JP2017219176A - 農機具の車軸用密封装置及びシール部材 - Google Patents
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そこで、サイドリップがある程度摩耗しても密封性が維持されるように、サイドリップの締め代を大きくすることが考えられる。しかしながら、サイドリップの締め代を大きくすると、サイドリップは、先端部がスリーブに接触せず、先端部より基端部側の途中部分でスリーブと接触する、所謂、腹当たり状態でスリーブに接触するようになる。その結果、サイドリップとスリーブとの隙間に泥水等が入り込みやすくなり、泥水等が入り込んだ状態でサイドリップがスリーブと摺接すると、サイドリップの摩耗が促進されてしまうおそれがある。従って、サイドリップの締め代を大きくしただけでは、長期間に亘って密封性を維持することは困難である。
上記軸孔の一端部の内周面に固定されるシール部材と、
上記車軸の外周面に嵌合される円筒部と上記車軸に設けられたフランジ部に接触させる円環形状の環状板部とを有するスリーブとを備え、
上記シール部材は、上記円筒部に接触した環状の主リップと、上記環状板部に接触した環状のサイドリップとを有する、農機具の車軸用密封装置であって、
上記サイドリップは、上記環状板部側が拡径した円錐環形状の円錐筒部と、上記環状板部に接触したリップ部を有し、上記円錐筒部から弾性的に湾曲された状態で径方向外方に延びる円環形状の円環部とを含み、
上記リップ部は、上記円環部における上記環状板部と対向する側の面の少なくとも外周縁を含み、
上記円環部における上記環状板部と対向する側の面のうち上記リップ部より径方向内側の部分は、上記環状板部との間に隙間を有する、ことを特徴とする。
また、上記サイドリップの締め代が当該サイドリップの経時的な摩耗により減少しても、上記サイドリップは上記円錐筒部と上記円環部とを含むため、上記円錐筒部に対する上記円環部の角度が変化することによって締め代の変化を吸収することができる。その結果、上記外周縁のスリーブに対する接触面圧を長期間にわたって維持することができる。
そのため、上記密封装置は、泥水等に曝される環境下において長期間に亘って密封性を維持することができ、農機具の車軸用密封装置として好適に用いることができる。
上記密封装置は、このような大きい締め代を有する場合であっても長期間に渡って密封性を維持することができる。
主リップとサイドリップとを備え、
上記サイドリップは、自由状態において、環状の基端部と、この基端部から上記環状板部側に延びるとともに環状板部側が拡径した円錐環形状の中間部と、上記中間部から上記環状板部側に延びるとともに、上記中間部とは車軸の軸線に対する傾斜角が異なる円錐環形状の先端部とを有し、
上記中間部の一部と上記先端部とが、上記密封装置を構成するシール部材におけるサイドリップの上記円環部を構成することを特徴とする。
自由状態においてこのような構成を有するサイドリップを備えるシール部材は、本発明の密封装置を構成するシール部材として特に適している。
以下、本発明の密封装置及びシール部材の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の密封装置が装着された状態を示す断面説明図である。図2(a)は、図1に示した密封装置を拡大した断面説明図であり、(b)は、(a)の要部拡大図である。図3は、図2に示した密封装置を構成するシール部材の自由状態を示す断面説明図である。図4(a)は、他の密封装置を構成するシール部材の自由状態を示す断面説明図であり、(b)は、(a)に示したシール部材を備えた密封装置を示す断面説明図である。
なお、本明細書では、農機具の車軸に沿った方向において車輪側を軸方向外側又は軸方向外方といい、車軸に沿った反対側を軸方向内側又は軸方向内方という。
密封装置10は、図2(a)、図3に示すように、シール部材15と、スリーブ16とを備えている。なお、図3には、変形前の自由状態のシール部材を示している。
金属環51は、車軸11の外周面に弾性部52を介して固定される円筒部(第1円筒部)51aと、第1円筒部51aの軸方向外側(図2(a)中、左側)の端部から軸方向外方でかつ径方向外方へ斜めに伸びるスカート状の連結部51bと、連結部51bの軸方向外側端部から径方向外方に延びる円環状の環状板部51cとで構成されている。
