本発明にかかる一実施形態の車両の配線類保護構造について説明する。図1は、車両10のエンジンルーム16を上方から示す図である。車両10は、いわゆるハイブリッド車で、内燃機関と走行用の駆動モータとを備えている。以下、車両の配線類保護構造について、車両10の前進方向を前方とし、その逆方向を後方とし、それらを基準に左右を定め、重力の方向を下方とし、その逆を上方として説明する。
エンジンルーム16には、内燃機関のガソリンエンジン32と、電力駆動制御装置であるパワードライブユニット34と、フロントモータと、ジェネレータ等が設けられている。又、エンジンルーム16には、ガソリンエンジン32に延びる燃料パイプが配管されている。エンジンルーム16は、隔壁30により車両10の車室と区画されている。
パワードライブユニット34は、車両10のシステムを管理する、主に12V系の制御部と、メインバッテリの直流高電圧の電力を交流の電力に変換してフロントモータを駆動させる駆動部、又、外部電源やジェネレータで発電された電力を変換しメインバッテリに充電させる充電部等を備えている。
図2に、パワードライブユニット34の側面を示す。パワードライブユニット34は、外周を筐体40で覆われている。筐体40は、概ね直方体で、収納部42と収納部42に組み付けられる蓋部材44とを備えている。筐体40は、例えばアルミニウム合金による鋳造で、全体が形成されている。
収納部42は、周囲に所定の厚みの壁体43を有する、上部が開放された収納容器である。収納部42には、ボルト締結部50の一方を形成する雌ねじ部52が設けられている。収納部42の内側は、駆動部や制御部の大きさに適合し、それらを無駄なく収納できるように形成されている。
収納部42は、ボルト締結部50の周辺以外を薄肉化することでパワードライブユニットの小型化、軽量化を図っている。そのため、雌ねじ部52は、収納部42の外表面aから外方に所定量突出した形に形成されている。
蓋部材44は、収納部42に対応して、収納部42の上面に重ねられる形状に形成されている。蓋部材44の下縁には、図3に示すようにボルト締結部50の他方を形成するボルト貫通部56が設けられている。蓋部材44の後面には、高電圧ケーブル等が接続される、コネクタ62が設けられている。
ボルト締結部50は、図4に示すようにパワードライブユニット34の4か所の角部と4つの側壁のうちの長い側の側壁のほぼ中間位置に設けられている。尚、ボルト締結部50の位置と数とはこれに限るものではない。
パワードライブユニット34の後方の右角部に設けられているボルト締結部50には、保護板70が取り付けられている。図5に保護板70を示す。図5は、保護板70を斜め上方から示す斜視図である。
保護板70は、図5に示すように取付片72と、第1縦板74と、第2縦板76と、第3縦板78とを有している。取付片72は、第2縦板76の下端に、第2縦板76とほぼ直角に連結されている。第1縦板74と第2縦板76、及び第2縦板76と第3縦板78とは、それぞれほぼ直角に連結されている。
取付片72には、締結部材としてのボルト60の軸部が貫通するボルト孔80が設けられている。第1縦板74と第2縦板76の交差部、及び第2縦板76と第3縦板78の交差部は円弧状に形成されている。又、第1縦板74と第2縦板76と第3縦板78のそれぞれの上端は、それぞれ保護板70の内側に向けて、円弧状に湾曲されている。
保護板70は、ボルト締結部50の上部に、ボルト孔80に通したボルト60により取り付けられる。取付片72は、図4に示すように第2縦板76がパワードライブユニット34の後方壁面dに対してほぼ30度の傾斜を有するように取り付けられている。又、保護板70は、取付片72がボルト締結部50に取り付けられると、第1縦板74の前端がパワードライブユニット34の後方壁面dに近接し、第3縦板78の前端がパワードライブユニット34の右壁面fに近接する。
次に、車両10における配線類保護構造の作用及びその効果について説明する。
車両10が他車や障害物等に正面から衝突したとする。車両10のエンジンルーム16は、衝突エネルギで変形し前後方向に圧縮される。エンジンルーム16の圧縮変形により衝突エネルギが吸収される。
又、エンジンルーム16の圧縮変形により、車両10の前部に設けられているサイドメンバやラジエータ等が車両10の後方に移動してくるので、パワードライブユニット34がこれらにより後方に押圧される。パワードライブユニット34は、筐体40が強固に形成されているので、ほぼ損傷されることなく、形状を保ったまま後方に移動する。
