CeO2 ;セリア)等から選択されるセラミックス材料を含む酸化物多孔体を用いることができる。そのため、各々の触媒層で用いる担体は、例えば、よりセンサ性能を高める等の観点に基づいて適宜選択し、触媒層毎に異なる材料から成る担体を用いてもよい。
例えば、Ptは、担体を構成する酸化物に含まれる元素によって、当該元素との結合力が異なるという性質を有している。具体的には、アルミニウム(Al)<ジルコニウム(Zr)<チタン(Ti)<セリウム(Ce)の順で、Ptとの結合力が高くなる。そのため、Ptとの結合力がより高い元素を含む酸化物から成る担体上にPtを担持させれば、Ptが担体により強く結合されて、担体上でPtが移動し難くなる。Ptは、担体上に分散担持させても、高温条件下では個々のPt微粒子が担体上で移動し、Ptが粒成長して表面積が減少することによって触媒活性が低下しやすいという性質を有している。そのため、貴金属触媒としてPtを有する触媒層において、Ptとの結合力がより強い元素を含む酸化物、例えばセリアを用いて担体を構成することにより、Ptの粒成長を抑え、ガスセンサの経時的な性能低下を抑制することができる。
B.第2実施形態:
B−1.ガスセンサの構成:
図7は、本発明の第2の実施形態のガスセンサ800の構成を示す断面図である。ガスセンサ800は、第1の実施形態のガスセンサ10と同様に、被測定ガスとしての排気ガス中に含まれる特定ガスの濃度を測定するセンサであり、本実施形態では酸素ガス濃度を測定する。
図7は、軸線方向CDにおける断面を示している。軸線方向CDは、ガスセンサ800の軸線CLに平行な方向、すなわち、ガスセンサ800の長手方向である。以降では、図7の紙面に対して下側をガスセンサ800の先端側ASとも呼び、図7の紙面に対して上側をガスセンサ800の後端側BSとも呼ぶ。
ガスセンサ800は、軸線方向CDに延びる板状形状のセンサ素子807と、センサ素子807の後端側BSを挿通するセパレータ866と、センサ素子807の後端側BSに形成された電極端子部830と接触する金属端子部材810と、セパレータ866よりも先端側ASの位置でセンサ素子807の周囲を取り囲む主体金具838と、を備える。本実施形態における「センサ素子807」は、「ガスセンサ素子」として機能する。電極端子部830と、金属端子部材810とは、それぞれ4つずつ設けられている。図7では、電極端子部830および金属端子部材810は2つのみ図示する。
センサ素子807は、排気ガス中の酸素濃度を検出するための信号を出力する。センサ素子807は、主面を構成する第1板面821と、第1板面821の裏面である第2板面823と、を有する。また、センサ素子807は、後述するように、複数の板状部材を積層することにより形成されている。ここで、軸線方向CDと直交し、かつ、第1板面821および第2板面823と直交する方向を、積層方向FDと呼ぶ。センサ素子807は、先端側ASに位置して被測定ガスに向けられる検出部808と、後端側BSに位置して対応する金属端子部材810が接触する4つの電極端子部830と、を有する。4つの電極端子部830のうち、2つは第1板面821に形成され、残りの2つは第2板面823に形成されている。センサ素子807は、検出部808が主体金具838の先端より突出すると共に、電極端子部830が主体金具838の後端より突出した状態で、主体金具838の内部に固定される。センサ素子807の詳細は後述する。また、本実施形態では、センサ素子807の先端側ASの検出部808は、多孔質に形成された保護層で覆われており、被測定ガス中に含まれる不純物(例えば、水)が検出部808に付着することが抑制されている。
セパレータ866は、アルミナ等の絶縁部材によって形成されている。セパレータ866は略筒状である。セパレータ866は、センサ素子807のうち、電極端子部830が位置する後端側部分の周囲を取り囲むように配置されている。セパレータ866は、センサ素子807の後端側部分を挿通するための挿通部865aと、挿通部865aの内壁面に形成された4つの溝部865b(図では2つのみ図示)と、を有する。4つの溝部865bは、軸線方向CDに延びて、セパレータ866の先端側端面868から後端側端面862までを貫通している。4つの溝部865bには、対応する金属端子部材810が挿通される。セパレータ866は、後端側BSに径方向外向きに突出する鍔部867を有する。