弾性部52は、金属環51の車軸11(フランジ部11aを含む)側全体に設けられているが、弾性部52は、例えば、第1円筒部51aの内周面側のみに設けられていてもよい。
このように、金属環51が弾性部52を介して車軸11と接触するようにスリーブ16を取り付けることにより、車軸11(フランジ部11aを含む)とスリーブ16との間を通って密封空間Aに泥水等が侵入することを防止することができる。
芯金21は、金属(例えば、SPCC等)製の環状部材であり、円筒状の筒部21aと、円筒状の筒部21aの軸方向外側端部から径方向外方へ屈曲した円環状の第1の芯金円環部21bと、円筒状の筒部21aの軸方向内側端部から径方向内方へ屈曲した円環状の第2の芯金円環部21cとで構成されている。
封止部22は、環状に形成されており、芯金21の内周側に設けられた本体部31と、本体部31からそれぞれスリーブ16側に延びる主リップ32、第1補助リップ33、第2補助リップ34及びサイドリップ35と、芯金21の外周側に設けられた外周部36とを有する。
シール部材15は、ファイナルケース12の軸孔12aの内周面に芯金21の筒部21aが封止部22の外周部36を介して固定され、第1の芯金円環部21bの軸方向内側面がファイナルケース12の側面に接するように取り付けられる。
サイドリップ35は、本体部31の側面31aから延びる円筒部(第2円筒部)35aと、第2円筒部35aの軸方向外側端部から環状板部51cに向かって拡径しながら延びる円錐環形状の円錐筒部35bと、円錐筒部35bの軸方向外側端部から弾性的に湾曲された状態で略径方向外方に延び、環状板部51cに接触したリップ部37を有する円環形状の円環部35cとを有する。円環部35cは弾性的に湾曲した状態で環状板部51cに接触している。
外周縁38が環状板部51cと接触していると、サイドリップ35と金属環51との間に泥水等が入り込みにくくなる。そのため、泥水等を噛み込んだ状態でのサイドリップ35と金属環51との摺動が発生しにくく、その結果として、サイドリップ35は摩耗しにくくなる。
このとき、リップ部37では、外周縁38がスリーブ16に対する接触面圧のピークとなっていることが好ましい。これにより、サイドリップ35と金属環51との間には泥水等がより侵入しにくくなる。更には、サイドリップ35が経時的に摩耗しても外周縁38の環状板部51cに対する接触面圧を長期間にわたって維持するのに適している。
なお、リップ部37における環状板部51cとの接触面圧のピーク位置は、例えば、FEM解析等によって決定することができる。
また、隙間Sを有し、かつ環状板部51cと接触したサイドリップ35が円環部35cと円錐筒部35bとを有することにより、密封装置10は長期間に亘って密封性を維持することができる。
サイドリップ35は、泥水等に曝される環境で使用されるため、スリーブ16と摺動することによって徐々に摩耗してしまうことを避けることができない。ここで、サイドリップ35が上述した形状であると、サイドリップ35が経時的に摩耗して、締め代の寸法が変化してもその変化を円環部35cの円錐筒部35bに対する角度が変化することによって吸収し、円環部35cの外周縁38が環状板部51cと接触した状態を維持することができる。そのため、サイドリップ35とスリーブ16との間に泥水等が入り込みにくい状態を維持することができ、サイドリップ35は長期間に亘って摩耗しにくくなる。
サイドリップ35の円環部35cにおいて、隙間Sの部分の対向面35dと環状板部51cとのなす角度θsは、例えば5〜45°の範囲で設定することができる。
中間部42の軸方向Cにおける長さ(幅)L2は、例えば、約3.5mmとされており、この場合、サイドリップ35の全体長さL1の約38%となる。長さL2は、例えば全体長さL1に対して30〜45%の範囲で設定することができる。
先端部43の軸方向Cにおける長さ(幅)L3は、例えば、約2.7mmとされており、この場合、サイドリップ35の全体長さL1の約30%となる。長さL3は、例えば全体長さL1に対して30〜45%の範囲で設定することができる。
なお、図4(a)、(b)に示した密封装置60は、サイドリップ65以外の形状は図2、3に示した密封装置10と同様である。そのため、サイドリップ65以外の部材には密封装置10と同様の符号を付与している。
本実施形態の密封装置10及び図5に示した密封装置110について、オイル漏れが発生するまでの時間を基準に密封性を評価した。
密封装置10は、
材質:封止部22及び弾性部52がNBR、芯金21及び金属環51がSPCC、
