JP6802679B2 - 農機具の車軸用密封装置 - Google Patents
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Description
本願の発明者は、この密封性の低下について精査した結果、リップの摩耗が一因であることを知得した。密封装置のシール部材は、スリーブとの間で所定の締め代をもって装着されるが、次第にリップが摩耗することによって実質的な締め代が小さくなるからである。
農機具の車軸と、この車軸が挿入されるハウジングの軸孔との間の環状空間に設けられ、前記ハウジングの内部の密封空間と前記ハウジングの外部との間を封止する密封装置であって、
前記軸孔の内周面に固定されるシール部材と、
前記車軸の外周面に嵌合されかつ前記シール部材が接触するシール面が外周に形成された円筒部を有するスリーブと、を備え、
前記シール部材は、径方向内側かつ前記密封空間側に向けて延び前記シール面に接触する環状の主リップと、前記主リップを前記シール面に向けて径方向外側から締め付けるバネリングと、を備え、
前記シール面に対する前記主リップ及び前記バネリングによる緊迫力のうち、前記バネリングによって付加される緊迫力が、主リップ単独の緊迫力の2倍以上である。
前記シール面の外径は、49.7mm以上49.9mm以下であることが好ましく、前記シール面に対する前記主リップの締め代は1.9mm以上2.7mm以下に設定されていることが好ましい。
従来の密封装置は、シール面に対する主リップ及びバネリングによる緊迫力が、約21Nであった。上記構成の密封装置は、従来よりも大きな緊迫力(約1.4〜2.6倍の緊迫力)で主リップをシール面に接触させることができる。そのため、主リップに摩耗が生じて緊迫力が低下したとしても所望の密封性を維持することができる。
主リップはシール面に接触することによって弾性変形し、主リップによる緊迫力は、主リップの弾性復帰によって発生する。そのため、主リップに摩耗が生じると弾性変形量が小さくなり、緊迫力も低下する。上記構成の密封装置は、バネリングによって主リップに付加される緊迫力が主リップ単独の緊迫力の2倍以上であるため、主リップ及びバネリングによる全体の緊迫力に占める主リップ単独の緊迫力の割合が小さくなっている。そのため、主リップの摩耗によって主リップ単独の緊迫力が低下しても、全体としての緊迫力の低下を抑制することができ、密封性を維持することが可能となる。
図1は、本実施形態の密封装置を適用した農機具の車軸部を示す断面図である。なお、本明細書では、農機具の車軸11に沿った方向において車輪側を軸方向外側又は軸方向外方といい、車軸11に沿った反対側を軸方向内側又は軸方向内方という。
本実施形態に係る密封装置10は、図1に示すように、農機具の一例であるトラクタの前輪の車軸部分に取り付けられる。トラクタは、前輪を取り付けるためのフランジ部11aを軸方向外側(図1における左側)の端部に一体的に有している車軸11と、軸受13を介して車軸11を回転自在に軸支し、車軸11に駆動力を伝達するためのべベルギア14が収納されたファイナルケース(ハウジング)12とを備えている。
密封装置10は、環状のシール部材15と、環状のスリーブ16とを備えている。スリーブ16は、図2に示すように、シール部材15の各リップが接触する金属環51と、金属環51の内周側及び軸方向外側に設けられた環状の弾性部材52とからなる。
円筒部51aは、車軸11の外周面に弾性部材52を介して固定される。
環状板部51bは、円筒部51aの軸方向外側(図2における左側)の端部から径方向外方に延びている。具体的に、環状板部51bは、円筒部51aから軸方向外方かつ径方向外方へ斜めに延びる円すい筒形状の円すい部51b1と、円すい部51b1の径方向外端部からさらに径方向に沿って延びる円環部51b2とを有している。
弾性部材52は、金属環51の車軸11(フランジ部11aを含む)側全体に設けられているが、例えば、円筒部51aの内周面側のみに設けられていてもよい。