金属端子部材810は、対応する溝部865bに挿通された状態で、積層方向FDにおいて、センサ素子807とセパレータ866との間に位置するように配置されている。金属端子部材810は、センサ素子807とセパレータ866とによって挟持される。金属端子部材810は、センサ素子807と、酸素濃度を算出するための外部機器との間の電流経路を形成する。金属端子部材810は、ガスセンサ800の外部から内部に配設されるリード線846に対して電気的に接続されると共に、センサ素子807の電極端子部830に対して電気的に接続される。リード線846は、電極端子部830の個数に対応して4つ設けられ、外部機器に対して電気的に接続される(図では2つのみ図示)。
主体金具838は、略筒状の金属製の部材である。主体金具838は、軸線方向CDに貫通する貫通孔854と、貫通孔854の径方向内側に突出する棚部852と、を有する。主体金具838は、検出部808が貫通孔854よりも先端側ASに位置し、電極端子部830が貫通孔854よりも後端側BSに位置するように、貫通孔854内においてセンサ素子807を保持する。棚部852は、軸線方向CDに垂直な平面に対して傾きを有する内向きのテーパ面として形成されている。主体金具838の外表面には、排気管にガスセンサ800を固定するためのネジ部839が形成されている。
貫通孔854の内部には、センサ素子807の外周を取り囲む状態で、環状形状のセラミックホルダ853と、滑石リング856と、セラミックスリーブ806とが、先端側ASから後端側BSにかけて、この順に積層されている。セラミックスリーブ806と主体金具838の後端部840との間には、加締パッキン857が配置されている。主体金具838の後端部840は、セラミックスリーブ806を、加締パッキン857を介して先端側ASに向かって押し付けるようにして加締められている。
ガスセンサ800は、さらに、後端側BSにおいて主体金具838の外周に固定された外筒844と、セパレータ866を保持するための保持部材869と、外筒844の後端側BSに配置されたグロメット850と、先端側ASにおいて主体金具838の外周に固定された外部プロテクタ842と、内部プロテクタ843と、を有する。
外筒844は、略筒状の金属製の部材である。外筒844の先端側ASの外周は、レーザ溶接等によって主体金具838に取り付けられている。外筒844は、後端側BSにおいて外径が縮径しており、縮径された開口内にはグロメット850が嵌め込まれている。グロメット850には、リード線846を挿通させるための4つのリード線挿通孔861(図では2つのみ図示)が形成されている。
保持部材869は、略筒状の金属製の部材である。保持部材869は、外筒844に固定され外筒844内に位置決めされている。保持部材869は、その後端側BSにおいてセパレータ866の鍔部867の当接を受けることで、セパレータ866を保持する。
外部プロテクタ842および内部プロテクタ843は、有底筒状であり、複数の孔部を有する金属製の部材である。外部プロテクタ842および内部プロテクタ843は、主体金具838の先端側AS外周に、レーザ溶接等によって取り付けられている。外部プロテクタ842および内部プロテクタ843は、検出部808を覆うことでセンサ素子807を保護する。被測定ガスは、外部プロテクタ842および内部プロテクタ843に設けられた複数の孔部を通過することによって、内部プロテクタ843内に流入する。
B−2.ガスセンサ素子の構成:
図8は、センサ素子807の分解斜視図である。図8に示した軸線方向CD、積層方向FD、先端側AS、後端側BSは、それぞれ図7と対応している。センサ素子807は、触媒部872と、絶縁層871と、検知電極873と、固体電解質体874と、基準電極875と、絶縁層876と、ヒータ877と、絶縁層878と、を備え、これらの構成要素は積層方向FDに沿って、この順で積層されている。
また、図8では、4つの電極端子部830(具体的には、電極端子部831〜834)についても図示している。各電極端子部830は、センサ素子807の電気的接続のために使用される。各電極端子部830は、例えば、白金、ロジウムなどを用いて形成されており、表面が略矩形形状である。電極端子部830は、例えば、白金等を主成分とするペーストをスクリーン印刷することにより形成することができる。電極端子部831,832は、センサ素子807の後端側BSにおいて、絶縁層871の第1板面821において、軸線方向CDに垂直な方向に並んで形成されている。電極端子部833,834は、センサ素子807の後端側BSにおいて、絶縁層878の第2板面823において、軸線方向CDに垂直な方向に並んで形成されている。