寸法:主リップ32の内径L7が47.5mm、第1補助リップ33の内径L8が49.5mm、第2補助リップ34の内径L9が48.3mm、サイドリップ35の全体長さL1が9.1mm、
の構成を有するシール部材15を、スリーブ16に嵌合させて組み立てた密封装置である。密封装置10において、主リップ32の締め代は1.9〜2.7mm、サイドリップ35の締め代L4は2.98〜4.24mmである。
材質:封止部122及び弾性部152がNBR、芯金121及び金属環151がSPCC、
寸法:主リップ132の内径L10が49.1mm、第2補助リップ134の内径L11が49.9mm、サイドリップ135の高さL12が5.3mm、
の構成を有するシール部材115を、スリーブ116に嵌合させて組み立てた密封装置である。密封装置110において、主リップ132の締め代は1.94mm、サイドリップ135の締め代は0.8mmである。
擬似的な車軸及びハウジングを備え、上記ハウジング内にオイルを封入した試験機に上記密封装置を装着し、下記の条件で試験機を運転し、オイル漏れが発生するまでの時間を測定した。
(1)封止部に泥水を付着させ、その後、泥水を乾燥させる。
(2)泥水が乾燥した状態で試験機を回転数5〜15min−1で1時間運転する。
(3)上記(2)の運転終了後、数分間運転を停止し、オイル漏れの有無を目視観察する。
(4)上記(1)〜(3)の運転パターンで、オイル漏れが観察されるまで、運転時間60〜74時間/1週間のペースで試験機を運転した。
その結果、密封装置110は、約1000時間の運転でオイル漏れが観察された。一方、本実施形態の密封装置10は、1500時間の運転でもオイル漏れが観察されず、その時点で試験を終了した。
この試験結果により、本発明の実施形態の密封装置10は、長期間に亘ってオイル漏れを防止することができることが明らかとなった。
本発明の実施形態は、上記実施形態に限られるものではなく、この発明の範囲内において、構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等について適宜変更することができる。
例えば、第1実施形態では、自由状態のサイドリップにおいて、基端部が環状板部51c側にほぼ水平方向に延びていたが、上記基端部は、環状板部51c側でかつ径方向外側へ向けて斜めに延びていてもよい。
また、本発明の密封装置は、トラクター以外の農機具にも用いることができ、コンバイン、耕うん機、田植機等の農機具にも用いることができる。
Claims (3)
- ハウジングに設けられた車軸を挿入するための軸孔の一端部の内周面と、前記車軸の外周面との間の環状空間を封止するために用いられ、
前記軸孔の一端部の内周面に固定されるシール部材と、
前記車軸の外周面に嵌合される円筒部と前記車軸に設けられたフランジ部に接触させる円環形状の環状板部とを有するスリーブとを備え、
前記シール部材は、前記円筒部に接触した環状の主リップと、前記環状板部に接触した環状のサイドリップとを有する、農機具の車軸用密封装置であって、
前記サイドリップは、前記環状板部側が拡径した円錐環形状の円錐筒部と、前記環状板部に接触したリップ部を有し、前記円錐筒部から弾性的に湾曲された状態で径方向外方に延びる円環形状の円環部とを含み、
前記リップ部は、前記円環部における前記環状板部と対向する側の面の少なくとも外周縁を含み、
前記円環部における前記環状板部と対向する側の面のうち前記リップ部より径方向内側の部分は、前記環状板部との間に隙間を有する、ことを特徴とする農機具の車軸用密封装置。 - 前記サイドリップの前記スリーブに対する締め代は、2〜5mmである請求項1に記載の農機具の車軸用密封装置。
- 請求項1又は2に記載の農機具の車軸用密封装置を構成するシール部材であって、
主リップとサイドリップとを備え、
前記サイドリップは、自由状態において、環状の基端部と、この基端部から前記環状板部側に延びるとともに環状板部側が拡径した円錐環形状の中間部と、前記中間部から前記環状板部側に延びるとともに、前記中間部とは車軸の軸線に対する傾斜角が異なる円錐環形状の先端部とを有し、
前記中間部の一部と前記先端部とが、前記車軸用密封装置を構成するシール部材におけるサイドリップの前記円環部を構成することを特徴とするシール部材。
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