シール部材15は、芯金21と、芯金21に固定された封止部22と、環状のバネリング23とによって構成されている。
芯金21は、断面形状が略クランク状とされた金属(例えば、SPCC等)製の環状部材であり、筒部21aと、外側円環部21bと、内側円環部21cとを一体に備えている。筒部21aは、円筒状に形成され、スリーブ16の円筒部51aの径方向外側に間隔をあけて配置される。外側円環部21bは、筒部21aの軸方向外側の端部から径方向外方へ屈曲し、円環状に形成されている。内側円環部21cは、筒部21aの軸方向内側の端部から径方向内方へ屈曲し、円環状に形成されている。
封止部22は、環状に形成されており、加硫による接着、焼き付けなどにより芯金21に固定されている。封止部22は、芯金21の内周側に設けられた本体部31と、本体部31からそれぞれスリーブ16側に延びる主リップ32、第1補助リップ33、第2補助リップ34、及びサイドリップ35と、芯金21の外周側に設けられた外周部36とを有する。
D1=70.2±0.1mm
D2=70.0+0.40 +0.20mm
また、外径D1と外径D2とは、D1<D2の関係を満たしている。
したがって、軸孔12aに対する小径部36bの締め代は、最大で0.3mm、最小で0.026mmとなる。また、大径部36cの締め代は、最大で0.4mm、最小で0.126mmとなる。このように封止部22は、軸孔12aに対して締め代をもってしまり嵌めで嵌合されるが、小径部36bの締め代は、大径部36cの締め代よりも小さくなる。そのため、軸孔12aにシール部材15を嵌合固定させるとき、嵌合の当初においては小径部36bを比較的容易に軸孔12aに挿入することができる。言い換えると、軸孔12aにシール部材15を嵌合させるときのガイド部として小径部36bを機能させることができる。
図2に示すように、主リップ32は、封止部22における本体部31の内周側から、径方向内側(車軸11側)かつ軸方向内側(密封空間A側)へ延びている。主リップ32の外周面には周溝32aが形成されている。この周溝32aには、ガータスプリングと呼ばれるバネリング23が装着されている。バネリング23は、主リップ32を径方向内方へ締め付けている。
第1傾斜面32bは、軸方向外側ほど内径が大きくなるように傾斜し、第2傾斜面32cは、軸方向内側ほど内径が大きくなるように傾斜している。第1傾斜面32bと第2傾斜面32cとの境界部であって主リップ32の最小径部(頂部)をリップ先端部32dという。主リップ32の第1傾斜面32bは、金属環51の第1シール面51dに接触する。
d2=47.5±0.4mm
これに対して、スリーブ16における第1シール面51dの外径D5は、次のように設定されている。
D5=49.8mm
F=42N±12.6N(±30%)
したがって、緊迫力Fは、29.4N〜54.6Nの範囲内の値となる。
Fa=12N±3.6N(±30%)
Fb=30N±9.0N(±30%)
したがって、緊迫力Faは、8.4N〜15.6Nの範囲内の値となり、緊迫力Fbは、21N〜39Nの範囲内の値となる。
バネリング23によって付加される緊迫力Fbは、主リップ32単独の緊迫力Faの2倍以上に設定されているので、主リップ32の摩耗によって緊迫力Faが低下したとしても、全体の緊迫力Fの低下は僅かとなる。したがって、交換時期まで高い緊迫力Fを維持することが可能となる。
また、密封装置10は、農機具に用いられるため、シール部材15の締め代や緊迫力による車軸11の回転抵抗の増大はそれほど問題にならない。したがって、上記のように締め代及び緊迫力を高めることによって密封性を高める手段を採用することができる。
第1補助リップ33は、主リップ32よりも軸方向外側において、本体部31の内周側から径方向内側かつ軸方向外側へ延びている。第1補助リップ33は、先端部が金属環51の円筒部51aの外周面(第1シール面)51dに所定の締め代をもって接触している。第1補助リップ33は、主に泥水等の密封空間A内への浸入を防止している。
d3=49.5mm