絶縁層871,876,878は、各層の間を電気的に絶縁する。また、絶縁層871は、検知電極873を保護する保護層としても機能する。絶縁層871,876,878は、アルミナを主成分として形成された、矩形形状のシート状部材である。絶縁層871の先端側ASには、積層方向FDに絶縁層871を貫通する矩形形状の孔が設けられ、この孔に多孔質保護層879が形成されている。多孔質保護層879は、検知電極873へと流れる排気ガスを拡散するために設けられた多孔質層である。なお、センサ素子807において、先端側ASの多孔質保護層879を含む部位は、既述した検出部808に含まれる。また、絶縁層871の後端側BSには、積層方向FDに絶縁層871を貫通する2つのスルーホール914,916が形成されている。同様に、絶縁層878の後端側BSには、積層方向FDに絶縁層878を貫通する2つのスルーホール984,986が形成されている。
触媒部872は、絶縁層871の第1板面821上において、多孔質保護層879全体を覆って、略矩形形状に形成されており、検知電極873に到達するのに先立って、排気ガス中の未燃成分を燃焼させる機能を有する。触媒部872は、絶縁層871に接する側に設けられた第1の触媒層872aと、絶縁層871から離間する側に設けられた第2の触媒層872bとを備える。第1の触媒層872aは、第1の実施形態の第1の触媒層181と同様の構成を有しており、第2の触媒層872bは、第1の実施形態の第2の触媒層182と同様の構成を有している。具体的には、第1の触媒層872aは、第1の担体であるアルミナ粉末上に、第1の貴金属であるロジウム(Rh)を分散担持させた触媒によって構成される。また、第2の触媒層872bは、第2の担体であるアルミナ粉末上に、第1の貴金属よりも水素を燃焼させる活性が高い第2の貴金属であるパラジウム(Pd)を分散担持させた触媒によって構成される。
第1の触媒層872aは、第1の実施形態と同様に、第1の貴金属を第1の担体に担持させて第1のスラリを作製し、この第1のスラリを、絶縁層871の第1板面871上に塗布することにより形成できる。第2の触媒層872bは、第1の実施形態と同様に、第2の貴金属を第2の担体に担持させて第2のスラリを作製し、この第2のスラリを、上記した第1のスラリの層上に塗布することにより形成できる。第1のスラリおよび第2のスラリを塗布した層は、例えば、絶縁層871,876,878を含むセンサ素子807の構成部材を積層した後に、積層体全体を加熱処理することで、第1の触媒層872aおよび第2の触媒層872bとすることができる。
固体電解質体874は、検知電極873と、基準電極875と共に、排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃淡電池として機能する。固体電解質体874は、矩形形状のシート状部材であり、第1の実施形態の固体電解質体110の構成材料と同様の、酸化物イオン伝導性(酸素イオン伝導性)を有する固体電解質によって構成される。固体電解質体874の後端側BSには、積層方向FDに固体電解質体874を貫通するスルーホール946が形成されている。
検知電極873は、例えば、白金、ロジウムなどを用いて形成されている。検知電極873は、固体電解質体874のうち、積層方向FDの一方の面(絶縁層871が配置される側の面)に配置されており、積層方向FDに投影したときに、多孔質保護層879の全体と重なるように形成されている。検知電極873は、さらに、後端側BSへ向かって延伸する検知リード部932を備えている。検知電極873は、検知リード部932から、絶縁層871のスルーホール914を介して、電極端子部831に電気的に接続されている。
基準電極875は、例えば、白金、ロジウムなどを用いて形成されている。基準電極875は、固体電解質体874のうち、積層方向FDの他方の面(絶縁層876が配置される側の面)に配置されており、積層方向FDに投影したときに、多孔質保護層879の全体と重なるように形成されている。基準電極875は、さらに、後端側BSへ向かって延伸する検知リード部952を備えている。基準電極875は、検知リード部952から、固体電解質体874のスルーホール946と、絶縁層871のスルーホール916とを介して、電極端子部832に電気的に接続されている。
ヒータ877は、センサ素子807を所定の活性温度に昇温し、固体電解質体874における酸素イオンの伝導性を高め、ガスセンサ800の動作を安定させる。ヒータ877は、タングステンなどの伝導体によって形成された発熱抵抗体であり、電力の供給を受けて発熱する。ヒータ877は、絶縁層876と絶縁層878によって挟持されている。ヒータ877の先端側ASには、発熱部972を備える。発熱部972は、蛇行状に配置された発熱線を含み、通電により発熱する。ヒータ877の後端側BSには、電極端子974,976を備える。電極端子974,976は、絶縁層878のスルーホール984,986を介して、それぞれ、電極端子部833,834に電気的に接続されている。