パワードライブユニット34と隔壁30との間には、図4に示すようにパワードライブユニット34に接続される高電圧配線64や、ブレーキパイプ、燃料パイプ66等の配管(以下、これらを総称して「配線類」ともいう)が設けられている。一方パワードライブユニット34には、ボルト締結部50に固定された保護板70が取り付けられている。
そのため、パワードライブユニット34の後退により、保護板70に高電圧配線64や燃料パイプ66などの配線類が接触する。保護板70には、車両10の衝突の状況に応じて変化するが、概ね保護板70の後方に位置する配線類が接触する。第2縦板76に接触した配線類は、第2縦板76がパワードライブユニット34の後方壁面dに対して所定角度(30度)傾斜していることから、第2縦板76に沿ってパワードライブユニット34の外側に移動される。
したがって、配線類が保護板70によりパワードライブユニット34の外側に移動されるので、車両の衝突により仮にパワードライブユニット34が隔壁30に接触しても、配線類はパワードライブユニット34、特にボルト締結部50と隔壁30との間に挟まれることがなく、ボルト締結部50による配線類の損傷を効果的に防止できる。
又、第1縦板74に接触した配線類は、第1縦板74がパワードライブユニット34の後方壁面dに対して所定角度(60度)傾斜していることから、第1縦板74に沿ってパワードライブユニット34の内側に移動される。パワードライブユニット34が隔壁30に接触する際は、収納部42の外表面aから外方に突出している保護板70やボルト締結部50が接触する。パワードライブユニット34の内側に移動された配線類は、保護板70やボルト締結部50によって守られ、収納部42の外表面aと隔壁30との間に挟まれることがなく、配線類の損傷を効果的に防止できる。
更に、ボルト締結部50は保護板70に覆われているため、配線類がボルト締結部50に引っかかり、パワードライブユニット34の移動に伴い配線類が引っ張られるのを防止できる。
保護板70は、保護板70の各角部が円弧状に形成されているので、配線類は各縦板に沿って円滑に移動する。又、保護板70は、各縦板の上端が円弧状に湾曲しているので、保護板70の上端でせん断力が作用せず、配線類を損傷させない。又、上端が湾曲していることから、剛性が向上し、衝突によっても変形が少なく、配線類を効果的に保護できる。
又、保護板70は、第1縦板74の前端がパワードライブユニット34の後方壁面dに近接し、第3縦板78の前端がパワードライブユニット34の右壁面fに近接しているため、保護板70を取り付ける時や衝突時に回転することが無く、更に、衝突時に保護板70が倒れるのを、第1縦板74、第3縦板78によって支えることが出来るので、配線類を効果的に保護できる。
図6に上記例と異なる形態の保護板71を示す。保護板71は、図6に示すように、取付片72が第2縦板76のほぼ中間位置に設けられている。保護板71の他の構成は、保護板70の構成とほぼ同じである。
取付片72は、例えば、第2縦板76の中間部分を打ち抜き、保護板71の内側に屈曲させて形成されている。このように構成すると、取付片72をボルト締結部50にボルト60で固定すると、ボルト締結部50の上端を挟んでボルト締結部50の上下に保護板71の第1縦板74から第3縦板78を配置させることができる。
これにより、保護板71では、上下に広い範囲で配線類を保護できる。又、第1縦板74、第3縦板78が下方に延長されるため、衝突時の衝撃を上下に分散でき、衝突時の衝撃で保護板71が倒れるのを一層防止できる。
尚、取付片72を第2縦板76に溶接等で取り付けてもよい。又、保護板70等は、第2縦板76の上部を、ボルト締結部50の雌ねじ部52の中心の延長線に対して離れる方向に傾倒させてもよい。すると、第2縦板76の上端が保護板70等の内側に湾曲していても、ボルト60をボルト締結部50に締結させる締付工具を、保護板70の上方から容易に挿し入れることができる。
又、保護板70や保護板71等において、図7に示す保護板73のように、各縦板の交差部に、凹部81を設けてもよい。凹部81は、保護板73の外側から内側に凹んだ形状を有している。凹部81を設けることにより、各縦板の交差部の剛性が向上し、衝突時の変形や傾倒を防止し、配線類をより効果的に保護できる。
尚、本発明は、上記実施形態に限るものではなく、適宜変更可能である。上記例では、保護板70等の上を保護板70等の内側に円弧状に湾曲させたが、本発明は、平板状であってもよいし、保護板70等の下端も内側に円弧状に湾曲させてもよい。又、上記実施形態では保護板70等に縦板を3つ設けたが、パワードライブユニット34と配線類の位置関係にあわせて、縦板の数を増やしたり、縦板同士の角度や縦板とパワードライブユニット34の後方壁面dとの角度を変更してもよい。