したがって、第1補助リップ33の締め代は、0.3mmに設定されている。第1補助リップ33は、サイドリップ35及び第2補助リップ34を通過して外部から浸入した泥水を食い止め、ファイナルケース12内に入り込むのを防止している。なお、この第1補助リップ33は省略することも可能であり、次に説明する第2補助リップ34及びサイドリップ35のみによって泥水等の浸入を防止することもできる。
第2補助リップ34は、第1補助リップ33よりも軸方向外側において、本体部31の内周側から径方向内側(車軸11側)かつ軸方向外側へ斜めに延びている。第2補助リップ34は、第1補助リップ33よりも長く形成され、先端部が金属環51の円筒部51aの外周面(第1シール面)51dに所定の締め代をもって接触している。第2補助リップ34は、主に外部B側から密封空間A内への泥水等の浸入を防止している。
d4=48.3±0.3mm
したがって、第1シール面51dに対する第2補助リップ34の締め代は、1.2mm〜1.8mmに設定されている。従来の農機具における密封装置では、第2補助リップの締め代が約1mmに設定されており、本実施形態の主リップ32の締め代は、従来と比べて大きい値となっている。
サイドリップ35は、図2及び図3に示すように、本体部31の軸方向外側の側面31aから金属環51の環状板部51b側へ延びており、環状板部51bの軸方向内側面(第2シール面)51dに接触している。
図2に示すように、サイドリップ35は、本体部31の側面31aから延びる円筒部35aと、円筒部35aの軸方向外側端部から環状板部51bに向かって拡径しながら延びる円錐環形状の円錐筒部35bと、円錐筒部35bの軸方向外側端部から弾性的に湾曲された状態で略径方向外方に延び、環状板部51bに接触したリップ部37を有する円環形状の円環部35cとを有する。円環部35cは弾性的に湾曲した状態で環状板部51bに接触している。
先端部43の軸方向における長さ(幅)L3は、例えば、約2.7mmとされており、この場合、サイドリップ35の全体長さL1の約30%となる。長さL3は、例えば全体長さL1に対して30〜45%の範囲で設定することができる。
本発明の実施形態は、上記実施形態に限られるものではなく、この発明の範囲内において、構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等について適宜変更することができる。
例えば、本発明の密封装置は、トラクター以外の農機具にも用いることができ、コンバイン、耕うん機、田植機、移植機等の農機具にも用いることができる。
11 :車軸
12 :ファイナルケース(ハウジング)
12a :軸孔
15 :シール部材
16 :スリーブ
23 :バネリング
32 :主リップ
51d :第1シール面
A :密封空間
B :外部
Claims (3)
- 農機具の車軸と、この車軸が挿入されるハウジングの軸孔との間の環状空間に設けられ、前記ハウジングの内部の密封空間と前記ハウジングの外部との間を封止する密封装置であって、
前記軸孔の内周面に固定されるシール部材と、
前記車軸の外周面に嵌合されかつ前記シール部材が接触するシール面が外周に形成された円筒部を有するスリーブと、を備え、
前記シール部材は、径方向内側かつ前記密封空間側に向けて延び前記シール面に接触する環状の主リップと、前記主リップを前記シール面に向けて径方向外側から締め付けるバネリングと、を備え、
前記シール面に対する前記主リップ及び前記バネリングによる緊迫力のうち、前記バネリングによって付加される緊迫力が、主リップ単独の緊迫力の2倍以上である、農機具の車軸用密封装置。 - 前記シール面の外径が、49.7mm以上49.9mm以下であり、
前記シール面に対する前記主リップの締め代が1.9mm以上2.7mm以下に設定されている、請求項1に記載の農機具の車軸用密封装置。 - 前記シール面に対する前記主リップ及び前記バネリングによる緊迫力が、29.4N以上54.6N以下に設定されている、請求項1又は2に記載の農機具の車軸用密封装置。
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