以上のように構成された第2の実施形態のガスセンサ800によれば、排気ガスは、検知電極873に到達するのに先立って、まず第2の触媒層872bを透過し、その後、第1の触媒層872aを透過する。したがって、第1の実施形態のガスセンサ10と同様の効果が得られる。ここで、第1の触媒層872aを構成する第1の担体および第1の貴金属、並びに、第2の触媒層872bを構成する第2の担体および第2の貴金属の組合せは、第1の実施形態と同様に、種々の変形が可能である。
第2の実施形態では、触媒部872は、絶縁層871上において、多孔質保護層879に接して多孔質保護層189全体を覆うように形成したが、異なる構成としてもよい。センサ素子を構成する積層体において、検知電極873へと排気ガスを供給するための経路が設けられており、この経路の途中において、排気ガス流れの上流側から順に、第2の触媒層および第1の触媒層が設けられていればよい。このようにして、検知電極に到達するのに先立って、排気ガスがまず第2の触媒層を透過し、その後、第1の触媒層を透過する構成とすることで、第1および第2の実施形態と同様の効果が得られる。
C.変形例:
・変形例1:
上記各実施形態では、触媒部を、第1および第2の触媒層から成る2層構造としたが、異なる構成としてもよく、3層以上の触媒層を備えることとしても良い。このような場合であっても、検知電極から離間した外側の触媒層が備える貴金属として、内側の触媒層が備える貴金属よりも、水素を燃焼させる活性が高い貴金属を選択することで、各実施形態と同様の効果が得られる。すなわち、検知電極に到達するのに先立って被測定ガスが透過する触媒部において、被測定ガスの流れの上流側に、水素を燃焼させる活性がより高い貴金属を備える触媒層を配置することで、各実施形態と同様の効果が得られる。特に、検知電極から最も離間した外側の触媒層が備える貴金属は、水素以外の未燃成分を燃焼させる活性よりも、水素を燃焼させる活性の方が高い貴金属のみによって構成することが好ましい。したがって、排気ガスを被測定ガスとする酸素センサでは、最も外側の層が有する貴金属は、Pd、Pt、Ru、Irから選択される少なくとも1種の貴金属のみによって構成することが好ましく、PdおよびPtから選択される少なくとも1種の貴金属のみによって構成することがさらに好ましい。また、検知電極に最も近い内側の触媒層が備える貴金属は、上記した最も外側の触媒層が備える貴金属よりも、水素以外の他の未燃成分を燃焼させる活性が高い貴金属を含むこととすればよい。具体的には、排気ガスを被測定ガスとする酸素センサでは、少なくともRhを含むことが好ましい。
・変形例2:
第1の実施形態では、下地層183と多孔質保護層184との間に、第1の触媒層181および第2の触媒層182を有する触媒部180を設けたが、異なる構成としてもよい。例えば、多孔質体である下地層183を第1の担体として用い、下地層183上に第1の貴金属を担持させて、下地層183と第1の触媒層とを共通化させてもよい。ただし、触媒金属である貴金属に応じて担体を選択する自由度を確保する観点からは、触媒部は、触媒部とは異なる機能に基づいて構成材料であるセラミックスの種類を選択した他の層とは別に設けることが望ましい。
・変形例3:
上記各実施形態では、ガスセンサを酸素センサとすると共に、被測定ガスとして排気ガスを用い、水素を燃焼させる活性の高さに着目して各触媒層が備える貴金属触媒を選択しているが、異なる構成としてもよい。ガスセンサは酸素センサ以外のセンサであってもよく、被測定ガスは排気ガス以外のガスであってもよい。ガスセンサが検出すべき成分の種類、被測定ガスの種類、あるいは、ガスセンサを動作させる温度条件等に応じて、触媒部を構成する複数の触媒層の各々が備える貴金属触媒を選択し、被測定ガスが所定の順序で各触媒層を透過するように、各々の触媒層を配置すればよい。例えば、被測定ガス中に含まれる各成分を反応(例えば燃焼)させる触媒活性の優劣に応じて、複数の触媒層の各々が備える貴金属触媒を選択すればよい。このようにすれば、複数種類の貴金属を適宜組み合わせることにより、触媒部における触媒特性を、ガスセンサが実現すべき機能に応じた所望の状態に調節することができる。そして、触媒部において、被測定ガスの透過方向(検知電極に向かって被測定ガスが供給される経路の上下流方向)に積層される触媒層ごとに異なる貴金属を配置するため、用いる複数種類の貴金属同士の合金化を抑え、触媒部における触媒特性を安定して維持することが可能になる。
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。